特許第6951133号(P6951133)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6951133紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤および紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6951133
(24)【登録日】2021年9月28日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤および紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 21/02 20060101AFI20211011BHJP
   D21H 17/10 20060101ALI20211011BHJP
   D21H 17/45 20060101ALI20211011BHJP
   D21H 17/53 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
   D21H21/02
   D21H17/10
   D21H17/45
   D21H17/53
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-120908(P2017-120908)
(22)【出願日】2017年6月20日
(65)【公開番号】特開2019-7092(P2019-7092A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101042
【氏名又は名称】アクアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100093816
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 邦雄
(72)【発明者】
【氏名】喜多 啓二
【審査官】 川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−182995(JP,A)
【文献】 特開平07−126996(JP,A)
【文献】 特開2004−044067(JP,A)
【文献】 特開2010−138515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 21/02
D21H 17/10
D21H 17/45
D21H 17/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量平均分子量が10,000以上20,000未満のエピクロロヒドリン−ジメチルアミン共重合体あるいは質量平均分子量10,000以上25,000以下のジアリルジアルキルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体のカチオン性ポリマー、非イオン界面活性剤、およびホスホン酸化合物を有効成分として含有することを特徴とする紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。
【請求項2】
前記ジアリルジアルキルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体が、質量平均分子量が、10,000以上20,000未満であるジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体である請求項1に記載の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。
【請求項3】
前記非イオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルアミンである請求項1または請求項2に記載の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。
【請求項4】
前記ホスホン酸化合物が、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、及び1,2,4−トリカルボキシブタン−2−ホスホン酸から選択される少なくとも一種である請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤を、紙・パルプ製造工程水に添加・希釈してから紙製造装置に接触させることを特徴とする紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法。
【請求項6】
前記紙・パルプ製造工程の紙の原料中に古紙パルプを含有する請求項5に記載の紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤および紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙・パルプの製造において、原材料の多様化や抄紙速度の高速化により、原料木材に含まれている天然樹脂や脂肪酸類、古紙及び損紙由来で混入する接着剤やラテックスなどの合成粘着性物質、さらには紙製造工程において使用されるサイズ剤等の添加薬品に由来する有機物を主体とする疎水性粘着物質であるピッチによるピッチトラブルが増加している。
【0003】
