(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。なお以下の説明において、酸化スズ粒子とは、文脈に応じて個々の粒子を指す場合と、粒子の集合体としての粉体を指す場合とがある。本発明の酸化スズ(SnO
2)粒子はアンチモンを含有するものである。本発明の酸化スズ粒子は、アンチモンを含有する酸化スズのみから構成されていてもよく、あるいは芯材と、該芯材の表面に配置され且つアンチモンを含有する複数の微粒酸化スズ(SnO
2)粒子とを有するものであってもよい。後者の場合、複数の微粒酸化スズ粒子は、それらの集合体が芯材の表面を被覆した状態になっている。微粒酸化スズ粒子の粒径は、芯材の粒径よりも小さい。
【0009】
本発明の酸化スズ粒子が、芯材と、該芯材の表面に配置された複数の微粒酸化スズ(SnO
2)粒子とを有するものである場合、芯材は粒子状の形態をしている。芯材は、酸化スズ粒子における容積の大部分を占める部位であり、酸化スズ粒子の中心域に位置する。一方、微粒酸化スズ粒子は、本発明の酸化スズ粒子の最表面に位置する。微粒酸化スズ粒子と芯材とは直接に接していてもよく、あるいは両者間に他の層ないし粒子が介在していてもよい。好ましくは、微粒酸化スズ粒子と芯材とは直接に接している。
【0010】
芯材は、導電性材料又は非導電性材料からなる。本明細書に言う非導電性とは、体積抵抗率が例えば10
13Ω・cm以上であることを言う。芯材が導電性であるか、それとも非導電性であるかは、本発明において臨界的ではない。本発明の酸化スズ粒子の赤外線遮蔽性能の向上の観点からは、芯材は非導電性材料からなることが好ましい。
【0011】
芯材が非導電性材料である場合、該芯材としては、例えばシリカ、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン及び酸化アルミニウムなどを用いることができる。芯材として酸化チタンを用いる場合、その結晶系としてルチル型及びアナターゼ型のいずれを用いてもよい。これらの芯材は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
芯材の形状は、その表面に微粒酸化スズ粒子を配置することが可能な形状であればよく、本発明の酸化スズ粒子の具体的な用途に応じて、球状、多面体状、フレーク状、針状等の種々の形状のものが用いられる。本発明において、複数の微粒酸化スズ粒子から構成される被覆の厚みは芯材の大きさに比べて非常に小さいので、通常、芯材の形状と、該芯材の表面に微粒酸化スズ粒子が配置されてなる本発明の酸化スズ粒子の形状とは概ね同じであるとみなすことができる。
【0013】
芯材の一次粒子径は小粒径であることが好ましい。具体的には、芯材の一次粒子径は0.001μm以上0.5μm以下であることが好ましく、0.001μm以上0.4μm以下であることが更に好ましく、0.05μm以上0.4μm以下であることが一層好ましい。特に、コロイダルシリカやコロイダルアルミナなど、一次粒子径が0.001μm以上0.13μm以下の微粒の芯材を用いると、本発明の酸化スズ粒子から得られる膜の透明性が一層向上し、且つ導電性も一層向上するので好ましい。透明性及び導電性の更に一層の向上の観点からは芯材の一次粒子径は0.11μm以下であることが更に好ましい。コロイダルシリカやコロイダルアルミナは、これらを単独で用いることもできるし、あるいは両者を組み合わせて用いることもできる。製造容易性の観点からは芯材の一次粒子径は0.01μm以上であることが好ましい。芯材の一次粒子径は、芯材を透過型電子顕微鏡(以下、「TEM」とも言う。)で5千倍以上50万倍以下程度に拡大し、300個以上の芯材を対象として、該芯材の拡大像を例えばソフトウェアマックビューで画像解析し、Feret径を算出する。その相加平均を算出し、その値を一次粒子径とする。
【0014】
本発明の酸化スズ粒子の最外層をなす複数の微粒酸化スズ粒子からなる被覆は、芯材の表面が全く露出しないように該表面を満遍なく連続して存在していることが、本発明の酸化スズ粒子の赤外線遮蔽性能を高める点から好ましい。しかし、本発明の効果を損なわない範囲において、複数の微粒酸化スズ粒子からなる被覆は、芯材の表面が一部露出するように該表面に不連続に存在していてもよい。
【0015】
