特許第6951570号(P6951570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6951570電解槽および燃料電池におけるガス分配および流れ案内のためのガス分配プレート
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6951570
(24)【登録日】2021年9月28日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】電解槽および燃料電池におけるガス分配および流れ案内のためのガス分配プレート
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0258 20160101AFI20211011BHJP
   H01M 8/0247 20160101ALI20211011BHJP
   H01M 8/026 20160101ALI20211011BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20211011BHJP
   H01M 8/0265 20160101ALI20211011BHJP
【FI】
   H01M8/0258
   H01M8/0247
   H01M8/026
   H01M8/0206
   H01M8/0265
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-522804(P2020-522804)
(86)(22)【出願日】2018年10月24日
(65)【公表番号】特表2021-500710(P2021-500710A)
(43)【公表日】2021年1月7日
(86)【国際出願番号】EP2018079109
(87)【国際公開番号】WO2019086303
(87)【国際公開日】20190509
【審査請求日】2020年4月22日
(31)【優先権主張番号】102017219418.9
(32)【優先日】2017年10月30日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ベルナー,ウルリヒ
(72)【発明者】
【氏名】シュンバウアー,ステファン
【審査官】 浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−146313(JP,A)
【文献】 特開2014−213345(JP,A)
【文献】 特開2005−100813(JP,A)
【文献】 特開2010−251020(JP,A)
【文献】 特開2009−021022(JP,A)
【文献】 特開2015−072756(JP,A)
【文献】 特開2012−248460(JP,A)
【文献】 特開2012−038569(JP,A)
【文献】 特開平11−144753(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/144871(WO,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102016004850(DE,A1)
【文献】 国際公開第2013/161130(WO,A1)
【文献】 欧州特許第2355204(EP,B1)
【文献】 米国特許第6663997(US,B2)
【文献】 中国特許出願公開第1449066(CN,A)
【文献】 欧州特許第1972023(EP,B1)
【文献】 独国特許発明第2040611(DE,C2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00〜8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス分配プレート(2)の接触面に配置されたガス分配および流れ案内構造を備える少なくとも電解槽または燃料電池におけるガス分配および流れ案内のためのガス分配プレート(2)において、
前記ガス分配および流れ案内構造は、成形構造(10)として形成され
前記成形構造(10)は、前記ガス分配プレート(2)の上面(4a)から、前記ガス分配プレート(2)の下面(4b)側に配置された膜電極ユニット(6)側へ向けて形成された、フィン状の流れ誘導装置(20)を備えていることを特徴とする、ガス分配プレート。
【請求項2】
前記ガス分配プレート(2)は、少なくとも150μm未満の素材厚さを有し、前記ガス分配プレート(2)は、実質的に一定の成形深さ(14)を有する一様な成形構造(10)を具備し、前記成形構造(10)は、1mm未満の最大成形深さを有することを特徴とする、請求項1に記載のガス分配プレート(2)。
【請求項3】
