(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6951454
(24)【登録日】2021年9月28日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】交換結合膜ならびにこれを用いた磁気抵抗効果素子および磁気検出装置
(51)【国際特許分類】
H01L 43/08 20060101AFI20211011BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20211011BHJP
G01R 33/09 20060101ALI20211011BHJP
H01F 10/32 20060101ALI20211011BHJP
H01F 10/30 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
H01L43/08 Z
H01L29/82 Z
G01R33/09
H01F10/32
H01F10/30
【請求項の数】16
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2019-544418(P2019-544418)
(86)(22)【出願日】2018年8月21日
(86)【国際出願番号】JP2018030751
(87)【国際公開番号】WO2019064994
(87)【国際公開日】20190404
【審査請求日】2020年2月12日
(31)【優先権主張番号】特願2017-186544(P2017-186544)
(32)【優先日】2017年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2018-21263(P2018-21263)
(32)【優先日】2018年2月8日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 正路
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 広明
(72)【発明者】
【氏名】小池 文人
【審査官】
加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−026481(JP,A)
【文献】
特開2003−338644(JP,A)
【文献】
特開2001−297917(JP,A)
【文献】
特開2016−217920(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 43/08
H01L 29/82
G01R 33/09
H01F 10/32
H01F 10/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反強磁性層と、前記反強磁性層に接する固定磁性層とを備える交換結合膜であって、
前記反強磁性層は、X1Cr層(ただし、X1は白金族元素およびNiからなる群から選ばれる一種または二種以上の元素)とX2Mn層(ただし、X2は白金族元素およびNiからなる群から選ばれる一種または二種以上の元素であって、X1と同じでも異なっていてもよい)とが交互に積層された三層以上の交互積層構造を有し、
422℃で測定された交換結合磁界を22℃で測定された交換結合磁界で除した規格化交換結合磁界が0.34以上であることを特徴とする交換結合膜。
【請求項2】
反強磁性層と、前記反強磁性層に接する固定磁性層とを備える交換結合膜であって、
前記反強磁性層は、X1Cr層(ただし、X1は白金族元素およびNiからなる群から選ばれる一種または二種以上の元素)とX2Mn層(ただし、X2は白金族元素およびNiからなる群から選ばれる一種または二種以上の元素であって、X1と同じでも異なっていてもよい)とが交互に積層された三層以上の交互積層構造を有し、
前記X1Cr層が前記固定磁性層に最近位であることを特徴とする交換結合膜。
【請求項3】
前記反強磁性層は、前記X1Cr層と前記X2Mn層とからなるユニットが複数積層されたユニット積層部を有する、
請求項1または請求項2に記載の交換結合膜。
【請求項4】
反強磁性層と、前記反強磁性層に接する固定磁性層とを備える交換結合膜であって、
前記反強磁性層は、X1Cr層(ただし、X1は白金族元素およびNiからなる群から選ばれる一種または二種以上の元素)とX2Mn層(ただし、X2は白金族元素およびNiからなる群から選ばれる一種または二種以上の元素であって、X1と同じでも異なっていてもよい)とが交互に積層された三層以上の交互積層構造を有し、
前記反強磁性層は、前記X1Cr層と前記X2Mn層とからなるユニットが複数積層されたユニット積層部を有することを特徴とする交換結合膜。
【請求項5】
前記ユニット積層部における、前記X1Cr層および前記X2Mn層は、それぞれ同じ膜厚である、請求項3または請求項4に記載の交換結合膜。
【請求項6】
前記X2Mn層の膜厚よりも大きい膜厚を有する前記X1Cr層を備える、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の交換結合膜。
【請求項7】
反強磁性層と、前記反強磁性層に接する固定磁性層とを備える交換結合膜であって、
前記反強磁性層は、X1Cr層(ただし、X1は白金族元素およびNiからなる群から選ばれる一種または二種以上の元素)とX2Mn層(ただし、X2は白金族元素およびNiからなる群から選ばれる一種または二種以上の元素であって、X1と同じでも異なっていてもよい)とが交互に積層された三層以上の交互積層構造を有し、
前記X2Mn層の膜厚よりも大きい膜厚を有する前記X1Cr層を備えることを特徴とする交換結合膜。
【請求項8】
前記X1Cr層の膜厚と前記X2Mn層の膜厚との比が、5:1〜100:1である、請求項6または請求項7に記載の交換結合膜。
【請求項9】
前記X1がPtであり、
前記X2がPtまたはIrである、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の交換結合膜。
【請求項10】
反強磁性層と、前記反強磁性層に接する固定磁性層とを備える交換結合膜であって、
前記反強磁性層は、白金族元素およびNiからなる群から選ばれる一種または二種以上の元素XならびにMnおよびCrを含有するX(Cr−Mn)層を備え、
前記X(Cr−Mn)層は、前記固定磁性層に相対的に近位な第1領域と、前記固定磁性層から相対的に遠位な第2領域とを有し、
前記第1領域におけるMnの含有量は、前記第2領域におけるMnの含有量よりも高く、
前記第2領域の全域にMnを含有し、
Bi+イオンを一次イオンとする飛行時間型二次イオン質量分析法を用いて前記X(Cr−Mn)層を測定して、Crに関して測定される8種類のイオンのうちCr+を除いた7種のイオンの検出強度に対するMnに関する7種類のイオンの検出強度の比である第1強度比を求めたときに、
前記第1領域における前記第1強度比が前記第2領域における前記第1強度比よりも高く、
前記第2領域の全域にMnを含有し、
422℃で測定された交換結合磁界を22℃で測定された交換結合磁界で除した規格化交換結合磁界が0.34以上であることを特徴とする交換結合膜。
【請求項11】
前記第1領域が前記固定磁性層に接している、請求項10に記載の交換結合膜。
【請求項12】
前記反強磁性層における元素Xの含有量は30at%以上である、請求項10または請求項11に記載の交換結合膜。
【請求項13】
前記固定磁性層は、第1磁性層と中間層と第2磁性層とが積層されているセルフピン止め構造である、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の交換結合膜。
【請求項14】
請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の交換結合膜とフリー磁性層とが積層されていることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項15】
