特許第6951341号(P6951341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6951341生体分子溶液を濃縮するためのタンジェンシャルフロー濾過プロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6951341
(24)【登録日】2021年9月28日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】生体分子溶液を濃縮するためのタンジェンシャルフロー濾過プロセス
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/34 20060101AFI20211011BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20211011BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
   C07K1/34
   C12P21/02 C
   B01D61/14 510
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-535300(P2018-535300)
(86)(22)【出願日】2016年12月19日
(65)【公表番号】特表2019-505514(P2019-505514A)
(43)【公表日】2019年2月28日
(86)【国際出願番号】GB2016053980
(87)【国際公開番号】WO2017118835
(87)【国際公開日】20170713
【審査請求日】2019年11月19日
(31)【優先権主張番号】1600287.5
(32)【優先日】2016年1月7日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508236033
【氏名又は名称】フジフィルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズ ・ユーケイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【弁理士】
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】ハイス,チャールズ
(72)【発明者】
【氏名】ナギー,ティボー
【審査官】 馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−533663(JP,A)
【文献】 国際公開第03/033120(WO,A1)
【文献】 特開昭64−043305(JP,A)
【文献】 米国特許第07682511(US,B1)
【文献】 AKTAcrossflow automated cross flow filtration for process development,GE Healthcare,2007年02月01日,P.1-6,[retrieved on 2020-10-28]. Retrieved from the Internet: <URL: https://www.cytivalifesciences.co.jp/catalog/pdf/11003271.pdf>
【文献】 中西一弘,バイオプロダクトの分離・精製技術 クロスフローろ過による菌体分離,ケミカルエンジニヤリング,1988年,33(5),359-364
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/34
C12P 21/02
B01D 61/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体分子を含む液体の濃縮方法であって、前記液体を、加圧下でタンジェンシャルフロー濾過デバイスを通過させることを含み、印加される前記圧力が少なくともより高い圧力とより低い圧力との間でサイクリングされ、前記圧力は、タンジェンシャルフロー濾過デバイスの下流に配置された可変流量弁の操作により変化する、前記方法。
【請求項2】
インラインで実施される、請求項に記載の方法。
【請求項3】
圧力がポンプの手段によって印加される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記可変流量弁が間欠流量弁である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
2つの異なる圧力が使用され、より高い圧力が、前記圧力の印加の時間の99.9%まで、好ましくは85〜99%で使用される、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