前記ガス分配プレート(2)は、100μm未満の素材厚さを有し、前記ガス分配プレート(2)は、実質的に一定の成形深さ(14)を有する一様な成形構造(10)を具備し、前記成形構造(10)は、700μm未満の最大成形深さを有することを特徴とする、請求項1に記載のガス分配プレート(2)。
【請求項4】
前記ガス分配プレート(2)は、75μm未満の素材厚さを有し、前記ガス分配プレート(2)は、実質的に一定の成形深さ(14)を有する一様な成形構造(10)を具備し、前記成形構造(10)は、350μm未満の最大成形深さを有することを特徴とする、請求項1に記載のガス分配プレート(2)。
【請求項5】
前記ガス分配プレート(2)は、少なくとも部分的に金属材料から形成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のガス分配プレート(2)。
【請求項6】
前記ガス分配プレート(2)は、少なくとも部分的に鉄含有材料から形成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のガス分配プレート(2)。
【請求項7】
前記ガス分配プレート(2)は、少なくとも部分的にチタン材料から形成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のガス分配プレート(2)。
【請求項8】
前記ガス分配プレート(2)は、流入側に配置された前記成形構造(10)のエッジが傾斜26を有する一様でない成形構造(10)を有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のガス分配プレート(2)。
【請求項9】
前記ガス分配プレート(2)の前記成形構造(10)は、前記成形構造(10)に沿ってガス分配流路(24)が形成されるように形成されており、前記ガス分配流路(24)および/または前記個々の成形構造(10)の幅が1mm未満であり、前記個々の成形構造(10)および/または前記ガス分配流路(24)は、実質的に互いに平行におよび/または垂直に配置された列状に配置されていることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のガス分配プレート(2)。
【請求項10】
前記ガス分配プレート(2)の前記成形構造(10)は、前記成形構造(10)に沿ってガス分配流路(24)が形成されるように形成されており、前記ガス分配流路(24)および/または前記個々の成形構造(10)の幅が500μm未満であり、前記個々の成形構造(10)および/または前記ガス分配流路(24)は、実質的に互いに平行におよび/または垂直に配置された列状に配置されていることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のガス分配プレート(2)。
【請求項11】
前記成形構造(10)は、少なくとも部分的に直方体状に、および/または立方体状に、および/または角錐状に、および/または円錐状に、および/または円柱状に成形されていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のガス分配プレート(2)。
【請求項12】
前記個々の成形構造(10)は、互いにずらして、および/または交互に方向を変えて、および/または実質的に互いに無秩序に配置されていることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載のガス分配プレート(2)。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載のガス分配プレート(2)の製造方法において、前記ガス分配プレート(2)の接触面に配置された前記ガス分配および流れ案内構造が成形法で製造されることを特徴とする、方法。
【請求項14】
バイポーラプレート(8)と膜電極ユニット(6)と請求項1〜12のいずれか1項に記載のガス分配プレート(2)とを備える燃料電池において、前記ガス分配プレート(2)が前記バイポーラプレート(8)と前記膜電極ユニット(6)との間に配置され、かつ前記バイポーラプレート(8)および前記膜電極ユニット(6)と導電接続されており、前記ガス分配プレート(2)は、前記バイポーラプレート(8)と物質結合的に接続されていることを特徴とする、燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立装置クレームに記載の形式のガス分配プレート、独立方法クレームに記載の形式のガス分配プレートの製造方法、および独立装置クレームに記載の形式の燃料電池を出発点とする。
【背景技術】
【0002】
