特許第6951702号(P6951702)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6951702
(24)【登録日】2021年9月29日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】トレハンジェリンの製造法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/53 20060101AFI20211011BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20211011BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20211011BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20211011BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20211011BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20211011BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20211011BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20211011BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20211011BHJP
   C12P 19/12 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
   C12N15/53ZNA
   C12N15/54
   C12N15/52 Z
   C12N9/10
   C12N9/02
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P19/12
【請求項の数】17
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-38868(P2017-38868)
(22)【出願日】2017年3月2日
(65)【公開番号】特開2017-158546(P2017-158546A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2020年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2016-42045(P2016-42045)
(32)【優先日】2016年3月4日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2015年度日本放線菌学会大会講演要旨集、掲載日:平成27年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】598041566
【氏名又は名称】学校法人北里研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000214272
【氏名又は名称】長瀬産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100120293
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 智子
(72)【発明者】
【氏名】大村 智
(72)【発明者】
【氏名】高橋 洋子
(72)【発明者】
【氏名】中島 琢自
(72)【発明者】
【氏名】稲橋 佑起
【審査官】 長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/034147(WO,A1)
【文献】 特開2015−024985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/53
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12N 9/02
C12N 9/10
C12N 15/52
C12N 15/54
C12P 19/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
AGRICOLA(STN)
BIOTECHNO(STN)
FSTA(STN)
SCISEARCH(STN)
TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)〜(iv)から選択される少なくとも1つの塩基配列を有する核酸分子:
(i)配列番号2に記載の塩基配列、配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列、あるいは、
配列番号3に記載のアミノ酸配列において1から個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号2に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、当該塩基配列によりコードされるタンパク質がエノイル−CoAハイドラターゼとしての活性を有する塩基配列;
(ii)配列番号4に記載の塩基配列、配列番号5に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列、あるいは、
配列番号5に記載のアミノ酸配列において1から個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が3−ケトアシル−CoAシンターゼとしての活性を有する塩基配列;
(iii)配列番号6に記載の塩基配列、配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列、あるいは、
配列番号7に記載のアミノ酸配列において1から個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、配列番号7に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号6に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、当該塩基配列によりコードされるタンパク質がアシルトランスフェラーゼとしての活性を有する塩基配列;及び
(iv)配列番号8に記載の塩基配列、配列番号9に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列、あるいは、
配列番号9に記載のアミノ酸配列において1から個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、配列番号9に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号8に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が3−ケトアシル−CoAレダクターゼとしての活性を有する塩基配列。
【請求項2】
請求項1における(i)〜(iv)の全ての塩基配列を有する、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
配列番号1に記載の塩基配列、配列番号1に記載の塩基配列がコードするアミノ酸において1から個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は、配列番号1に記載の塩基配列と90%の同一性を有する塩基配列を有する核酸分子である、請求項2に記載の核酸分子。
【請求項4】
配列番号2に記載の塩基配列を有する核酸分子、配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸分子、あるいは、配列番号3に記載のアミノ酸配列において1から個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、配列番号3に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号2に記載の塩基配列と90%の同一性を有する塩基配列を有し、かつ、当該塩基配列によりコードされるタンパク質がエノイル−CoAハイドラターゼとしての活性を有する核酸分子である、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項5】
配列番号4に記載の塩基配列を有する核酸分子、配列番号5に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸分子、あるいは、配列番号5に記載のアミノ酸配列において1から個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、配列番号5に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列と90%の同一性を有する塩基配列を有し、かつ、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が3−ケトアシル−CoAシンターゼとしての活性を有する核酸分子である、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項6】
配列番号6に記載の塩基配列を有する核酸分子、配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸分子、あるいは、配列番号7に記載のアミノ酸配列において1から個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、配列番号7に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号6に記載の塩基配列と90%の同一性を有する塩基配列を有し、かつ、当該塩基配列によりコードされるタンパク質がアシルトランスフェラーゼとしての活性を有する核酸分子である、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項7】
配列番号8に記載の塩基配列を有する核酸分子、配列番号9に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸分子、あるいは、配列番号9に記載のアミノ酸配列において1から個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、配列番号9に記載のアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号8に記載の塩基配列と90%の同一性を有する塩基配列を有し、かつ、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が3−ケトアシル−CoAレダクターゼとしての活性を有する核酸分子である、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項8】