ピッチは、通常、製紙工程のスラリー中にコロイド状に分散しているが、強い剪断力や、pHや水温の急減な変化、硫酸バンドの過剰添加等の何らかの外的作用により、そのコロイド状態が破壊されて、凝集・粗大化すると考えられている。
凝集・粗大化したピッチは、その粘着性により、ファンポンプ、流送配管内、チェスト、ワイヤー、フェルト、ロール等の製造設備に付着し、装置の汚れの原因となり、さらに、この付着物が大きくなった後に剥離し、パルプや紙に再付着することによって、紙欠点や断紙の原因となる。また、ワイヤー、フェルト等に付着した場合は、目詰りによって窄水性が低下し、湿紙含水率の上昇によって、断紙や乾燥工程における紙の乾燥負荷の上昇を引き起こす。
このように、ピッチは、紙の製品品質や生産性の低下を引き起こす原因物質であり、従来から、パルプまたは紙の製造時におけるピッチの凝集や紙の製造設備へのピッチの付着を防止することを目的として、ピッチ抑制剤が使用されている。
【0004】
ピッチ抑制剤は、パルプスラリーに添加する内添型ピッチ抑制剤と、ワイヤー、フェルト、ロール等の製造設備表面にシャワーによる散布等により直接接触させる外添型ピッチ抑制剤に大別される。
内添型ピッチ抑制剤はパルプスラリー全量に含まれているピッチを処理するのに対して、外添型ピッチ抑制剤はワイヤー、フェルト、ロール等の任意の製造設備表面に散布、噴霧、浸漬等により直接接触させ、設備表面近傍に存在するピッチを選択的に処理する。
このことから、外添型ピッチ抑制剤は、内添型ピッチ抑制剤と比べて、パルプスラリーや紙製品の品質に対して影響を与えず、さらに少ない薬品使用量で任意の設備表面へのピッチ付着を防止することができるといった利点がある。
【0005】
外添型ピッチ抑制剤を用いたピッチ抑制方法として、従来から様々な方法が提案されている。
カチオン性ポリマーと界面活性剤の2成分を有効成分とするピッチ抑制剤として、特開平2−182995号公報(特許文献1)には、エピクロロヒドリンージメチルアミン共重合体と非イオン界面活性剤の2成分を有効成分とするピッチ抑制剤を用いる方法が開示されている。
特許文献1の方法で用いられているピッチ抑制剤には、ピッチや設備表面を親水化することでピッチ付着防止作用を示すカチオン性ポリマーが使用されている。さらに、非イオン界面活性剤を併用することで、ピッチ付着防止効果をさらに高めるとともに、設備表面へのカチオン性ポリマー自体に起因する析出物の蓄積も防止することができる。
【0006】
さらにピッチ付着防止効果を向上させる方法として、カチオン性ポリマーと界面活性剤にホスホン酸化合物を加えた3成分を有効成分とするピッチ抑制剤を用いた方法が提案されている。
例えば、特開2004−044067号公報(特許文献2)には、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩あるいはエピクロロヒドリン−ジアルキルアミン共重合体から選択されるカチオン性ポリマー(分子量20,000〜100,000)と高級脂肪族アミンにエチレンオキサイドまたはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドを付加させた非イオン界面活性剤と1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)とを有効成分として含有する紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤を用いる方法が開示されている。
【0007】
しかし、用水のクローズド化、古紙利用率の増加、ワイヤーやフェルトの織り構造の複雑化、シュープレス抄造の普及による脱水処理量の増加など近年の操業状況に起因してピッチに由来するトラブルは増加傾向にあり、上記方法では設備表面へのピッチ付着防止効果は不十分であり、さらに有効なピッチ抑制剤およびピッチ抑制方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平2−182995号公報
【特許文献2】特開2004−044067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況において、本発明が解決しようとする課題は、紙の製造工程、特に古紙パルプを含む原料から紙を製造する工程において、ピッチ付着防止効果に優れたピッチ抑制剤およびピッチ抑制方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の質量平均分子量を有する特定のカチオン性ポリマー、非イオン界面活性剤、およびホスホン酸化合物の3成分を有効成分とするピッチ抑制剤が優れたピッチ付着防止効果を有し、特に古紙由来ピッチに対して優れた効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1) 第1の発明は、質量平均分子量10,000以上20,000未満のエピクロロヒドリン−ジメチルアミン共重合体あるいは質量平均分子量10,000以上25,000以下のジアリルジアルキルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体のカチオン性ポリマー、非イオン界面活性剤、およびホスホン酸化合物を有効成分として含有する紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤である。