電解槽および燃料電池におけるガス分配および流れ案内のためのガス分配プレートは従来技術から知られている。その際、燃料電池または電解槽には通常、アノード側とカソード側とにガス分配プレートが配置されている。2つのプレートは膜と電極と、殊に2つのガス拡散層とを備える膜電極ユニット(MEA)によって互いに分離され、MEAと導電接続されている。膜電極ユニットとの最適なガス交換を保証するために、ガス分配プレートの、殊にそれぞれMEAの方を向いた面に様々に成形された流路構造が配置されており、これらの流路構造によってガスもしくは流体をMEAの面に沿って通過させて、ガス分配プレートから膜電極ユニットへ電流が導かれる。
【0003】
特許文献1および特許文献2から、ガス分配および流れ案内の向上のために、ガス分配構造としてそれぞれ1つの目の細かいメッシュが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5252193号公報
【特許文献2】特開2010−061994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の主題は、独立装置クレームの特徴を有するガス分配プレート、並列独立方法クレームの特徴を有するガス分配プレートの製造方法、および並列独立装置クレームの特徴を有する燃料電池である。本発明の他の特徴および詳細は、それぞれの従属請求項、明細書、および図面から明らかになる。その際、本発明によるガス分配プレートとの関連で記載される特徴および詳細は、当然のことながら本発明によるガス分配プレートの製造方法および本発明による燃料電池との関連においても、そしてそれぞれ逆の関連においても当てはまり、それにより個々の発明の態様の開示に関して常に相互に参照され得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
主請求項に記載の本発明によるガス分配プレートは、特に燃料電池または電解槽におけるガス分配および流れ案内の向上のために用いられる。この場合、ガス分配プレートの利点は、特にこのガス分配プレートによって、MEAの面において良好に規定可能な、および最適化されたガス分配が保証されることにある。可能な限り一定の電気エネルギーを提供するため、および燃料電池または電解槽を可能な限り最適に利用することを可能にするために、可能な限り均一なガスの分配を保証することが特に有利である。この場合、例えば燃料電池のカソード側で発生し、均一なガス分配をMEAの全面にわたって妨げる生成水の集積などの妨害変数を本発明によるガス分配プレートによって低減もしくは除去することができる。本発明によるガス分配プレートの別の利点は、特に簡単かつ安価な製造に該当する。さらに本発明によるガス分配プレートは、すでに知られた燃料電池または電解槽へのプレートの簡単な組み込みを可能にし、それにより既存のシステムにガス分配プレートを追加装備することもできる。
【0007】
ガス分配プレートは、殊に燃料電池ガス分配プレートまたは電解槽ガス分配プレートであり、特にPEM燃料電池ガス分配プレートまたはPEM電解槽ガス分配プレートである。本発明によれば、ガス分配プレートは、プレートの接触面に配置されたガス分配構造を有する。この場合、ガス分配プレートは、単一部分または複数部分で、特に2部分で形成されていてもよい。この場合、単一部分で形成されたガス分配プレートは、特に、ガス分配プレートに配置されるガス分配構造を少ない製造工程で、殊に1つの製造工程のみで作製できる迅速かつ簡単な製造という利点を有する。これに対して複数部分で形成されたガス分配プレートは、ガス分配プレートの個々の部分を個別に所望の特性に適合させることができるフレキシブルな製造を可能にする。したがってガス分配プレートは、例えば2部分で形成されていてもよく、第1部分は、殊に実質的に平らに成形された端子部分として形成されていてもよく、この端子部分がガス分配構造を有する第2コンタクト部分と形状結合的に、殊に力結合的に、特に物質結合的に接続される。この場合、接続は解除可能に形成されていてもよいし、解除不能に形成されていてもよい。形状結合的な接続の範囲内で、ガス分配プレートの第1部分と第2部分とは、例えばさねはぎ接続(Nut−Feder−Verbindung)、あり継ぎ接続(Schwalbenschwanzverbindung)、または噛合連結(Zahnkupplung)により互いに接続されていてもよい。これに対して力結合的接続は、くさび止めまたは締め付け、特にねじ締めによって形成されてもよい。物質結合的接続では、ガス分配プレートの第1部分および第2部分は、さらに接着結合により、殊にはんだ接合により、特に溶接接合または焼結接合により互いに接続されていてもよい。さらに、ガス分配プレートの個々の部分の個別の適合は、個々の部分の素材選定を考慮して行うこともでき、それにより複数部分で形成されたガス分配プレートは、それぞれの所望の特性に応じて少なくとも部分的に異なった素材から構成されていてもよい。この場合、特に、複数部分で形成されたガス分配プレートがいくつかの金属材料および/またはコーティングされた非金属材料から構成されることが考えられる。