(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1ホイール及び前記第2ホイールは、前記回転体との接点の位置ベクトルと前記接点における接線ベクトルとで決まる動力伝達行列の行列要素のうち、前記回転軸の行列要素の列毎に絶対値が等しくなる位置に配設されている請求項2又は請求項3に記載の全方向移動装置。
前記回転体の下半球の表面に接して又は近接させて、円周方向に回転し、かつ、円周方向とは交差する方向に前記回転体を転動可能とする補助輪を更に備えている請求項2又は請求項3に記載の全方向移動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記搬送装置では、すべてのホイール駆動部の出力が同一の場合、旋回のときに最大出力が得られるものの、本来、搬送装置として出力が必要とされる前進や左右の移動のときに最大出力を得ることができない。例えば、前進の移動では、旋回のときの約半分の出力しか得ることができない。このため、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記課題を考慮し、最大出力により回転体を直進方向へ移動させることができる全方向移動装置及び車体の姿勢を安定に維持することができる全方向移動装置の姿勢制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の第1実施態様に係る全方向移動装置は、球状の回転体と、回転体を転動させて直進方向に移動させる回転軸の軸周りにおいて回転体の表面に接して複数配設され、円周方向に回転して回転体に動力を伝達し、かつ、円周方向とは交差する方向に回転体を転動可能とするホイールと、を備えている。
【0008】
第1実施態様に係る全方向移動装置は、球状の回転体と、回転体の表面に接して配設されたホイールとを備える。ホイールは、円周方向に回転して回転体に動力を伝達し、かつ、円周方向とは交差する方向に回転体を転動可能とする。
【0009】
ここで、ホイールは、回転体を転動させて直進方向に移動させる回転軸の軸周りにおいて回転体の表面に複数配設される。このため、直進方向の移動に際して、ホイールから回転体へ動力が効率良く伝達され、最大出力により回転体を直進方向へ転動させることができる。
【0010】
本発明の第2実施態様に係る全方向移動装置は、球状の回転体と、回転体を転動させて直進方向に移動させる回転軸の一端側の軸周りにおいて回転体の上半球の表面に接して複数配設され、円周方向に回転して回転体に動力を伝達し、かつ、円周方向と交差する方向に回転体を転動可能とする第1ホイールと、回転軸の一端側の軸周りにおいて回転体の下半球の表面の特定位置に対する、回転体の中心対称位置の表面に接して配設され、円周方向に回転して回転体に動力を伝達し、かつ、円周方向と交差する方向に回転体を転動可能とする第2ホイールと、を備えている。
【0011】
第2実施態様に係る全方向移動装置は、球状の回転体と、回転体の表面に接して配設された第1ホイール及び第2ホイールとを備える。第1ホイール及び第2ホイールは、いずれも、円周方向に回転して回転体に動力を伝達し、円周方向と交差する方向に回転体を転動可能とする。
【0012】
ここで、第1ホイールは、回転体を転動させて直進方向に移動させる回転軸の一端側の軸周りにおいて回転体の上半球の表面に複数配設される。一方、第2ホイールは、回転軸の一端側の軸周りにおいて回転体の下半球の表面の特定位置に対する、回転体の中心対称位置の表面に配設される。このため、直進方向の移動に際して、第1ホイール、第2ホイールのそれぞれから回転体へ動力が効率良く伝達され、最大出力により回転体を直進方向へ転動させることができる。
【0013】
本発明の第3実施態様に係る全方向移動装置は、球状の回転体と、回転体を転動させて直進方向に移動させる回転軸の一端側の軸周りにおいて回転体の上半球の表面に接して複数配設され、円周方向に回転して回転体に動力を伝達し、かつ、円周方向と交差する方向に回転体を転動可能とする第1ホイールと、回転軸の他端側の軸周りにおいて回転体の上半球の表面に接して配設され、円周方向に回転して回転体に動力を伝達し、かつ、円周方向と交差する方向に回転体を転動可能とする第2ホイールと、を備えている。
【0014】
第3実施態様に係る全方向移動装置は、球状の回転体と、回転体の表面に接して配設された第1ホイール及び第2ホイールとを備える。第1ホイール及び第2ホイールは、いずれも、円周方向に回転して回転体に動力を伝達し、かつ、円周方向と交差する方向に回転体を転動可能とする。
【0015】
ここで、第1ホイールは、回転体を転動させて直進方向に移動させる回転軸の一端側の軸周りにおいて回転体の上半球の表面に複数配設される。一方、第2ホイールは、回転軸の他端側の軸周りにおいて回転体の上半球の表面に配設される。このため、直進方向の移動に際して、第1ホイール、第2ホイールのそれぞれから回転体へ動力が効率良く伝達され、最大出力により回転体を直進方向へ転動させることができる。
【0016】
本発明の第4実施態様に係る全方向移動装置では、第2実施態様又は第3実施態様に係る全方向移動装置において、第1ホイール及び第2ホイールは、オムニホイール又はメカナムホイールである。
【0017】
第4実施態様に係る全方向移動装置によれば、第1ホイール及び第2ホイールがオムニホイール又はメカナムホイールとされるので、最大出力により回転体を直進方向へ転動させることができ、かつ、直進方向以外の方向へも回転体を転動させることができる。
【0018】
本発明の第5実施態様に係る全方向移動装置では、第2実施態様又は第3実施態様に係る全方向移動装置において、第1ホイールは2個配設され、第2ホイールは1個又は2個配設されている。
【0019】
第5実施態様に係る全方向移動装置によれば、第1ホイールは2個、第2ホイールは1個又は2個配設されるので、最小限のホイール数により、部品点数並びに重量を最小限として、回転体を全方向へ転動させることができる。
【0020】
本発明の第6実施態様に係る全方向移動装置では、第2実施態様又は第3実施態様に係る全方向移動装置において、第1ホイール及び第2ホイールは、回転体との接点の位置ベクトルと接点における接線ベクトルとで決まる動力伝達行列の行列要素のうち、回転軸の行列要素の列毎に絶対値が等しくなる位置に配設されている。
【0021】
第6実施態様に係る全方向移動装置によれば、動力伝達行列の行列要素のうち、回転体を直進方向に移動させる回転軸の行列要素の列毎に絶対値が等しくなる位置に第1ホイール及び第2ホイールが配設される。このため、直進方向の移動に際して、第1ホイール、第2ホイールのそれぞれから回転体へ動力が効率良く伝達され、最大出力により回転体を直進方向へ転動させることができる。
【0022】
本発明の第7実施態様に係る全方向移動装置では、第6実施態様に係る全方向移動装置において、動力伝達行列は、角速度を表す伝達行列を含んでいる。
【0023】
第7実施態様に係る全方向移動装置によれば、動力伝達行列は角速度を表す伝達行列を含む。回転体を直進方向に移動させる回転軸の角速度を表す伝達行列において行列要素の列毎に絶対値が等しくなる位置に、第1ホイール、第2ホイールがそれぞれ配設される。このため、直進方向の移動に際して、第1ホイール、第2ホイールのそれぞれから回転体へ動力が効率良く伝達され、最大出力により回転体を直進方向へ転動させることができる。
【0024】
本発明の第8実施態様に係る全方向移動装置は、第2実施態様又は第3実施態様に係る全方向移動装置において、回転体の下半球の表面に接して又は近接させて、円周方向に回転し、かつ、円周方向と交差する方向に回転体を転動可能とする補助輪を更に備えている。
【0025】
第8実施態様に係る全方向移動装置は、回転体の下半球の表面に接して又は近接させて補助輪を備える。補助輪は、円周方向に回転し、かつ、円周方向と交差する方向に回転体を転動可能とする。このため、回転体の上半球が第1ホイール及び第2ホイールに接し、回転体の下半球に補助輪が設けられるので、回転体を全方向へ転動可能としつつ、回転体の抜けを防ぐことができる。
【0026】
