(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
プロトン型MFI構造ゼオライトを含み、触媒再生時にスチームに曝される少なくとも1種の炭素数4〜6のオレフィンを含む炭化水素原料の低級オレフィンへの転換反応用触媒であり、
当該ゼオライトを27Al-MAS-NMRにより測定して得られるNMRスペクトルのケミカルシフト45ppm〜65ppm領域に見られる当該ゼオライトの骨格内Alに由来するピークを45ppmと65ppmに対して基準線を引き、中心の55ppmでX軸(ケミカルシフト)に対して垂直方向に2分割した際、45ppm〜55ppmの低ケミカルシフト領域の面積が、45ppm〜65ppmの面積全体の50%以上を占め、
ゼオライトは、処理温度560℃、スチーム分圧0.53MPa、24時間のスチーム処理の後に、45ppm−55ppm領域のピークが残存するものであることを特徴とするゼオライト含有触媒。
さらに、アルミニウムの酸化物および/または水酸化物、シリコンの酸化物および/または水酸化物、粘土の群から選択された1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のゼオライト含有触媒。
請求項1〜3のいずれかに記載のゼオライト含有触媒を、触媒を再生する設備を備えた反応器内に装入し、炭素数4〜6のオレフィンを含む炭化水素原料と、接触させて、炭化水素原料を低級オレフィンに転換するとともに、反応によって失活した触媒を、酸素を含む酸化性ガスで再生させて、触媒として使用することを特徴とする、低級オレフィンの製造方法。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、接触分解反応、異性化反応等の不均一触媒反応において、触媒活性成分として広く適用されている。特に、炭素数4〜6の低級オレフィンを原料とする低級オレフィン転換反応では、触媒活性成分には、MFI構造ゼオライトが用いられている。MFI構造ゼオライトの合成として、たとえば、非特許文献1(Verified Syntheses of Zeolitic Materials, (2001), 198) に記載の方法等が挙げられる。
【0003】
従来このような反応では、反応器内に原料を連続的に流通させ、流動床や固定床におかれた触媒と接触させ、活性が低下した触媒は原料と分離されて、再生処理が施され、再度、触媒(再生触媒)として使用される。
【0004】
再生処理では、触媒失活の原因となる炭素成分を、酸素を含む酸化性ガスによって燃焼除去される。燃焼によって水蒸気が発生するが、触媒として使用されるゼオライトは、スチーム共存下において、特に温度が500℃以上の場合、ゼオライト骨格中の四配位Alが脱離して、ゼオライト構造が壊れると同時に、活性点の減少により、触媒活性が急激に低下し、ゼオライトの不可逆的な失活が生じるという問題点があった。
【0005】
ゼオライト骨格中の脱Alを抑制する方法として、リン化合物(特許文献1:特表2009−511245号公報)、さらにCa、Sr等のアルカリ土類金属(非特許文献2:Studies in Surface Science and CatAlysis, 158(2005), 191)による修飾MFI構造ゼオライトが知られている。しかしながら、これらはあくまでもゼオライトをリン化合物、さらにはアルカリ土類金属で修飾することによって、脱Alを抑制しているものであり、ゼオライト自体の水熱安定性には言及していない。
【0006】
非特許文献3(The Journal of Physical Chemistry C, 119(27), 15303)では、ゼオライト骨格中のAlの存在位置を、ゼオライト合成時に使用する構造規定剤の種類を選択することにより、制御可能であるとすることが報告されている。
【0007】
非特許文献4(触媒, 57(2), 2015, 113)では、有機構造規定剤を使用せずに合成したゼオライトは、有機構造規定剤を使用したゼオライトと比較して、脱Alが抑制されることを報告している。ここでは、Alの存在位置が脱Alに影響を及ぼす可能性があることを推察しているが、どのような特性で何を定義すべきか何ら示唆されていない。
