特許第6951714号(P6951714)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6951714
(24)【登録日】2021年9月29日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】p型酸化物半導体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/365 20060101AFI20211011BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20211011BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20211011BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20211011BHJP
   H01L 29/739 20060101ALI20211011BHJP
   H01L 21/331 20060101ALI20211011BHJP
   H01L 29/737 20060101ALI20211011BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20211011BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20211011BHJP
   H01L 29/24 20060101ALI20211011BHJP
   H01L 21/337 20060101ALI20211011BHJP
   H01L 29/808 20060101ALI20211011BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20211011BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20211011BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
   H01L21/365
   H01L29/86 301E
   H01L29/86 301D
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 653A
   H01L29/78 655A
   H01L29/72 H
   C23C16/40
   H01L21/368 Z
   H01L29/24
   H01L29/80 C
   H01L29/80 H
【請求項の数】18
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-537303(P2018-537303)
(86)(22)【出願日】2017年8月29日
(86)【国際出願番号】JP2017031007
(87)【国際公開番号】WO2018043503
(87)【国際公開日】20180308
【審査請求日】2020年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-170330(P2016-170330)
(32)【優先日】2016年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-186343(P2016-186343)
(32)【優先日】2016年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(72)【発明者】
【氏名】藤田 静雄
(72)【発明者】
【氏名】金子 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】織田 真也
(72)【発明者】
【氏名】人羅 俊実
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−165189(JP,A)
【文献】 特開2013−234106(JP,A)
【文献】 特開2016−081946(JP,A)
【文献】 特開2013−229449(JP,A)
【文献】 特開2008−289967(JP,A)
【文献】 KAWAR et al.,Substrate temperature dependent structural, optical and electrical properties of spray deposited iridium oxide thin films,Applied Surface Science,2003年,Vol. 206,pp. 90-101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/365
H01L 29/872
H01L 29/12
H01L 29/78
H01L 29/739
H01L 21/331
C23C 16/40
H01L 21/368
H01L 29/24
H01L 21/337
H01L 21/338
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物の結晶又は混晶を形成して結晶性酸化物半導体を主成分とするp型酸化物半導体を製造する方法であって、イリジウム及び所望により他の金属を含む原料溶液を霧化してミストを生成し、キャリアガスを用いて、基体の表面近傍まで前記ミストを搬送した後、前記ミストを前記基体表面近傍にて熱反応させることにより、前記基体上にイリジウムを含有する金属酸化物の結晶又は混晶を形成することを特徴とするp型酸化物半導体の製造方法。
【請求項2】
前記原料溶液がイリジウム及び他の金属を含み、該他の金属が、周期律表の第2族金属、イリジウム以外の第9族金属又は第13族金属である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記の熱反応を、大気圧下で行う請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記基体がコランダム構造を有する基板である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
結晶性酸化物半導体を主成分とするp型酸化物半導体であって、前記結晶性酸化物半導体が、イリジウムを含有する金属酸化物の結晶又は混晶を含むことを特徴とするp型酸化物半導体。
【請求項6】
前記金属酸化物がIrである請求項5記載のp型酸化物半導体。
【請求項7】
前記結晶性酸化物半導体が、イリジウムと、周期律表の第2族金属、イリジウム以外の第9族金属又は第13族金属とを含有する混晶である請求項5又は6に記載のp型酸化物半導体。
【請求項8】
前記結晶性酸化物半導体が、コランダム構造又はβガリア構造を有する請求項5〜7のいずれかに記載のp型酸化物半導体。
【請求項9】
半導体層及び電極を少なくとも備える半導体装置であって、前記半導体層が、請求項5〜のいずれかに記載のp型酸化物半導体を含むことを特徴とする半導体装置。
【請求項10】
さらに、n型半導体層を備えており、該n型半導体層は酸化物半導体を主成分とする請求項記載の半導体装置。
【請求項11】
前記n型半導体層が、周期律表の第2族金属、第9族金属又は第13族金属を含む酸化物半導体を主成分とする請求項10記載の半導体装置。
