(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6951715
(24)【登録日】2021年9月29日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】半導体膜の製造方法及び半導体膜並びにドーピング用錯化合物及びドーピング方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/365 20060101AFI20211011BHJP
H01L 29/872 20060101ALI20211011BHJP
H01L 21/329 20060101ALI20211011BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20211011BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20211011BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20211011BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20211011BHJP
H01L 29/47 20060101ALI20211011BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20211011BHJP
H01L 21/338 20060101ALI20211011BHJP
H01L 29/778 20060101ALI20211011BHJP
H01L 29/812 20060101ALI20211011BHJP
H01L 21/337 20060101ALI20211011BHJP
H01L 29/808 20060101ALI20211011BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
H01L21/365
H01L29/86 301D
H01L29/86 301P
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 658E
H01L29/78 655A
H01L29/48 D
H01L29/48 P
H01L29/78 618B
H01L29/78 618A
H01L29/80 H
H01L29/80 C
H01L29/80 V
C23C16/40
【請求項の数】22
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-539792(P2018-539792)
(86)(22)【出願日】2017年9月14日
(86)【国際出願番号】JP2017033358
(87)【国際公開番号】WO2018052097
(87)【国際公開日】20180322
【審査請求日】2020年9月2日
(31)【優先権主張番号】特願2016-181044(P2016-181044)
(32)【優先日】2016年9月15日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-181045(P2016-181045)
(32)【優先日】2016年9月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(72)【発明者】
【氏名】藤田 静雄
(72)【発明者】
【氏名】内田 貴之
(72)【発明者】
【氏名】金子 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】織田 真也
(72)【発明者】
【氏名】人羅 俊実
【審査官】
長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−522437(JP,A)
【文献】
特表2011−529804(JP,A)
【文献】
特開2011−096884(JP,A)
【文献】
特開2003−273398(JP,A)
【文献】
特開2015−091740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/365
H01L 29/872
H01L 21/329
H01L 29/12
H01L 29/78
H01L 21/336
H01L 29/739
H01L 29/47
H01L 29/786
H01L 21/338
H01L 21/337
C23C 16/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーパント材料を用いてドーピングされたガリウムを含む酸化物半導体を主成分とする半導体膜を製造する方法であって、前記ドーパント材料が、少なくともドーパントと置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基とハロゲンとを含有する錯化合物を含むことを特徴とする半導体膜の製造方法。
【請求項2】
錯化合物が、XMR1lR2mR3n(式中、Xはハロゲン原子を表し、Mはドーパントを表し、R1、R2及びR3はそれぞれ同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基を表し、l、m及びnはそれぞれ同一又は異なって、0〜3の整数を表す。)で表される化合物である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
炭化水素基又は複素環基が、置換基を有している炭化水素基であり、該置換基が、シアノ基である請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
ハロゲンが、塩素である請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
ドーパントが、Siである請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
ドーパント材料を用いてドーピングされたガリウムを含む酸化物半導体を主成分とする半導体膜を製造する方法であって、前記ドーパント材料が、少なくともシリコンと置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基とハロゲンとを含有する錯化合物を含むことを特徴とする半導体膜の製造方法。
【請求項7】
錯化合物が、2以上の置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基を含有する請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
錯化合物が、XSiR1lR2mR3n(式中、Xはハロゲン原子を表し、R1、R2及びR3はそれぞれ同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基を表し、l、m及びnはそれぞれ同一又は異なって、0〜3の整数を表す。)で表される化合物である、請求項6記載の製造方法。
【請求項9】
炭化水素基又は複素環基が、置換基を有している炭化水素基であり、該置換基が、シアノ基である請求項6記載の製造方法。
【請求項10】
ハロゲンが、塩素である請求項6記載の製造方法。
【請求項11】
Siがドーピングされている半導体膜であって、半導体膜が、ガリウムを含む酸化物半導体を主成分としており、膜表面から少なくとも0.1μm〜0.5μmの深さの範囲において、キャリア密度が1×1018/cm3以上でドーピングされていることを特徴とする半導体膜。
【請求項12】