少なくとも10サイクルが使用される、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
100Hz未満、好ましくは5Hz未満のサイクル周波数が使用される、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記サイクル周波数が0.05〜0.5Hzである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
2つの異なる圧力が使用され、より高い圧力が、より低い圧力よりも少なくとも1.05倍高く、好ましくはより低い圧力よりも少なくとも1.1〜2.0倍高い、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
タンジェンシャルフロー濾過デバイスと可変流量弁とを通して液体の流れを付与するための手段と流体連通したタンジェンシャルフロー濾過デバイスを含む、生体分子を含む液体のインライン濃縮のための装置であって、前記流れを付与するための手段が濾過デバイスの上流に配置されており、前記可変流量弁が前記タンジェンシャルフロー濾過デバイスの下流に配置されており、前記可変流量弁を制御して少なくともより高い圧力とより低い圧力との間でサイクリングさせるプログラマブル制御ユニットを含む、前記装置。
【請求項11】
前記流れを付与するための手段がポンプを含む、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
液体中の生体分子の濃縮のためのプロセスであって、前記生体分子が、請求項10または11のいずれかに記載の装置の使用によって濃縮される、前記プロセス。
【請求項13】
2つの異なる圧力が使用され、より高い圧力が、圧力の印加の時間の99.9%まで、好ましくは85〜99%で使用される、請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
生体分子、好ましくは組換えポリペプチドの生産のためのプロセスであって、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法による前記生体分子を含む液体の濃縮を含む、前記プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子、特に組換えポリペプチドおよび核酸の溶液を濃縮するための方法、ならびにそのような方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの生体分子、特に組換えポリペプチドおよび核酸、例えばプラスミドDNA(pDNA)は、特に治療への応用のために大いに注目されている。そのような生体分子は、一般に、所望の生体分子を発現するように操作された組換え宿主細胞を培養することによって産生される。次いで、生体分子は、典型的には遠心分離、濾過およびクロマトグラフィー精製を含む方法によって培地から回収される。生体分子の回収は、一般に、その中に生体分子が溶解または懸濁している液体培地の性質および特性の調節を含む。関係する処理は、典型的には、生体分子の比較的希薄な溶液をもたらし、したがって、培地からの回収および精製の間に、その培地中の生体分子の濃度を増大させることが望ましい場合がある。その理由は、例えば、その濃度が低過ぎるため、その形態での生体分子の使用は実現困難であるかまたは多量の液体の貯蔵が必要となる場合があるからである。
【0003】
従来の濃縮プロセスは、生体分子を含む初期培地を、一定した圧力下で、精密濾過または限外濾過膜などの濾過装置に通過させるステップを含む。そのような装置は、生体分子が保持液(retentate)中に保持されるが、培地の一部は濾過材を通過して廃棄されるように選択される。保持液は保持タンクへ再循環され、その再循環工程は、所望濃度の生体分子が得られるまで続行される。そのようなプロセスの不利益な点は、濃縮ステップが比較的遅く、したがって生体分子の処理が遅くなることにある。さらに、緩衝液交換が進行するにつれて生体分子がポンプヘッドを繰り返し通過し、広範な溶質および緩衝液の濃度にわたり物理的剪断力を受けるので、タンパク質の不安定性または不溶性(凝集または変性等)が生じることがある。さらに、従来の濃縮プロセスは、大きなホールドアップ体積を伴う。回分での再循環ベースの濃縮を必要とする代わりに、生体分子の処理の一部として、濃縮ステップがインラインで実行できれば望ましい。
【0004】