【0008】
特許文献2(特開2013−610号公報)では、ナフサの接触分解において、アルミニウムの配位状態の変化に着目して、
27Al−MAS−NMRのピークトップ位置が低ケミカルシフト領域(50〜54ppm)に存在するMFI構造ゼオライトは、長寿命となることについて記載されている。なお、特許文献2はナフサの接触分解に使用される触媒上への炭素析出による触媒劣化や、構造変化に伴う触媒失活の抑制にフォーカスしており、脱Alへの影響までは言及していない。ましてや、炭素数4〜6のオレフィンを含む炭化水素原料を低級オレフィンに転換するプロセスに適用するMFI構造ゼオライトの場合、どのようにすればよいのか、何ら示唆するものではない。
【0009】
また、ナフサ等を原料として接触分解に用いられる触媒の劣化を防止するために、結晶性アルミノシリケートをシリカ粒子で被覆する方法も開示されている(特許文献3:特開2014−46277号公報)。
【0010】
また、特許文献4:特許第5221149号には、炭素数4〜12のオレフィンを含む炭化水素原料をゼオライト含有触媒存在下で接触分解させてプロピレンの製造方法では、周期律表第IB族金属を含有し、実質的にプロトンを含まないMFI構造ゼオライトを使用することが開示され、特許文献5:特許4848084号には、接触分解法で使用されるMFI構造ゼオライトからゼオライト骨格外のAlを除去する工程を経て、ゼオライトのSiO
2/Al
2O
3比を調整したMFI構造ゼオライト等が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ゼオライトは、高温スチームによって脱Alが進行するため、炭化水素原料を低級オレフィンに転換するプロセスでは、ゼオライトの水熱安定性は、非常に重要な性能因子となる。しかしながら、化学組成は類似であるにも関わらず、ゼオライトの水熱安定性が大きく異なる場合が多く、反応性に大きく影響するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、
27Al-MAS-NMR(Nuclear Magnetic Resonance)によって測定されるゼオライト骨格内のAl由来のピークにおいて、特定のピーク分布を有するゼオライトの水熱安定性が特に高いことを見出した。
【0015】
そして、スチーム存在下において、脱Alによる触媒劣化を引き起こしにくいゼオライト含有触媒を構成することによって、触媒の水熱安定性を高め、再生触媒の反応性を飛躍的に向上させることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明の構成は以下の通りである。
[1] プロトン型MFI構造ゼオライトを含み、触媒再生時にスチームに曝される少なくとも1種の炭素数4〜6のオレフィンを含む炭化水素原料の低級オレフィンへの転換反応用触媒であり、
当該ゼオライトを
27Al-MAS-NMRにより測定して得られるNMRスペクトルのケミカルシフト45ppm〜65ppm領域に見られる当該ゼオライトの骨格内Alに由来するピークを45ppmと65ppmに対して基準線を引き、中心の55ppmでX軸(ケミカルシフト)に対して垂直方向に2分割した際、45ppm〜55ppmの低ケミカルシフト領域の面積が、45ppm〜65ppmの面積全体の50%以上を占めることを特徴とするゼオライト含有触媒。
【0017】
[2] 触媒再生温度が500℃以上であることを特徴とする[1]に記載のゼオライト含有触媒。
[3] さらに、アルミニウムの酸化物および/または水酸化物、シリコンの酸化物および/または水酸化物、粘土の群から選択された1種または2種以上を含むことを特徴とする[1]または[2]に記載のゼオライト含有触媒。
【0018】
