(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6951568
(24)【登録日】2021年9月28日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】プレーナ量子デバイスにおいて垂直接続を制限する超電導共振器
(51)【国際特許分類】
H01L 39/00 20060101AFI20211011BHJP
H01L 21/768 20060101ALI20211011BHJP
H01L 23/532 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
H01L39/00 C
H01L21/90 N
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2020-520753(P2020-520753)
(86)(22)【出願日】2017年12月13日
(65)【公表番号】特表2021-501461(P2021-501461A)
(43)【公表日】2021年1月14日
(86)【国際出願番号】IB2017057895
(87)【国際公開番号】WO2019086942
(87)【国際公開日】20190509
【審査請求日】2020年6月24日
(31)【優先権主張番号】15/797,777
(32)【優先日】2017年10月30日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108501
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 剛史
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【弁理士】
【氏名又は名称】太佐 種一
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァデーセ、サルヴァトーレ、ベルナルド
【審査官】
棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2016/364653(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2016/071021(US,A1)
【文献】
特表2011−524026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 39/00
H01L 21/768
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導結合デバイスであって、
格子内において相互接続する1組の超電導デバイスであって、超電導接続が、単一の2次元の製作平面内に位置する第2の超電導デバイスの構成部分と交差することによって、前記製作平面内に留まったまま、前記1組のうちの第1の超電導デバイスに到達することのみできるように、前記格子が前記製作平面内に作られる、前記1組の超電導デバイスと、
前記第1の超電導デバイスの前記超電導接続において形成される超電導結合器であって、前記超電導結合デバイスはスパンおよびクリアランス高さを有し、前記超電導結合デバイスの区間は、平行な平面内において前記第2の超電導デバイスの前記構成部分から前記クリアランスだけ離れている、前記超電導結合器と、
前記構成部分の第1の側の第1の接地面であって、前記超電導結合デバイスは前記第1の接地面の電位を前記構成部分の第2の側の第2の接地面の電位と等しくする、前記第1の接地面と
を含む、超電導結合デバイス。
【請求項2】
前記超電導結合器が共振器を含み、前記共振器がワイヤボンドを用いて形成される、請求項1に記載の超電導結合デバイス。
【請求項3】
前記超電導結合器は共振器を含み、前記共振器が共平面導波管を用いて形成される、請求項1に記載の超電導結合デバイス。
【請求項4】
前記第1の接地面と前記第2の接地面との間の接地面結合を更に含む、請求項1に記載の超電導結合デバイス。
【請求項5】
前記接地面結合が超電導結合である、請求項4に記載の超電導結合デバイス。
【請求項6】
前記接地面結合が超電導結合であり、前記超電導結合器が超電導共振器を含み、前記超電導結合の形状および材料が、前記超電導共振器の形状および材料と同じである、請求項4に記載の超電導結合デバイス。
【請求項7】
前記超電導結合器の上昇する区間であって、前記上昇する区間は、前記超電導結合器の一端を、前記構成部分の前記第1の側の前記超電導接続の1つの区間に結合する、前記上昇する区間と、
前記超電導結合器の再び結合する区間であって、前記再び結合する区間は、前記超電導結合器の第2の端を、前記構成部分の反対側の前記超電導接続の第2の区間に結合する、前記再び結合する区間と
を更に含む、請求項1に記載の超電導結合デバイス。
【請求項8】
前記クリアランスは少なくとも閾値クリアランスに等しく、前記構成部分と前記超電導結合器との間に絶縁体が形成されて前記クリアランスを作る、請求項1に記載の超電導結合デバイス。