複数の微粒酸化スズ粒子からなる被覆の厚みは、本発明の酸化スズ粒子の赤外線遮蔽性能が十分に発現する程度であれば、過度に厚くする必要はない。被覆の厚みを酸化スズ(SnO
2)の量に換算して表すと、本発明の酸化スズ粒子に占める酸化スズの割合が50質量%以上99質量%以下、特に65質量%以上99質量%以下となるような厚みであることが好ましい。本発明の酸化スズ粒子中のスズの量は、本発明の酸化スズ粒子における微粒酸化スズ粒子からなる被覆をアルカリで溶解させて得られる溶液について、ICP発光分光測定器で測定することによって求めることができる。
【0016】
本発明の酸化スズ粒子が、芯材を含まない場合、及び芯材を含む場合のいずれであっても、酸化スズにはアンチモンが含まれている。酸化スズにアンチモンを含有させることで、本発明の酸化スズ粒子に赤外線遮蔽性能が付与される。
【0017】
赤外線の遮蔽は、プラズマ反射とバンドギャップ吸収とが繰り返して起こることで、電磁波(赤外線)が熱に変換されて減衰することで生じると一般に考えられている。本発明の酸化スズ粒子が芯材を含む場合、プラズマ反射は、芯材の種類によって挙動が異なる。したがって芯材の種類を適切に選択することで、プラズマ反射を主とする赤外線遮蔽性能と、バンドギャップ吸収を主とする赤外線遮蔽性能とを使い分けることが可能になる。
【0018】
本発明の酸化スズ粒子が、芯材を含まない場合、及び芯材を含む場合のいずれであっても、酸化スズに含まれるアンチモンの割合は、酸化スズにおけるスズの全量に対して3質量%以上20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上25質量%以下であることが一層好ましい。この範囲でアンチモンを含有させることで、本発明の酸化スズ粒子の赤外線遮蔽性能が十分に発揮される。酸化スズ粒子に含まれるアンチモンの割合は、粒子をアルカリで溶解させて得られる溶液について、ICP発光分光測定器で測定することによって求めることができる。
【0019】
本発明の酸化スズ粒子の赤外線遮蔽性能について本発明者が種々の検討を行った結果、赤外線遮蔽性能は、酸化スズ粒子の色味と、酸化スズ中に含まれるアンチモンの量とに関連することが判明した。本発明者が更に検討を推し進めたところ、酸化スズ粒子の色味は明度L*で代表させることが適切であることが判明した。そして酸化スズ粒子の明度L*と、酸化スズに含まれるスズの全量に対するアンチモンの割合A(質量%)との比率であるL*/Aの値を好ましくは1.0以上9.0以下に設定すると、本発明の酸化スズ粒子の赤外線遮蔽性能が極めて向上することが判明した。この利点を一層顕著なものとする観点から、L*/Aの値は1.0以上8.5以下であることが更に好ましく、2.0以上8.0以下であることが一層好ましく、3.0以上7.8以下であることが更に一層好ましい。
【0020】
本発明の酸化スズ粒子におけるL*/Aの値は、上述の範囲であることが好ましいところ、L*の値は、高い赤外線遮蔽能力を確保するためには80未満であることが好ましく、75以下であることが更に好ましい。下限は特に制限はないが、可視光線の透過を十分確保する観点から、L*の値は30以上が好ましく、40以上が更に好ましい。具体的には、L*の値は30以上80未満であることが好ましく、30以上75以下であることが更に好ましく、40以上75以下であることが一層好ましい。L*の値は例えば日本電色工業(株)製の分光色差計SE600によって測定することができる。
【0021】
本発明の酸化スズ粒子におけるL*/Aの値を上述の範囲内に設定するためには、例えば後述する方法で酸化スズ粒子を製造すればよい。
【0022】
本発明の酸化スズ粒子の赤外線遮蔽性能を一層向上させるためには、酸化スズの結晶子サイズを調整することも有利である。詳細には、酸化スズの結晶子サイズを3nm以上25nm以下に設定することが好ましく、4nm以上20nm以下に設定することが更に好ましく、4nm以上10nm以下に設定することがより一層好ましい。酸化スズの結晶子サイズをこの範囲内に設定するには、例えば後述する方法で本発明の酸化スズ粒子を生成させればよい。
【0023】
