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特許6951736セレブロシドの製造方法及びセレブロシド精製キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6951736
(24)【登録日】2021年9月29日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】セレブロシドの製造方法及びセレブロシド精製キット
(51)【国際特許分類】
   C07H 15/10 20060101AFI20211011BHJP
【FI】
   C07H15/10
【請求項の数】14
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-106924(P2017-106924)
(22)【出願日】2017年5月30日
(65)【公開番号】特開2018-203629(P2018-203629A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年5月29日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「食品産業で利用可能なセレブロシド高純度精製技術の確立とセレブロシドリポソームの機能性」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100188606
【弁理士】
【氏名又は名称】安西 悠
(72)【発明者】
【氏名】清水 佳隆
(72)【発明者】
【氏名】島田 真美
(72)【発明者】
【氏名】山口 亮介
【審査官】 二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−015578(JP,A)
【文献】 特開2014−080404(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/016558(WO,A1)
【文献】 特開2006−232699(JP,A)
【文献】 特開2002−030093(JP,A)
【文献】 佐々木茂文 ほか,未利用水産物からのグルコシルセラミドの抽出濃縮,北海道立総合研究機構 食品加工研究センター 研究報告,2013年,No. 10,p. 1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 15/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含む、セレブロシドの製造方法。
(a)セレブロシドを含む原材料から粗製セレブロシドを抽出する工程、
(b)二層分配により、該粗製セレブロシド中のセレブロシドを上層に分配する工程、
(c)該セレブロシドを含む画分をアルカリ加水分解処理する工程、及び
(d)該アルカリ加水分解処理後の溶液のpHを4〜7に調整し、水を添加し、セレブロシドを含む画分を回収する工程。
【請求項2】
前記工程(a)において、前記粗製セレブロシドを、ヘキサン及び/又はエタノールを含む溶媒を用いて抽出する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶媒の組成が、ヘキサン:エタノール=10:0〜0:10(v/v)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(b)の二層分配が、ヘキサン、エタノール及び水を含む溶媒を用いた二層分配である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒のうち、ヘキサンとエタノールの組成が、ヘキサン:エタノール1:5〜5:1(v/v)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(b)の後であって前記工程(c)の前に、下記工程(e)を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
(e)前記工程(b)において上層に分配されたセレブロシドを含む画分を水洗する工程。
【請求項7】
前記工程(b)から(d)までが同一容器内で行われる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(d)の後に下記工程(f)を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
(f)前記工程(d)で回収したセレブロシドを含む画分から、液体クロマトグラフィーによりセレブロシドを回収する工程。
【請求項9】
前記液体クロマトグラフィーの担体の材料が合成樹脂である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記原材料が棘皮動物である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
セレブロシドを含む原材料からセレブロシドを精製するためのキットであって、下記の要素を含むキット:
(A)粗製セレブロシド抽出用溶媒、
(B)二層分配用溶媒、
(C)アルカリ加水分解処理用溶液、及び
(D)酸性溶液であるpH調整用溶液。
【請求項12】
前記(A)粗製セレブロシド抽出用溶媒がヘキサン及び/又はエタノールを含む溶媒であり、
前記(B)二層分配用溶媒がヘキサン、エタノール及び水を含む溶媒であり、
前記(C)アルカリ加水分解処理用溶液が、水酸化ナトリウム溶液又は水酸化カリウム溶液及びエタノール溶液を含む溶液であり、
前記(D)酸性溶液であるpH調整用溶液が希塩酸又は希硫酸を含む溶液である、
請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記(A)粗製セレブロシド抽出用溶媒であるヘキサン及び/又はエタノールを含む溶媒の組成が、ヘキサン:エタノール=10:0〜0:10(v/v)であり、
前記(B)二層分配用溶媒であるヘキサン、エタノール及び水を含む溶媒のうち、ヘキサンとエタノールの組成が、ヘキサン:エタノール1:5〜5:1(v/v)である、
請求項12に記載のキット。
【請求項14】
さらに、(E)担体が充填された液体クロマトグラフィー用カラムを含む、請求項11〜13のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セレブロシドの製造方法及びセレブロシド精製キットに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミドに単糖が結合したセレブロシドという物質が知られている。セレブロシドは皮膚の構成成分の一つで、皮膚の保湿、保護作用、肌荒れ防止等の有用な効果を有し、肌を健康に保つために必要不可欠な成分の一つである。化粧品分野では、セレブロシドを配合したローションやクリーム等のスキンケア製品が開発されている。
