【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 航空宇宙工学に関するアジア太平洋国際シンポジウム2016 予稿集(平成28年10月24日 一般社団法人日本航空宇宙学会発行)にて公開
【文献】
渡辺由美子 外2名,曲率パターンを指定した曲線の生成法,情報処理学会研究報告,社団法人情報処理学会,1997年12月18日,Vol.97,No.124,pp.7−12
【文献】
BARGER, R.L. et al.,A streamline curvature method for design of supercritical and subcritical airfoils,NASA Technical note D-7770 [online],NASA,1974年09月,pp. 1-14,http://ntrs.nasa.gov/api/citations/19740024303/downloads/19740024303.pdf,[検索日 2021.03.26], インターネット
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
流体力学の流線曲率の定理で知られるように、物体形状の曲率に応じて、物体周りの流れ場は変化する。例えば、圧力分布の最適化を目的とした翼の形状を設計する際には、非特許文献1の技術(離散曲率を入力とし離散座標を出力する技術)は有用であるが、離散点ごとに曲率を指定することは非常に手間を要する。非特許文献1の技術は、前縁から後縁へ離散点列を出力するアルゴリズムであるために、前縁の僅かな曲率変化が形状全体の座標分布、ひいては形状全体の圧力分布を変化させてしまう。そのため、特に前縁部の曲率を指定することは非常に手間を要する。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、効率的に曲率分布を生成することができ、しかも直感性に優れた曲率分布生成装置、曲率分布生成方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る曲率分布生成装置は、曲線を描くための制御点に基づき、離散点で表された曲率分布に近似する曲線を生成する曲線生成部と、前記制御点の可変に応じて前記曲線を補正する曲線補正部と、前記曲線補正部により補正された曲線に基づき、前記制御点可変後の曲率を求める曲率算出部とを具備する。
【0007】
本発明では、制御点を可変すると、それに応じて曲線を補正し、補正後の曲線をもとにして制御点可変後の曲率を算出している。従って、効率的に曲率分布を生成することができる。また補正前後の曲線は視覚的に把握がしやすいので、直感性に優れている。
【0008】
本発明の一形態に係る曲率分布生成装置では、離散点で表された曲率分布対象の各点又は各点間の弧長に対するものである。
【0009】
これにより、曲率分布対象の各点(座標)を効率的に生成することができる。
【0010】
本発明の一形態に係る曲率分布生成装置では、前記曲線は、ベジェ曲線、B−Spline曲線又はNURBS(Non Uniform Rational B−Spline)曲線である。
【0011】
本発明の一形態に係る曲率分布生成方法は、曲線を描くための制御点に基づき、離散点で表された曲率分布に近似する曲線を生成し、前記制御点の可変に応じて前記曲線を補正し、前記補正後の曲線に基づき、前記制御点可変後の曲率を求める。
【0012】
本発明の一形態に係るプログラムは、曲線を描くための制御点に基づき、離散点で表された曲率分布に近似する曲線を生成するステップと、前記制御点の可変に応じて前記曲線を補正するステップと、前記補正後の曲線に基づき、前記制御点可変後の曲率を求めるステップとをコンピュータシステムに実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、効率的に曲率分布を生成することができ、しかも直感性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る曲率分布生成装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】翼型などの曲率分布対象を離散点で表された曲率分布を、ベジェ曲線を用いて近似した例を示す図である(その1)。
【
図3】翼型などの曲率分布対象を離散点で表された曲率分布を、ベジェ曲線を用いて近似した例を示す図である(その2)。
【
図4】翼型などの曲率分布対象を離散点で表された曲率分布を、ベジェ曲線を用いて近似した例を示す図である(その3)。