[4] 前記[1]〜[3]のいずれかに記載のゼオライト含有触媒を、触媒を再生する設備を備えた反応器内に装入し、炭素数4〜6のオレフィンを含む炭化水素原料と、接触させて、炭化水素原料を低級オレフィンに転換するとともに、反応によって失活した触媒を、酸素を含む酸化性ガスで再生させて、触媒として使用することを特徴とする、低級オレフィンの製造方法。
【0019】
[5] 触媒再生を500℃以上で行うことを特徴とする[4]に記載の低級オレフィンの製造方法。
[6] 前記炭素数4〜6のオレフィンを含む炭化水素原料の転換反応を、反応器出口温度:400〜700℃、圧力:0〜1MPaG、WHSV:1〜1000hr
-1の条件で行うことを特徴とする[4]または[5]に記載の低級オレフィンの製造方法。
[7] プロピレンを製造することを特徴とする[4]〜[6]のいずれかに記載の低級オレフィンの製造方法
【発明の効果】
【0020】
炭化水素原料を低級オレフィンに転換するプロセスに適用するゼオライト含有触媒において、高温スチーム存在下において、脱Alによる触媒劣化を引き起こすゼオライトに対しては、通常、リン化合物等によるゼオライトの修飾により、水熱安定性の向上が試みられていたが、
27Al-MAS-NMRにより測定して得られるNMRスペクトルのケミカルシフトに着目し、ゼオライト自体に水熱安定性の高いものを採用することによって、修飾せずとも高い水熱安定性を有する、もしくは修飾と組み合わせることによって、水熱安定性を飛躍的に向上させることが可能なプロトン型MFI構造ゼオライトが提供される。
【0021】
従って、本発明によれば、反応、もしくは再生中に生成する高温スチーム存在下においても、ゼオライト骨格からのAlの脱離が少なく、触媒活性を維持することが可能な水熱安定性の高いプロトン型MFI構造ゼオライトが提供される。
【0022】
また、本プロトン型MFI構造ゼオライトを少なくとも1種の炭素数4〜6のオレフィンを含む炭化水素原料をプロピレンに転換するプロセスに適用することにより、触媒再生時の劣化が小さくなり、反応器の触媒交換頻度を低減できるため、プロセス全体の経済性改善にも寄与することが可能となる。
【0023】
本発明のプロトン型MFI構造ゼオライトは、優れた水熱安定性を示すため、触媒用途の場合、特に低級オレフィンの製造プロセスにおいては、反応器の触媒交換頻度を低減出来ることにより、プロセス全体の経済性改善に寄与出来る。さらに、修飾無しで用いる場合、リン化合物や金属類の修飾工程を削減出来るため、ゼオライトの製造コストを削減出来る。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0026】
(ゼオライト含有触媒)
本発明にかかるゼオライト含有触媒は、プロトン型MFI構造ゼオライトを含み、触媒再生時にスチームに曝される少なくとも1種の炭素数4〜6のオレフィンを含む炭化水素原料の低級オレフィンへの転換反応用触媒である。
【0027】
MFI構造ゼオライト含有触媒は、少なくともSiO
2/Al
2O
3モル比が30以上、1000以下のMFI構造ゼオライトを含む。本発明ではゼオライトとして、固体酸触媒機能を有し、かつ電荷補償カチオンがプロトンである、プロトン型MFI構造ゼオライトが使用される。
【0028】
MFI構造ゼオライトのSiO
2/Al
2O
3モル比が30未満では、MFI構造ゼオライトの有効酸点が増加し、MFI構造ゼオライトへの炭素質析出が促進されて、触媒寿命が短くなる。一方、MFI構造ゼオライトのSiO
2/Al
2O
3モル比が1000を超えると、MFI構造ゼオライトの有効酸点が減少し、触媒活性が低下する。
【0029】
ゼオライト含有触媒にはバインダー成分として、アルミニウムの酸化物および/または水酸化物、シリコンの酸化物および/または水酸化物、粘土の群から選択された1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0030】
アルミニウムの酸化物としては、γ−アルミナ(Al
2O
3)などが挙げられる。アルミニウムの水酸化物としては、ベーマイト(AlO(OH))、水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)、アルミナゾルなどが挙げられる。