配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは、配列番号3において1から個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、又は配列番号3のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、エノイル−CoAハイドラターゼ活性を有するタンパク質。
【請求項9】
配列番号5に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは、配列番号5において1から個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、又は配列番号5のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、3−ケトアシル−CoAシンターゼ活性を有するタンパク質。
【請求項10】
配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは、配列番号7において1から個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、又は配列番号7のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、アシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項11】
配列番号9のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは、配列番号9において1から個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列、又は配列番号9のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、3−ケトアシル−CoAレダクターゼ活性を有するタンパク質。
【請求項12】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の核酸分子を含むベクター。
【請求項13】
請求項12に記載のベクターを含有する形質転換体。
【請求項14】
大腸菌である、請求項13に記載の形質転換体。
【請求項15】
請求項13又は請求項14に記載の形質転換体を培養してトレハンジェリンを生成させることを含む、トレハンジェリンの製造方法。
【請求項16】
少なくとも、請求項8〜請求項11のいずれか1項に記載のタンパク質を基質と作用させることを含む、トレハンジェリンの製造方法。
【請求項17】
請求項8〜請求項11に記載の全てのタンパク質を基質と作用させることを含む、請求項16に記載のトレハンジェリンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【クロスリファレンス】
【0001】
本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。また、本願は2016年3月4日に出願された日本国特許出願第2016−042045号からの優先権を主張する。本願が優先権を主張するこれらの出願に記載の内容は全て参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明はトレハンジェリン合成の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
ラン科の植物の根より分離された放線菌Polymorphospora rubra K07−0510株の二次代謝産物よりトレハンジェリンA、トレハンジェリンB及びトレハンジェリンCが発見された。トレハンジェリンは、トレハロース1分子にアンジェリカ酸2分子が縮合した化合物であり、光により惹起されたフェオフォルバイドaによる細胞障害を抑える作用、すなわち、細胞保護作用を有している。また、トレハンジェリンA及びトレハンジェリンBは、動物細胞(特には、ヒト細胞)に対して毒性を示さないため、安全な物質である。さらに、グラム陰性細菌、グラム陽性細菌及び真菌に対して抗菌活性を示さないため、人体に使用しても常在菌に対して悪影響を及ぼさないと考えられる(特許文献1)。
【0004】
このように、トレハンジェリンは安全で有用な物質であり、光線過敏症治療薬等の医薬品や化粧品への応用が期待され、トレハンジェリンの安価な製造方法が確立されれば、医学的に多大な恩恵があると考えられる。トレハロースの任意の水酸基にアンジェリカ酸を縮合させることは有機合成的に困難であり、酵素反応を利用しなければなければトレハンジェリンの合成は難しい。しかしながら、Polymorphospora rubra K07−0510株に存在すると考えられるトレハンジェリンの合成系は未だ同定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−024985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、光過敏症の治療薬や化粧品として有望なトレハンジェリンの生合成に関与する酵素群及びそれをコードするDNA配列を提供し、さらに当該酵素群及び当該配列を有するDNAで組換えた微生物を利用したトレハンジェリンの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、放線菌Polymorphospora rubra K07−0510株のトレハンジェリン合成に関与する酵素をコードするDNA、即ち3−ケトアシル−CoAシンターゼをコードする遺伝子、3−ケトアシル−CoAレダクターゼをコードする遺伝子、エノイル−CoAハイドラターゼをコードする遺伝子及びアシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子の取得を試み、当該4種の遺伝子をクローニングした形質転換体によりトレハンジェリンの生産が可能であるか否かを検討し、当該酵素をコードする遺伝子を有する形質転換体での酵素発現及び機能解析により、本発明を達成するに至った。すなわち、本発明者らは、放線菌Polymorphospora rubra K07−0510株よりトレハンジェリンの生合成に関与する新規酵素群を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、下記の何れかを有するDNA:
(1) 以下の(i)〜(iv)から選択される少なくとも1つの塩基配列を有する核酸分子:
(i)配列番号2に記載の塩基配列、配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列、あるいは、
配列番号3に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号2に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、当該塩基配列によりコードされるタンパク質がエノイル−CoAハイドラターゼとしての活性を有する塩基配列;
(ii)配列番号4に記載の塩基配列、配列番号5に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列、あるいは、
配列番号5に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が3−ケトアシル−CoAシンターゼとしての活性を有する塩基配列;
(iii)配列番号6に記載の塩基配列、配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列、あるいは、
配列番号7に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号6に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、当該塩基配列によりコードされるタンパク質がアシルトランスフェラーゼとしての活性を有する塩基配列;及び
(iv)配列番号8に記載の塩基配列、配列番号9に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列、あるいは、
配列番号9に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号8に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が3−ケトアシル−CoAレダクターゼとしての活性を有する塩基配列。
(2) (1)における(i)〜(iv)の全ての塩基配列を有する、(1)に記載の核酸分子。
(3) 配列番号1に記載の塩基配列、配列番号1に記載の塩基配列がコードするアミノ酸において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は、配列番号1に記載の塩基配列と90%の同一性を有する塩基配列を有する核酸分子である、(2)に記載の核酸分子。
(4) 配列番号2に記載の塩基配列を有する核酸分子、配列番号3に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸分子、あるいは、配列番号3に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号2に記載の塩基配列と90%の同一性を有する塩基配列を有し、かつ、当該塩基配列によりコードされるタンパク質がエノイル−CoAハイドラターゼとしての活性を有する核酸分子である、(1)に記載の核酸分子。
(5) 配列番号4に記載の塩基配列を有する核酸分子、配列番号5に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸分子、あるいは、配列番号5に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号4に記載の塩基配列と90%の同一性を有する塩基配列を有し、かつ、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が3−ケトアシル−CoAシンターゼとしての活性を有する核酸分子である、(1)に記載の核酸分子。
(6) 配列番号6に記載の塩基配列を有する核酸分子、配列番号7に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸分子、あるいは、配列番号7に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号6に記載の塩基配列と90%の同一性を有する塩基配列を有し、かつ、当該塩基配列によりコードされるタンパク質がアシルトランスフェラーゼとしての活性を有する核酸分子である、(1)に記載の核酸分子。