また、食品分野でもセレブロシドを経口摂取することで、消化管におけるがんを抑制できることなどが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
セレブロシドの様々な抽出方法が報告されている。しかし、その多くは、低純度のセレブロシドしか得られない方法(特許文献1)、クロロホルムやベンゼンのように化粧品や食品に利用できない溶媒を用いた方法(特許文献2)、抽出操作が多段階かつ煩雑で大量の有機溶媒を必要とする効率の悪い方法(特許文献1)、再利用が困難で高価であるシリカゲルを用いた非工業的な方法(特許文献1)である。
【0004】
非特許文献2に記載の方法は、セレブロシド抽出物のアルカリ加水分解処理前に二層分配を行わず、アルカリ加水分解処理後に二層分配を行う方法として知られている。この方法では、アルカリ加水分解処理後の二層分配でセレブロシドが分配されにくく、回収率も最大で50%に満たない。
したがって、精製効率が高いセレブロシドの製造方法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−30093号公報
【特許文献2】特許第3992425号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Du Lei, et al., J. Oleo Sci., 61(6), 321−330(2012)
【非特許文献2】佐々木茂文、「水産糖脂質の抽出・精製とその特性を活かした多機能食品素材の開発」、[online]、平成24年6月5日〜8日、2012国際食品工業展、[平成29年5月24日検索]、インターネット〈URL:http://www.foomajapan.jp/2012/academic/research/c31.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、簡便かつ迅速で、精製効率が高いセレブロシドの製造方法及びセレブロシド精製キットの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アルカリ加水分解処理前にも二層分配を行い、かつ、該二層分配においてセレブロシドが上層に含まれるようにすることで上記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。本発明は下記の通りである。
【0009】
〔1〕下記工程を含む、セレブロシドの製造方法。
(a)セレブロシドを含む原材料から粗製セレブロシドを抽出する工程、
(b)二層分配により、該粗製セレブロシド中のセレブロシドを上層に分配する工程、
(c)該セレブロシドを含む画分をアルカリ加水分解処理する工程、及び
(d)該アルカリ加水分解処理後の溶液のpHを4〜7に調整し、水を添加し、セレブロシドを含む画分を回収する工程。
〔2〕前記工程(a)において、前記粗製セレブロシドを、ヘキサン及び/又はエタノールを含む溶媒を用いて抽出する、〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記溶媒の組成が、ヘキサン:エタノール=10:0〜0:10(v/v)である、〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記工程(b)の二層分配が、ヘキサン、エタノール及び水を含む溶媒を用いた二層分配である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕前記溶媒のうち、ヘキサンとエタノールの組成が、ヘキサン:エタノール1:5〜5:1(v/v)である、〔4〕に記載の方法。
〔6〕前記工程(b)の後であって前記工程(c)の前に、下記工程(e)を含む、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の方法。
(e)前記工程(b)において上層に分配されたセレブロシドを含む画分を水洗する工程。
〔7〕前記工程(b)から(d)までが同一容器内で行われる、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕前記工程(d)の後に下記工程(f)を含む、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法。
(f)前記工程(d)で回収したセレブロシドを含む画分から、液体クロマトグラフィーによりセレブロシドを回収する工程。
〔9〕前記液体クロマトグラフィーの担体の材料が合成樹脂である〔8〕に記載の方法。〔10〕前記原材料が棘皮動物である、〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕セレブロシドを含む原材料からセレブロシドを精製するためのキットであって、下記の要素を含むキット:
(A)粗製セレブロシド抽出用溶媒、
(B)二層分配用溶媒、
(C)アルカリ加水分解処理用溶液、及び
(D)pH調整用溶液。
〔12〕前記(A)粗製セレブロシド抽出用溶媒がヘキサン及びエタノールを含む溶媒であり、
前記(B)二層分配用溶媒がヘキサン、エタノール及び水を含む溶媒であり、
前記(C)アルカリ加水分解処理用溶液が、水酸化ナトリウム溶液又は水酸化カリウム溶液及びエタノール溶液を含む溶液であり、
前記(D)pH調整用溶液が希塩酸又は希硫酸を含む溶液である、
〔11〕に記載のキット。
〔13〕前記(A)粗製セレブロシド抽出用溶媒であるヘキサン及び/又はエタノールを含む溶媒の組成が、ヘキサン:エタノール=10:0〜0:10(v/v)であり、
前記(B)二層分配用溶媒であるヘキサン、エタノール及び水を含む溶媒のうち、ヘキサンとエタノールの組成が、ヘキサン:エタノール1:5〜5:1(v/v)である、
〔12〕に記載のキット。
〔14〕さらに、(E)担体が充填された液体クロマトグラフィー用カラムを含む、〔11〕〜〔13〕のいずれかに記載のキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便かつ迅速で、精製効率が高いセレブロシドの製造方法及びセレブロシド精製キットが提供できる。該セレブロシドの製造方法では、濃縮工程や乾燥工程を
必須とせず、さらに、すべての二層分配においてセレブロシドを含む画分は上層に分配されることから、不要な下層は底部から除去すればよく、同一タンク(容器)内での処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ヘキサン/エタノール/水の混合液の三角相図である。
図2】本発明の一実施形態において抽出された粗製セレブロシド量を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る、セレブロシドの分配結果を示す写真である(図面代用写真)。図中の矢印は標準セレブロシドの展開位置を示す。
