(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御回路は、センシングパルスを所定時間印加してセンシングパルス終了時のコイル電流を測定するか、あるいは所定電流のセンシングパルスを印加し所定電流値に到達する時間を測定する極性検出を行なうステップを更に含み、
相補区間が特定された後、制御回路は特定された相補区間を構成する一方の区間の通電パターンにてセンシングパルス信号を発生し出力回路を介して第一のセンシングパルスを三相コイルに印加し、第一のセンシングパルス時間に相当する休止時間をおいて前記相補区間を構成する他方の区間の通電パターンにてセンシングパルス信号を発生し出力回路を介して第二のセンシングパルスを三相コイルに印加し、双方のセンシングパルスのそれぞれについて、前記制御回路は所定時間通電後の電流値あるいは所定電流までの到達時間を検出して双方の電流値あるいは到達時間の大小比較を行い、それに基づいて相補区間を構成する2区間のいずれか一方を選択し、回転子位置を120°通電の1区間に特定する請求項1記載のセンサレスモータの回転子位置検出方法。
回転子位置検出を繰り返し実施する際に、前回位置検出と今回位置検出の間に1区間以上回転しないことを条件として、前回の位置検出により得られた前回相補区間番号が与えられる場合、今回相補区間番号が前回相補区間番号と同じ時は今回区間番号を前回区間番号と同じとし、今回相補区間番号が前回相補区間番号より1区間進んだ時は今回区間番号を一つ進め、今回相補区間番号が前回相補区間番号より1区間戻った時は今回区間番号を一つ戻す、ことで回転子位置を電気角120°通電の1区間に特定する請求項1又は請求項2記載のセンサレスモータの回転子位置検出方法。
【背景技術】
【0002】
従来、小型直流モータはブラシ付きDCモータが用いられてきたが、ブラシに起因する摺動音・摺動抵抗・電気的ノイズ・耐久性・スペース等の問題がありブラシレスDCモータが登場した。さらに最近では小型軽量化・堅牢化・ローコスト化等の観点から位置センサを持たないセンサレスモータが注目され、まず情報機器分野のハードディスクドライブ等に採用されたがベクトル制御技術の発展により家電・車載分野でも採用され始めた。
【0003】
図8に位置センサを備えないセンサレスモータの一例として三相ブラシレス直流(DC)モータの構成を示す。回転子軸1を中心に回転する回転子2にはS極とN極で一対の永久磁石3が設けられている。永久磁石界磁の磁極構造(IPM,SPM)あるいは極数等は様々である。固定子4には120°位相差で設けられた極歯に電機子巻線(コイル)U,V,Wが配置され、中性点(コモン)Cを介してスター結線されている。隣接相を接続し中性点を持たないデルタ結線されるものもある。
【0004】
図9に従来のセンサレスモータ駆動回路の一例をブロック構成図に示す。MOTORは三相センサレスモータである。制御回路51(MPU)は上位コントローラ50(CONT)からの回転指令(RUN)に応じて出力回路57へのゲート出力を制御する。出力回路57(INV)は、三相ブリッジ構成のインバータ回路でコイル出力UVWをモータに送出する。ゼロクロス検出回路(ZERO)は零クロスコンパレータ59とダミーコモン生成部60(COM)で構成される。実際のセンサレスモータ駆動回路には、このほかに電源部、ホストインターフェース部、プリドライバ回路等が必要であるが煩雑化を避けるため省略してある。
【0005】
図10に三相ブラシレスDCモータの駆動方式の代表的な例として電気角120°通電のタイミングチャートを示す。区間1はU相からV相に、区間2はU相からW相に、区間3はV相からW相に、区間4はV相からU相に、区間5はW相からU相に、区間6はW相からV相に、矩形波通電される。破線は誘起電圧波形である。HU〜HWはモータに内蔵されるホールセンサの出力波形であり、従来の位置センサ付き三相ブラシレスDCモータはこの信号に基づいて励磁切り替えが行われる。
【0006】
