(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、ポリイミドフィルムを、TFTアレイ用の基板に使用することが検討されている。TFTアレイは、多結晶の低温ポリシリコン(LTPS)を用いたプロセスを経て作製される。そのため、TFTアレイ用の基板に使用するポリイミドフィルムには、従来より高い耐熱性や、高い折り曲げ強度、優れたフレキシビリティ性等が求められている。しかしながら、上述のいずれの文献のポリイミドフィルムでもこれらが十分でなく、厚さ方向の位相差および線膨張係数を低減しつつ、耐熱性や折り曲げ強度を高め、さらにフレキシビリティ性を改良することが求められていた。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、耐熱性および折り曲げ強度(引張伸度)が高く、厚さ方向の位相差が小さく、線膨張係数が低く、さらには透明性の高いフィルム、およびこれを得るためのポリアミド酸やワニスを提供することを目的とする。また、当該フィルムを用いたタッチパネルディスプレイや液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、以下のフィルムを提供する。
[1]以下の(i)〜(vi)を全て満たす、フィルム。
(i)100〜200℃の範囲における、線膨張係数の平均値が35ppm/K以下である
(ii)厚さ方向の位相差の絶対値が、厚さ10μm当たり200nm以下である
(iii)ガラス転移温度が340℃以上である
(iv)全光線透過率が85%以上である
(v)L
*a
*b
*表色系におけるb
*値が5以下である
(vi)引張伸度が10%以上である
【0010】
[2]ジアミン成分およびテトラカルボン酸二無水物成分の重合物であるポリイミドを含む、[1]に記載のフィルム。
【0011】
[3]前記ジアミン成分が、t−ジアミノシクロヘキサンを含み、前記テトラカルボン酸二無水物成分が、下記一般式(a)または下記一般式(b)で表されるテトラカルボン酸二無水物Aと、
【化1】
(一般式(a)および(b)において、R
1、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、a、b、c、およびdはそれぞれ0〜3の整数を表す(ただし、a+bは3以下であり、c+dは3以下である))
下記一般式(c)または下記一般式(d)で表されるテトラカルボン酸二無水物Bと、
【化2】
(一般式(c)および(d)において、R
5、R
6、R
7、R
8は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、e、f、g、およびhはそれぞれ0〜3の整数を表す(ただし、e+fは3以下であり、g+hは3以下である))
下記一般式(e)で表されるテトラカルボン酸二無水物Cと、
【化3】
(一般式(e)において、R
9およびR
10は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、mおよびnはそれぞれ0〜3の整数を表す(ただし、m+nは3以下である))
を含む、[2]に記載のフィルム。
[4]前記ジアミン成分が、1,4−ジアミノメチルシクロヘキサンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンのうち、少なくとも一方をさらに含む、[3]に記載のフィルム。
【0012】
[5]前記ジアミン成分全量に対して、t−ジアミノシクロヘキサンを55〜100モル%含み、前記テトラカルボン酸二無水物Aを2〜50モル%、前記テトラカルボン酸二無水物Bを30〜80モル%、前記テトラカルボン酸二無水物Cを2〜50モル%含む、[3]または[4]に記載のフィルム。
【0013】
本発明は、以下のポリアミド酸も提供する。
[6]ジアミン成分およびテトラカルボン酸二無水物成分の重合物であるポリアミド酸であって、前記ポリアミド酸をイミド化して得られるポリイミドフィルムが、以下の(i)〜(vi)を全て満たす、ポリアミド酸。
(i)100〜200℃の範囲における、線膨張係数の平均値が35ppm/K以下である
(ii)厚さ方向の位相差の絶対値が、厚さ10μm当たり200nm以下である
(iii)ガラス転移温度が340℃以上である
(iv)全光線透過率が85%以上である
(v)L
*a
*b
*表色系におけるb
*値が5以下である
(vi)引張伸度が10%以上である
【0014】
[7]前記ジアミン成分が、t−ジアミノシクロヘキサンを含み、下記一般式(a)または下記一般式(b)で表されるテトラカルボン酸二無水物Aと、
【化4】
(一般式(a)および(b)において、R
1、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、a、b、c、およびdはそれぞれ0〜3の整数を表す(ただし、a+bは3以下であり、c+dは3以下である))
下記一般式(c)または下記一般式(d)で表されるテトラカルボン酸二無水物Bと、
【化5】
(一般式(c)および(d)において、R
5、R
6、R
7、R
8は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、e、f、g、およびhはそれぞれ0〜3の整数を表す(ただし、e+fは3以下であり、g+hは3以下である))
下記一般式(e)で表されるテトラカルボン酸二無水物Cと、
【化6】
(一般式(e)において、R
9およびR
10は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、mおよびnはそれぞれ0〜3の整数を表す(ただし、m+nは3以下である))
を含む、[6]に記載のポリアミド酸。
[8]前記ジアミン成分が、1,4−ジアミノメチルシクロヘキサンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンのうち、少なくとも一方をさらに含む、[7]に記載のポリアミド酸。
【0015】
[9]前記ジアミン成分全量に対して、t−ジアミノシクロヘキサンを55〜100モル%含み、前記テトラカルボン酸二無水物全量に対して、前記テトラカルボン酸二無水物Aを2〜50モル%、前記テトラカルボン酸二無水物Bを30〜80モル%、前記テトラカルボン酸二無水物Cを2〜50モル%含む、[7]または[8]に記載のポリアミド酸。
【0016】
さらに、本発明はポリアミド酸ワニスも提供する。
[10]上記[6]〜[9]のいずれかに記載のポリアミド酸を含む、ポリアミド酸ワニス。
【0017】
また、本発明は、以下のポリイミド積層体の製造方法や、ポリイミドフィルムの製造方法、各種ディスプレイ等も提供する。
[11]基材およびポリイミド層が積層されたポリイミド積層体の製造方法であって、基材上に、[10]に記載のポリアミド酸ワニスを塗布する工程と、前記ポリアミド酸ワニスの塗膜を、不活性ガス雰囲気下で加熱し、イミド化する工程と、を含む、ポリイミド積層体の製造方法。
[12]基材およびポリイミド層が積層されたポリイミド積層体の製造方法であって、基材上に、[10]に記載のポリアミド酸ワニスを塗布する工程と、前記ポリアミド酸ワニスの塗膜を、15kPa以下の雰囲気で加熱し、イミド化する工程と、含むポリイミド積層体の製造方法。
[13]上記[11]に記載のポリイミド積層体の製造方法で得られるポリイミド積層体から、基材を剥離する工程を含む、ポリイミドフィルムの製造方法。
[14]上記[12]に記載のポリイミド積層体の製造方法で得られるポリイミド積層体から、基材を剥離する工程を含む、ポリイミドフィルムの製造方法。
【0018】
[15]上記[1]に記載のフィルムを含む、タッチパネルディスプレイ。
[16]上記[1]に記載のフィルムを含む、液晶ディスプレイ。
[17]上記[1]に記載のフィルムを含む、有機ELディスプレイ。
【発明の効果】
【0019】
本発明のフィルムは、耐熱性が高く、引張伸度が大きい。また、厚さ方向の位相差が小さく、線膨張係数も小さい。さらには可視光の透過率が高く、着色も少ない。したがって、各種ディスプレイ装置用のパネル基板に適用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.フィルムについて
(1)フィルムの物性
