特許第6952186号(P6952186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6952186
(24)【登録日】2021年9月29日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】アイソレーティング・デカップラ
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/36 20060101AFI20211011BHJP
   F16D 43/21 20060101ALI20211011BHJP
   F16F 15/12 20060101ALI20211011BHJP
   F16F 15/123 20060101ALI20211011BHJP
   F16F 15/129 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
   F16H55/36 Z
   F16H55/36 H
   F16D43/21
   F16F15/12 S
   F16F15/123 Z
   F16F15/129 B
【請求項の数】26
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-511961(P2020-511961)
(86)(22)【出願日】2018年8月27日
(65)【公表番号】特表2020-531765(P2020-531765A)
(43)【公表日】2020年11月5日
(86)【国際出願番号】US2018048108
(87)【国際公開番号】WO2019046175
(87)【国際公開日】20190307
【審査請求日】2020年3月11日
(31)【優先権主張番号】15/688,430
(32)【優先日】2017年8月28日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504005091
【氏名又は名称】ゲイツ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】サーク,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ラダー,エシー
【審査官】 鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−506975(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0104090(US,A1)
【文献】 特開平07−229524(JP,A)
【文献】 特開平04−277330(JP,A)
【文献】 特開2004−150529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/36
F16D 43/21
F16F 15/12
F16F 15/123
F16F 15/129
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブと、
前記ハブに軸支されるプーリと、
前記ハブに直接溶接された第1トーションスプリング端部を有するトーションスプリングと、
第2トーションスプリング端部に直接溶接された第1ラップスプリング端部を有するラップスプリングと、
プーリの内面に摩擦係合するラップスプリングの外面と、
前記トーションスプリングの第1端部に一時的に係合可能であるラップスプリングの第2端部とを備え、これにより、トルク負荷が増加するに従い、前記ラップスプリングの外面と前記プーリの内面の間の摩擦係合が漸進的に解放され
前記第1トーションスプリング端部と前記ハブが前記トーションスプリングの周方向に延びる第1溶接ビードによって溶接され、
前記第2トーションスプリング端部と前記第1ラップスプリング端部が前記トーションスプリングの周方向に延びる第2溶接ビードによって溶接される
アイソレーティング・デカップラ。
【請求項2】
前記トーションスプリングが巻き取り方向に負荷をかけられる請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項3】
前記ラップスプリングがラップスプリングの巻き取り方向に、前記内面から解放される請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項4】
前記ラップスプリングがラップスプリングの巻き戻し方向に、前記内面に係合する請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項5】
前記トーションスプリングが前記ラップスプリング内に同心的に配置される請求項1に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項6】
前記トーションスプリングが前記ラップスプリング内に遊嵌される請求項5に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項7】
ハブと、
前記ハブに軸支されるプーリと、
溶接によって前記ハブに直接接続されたトーションスプリングと、
溶接によって前記トーションスプリングに直接接続されたラップスプリングとを備え、
前記ラップスプリングはプーリの面に摩擦係合し、
前記トーションスプリングと前記ハブが前記トーションスプリングの周方向に延びる第1溶接ビードによって溶接され、
前記トーションスプリングと前記ラップスプリングが前記トーションスプリングの周方向に延びる第2溶接ビードによって溶接される
アイソレーティング・デカップラ。
【請求項8】
前記トーションスプリングが前記ラップスプリングの軸方向長さ内に同軸的に配置される請求項7に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項9】