【請求項12】
前記n型半導体層の主成分である酸化物半導体と、前記p型酸化物半導体との格子定数差が1.0%以下である請求項10又は11に記載の半導体装置。
【請求項13】
前記n型半導体層が、Gaを含む結晶性酸化物半導体を主成分とする請求項10〜12のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項14】
ヘテロ接合型バイポーラトランジスタ(HBT)である請求項9〜13のいずれかに記載の半導体装置。
【請求項15】
少なくともp型半導体層とn型半導体層とを積層する工程を含む請求項10〜14のいずれかに記載の半導体装置の製造方法であって、前記p型半導体層が、請求項5〜のいずれかに記載のp型酸化物半導体を主成分として含むことを特徴とする、半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記n型半導体層が、前記p型酸化物半導体との格子定数差が1.0%以内である酸化物半導体を主成分として含む請求項15記載の製造方法。
【請求項17】
前記n型半導体層が、Gaを含む結晶性酸化物半導体を主成分とする請求項15又は16に記載の製造方法。
【請求項18】
半導体装置を備える半導体システムであって、前記半導体装置が請求項9〜14のいずれかに記載の半導体装置である半導体システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、p型酸化物半導体及びその製造方法並びに前記p型酸化物半導体を用いた半導体装置及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子として、バンドギャップの大きな酸化ガリウム(Ga)を用いた半導体装置が注目されており、インバータなどの電力用半導体装置への適用が期待されている。しかも、広いバンドギャップからLEDやセンサー等の受発光装置としての応用も期待されている。当該酸化ガリウムは非特許文献1によると、インジウムやアルミニウムをそれぞれ、あるいは組み合わせて混晶することによりバンドギャップ制御することが可能であり、InAlGaO系半導体として極めて魅力的な材料系統を構成している。ここでInAlGaO系半導体とはInAlGa(0≦X≦2、0≦Y≦2、0≦Z≦2、X+Y+Z=1.5〜2.5)を示し、酸化ガリウムを内包する同一材料系統として俯瞰することができる。
【0003】
そして、近年においては、酸化ガリウム系のp型半導体が検討されており、例えば、特許文献1には、β−Ga系結晶を、MgO(p型ドーパント源)を用いてFZ法により形成したりすると、p型導電性を示す基板が得られることが記載されている。また、特許文献2には、MBE法により形成したα−(AlGa1−x単結晶膜にp型ドーパントをイオン注入してp型半導体を形成することが記載されている。しかしながら、これらの方法では、p型半導体の作製は実現困難であり(非特許文献2)、実際に、これらの方法でp型半導体の作製に成功したとの報告はなされていない。そのため、実現可能なp型酸化物半導体及びその製造方法が待ち望まれていた。
【0004】
また、非特許文献3や非特許文献4に記載されているように、例えばRhやZnRh等をp型半導体に用いることも検討されているが、Rhは、成膜時に特に原料濃度が薄くなってしまい、成膜に影響する問題があり、有機溶媒を用いても、Rh単結晶が作製困難であった。また、ホール効果測定を実施してもp型とは判定されることがなく、測定自体もできていない問題もあり、また、測定値についても、例えばホール係数が測定限界(0.2cm/C)以下しかなく、使いものには到底ならなかった。また、ZnRhは移動度が低く、バンドギャップも狭いため、LEDやパワーデバイスに用いることができない問題があり、これらは必ずしも満足のいくものではなかった。
【0005】
ワイドバンドギャップ半導体として、RhやZnRh等以外にも、p型の酸化物半導体が種々検討されている。特許文献3には、デラフォサイトやオキシカルコゲナイド等をp型半導体として用いることが記載されている。しかしながら、これらの半導体は、移動度が1cm/V・s程度かまたはそれ以下であり、電気特性が悪く、α−Ga等のn型の次世代酸化物半導体とのpn接合がうまくできない問題もあった。
【0006】
なお、従来より、Irは知られている。例えば、特許文献4には、イリジウム触媒としてIrを用いることが記載されている。また、特許文献5には、Irを誘電体に用いることが記載されている。また、特許文献6には、電極にIrを用いることが記載されている。しかしながら、Irをp型半導体に用いることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−340308号公報
【特許文献2】特開2013−58637号公報
【特許文献3】特開2016−25256号公報
【特許文献4】特開平9−25255号公報
【特許文献5】特開平8−227793号公報
【特許文献6】特開平11−21687号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】金子健太郎、「コランダム構造酸化ガリウム系混晶薄膜の成長と物性」、京都大学博士論文、平成25年3月
【非特許文献2】竹本達哉、EE Times Japan“パワー半導体 酸化ガリウム”熱伝導率、P型……課題を克服して実用化へ、[online]、2014年2月27日、アイティメディア株式会社、[平成28年6月21日検索]、インターネット〈URL:http://eetimes.jp/ee/articles/1402/27/news028_2.html〉
【非特許文献3】F.P.KOFFYBERG et al., "optical bandgaps and electron affinities of semiconducting Rh2O3(I) and Rh2O3(III)", J. Phys. Chem. Solids Vol.53, No.10, pp.1285-1288, 1992
【非特許文献4】細野秀雄、”酸化物半導体の機能開拓”、物性研究・電子版 Vol.3、No.1、031211(2013年11月・2014年2月合併号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、広いバンドギャップと良好な導電性とを有する新規且つ有用なp型酸化物半導体とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、イリジウムを含む原料溶液を霧化してミストを生成する霧化工程と、キャリアガスを用いて、基体の表面近傍まで前記ミストを搬送する搬送工程と、前記ミストを前記基体表面近傍にて熱反応させることにより、前記基体上にイリジウム酸化物の結晶を製膜すると、2.4eV以上の広いバンドギャップと、移動度2cm/V・s以上の良好な導電性とを有するp型酸化物半導体を形成できることを見出し、このようにして得られたp型酸化物半導体は、バンドギャップの大きな酸化ガリウム(Ga)等のワイドバンドギャップ半導体を用いた半導体装置にp型半導体として有用であること等を知見し、前記p型酸化物半導体及びその製造方法が、上記した従来の問題を一挙に解決できるものであることを知見した。
【0011】