【0031】
シリコンの酸化物としては、酸化ケイ素(SiO
2)が用いられる。シリコンの水酸化物の形態としては、オルト珪酸(H
4SiO
4)、メタ珪酸(H
2SiO
3)などが挙げられる。また、粘土としては、カオリン、ベントナイトなどをバインダーとして含むものであってもよい。
【0032】
また、ゼオライト含有触媒において、バインダーを使用する場合には、MFI構造ゼオライト量に対するバインダー成分の含有率は15質量%以上、200質量%以下であることが好ましい。
【0033】
MFI構造ゼオライト量に対するバインダー成分の含有率が15質量%未満では、触媒の強度が低く使用時に一部粉化するなどの問題が発生する。一方、MFI構造ゼオライト量に対するバインダー成分の含有率が200質量%を超えると、主に活性を示すMFI構造ゼオライトの割合が小さくなり、触媒としての性能が低下する。
【0034】
さらに、ゼオライト含有触媒は、プロトン型MFI構造ゼオライトが、イオン交換、含浸担持などの方法により、金属で修飾されてもよい。金属修飾されることで、炭素質の蓄積を抑制し、酸性質を制御できる。金属としては、白金族やニッケル、アルカリ金属、アルカリ土類金属が挙げられる。
【0035】
さらに、ゼオライト含有触媒は、ゼオライトとともに、リン成分を含むものであってもよい。リン成分を含むことで、水熱安定性をさらに向上できる。
【0036】
金属修飾量やリン成分量は、特に制限ないが、含む場合には、酸化物換算で20質量%より少ない量であればよい。
【0037】
ゼオライト含有触媒は、原料である炭化水素から析出した炭素質によるゼオライト気孔の閉塞により失活するため、失活したゼオライト含有触媒を、酸素(空気)を含む気流中にて焼成することにより、炭素質を燃焼させて再生する。通常、再生温度は、500℃以上であることが好ましい。触媒再生時に、燃焼によって、発生した水蒸気や、空気中に含まれる水分によって、スチーム存在下となる。従来より知られていたMFI構造ゼオライト含有触媒では、このような再生温度のスチーム存在下では、ゼオライト骨格中の四配位Alが脱離して、ゼオライト構造が壊れると同時に、活性点の減少により、触媒活性が急激に低下し、ゼオライトの不可逆的な失活が生じてしまうという問題点がある。
【0038】
これに対して本発明では、プロトン型MFI構造ゼオライトの
27Al-MAS-NMRにより測定して、所定のケミカルシフト領域の面積を定義することで、水熱安定性の高いプロトン型MFI構造ゼオライトを選択することが可能となる。
【0039】
図1に、本発明における
27Al-MAS-NMRスペクトル測定による評価の概略を示す。
【0040】
図1に示すように
27Al-MAS-NMRスペクトルを測定し、得られるNMRスペクトルのケミカルシフト45ppm〜65ppm領域に見られる当該ゼオライトの骨格内Alに由来するピークを45ppmと65ppmに対して基準線を引き、中心の55ppmでX軸(ケミカルシフト)に対して垂直方向に2分割する。
【0041】
45ppm〜55ppmの低ケミカルシフト領域の面積と、45ppm〜65ppmの面積全体を求める。本発明では、低ケミカルシフト領域の面積が50%以上を占め、さらに好ましくは、53%以上を占める。なお、ピーク頂点は、低ケミカルシフト側にあってもなくともよい
このようなケミカルシフトを有するプロトン型MFI構造ゼオライトは、ゼオライト原料を高温不活性ガスに曝す、アルカリ性水溶液に含浸させ
る、酸性水溶液に含浸させる、といった方法で調製することが可能である。
なお、これらの方法から選ばれる2つ以上の方法を組み合わせてもよい。
【0042】
高温不活性ガスに曝す方法では、用いる不活性ガスの種類は特に限定されず、不活性ガスとして窒素、ヘリウム、アルゴンなどを用いることができる。不活性ガスに曝す際の温度は400℃以上、1000℃以下が好ましく、より好ましくは600℃以上、900℃以下である。
【0043】