【請求項9】
前記第1の超電導デバイスは第1の量子ビットであり、前記第2の超電導デバイスは第2の量子ビットであり、前記第1の超電導デバイスの前記超電導接続は前記第1の量子ビットの読み出し線であり、前記第2の超電導デバイスの前記構成部分は前記第2の量子ビットの共振線である、請求項1に記載の超電導結合デバイス。
【請求項10】
格子内に1組の超電導デバイスを相互接続することであって、超電導接続が、単一の2次元の製作平面内に位置する第2の超電導デバイスの構成部分と交差することによって、前記製作平面内に留まったまま、前記1組のうちの第1の超電導デバイスに到達することのみできるように、前記格子が前記製作平面内に作られる、前記相互接続することと、
前記第1の超電導デバイスの前記超電導接続において超電導結合デバイスを形成することであって、前記超電導結合デバイスはスパンおよびクリアランス高さを有し、前記超電導結合デバイスの区間は、平行な平面内において前記第2の超電導デバイスの前記構成部分から前記クリアランスだけ離れている、前記形成することと、
前記超電導結合デバイスを用いて、前記構成部分の第1の側の第1の接地面の電位を、前記構成部分の第2の側の第2の接地面と等しくすることと
を含む方法。
【請求項11】
リソグラフィ・コンポーネントを備える超電導体製作システムであって、前記超電導体製作システムは、超電導体デバイスを製作するためにダイに対して動作するときに複数のオペレーションを実行し、前記複数のオペレーションは、
格子内に1組の超電導デバイスを相互接続することであって、超電導接続が、単一の2次元の製作平面内に位置する第2の超電導デバイスの構成部分と交差することによって、前記製作平面内に留まったまま、前記1組のうちの第1の超電導デバイスに到達することのみできるように、前記格子が前記製作平面内に作られる、前記相互接続することと、
前記第1の超電導デバイスの前記超電導接続において超電導結合デバイスを形成することであって、前記超電導結合デバイスはスパンおよびクリアランス高さを有し、前記超電導結合デバイスの区間は、平行な平面内において前記第2の超電導デバイスの前記構成部分から前記クリアランスだけ離れている、前記形成することと、
前記超電導結合デバイスを用いて、前記構成部分の第1の側の第1の接地面の電位を、前記構成部分の第2の側の第2の接地面と等しくすることと
を含む、超電導体製作システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、プレーナ超電導量子デバイス(planar superconducting quantum device)において平面から離れた接続を最小化するための、超電導体デバイス(superconductor device)、製作方法、および、製作システムに関する。より詳細には、本発明は、プレーナ量子デバイス(planar quantum device)において垂直接続を制限する超電導共振器のための、デバイス、方法、および、システムに関する。
【背景技術】
【0002】
以下においては、語または句の接頭辞「Q」は、使用される場合に明確に区別されない限り、量子コンピューティングの文脈におけるその語または句への言及を示す。
【0003】
分子、および、亜原子粒子は、量子力学(最も根本的なレベルにおいて物質界がどのように働くかを研究する物理学の一部門)の法則に従う。このレベルでは、粒子は奇妙な仕方で振舞う。1つを超える状態を同時にとり、非常に遠く離れている他の粒子と相互作用する。量子コンピューティングは、これらの量子現象を、情報を処理するために利用する。
【0004】
我々が今日使用するコンピュータは、古典的コンピュータとして知られている(本願明細書においては、「従来型」コンピュータ、あるいは、従来のノードまたは「CN」とも称される)。従来型コンピュータは、半導体材料および技術、半導体メモリ、および、磁気または固体記憶装置を用いて作られる、(フォン・ノイマン・アーキテクチャとして知られているものにおける)従来のプロセッサを使用する。特に、従来型コンピュータのプロセッサは、バイナリ・プロセッサであり、すなわち、1および0で示される2進データで動作する。
【0005】
量子プロセッサ(qプロセッサ)は、(本明細書においては、簡潔に、単数または複数の「量子ビット」と称される)もつれた量子ビット・デバイスの奇妙な性質を用いて、コンピュータのタスクを実行する。量子力学が働く特定の領域において、材料粒子は、「オン」状態、「オフ」状態、および、同時に「オン」および「オフ」の両方の状態のような複数の状態で存在することができる。半導体プロセッサを用いるバイナリ・コンピューティングが(バイナリ・コードの1および0に相当する)「オン」状態およびオフ状態だけを使用することに制限されているのに対して、量子プロセッサは、これらの材料の量子状態を、データ・コンピューティングにおいて使用可能な信号を出力するために利用する。
【0006】