(2) 第2の発明は、第1の発明において、前記ジアリルジアルキルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体が、10,000以上20,000未満であるジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体である紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤である。
(3) 第3の発明は、第1または第2のいずれかの発明において、前記非イオン界面活性剤が、ポリオキシアルキレンアルキルアミンである紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤である。
(4) 第4の発明は、第1から第3のいずれかの発明において、前記ホスホン酸化合物が、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、及び1,2,4−トリカルボキシブタン−2−ホスホン酸から選択される少なくとも一種である紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤である。
(5) 第5の発明は、第1から第4のいずれかの発明の紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤を、紙・パルプ製造工程水に添加・希釈してから紙製造装置に接触させる紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法である。
(6) 第6の発明は、第5の発明において、前記紙・パルプ製造工程の紙の原料が古紙パルプを含有する紙・パルプ製造工程のピッチ抑制方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のピッチ抑制剤を用いることにより、紙の製造工程、特に古紙パルプを含む原料から紙を製造する工程におけるワイヤー、フェルト、ロール等の製造設備表面にピッチ等の汚れが付着するのを効果的に抑制し、ワイヤーやフェルト等の窄水性の低下、紙欠点や断紙の発生等の工程トラブルを防止し、紙製品の品質および生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のピッチ抑制剤および、これを用いた紙製造設備のピッチ抑制方法は、特定分子量のカチオン性ポリマーとして、エピクロロヒドリン−ジアルキルアミン共重合体とジアリルジアルキルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体から選択される少なくとも一種、非イオン界面活性剤、およびホスホン酸化合物とを有効成分として含有する紙・パルプ製造工程用ピッチ抑制剤およびこのピッチ抑制剤を紙・パルプ製造工程水に添加してピッチの汚れを抑制するピッチ抑制方法である。
【0014】
本発明で用いられる質量平均分子量10,000以上25,000以下のエピクロロヒドリン−ジアルキルアミン共重合体は、一般式(1):
【化1】
(式中、R1、R2はアルキル基で、互いに同じでも異なってもよく、mは整数)で表される。
一般式(1)で表されるエピクロロヒドリン−ジアルキルアミン共重合体として、具
体的には、エピクロロヒドリン−ジメチルアミン共重合体およびエピクロロヒドリン−ジエチルアミン共重合体等が挙げられ、エピクロロヒドリン−ジメチルアミン共重合体が特に好ましい。エピクロロヒドリン−ジアルキルアミン共重合体の質量平均分子量は、ピッチ抑制効果の観点から、10,000以上20,000未満が好ましい。
【0015】
本発明で用いられる質量平均分子量10,000以上25,000以下のジアリルジアルキルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体は、一般式(2):
【化2】
(式中、R1、R2はアルキル基で互いに同じでも異なってもよく、l、m、nは整数、l≧lかつm≧1)で表される。
一般式(2)で表されるジアリルジアルキルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体として、具体的には、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミドおよびジアリルジエチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体等が挙げられ、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体が特に好ましい。ジアリルジアルキルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体の質量平均分子量は、ピッチ抑制効果の観点から10,000以上20,000未満が好ましい。
【0016】