本発明によれば、さらにガス分配プレートのガス分配構造が成形構造として形成されていることが予定されている。この場合、本発明の意味における成形構造は、素材の相互関係(Materialzusammenhang)、または被加工物の質量を変えることなしに、製造技術的に材料を純粋に塑性変形させることにより生ぜしめられる構造と解される。この場合、本発明による成形構造は、製造時に材料を最大限に利用すること、したがって特に安価な製造というだけでなく、製造時間が短いということをも特徴とする。さらに、主題による成形構造は、被加工物の高品質、特に高強度を特徴とする。本発明によれば、成形時に様々な加工温度を用いることができ、それにより成形構造として形成されるガス分配構造を熱間成形された、殊に半熱間成形された、特に冷間成形された成形構造として形成することができる。この場合、冷間成形された成形構造は、他の成形構造と比べて高い強度という利点を有する。これに加えて、成形構造として、金属板成形された(blechgeformt)成形構造または鍛造成形された(massivgeformt)成形構造が予定されていてもよい。さらに、成形のためにいくつかの成形法が予定されていてもよい。したがって成形構造は、殊に絞り成形および/または圧縮成形された、および/または絞り圧縮成形された、および/または曲げ成形された、および/またはせん断成形された成形構造として形成されていてもよい。絞り成形された成形構造の範囲内で、成形構造が、例えば長くされてもよいし、広げられてもよく、殊に深くされてもよく、深くされた成形構造は、特にプレス加工されるか、またはエンボス加工されてもよい。エンボス法は、特に迅速、安価、かつ精密な製造という利点により主題によるガス分配構造のための製造方法として適している。いくつかのエンボス法が考えられ、それによりガス分配構造は、例えばホットエンボス加工(hubgepraegt)されるか、またはローラエンボス加工(abrollgepraegt)されてもよい。さらに、圧縮成形される成形構造は、特に圧延加工された、および/または自由成形された、および/または穴あけ加工された(gesenkt)、および/または押し込み加工された(eingedrueckt)、および/または押し出し加工された(duerchgedrueckt)成形構造として形成されていてもよい。さらに、絞り圧縮成形される成形構造は、引き抜き加工された(durchgezogen)、深絞り加工されたおよび/または圧縮加工された成形構造として形成されていてもよい。
【0008】
有利には、本発明の範囲内で、ガス分配プレートが少なくとも150μm未満、好ましくは100μm未満、特に好ましくは75μm未満の素材厚さを有し、特にガス分配プレートが実質的に一定の成形深さを有する一様な成形構造を具備することが予定されていてもよい。層厚さの量定基礎として、主題により、単一部分で形成されたガス分配プレートを出発点とする。2部分で形成されたガス分配プレートでは、プレートの2つの部分が同じ層厚さを有してもよいし、または異なった層厚さを有してもよい。したがって、2部分で形成されたガス分配プレートでは、主題により、同様に、プレートの2つの部分が少なくとも150μm未満、好ましくは100μm未満、特に好ましくは75μm未満の素材厚さを有することが提示される。本発明により小さく寸法設定された層厚さは、特にガス分配構造の作製時に有利である。なぜならこの場合、ガス分配構造を形成するために用いられる押圧力もしくは引張力が少なくて済むからである。このことはガス分配構造の素材だけでなく、特に成形のために使用される工具および機械の素材も傷めない。これに加えて、小さく寸法設定された層厚さを有するガス分配プレートは、より大きい直径のプレートと比べて重量の点で有利である。それでも層厚さは、本発明によれば、プレートの安定性に関して不利にならないように量定されている。しかしながら、実質的に一定の成形深さを有する一様な成形構造は、十分に一定の圧力状態でガス分配構造に沿って十分に均一なガス分配および電荷分配を約束し、このことは可能な限り一定の電気エネルギーを提供するため、および可能な限り最適なエネルギー利用のために必要である。本発明の範囲内で、成形深さに関して5%未満の、殊に3%未満の、特に好ましくは1%未満の偏差を有する成形構造が実質的に一定の成形深さを有する成形構造とみなされる。この場合、特に主題によるガス分配プレートの成形されない上面および成形された下面が成形構造の成形深さの量定基礎として用いられる。この場合、本発明の範囲内で、上面に対して垂直の主成形方向に沿って延びる、ガス分配プレートの成形されない上面の上側と成形された下面の下側、特に対応する成形構造の最も遠くに成形された点の下側との間の距離が成形構造の成形深さと解される。当然のことながら、第1端子部分と第2コンタクト部分とを備える複数部分で形成されたガス分配プレートでは、ガス分配構造を有する第2コンタクト部分の距離のみを量定基礎として考慮に入れることができる。本発明によれば、個々の成形構造が1mm未満、殊に700μm未満、特に好ましくは350μm未満の最大成形深さを有することが提示される。相応の成形深さは、製造技術的に簡単に作成することができる一方で、成形構造のジオメトリが与えられている場合には、相応のガスもしくは流体の効率的な流れ案内を保証するのに十分な大きさに寸法設定される。より大きい成形深さは、製造技術的に問題なく可能ではあろうが、そのことと結びついた相応のセルのサイズに鑑みて不利であろう。その際、いわゆる燃料電池スタックにおいて複数のガス分配プレートを相接して並列することを考慮しなければならない。