図4】本発明の一実施形態に係る、アルカリ加水分解処理後の操作による上層と下層を示す写真である(図面代用写真)。図中の矢印は上下層の界面の位置を示す。Aはアルカリ加水分解処理直後を示し、BはpH調整後を示し、CはpH調整後の水添加後を示す。
図5】本発明の一実施形態に係る、アルカリ加水分解処理後の操作によるセレブロシドの分配結果を示す写真である(図面代用写真)。図中の矢印は標準セレブロシドの展開位置を示す。Aはアルカリ加水分解処理直後を示し、BはpH調整後を示し、CはpH調整後の水添加後を示す。
図6】本発明の一実施形態に係る、アルカリ加水分解処理後にpH調整をせずに水を添加した場合の上層と下層を示す写真である(図面代用写真)。図中の矢印は上下層の界面の位置を示す。
図7】本発明の一実施形態に係る、アルカリ加水分解処理後にpH調整をせずに水を添加した場合のセレブロシドの分配結果を示す写真である(図面代用写真)。図中の矢印は標準セレブロシドの展開位置を示す。
図8】本発明の一実施形態に係る、液体クロマトグラフィー(担体:合成樹脂HW−40S)後のTLC結果を示す写真である(図面代用写真)。図中の矢印は標準セレブロシドの展開位置を示す。
図9】本発明の一実施形態に係る、液体クロマトグラフィー(担体:合成樹脂HW−65S)後のTLC結果を示す写真である(図面代用写真)。図中の矢印は標準セレブロシドの展開位置を示す。
図10】本発明の一実施形態に係る、液体クロマトグラフィー(担体:合成樹脂HW−75S)後のTLC結果を示す写真である(図面代用写真)。図中の矢印は標準セレブロシドの展開位置を示す。
図11】本発明の一実施形態に係る、液体クロマトグラフィー(担体:合成樹脂HW−75S)後のTLC結果を示す写真である(図面代用写真)。図中の矢印は標準セレブロシドの展開位置を示す。
図12】本発明の一実施形態に係る、液体クロマトグラフィー(担体:合成樹脂HW−75S)後のHPLC−ELSD結果を示す図である。ピーク2〜4がセレブロシドのピークである。
図13】本発明の一実施形態に係る、液体クロマトグラフィー(担体:合成樹脂HW−75S)後のTLC結果を示す写真である(図面代用写真)。図中の矢印は標準セレブロシドの展開位置を示す。
図14】本発明の一実施形態に係る、液体クロマトグラフィー(担体:合成樹脂HW−75S)後のHPLC−ELSD結果を示す図である。ピーク1〜3がセレブロシドのピークである。
図15】本発明の一実施形態のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、セレブロシドの製造方法(第一の発明)及びセレブロシド精製キット(第二の発明)を含む。
【0013】
<1.第一の発明>
本発明の第一の発明は、下記工程を含む、セレブロシドの製造方法である。
(a)セレブロシドを含む原材料から粗製セレブロシドを抽出する工程、
(b)二層分配により、該粗製セレブロシド中のセレブロシドを上層に分配する工程、
(c)該セレブロシドを含む画分をアルカリ加水分解処理する工程、及び
(d)該アルカリ加水分解処理後の溶液のpHを4〜7に調整し、水を添加し、セレブロシドを含む画分を回収する工程。
【0014】
以下の説明では、セレブロシドを含む原材料としてヒトデを用いた場合を記載することがあるが、これは本製造方法の一例に過ぎず、セレブロシドを含む原材料がヒトデに限定されるものではない。
【0015】
[1−1.工程(a)]
工程(a)は、セレブロシドを含む原材料から粗製セレブロシドを抽出する工程である。
【0016】
(セレブロシドを含む原材料)
セレブロシドを含む原材料は、動物及び植物又はその由来物のいずれであってもよい。動物及びその由来物としては、例えば、棘皮動物や牛脳が挙げられる。中でも、セレブロシドを多く含有することから、好ましくはヒトデやナマコなどの棘皮動物であり、より好ましくはキヒトデである。
植物及びその由来物としては、例えば、小麦、大豆、米、綿実、菜種、トウモロコシ、サトウキビ、ゴマ、ピーナッツなどが挙げられる。
また、セレブロシドを含む原材料は、コレステロール硫酸を含むことが好ましい。従来法では、セレブロシドを含む原材料に含まれるコレステロール硫酸を分離除去するのが困難であるが、本発明に係る製造方法では、後述する工程(f)の液体クロマトグラフィーによりコレステロール硫酸を分離除去することができる。
【0017】
(セレブロシドを含む原材料の前処理工程)
セレブロシドを含む原材料から粗製セレブロシドを抽出する前に、該原材料を蒸煮するなどの既知の処理工程を含むことが好ましい。蒸煮により酵素を失活させることができる。
原材料がヒトデである場合、例えば、ヒトデを蒸煮し、殻と内臓とを分離した後、該内臓を乾燥又は脱水してもよいし、殻と内臓とを分離せずにそのまま乾燥又は脱水してもよく、また、乾燥又は脱水を行わずに後の工程に進んでもよい。
乾燥方法としては、風乾、熱乾燥、真空乾燥(凍結乾燥)などの常法のいずれを用いてもよい。
また、脱水方法としては、吸水性ポリマー等で水分を吸収除去する方法を用いてもよい。
乾燥や脱水後の水分含有量は、後の工程を考慮して適宜選択できる。
さらに、上記のように乾燥又は脱水した原材料を粉砕して粉体とする工程を含んでもよい。
【0018】
(粗製セレブロシドの抽出)
本工程(a)では、常法により、セレブロシドを含む原材料からセレブロシドを含む抽出物を得ることができる。例えば、二酸化炭素を用いた超臨界抽出法や有機溶媒を用いることができる。本明細書では、このようにして得られた抽出物を「粗製セレブロシド」と定義する。
【0019】
有機溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、ヘキサン、クロロホルム等の、脂質を溶解できる任意の有機溶媒を用いることができる。また、任意の有機溶媒の混合液を用いてもよく、水とアルコール類の混合物を用いてもよく、アルカリ性エタノール溶媒を用いてもよい。
これらの中でも、より多量の粗製セレブロシドを抽出できることから、ヘキサン及び/又はエタノールを含む溶媒が好ましい。
従来は、まず、ロータリーエバポレーターなどを用いて粗製セレブロシドから有機溶媒を除去し、粗製セレブロシドを濃縮する工程を必要としていたが、ヘキサン及び/又はエタノールを含む溶媒を用いる場合には該工程を必要とせず、簡便性かつ迅速性が向上するため、好ましい。
【0020】
有機溶媒で抽出する場合の、原材料に対する有機溶媒の量は特に制限されないが、好ましくは1〜30倍(v/v)、より好ましくは2〜10倍(v/v)である。
有機溶媒としてヘキサン及び/又はエタノールを含む溶媒を用いる場合は、好ましくは、ヘキサン:エタノール=10:0〜0:10(v/v)、より好ましくは、10:1〜1:10(v/v)、さらに好ましくは5:1〜1:1(v/v)である。
