【実施例】
【0010】
以下、本発明の一実施例による物体追跡装置について説明する。本実施例による物体追跡装置は、自車両周辺に存在する移動物体の位置・速度・加速度・角度・ヨーレート等といった状態を時系列的に推定する。
図1は本実施例による物体追跡装置が搭載される自車両を示す図、
図2は同自車両に観測情報取得手段と追跡情報作成管理手段と制御監視手段を搭載した状態を示す概略構成図である。
自車両10の上方にアルミフレームを設置して各種センサを取付けている。センサの一つとしてGNSS複合航法システム21が搭載されており、GNSS(全地球航法衛星システム)から情報が十分に得られる環境において、100[Hz]で自車両10の3次元位置及び姿勢が計測可能である。さらに、他のセンサである全方位LIDAR22から得られる赤外線反射率を利用した自車両10の自己位置推定も導入している(菅沼直樹,林悠太郎,永田大記,高橋謙太,“高齢過疎地域における自動運転自動車の市街地公道実証実験概要”,自動車技術会学術講演会 講演予稿集,No.14-15,pp.390-394,2015、山本大貴,菅沼直樹,“高解像度赤外線反射率画像を用いた自動運転自動車の自己位置推定”,第23回日本機械学会交通・物流部門大会講演論文集,pp.320-330,2014.)。この自己位置推定を用いることにより、GNSSから情報が十分に得られない環境においても自車両10の高精度な位置情報を取得することが可能である。
また、
図2に示すように、さらに他のセンサとして、複数のセンサ(観測情報取得部)31〜39を自車両10の前バンパー及び後バンパーの内部に設置することにより構成される略全方位センサシステム(観測情報取得手段)30が取り付けられている。センサ31〜39としては、それぞれの観測領域(検知範囲)において先行車両等の物体までの距離・角度・相対速度を取得する、LIDAR、超音波センサ、ミリ波レーダ、又はステレオカメラを用いることが望ましい。本実施例においては、センサ31〜39にミリ波レーダを用いることで、略全方位センサシステム(観測情報取得手段)30として略全方位ミリ波レーダシステムを構成している。略全方位ミリ波レーダシステム30は、自車両10の前バンパーの内部に設置された第1のミリ波レーダ31、第2のミリ波レーダ32、第3のミリ波レーダ33、第4のミリ波レーダ34、第7のミリ波レーダ37、第8のミリ波レーダ38及び第9のミリ波レーダ39と、車両10の後バンパーの内部に設置された第5のミリ波レーダ35及び第6のミリ波レーダ36とからなる。
図2において、1〜9の数字が付与された扇形は、各センサ(ミリ波レーダ)31〜39の観測領域を概略的に示している。
略全方位ミリ波レーダシステム30は、観測周期20[Hz]で周辺を観測する。また、1つのミリ波レーダ31〜39で最大50個の観測情報(物体までの距離・角度・相対速度)を取得する、すなわち全体で最大450個の観測情報を取得する。特に物体が先行車両の場合は、観測すべき物体が自車両10の側方又は後方よりも前方に位置することが多いため、自車両10の前方の観測領域を大きくすることで、物体を見失うことなく継続して追跡できる。
なお、先行車両等の物体に対する観測領域をさらに大きくするため、ミリ波レーダを自車両10の前方、後方及び側方に設置し、全方位ミリ波レーダシステムとして構成することが好ましい。この場合は、自車両10の周辺を全方位(360°)にわたって観測できるため、観測領域に死角がない。
【0011】
本実施例による物体追跡装置は、
図2に示すように、追跡情報作成管理手段40と制御監視手段50を備える。
追跡情報作成管理手段40は、追跡情報作成部41、追跡リスト部42、リスト共有部43、移動物判断部44、対応付け部45、追跡情報選択部46及び追跡情報送信部47を有し、略全方位センサシステム30が取得した観測情報を用いて物体の追跡情報の作成と管理を行う。制御監視手段50は、追跡情報作成管理手段40が作成及び管理する追跡情報に基づいて自車両10の制御及び監視を行う。
【0012】