本発明の第9実施態様に係る全方向移動装置では、第2実施態様又は第3実施態様に係る全方向移動装置において、回転体上に設けられた車体と、車体に取り付けられ、かつ、第1ホイールを回転させる第1駆動装置と、車体に取り付けられ、かつ、第2ホイールを回転させる第2駆動装置と、車体に配設され、車体の姿勢を安定に維持する姿勢安定システムと、を更に備えている。
【0027】
第9実施態様に係る全方向移動装置によれば、回転体上には車体が設けられる。第1ホイールの回転軸には第1駆動装置が接続され、第1駆動装置は車体に取り付けられる。また、第2ホイールの回転軸には第2駆動装置が接続され、第2駆動装置は車体に取り付けられる。第1ホイール、第2ホイールはいずれも回転体の上半球の表面に接する。このため、車体の荷重が第1駆動装置を介して第1ホイール及び第2駆動装置を介して第2ホイールにより支えられ、姿勢安定システムにより車体の姿勢が安定に維持された状態において、最大出力により回転体を直進方向へ転動させることができる。
【0028】
本発明の第10実施態様に係る全方向移動装置では、第9実施態様に係る全方向移動装置において、姿勢安定システムは、車体に装着され、車体の姿勢角度及び姿勢角度の変化に伴う第1角速度を検出する姿勢角度検出部と、第1ホイール及び第2ホイールの回転数を検出する回転数検出部と、回転数検出部による回転数の検出結果に基づいて、回転体が転動する第2角速度を検出する角速度検出部と、姿勢角度検出部により検出される姿勢角度情報、第1角速度情報及び角速度検出部により検出される第2角速度情報に基づいて、車体の姿勢を維持する第1ホイール及び第2ホイールのホイール操作トルクを算出し、このホイール操作トルク情報に従って第1駆動装置及び第2駆動装置を作動させる演算処理部と、を備えている。
【0029】
第10実施態様に係る全方向移動装置によれば、姿勢安定システムは、姿勢角度検出部と、回転数検出部と、角速度検出部と、演算処理部とを備える。姿勢角度検出部は、車体に装着され、車体の姿勢角度及び姿勢角度の変化に伴う第1角速度を検出する。回転数検出部は、第1ホイール及び第2ホイールの回転数を検出する。角速度検出部は、回転数検出部による回転数の検出結果に基づいて、回転体が転動する第2角速度を検出する。
【0030】
ここで、演算処理部は、姿勢角度検出部により検出される姿勢角度情報、第1角速度情報及び角速度検出部により検出される第2角速度情報に基づいて、車体の姿勢を維持する第1ホイール及び第2ホイールのホイール操作トルクを算出する。そして、演算処理部は、このホイール操作トルク情報に従って第1駆動装置及び第2駆動装置を作動させる。このため、姿勢安定システムでは、車体の姿勢を安定に維持する動力が第1ホイール及び第2ホイールから回転体へ伝達されるので、車体の姿勢が安定に維持された状態において、最大出力により回転体を直進方向へ転動させることができる。
【0031】
本発明の第11実施態様に係る全方向移動装置では、第10実施態様に係る全方向移動装置において、演算処理部は、姿勢角度情報、第1角速度情報及び第2角速度情報に基づいて、車体の姿勢を維持させる、回転体が転動する角加速度の目標値及び車体が旋回する角加速度の目標値を算出し、目標値に一致させる回転体の第3角加速度を算出し、第3角加速度に基づいて回転体を操作する回転体操作トルクを算出し、回転体操作トルク情報に基づいて、第1ホイール及び第2ホイールを操作するホイール操作トルクを算出する。
【0032】
第11実施態様に係る全方向移動装置によれば、演算処理部では、姿勢角度情報、第1角速度情報及び第2角速度情報に基づいて、車体の姿勢を維持させる、回転体が転動する角加速度の目標値及び車体が旋回する角加速度の目標値が算出される。演算処理部では、更に目標値に一致させる回転体の第3角加速度が算出され、第3角加速度に基づいて回転体を操作する回転体操作トルクが算出される。この回転体操作トルク情報に基づいて、演算処理部では、第1ホイール及び第2ホイールを操作するホイール操作トルクが算出される。この結果、演算処理部において、車体の姿勢を安定に維持する動力が算出される。このため、動力が第1ホイール及び第2ホイールから回転体へ伝達されるので、車体の姿勢が安定に維持された状態において、最大出力により回転体を直進方向へ転動させることができる。
【0033】
本発明の第12実施態様に係る全方向移動装置の姿勢制御方法では、第10実施態様に係る全方向移動装置の姿勢安定システムが、姿勢角度情報、第1角速度情報及び第2角速度情報を取得し、姿勢角度情報、第1角速度情報及び第2角速度情報に基づいて、車体の姿勢を維持させる、回転体が転動する角加速度の目標値及び車体が旋回する角加速度の目標値を算出し、目標値に一致させる回転体の第3角加速度を算出し、第3角加速度に基づいて回転体を操作する回転体操作トルクを算出し、回転体操作トルク情報に基づいて、第1ホイール及び第2ホイールを操作するホイール操作トルクを算出する。
【0034】
第12実施態様に係る全方向移動装置の姿勢制御方法によれば、姿勢安定システムが、まず最初に、姿勢角度情報、第1角速度情報及び第2角速度情報を取得する。次に、姿勢角度情報、第1角速度情報及び第2角速度情報に基づいて、車体の姿勢を維持させる、回転体が転動する角加速度の目標値及び車体が旋回する角加速度の目標値が算出される。次に、目標値に一致させる回転体の第3角加速度が算出され、更に第3角加速度に基づいて回転体を操作する回転体操作トルクが算出される。そして、回転体操作トルク情報に基づいて、第1ホイール及び第2ホイールを操作するホイール操作トルクが算出される。この結果、姿勢安定システムにおいて、車体の姿勢を安定に維持する動力が算出される。
【0035】
このため、動力が第1ホイール及び第2ホイールから回転体へ伝達されるので、全方向移動装置では、最大出力により回転体を直進方向へ転動させることができ、車体の姿勢を安定に維持することができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、最大出力により回転体を直進方向へ移動させることができる全方向移動装置及び車体の姿勢を安定に維持することができる全方向移動装置の姿勢制御方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(第1実施の形態)
以下、
図1〜
図10を用いて、本発明の第1実施の形態に係る全方向移動装置を説明する。なお、図中、適宜示される矢印X 方向は全方向移動装置の車体前方側であって進行方向を示し、矢印Y 方向は車体幅方向を示している。また、矢印Z 方向は、矢印X 方向及び矢印Y 方向に対して直交する上方向を示している。
【0039】
[全方向移動装置の構成]
図1(A)〜
図1(D)及び
図2に示されるように、本実施の形態に係る全方向移動装置10は、単一の球状の回転体12と、この回転体12上に配設された車体14とを含んで構成されている。
【0040】
回転体12は、例えば、直径300mm、厚さ1.5mmのステンレス鋼を用いて形成された球殻を回転体本体とし、回転体本体の表面を回転体本体よりも軟質材料により被覆して形成されている。軟質材料として、例えば、厚さ5mmの天然ゴム(NR:Natural Rubber)を実用的に使用することができる。
【0041】
図1(A)〜
図1(D)に示されるように、車体14は車体幅方向(矢印Y 方向)に一対に配設された車体本体14A及び車体本体14Bを備えている。車体本体14A及び車体本体14Bは、各々、車体前後方向(矢印X 方向)を長手方向として延在し、車体幅方向に離間して配置されている。車体本体14A及び車体本体14Bは、平面視において、回転体12と重なる位置に配設されている。車体本体14A及び車体本体14Bには、上方向へ立設されたサドルサポート16を介してサドル18が取り付けられている。サドルサポート16は管材により形成されている。サドル18は全方向移動装置10の搭乗者が着座する構成とされている。
【0042】