本発明の非イオン界面活性剤として、具体的には、脂肪族アルコールへのアルキレンオキシド付加物であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル、アルキルフェノールへの付加物であるポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステルへの付加物であるポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステルへの付加物であるポリオキシアルキレングリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステルへの付加物であるポリオキシアルキレンペンタエリスリトール脂肪酸エステル、脂肪酸への付加物であるポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、脂肪酸アミドへの付加物であるポリオキシアルキレン脂肪酸アミド、脂肪族アミンへの付加物であるポリオキシアルキレンアルキルアミン等が挙げられる。上記脂肪族化合物は飽和および不飽和のいずれであってもよい。
付加するアルキレンオキサイドとして、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、これらの混合物等が挙げられる。分子中に含まれるオキシアルキレン基が2種以上であるアルキレンオキサイド付加物においては、ブロック共重合体及びランダム共重合体のいずれであってもよい。
これらの中で、ポリオキシアルキレンアルキルアミンが好ましく、ピッチ付着防止効果の点から、炭素数10〜20の飽和または不飽和の脂肪族アミンに、エチレンオキサイドを5〜30モル付加させたもの、プロピレンオキサイドを0〜15モル付加させたものが好ましい。
炭素数10〜20の飽和または不飽和の脂肪族アミンの具体例としては、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等を挙げることができる。これらの非イオン界面活性剤は、1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0017】
本発明のピッチ抑制剤におけるカチオン性ポリマーと非イオン界面活性剤との質量比は、カチオン性ポリマー100質量部に対して、非イオン界面活性剤は25〜500質量部が好ましい。より好ましくは、前記カチオン性ポリマー100質量部に対して、非イオン界面活性剤は100〜300質量部である。
【0018】
本発明のホスホン酸化合物として、具体的には、アミノトリメチレンホスホン酸(ATMP)、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、トリメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸、1−アミノプロパン−1,1−ジホスホン酸、及び1,2,4−トリカルボキシブタン−2−ホスホン酸(PBTC)等が挙げられる。
これらの中で、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、アミノトリメチレンホスホン酸(ATMP)、1,2,4−トリカルボキシブタン−2−ホスホン酸(PBTC)等、ならびに、これらのアルカリ金属塩が好ましい。
アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩およびカリウム塩などが挙げられる。これらのホスホン酸化合物は、1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
本発明のピッチ抑制剤における各成分の配合比率において、好ましくはカチオン性ポリマーと非イオン界面活性剤の合計量100質量部に対してホスホン酸化合物1〜500質量部、より好ましくは5〜50質量部である。
【0019】
本発明のピッチ抑制剤には、必要に応じて、界面活性剤、重合体、キレート剤、ビルダー、有機酸、pH調整剤、溶剤、消泡剤、殺菌剤、防腐剤、着色料及び香料などを含有してもよい。
本発明のピッチ抑制剤は、紙の製造に際して、濾水性向上剤、歩留り向上剤、凝結剤、サイズ剤、他のピッチ抑制剤、潤滑剤、剥離性向上剤、洗浄剤、酸及びアルカリなどの添加剤と併用することもできる。
【0020】
本発明のピッチ抑制剤の適用対象となる原料パルプの種類に制限はなく、クラフトパルプおよびサルファイトパルプ等の晒化学パルプまたは未晒化学パルプ、砕木パルプおよびサーモメカニカルパルプなどの晒機械パルプまたは未晒機械パルプ、新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙および脱墨古紙などの古紙パルプ、マシン損紙およびコート損紙等のブロークパルプが挙げられる。
本発明のピッチ付着防止効果が顕著に表れるのは古紙パルプを使用する場合であり、特に効果が顕著に表れるのは古紙パルプを10質量%以上含有する原料を使用する場合である。
本発明のピッチ抑制剤は、酸性、中性及びアルカリ性条件下で行われる紙の製造に適用することができ、製造される紙の種類に制限はない。この紙としては、例えば新聞用紙、上質紙やコート紙などの印刷用紙、PPC用紙や感熱紙原紙などの情報用紙、純白ロール紙や晒クラフト紙などの包装用紙、ティッシュペーパーやトイレットペーパーなどの衛生用紙、食品容器原紙や塗工印刷用原紙などの雑種紙、ライナーや中しん原紙などの段ボール原紙、白板紙や色板紙などの紙器用板紙、石膏ボードや紙管原紙などの雑板紙などが挙げられる。
【0021】
本発明のピッチ抑制剤は紙製造装置に直接接触させることによって、紙製造装置のピッチ付着を防止することができる。紙製造装置に接触させる際には、ピッチ抑制剤を、ロールやフェルトのシャワー水、水ドクター添加水等の紙・パルプ製造工程水で希釈してから、紙製造装置に散布、噴霧、浸漬などにより接触させることが好ましい。紙・パルプ製造工程水へのピッチ抑制剤の添加量は、存在するピッチの量により左右されるが、通常、希釈する水中に5〜2,000mg/L、好ましくは、10〜500mg/Lとなるように添加するとよい。