Siがドーピングされている半導体膜であって、半導体膜が、ガリウムを含む酸化物半導体を主成分としており、膜表面から少なくとも0.3μm以上の深さまでドーピングされており、移動度1cm2/Vs以上であり、膜厚100μm以下であることを特徴とする半導体膜。
【請求項13】
キャリア密度が1×1020/cm3以下である、請求項11又は12に記載の半導体膜。
【請求項14】
半導体膜と、電極とを少なくとも備える半導体装置であって、前記半導体膜が請求項11又は12に記載の半導体膜である半導体装置。
【請求項15】
半導体装置を備える半導体システムであって、前記半導体装置が請求項14記載の半導体装置である半導体システム。
【請求項16】
ガリウムを含む酸化物半導体のドーピングに用いられる錯化合物であって、少なくともドーパントと置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基とハロゲンとを含有する錯化合物を含むことを特徴とするドーピング用錯化合物。
【請求項17】
錯化合物が、2以上の置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基を含有する請求項16記載のドーピング用錯化合物。
【請求項18】
錯化合物が、XMR1lR2mR3n(式中、Xはハロゲン原子を表し、Mはドーパントを表し、R1、R2及びR3はそれぞれ同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基を表し、l、m及びnはそれぞれ同一又は異なって、0〜3の整数を表す。)で表される化合物である、請求項16に記載のドーピング用錯化合物。
【請求項19】
炭化水素基又は複素環基が、置換基を有している炭化水素基であり、該置換基が、シアノ基である請求項16記載のドーピング用錯化合物。
【請求項20】
ハロゲンが、塩素である請求項16記載のドーピング用錯化合物。
【請求項21】
前記酸化物半導体がコランダム構造を有する請求項16記載のドーピング用錯化合物。
【請求項22】
ドーピング用錯化合物を用いて半導体のドーピングを行う方法であって、前記ドーピング用錯化合物が、請求項19〜21のいずれかに記載のドーピング用錯化合物であることを特徴とするドーピング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体に不純物をドーピングするのに用いられるドーピング用錯化合物及びドーピング方法、半導体装置に有用な半導体膜及びその製造方法、並びに半導体膜を用いた半導体装置及び半導体システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高耐圧、低損失および高耐熱を実現できる次世代のスイッチング素子として、バンドギャップの大きな酸化ガリウム(Ga
2O
3)を用いた半導体装置が注目されており、インバータなどの電力用半導体装置への適用が期待されている。しかも、広いバンドギャップからLEDやセンサー等の受発光装置としての応用も期待されている。当該酸化ガリウムは非特許文献1によると、インジウムやアルミニウムをそれぞれ、あるいは組み合わせて混晶することによりバンドギャップ制御することが可能であり、InAlGaO系半導体として極めて魅力的な材料系統を構成している。ここでInAlGaO系半導体とはIn
XAl
YGa
ZO
3(0≦X≦2、0≦Y≦2、0≦Z≦2、X+Y+Z=1.5〜2.5)を示し、酸化ガリウムを内包する同一材料系統として俯瞰することができる。
【0003】
そして、近年においては、酸化ガリウムに対するドーパントとして、スズやケイ素を用いる検討が進められており、非特許文献2には、EFG法において、ドーパントとしてケイ素を用いることが記載されている。しかしながら、EFG法では、真空設備が必要であり、また、薄膜をドーピングするには適しておらず、工業上求められる半導体膜を得ることが困難であった。また、EFG法では、準安定相であるα―Ga
2O
3等のコランダム構造を有する酸化物半導体膜を得ることはできないため、最安定相であるβ―Ga
2O
3よりもバンドギャップの大きな次世代のスイッチング素子を得るにはまだまだ課題が残されていた。
【0004】
また、特許文献1では、MBE法を用いたβ―Ga
2O
3系半導体素子の製造において、イオン注入することによって、ドーピングを行っており、n型ドーパントの例として、ケイ素が記載されている。しかしながら、イオン注入によってドーピングを行った場合には、イオン注入後、高温(例えば、1000℃)でアニール処理を行わないとドナーとして使えないという問題があった。また、特許文献1に記載の方法では、活性化アニール処理を行ったとしても、例えば、ケイ素をドーパントとして用いた場合には、結晶欠陥が多く、電気特性も悪く、例えば、移動度1cm
2/Vs以上得るのは困難であった。
【0005】
また、特許文献2には、α―Ga
2O
3膜へのn型ドーパントとして、シリコンを用いることができるとの記載がある。しかしながら、実際にケイ素ドーピングを行った例はなく、仮に、ケイ素をドーピングする際に用いられる材料として想定されるTEOS等を実際に用いた場合には、ドーピングができないか、または、できたとしても、移動度を1cm
2/Vs以上とすることが困難であり、半導体装置に用いるには電気特性が十分でないという問題があった。
【0006】
さらに、特許文献3には、臭化ケイ素をドーパント原料として用いることにより、α―Ga
2O
3膜にケイ素ドーピングすることが記載されている。しかしながら、臭化ケイ素を用いた場合には、熱的安定性に優れておらず、結晶欠陥が多く生じ、均質なドーピングができず、劣化の問題があった。そのため、工業上有用なドーピング方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2013/035841号公報
【特許文献2】特開2015−134717号公報
【特許文献3】特開2015−228495号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】金子健太郎、「コランダム構造酸化ガリウム系混晶薄膜の成長と物性」、京都大学博士論文、平成25年3月
【非特許文献2】Oishi, Toshiyuki, et al. “High‐mobility β‐Ga2O3 single crystals grown by edge‐defined film‐fed growth method and their Schottky barrier diodes with Ni contact.”, Applied Physics Express 8.3 (2015): 031101.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、工業的有利にドーピングすることができるドーピング用錯化合物及びそのドーピング用錯化合物を用いたドーピング方法を提供することを目的とし、また、本発明は、均質にドーパント(例えばケイ素等)がドーピングされ、電気特性に優れた半導体膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、ドーパント材料として、少なくともドーパントと置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基とハロゲンとを含有する錯化合物を含む材料を用いて、半導体膜を製造すると、驚くべきことに、イオン注入やアニール処理等の成膜後のドーピングのための処理を特に行わなくても、半導体膜に均質かつ良好にドーピングを行うことができ、さらに、得られた半導体膜が、電気特性に優れたものであることを見出し、このドーパント材料が、上記した従来の問題を一挙に解決できるものであることを知見した。