酸化スズの結晶子サイズは、次の方法で測定される。すなわち、X線回折装置Ultima IV(株式会社リガク製)を用いてXRD測定を行う(条件:X−ray CuKα、40kV、50mA、測定範囲20°≦2θ≦100°、線源:CuKα、走査軸:2θ/θ、測定方法:FT、計数単位:Counts、ステップ幅:0.01°、計数時間:3秒、発散スリット:2/3°、発散縦制限スリット:10mm、散乱スリット:2/3°、受光スリット:0.3mm、モノクロ受光スリット:0.8mm)。続いて、リガク製の解析ソフトウェアPDXLを用いて測定データを読み込み(SnO
2のICDDカード:00−046−1088を使用)、精密化した後にHalder−Wagner法により結晶子径の算出を行う(外部標準試料による幅補正を行い、解析対象は結晶子サイズと格子歪とする)。
【0024】
本発明の酸化スズ粒子は赤外線遮蔽性能を有することに加えて、アンチモンを含む酸化スズに起因する導電性を有するものである。導電性の程度は、圧粉抵抗で表して好ましくは1.0×10
0Ω・cm以上1.0×10
8Ω・cm以下、更に好ましくは1.0×10
0Ω・cm以上1.0×10
7Ω・cm以下である。この範囲の圧粉抵抗は、本発明の酸化スズ粒子から導電膜を形成するのに十分に低い値である。圧粉抵抗の測定方法は次のとおりである。本発明の酸化スズ粒子5gを4.9kN(500kgf)の荷重で0.5分間プレスし、直径25mmの円筒状ペレットを作製する。得られたペレットの抵抗値を、三菱化学製のMCP―T600(商品名)を用い、四探針法により測定する。
【0025】
本発明の酸化スズ粒子が、芯材を含まない場合、及び芯材を含む場合のいずれであっても、その粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による累積体積50容量%における体積累積粒径D
50で表して、好ましくは0.05μm以上1.0μm以下であり、更に好ましくは0.1μm以上0.8μm以下であり、一層好ましくは0.2μm以上0.7μm以下である。粒径D
50がこの範囲内であることによって、本発明の酸化スズ粒子を配合してなる樹脂組成物は、その塗布性が良好になったり、塗膜の赤外線遮蔽性能や導電性が良好になったりする。
【0026】
上述のD
50の測定は、例えば以下の方法で行うことができる。0.1gの測定試料を、ヘキサメタリン酸ナトリウムの20mg/L水溶液100mLと混合し、超音波ホモジナイザ(日本精機製作所製 US−300T)で10分間分散させる。その後、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置、例えば日機装社製マイクロトラックX−100を用いて粒度分布を測定する。
【0027】
本発明の酸化スズ粒子は、バインダ樹脂への分散性の観点の点から、そのBET比表面積が、10m
2/g以上130m
2/g以下であることが好ましく、10m
2/g以上110m
2/g以下であることが更に好ましく、12m
2/g以上90m
2/g以下であることが一層好ましい。本発明の酸化スズ粒子のBET比表面積を前記の範囲内とするためには、後述する本発明の酸化スズ粒子の製造方法において、焼成温度及び焼成雰囲気を適切に制御すればよい。BET比表面積は、例えばユアサアイオニクス(株)製のモノソーブ(商品名)を用い、BET1点法(He/N
2混合ガス)に従い測定することができる。後述する実施例においては、粉末の量を0.3gとし、予備脱気条件は大気圧下、105℃で10分間として測定を行った。
【0028】
本発明の酸化スズ粒子は、これを用いて製造された膜のヘイズが低いことが好ましい。具体的には、膜のヘイズは70%以下であることが好ましく、60%以下であることが更に好ましく、30%以下であることが一層好ましく、17%以下であることが更に一層好ましい。特に、上述したコロイダルシリカやコロイダルアルミナなど、一次粒子径が0.01μm以上0.11μm以下の微粒の芯材を用いると、膜のヘイズを10%以下という低い値にすることができる。
【0029】
前記のヘイズの測定に供される膜は前記の方法で形成される。樹脂として三菱レイヨン製のアクリル系コーティング樹脂であるダイヤナールLR-167を用いる。このバイン
ダ樹脂と本発明の酸化スズ粒子とを、バインダ樹脂6.41質量部、本発明の酸化スズ粒子7.41質量部の比率でもって混合する。混合を十分に行う目的で、有機溶媒であるトルエンとn−ブタノールの混合溶媒(容積比7:3)を9.64質量部添加する。次いでペイントシェーカー(浅田鉄鋼製)を用い、1時間分散を行う。ペイントシェーカーの運転条件は、60Hz環境下の運転条件とする。このようにして得られた樹脂組成物を、ポリエチレンテレフタレート製のOHPフィルム(株式会社内田洋行製のトランスペアレンシー OHP用フィルム)に塗工する。塗工にはバーコーター#10(テスター産業株式会社製のROD No.10)を用い、使用液量約1mLで塗膜を形成する。塗膜形成後、大気圧下に80℃で15分間にわたり乾燥を行い、膜を得る。