前述のように、従来、十分な耐熱性と、高い折り曲げ強度と、優れたフレキシビリティ性とを兼ね備え、厚さ方向の位相差や線膨張係数が小さく、かつ透明性の高いフィルムは得られていないのが実状であった。これに対し、本発明のフィルムは、以下の要件(i)〜(vi)を全て満たす。そのため、当該フィルムは、各種ディスプレイ装置のパネル基板等に非常に有用である。
【0022】
(i)100〜200℃の範囲における、線膨張係数の平均値が35ppm/K以下である
(ii)厚さ方向の位相差の絶対値が、厚さ10μm当たり200nm以下である
(iii)ガラス転移温度が340℃以上である
(iv)全光線透過率が85%以上である
(v)L
*a
*b
*表色系におけるb
*値が5以下である
(vi)引張伸度が10%以上である
以下、各要件について詳しく説明する。
【0023】
(i)線膨張係数
本発明のフィルムは、100〜200℃の範囲における線膨張係数の平均値が、35ppm/K以下であり、好ましくは30ppm/K以下であり、さらに好ましくは28ppm/K以下である。また線膨張係数の平均値は通常7ppm/K以上である。上記温度範囲における線膨張係数の平均値が低い(35ppm以下である)と、各種素子をフィルム上に形成する際、フィルムが変形し難くなる。また、各種ディスプレイ装置を作製する際、フィルムを無機材料からなる基材上に固定し、フィルム上に各種素子を形成することがある。このとき、フィルムの線膨張係数と基材の線膨張係数との差が大きいと、フィルムと基材との応力に差が生じ、基材および積層体(フィルムや素子の積層物)が反りやすい。これに対し、線膨張係数が上記範囲であれば、このような反りが生じ難く、高品質なディスプレイ装置が得られる。
【0024】
ここで、フィルムの線膨張係数は、例えば後述のポリイミドを調製するためのジアミン成分またはテトラカルボン酸二無水物成分の種類によって調整される。特にジアミン成分が、t−ジアミノシクロヘキサンを一定以上含むと、線膨張係数が小さくなりやすい。当該線膨張係数は、熱機械分析装置(TMA)にて測定される。より具体的には、昇温速度5℃/分で100℃〜200℃までフィルムの温度を上げ、1秒毎(つまり0.083℃毎)に線膨張係数をプロットする。そして100℃〜200℃の範囲でプロットされた線膨張係数の平均値を、100〜200℃の範囲における線膨張係数の平均値とする。
【0025】
(ii)厚さ方向の位相差(Rth)
本発明のフィルムの厚さ方向の位相差(以下、「Rth」とも称する)の絶対値は、厚さ10μm当たり200nm以下であり、180nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましい。また、厚さ10μm当たりのRthの絶対値は低い方が好ましいが、上述の膨張係数が30ppm/K以下の場合、通常80nm以上、好ましくは100nm以上である。厚さ10μm当たりのRthの絶対値が200nm以下であると、フィルムを介して観察される像が歪んだりぼやけたりし難く、光学用途に非常に有用となる。フィルムのRthは、例えば後述のポリイミドを調製するためのジアミン成分またはテトラカルボン酸二無水物成分の種類によって調整される。特にテトラカルボン酸二無水物成分が、後述のテトラカルボン酸二無水物C(例えばフルオレニリデンビス無水フタル酸)および後述のテトラカルボン酸二無水物A(例えば2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)を一定量含む場合に、Rthの絶対値が小さくなりやすい。
【0026】
上記Rthの絶対値は、以下のように算出される。大塚電子社製 光学材料検査装置(型式RETS−100)にて、室温(20〜25℃)で、波長550nmの光をフィルムに照射し、X軸方向の屈折率nx、Y軸方向の屈折率ny、およびZ軸方向の屈折率nzをそれぞれ測定する。そして、これらの測定値と、フィルムの厚さdとに基づき、以下の式にて算出する。
Rthの絶対値(nm)=|[nz−(nx+ny)/2]×d|
そして必要に応じて、算出された値を、フィルムの厚さ10μm当たりの値に換算する。
【0027】
(iii)ガラス転移温度
本発明のフィルムのガラス転移温度(Tg)は340℃以上であり、350℃以上であることが好ましく、350〜370℃であることがさらに好ましい。フィルムのガラス転移温度が340℃以上であると、フィルムをTFTアレイ用の基板等にも適用することが可能となる。より具体的には、低温ポリシリコンを用いたTFTアレイ作製の際には、350℃付近での作業が必要であるが、ガラス転移温度が340℃以上であると、このような作業環境下でも使用可能となり、信頼性の高いディスプレイ装置が得られやすい。
【0028】
フィルムのガラス転移温度は、例えば後述のポリイミドが含むイミド基の当量、ポリイミドを調製するためのジアミン成分またはテトラカルボン酸二無水物成分の構造等によって調整される。特に、テトラカルボン酸二無水物成分が後述のテトラカルボン酸二無水物A(例えば2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)およびテトラカルボン酸二無水物C(例えばフルオレニリデンビス無水フタル酸)を一定量ずつ含んだり、ジアミン成分が、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンを一定量含んだりする場合に、ポリイミドフィルムのガラス転移温度(Tg)が高くなりやすい。上記ガラス転移温度は、熱機械分析装置(TMA)にて測定される。
【0029】
(iv)全光線透過率
本発明のフィルムは、全光線透過率が85%以上であり、好ましくは87%以上であり、さらに好ましくは89%以上である。全光線透過率は、好ましくは100%であるが、通常上限値は92%、好ましくは90%程度である。このように全光線透過率が高いフィルムは、光学用のフィルム、すなわち各種ディスプレイ装置用の基板等に好適である。
【0030】
フィルムの透過率は、例えば後述のポリイミドが含むジアミンおよび芳香族テトラカルボン酸二無水物の結合ユニット(イミド基)の量や、ポリイミド製造時の条件(ポリアミド酸のイミド化条件)によって調整される。また、ポリイミドを調製するためのテトラカルボン酸二無水物成分やジアミン成分の種類によっても、全光線透過率を高めることが可能である。例えば、ジアミン成分として、シクロヘキサン骨格を有する化合物(例えば、t−ジアミノシクロヘキサンや1,4−ジアミノメチルシクロヘキサン)を含む場合に、全光線透過率が高くなりやすい。
【0031】
フィルムの全光線透過率は、JIS−K7361−1に準じて、光源D65にて測定される。なお、上記全光線透過率を測定する際のフィルムの厚さは特に制限されず、実際に作製したフィルム(すなわち、使用時の厚さとしたときのフィルム)の全光線透過率を測定する。
【0032】
(v)L
*a
*b
*表色系におけるb
*値
本発明のフィルムは、L
*a
*b
*表色系におけるb
*値が5以下であり、3.5以下であることが好ましく、2.0以下であることがより好ましい。L
*a
*b
*表色系におけるb
*値は、フィルムの黄色みを表し、値が小さいほど黄色みが少ないことを示す。したがって、下限値は0が理想的であるが、フィルムがポリイミドを含む場合、通常下限値は1.0程度となる。ここで、b
*値が5以下であると、フィルムを各種ディスプレイ装置の基板等に用いた際、基板の透明性が良好になる。つまり、このようなフィルムは、光学用のフィルム、すなわち各種ディスプレイ装置用の基板等に好適である。b
*値は、例えば後述のポリイミドを調製するためのテトラカルボン酸二無水物成分やジアミン成分の種類によって高めることが可能である。例えば、ジアミン成分として、シクロヘキサン骨格を有する化合物(例えば、t−ジアミノシクロヘキサンや1,4−ジアミノメチルシクロヘキサン)を含む場合に、b
*値が小さくなりやすい。
【0033】
b
*値は、フィルムについて、測色計(例えば、スガ試験機製 三刺激値直読式測色計(Colour Cute i CC−i型))を使用し、透過モードで測定したときの値とする。また、上記b
*値を測定する際のフィルムの厚さは特に制限されず、実際に作製したフィルム(すなわち、使用時の厚さとしたときのフィルム)のb
*値を測定する。
【0034】
(vi)引張伸度