【0021】
有機溶媒で抽出する場合の抽出温度は、特に制限されないが、好ましくは4〜70℃程度、より好ましくは室温(例えば25℃)〜60℃である。
有機溶媒で抽出する場合の抽出時間は、特に制限されないが、好ましくは30分〜48時間、より好ましくは1〜24時間である。
有機溶媒で抽出する場合の抽出操作は、1回に限定されるものではなく、抽出後の残渣に再度新鮮な有機溶媒を添加して抽出操作を行うこともできる。また、有機溶媒を原材料に複数回接触させることもできる。また、抽出操作はバッチ抽出に限定されず、原材料を抽出用ステンレス塔などに充填し、有機溶媒を送液し、抽出操作を行ってもよい。
【0022】
(アセトン沈殿)
抽出した粗製セレブロシドを後述する工程(b)に用いる前に、該粗製セレブロシドからトリグリセリドや単純脂質を減らす目的でアセトン沈殿により精製する工程を含んでもよい。
アセトンは、ヘキサン、エタノール、および水から成る群から選択される1以上を5%以下の割合で含んでもよく、必要であれば、上記「粗製セレブロシドの抽出」で用いた有機溶媒を除去した後に該アセトン沈澱を行ってもよい。該アセトンには、市販のアセトンが使用できる。
粗製セレブロシドに対するアセトンの量は、特に制限されないが、好ましくは2〜50倍(v/v)、より好ましくは5〜20倍(v/v)である。
アセトン沈殿時の温度は、特に制限されないが、好ましくは−80〜30℃、より好ましくは−30〜4℃である。
アセトン沈殿により生じた沈殿物は、ろ過、デカンテーション、遠心分離等の常法により分離できる。
このアセトン沈殿工程を追加することで、粗製セレブロシド中のセレブロシドの精製度が向上するので、後工程における処理容量を減少でき、純度を向上することができる。
【0023】
[1−2.工程(b)]
工程(b)は、二層分配により、該粗製セレブロシド中のセレブロシドを上層に分配する工程である。
本工程(b)は、後述する工程(c)の前に行われるものである。従来法、例えば非特許文献2に記載の方法では、後述する工程(c)の前に、本工程(b)の二層分配を行わないため、工程(c)後のセレブロシドの回収率が最大で50%にも満たなかったが、本製造方法では、本工程(b)が、後述する工程(c)の前に行われることによって、工程
(c)後のセレブロシドの回収率が飛躍的に向上する。
【0024】
(二層分配に用いる溶媒)
二層分配に用いる溶媒としては、互いに混じり合わない2種類以上の溶媒の混合液であって、前記粗製セレブロシドからセレブロシドを上層に分配できる混合液を用いる。例えば、クロロホルム/メタノール/水、ヘキサン/エタノール/水、トルエン/エタノール/水、トルエン/アセトン/水、ベンゼン/エタノール/水などの混合液が挙げられる。
本製造方法により製造されるセレブロシドが化粧品分野や食品分野に利用されることを考慮すれば、これらの中でも好ましくは、クロロホルム、ベンゼンを用いない混合液であり、より好ましくは、ヘキサン/エタノール/水の混合液である。
尚、本明細書において、上記のようにスラッシュ(/)を用いて溶媒を表記した場合、該スラッシュは「及び」の意味である。例えば、「ヘキサン/エタノール/水の混合液」とは、「ヘキサン、エタノール、及び水の混合液」を指す。
【0025】
ヘキサン/エタノール/水の混合液を用いる場合、図1に示したダイアグラムを基に、該混合液が2層を示す範囲で任意の混合比率を採用することができるが、セレブロシドが上層に分配され、下層には分配されない混合比率が採用できる。
【0026】
このうち、ヘキサン:エタノールの比率は、好ましくは1:5〜5:1(v/v)、より好ましくは、1:3〜3:1(v/v)、さらに好ましくは1:1〜2:1(v/v)である。水の量は、通常使用される範囲であれば特に限定されない。
具体的には、ヘキサン:エタノール=2:1(v/v)に固定した場合、例えば、エタノール:水を1:1〜1:0.0625(v/v)で試験を行い、上層と下層に分配されたセレブロシドや他の脂質成分の含量を比較することで選択可能である。
ヘキサン/エタノール/水の混合液の混合比率は前述の方法で選択でき、例えば、ヘキサン:エタノールを2:1とした場合では、水の量は、エタノール1に対して、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.75以上である。
【0027】
また、前記工程(a)における粗製セレブロシドの抽出溶媒に水を追加することで、該二層分配に用いる混合液としてもよい。これにより、簡便性かつ迅速性が向上するため、好ましい。例えば、前記工程(a)における粗製セレブロシドの抽出溶媒としてヘキサン及びエタノールを含む溶媒を用いた場合には、これに水を追加することにより、二層分配に用いるヘキサン/エタノール/水の混合液とすることができる。
【0028】
(複数回の二層分配)
二層分配は1回のみならず複数回行うことで、前記粗製セレブロシドから分画できるセレブロシドの量を増大できる。
複数回の二層分配を行う場合において、2回目以降の二層分配で用いる溶媒も、上記「二層分配に用いる溶媒」に記載に従うことができる。ヘキサン/エタノール/水の混合液の混合比率は前述の方法で選択でき、ヘキサン:エタノールを2:1とした場合では、水の量は、エタノール1に対して、好ましくは0.25以上、より好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.75以上である。
【0029】
[1−3.工程(c)]
工程(c)は、前記工程(b)で分配されたセレブロシドを含む画分をアルカリ加水分解処理する工程である。
この処理は、セレブロシドを含む画分に含まれる分解可能な脂質(グリセロリン脂質やグリセロ糖脂質等)をアルカリ溶液中で加水分解する処理である。
【0030】
アルカリの種類や濃度、溶媒の種類等は特に制限されないが、好ましくは、水酸化ナト
リウム溶液や水酸化カリウム溶液であり、エタノールと混合されて使用されることが好ましい。
セレブロシドを含む画分に該アルカリ溶液を加えた後のアルカリ濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.03〜5N、より好ましくは0.05〜1N、さらに好ましくは0.1〜0.5Nである。
セレブロシドを含む画分量に対する該アルカリ溶液の量は、特に限定されないが、好ましくは0.01〜1倍(v/v)、より好ましくは0.05〜0.2倍(v/v)である。
【0031】
セレブロシドを含む画分の溶媒がヘキサン/エタノールの混合液である場合、本工程のアルカリ加水分解は、アルカリ溶液混合後に二層分配した状態で行われてもよい。
また、後述する工程(d)におけるpH調整と水の添加後のヘキサン/エタノール/水の混合比を考慮して本工程のアルカリ溶液の濃度と量を設定すれば、後述する工程(d)の前に溶媒の濃度や量を調整する必要がなく、簡便性かつ迅速性が向上するため、好ましい。