車体本体14A及び車体本体14Bの車体前方側には、車体14を構成する車体前部14Cが配設されている。車体前部14Cは、上下方向において車体本体14A及び車体本体14Bの上面よりも下方向であって回転体12の中心点付近に配置され、車体本体14A及び車体本体14Bの前壁14Dに一体的に取り付けられている。車体前部14Cは管材を折り曲げて形成され、車体前部14Cの輪郭が平面視においてC字状に形成されている。
【0043】
車体前部14C上には足置き部20が車体幅方向に一対に配設されている。足置き部20は搭乗者の足の置き場として使用される。また、車体前部14Cには、上方向に向けてやや車体後方側に傾斜して立設されたハンドルサポート22が配設され、ハンドルサポート22の上端部にはハンドル24が取り付けられている。ハンドル24は車体幅方向外側へ向かって左右にそれぞれ突出された棒状に形成され、搭乗者はハンドル24を把持して全方向移動装置10を走行させる。ハンドル24は、ここでは垂直軸(Z 軸)周りに旋回しない固定式により形成されている。図示を省略しているが、全方向移動装置10の走行の開始や停止を行う始動スイッチ、全方向移動装置10の走行中の速度を制動するブレーキ等はハンドル24周りに装着されている。また、保安部品として、ライト、フロントウインカ等が、ハンドル24又はハンドルサポート22に装着可能である。さらに、保安部品としてのリアウインカ、ブレーキランプ等が、車体14の車体後端部の適正箇所に装着可能である。
【0044】
車体本体14A及び車体本体14B下において、回転体12の周囲に沿ってリング状の枠部26が配設されている。この枠部26は車体幅方向両端部にそれぞれ設けられた枠サポート28を介して車体本体14A、車体本体14Bのそれぞれに取り付けられている。
【0045】
また、車体本体14A及び車体本体14Bの車体前端部には、補助輪サポート30を介して補助輪32が配設されている。補助輪サポート30は車体本体14A及び車体本体14Bから回転体12の中心点よりも下方側まで延設され、補助輪サポート30の下端部に補助輪32が回転自在に取り付けられている。同様に、車体本体14A及び車体本体14Bの車体後端部には、補助輪サポート34を介して補助輪36が配設されている。補助輪サポート34は車体本体14A及び車体本体14Bから回転体12の中心点よりも下方側まで延設され、補助輪サポート34の下端部に補助輪36が回転自在に取り付けられている。補助輪32、補助輪36は、いずれも回転体12の下半球12A側に回り込む位置に配置され、下半球12Aの表面に接するか、或いは一定のクリアランスを持って離間(近接)されている。補助輪32及び補助輪36を備えることにより、車体14からの回転体12の抜けが防止されている。本実施の形態では、補助輪32、補助輪36のそれぞれに、後述するホイール、ここではオムニホイールが使用されている。
【0046】
図1(A)〜
図1(D)に示される全方向移動装置10では、サドル18に着座状態の搭乗者から見て車体幅方向右側において、車体本体14A下の車体前方側に、符号を省略した外装カバーにより被覆された第1駆動ユニット40が取り付けられている。車体本体14A下の車体後方側には第2駆動ユニット42が取り付けられている。一方、車体幅方向左側において、車体本体14B下の車体前方側に第3駆動ユニット44が取り付けられ、車体本体14Bの車体後方側に第4駆動ユニット46が取り付けられている。
【0047】
ここで、本実施の形態では、第1駆動ユニット40〜第4駆動ユニット46の合計4個の駆動ユニットが配設されているが、第1駆動ユニット40〜第3駆動ユニット44の合計3個の駆動ユニットが配設される場合が含まれる。3個の駆動ユニットが配設される場合、第3駆動ユニット44は車体本体14Bの車体前後方向の中間部に配設される。
【0048】
[オムニホイールの構成]
図2に示されるように、第1駆動ユニット40は、第1オムニホイールとしてのオムニホイール401と、減速機441と、第1駆動装置としての例えば交流(AC)サーボモータ442(1)とを含んで構成されている。オムニホイール401は、シャフト(回転軸)430を介して減速機441に連結されている。
【0049】
オムニホイール401は、シャフト430の回転に従ってシャフト430の回転軸周りに回転し、かつ、回転軸方向に2連をなす第1ホイール410及び第2ホイール420を備えている。第1ホイール410のホイール本体411の円周上には、等間隔に配設された複数の樽状のローラ(バレル)412〜414が回転軸415を中心に回転自在に取り付けられている。ここで、等間隔とは120度間隔であり、3つのローラ412〜414が取り付けられている。第2ホイール420は第1ホイール410の減速機441側とは反対側に配設されている。第2ホイール420のホイール本体421の円周上には、同様に、等間隔に配設された複数の樽状のローラ422〜424が回転軸425を中心として回転自在に取り付けられている。第2ホイール420のローラ422〜424の配置間隔は、第1ホイール410のローラ412〜414の配置間隔に対して、半ピッチ、具体的には60度ずれている。このような構成により、オムニホイール401は、円周方向Aに回転して回転体12に動力を伝達し、かつ、円周方向Aと交差する方向(ここでは直交する方向)Bに回転体12を転動可能としている。
ここで、
図2に示されるように、オムニホイール401のシャフト430の回転軸をaとし、ローラ412〜414の回転軸415をbとすれば、回転軸bは回転軸aに対してねじれの位置において直交している。
【0050】
第2駆動ユニット42、第3駆動ユニット44、第4駆動ユニット46のそれぞれの構成は、第1駆動ユニット40の構成と同一である。すなわち、
図2に示されるように、第2駆動ユニット42は、第1オムニホイールとしてのオムニホイール402と、減速機441と、第1駆動装置としてのACサーボモータ442(2)とを含んで構成されている。第3駆動ユニット44は、第2オムニホイールとしてのオムニホイール403と、減速機441と、第2駆動装置としてのACサーボモータ442(3)とを含んで構成されている。第4駆動ユニット46は、第2オムニホイールとしてのオムニホイール404と、減速機441と、第2駆動装置としてのACサーボモータ442(4)とを含んで構成されている。
【0051】
本実施の形態に係る全方向移動装置10では、前後方向及び左右方向への移動が可能とされ、かつ、旋回が可能とされている。勿論、斜め方向への移動、旋回しながらの前後方向、左右方向又は斜め方向の移動が可能である。そして、全方向移動装置10では、前進方向に最大出力が得られる構成とされている。
【0052】
[オムニホイールの配置]
一般的に、複数のオムニホイールは垂直軸(Z 軸)の軸周りに等間隔に配置されている(
図9及び
図10参照)。これに対して、
図3(A)に示されるように、全方向移動装置10では、オムニホイール401及び402が、回転体12を転動させて直進方向に移動させる回転軸120の一端側の軸周り121において、回転体12の上半球12Bの表面に接して配設されている。ここで、回転体12には固定された回転軸が存在するのではなく、回転軸120は直進方向に回転体12が転動された際の回転体12の実効的な回転中心である。回転軸120の軸方向は、回転体12が直進方向(矢印X 方向)に転動するので、車体幅方向(矢印Y 方向)に一致する。また、回転軸120の一端側の軸周り121は、搭乗者から見て車体幅方向右側において、回転体12を天体と見なしたときの緯線に相当する。
【0053】
オムニホイール403及び404は、
図3(B)に示されるように、回転軸120の他端側の軸周り122において回転体12の上半球12Bの表面に接して配設されている。回転軸120の他端側の軸周り122は、搭乗者から見て車体幅方向左側において、回転体12を天体と見なしたときの緯線に相当する。オムニホイール403及び404の配置位置は、
図3(A)に示される回転軸120の一端側の軸周り121において回転体12の下半球12Aの表面の特定位置403P及び404Pに対する回転体12の中心対称位置である。
【0054】