ここで、追跡情報作成管理手段40の追跡情報作成部41における移動物体の状態推定手法の例について説明する。状態推定手法の1つであるカルマンフィルタは、略全方位センサシステム30により得られる観測情報と1つのモデルを用いて推定対象である物体の状態を逐次的に推定する。そのため、そのモデルに対応しない運動が行われた際の推定精度は大きく劣化する。そこで、複数のモデルを用いて物体の状態を推定するInteracting Multiple Model(IMM)法を用いる(R.Helmick,“IMM Estimator with Nearest-Neighbor Joint Probabilistic Data Association”, Yaakov Bar-Shalom and William Dale Blair Edit “Multitarget-Multisensor Tracking: Applications and Advances Volume III” Artech House Publishers, pp.161 - 198.)。
本実施例では等速度モデル、等加速度モデル及び停止モデルの3つのモデルを用いる。等速度モデルでは速度がほぼ一定となる定常移動中は精度よく状態推定を行えるが、加速度がほぼ一定となる発進時や減速時などでは誤差が大きくなる。一方で、等加速度モデルでは加速度を推定する分ノイズが発生しやすく、速度がほぼ一定となる定常移動中は等速度モデルほど精度よく状態推定が行えないが、加速度がほぼ一定となる発進時や減速時などでは精度よく状態推定が行える。また停止モデルを用いることで、略全方位センサシステム30のノイズにより停止物体が急に動き出す物体と誤推定されることを緩和することができる。IMM法では各モデルの尤もらしさを求め、それにより重み付けを行うことで各モデルの誤差を打ち消し合う。そのため、カルマンフィルタでは推定の難しいような複雑な運動をする物体の状態推定には有効とされる。本実施例で用いるモデルの状態変数xと入力wを式(1)、(2)に示す。
【数1】
【数2】
ここで、式(1)においてpは絶対座標の位置を示し、v,aは絶対座標系の軸方向の速度・加速度を示し、上付き文字は絶対座標系のどちらの軸成分かを示す。また、式(2)において上付き文字がどの変数のノイズかを示し、「・」は時間微分を示す。そして、式(1)、(2)を用いた等加速度モデルの状態方程式x
tを式(3)に示す。
【数3】
また、等速度モデルの状態方程式は式(3)において加速度が0であり、停止モデルの状態方程式は式(3)において速度と加速度が0である。
【0013】
次に、追跡情報作成管理手段40の対応付け部45における割り当て問題の解決手法の例について説明する。IMM法ではモデルにより更新された既存追跡物体の状態と略全方位センサシステム30から得られた観測情報を対応付けることにより状態が更新される。そのため、複数の物体が存在する複雑な環境下において既存追跡物体に対して正しく観測情報を対応付ける必要がある(割り当て問題)。
また、観測情報には既存追跡物体から得られるものだけでなく略全方位センサシステム30の誤動作やクラッタにより得られるものが存在するため、正しい対応付けを行うための研究が行われている。本実施例ではGlobal Nearest Neighbor(GNN)を用いて対応付けを行う(Pavlina Konstantinova & Alexander Udvarev & Tzvetan Semerdjiev, “A Study of a Target Tracking Algorithm Using Global Nearest Neighbor Approach”, International Conference on Computer Systems and Technologies−CompSysTech’2003.)。「GNN」とは、全ての対応付けを考慮したコスト行列を生成し、その時刻で最も可能性の高い割り当てを行う手法である。m個の既存追跡物体とl個の観測情報を得たとき、大きさはm×lのコスト行列cが式(4)のように生成される。
【数4】
このため、コスト行列は既存追跡物体数と観測情報の数によって大きさを変える。そして、式(4)の各要素にはマハラノビス距離を用いる。モデルにより更新された既存追跡物体iの状態と略全方位センサシステム30から得られたj番目の観測情報z
jとの残差ベクトルとその共分散s
ijを用いてマハラノビス距離d
ijは式(5)で表される。
【数5】
また閾値定数χ
2(1−α)を定義し、次式(6)を満たすときχ
2検定を満たす。
【数6】
ここで、αは有意水準でありこれを定めることでχ
2(1−α)を定義することができる。χ
2検定を満たしたとき対応付け候補としてコストc
ijにはマハラノビス距離が代入される。