前記トーションスプリングがハブの肩部に溶接される請求項7に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項10】
前記トーションスプリングが巻き取り方向に負荷をかけられる請求項7に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項11】
前記ラップスプリングが巻き取り方向のトルク負荷によって前記プーリから解放される請求項7に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項12】
前記ラップスプリングがラップスプリングの巻き戻し方向へのトルク負荷により前記プーリの面に係合する請求項7に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項13】
前記トーションスプリングの溶接がレーザ溶接である請求項7に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項14】
前記ラップスプリングの溶接がレーザ溶接である請求項7に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項15】
前記トーションスプリングに解放可能に係合するラップスプリングの端部をさらに備え、前記トーションスプリングに漸進的に係合するとき、トルク負荷が増加するに従い、前記ラップスプリングと前記プーリの面の間の摩擦係合が徐々に解放される請求項7に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項16】
ハブと、
前記ハブに軸支されるプーリと、
レーザ溶接によって前記ハブに直接接続された第1端部を有するトーションスプリングと、
レーザ溶接によって前記トーションスプリングの第2端部に直接接続されたラップスプリングとを備え、
前記ラップスプリングは径方向に拡大可能であり、プーリの面に摩擦係合してトルク負荷を伝達し、
前記トーションスプリングに解放可能に係合可能であるラップスプリングの端部を備え、前記トーションスプリングに係合するとき、トルク負荷が増加するに従い、前記ラップスプリングと前記プーリの面の間の摩擦係合が漸進的に解放され
前記第1端部と前記ハブが前記トーションスプリングの周方向に延びる第1溶接ビードによって溶接され、
前記第2端部と前記ラップスプリングが前記トーションスプリングの周方向に延びる第2溶接ビードによって溶接される
アイソレーティング・デカップラ。
【請求項17】
前記漸進的な摩擦係合の解放が前記ラップスプリングの径方向への縮小により引き起こされる請求項16に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項18】
前記トーションスプリングの第1端部がハブの肩部にレーザ溶接され、前記ハブの肩部がハブの面から径方向に拡大する請求項16に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項19】
前記トーションスプリングが負荷を受けて径方向に収縮する請求項16に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項20】
前記トーションスプリングが前記ラップスプリングの中に同軸的に配置され、前記ラップスプリングの軸方向長さの範囲内にある請求項16に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項21】
前記ハブの肩部がリングを備える請求項18に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項22】
前記トーションスプリングの第2端部に溶接された第2リングをさらに備え、前記第2リングが前記ハブに遊嵌される請求項21に記載のアイソレーティング・デカップラ。
【請求項23】
プーリをハブに軸支し、
トーションスプリングの第1端部を前記トーションスプリングの周方向に延びる第1溶接ビードによって前記ハブに直接溶接し、
前記第1溶接ビード長さを選択的に調節して、所望のトーションスプリング特性を達成し、
ラップスプリングの端部を、前記トーションスプリングの周方向に延びる第2溶接ビードによってトーションスプリングの第2端部に直接溶接し、
前記ラップスプリングをプーリの面に摩擦係合させる
アイソレーティング・デカップラの製造方法。
【請求項24】
前記溶接ビード長さを選択的に調節することにより、作動的なトーションスプリングのコイルの数を制御する請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記トーションスプリング特性がばね定数である請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記トーションスプリング特性が撓み角である請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアイソレーティング・デカップラに関し、特に、溶接によりハブに直接接続されたトーションスプリングと、溶接によりトーションスプリングに直接接続されたラップスプリングとを備えるアイソレーティング・デカップラに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明はオルタネータ調整装置に関し、特にアイソレーションのためのトーションスプリングを有するオルタネータ・アイソレーティング・デカップラ(AID)に関する。オルタネータ調整装置の機能と使用はよく知られている。商業的に入手可能なAIDは一般的に、アイソレーティング・スプリングと、ワンウェイクラッチと、ベアリングと、プーリと、スプリングキャリアを含むいくつかの他の要素とを備える。これらの要素のそれぞれの必要性は一般的に、本装置の全体的な直径が産業界が望むものよりも優れていることを要求する。今までの自動車エンジンの小型化や、今までの燃料効率の要求の増加により、要求される機能性に合致した、減少したプーリ直径を有するAID装置に対する必要性がある。また、複雑さの低減と、製造の単純化と、全体的なコストの適切な削減に対する必要性がある。