【0009】
燃料電池もしくは電解槽のガス分配プレートの素材には、特別な技術的な要求が課せられる。プレートは電気伝導および熱伝導が高くなければならないだけでなく、セルにおける化学的影響に対してもロバストでなければならず、さらにセルにおける高い機械的押付け力に耐えられなければならない。これに加えて、特に高温燃料電池および高温電解槽において使用するためには、プレート素材が、部分的に200℃をはるかに超える高温に持ちこたえなければならないことが必要である。こうした理由から、本発明によるガス分配プレートは、少なくとも部分的に金属材料から、殊に少なくとも部分的に鉄含有材料(例えば特殊鋼など)から、特に好ましくは少なくとも部分的にチタン材料から形成されることが提示される。これに代えて、またはこれに加えて、本発明によるガス分配プレートは、少なくとも部分的に鋼および/またはアルミニウム材料から、および/または銅材料から、および/または非金属材料、特にプラスチック、炭素ベースの、例えばグラファイトのような材料、もしくはラミックスから形成されていてもよい。非金属材料から形成されたガス分配プレートの実施形態で必要な導電性を保証するために、非金属材料が相応の導電コーティングを備えていてもよい。これに加えて、2部分で形成された実施形態では、異なった材料を互いに組み合わせることもでき、それによってガス分配プレートをプレートのそれぞれの所望の特性に特にフレキシブルに適合させることができる。例えば、ガス分配プレートの端子部分として形成された第1部分は、少なくとも部分的に銅材料から形成されていてもよいのに対して、コンタクト部分として形成されたガス分配プレートの第2部分は、少なくとも部分的にアルミニウム材料から形成されていてもよい。したがって、特に、ガス分配構造を備える、殊により大きい体積を占めるコンタクト部分は軽量構造に設計されていてもよく、それにもかかわらず、2つの部分の高い導電性が保証されている。異なった金属材料から形成された面間の境界面に起きやすい接触腐食を防止するために、ガス分配プレートの一部分がさらに相応のコーティングを備えていてもよい。したがって2部分の実施形態では、端子部分として形成されたガス分配プレートの第1部分が、例えば銅材料から形成されていてもよいのに対して、コンタクト部分としての、かつガス分配構造を備えた第2部分はアルミニウム材料から形成されていてもよく、その際、後者は、接触腐食を防止するために相応に、銅材料からなるコーティングを備えていてもよい。相応にコーティングされたアルミニウム材料からなるコンタクト部分に代えて、ガス分配構造を備える部分は、少なくとも部分的に、導電性のために適当な金属材料でコーティングされてもよい非金属材料から形成されていてもよい。
【0010】
さらに、本発明によれば、ガス分配プレートの成形構造が、成形構造に沿ってガス分配流路が形成されるように形成されていることが予定され、その際、ガス分配流路のおよび/または個々の成形構造の幅が1mm未満、殊に500μm未満であり、個々の成形構造および/またはガス分配流路は、互いに実質的に平行および/または垂直に配置された列状に配置されている。ガス分配構造の成形構造に沿って配置された流路は、主題により、ガス分配構造に沿ってガスが導かれる領域を形成する。この場合、流路の寸法は、成形構造の配列とサイズとによって決まる。本発明の範囲内で、流路幅は、直接隣り合う2つの成形構造間の距離により量定される。実質的に同じ成形深さの成形構造を有するガス分配プレートでは、その際、流路幅は、それぞれ直接隣り合う成形構造の1/2成形深さに量定される。このことは、例えば角錐状もしくは円錐状に成形された成形構造の場合がそうであるように、成形に沿う2つの隣り合う成形構造間の距離が一定でない場合に特に重要である。平均幅から5%未満の、殊に平均幅から2.5%未満の、特に好ましくは平均流路幅から1%未満のずれで流路が延びるならば、本発明の範囲内で、ガス分配流路の実質的に平行および/または垂直の配置とみなされる。流路が実質的に一定の長さおよび幅であるガス分配プレート上のガス分配構造内のガス分配流路の実質的に平行および/または垂直の配置は、全ガス分配構造にわたって実質的に一定のガス圧力を約束する。このことは、一定の電気エネルギーの提供を保証するだけでなく、MEAのアクティブ面の可能な限り効率的な利用をも保証する。