また、本発明者らは、上記知見を得たのち、さらに検討を重ね、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の発明に関する。
【0012】
[1] 金属酸化物の結晶又は混晶を形成して結晶性酸化物半導体を主成分とするp型酸化物半導体を製造する方法であって、イリジウム及び所望により他の金属を含む原料溶液を霧化してミストを生成し、キャリアガスを用いて、基体の表面近傍まで前記ミストを搬送した後、前記ミストを前記基体表面近傍にて熱反応させることにより、前記基体上にイリジウムを含有する金属酸化物の結晶又は混晶を形成することを特徴とするp型酸化物半導体の製造方法。
[2] 前記原料溶液がイリジウム及び他の金属を含み、該他の金属が、周期律表の第2族金属、イリジウム以外の第9族金属又は第13族金属である前記[1]記載の製造方法。
[3] 前記の熱反応を、大気圧下で行う前記[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 前記基体がコランダム構造を有する基板である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 結晶性酸化物半導体を主成分とするp型酸化物半導体であって、前記結晶性酸化物半導体が、イリジウムを含有する金属酸化物の結晶又は混晶を含むことを特徴とするp型酸化物半導体。
[6] 前記金属酸化物がIrである前記[5]記載のp型酸化物半導体。
[7] 前記結晶性酸化物半導体が、イリジウムと、周期律表の第2族金属、イリジウム以外の第9族金属又は第13族金属とを含有する混晶である前記[5]又は[6]に記載のp型酸化物半導体。
[8] 前記結晶性酸化物半導体が、コランダム構造又はβガリア構造を有する前記[5]〜[7]のいずれかに記載のp型酸化物半導体。
[9] 結晶性酸化物半導体を主成分とするp型酸化物半導体であって、バンドギャップが2.4eV以上であることを特徴とするp型酸化物半導体。
[10] 半導体層及び電極を少なくとも備える半導体装置であって、前記半導体層が、前記[5]〜[9]のいずれかに記載のp型酸化物半導体を含むことを特徴とする半導体装置。
[11] さらに、n型半導体層を備えており、該n型半導体層は酸化物半導体を主成分とする前記[10]記載の半導体装置。
[12] 前記n型半導体層が、周期律表の第2族金属、第9族金属又は第13族金属を含む酸化物半導体を主成分とする前記[11]記載の半導体装置。
[13] 前記n型半導体層の主成分である酸化物半導体と、前記p型酸化物半導体との格子定数差が1.0%以下である前記[11]又は[12]に記載の半導体装置。
[14] 前記n型半導体層が、Gaを含む結晶性酸化物半導体を主成分とする前記[11]〜[13]のいずれかに記載の半導体装置。
[15] ヘテロ接合型バイポーラトランジスタ(HBT)である前記[10]〜[14]のいずれかに記載の半導体装置。
[16] 少なくともp型半導体層とn型半導体層とを積層する工程を含む前記[11]〜[15]のいずれかに記載の半導体装置の製造方法であって、前記p型半導体層が、前記[5]〜[9]のいずれかに記載のp型酸化物半導体を主成分として含むことを特徴とする、半導体装置の製造方法。
[17] 前記n型半導体層が、前記p型酸化物半導体との格子定数差が1.0%以内である酸化物半導体を主成分として含む前記[16]記載の製造方法。
[18] 前記n型半導体層が、Gaを含む結晶性酸化物半導体を主成分とする前記[16]又は[17]に記載の製造方法。
[19] 半導体装置を備える半導体システムであって、前記半導体装置が前記[10]〜[15]のいずれかに記載の半導体装置である半導体システム。
[20] 金属酸化物の結晶又は混晶を形成することにより酸化物半導体を製造する方法であって、前記の金属酸化物の結晶又は混晶の形成を、イリジウム及び所望により他の金属を含む原料を用いて、コランダム構造を有する基体上に、直接または他の層を介して、イリジウムを含有する金属酸化物の結晶又は混晶を結晶成長させることにより行うことを特徴とする酸化物半導体の製造方法。
[21]
前記原料が、ハロゲン化イリジウムを含む前記[20]記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のp型酸化物半導体は、広いバンドギャップと良好な導電性とを有しており、p型半導体としての半導体特性に優れている。また、本発明の製造方法は、このようなp型酸化物半導体を工業的有利に製造することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例において用いられる製膜装置(ミストCVD装置)の概略構成図である。
図2】実施例におけるXRD測定結果を示す図である。横軸が回析角(deg.)、縦軸が回析強度(arb.unit)を示す。
図3】ショットキーバリアダイオード(SBD)の好適な一例を模式的に示す図である。
図4】高電子移動度トランジスタ(HEMT)の好適な一例を模式的に示す図である。
図5】金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)の好適な一例を模式的に示す図である。
図6】接合電界効果トランジスタ(JFET)の好適な一例を模式的に示す図である。
図7】絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)の好適な一例を模式的に示す図である。
図8】発光素子(LED)の好適な一例を模式的に示す図である。
図9】発光素子(LED)の好適な一例を模式的に示す図である。
図10】電源システムの好適な一例を模式的に示す図である。
図11】システム装置の好適な一例を模式的に示す図である。
図12】電源装置の電源回路図の好適な一例を模式的に示す図である。
図13】ヘテロ接合型バイポーラトランジスタ(HBT)の好適な一例を模式的に示す図である。
図14】実施例におけるTEM測定結果(電子線回折像)を示す図である。
図15】実施例におけるXRD測定結果を示す図である。横軸が回折角(deg.)、縦軸が回折強度(arb.unit)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0016】
本発明のp型酸化物半導体は、結晶性酸化物半導体を主成分とするp型酸化物半導体であって、前記結晶性酸化物半導体が、イリジウム(Ir)を含有する金属酸化物の結晶又は混晶を含むことを特長とする。「主成分」とは、前記結晶性酸化物半導体が、原子比で、p型酸化物半導体の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。前記結晶性酸化物半導体は、イリジウムを含有する金属酸化物の結晶又は混晶を含んでさえいればそれでよい。「イリジウムを含有する金属酸化物」は、イリジウム元素と酸素とを含むものをいうが、本発明においては、Irであるのが好ましく、α−Irであるのがより好ましい。なお、前記結晶性酸化物半導体が混晶である場合には、イリジウムと、周期律表の第2族金属、イリジウム以外の第9族金属又は第13族金属とを含有する混晶であるのが好ましい。上記したような好ましいものによれば、例えば移動度が2cm/V・s以上のものが得られたり、又はバンドギャップが2.4eV以上のものが得られたりするので、より広いバンドギャップやより優れた電気特性をp型酸化物半導体において発揮することができる。