米国特許第7682511号は、図1に例示されているように、複数のタンジェンシャルフロー濾過デバイスが、「クリスマスツリー」状の構成で連結されている濃縮方法および装置を記載しており、デバイスを通る流れは、濾過デバイス3の2つのポンプ、上流に位置するポンプ1および下流に位置するポンプ2、の組合せによって調節されて、供給液4および保持液5の流量を制御する。過剰な液体は透過液6へ排出される。一定した圧力が使用される。
【発明の概要】
【0005】
本発明の第1の態様によれば、生体分子を含む液体の濃縮方法であって、液体を、加圧下でタンジェンシャルフロー濾過デバイスに通過させることを含み、印加される前記圧力が少なくともより高い圧力とより低い圧力との間でサイクリングされる、前記方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】米国特許第7682511号は、図1に例示されているように、複数のタンジェンシャルフロー濾過デバイスが、「クリスマスツリー」状の構成で連結されている濃縮方法および装置を記載している。
図2】本発明による装置を図2に例示する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の1つの実施形態では、本方法は、インラインで実施され、ここで保持液は再循環されない。保持液は、使用されるか、またはさらなる処理のために供される。他の実施形態では、本方法は、回分または部分回分方式で実施され、保持液の一部または全部は供給液へ再循環される。
【0008】
装置に使用できるタンジェンシャルフロー濾過(「TFF」)デバイスは当技術分野で周知であり(例えば、Filtration in the Biopharmaceutical Industry、T.H. MeltzerおよびM.W. Jornitz編、1998年を参照されたい)、それらには、平板なシート、中空繊維、および環状に曲折したデバイスが含まれる。好ましくは、TFFデバイスは中空繊維濾過デバイスである。
【0009】
TFFデバイスは、生体分子の性質に適したカットオフを有するように選択され、それにより、生体分子はバリアを通過せず、一方、液体のより小さい成分はバリアを通過して透過液中に出ていくことができる。
【0010】
より高い圧力とより低い圧力の差の程度は、使用される条件によって決まることを理解されよう。例えば、他のすべてのことが同じなら、より高い供給液流量での作動は、より低い供給液流量で作動するより大きい差をもたらすことになる。同様に、中空繊維について、より大きい剪断速度は、低い剪断速度より大きい圧力差をもたらすことになる。
【0011】
本出願において使用される圧力の上限は、使用される装置についての作動限界である。特定の例では、その上限は、製造業者によって指定されたデバイスの作動限界となるように選択し得る。より高い圧力の実際の上限は、製造業者によって指定された上限より大幅に高くてよく、それは、慣行的な実験によって容易に決定できることを理解されよう。多くの実施形態では、より高い圧力は、作動限界の少なくとも25%、例えば少なくとも30%、例えば少なくとも40%、一般に少なくとも50%、典型的には少なくとも60%、しばしば少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%であり、その作動限界の少なくとも90%であってよい。
【0012】
特定の実施形態では、より低い圧力は、作動限界の40%以下、一般に30%以下、典型的には20%以下、好ましくは10%以下である。
いくつかの実施形態では、より低い圧力とより高い圧力の差は、より高い圧力の5%よりも大きくなるように選択される。特定の実施形態では、より低い圧力とより高い圧力の差は、より高い圧力の5超〜50%、例えば10〜40%の範囲となるように選択される。他の実施形態では、より低い圧力とより高い圧力の差は、より高い圧力の50超〜95%、例えば70〜90%の範囲内となるように選択される。
【0013】
多くの特に好ましい実施形態では、より高い圧力は、より低い圧力よりも少なくとも1.05倍大きい。いくつかの特に好ましい実施形態では、より高い圧力は、より低い圧力よりも少なくとも1.1〜2.0倍大きい。他の特に好ましい実施形態では、より高い圧力は、より低い圧力よりも2〜10倍、特に3〜7倍大きい。
【0014】