【
図5】翼型などの曲率分布対象を離散点で表された曲率分布を、ベジェ曲線を用いて近似した例を示す図である(その4)。
【
図6】翼型などの曲率分布対象を離散点で表された曲率分布を、ベジェ曲線を用いて近似した例を示す図である(その5)。
【
図7】本発明に係る曲率分布生成装置を用いた設計支援システムの一例を示すブロック図である。
【
図8】
図7に示した設計支援システムを用いた設計例を示すフロー図である。
【
図9】曲率分布対象としての航空機の翼断面を座標上に表示した例を示す図である。
【
図10】
図7に示した設計支援システムにおける曲率分布生成装置により生成される曲率分布の一例を示す図である。
【
図11】
図7に示した設計支援システムにおいて算出された曲率分布の結果を示す図である。
【
図12】
図7に示した設計支援システムにおいて算出された座標分布から得られる各種の翼断面の例である。
【
図14】
図7に示した設計支援システムにおいて算出された各種の圧力分布の例である。
【
図16】曲線座標生成装置の他の構成を示すブロック図である。
【
図17】
図16に示した曲線座標生成装置の動作原理を説明するための図である。
【
図18】
図16に示した曲線座標生成装置による具体的な処理の流れを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
<曲率分布生成装置>
図1は、本発明の一実施形態に係る曲率分布生成装置の構成を示すブロック図である。
【0017】
図1に示すように、曲率分布生成装置10は、曲線生成部11と、曲線補正部12と、曲率算出部13とを有する。典型的には、曲率分布生成装置10は、コンピュータシステムに本発明に係るプログラムを実行させることで実現することができる。
【0018】
ここで、
図2〜
図6に、翼型などの曲率分布対象を離散点で表された曲率分布を、ベジェ曲線を用いて近似した例を示す。
図2〜
図7において、x軸は曲率分布対象の位置を示し、y軸は各位置に対応する曲率を示す。
【0019】
曲線生成部11は、曲線を描くための制御点に基づき、離散点で表された曲率分布に近似する曲線を生成する。
【0020】
曲線生成部11は、例えば
図2に示すように、曲線生成部11は、xy座標上に離散点で表された曲率分布20(xy座標上の各点)を設定する。
【0021】
次に、
図3及び4に示すように、曲線生成部11は、xy座標上に曲率分布20に応じた曲線(
図3及び
図4中の実線)を表現するベジェ曲線21を描くための制御点P1〜P14を設定する。
【0022】
次に、曲線生成部11は、制御点P1〜P14に応じた曲線(
図3及び
図4中の一点鎖線)が曲率分布20に応じた曲線(
図3及び
図4中の実線)に近似するように、最小二乗法或いは手動などで制御点P1〜P14を設定する。
【0023】
すなわち、曲線生成部11は、離散点で表された曲率分布対象の曲率分布を複数のベジェ曲線21a〜21dでパラメタライズする。
【0024】
曲線補正部12は、制御点P1〜P14の可変に応じてベジェ曲線21を補正する。ここでいう、制御点の可変とは、例えばxy座標上の制御点の位置を所望の位置に変化させることである。
【0025】
曲線補正部12は、例えば
図5に示すように、制御点P8を可変すると、制御点P8の可変に応じて第3のベジェ曲線21cを補正する。つまり、曲線補正部12は、制御点P8の可変に対して、可変後の制御点P7〜P11によって第3のベジェ曲線21cを描く。
【0026】
曲率算出部13は、補正後のベジェ曲線に基づき、制御点可変後の曲率を求める。
【0027】
曲率算出部13は、例えば
図6に示すように、補正後のベジェ曲線21に対して、所望のx座標におけるy座標、つまり曲率を求める。
【0028】
図1において、符号14は離散点で表された曲率分布対象の各曲率や制御点の可変などを入力する入力部、15は
図2〜
図6の曲線などを画面上で表示する表示部、16は曲率算出部13で算出された曲率などを出力する出力部である。
【0029】
この実施形態に係る曲率分布生成装置10では、曲率分布を複数のベジェ曲線でパラメタライズし、制御点を用いることで、各点の曲率を効率的に生成することができる。また、画面上で曲線を見ながら曲率の調整が可能であるので、直感性が優れている。
【0030】
なお、上記の実施形態では、曲線としてベジェ曲線を用いたが、B−Spline曲線やNURBS(Non Uniform Rational B−Spline)曲線などを用いることもできる。