【数7】
そして満たさないときには対応付けの可能性のない組み合わせとしてコストが与えられる。
【数8】
生成したコスト行列に対してMunkresアルゴリズム(Francois Bourgeois, Jean-Claude Lassalle, “An Extension of the Munkres Algorithm for the Assignment Problem to Rectangular Matrices”, Communications of the ACM, Vol.14, No.12, pp.804-806, 1971)を用いることにより対応付けが決定される。1つの観測情報は1つの既存追跡物体にのみ割り当てられる。
【0014】
次に、追跡情報作成管理手段40における追跡管理に用いるフィルタの例について説明する。略全方位センサシステム30の誤動作やクラッタにより、既存追跡物体から観測情報が得られなかったり不要に得られたりすることが考えられる。そのため既存追跡物体に対して割り当てが無い可能性や誤った追跡が開始される可能性を考慮する必要がある。そこで本実施例では、Binary Bayes Filterを用いて物体が本当に現実世界に存在する物体であるかを判断する。時刻tに事象xが発生する確率P(x
t)としたとき、対数オッズlog-odds(x
t)は次式(9)で表現され、
【数9】
前時刻までの対数オッズ表現の事後確率log-odds(x
1:t-1)と足し合わせることで現在の対数オッズ表現の事後確率log-odds(x
1:t)が求まる。
【数10】
このようにして求めた事後確率を基にフィルタリングを行う手法をBinary Bayes Filter という。また、log-odds(x
1:t)は式(11)により事後確率P(x
1:t)に復元できる。
【数11】
本実施例ではP(x
t)を物体が存在する確率としてマハラノビス距離d
ijに基づいて計算する。計算式を式(12)に示す。
【数12】
ここで、P
max=0.8と設定している。そして、このP(x
t)を用いて物体が存在する事後確率(Track Score)P
TSを求める。またこれに加えていくつかの条件により追跡開始・継続・終了と移動物体であるかの判断を行う。この条件については後述する。
【0015】
次に、追跡情報作成管理手段40の移動物判断部44における追跡管理について説明する。本実施例では追跡開始・継続・終了と移動物体であるかの判断を行うため、Confirmed・Tentative・Deleteの3つの追跡モードを用いる。
Confirmedモードは、その追跡物体が移動物体であると判断されたときに遷移し、追跡を継続するモードである。Tentativeモードは、その観測情報の値が何かしらの物体から得られたものとして識別用のIDを与えて追跡を開始したり、何かしらの物体ではあるが移動物体では無いとして追跡を継続したりするモードである。Deleteモードは、追跡物体が観測可能な範囲から外れた場合やノイズにより発生したものであると判断された場合に遷移し、追跡を終了するモードである。各モードの遷移条件を表1に示す。ここで、表1のP
cnf,P
stop,D
move,P
dlt,N
dltは任意のパラメータである。
【表1】
表1に示すように、TentativeモードからConfirmedモードへは、事後確率(Track Score)P
TSがP
Cnfよりも大きいとき、IMM法において求められた停止モデルのモデル確率がP
stopよりも小さいとき、及び全方位センサシステム30による初期観測位置からの移動距離がD
moveよりも大きいときに遷移する。また、TentativeモードからDeleteモード又はConfirmedモードからDeleteモードへは、事後確率(Track Score)P
TSがP
Dltよりも小さいとき、又は追跡物体と観測情報との対応付けが無いフレーム連続数がN
Dltよりも大きいときに遷移する。
【0016】
次に、略全方位ミリ波レーダシステム30による物体追跡における処理時間の問題について説明する。複数のミリ波レーダ31〜39から構成される略全方位ミリ波レーダシステム30は周辺から膨大な観測情報を取得する。この全ての観測情報を用いて追跡処理を行うと既存追跡物体と観測情報を対応付けるためのコスト行列は巨大化し、リアルタイムな追跡処理が困難となる。例えば、9個のミリ波レーダ31〜39を用いて略全方位ミリ波レーダシステム30を構成し、金沢大学構内において追跡実験を行った場合、取得した最大観測情報数は180個であった。取得した観測情報全てを用いて追跡処理を行った場合、観測周期50[ms]に対して最大処理時間は271[ms]という結果が得られ、リアルタイム処理が不可能であった。