位置センサを用いないセンサレス駆動方式は、誘起電圧から回転子位置を検出する手法が主流である。しかし静止時は誘起電圧が発生せず低速回転時も誘起電圧が小さく位置検出が困難なことから、位置を検出しないで始動及び低速回転する方法が様々実用化されており、永久磁石を用いるブラシレスDCモータでは数秒間、大電流の直流を印加して回転子を強制的に位置決めし、その後回転磁界を発生させて強制同期で始動させ徐々に速度を上げてゆくオープンループ方式が多く使われる。
【0007】
前記のオープンループ方式にて始動前に直流を印加して強制的に初期位置決め(アライン)する方法は、大きな電流を要すること、位置決めが完了するまでに長い時間がかかること、突き当て停止状態や拘束状態では初期位置決めができないこと、といった様々な課題がある。また始動遅れが数秒間も発生することは操作性を著しく損ない使用できない用途も多い。
【0008】
そこで始動前に回転子位置を検出して瞬時に始動する方法が考えられた。始動前に初期位置を検出する方法としては、電気角120°通電パターンで複数の大電流センシングパルスを印加して磁気飽和偏差を検出し回転子位置を特定する方法がある。あるいは三相同時通電にて回転子位置を特定する方法もあり、例えば特許文献1は三相同時通電で所定の通電パターンにて電気角120°通電の6区間を検出することで、検出精度を向上させるものである(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このセンシングパルス方式により始動前の初期位置決めは不要となり始動遅れも解消される効果がある。しかしながら、大電流センシングパルス印加時に大きな騒音(クリック音)や振動が発生するという課題がある。また、コイルにストレスがかかり絶縁劣化あるいは焼損する場合もあり、駆動回路やDC電源の負荷も大きくなる課題がある。また回路構成によっては数百msの始動遅れが発生する場合もあり瞬時始動が要求される用途では問題となる場合がある。
【0011】
さらに始動前の静止時だけでなく、始動時の低速領域でも誘起電圧が小さいことから回転子位置検出が困難となる。上述のオープンループ制御による強制同期方式は回転子位置を検出しないため低速回転時に負荷変動があると制御を失ってしまう場合があり始動が不確実で用途も限定されるという課題がある。その他、強制転流の時間・電流値・ランプカーブ特性などパラメータ設定も多く、さらに過大な始動電流を要し省エネの観点からは不利であり、始動時間もかかることから瞬時始動には対応できない。
【0012】
そこで、3相コイルに接続するコイルリード二線間にPWM(パルス幅変調)通電すると開放相電圧が位相角に応じて変化する現象を利用して回転子位置を検出するインダクティブセンス方式を採用して、位置を検出しながら回転する位置閉ループ方式も提案されている。
図11にインダクティブセンス方式の開放相電圧の実測例を示す。U−V通電パターンでPWM通電しながら1電気角分回転させたときの開放相電圧の変化を測定したもので2周期性の概サイン波が得られている。10%ずつPWMデューティ比を変えて測定し重ね書きしてある。また、参考として開放相の理論的な誘起電圧波形(1周期性のサイン波)が記載されており、回転時はこの誘起電圧波形が開放相電圧に重畳し回転数に比例して波高値は大きくなり支配的になる。
【0013】
しかしながらインダクティブセンス方式は正転時にしか適用できず、始動時に外力によりわずかでも逆転した場合、開放相に逆極性の誘起電圧が重畳してインダクタンスによる電圧変化が打ち消され回転子位置を誤検出する課題がある。そのためモータの始動が正しく行われたか確認する必要があり、例えば励磁電流に高周波センシング電流を重畳させて回転子位相を確認する手法などが提案されているが連続的なセンシング音が発生し制御手順も煩雑となる。
さらにインダクティブセンス方式の検出信号レベルは、上述のとおりPWMデューティ比に依存し実質的には概ね20%〜80%が使用可能領域であり、20%以下の低デューティ比においては信号レベルが小さくなり回転子位置検出が困難である。したがって、低速回転や低負荷運転あるいは高負荷運転に制約がある。