アルカリ性溶液に含浸する場合、当該アルカリ性溶液の常温でのpHは、好ましくは14≧pH>7、より好ましくは14≧pH>9である。アルカリ性溶液としては、アルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属やアルカリ土類金属のケイ酸塩といったアルカリ性化合物の溶液が挙げられる。
【0045】
酸性水溶液に含浸させる方法では、原料ゼオライトを酸性水溶液に含浸させる。酸性水溶液は、0.01≦pH<4の水溶液、より好ましくは0.1≦pH<2の水溶液である。酸性水溶液に含まれる酸としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸、フッ化水素酸、リン酸といった無機酸、およびクエン酸、シュウ酸、蟻酸、酢酸、酒石酸といった有機酸が挙げられる。
【0046】
また、ゼオライト調製時に有機構造規定剤として用いることで、ケミカルシフトを調整することも可能である。たとえばゼオライト原料と有機構造規定剤として、アンモニウム塩類や尿素化合物類、アミン類、アルコール類等を用いて水熱合成する方法や、水熱合成されたMFI構造ゼオライトを種結晶として、或いは、結晶段階にある種スラリーとして添加して水熱合成する方法がある。以上述べたような、MFI構造ゼオライトの水熱合成方法において、原材料や有機構造規定剤の種類、添加物量、pH、シリカ/アルミナモル比、媒体、陽イオン、陰イオンの存在比などの原料仕込み組成、合成温度、合成時間等の合成条件を適宜、最適化することで、本実施の形態のケミカルシフトを有するMFI構造ゼオライトが合成される。
ゼオライト原料液には、SiO
2源と、Al
2O
3源と、アルカリ金属イオン源と、有機構造規定剤が含まれる。ゼオライト原料液成分中のSiO
2源としては、水ガラス、シリカゾル、シリカゲル、シリカ等が挙げられる。また、これらのSiO
2源を単独、又は2種類以上混合して用いてもよい。本発明に用いるゼオライト原料液成分中のAl
2O
3源としては、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミナゾル等が挙げられる。また、これらのAl
2O
3源を単独、又は2種類以上混合して用いてもよい。本発明に用いるゼオライト原料液成分中のアルカリ金属イオン源としては、水ガラス中の酸化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルミン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属イオン源を単独、又は2種類以上混合して用いてもよい。
【0047】
本発明に用いるゼオライト原料液成分中の有機構造規定剤とは、所望の骨格構造のMFI構造ゼオライトを合成するために添加される成分である。MFI構造ゼオライトを合成する具体例としては、テトラプロピルアンモニウム化合物が挙げられる。
【0048】
これらのゼオライト原料液の各供給源と水とを所望の割合に混合し、ゼオライト原料液として用いる。
【0049】
また、上述した特定の物性及び組成を有するプロトン型MFI構造ゼオライトであれば、市販されているゼオライトを用いることもできる。
【0050】
プロトン型MFI構造ゼオライトを含むゼオライト含有触媒の大きさや形状に特に制限はない。ゼオライトの粉体をそのまま使用することが可能であり、目的に応じて適宜成形体としてもよい。球状の触媒を用いる場合、その粒子直径は0.05〜20mmであることが好ましく、より好ましくは0.2〜5mmである。また、触媒の細孔構造は、その細孔直径が0.1〜1000nmにあることが好ましく、3〜200nmの間がより好ましい。BET法で測定した比表面積は10〜1000m
2/gのものが好ましく、50〜700m
2/gがより好ましい。
【0051】
このような構成のMFI構造ゼオライトを含むゼオライト含有触媒は、以下に示す調製方法により調製されたものである。
【0052】