【0032】
アルカリ加水分解処理時の温度は特に制限されないが、通常、室温(例えば25℃)〜使用している溶媒の沸点未満の温度である。溶媒にヘキサンが含まれる場合には、30℃〜ヘキサンの沸点未満の温度が好ましく、40度〜ヘキサンの沸点未満の温度がより好ましく、50℃〜ヘキサンの沸点未満の温度がさらに好ましい。
アルカリ加水分解処理の時間は特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは1〜20時間、より好ましくは2〜12時間、さらに好ましくは3〜4時間である。
尚、反応中に反応溶液を撹拌すると効率的であり、撹拌方法としてはスターラーを用いるなどの常法が利用できる。
【0033】
[1−4.工程(d)]
工程(d)は、前記アルカリ加水分解処理後の溶液のpHを4〜7に調整し、水を添加し、セレブロシドを含む画分を回収する工程である。
【0034】
(pH調整)
工程(d)は、前記アルカリ加水分解処理後の溶液のpHを4〜7に調整する工程を含む。これは、前記アルカリ加水分解処理後に酸性溶液を加えて中和する工程である。
酸性溶液としては特に制限されないが、希塩酸や希硫酸が好ましい。酸性溶液の濃度は特に制限されないが、好ましくは0.1〜6N程度、より好ましくは1〜3Nである。
【0035】
(水の添加)
工程(d)は、前記pH調整工程後に水を添加する工程である。水の添加量としてはアルカリ溶液と酸溶液と合計して、エタノール1に対して、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.75以上、さらに好ましくは1以上である。
後述する実施例の通り、水の添加によりセレブロシドを含む画分が下層から上層に移動する。ただし、このためには前記pH調整工程が必要であり、該pH調整工程を含まない場合には水を添加してもセレブロシドを含む画分は上層に含まれない。
【0036】
[1−5.工程(e)]
工程(e)は、前記工程(b)において上層に分配されたセレブロシドを含む画分を水洗する工程である。
該水洗は、前記工程(b)の二層分配で分配された下層を除去後、得られた上層(有機溶媒層)に水を添加し、再度、二層分配することにより行われる。セレブロシドを含む原材料として水溶性の有臭物質を含有する原材料を用いる場合であっても、本工程を経ることにより該有臭物質を十分に除去することができる。よって、本製造方法は、本工程(e
)を含むことが好ましい。
【0037】
有臭物質の多くは水溶性である。その除去方法として、特開2008−206470号公報に開示されているような水洗処理が知られているが、この方法は抽出前の原材料に対して行われるものである。また、単純脂質(トリグリセリドや脂肪酸等)を主成分とする魚油などから有臭物質を除去するためには、特開2015−105354号公報等に開示されているように、150℃〜230℃の魚油に水蒸気を接触させるような脱臭処理が必要だが、高温油の水蒸気処理には専用の製造設備が必要であり、特に目的物が沸点の低い有機溶媒に溶解した状態では実施困難である。
したがって、本工程を経ることにより、従来法よりも簡便にかつ迅速に、効率よく有臭物質を除去できる。これは、有臭物質による臭いが懸念される製品等にセレブロシドを配合する場合などに有効である。
【0038】
(水洗)
前記工程(b)の二層分配で用いた有機溶媒層と水層とは互いに混じり合わないため、任意の容積比率で水洗を行うことができるが、有機溶媒層:添加する水=10:1〜1:10(v/v)が好ましく、2:1〜1:2(v/v)がより好ましい。
水洗回数も任意であるが、有臭物質を十分に除去するために、好ましくは1回以上、より好ましくは2回以上、さらに好ましくは3回以上である。ただし、簡便性かつ迅速性の向上の点から水洗回数は少ない方が好ましい。
【0039】
[1−6.工程(f)]
工程(f)は、前記工程(d)で回収したセレブロシドを含む画分から、液体クロマトグラフィーによりセレブロシドを回収する工程である。
高純度のセレブロシドが得られることから、本製造方法は、本工程(e)を含むことが好ましい。
【0040】
(液体クロマトグラフィー)
液体クロマトグラフィーの態様は、常法に従って適する態様を選択できる。
液体クロマトグラフィーでは様々な分離モードが選択でき、使用するカラム(クロマト管)、担体(充填剤)の種類は問わないが、担体としては、好ましくは、TOYOPEARL HWシリーズ(東ソー(株)製)である。入手可能な等級としては、HW−40、HW−40C、HW−40F、HW−40S、HW−50、HW−50F、HW−50S、HW−55、HW−55F、HW−55S、HW−65F、HW−65S、HW−75F、HW−75Sなどがある。これらの中でも、単純脂質やアルカリ加水分解後の不要物、コレステロール硫酸等の分離能が高く、セレブロシドを高純度に精製することができることから、好ましくはTOYOPEARL HW−75である。
【0041】
該液体クロマトグラフィーに使用される溶離液も常法に従って選択できる。例えば、メタノールやエタノールなどの炭素数2〜5のアルコール、アセトン、エーテル、トルエン、ヘキサン、クロロホルムなどの有機溶媒を使用することができる。また、複数の有機溶媒を混合して使用してもよく、水を単独あるいは混合して使用してもよい。
本製造方法により製造されるセレブロシドが化粧品分野や食品分野に利用されることを考慮すれば、これらの中でも好ましくはベンゼン以外であり、より好ましくは、ヘキサン、アセトン、エタノールである。ただし、ヘキサン、アセトン、エタノールは100%のものに限定されず、常法に従って混合比率を適宜選択することができる。
試料をカラムに通す方法としては、重力による送液、遠心力による送液、加圧による送液、吸引による送液など、特に限定されない。
【0042】
[1−7.その他の工程]
本製造方法は、前記工程(f)の後に、該工程(f)で回収されたセレブロシドを含む画分に対し、例えば、ロータリーエバポレーター、フラッシュエバポレーター、真空蒸留器や、加熱処理等により溶媒を除去する工程を含んでもよい。これにより、セレブロシドを高純度化することができる。
また、前記工程(f)の後に、該工程(f)で回収されたセレブロシドを含む画分に対し、前記工程(a)の説明に記載したアセトン沈殿を行ってもよい。これにより、セレブロシドを高純度化することができる。
【0043】
<2.第二の発明>
本発明の第二の発明は、セレブロシドを含む原材料からセレブロシドを精製するためのキットであって、下記の要素を含むキットである。
(A)粗製セレブロシド抽出用溶媒、
(B)二層分配用溶媒、
(C)アルカリ加水分解処理用溶液、及び
(D)pH調整用溶液。
【0044】
前記(A)粗製セレブロシド抽出用溶媒は、好ましくはヘキサン及び/又はエタノールを含む溶媒である。