以上説明したように、ブラシレスDCモータのセンサレス駆動のオープンループ方式に関しては多くの課題があり、センシングパルス方式あるいはインダクティブセンス方式等にて改善が図られてきたがそれぞれの方式に課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上述した様々な課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、電気角120°通電による始動及び低速回転に適用され、位置検出電流・騒音・振動を低減したセンサレスモータの回転子位置検出方法及びこの方法を用いて閉ループ制御により確実に始動・低速回転し、励磁出力のデューティ比や通電方式の制約が無いセンサレスモータ駆動方法を提供することにある。
【0015】
永久磁石界磁を有する回転子と三相コイルを有する固定子を備えるブラシレスDCモータをセンサレス駆動するためのセンサレスモータの回転子位置検出方法であって、電気角120°通電における6通りの通電区間の180°位相差となる二つの区間の対を相補区間とし、上位コントローラからのセンシング指令を受けて三相コイルに対するセンシングパルス信号を発生し、三相コイルから検出された回転子位置信号が入力されると回転子位置を判定する制御回路と、前記制御回路からのセンシングパルス信号が入力されると電力増幅して三相コイルにセンシングパルスを出力する三相ブリッジ構成の出力回路と、を備え、前記制御回路は、前記上位コントローラからセンシング指令を受信すると、電気角120°通電の6通りの通電パターンのセンシングパルス信号を生成して前記出力回路を介して三相コイルにセンシングパルスを印加し、相補区間を構成する2区間のセンシングパルス終了直前の開放相電圧を測定して回転子位置信号として記憶するステップと、記憶した相補区間を構成する2区間の開放相電圧値どうしを減算し、減算結果の符号を減算位置情報とし、残る2対の相補区間についても同様のセンシングパルス印加及び開放相電圧測定及び演算処理を行って都合3ビットの減算位置情報を生成するステップと、前記3ビットの減算位置情報を論理演算することで回転子位置を3対の相補区間のいずれか一つに特定するステップと、特定された相補区間を構成する2区間の開放相電圧値の中性点電位に対する振幅を加算して磁気飽和成分を抽出し、加算結果の符号により相補区間を構成する2区間から一つの区間を選択し、最終的に回転子位置を電気角120°通電区間の一つに特定するステップと、を含むことを特徴とする。
これにより制御回路は、電源電圧変動や減磁に対し大きな耐量を持ち静止時から極低速回転領域において回転子位置を検出できる。センシングは瞬時に行われ始動遅れはほぼ無いといってよく、またセンシング電流が小さく従来の大電流センシングパルス方式に比べ騒音と振動を大幅に低減できる。
【0016】
前記制御回路は、センシングパルスを所定時間印加してセンシングパルス終了時のコイル電流を測定するか、あるいは所定電流のセンシングパルスを印加し所定電流値に到達する時間を測定する極性検出を行なうステップを更に含み、相補区間が特定された後、制御回路は特定された相補区間を構成する一方の区間の通電パターンにてセンシングパルス信号を発生し出力回路を介して第一のセンシングパルスを三相コイルに印加し、第一のセンシングパルス時間に相当する休止時間をおいて前記相補区間を構成する他方の区間の通電パターンにてセンシングパルス信号を発生し出力回路を介して第二のセンシングパルスを三相コイルに印加し、双方のセンシングパルスのそれぞれについて、前記制御回路は所定時間通電後の電流値あるいは所定電流までの到達時間を検出して双方の電流値あるいは到達時間の大小比較を行い、それに基づいて相補区間を構成する2区間のいずれか一方を選択し、回転子位置を120°通電の1区間に特定するようにしてもよい。
これにより、制御回路は、センシングパルスよりも大きな電流で磁気飽和量を検出して界磁極性を判別するので、回転子位置検出の精度が向上しさらに位置検出可能な回転数範囲を極低速回転領域から低速回転領域に拡張することができる。
【0017】