請求項14に記載の磁気抵抗効果素子を備えていることを特徴とする磁気検出装置。
【請求項16】
同一基板上に前記磁気抵抗効果素子を複数備えており、
複数の前記磁気抵抗効果素子には、固定磁化方向が異なるものが含まれている請求項15に記載の磁気検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は交換結合膜ならびにこれを用いた磁気抵抗効果素子および磁気検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
反強磁性層と固定磁性層とを備えた交換結合膜は、磁気抵抗効果素子や磁気検出装置として用いられる。特許文献1には、磁気記録用媒体において、強磁性層としてのCo合金と、反強磁性層としての種々の合金とを組み合わせることにより交換結合膜を構成できることが記載されている。反強磁性層としては、CoMn、NiMn、PtMn、PtCrなどの合金が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−215431号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気検出装置は、磁気効果素子を基板に実装する際、はんだをリフロー処理(溶融処理)する必要があり、また、エンジンの周辺のような高温環境下において、用いられることがある。このため、磁気検出装置に用いられる交換結合膜には、広いダイナミックレンジで磁界を検出可能とするために、固定磁性層の磁化の方向が反転する磁界(Hex)が大きく、高温条件下における安定性が高いことが好ましい。
特許文献1は、磁気記録媒体として用いられる交換結合膜に関するものであることから、交換結合膜を用いた磁気検出装置の高温条件下における安定性については記載されていない。
また、近時、大出力モータなど強磁場発生源の近傍に配置されて強磁場が印加される環境であっても、固定磁性層の磁化の向きが影響を受けにくいこと、すなわち、強磁場耐性が求められている。
【0005】
本発明は、固定磁性層の磁化の向きが反転する磁界(Hex)が大きく、ゆえに高温条件下における安定性が高く、しかも強磁場耐性に優れる交換結合膜、ならびにこれを用いた磁気抵抗効果素子および磁気検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために提供される本発明は、一態様として、反強磁性層と、前記反強磁性層に接する固定磁性層とを備える交換結合膜であって、前記反強磁性層は、X
1Cr層(ただし、X
1は白金族元素およびNiからなる群から選ばれる一種または二種以上の元素)とX
2Mn層(ただし、X
2は白金族元素およびNiからなる群から選ばれる一種または二種以上の元素であって、X
1と同じでも異なっていてもよい)とが交互に積層された三層以上の交互積層構造を有することを特徴とする交換結合膜を提供する。
上記の交換結合膜は、例えば、前記X
1がPtであり、前記X
2がPtまたはIrであってもよい。
【0007】
図6は、本発明に係る交換結合膜の磁化曲線のヒステリシスループを説明する図である。通常、軟磁性体のM−H曲線(磁化曲線)が作るヒステリシスループは、H軸とM軸との交点(磁界H=0A/m、磁化M=0A/m)を中心として対称な形状となるが、
図6に示されるように、本発明に係る交換結合膜のヒステリシスループは、反強磁性層と交換結合する強磁性層を備える固定磁性層に対して交換結合磁界Hexが作用するため、交換結合磁界Hexの大きさに応じてH軸に沿ってシフトした形状となる。交換結合膜の固定磁性層は、この交換結合磁界Hexが大きいほど外部磁界が印加されても磁化の向きが反転しにくいため、良好な固定磁性層となる。
【0008】
このH軸に沿ってシフトしたヒステリシスループの中心(この中心の磁界強度が交換結合磁界Hexに相当する。)とヒステリシスループのH軸切片との差によって定義される保磁力HcがHexよりも小さい場合には、外部磁場が印加されて交換結合膜の固定磁性層がその外部磁場に沿った方向に磁化されたとしても、外部磁場の印加が終了すれば、保磁力Hcよりも相対的に強いHexによって、固定磁性層の磁化の方向を揃えることが可能となる。すなわち、Hexと保磁力Hcとの関係がHex>Hcである場合には、交換結合膜は良好な強磁場耐性を有する。
【0009】
そして、上記のHexと保磁力Hcとの関係が顕著である場合には、
図6に示されるように、残留磁化M0の飽和磁化Msに対する比(M0/Ms)が負の値となる。すなわち、M0/Msが負の値であれば交換結合膜はより良好な強磁場耐性を有し、M0/Msが負の値でその絶対値が大きければ大きいほど、交換結合膜は優れた強磁場耐性を有する。
【0010】
本発明に係る交換結合膜は、M0/Msが負の値となって、しかもその絶対値を大きくすることが実現され、それゆえ、優れた強磁場耐性を有する。また、本発明に係る交換結合膜は、反強磁性層をX
1Cr層とX
2Mn層とが交互に三層以上積層された交互積層構造を有するため、特に、高温環境下におけるHexが大きくなる。それゆえ、本発明に係る交換結合膜は高温環境下において優れた強磁場耐性を有する。
【0011】
上記の交換結合膜において、前記反強磁性層は、X
1Cr層とX
2Mn層とからなるユニットが複数積層されたユニット積層部を有する構成としてもよい。この場合、前記ユニット積層部における、前記X
1Cr層および前記X
2Mn層は、それぞれ同じ膜厚であり、前記X
1Cr層の膜厚が、前記X
2Mn層の膜厚よりも大きいことが好ましい。この場合において、
前記X1Cr層の膜厚と前記X2Mn層の膜厚との比は、5:1〜100:1であることが好ましい。
【0012】
本発明は、他の一態様として、反強磁性層と、前記反強磁性層に接する固定磁性層とを備える交換結合膜であって、前記反強磁性層は、白金族元素およびNiからなる群から選ばれる一種または二種以上の元素XならびにMnおよびCrを含有するX(Cr−Mn)層を備え、前記
固定磁性層に相対的に近位な第1領域と、前記
固定磁性層から相対的に遠位な第2領域とを有し、前記第1領域におけるMnの含有量は、前記第2領域におけるMnの含有量よりも高く、前記第2領域の全域にMnを含有することを特徴とする交換結合膜を提供する。
【0013】
上記の交換結合膜において、前記第1領域が前記
固定磁性層に接していてもよい。上記の交換結合膜の前記反強磁性層における元素Xの含有量は30at%以上であることが好ましい。
【0014】
上記の交換結合膜において、前記固定磁性層は、第1磁性層と中間層と第2磁性層とが積層されているセルフピン止め構造であってもよい。
【0015】
本発明は、他の一態様として、上記の交換結合膜とフリー磁性層とが積層されていることを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供する。
【0016】
本発明は、他の一態様として、上記の磁気抵抗効果素子を備えていることを特徴とする磁気検出装置を提供する。
上記の磁気検出装置は、同一基板上に上記の磁気抵抗効果素子を複数備えており、複数の前記磁気抵抗効果素子には、固定磁化方向が異なるものが含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温条件下における安定性が向上し、しかも強磁場耐性に優れる交換結合膜が提供される。したがって、本発明の交換結合膜とフリー磁性層とが積層された磁気抵抗効果素子を用いれば、高温環境下や強磁場環境下に置かれても安定な磁気検出装置とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1の実施形態の交換結合膜10の膜構成を示す説明図
【
図2】本発明の第2の実施形態の交換結合膜15の膜構成を示す説明図