本発明の第1の態様の方法は、例えば、2つ、3つ、4つまたはそれを超える異なる圧力を印加するステップを含んでもよく、印加される最大圧および最小圧は上記した通りであり、これらの中間にある他の任意の圧力が印加される。2つの異なる圧力が使用される特定の実施形態では、より高い圧力は、全工程時間の最大で99.9%、例えば最大で99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%または90%で印加され、その残りはより低い圧力である。多くの場合、より高い圧力は、全工程時間の少なくとも50%、しばしば全工程時間の少なくとも60%、例えば少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%で印加され、その残りはより低い圧力である。多くの好ましい実施形態では、より高い圧力は、全工程時間の85〜99%で印加され、その残りはより低い圧力である。
【0015】
TFFデバイスが中空繊維型デバイスである多くの実施形態では、作動限界は典型的には約2〜4バールであり、TFFデバイスが平板型デバイスである場合、作動限界は典型的には約5〜7バールである。
【0016】
他のすべてのことが同じなら、使用されるTFFデバイスの長さは、達成し得る濃縮係数に影響を及ぼすことになり、その結果、濃縮器内の流体経路長が長ければ長いほど、濃縮係数はより大きくなることが認識されよう。全膜面積と、平板型デバイスの場合の全有効幅、または中空繊維型デバイスの場合の円周との比は、濃縮係数に影響を及ぼすことになる。同じ膜面積について、より大きい比は小さい比より大きい濃縮係数をもたらすことになる。特定の実施形態では、経路の長さは、30cmより長く、特に40cmより長く、好ましくは50cmより長くなるように選択される。多くの場合、経路の長さは200cmまでである。
【0017】
TFFデバイスに圧力を印加するための手段は当技術分野で周知であり、それらには、ガスの圧力、特に窒素またはヘリウムなどの不活性ガスの印加が含まれる。好ましくは、圧力を印加するための手段はポンプである。使用できるポンプには、蠕動式、ダイヤフラム式、ローブ式および遠心式ポンプが含まれる。使い捨てポンプと再使用可能なポンプのどちらの設計も使用することができる。圧力を印加するための手段には、TFFデバイスの下流に配置された流量リストリクターを使用することができる。流量リストリクターの例にはピンチ弁が含まれる。多くの好ましい実施形態では、流量リストリクターは可変流量弁を含む。
【0018】
本発明において使用し得るリストリクターは、TFFデバイスを通る液体の流れを調節する役割を果たし、それによって、流れを付与するための手段と合わせてTFFデバイス中の液体に印加される圧力を制御し、それによって、保持液および透過液の中の液体の相対的割合を制御し、それによって、達成される濃縮係数を制御する。
【0019】
流量リストリクターが固定型リストリクターである場合、印加される圧力は、TFFデバイスを通る液体の流量を調節することによって、例えば、ポンプの速度を増減させる、または印加されるガス圧を増減させることによって変化させることができる。
【0020】
可変流量弁を、印加される圧力を変化させるための手段として使用する場合、可変流量弁は、流れを、その液体が流動可能のまま留まる第1の比較的低い流量と、少なくとも第2のより高い流量の間に調節することができる。好ましい実施形態では、可変流量弁は、間欠流量弁であり、これは、第1の位置では流れを阻止するが、少なくとも第2の位置では流れを許容する。
【0021】
特定の好ましい実施形態では、可変流量弁を通る液体の流れは、所要濃度を達成するために弁の開閉を調節するプログラマブル制御ユニットによって制御される。これは、所定の時間の比較的低い流量および比較的高い流量でサイクリングするか、または例えば弁を開閉して、所望の濃度をもたらすことによって、達成される。1サイクルは、元の圧力からのより高い圧力またはより低い圧力への圧力変更および元の圧力への復帰を表し、それは、弁の開閉のステップおよび初期状態への復帰と同じである。サイクル速度は、一定であるかまたは変化があるかのいずれかであってよい。いくつかの作動条件では、可変流量弁のサイクル速度は、濃縮プロセスを通して一定に維持される。
【0022】
多くの実施形態では、複数のサイクルが使用される。使用されるサイクル数は、多くの因子、例えば、そのプロセスの継続期間、濃縮される液体の体積、流量、装置の最大圧力、TFFデバイスの長さおよび/または面積、ならびにTFFデバイスについての分子量カットオフに依存することになる。特定の実施形態では、少なくとも10サイクル、例えば少なくとも50、100、500、750、1000、1500、2000、3000、5000、7500、10000またはより多くのサイクルを使用することができる。
【0023】
