【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、放線菌Polymorphospora rubra K07−0510株のトレハンジェリン合成に関与する酵素をコードするDNA、即ち3−ケトアシル−CoAシンターゼをコードする遺伝子、3−ケトアシル−CoAレダクターゼをコードする遺伝子、エノイル−CoAハイドラターゼをコードする遺伝子及びアシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の取得を試み、当該4種の遺伝子をクローニングした形質転換体によりトレハンジェリンの生産が可能であるか否かを検討し、当該酵素をコードする遺伝子を有する形質転換体での酵素発現及び機能解析により、本発明を達成するに至った。すなわち、本発明者らは、放線菌Polymorphospora rubra K07−0510株よりトレハンジェリンの生合成に関与する新規酵素群を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、下記の何れかを有するDNA:
(1) 以下の(i)〜(iv)から選択される少なくとも1つの塩基配列を有する核酸分子:
(i)配列番号2に記載の塩基配列、配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列、あるいは、
配列番号3に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号2に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が
エノイル−CoAハイドラターゼとしての活性を有する塩基配列;
(ii)配列番号4に記載の塩基配列、配列番号5に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列、あるいは、
配列番号5に記載のアミノ酸配列において1から数個の
アミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が
3−ケトアシル−CoAシンターゼとしての活性を有する塩基配列;
(iii)配列番号6に記載の塩基配列、配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列、あるいは、
配列番号7に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号6に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が
アシルトランスフェラーゼとしての活性を有する塩基配列;及び
(iv)配列番号8に記載の塩基配列、配列番号9に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列、あるいは、
配列番号9に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号8に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が
3−ケトアシル−CoAレダクターゼとしての活性を有する塩基配列。
(2) (1)における(i)〜(iv)の全ての塩基配列を有する、(1)に記載の核酸分子。
(3) 配列番号1に記載の塩基配列、配列番号1に記載の塩基配列がコードするアミノ酸において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は、配列番号1に記載の塩基配列と90%の同一性を有する塩基配列を有する核酸分子である、(2)に記載の核酸分子。
(4) 配列番号2に記載の塩基配列を有する核酸分子、配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸分子、あるいは、配列番号3に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号2に記載の塩基配列と90%の同一性を有する塩基配列を有し、かつ、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が
エノイル−CoAハイドラターゼとしての活性を有する核酸分子である、(1)に記載の核酸分子。
(5) 配列番号4に記載の塩基配列を有する核酸分子、配列番号5に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸分子、あるいは、配列番号5に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列と90%の同一性を有する塩基配列を有し、かつ、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が
3−ケトアシル−CoAシンターゼとしての活性を有する核酸分子である、(1)に記載の核酸分子。
(6) 配列番号6に記載の塩基配列を有する核酸分子、配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸分子、あるいは、配列番号7に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号6に記載の塩基配列と90%の同一性を有する塩基配列を有し、かつ、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が
アシルトランスフェラーゼとしての活性を有する核酸分子である、(1)に記載の核酸分子。
(7) 配列番号8に記載の塩基配列を有する核酸分子、配列番号9に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸分子、あるいは、配列番号9に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号8に記載の塩基配列と90%の同一性を有する塩基配列を有し、かつ、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が
3−ケトアシル−CoAレダクターゼとしての活性を有する核酸分子である、(1)に記載の核酸分子。
(8) 配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは、配列番号3において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、又は配列番号3のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、