本発明のフィルムは、引張伸度が10%以上であり、好ましくは11%以上であり、さらに好ましくは13%以上である。また通常20%以下である。フィルムの引張伸度は、フィルムに対して引っ張り試験を行ったときの伸び率を表し、すなわちフィルムの折り曲げ強度やフレキシビリティ性を表す指標のひとつである。各種ディスプレイ装置を作製する際、上述のようにフィルムを無機材料からなる基材上に固定し、フィルム上に各種素子を形成することがある。この場合、素子の作製後、基材からフィルムを剥離する必要があるが、このとき、フィルムの引張伸度が10%以上であると、基材から剥離した際にデバイスが破損し難くなる。引張伸度は、例えば後述のポリイミドを調製するためのテトラカルボン酸二無水物成分やジアミン成分の種類によって高めることが可能であり、例えば、テトラカルボン酸二無水物成分が、後述のテトラカルボン酸二無水物A(例えば2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)を含む場合に、大きくなりやすい。
【0035】
引張試験は、引っ張り試験機(例えば島津小型卓上試験器EZ−S等)にて行うことができる。具体的には、
図1に示す形状のサンプル作製し、以下の条件にて測定する。なお、引張伸度を測定する際のフィルムの厚さは特に制限されず、実際に作製したフィルム(すなわち、使用時の厚さとしたときのポリイミドフィルム)の引張伸度を測定する。
(試験条件)
図1におけるAの長さ:50mm
図1におけるBの長さ:10mm
図1におけるCの長さ:20mm
図1におけるDの長さ:5mm
測定環境:23℃50%Rh
チャック間距離:30mm
引張速度:30mm/分
【0036】
また、引張伸度は、以下の式で算出される。
引張伸度={(引張試験により破断したときのフィルムの長さ−引張試験前のフィルムの長さ)/引張試験前のフィルムの長さ}×100
【0037】
(vii)厚さ
本発明のフィルムの厚さは特に制限されず、フィルムの用途等に応じて適宜選択される。フィルムがポリイミドを含む場合、すなわちポリイミドフィルムの厚さは通常1〜100μmであることが好ましく、好ましくは5〜50μmであり、より好ましくは5〜30μmである。
【0038】
(2)フィルムの材料について
上述のフィルムは、上記(i)から(vi)の要件を満たす限りにおいて、その材料は特に制限されない。例えば、ポリイミドを含むフィルム、耐熱ポリアミドと共に金属を含むフィルム等とすることができる。特に、耐熱性の観点等からポリイミドを含むフィルムが好ましい。以下、ポリイミドについて詳しく説明する。
【0039】
(2−1)ポリイミドについて
上述の物性を有し、かつポリイミドを含むフィルム(ポリイミドフィルム)は、特定のジアミン成分と特定のテトラカルボン酸二無水物との重合物からなる特定のポリイミドを含むことが好ましい。なお、ポリイミドフィルムは、本発明の目的および効果を損なわない範囲において、特定のポリイミド以外の成分を含んでいてもよい。ただし、特定のポリイミドの量は、ポリイミドフィルムの総量に対して、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、実質的に全てが特定のポリイミドからなることがさらに好ましい。
以下、特定のポリイミドについて詳しく説明する。
【0040】
(ジアミン成分)
特定のポリイミドを調製するためのジアミン成分は、少なくともt(トランス)−ジアミノシクロヘキサンを含む。ジアミン成分が、t−ジアミノシクロヘキサンを一定量含むことでポリイミドフィルムの(i)線膨張係数が小さくなったり、(iv)全光線透過率が高まったり、(v)L
*a
*b
*表色系におけるb
*値が小さくなったりする。t−ジアミノシクロヘキサンの含有量は、ジアミン成分の総量に対して55〜100モル%が好ましく、60〜100モル%がより好ましく、80〜100モル%であることがさらに好ましく、85〜100モル%であることが特に好ましく、90〜100モル%であることがさらに好ましい。
【0041】
また、ジアミン成分は、1,4−ジアミノメチルシクロヘキサンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンのうち、いずれか一方もしくは両方をさらに含むことが好ましい。
【0042】
1,4−ジアミノメチルシクロヘキサンの含有量は、ジアミン成分の総量に対して0〜20モル%であることが好ましく、0〜10モル%であることがより好ましい。ジアミン成分が、1,4−ジアミノメチルシクロヘキサンを20モル%以下含むと、(ii)厚さ方向の位相差の絶対値が小さくなったり、(iv)全光線透過率が高まったり、(v)L
*a
*b
*表色系におけるb
*値が小さくなったりしやすい。
【0043】
また、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンの含有量は、ジアミン成分の総量に対して0モル%以上30モル%未満であることが好ましく、0〜20モル%であることがより好ましく、0〜10モル%であることがさらに好ましい。ジアミン成分が、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンを30モル%以下含むと、ポリイミドフィルムの(ii)厚さ方向の位相差の絶対値が小さくなりやすく、(iii)ガラス転移温度が高まりやすい。なお、上記9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンのフェニル基は、炭素数が4以下のアルキル基(置換基)を1つまたは2つ以上有していてもよい。9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンが有する置換基の総数は3以下が好ましい。また、アルキル基の炭素数が1または2が好ましい。すなわち、置換基は、メチル基またはエチル基が好ましい。
【0044】
なお、ジアミン成分は、本発明の目的および効果を損なわない範囲において、上述のt−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノメチルシクロヘキサン、および9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン以外の成分を含んでいてもよい。
【0045】
他のジアミンの例には、公知の各種ジアミンが含まれ、具体的には、芳香環を有するジアミンや、スピロビインダン環を有するジアミン、シロキサンジアミン類、エチレングリコールジアミン類、アルキレンジアミン、脂環族ジアミン等が含まれる。
【0046】
(テトラカルボン酸二無水物成分)
特定のポリイミドを調製するためのテトラカルボン酸二無水物成分は、下記一般式(a)または下記一般式(b)で表されるテトラカルボン酸二無水物Aと、下記一般式(c)または下記一般式(d)で表されるテトラカルボン酸二無水物Bと、下記一般式(e)で表されるテトラカルボン酸二無水物Cと、を含む。
【化7】
一般式(a)および(b)において、R
1、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表す。当該アルキル基の炭素数は好ましくは、1または2である。また、a、b、c、およびdはそれぞれ0〜3の整数を表す。ただし、a+bは3以下であり、c+dは3以下である。
【化8】
一般式(c)および(d)において、R
5、R
6、R
7、R
8は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表す。当該アルキル基の炭素数は好ましくは1または2である。e、f、g、およびhはそれぞれ0〜3の整数を表す。ただし、e+fは3以下であり、g+hは3以下である。
【化9】
一般式(e)において、R
9およびR
10は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を表し、アルキル基の炭素数は、好ましくは1または2である。mおよびnはそれぞれ0〜3の整数を表す。ただし、m+nは3以下である。
【0047】
また特に、テトラカルボン酸二無水物は、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、およびフルオレニリデンビス無水フタル酸を少なくとも含むことが好ましい。
【0048】