【
図3】本発明の第3の実施形態の交換結合膜20の膜構成を示す説明図
【
図4】本発明の実施形態の磁気センサ30の回路ブロック図
【
図5】磁気センサ30に使用される磁気検出素子11を示す平面図
【
図6】本発明に係る交換結合膜の磁化曲線のヒステリシスループの説明図
【
図7】実施例1および比較例1〜2の温度とHexとの関係を示すグラフ
【
図8】実施例1および比較例1〜2の温度と規格Hexとの関係を示すグラフ
【
図10】参考例1〜3のAs depo(製膜直後)に対する比抵抗変動率を示すグラフ
【
図11】参考例4〜5の交換結合膜の各温度におけるHexを室温のHexで除して得られた規格化Hexを示すグラフ
【
図12】実施例2−1から実施例2−8および比較例2−1から比較例2−3に係る交換結合膜についての残留磁化M0/飽和磁化Msと交換結合磁界Hexとの関係を示すグラフ
【
図13】実施例2−1から実施例2−8および比較例2−1から比較例2−3に係る交換結合膜についての交換結合磁界Hex/保持力Hcと交換結合磁界Hexとの関係を示すグラフ
【
図14】実施例2−5に係る交換結合膜のデプスプロファイル
【
図15】実施例2−5に係る積層構造体のデプスプロファイル
【
図16】(a)実施例2−1に係る積層構造体のMnに関する7種のイオンの検出強度の総和およびCrに関する7種のイオンの検出強度の総和のデプスプロファイル、(b)実施例2−1に係る積層構造体のI−Mn/Crのデプスプロファイル
【
図17】(a)実施例2−1に係る交換結合膜のMnに関する7種のイオンの検出強度の総和およびCrに関する7種のイオンの検出強度の総和のデプスプロファイル、(b)実施例2−1に係る交換結合膜のI−Mn/Crのデプスプロファイル
【
図18】(a)実施例2−5に係る積層構造体(未アニール処理)のMnに関する7種のイオンの検出強度の総和およびCrに関する7種のイオンの検出強度の総和のデプスプロファイル、(b)実施例2−5に係る積層構造体(未アニール処理)のI−Mn/Crのデプスプロファイル
【
図19】(a)実施例2−5に係る交換結合膜のMnに関する7種のイオンの検出強度の総和およびCrに関する7種のイオンの検出強度の総和のデプスプロファイル、(b)実施例2−5に係る交換結合膜のI−Mn/Crのデプスプロファイル
【
図20】実施例3−1ならびに比較例3−1および比較例3−2に係るX線回折スペクトル
【
図21】(a)
図20について2θが45度〜50度の範囲を拡大したX線回折スペクトル、(b)
図20について2θが102度〜112度の範囲を拡大したX線回折スペクトル
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<第1の実施形態>
図1に本発明の第1の実施形態に係る交換結合膜10を使用した磁気検出素子11の膜構成が示されている。
磁気検出素子11は、基板の表面から、下地層1、反強磁性層2、固定磁性層3、非磁性材料層4、フリー磁性層5および保護層6の順に積層されて成膜されている。
【0020】
反強磁性層2は、X
1Cr層2AとX
2Mn層2Bとが交互に三層積層された交互積層構造(ただし、X
1およびX
2はそれぞれ白金族元素およびNiからなる群から選ばれる一種または二種以上の元素であり、X
1とX
2とは同じでも異なっていてもよい)である。これら各層は、例えばスパッタ工程やCVD工程で成膜される。反強磁性層2と固定磁性層3とが本発明の第1の実施の形態の交換結合膜10である。
【0021】
磁気検出素子11は、いわゆるシングルスピンバルブ型の巨大磁気抵抗効果(GMR効果)を利用した積層素子であり、固定磁性層3の固定磁化のベクトルと、フリー磁性層5の外部磁場によって変化する磁化のベクトルとの相対関係で電気抵抗が変化する。
【0022】
下地層1は、NiFeCr合金(ニッケル・鉄・クロム合金)、CrあるいはTaなどで形成される。本実施形態の交換結合膜10において固定磁性層3の磁化の向きが反転する磁界(以下、適宜「Hex」ともいう)を高くするために、NiFeCr合金が好ましい。
【0023】
図1には、X
1Cr層2AとX
2Mn層2Bとが三層以上積層された交互積層構造の一態様として、X
1Cr層2A/X
2Mn層2B/X
1Cr層2Aの三層構造であってX
1Cr層2Aが固定磁性層3に接する反強磁性層2を示した。しかし、X
1Cr層2AとX
2Mn層2Bとを入れ替えた、X
2Mn層2B/X
1Cr層2A/X
2Mn層2Bの三層構造としてもよい。この三層構造の場合、X
2Mn層2Bが固定磁性層3に接する。反強磁性層2を4層以上とする場合の形態については、後述する。
【0024】
Hexを高くするためには、X
1Cr層2Aが固定磁性層3に接する場合、下地層1側のX
1Cr層2Aの膜厚D1は、固定磁性層3に接するX
1Cr層2Aの膜厚D3よりも大きいことが好ましい。また、反強磁性層2のX
1Cr層2Aの膜厚D1は、X
2Mn層2Bの膜厚D2よりも大きいことが好ましい。膜厚D1と膜厚D2の比(D1:D2)は、5:1〜100:1がより好ましく、10:1〜50:1がさらに好ましい。膜厚D1と膜厚D3の比(D1:D3)は、5:1〜100:1がより好ましく、10:1〜50:1がさらに好ましい。
【0025】
なお、X
2Mn層2Bが固定磁性層3に接するX
2Mn層2B/X
1Cr層2A/X
2Mn層2Bの三層構造の場合、固定磁性層3に接するX
2Mn層2Bと下地層1側のX
1Cr層2Aとを同じ膜厚D2としてもよい。
【0026】
Hexを高くする観点から、X
1Cr層2AのX
1はPtが好ましく、X
2Mn層2BのX
2は、PtまたはIrが好ましく、Ptがより好ましい。X
1Cr層2AをPtCr層とする場合、Pt
XCr
100−X(Xは45at%以上62at%以下)であることが好ましく、X
1XCr
100−X(Xは50at%以上57at%以下)であることがより好ましい。同様の観点から、X
2Mn層2Bは、PtMn層が好ましい。
【0027】
本実施形態では、反強磁性層2をアニール処理して規則化し、固定磁性層3との間(界面)で交換結合を生じさせる。交換結合に基づく磁界(交換結合磁界)によって交換結合膜10のHexを高くするとともに強磁場耐性を向上させる。この規則化に基づく交換結合の発生を安定的に実現させる観点から、反強磁性層2全体における元素X
1および元素X
2の含有量の総和は、30at%以上であることが好ましく、40at%以上であることがより好ましく、45at%以上であることが特に好ましい。
【0028】
固定磁性層3は、Fe(鉄)、Co(コバルト)、CoFe合金(コバルト・鉄合金)またはNiFe合金(ニッケル・鉄合金)で形成される。CoFe合金およびNiFe合金は、Feの含有割合を高くすることにより、保磁力が高くなる。固定磁性層3はスピンバルブ型の巨大磁気抵抗効果に寄与する層であり、固定磁性層3の固定磁化方向Pが延びる方向が磁気検出素子11の感度軸方向である。
【0029】
交換結合膜10は、固定磁性層3におけるFeの含有割合によらず、高いHexが得られる。これは、上述した積層構造を備えた反強磁性層2が多種類の強磁性材料と交換結合するためである。
磁歪の観点から交換結合膜10に設計上の制約が生じることがある。しかし、交換結合膜10の反強磁性層2が多種類の強磁性材料と交換結合するから、固定磁性層3として用いる合金の組成に依存せず高いHexが得られる。このように、交換結合膜10は、固定磁性層3として多種類の金属、合金を用いることが可能であるため、使用できる材料の選択幅が広く、従来よりも設計上の自由度が高いという点において優れている。
【0030】
非磁性材料層4は、Cu(銅)、Ru(ルテニウム)などを用いて形成することができる。
フリー磁性層5は、その材料および構造が限定されるものではないが、例えば、材料としてCoFe合金(コバルト・鉄合金)、NiFe合金(ニッケル・鉄合金)などを用いることができ、単層構造、積層構造、積層フェリ構造などとして形成することができる。