【0030】
次に、本発明の酸化スズ粒子の好適な製造方法について、芯材を有する酸化スズ粒子の製造方法を一例に挙げて説明する。本発明の酸化スズ粒子は、芯材の表面に、該芯材の粒径よりも小さい粒径を有する複数の微粒酸化スズ粒子の集合体からなる被覆を形成することによって製造される。
【0031】
微粒酸化スズ粒子の被覆の形成は少なくとも2段階で行うことが、赤外線遮蔽性能の向上の点から有利である。この2段階は、次に述べるa工程及びb工程を含む。
a工程:スズ源及びアンチモン源を含有し、且つ芯材を分散させたスラリーを中和することによって、該芯材の表面にスズ化合物及びアンチモン化合物を被覆させる。
b工程:アンチモン源を含有し、且つa工程完了後の粒子を分散させたスラリーを中和することによって、該芯材の表面にアンチモン化合物を被覆させる。
以下、これらの工程についてそれぞれ説明する。
【0032】
まずa工程においては、芯材を分散させたスラリーを準備する。スラリーの分散媒としては、芯材の種類や、中和反応の条件等に応じて適切な液体が選択される。一般的には水が用いられる。スズ源及びアンチモン源の添加前のスラリーにおいて、分散媒と芯材との配合比率は、分散媒1リットルに対して芯材が50g以上240g以下、特に60g以上200g以下であることが好ましい。両者の配合比率がこの範囲内にあると、芯材の表面にスズ化合物及びアンチモン化合物の均一な被覆層が容易に形成されるからである。
【0033】
スズ源は、芯材を被覆するスズ化合物の層を形成するために用いられる。スズ源としては、芯材の表面にスズ化合物の層を形成し得るものが用いられる。スズ源は水溶性化合物であることが好ましい。スズ源は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。同様に、アンチモン源は、アンチモンを含む水溶性化合物であることが好ましい。アンチモン源も1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
スラリーにおけるスズ源と芯材との配合比率は、該芯材100質量部に対するスズ源中のSn量が10質量部以上90質量部以下、特に15質量部以上85質量部以下であることが好ましい。一方、スラリーにおけるアンチモン源と芯材との配合比率は、該芯材100質量部に対するアンチモン源中のSb量が1質量部以上39質量部以下、特に2質量部以上20質量部以下であることが好ましい。このように比率を設定すると、芯材の表面にスズ化合物及びアンチモン化合物の均一な層を形成させやすい。これらの配合比率を適宜調整することで、芯材の表面に生成する酸化スズの量や、酸化スズの量に対するアンチモンの割合をコントロールすることができる。
【0035】
スラリーの中和には通常、酸又はアルカリを用いる。酸としては、例えば硫酸、硝酸、酢酸などの水溶液が用いられる。硫酸を用いる場合、希硫酸、特に濃度が10容量%以上50容量%以下の希硫酸を用いると、スズ化合物及びアンチモンの均一な層が得られやすいため好ましい。アルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム水溶液などを用いることができる。スズ源及びアンチモン源の添加と、酸又はアルカリの添加とは、どちらが先でもよく、同時でもよい。
【0036】
中和を行う際のスラリーのpHは、好ましくは0.5以上6.0以下、更に好ましくは1.5以上4.0以下とする。中和の際のpHをこの範囲内とすることにより、芯材の表面にスズ及びアンチモンの共沈物の層を容易に形成することができる。中和を行った後、スラリーの撹拌を継続させて熟成(エージング)を行うことが好ましい。熟成は30分以上180分以下、特に60分以上120分以下で行うことが好ましい。熟成によってスズ及びアンチモンの共沈物の均一な層が形成されやすくなる。熟成は、一般に70℃以上80℃以下で行うことができる。
【0037】