本来、オムニホイール403は軸周り121において下半球12Aに配置され、オムニホイール404は軸周り121において下半球12Aに配置される。特定位置403Pは、進行方向に最大出力を得る際に、軸周り121の下半球12Aにおいてオムニホイール403の配置に適した位置である。また、同様に、特定位置404Pは軸周り121の下半球12Aにおいてオムニホイール404の配置に適した位置である。本実施の形態では、下半球12A側に第3駆動ユニット44及び第4駆動ユニット46が装着し難いので、軸周り122において回転体12の上半球12B側にオムニホイール403及び404が配設されている。
【0055】
なお、第1駆動ユニット40〜第3駆動ユニット44を備える場合には、回転軸120の一端側の軸周り121において回転体12の上半球12Bに接してオムニホイール401及び402が配設される(
図3(A)参照)。そして、オムニホイール403は、回転軸120の他端側の軸周り122において回転体12の上半球12Bに接してオムニホイール403が配設される(
図3(B)参照)。この場合、回転軸120の軸方向から見て、オムニホイール403は、
図3(B)に示されるオムニホイール403とオムニホイール404との中間部に配設される。
【0056】
図1(A)〜
図1(D)に戻って、全方向移動装置10の車体14上であってサドル18下にはセンサユニット50が配設されている。また、車体14上の車体後方側には、制御ユニット60が配設されている。センサユニット50及び制御ユニット60は
図4に示される姿勢安定システム600を構築し、この姿勢安定システム600は、車体14の姿勢を安定に維持し、又車体14の姿勢を安定に維持した状態において車体14を走行させる。
【0057】
[姿勢安定システムの構成]
図4に示されるように、全方向移動装置10の姿勢安定システム600は、センサユニット50及び制御ユニット60を含んで構成されている。
センサユニット50には姿勢角度検出部501が含まれている。姿勢角度検出部501には例えば慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)が使用されている。この姿勢角度検出部501では、車体14の姿勢角度及び車体14の各軸周りの姿勢角度の変化に伴う第1角速度としての角速度が検出される。姿勢角度は姿勢角度情報として、角速度は第1角速度情報として、姿勢角度検出部501から出力される。
【0058】
制御ユニット60は、操作表示部601と、演算処理部(コントローラ)602と、デジタルアナログ変換器(D/A変換器)603と、角速度検出部604と、サーボアンプ605(1)〜サーボアンプ605(4)と、電源606とを備えている。ここで、姿勢安定システム600には、第1駆動ユニット40のACサーボモータ422(1)〜第4駆動ユニット46のACサーボモータ422(4)が回転数検出部607として組み込まれている。ACサーボモータ422(1)〜ACサーボモータ422(4)の各々には図示を省略した例えばエンコーダが装着され、エンコーダを用いてオムニホイール401〜オムニホイール404の回転数が検出される。回転数検出部607は、ACサーボモータ422(1)〜ACサーボモータ422(4)と、サーボアンプ605(1)〜サーボアンプ605(4)とを含んで構成されている。
【0059】
操作表示部601は、姿勢安定システム600の起動及び終了の操作、姿勢安定システム600の動作状態の表示等を行う。
【0060】
演算処理部602には、例えばmini-ITX規格準拠の組込み用パーソナルコンピュータが使用されている。演算処理部602では、少なくとも下記処理(A)〜処理(D)が実行される。
(A)車体14の姿勢角度を検出して得られる姿勢角度情報及び姿勢角度の変化に伴う角速度を検出して得られる第1角速度情報が姿勢角度検出部501から取得される。
(B)回転数検出部607ではオムニホイール401〜404の回転数が検出される。この回転数の検出結果が回転数検出部607から取得され、この検出結果に基づいて、回転体12が転動する第2角速度としての角速度が算出される。この第2角速度は第2角速度情報として取得される。
(C)姿勢角度情報、第1角速度情報及び第2角速度情報に基づいて、車体14の姿勢を安定に維持するオムニホイール401〜オムニホイール404のホイール操作トルクが算出される。
(D)ホイール操作トルク情報に従って第1駆動ユニット40〜第4駆動ユニット46が作動される。
【0061】
さらに、演算処理部602では、処理(D)において、下記処理(a)〜処理(d)が実行される。
(a)姿勢角度情報、第1角速度情報及び第2角速度情報に基づいて、車体14の姿勢を安定に維持させる、回転体12が転動する角加速度の目標値及び車体14が旋回する角加速度の目標値が算出される。
(b)目標値に一致させる回転体12の第3角加速度としての角加速度が算出される。
(c)第3角加速度情報に基づいて、回転体12を操作する回転体操作トルクが算出される。
(d)回転体操作トルク情報に基づいて、オムニホイール401〜オムニホイール404を操作するホイール操作トルクが算出される。
【0062】
演算処理部602から出力されるホイール操作トルク情報(デジタル情報)はトルク指令としてデジタルアナログ変換器603へ出力される。デジタルアナログ変換器603ではトルク指令がアナログ情報に変換され、アナログ情報に変換されたトルク指令はデジタルアナログ変換器603からサーボアンプ605(1)〜サーボアンプ605(4)の各々へ出力される。また、サーボアンプ605(1)〜サーボアンプ605(4)には演算処理部602からシーケンス指令が出力される。サーボアンプ605(1)〜サーボアンプ605(4)は、トルク指令に従ってACサーボモータ422(1)〜ACサーボモータ422(4)のそれぞれを制御する。
【0063】
一方、回転数検出部607においてACサーボモータ422(1)〜ACサーボモータ422(4)の各々の回転数が検出されると、この検出結果はサーボアンプ605(1)〜サーボアンプ605(4)のそれぞれを介して角速度検出部604へ出力される。角速度検出部604は、ここではパルスカウンタにより構成され、単位時間当たりの回転数をカウントして角速度情報を生成する。この角速度情報は演算処理部602へ出力される。
【0064】
そして、姿勢安定システム600には着脱自在とされる電源606が搭載されている。電源606には二次電池、具体的にはバッテリが使用されている。また、電源606は、制御系に電源を供給する二次電池と、動力系に電源を供給する二次電池とを含んで構成されている。詳しく説明すると、制御系には、姿勢角度検出部501、操作表示部601、演算処理部602、デジタルアナログ変換器603及び角速度検出部604が含まれている。一方、動力系には、サーボアンプ605(1)〜サーボアンプ605(4)及びACサーボモータ422(1)〜ACサーボモータ422(4)が含まれている。
【0065】
[全方向移動装置の姿勢制御方法]
前述の全方向移動装置10の姿勢制御方法は以下の通りである。ここで、
図5は姿勢制御方法を説明するフローチャートである。
図6は姿勢制御方法を実現するアルゴリズムである。また、姿勢制御方法の説明では、適宜、
図1〜
図4が参酌される。
【0066】
1.3個のオムニホイールを有する全方向移動装置の姿勢制御方法
(1)車体の姿勢角度及び第1角速度の取得
まず最初に、
図4及び
図6に示される姿勢角度検出部501を用いて、車体14の姿勢角度θ
b 及び姿勢角度の変化に伴う車体14の第1角速度(θ
b の1回微分)が検出される。
図4〜
図6に示されるように、演算処理部602は、姿勢角度検出部501から姿勢角度情報及び第1角速度情報を取得する(S10)。
【0067】
(2)オムニホイールの回転数の取得
次に、
図4に示される回転数検出部607のACサーボモータ422(1)〜ACサーボモータ422(3)を用いて、オムニホイール401〜403の回転数が検出される。検出された回転数は、
図4及び
図6に示されるように、サーボアンプ605(1)〜サーボアンプ605(3)を介して角速度検出部604に出力される。角速度検出部604では、角速度情報θ
0 としてオムニホイール401〜403の回転数を取得する。
図5に示されるように、演算処理部602は、角速度検出部604から角速度情報θ