【0031】
<曲率分布生成装置を用いた設計支援システム(その1)>
図7は曲率分布生成装置10を用いた設計支援システムの一例を示す図である。
【0032】
図7に示すように、設計支援システム30は、曲率分布生成装置10と、座標生成装置31と、抽出部32と、圧力分布算出部33とを有する。典型的には、設計支援システム30は、コンピュータシステムに所定のプログラムを実行させることで実現することができる。
【0033】
座標生成装置31は、非特許文献1に開示された技術を用いた装置であり、曲率分布生成装置10からの離散曲率及びx座標を入力として離散点列を出力する。座標生成装置31は、座標P
i−2及び座標P
i−1の曲率から円を描き、この円上で次の座標P
iのx座標に対応するy座標を求めることで、次の座標P
iを求め、以下同様の演算を繰り返すことで、離散点で表された曲線の座標を求める。
【0034】
次に、この設計支援システム30を用いた設計例を
図8のフローを参照しながら説明する。
【0035】
図9は曲率分布対象としての航空機の翼断面を座標上に表示した例を示している。ここで、xは翼弦方向、zは翼厚方向、cは翼弦長、clは後縁位置である。この例では、2本のベジェ曲線を用いて前縁上面の曲率分布をパラメタライズする(ステップ401)。曲率分布生成装置10により生成される曲率分布の一例を
図10に示す。
【0036】
図10は翼の上面におけるコード長0.0%から1.2%までの曲率分布を2本のベジェ曲線51、52で表現したものである。上面におけるコード長1.2%から後縁までの曲率分布は固定している。
この場合の設計変数は例えばベジェ曲線51、52の制御点v1〜v8であり、制約条件は後縁位置clである。それらの値を下記の表に示す。以下では、特にv4の最大曲率及びvlの最大曲率の位置を制御している。v2、v3、v5、v6、v7、v8、の上限は隣接する制御点に依存するよう設定しているが、これはvlの位置において必ずv4が最大曲率とするためである。
【0038】
曲率分布生成装置10において、制御点を補正してパターンの異なる曲率分布を算出する(ステップ402)。その例を
図11に示す。
図11において、sは前縁位置を基点としたときの形状に沿った弧長を示し、上面は正、下面は負の符号を与える。s/c=0は前縁位置を示し、x座標の最小値をとる位置を示す。
抽出部32は、これらの曲率分布から制約条件clを満たすものだけを抽出する(ステップ403)。
【0039】
座標生成装置31は、制約条件を満たしたそれぞれの曲率分布からそれぞれの座標分布を算出する(ステップ404)。
図12は算出された座標分布から得られる各種の翼断面の例である。
図13は
図12の前縁部分を拡大したものである。
【0040】
圧力分布算出部33は、流体解析で圧力分布を算出する(ステップ405)。
図14は算出された各種の圧力分布の例である。
図15は
図14の前縁部分を拡大したものである。
【0041】
図14や
図15に示した圧力分布から性能を算出し、例えば目的関数である翼の抵抗を評価することが可能である。つまり、設計支援システム30において、本発明に係る曲率分布生成装置10を使うことで、圧力抵抗低減の鍵となる前縁曲率とそれに対応する形状を効率的に検索することができる。
【0042】
なお、上記の例は、ランダムサンプリングで2000ケースを生成し、制約条件clを満たす11ケースについて流体解析を実施しものである。
図14に示す圧力分布から前縁での圧力分布と衝撃波位置の違いが見られることがわかる。
【0043】
<曲率分布生成装置を用いた設計支援システム(その2)>
上記の座標生成装置31は、曲率分布生成装置10からの離散曲率及びx座標から離散点で表された曲線の座標を求めていたが、以下の構成の座標生成装置をこの設計支援システムに適用することできる。
【0044】
図16はこの曲線座標生成装置の構成を示す図である。
【0045】
図16に示すように、曲線座標生成装置110は、入力部111と、座標算出部112と、出力部113と、曲線生成部114とを具備する。この曲線座標生成装置110は、典型的には、コンピュータシステムに本発明に係るプログラムを実行させることで実現することができる。
【0046】
曲線座標生成装置110は、
図17に示すように、二次元直交座標系の点列P(1)、P(2)、・・・P(n)のそれぞれに対して弧長(点列の間隔)と曲率が既知であり、かつ、xy座標が未知である場合、隣接する3点が同一の円上に位置すると仮定し、幾何学的な手法(三平方の定理及び余弦定理)を用いることによって、それぞれの点列のxy座標を算出する。ただし、P(1)とP(2)のxy座標は初期値として与える必要がある。