保護層6は、Ta(タンタル)などを用いて形成することができる。
【0031】
なお、交換結合膜10のX
1Cr層2Aなど合金層を成膜する際には、合金を形成する複数種類の金属(X
1Cr層2Aの場合にはX
1およびCr)を同時に供給してもよいし、合金を形成する複数種類の金属を交互に供給してもよい。前者の具体例として合金を形成する複数種類の金属の同時スパッタが挙げられ、後者の具体例として異なる種類の金属膜の交互積層が挙げられる。合金を形成する複数種類の金属の同時供給が交互供給よりもHexを高めることにとって好ましい場合がある。
【0032】
<第2の実施形態>
図2に本発明の第2の実施形態の交換結合膜15を使用した磁気検出素子(磁気抵抗効果素子)16の膜構成を示す説明図が示されている。本実施形態では、
図1に示す磁気検出素子11と機能が同じ層に同じ符号を付して、説明を省略する。
図2に示す第2の実施形態の磁気検出素子16が
図1の磁気検出素子11と相違している点は、反強磁性層2が4層以上であり、X
1Cr層2AとX
2Mn層2B(
図1参照)とからなるユニットが複数積層されたユニット積層部を有する点である。
図2では、X
1Cr層2A1とX
2Mn層2B1とからなるユニット積層部2U1からX
1Cr層2AnとX
2Mn層2Bnとからなるユニット2Unまで、n層積層されたユニット積層部2U1〜2Unを有している(nは2以上の整数)。
【0033】
ユニット積層部2U1〜2Unにおける、X
1Cr層2A1、・・・X
1Cr層2Anは、それぞれ同じ膜厚D1であり、X
2Mn層2B1、・・・X
2Mn層2Bnも、それぞれ同じ膜厚D2である。同じ構成のユニット積層部2U1〜2Unを積層することにより、反強磁性層2の高温安定性がよくなる。
【0034】
なお、
図2の反強磁性層2は、ユニット積層部2U1〜2UnとX
1Cr層2Aとからなり、X
1Cr層2Aが固定磁性層3に接しているが、ユニット積層部2U1〜2Unのみからなるものであってもよい。ユニット積層部2U1〜2Unのみからなる反強磁性層2は、X
2Mn層2Bnが固定磁性層3に接する。
【0035】
ユニット積層部2U1〜2Unの積層数は、反強磁性層2、膜厚D1および膜厚D2の大きさに応じて、設定することができる。例えば、膜厚D1が5〜15Å、膜厚D1が30〜40Åの場合、高温環境下におけるHexを高くするために、積層数は、3〜15が好ましく、5〜12がより好ましい。
【0036】
<第3の実施形態>
図3に本発明の第3の実施形態の交換結合膜20を使用した磁気検出素子(磁気抵抗効果素子)21の膜構成を示す説明図が示されている。本実施形態では、
図1に示す磁気検出素子11と機能が同じ層に同じ符号を付して、説明を省略する。
図3に示す第3の実施形態の磁気検出素子21が
図1の磁気検出素子11と相違している点は、交換結合膜20がセルフピン止め構造の固定磁性層3と反強磁性層2とが接合されて構成されている点、および、非磁性材料層4とフリー磁性層5が固定磁性層3よりも下地層1側に形成されている点である。
【0037】
本実施形態の交換結合膜20の反強磁性層2は、交換結合膜10(
図1参照)と同じ三層の交互積層構造であるが、四層以上の交互積層構造であってもよい。例えば、三層の交互積層構造の代わりに、X
1Cr層2AとX
2Mn層2Bとからなるユニットが複数積層された交互積層構造としてもよい。
【0038】
磁気検出素子21も、いわゆるシングルスピンバルブ型の巨大磁気抵抗効果を利用した積層素子である。固定磁性層3の第1磁性層3Aの固定磁化のベクトルと、フリー磁性層5の外部磁場によって変化する磁化のベクトルとの相対関係で電気抵抗が変化する。
【0039】
固定磁性層3は、第1磁性層3Aおよび第2磁性層3Cと、これらの二層の間に位置する非磁性中間層3Bと、で構成されたセルフピン止め構造となっている。第1磁性層3Aの固定磁化方向P1と、第2磁性層3Cの固定磁化方向Pとは、相互作用により反平行となっている。非磁性材料層4に隣接する第1磁性層3Aの固定磁化方向P1が固定磁性層3の固定磁化方向である。この固定磁化方向P1が延びる方向が磁気検出素子11の感度軸方向である。
【0040】
第1磁性層3Aおよび第2磁性層3Cは、Fe(鉄)、Co(コバルト)、CoFe合金(コバルト・鉄合金)またはNiFe合金(ニッケル・鉄合金)で形成される。CoFe合金およびNiFe合金は、Feの含有割合を高くすることにより、保磁力が高くなる。非磁性材料層4に隣接する第1磁性層3Aはスピンバルブ型の巨大磁気抵抗効果に寄与する層である。
非磁性中間層3BはRu(ルテニウム)などで形成されている。Ruからなる非磁性中間層3Bの膜厚は、3〜5Åまたは8〜10Åであることが好ましい。
本実施形態のセルフピン止め構造の固定磁性層3における第1磁性層3Aおよび第2磁性層3Cとして使用できる材料の選択幅が広いことから、交換結合膜20は、第1の実施形態同様、従来よりも設計上の自由度が高い。
【0041】
<磁気センサの構成>
図4に、
図1に示す磁気検出素子11を組み合わせた磁気センサ(磁気検出装置)30が示されている。
図4では、固定磁化方向P(
図1参照)が異なる磁気検出素子11を、それぞれ11Xa,11Xb,11Ya,11Ybの異なる符号を付して区別している。磁気センサ30では、磁気検出素子11Xa,11Xb,11Ya,11Ybが同一基板上に設けられている。
【0042】
図4に示す磁気センサ30は、フルブリッジ回路32Xおよびフルブリッジ回路32Yを有しており、同一基板上に磁気検出素子11(
図1参照)を複数備えている。フルブリッジ回路32Xは、2つの磁気検出素子11Xaと2つの磁気検出素子11Xbとを備えており、フルブリッジ回路32Yは、2つの磁気検出素子11Yaと2つの磁気検出素子11Ybとを備えている。磁気検出素子11Xa,11Xb,11Ya,11Ybはいずれも、
図1に示した磁気検出素子11の交換結合膜10の膜構造を備えている。これらを特に区別しない場合、以下適宜、磁気検出素子11と記す。
【0043】
フルブリッジ回路32Xとフルブリッジ回路32Yとは、検出磁場方向を異ならせるために、
図4中に矢印で示した固定磁化方向が異なる磁気検出素子11を用いたものであって、磁場を検出する機構は同じである。そこで、以下では、フルブリッジ回路32Xを用いて磁場を検出する機構を説明する。
【0044】
フルブリッジ回路32Xは、第1の直列部32Xaと第2の直列部32Xbとが並列に接続されて構成されている。第1の直列部32Xaは、磁気検出素子11Xaと磁気検出素子11Xbとが直列に接続されて構成され、第2の直列部32Xbは、磁気検出素子11Xbと磁気検出素子11Xaとが直列に接続されて構成されている。
【0045】
第1の直列部32Xaを構成する磁気検出素子11Xaと、第2の直列部32Xbを構成する磁気検出素子11Xbに共通の電源端子33とに、電源電圧Vddが与えられる。第1の直列部32Xaを構成する磁気検出素子11Xbと、第2の直列部32Xbを構成する磁気検出素子11Xaとに共通の接地端子34が接地電位GNDに設定されている。
【0046】
フルブリッジ回路32Xを構成する第1の直列部32Xaの中点35Xaの出力電位(OutX1)と、第2の直列部32Xbの中点35Xbの出力電位(OutX2)との差動出力(OutX1)−(OutX2)がX方向の検知出力(検知出力電圧)VXsとして得られる。
【0047】
フルブリッジ回路32Yも、フルブリッジ回路32Xと同様に作用することで、第1の直列部32Yaの中点35Yaの出力電位(OutY1)と、第2の直列部32Ybの中点35Ybの出力電位(OutY2)との差動出力(OutY1)―(OutY2)がY方向の検知出力(検知出力電圧)VYsとして得られる。
【0048】