(7) 配列番号8に記載の塩基配列を有する核酸分子、配列番号9に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸分子、あるいは、配列番号9に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、又は配列番号8に記載の塩基配列と90%の同一性を有する塩基配列を有し、かつ、当該塩基配列によりコードされるタンパク質が3−ケトアシル−CoAレダクターゼとしての活性を有する核酸分子である、(1)に記載の核酸分子。
(8) 配列番号3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは、配列番号3において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、又は配列番号3のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、エノイル−CoAハイドラターゼ活性を有するタンパク質。
(9) 配列番号5に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは、配列番号5において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、又は配列番号5のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、3−ケトアシル−CoAシンターゼ活性を有するタンパク質。
(10) 配列番号7に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは、配列番号7において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、又は配列番号7のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、アシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
(11) 配列番号9のアミノ酸配列を有するタンパク質、あるいは、配列番号9において1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されたアミノ酸配列、又は配列番号9のアミノ酸配列と60%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつ、3−ケトアシル−CoAレダクターゼ活性を有するタンパク質。
(12) (1)〜(7)のいずれか1項に記載の核酸分子を含むベクター。
(13) (12)に記載のベクターを含有する形質転換体。
(14) 大腸菌である、(13)に記載の形質転換体。
(15) (13)又は(14)に記載の形質転換体を培養してトレハンジェリンを生成させることを含む、トレハンジェリンの製造方法。
(16) 少なくとも、(8)〜(11)のいずれか1項に記載のタンパク質を基質と作用させることを含む、トレハンジェリンの製造方法。
(17) (8)〜(11)に記載の全てのタンパク質を基質と作用させることを含む、(16)に記載のトレハンジェリンの製造方法。
【0009】
一態様において、本発明はトレハンジェリン合成に関与する酵素群及び当該酵素群をコードする核酸分子に関する。本明細書において、「トレハンジェリン」とは、下記一般式で表される化合物を意味する:
【0010】
【化1】
[式中、R1〜R3のいずれか一つは2−メチルブタ−2−エノイル基であり、残りの二つは水素原子を示し、かつ、R4〜R6のいずれか一つは2−メチルブタ−2−エノイル基であり、残りの二つは水素原子を示す。]
【0011】
本明細書におけるトレハンジェリンとしては、例えば、トレハンジェリンA、トレハンジェリンB、及びトレハンジェリンCを挙げることができる。トレハンジェリンAは下記式Iで表される化合物である。
【0012】
【化2】
【0013】
本明細書において、トレハンジェリンBとは、下記式IIで表される化合物である。
【0014】
【化3】
【0015】
本明細書において、トレハンジェリンCとは、下記式IIIで表される化合物である。
【0016】
【化4】
【0017】
本明細書において「トレハンジェリン合成」とは、以下の(a)〜(d)から選択される少なくとも1つの工程を意味する。すなわち、トレハンジェリン合成は、以下の(a)〜(d)から選択される1種類、又は2種類以上の工程(2種類、3種類又は全て)を含む:
(a)アセチル−CoAとメチルマロニル−CoAが反応して、2−メチルアセトアセチル−CoAが生成する工程;
(b)2−メチルアセトアセチル−CoAが3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAに変換される工程;
(c)3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAがアンジェリル−CoAに変換される工程;及び
(d)アンジェリル−CoAとトレハロースが反応して、トレハンジェリンに変換される工程。
よって、本発明は、以下の(a)〜(d)から選択される1種類、又は2種類以上の方法(2種類、3種類又は全て)を含む
(a)アセチル−CoAとメチルマロニル−CoAとを反応させて、2−メチルアセトアセチル−CoAを製造する方法;
(b)2−メチルアセトアセチル−CoAを3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAに変換する方法;
(c)3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAをアンジェリル−CoAに変換する方法;及び
(d)アンジェリル−CoAとトレハロースとを反応させて、トレハンジェリンに変換させる方法。
【0018】
本発明における「トレハンジェリン合成に関与する酵素群」とは、前記(a)〜(d)の工程を触媒する酵素のことであり、具体的には、3−ケトアシル−CoAシンターゼ(前記(a)の工程を触媒)、3−ケトアシル−CoAレダクターゼ(前記(b)の工程を触媒)、エノイル−CoAハイドラターゼ(前記(c)の工程を触媒)、及びアシルトランスフェラーゼ(前記(d)の工程を触媒)を意味する。
【0019】
本明細書において、トレハンジェリン合成に関与する酵素群は、代表的には、それぞれ、配列番号(3−ケトアシル−CoAシンターゼ)、配列番号(3−ケトアシル−CoAレダクターゼ)、配列番号(エノイル−CoAハイドラターゼ)及び配列番号(アシルトランスフェラーゼ)に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質である。本明細書においては、これらの酵素群は、配列番号(3−ケトアシル−CoAシンターゼ)、配列番号(3−ケトアシル−CoAレダクターゼ)、配列番号(エノイル−CoAハイドラターゼ)及び配列番号(アシルトランスフェラーゼ)に記載のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。本明細書において「1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入された」とは、例えば1〜20個、好ましくは1〜15個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個の任意の数のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/又は挿入されていることを意味する。また、本明細書においては、これらの酵素群は、それぞれ、配列番号(3−ケトアシル−CoAシンターゼ)、配列番号(3−ケトアシル−CoAレダクターゼ)、配列番号(エノイル−CoAハイドラターゼ)及び配列番号(アシルトランスフェラーゼ)に記載のアミノ酸配列と60%以上の相同性又は同一性を有し、あるいは、例えば、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。アミノ酸配列の相同性又は同一性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)等、当業者に良く知られたツールを用いて調べることができる。
【0020】
本明細書において、「1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質」及び「60%以上等の相同性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質」は、元となるアミノ酸配列を有するタンパク質が有する生物学的活性、すなわち酵素活性を有する。これらのタンパク質が有する生物学的活性は、元となるアミノ酸配列を有するタンパク質と同じ性質の活性であればよく、活性の強さとして同程度の活性を有する必要はない。具体的には、配列番号に記載のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質、及び、配列番号に記載のアミノ酸配列と60%以上等の相同性又は同一性を有するタンパク質は、前記(a)の反応を触媒する3−ケトアシル−CoAシンターゼ活性を有する。配列番号に記載のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質、及び、配列番号に記載のアミノ酸配列と60%以上等の相同性又は同一性を有するタンパク質は、前記(b)の反応を触媒する3−ケトアシル−CoAレダクターゼ活性を有する。配列番号に記載のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質、及び、配列番号に記載のアミノ酸配列と60%以上等の相同性又は同一性を有するタンパク質は、前記(c)の反応を触媒するエノイル−CoAハイドラターゼ活性を有する。配列番号に記載のアミノ酸配列において、1から数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を有するタンパク質、及び、配列番号に記載のアミノ酸配列と60%以上等の相同性又は同一性を有するタンパク質は、前記(d)の反応を触媒するアシルトランスフェラーゼ活性を有する。本明細書全体に亘って、あるタンパク質が、目的の酵素活性を有するか否かは、元となるオリジナルのタンパク質が触媒可能な条件下で、各タンパク質を対応する基質と反応させ、期待される産物が得られるか否かを検出することにより確認することができる。期待される産物が少しでも含まれている場合には、当該タンパク質は前記酵素活性を有すると判定することができる。
【0021】