まず、乳鉢、ライカイ機、ニーダーなどにより、少なくとも上記のMFI構造ゼオライトの粉末と、バインダー成分などをとからなる構成物と極性溶媒を混合、混練し、少なくとも混合体を調製する(混合・混練工程)。
【0053】
極性溶媒としては水が最適であるが、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類やジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、エステル類、ニトリル類、アミド類、スルホキシド類などの極性有機溶媒を用いることもできる。
【0054】
次いで、混合・混練工程にて得られた混合体を、押出機を用いた押出成型、マルメライザーによる球状体成型などによって成型し、成型体を得る(成型工程)。
【0055】
次いで、成型工程にて得られた成型体を、乾燥機によって乾燥した後、マッフル炉、トンネル炉などの焼成炉によって焼成することにより複合体を調製する(乾燥・焼成工程)。
【0056】
この乾燥・焼成工程において、混練物の乾燥を、80℃以上、150℃以下にて、0.5時間以上、30時間以下行うことが好ましい。また、この乾燥・焼成工程において、乾燥後の混練物の焼成を、350℃以上、750℃以下にて、1時間以上、50時間以下行うことが好ましい。
【0057】
次いで、乾燥・焼成工程にて得られた複合体を、水蒸気または水蒸気を体積割合で0.1以上含有する空気および/あるいは不活性ガス(窒素、炭酸ガスなど)などに接触させるか、もしくは、水蒸気を生成する反応雰囲気に接触させてもよい(水蒸気処理工程)。
【0058】
本発明にかかる所定のケミカルシフト領域を具備するプロトン型MFI構造ゼオライトを含むゼオライト含有触媒は、低級オレフィンへの転換反応活性が高いだけでなく、水熱安定性が優れるので、再生時の劣化が少なくなる。
(低級オレフィンの製造方法)
本発明にかかる低級オレフィンの製造方法は、前記プロトン型MFI構造ゼオライトを含むゼオライト含有触媒を、触媒を再生する設備を備えた反応器内に装入し、炭素数4〜6のオレフィンを含む炭化水素原料と、接触させて、炭化水素原料を低級オレフィンに転換するとともに、反応によって失活した触媒を、酸素を含む酸化性ガスで再生させて、触媒として使用する。
【0059】
反応器の形式は固定層、移動層、流動層いずれでもよく、異なる形式の2種以上の反応器を組み合わせてもよい。ここで、「固定層」流通式の反応器は、例えば、触媒を何らかの部材で保持するタイプの反応器であり、低コストで実現できる。粒状触媒を保持する部材は、例えば、網目状の床などが用いられる。また、「流動層」式の反応器は、例えば、粉体状の触媒の中を気体が泡のように噴き出すよう構成された反応器である。固定床反応器は、断熱型・等温(内部熱交換)型のいずれも採用可能であるが、コストや設備などの点で、固定床断熱型反応器が好ましい。
【0060】
炭素数4〜6のオレフィンを含む炭化水素原料としては、ブテン、ペンテン、ヘキセン等が挙げられる。これらの原料に、接触分解の未反応原料および生成物の一部をリサイクルして混合してもよく、あるいは他のプロセスで生成した炭化水素を混合して用いてもよい。原料を反応器に導入する際に、窒素などの不活性ガスで希釈してもよい。また、水素を供給してもよいが、水素濃度が高くなると、生成物が水素化されて軽質オレフィンの収率が低下するため水素は供給しないことが好ましい。
【0061】
本発明の炭化水素の転換方法は、少なくとも1種の炭素数4〜6のオレフィンを含む炭化水素原料と当該プロトン型MFI構造ゼオライトを活性成分に含む触媒が充填された固定床断熱型反応器内で接触させる。反応器出口温度は400〜700℃、圧力0〜1MPaG、WHSV1〜1000hr
-1で行うことが好ましく、反応器出口温度500〜600℃、圧力0〜0.3MPaG、WHSV1〜30hr
-1で行うことがさらに好ましい。
【0062】