図4に矢印で示すように、フルブリッジ回路32Xを構成する磁気検出素子11Xaおよび磁気検出素子11Xbの感度軸方向と、フルブリッジ回路32Yを構成する磁気検出素子11Yaおよび各磁気検出素子11Ybの感度軸方向とは互いに直交している。
【0049】
図4に示す磁気センサ30では、それぞれの磁気検出素子11のフリー磁性層5の向きが外部磁場Hの方向に倣うように変化する。このとき、固定磁性層3の固定磁化方向Pと、フリー磁性層5の磁化方向との、ベクトルの関係で抵抗値が変化する。
【0050】
例えば、外部磁場Hが
図4に示す方向に作用したとすると、フルブリッジ回路32Xを構成する磁気検出素子11Xaでは感度軸方向と外部磁場Hの方向が一致するため電気抵抗値は小さくなり、一方、磁気検出素子11Xbでは感度軸方向と外部磁場Hの方向が反対であるため電気抵抗値は大きくなる。この電気抵抗値の変化により、検知出力電圧VXs=(OutX1)−(OutX2)が極大となる。外部磁場Hが紙面に対して右向きに変化するにしたがって、検知出力電圧VXsが低くなっていく。そして、外部磁場Hが
図4の紙面に対して上向きまたは下向きになると、検知出力電圧VXsがゼロになる。
【0051】
一方、フルブリッジ回路32Yでは、外部磁場Hが
図4に示すように紙面に対して左向きのときは、全ての磁気検出素子11で、フリー磁性層5の磁化の向きが、感度軸方向(固定磁化方向P)に対して直交するため、磁気検出素子11Yaおよび磁気検出素子11Xbの電気抵抗値は同じである。したがって、検知出力電圧VYsはゼロである。
図4において外部磁場Hが紙面に対して下向きに作用すると、フルブリッジ回路32Yの検知出力電圧VYs=(OutY1)―(OutY2)が極大となり、外部磁場Hが紙面に対して上向きに変化するにしたがって、検知出力電圧VYsが低くなっていく。
【0052】
このように、外部磁場Hの方向が変化すると、それに伴いフルブリッジ回路32Xおよびフルブリッジ回路32Yの検知出力電圧VXsおよびVYsも変動する。したがって、フルブリッジ回路32Xおよびフルブリッジ回路32Yから得られる検知出力電圧VXsおよびVYsに基づいて、検知対象の移動方向や移動量(相対位置)を検知することができる。
【0053】
図4には、X方向と、X方向に直交するY方向の磁場を検出可能に構成された磁気センサ30を示した。しかし、X方向またはY方向の磁場のみを検出するフルブリッジ回路32Xまたはフルブリッジ回路32Yのみを備えた構成としてもよい。
【0054】
図5に、磁気検出素子11Xaと磁気検出素子11Xbの平面構造が示されている。
図4と
図5は、BXa−BXb方向がX方向である。
図5(A)(B)に、磁気検出素子11Xa,11Xbの固定磁化方向Pが矢印で示されている。磁気検出素子11Xaと磁気検出素子11Xbでは、固定磁化方向PがX方向であり、互いに逆向きである。
【0055】
図5に示すように、磁気検出素子11Xaと磁気検出素子11Xbは、ストライプ形状の素子部12を有している。素子部12の長手方向がBYa−BYb方向に向けられている。素子部12は複数本が平行に配置されており、隣り合う素子部12の図示右端部が導電部13aを介して接続され、隣り合う素子部12の図示右端部が導電部13bを介して接続されている。素子部12の図示右端部と図示左端部では、導電部13a,13bが互い違いに接続されており、素子部12はいわゆるミアンダ形状に連結されている。磁気検出素子11Xa,11Xbの、図示右下部の導電部13aは接続端子14aと一体化され、図示左上部の導電部13bは接続端子14bと一体化されている。
【0056】
各素子部12は複数の金属層(合金層)が積層されて構成されている。
図1に素子部12の積層構造が示されている。なお、各素子部12は
図2または
図3に示す積層構造であってもよい。
【0057】
なお、
図4と
図5に示す磁気センサ30では、磁気検出素子11を
図2または
図3に示す第2または第3の実施形態の磁気検出素子16または磁気検出素子21に置き換えることが可能である。
【0058】
以上、本実施形態を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。前述の各実施形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態に示した例の特徴を適宜組み合わせたものなども、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、反強磁性層2は、その機能を適切に発揮できる限り、X
1Cr層2A1およびX
2Mn層2B1以外の層を有していてもよい。そのような具体例として、反強磁性層2が固定磁性層3に最近位の層としてMn層を有する場合が挙げられる。
【実施例】
【0059】
(実施例1)
以下の構成を備えた交換結合膜を形成し、温度350℃、磁場強度15kOeの条件で20時間アニール処理し、固定磁性層3と反強磁性層2(
図2参照)の磁化を固定した。以下の実施例、比較例および参考例では()内の数値は膜厚(Å)を示す。
基板/下地層1:NiFeCr(42)/非磁性材料層4〔Cu(40)/Ru(20)〕/固定磁性層3:Co
90at%Fe
10at%(100)/反強磁性層2:{X
1Cr層2A:Pt
51at%Cr
49at%(6)/ユニット積層部2U1〜ユニット2U7:〔Pt
48at%Mn
52at%(6)/Pt
51at%Cr
49at%(34)の7層積層〕}/保護層6:Ta(90)
【0060】
(比較例1)
実施例1の反強磁性層2をPt
48at%Mn
52at%(300)に変えた交換結合膜を形成し、実施例1の温度を350℃から温度290℃に変更し、磁場強度15kOeの条件で4時間アニール処理し、固定磁性層と反強磁性層の磁化を固定した。
【0061】
(比較例2)
実施例1の反強磁性層2をPt
51at%Cr
49at%(300)に変えた交換結合膜を形成し、実施例1同様、温度350℃、磁場強度15kOeの条件で20時間アニール処理し、固定磁性層と反強磁性層の磁化を固定した。
【0062】
実施例1および比較例1〜2の交換結合膜について、温度とHexおよび規格化Hexとの関係を測定した結果を表1に示す。
【表1】
【0063】
図7は、表1に示す実施例および比較例の温度とHexとの関係を示すグラフである。
図8は、表1に示す実施例および比較例の温度と規格化Hexと温度との関係を示すグラフである。規格化Hexは、各温度におけるHexを室温におけるHexで除して規格化したものである。
【0064】
図7に示すように、積層構造を備えた反強磁性層を有する実施例1の交換結合膜は、当該積層構造を構成する二種類の反強磁性層のそれぞれからなる反強磁性層を備えた比較例1および比較例2の交換結合膜よりも室温から300℃を超える高温条件下において高いHexを備えており、高温環境下における安定性が良好であった。
【0065】
(参考例1)
基板上に反強磁性膜層としてPt
48at%Mn
52at%(520)を形成し、製膜直後(As depo、熱処理前)、290℃で4時間の熱処理後、350℃で4時間の熱処理後、および400℃で4時間の熱処理後の各試料について、比抵抗(μΩ・cm)を測定した。
【0066】
(参考例2)
基板上に反強磁性膜層としてPt
51at%Cr
49at%(490)を形成し、参考例1と同様の試料について、比抵抗(μΩ・cm)を測定した。
【0067】
(参考例3)
基板上に反強磁性膜層として{Pt
48at%Mn
52at%(10)/Pt
51at%Cr
49at%(40)}を10層積層したものを形成し、参考例1と同様の試料について、比抵抗(μΩ・cm)を測定した。
【0068】
参考例1〜3の測定結果を表2に示す。
【表2】
図9および
図10は、参考例1〜3の測定結果をまとめたグラフである。これらのグラフに示されるように、{Pt
48at%Mn
52at%(10)/Pt
51at%Cr
4