回転子位置検出を繰り返し実施する際に、前回位置検出と今回位置検出の間に1区間以上回転しないことを条件として、前回の位置検出により得られた前回相補区間番号が与えられる場合、今回相補区間番号が前回相補区間番号と同じ時は今回区間番号を前回区間番号と同じとし、今回相補区間番号が前回相補区間番号より1区間進んだ時は今回区間番号を一つ進め、今回相補区間番号が前回相補区間番号より1区間戻った時は今回区間番号を一つ戻す、ことで回転子位置を電気角120°通電の1区間に特定するようにしてもよい。
これにより、減算位置信号にて相補区間を特定するだけで回転子位置を120°通電区間の1区間に特定することができ、極性判別のためのセンシングパルス印加あるいは演算処理を省略して騒音の低減あるいは回転子位置検出に要する時間短縮ができる。
【0018】
センサレスモータの駆動方法においては、三相コイルへの通電を遮断して誘起電圧から回転子の回転速度を検出し、所定速度以上の高速回転時は任意の高速回転処理へ移行し、所定速度未満の低速回転時は上述したいずれかのセンサレスモータの回転子位置検出方法により回転子位置を特定する処理を行うセンシング工程と、前記センシング工程にて特定された回転子位置に基づいて励磁パターンを決定し任意のPWMデューティ比で所定時間通電する通電工程を備え、所定速度未満の低速回転時は上記のセンシング工程と通電工程を交互に繰り返す、ことを特徴とする。
これにより始動時及び低速回転時のフィールドオリエンテッドコントロール(FOC)を可能とし、始動時及び低速回転時に負荷変動や停動(ストール)や逆転が発生しても制御を失うことなく確実に回転することができる。
【発明の効果】
【0019】
センサレスモータの回転子位置検出方法によれば、始動性と制御性が改善され、多くの用途でブラシ付きモータやセンサ付きブラシレスモータをセンサレスモータに置き換えることが可能となる。また正弦波駆動のオープンループ始動をクローズドループ始動化することができる。
具体的には、回転子位置検出時間は従来方式より1/5程度に短縮され、位置検出可能な回転数範囲が拡張される。
センシング電流は従来方式より1/10程度に低減され騒音と振動が減る。
過電流が解消されることから電源や出力段の負担が減りあるいは小型モータのコイル焼損事故を防止することができる。
回転数・コイル電圧・コイル電流・コイル温度・磁束密度等の変動の影響を受けにくく安定している。
【0020】
また、位置検出時間が短くて済むことから周期的に回転子位置検出しながら励磁通電する低速領域オンオフ制御方式が可能であり、静止時及び低速回転時の閉ループ制御を実現できる。確実にモータを始動し、外力逆転時も速やかに正転に復帰し、極低速回転や過負荷時のストール運転にも対応でき、急激な過負荷いわゆる衝撃負荷にも追従し脱調せず、ノイズ等で誤動作時も1周期で正常に復帰し位置センサ駆動とほぼ同等の堅牢性の高いセンサレスモータシステムを構築できる。
またセンシング工程と通電工程が独立しており励磁の自由度が高く通電方式や出力デューティ比は任意であり、出力0%から100%まで幅広い負荷領域に対応でき、電気角120°通電だけでなく電気角150°通電あるいは電気角180°通電(サイン波通電)など幅広い駆動方式に対応することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るモータ駆動方法の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。本願発明は、モータの一例として、回転子に永久磁石界磁を備え、固定子に巻き線を機械角120°位相差で配置してスター結線し、相端がモータ出力回路に接続されたブラシレス直流(BLDC)モータがあげられ、ここでは近年利用が拡大している位置センサレスモータを用いて説明する。
【0023】
図8を参照して三相BLDCセンサレスモータの一実施例を示す。一例として2極永久磁石回転子と3スロットを設けた固定子4を備えた3相ブラシレスDCモータを例示する。モータはインナーローター型でもアウターローター型でもいずれでもよい。また、永久磁石型界磁としては永久磁石埋め込み型(IPM)モータや表面永久磁石型(SPM)モータのいずれであってもよい。