前記(B)二層分配用溶媒は、好ましくはヘキサン、エタノール及び水を含む溶媒である。
前記(C)アルカリ加水分解処理用溶液は、好ましくは、水酸化ナトリウム溶液又は水酸化カリウム溶液及びエタノール溶液を含む溶液である。
前記(D)pH調整用溶液は、好ましくは希塩酸又は希硫酸を含む溶液である、
ただし、前記(A)〜(D)のいずれも、複数の溶媒又は溶液を含む場合には、混合溶媒又は混合溶液として一の容器に収容されていてもよいし、別々の容器に収容されていてもよい。
【0045】
また、本発明の第二の発明に係るキットは、さらに、(E)担体(充填剤)が充填された液体クロマトグラフィー用カラムを含むことが好ましい。
また、該キットは、さらに、(F)液体クロマトグラフィー用溶離液を含むことが好ましい。
【0046】
また、該キットは、さらに、本発明の第一の発明に係る製造方法を記載した説明書等を含めることもできる。
【0047】
前記(A)〜(F)の好ましい種類や濃度、使用時の条件等としては、本発明の第一の発明の説明に記載した各条件が使用できる。また、各溶媒又は溶液については、使用前には適宜濃縮されていてもよく、使用直前に水等で適宜希釈することができる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0049】
[測定方法]
(セレブロシドの含有量の測定方法)
TLCプレート(Merck社、Silica gel 60 F254、150−200μm)、及び、展開溶媒としてクロロホルム:メタノール:水=65:25:4(v/v/v)を用いて脂質クラスを分離し、展開後のTLCプレートに50%硫酸を噴霧して、110〜140℃で発色させることによりスポットを検出した。
次いで、Image Jを用いて、各スポットの面積、濃さを既知量の標準セレブロシ
ドから得られるスポットを基準に数値化してその含有量を求めた。
【0050】
(セレブロシドの純度の測定方法)
セレブロシドをクロロホルム:メタノール=2:1(v/v)に溶解し、この溶解液10μlを下記条件のHPLC−ELSDに適用し、セレブロシド溶出ピークエリア値を、得られたクロマトグラムのピークエリア値の合計値で除することで算出した。
カラム:Inertsil(ジーエルサイエンス社、100Å、5μm、4.6×250mm)
移動相:クロロホルム及びメタノール:水=95:5(v/v)による2液グラジエント
カラム温度:35℃
流速:1ml/min
検出器:ELSD(SEDERE社、 Model SEDEX75)
検出条件:ドリフトチューブ温度65℃、ガス圧力3.5bar
【0051】
[実験例1:工程(a)の粗製セレブロシドの抽出で用いる溶媒の検討]
新鮮なキヒトデを蒸煮して酵素を失活させた後、殻と内臓とを分離し、取り出した内臓を凍結乾燥した。この内臓乾燥物から粗製セレブロシドを抽出するのに適する溶媒の検討を行った。
ヒトデ内臓乾燥物1.0gに、ヘキサン:エタノール=2:1(v/v)を4.0ml加え、室温で1時間撹拌後、不溶物が沈澱するまで静置して抽出液(上清)を回収した。残渣に再びヘキサン:エタノール=2:1(v/v)を3.0ml加え、同様の撹拌と静置を行い、この抽出液も合わせて回収した。抽出液に含まれる有機溶媒は、ロータリーエバポレーターを用いて減圧、除去した。これにより、ヒトデ内臓乾燥物から粗製セレブロシド345.1mgを得た。
【0052】
常法との比較のため、Bligh−Dyer法による抽出を行った。
ヒトデ内臓乾燥物0.91gに、クロロホルム:メタノール:水=1:2:1(v/v/v)を7.0ml加え、室温で1時間撹拌後、数時間静置した。上清を回収し、クロロホルム:水=1:1(v/v)を2ml加え、室温で1時間撹拌後、数時間静置して、上層を回収した。残渣に再びクロロホルム:メタノール:水=1:2:1(v/v/v)を4.0ml加え、同様の撹拌と静置を行った。上清を回収し、クロロホルム:水=1:1(v/v)を2ml加え、同様の撹拌と静置を行い、上層を回収して合わせた。抽出液に含まれる有機溶媒は、ロータリーエバポレーターを用いて減圧、除去した。これにより、粗製セレブロシド148.4mgを得た。
【0053】
ヘキサン:エタノール=2:1(v/v)を用いた場合と、Bligh−Dyer法を用いた場合とで、それぞれ得られた粗製セレブロシドに含まれるセレブロシドの量を前記TLCにより測定した。
この結果、ヘキサン:エタノール=2:1(v/v)を用いた場合では、ヒトデ内臓乾燥物1gあたり13.7mgのセレブロシドが得られ、Bligh−Dyer法を用いた場合では、ヒトデ内臓乾燥物1gあたり11.5mgのセレブロシドが得られた(図2)。
従って、常法のBligh−Dyer法を用いた場合よりも、ヘキサン:エタノール=2:1(v/v)を用いた場合の方が、同量のヒトデ内臓乾燥物から多くのセレブロシドを含む粗製セレブロシドを抽出できることが分かった。
【0054】
[実験例2:工程(b)の二層分配で用いる溶媒の混合比率の検討]
ヘキサン:エタノール:水=2:1:1、2:1:0.75、2:1:0.5、2:1:0.25、2:1:0.125、又は2:1:0.0625(v/v/v)となるよう
に混合液を調製した。この混合液と、溶媒を除去した前記粗製セレブロシドとを、混合液:粗製セレブロシド=25:1(v/v)の比率となるように混合した。これを1分間Vortexし、5分静置する操作を3回繰り返した。その後、上下層が共に澄明になるまで静置して上層と下層とに分離した。
各層の一部について、上記「セレブロシドの含有量の測定方法」の記載に従ってスポットを検出し(図3)、次いで、セレブロシドの回収量を算出した(表1)。
その結果、セレブロシドを上層に分配するにはヘキサン:エタノール:水=2:1:0.75(v/v/v)が適しており、下層に分配するにはヘキサン:エタノール:水=2:1:0.125(v/v/v)が適していることが明らかとなった。
【0055】
【表1】
【0056】
[実験例3:工程(e)の水洗]
ヒトデ内臓乾燥物6.68gをクロマト管(φ2.0cm×15cm)に充填した。そのクロマト管に、内臓乾燥物の充填量(20ml)の2倍量(40ml)であるヘキサン:エタノール=2:1(v/v)を通液して粗製セレブロシド30.6mlを得た。
この粗製セレブロシドから15.2mlを容量100mlの丸底バイアルに分取し、3.8mlの水を加え、室温下スターラー上で2時間、100rpmで撹拌後、1時間静置した。静置後、二層分配し、下層を除去した。残った上層(ヘキサン層)に水8mlを加えて室温で30分、100rpmで撹拌し、10分静置後、下層を除去した。この水洗操作を合計4回繰り返して、ヒトデ由来脂質を含むヘキサン溶液9.48mlを得た。
また、各段階で溶液の一部を濾紙に滴下して、溶媒を揮発させた後、濾紙の臭いについて官能検査を行い、各操作段階後における臭いの程度を評価した。
