特許第6951738号(P6951738)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6951738ホログラムデータ作成プログラム及びホログラムデータ作成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6951738
(24)【登録日】2021年9月29日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】ホログラムデータ作成プログラム及びホログラムデータ作成方法
(51)【国際特許分類】
   G03H 1/08 20060101AFI20211011BHJP
【FI】
   G03H1/08
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-135103(P2017-135103)
(22)【出願日】2017年7月10日
(65)【公開番号】特開2019-15935(P2019-15935A)
(43)【公開日】2019年1月31日
【審査請求日】2020年7月2日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年1月9日に発行されたOptics Express,Volume 25,Issue 1に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年2月27日の日刊工業新聞に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年2月20日に発行されたOptics Communications,Volume 393(2017)に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年5月29日韓国チェジュハンラ大学において開催されたOSA Digital Holography & 3−D Imagingで発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年7月6日千葉大学において開催された3次元画像コンファレンス 2017で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】下馬場 朋禄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智義
【審査官】 中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−532771(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0327905(US,A1)
【文献】 米国特許第06070133(US,A)
【文献】 特開平10−055433(JP,A)
【文献】 特表2006−508774(JP,A)
【文献】 特表2014−512514(JP,A)
【文献】 特開2014−203412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03H 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
空間領域の点広がり関数(PSF)をウェーブレット空間領域のPSFに変換するウェーブレット変換を行い、ウェーブレット領域データを得るステップ、
前記ウェーブレット領域データのうちウェーブレット係数の大きなものだけを選択するステップ、
選択された前記ウェーブレット領域データのうち同一の領域に移動したものだけを足し合わせるステップ、
足し合わせた後の前記ウェーブレット領域データに対して逆ウェーブレット変換を行うステップ、を実行させるためのホログラムデータ作成プログラム。
【請求項2】
物体点の高さを異ならせて求めたPSFに対して前記ウェーブレット領域データを得るステップ、及び、前記ウェーブレット領域データのうちウェーブレット係数の大きなものだけを選択するステップを複数繰り返し行う請求項1記載のホログラムデータ作成プログラム。
【請求項3】
空間領域の点広がり関数(PSF)をウェーブレット空間領域のPSFに変換するウェーブレット変換を行い、ウェーブレット領域データを得るステップ、
前記ウェーブレット領域データのうちウェーブレット係数の大きなものだけを選択するステップ、
選択された前記ウェーブレット領域データのうち同一の領域に移動したものだけを足し合わせるステップ、
足し合わせた後の前記ウェーブレット領域データに対して逆ウェーブレット変換を行うステップ、を備えるホログラムデータ作成方法。
【請求項4】
物体点の高さを異ならせて求めたPSFに対して前記ウェーブレット領域データを得るステップ、及び、前記ウェーブレット領域データのうちウェーブレット係数の大きなものだけを選択するステップを複数繰り返し行う請求項3記載のホログラムデータ作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラムデータ作成プログラム及びホログラムデータ作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィ技術によって作製されるホログラムは三次元ディスプレイ、特殊な光学素子、大容量メモリ、セキュリティといった様々な分野で利用される極めて有用なものである。
【0003】
一方で、ホログラムを作製するホログラフィ技術では、三次元物体や画像からの光波を計算するが、この光波の計算にはゾンマーフェルト回折積分、フレネル回折積分等が用いられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記積分計算では、高速フーリエ変換を用いる方法が考えられる。
【0005】
例えば、伝搬元、伝搬先ともにN×N画素の面間の回折計算を積分で計算する場合を考えると、その計算量はNに比例して増加する。例えばN=2048の場合、一般的なコンピュータを用いた場合でも1時間程度必要となる。これに対し、高速フーリエ変換を用いた場合、その計算量はNlogNまで減らすことができる。すなわち、上記N=2048の場合、1秒程度にまで短くすることができる。