【0024】
図8において、回転子軸1には回転子2が一体に設けられ、界磁として2極の永久磁石3が設けられている。固定子4には機械角120°位相差で極歯U,V,Wが永久磁石3に対向して配置されている。固定子4の各極歯U,V,Wに巻線u,v,wを設けて相間がコモンCでスター結線されて後述するモータ駆動装置に配線された3相ブラシレスDCモータとなっている。尚、コモン線は、不要であるので省略されている。また、隣接相を接続し中性点を持たないデルタ結線されるものであってもよい。
【0025】
次に、
図6に三相センサレスモータのモータ駆動回路の一例について説明する。煩雑化を避けるため、電源部やクロック発生部や通信部等の記載は省略する。
上位コントローラ50(CONT)は回転指令(RUN)を制御回路51に送出する。制御回路51(MPU)は、論理回路52(LOGIC)、PWMコントローラ53(PWMC)、電流アンプ54(AMP)及びADコンバータ回路55(ADC)等を内蔵している。プリドライバ56(PRE)はPWMコントローラ53からゲート信号を入力し、出力回路57へゲート出力を送出する。出力回路57(INV)はプリドライバ56からゲート出力を入力し、モータへコイル出力UVWを送出する。コイル電流はシャント抵抗58(RS)を介してGND母線へ流れ、シャント抵抗58で検出されたコイル電流信号IMは電流アンプ54で増幅されADコンバータ回路55に入力される。コイル電圧は分圧回路61(DIV)で減衰され、コンディショニングされたコイル電圧信号uvwがADコンバータ回路55に入力される。
【0026】
制御回路51は、上位コントローラ50から回転指令を受け取ると位置検出動作を行う。論理回路52は、電気角120°通電の通電パターンを記憶しPWMコントローラ53へセンシングパルス信号を送出する。センシングパルス信号はタイマー制御の直流パルス信号でありPWM制御は行われない。PWMコントローラ53はセンシングパルス信号を受けて直流のゲート信号をプリドライバ56へ送出する。
【0027】
プリドライバ56はゲート信号を受けて、電圧増幅したゲート出力を出力回路57へ送出する。ゲート出力電圧を昇圧するチャージポンプ回路や貫通電流防止回路などが内蔵されている。出力回路57は、三相ブリッジ構成のインバータ回路であり、プリドライバ56からゲート出力が入力されると各相のハイサイドアームまたはローサイドアームの出力素子が駆動され、電力増幅されたコイル出力U〜Wがモータに出力される。出力素子はFETが用いられ回生ダイオードが内蔵されている。
【0028】
ADコンバータ回路55(ADC)は、論理回路52(LOGIC)からの指定によりコイル電流信号IMあるいはコイル電圧信号u〜wのいずれか一つを選択し、センシングパルス終了直前の信号をAD変換し、変換結果を論理回路52に送出する。論理回路52はAD変換された測定データを記憶し、記憶された測定データを演算処理することで回転子位置を検出する。
以上にて、回転子位置検出に関するハードウェア構成例を説明した。なお制御回路51は当然ながら高速回転でのモータ駆動も行うが制御方法は任意の方式が許容され公知の制御手法を利用できるので説明を省略する。
【0029】
以下では、センサレスモータの回転子位置検出方法について詳述するものとする。
(1)相補区間の検出方法
相補区間とは電気角120°通電における6通りの通電区間の180°位相差となる二つの区間の対のことであり、三対の相補区間1〜3がある。
三相BLDCモータのコイルに接続するコイルリードの二線間に数十kHzの矩形波パルスを印加すると、開放相(非通電相端子)には位相角θに応じてリラクタンスと磁気飽和と誘起電圧を反映したインダクタンス電圧VLが発生する。VLは模式的に下式で表すことができる。
奇数区間の通電パターンのセンシングパルスで正転時
VL1=K1・sin2θ+K2・sinθ+K3・sin(θ−90°) 式(1)
奇数区間の通電パターンのセンシングパルスで逆転時
VL2=K1・sin2θ+K2・sinθ+K3・sin(θ+90°) 式(2)
偶数区間の通電パターンのセンシングパルスで正転時