別の態様において、本発明は、前記酵素群をコードする塩基配列を有する核酸分子に関する。具体例として、本発明の核酸分子は、配列番号2、配列番号4、配列番号6及び配列番号8に記載の塩基配列のうち、少なくとも1種類の塩基配列を有する核酸分子である。本発明の核酸分子は、更に、配列番号2に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列、配列番号4に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列、配列番号6に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列、及び配列番号8に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列を含む。同一性は、90%以上であればより高いものでもよく、例えば、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上であってもよい。核酸配列の同一性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)等、当業者に良く知られたツールを用いて調べることができる。
【0022】
本明細書において、「90%以上等の同一性を有する塩基配列を有する核酸分子」によりコードされたタンパク質は、元となる核酸分子によりコードされたタンパク質が有する生物学的活性、すなわち酵素活性を有する。よって、例えば、配列番号に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によりコードされるタンパク質は、前記(a)の反応を触媒する3−ケトアシル−CoAシンターゼ活性を有する。同様に、配列番号に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によりコードされるタンパク質は、前記(b)の反応を触媒する3−ケトアシル−CoAレダクターゼ活性を有する。配列番号に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によりコードされるタンパク質は、前記(c)の反応を触媒するエノイル−CoAハイドラターゼ活性を有する。配列番号に記載の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列によりコードされるタンパク質は、前記(d)の反応を触媒するアシルトランスフェラーゼ活性を有する。
【0023】
本発明の核酸分子は、前記酵素群のうち、少なくとも1種類の酵素をコードする塩基配列を有していれば良いが、2種類以上(例えば、2種類、3種類、又は全て)の酵素をコードする塩基配列を有していてもよい。本発明の核酸分子が2種類以上の酵素をコードする塩基配列を有している場合、各酵素をコードする塩基配列は開始コドンを含まない任意のノンコーディング領域を介して結合していても良い。あるいは、本発明の核酸分子が2種類以上の酵素をコードする塩基配列を有している場合、各酵素をコードする塩基配列の一部が重複していてもよい。例えば、配列番号2、配列番号4、配列番号6及び配列番号8に記載の塩基配列の全てを有する配列番号1に記載の塩基配列においては、1〜828番目が配列番号2の塩基配列、875〜1900番目が配列番号4の塩基配列、1905〜2684番目が配列番号6の塩基配列、2681〜3475番目が配列番号8の塩基配列と同一であり、配列番号2と配列番号4、及び、配列番号4と配列番号6の間にはノンコーディング領域がある他、配列番号6と配列番号8は一部の核酸配列を共有しており、配列番号1の中で重複したコーディング領域が存在する。
【0024】
本明細書において、「核酸分子」とは、DNA、RNA又はDNAとRNAの混合物を意味する。核酸分子は、目的のタンパク質を発現可能である限り、修飾等されたものであっても良い。また、本発明は、前記酵素群のうち、少なくとも1種類の酵素をコードする塩基配列と相補的な塩基配列を有する核酸分子も包含する。
【0025】
本発明のさらに別の側面によれば、前記酵素群をコードする塩基配列を有するDNA及び/又はRNAを含むベクターが提供される。本発明のベクターは、微生物において当該DNA及び/又はRNAを発現可能なベクターであれば特に限定されるものではないが、宿主である大腸菌又は放線菌において自立複製又は染色体中への組込みが可能であることが好ましい。また、本発明のベクターは、前記DNA及び/又はRNAに加えて、転写終結配列、プロモーター領域、リボソーム結合配列、及び/又はプロモーターを制御する配列を含んでいてもよい。本発明のベクターは好ましくはプロモーター領域を含み、この場合、前記DNA及び/又はRNAの発現を制御可能な位置にプロモーターを含有していることが好ましいが含まれていてもよい。ファージベクターとプラスミドベクターのいずれであっても良く、好ましくは、大腸菌又は放線菌で発現するベクターである。本発明のベクターとしては、例えば、ZAPExpress〔ストラタジーン社製、Strategies,5,58(1992)〕、pBluescript IISK(+)〔Nucleic Acids Research,17,9494(1989)〕、Lambda ZAPII(ストラタジーン社製)、λgt10、λgt11〔DNaCloning,A Practical Approach,1,49(1985)〕、λTriplEx(クローンテック社製)、λExCell(ファルマシア社製)、pT7T318U(ファルマシア社製)、pcD2〔Mol.Gen.Biol.,3,280(1983)〕、pMW218(和光純薬社製)、UC118(宝酒造社製)、pEG400〔J.Bac.,172,2392(1990)〕、pQE−30(キアゲン社製)、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもベーリンガーマンハイム社より市販)、pKK233−2(ファルマシア社製)、pSE280(インビトロジェン社製)、pGEMEX−1(プロメガ社製)、pQE−8(キアゲン社製)、pQE−30(キアゲン社製)、pKYP200〔Agricultural Biological Chemistry,48, 669 (1984)〕、pLSA1〔Agricultural Biological Chemistry.,53,277(1989)〕、pGEL1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,4306(1985)〕、pBluescriptIISK+、pBluescriptIISK−(ストラタジーン社製)、pTrS30(FERMBP−5407)、pTrS32(FERMBP−5408)、pGEX(ファルマシア社製)、pET−3(ノヴァジェン社製)、pET−15b(ノヴァジェン社製)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pUC18〔Gene,33,103(1985)〕、pUC19〔Gene,33,103(1985)〕、pSTV28(宝酒造社製)、pSTV29(宝酒造社製)、pUC118(宝酒造社製)、pColdI(宝酒造社製)、pEG400〔J.Bacteriol., 172, 2392(1990)〕等を例示することができる。
【0026】
プロモーターとしては、宿主である放線菌細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、SP01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーター等をあげることができる。またPtrpを2つ直列させたプロモーター(Prpx2)、tacプロモーター、letIプロモーター、lacT7プロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
【0027】
リボソーム結合配列としては、宿主である放線菌細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよいが、シャイン−ダルガノ(Shine−Dalgarno)配列と開始コドンとの間を適当な距離(例えば6〜18塩基)に調節したベクターを用いることが好ましい。
【0028】
本発明の別の側面によれば、上記ベクターを有する形質転換体又は宿主細胞が提供される。例えば、形質転換体又は宿主細胞としては、Escherichia属、Corynebacterium属、Brevibacterium属、Bacillus属、Microbacterium属、Serratia属、PSEudomonas属、Agrobacterium属、Alicyclobacillus属、Anabaena属、Anacystis属、Arthrobacter属、Azobacter属、Chromatium属、Erwinia属、Methylobacterium属、Phormidium属、Rhodobacter属、RhodopSEudomonas属、Rhodospirillum属、Scenedesmun属、Streptomyces属、Synnecoccus属、Zymomonas属等に属する微生物をあげることができ、好ましくは、Escherichia属、Corynebacterium属、Brevibacterium属、Bacillus属、PSEudomonas属、Agrobacterium属、Alicyclobacillus属、Anabaena属、Anacystis属、Arthrobacter属、Azobacter属、Chromatium属、Erwinia属、Methylobacterium属、Phormidium属、Rhodobacter属、RhodopSEudomonas属、Rhodospirillum属、Scenedesmun属、Streptomyces属、Synnecoccus属、Zymomonas属に属する微生物等をあげることができる。放線菌としては、例えばStreptomyces albus、Streptomyces lividans、Streptomyces chromofuscus、Streptomyces exfoliatus、Streptomyces argenteorusを挙げることができる。本発明の形質転換体は、酵素タンパク質を効率的に発現できる能力を有する宿主細胞であればどのような細胞でも構わないが、大腸菌、パン酵母、及び放線菌(Streptomyces属)が好ましく、大腸菌及び放線菌がより好ましく、大腸菌が最も好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、orfA、orfB、orfC、orfDを導入した放線菌からトレハンジェリンの生産を、LC/MSを用いて検出した結果を示す。
図2図2は、orfB、orfD及びorfAの反応生成物を、LC/MSを用いて検出した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(1)核酸分子の取得