テトラカルボン酸二無水物成分が、テトラカルボン酸二無水物A(例えば、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)を含むと、(ii)厚さ方向の位相差の絶対値が小さくなったり、(iii)ガラス転移温度が高まったり、(vi)引張伸度が高まったりしやすい。テトラカルボン酸二無水物A(例えば、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)の含有量は、テトラカルボン酸二無水物成分の総量に対して2〜50モル%が好ましく、5〜45モル%がより好ましく、10〜40モル%がさらに好ましく、10〜25モル%が特に好ましく、10〜20モル%であることがさらに好ましい。テトラカルボン酸二無水物A(例えば、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)の含有量が特に10モル%以上であると、厚さ方向の位相差が小さくなったり、(vi)引張伸度が高まったりしやすい。一方で、テトラカルボン酸二無水物A(例えば、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)の含有量が特に40モル%以下であると、相対的にテトラカルボン酸二無水物B(例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)およびテトラカルボン酸二無水物C(例えば、フルオレニリデンビス無水フタル酸)の量が十分になり、ポリイミドフィルムの(i)線膨張係数が小さくなったり、耐熱性が高くなったりする。
【0049】
また、テトラカルボン酸二無水物成分がテトラカルボン酸二無水物B(例えば3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)を含むと、ポリイミドフィルムの(i)線膨張係数が小さくなったりする。テトラカルボン酸二無水物B(例えば3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)の含有量は、テトラカルボン酸二無水物成分の量に対して30〜80モル%が好ましく、35〜75モル%がより好ましく、40〜70モル%であることがさらに好ましく、50〜65モル%であることが特に好ましい。テトラカルボン酸二無水物B(例えば3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)の量が特に40モル%以上であると、ポリイミドフィルムの(i)線膨張係数が小さくなったりする。一方で、テトラカルボン酸二無水物B(例えば3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)の量が特に70モル%以下であると、相対的にテトラカルボン酸二無水物A(例えば2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)やテトラカルボン酸二無水物C(例えばフルオレニリデンビス無水フタル酸)の量が十分になり、厚さ方向の位相差の絶対値が小さくなったり、ポリイミドフィルムの(vi)引張伸度が高まったり、耐熱性が高くなったりする。
【0050】
さらに、テトラカルボン酸二無水物成分がテトラカルボン酸二無水物C(例えばフルオレニリデンビス無水フタル酸)を含むと、ポリイミドフィルムの(ii)厚さ方向の位相差が小さくなったり、(iii)ガラス転移温度が高まったりしやすい。テトラカルボン酸二無水物C(例えばフルオレニリデンビス無水フタル酸)の含有量は、テトラカルボン酸二無水物成分の総量に対して2〜50モル%が好ましく、5〜45モル%がより好ましく、10〜40モル%であることがさらに好ましく、20〜40モル%であることが特に好ましい。テトラカルボン酸二無水物C(例えばフルオレニリデンビス無水フタル酸)の量が10モル%以上であると、ポリイミドフィルムの厚さ方向の位相差が小さくなりやすく、ガラス転移温度が高まりやすい。一方で、テトラカルボン酸二無水物C(例えばフルオレニリデンビス無水フタル酸)の量が40モル%以下であると、相対的にテトラカルボン酸二無水物A(例えば2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)やテトラカルボン酸二無水物B(例えば3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)の量等が十分になり、ポリイミドフィルムの(i)線膨張係数が小さくなったり、(vi)引張伸度が高まったりする。
【0051】
テトラカルボン酸二無水物の好ましい組み合わせとして、テトラカルボン酸二無水物全量に対して、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を10〜40モル%、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を40〜70モル%、フルオレニリデンビス無水フタル酸を10〜40モル%含む態様が含まれる。
【0052】
なお、テトラカルボン酸二無水物成分は、本発明の目的および効果を損なわない範囲において、上述のテトラカルボン酸二無水物A(例えば2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)、テトラカルボン酸二無水物B(例えば3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物)、およびテトラカルボン酸二無水物C(例えばフルオレニリデンビス無水フタル酸)以外の成分を含んでいてもよい。
【0053】
他のテトラカルボン酸二無水物の例には、公知のテトラカルボン酸二無水物が含まれ、具体的には、置換されていてもよい芳香族テトラカルボン酸二無水物や脂環族テトラカルボン酸二無水物等が含まれる。
【0054】
また、特定のポリイミドは、上記テトラカルボン酸二無水物成分の代わりに、三無水物や四無水物を一部含んでいてもよい。酸三無水物類の例には、ヘキサカルボン酸三無水物が含まれ、酸四無水物類の例には、オクタカルボン酸四無水物類が含まれる。
【0055】
(2−2)ポリイミドフィルムの製造方法について
特定のポリイミドは、上述のジアミン成分およびテトラカルボン酸二無水物成分を、公知の方法で重合することにより得られる。当該ポリイミドは、ランダム重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。ただし、ポリイミドが、芳香族系のジアミンおよび芳香族系のテトラカルボン酸二無水物の重合ユニット(イミド基)を多量に含むと、ポリイミドフィルムが着色しやすくなり、全光線透過率が低下する。そこで、ポリイミドがランダム重合体である場合には、ジアミン成分およびテトラカルボン酸二無水物成分の総量(モル)に対する、芳香族ジアミンおよび芳香族テトラカルボン酸二無水物の総量(モル)の割合が少ないことが好ましい。具体的には、0モル%以上30モル%未満であることが好ましく、より好ましくは0〜20モル%であり、さらに好ましくは0〜10モル%である。
【0056】
本発明のポリイミドフィルムは、1)上述のジアミン成分およびテトラカルボン酸二無水物成分を重合してポリアミド酸を調製し、2)当該ポリアミド酸を含むワニスを基材に塗布して塗膜を形成し、3)当該塗膜中のポリアミド酸をイミド化(閉環)することで得られる。
【0057】
なお、ポリイミドをブロック共重合体とする場合、1)ポリアミド酸オリゴマーおよびポリイミドオリゴマーを反応させてブロックポリアミド酸イミドを調製し、2)当該ブロックポリアミド酸イミドを含むワニスを基材に塗布して塗膜を形成し、3)当該塗膜中のブロックポリアミド酸イミドをイミド化(閉環)することで得られる。
【0058】
(ポリアミド酸もしくはブロックポリアミド酸イミドの調製)
調製するポリイミドがランダム重合体である場合、上述のテトラカルボン酸二無水物成分およびジアミン成分を混合し、これらを重合させてポリアミド酸を得る。ここで、ポリアミド酸調製時のジアミン成分の合計モル量xと、テトラカルボン酸二無水物成分の合計モル量yとの比(y/x)は、0.9〜1.1であることが好ましく、0.95〜1.05であることがより好ましく、さらに好ましくは0.97〜1.03であり、特に好ましくは0.99〜1.01である。
【0059】
ジアミン成分およびテトラカルボン酸二無水物成分の重合方法は特に制限されず、公知の方法とすることができる。例えば、撹拌機および窒素導入管を備える容器を用意し、窒素置換した容器内に溶剤を投入する。そして、最終的なポリアミド酸の固形分濃度が50質量%以下となるようにジアミン成分を加え、温度調整して攪拌する。当該溶液に、テトラカルボン酸二無水物を所定の量加える。そして、温度を調整しながら、1〜50時間程度攪拌する。