0 を取得する(S11)。
【0068】
(3)回転体の第2角速度の取得
ここで、
図7に、全方向移動装置10の回転体12に対する3個のオムニホイール401〜403の配置位置を、原点O
0とするX
0軸、Y
0 軸及びZ
0 軸を含む3次元座標系により表した概略図が示されている。
回転体12に対するオムニホイール401〜403の各々の配置位置及び駆動力は、回転体12とオムニホイール401〜403の各々との接点の位置ベクトルp
k と、接点における接線ベクトルt
k により表される。n をオムニホイールの数として、k は1からn の整数である。位置ベクトルp
1 は、回転体12の中心O
b から回転体12とオムニホイール401との接点までの位置ベクトルである。同様に、位置ベクトルp
2 は中心O
b から回転体12とオムニホイール402との接点までの位置ベクトル、位置ベクトルp
3 は中心O
b から回転体12とオムニホイール403との接点までの位置ベクトルである。
接線ベクトルt
1 は、回転体12とオムニホイール401との接点における単位接線ベクトルである。同様に、接線ベクトルt
2 は回転体12とオムニホイール402との接点における単位接線ベクトル、接線ベクトルt
3 は回転体12とオムニホイール403との接点における単位接線ベクトルである。
【0069】
回転体12の角速度ベクトルω
sは、回転体12の車体前後方向の軸周りの角速度をω
x とし、回転体12の車体幅方向の軸周りの角速度をω
y とし、回転体12の車体上下方向の軸周りの角速度をω
z とすると、下記式(1)により表される(
図6参照)。
【数1】
【数2】
【0070】
動力伝達行列T は、位置ベクトルp
1 ,p
2 ,p
3、接線ベクトルt
1 ,t
2 ,t
3 及びオムニホイール401〜403の半径r
0 から、下記式(3)により表される。
【数3】
【数4】
【0071】
また、式(4)は、動力伝達行列T の一般化逆行列を用いると、下記式(5)により表される(
図6参照)。
【数5】
上記式(5)により、オムニホイール401〜オムニホイール403の角速度から回転体12の第2角速度が算出される。
図6に示されるように、第2角速度は演算処理部602を用いて算出され、
図5に示されるように、演算処理部602は第2角速度を第2角速度情報として取得する(S12)。
【0072】
(4)目標値の算出
車体14の姿勢を回転体12上において安定に維持するには、車体14の姿勢角度と車体14の第1角速度とに基づいて、車体14の姿勢を補正する回転体12の転動の際の角加速度の目標値及び車体14の旋回の際の角加速度の目標値が必要になる。目標値をu とすれば、目標値u は下記式(6)により算出される(
図6参照)。
【数6】
【0073】
目標値u は、下記式(7)に示されるように、車体14の旋回の目標角加速度u
1 と、回転体12の車体前後方向の軸周りの目標角加速度u
2 と、回転体12の車体幅方向の軸周りの目標角加速度u
3 とを纏めたベクトルである。
【数7】
【0074】
ロール角をγ、ピッチ角をβ、ヨー角をαとすると、式(6)のx
d は下記式(8)により表される。
【数8】
【0075】
また、K
d は、フィードバックゲイン行列であり、車体14と回転体12の質量、重心位置、慣性モーメント等に基づいて決定される。
図5及び
図6に示されるように、目標値u 、すなわち回転体12が転動する角加速度の目標値及び車体14が旋回する角加速度の目標値は演算処理部602を用いて算出される(S13)。
【0077】
車体14の姿勢を回転体12上で安定化する際に外乱の影響を低減する必要がある。このため、目標値uにPID制御(Proportional Integral Differential Controller)が付加され、新たな角加速度の操作量が算出される(
図6参照)。
【数9】
【0078】
ω
xdは回転体12の車体前後方向の軸周りの目標角速度であり、目標角速度ω
xdは下記式(10)により表される。
【数10】
【0079】
θ
xdは回転体12の車体前後方向の軸周りの目標角度であり、この目標角度θ
xdは下記式(11)により表される。
【数11】
θ
xは回転体12の車体前後方向の軸周りの角度であり、角度θ
xは回転体12の車体前後方向の軸周りの角速度ω
xから下記式(12)により表される。
【数12】
【0080】
ω
ydは回転体12の車体幅方向の軸周りの目標角速度であり、目標角速度ω
yd は下記式(13)により表される。
【数13】
θ
ydは回転体12の車体幅方向の軸周りの目標角度であり、この目標角度θ
yd は下記式(14)により表される。
【数14】
【0081】
θ
yは回転体12の車体幅方向の軸周りの角度であり、角度θ
y は回転体12の車体幅方向の軸周りの角速度ω
y から下記式(15)により表される。
【数15】
回転体12の操作角加速度は、第3角加速度として、
図5及び
図6に示されるように、演算処理部602を用いて算出される(S14)。
【0082】
(6)回転体の操作トルクの算出
【数16】
【0083】
ここで、慣性行列の部分行列は、下記式(17)、式(18)及び式(19)により表される。
【数17】
【数18】
【数19】
【0084】
また、重力項は下記式(20)により表される。下記式(21)は入力軸の入れ替えを表す行列である。
【数20】
【数21】
【0085】
上記式(17)、式(18)において、I
s は回転体12と地面との接点周りの回転体12の慣性モーメントである。慣性モーメントI
s は下記式(22)により表される。
【数22】
ここで、I
bxx ,I
bxy ,I
bxz ,I
byy ,I
byz ,I
bzz は車体14の慣性モーメントと慣性乗積である。m
b は車体14の質量である。s
z は回転体12の中心O
b から車体14の重心までの距離である。r
s は回転体12の半径である。g は重力加速度定数である。m
s は回転体12の質量である。
【数23】
【0086】
回転体12の操作トルクは、
図5及び
図6に示されるように、演算処理部602を用いて算出される(S15)。
【0087】
(7)オムニホイールの操作トルクの算出
回転体12にトルクを生じさせるために、各オムニホイール401〜403が発生すべき操作トルクτ
o は下記式(23)により算出される。
【数24】
【0088】
オムニホイール401〜403の操作トルクτ
oは、
図5及び
図6に示されるように、演算処理部602を用いて算出される(S16)。この操作トルクτ
oは、ホイール操作トルクとして、ACサーボモータ422(1)〜ACサーボモータ422(3)を介してオムニホイール401〜403に伝達される。
以上説明した姿勢制御方法の手順が実行されると、全方向移動装置10では、車体14の姿勢を回転体12上において安定に維持することができる。そして、車体14の姿勢を安定に維持した状態において、全方向移動装置10を走行させることができる。
【0089】
2.4個のオムニホイールを有する全方向移動装置の姿勢制御方法
4個のオムニホイール401〜404を有する全方向移動装置10の姿勢制御方法は、基本的には3個のオムニホイール401〜403を有する全方向移動装置10の姿勢制御方法とほぼ同一である。ここでの姿勢制御方法の説明は、
図4〜
図6を用いて、重複する説明を極力省略しつつ、異なる手順だけを簡潔に説明する。
【0090】
(1)車体の姿勢角度及び第1角速度の取得
図4及び
図6に示される姿勢角度検出部501を用いて、車体14の姿勢角度及び車体14の第1角速度が検出される。
図4〜
図6に示されるように、演算処理部602は、姿勢角度検出部501から姿勢角度情報及び第1角速度情報を取得する(S10)。
【0091】
(2)オムニホイールの回転数の取得
次に、
図4に示される回転数検出部607のACサーボモータ422(1)〜ACサーボモータ422(4)を用いて、オムニホイール401〜404の回転数が検出される。検出された回転数は、
図4及び
図6に示されるように、サーボアンプ605(1)〜サーボアンプ605(4)を介して角速度検出部604に出力される。