エノイル−CoAハイドラターゼ活性を有するタンパク質。
(9) 配列番号5に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは、配列番号5において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、又は配列番号5のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、
3−ケトアシル−CoAシンターゼ活性を有するタンパク質。
(10) 配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは、配列番号7において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、又は配列番号7のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、
アシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
(11) 配列番号9のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは、配列番号9において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列、又は配列番号9のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、
3−ケトアシル−CoAレダクターゼ活性を有するタンパク質。
(12) (1)〜(7)のいずれか1項に記載の核酸分子を含むベクター。
(13) (12)に記載のベクターを含有する形質転換体。
(14) 大腸菌である、(13)に記載の形質転換体。
(15) (13)又は(14)に記載の形質転換体を培養してトレハンジェリンを生成させることを含む、トレハンジェリンの製造方法。
(16) 少なくとも、(8)〜(11)のいずれか1項に記載のタンパク質を基質と作用させることを含む、トレハンジェリンの製造方法。
(17) (8)〜(11)に記載の全てのタンパク質を基質と作用させることを含む、(16)に記載のトレハンジェリンの製造方法。
【0009】
一態様において、本発明はトレハンジェリン合成に関与する酵素群及び当該酵素群をコードする核酸分子に関する。本明細書において、「トレハンジェリン」とは、下記一般式で表される化合物を意味する:
【0010】
【化1】
[式中、R1〜R3のいずれか一つは2−メチルブタ−2−エノイル基であり、残りの二つは水素原子を示し、かつ、R4〜R6のいずれか一つは2−メチルブタ−2−エノイル基であり、残りの二つは水素原子を示す。]
【0011】
本明細書におけるトレハンジェリンとしては、例えば、トレハンジェリンA、トレハンジェリンB、及びトレハンジェリンCを挙げることができる。トレハンジェリンAは下記式Iで表される化合物である。
【0012】
【化2】
【0013】
本明細書において、トレハンジェリンBとは、下記式IIで表される化合物である。
【0014】
【化3】
【0015】
本明細書において、トレハンジェリンCとは、下記式IIIで表される化合物である。
【0016】
【化4】
【0017】
本明細書において「トレハンジェリン合成」とは、以下の(a)〜(d)から選択される少なくとも1つの工程を意味する。すなわち、トレハンジェリン合成は、以下の(a)〜(d)から選択される1種類、又は2種類以上の工程(2種類、3種類又は全て)を含む:
(a)アセチル−CoAとメチルマロニル−CoAが反応して、2−メチルアセトアセチル−CoAが生成する工程;
(b)2−メチルアセトアセチル−CoAが3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAに変換される工程;
(c)3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAがアンジェリル−CoAに変換される工程;及び
(d)アンジェリル−CoAとトレハロースが反応して、トレハンジェリンに変換される工程。
よって、本発明は、以下の(a)〜(d)から選択される1種類、又は2種類以上の方法(2種類、3種類又は全て)を含む
(a)アセチル−CoAとメチルマロニル−CoAとを反応させて、2−メチルアセトアセチル−CoAを製造する方法;
(b)2−メチルアセトアセチル−CoAを3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAに変換する方法;
(c)3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAをアンジェリル−CoAに変換する方法;及び
(d)アンジェリル−CoAとトレハロースとを反応させて、トレハンジェリンに変換させる方法。
【0018】
本発明における「トレハンジェリン合成に関与する酵素群」とは、前記(a)〜(d)の工程を触媒する酵素のことであり、具体的には、3−ケトアシル−CoAシンターゼ(前記(a)の工程を触媒)、3−ケトアシル−CoAレダクターゼ(前記(b)の工程を触媒)、エノイル−CoAハイドラターゼ(前記(c)の工程を触媒)、及びアシルトランスフェラーゼ(前記(d)の工程を触媒)を意味する。
【0019】
本明細書において、トレハンジェリン合成に関与する酵素群は、代表的には、それぞれ、配列番号
5(3−ケトアシル−CoAシンターゼ)、配列番号
9(3−ケトアシル−CoAレダクターゼ)、配列番号
3(エノイル−CoAハイドラターゼ)及び配列番号
7(アシルトランスフェラーゼ)に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。本明細書においては、これらの酵素群は、配列番号
5(3−ケトアシル−CoAシンターゼ)、配列番号
9(3−ケトアシル−CoAレダクターゼ)、配列番号
3(エノイル−CoAハイドラターゼ)及び配列番号
7(アシルトランスフェラーゼ)に記載のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。本明細書において「1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入された」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されていることを意味する。また、本明細書においては、これらの酵素群は、それぞれ、配列番号
5(3−ケトアシル−CoAシンターゼ)、配列番号
9(3−ケトアシル−CoAレダクターゼ)、配列番号
3(エノイル−CoAハイドラターゼ)及び配列番号