前記反応装置には、触媒を再生する設備を備える。触媒再生設備としては特に制限ないが、失活した触媒を抜出し、酸素を含む酸化性ガスで再生させる。酸化性ガスは、空気であっても水蒸気を含むものであってもよい。この触媒再生を500℃以上で行う。触媒再生時に炭素質の燃焼などによってスチームが発生する。本発明では、水熱安定性が高いゼオライト含有触媒を使用しているので、ゼオライトの失活が少なく、再生触媒の活性が高いために、結果的に触媒寿命の向上につながり、触媒の再生回数が減少し、低級炭化水素を合成するためのコストを低減することができる。
【0063】
転換される軽質オレフィンはプロピレンであることが好ましい。
[実施例]
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
<
27Al−MAS−NMR測定>
27Al−MAS−NMR測定は以下の条件で実施した。なお、測定前に前処理として、ゼオライトを200℃で1時間乾燥後、湿度60%雰囲気下で24時間調湿した。
装置:Agilent社製VNMRS−600
パルスプログラム:シングルパルス
サンプル回転数:20kHz
繰り返し時間:0.1sec
パルス幅:10°
積算回数:4096回
<面積の算出方法>
ピーク解析は、Light Stone社製Origin Graphing & Analysisを用いて実施した。ケミカルシフト45ppm〜65ppm領域に見られるピークを45ppmと65ppmに対して基準線を引き、中心の55ppmでX軸に対して垂直方向に2分割することにより、低ケミカルシフト領域の面積割合(面積A)を算出した(
図1)。
実施例1
SiO
2/Al
2O
3モル比が200のプロトン型MFI構造ゼオライトとして、
27Al−MAS−NMR測定によるピークトップの位置が54.8ppmであり、低ケミカルシフト領域(45−55 ppm)の面積割合が45−65ppm領域全体の54.9%のものを用意した(ゼオライトA)。
実施例2
SiO
2/Al
2O
3モル比が200のプロトン型MFI構造ゼオライトとして、
27Al−MAS−NMR測定によるピークトップの位置が55.7ppmであり、低ケミカルシフト領域(45−55ppm)の面積割合が45−65ppm領域全体の52.5%のものを用意した(ゼオライトB)。
比較例1
SiO
2/Al
2O
3モル比が200のプロトン型MFI構造ゼオライトとして、
27Al−MAS−NMR測定によるピークトップの位置が55.8ppmであり、低ケミカルシフト領域(45−55ppm)の面積割合が45−65ppm領域全体の47.5%のものを用意した(ゼオライトC)。
実施例3
SiO
2/Al
2O
3モル比が80のプロトン型MFI構造ゼオライトとして
27Al−MAS−NMR測定によるピークトップの位置が55.1ppmであり、低ケミカルシフト領域(45−55ppm)の面積割合が45−65ppm領域全体の54.5%のものを用意した(ゼオライトD)。
比較例2
SiO
2/Al
2O
3モル比が80のプロトン型MFI構造ゼオライトとして
27Al−MAS−NMR測定によるピークトップの位置が55.6ppmであり、低ケミカルシフト領域(45−55ppm)の面積割合が45−65ppm領域全体の48.5%ものを用意した(ゼオライトE)。
<水熱安定性の評価>
実施例1〜3、比較例1および2で得られたプロトン型MFI構造ゼオライトの水熱安定性を評価するために、触媒のスチーム処理前後における、ゼオライトの
27Al−MAS−NMRをそれぞれ測定し、
図2〜
図6に示した。ここで前記スチーム処理は、処理温度560℃、スチーム分圧0.53MPa、24時間行った。
【0064】
ゼオライト骨格内に存在する四配位Al上の酸点が触媒の活性点となる。触媒がスチーム存在下に曝されると、四配位Alが脱離し、活性低下の原因となる。従って、スチームに曝しても四配位Alが多く残存しているゼオライトは、脱Alを起こしにくく、水熱安定性の高いゼオライトであると言える。
【0065】
図2〜
図4に示すように、実施例1、実施例2と比較例1で得られたプロトン型MFI構造ゼオライト(ゼオライトA、ゼオライトB、ゼオライトC)間で、スチーム処理前後の安定性に差異が見られた。すなわち、