図5に示されるように、演算処理部602は角速度検出部604から角速度情報θ
0 を取得する(S11)。
【0092】
(3)回転体の第2角速度の取得
ここで、
図8に、全方向移動装置10の回転体12に対する4個のオムニホイール401〜404の配置位置を3次元座標系により表した概略図が示されている。
回転体12に対するオムニホイール401〜404の各々の配置位置及び駆動力は、回転体12とオムニホイール401〜404の各々との接点の位置ベクトルp
k と、接点における接線ベクトルt
k により表される。位置ベクトルp
1 は、回転体12の中心O
bから回転体12とオムニホイール401との接点までの位置ベクトルである。同様に、位置ベクトルp
2 は中心O
bから回転体12とオムニホイール402との接点までの位置ベクトル、位置ベクトルp
3 は中心O
bから回転体12とオムニホイール403との接点までの位置ベクトルである。そして、位置ベクトルp
4 は中心O
bから回転体12とオムニホイール404との接点までの位置ベクトルである。
接線ベクトルt
1 は、回転体12とオムニホイール401との接点における単位接線ベクトルである。同様に、接線ベクトルt
2 は回転体12とオムニホイール402との接点における単位接線ベクトル、接線ベクトルt
3は回転体12とオムニホイール403との接点における単位接線ベクトルである。そして、接線ベクトルt
4は回転体12とオムニホイール404との接点における単位接線ベクトルである。
【0093】
回転体12の角速度ベクトルω
sは、回転体12の車体前後方向の軸周りの角速度をω
xとし、回転体12の車体幅方向の軸周りの角速度をω
yとし、回転体12の車体上下方向の軸周りの角速度をω
zとすると、前述の式(1)により表される。
【数25】
【0094】
動力伝達行列Tは、位置ベクトルp
1,p
2,p
3,p
4、接線ベクトルt
1,t
2,t
3,t
4及びオムニホイール401〜404の半径γ
0から、下記式(25)により表される。
【数26】
前述の式(4)に基づいて、式(25)に表される動力伝達行列Tの一般化逆行列を用いると、前述の式(5)が得られ、オムニホイール401〜オムニホイール404の角速度から回転体12の第2角速度が算出される。
図6に示されるように、第2角速度は演算処理部602を用いて算出され、
図5に示されるように、演算処理部602は第2角速度情報を取得する(S12)。
【0095】
(4)目標値の算出
車体14の姿勢角度と車体14の第1角速度とに基づいて、回転体12の転動の際の角加速度の目標値及び車体14の旋回の際の角加速度の目標値が算出される。目標値はu とされる。
図5及び
図6に示されるように、目標値uは、演算処理部602を用いて前述の式(6)により算出される(S13)。
【0096】
(5)回転体の操作角加速度の算出
目標値u にPID 制御が付加され、新たな角加速度の操作量が算出される(
図6参照)。回転体12の操作角加速度は、第3角加速度として、
図5及び
図6に示されるように、演算処理部602を用いて算出される(S14)。
【0097】
(6)回転体の操作トルクの算出
回転体12のトルクτ
s は前述の式(16)を用いて算出される(
図6参照)。ここで、慣性行列の部分行列は前述の式(17)、式(18)及び式(19)により表され、又重力項は前述の式(20)、式(21)により表される。
回転体12の操作トルクは、
図5及び
図6に示されるように、演算処理部602を用いて算出される(S15)。
【0098】
(7)オムニホイールの操作トルクの算出
各オムニホイール401〜404が発生すべき操作トルクτ
oは前述の式(23)により算出される。操作トルクτ
oは、
図5及び
図6に示されるように、演算処理部602を用いて算出される(S16)。この操作トルクτ
oは、ホイール操作トルクとして、ACサーボモータ422(1)〜ACサーボモータ422(4)を介してオムニホイール401〜404に伝達される。
以上説明した姿勢制御方法の手順が実行されると、全方向移動装置10では、車体14の姿勢を回転体12上において安定に維持することができる。そして、車体14の姿勢を安定に維持した状態において、全方向移動装置10を走行させることができる。
【0099】
(本実施の形態の作用及び効果)
図1(A)〜
図1(D)に示される全方向移動装置10は、
図2、
図3(A)及び
図3(B)に示されるように、球状の回転体12と、回転体12の表面に接して配設されたホイールとしてのオムニホイール401及び402、又はオムニホイール403及び404とを備える。オムニホイール401〜404は、円周方向Aに回転して回転体12に動力を伝達し、かつ、円周方向Aとは交差する方向Bに回転体12を転動可能とする。
【0100】
ここで、オムニホイール401及び402は、回転体12を転動させて直進方向に移動させる回転軸120の軸周り121において回転体12の表面に複数配設される。また、オムニホイール403及び404は、回転体12を転動させて直進方向に移動させる回転軸120の軸周り122において回転体12の表面に複数配設される。
このため、直進方向の移動に際して、オムニホイール401及び402、又はオムニホイール403及び404から回転体12へ動力が効率良く伝達され、最大出力により回転体12を直進方向へ転動させることができる。
【0101】
また、
図1(A)〜
図1(D)に示される全方向移動装置10は、
図2、
図3(A)及び
図3(B)に示されるように、球状の回転体12と、回転体12の表面に接して配設された第1オムニホイールとしてのオムニホイール401及び402と第2オムニホイールとしてのオムニホイール403及び404とを備える。オムニホイール401〜404は、いずれも、円周方向Aに回転して回転体12に動力を伝達し、円周方向Aと交差する方向Bに回転体12を転動可能する。
【0102】
ここで、
図3(A)に示されるように、オムニホイール401及び402は、回転体12を転動させて直進方向に移動させる回転軸120の一端側の軸周り121において回転体12の上半球12Bの表面に複数配設される。一方、オムニホイール403及び404は、回転軸120の一端側の軸周り121において回転体12の下半球12Aの表面の特定位置403P、404Pに対する、回転体12の中心対称位置の表面に配設される。また、オムニホイール403及び404は、回転軸120の他端側の軸周り122において回転体12の上半球12Bの表面に配設される。
【0103】
図9に、比較例に係る回転体R
b と3個のオムニホイールOh
1 〜Oh
3 との配置関係が示されている。回転体R
bを駆動するオムニホイールOh
1 〜Oh
3 の配置に関するパラメータは位置ベクトルp
k 及び単位接線ベクトルt
k である。ここで、位置ベクトルp
kは、回転体R
bの中心O
b を始点とする、k 番目のオムニホイールOh
kの回転体R
bとの接点の位置ベクトルである。k は1以上の整数である。単位接線ベクトルt
kは、接点におけるk 番目のオムニホイールOh
kの単位接線ベクトルである。
【0104】
垂直軸Z
b周りおいて回転体R
bの上半球R
buに3個のオムニホイールOh
1 〜Oh
3 が等配されたときの位置ベクトルp
k は、垂直軸Z
bに対して位置ベクトルp
kが45度の傾きに設定されたとき、下記式(26)により表される。
【数27】
ここで、r
s は回転体R
bの半径である。
【0105】
また、単位接線ベクトルt
kは下記式(27)により表される。
【数28】
【0106】
回転体R
bの角速度とオムニホイールOh
1 〜Oh
3 の角速度との関係は下記式(28)により表される。
【数29】
ここで、r
0 はオムニホイールOh
1 〜Oh
3の半径である。
【0107】
【数30】
T は動力伝達行列である。
【0108】
図9に示される比較例では、上記式(28)の動力伝達行列T の3列目の行列要素の絶対値が等しくなるので、旋回軸(垂直軸Z
b)の出力が最大になる。進行方向の出力は半減されている。
【0109】
上記比較例に対して、