本発明の核酸分子はPCR法により取得することができる。例えば、PCR法により配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号6又は配列番号8に記載の塩基配列を有する核酸分子(例えば、DNA)は、放線菌Polymorphospora rubra K07−0510株の染色体DNAを鋳型として使用し、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4又は配列番号5に記載の塩基配列を増幅できるように設計した1対のプライマーを使用して、ExpandTM High Fidelity PCR System(ロシュ・ライフサイエンス社製)等を用い、DNA Thermal Cycler(アプライドバイオシステムズ社製)にてPCRを行うことにより得ることができる。なお、後のクローニング操作を容易にするために、プライマーには適当な制限酵素部位を付加させておくことが好ましい。
【0031】
PCRの反応条件として、94℃で30秒間(変性)、60℃で30秒〜1分間(アニーリング)、72℃で1分〜3分間(伸長)からなる反応工程を1サイクルとして、例えば30サイクル行った後、72℃で7分間反応させる条件を挙げることができる。次いで、増幅されたDNA断片を、大腸菌で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。クローニングは、常法、例えば、モレキュラークローニング第2版、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1−38, Jhon Wiley&Sons (1987−1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)、DNaCloning 1: CoreTechniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University Press (1995)等に記載された方法、あるいは市販のキット、例えばSuperScripTPlasmid System for cDNA Synthesis and Plasmid Cloning(ライフ・テクノロジーズ社製)やZAP−cDNASynthesis Kit(ストラタジーン社製)を用いて行なうことができる。
【0032】
クローニングベクターとしては、大腸菌K12株中で自律複製できるものであれば、ファージベクター、プラスミドベクター等いずれでも使用できる、大腸菌の発現用ベクターをクローニングベクターとして用いてもよい。具体的には、上述の本発明のベクターを使用することができる。
【0033】
得られた形質転換株より、目的とするDNAを含有したプラスミドを常法、例えば、モレキュラークローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、DNaCloning 1: CoreTechniques, A Practical Approach, Second Edition, Oxford University Press(1995)等に記載された方法により取得することができる。上記方法により、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号6又は配列番号8に記載の塩基配列を有する核酸分子(例えば、DNA)を取得することができる。
【0034】
また、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号6又は配列番号8の塩基配列において1から数個の塩基が欠失、置換、付加及び/又は挿入されている塩基配列であって、特定の活性を有する酵素タンパク質をコードする塩基配列を有する核酸分子は、例えば、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号6又は配列番号8に記載の塩基配列を有する放線菌由来のDNA断片の塩基配列を利用し、他の微生物等より、該DNAのホモログを適当な条件下でスクリーニングすることにより単離することができる。あるいは、上記したような変異DNAは、化学合成、遺伝子工学的手法、突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法で作製することもできる。具体的には、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号6又は配列番号8に記載の塩基配列を有するDNAに人工的に変異を導入することにより変異DNAを取得することができる。
【0035】
例えば、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号6又は配列番号8の塩基配列を有するDNAに対し、変異源となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的手法を用いて行う方法がある。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発方法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、モレキュラー・クローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Nucleic Acids Research,12,9441(1984)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985 、Nucleic Acids Research,13,8749(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,79,6409(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci. USA,82,488(1985)、Gene,102,67(1991)等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0036】
(2)ベクター、形質転換体、及び酵素の取得
本発明のベクターは、上記DNAを常法の遺伝子組み換え技術を用いてベクターに組み込むことにより得ることができる。また、本発明の形質転換体は、当業者周知の方法を用いて前記ベクターを宿主細胞に導入することにより得ることができる。更に本発明のタンパク質(酵素)は、上記DNAを組み込んだ組換え体DNAを保有する形質転換体を培地に培養し、培養物中に本発明のトレハンジェリン合成に関与する酵素タンパク質を生成させることにより得ることができる。
【0037】
トレハンジェリン合成に関与する酵素群(3−ケトアシル−CoAシンターゼ、3−ケトアシル−CoAシンターゼ、エノイル−CoAハイドラターゼ、及びアシルトランスフェラーゼ)遺伝子を含むDNA断片を宿主細胞中で発現させるため、当該遺伝子を含むDNA断片を制限酵素あるいはDNA分解酵素で該遺伝子を含む適当な長さのDNA断片として得た後、発現ベクター中においてプロモーターの下流に挿入し、得られた発現ベクターを、当該発現ベクターに適合した宿主胞中に導入することにより得ることができる。
【0038】
本発明で使用する宿主細胞は、酵素タンパク質を効率的に発現できる能力を有する宿主細胞であれば限定されるものではなく、上述の本発明の宿主細胞を用いることができる。また、発現ベクターとしては、上述の本発明のベクターを用いることができる。
【0039】
組換えベクターの導入方法としては、例えば、宿主である放線菌細胞へDNAを導入する方法であればいかなる方法を用いてもよく、例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,69,2110(1972)〕、プロトプラスト法(特開昭63−2483942号公報)、又はGene,17,107(1982)やMolecular&GeneralGenetics,168,111(1979)に記載の方法等をあげることができる。
【0040】
上記DNAを組み込んだ組換え体DNAを保有する形質転換体を培地に培養し、培養物中に、本発明の3−ケトアシル−CoAシンターゼ、3−ケトアシル−CoAシンターゼ、エノイル−CoAハイドラターゼ、アシルトランスフェラーゼを生成させることができる。
【0041】
本発明のトレハンジェリン合成に関与する酵素群を組み込んだ形質転換体の培養は、採用した宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。本発明の形質転換体が大腸菌、放線菌等の原核生物、酵母菌等の真核生物である場合、これら微生物を培養する培地は、該微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれでもよい。例えば、放線菌を培養する培地は、該微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれでもよい。
【0042】
炭素源としては、宿主微生物が資化し得るものであればよく、グルコース、フラクトース、スクロース、これらを含有する糖蜜、デンプンあるいはデンプン加水分解物等の炭水化物酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノールなどのアルコール類が用いられる。
【0043】
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、等の各種無機酸や有機酸のアンモニウム塩、その他含窒素化合物、並びに、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物等が用いられる。
【0044】
無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が用いられる。
【0045】
培養は、振盪培養又は深部通気攪拌培養などの好気的条件下で行う。培養温度は15〜40℃がよく、培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中pHは、3.0〜9.0に保持する。pHの調整は、無機あるいは有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニアなどを用いて行う。また培養中必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン、チオストレプトン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0046】
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した放線菌を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した放線菌を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した放線菌を培養するときにはインドールアクリル酸(IAA)等を培地に添加してもよい。
【0047】