【0011】
また、本発明者らは、上記知見を得たのち、さらに検討を重ね、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の発明に関する。
【0012】
[1] ドーパント材料を用いてドーピングされた半導体膜を製造する方法であって、前記ドーパント材料が、少なくともドーパントと置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基とハロゲンとを含有する錯化合物を含むことを特徴とする半導体膜の製造方法。
[2] 錯化合物が、XMR
1lR
2mR
3n(式中、Xはハロゲン原子を表し、Mはドーパントを表し、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基を表し、l、m及びnはそれぞれ同一又は異なって、0〜3の整数を表す。)で表される化合物である、前記[1]記載の製造方法。
[3] 炭化水素基又は複素環基が、置換基を有している炭化水素基であり、該置換基が、シアノ基である前記[1]記載の製造方法。
[4] ハロゲンが、塩素である前記[1]記載の製造方法。
[5] ドーパントが、Siである前記[1]記載の製造方法。
[6] ドーパント材料を用いてドーピングされた半導体膜を製造する方法であって、前記ドーパント材料が、少なくともシリコンと置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基とハロゲンとを含有する錯化合物を含むことを特徴とする半導体膜の製造方法。
[7] 錯化合物が、2以上の置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基を含有する前記[6]記載の製造方法。
[8] 錯化合物が、XSiR
1lR
2mR
3n(式中、Xはハロゲン原子を表し、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基を表し、l、m及びnはそれぞれ同一又は異なって、0〜3の整数を表す。)で表される化合物である、前記[6]記載の製造方法。
[9] 炭化水素基又は複素環基が、置換基を有している炭化水素基であり、該置換基が、シアノ基である前記[6]記載の製造方法。
[10] ハロゲンが、塩素である前記[6]記載の製造方法。
[11] 前記[1]〜[10]のいずれかに記載の製造方法を用いて製造される半導体膜。
[12] 半導体膜と、電極とを少なくとも備える半導体装置であって、前記半導体膜が前記[11]記載の半導体膜である半導体装置。
[13] 半導体装置を備える半導体システムであって、前記半導体装置が前記[12]記載の半導体装置である半導体システム。
[14] Siがドーピングされている半導体膜であって、半導体膜が、酸化物半導体を主成分としており、膜表面から少なくとも0.1μm〜0.5μmの深さの範囲において、キャリア密度が1×10
18/cm
3以上でドーピングされていることを特徴とする半導体膜。
[15] Siがドーピングされている半導体膜であって、膜表面から少なくとも0.3μm以上の深さまでドーピングされており、移動度1cm
2/Vs以上であり、膜厚100μm以下であることを特徴とする半導体膜。
[16] キャリア密度が1×10
20/cm
3以下である、前記[14]又は[15]に記載の半導体膜。
[17] 半導体膜と、電極とを少なくとも備える半導体装置であって、前記半導体膜が前記[14]又は[15]に記載の半導体膜である半導体装置。
[18] 半導体装置を備える半導体システムであって、前記半導体装置が前記[17]記載の半導体装置である半導体システム。
[19] 半導体のドーピングに用いられる錯化合物であって、少なくともドーパントと置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基とハロゲンとを含有する錯化合物を含むことを特徴とするドーピング用錯化合物。
[20] 錯化合物が、2以上の置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基を含有する前記[19]記載のドーピング用錯化合物。
[21] 錯化合物が、XMR
1lR
2mR
3n(式中、Xはハロゲン原子を表し、Mはドーパントを表し、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基を表し、l、m及びnはそれぞれ同一又は異なって、0〜3の整数を表す。)で表される化合物である、前記[19]に記載のドーピング用錯化合物。
[22] 炭化水素基又は複素環基が、置換基を有している炭化水素基であり、該置換基が、シアノ基である前記[19]記載のドーピング用錯化合物。
[23] ハロゲンが、塩素である前記[19]記載のドーピング用錯化合物。
[24] コランダム構造を有する半導体に用いられる前記[19]記載のドーピング用錯化合物。
[25] 酸化物半導体に用いられる前記[19]記載のドーピング用錯化合物。
[26] ドーピング用錯化合物を用いて半導体のドーピングを行う方法であって、前記ドーピング用錯化合物が、前記[19]〜[25]のいずれかに記載のドーピング用錯化合物であることを特徴とするドーピング方法。
[27] 前記[26]記載のドーピング方法によりドーピングされた半導体。
[28] 膜状である、前記[26]記載の半導体。
[29] 半導体膜と、電極とを少なくとも備える半導体装置であって、前記半導体膜が前記[27]又は[28]に記載の半導体を主成分として含む半導体装置。
[30] 半導体装置を備える半導体システムであって、前記半導体装置が前記[29]記載の半導体装置である半導体システム。
【発明の効果】
【0013】
本発明のドーピング用錯化合物は、均質にドーピングすることを可能するものであり、前記ドーピング用錯化合物を用いることにより、工業的有利にドーピングすることができる。本発明の半導体膜は、均質にドーピングがされており、また、電気特性に優れたものである。また、本発明の製造方法は、このような半導体膜を工業的有利に製造することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例において用いられる製膜装置(ミストCVD)の概略構成図である。
【
図2】実施例におけるXRD測定結果を示す図である。
【
図3】実施例におけるSIMS測定結果を示す図である。
【
図4】ショットキーバリアダイオード(SBD)の好適な一例を模式的に示す図である。
【
図5】高電子移動度トランジスタ(HEMT)の好適な一例を模式的に示す図である。
【
図6】金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)の好適な一例を模式的に示す図である。
【
図7】接合電界効果トランジスタ(JFET)の好適な一例を模式的に示す図である。
【
図8】絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)の好適な一例を模式的に示す図である。
【
図9】発光素子(LED)の好適な一例を模式的に示す図である。
【
図10】発光素子(LED)の好適な一例を模式的に示す図である。
【
図11】電源システムの好適な一例を模式的に示す図である。
【
図12】システム装置の好適な一例を模式的に示す図である。
【
図13】電源装置の電源回路図の好適な一例を模式的に示す図である
【
図14】実施例におけるSIMS測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0016】