その結果、水洗を行わないと上層と下層は共に強い臭いを感じるが、水洗を繰り返すことで臭いが弱くなり、3回目でほとんど臭いがしなくなった(表2)。これらのことは、
この水洗操作で水溶性の有臭夾雑物の含有量を大幅に減じることができることを示している。
【0057】
【表2】
【0058】
[実験例4:工程(c)のアルカリ加水分解処理]
粗製セレブロシド1mlを容量100mlの丸底バイアルに加え、15mlのヘキサン:エタノール=2:1(v/v)を加えて溶解した。さらに3.75mlの水を加え、スターラー上で室温2時間、100rpmで撹拌後、1時間静置した。二層分配し、下層を除去し、残った上層(ヘキサン層)に水10mlを加えて室温で30分、100rpmで撹拌し、10分間静置後、下層を除去した。残った上層に再び水10mlを加えて、撹拌と静置後下層を除去した。この水洗浄操作をさらに3回繰り返した。これにより水溶性物質を除去した上層を約10ml得た。
【0059】
この上層のうち5mlを用いて、アリカリ加水分解処理によるグリセロ脂質の分解を行った。当該上層5.0mlに2.5mlのエタノールと0.3mlの4.5N−水酸化ナトリウム溶液を加え、ウォーターバス中で50℃に保温しながら3時間、500rpmでスターラー撹拌し、さらに室温下で1時間撹拌した。
【0060】
[実験例5:工程(d)のpH調整、水添加、セレブロシドを含む画分の回収]
アルカリ加水分解反応終了後、約0.2mlの3N−塩酸を滴下し、上層をpH5〜6、下層をpH6に調整した。pHの測定はpH試験紙で行った。pH調整後に適当量の水を添加して系全体の水溶液添加量を調整した。このときの水の添加量は4.5N−水酸化ナトリウム溶液および3N−塩酸溶液との合計量が3.56mlとなるように調製した。水添加後に30分間の撹拌と10分間の静置を行い、分離した2層の下層を除去して上層(ヘキサン層)を得た。
【0061】
その結果、アルカリ加水分解処理直後の上層と下層の体積比は、およそ上層:下層=1:1.5となり(図4A)、それぞれのpHは上層pH8〜9、下層pH9〜10となった。アルカリ処理後に3N−塩酸を滴下してpHを調整したところ、体積比率は、およそ上層:下層=2:1に変化した(図4B)。続く水の添加により体積比率は、およそ上層:下層=1:1に変化した(図4C)。
【0062】
これらの一連の処理における上層と下層に含まれるセレブロシドの分配挙動をTLCで解析したところ、アルカリ加水分解処理直後とpH調整後とでは、上層と下層のいずれにもセレブロシドが分配されているが、水添加後の下層にはセレブロシドはほとんど存在せず、セレブロシドの大部分は上層中に存在することが明らかとなった(図5A図5B図5C)。この明確なセレブロシドの分配挙動にはpH調整が重要であり、pH調整をしない場合には、水を添加してもセレブロシドは上層に移行しなかった(図6)。また、アルカリ加水分解処理後、塩酸によるpH調整を行わずに水を添加すると上層:下層=1:3となり、セレブロシドは上層に移行しなかった(図7)。
【0063】
[実験例6:工程(f)における液体クロマトグラフィーの担体の検討]
(実験例6−1:合成樹脂HW−40S)
クロマト管(φ1.0cm×7.0cm)に、20%エタノールに懸濁した合成樹脂(東ソー、TOYOPEARL HW−40S)を4.0ml充填してカラムを調製し、純水で洗浄した。さらに、8mlのアセトンで洗浄後、20mlのヘキサンで平衡化した。
試料として、前記実験例5で得た上層(ヘキサン層)0.25mlをカラムに負荷した。添加した試料が全てカラム内に入った後、一旦、カラム出口コックを閉じて15分間静置した、その後、1.0mlのヘキサンをカラムに通液した。
【0064】
カラム通過液の合計1.25mlをFr.1として回収した。Fr.2〜Fr.5は各1.25mlのヘキサン、Fr.6〜Fr.9はヘキサン:アセトン=9:1(v/v)、Fr.10〜Fr.13はヘキサン:アセトン=8:2(v/v)、Fr.14〜Fr.17はヘキサン:アセトン=7:3(v/v)、Fr.18〜Fr.21はヘキサン:アセトン=6:4(v/v)、Fr.22〜Fr.25はヘキサン:アセトン=5:5(v/v)、Fr.26〜Fr.30はアセトン:エタノール=5:5(v/v)をカラムに添加したときの通過液をそれぞれ分画したものである。
【0065】
各画分の一部について、上記「セレブロシドの含有量の測定方法」の記載に従ってスポットを検出した(図8)。
その結果、カラムに添加したセレブロシドは大部分がカラムに保持されず、他の脂質と分離されずFr.1〜10まで溶出された。カラムに保持された一部のセレブロシドはFr.15〜Fr.18に溶出された。
【0066】
(実験例6−2:合成樹脂HW−65S)
クロマト管(φ1.0cm×7.0cm)に、20%エタノールに懸濁した合成樹脂(東ソー、TOYOPEARL HW−65S)を4.5ml充填してカラムを調製し、純水で洗浄した。さらに、9mlのアセトンで洗浄後、23mlのヘキサンで平衡化した。
試料として、前記実験例5で得た上層(ヘキサン層)0.35ml(1.44mgのセレブロシドを含む。)をカラムに負荷した。添加した試料溶液が全てカラム内に入った後、一旦、カラム出口コックを閉じて15分間静置した、その後、1.4mlのヘキサンをカラムに通液した。
【0067】
カラム通過液の合計1.75mlをFr.1として回収した。Fr.2〜Fr.5は各1.75mlのヘキサン、Fr.6〜Fr.9はヘキサン:アセトン=9:1(v/v)、Fr.10〜Fr.13はヘキサン:アセトン=8:2(v/v)、Fr.14〜Fr.17はヘキサン:アセトン=7:3(v/v)、Fr.18〜Fr.21はヘキサン:アセトン=6:4(v/v)、Fr.22〜Fr.25はヘキサン:アセトン=5:5(v/v)、Fr.26〜Fr.30はアセトン:エタノール=5:5(v/v)をカラムに添加したときの通過液をそれぞれ分画したものである。
【0068】
各画分の一部について、上記「セレブロシドの含有量の測定方法」の記載に従ってスポットを検出したところ、Fr.22〜Fr.27にセレブロシドが検出された(図9)。
次いで、Image Jを用いて、検出された各成分の面積と発色強度を数値化した。
セレブロシドの回収量は、標準セレブロシドの解析から得られた値から検量線を作製して算出した。Fr.22は0.09mg、Fr.23は0.15mg、Fr.24は0.30mg、Fr.25は0.22mg、Fr.26は0.13mg、Fr.27は0.11mgのセレブロシドが溶出された。
【0069】
(実験例6−3:合成樹脂HW−75S)
クロマト管(φ1.0cm×7.0cm)に、20%エタノールに懸濁した合成樹脂(
東ソー、TOYOPEARL HW−75S)を4.5ml充填してカラムを調製し、純水で洗浄した。さらに、9mlのアセトンで洗浄後、23mlのヘキサンで平衡化した。