【0011】
均一な成形構造を有するガス分配構造に代えて、本発明によれば、ガス分配プレートが少なくとも部分的に、個々の非対称に成形された成形構造を備える一様でない成形構造を有することが予定されていてもよく、その際、これらの成形構造は、殊にその形状に沿って非対称に深くなり、特にこれらの成形構造の流入側に配置されたエッジは傾斜が付けられるか、または曲げられている。このような構造は、特に燃料電池のカソード側に発生して、MEAの全面にわたって均一なガス分配を妨げる生成水の集積を阻止するのに適している。この阻止は、流入側で少なくとも部分的に的確に小さく形成される成形深さによって、膜電極ユニットからのガス分配構造の距離を大きくすることによって提供され、それによりここでは流れを面接触下で的確に導くことができる。
【0012】
主題によるガス分配構造に沿って最適かつ的確な流れ案内を可能にするために、本発明によれば、様々に成形された成形構造を予定することができる。したがって成形構造は、例えば直方体状に、および/または立方体状に、および/または角錐状に、および/または円錐状に、および/または円柱状に成形されていてもよい。この場合、本発明によるガス分配プレートは、同じ形状の成形構造のみを備える均一なガス分配構造を備えることができるのみならず、同一のガス分配プレート上に様々に成形された成形構造が配置されている一様でないガス分配構造を有することもできる。殊に、成形構造は、特にガス分配プレートの流入側に傾斜が付けられるか、または曲げて形成されていてもよく、その際、成形構造が可能な限り低い迎角αを有する、殊に90°未満の迎角α、特に好ましくは60°未満の迎角α、特に45°未満の迎角αを有するように成形されていてもよい。この場合、本発明の範囲内で、成形構造の成形されない上面を通って延びる平面と、成形構造の側方に配置された内面との間の角度が迎角αと解される。流入側に配置された成形構造のより小さい迎角は、流れを面接触下で的確に導くことができることによりガス分配プレートの流れ案内を向上させる。
【0013】
これに代えて、またはこれに加えて、流れ装置の向上のためにさらに、特にガス分配構造の流入側にウェブ状またはフィン状の流れ誘導装置が配置されていてもよく、これらの流れ誘導装置によりガスもしくは流体を面接触下で的確に導くことができる。このウェブ状またはフィン状に形成された流れ誘導装置の導入は、当該成形工程に組み込まれてもよいし、または別の成形工程で行われてもよい。したがって、ウェブ状またはフィン状に形成された流れ誘導装置は、ガス分配構造に物質結合的に、かつ一体構造に形成されているか、もしくはガス分配構造から形成されている。
【0014】
流れ案内もしくはガス分配をさらに向上させるために、さらに成形構造が実質的に平行もしくは垂直の配置の他に、互いにずらして、および/または交互に方向を変える形で、および/または実質的に互いに無秩序に配置されていることが提示される。さらにこの配置に代えて、またはこれに加えて、成形構造が第1成形領域と第2成形領域とを有することが予定されていてもよく、その際、特に成形構造の下面に配置された第1領域がテーパに形成されている。これによって、特にガス分配プレートとMEAとの境界面の領域において流路幅を拡大することが可能である。したがって本発明によれば、殊に段差を付けた(gestuft)、特に成形方向に延びるテーパに成形された領域を有する成形構造が設けられていてもよい。
【0015】
独立方法クレームの特徴を有する方法も同様に本発明の主題である。この場合、ガス分配プレートの接触面に配置されたガス分配および流れ案内のための構造が成形法により作製されることが主題により予定されている。したがって本発明による方法は、本発明によるガス分配プレートに関して詳しく説明したのと同じ利点を伴う。本発明によるガス分配プレートの実施例においてすでに説明したように、本発明によるガス分配プレートを製造するための成形法として、熱間成形法、殊に半熱間成形法、特に冷間成形法を用いることができ、成形法は、金属板成形法(Blechumformverfahren)として、または鍛造成形法(Massivumformverfahren)としての形態であってもよい。特に、絞り成形法および/または圧縮成形法および/または絞り圧縮成形法および/または曲げ成形法および/またはせん断成形法を使用することができ、絞り成形法の範囲内で、成形構造が、特に長くする、広げる、または深くすることにより形成されてもよく、深くする範囲内で、ガス分配構造を、特にプレス加工またはエンボス加工によって形成することができる。エンボス法は、すでに説明したように、特に迅速、安価、かつ精密な作製という利点により、主題によるガス分配構造の作製方法として適しており、例えばホットエンボス加工またはローラエンボス加工などのいくつかのエンボス法が考えられる。さらに、圧縮成形により形成することができる成形構造の範囲内で、特に圧延法および/または自由成形法および/または押し込み法(Eindrueckverfahren)および/または押し出し法(Durchdrueckverfahren)を使用することができる。絞り圧縮成形法の範囲内で、主題による成形構造は、特に引き抜き法(Durchziehverfahren)および/または深絞り法および/または圧縮法により形成されてもよい。