本発明のドーピング用錯化合物は、半導体のドーピングに用いられる錯化合物であって、少なくともドーパントと置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基とハロゲンとを含有することを特長とする。
【0017】
前記錯化合物は、少なくともドーパントと置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基とハロゲンとを含有していれば特に限定されないが、本発明においては、2以上の置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基を含有するのが好ましく、前記錯化合物が、XMR
1lR
2mR
3n(式中、Xはハロゲン原子を表し、Mはドーパントを表し、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基を表し、l、m及びnはそれぞれ同一又は異なって、0〜3の整数を表す。)で表される化合物であるのがより好ましい。
【0018】
本発明の半導体膜の製造方法は、ドーパント材料を用いてドーピングされた半導体膜を製造する方法であって、前記ドーパント材料が、少なくともシリコンと置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基とハロゲンとを含有する錯化合物を含むことを特長とする。
【0019】
前記ドーパント材料は少なくともシリコンと置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基とハロゲンとを含有する錯化合物を含んでいるのが好ましい。
【0020】
前記錯化合物は、少なくともドーパント(好ましくはシリコン)と置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基とハロゲンとを含有していれば特に限定されないが、本発明においては、2以上の置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基を含有するのが好ましく、前記錯化合物が、XSiR
1lR
2mR
3n(式中、Xはハロゲン原子を表し、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ同一又は異なって、置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基を表し、l、m及びnはそれぞれ同一又は異なって、0〜3の整数を表す。)で表される化合物であるのがより好ましい。
【0021】
「ハロゲン」としては、例えば、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素などが挙げられるが、本発明においては、前記「ハロゲン」が、塩素であるのが好ましい。本発明においては、前記錯化合物中、ハロゲン原子1個含まれるのが原料溶液の取扱い性により優れたものになり、ミストCVD法などの特殊な製膜方法でも容易且つ好適に用いることができるので、好ましい。
【0022】
ドーパントとしては、n型ドーパント又はp型ドーパントなどが挙げられる。前記n型ドーパントとしては、例えば、Sn、Ti、ZR、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Ru、Rh、Ir、C、Si、Ge、Pb、Mn、As、Sb、又はBi等が挙げられる。前記p型ドーパントとしては、例えば、Mg、H、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、Mn、Fe、Co、Ni、Pd、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Tl、Pb、N又はP等が挙げられる。本発明においては、前記ドーパントがn型ドーパントであるのが好ましく、Siであるのが、他のドーパントに比べ、錯化合物中の安定性により優れているので、より好ましい。
【0023】
シリコンは、IUPACにおいてSiとして定められるものをいう。本発明においては、シリコンをドーパントとして用いることにより、他のドーパントに比べ、錯化合物中の安定性をより優れたものにすることができる。
【0024】
本発明における「置換基を有していてもよい炭化水素基又は複素環基」としては、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基が挙げられる。
【0025】
「置換基を有していてもよい炭化水素基」としては、炭化水素基又は置換炭化水素基が挙げられる。
【0026】
本発明における「置換基」としては、例えば、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、ハロゲン原子、ハロゲン化炭化水素基、−OR
1a(R
1aは水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。)、−SR
1b(R
1bは水素原子、置換基を有していてもよい炭化水素基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。)、置換基を有していてもよいアシル基、置換基を有していてもよいアシルオキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキレンジオキシ基、ニトロ基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基、スルホ基、置換シリル基、水酸基、カルボキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシチオカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールオキシチオカルボニル基、置換基を有していてもよいアルキルチオカルボニル基、置換基を有していてもよいアリールチオカルボニル基、置換基を有していてもよいカルバモイル基、置換ホスフィノ基、アミノスルホニル基、アルコキシスルホニル基又はオキソ基等が挙げられる。本発明においては、前記「置換基」が、シアノ基であるのが好ましい。
【0027】
「炭化水素基」としては、炭化水素基及び置換炭化水素基が挙げられる。炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アリール基又はアラルキル基等が挙げられる。
【0028】
アルキル基としては、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状又は環状アルキル基が好ましい。アルキル基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、2−プロピル、n−ブチル、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、tert−ブチル、n−ペンチル、1−メチルブチル、1−エチルプロピル、tert−ペンチル、2−メチルブチル、3−メチルブチル、2,2−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、1−メチルペンチル、1−エチルブチル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、2−メチルペンタン−3−イル、3,3−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、1,1−ジメチルブチル、1,2−ジメチルブチル、1,3−ジメチルブチル、2,3−ジメチルブチル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル又はシクロヘキシル等が挙げられる。アルキル基は、中でも炭素数1〜10のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が更に好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がとりわけ好ましい。