7(アシルトランスフェラーゼ)に記載のアミノ酸配列と60%以上の相同性又は同一性を有し、あるいは、例えば、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。アミノ酸配列の相同性又は同一性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)等、当業者に良く知られたツールを用いて調べることができる。
【0020】
本明細書において、「1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質」及び「60%以上等の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質」は、元となるアミノ酸配列を有するタンパク質が有する生物学的活性、すなわち酵素活性を有する。これらのタンパク質が有する生物学的活性は、元となるアミノ酸配列を有するタンパク質と同じ性質の活性であればよく、活性の強さとして同程度の活性を有する必要はない。具体的には、配列番号
5に記載のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質、及び、配列番号
5に記載のアミノ酸配列と60%以上等の相同性又は同一性を有するタンパク質は、前記(a)の反応を触媒する3−ケトアシル−CoAシンターゼ活性を有する。配列番号
9に記載のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質、及び、配列番号
9に記載のアミノ酸配列と60%以上等の相同性又は同一性を有するタンパク質は、前記(b)の反応を触媒する3−ケトアシル−CoAレダクターゼ活性を有する。配列番号
3に記載のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質、及び、配列番号
3に記載のアミノ酸配列と60%以上等の相同性又は同一性を有するタンパク質は、前記(c)の反応を触媒するエノイル−CoAハイドラターゼ活性を有する。配列番号
7に記載のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質、及び、配列番号
7に記載のアミノ酸配列と60%以上等の相同性又は同一性を有するタンパク質は、前記(d)の反応を触媒するアシルトランスフェラーゼ活性を有する。本明細書全体に亘って、あるタンパク質が、目的の酵素活性を有するか否かは、元となるオリジナルのタンパク質が触媒可能な条件下で、各タンパク質を対応する基質と反応させ、期待される産物が得られるか否かを検出することにより確認することができる。期待される産物が少しでも含まれている場合には、当該タンパク質は前記酵素活性を有すると判定することができる。
【0021】
別の態様において、本発明は、前記酵素群をコードする塩基配列を有する核酸分子に関する。具体例として、本発明の核酸分子は、配列番号2、配列番号4、配列番号6及び配列番号8に記載の塩基配列のうち、少なくとも1種類の塩基配列を有する核酸分子である。本発明の核酸分子は、更に、配列番号2に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列、配列番号4に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列、配列番号6に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列、及び配列番号8に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含む。同一性は、90%以上であればより高いものでもよく、例えば、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上であってもよい。核酸配列の同一性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)等、当業者に良く知られたツールを用いて調べることができる。
【0022】
本明細書において、「90%以上等の同一性を有する塩基配列を有する核酸分子」によりコードされたタンパク質は、元となる核酸分子によりコードされたタンパク質が有する生物学的活性、すなわち酵素活性を有する。よって、例えば、配列番号
4に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によりコードされるタンパク質は、前記(a)の反応を触媒する3−ケトアシル−CoAシンターゼ活性を有する。同様に、配列番号
8に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によりコードされるタンパク質は、前記(b)の反応を触媒する3−ケトアシル−CoAレダクターゼ活性を有する。配列番号
2に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によりコードされるタンパク質は、前記(c)の反応を触媒するエノイル−CoAハイドラターゼ活性を有する。配列番号
6に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によりコードされるタンパク質は、前記(d)の反応を触媒するアシルトランスフェラーゼ活性を有する。
【0023】
本発明の核酸分子は、前記酵素群のうち、少なくとも1種類の酵素をコードする塩基配列を有していれば良いが、2種類以上(例えば、2種類、3種類、又は全て)の酵素をコードする塩基配列を有していてもよい。本発明の核酸分子が2種類以上の酵素をコードする塩基配列を有している場合、各酵素をコードする塩基配列は開始コドンを含まない任意のノンコーディング領域を介して結合していても良い。あるいは、本発明の核酸分子が2種類以上の酵素をコードする塩基配列を有している場合、各酵素をコードする塩基配列の一部が重複していてもよい。例えば、配列番号2、配列番号4、配列番号6及び配列番号8に記載の塩基配列の全てを有する配列番号1に記載の塩基配列においては、1〜828番目が配列番号2の塩基配列、875〜1900番目が配列番号4の塩基配列、1905〜2684番目が配列番号6の塩基配列、2681〜3475番目が配列番号8の塩基配列と同一であり、配列番号2と配列番号4、及び、配列番号4と配列番号6の間にはノンコーディング領域がある他、配列番号6と配列番号8は一部の核酸配列を共有しており、配列番号1の中で重複したコーディング領域が存在する。
【0024】
本明細書において、「核酸分子」とは、DNA、RNA又はDNAとRNAの混合物を意味する。核酸分子は、目的のタンパク質を発現可能である限り、修飾等されたものであっても良い。また、本発明は、前記酵素群のうち、少なくとも1種類の酵素をコードする塩基配列と相補的な塩基配列を有する核酸分子も包含する。