試料として、前記実験例5で得た上層(ヘキサン層)0.40ml(1.60mgのセレブロシドを含む。)をカラムに負荷した。添加した試料溶液が全てカラム内に入った後、一旦、カラム出口コックを閉じて15分間静置した、その後、1.6mlのヘキサンをカラムに通液した。
【0070】
カラム通過液の合計2.0mlをFr.1として回収した。Fr.2〜Fr.5は各2.0mlのヘキサン、Fr.6〜Fr.9ヘキサン:アセトン=9:1(v/v)、Fr.10〜Fr.13はヘキサン:アセトン=8:2(v/v)、Fr.14〜Fr.17はヘキサン:アセトン=7:3(v/v)、Fr.18〜Fr.21はヘキサン:アセトン=6:4(v/v)、Fr.22〜Fr.25はヘキサン:アセトン=5:5(v/v)、Fr.26〜Fr.30はアセトン:エタノール=5:5(v/v)をカラムに添加したときの通過液をそれぞれ分画したものである。
【0071】
各画分の一部について、上記「セレブロシドの含有量の測定方法」の記載に従ってスポットを検出したところ、Fr.22〜Fr.27にセレブロシドが検出された(図10)。
次いで、Image Jを用いて、検出された各成分の面積と発色強度を数値化した。
セレブロシドの回収量は、標準セレブロシドの解析から得られた値から検量線を作製して算出した。Fr.19は0.13mg、Fr.20は0.44mg、Fr.21は0.43mg、Fr.22は0.12mgのセレブロシドが溶出された。
【0072】
(実験例7:合成樹脂HW−75Sを用いた液体クロマトグラフィーにおける試料負荷量の検討)
クロマト管(φ1.0cm×7.0cm)に、20%エタノールに懸濁したゲル濾過樹脂(東ソー、TOYOPEARL HW−75S)を4.5ml充填した。カラムに9mlのアセトン、次に23mlのヘキサンを通液した。
前記実験例5で得た上層(ヘキサン層)0.80ml(2.92mgセレブロシドを含む。)をカラムに負荷して、溶液がカラム内に入った後、15分静置した。その後、1.4mlのヘキサンをカラムに通液した。
【0073】
カラム通過液の合計2.2mlをFr.1として回収した。この操作を合計5回繰り返
し、Fr.2〜Fr.5として回収した。Fr.6〜Fr.9はヘキサン、Fr.10〜Fr.19はヘキサン:アセトン=8:2(v/v)、Fr.20〜Fr.25はヘキサン:アセトン=5:5(v/v)、Fr.26〜Fr.30はアセトン:エタノール=5:5(v/v)をカラムに添加したときの通過液をそれぞれ分画したものである。溶出液は2.2mlずつ分画した。
【0074】
各画分の一部について、上記「セレブロシドの含有量の測定方法」の記載に従ってスポットを検出した(図11)。
その結果、カラムに添加したセレブロシドは大部分がカラムに保持されず、他の脂質と分離されずにFr.4〜7、11〜12で溶出された。カラムに保持された一部のセレブロシドは他の脂質と分離されてFr.21、Fr.22に溶出された。
次いで、Fr.21、Fr.22の各スポットの面積、濃さからImage Jを用い
て、検出された各成分の面積と発色強度を数値化した。セレブロシドの回収量は標準セレブロシドの解析から得られた値から検量線を作製して算出した。Fr.21は1.02mg、Fr.22は1.28mgのセレブロシドが溶出された。
【0075】
Fr.21およびFr.22をプールして溶媒除去後、1mlのクロロホルム:メタノ
ール=2:1(v/v)に溶解した。この溶解液の10μlをHPLC−ELSDで分析した(図12)。得られたクロマトグラムのピークエリア値からセレブロシドの純度を算出したところ88.06%であった。
【0076】
(実験例8:工程(b)から(d)までを同一容器内で行った例)
ヒトデ内臓乾燥物45gをクロマト管(φ4.0cm×30cm)に充填した。そのクロマト管に、内臓乾燥物の充填量(150ml)の2倍量(300ml)であるヘキサン:エタノール=2:1(v/v)を通液して粗製セレブロシド230mlを得た。
【0077】
この粗製セレブロシドに58mlの水を加え、室温下で2時間撹拌後、数時間静置した。静置後、二層分配し、下層を除去した。残った上層(ヘキサン層)に水160mlを加えて室温下で30分撹拌し、10分静置後、下層を除去する水洗をした。この水洗を合計4回繰り返して、ヒトデ由来脂質を含むヘキサン溶液153mlを得た。
【0078】
このヘキサン溶液を用いて、アリカリ加水分解処理によるグリセロ脂質の分解を行った。当該ヘキサン溶液153mlに76mlのエタノールと10mlの4.5N−水酸化ナトリウム溶液を加え、50℃に保温しながら3時間撹拌し、さらに室温下で1時間静置した。
【0079】
アルカリ加水分解反応終了後、約14mlの3N−塩酸を滴下し、上層をpH5〜6、下層をpH6に調整した。pHの測定はpH試験紙で行った。pH調整後に適当量の水を添加して系全体の水溶液添加量を調整した。このときの水の添加量は4.5N−水酸化ナトリウム溶液および3N−塩酸溶液との合計量が76mlとなるように調製した。水添加後に1時間の撹拌と数時間の静置を行い、分離した2層のうち下層を除去し、上層(ヘキサン層)153mlを得た。
【0080】
クロマト管(φ7.0cm×30cm)に、ヘキサン:アセトン=2:8(v/v)に懸濁した合成樹脂(東ソー、TOYOPEARL HW−75S)を765ml充填した。カラムに1530mlのアセトン、次に3825mlのヘキサン:アセトン=8:2(v/v)を通液した。前記上層(ヘキサン層)77mlをカラムに負荷し、該上層がカラム内に入った後、15分間静置した、その後、306mlのヘキサン:アセトン=8:2(v/v)を添加した。
【0081】
カラム通過液の合計383mlをFr.1として回収した。また、278mgのセレブロシドを含む上層(ヘキサン層)を用いて同様の操作を繰り返し、Fr.2として回収した。Fr.3〜Fr.12はヘキサン:アセトン=8:2(v/v)、Fr.13〜Fr.18はヘキサン:アセトン=5:5(v/v)、Fr.19〜Fr.23はアセトン:エタノール=5:5(v/v)をカラムに添加したときの通過液をそれぞれ分画したものである。溶出液は383mlずつ分画した。
【0082】
各画分の一部について、上記「セレブロシドの含有量の測定方法」の記載に従ってスポットを検出したところ、Fr.14、Fr.15にセレブロシドが溶出された(図13)。
Fr.14およびFr.15をプールして溶媒除去後、回収量を測定したところ、250mgの精製セレブロシドを得た。粗製セレブロシドからのセレブロシドの回収率は71%であった。
この精製セレブロシドの一部をクロロホルム:メタノール=2:1(v/v)に溶解し、その10μlをHPLC−ELSDで分析した。得られたクロマトグラムのピークエリア値からセレブロシドの純度を算出したところ96.7%であることがわかった(図14)。
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