【0060】
ここで、ポリアミド酸調製時に使用する溶剤は、上述のジアミン成分およびテトラカルボン酸二無水物成分を溶解可能であれば特に制限されない。例えば、非プロトン性極性溶剤および/または水溶性アルコール系溶剤等とすることができる。
【0061】
非プロトン性極性溶剤の例には、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスフォラアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等;エーテル系化合物である、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−(メトキシメトキシ)エトキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が含まれる。
【0062】
水溶性アルコール系溶剤の例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、tert−ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、ジアセトンアルコール等が含まれる。
【0063】
ポリアミド酸調製時に使用する溶剤は、上記成分を1種のみ含んでいてもよく、2種以上の含んでいてもよい。上記の中でも、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、もしくはこれらの混合液が好ましい。
【0064】
一方、調製するポリイミドがブロック重合体である場合、特定のジアミン成分およびテトラカルボン酸二無水物成分を重合して、アミン末端のポリアミド酸オリゴマーと、酸無水物末端のポリイミドオリゴマーと、を予め調製する。そして、アミン末端のポリアミド酸オリゴマー溶液に、酸無水物末端のポリイミドオリゴマー溶液を加えて攪拌し、これらを重合させて、ブロックポリアミド酸イミドを得る。
【0065】
(ワニスの塗布)
前述のポリアミド酸(もしくはブロックポリアミド酸イミド)と溶剤とを含むワニスを、各種基材の表面に塗布して塗膜を形成する。ワニスが含む溶剤は、前述のポリアミド酸の調製に用いる溶剤と同一であってもよく、異なってもよい。ワニスは、溶剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0066】
ポリアミド酸(もしくはブロックポリアミド酸イミド)の量は、ワニスの総量に対して1〜50質量%であることが好ましく、10〜45質量%であることがより好ましい。ポリアミド酸(もしくはブロックポリアミド酸イミド)の量が50質量%を超えると、ワニスの粘度が過剰に高くなり、基材に塗布し難くなる場合がある。一方、ポリアミド酸(もしくはブロックポリアミド酸イミド)の濃度が1質量%未満であると、ワニスの粘度が過剰に低く、ワニスを所望の厚さに塗布できない場合がある。また、溶剤の乾燥に時間がかかり、ポリイミドフィルムの製造効率が悪くなる。
【0067】
ワニスを塗布する基材は、耐溶剤性および耐熱性を有するものであれば特に制限されない。基材は、得られるポリイミド層の剥離性が良好であるものが好ましく、ガラス、金属または耐熱性ポリマーフィルム等からなるフレキシブル基材であることが好ましい。金属からなるフレキシブル基材の例には、銅、アルミニウム、ステンレス、鉄、銀、パラジウム、ニッケル、クロム、モリブデン、タングステン、ジルコニウム、金、コバルト、チタン、タンタル、亜鉛、鉛、錫、シリコン、ビスマス、インジウム、またはこれらの合金からなる金属箔が含まれる。金属箔表面には、離型剤がコーティングされていてもよい。
【0068】
一方、耐熱性ポリマーフィルムからなるフレキシブル基材の例には、ポリイミドフィルム、アラミドフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルエーテルスルホンフィルム等が含まれる。耐熱性ポリマーフィルムからなるフレキシブル基材は、離型剤や耐電防止剤を含んでいてもよく、表面に離型剤や帯電防止剤がコーティングされていてもよい。得られるポリイミドフィルムの剥離性が良好であり、かつ耐熱性および耐溶剤性が高いことから、基材はポリイミドフィルムであることが好ましい。
【0069】
基材の形状は、製造するポリイミドフィルムの形状に合わせて適宜選択され、単葉シート状であってもよく、長尺状であってもよい。基材の厚さは、5〜150μmであることが好ましく、より好ましくは10〜70μmである。基材の厚さが5μm未満であると、ワニスの塗布中に、基材に皺が発生したり、基材が裂けたりする場合がある。
【0070】
ワニスの基材への塗布方法は、一定の厚さで塗布可能な方法であれば、特に制限されない。塗布装置の例には、ダイコータ、コンマコータ、ロールコータ、グラビアコータ、カーテンコータ、スプレーコータ、リップコータ等が含まれる。形成する塗膜の厚さは、所望のポリイミドフィルムの厚さに応じて適宜選択される。
【0071】
(ポリアミド酸(もしくはブロックポリアミド酸イミド)のイミド化)
続いて、ポリアミド酸(もしくはブロックポリアミド酸イミド)を含むワニスの塗膜を加熱し、ポリアミド酸(もしくはブロックポリアミド酸イミド)をイミド化(閉環)させる。具体的には、上述のワニスの塗膜を、150℃以下の温度から200℃超まで温度を上昇させながら加熱してポリアミド酸(もしくはブロックポリアミド酸イミド)をイミド化させる。またこのとき、塗膜中の溶剤を除去する。そして所定の温度まで昇温させた後、一定時間、当該温度で加熱する。
【0072】
一般的に、ポリアミド酸等がイミド化する温度は150〜200℃である。そのため、塗膜の温度を急激に200℃以上まで上昇させると、塗膜から溶剤が揮発する前に、塗膜表面のポリアミド酸がイミド化する。その結果、塗膜内に残った溶剤が気泡を生じさせたり、塗膜表面に凹凸を生じたさせたりする。したがって、150〜200℃の温度領域では、塗膜の温度を徐々に上昇させることが好ましい。具体的には150〜200℃の温度領域における昇温速度を0.25〜50℃/分とすることが好ましく、1〜40℃/分とすることがより好ましく、2〜30℃/分とすることがさらに好ましい。
【0073】
昇温は、連続的でも段階的(逐次的)でもよいが、連続的とすることが、得られるポリイミドフィルムの外観不良抑制の面から好ましい。また、上述の全温度範囲において、昇温速度を一定としてもよく、途中で変化させてもよい。
【0074】
単葉状の塗膜を昇温しながら加熱する方法の例には、オーブン内温度を昇温させる方法がある。この場合、昇温速度は、オーブンの設定によって調整する。また、長尺状の塗膜を昇温しながら加熱する場合、例えば塗膜を加熱するための加熱炉を、基材の搬送(移動)方向に沿って複数配置し;加熱炉の温度を、加熱炉ごとに変化させる。例えば、基材の移動方向に沿って、それぞれの加熱炉の温度を高めればよい。この場合、昇温速度は、基材の搬送速度で調整する。
【0075】
前述のように、昇温後、一定温度で一定時間加熱することが好ましい。当該温度は特に制限されないが、フィルム中の溶剤量が0.5質量%以下となるような温度であることが好ましい。例えば、ガラス転移温度以下であってもよいが、ガラス転移温度以上とすることで、溶剤を除去しやすくなる。具体的な加熱温度は、250℃以上であることが好ましく、より好ましくは280℃以上であり、さらに好ましくは320℃以上である。加熱時間は、通常0.5〜2時間程度である。
【0076】
前述の塗膜を、一定温度で加熱する際の加熱方法は特に制限されず、例えば、一定温度に調整したオーブン等で加熱してもよい。また、長尺状の塗膜は、一定に温度を保持した加熱炉等で加熱してもよい。
【0077】
ここで、ポリイミドは、200℃を超える温度で加熱すると酸化されやすい。ポリイミドが酸化されると、得られるポリイミドフィルムが黄変し、ポリイミドフィルムの全光線透過率が低下する。そこで、200℃を超える温度領域では、(i)加熱雰囲気を不活性ガス雰囲気とする、もしくは(ii)加熱雰囲気を減圧することが好ましい。
【0078】
(i)加熱雰囲気を不活性ガス雰囲気とすると、ポリイミドの酸化反応が抑制される。不活性ガスの種類は特に制限されず、アルゴンガスや窒素ガス等とすることができる。また特に、200℃を超える温度領域における酸素濃度は、5体積%以下であることが好ましく、3体積%以下であることがより好ましく、1体積%以下であることがさらに好ましい。雰囲気中の酸素濃度は、市販の酸素濃度計(例えば、ジルコニア式酸素濃度計)により測定される。