様々なサイクル周波数を使用できることが認識されよう。他のすべての因子が同等であれば、より高い周波数は、より小さい、より高い圧力とより低い圧力との差をもたらすのに対して、より低い周波数はより大きい差をもたらすことになる。実施されるプロセスの性質に応じて、異なる状況でいずれも有利であり得る。多くの例では、周波数は、100Hz未満、典型的には50Hz未満、一般には10Hz未満、好ましくは5Hz未満である。特定の好ましい実施形態では、周波数は、2Hz以下、最も好ましくは1Hz以下、例えば0.05〜0.5Hzである。
【0024】
可変流量弁が開放されている場合、液体は、TFFデバイスおよび弁を通過して保持液となる。前記弁が閉止されている場合、液体は、TFFフィルターを通過して透過液となり、TFFデバイスのカットオフより大きい任意の溶質および/または生体分子は濃縮器中に保持されて、保持液ライン上の弁が次に開放されるときに、フラッシングされて保持液となる。
【0025】
TFFデバイスの作動の間、通常、生体分子を含むゲル層がフィルター表面の保持液側に形成される。このゲル層は、典型的には濃縮の最後にフラッシングを含ませることによってTFFデバイスから除去され、そのようなフラッシングステップを本発明のプロセスにおいて使用することができる。濃縮の最後におけるフラッシングステップは、生体分子の濃度に著しい急上昇をもたらすことがあり、したがって、予想より高い生体分子濃度をもたらし得る。本発明の特定の実施形態では、フラッシングステージは、濃縮プロセスを通して、間隔を置いて含められる。フラッシングステージは、液体がより低い圧力でTFFデバイスを通過する期間を延長することを含んでもよく、好ましくはフラッシングの継続時間の間、透過液ライン上の弁を閉止すること等によって、すべての流れが保持液へ進むように、透過液の流れを阻止することをさらに含んでもよい。フラッシングステージの継続時間は、しばしば、実質的に全てのゲル層の保持液への移送が達成されるように選択される。濃縮の最後におけるフラッシングステージは、5TFFデバイス体積までを通過させることを含み得る。濃縮プロセス中に間隔を置いて含められるフラッシングステージは、より少ないTFFデバイス体積、例えば0.25、0.5、0.75または1TFFデバイス体積を通過させることを含み得る。いくつかの実施形態では、フラッシングステージは、1TFFデバイス体積、2TFFデバイス体積、5TFFデバイス体積、10TFFデバイス体積またはそれを超える通過のためのより高い圧力とより低い圧力との間のサイクリングの作動の後に使用され、その後、より高い圧力とより低い圧力との間のサイクリングの作動へ復帰させる。1つまたは複数のフラッシングステージが濃縮プロセスにおいて間隔を置いて組み込まれる多くの実施形態では、フラッシングステージには、好ましくはフラッシングの継続時間の間、透過液ライン上の弁を閉止すること等によって、透過液の流れを阻止することが伴う。
【0026】
本発明で使用される液体は、精製法(例えば、クロマトグラフィーカラム、従来のまたは単一パス型のTFFステップ、濾過/清澄化ステップ、遠心分離上清/遠心分離液またはスラリー、コンディショニング/希釈ステップ)からの溶出液、バイオリアクターおよび発酵槽からの産出物、および細胞破壊プロセスからの産出物であってよい。
【0027】
本発明による装置は、生体分子、例えばpDNA、封入体、特に、ポリペプチド、特に組換えポリペプチドを含む封入体を含む液体の濃縮のために使用することができる。
pDNAは、スーパーコイル、直鎖状および開環状(すなわち、ニックの入ったまたはほどかれた)アイソフォームなどの複数の形態の1つまたは複数であってよい。スーパーコイルpDNAアイソフォームは、共有結合で閉環した形態を有しており、そのpDNAは、宿主酵素系の作用により、宿主細胞中で負のスーパーコイルとなっている。開環状アイソフォームでは、pDNA二本鎖のうちの1本の鎖が1つまたは複数の箇所で切断されている。
【0028】
pDNAの産生のための方法は当技術分野で周知である。pDNAは天然でもよく、人工的、例えば、外来のDNA挿入物を担持するクローニングベクターでもよい。多くの実施形態では、pDNAは、1キロベース〜50キロベースの範囲の大きさである。例えば、発現した干渉RNAをコードするpDNAは、典型的には、3キロベース〜4キロベースの範囲の大きさである。
【0029】
ポリペプチド、特に組換えポリペプチドは、サイトカイン、成長因子、抗体、抗体断片、免疫グロブリン様ポリペプチド、酵素、ワクチン、ペプチドホルモン、ケモカイン、受容体、受容体断片、キナーゼ、ホスファターゼ、イソメラーゼ、ヒドロリアーゼ、転写因子および融合ポリペプチドを含む、治療用タンパク質およびペプチドを含む。
【0030】
抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体および生物学的活性を有する抗体断片を含み、それらのいずれかの多価の形態および/または多特異的な形態を含む。