【0017】
なお、「周期律表」は、国際純正応用化学連合(International Union of Pure and Applied Chemistry)(IUPAC)にて定められた周期律表を意味する。また、「第2族金属」は、周期律表の第2族金属であればそれでよく、第2族金属としては、例えば、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)又はこれらの2種以上の金属等が挙げられる。「イリジウム以外の第9族金属」は、周期律表の第9族金属であって、イリジウムではない金属であればそれでよく、このような第9族金属としては、例えば、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)又はこれらの2種以上の金属等が挙げられる。また、「第13族金属」は、周期律表の第13族金属であれば特に限定されず、第13族金属としては、例えば、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)又はこれらの2種以上の金属等が挙げられるが、本発明においては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)及びインジウム(In)から選ばれる1種又は2種以上が好ましい。
【0018】
前記結晶性酸化物半導体は、イリジウムを含有する金属酸化物の結晶又は混晶を含むが、その含有率等は本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、前記結晶性酸化物半導体におけるイリジウムを含有する金属酸化物の好適な含有率は、原子比で、前記結晶性酸化物半導体の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、最も好ましくは90%以上である。イリジウムを含有する金属酸化物におけるイリジウムの含有率は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、原子比で、好ましくは、0.1%以上、より好ましくは1%以上、最も好ましくは10%以上である。
【0019】
また、前記結晶性酸化物半導体は、本発明の目的を阻害しない限り、結晶構造等について特に限定されないが、より良好な半導体特性の発現のため、コランダム構造又はβガリア構造を有するのが好ましく、コランダム構造を有するのがより好ましい。なお、前記結晶性酸化物半導体を主成分とするp型酸化物半導体は、単結晶であってもよいし、多結晶であってもよい。また、p型酸化物半導体は、通常、膜状であるが、本発明の目的を阻害しない限りは特に限定されず、板状であってもよいし、シート状であってもよい。
【0020】
本発明のp型酸化物半導体は、好適には以下の方法により得られるが、このようなp型酸化物半導体の製造方法も新規且つ有用であり、本発明の1つとして包含される。
【0021】
本発明のp型酸化物半導体の製造方法は、金属酸化物の結晶又は混晶を形成して結晶性酸化物半導体を主成分とするp型酸化物半導体を製造する方法であって、イリジウム及び所望により他の金属を含む原料溶液を霧化してミストを生成し(霧化工程)、キャリアガスを用いて、基体の表面近傍まで前記ミストを搬送し(搬送工程)、ついで、前記ミストを前記基体表面近傍にて熱反応させることにより、前記基体上にイリジウムを含有する金属酸化物の結晶又は混晶を形成すること(製膜工程)を特長とする。
【0022】
(霧化工程)
霧化工程は、イリジウム及び所望により他の金属を含む原料溶液を霧化する。霧化手段は、前記原料溶液を霧化できさえすれば特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、超音波を用いる霧化手段が好ましい。超音波を用いて得られたミストは、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能なミストであるので衝突エネルギーによる損傷がないため、非常に好適である。ミストの液滴のサイズは、特に限定されず、数mm程度であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは100nm〜10μmである。
【0023】
(原料溶液)
前記原料溶液は、イリジウム及び所望により他の金属を含んでいれば特に限定されず、無機材料が含まれていても、有機材料が含まれていてもよい。前記原料溶液がイリジウム及び他の金属を含む場合には、該他の金属が、周期律表の第2族金属、イリジウム以外の第9族金属又は第13族金属であるのが好ましい。また、前記原料溶液がイリジウム及び他の金属を含む場合には、イリジウムを含む原料溶液と、他の金属を含む原料溶液とに分けてそれぞれ霧化工程に付し、搬送工程又は製膜工程にてそれぞれの原料溶液から得られたミストを合流させてもよい。本発明においては、イリジウム及び所望により他の金属を錯体又は塩の形態で有機溶媒または水に溶解又は分散させたものを前記原料溶液として好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、有機金属塩(例えば金属酢酸塩、金属シュウ酸塩、金属クエン酸塩等)、硫化金属塩、硝化金属塩、リン酸化金属塩、ハロゲン化金属塩(例えば塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩等)などが挙げられる。なお、本発明のミストCVD法によれば、原料濃度が低くても、好適に製膜することができる。
【0024】
前記原料溶液の溶媒は、特に限定されず、水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒の混合溶液であってもよい。本発明においては、他の従来の成膜方法とは異なり、前記溶媒が水を含むのが好ましく、水と酸の混合溶媒であるのも好ましい。前記水としては、より具体的には、例えば、純水、超純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水、海水などが挙げられるが、本発明においては、超純水が好ましい。また、前記酸としては、より具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等の有機酸;三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素エーテラート、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられるが、本発明においては、酢酸が好ましい。
【0025】
(基体)
前記基体は、前記p型酸化物半導体を支持できるものであれば特に限定されない。前記基体の材料も、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の基体であってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、基板が好ましい。基板の厚さは、本発明においては特に限定されない。
【0026】