【0022】
本発明のピッチ抑制剤を接触させる製造設備としては、例えば、ワイヤー、フェルト、センターロール、テーブルロール、ブレストロール、ダンディロール、ワイヤーリターンロール、クーチロール、プレスロール、サクションロール、ペーパーロール、バッキングロール、スライスリップ、フォーミングボード、フォイル、ドクター、サクションボックス、ユールボックス、カンバスなどが挙げられる。この中で、ポリエステル樹脂やナイロン樹脂などの疎水性樹脂を主成分とするワイヤーやフェルトに特に有効である。
【0023】
紙の製造工程において、本発明のピッチ抑制剤を製造設備に接触させるには、例えば製造設備の稼動前または稼動中に、連続的にまたは間欠的に接触させればよく、製造設備の稼動中に連続的に接触させるのが好ましい。また、上述したように、シャワー水として散布、噴霧、浸漬等で接触させる方法が好ましいが、目的とする製造設備以外の製造設備にピッチ抑制剤を接触させることによって、対象となる製造設備に間接的に接触させてもよい。
【0024】
本発明のピッチ抑制剤を添加する水としては、井戸水等の地下水、河川水または湖沼水等の表層水、工業用水等の新水、回収水、排水処理水等の再利用水のいずれか、またはこれらを混合して使用することができる。
【実施例】
【0025】
本発明を実施例および試験例により以下に説明するが、本発明はこれらの実施例および試験例により限定されるものではない。
【0026】
実施例および比較例で使用したピッチ抑制剤の配合およびピッチ付着防止試験結果を表1に示す。
【表1】
[注]ECH:エピクロロヒドリン
DMA:ジメチルアミン
DADMAC:ジアリルジメチルアンモニウムクロライド
AA:アクリルアミド
pDADMAC:ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド
POASA:ポリオキシアルキレンステアリルアミン(エチレンオキサイド20モル、プロピレンオキサイド2モルを付加したステアリルアミン)
HEDP:1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸
【0027】
(ピッチ付着防止試験)
(1)クラフトパルプのみを原料とするクラフト紙抄造マシンで実際に使用されたフェルト(クラフト紙マシン・フェルト)、または、古紙を原料(古紙パルプ含有率90%以上)とする板紙抄造マシンで実際に使用されたフェルト(板紙マシン・フェルト)をエタノール:シクロヘキサン=1:2(容積比)の混合溶媒で抽出。得られたピッチ成分を再度、エタノール:シクロヘキサン=1:2(容積比)に溶解し、10%(w/v)のピッチ溶解液を調製した。
(2)200mlトールビーカーに、上記実施例および比較例の各ピッチ抑制剤を100mg/Lとなるように水道水で希釈した試験水(150ml)を作成した。試験水に60メッシュ・ポリエステル網(20mm×60mm×0.28mm、目開き0.273mm、糸径0.150mm)を浸漬し、室温、600rpmで攪拌した。
(3)試験水に10%(w/v)のピッチ溶解液を100mg/Lとなるように添加し、室温、600rpmで2時間撹拌した。
(4)ポリエステル網を取り出し、純水で十分水洗した後、スダンブラックB染色液(スダンブラックBを0.5%(w/v)となるように70%(v/v)エタノールに溶解したもの)に20分間浸漬し、50%(v/v)エタノールに浸漬後、純水で水洗し、自然乾燥した。
(5)ハンディ色彩計NR−11A(日本電色工業株式会社製)を用いて、染色したポリエステル網のピッチ付着面について、左半面3箇所(上部、中部、下部)、右半面3箇所(上部、中部、下部)の計6箇所の色差ΔE(ab)を測定し、平均値を算出した。
(6)ピッチ抑制剤無添加の場合での色差ΔE(ab)の平均値をピッチ相対付着量10として、各ピッチ抑制剤添加時のピッチ相対付着量を次式から算出した。

薬剤添加時のピッチ相対付着量
=薬剤添加時のΔE(ab)平均値÷薬剤無添加時のΔE(ab)平均値×10

評価は、数値が大きい方がよりピッチ相対付着量が大きいことを示す。
【0028】
(実施例1〜6および比較例1〜6)
クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、カチオン性ポリマーとしてエピクロロヒドリン−ジメチルアミン(ECH/DMA)共重合体(質量平均分子量10,000、15,000または19,000)を配合したピッチ抑制剤(実施例1〜3)、およびDADMAC/AA共重合体を配合したピッチ抑制剤(実施例4〜6)は、ECH/DMA共重合体(質量平均分子量3,000または30,000)配合品(比較例3、比較例4)やDADMAC/AA共重合体(質量平均分子量3,000または30,000)配合品(比較例5、比較例6)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量19,000または30,000)配合品(比較例1、比較例2)とは同等の効果を示した。