【0079】
(ii)また、加熱雰囲気を減圧することでも、ポリイミドの酸化反応が抑制される。加熱雰囲気を減圧する場合には、雰囲気内の圧力を15kPa以下とすることが好ましく、5kPa以下とすることがより好ましく、1kPa以下とすることがさらに好ましい。加熱雰囲気を減圧する場合には、減圧オーブン等で塗膜を加熱する。
【0080】
ポリアミド酸のイミド化(閉環)後、基材を剥離することで、ポリイミドフィルムが得られる。ポリイミドフィルムを基材から剥離する際には、剥離帯電によりポリイミドフィルムに異物が吸着する可能性がある。したがって、(i)基材に帯電防止剤をコーティングする、(ii)ポリアミド酸の塗布装置やポリイミドフィルムの剥離装置に静電気除去部材(例えば除電バー、除電糸、イオン送風型静電気除去装置等)を設置することが好ましい。
【0081】
(3)フィルムの用途
前述のように、本発明のフィルムは、耐熱性および折り曲げ強度が高く、フレキシビリティ性に優れる。また、全光線透過率が高く、線膨張係数が小さく、さらに厚さ方向の位相差が小さい。そのため、特にディスプレイ装置のパネル基板に好適である。ディスプレイ装置の例には、タッチパネル、液晶表示ディスプレイ、有機ELディスプレイ等が含まれる。
【0082】
タッチパネルは、一般的に、(i)透明電極(検出電極層)を有する透明基板、(ii)接着層、および(iii)透明電極(駆動電極層)を有する透明基板からなるパネル体である。前述のポリイミドフィルムは、検出電極層側の透明基板、および駆動電極層側の透明基板のいずれにも適用できる。
【0083】
また、液晶表示ディスプレイ装置の液晶セルは、通常、(i)第一の透明板、(ii)透明電極に挟まれた液晶材料、および(iii)第二の透明板がこの順に積層された積層構造を有するパネル体である。前述のフィルムは、上記第一の透明板、および第二の透明板のいずれにも適用可能である。また、前述のフィルムは、液晶ディスプレイ装置におけるカラーフィルタ用の基板にも、適用可能である。
【0084】
有機ELパネルは、通常、透明基板、アノード透明電極層、有機EL層、カソード反射電極層、対向基板がこの順に積層されたパネルである。前述のフィルムは、上記透明基板、および対向基板のいずれにも適用できる。
【0085】
2.ディスプレイ装置の製造方法について
前述のフィルム上に、素子を形成することで、前述の各種ディスプレイ装置を製造することができる。以下、ポリイミドフィルムを用いる場合を例に説明する。
【0086】
ディスプレイ装置の製造方法は、基材上に前述のポリアミド酸を含むワニスを塗布した後、ポリアミド酸をイミド化し、基材とポリイミドとが積層されたポリイミド積層体を準備する工程と、当該ポリイミド積層体からポリイミド層を剥離してポリイミドフィルムを得る工程と、当該ポリイミドフィルム上に素子を形成する工程等と、を含む方法とすることができる。
【0087】
より具体的に、
図2を用いて説明する。ディスプレイ装置を製造する際には、まず、
図2(a)に示されるように、基材11上にポリイミド層1’が積層されたポリイミド積層体12を準備する。当該ポリイミド積層体12の製造方法は前述のポリイミドフィルムの製造方法と同様とすることができる。そして、ポリイミド積層体12から、ポリイミド層1’を剥離し(
図2(a))、ポリイミド層1’上に素子13を形成する(
図2(b))。このときポリイミド層1’上に形成する素子は、前述のタッチパネルの電極層や、液晶ディスプレイ装置のカラーフィルタ、有機ELパネルの電極層や有機EL層等とすることができる。
【0088】
また、ディスプレイ装置の製造方法の他の例としては、基材上に前述のポリアミド酸を含むワニスを塗布した後、ポリアミド酸をイミド化し、基材とポリイミドとが積層されたポリイミド積層体を準備する工程と、当該ポリイミド積層体のポリイミド層上に素子を形成する工程と、素子の形成後、ポリイミド層を基材から剥離する工程等と、を含む方法とすることができる。
【0089】
より具体的に、
図3を用いて説明する。基材11上にポリイミド層1’が積層されたポリイミド積層体12を準備し、当該ポリイミド層1’上に素子13を形成する方法(
図3(a))とすることができる。この方法では、素子13の形成後に、基材11からポリイミド層1’を剥離して(
図3(b))、素子13が形成されディスプレイ装置を得る(
図3(c))。この方法では、素子13の形成時にポリイミド層1’にかかる応力が基材11に吸収されやすい。したがって、素子13の形成時にポリイミド層1’が裂けたり割れたりし難い。
【0090】
本発明では、上述の(i)線膨張係数、(ii)厚さ方向の位相差の絶対値、(iii)ガラス転移温度、(iv)全光線透過率、(v)L
*a
*b
*表色系におけるb
*値、および(vi)引張伸度を全て満たすため、ディスプレイ装置を作製する際にフィルムに反りが生じ難く、さらには、当該フィルム上に低温ポリシリコンを用いたTFTアレイ等の作製等も可能である。また、ディスプレイ装置作製のための基材(例えば上述のポリイミド積層体の基材等)から容易に剥離することも可能である。つまり、高品質で、信頼性の高いディスプレイ装置が得られる。またさらに、得られたディスプレイ装置において観察される像に歪み等が生じ難く、視認性も良好である。
【実施例】
【0091】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれによって何ら制限を受けない。
【0092】
1.テトラカルボン酸二無水物およびジアミン成分
実施例および比較例で用いたテトラカルボン酸二無水物およびジアミン成分の略称は、それぞれ以下の通りである。
[テトラカルボン酸二無水物成分]
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
a−BPDA:2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
BPAF:フルオレニリデンビス無水フタル酸
【0093】
[ジアミン成分]
t−DACH:t−ジアミノシクロヘキサン(トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン)
1,4−BAC:1,4−ジアミノメチルシクロヘキサン
BAFL:9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン
1,5−DAN:1,5−ジアミノナフタレン
4,4’−DAS:4,4’−ジアミノジフェニルスルホン
【0094】
(合成例1)
温度計、コンデンサー、窒素導入管および攪拌羽を備えたフラスコに、t−DACH:7.19g(0.063モル)、1,4−BAC:1.00g(0.007モル)およびN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)179.4g(15質量%相当)を加えて、窒素雰囲気下において攪拌し、均一な溶液とした。当該溶液にs−BPDA:11.33g(0.039モル)、a−BPDA:4.12g(0.014モル)、BPAF:8.02g(0.017モル)を粉体で装入したところ、徐々に発熱があり、白色の塩の生成が確認された。溶液の温度を上げ、内温80〜85℃で1時間反応させたところ、均一な溶液となった。その後、室温まで冷却し、一晩室温にて熟成させて淡黄色の粘稠なワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの固有対数粘度:ηinh(ポリマー濃度0.5g/dL、NMP、25℃にてウベローデ粘度管にて測定)は1.17dL/gであり、E型粘度計による25℃における粘度は38,000mPa・sであった。
【0095】
(合成例2)
合成例1と同様の反応装置にt−DACH:7.99g(0.070モル)およびN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)178.3g(15質量%相当)を加えて、窒素雰囲気下において攪拌し、均一な溶液とした。当該溶液にs−BPDA:11.33g(0.039モル)、a−BPDA:4.12g(0.014モル)、BPAF:8.02g(0.017モル)を粉体で装入したところ、徐々に発熱があり、白色の塩の生成が確認された。溶液の温度を上げ、内温80〜85℃で1時間反応させたところ、均一な溶液となった。その後、室温まで冷却し、一晩室温にて熟成させて淡黄色の粘稠なワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの固有対数粘度:ηinh(ポリマー濃度0.5g/dL、NMP、25℃にてウベローデ粘度管にて測定)は1.08dL/gであり、E型粘度計による25℃における粘度は34,000mPa・sであった。