以上により得られた酵素タンパク質は菌体内生産の場合は宿主細胞を破壊し塩析、透析、アフィニティクロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィー、分子篩クロマトグラフィー、有機溶剤処理、加熱処理等公知のタンパク質精製方法の組み合わせにより、必要な精製度まで精製する。また、反応や反応産物に支障がなければ菌体そのものや菌体を破壊した溶液、破壊溶液の可溶性画分でも良い。
【0048】
酵素タンパク質の精製・活性発現の容易性の面から、目的の酵素タンパク質は水溶性であることが好ましいが、水不溶性であっても当業者周知の方法、例えば界面活性剤添加等により可溶化しても良い。また、目的のタンパク質は他のタンパク質(例えば、GST、TAG等)との融合タンパク質として発現させて取得することもできるが、好ましくは、融合タンパク質ではない。
【0049】
(3)トレハンジェリンの製造方法
トレハンジェリンは、本発明のトレハンジェリン合成に関与する酵素群を組み込んだ形質転換体の培養物中にトレハンジェリンを生成蓄積さることにより、製造することができる。例えば、放線菌を宿主として用いた場合、放線菌はトレハロース合成経路を有しているが、培養中必要に応じて培養液にトレハロースを添加してもよい。培養は、上述の酵素群の取得方法において記載された方法に準じて行うことができる。
【0050】
あるいは、トレハンジェリンは、精製された本発明のトレハンジェリン合成に関与する酵素群を用いて製造することもできる。即ち、本発明は、少なくとも、配列番号7のアミノ酸配列(又はそれと60%以上の同一性を有するアミノ酸配列又は配列番号7において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び若しくは挿入されたアミノ酸配列)を有する酵素タンパク質(orfC)の存在下で、アンジェリル−CoAとトレハロースを反応させることを含むトレハンジェリンの合成方法も含む。本発明のトレハンジェリンの合成方法は、更に、以下の(i)〜(iii)から選択される1種類〜3種類のステップを含んでいても良い:(i)配列番号5のアミノ酸配列(又はそれと60%以上の同一性を有するアミノ酸配列又は配列番号5において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び若しくは挿入されたアミノ酸配列)を有する酵素タンパク質(orfB)の存在下で、アセチル−CoAとメチルマロニル−CoAを反応させて2−メチルアセトアセチル−CoAを得ること;(ii)配列番号9のアミノ酸配列(又はそれと60%以上の同一性を有するアミノ酸配列又は配列番号9において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び若しくは挿入されたアミノ酸配列)を有する酵素タンパク質(orfD)の存在下で、2−メチルアセトアセチル−CoAとNADPHを反応させて、3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAを得ること;及び、(iii)配列番号3のアミノ酸配列(又はそれと60%以上の同一性を有するアミノ酸配列又は配列番号3において1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、付加及び若しくは挿入されたアミノ酸配列)を有する酵素タンパク質(orfA)の存在下で、3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAをアンジェリル−CoAに変換すること。酵素を用いた反応は、以下のタンパク質の酵素活性の測定方法記載の方法に準じて行うことができる。
【0051】
本発明の形質転換体の培養物からのトレハンジェリンの単離精製は、特開2015−024985に記載された方法、すなわち菌体分離、抽出、蒸留、クロマトグラフィー等を適宜組み合わせることにより行うことが出来る。
【0052】
(4)タンパク質の酵素活性の測定方法
得られたタンパク質の酵素活性は、通常の酵素の活性測定法に準じて測定することができる。活性測定の反応液に用いる緩衝液のpHは、目的とする酵素の活性を阻害しないpH範囲であればよく、最適pHを含む範囲のpHが好ましい。
【0053】
緩衝液としては、酵素活性を阻害せず、上記pHを達成できるものであればいずれの緩衝液も用いることができる。該緩衝液として、トリス塩酸緩衝液やリン酸緩衝液、硼酸緩衝液、HEPES緩衝液、MOPS緩衝液、炭酸水素緩衝液などを用いることができる。緩衝液の濃度は酵素活性に阻害を及ぼさない限りどのような濃度でも用いることができるが、好適には1mMから1Mである。
【0054】
反応液には、目的とする酵素の基質を添加する。具体的には、3−ケトアシル−CoAシンターゼ活性測定においては、アセチルCoAとメチルマロニル−CoAを添加する。3−ケトアシル−CoAレダクターゼ活性測定には、2−メチルアセトアセチル−CoAを添加する。エノイル−CoAハイドラターゼ活性測定には、3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAを添加する。アシルトランスフェラーゼ活性測定には、アンジェリル−CoAを添加する。基質の濃度は反応に支障のない限りどのような濃度でも用いることができるが、好適には反応液中の濃度は0.01mM〜0.2Mである。反応に用いる酵素濃度に特に制限はないが、通常0.001mg/mlから100mg/mlの濃度範囲で反応を行う。用いる酵素は必ずしも単一にまで精製されている必要はなく、反応を妨害しない限り、他の侠雑蛋白質が混入した標品であってもよい。
【0055】
反応温度は、目的とする酵素の活性を阻害しない温度範囲であればよく、最適温度を含む範囲の温度が好ましい。即ち、反応温度は、10℃から60℃、より好ましくは27℃から40℃である。
【0056】
活性の検出は、反応に伴う基質の減少、あるいは反応生成物の増加の変化を測定できる方法を用いて行うことができる。該方法として、例えば、必要に応じて薄相クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー法(HPLC)等により目的物質を分離定量する方法をあげることができる。反応産物の同定には、薄相クロマトグラフィー、カラムクロマトグラフィー、HPLC等により目的物質を分離した後、標品と保持時間を比較する方法、核磁気共鳴吸収装置や質量分析計を用いる方法を用いることができる。
【0057】
(5)アンジェリル−CoAの製造方法
更に本発明は、本発明の3−ケトアシル−CoAシンターゼ、3−ケトアシル−CoAレダクターゼ、及び/又は、エノイル−CoAハイドラターゼを用いることによる、アンジェリル−CoAの製造方法に関する。本製造方法においては、溶液中に3−ケトアシル−CoAシンターゼ、3−ケトアシル−CoAレダクターゼ、及び/又は、エノイル−CoAハイドラターゼ、並びに、アセチル−CoA、メチルマロニル−CoA、及び/又は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)の3種類の基質を適宜添加して、適宜反応させることによりアンジェリル−CoAを製造することができる。より具体的には、本発明のアンジェリル−CoAの製造方法は、上述のトレハンジェリンの合成方法において記載された(i)〜(iii)から選択される1種類〜全てのステップを含むことができる。アンジェリカ酸エステルは解熱鎮痛剤、筋弛緩剤、鎮静剤等としての利用が考えられる。
【0058】
以下に実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが,これは本発明の範囲を限定するものではない。なお,本願明細書全体を通じて引用する文献は,参照によりその全体が本願明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0059】
(分析方法)
以下の実施例において、LC/MSによる分析は次の条件で行なった。
カラム:Inertsil ODS−4(GLセイエンス社製)、サイズ直径3.0mM×長さ250mM、40℃
移動層:2mM 酢酸アンモニウム水溶液(A)、2mM 酢酸アンモニウム含有メタノール溶液(B)、0−5分 5%B、5−35分 5−100%B、35−40分 100%B、流速0.5ml/分
検出:QSTAR Elite ESI quadruple time−of−flight(Q−TOF)MS instrument(AB Sciex社製)
【0060】
〔実施例1〕配列番号1のDNAをクローニングした放線菌によるトレハンジェリンの生産
K07−0510株を、酵母エキス1%、グルコース1%より成るYD培地で適当な温度(例えば27℃)で数日間培養した。培養後、得られた培養液より遠心分離により菌体を取得し、菌体より常法(モレキュラー・クローニング第2版)に従い染色体DNAを単離精製した。
【0061】
配列番号1の4つのオープンリーディングフレーム(orf)を便宜上、塩基配列番号の少ない方から、orfA、orfB、orfC、orfDと命名した。orfA〜Dの配列番号1における位置と機能は以下の通りである。
orfA(配列番号2:配列番号1の塩基番号1−828、エノイル−CoAハイドラターゼをコード)
orfB(配列番号4:配列番号1の塩基番号875−1900、3−ケトアシル−CoAシンターゼをコード)
orfC(配列番号6:配列番号1の塩基番号1905−2684、アシルトランスフェラーゼをコード)
orfD(配列番号8:配列番号1の塩基番号2681−3475、3−ケトアシル−CoAレダクターゼをコード)
上記4つの遺伝子を十分発現させるような組換え体プラスミドをPCR法〔Science,230,1350 (1985)〕を用いて下記方法により構築した。
【0062】
放線菌Polymorphospora rubra K07−0510株の染色体DNAを鋳型として、配列番号10に示した5’末端にPstI制限酵素サイト及びリボソーム結合配列を有するセンスプライマー、配列番号11に示した5’末端にStuI制限酵素サイトを有するアンチセンスプライマー及びTaq DNA polymerase(ロシュ・ライフサイエンス社製)を用い、DNA Thermal Cycler(アプライドバイオシステムズ社製)でPCRを行うことによりorfA、orfB、orfC及びorfD(以下、「orfABCD」という)を発現させるDNAを増幅した。PCRは、95℃で30秒間、68℃で30秒間、72℃で4分間からなる反応工程を1サイクルと30サイクル行った後、72℃で10分間反応させる条件で行った。増幅されたDNA断片をアガロースゲル電気泳動によって精製し、制限酵素PstIとStuIとで消化することで、PstIとStuI処理orfABCDを発現させるDNAを含有するDNA断片(以下、「orfABCD含有DNA断片」という)を取得した。
【0063】
pOSV556t〔Nat.Chem.,3,338,(2011)〕を制限酵素PstIとStuIで消化し、PstIとStuI処理pOSV556t断片を取得した。上記で取得されたPstIとStuI処理orfABCD含有DNA断片をPstIとStuI処理pOSV556t断片と混合した後、ライゲーション反応を行うことにより組換え体DNAを取得した。