このようにしてスズ及びアンチモンの共沈物の層が表面に形成された芯材が得られる。これによってa工程が完了する。この時点で生成した粒子のことを「前駆体粒子」と呼ぶ。前駆体粒子が生成した時点では、スラリー中にはスズのイオン種は実質的に存在していないことが好ましい。また、アンチモンのイオン種も実質的に存在していないことが好ましい。実質的に存在していないとは、スズのイオン種又はアンチモンのイオン種の濃度が0.01mol/L以下であることを言う。
【0038】
次にb工程においては、a工程において得られた前駆体粒子を含むスラリーにアンチモン源を添加する。添加するアンチモン源は、a工程で用いたものと同じものであってもよく、あるいは異なるものであってもよい。スラリーにおけるアンチモン源と芯材との配合比率は、該芯材100質量部に対するアンチモン源中のSb量が1質量部以上30質量部以下、特に2質量部以上20質量部以下であることが好ましい。この配合比率を適宜調整することで、酸化スズの量に対するアンチモンの割合をコントロールすることができる。
【0039】
スラリーの中和方法、及びそれに用いられる化合物はa工程と同様とすることができる。中和時のpH温度及び時間もa工程と同様とすることができる。中和によって、前駆体粒子の表面にアンチモン化合物が生成する。これによってb工程が完了する。
【0040】
このようにしてスズ化合物及びアンチモン化合物の層が表面に形成された芯材は、反応系から分離され、好ましくは洗浄及び乾燥工程を経て、次工程である焼成工程に付される。
【0041】
焼成工程は、大気等の酸化性雰囲気中で行うこともでき、あるいは非酸化性雰囲気中で行うこともできる。非酸化性雰囲気としては、例えば窒素雰囲気やアルゴン雰囲気などの非酸化性且つ非還元性雰囲気、少量の水素を含有した窒素雰囲気等の弱還元性雰囲気等が挙げられる。焼成温度は、焼成雰囲気によらず、好ましくは400℃以上900℃以下、更に好ましくは500℃以上800℃以下である。焼成時間は、好ましくは20分以上120分以下、更に好ましくは40分以上100分以下である。焼成温度及び時間がこれらの範囲内にあると、焼成によって得られる本発明の酸化スズ粒子が凝集を起こし難い。また、これらの焼成条件を適宜調整することで、酸化スズの結晶子サイズをコントロールすることができる。更に、これらの焼成条件を適宜調整することで、得られる本発明の酸化スズ粒子の色味をコントロールすることができる。
【0042】
以上の工程によって、芯材の表面が、アンチモンを含む酸化スズで被覆される。これによって目的とする本発明の酸化スズ粒子が得られる。
【0043】
以上の説明は、芯材を含む本発明の酸化スズ粒子の製造方法に係るものであったところ、芯材を含まない本発明の酸化スズ粒子を製造する場合には、上述の製造方法において芯材を用いずに、a工程及びb工程を行えばよい。
【0044】
このようにして得られた本発明の酸化スズ粒子は、そのままの状態で赤外線遮蔽材として用いてもよく、あるいは樹脂と混合して赤外線遮蔽用樹脂組成物として用いてもよい。この樹脂組成物に、必要に応じて有機溶媒等を添加して、インキやペーストの状態とすることできる。あるいは樹脂に練り込んでマスターバッチの状態とすることもできる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0046】
〔実施例1〕
純水9000mLに、スズ酸ナトリウム(Na
2SnO
3、純度91%)560g及び三塩化アンチモン(SbCl
3、品位98%)42.0gを溶解させた(第一段添加)。この溶液を75℃に加熱し、引き続きスラリーを30分間撹拌した。次いで、20%希硫酸水溶液を30分間かけて添加してpH5まで中和した。この時点で、スラリー中にスズイオンは実質的に存在していなかった。その後、三塩化アンチモン(SbCl
3、品位98%)42.0gを水100mLに溶解してなる水溶液を20分間かけて添加した(第2段の添加)。この添加中に、25%NaOH水溶液を滴下し、スラリーのpHを3.0に維持した。中和後のスラリーを、pH3.0及び温度75℃に保持しながら0.5時間熟成した。熟成後のスラリーを濾過し、固形分を水で洗浄した。洗浄は水の導電度が200μS/cmまで低下するまで行った後、濾過・乾燥した。得られた乾燥物を、横型チューブ炉で焼成した。焼成条件は、1%H
2/99%N
2雰囲気下で、600℃、0.5時間とした。このようにして目的とする酸化スズ粒子を得た。
【0047】
〔実施例2〕