9at%(40)}のユニット層を積層した参考例3の反強磁性層は、当該ユニット層の一方と同じ材料を用いた層からなる参考例1〜2の反強磁性層よりも、高温で処理することによる比抵抗の変化が少なかった。
【0069】
(参考例4)
以下の構成を備えた以下の交換結合膜を形成し、磁場強度1kOe、温度350℃の条件で20時間アニール処理し、固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定した。
基板/下地層1:NiFeCr(42)/非磁性材料層4:[Cu(40)/Ru(10)]/固定磁性層3:Co
60at%Fe
40at%(100)/反強磁性層2:Pt
50at%Mn
50at%(12)/Pt
51at%Cr
49at%(280)/保護層
6:Ta(90)
【0070】
(参考例5)
実施例5における反強磁性層2のPt
50at%Mn
50at%(12)/Pt
51at%Cr
49at%(280)をPt
50at%Mn
50at%(18)Pt
51at%Cr
49at%(280)/に変えた交換結合膜を形成し、実施例5同様、磁場強度1kOe、温度350℃の条件で20時間アニール処理し、固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定した。
【0071】
参考例4〜5の交換結合膜について、VSM(振動試料型磁力計)を用いて、交換結合磁界Hex(単位:Oe)を測定し、室温のHexで除して得られた規格化Hexを表3に示す。
【表3】
【0072】
図11は、参考例4〜5の交換結合膜の各温度におけるHexを室温のHexで除して得られた規格化Hexを示すグラフである。同グラフに示すように、X
1Cr層とX
2Mn層とが積層した二層の積層構造を有する反強磁性層を有する交換結合膜も、温度の上昇に伴うHexの減少割合が小さく高温環境下における安定性が良好であった。この結果からも、X
1Cr層とX
2Mn層との積層構造を有する反強磁性層の積層構造によって高温環境下におけるHexが高くなることが示唆されている。
【0073】
(実施例2−1)
以下の構成を備えた積層構造体を形成し、温度350℃、磁場強度15kOeの条件で20時間アニール処理し、固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜を得た。
基板/下地層1:NiFeCr(40)/非磁性材料層4〔Cu(40)/Ru(10)〕/固定磁性層3:Co
60at%Fe
40at%(20)/反強磁性層2:ユニット積層部2U1〜ユニット2U7:〔Pt
48at%Mn
52at%(6)/Pt
51at%Cr
49at%(34)の7層積層〕/保護層6:〔Ta(90)/Ru(20)〕
【0074】
(実施例2−2)
実施例2−1の反強磁性層2を以下の構成に変更した積層構造体を形成した。
X
2Mn層2B:Pt
48at%Mn
52at%(8)/ユニット積層部2U1〜ユニット2U7:〔Pt
48at%Mn
52at%(6)/Pt
51at%Cr
49at%(34)の7層積層〕
得られた積層構造体に、温度350℃、磁場強度15kOeの条件で20時間アニール処理し、固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜を得た。
【0075】
(実施例2−3)
実施例2−1の反強磁性層2を以下の構成に変更した積層構造体を形成した。
Ir
20at%Mn
80at%(8)/ユニット積層部2U1〜ユニット2U7:〔Pt
48at%Cr
52at%(6)/Pt
51at%Cr
49at%(34)の7層積層〕
得られた積層構造体に、温度350℃、磁場強度15kOeの条件で20時間アニール処理し、固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜を得た。
【0076】
(実施例2−4)
実施例2−1の反強磁性層2を以下の構成に変更した積層構造体を形成した。
Ir
20at%Mn
80at%(8)/X
2Mn層2B:Pt
48at%Cr
52at%(8)/ユニット積層部2U1〜ユニット2U7:〔Pt
48at%Mn
52at%(6)/Pt
51at%Cr
49at%(34)の7層積層〕
得られた積層構造体に、温度350℃、磁場強度15kOeの条件で20時間アニール処理し、固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜を得た。
【0077】
(実施例2−5)
実施例2−1の反強磁性層2を以下の構成に変更した積層構造体を形成した。
X
2Cr層2B:Pt
51at%Cr
49at%(6)/ユニット積層部2U1〜ユニット2U7:〔Pt
48at%Mn
52at%(6)/Pt
51at%Cr
49at%(34)の7層積層〕
得られた積層構造体に、温度350℃、磁場強度15kOeの条件で20時間アニール処理し、固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜を得た。
【0078】
(実施例2−6)
実施例2−1の反強磁性層2を以下の構成に変更した積層構造体を形成した。
X
2Mn層2B:Pt
48at%Mn
52at%(8)/X
2Cr層2B:Pt
51at%Cr
49at%(6)/ユニット積層部2U1〜ユニット2U7:〔Pt
48at%Mn
52at%(6)/Pt
51at%Cr
49at%(34)の7層積層〕
得られた積層構造体に、温度350℃、磁場強度15kOeの条件で20時間アニール処理し、固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜を得た。
【0079】
(実施例2−7)
実施例2−1の反強磁性層2を以下の構成に変更した積層構造体を形成した。
Ir
20at%Mn
80at%(8)/X
2Cr層2B:Pt
51at%Cr
49at%(6)/ユニット積層部2U1〜ユニット2U7:〔Pt
48at%Mn
52at%(6)/Pt
51at%Cr
49at%(34)の7層積層〕
得られた積層構造体に、温度350℃、磁場強度15kOeの条件で20時間アニール処理し、固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜を得た。
【0080】
(実施例2−8)
実施例2−1の反強磁性層2を以下の構成に変更した積層構造体を形成した。
Ir
20at%Mn
80at%(8)/X
1Cr層2A:Pt
48at%Cr
52at%(8)/X
2Cr層2B:Pt
51at%Cr
49at%(6)/ユニット積層部2U1〜ユニット2U7:〔Pt
48at%Mn
52at%(6)/Pt
51at%Cr
49at%(34)の7層積層〕
得られた積層構造体に、温度350℃、磁場強度15kOeの条件で20時間アニール処理し、固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜を得た。
【0081】
(比較例2−1)
実施例2−1の反強磁性層2をIr
22at%Mn
78at%(80)としたこと以外は、実施例2−1と同様にして、固定磁性層と反強磁性層の磁化を固定した。
【0082】
(比較例2−2)
実施例2−1の反強磁性層2をPt
50at%Mn
50at%(300)としたこと以外は、実施例2−1と同様にして、固定磁性層と反強磁性層の磁化を固定して交換結合膜
を得た。
【0083】
(比較例2−3)
実施例2−1の反強磁性層2をPt
51at%Cr
49at%(300)としたこと以外は、実施例2−1と同様にして、固定磁性層と反強磁性層の磁化を固定して交換結合膜を得た。
【0084】
VSM(振動試料型磁力計)を用いて、実施例2−1から実施例2−8およびび比較例2−1から比較例2−3に係る交換結合膜の磁化曲線を測定し、得られたヒステリシスループから、交換結合磁界Hex(単位:Oe)、保磁力Hc(単位:Oe)、残留磁化M0の飽和磁化Msに対する比(M0/Ms)および交換結合磁界Hexの保磁力Hcに対する比(Hex/Hc)を求めた。結果を表4に示す。また、表4の結果に基づき、残留磁化M0/飽和磁化Msと交換結合磁界Hexとの関係を