【0029】
アリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が好ましい。アリール基の具体例としては、フェニル、インデニル、ペンタレニル、ナフチル、アズレニル、フルオレニル、フェナントレニル、アントラセニル、アセナフチレニル、ビフェニレニル、ナフタセニル又はピレニル等が挙げられる。アリール基は、中でも炭素数6〜14のアリール基がより好ましい。
【0030】
アラルキル基としては、炭素数7〜20のアラルキル基が好ましい。該アラルキル基の具体例としては、ベンジル、フェネチル、1−フェニルプロピル、2−フェニルプロピル、3−フェニルプロピル、1−フェニルブチル、2−フェニルブチル、3−フェニルブチル、4−フェニルブチル、1−フェニルペンチルブチル、2−フェニルペンチルブチル、3−フェニルペンチルブチル、4−フェニルペンチルブチル、5−フェニルペンチルブチル、1−フェニルヘキシルブチル、2−フェニルヘキシルブチル、3−フェニルヘキシルブチル、4−フェニルヘキシルブチル、5−フェニルヘキシルブチル、6−フェニルヘキシルブチル、1−フェニルヘプチル、1−フェニルオクチル、1−フェニルノニル、1−フェニルデシル、1−フェニルウンデシル、1−フェニルドデシル、1−フェニルトリデシル又は1−フェニルテトラデシル等が挙げられる。アラルキル基は、中でも炭素数7〜12のアラルキル基がより好ましい。
【0031】
「炭化水素基」が有していてもよい置換基は、前記した「置換基」などが挙げられる。置換炭化水素基の好ましい具体例としては、例えばトリフルオロメチル、メトキシメチル、シアノメチル、シアノエチル、シアノプロピル、シアノブチル、シアノイソブチル等の置換アルキル基、トリル(例えば4−メチルフェニル)、キシリル(例えば3,5−ジメチルフェニル)、4−メトキシ−3,5−ジメチルフェニル又は4−メトキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル等の置換アリール基又は置換アラルキル基等が挙げられる。
【0032】
「置換基を有していてもよい複素環基」としては、複素環基及び置換複素環基が挙げられる。複素環基としては、脂肪族複素環基及び芳香族複素環基が挙げられる。
脂肪族複素環基としては、例えば、炭素数2〜14で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の例えば窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいる、3〜8員、好ましくは5又は6員の単環、多環又は縮合環の脂肪族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基の具体例としては、例えば、ピロリジル−2−オン基、ピペリジル基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、モルホリニル基、テトラヒドロフリル基、テトラヒドロピラニル基、チオラニル基又はスクシンイミジル基等が挙げられる。
【0033】
芳香族複素環基としては、例えば、炭素数2〜15で、異種原子として少なくとも1個、好ましくは1〜3個の窒素原子、酸素原子及び/又は硫黄原子等の異種原子を含んでいる、3〜8員、好ましくは5又は6員の単環式、多環式又は縮合環式の複素環基等が挙げられ、その具体例としては、例えば、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、1,2,4−オキサジアゾリル、1,3,4−オキサジアゾリル、フラザニル、1,2,3−チアジアゾリル、1,2,4−チアジアゾリル、1,3,4−チアジアゾリル、1,2,3−トリアゾリル、1,2,4−トリアゾリル、テトラゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピリミジニル、ピラジニル、トリアジニル、ベンゾフラニル、イソベンゾフラニル、ベンゾ〔b〕チエニル、インドリル、イソインドリル、1H−インダゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、1,2−ベンゾイソオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾピラニル、1,2−ベンゾイソチアゾリル、1H−ベンゾトリアゾリル、キノリル、イソキノリル、シンノリニル、キナゾリニル、キノキサリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、プリニル、ブテリジニル、カルバゾリル、α−カルボリニル、β−カルボリニル、γ−カルボリニル、アクリジニル、フェノキサジニル、フェノチアジニル、フェナジニル、フェノキサチイニル、チアントレニル、フェナントリジニル、フェナントロリニル、インドリジニル、ピロロ〔1,2−b〕ピリダジニル、ピラゾロ〔1,5−a〕ピリジル、イミダゾ〔1,2−a〕ピリジル、イミダゾ〔1,5−a〕ピリジル、イミダゾ〔1,2−b〕ピリダジニル、イミダゾ〔1,2−a〕ピリミジニル、1,2,4−トリアゾロ〔4,3−a〕ピリジル、1,2,4−トリアゾロ〔4,3−b〕ピリダジニル、ベンゾ〔1,2,5〕チアジアゾリル、ベンゾ〔1,2,5〕オキサジアゾリル又はフタルイミノ基等が挙げられる。
【0034】
「複素環基」が有していてもよい置換基としては、前記した「置換基」などが挙げられる。
【0035】
本発明においては、前記錯化合物が、3以上の置換基で置換されているのが好ましく、該置換基が、アルキル基及びシアノアルキル基から選ばれる1種又は2種以上であるのがより好ましく、アルキル基及びシアノアルキル基の2種であるのが最も好ましい。ここで、アルキル基は、前記したアルキル基と同様であってよい。シアノアルキル基としては、例えば、シアノメチル基、シアノエチル基、シアノプロピル基、シアノブチル基、シアノイソブチル基などが挙げられる。
【0036】
前記錯化合物は、公知の手段を用いて得ることができる。また、前記錯化合物は、ドーパント材料として、半導体のドーピングに好適に用いられる。本発明においては、前記ドーパント材料は、半導体材料とともに原料溶液として用いられるのが好ましい。
【0037】
前記半導体材料としては、例えば金属などが好適に挙げられる。前記原料溶液は、前記半導体材料と前記ドーパント材料とを含んでいれば特に限定されず、無機材料が含まれていても、有機材料が含まれていてもよいが、本発明においては、半導体材料としての金属と、前記ドーパント材料とが錯体を形成しているのが好ましく、アルミニウム、インジウム及びガリウムから選ばれる1種又は2種以上の金属と前記ドーパント材料とを錯体又は塩の形態で有機溶媒または水に溶解又は分散させたものを原料溶液として好適に用いることができる。
【0038】