そこで全ての観測情報を用いるのではなく、各ミリ波レーダ31〜39の観測情報を用いてそれぞれで追跡処理を行い、追跡情報を共有した。この結果、最大処理時間を9.28[ms]まで抑えることができ、リアルタイム処理が可能となった。全ての観測情報を用いて追跡処理を行ったときのコスト行列から対応付けを見つける処理にかかった時間とその他の処理に要する時間およびコスト行列のサイズ(要素数)を
図3に示す。
図3において、最も濃い線が「コスト行列のサイズ(要素数)」、最も薄い線が「コスト行列の処理に要する時間(コスト行列から対応付けを見つける処理にかかった時間)」、その中間の濃淡線が「その他の処理に要する時間」を示す。また、全ての観測情報を用いて追跡処理を行った場合(全体処理)と各ミリ波レーダ31〜39の観測情報を用いてそれぞれで追跡処理を行い追跡情報を共有する場合(個別処理+追跡情報共有処理)の処理時間を
図4に示す。
図4において、濃い線が本実施例による「個別処理+追跡情報共有処理」、薄い線が従来の「全体処理」を示す。ここで、処理はクロックが「2.8GHz」、実装メモリが「4GB」のCPUで行った。共有処理については後述する。
【0017】
次に、追跡情報作成管理手段40における追跡情報の共有処理について説明する。略全方位ミリ波レーダシステム30を構成する各ミリ波レーダ31〜39の観測情報を用いてそれぞれで追跡処理を行うと、リアルタイム処理は可能となるが、観測するミリ波レーダ31〜39が切り替わる領域で物体をロストしてしまう。そのため、追跡情報の共有処理が必要となる。そこで、以下の3つの仮定を置いて追跡情報の共有を行う。
1)周辺車両(物体)は少なくとも1つのミリ波レーダ31〜39で複数回観測されConfirmedモードで追跡される。
2)隣接するミリ波レーダ31〜39の観測可能領域は一部重複している。
3)あるミリ波レーダ31〜39の観測情報を用いて追跡の開始・継続された物体は次の時刻にそのミリ波レーダ31〜39か隣接するミリ波レーダ31〜39で観測される。
これらの仮定より、Confirmedモードで追跡された物体の追跡情報を、隣接するミリ波レーダ31〜39の観測情報を用いた追跡リストに共有する。なお、Tentativeモードで追跡された物体の追跡情報は隣接するミリ波レーダ31〜39同士で共有しないこと、すなわち、観測情報を取得した物体ではあるが静止物、又は移動物か静止物か不明の物体については共有処理を行わないことで、処理時間を短縮できる。但し、Tentativeモードの段階から物体の追跡情報を共有して追跡する場合もあり得る。
【0018】
図5は、追跡情報の共有処理のイメージを示す概念図である。
図5において、自車両(実験車両(Experiment vehicle))10の周囲には物体として先行車両(Preceding vehicle)Aと交差車両(Crossing vehicle)Bが存在する。
第1のミリ波レーダ31は先行車両Aの観測情報を取得する。追跡情報作成部41は第1のミリ波レーダ31が取得した観測情報を用いて先行車両Aの追跡情報を作成する。追跡リスト部42は追跡リスト(TRACKING LIST 1)に先行車両Aの追跡情報を記録する。移動物判断部44は先行車両Aが移動車両であると判断した場合に先行車両Aの追跡モードをConfirmedモードに遷移させる。また、第9のミリ波レーダ39は交差車両Bの観測情報を取得する。追跡情報作成部41は第9のミリ波レーダ39が取得した観測情報を用いて交差車両Bの追跡情報を作成する。追跡リスト部42は追跡リスト(TRACKING LIST 2)に交差車両Bの追跡情報を記録する。移動物判断部44は交差車両Bが移動車両であると判断した場合に交差車両Bの追跡モードをConfirmedモードに遷移させる。また、第2のミリ波レーダ32の観測範囲には物体が存在しないため観測情報が取得されず、追跡リスト(TRACKING LIST 3)に先行車両A及び交差車両Bの追跡情報は記録されない。