図12に示し、交換結合磁界Hex/保持力Hcと交換結合磁界Hexとの関係を
図13に示した。
【表4】
【0085】
実施例2−5に係る交換結合膜について、保護層6側からアルゴンスパッタリングしながらオージェ電子分光装置により表面分析(測定面積:71μm×71μm)を行うことによって、深さ方向におけるPt,CrおよびMnの含有量分布(デプスプロファイル)を得た。アルゴンによるスパッタ速度はSiO
2換算で求め、1.0nm/分であった。
【0086】
図14は、実施例2−5に係る交換結合膜のデプスプロファイルである。固定磁性層3および非磁性材料層4の深さ位置を確認するために、Fe(固定磁性層3の構成元素の1つ)およびTa(保護層6の反強磁性層2側を構成する元素)についてもデプスプロファイルに含めた。
図14に示されるように、実施例2−5に係る交換結合膜のデプスプロファイルには、深さ35nm程度から深さ55nm程度の範囲に、固定磁性層3の影響および保護層6の影響を実質的に受けていない反強磁性層2の組成のみを反映した深さ範囲が認められた。この深さ範囲の平均値として、Pt,CrおよびMnの含有量を測定した。その結果、次のようになった。
【0087】
Pt:65.5at%
Cr:28.5at%
Mn:4.2at%
この結果から、反強磁性層2のPtの含有量は30at%以上であることが確認された。したがって、反強磁性層2は面心立方格子(fcc)構造を有していると考えられる。
【0088】
また、上記の結果に基づき、Mnの含有量のCrの含有量に対する比率(Mn/Cr比)を求めたところ、0.15となった。上記の深さ範囲は、Pt
48at%Mn
52at%(6)/Pt
51at%Cr
49at%(34)からなるユニットが7層積層されたユニット積層部に対応する部分である。このPt
48at%Mn
52at%(6)/Pt
51at%Cr
49at%(34)からなるユニットについてPt,CrおよびMnの含有量を算出すると、次のようになる。
Pt:50.6at%
Cr:41.7at%
Mn:7.8at%
【0089】
これらの含有量に基づくMn/Cr比は0.19であった。アニール処理における各元素(Pt,CrおよびMn)の移動しやすさの違いやデプスプロファイルの測定精度を考慮すると、測定されたMn/Cr比は積層構造体を形成する際の設計値におおむね近いといえる。
【0090】
確認のため、実施例2−5を与える積層構造体(アニール処理が行われていないもの)についても、同様にデプスプロファイルを求めた。その結果を
図15に示す。
図15に示されるように、アルゴンスパッタリングしながらオージェ電子分光装置により表面分析する方法により得られるデプスプロファイルでは、上記のユニットが7層積層されてなるユニット積層部においてMnの含有量やCrの含有量がユニットの繰り返しに対応して変動する結果は得られなかった。すなわち、このデプスプロファイルの分解能は4nmに達していないことが確認された。
【0091】
そこで、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF−SIMS)を用いて、Bi
+イオンを一次イオンとして100μm×100μmの領域に照射して二次電子を検出し、ミリングイオンとしてO
2+イオンを用いてデプスプロファイルを得た。平均ミリングレートは約1.5Å/秒であった。
【0092】
Mnに関するイオンとして、Mn
+、MnO
+など7種類のイオンが検出され、Crに関するイオンとして、Cr
+、CrO
+など8種類のイオンが検出された。これらのイオンのうち、Cr
+については検出感度が高すぎて、定量的な評価を行うことができなかった。なお、Pt
+については検出感度が低すぎて、定量的な評価を行うことができなかった。そこで、Mnに関する7種のイオンの検出強度の総和のデプスプロファイルおよびCrに関する7種のイオンの検出強度の総和のデプスプロファイルを求め、これらの結果から、各深さにおける検出強度比(「Mnに関する7種のイオンの検出強度の総和」/「Crに関する7種のイオンの検出強度の総和」)を「I−Mn/Cr」として、このデプスプロファイルを求めた。
【0093】
これらのデプスプロファイルを、実施例2−1に係る積層構造体(未アニール処理)および交換結合膜、ならびに実施例2−5に係る積層構造体(未アニール処理)および交換結合膜について求めた。
図16(a)は、実施例2−1に係る積層構造体(未アニール処理)のMnに関する7種のイオンの検出強度の総和およびCrに関する7種のイオンの検出強度の総和のデプスプロファイルである。
図16(b)は、実施例2−1に係る積層構造体(未アニール処理)のI−Mn/Crのデプスプロファイルである。
図17(a)は、実施例2−1に係る交換結合膜のMnに関する7種のイオンの検出強度の総和およびCrに関する7種のイオンの検出強度の総和のデプスプロファイルである。
図17(b)は、実施例2−1に係る交換結合膜のI−Mn/Crのデプスプロファイルである。
図18(a)は、実施例2−5に係る積層構造体(未アニール処理)のMnに関する7種のイオンの検出強度の総和およびCrに関する7種のイオンの検出強度の総和のデプスプロファイルである。
図18(b)は、実施例2−5に係る積層構造体(未アニール処理)のI−Mn/Crのデプスプロファイルである。
図19(a)は、実施例2−5に係る交換結合膜のMnに関する7種のイオンの検出強度の総和およびCrに関する7種のイオンの検出強度の総和のデプスプロファイルである。
図19(b)は、実施例2−5に係る交換結合膜のI−Mn/Crのデプスプロファイルである。
【0094】
図16(a)に示されるように、TOF−SIMSを用いることにより、デプスプロファイルにおいて、ユニット積層部の構成(交互積層構造)に基づくMn強度の変動およびCr強度の変動を確認することができた。これらの結果に基づく
図16(b)に示されるI−Mn/Crのデプスプロファイルには、ユニット積層部における各ユニットの積層に対応するI−Mn/Crの変動が確認されるとともに、固定磁性層3に近位な側に、他の領域よりもMnの含有量が相対的に高い領域が存在することが確認された。
【0095】
この傾向は、アニール処理により規則化して得られた交換結合膜においてもみられた。
図17(a)に示されるように、アニール処理によって、ユニット積層部を構成する各ユニットの内部および積層された複数のユニット間でMnおよびCrの相互拡散が生じ、
図16(a)において認められたユニット積層部の構成(交互積層構造)に基づくMnに関するイオンの検出強度の変動およびCrに関するイオンの検出強度の変動は認められなかかった。このため、I−Mn/Crのデプスプロファイルでは規則的な変動は認められなかった。
【0096】
その一方で、固定磁性層3に近位な領域に他の領域よりもMnの含有量が相対的に高い領域が存在することは明確に確認された。このように、実施例2−1に係る交換結合膜が備えるX(Cr−Mn)層(Pt(Cr−Mn)層)からなる反強磁性層2は、固定磁性層3に相対的に近位な第1領域R1と、固定磁性層3から相対的に遠位な第2領域R2とを有すること、および第1領域R1におけるMnの含有量は、第2領域R2におけるMnの含有量よりも高いことが確認された。
【0097】
図18および
図19に示されるように、実施例2−1に係る積層構造体および交換結合膜においてみられた傾向は、実施例2−5に係る積層構造体および交換結合膜においても確認された。すなわち、実施例2−5に係る積層構造体において、ユニット積層部の構成(交互積層構造)に基づくMn強度の変動およびCr強度の変動が確認され(
図18(a))、ユニット積層部の構成(交互積層構造)に基づくI−Mn/Crの変動が確認された(