【0064】
該組換え体DNAを用い、E.coli Top10株を常法に従って形質転換後、該形質転換体をアンピシリン100μg/mlを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で一晩培養した。該形質転換体より定法に従って組換えDNAを含むプラスミドを単離した。該組換え体DNAがorfABCDであることをDNA配列を決定することによって確認し、このプラスミドをpOSV556−orfABCDと命名した。
【0065】
pOSV556−orfABCDを常法によりE.coli ET12567/pUZ8002株〔Practical Streptomyces Genetics (2000)〕に導入し、カナマイシン50μg/ml、クロラムフェニコール25μg/ml、アンピシリン100μg/mlに耐性を示すE. coli ET12567/pUZ8002/pOSV556−orfABCD株を得た。さらに、pOSV556−orfABCDを常法によりE. coli ET12567/pUZ8002株から放線菌Streptomyces albus J1074株に接合伝達させることによりハイグロマイシン50μg/mlに耐性を示すStreptomyces albus/pOSV556−orfABCDを得た。
【0066】
Streptomyces albus/pOSV556−orfABCDを酵母エキス1%、グルコース1%からなる液体培地10ml中、27℃で1日間震盪培養し、20%トレハロース水溶液1mlを添加した後、さらに27℃で4日間震盪培養した。得られた培養液にエタノール10mlを加えて1時間撹拌した。次にその抽出液中のエタノールを減圧留去し、得られた水溶液に5mlの酢酸エチルを加えよく撹拌後、酢酸エチル層を回収した。濃縮乾固し、メタノール100μlに溶解させ、LC/MSで分析を行なうことでトレハンジェリンの生産を確認した(図1)。
【0067】
〔実施例2〕配列番号4の塩基配列によりコードされた酵素タンパク質(orfB)の機能確認
3−ケトアシル−CoAシンターゼをコードする遺伝子(orfB)を十分発現させるような組換え体プラスミドをPCR法〔Science,230,1350(1985)〕を用いて下記方法により構築した。
【0068】
放線菌Polymorphospora rubra K07−0510株の染色体DNAを鋳型として、配列番号12に示した5’末端にNdeI制限酵素サイトを有するセンスプライマー、配列番号13に示した5’末端にXhoI制限酵素サイトを有するアンチセンスプライマー及びTaq DNA polymerase(ロシュ・ライフサイエンス社製)を用い、DNA Thermal Cycler(アプライドバイオシステムズ社製)でPCRを行うことによりorfBを増幅した。PCRは、95℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で1分間からなる反応工程を1サイクルと30サイクル行った後、72℃で10分間反応させる条件で行った。増幅されたDNA断片をアガロースゲル電気泳動によって精製し、制限酵素NdeIとXhoIとで消化することで、NdeIとXhoI処理orfB含有DNA断片を取得した。
【0069】
pET−15b(ノヴァジェン社製)を制限酵素NdeIとXhoIで消化し、NdeIとXhoI処理pET15−b断片を取得した。上記で取得されたNdeIとXhoI処理orfB含有DNA断片をNdeIとXhoI処理pET−15b断片と混合した後、ライゲーション反応を行うことにより組換え体DNAを取得した。
【0070】
該組換え体DNAを用い、E.coli Top10株を常法に従って形質転換後、該形質転換体をアンピシリン100μg/mlを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で一晩培養した。該形質転換体より定法に従って組換えDNAを含むプラスミドを単離した。DNA配列を決定することにより、配列番号4に記載の塩基配列が得られたことから、DNA該組換え体DNAがorfBであることを確認し、このプラスミドをpET−15b−orfBと命名した。
【0071】
pET15−b−orfBを常法によりDE3を有するE.coli BL21(DE3)株(ノヴァジェン社製)に導入し、アンピシリン100μg/mlに耐性を示すBL21(DE3)/pET15−b−orfB株を得た。BL21(DE3)/pET15−b−orfB株をアンピシリン100μg/mlを含むLB液体培地200ml中、37℃で培養し、600nmの濁度が0.5に達した時点で、培養液を2時間冷蔵した後、イソプロピルチオガラクトシドを終濃度0.5mMになるように添加した。さらに18℃で16時間培養した後、遠心分離(9000rpm、2分間)によって培養上清を除いた。この菌体を洗浄緩衝液〔20mMトリス塩酸(pH8.0)、100mM NaCl、50mMイミダゾール、10%グリセロール〕10mlに懸濁し、90mg/mlフェニルメチルフルフォニルフルオライド(PMSF)を10μl添加し、超音波破砕機(和研薬社製)を用いて氷冷しつつ破砕した。得られた菌体破砕液を遠心分離(10,000rpm、20分間、4℃)にかけ、上清を回収した。この細胞抽出液遠心上清をNi Sepharose 6 Fast Flow resin (GE Healthcare社製)に通し、20mlの洗浄緩衝液で洗浄した。ついで溶出緩衝液〔20mMトリス塩酸(pH8.0)、100mM NaCl、500mMイミダゾール、10%グリセロール〕5mlを通塔し、溶出させた。溶出液をAmicon Ultra Centrifugal Filter(メルク社製)を用いて濃縮した。
【0072】
次に、得られた組換え酵素タンパク質(OrfB)がアセチル−CoAとメチルマロニル−CoAから2−メチルアセトアセチル−CoAの生成を触媒するかどうか以下の反応条件で調べた。100 mMリン酸緩衝液(pH7.5)、250μMアセチル−CoA、250μMメチルマロニル−CoA、2.5μgorfBを含む反応液100μlを調製し、27℃で16時間反応させた。メタノール100μlを添加して反応を停止させた後、LC/MSで分析を行なった。
【0073】
その結果、2−メチルアセトアセチル−CoAの生産が確認された(図2)。この結果は、OrfBが、アセチル−CoAとメチルマロニル−CoAから2−メチルアセトアセチル−CoAの生成を触媒することを示しており、本酵素タンパク質が、3−ケトアシル−CoAシンターゼであることが確認された。
【0074】
〔実施例3〕配列番号8の塩基配列によりコードされた酵素タンパク質(orfD)の機能確認
3−ケトアシル−CoAレダクターゼをコードする遺伝子(orfD)を十分発現させるような組換え体プラスミドをPCR法〔Science,230,1350(1985)〕を用いて以下の方法により構築した。放線菌Polymorphospora rubra K07−0510株の染色体DNAを鋳型として、配列番号14に示した5’末端にNdeI制限酵素サイトを有するセンスプライマー、配列番号15に示した5’末端にXhoI制限酵素サイトを有するアンチセンスプライマー及びTaq DNA polymerase(ロシュ・ライフサイエンス社製)を用い、DNA Thermal Cycler(アプライドバイオシステムズ社製)でPCRを行うことによりorfDを増幅した。PCRは、95℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で1分間からなる反応工程を1サイクルと30サイクル行った後、72℃で10分間反応させる条件で行った。増幅されたDNA断片をアガロースゲル電気泳動によって精製し、制限酵素NdeIとXhoIとで消化することで、NdeIとXhoI処理orfD含有DNA断片を取得した。
【0075】
pET−15b(ノヴァジェン社製)を制限酵素NdeIとXhoIで消化し、NdeIとXhoI処理pET15−b断片を取得した。上記で取得されたNdeIとXhoI処理orfD含有DNA断片をNdeIとXhoI処理pET−15b断片と混合した後、ライゲーション反応を行うことにより組換え体DNAを取得した。
【0076】
該組換え体DNAを用い、E.coli Top10株を常法に従って形質転換後、該形質転換体をアンピシリン100μg/mlを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で一晩培養した。該形質転換体より定法に従って組換えDNAを含むプラスミドを単離した。DNA配列を決定することにより、配列番号8に記載の塩基配列が得られたことから、該組換え体DNAがorfDであることを確認し、このプラスミドをpET15−b−orfDと命名した。
【0077】
pET15−b−orfDを常法によりDE3を有するE.coli BL21(DE3)株(ノヴァジェン社製)に導入し、アンピシリン100μg/mlに耐性を示すBL21(DE3)/pET15−b−orfD株を得た。BL21(DE3)/pET15−b−orfD株をアンピシリン100μg/mlを含むLB液体培地200ml中、37℃で培養し、600nmの濁度が0.5に達した時点で、培養液を2時間冷蔵した後、イソプロピルチオガラクトシドを終濃度0.5mMになるように添加した。さらに18℃で16時間培養した後、遠心分離(9000rpm、2分間)によって培養上清を除いた。この菌体を洗浄緩衝液〔20mMトリス塩酸(pH8.0)、100mM NaCl、50mMイミダゾール、10%グリセロール〕10mlに懸濁し、90mg/ml PMSFを10μl添加し、超音波破砕機(和研薬社製)を用いて氷冷しつつ破砕した。得られた菌体破砕液を遠心分離(10,000rpm、20分間、4℃)にかけ、上清を回収した。この細胞抽出液遠心上清をNi Sepharose 6 Fast Flow resin (GE Healthcare社製)に通し、20mlの洗浄緩衝液で洗浄した。ついで溶出緩衝液〔20mMトリス塩酸(pH8.0)、100mM NaCl、500mMイミダゾール、10%グリセロール〕5mlを通塔し、溶出させた。溶出液をAmicon Ultra Centrifugal Filter(メルク社製)を用いて濃縮した。
【0078】
次に、得られた組換え酵素タンパク質(OrfD)が2−メチルアセトアセチル−CoAから3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAの生成を触媒するかどうか以下の反応条件で調べた。100mMリン酸緩衝液(pH7.5)、250μMアセチル−CoA、250μMメチルマロニル−CoA、500μM NADPH、2.5μg orfB(実施例2で取得)、0.8μg orfDを含む反応液100μlを調製し、27℃で16時間反応させた。メタノール100μlを添加して反応を停止させた後、LC/MSで分析を行なった。
【0079】