【0006】
しかしながら、高速フーリエ変換による光波の計算は平面間の光波伝搬しか計算できず、平面間に限定される結果、三次元的な光波の分布を求めるには高速フーリエ変換を複数回使用する必要があり、上記の時間でも十分短いとは言えない。
【0007】
そこで、本発明は、上記課題に鑑み、より計算時間を短縮することのできるホログラムデータ作成方法及び、ホログラムデータ作成プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の一観点に係るホログラムデータ作成プログラムは、コンピュータに、ウェーブレット変換を行い、ウェーブレット領域データを得るステップ、ウェーブレット領域データのうち一部を選択するステップ、選択された一部のウェーブレット領域データに対して逆ウェーブレット変換を行うステップ、を実行させるためのものである。
【0009】
また、本発明の他の一観点に係るホログラムデータ作成方法は、ウェーブレット変換を行い、ウェーブレット領域データを得るステップ、ウェーブレット領域データのうち一部を選択するステップ、選択された一部のウェーブレット領域データに対して逆ウェーブレット変換を行うステップ、を備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
以上、本発明によって、より計算時間を短縮することのできるホログラムデータ作成方法及び、ホログラムデータ作成プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ウェーブレット係数の分布の例を示す図である。
図2】PSFの例を示す図である。
図3】PSFのウェーブレット分解の計算結果の例を示す図である。
図4】PSFの例を示す図である。
図5図4の例における強度プロファイルを示す図である。
図6】実施例にて作成したホログラムの例を示す図である。
図7】実施例にて作成したホログラムの例を示す図である。
図8】実施例にて作成したホログラムの例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例における具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
【0013】
本実施形態に係るホログラムデータ作成プログラム(以下「本プログラム」という。)は、
コンピュータに、(S1)ウェーブレット変換を行い、ウェーブレット領域データを得るステップ、(S2)ウェーブレット領域データのうち一部を選択するステップ、(S3)上記(S1)及び(S2)を複数回繰り返し、それぞれにおいて、選択された一部のウェーブレット領域データの足し合わせを行うステップ、(S4)選択された一部のウェーブレット領域データに対して逆ウェーブレット変換を行うステップ、を実行させるためのものである。
【0014】
限定されるわけではないが、本プログラムは、情報処理装置、いわゆるコンピュータのハードディスクやCD−ROM等の記録媒体に記録され、実行されることにより実現できる。より具体的に説明すると、中央演算装置(CPU)、ハードディスクやフラッシュメモリ等の不揮発性の記憶装置、RAM等の揮発性の記憶装置、これらを電気的に接続するバスライン、キーボードやマウス等の入力装置、液晶ディスプレイ等の表示装置等を備えたコンピュータを用い、上記不揮発性の記憶装置に本プログラムを格納し、揮発性の記憶装置に読み込み実行させることで所望の処理を実行することができる。
【0015】
すなわち、上記の記載から明らかなとおり、上記プログラムを実行することで、(S1)ウェーブレット変換を行い、ウェーブレット領域データを得るステップ、(S2)ウェーブレット領域データのうち一部を選択するステップ、(S3)上記(S1)及び(S2)を複数回繰り返し、それぞれにおいて、選択された一部のウェーブレット領域データの足し合わせを行うステップ、(S4)選択された一部のウェーブレット領域データに対して逆ウェーブレット変換を行うステップ、を実行するホログラムデータ作成方法(以下「本方法」という。)を提供することができる。以下、本方法の詳細について説明する。
【0016】
光波の計算は、原理的には点光源から発する光波の足し合わせと考えることができ、本方法はこの光波の足し合わせをウェーブレット変換領域において行うことで、光波計算の計算量を大幅に削減することができる。
【0017】
まず、本方法は、(S1)ウェーブレット変換を行い、ウェーブレット領域データを得るステップを備える。本ステップは、いわゆる事前計算である。
【0018】
本ステップでは、点広がり関数(PSF)uzj(x、y)を物体点(0,0,z)から計算し、その後、空間領域のPSFをウェーブレット領域のPSFに変換を行う。この場合においてウェーブレット変換は高速ウェーブレット変換であることが好ましい。
【0019】
なおここで、PSFuzj(x、y)は、スケーリング係数s(l)m,nを使用して以下のように表される。なおlはウェーブレット分解のレベルを意味する。
【数1】
【0020】
また上記式中、m、nは整数であり、φはスケーリング関数をそれぞれ意味する。
【0021】
なお、スケーリング係数のレベルがゼロである場合、元の信号であると考えることができる。すなわち、下記を満たす。
【数2】
【0022】
また、ウェーブレット変換は、下記式で示されるように、uzj(x、y)を、スケーリング係数s(l)m,nとウェーブレット係数w(l)LH,m、n’、w(l)HL,m、n’、w(l)HH,m、n’、に分解する。
【数3】
【0023】
本方法において、lは、限定されるわけではないが、2以下であることが経験的に質の高い画像を得ることができることを確認しており、好ましいが、m、nの値に応じて異なる。
【0024】
ここで、ウェーブレット変換後のスケーリング係数及びウェーブレット係数の分布について図1に、図2にPSFを、図3に、このPSFのウェーブレット分解の計算結果の例について示しておく。なお、これらの図では、波長633nmにおいて、画素のピッチ10μm、z=100mmとした。また、元々のスケーリング係数及びウェーブレット係数の数は、ホログラムの画素数と同じであり、Nとした。