従来型コンピュータは情報をビットにコード化する。各ビットは1または0の値をとることができる。これらの1および0は、コンピュータ機能を最終的に駆動するオン/オフ・スイッチとして作用する。他方、量子コンピュータは、量子ビットに基づき、量子物理学の2つの基本原理である、重ね合わせおよびもつれに従って動作する。重ね合わせは、各量子ビットが同時に1および0の両方を示すことができることを意味する。もつれは、重ね合わせの量子ビットが古典的でない仕方で互いに相関し得ることを意味する。すなわち、1つの状態(1、または、0、または、それらの両方のうちの何れであっても)は、別の状態に依存し得、それらが個々に扱われるときよりそれらがもつれるときに、2つの量子ビットについて確認され得る情報がより多く存在する。
【0007】
これらの2つの原理を用いて、量子ビットは情報のより洗練されたプロセッサとして機能する。そして、量子コンピュータが、従来型コンピュータを用いては困難である難題を解決できるようにする仕方で機能することを可能にする。IBMは、超電導量子ビットを用いる量子プロセッサの動作可能性を構築し、実証することに成功した。(IBMは米国の、そして、他の国におけるインターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーションの登録商標である。)
【0008】
量子ビットのような超電導デバイス(superconducting device)は、知られている半導体製造技術において超電導および半導体材料を用いて製造される。超電導デバイスは、一般に、異なる材料の1つまたは複数の層を用いてデバイスの特性および機能を実現する。材料の層は、超電導性、電導性、半導電性、絶縁性、抵抗性、誘導性、容量性であり得、または、任意の数の他の特性を有し得る。材料の性質、形状、サイズ、または、その材料の配置、その材料に隣接する他の材料、および、他の多くの考慮すべき情報を与えられたとき、異なる材料の層は異なる方法を用いて形成されねばならない場合がある。
【0009】
超電導デバイスは、しばしば平面状であり、すなわちそこでは、1つの平面上に超電導体構造が作られる。非平面状デバイスは3次元(3D)デバイスである。そこでは、所与の製作平面の上下に幾つかの構造が形成される。
【0010】
qプロセッサは、2つ以上の量子ビットからなる1組として実現される。これらの量子ビットは、単一の製作平面上に、共平面デバイスからなる格子として作られる。qプロセッサのそのような実現は、表面符号スキーム(SCS:Surface Code Scheme)または表面符号アーキテクチャ(SCA:Surface Code Architecture)として知られる故障許容(fault-tolerant)量子アーキテクチャとして一般に認められている。
【0011】
図1は、例示的な一実施形態を用いて解決され得る問題を示す表面符号アーキテクチャの例を示す。SCA100のような超電導量子ビット・アーキテクチャは、幾つかの量子ビット102および102Aを単一の平面内に格子形状に配置する。量子ビットは、(「バス」としても知られる)共振線104を用いて互いに結合される。量子ビット102の量子状態は、読み出し(read)線106および106Aを用いて読み出される。
【0012】
理解されるように、全ての共振線104は量子ビット102および102Aと共平面に(同じ平面内に)ある。例示的な実施形態によって認識されるように、SCA100は、共平面読み出し線106が、格子100の周辺にある量子ビット102を読み出すことのみを可能にする。格子100の内側領域にある量子ビット102Aのような量子ビットのために、読み出し線106Aが、格子100の製作平面に直交する平面内で接続される。製作平面は、図示された座標軸による2次元のXY平面であると仮定する。読み出し線106AはZ方向に作られなければならず、SCA100の製作を3次元製作にする。
【0013】
量子ビットの量子状態を読み出すために量子ビット(102A)にアクセスするこの方法は、「平面から飛び出すこと(breaking the plane)」として知られている。例示的な実施形態では、格子100の非周辺量子ビット(102A)への非共平面読み出し線(106A)を作ることの必要性のために平面から飛び出すことが、結果として、超電導体製作の複雑さの増加は言うまでもなく、量子状態測定の性能の低下に導くと認識される。
【0014】
格子の非周辺の領域またはエリアは、格子の周辺部の内側にあるエリアである。通常、このエリアと同じ平面内において、周辺部は、このエリア内にあるデバイスに到達するために交差しなければならないデバイス、ワイヤ、または、回路を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
SCA格子の非周辺エリアにある超電導デバイスが、その平面から飛び出すことなく、他の回路に接続され得るような解決策が必要である。例えば、そのような解決策は、読み出し線106Aおよび他の類似の非共平面構造を製作しなければならない代わりに、量子ビット102Aおよび他の類似状況にある超電導デバイスを、チップ上または回路基板上の他の場所の共平面読み出し線および他の共平面ボンディングに結合することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