一方、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例1〜6のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量19,000または30,000)配合品(比較例1、比較例2)、ECH/DMA共重合体(質量平均分子量3,000または30,000)配合品(比較例3、比較例4)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量3,000または30,000)配合品(比較例5、比較例6)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
【0029】
(実施例7、実施例8および比較例7〜9)
実施例1よりも非イオン界面活性剤の含量を減らしたピッチ抑制剤(実施例7)は、ピッチの種類によらず、実施例1と比べて、ピッチ付着防止効果は低下した。実施例4よりも非イオン界面活性剤の含量を減らしたピッチ抑制剤(実施例8)は、ピッチの種類によらず、実施例4と比べて、ピッチ付着防止効果は低下した。クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例7および実施例8は、ECH/DMA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例8)およびDADMAC/AA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例9)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量30,000)配合品(比較例7)とは同等の効果を示した。
しかし、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例7および実施例8のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量30,000)配合品(比較例7)、ECH/DMA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例8)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例9)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
【0030】
(実施例9、実施例10および比較例10〜12)
実施例1よりも非イオン界面活性剤の含量を増やしたピッチ抑制剤(実施例9)は、ピッチの種類によらず、実施例1と比べて、ピッチ付着防止効果は向上した。実施例4よりも非イオン界面活性剤の含量を増やしたピッチ抑制剤(実施例10)は、ピッチの種類によらず、実施例4と比べて、ピッチ付着防止効果は向上した。クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例9および実施例10は、ECH/DMA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例11)およびDADMAC/AA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例12)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量30,000)配合品(比較例10)とは同等の効果を示した。
しかし、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例9および実施例10のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量30,000)配合品(比較例10)、ECH/DMA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例11)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例12)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
【0031】
(実施例11、実施例12および比較例13〜15)
実施例1よりもHEDPの含量を減らしたピッチ抑制剤(実施例11)は、ピッチの種類によらず、実施例1と比べて、ピッチ付着防止効果は低下した。実施例4よりもHEDPの含量を減らしたピッチ抑制剤(実施例12)は、ピッチの種類によらず、実施例4と比べて、ピッチ付着防止効果は低下した。クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例11および実施例12は、ECH/DMA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例14)およびDADMAC/AA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例15)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量30,000)配合品(比較例13)とは同等の効果を示した。
しかし、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例11および実施例12のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量30,000)配合品(比較例13)、ECH/DMA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例14)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例15)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