【0025】
本発明のさらに別の側面によれば、前記酵素群をコードする塩基配列を有するDNA及び/又はRNAを含むベクターが提供される。本発明のベクターは、微生物において当該DNA及び/又はRNAを発現可能なベクターであれば特に限定されるものではないが、宿主である大腸菌又は放線菌において自立複製又は染色体中への組込みが可能であることが好ましい。また、本発明のベクターは、前記DNA及び/又はRNAに加えて、転写終結配列、プロモーター領域、リボソーム結合配列、及び/又はプロモーターを制御する配列を含んでいてもよい。本発明のベクターは好ましくはプロモーター領域を含み、この場合、前記DNA及び/又はRNAの発現を制御可能な位置にプロモーターを含有していることが好ましいが含まれていてもよい。ファージベクターとプラスミドベクターのいずれであっても良く、好ましくは、大腸菌又は放線菌で発現するベクターである。本発明のベクターとしては、例えば、ZAPExpress〔ストラタジーン社製、Strategies,5,58(1992)〕、pBluescript IISK(+)〔Nucleic Acids Research,17,9494(1989)〕、Lambda ZAPII(ストラタジーン社製)、λgt10、λgt11〔DNaCloning,A Practical Approach,1,49(1985)〕、λTriplEx(クローンテック社製)、λExCell(ファルマシア社製)、pT7T318U(ファルマシア社製)、pcD2〔Mol.Gen.Biol.,3,280(1983)〕、pMW218(和光純薬社製)、UC118(宝酒造社製)、pEG400〔J.Bac.,172,2392(1990)〕、pQE−30(キアゲン社製)、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもベーリンガーマンハイム社より市販)、pKK233−2(ファルマシア社製)、pSE280(インビトロジェン社製)、pGEMEX−1(プロメガ社製)、pQE−8(キアゲン社製)、pQE−30(キアゲン社製)、pKYP200〔Agricultural Biological Chemistry,48, 669 (1984)〕、pLSA1〔Agricultural Biological Chemistry.,53,277(1989)〕、pGEL1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,4306(1985)〕、pBluescriptIISK+、pBluescriptIISK−(ストラタジーン社製)、pTrS30(FERMBP−5407)、pTrS32(FERMBP−5408)、pGEX(ファルマシア社製)、pET−3(ノヴァジェン社製)、pET−15b(ノヴァジェン社製)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pUC18〔Gene,33,103(1985)〕、pUC19〔Gene,33,103(1985)〕、pSTV28(宝酒造社製)、pSTV29(宝酒造社製)、pUC118(宝酒造社製)、pColdI(宝酒造社製)、pEG400〔J.Bacteriol., 172, 2392(1990)〕等を例示することができる。
【0026】
プロモーターとしては、宿主である放線菌細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、SP01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーター等をあげることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター(Prpx2)、tacプロモーター、letIプロモーター、lacT7プロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
【0027】
リボソーム結合配列としては、宿主である放線菌細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよいが、シャイン−ダルガノ(Shine−Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6〜18塩基)に調節したベクターを用いることが好ましい。
【0028】
本発明の別の側面によれば、上記ベクターを有する形質転換体又は宿主細胞が提供される。例えば、形質転換体又は宿主細胞としては、Escherichia属、Corynebacterium属、Brevibacterium属、Bacillus属、Microbacterium属、Serratia属、PSEudomonas属、Agrobacterium属、Alicyclobacillus属、Anabaena属、Anacystis属、Arthrobacter属、Azobacter属、Chromatium属、Erwinia属、Methylobacterium属、Phormidium属、Rhodobacter属、RhodopSEudomonas属、Rhodospirillum属、Scenedesmun属、Streptomyces属、Synnecoccus属、Zymomonas属等に属する微生物をあげることができ、好ましくは、Escherichia属、Corynebacterium属、Brevibacterium属、Bacillus属、PSEudomonas属、Agrobacterium属、Alicyclobacillus属、Anabaena属、Anacystis属、Arthrobacter属、Azobacter属、Chromatium属、Erwinia属、Methylobacterium属、Phormidium属、Rhodobacter属、RhodopSEudomonas属、Rhodospirillum属、Scenedesmun属、Streptomyces属、Synnecoccus属、Zymomonas属に属する微生物等をあげることができる。放線菌としては、例えばStreptomyces albus、Streptomyces lividans、Streptomyces chromofuscus、Streptomyces exfoliatus、Streptomyces argenteorusを挙げることができる。本発明の形質転換体は、酵素タンパク質を効率的に発現できる能力を有する宿主細胞であればどのような細胞でも構わないが、大腸菌、パン酵母、及び放線菌(Streptomyces属)が好ましく、大腸菌及び放線菌がより好ましく、大腸菌が最も好ましい。