例示的な実施形態は、超電導デバイス、ならびに、超電導デバイスのための製作の方法およびシステムを提供する。一実施形態の超電導デバイスは、格子内において相互接続する1組の超電導デバイスを含み、超電導接続が、単一の2次元の製作平面内に位置する第2の超電導デバイスの構成部分と交差することによって、この製作平面内に留まったまま、1組のうちの第1の超電導デバイスに到達することのみできるように、格子が製作平面内に作られる。実施形態は、第1の超電導デバイスの超電導接続において形成される超電導結合器(superconducting coupler)を更に含み、この超電導結合デバイス(superconducting coupling device)はスパンおよびクリアランス高さを有し、この超電導結合デバイスの区間は、平行な平面内において第2の超電導デバイスの構成部分からクリアランスだけ離れている。この実施形態は、構成部分の第1の側の第1の接地面を更に含み、超電導結合デバイスは、第1の接地面の電位を構成部分の第2の側の第2の接地面の電位と等しくする。したがって、実施形態は、共平面超電導量子処理回路を製作する方法を提供する。
【0017】
他の実施形態では、超電導結合器は、ワイヤボンドを用いて形成された共振器を含む。したがって、この実施形態は、量子処理デバイスの格子において非周辺的に位置する超電導量子処理デバイスに接続する共平面線路を作る特定の方法を提供する。
【0018】
他の実施形態では、超電導結合器は、共平面導波管を用いて形成された共振器を含む。したがって、この実施形態は、量子処理デバイスの格子において非周辺的に位置する超電導量子処理デバイスに接続する共平面線路を作る異なる方法を提供する。
【0019】
他の実施形態は、第1の接地面と第2の接地面との間の接地面結合を更に含む。したがって、この実施形態は、交差した構成部分の両側で接地面電位を等しくする構造を提供する。
【0020】
他の実施形態では、接地面結合は超電導結合である。したがって、この実施形態は、交差した構成部分の両側で接地面電位を等しくする構造を製作する特定の方法を提供する。
【0021】
他の実施形態では、接地面結合は超電導結合であり、超電導結合器は超電導共振器を含む。そして、この超電導結合の形状および材料は、この超電導共振器の形状および材料と同じである。したがって、この実施形態は、交差した構成部分の両側で接地面電位を等しくする構造を製作する異なる方法を提供する。
【0022】
他の実施形態は、超電導結合器の上昇する区間を更に含み、この上昇する区間は、この超電導結合器の一端を、構成部分の第1の側の超電導接続の1つの区間に結合する。この実施形態は、超電導結合器の再び結合する区間を含み、この再び結合する区間は、超電導結合器の第2の端を構成部分の反対側の超電導接続の第2の区間に結合する。したがって、この実施形態は、量子処理デバイスの格子において非周辺的に位置する超電導量子処理デバイスの製作平面と実質的に平行である共平面線路平面を製作する特定の方法を提供する。
【0023】
他の実施形態では、クリアランスは少なくとも閾値クリアランスに等しく、構成部分と超電導結合器との間に絶縁体が形成されてクリアランスを作る。したがって、この実施形態は、量子処理デバイスの格子において、非周辺的に位置する超電導量子処理デバイスに接続する共平面線路を、交差した構成部分から電気的そして磁気的に分離する方法を提供する。
【0024】
他の実施形態では、第1の超電導デバイスは第1の量子ビットであり、第2の超電導デバイスは第2の量子ビットであり、第1の超電導デバイスの超電導接続は第1の量子ビットの読み出し線であり、第2の超電導デバイスの構成部分は第2の量子ビットの共振線である。したがって、この実施形態は、3D線路を使用することなく、共平面量子ビットの格子を製作する方法を提供する。
【0025】
一実施形態は、超電導デバイスを製作するための製作方法を含む。
【0026】
一実施形態は、超電導デバイスを製作するための製作システムを含む。
【0027】
本発明の特性と考えられる新規な特徴は、添付の特許請求の範囲に記載されている。しかしながら、本発明の好適な使用モード、更に、目的、および、利点と同様に、本発明そのものは、添付の図面と併せて読むと、例示的な実施形態についての以下の詳細な説明を参照することによって最も良く理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】例示的な実施形態が実現され得る、データ処理システムのネットワークのブロック図である。
【
図2】例示的な実施形態が実現され得る、データ処理システムのブロック図である。
【
図3】例示的な一実施形態に従う結合共振器の実現例を示す図である。
【
図4】例示的な一実施形態に従う結合共振器の他の構成例を示す図である。
【
図5】例示的な一実施形態に従う結合共振器を使用したシミュレーション結果を示す図である。
【