VL3=−(K1・sin2θ+K2・sinθ)+K3・sin(θ+90°) 式(3)
偶数区間の通電パターンのセンシングパルスで逆転時
VL4=−(K1・sin2θ+K2・sinθ)+K3・sin(θ−90°) 式(4)
但しK1=リラクタンス係数、K2=磁気飽和係数、K3=誘起電圧係数
リラクタンスはローター磁気抵抗を反映し2周期性の概サイン波であり、磁気飽和は界磁極性を反映し1周期性の概サイン波である。誘起電圧は回転数及び回転方向に依存する1周期性の概サイン波であり、静止時には発生せず逆転時は逆極性となる。
【0030】
図1A〜Cに、三相コイルに対して120°通電の6通りの通電パターンにてセンシングパルスを印加しながら1電気角回転させた時の中性点電位に対するインダクタンス電圧VLのシミュレーション波形を示す。V1〜V6は区間1〜6の通電パターンでセンシング時の開放相電圧波形である。誘起電圧は0である。
図1A〜Cは相補区間を構成する2波形を重ねて表示したものである。
ここで注目する点は相補区間波形どうしがゼロクロス点で交差する交点である。
図1Aでは150°と330°、
図1Bでは30°と210°、
図1Cでは90°と270°で発生する6個の交点である。これらの交点は界磁磁極と通電磁界の磁極が正対する位相角を反映しており、誘起電圧が重畳しても位相は変化しない安定交点である。安定交点の位相角は120°通電の区間切り替え点と一致し回転子位置検出に利用できる。安定交点を検出すれば誘起電圧に影響されないため静止時から回転時まで回転子位置を検出することができる。
安定交点を検出するためには相補区間どうしの信号を減算すればよい。
【0031】
図2に減算シミュレーション波形を図示する。信号AA(破線)は区間4信号から区間1信号を減算した波形である。信号BB(太線)は区間5信号から区間2信号を減算した波形である。信号CC(細線)は区間6信号から区間3信号を減算した波形である。減算波形のゼロクロス点のうち120°通電の区間切り替え点と一致する交点(30°、90°、150°、210°、270°、330°)が安定交点である。以上から3対の相補区間1〜3から一つに特定するには減算波形の符号を論理演算すればよいことがわかる。
【0032】
例えば信号BB(太線)が正かつ信号CC(細線)が正との条件により区間30°〜90°と区間210°〜270°の2区間が得られ、それは相補区間1(区間1及び区間4)と一致する。同様に信号CC(細線)が負かつ信号AA(破線)が正の条件により相補区間2(区間2及び区間5)、信号AA(破線)が負かつ信号BB(太線)が負の条件により相補区間3(区間3及び区間6)が判別できる。
実際のモータの開放相電圧波形はステータ形状や着磁パターンなどで複雑に変化するが、減算波形を二値化することでそれらの影響を受けず、波形レベルは問題とならないことから電源電圧変動や温度変化による減磁などについての耐量も大きくすることができる。また、誘起電圧については相補区間の双方でほぼ同時刻に測定が行われることから、低速回転であれば誘起電圧による電圧差は無視でき位相には影響せず従って回転していても静止時と同様に回転子位置を検出できる。
【0033】
(2)区間の特定方法1
以下、相補区間を構成する2区間から1区間に特定する特定方法1を述べる。
上述にて特定された相補区間を構成する2区間は磁気飽和量が最大及び最小の区間である。開放相電圧には小さいながらも磁気飽和成分が含まれており、すでに測定済みの開放相電圧から磁気飽和成分を抽出すればよい。そのために相補区間の開放相電圧値の中性点電位に対する振幅を加算する。
【0034】
図3に相補区間の開放相電圧の振幅加算シミュレーション波形を示す。波形信号A(実線)はV1振幅+V4振幅、波形信号B(破線)はV2振幅+V5振幅、波形信号C(細線)はV3振幅+V6振幅の加算波形である。なお信号V1〜6は区間1〜6の通電パターンの開放相電圧波形であり
図1A〜Cに示されている。