図18(b))。アニール処理により規則化させた実施例2−5に係る交換結合膜では、ユニット積層部を構成する各ユニットの内部および積層された複数のユニット間でMnおよびCrの相互拡散が生じていることが確認され(
図19(a))、反強磁性層2は、固定磁性層3に相対的に近位であって相対的にMnの含有量が高い第1領域R1と、固定磁性層3から相対的に遠位であって相対的にMnの含有量が低い第2領域R2とを有することが確認された(
図19(b))。
【0098】
図19(b)に細い破線で示した実施例2−1に係る交換結合膜の結果との対比から明らかなように、実施例2−5に係る交換結合膜の第1領域R1におけるI−Mn/Crは、実施例2−1に係る交換結合膜の第1領域R1におけるI−Mn/Crよりも低くなった。これは、実施例2−5に係る交換結合膜が、実施例2−1に係る積層構造体との対比で固定磁性層3に最近位な位置に51PtCr(6)がさらに設けられた構成を有する積層構造体から形成されたものであることを反映していると考えられる。
【0099】
なお、本実施例では、第1領域R1におけるMnの含有量が相対的に高い反強磁性層2を備える交換結合膜を、X
1Cr層(PtCr層)とX
2Mn層(MnCr層)とからなるユニットが複数積層されたユニット積層部を備える積層構造体から形成したが、これに限定されない。固定磁性層3に近位な側にMnからなる層またはMnリッチな合金層(Ir
22at%Mn
78at%層が例示される。)を積層し、その層にXCrMnからなる層を積層させることにより得られた積層構造体から交換結合膜を形成してもよい。
【0100】
(実施例3−1)
以下の構成を備えた積層構造体を形成し、温度350℃、磁場強度15kOeの条件で20時間アニール処理し、固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜を得た。
基板/下地層1:〔Ta(30)/NiFeCr(42)〕/非磁性材料層4〔Cu(40)/Ru(10)〕/固定磁性層3:Co
60at%Fe
40at%(20)/反強磁性層2:{X
2Cr層2B:Pt
51at%Cr
49at%(6)/ユニット積層部2U1〜ユニット2U7:〔Pt
48at%Mn
52at%(6)/Pt
51at%Cr
49at%(34)の7層積層〕}/保護層6:Ta(100)
【0101】
(比較例3−1)
以下の構成を備えた積層構造体を形成し、温度350℃、磁場強度15kOeの条件で20時間アニール処理し、固定磁性層3と反強磁性層2の磁化を固定して交換結合膜を得た。
基板/下地層1:〔Ta(30)/NiFeCr(42)〕/非磁性材料層4〔Cu(40)/Ru(30)〕/固定磁性層3:Co
90at%Fe
10at%(40)/反強磁性層2:Pt
50at%Mn
50at%(300)/保護層6:Ta(50)
【0102】
(比較例3−2)
比較例3−1の反強磁性層2をPt
50at%Cr
50at%(300)に換えた積層構造体を形成し、比較例3−1と同様に、温度350℃、磁場強度15kOeの条件で20時間アニール処理し、固定磁性層と反強磁性層の磁化を固定して交換結合膜を得た。
【0103】
上記の実施例3−1ならびに比較例3−1および比較例3−2により作成した積層構造体(未アニール処理)および交換結合膜のそれぞれについて、Co−Kα線を用い、θ−2θ法により、2θを20度から120度の範囲でX線解析を行った。
【0104】
その結果を
図20に示す。いずれの測定においても、Si基板に基づく2つX線反射ピーク(
図20において黒矢印で示された、2θが38度程度に位置するピーク、および2θが83度程度に位置するピーク)以外のピークが、2θが45度〜55度の範囲、および2θが105度〜115度の範囲に認められた。これらのうち、2θが45度〜50度の範囲のピークは反強磁性層2の(111)面に基づくX線反射ピークであり、2θが102度〜112度の範囲のピークは反強磁性層2の(222)面に基づくX線反射ピークであった。なお、
図20において49度から53度の範囲に認められるピークは、反強磁性層2以外の層、具体的には、NiFeCr層、Cu層、Ru層、およびCoFe層に基づくX線反射ピークである。
【0105】
図21(a)は、
図20について2θが45度〜50度の範囲を拡大したX線回折スペクトルであり、
図21(b)は、
図20について2θが102度〜112度の範囲を拡大したX線回折スペクトルである。これらの図に示されるX線反射ピークの極大値を表5((111)面)および表6((222)面)にまとめた。
【表5】
【表6】
【0106】
表5および表6に示されるように、実施例3−1に係る交換結合膜の面間隔は、比較例3−1(PtCr)に係る交換結合膜の面間隔と比較例3−2(PtMn)に係る交換結合膜の面間隔との間に位置した。この傾向はアニール処理が行われていない積層構造体(未アニール)においても認められた。これらの結果から、実施例3−1に係る交換結合膜では、Pt−(Mn,Cr)の3元合金となっている可能性が強く示唆された。なお、いずれの交換結合膜においても、アニール処理により積層構造体(未アニール)から面間隔に変化があった。そして、実施例3−1と比較例3−1(PtMn)、比較例3−2(PtCr)の(111)面間隔には次の関係があった。
{実施例3−1の(111)面間隔―PtCrの(111)面間隔}÷{PtMn(111)の面間隔−PtCr(111)の面間隔}=0.17
【0107】
すなわち、PtMnの(111)面間隔とPtCr(111)の面間隔の差0.03Åを100%とした場合、実施例3−1の(111)面間隔はPtMnの(111)面間隔より83%狭く、PtCr(111)面間隔より17%広い結果となった。この結果を、オージェ電子分光法により求めたMn/Cr比0.19と合わせて考察すると、実施例3−1に係る交換結合膜では、Pt−(Mn,Cr)の3元合金となっている可能性が強く示唆された。
【0108】
比較例3−1に関するPtCrおよび比較例3−2に関するPtMnについては、不規則fcc構造からなるバルクのX線回折スペクトルおよびL1
0規則構造からなるバルクのX線回折スペクトルが知られており、これらのスペクトルデータから、(111)面の面間隔および(222)面の面間隔は表7に示されるように算出される。比較例3−1および比較例3−2の面間隔をこれらの公知のデータと対比した。その結果、表7に示されるように、比較例3−1および比較例3−2のいずれについても、アニール処理が行われていない積層構造体(未アニール)は不規則fcc構造を有している可能性が高く、アニール処理により得られた交換結合膜はL1
0規則構造を有している可能性が高い。したがって、実施例3−1についても、積層構造体(未アニール)は不規則fcc構造を有していると考えられ、交換結合膜はL1
0規則構造を有していると考えられる。
【表7】
【符号の説明】
【0109】
1 :下地層
2 :反強磁性層
2A :X
1Cr層
2B :X
2Mn層
2U1〜2Un:ユニット,ユニット積層部
3 :固定磁性層
3A :第1磁性層
3B :非磁性中間層
3C :第2磁性層
4 :非磁性材料層
5 :フリー磁性層
6 :保護層
10,15,20:交換結合膜
11,11Xa,11Xb,11Ya,11Yb,16,21:磁気検出素子
12 :素子部
13a,13b:導電部
14a,14b:接続端子
21 :磁気検出素子(磁気抵抗効果素子)
30 :磁気センサ(磁気検出装置)
32X :フルブリッジ回路
32Xa,32Ya:第1の直列部
32Xb,32Yb:第2の直列部
32Y :フルブリッジ回路
33 :電源端子
34 :接地端子
35Xa,35Xb,35Ya,35Yb :中点
D1,D2,D3:膜厚
GND :接地電位
H :外部磁場
Hex :交換結合磁界
M :磁化
P,P1,P2:固定磁化方向
VXs,VYs:検知出力電圧
Vdd :電源電圧
R1 :第1領域
R2 :第2領域