前記基板は、板状であって、前記p型酸化物半導体の支持体となるものであれば特に限定されない。絶縁体基板であってもよいし、半導体基板であってもよいし、導電性基板であってもよいが、前記基板が、絶縁体基板であるのが好ましく、また、表面に金属膜を有する基板であるのも好ましい。前記基板としては、好適には例えば、コランダム構造を有する基板などが挙げられる。基板材料は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知のものであってよい。前記のコランダム構造を有する基板としては、例えば、コランダム構造を有する基板材料を主成分とする下地基板などが挙げられ、より具体的には例えば、サファイア基板(好ましくはc面サファイア基板)やα型酸化ガリウム基板などが挙げられる。ここで、「主成分」とは、前記特定の結晶構造を有する基板材料が、原子比で、基板材料の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。
【0027】
(搬送工程)
搬送工程では、前記キャリアガスによって前記ミストを基体へ搬送する。キャリアガスの種類としては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられるが、本発明においては、キャリアガスとして酸素を用いるのが好ましい。酸素が用いられているキャリアガスとしては、例えば空気、酸素ガス、オゾンガス等が挙げられるが、とりわけ酸素ガス及び/又はオゾンガスが好ましい。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、キャリアガス濃度を変化させた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。本発明においては、霧化室、供給管及び製膜室を用いる場合には、前記霧化室及び前記供給管にそれぞれキャリアガスの供給箇所を設けるのが好ましく、前記霧化室にはキャリアガスの供給箇所を設け、前記供給管には希釈ガスの供給箇所を設けるのがより好ましい。また、キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01〜20L/分であるのが好ましく、1〜10L/分であるのがより好ましい。希釈ガスの場合には、希釈ガスの流量が、0.001〜2L/分であるのが好ましく、0.1〜1L/分であるのがより好ましい。
【0028】
(製膜工程)
製膜工程では、前記ミストを前記基体表面近傍で反応させて、前記基体表面の一部または全部に製膜する。前記熱反応は、前記ミストから膜が形成される熱反応であれば特に限定されず、熱でもって前記ミストが反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本工程においては、前記熱反応を、通常、溶媒の蒸発温度以上の温度で行うが、あまり高すぎない温度以下が好ましい。本発明においては、前記熱反応を、1200℃以下で行うのが好ましく、300℃〜700℃または750℃〜1200℃の温度で行うのがより好ましく、350℃〜600℃または750℃〜1100℃で行うのが最も好ましい。また、熱反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸化雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、酸化雰囲気下で行われるのが好ましく、大気圧下で行われるのも好ましく、酸化雰囲気下でかつ大気圧下で行われるのがより好ましい。なお、「酸化雰囲気」は、イリジウムを含有する金属酸化物の結晶又は混晶が前記熱反応により形成できる雰囲気であれば特に限定されない。例えば、酸素を含むキャリアガスを用いたり、酸化剤を含む原料溶液からなるミストを用いたりして酸化雰囲気とすること等が挙げられる。また、膜厚は、製膜時間を調整することにより、設定することができ、本発明においては、膜厚が1nm〜1mmであるのが好ましく、1nm〜100μmであるのが、半導体特性がより向上するのでより好ましく、1nm〜10μmであるのが最も好ましい。
【0029】
本発明においては、前記基体上にそのまま製膜してもよいが、前記基体上に、前記p型酸化物半導体層とは異なる半導体層(例えば、n型半導体層、n+型半導体層、n−型半導体層等)や絶縁体層(半絶縁体層も含む)、バッファ層等の他の層を積層したのち、前記基体上に他の層を介して製膜してもよい。半導体層や絶縁体層としては、例えば、前記第13族金属を含む半導体層や絶縁体層等が挙げられる。バッファ層としては、例えば、コランダム構造を含む半導体層、絶縁体層または導電体層などが好適な例として挙げられる。前記のコランダム構造を含む半導体層としては、例えば、α―Fe、α―Ga、α―Alなどが挙げられる。前記バッファ層の積層手段は特に限定されず、前記p型酸化物半導体の形成手段と同様であってよい。
なお、本発明においては、前記p型半導体層の製膜前又は製膜後に、n型半導体層を形成するのが好ましい。より具体的には、前記半導体装置の製造方法において、少なくともp型半導体層とn型半導体層とを積層する工程を含むのが好ましい。n型半導体層の形成手段は特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、ミストCVD法が好ましい。前記n型半導体層は、酸化物半導体を主成分とするのが好ましく、周期律表の第2族金属(例えばBe、Mg、Ca、Sr、Ba等)、第9族金属(例えばCo、Rh、Ir等)又は第13族金属(例えばAl、Ga、In、Tl等)を含む酸化物半導体を主成分とするのがより好ましい。また、前記n型半導体層は、結晶性酸化物半導体を主成分とするのも好ましく、Gaを含む結晶性酸化物半導体を主成分とするのがより好ましく、コランダム構造を有し且つGaを含む結晶性酸化物半導体を主成分とするのが最も好ましい。また、本発明においては、前記n型半導体の主成分である酸化物半導体と、前記p型酸化物半導体との格子定数差が、1.0%以下であるのも、良好なpn接合を形成することができるため、好ましく、0.3%以下であるのがより好ましい。ここで、「格子定数差」とは、前記n型半導体の主成分である酸化物半導体の格子定数から、前記p型酸化物半導体の格子定数を差し引いた値を、前記p型酸化物半導体の格子定数で除した数値の絶対値を100倍した数値(%)と定義される。前記格子定数差が1.0%以下である場合の例としては、p型酸化物半導体がコランダム構造を有する場合であって、n型半導体の主成分である酸化物半導体もコランダム構造を有する場合等が挙げられ、より好適には、p型酸化物半導体が、Irの単結晶又は混晶であって、n型半導体の主成分である酸化物半導体が、Gaの単結晶又は混晶である場合等が挙げられる。
【0030】
上記のようにして得られるp型酸化物半導体は、p型半導体層として半導体装置に用いることができる。とりわけ、パワーデバイスに有用である。また、半導体装置は、電極が半導体層の片面側に形成された横型の素子(横型デバイス)と、半導体層の表裏両面側にそれぞれ電極を有する縦型の素子(縦型デバイス)に分類することができ、本発明においては、横型デバイスにも縦型デバイスにも好適に用いることができるが、中でも、縦型デバイスに用いることが好ましい。前記半導体装置としては、例えば、ショットキーバリアダイオード(SBD)、金属半導体電界効果トランジスタ(MESFET)、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)、静電誘導トランジスタ(SIT)、接合電界効果トランジスタ(JFET)、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)または発光ダイオードなどが挙げられる。