例えば波形信号A(実線)に着目すると、30°〜90°(区間1)では負、210°〜270°(区間4)では正となっており、波形信号A(実線)の符号により区間1と区間4を判別できることがわかる。以下同様に波形信号B(破線)の符号により区間2と区間5、波形信号C(細線)の符号により区間3と区間6も判別することができる。
ただし加算信号に誘起電圧が重畳すると最大±90°の位相シフトが発生する。そのためこの方法1は回転数に制約があり静止時及び極低速回転時に適用可能である。
【0035】
(3)区間の特定方法2
以下、相補区間を構成する2区間から1区間に特定する特定方法2を説明する。特定方法2は、前述した特定方法1の回転数範囲を拡張するもので、低速回転域でも初期位置を検出可能である。この方法は相補区間が特定された後に、相補区間を構成する2区間の通電パターンでやや電流量の多いセンシングパルスを三相コイルに印加して磁気飽和量を増加させ、より確実に磁気飽和を検出するものである。
制御回路51(MPU)は上述の相補区間を検出するときのセンシングパルスよりパルス時間を数倍に大きくした極性検出用のセンシングパルスを三相コイルに印加し、センシングパルスの終了直前の電流値を測定する。あるいは所定電流に到達するまでの通電時間を測定する。これらの測定を、相補区間を構成する2区間について行い、双方の電流値あるいは通電時間を比較して1区間に特定する。
【0036】
図4に極性センシングパルス印加時の動作説明図を示す。相補区間を構成する2区間の通電パターンI及びIIのセンシングパルスを概ねセンシングパルス時間に相当する休止期
間をおいて三相コイルに印加する。
図4Aは、所定時間のセンシングパルスを三相コイルに印加しコイル電流を測定する方法で、IM1、IM2はコイル電流、TS1は通電時間である。磁気飽和量に応じて電流立ち上がりカーブが異なりIM1とIM2は異なるので、ADコンバータでセンシングパルス終了直前のコイル電流を測定し双方を比較すれば相補区間を構成する2区間から1区間に特定できる。
なおコイル電流IMが小さい場合の近似値は下式で求められる。
IM=VM・TS1/L 式(5)
但しVM=コイル電圧、L=磁気飽和時のコイルインダクタンス
【0037】
図4Bは、所定電流のセンシングパルスを三相コイルに印加し到達時間を測定する方法で、IMはコイル電流、TS1、TS2は到達時間である。磁気飽和量に応じて電流立ち上がりカーブが異なりTS1とTS2は異なるので、タイマーで到達時間を計時し双方を比較すれば相補区間を構成する2区間から1区間に特定できる。
【0038】
(4)区間の特定方法3
以下、相補区間を構成する2区間から1区間に特定する特定方法3を説明する。特定方法3は、初期位置検出ではなく始動時あるいは低速回転時に繰り返し位置検出する場合に適用するものである。すでに前回の相補区間番号が判っているから、今回の相補区間番号と比較すれば前回と同じ区間に位置しているかあるいは1区間正転したか逆転したか判別できる。それに基づいて今回の区間番号を決定すれば連続回転することができる。但し、相補区間番号を使うことから1区間以内の変化しか対応できない。従って前回の回転子位置検出から今回の回転子位置検出までに1区間以上回転しないことが条件となる。
この特定方法3によれば、極性センシングパルスが不要となり静音化できる。相補区間さえ特定すれば区間まで特定できるため制御ソフトも簡略化される。
【0039】
(5)低速領域オンオフ制御方式
以上述べた各種の回転子位置検出方式はいずれも1ms程度の短時間で位置検出できることから、低速回転時に瞬時出力を遮断して位置検出することが可能である。そして検出された回転子位置に基づいて所定時間の励磁を行えば位置閉ループ制御を実現できる。即ち低速回転領域をフィールドオリエンテッドコントロール化できる。
【0040】
図5に低速領域オンオフ制御方式の動作タイミングチャートを示す。
センシング工程は出力を遮断して行われる。まず誘起電圧から速度を検出し、所定速度以上の高速回転なら本案から離脱して高速処理プログラムに移行する。低速回転なら上述した位置検出方式により回転子位置を特定する。
次に通電工程が実行され、通電工程では前記センシング工程で特定された位置に応じて励磁パターンが選択され任意の出力デューティ比で所定時間だけ通電する。