27Al−MAS−NMRによって、得られた低ケミカルシフト領域45〜55ppmの面積割合が45〜65ppm領域の面積全体の50%以上を有する実施例1、実施例2に記載のゼオライトA、ゼオライトBは、スチーム処理後においても、四配位Alのピークが顕著に確認され、特に45−55ppm領域のピークが残存していることがわかった。これは、
27Al−MAS−NMR上で低ケミカルシフト領域にピークを有する特定位置のAlがスチームによる脱Alを引き起こしにくいことを示唆している。
【0066】
同様に
図5、
図6に示すように実施例3、比較例2で得られたプロトン型MFI構造ゼオライト(ゼオライトD、ゼオライトE)間においても、スチーム処理後において、四配位Alのピーク強度に差異が見られた。すなわち、SiO
2/Al
2O
3モル比が80のプロトン型MFI構造ゼオライトにおいても、低ケミカルシフト領域45〜55ppmの面積割合が45〜65ppm領域の面積全体の50%以上を有する実施例3に記載のゼオライトDは、スチーム処理後においても、四配位Alのピークが確認され、特に45−55ppm領域のピークが残存していることがわかった
<ゼオライト活性試験>
実施例1、実施例2と比較例1で得られたプロトン型MFI構造ゼオライト(ゼオライトA、ゼオライトB、ゼオライトC)について、触媒性能を測定するため、これらのゼオライトを用いて、炭素数4のオレフィンの代表成分であるイソブテンから、以下の条件でプロピレンを合成した。
【0067】
イソブテンを1401Ncm
3/時間、および窒素を156Nm
3/時間の流量で混合させて反応管に送り、温度550℃、常圧でプロトン型MFI構造ゼオライトと反応させた。触媒量に対する原料のイソブテン供給量比である重量基準空間速度(WHSV)は、7.0g−イソブテン/(g-ゼオライト・時間)とした。
【0068】
ここでイソブテン転化率、プロピレンの選択率(質量%)、メタンの選択率(質量%)は、反応開始から1.5 時間の反応安定時において、ガスクロマトグラフィー分析によって測定された数値を示した。
実施例4
ゼオライトAを用いて、等温反応器においてゼオライト活性試験を実施した。
【0069】
そして、ゼオライトAを温度560℃、スチーム分圧0.53MPaでスチーム処理を48時間実施した。この水蒸気処理を施したゼオライトを用いて、同様に、等温反応器においてゼオライト活性試験を行った。
【0070】
イソブテン転化率とプロピレンの選択率(質量%)、メタンの選択率(質量%)を表1に示す。
実施例5
ゼオライトBを用いたこと以外は、実施例4と同様にして、ゼオライト活性試験を実施した。
【0071】
イソブテン転化率とプロピレンの選択率(質量%)、メタンの選択率(質量%)を表1に示す。
比較例3
ゼオライトCを用いたこと以外は、実施例4と同様にして、ゼオライト活性試験を実施した。
【0072】
イソブテン転化率とプロピレンの選択率(質量%)、メタンの選択率(質量%)を表1に示す。
【0073】
【表1】
表1に示すようにスチーム処理を施していないプロトン型MFI構造ゼオライトを用いたゼオライト活性試験では、ゼオライトCのイソブテン転化率が最も高いものの、プロピレン選択率は最も低かった。また、メタン選択率が1.3質量%と最も高かったことから、原料、および生成物の分解が進行しているものと考えられる。
【0074】
一方で、48時間のスチーム処理を施したプロトン型MFI構造ゼオライトを用いたゼオライト活性試験においては、イソブテン転化率の序列は、ゼオライトA >ゼオライトB>ゼオライトCとなり、その序列は、スチーム処理を施していないプロトン型MFI構造ゼオライトを用いたゼオライト活性試験の結果と逆転した。また、スチーム処理前後のイソブテン転化率の差は、ゼオライトAで17.8%、ゼオライトBで24.4%、ゼオライトCで31.8%となり、ゼオライトCはスチーム処理によって、活性が大きく低下したことがわかる。
【0075】
これは、
図2〜
図6からも明らかなように、スチーム処理によってゼオライト骨格中の脱Alが進行することで、活性点である四配位Alが多く脱離したことを示す。