【0096】
(合成例3)
合成例1と同様の反応装置にt−DACH:4.11g(0.036モル)、BAFL:1.39g(0.004モル)、およびN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)74.3g(20質量%相当)を加えて、窒素雰囲気下において攪拌し、均一な溶液とした。当該溶液にs−BPDA:7.06g(0.024モル)、a−BPDA:2.35g(0.008モル)、BPAF:3.67g(0.008モル)を粉体で装入したところ、徐々に発熱があり、白色の塩の生成が確認された。溶液の温度を上げ、内温80〜85℃で1時間反応させたところ、均一な溶液となった。その後、室温まで冷却し、一晩室温にて熟成させて淡黄色の粘稠なワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの固有対数粘度:ηinh(ポリマー濃度0.5g/dL、NMP、25℃にてウベローデ粘度管にて測定)は0.74dL/gであり、E型粘度計による25℃における粘度は32,000mPa・sであった。
【0097】
(合成例4)
合成例1と同様の反応装置にt−DACH:6.39g(0.056モル)、1,4−BAC:1.00g(0.007モル)、BAFL:2.44g(0.007モル)、およびN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)151.7g(18質量%相当)を加えて、窒素雰囲気下において攪拌し、均一な溶液とした。当該溶液にs−BPDA:12.36g(0.042モル)、a−BPDA:3.09g(0.011モル)、およびBPAF:8.02g(0.017モル)を粉体で装入したところ、徐々に発熱があり、白色の塩の生成が確認された。溶液の温度を上げ、内温80〜85℃で1時間反応させたところ、均一な溶液となった。その後、室温まで冷却し、一晩室温にて熟成させて淡黄色の粘稠なワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの固有対数粘度:ηinh(ポリマー濃度0.5g/dL、NMP、25℃にてウベローデ粘度管にて測定)は0.99dL/gであり、E型粘度計による25℃における粘度は17,000mPa・sであった。
【0098】
(合成例5)
合成例1と同様の反応装置にt−DACH:7.99g(0.070モル)およびN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)188.1g(15質量%相当)を加えて、窒素雰囲気下において攪拌し、均一な溶液とした。当該溶液にs−BPDA:10.30g(0.035モル)、a−BPDA:2.06g(0.007モル)、およびBPAF:12.84g(0.028モル)を粉体で装入したところ、徐々に発熱があり、白色の塩の生成が確認された。溶液の温度を上げ、内温80〜85℃で1時間反応させたところ、均一な溶液となった。その後、室温まで冷却し、一晩室温にて熟成させて淡黄色の粘稠なワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの固有対数粘度:ηinh(ポリマー濃度0.5g/dL、NMP、25℃にてウベローデ粘度管にて測定)は1.24dL/gであり、E型粘度計による25℃における粘度は41,000mPa・sであった。
【0099】
(合成例6)
合成例1と同様の反応装置にt−DACH:8.56g(0.075モル)およびN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)201.5g(15質量%相当)を加えて、窒素雰囲気下において攪拌し、均一な溶液とした。当該溶液にs−BPDA:13.24g(0.045モル)およびBPAF:12.84g(0.028モル)を粉体で装入したところ、徐々に発熱があり、白色の塩の生成が確認された。溶液の温度を上げ、内温80〜85℃で1時間反応させたところ、均一な溶液となった。その後、室温まで冷却し、一晩室温にて熟成させて淡黄色の粘稠なワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの固有対数粘度:ηinh(ポリマー濃度0.5g/dL、NMP、25℃にてウベローデ粘度管にて測定)は1.22dL/gであり、E型粘度計による25℃における粘度は33,000mPa・sであった。
【0100】
(合成例7)
温度計、コンデンサー、窒素導入管および攪拌羽を備えたフラスコに、t−DACH:5.60g(0.049モル)、1,4−BAC:2.99g(0.021モル)、およびN−メチル−2−ピロリジノン(NMP):181.6g(15質量%相当)を加えて、窒素雰囲気下において攪拌し、均一な溶液とした。当該溶液にs−BPDA:15.45g(0.053モル)およびBPAF:8.02g(0.017モル)を粉体で装入したところ、徐々に発熱があり、白色の塩の生成が確認された。溶液の温度を上げ、内温80〜85℃で1時間反応させたところ、均一な溶液となった。その後、室温まで冷却し、一晩室温にて熟成させて淡黄色の粘稠なワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの固有対数粘度:ηinh(ポリマー濃度0.5g/dL、NMP、25℃にてウベローデ粘度管にて測定)は1.12dL/gであり、E型粘度計による25℃における粘度は39,000mPa・sであった。
【0101】
(合成例8)
合成例1と同様の反応装置にt−DACH:4.80g(0.042モル)、BAFL:6.27g(0.018モル)、およびN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)168.3g(15質量%相当)を加えて、窒素雰囲気下において攪拌し、均一な溶液とした。当該溶液にs−BPDA:15.89g(0.054モル)、およびBPAF:2.75g(0.006モル)を粉体で装入したところ、徐々に発熱があり、白色の塩の生成が確認された。溶液の温度を上げ、内温80〜85℃で1時間反応させたところ、均一な溶液となった。その後、室温まで冷却し、一晩室温にて熟成させて淡黄色の粘稠なワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの固有対数粘度:ηinh(ポリマー濃度0.5g/dL、NMP、25℃にてウベローデ粘度管にて測定)は0.96dL/gであり、E型粘度計による25℃における粘度は9,500mPa・sであった。
【0102】
(合成例9)
合成例1と同様の反応装置に1,4−BAC:8.53g(0.060モル)、1,5−DAN:3.16g(0.020モル)、4,4’−DAS:4.97g(0.020モル)、およびN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)197.5g(20質量%相当)を加えて、窒素雰囲気下において攪拌し、均一の溶液とした。当該溶液にs−BPDA:23.54g(0.080モル)、BPAF:9.17g(0.020モル)を粉体で装入したところ、徐々に発熱があり、白色の塩の生成が確認された。溶液の温度を上げ、内温80〜85℃で1時間反応させたところ、均一な溶液となった。その後、室温まで冷却し、一晩室温にて熟成させて淡黄色の粘稠なワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの固有対数粘度:ηinh(ポリマー濃度0.5g/dL、NMP、25℃にてウベローデ粘度管にて測定)は0.35dL/gであり、E型粘度計による25℃における粘度は298mPa・sであった。
【0103】
(合成例10)