天然に存在する抗体は、典型的には4つのポリペプチド鎖、ジスルフィド結合によって相互に連結された2つの同一の重(H)鎖および2つの同一の軽(L)鎖を含む。各重鎖は可変領域(V)および定常領域(C)を含み、C領域はその天然型において3つのドメイン、C1、C2およびC3を含む。各軽鎖は、可変領域(V)、および1つのドメインを含む定常領域Cを含む。
【0031】
およびV領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が散在する、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域にさらに分けることができる。それぞれのVおよびVは、以下の順番:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端へ配列された、3つのCDRおよび4つのFRから構成されている。
【0032】
発現し得る抗体断片は、インタクトな抗体の一部を含み、前記一部は所望の生物学的活性を有する。抗体断片は、一般に、少なくとも1つの抗原結合部位を含む。抗体断片の例には、(i)V、C、VおよびC1ドメインを有するFab断片、(ii)C1ドメインのC末端に1つまたは複数のシステイン残基を有し、2つのFab誘導体の間でジスルフィド架橋によって二価の断片を形成することができるFab’断片等のFab誘導体、(iii)VおよびC1ドメインを有するFd断片、(iv)C1ドメインのC末端に1つまたは複数のシステイン残基を有するFd誘導体等のFd誘導体、(v)抗体の単一アームのVおよびVドメインを有するFv断片、(vi)VおよびVドメインが共有結合で連結された一本鎖Fv(scFv)抗体等の一本鎖抗体分子、(vii)定常領域ドメインを有するかまたは有しない別の可変ドメイン(VまたはVドメインポリペプチド)に連結された、定常領域ドメインを有しないVまたはVドメインポリペプチド(例えばV−V、V−V、またはV−V)、(viii)VドメインまたはVドメインからなる断片、および単離されたCDR領域等の、VドメインまたはVドメインのいずれかの抗原結合断片等のドメイン抗体断片、(ix)2つの抗原結合部位を含む、いわゆる「ダイアボディ」、例えば、同じポリペプチド鎖中で軽鎖可変ドメイン(V)に連結された重鎖可変ドメイン(V)、ならびに(x)相補性軽鎖ポリペプチドとともに一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメントを含む、いわゆる直鎖状抗体が含まれる。
【0033】
封入体は、E.coli等の細菌細胞の細胞質中で形成される、最も一般的には、ポリペプチド、特に組換えポリペプチドを含む、不溶性凝集体を含む。
生体分子に加えて、液体の他の成分は、緩衝塩を含む塩、培地および供給液成分、溶媒、一般的には水、双性イオン界面活性剤(zwittergen)、界面活性剤、イミダゾールまたは他の競合的リガンド結合剤、アミノ酸、尿素等のカオトロピック剤、還元剤、酸化剤、PEG化コンジュゲーション反応物(基質、副生成物および活性化因子)、糖、脂質、核酸、代謝産物および小さいポリペプチドを含んでもよい。
【0034】
本方法は、単位操作(unitary operation)として使用するか、または、多重ステッププロセスにおけるステップの1つまたは複数を含み得る。いくつかの実施形態では、本発明による単一の濃縮方法を使用する。他の実施形態では、2つ以上の本発明による濃縮方法を使用する。2つ以上の濃縮方法を使用する場合、それらのステップは、一般に、1つもしくは複数の精製または処理ステージ、例えばクロマトグラフィー、遠心分離、従来の濾過または緩衝液交換によって分離されている、直列式であってよい。2つ以上の濃縮方法は、その後で一緒にされる異なるプロセスストリームを濃縮する場合のように、並列で実施することもでき、そしてそれは、その後で本発明による方法によるさらなる濃縮に供されてもよい。
【0035】
本発明の装置およびプロセスによって生産される液体は、さらなる処理なしに「そのまま」使用することができ、あるいは精製または処理ステップ等の1つまたは複数のさらなる処理ステップ、例えばアフィニティークロマトグラフィー、アニオンおよび/またはカチオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーステップ;および/またはさらなる濾過、清澄化、コンディショニング、希釈または他の製剤化ステップに供してもよい。
【0036】
本発明の第1の態様の方法を含む生体分子の生産のための方法は、本発明の第2の態様を形成する。