【0016】
同様に、本発明の主題は、バイポーラプレートと、膜電極ユニットと、本発明によるガス分配プレートとを備える燃料電池である。この場合、主題により、ガス分配プレートがバイポーラプレートと膜電極ユニットとの間に配置され、バイポーラプレートおよび膜電極ユニットと導電接続されることが予定されている。ガス分配プレートは、殊にバイポーラプレートと物質結合的に接続されている。この場合、物質結合的接続は、接着、殊に半田付け、特に溶接、または焼結されていてもよい。
【0017】
本発明の他の利点、特徴、および詳細は、図面を参照しながら本発明の実施例が詳しく説明される以下の記載から明らかになる。その際、請求項および明細書に言及される特徴は、それぞれ単独、または任意の組み合わせで本発明に不可欠であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施例によるガス分配プレートの断面の模式図である。
図2】バイポーラプレートに配置された図1による本発明のガス分配プレートの図である。
図3】本発明の第2実施例によるガス分配プレートの断面の模式図である。
図4a】本発明の実施例によるガス分配プレートの成形構造の上面とA−AおよびB−B切断線に沿う断面の模式図である。
図4b】本発明の実施例によるガス分配プレートの成形構造の上面とA−AおよびB−B切断線に沿う断面の模式図である。
図4c】本発明の実施例によるガス分配プレートの成形構造の上面とA−AおよびB−B切断線に沿う断面の模式図である。
図5a】本発明の成形された成形構造の断面の模式図である。
図5b】本発明の成形された成形構造の断面の模式図である。
図5c】本発明の成形された成形構造の断面の模式図である。
図5d】本発明の成形された成形構造の断面の模式図である。
図6a】成形構造内に成形凹部が配置されている、本発明の成形された成形構造の断面の模式図である。
図6b】成形構造内に成形凹部が配置されている、本発明の成形された成形構造の断面の模式図である。
図7a】本発明のガス分配構造の部分領域の上面の模式図である。
図7b】本発明のガス分配構造の部分領域の上面の模式図である。
図7c】本発明のガス分配構造の部分領域の上面の模式図である。
図7d】本発明のガス分配構造の部分領域の上面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図において、同じ技術的特徴には同じ参照符号が使用される。
【0020】
図1は、本発明の第1実施例によるガス分配プレート2の断面の模式図を示す。ガス分配プレート2は、成形されない領域に沿って配置された上面4aと成形された領域に沿って配置された下面4bとを具備する。ガス分配プレート2は、下面4bを介して膜電極ユニット6のガス拡散層に直接配置されており、このガス拡散層と導電接続されている。ガス分配プレート2は、複数の個々の成形構造10から形成されている成形構造として形成されたガス分配構造を具備する。
【0021】
図2は、バイポーラプレート8に配置された図1による本発明のガス分配プレート2の図である。2つのプレート2、8は、固定的に、殊に力結合的に、特に物質結合的に互いに接続されており、バイポーラプレート8は、成形されない上面4aを介して直接ガス分配プレート2と接続されている。図2によるガス分配プレート2は、個々の成形構造10がガス分配プレート2に沿って実質的に一定の成形深さ14と一定の分配とを有する均一な直方体状のガス分配構造を有する。その際、個々の成形構造10は、それぞれの成形構造の内径を示す、かつ成形構造10の1/2成形深さに沿って量定される成形幅12を有している。特に、成形深さ14に沿って主成形方向14‘に様々な横断面を有する成形構造10の場合にこの定義を守らなければならない。その間に、成形構造10の成形深さ14は、ガス分配プレート2の成形されない上面4aの上側と、成形された下面の下側、特に対応する成形構造10の最も遠くに成形された点の下側との間の、主成形方向に沿って上面4aに対して垂直に延びる距離として量定される。ガス分配構造は、成形構造12の成形深さ10と幅の他に、直接横並びに配置された成形構造間の距離16によって特徴付けられ、この距離は、同様に、対応する成形構造10の1/2成形深さに量定される。個々の成形構造10の距離から、最終的にガス分配流路24が決定され、ガスもしくは流体は、ガス分配プレート2と膜電極ユニット6との間でこのガス分配流路に沿って通過する。