【0032】
(実施例13、実施例14および比較例16〜18)
実施例1よりもHEDPの含量を増やしたピッチ抑制剤(実施例13)は、ピッチの種類によらず、実施例1と比べて、ピッチ付着防止効果は向上した。実施例4よりもHEDPの含量を増やしたピッチ抑制剤(実施例14)は、ピッチの種類によらず、実施例4と比べて、ピッチ付着防止効果は向上した。クラフト紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対して、実施例13および実施例14は、ECH/DMA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例17)およびDADMAC/AA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例18)よりも高いピッチ付着防止効果を示し、pDADMAC(質量平均分子量30,000)配合品(比較例16)とは同等の効果を示した。
しかし、板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対しては、実施例13および実施例14のピッチ抑制剤はpDADMAC(質量平均分子量30,000)配合品(比較例16)、ECH/DMA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例17)、DADMAC/AA共重合体(質量平均分子量30,000)配合品(比較例18)よりも高いピッチ付着防止効果を示した。
【0033】
実施例1〜6および比較例1〜6のピッチ抑制剤の組成において、ホスホン酸化合物として、HEDPの代わりにATMPまたはPBTCを用いたピッチ抑制剤を調製し、クラフト紙マシン・フェルトおよび板紙マシン・フェルトから抽出したピッチに対するピッチ付着防止試験を実施した。
その結果、ATMPまたはPBTCを配合したピッチ抑制剤においても、HEDPを配合したピッチ抑制剤(実施例1〜6および比較例1〜6)と同様のピッチ付着防止効果が得られた。
【0034】
尚、カチオン性ポリマーとして、質量平均分子量10,000〜19,000のECH/DMA共重合体またはDADMAC/AA共重合体を配合したピッチ抑制剤が、質量平均分子量19,000または30,000のpDADMAC、質量平均分子量30,000のECH/DMA共重合体、DADMAC/AA共重合体のいずれかを配合したピッチ抑制剤よりもピッチ付着を抑えられる理由は必ずしも明確ではない。
しかし、pDADMACはポリマー内にカチオン電荷しか持っていないのに対して、ECH/DMA共重合体やDADMAC/AA共重合体はポリマー内にカチオン電荷以外に、水酸基やアミド基といった水素結合部を有しており、pDADMACと比べて親水性が高い。また、ポリマーの分子量が小さいことによって、水中でのポリマーの分散性が良く、微小ピッチやワイヤー、フェルト等の疎水表面と接触しやすい。
これらのことから、質量平均分子量10,000〜19,000のECH/DMA共重合体やDADMAC/AA共重合体は、質量平均分子量19,000または30,000のpDADMAC、質量平均分子量30,000のECH/DMA共重合体またはDADMAC/AA共重合体と比べて、微小ピッチを親水化して、水中に分散させる効果が高く、さらにワイヤー、フェルト等の疎水性表面の親水化効果も高いことから、より優れたピッチ付着抑制効果を示すものと考えられる。
質量平均分子量が3,000と小さい場合は、ポリマーの親水性が高くなりすぎて、微小ピッチやワイヤー、フェルト等の疎水表面と接触しづらくなってしまうことから、ピッチ付着抑制効果が低下すると推測される。
【0035】
さらに、実機でのピッチ抑制剤の性能評価を行うため、実機の紙製造工程において、カチオン性ポリマー、非イオン界面活性剤、ホスホン酸化合物の3成分から成るピッチ抑制剤をシャワー水等の製造工程水に添加・希釈した結果、洗浄用のシャワーラインノズル目詰まりによるシャワー水の吐出不良(ピッチ抑制剤原液を薬注ポンプでシャワー配管に圧入している場合)、薬注ポンプ吐出口の閉塞による希釈液の吐出不良(ピッチ抑制剤希釈液を薬注ポンプでシャワー配管に圧入している場合)、ワイヤーやフェルト等の目詰まりによる窄水不良、断紙の発生といった新たな障害を引き起こす場合があることが判明した。
本発明者らが原因を検討した結果、これら3成分をシャワー水等の製造工程水に添加・希釈した場合、ピッチ抑制剤の成分が希釈水中の鉄分等と反応し、析出物が発生することが障害の原因であると推測した。
【0036】
卓上試験において、実施例1〜14および比較例1〜18で用いたピッチ抑制剤を1,000mg/Lとなるように添加した紙製造工程水に、鉄分として冷間圧延鋼板(SPCC)製のテストピースを浸漬し、析出物の発生量を目視評価した結果、実施例では析出物の発生は認められなかったが、比較例では析出物の発生が認められた。
析出物を分析した結果、析出物はカチオン性ポリマーとホスホン酸化合物と鉄分から構成されるピッチ抑制剤由来物であった。
このことから、本発明のピッチ抑制剤はピッチ付着防止効果に優れているだけでなく、ピッチ抑制剤由来析出物の発生を効果的に抑制できることも確認された。