図6】例示的な一実施形態に従って結合共振器を使用した他のシミュレーション結果を示す図である。
【
図7】例示的な一実施形態に従って結合共振器を使用した他のシミュレーション結果を示す図である。
【
図8】例示的な一実施形態に従う格子において必要な多くの飛び越しを計算するための、1組の方程式を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を記述するために用いる例示的な実施形態は、一般に、プレーナ量子デバイスにおいて垂直接続を制限するように超電導共振器を提供することによって上記の問題および他の関連した問題に対処し解決する。例示的な実施形態は、プレーナ量子デバイスにおける垂直接続を制限するように超電導共振器を製作するための、製作方法およびシステムも提供する。
【0030】
一実施形態は、超電導量子論理回路における超電導ワイヤボンド、共平面導波管(CPW)、または、それらの何らかの組み合わせとして実現され得る超電導結合デバイスを提供する。例示的な一実施形態に従って形成された超電導結合デバイスは、共振器(以下では「結合共振器」と称する)として動作する。
【0031】
ワイヤボンドは、2本の超電導の線の間に、または、超電導の構成部分とチップもしくは回路基板上の他の構成部分との間に超電導性の接合部を作るために、接合装置を用いて形成される導体である。1つの実施形態において、ワイヤボンドは、丸い断面を有する。共平面導波管は、マイクロ波周波数の信号を搬送するように設計された一種の超電導平面伝送線路である。
【0032】
他の実施形態は、結合共振器のための製作方法を提供し、その方法はソフトウェア・アプリケーションとして実装され得る。製作方法の実施形態を実現するアプリケーションは、例えば、リソグラフィ・システムのような、既存の超電導の製作システムと連携して動作するように構成され得る。
【0033】
記述の明快さのために、そして、それに対する如何なる限定を意味することもなく、例示的な実施形態は、格子に配置された、例示的な数の量子ビットを用いて記述されている。例示的な実施形態の技術範囲内で、異なる数の量子ビット、格子における異なる配置、量子ビット以外の超電導デバイス、または、それらの何らかの組み合わせによって一実施形態が実現され得る。一実施形態は、超電導要素に対する結合が意に反して平面から飛び出す他の超電導の共平面製作を同様に改善するために実施され得る。
【0034】
更に、図面および例示的な実施形態において、結合共振器の例の概略図が使用される。結合共振器の実際の製作において、本明細書において図示も記述もされない追加の構造、または、本明細書において図示され記述されたものと異なる構造が、例示的な実施形態の技術範囲から逸脱せずに存在し得る。同様に、結合共振器の例の図示または記述された構造は、本明細書において記述されているものと同様の動作または結果を得るために、例示的な実施形態の技術範囲内で、異なる仕方で作られ得る。
【0035】
本明細書において記述されているように、構造、層、および、配置の例の2次元図面において異なる仕方で陰影をつけた部分は、異なる構造、層、材料、および、配置を示すことを意図している。異なる構造、層、材料、および、配置は、当業者に知られている適切な材料を用いて作られ得る。
【0036】
本明細書において示される、特別な形状、位置、配置、または、形状寸法は、そのような特性が一実施形態の特徴として明確に記述されない限り、例示的な実施形態に限定されることを意図しない。形状、位置、配置、寸法、または、それらの何らかの組み合わせは、図面および記述の明快さのためだけに選択されており、例示的な実施形態に従って目的を達成するために実際のリソグラフィで使用される可能性のある実際の形状、位置、配置、または、寸法から、誇張されているか、最小化されているか、あるいは、変更されている可能性がある。
【0037】
更に、例示的な実施形態は、特定の実際または仮定の超電導デバイス(例えば、量子ビット)に関して、単なる例として、記述されている。様々な例示的な実施形態によって記述されているステップは、同様の仕方で様々なプレーナ結合共振器を製作するのに適合され得る。そのような適合化は例示的な実施形態の技術範囲内で考えられる。結合共振器は、単なる非限定的な例として、単一の超電導デバイスを越える飛び越しとして示される。この開示から、当業者は、単一の飛び越しによって2つ以上の超電導デバイスを飛び越える結合共振器を考案し製作することが可能であろう。また、そのような適合化は例示的な実施形態の技術範囲内で考えられる。結合共振器が製作される仕方でデバイスを飛び越すことは、結合共振器が製作平面から持ち上げられた経路を辿る場合であっても、そのデバイスと共平面で成されると考えられる。持ち上げられた経路が、製作平面に対して実質的に直交ではなく、結合共振器の少なくとも1つの区間において製作平面と実質的に平行であって、結合共振器の少なくとも2つの区間において製作平面に戻って結合するので、結合共振器は、共平面であると考えられる。
【0038】