前記原料溶液の溶媒は、特に限定されず、水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒の混合溶液であってもよい。本発明においては、前記溶媒が水を含むのが好ましく、水と酸の混合溶媒であるのも好ましい。前記水としては、より具体的には、例えば、純水、超純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水、海水などが挙げられるが、本発明においては、超純水が好ましい。また、前記酸としては、より具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸等の有機酸;三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素エーテラート、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などが挙げられるが、本発明においては、酢酸が好ましい。
【0039】
また、前記原料溶液には、さらに、酸や塩基等のその他添加剤が含まれていてもよい。本発明においては、前記原料溶液に酸が含まれているのが好ましく、このような好ましい酸としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸などが挙げられる。
【0040】
原料溶液中の金属の含有量は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、好ましくは、0.001モル%〜50モル%であり、より好ましくは0.01モル%〜50モル%である。前記ドーパントの濃度は、通常、約1×10
16/cm
3〜1×10
22/cm
3であってもよいし、また、ドーパントの濃度を例えば約1×10
17/cm
3以下の低濃度にしてもよいし、ドーパントを約1×10
20/cm
3以上の高濃度で含有させてもよい。本発明においては、ドーパントの濃度が1×10
20/cm
3以下であるのが好ましく、5×10
19/cm
3以下であるのがより好ましい。
【0041】
本発明において用いられるドーピング手段は、特に限定されず、イオン注入法等であってもよいが、製膜手段であるのが好ましい。なお、製膜手段の場合には、前記ドーパント材料は、通常、半導体材料とともに原料溶液として用いられる。前記製膜手段は、前記半導体膜が製膜できさえすれば特に限定されず、公知の製膜手段であってよいが、本発明においては、ミストCVD法であるのが好ましい。より具体的には、前記原料溶液を霧化してミストを生成し(霧化工程)、ついで、キャリアガスを用いて、基体の表面近傍まで前記ミストを搬送した(搬送工程)後、前記ミストを前記基体表面近傍にて熱反応させることにより、前記基体上に半導体膜を形成する(製膜工程)ことがより均質にドーピングすることができるので好ましい。
【0042】
以下、本発明の好適な実施の態様について説明する。
【0043】
(霧化工程)
霧化工程は、前記原料溶液を霧化する。霧化手段は、原料溶液を霧化できさえすれば特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、超音波を用いる霧化手段が好ましい。超音波を用いて得られたミストは、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能なミストであるので衝突エネルギーによる損傷がないため、非常に好適である。ミストの液滴のサイズは、特に限定されず、数mm程度であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは100nm〜10μmである。
【0044】
(基体)
前記基体は、前記半導体膜を支持できるものであれば特に限定されない。前記基体の材料も、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の基体であってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、基板が好ましい。基板の厚さは、本発明においては特に限定されない。
【0045】
前記基板は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、絶縁体基板であってもよいし、半導体基板であってもよいし、導電性基板であってもよい。前記基板としては、例えば、コランダム構造を有する基板材料を主成分として含む下地基板などが挙げられる。なお、例えば、コランダム構造を有する基板材料を主成分とする下地基板を用いることにより、得られる半導体膜の結晶構造をコランダム構造とすることができる。ここで、「主成分」とは、前記特定の結晶構造を有する基板材料が、原子比で、基板材料の全成分に対し、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよいことを意味する。
【0046】
基板材料は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知のものであってよい。前記のコランダム構造を有する基板材料を主成分とする下地基板としては、サファイア基板(好ましくはc面サファイア基板)やα型酸化ガリウム基板などが好適な例として挙げられる。本発明においては、このような好適な下地基板を用いることにより、例えば、準安定相であるα―Ga
2O
3等のコランダム構造を有する酸化物半導体膜を容易に得ることができる。
【0047】
(搬送工程)
搬送工程では、前記キャリアガスによって前記ミストを基体へ搬送する。キャリアガスの種類としては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが挙げられるが、本発明においては、キャリアガスとして窒素を用いるのが好ましい。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、キャリアガス濃度を変化させた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01〜20L/分であるのが好ましく、1〜10L/分であるのがより好ましい。希釈ガスの場合には、希釈ガスの流量が、0.001〜2L/分であるのが好ましく、0.1〜1L/分であるのがより好ましい。
【0048】
(製膜工程)
製膜工程では、前記ミストを前記基体表面近傍で反応させて、前記基体表面の一部または全部に製膜する。前記熱反応は、前記ミストから膜が形成される熱反応であれば特に限定されず、熱でもって前記ミストが反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本工程においては、前記熱反応を、通常、溶媒の蒸発温度以上の温度で行うが、あまり高すぎない温度以下が好ましい。本発明においては、前記熱反応を、650℃以下で行うのが好ましく、400℃〜650℃の温度で行うのがより好ましい。また、熱反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、大気圧下で行われるのが好ましく、窒素雰囲気下でかつ大気圧下で行われるのがより好ましい。なお、膜厚は、製膜時間を調整することにより、設定することができる。
【0049】
上記のようにして得られた半導体膜は、均質にドーピング(特にシリコンドーピング)がされており、また、電気特性に優れている。より具体的には、膜表面から少なくとも0.3μm以上の深さまでドーパント(特にシリコン)が均質にドーピングされており、移動度1cm
2/Vs以上であり、膜厚100μm以下である半導体膜が得られる。また、好ましい製造方法によると、膜表面から少なくとも0.1μm〜0.5μmの深さの範囲において、キャリア密度が1×10
18/cm