【0031】
前記p型酸化物半導体をp型半導体層に用いた例を図3〜9に示す。なお、n型半導体は、p型酸化物半導体と同じ主成分であってn型ドーパントを含むものであってもよいし、p型酸化物半導体とは主成分等が異なるn型半導体であってもよい。また、前記n型半導体は、n型ドーパントの含有量を調整すること等の公知の手段を用いることにより、n−型半導体層、n+型半導体層などとして適宜用いられる。
【0032】
図3は、n−型半導体層101a、n+型半導体層101b、p型半導体層102、金属層103、絶縁体層104、ショットキー電極105aおよびオーミック電極105bを備えているショットキーバリアダイオード(SBD)の好適な一例を示す。なお、金属層103は、例えばAl等の金属からなり、ショットキー電極105aを覆っている。図4は、バンドギャップの広いn型半導体層121a、バンドギャップの狭いn型半導体層121b、n+型半導体層121c、p型半導体層123、ゲート電極125a、ソース電極125b、ドレイン電極125cおよび基板129を備えている高電子移動度トランジスタ(HEMT)の好適な一例を示す。
【0033】
ショットキー電極およびオーミック電極の材料は、公知の電極材料であってもよく、前記電極材料としては、例えば、Al、Mo、Co、Zr、Sn、Nb、Fe、Cr、Ta、Ti、Au、Pt、V、Mn、Ni、Cu、Hf、W、Ir、Zn、In、Pd、NdもしくはAg等の金属またはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の金属酸化物導電膜、ポリアニリン、ポリチオフェン又はポリピロ−ルなどの有機導電性化合物、またはこれらの混合物などが挙げられる。
【0034】
ショットキー電極およびオーミック電極の形成は、例えば、真空蒸着法またはスパッタリング法などの公知の手段により行うことができる。より具体的に例えば、ショットキー電極を形成する場合、Moからなる層とAlからなる層を積層させ、Moからなる層およびAlからなる層に対して、フォトリソグラフィの手法を利用したパターニングを施すことにより行うことができる。
【0035】
絶縁体層の材料としては、例えば、GaO、AlGaO、InAlGaO、AlInZnGaO、AlN、Hf、SiN、SiON、Al、MgO、GdO、SiOまたはSiなどが挙げられるが、本発明においては、コランダム構造を有するものであるのが好ましい。絶縁体層の形成は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法などの公知の手段により行うことができる。
【0036】
図5は、n−型半導体層131a、第1のn+型半導体層131b、第2のn+型半導体層131c、p型半導体層132、p+型半導体層132a、ゲート絶縁膜134、ゲート電極135a、ソース電極135bおよびドレイン電極135cを備えている金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)の好適な一例を示す。なお、p+型半導体層132aは、p型半導体層であってもよく、p型半導体層132と同じであってもよい。図6は、n−型半導体層141a、第1のn+型半導体層141b、第2のn+型半導体層141c、p型半導体層142、ゲート電極145a、ソース電極145bおよびドレイン電極145cを備えている接合電界効果トランジスタ(JFET)の好適な一例を示す。図7は、n型半導体層151、n−型半導体層151a、n+型半導体層151b、p型半導体層152、ゲート絶縁膜154、ゲート電極155a、エミッタ電極155bおよびコレクタ電極155cを備えている絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)の好適な一例を示す。
【0037】
(LED)
本発明の半導体装置が発光ダイオード(LED)である場合の一例を図8に示す。図8の半導体発光素子は、第2の電極165b上にn型半導体層161を備えており、n型半導体層161上には、発光層163が積層されている。そして、発光層163上には、p型半導体層162が積層されている。p型半導体層162上には、発光層163にて発生する光を透過する透光性電極167を備えており、透光性電極167上には、第1の電極165aが積層されている。発光層に用いられる発光体は公知のものであってもよい。なお、図8の半導体発光素子は、電極部分を除いて保護層で覆われていてもよい。
【0038】
透光性電極の材料としては、インジウム(In)またはチタン(Ti)を含む酸化物の導電性材料などが挙げられる。より具体的には、例えば、In、ZnO、SnO、Ga、TiO、CeOまたはこれらの2以上の混晶またはこれらにドーピングされたものなどが挙げられる。これらの材料を、スパッタリング等の公知の手段で設けることによって、透光性電極を形成できる。また、透光性電極を形成した後に、透光性電極の透明化を目的とした熱アニールを施してもよい。
【0039】
図8の半導体発光素子によれば、第1の電極165aを正極、第2の電極165bを負極とし、両者を介してp型半導体層162、発光層163およびn型半導体層161に電流を流すことで、発光層163が発光するようになっている。
【0040】
第1の電極165a及び第2の電極165bの材料としては、例えば、Al、Mo、Co、Zr、Sn、Nb、Fe、Cr、Ta、Ti、Au、Pt、V、Mn、Ni、Cu、Hf、W、Ir、Zn、In、Pd、NdもしくはAg等の金属またはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の金属酸化物導電膜、ポリアニリン、ポリチオフェン又はポリピロ−ルなどの有機導電性化合物、またはこれらの混合物などが挙げられる。電極の成膜法は特に限定されることはなく、印刷方式、スプレー法、コ−ティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ−ティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式、などの中から前記材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って前記基板上に形成することができる。
【0041】
なお、発光素子の別の態様を図9に示す。図9の発光素子では、基板169上にn型半導体層161が積層されており、p型半導体層162、発光層163およびn型半導体層161の一部を切り欠くことによって露出したn型半導体層161の半導体層露出面上の一部に第2の電極165bが積層されている。
【0042】
(HBT)
本発明の半導体装置がヘテロ接合型バイポーラトランジスタ(HBT)である場合の一例を図13に示す。図13のHBTは、npn構造及びpnp構造のいずれの構造をとることもできる。以下、npn構造について詳しく説明するが、pnp構造の場合も同様であって、npn構造のp型層をpnp構造のn型層で置換することができ、その逆も行うことができる。基板60は、半絶縁性の基体でよく、高い抵抗率(例えば10Ωcmを超える抵抗率等)を有し得る。なお、基板60はn型であってもよい。
【0043】