アプリケーションに実装されるときの一実施形態は、製作プロセスに、本明細書において記述される特定のステップを実行させる。製作プロセスのステップは、幾つかの図面において示される。全てのステップが特定の製作プロセスで必要になり得るというわけではない。幾らかの製作プロセスでは、ステップを異なる順序で実施すること、特定のステップを組み合わせること、特定のステップを削除または置き換えること、または、ステップのこれらおよび他の操作の任意の組み合わせを、例示的な実施形態の技術範囲から逸脱することなく、実行することができる。
【0039】
例示的な実施形態は、単なる例として、特定の種類の材料、電気的性質、構造、配置、層、向き、方向、ステップ、動作、平面、寸法、数、データ処理システム、環境、構成部分、および、応用に関して記述されている。これらおよび他の同様の人為要素の如何なる具体的な明示も、本発明を限定するものであることを意図しない。これらおよび他の同様の人為要素の如何なる適切な明示も例示的な実施形態の技術範囲内で選択され得る。
【0040】
例示的な実施形態は、特定の設計、アーキテクチャ、レイアウト、図表、および、ツールを単なる例として用いて記述されているが、例示的な実施形態に限定するものではない。例示的な実施形態は、他の相当する、または、同様の目的を有する設計、アーキテクチャ、レイアウト、図表、および、ツールと連携して使用され得る。
【0041】
本開示における例は、記述の明快さの目的にのみ使用され、例示的な実施形態に限定するものではない。本明細書において列挙される如何なる利点も単なる例であって、例示的な実施形態に限定することを意図しない。特定の例示的な実施形態によって、追加の、または、異なる利点が実現され得る。更に、特定の例示的な一実施形態が、上記の利点のうちの、幾らかもしくは全てを有する場合もあり、または、上記の利点の何れも有しない場合もある。
【0042】
図2を参照すると、この図は、例示的な一実施形態に従う結合共振器の例を示す。概略
図200は、
図1の格子100の一部を示し、一実施形態によって与えられる改善を含む。
【0043】
図200は、格子100の非周辺エリアにある超電導デバイス(例えば、量子ビット102A)を示す。読み出し線106AがZ方向に造られる格子100とは違い、一実施形態では、量子ビット102Aの平面(上述したXY平面)と同じ平面においてマイクロ波信号伝送線路202を製作する。非限定的な一例においては、線路202が
図1の読み出し線106Aの代替であり得、量子ビット102Aに結合された読み出し線路202として動作することができる。
【0044】
共平面製作のためには、格子100のエリアにおいて、または、その近くにおいて、線路202が、同じ平面(すなわち、XY平面)内の他の構成部分(交差した構成部分)と交差しなければならない。そのようなエリアにおいて、一実施形態では、結合共振器204を製作する。結合共振器204は、1つの区間(上昇する区間204A)において平面から離れ、他の区間(持ち上げられた区間204B)において平面から実質的に離れたまま(必ずしも平行でなく)延び、第3の区間(再び結合する区間204C)において平面と再び結合することによって、平面の上方に持ち上げられる。この実施形態は、少なくとも持ち上げられた区間204Bが交差した構成部分を飛び越えるという仕方で、結合共振器204の1つまたは区間204Aから204Cを配置する。2つ以上の区間204Aから204Cが単一区間として1つにされることもできる(
図2中の例、
図200Cを参照)。
【0045】
交差した構成部分を越える飛び越しは、少なくとも閾値クリアランスだけ、交差した構成部分をクリアする、または、上を通過することを意味する。1つの実施形態においては、閾値クリアランスは、交差した構成部分によって作られる磁場が結合共振器を通過する信号によって作られる磁場によって事実上乱されない(無視できる量だけ乱される)ままである距離に少なくとも等しい。1つの実施形態においては、閾値クリアランスは、XY平面上の交差した構成部分の上方に作られた絶縁構造の高さである。
【0046】
結合共振器204はスパンを有する。結合共振器のスパンは、その長さのあらゆる部分が交差した構成部分から少なくとも閾値クリアランスの距離だけ離れている結合共振器の長さである。1つの実施形態においては、スパンは、上昇する区間204A、持ち上げられた区間204B、および、再び結合する区間204Cを含む。他の実施形態では、スパンは持ち上げられた区間204Bだけを含んで、上昇および再び結合する区間204Aおよび204Cを含まない。違いは、上昇する区間204Aおよび再び結合する区間204Cが作られる仕方にある。結合共振器の様々な区間を作る幾つかの非限定的な仕方の例が
図2の概略
図200A、200B、および、200Cにおいて示されている。
【0047】
再び結合する区間204Cが平面と再び結合した後、線路202が続く。任意の数の結合共振器204が同様の仕方で線路202に含まれ得る。所与の線路202内に様々な結合共振器204が互いとは異なる仕方で形成され得る。可能な相違点の幾つかの例が
図200A、200B、および、200Cに示されている。