合成例1と同様の反応装置にt−DACH:7.99g(0.070モル)およびN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)188.1g(15質量%相当)を加えて、窒素雰囲気下において攪拌し、均一な溶液とした。当該溶液にa−BPDA:12.36g(0.042モル)、およびBPAF:12.84g(0.028モル)を粉体で装入したところ、徐々に発熱があり、白色の塩の生成が確認された。溶液の温度を上げ、内温80〜85℃で1時間反応させたところ、均一な溶液となった。その後、室温まで冷却し、一晩室温にて熟成させて淡黄色の粘稠なワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの固有対数粘度:ηinh(ポリマー濃度0.5g/dL、NMP、25℃にてウベローデ粘度管にて測定)は0.57dL/gであり、E型粘度計による25℃における粘度は924mPa・sであった。
【0104】
(合成例11)
合成例1と同様の反応装置にt−DACH:11.42g(0.100モル)およびN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)186.1g(18質量%相当)を加えて、窒素雰囲気下において攪拌し、均一な溶液とした。当該溶液にa−BPDA:14.71g(0.050モル)およびs−BPDA:14.71g(0.050モル)を粉体で装入したところ、徐々に発熱があり、白色の塩の生成が確認された。溶液の温度を上げ、内温80〜85℃で1時間反応させたところ、均一な溶液となった。その後、室温まで冷却し、一晩室温にて熟成させて淡黄色の粘稠なワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの固有対数粘度:ηinh(ポリマー濃度0.5g/dL、NMP、25℃にてウベローデ粘度管にて測定)は0.64dL/gであり、E型粘度計による25℃における粘度は13,170mPa・sであった。
【0105】
(合成例12)
合成例1と同様の反応装置に、1,4−BAC:9.96g(0.070モル)およびN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)189.4g(15質量%相当)を加えて、窒素雰囲気下において攪拌し、均一な溶液とした。当該溶液にs−BPDA:11.33g(0.039モル)、a−BPDA:4.12g(0.014モル)、およびBPAF:8.02g(0.017モル)を粉体で装入したところ、徐々に発熱があり、白色の塩の生成が確認された。溶液の温度を上げ、内温80〜85℃で1時間反応させたところ、均一な溶液となった。その後、室温まで冷却し、一晩室温にて熟成させて淡黄色の粘稠なワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの固有対数粘度:ηinh(ポリマー濃度0.5g/dL、NMP、25℃にてウベローデ粘度管にて測定)は1.02dL/gであり、E型粘度計による25℃における粘度は5,610mPa・sであった。
【0106】
(実施例1)
合成例1で調製したポリアミド酸ワニスを、ガラス基材上にドクターブレードで塗工し、ポリアミド酸ワニスの塗膜を形成した。基材およびポリアミド酸ワニスの塗膜からなる積層体をイナートオーブンに入れた。その後、イナートオーブン内の酸素濃度を0.1体積%以下に制御し、オーブン内の雰囲気を50℃から350℃まで2時間30分かけて昇温(昇温速度:2℃/分)し、さらに350℃で1時間保持した。加熱終了後、さらにイナート下において自然冷却した後のサンプルを蒸留水に浸漬させて、基材からポリイミドフィルムを剥離させた。得られたポリイミドフィルムの厚さ、各種物性を表1に示す。
【0107】
(実施例2〜5、および比較例1〜4,6,7)
ポリアミド酸ワニスを、表1に示されるポリアミド酸ワニスにそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にポリイミドフィルムを作製した。
【0108】
(比較例5)
ポリアミド酸ワニスを、表1に示されるポリアミド酸ワニスにそれぞれ変更した以外は実施例1と同様に、ガラス基材上に塗膜を形成し、イナートオーブンで加熱後、イナート下において自然冷却した。塗膜は割れており、フィルムを形成できなかった。
【0109】
[評価]
各実施例および比較例で作製したポリイミドフィルムについて、(i)線膨張係数(CTE)、(ii)厚さ10μmあたりの厚さ方向の位相差(Rth)、(iii)ガラス転移温度(Tg)、(iv)全光線透過率、(v)L
*a
*b
*表色系におけるb
*値、(vi)引張伸度(EL)を、それぞれ以下の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0110】
(i)線膨張係数(CTE)および(iii)ガラス転移温度(Tg)の測定
実施例および比較例で作製したポリイミドフィルムを幅4mm、長さ20mm裁断した。当該サンプルについて、島津製作所社製 熱分析装置(TMA−50)で線膨張係数(CTE)およびガラス転移温度(Tg)を測定した。より具体的には、昇温速度5℃/分で100℃〜200℃までポリイミドフィルムの温度を上げ、1秒毎(つまり0.083℃毎)に線膨張係数をプロットした。そして100℃〜200℃の範囲でプロットされた線膨張係数の平均値を、100〜200℃の範囲における線膨張係数の平均値とした。算出された線膨張係数の平均値を表1に表す。
【0111】
(ii)10μmあたりの厚さ方向の位相差(Rth)の算出
実施例および比較例で作製したポリイミドフィルムのX軸方向の屈折率nxとY軸方向の屈折率nyと、Z軸方向の屈折率nzとを、大塚電子社製光学材料検査装置(型式RETS−100)にて、室温(20〜25℃)、波長550nmの光で測定した。そして、X軸方向の屈折率nx、Y軸方向の屈折率ny、およびZ軸方向の屈折率nzとフィルムの厚さ(d)から、以下の式に基づき、Rthの絶対値を算出した。
Rthの絶対値(nm)=|[nz−(nx+ny)/2]×d|
そして、得られた値を、フィルムの厚さ(d)10μmあたりの値に換算した。
【0112】
(iv)全光線透過率の測定
実施例および比較例で作製したポリイミドフィルムの全光線透過率を、日本電色工業製ヘーズメーターNDH2000を用いて、JIS−K7361に準じて、光源D65で測定した。
【0113】
(v)L
*a
*b
*表色系におけるb
*値測定
実施例および比較例で作製したポリイミドフィルムについて、スガ試験機製 三刺激値直読式測色計(Colour Cute i CC−i型)を使用し、ポリイミドフィルムの黄味の指標となるb
*値を透過モードで測定した。
【0114】
(iv)引張伸度の測定
実施例および比較例で作製したポリイミドフィルムを、
図1に示す形状に加工し、これをサンプルとした。そして、島津小型卓上試験機EZ−S(解析ソフト;TRAPEZIUM2)を用いて引張伸度を測定した。なお、引張伸度の測定条件は以下のように設定した。
(試験条件)
図1におけるAの長さ:50mm
図1におけるBの長さ:10mm
図1におけるCの長さ:20mm
図1におけるDの長さ:5mm
測定環境:23℃50%Rh
チャック間距離:30mm
引張速度:30mm/分
【0115】
また、引張伸度は、以下の式により求めた。
引張伸度={(引張試験により破断したときのフィルムの長さ−引張試験前のフィルムの長さ)/引張試験前のフィルムの長さ}×100
【0116】
【表1】
【0117】
表1に示されるように、テトラカルボン酸二無水物成分がs−BPDA、a−BPDA、およびBPAFの3成分を含み、ジアミン成分がt−DACHを含む場合に、前述の要件(i)〜(vi)を全て満たすポリイミドフィルムが得られた(実施例1〜5)。
【0118】
これに対し、テトラカルボン酸二無水物成分がs−BPDAを含まない場合、フィルム化できなかった(比較例5)。一方、テトラカルボン酸二無水物成分がa−BPDAを含まない場合、特に引張伸度が低くなりやすかった(比較例1〜4)。また、テトラカルボン酸二無水物成分がBPAFを含まない場合には、耐熱性(ガラス転移温度)が低下した(比較例6)。
【0119】
さらに、ジアミン成分がt−DACHを含まない場合、線膨張係数が高まりやすく、さらにはTgも低くなりやすかった(比較例7)。
【0120】
本出願は、2018年6月22日出願の特願2018−118621号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。