本発明の第3の態様によれば、TFFデバイスと可変流量弁とを通して液体の流れを付与するための手段と流体連通したTFFデバイスを含む生体分子を含む液体のインライン濃縮のための装置であって、流れを付与するための手段が濾過デバイスの上流に位置しており、可変流量弁がTFFデバイスの下流に位置しており、可変流量弁が、少なくともより高い圧力とより低い圧力との間でサイクリングするように制御される装置が提供される。
【0037】
この態様で使用される、流れを付与するための手段であるTFFデバイス、可変流量弁、生体分子および液体は、本発明の第1の態様に関して上記した通りである。
本発明のいくつかの実施形態では、その装置は単一のTFFデバイスを含む。他の実施形態では、装置は、直列および/または並列であってよい2つ以上のTFFデバイスを含む。特定の実施形態では、装置は、本発明の第3の態様にしたがって、直列で構成された2つ以上のTFFデバイスを含み、TFFデバイスの上流からの出口は下流のTFFデバイスと流体連通している。
【0038】
関連する態様では、液体中の生体分子の濃縮のためのプロセスであって、その生体分子が本発明の第1の態様による装置の使用によって濃縮されるプロセスが提供される。
この濃縮プロセスは単位操作として使用するか、または、多重ステッププロセスにおけるステップの1つまたは複数を含み得る。いくつかの実施形態では、本発明による単一の濃縮ステップを使用する。他の実施形態では、本発明による2つ以上の濃縮ステップを使用する。本発明による2つ以上の濃縮ステップが使用される場合、それらのステップは、一般に、1つもしくは複数の精製または処理ステージ、例えばクロマトグラフィー、遠心分離、従来の濾過または緩衝液交換によって分離されている直列式であってよい。2つ以上の濃縮ステップは、その後で一緒にされる異なるプロセスストリームを濃縮する場合のように、並列で実施することもでき、そしてそれは、その後で本発明による方法によるさらなる濃縮に供されてもよい。
【0039】
本発明による装置を図2に例示する。TFFデバイス7は、液体供給液9をTFFデバイス7へ供給するポンプ8の下流に位置する。間欠流量弁10は、保持液ライン11上に位置する。閉止されたまたはより多く制限された位置と開放されたまたはより少なく制限された位置との間の間欠流量弁10のサイクリングは、TFFデバイス7にかかる圧力のサイクリングを引き起こす。弁10が閉止または制限されている場合、その圧力は増大し、TFFデバイス7のカットオフより小さい液体成分は、透過液12の方へ強制的に押しやられ、それによって、生体分子の濃度が増大する。生体分子は、TFFデバイス7中に保持され、通過して保持液11に入る。
【0040】
本出願を、これらに限定されないが、以下の実施例によって例示する。
【実施例】
【0041】
実施例1
略語
mPES 変性ポリエチレンスルホン
rhラクトフェリン 組換えヒトラクトフェリン
VCF 容量濃縮係数(volumetric concentration factor)
25mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.5中の1mg/mLの初期濃度での精製rhラクトフェリンのストック液を、実験研究において使用した。ストック液を、Spectrum Labs MidkrosTM中空繊維濃縮器(370cmの表面積、最大推奨動作圧力2バールを有する65cmの長さ、10kDaのmPES中空繊維)を備えたGE Healthcare AKTATM Explorerシステムを含む濃縮器システムを使用して、容量的に濃縮した。次いで、中空繊維保持液ラインを、デュアル入口可変流量制御器を備えた下流の可変流量制御器の入口弁1と直接連結させた。デュアル入口可変流量制御器は、マニフォールドおよび濃縮器を通る液体の流れを制御するRaspberry Piミニコンピューターに制御される高速作動ソレノイドアクチュエーターを備えた、内径2mmの孔を有する単一の出口を備える特製の(Gemu)プラスチック製の2つの弁マニフォールドを含む。デュアル入口可変流量制御器の入口弁2は、全体を通して完全に閉止のままであった。このシステムは、15mL/minの一定流量で作動するように構成されており、rhラクトフェリンを、位置2でのAKTA Explorer V2弁を通して、ダウンフローモードで、濃縮器中へ向かわせた。中空繊維保持液の流量は、下流の入口弁で調節した。弁のサイクル時間を2秒に設定し、弁を、サイクルの5%について完全に開放し、残りの、サイクルの95%について完全に閉止して、理論上20倍のVCFを提供するように制御した。