3以上で膜全体に均質にドーピングされている半導体膜を得ることができる。なお、前記半導体膜は、半導体を主成分とする膜状のものであれば特に限定されず、結晶膜であってもよいし、非晶膜であってもよいし、結晶膜である場合も、単結晶膜であってもよいし、多結晶膜であってもよい。本発明においては、前記半導体膜が、結晶膜であるのが好ましく、単結晶膜であるのがより好ましい。前記半導体膜が有する結晶構造は、特に限定されず、コランダム構造であっても、β―ガリア構造であってもよいが、本発明においては、前記半導体膜が、コランダム構造を有するのが好ましい。また、前記半導体膜は、酸化物半導体を主成分とするのが好ましい。前記酸化物半導体は、アルミニウム、インジウム及びガリウムから選ばれる1種又は2種以上の金属を含むのが好ましく、InAlGaO系半導体を含むのがより好ましく、ガリウムを少なくとも含むのが最も好ましい。なお、「主成分」とは、例えば前記酸化物半導体がα―Ga
2O
3である場合、膜中の金属元素中のガリウムの原子比が0.5以上の割合でα―Ga
2O
3が含まれていればそれでよい。本発明においては、前記膜中の金属元素中のガリウムの原子比が0.7以上であることが好ましく、0.8以上であるのがより好ましい。前記半導体膜の厚さは、特に限定されないが、半導体装置により好適に用いることができるとの理由により、100μm以下であるのが好ましく、50μm以下であるのがより好ましく、0.1μm〜10μmであるのが最も好ましい。
【0050】
本発明においては、前記基体上にそのまま前記半導体膜を製膜してもよいが、前記基体上に、前記半導体膜の組成とは異なる組成の半導体層(例えば、n型半導体層、n+型半導体層、n−型半導体層等)や絶縁体層(半絶縁体層も含む)、バッファ層等の他の層を積層したのち、前記基体上に他の層を介して製膜してもよい。
【0051】
本発明の半導体膜は、半導体層として半導体装置に用いることができる。とりわけ、パワーデバイスに有用である。また、半導体装置は、電極が半導体層の片面側に形成された横型の素子(横型デバイス)と、半導体層の表裏両面側にそれぞれ電極を有する縦型の素子(縦型デバイス)に分類することができ、本発明においては、横型デバイスにも縦型デバイスにも好適に用いることができるが、中でも、縦型デバイスに用いることが好ましい。前記半導体装置としては、例えば、ショットキーバリアダイオード(SBD)、金属半導体電界効果トランジスタ(MESFET)、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)、静電誘導トランジスタ(SIT)、接合電界効果トランジスタ(JFET)、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)または発光ダイオードなどが挙げられる。
【0052】
前記半導体膜を半導体層に用いた例を
図4〜10に示す。なお、n型半導体は、前記半導体膜と同じ主成分であって、p型ドーパントの代わりにn型ドーパントを含むものであってもよいし、前記半導体膜とは主成分等が異なるn型半導体であってもよい。
【0053】
図4は、n−型半導体層101a、n+型半導体層101b、p型半導体層102、金属層103、絶縁体層104、ショットキー電極105aおよびオーミック電極105bを備えているショットキーバリアダイオード(SBD)の好適な一例を示す。なお、金属層103は、例えばAl等の金属からなり、ショットキー電極105aを覆っている。
図5は、バンドギャップの広いn型半導体層121a、バンドギャップの狭いn型半導体層121b、n+型半導体層121c、p型半導体層123、ゲート電極125a、ソース電極125b、ドレイン電極125cおよび基板129を備えている高電子移動度トランジスタ(HEMT)の好適な一例を示す。
【0054】
図6は、n−型半導体層131a、第1のn+型半導体層131b、第2のn+型半導体層131c、p型半導体層132、p+型半導体層132a、ゲート絶縁膜134、ゲート電極135a、ソース電極135bおよびドレイン電極135cを備えている金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)の好適な一例を示す。なお、p+型半導体層132aは、p型半導体層であってもよく、p型半導体層132と同じであってもよい。
図7は、n−型半導体層141a、第1のn+型半導体層141b、第2のn+型半導体層141c、p型半導体層142、ゲート電極145a、ソース電極145bおよびドレイン電極145cを備えている接合電界効果トランジスタ(JFET)の好適な一例を示す。
図8は、n型半導体層151、n−型半導体層151a、n+型半導体層151b、p型半導体層152、ゲート絶縁膜154、ゲート電極155a、エミッタ電極155bおよびコレクタ電極155cを備えている絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)の好適な一例を示す。
【0055】
(LED)
本発明の半導体装置が発光ダイオード(LED)である場合の一例を
図9に示す。
図9の半導体発光素子は、第2の電極165b上にn型半導体層161を備えており、n型半導体層161上には、発光層163が積層されている。そして、発光層163上には、p型半導体層162が積層されている。p型半導体層162上には、発光層163が発生する光を透過する透光性電極167を備えており、透光性電極167上には、第1の電極165aが積層されている。なお、
図9の半導体発光素子は、電極部分を除いて保護層で覆われていてもよい。
【0056】
透光性電極の材料としては、インジウム(In)またはチタン(Ti)を含む酸化物の導電性材料などが挙げられる。より具体的には、例えば、In
2O
3、ZnO、SnO
2、Ga
2O
3、TiO
2、CeO
2またはこれらの2以上の混晶またはこれらにドーピングされたものなどが挙げられる。これらの材料を、スパッタリング等の公知の手段で設けることによって、透光性電極を形成できる。また、透光性電極を形成した後に、透光性電極の透明化を目的とした熱アニールを施してもよい。
【0057】
図9の半導体発光素子によれば、第1の電極165aを正極、第2の電極165bを負極とし、両者を介してp型半導体層162、発光層163およびn型半導体層161に電流を流すことで、発光層163が発光するようになっている。
【0058】
第1の電極165a及び第2の電極165bの材料としては、例えば、Al、Mo、Co、Zr、Sn、Nb、Fe、Cr、Ta、Ti、Au、Pt、V、Mn、Ni、Cu、Hf、W、Ir、Zn、In、Pd、NdもしくはAg等の金属またはこれらの合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の金属酸化物導電膜、ポリアニリン、ポリチオフェン又はポリピロ−ルなどの有機導電性化合物、またはこれらの混合物などが挙げられる。電極の製膜法は特に限定されることはなく、印刷方式、スプレー法、コ−ティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレ−ティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式、などの中から前記材料との適性を考慮して適宜選択した方法に従って前記基板上に形成することができる。
【0059】
なお、発光素子の別の態様を
図10に示す。
図10の発光素子では、基板169上にn型半導体層161が積層されており、p型半導体層162、発光層163およびn型半導体層161の一部を切り欠くことによって露出したn型半導体層161の半導体層露出面上の一部に第2の電極165bが積層されている。
【0060】
前記半導体装置は、例えば電源装置を用いたシステム等に用いられる。前記電源装置は、公知の手段を用いて、前記半導体装置を配線パターン等に接続するなどして作製することができる。
図11に電源システムの例を示す。
図11は、複数の前記電源装置と制御回路を用いて電源システムを構成している。前記電源システムは、