【0047】
図17の例では、P(2)、P(3)、P(4)が同一円C上に位置するという仮定を用い、加えてP(2)とP(3)のxy座標、P(3)P(4)の弧長S
3、P(3)の曲率R
3の情報を使って、P(4)のxy座標を求めている。同様の手順を踏むことで、点列P(5)、P(6)、・・・P(n)のxy座標を求めることができる。
【0048】
ここで、入力部111は、離散点で表された曲線の曲率R
n、離散点間の弧長S
n、離散点の第1の座標(x
n−1、y
n−1)及び第1の座標の次の第2の座標(x
n、y
n)を入力する。
【0049】
座標算出部112は、第1の座標(x
n−1、y
n−1)、第2の座標(x
n、y
n)及び第2の座標(x
n、y
n)における曲率R
nに基づき円Cを構成し、第2の座標(x
n、y
n)から、第2の座標(x
n、y
n)と第2の座標の次の第3の座標(x
n+1、y
n+1)となる点との間の弧長S
nだけ離れた円C上の座標を第3の座標(x
n+1、y
n+1)として算出する。
【0050】
出力部113は、座標算出部112で算出された第3の座標(x
n+1、y
n+1)を出力する。
【0051】
図18はこの曲線座標生成装置110による具体的な処理の流れを説明するための図である。
入力部111は、以下の値を入力する
【0054】
(3)初期条件として始点の座標(x
1、y
1)及び次の点の座標(x
2、y
2)
座標算出部112は、以下の処理を実行する
【0055】
(1)初期条件としての始点の座標(x
1、y
1)及び次の点の座標(x
2、y
2)をxy座標上の既知の点丸1及び点丸2として用意する(
図18(a)
【0056】
(2)点丸2の曲率から点丸1及び点丸2を通過する円Cを三平方の定理を用いて描く(
図18(b))。この円C上では点丸3の点は一意に求められていない
【0057】
(3)点丸2と点丸3との間の弧長から余弦定理を用いて点丸2から弧長だけ離れた円C上の点丸3の座標(x
3、y
3)を決定する(
図18(c))。
【0058】
座標算出部112は、座標(x
2、y
2)及び次の点の座標(x
3、y
3)をxy座標上の既知の点として用意し、上記の(2)と(3)の処理を実行し、以下この処理を繰り返し、離散点で表された曲線の各点におけるxy座標を算出する。
【0059】
出力部113は、算出された各点のxy座標を出力する。
【0060】
曲線生成部114は、各座標で曲率を指定でき、かつ、隣接する座標間の曲率が単調となる曲線生成法を用いて、出力部113により出力されたxy座標の点列を通過する曲線を生成して出力する。
【0061】
従って、この曲線座標生成装置110により、離散点で表された曲線の各点の曲率及び各点間の弧長を入力とし、それに対応する座標を簡単な処理で出力することができる。よって、曲率分布生成装置を用いた設計支援システムにこの曲線座標生成装置110を用いることにより、曲率分布対象の各点(座標)を効率的に生成することができる
<まとめ>
以上説明したとおり、本発明に係る曲率分布生成装置では、制御点を可変すると、それに応じて曲線を補正し、補正後の曲線をもとにして制御点可変後の曲率を算出している。従って、効率的に曲率分布を生成することができる。また補正前後の曲線は視覚的に把握がしやすいので、直感性に優れている。
【0062】
上記の実施形態で説明した以外にも、曲線分布を複数曲線で表現する際に、曲率分布の標本(サンプル)が必要となる場合があり、その場合も本発明を適用することができる。そのサンプルを求める際の例を以下に示す。
・古典力学の遠心力の式から導かれる曲率と速度との関係式を用いて、速度分布から曲率分布のサンプルを算出する生成法。
・古典力学の遠心力の式から導かれる曲率と遠心力との関係式を用いて、遠心力分布から曲率分布のサンプルを算出する生成法。
・古典力学の遠心力の式から導かれる曲率と遠心力との関係式を用いて、質量分布から曲率分布のサンプルを算出する生成法。
・光学における焦点距離の式から導かれる曲率と焦点距離との関係式を用いて、焦点距離分布から曲率分布のサンプルを導出する生成法。
【0063】
また、本発明は様々な分野において有効である。典型的には、流体力学の分野(例えば空力性能向上のため形状曲率制御)、数値流体力学(例えばCFD用計算格子の点制御)、意匠設計(例えば意匠曲線(点列)を描くための曲率制御)、経路設計(例えば経路のコーナ部分曲率制御)などの分野において本発明は有効である。