実施例1における第1段及び第2段の添加において、三塩化アンチモンの添加量をそれぞれ84.0gとした。これ以外は実施例1と同様にして酸化スズ粒子を得た。
【0048】
〔実施例3〕
SiO
2粒子を芯材として用いた。この芯材は、透過型電子顕微鏡観察画像をソフトウェアマックビューで画像解析して測定された一次粒子径(Feret径)が50nmであった。この芯材100gを水1リットルに分散させてスラリーを得た。このスラリーを75℃まで加熱した後、25%水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、スラリーのpHを12程度に調整した。次いでスズ酸ナトリウム(Na
2SnO
3、純度91%)330g及び三塩化アンチモン(SbCl
3、品位98%)16gを水300mLに溶解してなる水溶液を全量スラリーに添加した(第1段の添加)。引き続きスラリーを30分間撹拌した。次いで、20%希硫酸水溶液を30分間かけて添加してpH5まで中和した。この時点で、スラリー中にスズイオンは実質的に存在していなかった。その後、三塩化アンチモン(SbCl
3、品位98%)16gを水100mLに溶解してなる水溶液を20分間かけて添加した(第2段の添加)。この添加中に、25%NaOH水溶液を滴下し、スラリーのpHを3.0に維持した。中和後のスラリーを、pH3.0及び温度75℃に保持しながら0.5時間熟成した。熟成後のスラリーを濾過し、固形分を水で洗浄した。洗浄は水の導電度が200μS/cmまで低下するまで行った後、濾過・乾燥した。得られた乾燥物を、横型チューブ炉で焼成した。焼成条件は、1%H
2/99%N
2雰囲気下で、600℃、0.5時間とした。このようにして目的とする酸化スズ被覆粒子を得た。
【0049】
〔実施例4〕
実施例3における三塩化アンチモンの第1段及び第2段の添加において、その添加量をそれぞれ12.0gとした。これ以外は実施例1と同様にして酸化スズ粒子を得た。
【0050】
〔実施例5〕
実施例1における三塩化アンチモンの第1段及び第2段の添加において、その添加量をそれぞれ130.0gとした。これ以外は実施例1と同様にして酸化スズ粒子を得た。
【0051】
〔比較例1〕
実施例1において、第1段で三塩化アンチモンを84.0g添加し、第2段での三塩化アンチモンの添加を行わなかった。これ以外は実施例1と同様にして酸化スズ粒子を得た。
【0052】
〔比較例2〕
実施例3において、第一段で三塩化アンチモンを32.0g添加し、第二段での三塩化アンチモンの添加を行わなかった。これ以外は実施例3と同様にして酸化スズ被覆粒子を得た。
【0053】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた粒子について、上述の方法で、明度L*、酸化スズ中のスズの全量に対するアンチモンの割合A、酸化スズの結晶子サイズ、圧粉抵抗、BET比表面積、粒子全体に占める酸化スズの割合、粒径D
50を測定した。それらの結果を以下の表1に示す。
また以下の方法で、赤外線遮蔽率、可視光線透過率及びヘイズを測定した。それらの結果を以下の表1に示す。
【0054】
〔赤外線遮蔽率〕
先に述べた、ヘイズの測定に供される膜を製造するために用いられる樹脂組成物を調製した。この樹脂組成物を、スピンコーター(ミカサ社製IH−D7)を用いて、カバーガラスNo1(松浪硝子)に塗布した。得られた塗膜を大気圧下に80℃で15分間にわたり乾燥させて作製した膜を測定対象として用いた。分光光度計V−670(日本分光株式会社)を用いて、紫外可視光線の透過スペクトルを測定した。そしてJIS A5759に準じて可視光線透過率及び日射透過率を測定し赤外線遮蔽率〔=可視光線透過率/日射透過率〕を算出した。
【0055】
〔ヘイズ〕
前項の赤外線遮蔽率の測定で作製した膜を測定対象として用いた。日本電色工業(株)製のヘイズメーターであるMODEL 1001DP(商品名)によってヘイズを測定した。測定はJIS K7105に準拠し、積分球式測定法によって行った。ヘイズ[%]は(散乱光/全光線透過光)×100から算出した。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示す結果から明らかなとおり、各実施例で得られた酸化スズ粒子及び酸化スズ被覆粒子は、比較例の粒子に比べて赤外線遮蔽性能に優れていることが判る。