【0025】
ところで、後述の足し合わせを行うステップにおいて、そのままの数を足し合わせるとその計算量は膨大となる。そこで、本方法は、(S2)ウェーブレット領域データのうち一部を選択するステップを備える。具体的には、上記(S1)において行ったウェーブレット変換において得られるデータのうち、ウェーブレット係数の大きなものだけを選択する。なお本ステップも事前計算の一環として行われる。
【0026】
本ステップにおいて、一部を選択するステップは、計算量を削減できるものであれば適宜採用可能であるが、小さなウェーブレット係数のものを削除する(ウェーブレット係数の大きなものを残す)ことにより行う。なおこの係数の大きさは振幅により評価・選択することが好ましい。
【0027】
また、本ステップにおいては、計算量を削減するために下記N係数を定義し、一部を選択する。なお下記式中、WはPSFuzjの半径であり、rは選択率を意味し、振幅の大きなものからどの程度選択するのかを意味する。
【0028】
この効果については後述の記載から明らかであるが、例えば選択する数をr=1%とする場合、計算量は1/100となる。
【数4】
【0029】
また、選択された係数は、例えば下記で定義されるベクトルvにより記録しておくことが好ましい。
【数5】
【0030】
なお、上記式中、αz,kは下記で表現される。
【数6】
【0031】
また、本方法は、上記の通り(S3)上記(S1)及び(S2)を複数回繰り返し、それぞれにおいて、選択された一部のウェーブレット領域データの足し合わせを行うステップを備える。言い換えると、上記(S1)、(S2)を複数回繰り返すことで一部のウェーブレット領域データを複数求め、これらを足し合わせることで、足し合わせ後のウェーブレット領域データを得る。
【0032】
本ステップにおいて、具体的に(S1)及び(S2)は、それぞれ物体点の高さ(z)を異ならせて平面的なPSFを複数求め、そのそれぞれに対してウェーブレット変換を行い、更に、それぞれに一部のウェーブレット領域データを選択し、そのそれぞれを足し合わせることにより行う。
【0033】
ここで、足し合わせは、限定されるわけではないが、下記式に基づき行うことが好ましい。
【数7】
【0034】
ここでδ(m,n)はディラックδ関数である。また、上記式において、位置(m,n)における上記係数cz,kは、重ね合わせにおいて下記の式に従い、水平方向及び垂直方向にシフトし、また、ウェーブレット空間ψ(m,n)に加えられていく。なおx、yはそれぞれ当初(シフト以前に)計算した物体点の座標位置を意味する。
【数8】
【0035】
なお、上記足し合わせの式において、足し合わせは、同一の領域におけるczj,kを意味する。例えば、上記図1において、点aのczj,kが点bに移動した場合は、足し合わせを行う一方、上記点aがc又はdに移動した場合は、足し合わせを行わない。これは、aとbは同じ領域であり、aとc、aとdはそれぞれ違う領域だからである。
【0036】
また、(S4)選択された一部のウェーブレット領域データに対して逆ウェーブレット変換を行うステップ、を備える。
【0037】
本ステップの「逆ウェーブレット変換」は、上記(S1)において用いたウェーブレット変換と同様の変換の逆変換を用いることができる。
【0038】
なお図4(a)にオリジナルのPSFを、(b)に、本方法をr=20%の条件で用いて求めたPSFを、(c)に、本方法をr=10%の条件で用いて求めたPSFを、(d)に、本方法をr=5%の条件で用いて求めたPSFを、それぞれ示す。
【0039】
また、図4(e)は、二つの物体点から求めた回折パターンを、(f)に、(e)に対し本方法をr=20%の条件で用いて求めた回折パターンを、(g)に、(e)に対し本方法をr=10%の条件で用いて求めた回折パターンを、(h)に、(e)に対し本方法をr=5%の条件で用いて求めた回折パターンを、それぞれ示す。
【0040】
また図5(a)は、上記図4(a)及び(d)の強度プロファイルを、図5(b)は、上記図4(e)及び(h)の強度プロファイルを、それぞれ示しておく。
【0041】
以上の各ステップを実行することによって、本方法では、例えばr=1%とした場合、計算量を、通常の高速フーリエ変換を行った場合に比べ、更に1/100程度にすることが可能となる。すなわち、画質を維持したまま、光波の計算の高速化が可能となる。つまり、より計算時間を短縮することのできるホログラムデータ作成方法及び、ホログラムデータ作成プログラムを提供することができる。
【実施例】
【0042】
ここで、実際に上記方法について、具体的な例を用いて本発明の効果について確認を行った。具体的には、従来手法(S.C.Kimら,“Effective generation of digital holograms Oof three−dimensional objects using a novel using a look−up table”,Appl.Opt.47,D55−D62,2008)と、上記方法(r=5%、r=1%)との差異について確認を行った。
【0043】
本実施例では、3種類の画像(物体点1万点、10万点、100万点)を用い、しかもそれぞれz=0.5m、0.2m、0.1m、0.05mと異ならせ、そのそれぞれに対し上記方法による効果を確認した。この結果のうち、z=0.5m、0.05mの結果を図6乃至8に示す。また、これらの計算の結果について下記表1乃至3に示しておく。なお、この場合においてホログラムのサイズは2048×2048画素とした。
【表1】
【表2】
【表3】
【0044】
この結果によると、本手法ではいずれもPSNRが概ね30dBであり、画像処理において問題ないといわれている範囲に収まっていることが確認できた。また、計算時間においても、三次元物体間の距離や形状などによって異なるが、従来技術に比べ大幅に削減できていることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、及びホログラムデータ作成プログラム及びホログラムデータ作成方法として産業上の利用可能性がある。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8