【0048】
図3を参照すると、この図は、例示的な一実施形態に従う結合共振器の実現例を示す。
図300は、1つまたは複数の超電導デバイスがそのXY平面内で図示されるように作られる超電導チップ(または、ダイ)302を示す。例えば、チップ302は、
図1による格子100を含むことができる。超電導デバイス102Aは格子100の量子ビット102Aである。線路202は、量子ビット102Aのための読み出し線路でもよい。線路202は、量子ビット102Aから始まって、結合共振器204の非限定的な出現を含み、目的地(図示せず)へと続く。
【0049】
非限定的な例であるだけとして、200ミクロンの閾値クリアランスおよび1ミリメートル(mm)のスパンを有する結合共振器204が
図3に示されている。結合共振器204の前後の線路202の長さは、例示的な実施形態の目的には重要でない。
【0050】
図4を参照すると、この図は、例示的な一実施形態に従う結合共振器の他の構成例を示す。構成400において、量子ビット102および102Aは、
図1において示されるように格子100に加わっている。量子ビット102Aは、
図3について述べたような線路202を備えている。量子ビット102は線路402を有し、線路402は、特定の製作に応じて、量子ビット102と関連した共振線104または読み出し線106であり得る。線路402は、結合共振器404と交差した構成部分を形成する。結合共振器404は、
図3において示される結合共振器204の一例である。
【0051】
線路202および402は、示されるように製作平面を接地面406A、406B、406C、および、406Dに分ける。交差した構成部分402の両側の接地面の信号および電位(電圧)(集合的に「接地面の電位」と称される)は、等しくされなければならない。この均等化は、結合共振器404を含む線路202の両側で実行されなければならない。例えば、接地面406Aの電位は接地面406Bの電位と等しくされなければならず、接地面406Cの電位は接地面406Dの電位と等しくされなければならない。
【0052】
このように接地面電位の均等化のために、結合共振器404は、追加の超電導結合を含む。1つの実施形態において、超電導結合408は接地面406Aおよび406Bの電位を等しくするために形成され、超電導結合410は接地面406Cおよび406Dの電位を等しくするために形成される。1つの実施形態において、結合408および410は、結合共振器404と実質上同じ方法および材料を用いて作られる。
【0053】
結合408および410は、各々、区間204Aと類似の上昇する区間、区間204Bと類似の持ち上げられた区間、および、区間204Cと類似の再び結合する区間を含むことができる。結合408の上昇する区間、持ち上げられた区間、および、再び結合する区間のうちの1つまたは複数は1つにされ得る。同様に、結合410の上昇する区間、持ち上げられた区間、および、再び結合する区間の1つまたは複数は1つにされ得る。
【0054】
4つの接地面406Aから406Dだけが示されたが、ある実施においては、示されたものとは違い、様々な構成成分をレイアウトすることによって5つ以上の接地面を作る場合がある。したがって、等電位化が、2対より多い接地面にわたって必要な場合がある。ある実施で要求される数だけの接地面の対にわたって電位を等しくするために、結合408または410あるいはそれらの両方と同様の結合が、本明細書において記述されている仕方で作られ得る。結合408は、結合410とは異なる仕方でも(例えば、異なる、製作方法、超電導材料、区間、サイズ、クリアランス、スパン、または、それらの何らかの組み合わせを用いて)作られ得る。
【0055】
図5を参照すると、この図は、例示的な一実施形態に従う結合共振器を使用したシミュレーション結果を示す。このシミュレーションにおいて
図4の構成400が使用される。共振における電界シミュレーションは、結合408および410と共に結合共振器404が、量子ビット102からの線路402上の4.75ギガヘルツ(GHz)の信号によって生成される約2.07e+02dBの電界を妨げないことを確認している。すなわち、結合408および410と共に結合共振器404は、如何なる有意の仕方でも電界を歪ませない。
【0056】
図6を参照すると、この図は、例示的な一実施形態に従う結合共振器を使用した他のシミュレーション結果を示す。このシミュレーションにおいて
図4の構成400が使用される。共振における電界シミュレーションは、結合408および410と共に結合共振器404が、量子ビット102Aからの線路202上の5.2GHzの信号によって生成される約1.15e+02dBの電界を歪ませない、または、損失を発生させないことを確認している。
【0057】
図7を参照すると、この図は、例示的な一実施形態に従う結合共振器を使用した他のシミュレーション結果を示す。グラフ700は、結合408および410ならびに結合共振器404と交差した構成部分402との間の磁気クロストークが、2つの異なる測定設定の下で、−50dBの許容閾値より十分下にあることを証明している。