【0022】
図3は、本発明の第2実施例によるガス分配プレート2の断面の模式図を示す。図1および図2に示されたガス分配プレート2とは異なり、これは第1端子部分2aと第2コンタクト部分2bとから構成される2部分で形成されたガス分配プレート2である。このように形成されたガス分配プレート2は、燃料電池もしくは電解槽への特に簡単かつ安価な組み込みを約束する。図3からわかるように、端子部分として形成された第1部分2aは、成形深さ14の決定時には考慮されない。この場合、コンタクト部分2bは、成形構造として形成されたガス分配構造を備え、膜電極ユニット6との電気的接触を形成する。図3によるガス分配構造も、個々の成形構造10の成形深さ14および成形幅12、ならびに成形構造間の距離16に関して均一なガス分配構造として形成されている。もっともここでは個々の成形構造10が直方体状ではなく円錐台状に成形されており、円錐外周面と円錐底面との間の角度は迎角αによって定義される。一般に、本発明の範囲内で、成形構造10の上面を通って延びる平面と、成形構造の側方に配置された内面との間の角度が迎角αと解される。ここでは流れを面接触下で的確に導くことができることにより、鋭角の迎角αが特に流入側の領域においてより良好な流れ案内を可能にする。
【0023】
図4a〜図4cは、本発明の3つの異なった実施例によるガス分配プレート2の成形構造10の、それぞれ流れ方向に沿って上面(左)、A−A切断線に沿う断面(中央)、およびB−B切断線に沿う断面(右)の模式図である。図4aは成形構造10を示し、成形構造10には流れ案内の向上のために流入側にわずかに傾斜が付けられている。傾斜26によって、流れを面接触下で的確に導くことができ、それにより生成水の集積を効果的に防ぐことができる。図4bは、流れ案内の向上のためにウェブ状もしくはフィン状の流れ誘導装置20が配置され、この流れ誘導装置を用いて同様に流れを面接触下で効率的に導くことができるガス分配プレート2の成形構造10を示す。その際、流れ誘導装置20は、ガス分配プレート2の(成形された)一部分であるが、別個の部分として形成されていてもよい。さらに図4cは、流入側に配置された傾斜26の他に、流れ案内の向上のためにウェブ状もしくはフィン状の流れ誘導装置20が配置されているガス分配プレート2の成形構造10を示す。
【0024】
図5a〜図5dは、本発明の様々に成形された成形構造10の断面の模式図を示す。成形構造10の外形により、ガス分配構造に沿うガス分配および流れ案内に的確に影響を及ぼすことが可能である。
【0025】
この場合、図5aおよび図5dは、横断面においてかなり丸くしたV字もしくはU字形状を示し、これに対して図5bおよび図5cは、横断面においてかなり角ばったV字もしくはU字形状を示す。この場合、本発明によるガス分配プレート2は、同一形状の成形構造10を備える均一なガス分配構造と、異なった形状の成形構造10を備える非均一なガス分配構造とを有していてもよい。
【0026】
図6aおよび図6bは、成形構造10内に成形凹部14‘が配置された、異なる態様で成形された本発明の成形構造10の断面の模式図を示す。この場合、図6aは、成形構造10内に配置された1つの成形凹部14‘‘を示し、これに対して図6bは、成形構造10内に配置された2つの成形凹部14‘‘を示し、ガス分配プレート2のこの成形凹部に沿ってガスもしくは流体を導いて通過させることができる。
【0027】
さらには、図7a〜図7dは、本発明の異なったガス分配構造の部分領域の上面の模式図を示す。この場合、図7a〜図7dによるガス分配構造は、第1成形領域10‘‘と第2成形領域10‘とを有する成形構造10を具備し、特に成形構造10の下面4bに配置された第1領域10‘‘がテーパに形成されている。これによって流路24の流路幅16を、特にガス分配プレート2と膜電極ユニット6との境界面の領域において拡大することが可能である。この場合、図7aおよび図7cは、ずらした形で配置され互いに平行に延びる列の直方体状の成形構造10を有する。図7図7aと同一の配列を示すが、直方体状の成形構造10が丸くされている。図7dにおいて、成形構造10は同様に直方体状に形成されているが、図7a〜図7cによる実施形態とは異なり、横方向と縦方向に交互に配置した列である。
【符号の説明】
【0028】
2 ガス分配プレート
2a 端子部分
2b コンタクト部分
4a 上面
4b 下面
6 膜電極ユニット
8 バイポーラプレート
10 成形構造
10‘ 第2成形領域
10‘‘ 第1成形領域
14 成形深さ
14‘ 主成形方向、成形凹部
14‘‘ 成形凹部
16 成形構造間の距離、流路幅
20 流れ誘導装置
24 流路
26 傾斜
α 迎角
図1
図2
図3
図4a
図4b
図4c
図5a
図5b
図5c
図5d
図6a
図6b
図7a
図7b
図7c
図7d