基板60の上方にコレクタ層42が形成される。コレクタ層42は、例えば200nm〜100μm、さらに好ましくは400nm〜20μmの厚さを有している。コレクタ層42は、コランダム構造を有するn型酸化物半導体を主成分として含むのが好ましく、該n型酸化物半導体が、周期律表の第2族金属(例えばBe、Mg、Ca、Sr、Ba等)、第9族金属(例えばCo、Rh、Ir等)又は第13族金属(例えばAl、Ga、In、Tl等)を含む酸化物半導体を主成分とするのがより好ましく、アルミニウム、インジウム及びガリウムから選ばれる1種又は2種以上の金属を含むのが更により好ましく、酸化ガリウム又はその混晶であるのが最も好ましい。ここで、「主成分」は前記した「主成分」と同様である。また、本実施の形態において、前記n型酸化物半導体中のドーパント(例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン等)の濃度は、通常、約1×1016/cm〜1×1022/cmであるが、例えば約1×1017/cm以下の低濃度にして、n−型半導体とすることができる。また、本発明によれば、約1×1020/cm以上の高濃度で含有させて、n+型半導体とすることもできる。
【0044】
本実施の形態では、特に基板60が半絶縁性である場合、コレクタ層42と基板60の間にサブコレクタ層40を形成してもよい。サブコレクタ層40は、コランダム構造を有するn+型酸化物半導体を主成分として含むのが好ましく、該n+型酸化物半導体が、周期律表の第2族金属(例えばBe、Mg、Ca、Sr、Ba等)、第9族金属(例えばCo、Rh、Ir等)又は第13族金属(例えばAl、Ga、In、Tl等)を含む酸化物半導体を主成分とするのがより好ましく、アルミニウム、インジウム及びガリウムから選ばれる1種又は2種以上の金属を含むのが更により好ましく、酸化ガリウム又はその混晶であるのが最も好ましい。ここで、「主成分」は前記した「主成分」と同様である。サブコレクタ層40の厚さは、約0.1〜100μmであるのが好ましい。サブコレクタ層40の表面上には、コレクタ電極52が形成される。サブコレクタ層40の目的は、オーム性コレクタ電極52の性能を向上させることにある。なお、サブコレクタ層40は、基板60が導電性である場合には、省略することができる。
【0045】
コレクタ層42上にベース層44が形成される。ベース層44は、通常、本発明のp型酸化物半導体を主成分として含んでさえいれば特に限定されない。ベース層44の厚さは、特に限定されないが、10nm〜10μmが好ましく、10nm〜1μmがより好ましい。ベース層44は、コレクタ層の接触部から、ベース層44の上面付近まで徐々に変化させることも好ましい。また、別の態様として、ベース層44の上面に超格子を堆積することもできる。
【0046】
ベース層44上にエミッタ層46が形成される。エミッタ層46は、コランダム構造を有するn型酸化物半導体を主成分として含むのが好ましく、該n型酸化物半導体が、周期律表の第2族金属(例えばBe、Mg、Ca、Sr、Ba等)、第9族金属(例えばCo、Rh、Ir等)又は第13族金属(例えばAl、Ga、In、Tl等)を含む酸化物半導体を主成分とするのがより好ましく、アルミニウム、インジウム及びガリウムから選ばれる1種又は2種以上の金属を含むのが更により好ましく、酸化ガリウム又はその混晶であるのが最も好ましい。ここで、「主成分」は前記した「主成分」と同様である。なお、エミッタ層46の厚さは、特に限定されないが、10nm〜100μmが好ましい。エミッタ層46は、通常、ベース層44より広いバンドギャップを有する。エミッタ層46は、任意にエミッタ層46の組成を、ベース層44との接触部から、エミッタ層46の上面付近まで徐々に変化させることも好ましい。
【0047】
エミッタ層46上にキャップ層48が形成されているのが好ましい。キャップ層48はコランダム構造を有するn+型酸化物半導体が好ましく、アルミニウム、インジウム及びガリウムから選ばれる1種又は2種以上の金属を含むn+型酸化物半導体がより好ましく、n+型ドープ酸化ガリウム又はその混晶が最も好ましい。なお、厚さは、特に限定されないが、10nm〜100μmが好ましい。これらの層に例えばエッチング等を施してベース層44を露出させると共に、上向きのコレクタ電極を設ける場合には、例えばエッチング等でさらに深いスルーホールをつくることでサブコレクタ層40を露出させることができる。
【0048】
コレクタ電極52、ベース電極54及びエミッタ電極56の各電極は、好ましくはオーム性金属電極である。エミッタ電極56はキャップ層48上に堆積され、ベース電極54は例えばエッチング等で露出させたベース層44上に堆積される。コレクタ電極52は上述のようにサブコレクタ層40上に堆積される。別の実施形態としては、基板がn型の半導体等である場合には、通常、デバイス構造と反対側にある基板60の背面上にコレクタ電極(図示せず)が設けられる。
【0049】
各電極の材料は、特に限定されず、それぞれ公知の電極材料を用いることができる。電極用の好適な組成物としては、公知のオーミック電極材料(例えばNi、Al、Ti、Pt、Au及びこれらの積層体等)が挙げられる。各電極mの厚さは、特に限定されないが、約10〜約100μmの厚さが好ましく、各電極の堆積は電子ビーム蒸着、熱蒸着、スパッタリング又は他の技術で実現することができる。なお、各電極材料の堆積後、オーム接触を達成するため、アニール処理してもよい。アニール温度は、特に限定されないが、約300〜1000℃が好ましい。
なお、pnp HBTは、pnp HBTのp型層をnpn HBTのn型層で置換すると共に、その逆も行うことで形成できる。
【0050】
前記半導体装置は、例えば電源装置を用いた半導体システム等に用いられる。前記電源装置は、公知の手段を用いて、前記半導体装置を配線パターン等に接続するなどして作製することができる。図10に電源システムの例を示す。図10は、複数の前記電源装置と制御回路を用いて電源システムを構成している。前記電源システムは、図11に示すように、電子回路と組み合わせてシステム装置に用いることができる。なお、電源装置の電源回路図の一例を図12に示す。図12は、パワー回路と制御回路からなる電源装置の電源回路を示しており、インバータ(MOSFETA〜Dで構成)によりDC電圧を高周波でスイッチングしACへ変換後、トランスで絶縁及び変圧を実施し、整流MOSFET(A〜B’)で整流後、DCL(平滑用コイルL1,L2)とコンデンサにて平滑し、直流電圧を出力する。この時に電圧比較器で出力電圧を基準電圧と比較し、所望の出力電圧となるようPWM制御回路でインバータ及び整流MOSFETを制御する。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
1.製膜装置
図1を用いて、本実施例で用いたミストCVD装置を説明する。ミストCVD装置19は、基板20を載置するサセプタ21と、キャリアガスを供給するキャリアガス供給手段22aと、キャリアガス供給手段22aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)供給手段22bと、キャリアガス(希釈)供給手段22bから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23bと、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、内径40mmの石英管からなる供給管27と、供給管27の周辺部に設置されたヒーター28とを備えている。サセプタ21は、石英からなり、基板20を載置する面が水平面から傾斜している。成膜室となる供給管27とサセプタ21をどちらも石英で作製することにより、基板20上に形成される膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。