その結果、3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAの生産が確認された(図2)。この結果は、OrfBが、2−メチルアセトアセチル−CoAから3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAの生成を触媒することを示しており、本酵素タンパク質が、3−ケトアシル−CoAレダクターゼであることが確認された。
【0080】
〔実施例4〕配列番号2の塩基配列によりコードされた酵素タンパク質(orfA)の機能確認
エノイル−CoAハイドラターゼをコードする遺伝子(orfA)を十分発現させるような組換え体プラスミドをPCR法〔Science,230,1350(1985)〕を用いて以下の方法により構築した。放線菌Polymorphospora rubra K07−0510株の染色体DNAを鋳型として、配列番号16に示した5’末端にNdeI制限酵素サイトを有するセンスプライマー、配列番号17に示した5’末端にBamHI制限酵素サイトを有するアンチセンスプライマー及びTaq DNA polymerase(ロシュ・ライフサイエンス社製)を用い、DNA Thermal Cycler(アプライドバイオシステムズ社製)でPCRを行うことによりorfAを増幅した。PCRは、95℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で1分間からなる反応工程を1サイクルと30サイクル行った後、72℃で10分間反応させる条件で行った。増幅されたDNA断片をアガロースゲル電気泳動によって精製し、制限酵素NdeIとBamHIとで消化することで、NdeIとBamHI処理orfA含有DNA断片を取得した。
【0081】
pET15−b(ノヴァジェン社製)を制限酵素NdeIとBamHIで消化し、NdeIとBamHI処理pET15−b断片を取得した。上記で取得されたNdeIとBamHI処理orfA含有DNA断片をNdeIとBamHI処理pET15−b断片と混合した後、ライゲーション反応を行うことにより組換え体DNAを取得した。
【0082】
該組換え体DNAを用い、E.coli Top10株を常法に従って形質転換後、該形質転換体をアンピシリン100μg/mlを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で一晩培養した。該形質転換体より定法に従って組換えDNAを含むプラスミドを単離した。DNA配列を決定することによって、配列番号2に記載の塩基配列が得られたことから、該組換え体DNAがorfAであることを確認し、このプラスミドをpET15−b−orfAと命名した。
【0083】
pET15−b−orfAを常法によりDE3を有するE.coli BL21(DE3)株(ノヴァジェン社製)に導入し、アンピシリン100μg/mlに耐性を示すBL21(DE3)/pET15−b−orfA株を得た。BL21(DE3)/pET15−b−orfA株をアンピシリン100μg/mlを含むLB液体培地200ml中、37℃で培養し、600nmの濁度が0.5に達した時点で、培養液を2時間冷蔵した後、イソプロピルチオガラクトシドを終濃度0.5mMになるように添加した。さらに18℃で16時間培養した後、遠心分離(9000rpm、2分間)によって培養上清を除いた。この菌体を洗浄緩衝液〔20mMトリス塩酸(pH8.0)、100mM NaCl、50mMイミダゾール、10%グリセロール〕10mlに懸濁し、90mg/ml PMSFを10μl添加し、超音波破砕機(和研薬社製)を用いて氷冷しつつ破砕した。得られた菌体破砕液を遠心分離(10,000rpm、20分間、4℃)にかけ、上清を回収した。この細胞抽出液遠心上清をNi Sepharose 6 Fast Flow resin (GE Healthcare社製)に通し、20mlの洗浄緩衝液で洗浄した。ついで溶出緩衝液〔20mMトリス塩酸(pH8.0)、100mM NaCl、500mM イミダゾール、10%グリセロール〕5mlを通塔し、溶出させた。溶出液をAmicon Ultra Centrifugal Filter(メルク社製)を用いて濃縮した。
【0084】
次に、得られた組換え酵素タンパク質(OrfA)が3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAからアンジェリル−CoAの生成を触媒するかどうか以下の反応条件で調べた。100mMリン酸緩衝液(pH7.5)、250μMアセチル−CoA、250μMメチルマロニル−CoA、500μM NADPH、2.5μg orfB(実施例2で取得)、0.8μg orfD(実施例3で取得)、15.8μg orfAを含む反応液100μlを調製し、27℃で16時間反応させた。メタノール100μlを添加して反応を停止させた後、LC/MSで分析を行なった。
【0085】
その結果、アンジェリル−CoAの生産を確認した(図2)。この結果は、OrfAが、3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAからアンジェリル−CoAの生成を触媒することを示しており、本酵素タンパク質が、エノイル−CoAハイドラターゼであることが確認された。
【0086】
以上により、実施例1において、OrfA、OrfB、OrfC、及びOrfDを組み合わせて発現させることにより、トレハンジェリンが生成することが確認された。また、実施例2〜4により、OrfBがアセチル−CoAとメチルマロニル−CoAを反応させて、2−メチルアセトアセチル−CoAを生成させること、OrfDが2−メチルアセトアセチル−CoAを3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAに変換させること、及び、OrfAが3−ヒドロキシ−2−メチルブチリル−CoAをアンジェリル−CoAに変換させることが確認された。よって、実施例1の試験系においてOrfCは、アンジェリル−CoAとトレハロースを反応させてトレハンジェリンを生成させている、すなわち、アシルトランスフェラーゼ活性を有することが示された。
【0087】
〔実施例5〕コリネバクテリウムを用いたトレハンジェリンの産生
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)を用いて、トレハンジェリンを産生した。
(1)分析方法
カラム:YMC−PACK ODS−AQ 250×4.6mm S−5mm,12nm、30℃
移動相:0.1%ギ酸(A)、アセトニトリル(B)、15%B、30分、0.5mL/min
検出:Agilent 6224 TOF LC/MS(アジレントテクノロジー社)
【0088】
(2)コリネバクテリウム・グルタミカムへのトレハンジェリン生合成酵素遺伝子の導入
orfAB及びorfCDをコリネバクテリウムにコドン最適化した配列として、それぞれ、配列番号18及び配列番号19の核酸配列を設計した。設計された核酸配列を基に、orfAB及びorfCDをコードする核酸分子を人工合成により得た。次いで、orfABCDを連結し、ベクターに挿入した。
【0089】
具体的には、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(TAKARA)を用いて、98℃ 1min反応後、98℃ 10sec、68℃ 30secを1サイクルとして30サイクルで、orfAB及びorfCDをそれぞれのプライマーを用いてそれぞれPCR増幅した。orfABプライマー及びorfCDプライマーとして、以下のプライマーを用いた:
orfABプライマー(forward):AGAGGAGACACAACGAGCTCATGTCCGTTTCCCGCGTTG(配列番号20)
orfABプライマー(reverse):AGCGGAGGTGGTCATCACTTTAGCGAACGCAGTTG(配列番号21)
orfCDプライマー(forward):ATGACCACCTCCGCTCTG(配列番号22)
orfCDプライマー(reverse):CCGATATCCTGCAGGAGCTCTTAGCCCAGGCCGTAGCC(配列番号23)。
【0090】
得られたPCR断片をGel/PCR エクストラクションキット(日本)を用いてDNA精製した。精製したPCR断片をSacI消化したベクターと混合し、In−Fuion HD Cloning Kitを用いて二つの遺伝子断片を連結し、同時にベクターに挿入した。ベクターとしては、gapA遺伝子プロモーターを有するpYTKA9−PgapAを用いた。pYTKA9−PgapAは、pHSG298ベクター(タカラバイオ株式会社)にコリネの代表的なoriであるpBL1 ori(Santamaria, R., Gil, J.A., Mesase, J.M. and Martin, J.F.. (1984) J. Gen. Microbiol. 130, 2237−2246.)を人工合成し、gapA遺伝子プロモーター(Hasegawa et al., Appl Environ Microbiol. (2012) 78(3):865−75)と共に導入することにより得た。得られたorfAB及びorfCDをコードする核酸分子を有するベクターは、カナマイシン(50μg/mL)含有LB培地中の大腸菌HST02株に形質転換した。更に、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13032株にエレクトロポレーション法を用いて形質転換し、トレハンジェリン生合成酵素遺伝子を有するコリネバクテリウム・グルタミカムを得た。
【0091】
(3)コリネバクテリウム・グルタミカムの前培養
1000mLの純水中にBrain Heart infusionを37g含有するBHI培地5mLに、上記で作製したトレハンジェリン生合成酵素遺伝子を有する、コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC13032株のグリセロールストックを添加した。30℃、180rpmで24時間、これらのコリネバクテリウム・グルタミカムを振盪培養して、前培養液を得た。
【0092】
(4)コリネバクテリウム・グルタミカムの本培養
3%量の前培養液を、坂口フラスコ中の50mLのBHI培地に添加した。培養開始時にグルコースの初期濃度が20g/Lとなるように、BHI培地へ400g/Lのグルコース溶液を2.5mL添加した。また、培養開始から24及び48時間後にも同グルコース溶液を2.5mLずつ追加した。また、100g/Lのトレハロース溶液を、培養開始時に1mL添加し、培養開始から24及び48時間後に0.25mLずつ添加した。pH調整のため、20%炭酸カルシウム溶液1.25mLを、培養開始後4及び24時間後にそれぞれ添加した。培養は、30℃、180rpmで72時間、振盪培養することにより行った。
【0093】
(5)培養液上清の分析
本培養開始後72時間の培養液上清をLC/MSで分析することで標品と同じ保持時間にトレハンジェリンのピークを検出した。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]