リスト共有部43は、観測領域が隣接する第1のミリ波レーダ31と第9のミリ波レーダ39の追跡リストを比較し、第1のミリ波レーダ31の追跡リストに交差車両Bの追跡情報を複製し、第9のミリ波レーダ39の追跡リストに先行車両Aの追跡情報を複製する。これにより、第1のミリ波レーダ31と第9のミリ波レーダ39の追跡リストには、先行車両Aと交差車両Bの追跡情報が共有される。また、観測領域が隣接する第1のミリ波レーダ31と第2のミリ波レーダ32の追跡リストを比較し、第2のミリ波レーダ32の追跡リストに先行車両Aの追跡情報を複製する。これにより、第1のミリ波レーダ31と第2のミリ波レーダ32の追跡リストには、先行車両Aの追跡情報が共有される。
【0019】
共有処理について詳しく説明する。まず、i番目のミリ波レーダM
iの観測情報のみを用いた追跡リストT
i={T
1i,T
2i…}とそれに隣接するj番目のミリ波レーダM
jの観測情報のみを用いた追跡リストT
j={T
1j,T
2j…}を考える。追跡リスト部42は、追跡情報をミリ波レーダごとの追跡リストに記録する。すなわち、i番目のミリ波レーダM
iの観測情報を用いた追跡情報は追跡リストT
iに記録され、j番目のミリ波レーダM
jの観測情報を用いた追跡情報は追跡リストT
jに記録される。リスト共有部43は、このT
i内のConfirmedモードの追跡情報をT
j内の追跡情報と比較し、T
j内に同じIDの追跡情報がなければそのk番目の追跡情報T
kiをT
jに追加(複製)する。そして対応付け部45は、共有された追跡情報T
kiについて共有先のミリ波レーダM
jの観測情報と対応付けを行う。このとき対応付けがある場合は状態の更新を行いT
kiはT
jに残り、対応付けが無い場合はT
jから除去する。このように、追加された追跡情報が共有先のミリ波レーダの観測情報と対応付けされない場合はその追加された追跡情報を除去することで、不要な情報が減り、処理時間を短縮できる。
最後にT
iとT
j内のT
kiが両方とも更新された場合、追跡情報選択部46は、物体が現実世界に存在する事後確率(Track Score)が最大のものを追跡情報として選択する。追跡情報送信部47は、追跡情報選択部46が選択した事後確率が最大の追跡情報を制御監視手段50に送信する。事後確率が最大のものを制御監視手段50に送信する追跡情報として選定することで、物体を精度良く追跡できる。なお、追跡情報選択部46は、対応付けコストの小さい方を追跡情報として選択することもできる。リスト共有部43の共有処理のフローチャートを
図6に示す。
【0020】
図6において、共有処理が開始されると、i番目のミリ波レーダ(MWR)M
iとj番目のミリ波レーダM
jの観測領域が隣接しているか否かを判断する(ステップ1)。
ステップ1において、i番目のミリ波レーダM
iとj番目のミリ波レーダM
jの観測領域が隣接していないと判断された場合には、ステップ1に戻り、隣接するi番目のミリ波レーダM
iとj番目のミリ波レーダM
jが見つかるまで判断を繰返す。
ステップ1において、i番目のミリ波レーダM
iとj番目のミリ波レーダM
jの観測領域が隣接していると判断された場合には、i番目のミリ波レーダM
iの観測情報を用いて作成された追跡情報が記録された追跡リストT
i内に、j番目のミリ波レーダM
jを用いて作成された追跡情報が記録された追跡リストT
j内に存在しない識別用のIDが付与された追跡情報T
kiが存在するか否かを比較する(ステップ2)。
ステップ2において、追跡リストT
i内に、追跡リストT
j内には存在しない識別用のIDが付与された追跡情報T
kiが存在しない場合には、ステップ1に戻る。
ステップ2において、追跡リストT
i内に、追跡リストT
j内には存在しない識別用のIDが付与された追跡情報T
kiが存在する場合には、追跡リストT
jに追跡情報T
kiを複製して共有する(ステップ3)。
ステップ3の後、全てのミリ波レーダの追跡リスト同士を比較したか否かを判断する(ステップ4)。
ステップ4において、全てのミリ波レーダの追跡リスト同士を比較していないと判断した場合には、ステップ1に戻る。
ステップ4において、全てのミリ波レーダの追跡リスト同士を比較したと判断した場合には、各ミリ波レーダの観測情報と追跡リストを用いてコスト行列を作成し、前時刻における追跡情報と次時刻における観測情報の対応付けを探索する(ステップ5)。
ステップ5の後、ステップ3において共有した追跡情報T