【0052】
2.原料溶液の作製
イリジウムアセチルアセトナート(イリジウム濃度0.005mol/L)に、マグネシウムアセチルアセトナードをモル比で1%、塩酸を同じモル数となるように加えて水溶液を調整し、これを原料溶液とした。
【0053】
3.製膜準備
上記2.で得られた原料溶液24aミスト発生源24内に収容した。次に、基板20として、c面サファイア基板をサセプタ21上に設置し、ヒーター28の温度を500℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁23a、23bを開いて、キャリアガス源であるキャリアガス供給手段22a、22bからキャリアガスを供給管27内に供給し、供給管27内の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を5.0L/分に、キャリアガス(希釈)の流量を0.5L/分にそれぞれ調節した。なお、キャリアガスとして酸素を用いた。
【0054】
4.膜形成
次に、超音波振動子を振動させ、その振動を、水25を通じて原料溶液24aに伝播させることによって、原料溶液24aを霧化させてミストを生成させた。このミストが、キャリアガスによって、供給管27に搬送され、大気圧下、500℃にて、ミストが熱反応して基板20上に膜が形成された。なお、製膜時間は1時間であり、膜厚は20nmであった。
【0055】
上記4.にて得られた膜について、X線回析装置を用いて膜の同定をしたところ、得られた膜は、α−Ir膜であった。なお、XRDの結果を図2に示す。また、得られたα−Ir膜についてホール効果測定を行ったところ、F値が0.997であり、キャリアタイプは「p」であり、p型半導体であることがわかった。また、キャリア濃度は1.7×1021(/cm)であり、移動度は2.3(cm/V・s)であった。また、透過率測定によって求めたバンドギャップは、3.0eVであった。なお、見かけのバンドギャップは2.5eVであった。
また、上記4.にて得られた膜について、TEMを用いて、図14のとおり、電子線回折像を得た。図14の電子線回折像からも、上記4.で得られた膜が、基板で用いたサファイアのコランダム構造と同じ構造を有することがわかる。
【0056】
(参考例)
実施例1の実験値を用いて、α―Irの格子定数を算出したところ、α―Gaとの格子定数差が0.3%であることがわかった。そのため、n型半導体の主成分である酸化物半導体として、α―Gaの結晶を用いることが有用であることがわかる。
【0057】
(実施例2)
原料溶液として、塩化イリジウム(III)(イリジウム濃度0.05mol/L)に塩酸を体積比で20%となるように加えて調整した水溶液を用いたこと、キャリアガスの流量を1.0L/minとしたこと、製膜温度を1000℃としたこと、および製膜時間を20分としたこと以外は、実施例1と同様にして、製膜を行った。得られた膜につき、実施例1と同様にして膜の同定を行ったところ、得られた膜はα−Ir膜であった。なお、XRDの結果を図15に示す。また、得られたα−Ir膜の膜厚は2μmであった。
【0058】
(実施例3)
原料溶液として、塩化イリジウム(III)(イリジウム濃度0.02mol/L)および塩化ガリウム(III)(ガリウム濃度0.02mol/L)を混合し、さらに塩酸を体積比で20%となるように加えて調整した水溶液を用いたこと、キャリアガスの流量を1.5L/minとしたこと、製膜温度を750℃としたこと、製膜時間を20分としたこと以外は、実施例1と同様にして、製膜を行った。得られた膜につき、実施例1と同様にして膜の同定を行ったところ、得られた膜はα―(Ir0.95,Ga0.05であった。なお、膜厚は2μmであった。また、得られたα―(Ir0.95,Ga0.05につき、実施例1と同様にしてホール効果測定を実施して、p型半導体であることを確認した。なお、F値は0.905であった。また、キャリア濃度は3.7×1020(/cm)であり、移動度は2.9(cm/V・s)であった。
【0059】
(実施例4)
再現性を確認するために、実施例3と同様にして、製膜を行った。得られた膜につき、実施例1と同様にして膜の同定を行ったところ、得られた膜はα―(Ir0.95,Ga0.05であった。なお、膜厚は2μmであった。また、得られたα―(Ir0.95,Ga0.05につき、実施例1と同様にしてホール効果測定を実施して、p型半導体であることを確認した。なお、F値は0.927であった。また、キャリア濃度は2.0×1020(/cm)であり、移動度は5.8(cm/V・s)であった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のp型酸化物半導体は、半導体(例えば化合物半導体電子デバイス等)、電子部品・電気機器部品、光学・電子写真関連装置、工業部材などあらゆる分野に用いることができるが、p型の半導体特性に優れているため、特に、半導体装置等に有用である。
【符号の説明】
【0061】
19 ミストCVD装置
20 基板
21 サセプタ
22a キャリアガス供給手段
22b キャリアガス(希釈)供給手段
23a 流量調節弁
23b 流量調節弁
24 ミスト発生源
24a 原料溶液
25 容器
25a 水
26 超音波振動子
27 供給管
28 ヒーター
29 排気口
40 サブコレクタ層
42 コレクタ層
44 ベース層
46 エミッタ層
48 キャップ層
52 コレクタ電極
54 ベース電極
56 エミッタ電極
60 基板
101a n−型半導体層
101b n+型半導体層
102 p型半導体層
103 金属層
104 絶縁体層
105a ショットキー電極
105b オーミック電極
121a バンドギャップの広いn型半導体層
121b バンドギャップの狭いn型半導体層
121c n+型半導体層
123 p型半導体層
125a ゲート電極
125b ソース電極
125c ドレイン電極
128 緩衝層
129 基板
131a n−型半導体層
131b 第1のn+型半導体層
131c 第2のn+型半導体層
132 p型半導体層
134 ゲート絶縁膜
135a ゲート電極
135b ソース電極
135c ドレイン電極
138 緩衝層
139 半絶縁体層
141a n−型半導体層
141b 第1のn+型半導体層
141c 第2のn+型半導体層
142 p型半導体層
145a ゲート電極
145b ソース電極
145c ドレイン電極
151 n型半導体層
151a n−型半導体層
151b n+型半導体層
152 p型半導体層
154 ゲート絶縁膜
155a ゲート電極
155b エミッタ電極
155c コレクタ電極
161 n型半導体層
162 p型半導体層
163 発光層
165a 第1の電極
165b 第2の電極
167 透光性電極
169 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15