図7に、本実施の形態に係る回転体12と3個のオムニホイール401〜403との配置関係が示されている。回転軸120の一端側の軸周り121の上半球12Bに2個のオムニホイール401及び402が配置され(
図3(A)参照)、回転軸120の他端側の軸周り122の上半球12Bに1個のオムニホイール403が配置されている(
図3(B)参照)。
このときの位置ベクトルp
kは、回転軸120に対して位置ベクトルp
kが45度の傾きに設定されたとき、下記式(29)により表される。
【数31】
また、単位接線ベクトルt
kは下記式(30)により表される。
【数32】
【0110】
そして、回転体12の角速度とオムニホイール401〜403の角速度との関係は下記式(31)により表される。
【数33】
【0111】
図7に示される本実施の形態では、上記式(31)の動力伝達行列T の2列目の行列要素の絶対値が等しくなるので、回転軸120(水平軸Y
b )の出力が最大になる。すなわち、進行方向の出力が最大となる。このように、直進方向の移動に際して、オムニホイール401〜403のそれぞれから回転体12へ動力が効率良く伝達され、最大出力により回転体12を直進方向へ転動させることができる。
【0112】
また、
図10に、比較例に係る回転体R
b と4個のオムニホイールOh
1 〜Oh
4 との配置関係が示されている。垂直軸Z
b 周りおいて回転体R
bの上半球R
buに4個のオムニホイールOh
1 〜Oh
4 が等配されたときの位置ベクトルp
k は、垂直軸Z
bに対して位置ベクトルp
kが45度の傾きに設定されたとき、下記式(32)により表される。単位接線ベクトルt
kは、下記式(33)により表される。
【数34】
【数35】
【0113】
回転体R
bの角速度とオムニホイールOh
1 〜Oh
4 の角速度との関係は下記式(34)により表される。
【数36】
図10に示される比較例では、上記式(34)の動力伝達行列の1列目〜3列目の行列要素の列毎に絶対値が等しくなるので、左右方向への回転軸(水平軸X
b )、前進方向への回転軸(水平軸Y
b )、旋回軸(垂直軸Z
b )のそれぞれの出力が最大になる。
【0114】
上記比較例に対して、
図8に、本実施の形態に係る回転体12と4個のオムニホイール401〜404との配置関係が示されている。回転軸120の一端側の軸周り121の上半球12Bに2個のオムニホイール401及び402が配置され(
図3(A)参照)、回転軸120の他端側の軸周り122の上半球12Bに2個のオムニホイール403及び404が配置されている(
図3(B)参照)。
このときの位置ベクトルp
kは、回転軸120に対して位置ベクトルp
kが45度の傾きに設定されたとき、下記式(35)により表される。
【数37】
また、単位接線ベクトルt
kは下記式(36)により表される。
【数38】
【0115】
そして、回転体12の角速度とオムニホイール401〜404の角速度との関係は下記式(37)により表される。
【数39】
【0116】
図8に示される本実施の形態では、上記式(37)の動力伝達行列T の1列目〜3列目の行列要素の列毎に絶対値がすべて等しくなるので、回転軸120(水平軸Y
b )の出力が最大になるばかりか、左右方向の回転軸(水平軸X
b )及び旋回軸(垂直軸Z
b )の出力も最大になる。このように、直進方向の移動に際して、オムニホイール401〜404のそれぞれから回転体12へ動力が効率良く伝達され、最大出力により回転体12を直進方向へ転動させることができる。
【0117】
さらに、本実施の形態に係る全方向移動装置10では、
図2に示されるように、ホイールはオムニホイール401〜404とされる。オムニホイール401〜404では、
図3(A)及び
図3(B)に示されるように、最大出力により回転体12を直進方向へ転動させることができ、かつ、直進方向以外の方向へも回転体12を転動させることができる。
【0118】
また、本実施の形態に係る全方向移動装置10では、
図7及び
図8に示されるように、第1ホイールとして2個のオムニホイール401及び402が配設され、第2ホイールとして1個のオムニホイール403、或いは2個のオムニホイール403及び404が配設される。このため、最小限のホイール数により、部品点数並びに重量を最小限として、回転体12を全方向へ転動させることができる。
【0119】
さらに、本実施の形態に係る全方向移動装置10によれば、動力伝達行列T の行列要素のうち、回転体12を直進方向に移動させる回転軸120の行列要素の列毎に絶対値が等しくなる位置にオムニホイール401〜404(又は401〜403)が配設される。このため、直進方向の移動に際して、オムニホイール401〜404のそれぞれから回転体12へ動力が効率良く伝達され、最大出力により回転体12を直進方向へ転動させることができる。
【0120】
また、全方向移動装置10によれば、動力伝達行列T は角速度を表す伝達行列を含む。回転体12を直進方向に移動させる回転軸120の角速度を表す伝達行列において行列要素の列毎に絶対値が等しくなる位置に、オムニホイール401〜404(又は401〜403)がそれぞれ配設される。このため、直進方向の移動に際して、オムニホイール401〜404から回転体12へ動力が効率良く伝達され、最大出力により回転体12を直進方向へ転動させることができる。
【0121】
さらに、全方向移動装置10は、
図1(A)〜
図1(D)に示されるように、回転体12の下半球12Aの表面に接して、又は近接させて補助輪32及び36を備える。補助輪32及び36は、
図2に示されるオムニホイール401〜404と同様に、円周方向Aに回転し、かつ、円周方向Aと交差する方向に回転体12を転動可能とする。このため、回転体12の上半球12Bがオムニホイール401〜404に接し、回転体12の下半球12Aに補助輪32及び36が設けられるので、回転体12を全方向へ転動可能としつつ、回転体12の抜けを防ぐことができる。
【0122】
また、
図1及び
図2に示されるように、全方向移動装置10によれば、回転体12上には車体14が設けられる。オムニホイール401及び402のシャフト430にはACサーボモータ422(1)及び422(2)が接続され、ACサーボモータ422(1)及び422(2)は車体14に取り付けられる。また、オムニホイール403及び404のシャフト430にはACサーボモータ422(3)及び422(4)が接続され、ACサーボモータ422(3)及び422(4)は車体14に取り付けられる。オムニホイール401〜404はいずれも回転体12の上半球12Bの表面に接する。このため、車体14の荷重がACサーボモータ422(1)〜422(4)を介してオムニホイール401〜404により支えられ、
図4及び
図6に示される姿勢安定システム600により車体14の姿勢が安定に維持された状態において、最大出力により回転体12を直進方向へ転動させることができる。
【0123】
さらに、
図4に示されるように、全方向移動装置10によれば、姿勢安定システム600は、姿勢角度検出部501と、回転数検出部607と、角速度検出部604と、演算処理部602とを備える。姿勢角度検出部501は、
図1に示される車体14に装着され、車体14の姿勢角度及び姿勢角度の変化に伴う第1角速度を検出する。回転数検出部607は、オムニホイール401〜オムニホイール404の回転数を検出する。角速度検出部604は、回転数検出部607による回転数の検出結果に基づいて、回転体12が転動する第2角速度を検出する。
【0124】
ここで、演算処理部602は、
図4〜
図6に示されるように、車体14の姿勢を維持するオムニホイール401〜404のホイール操作トルクを算出する(S16)。このホイール操作トルクは、姿勢角度検出部501により検出される姿勢角度情報、第1角速度情報(S10)及び角速度検出部604により検出される第2角速度情報(S12)に基づいて、算出される。演算処理部602は、このホイール操作トルク情報に従って、
図2及び
図4に示されるACサーボモータ422(1)〜ACサーボモータ422(4)を作動させる。
このため、姿勢安定システム600では車体14の姿勢を安定に維持する動力がオムニホイール401〜404から回転体12へ伝達されるので、車体14の姿勢が安定に維持された状態において、最大出力により回転体12を直進方向へ転動させることができる。