【0058】
図8を参照すると、この図は、例示的な一実施形態に従う格子において必要な飛び越しの数を計算するための1組の方程式を示す。方程式の組800では、格子の各辺がN個の量子ビットを有する正方形の格子を仮定する。組800は、格子において必要である飛び越しの数Jを与える。具体的には、(電位接地面均等化のための対応する結合が結合共振器と共に含まれると仮定すると、)Jは、線路の3D製作を必要とする非周辺量子ビットがないような格子において必要である結合共振器の数を含む。
【0059】
本発明の様々な実施形態は、関連した図面を参照して本明細書において記述されている。本発明の技術範囲から逸脱しない範囲で代替の実施形態が考案され得る。様々な接続および位置関係(例えば、上に、下に、隣接して、その他)が、後に続く記述および図面における要素間で明らかにされているが、向きが変えられても記述されている機能が維持されるときには、本明細書において記述されている位置関係の多くが向きに無関係であることを当業者は認識するであろう。これらの接続または位置関係あるいはこれらの両方は、特に明記しない限り、直接的または間接的であり得、本発明はこの点で限定的であることを意図しない。したがって、実在する物同士の結合は直接または間接的な結合を意味し得、実在する物同士の間の位置関係は直接的または間接的な位置関係であり得る。間接的な位置関係の例として、本記述における、層「B」の上に層「A」を形成することへの言及は、層「A」および層「B」の関連する特性および機能がそれらの間に1つまたは複数の中間層があっても実質的に変えられない限り、1つまたは複数の中間層(例えば、層「C」)が層「A」と層「B」の間にあるという状況を含む。
【0060】
以下の定義および短縮が、請求項および明細書の解釈のために使用されることとする。本明細書において使用されるとき、「含む(comprises, comprising)」、「備える(includes,including)」、「有する(has, having)」、または「含有する(contains, containing)」等の用語、あるいは、それらの任意の他の変形は、非排他的包含をカバーすることを意図する。例えば、要素のリストを含む、構成物、混合物、プロセス、方法、物品、もしくは、装置は、必ずしもそれらの要素だけに限られず、明確に列挙されない、または、そのような構成物、混合物、プロセス、方法、物品、もしくは、装置に特有でない、他の要素も含むことができる。
【0061】
加えて、本明細書においては、「例示的な」という用語が、「例、実例、または、説明として提示する」ことを意味するために使用される。本明細書において「例示的」として記述される如何なる実施形態または設計も、必ずしも、他の実施形態または設計よりも好適または有利であると解釈されるべきであるというわけではない。「少なくとも1つ」および「1つまたは複数」という用語は、1以上の如何なる整数(すなわち、1、2、3、4等)をも含むように理解される。「複数」という用語は、2以上の如何なる整数(すなわち、2、3、4、5等)をも含むと理解される。「接続」という用語は、間接的な「接続」および直接的な「接続」を含むことができる。
【0062】
本明細書における「一実施形態」、「実施形態」、「例としての実施形態」等の言及は、記述されている実施形態が特定の特徴、構造、または、特性を含むことができることを示すが、あらゆる実施形態は、特定の特徴、構造、または、特性を含む場合も含まない場合もあり得る。更に、そのような句が、必ずしも、同じ実施形態を指しているというわけではない。更に、特定の特徴、構造、または、特性が一実施形態に関連して記述されるときに、明示的に記述されているか否かを問わず、当業者の知識の範囲内において、他の実施形態に関連するそのような特徴、構造、または、特性に影響を及ぼすということがあると考える。
【0063】
「約」、「実質的に」、「およそ」等の用語、および、それらの変形は、本願出願時に利用可能な機器に基づく特定の量の測定と関連した誤差の程度を含むことを意図する。例えば、「約」は、所与の値の±8%または5%または2%の範囲を含むことができる。
【0064】
本発明の様々な実施形態の記述は、説明のために提示されたが、網羅的であることも、または、開示された実施形態に限定されることも意図しない。記述されている実施形態の技術範囲および思想から逸脱しない範囲で多くの修正および変更が当業者にとって明らかである。実施形態の原理、実際的応用、もしくは、市場で見つけられる技術を越える技術的な改良を最も良く説明するために、または、当業者が本明細書において記述されている実施形態を理解することを可能にするために本明細書において用いられる用語は選ばれている。
【符号の説明】
【0065】
100 表面符号アーキテクチャ(SCA)
102,102A 量子ビット
104 共振線
106,106A 読み出し線
202 マイクロ波信号伝送線路
204 結合共振器
302 超電導チップ
402 線路
404 結合共振器
406A〜406D 接地面
408,410 超電導結合