間欠流量弁からの出口を、位置2でのAKTATM Explorerの弁V3に連結し、rhラクトフェリンの濃度を、280nm吸光度データを測定することによって監視した。インライン濃縮されたrhラクトフェリン溶液を、AKTATM Explorerの弁V4での出口ラインF8を通して収集した。容量濃縮係数を決定するために、中空繊維からの透過液を別個に収集した。最大および最小システム圧力を記録した。濃縮器を緩衝液でフラッシングし、続いて、1mg/mLのrhラクトフェリンでフラッシングし、保持液ラインを完全に開放して、濃縮器の作動を促した。濃縮されたrhラクトフェリンを濃縮器から排出するために、保持液ラインを完全に開放し、続いて、濃縮器を緩衝液でフラッシングした。
【0042】
実施例2〜12
実施例1の方法を繰り返したが、条件は表1に示したように変更した。実施例8〜12について、上記した長さの、より長い中空繊維を使用した。
【0043】
実施例1〜12の結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例13〜19
実施例1の方法を、2つの65cmの50kDa分子量カットオフ中空繊維を直列で使用して、分子量約150kDaのIgG1抗CD20モノクローナル抗体の2mg/mLストック液を使用して、条件を表2に記載したように変化させて繰り返した。
【0046】
実施例13〜19の結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
結果は、弁が開放されている時間と、達成されたVCFの間に逆直線関係を示した。さらに、間欠流量弁を備えた単一の65cm中空繊維濃縮器を使用して、7倍を超えるVCFを達成することができた。これは、驚くべきことに、PALL CadenceTMのインライン濃縮器によって達成可能なVCFのほぼ倍である。ここで、4−インラインCadenceTMのインライン濃縮器の構成は、65cm中空繊維に匹敵する直接的経路長を与える。さらに、驚くべきことに、流量は、得られるVCFに非常に小さな影響しか及ぼしておらず、それによって、より高い操作的柔軟性が提供される。他のすべての因子が同等であれば、濃縮器の長さを増大させると、より高い濃縮係数が得られる結果となる。
発明の態様
[態様1]生体分子を含む液体の濃縮方法であって、前記液体を、加圧下でタンジェンシャルフロー濾過デバイスを通過させることを含み、印加される前記圧力が少なくともより高い圧力とより低い圧力との間でサイクリングされる、前記方法。
[態様2]インラインで実施される、態様2に記載の方法。
[態様3]圧力がポンプの手段によって印加され、前記圧力が可変流量弁の作動によって変化する、態様1または2に記載の方法。
[態様4]前記可変流量弁が間欠流量弁である、態様3に記載の方法。
[態様5]2つの異なる圧力が使用され、より高い圧力が、前記圧力の印加の時間の99.9%まで、好ましくは85〜99%で使用される、態様1から4のいずれかに記載の方法。
[態様6]少なくとも10サイクルが使用される、態様1から5のいずれかに記載の方法。
[態様7]100Hz未満、好ましくは5Hz未満のサイクル周波数が使用される、態様1から6のいずれかに記載の方法。
[態様8]前記サイクル周波数が0.05〜0.5Hzである、態様7に記載の方法。
[態様9]2つの異なる圧力が使用され、より高い圧力が、より低い圧力よりも少なくとも1.05倍高く、好ましくはより低い圧力よりも少なくとも1.1〜2.0倍高い、態様1から8のいずれかに記載の方法。
[態様10]タンジェンシャルフロー濾過デバイスと可変流量弁とを通して液体の流れを付与するための手段と流体連通したタンジェンシャルフロー濾過デバイスを含む、生体分子を含む液体のインライン濃縮のための装置であって、前記流れを付与するための手段が濾過デバイスの上流に配置されており、前記可変流量弁が前記タンジェンシャルフロー濾過デバイスの下流に配置されており、前記可変流量弁が、少なくともより高い圧力とより低い圧力との間でサイクリングされるように制御される、前記装置。
[態様11]前記流れを付与するための手段がポンプを含む、態様10に記載の装置。
[態様12]液体中の生体分子の濃縮のためのプロセスであって、前記生体分子が、態様10または11のいずれかに記載の装置の使用によって濃縮される、前記プロセス。
[態様13]2つの異なる圧力が使用され、より高い圧力が、圧力の印加の時間の99.9%まで、好ましくは85〜99%で使用される、態様12に記載のプロセス。
[態様14]生体分子、好ましくは組換えポリペプチドの生産のためのプロセスであって、態様1〜9のいずれかに記載の方法による前記生体分子を含む液体の濃縮を含む、前記プロセス。
図1
図2