低速回転時は上記のセンシング工程と通電工程を繰り返す。
この低速領域オンオフ制御方式は、上限回転数と加速度耐量に制限はあるものの、回転子位置に応じて励磁されることから停動(ストール)や逆転にも対応でき、またセンシングと通電を完全に切り離すことができ出力デューティ比などの制約がなくソフトスタートやトルク制御などが容易で高い実用性を実現できる。またノイズや誤動作が発生しても1周期で正常に回復でき確実に動作する堅牢性に優れている。ただし出力をオンオフするため低周波振動や騒音が発生するため、振動や騒音の要求の厳しい用途には不向きである。
【0041】
次に
図6に示すセンサレスモータ駆動回路を用いた回転子位置検出プログラムのゼネラルフローチャート例を
図7に示す。以下では
図7のフローチャートに基づいてステップごとに回転子位置検出動作を説明する。なお制御プログラムは制御回路51に格納される。
【0042】
上位コントローラ50より回転指令(RUN)が与えられると、MPU51はまずコイル出力を遮断し誘起電圧から回転子の回転速度を検出する(STEP1)。所定の速度以上の高速回転なら任意の高速回転処理に進む(STEP2)。低速回転なら以下の位置検出処理に進む。
【0043】
論理回路52(LOGIC)は、PWMコントローラ53(PWMC)へ相補区間の一方の区間の通電パターンにて所定時間センシングパルス信号を送出する。PWMコントローラ53はセンシングパルス信号を受けて直流のゲート信号をプリドライバ56(PRE)へ送出する。プリドライバ56は、ゲート出力を増幅して出力回路57(INV)に送出し、出力回路57はプリドライバ56からゲート出力を入力されると、モータへコイル出力電圧UVWを送出する。コイルの開放相電圧は分圧回路61(DIV)で減衰され、コンディショニングされたコイル電圧信号uvwがADコンバータ回路55に入力する。センシングパルス終了直前の開放相電圧はAD変換され、変換結果を論理回路52に送出する。論理回路52はAD変換された測定データを保存する(STEP3)。
【0044】
また、論理回路52は、相補区間の他方の区間の通電パターンにて所定時間センシングパルス(逆センシングパルス)を三相コイルに印加し、上記と同様にセンシングパルス終了直前に開放相電圧を測定し保存する(STEP4)。そして、所定時間の休止期間をおく(STEP5)。以上のセンシング通電を、3対の相補区間についてセンシングが完了するまで繰り返す(STEP6)。
【0045】
次いで論理回路52は、相補区間を構成する2区間の開放相電圧値を減算し符号を減算位置情報とし、3対の相補区間について演算し3ビットの減算位置情報を求める(STEP7)。3ビットの減算位置情報を論理演算し相補区間を特定する(STEP8)。
また、論理回路52は、6個の開放相電圧値の平均を求め中性点電圧とする(STEP9)。特定した相補区間を構成する2区間の開放相電圧値の中性点からの振幅を加算する(STEP10)。加算値の符号にて前記2区間から1区間に特定する(STEP11)。
以上の手順で回転子位置を電気角120°通電の1区間に特定することができる。
【解決手段】MPU51は、上位コントローラ50からセンシング指令を受信すると、電気角120°通電の6通りの通電パターンのセンシングパルス信号を発生して出力回路57を介して三相コイルにセンシングパルスを印加し、相補区間を構成する2区間のセンシングパルス終了直前の開放相電圧を測定して回転子位置信号として記憶し、記憶した二つの開放相電圧値どうしを減算し、減算結果の符号を減算位置情報とし、残る2対の相補区間についても同様のセンシングパルス印加及び開放相電圧測定及び演算処理を行って都合3ビットの減算位置情報を生成し、3ビットの減算位置情報を論理演算することで回転子位置を3対の相補区間のいずれか一つに特定し、さらに特定された相補区間を構成する2区間の開放相電圧値の中性点電位に対する振幅を加算して磁気飽和成分を抽出し、加算結果の符号により相補区間を構成する2区間から一つの区間を選択し、最終的に回転子位置を電気角120°通電区間の一つに特定する。