図12に示すように、電子回路と組み合わせてシステム装置に用いることができる。なお、電源装置の電源回路図の一例を
図13に示す。
図13は、パワー回路と制御回路からなる電源装置の電源回路を示しており、インバータ(MOSFETA〜Dで構成)によりDC電圧を高周波でスイッチングしACへ変換後、トランスで絶縁及び変圧を実施し、整流MOSFET(A〜B’)で整流後、DCL(平滑用コイルL1,L2)とコンデンサにて平滑し、直流電圧を出力する。この時に電圧比較器で出力電圧を基準電圧と比較し、所望の出力電圧となるようPWM制御回路でインバータ及び整流MOSFETを制御する。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0062】
(実施例1)
1.製膜装置
図1を用いて、本実施例で用いたミストCVD装置を説明する。ミストCVD装置19は、基板20を載置するサセプタ21と、キャリアガスを供給するキャリアガス供給手段22aと、キャリアガス供給手段22aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)供給手段22bと、キャリアガス(希釈)供給手段22bから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁23bと、原料溶液24aが収容されるミスト発生源24と、水25aが入れられる容器25と、容器25の底面に取り付けられた超音波振動子26と、内径40mmの石英管からなる供給管27と、供給管27の周辺部に設置されたヒーター28とを備えている。サセプタ21は、石英からなり、基板20を載置する面が水平面から傾斜している。製膜室となる供給管27とサセプタ21をどちらも石英で作製することにより、基板20上に形成される膜内に装置由来の不純物が混入することを抑制している。
【0063】
2.原料溶液の作製
ガリウムアセチルアセトナート(ガリウム濃度0.05mol/L)と3―シアノプロピルジメチルクロロシランとを混合し、ガリウムに対するシリコンの原子比が1:0.005となるように水溶液を調整し、この際、36%塩酸を体積比で1.5%含有させ、これを原料溶液とした。
【0064】
3.製膜準備
上記2.で得られた原料溶液24aミスト発生源24内に収容した。次に、基板20として、c面サファイア基板をサセプタ21上に設置し、ヒーター28の温度を500℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁23a、23bを開いて、キャリアガス源であるキャリアガス供給手段22a、22bからキャリアガスを供給管27内に供給し、供給管27内の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を3.0L/分に、キャリアガス(希釈)の流量を0.5L/分にそれぞれ調節した。なお、キャリアガスとして窒素を用いた。
【0065】
4.膜形成
次に、超音波振動子26を2.4MHzで振動させ、その振動を、水25を通じて原料溶液24aに伝播させることによって、原料溶液24aを霧化させてミストを生成させた。このミストが、キャリアガスによって、供給管27に搬送され、大気圧下、500℃にて、基板20表面近傍でミストが熱反応して基板20上に膜が形成された。なお、製膜時間は30分間であり、膜厚は750nmであった。
【0066】
上記4.にて得られた膜について、X線回析装置を用いて膜の同定をしたところ、得られた膜は、α―Ga
2O
3膜であった。なお、XRD測定結果を、
図2に示す。
【0067】
(実施例2)
原料溶液におけるガリウムに対するシリコンの原子比が1:0.002となるように水溶液を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、半導体膜を得た。
【0068】
(実施例3)
原料溶液におけるガリウムに対するシリコンの原子比が1:0.001となるように水溶液を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、半導体膜を得た。
【0069】
(試験例1)
実施例1〜3において得られた半導体膜につき、SIMS分析(測定装置:CAMECA IMS―7f、1次イオン種:Cs
+、1次加速電圧:15.0kV、検出領域:30μmφ)を行った。結果を
図3に示す。
図3から明らかなように、実施例1〜3にて得られた半導体膜は、膜表面から約0.6μmの深さまで、ケイ素が均質にドーピングされていることがわかる。
【0070】
(試験例2)
実施例1〜3において得られた半導体膜につき、van der pauw法により、ホール効果測定を実施した。実施例1〜3にて得られた半導体膜のキャリア密度は、それぞれ、実施例1が6.7×10
18/cm
3であり、実施例2が1.71×10
19/cm
3であり、実施例3が2.29×10
19/cm
3であった。また、実施例1〜3にて得られた半導体膜の移動度は、それぞれ、実施例1が3.0cm
2/Vsであり、実施例2が5.31cm
2/Vsであり、実施例3が16.6cm
2/Vsであった。
【0071】
(実施例4)
原料溶液におけるガリウムに対するシリコンの原子比が1:0.0001となるように水溶液を調整したこと、製膜時間を1時間としたこと以外は、実施例1と同様にして、半導体膜を得た。
【0072】
(試験例3)
実施例4で得られた半導体膜につき、試験例1と同様にしてSIMS分析を行った。結果を
図14に示す。
図14から明らかなように膜表面から少なくとも0.1μm〜1.5μmの深さにおいて、ケイ素が均質にドーピングされていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の半導体膜は、半導体(例えば化合物半導体電子デバイス等)、電子部品・電気機器部品、光学・電子写真関連装置、工業部材などあらゆる分野に用いることができるが、半導体特性に優れているため、特に、半導体装置等に有用である。
【符号の説明】
【0074】
19 ミストCVD装置
20 基板
21 サセプタ
22a キャリアガス供給手段
22b キャリアガス(希釈)供給手段
23a 流量調節弁
23b 流量調節弁
24 ミスト発生源
24a 原料溶液
25 容器
25a 水
26 超音波振動子
27 供給管
28 ヒーター
29 排気口
101a n−型半導体層
101b n+型半導体層
102 p型半導体層
103 金属層
104 絶縁体層
105a ショットキー電極
105b オーミック電極
121a バンドギャップの広いn型半導体層
121b バンドギャップの狭いn型半導体層
121c n+型半導体層
123 p型半導体層
125a ゲート電極
125b ソース電極
125c ドレイン電極
128 緩衝層
129 基板
131a n−型半導体層
131b 第1のn+型半導体層
131c 第2のn+型半導体層
132 p型半導体層
134 ゲート絶縁膜
135a ゲート電極
135b ソース電極
135c ドレイン電極
138 緩衝層
139 半絶縁体層
141a n−型半導体層
141b 第1のn+型半導体層
141c 第2のn+型半導体層
142 p型半導体層
145a ゲート電極
145b ソース電極
145c ドレイン電極
151 n型半導体層
151a n−型半導体層
151b n+型半導体層
152 p型半導体層
154 ゲート絶縁膜
155a ゲート電極
155b エミッタ電極
155c コレクタ電極
161 n型半導体層
162 p型半導体層
163 発光層
165a 第1の電極
165b 第2の電極
167 透光性電極
169 基板