【0125】
また、
図4〜
図6に示されるように、全方向移動装置10によれば、演算処理部602では、車体14の姿勢を維持させる、回転体12が転動する角加速度の目標値及び車体14が旋回する角加速度の目標値が算出される(S13)。目標値は姿勢角度情報、第1角速度情報(S10)及び第2角速度情報(S12)に基づいて算出される。演算処理部602では、更に目標値に一致させる回転体12の第3角加速度が算出され(S14)、第3角加速度に基づいて回転体12を操作する回転体操作トルクが算出される(S15)。この回転体操作トルクに基づいて、演算処理部602では、オムニホイール401〜404を操作するホイール操作トルクが算出される(S16)。
この結果、演算処理部602において、車体14の姿勢を安定に維持する動力が算出される。このため、動力がオムニホイール401〜404から回転体12へ伝達されるので、車体14の姿勢が安定に維持された状態において、最大出力により回転体12を直進方向へ転動させることができる。
【0126】
さらに、全方向移動装置10の姿勢制御方法によれば、
図5に示されるように、姿勢安定システム600が、まず最初に、姿勢角度情報、第1角速度情報及び第2角速度情報を取得する(S10、S12)。 次に、姿勢角度情報、第1角速度情報及び第2角速度情報に基づいて、車体14の姿勢を維持させる、回転体12が転動する角加速度の目標値及び車体14が旋回する角加速度の目標値が算出される(S13)。次に、目標値に一致させる回転体12の第3角加速度が算出され(S14)、更に第3角加速度情報に基づいて回転体12を操作する回転体操作トルクが算出される(S15)。そして、回転体操作トルク情報に基づいて、オムニホイール401〜404を操作するホイール操作トルクが算出される。
【0127】
この結果、姿勢安定システム600において、車体14の姿勢を安定に維持する動力が算出される。このため、動力がオムニホイール401〜404から回転体12へ伝達されるので、全方向移動装置10では、最大出力により回転体12を直進方向へ転動させることができ、しかも車体14の姿勢を安定に維持することができる。
【0128】
加えて、全方向移動装置10の姿勢制御方法では、
図6に示されるように、動力伝達行列T に基づいて、車体14の姿勢が制御される。詳しく説明すると、演算処理部602の演算処理の入力段では、前述の式(5)に基づいて、動力伝達行列T の一般化逆行列から回転体12の角速度ベクトルω
s が算出される(
図5のS12)。一方、演算処理部602の演算処理の出力段では、前述の式(23)に基づいて、動力伝達行列T の一般化逆行列から回転体12に伝達するオムニホイール401〜404のホイール操作トルクとしての操作トルクτ
oが算出される(
図5のS16)。
このため、オムニホイール401〜404の配置間隔、回転体12の表面に対するオムニホイール401〜404の接触角度等に関係なく、車体14の姿勢を安定に維持することができる。表現を代えれば、本実施の形態に係る姿勢制御方法は、本実施の形態に係る全方向移動装置10の姿勢制御に適切な方法であると共に、他の装置の姿勢制御にも適用可能である。
【0129】
(第2実施の形態)
図11を用いて、本発明の第2実施の形態に係る全方向移動装置10を説明する。ここで、本実施の形態の説明において、第1実施の形態に係る全方向移動装置10の構成要素と同一又は実質的に同一の構成要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0130】
本実施の形態に係る全方向移動装置10では、基本的に第1実施の形態に係る全方向移動装置10と同一構成とされているが、ホイールにメカナムホイール405〜408(
図11参照)が使用されている。ここでは、4個のメカナムホイール405〜408が配設される例を説明するが、第1実施の形態に係る全方向移動装置10と同様に、メカナムホイールは3個とされてもよい。
詳細な構造は省略するが、
図2に示されるオムニホイール401〜404と同様に、メカナムホイール405〜408は、円周方向Aに回転して回転体12に駆動力を伝達し、かつ、円周方向Aと交差する方向Bに回転体12を転動可能とする。
【0131】
図11に、本実施の形態に係る回転体12と4個のメカナムホイール405〜408との配置関係が示されている。回転軸120の一端側の軸周り121の上半球12Bに2個のメカナムホイール405及び406が配置され、回転軸120の他端側の軸周り122の上半球12Bに2個のメカナムホイール407及び408が配置されている。
【0132】
メカナムホイール405〜408では、回転体12との接点p
1 〜p
4 における単位接線ベクトルt
kが、円周上の接線に対して、ここでは45度をなす。回転体12の半径をr
s とすると、位置ベクトルp
k は式(38)により表され、単位接線ベクトルt
k は式(39)により表される。
【数40】
【数41】
【0133】
そして、メカナムホイール405〜408の半径をr
m とすると、動力伝達行列T は下記式(40)により表される。
【数42】
図11に示される本実施の形態では、上記式(40)の動力伝達行列T の1列目〜3列目の行列要素の列毎に絶対値がすべて等しくなる。
【0134】
また、トルク伝達行列T (T
T T )
-1は、下記式(41)により表される。
【数43】
トルク伝達行列T (T
T T )
-1の1列目〜3列目の行列要素の列毎に絶対値がすべて等しくなる。
【0135】
以上説明したように、本実施の形態に係る全方向移動装置10では、ホイールとしてメカナムホイール405〜408が採用されても、回転軸120(水平軸Y
b )の出力が最大になるばかりか、左右方向の回転軸(水平軸X
b )及び旋回軸(垂直軸Z
b )の出力も最大になる。このように、直進方向の移動に際して、メカナムホイール405〜408のそれぞれから回転体12へ動力が効率良く伝達され、最大出力により回転体12を直進方向へ転動させることができる。
【0136】
また、本実施の形態に係る全方向移動装置10及びその姿勢制御方法によれば、第1実施の形態に係る全方向移動装置10及びその姿勢制御方法により得られる作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【0137】
(その他の実施の形態)
本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々変形可能である。例えば、本発明は、3個のオムニホイール401〜403の場合、回転体12の回転軸120の一端側と他端側とを入れ替えてもよい。また、本発明は、5以上のオムニホイールを備えてもよい。なお、全方向移動装置の小型化並びに軽量化を図るためにはオムニホイールは3個又は4個とすることが好ましい。
【0138】
また、上記実施の形態では、3個のオムニホイール401〜403或いは4個のオムニホイール401〜404が等間隔において配置されている。本発明では、動力伝達行列の行列要素のうち、回転体12を直進方向に転動させる回転軸120の行列要素の列毎に絶対値が等しくなる位置であれば、オムニホイール401〜404の間隔は等間隔に限らない。
【0139】
さらに、上記実施の形態では、オムニホイール401〜404は2連のホイール410及び420により構成されているが、本発明では、1連又は3連以上のホイールによりオムニホイール401〜404が構成されてもよい。加えて、本発明では、ホイール410に4個以上のローラが配設され、ホイール420に4個以上のローラが配設されてもよい。
【0140】
また、上記実施の形態では、回転体12を直進方向に転動させる回転軸120の一端側、他端側のそれぞれにオムニホイール401〜404が配設されているが、回転軸120の一端側或いは他端側の一方の軸周りに動力を伝達するオムニホイール401〜404が配設されてもよい。他端側の軸周りには、補助輪を配設することが好ましい。
さらに、上記変形例は、メカナムホイール405〜408についても同様である。