kiに対応付けられる観測情報が共有先のミリ波レーダM
jの観測情報に存在するか否かを判断する(ステップ6)。
ステップ6において、共有した追跡情報T
kiに対応付けられる観測情報が共有先のミリ波レーダM
jの観測情報に存在する場合には、共有した追跡情報T
kiを更新して追跡リストT
j内に保持する(ステップ7)。
ステップ6において、共有した追跡情報T
kiに対応付けられる観測情報が共有先のミリ波レーダM
jの観測情報に存在しない場合には、共有した追跡情報T
kiを追跡リストT
j内から削除する(ステップ8)。
ステップ7又はステップ8の後、あるIDが付与された追跡情報について、複数の追跡リストに同じIDが付与された追跡情報が存在するか否かを判断する(ステップ9)。
ステップ9において、複数の追跡リストに、同じIDが付与された追跡情報が存在すると判断された場合には、同じIDが付与された追跡情報の内、物体が現実世界に存在する事後確率(Track Score)が最も大きい追跡情報を制御監視手段50に送信する(ステップ10)。
ステップ9において、複数の追跡リストに、同じIDが付与された追跡情報が存在しないと判断された場合には、そのまま追跡情報を制御監視手段50に送信する(ステップ11)。
ステップ10又はステップ11の後、次のフレームで同様の処理が行われる。
【0021】
次に、本発明の被観測物追跡装置を用いた実験について説明する。金沢大学構内の道路にて、物体を先行車両として実験を行った。先行車両は約15〜20km/hで走行しており、実験車両(自車両)10もほぼ同じ速度で走行して先行車両を追跡する。先行車両は直線道路を走行した後に交差点で右折する。実験車両10も同様に右折する。追跡実験を行った時間は20[s](400フレーム)である。走行した経路を
図7に白矢印で示す。
図7における背景は全方位LIDAR22から得られる赤外線反射率を利用して生成した地図画像である。そして上述のようにConfirmedモードで追跡された物体の追跡情報を、隣接するミリ波レーダ31〜39の観測情報を用いた追跡リストに共有する。ここで、モード遷移のためのパラメータはP
cnf=0.999,P
stop=0.100,D
move=1.5[m],P
dlt=0.200,N
dlt=3と設定した。
【0022】
次に、実験の結果を示す。実験車両10は直線道路において車両前方のミリ波レーダ(
図2の第1のミリ波レーダ31)で先行車両を追跡した。その後、先行車両が交差点を右折した際には車両右斜め前のミリ波レーダ(
図2の第9のミリ波レーダ39)と追跡情報を共有することによりロストすることなく追跡を継続した。そして、実験車両が右折を終えて直線に戻った際には車両前方のミリ波レーダと追跡情報を共有することによりロストすることなく追跡を継続した。この結果を
図8に示す。
図8において太線のプロットが略全方位ミリ波レーダシステム30の各ミリ波レーダ31〜39の観測情報を用いてそれぞれで追跡処理を行い、追跡情報を共有したときの先行車両の軌跡である。また、
図8の破線のプロットは実験車両前方に取り付けたミリ波レーダのみで先行車両を追跡した場合の軌跡である。実験車両前方に取り付けたミリ波レーダのみで先行車両を追跡した場合は、先行車両が交差点を右折した後、実験車両も右折を行い前方に先行車両をとらえるまでの間、ロストしてしまう結果となった。
表2にロストしたフレーム数や処理時間などを示す。また、各フレームの処理時間と観測情報数の関係を
図9に示す。
図9において、濃い線が本実施例による略全方位ミリ波レーダシステム30を利用し追跡情報の共有を行った追跡処理時間を示し、薄い線が実験車両前方に取り付けたミリ波レーダのみを用いた場合の追跡処理時間を示す。
表2より実験車両前方のミリ波レーダのみを用いた場合、先行車両を96フレームの間ロストしたことがわかる。つまりミリ波レーダの観測周波数20[Hz]を考慮すると4.8[s]の間、実験車両は先行車両を見失い、先行車両が急ブレーキをかけたとしても衝突の危険性を察知することができないといえる。これに対して本実施例による略全方位ミリ波レーダシステム30の各ミリ波レーダ31〜39の観測情報を用いてそれぞれで追跡処理を行い、追跡情報を共有したときの処理時間は、観測情報の数の分、前方のミリ波レーダのみを用いた場合よりは大きくなったが、リアルタイムでの処理でロストの無い効率的かつ効果的な追跡が行えることがわかる。
【表2】