【0003】
この技術の代表は米国特許第8888619号明細書であり、これは、回転部材とハブの間で回転力を伝達するように構成されたオーバーラン・デカップラを生産する方法を開示する。オーバーラン・デカップラは、クラッチスプリングと、クラッチスプリングに連結されたキャリアと、キャリアをハブに弾性的に結合する少なくとも1つのスプリングとを有するワンウェイクラッチを含む。その方法は、少なくとも1つのスプリングの望ましい耐用年数を確立し、共振における、少なくとも1つのスプリングの設計撓みを確立し、ここにおいて共振時の設計撓みにおける、少なくとも1つのスプリングの撓みが、少なくとも1つのスプリングの耐用年数を所望の耐用年数まで減少させず、そして少なくとも1つのスプリングの最大撓みを、最大撓みが設計撓み以下になるように制御することによりオーバーラン・デカップラにおける共振を防止することを含む。
【0004】
必要なものは、溶接によりハブに直接接続されたトーションスプリングと、溶接によりトーションスプリングに直接接続されたラップスプリングとを備えるアイソレーティング・デカップラである。本発明はこの必要性に合致する。
【発明の概要】
【0005】
本発明の主な特徴は、溶接によりハブに直接接続されたトーションスプリングと、溶接によりトーションスプリングに直接接続されたラップスプリングとを備えるアイソレーティング・デカップラである。
【0006】
本発明の他の特徴は、本発明の次の記載と添付した図面により示され、明らかになる。
【0007】
本発明は、ハブと、ハブに軸支されるプーリと、ハブに直接溶接された第1トーションスプリング端部を有するトーションスプリングと、第2トーションスプリング端部に直接溶接された第1ラップスプリング端部を有するラップスプリングと、プーリの内面に摩擦係合するラップスプリングの外面と、トーションスプリングの第1端部に一時的に係合可能であるラップスプリングの第2端部とを備え、これにより、トルク負荷が増加するに従い、ラップスプリングの外面とプーリの内面の間の摩擦係合が漸進的に解放されるアイソレーティング・デカップラである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
この明細書に組み込まれその一部を構成する添付図面は、本発明の好ましい実施形態を示し、説明とともに本発明の原理を説明するために用いられる。
図1】本発明装置の斜視図である。
図2】本発明装置の断面図である。
図3】本発明装置の分解図である。
図4】スプリングとラップスプリングの斜視図である。
図5】スプリングとラップスプリングの斜視図である。
図6】スプリングとラップスプリングの斜視図である。
図7】代替的な実施形態の分解図である。
図8】代替的な実施形態の断面図である。
図9図8の代替的な実施形態の斜視図である。
図10図8の代替的な実施形態の斜視図である。
図11】撓み角に対するトルクを示すグラフである。
図12】撓み角に対するトルクを示すグラフである。
図13】撓み角に対するトルクを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本発明装置の斜視図である。本装置はハブ10とベアリング20とプーリ40とダストカバー70を備える。プーリ40は車両のエンジン(図示せず)の例えばベルト駆動システムに用いられるマルチリブドベルトに係合する。駆動方向において、ハブはプーリに結合される。オーバーラン状態では、プーリはハブから解放される。
【0010】
本発明装置は、ハブとトーションスプリングの間、トーションスプリングとワンウェイクラッチラップスプリングの間において全て溶接された組立体を備える。これは、従来技術に対して、単純さおよび製造コストの削減において顕著な改善を示す。
【0011】
図2は本発明装置の断面図である。ハブ10はオルタネータシャフトのようなシャフト(図示せず)に係合する。プーリ40はベアリング20とベアリング30において、ハブ10に軸支される。トーションスプリング60はハブの肩部11とワンウェイクラッチラップスプリング50に接続される。ラップスプリング50はプーリ40の内面41に摩擦係合する。トーションスプリング60は螺旋状に巻かれる。
【0012】
ラップスプリング50は螺旋状に巻かれる。ラップスプリング50とトーションスプリング60は同じ利き手方向に巻回される。
【0013】
作動において、トルクの流れはプーリ40からラップスプリング50へ、トーションスプリング60へ、そしてハブ10へ向かう。プーリ40は駆動ベルト(図示せず)に係合するためにマルチリブド形状を有する。
【0014】
肩部11は、トーションスプリング60の内径とハブ面12の間のクリアランスC1を形成する、ハブから径方向に拡大する厚さを有し、これによりトーションスプリングのコイルは、トルク負荷が増加するときにハブ面に巻き付かない。トルク負荷の増加はトーションスプリング60を径方向に縮小させる。この実施形態では、肩部11は製造工程においてハブ10に機械加工される。代替的な実施形態において肩部11は、ハブ10aに圧入され、あるいは溶接されるリング11aであってもよい。図7参照。
【0015】
図3は本発明装置の分解図である。ベアリング20とベアリング30は、例えばボール、ローラ、スリーブ、あるいはブッシュを含む、従来公知の適当なベアリングである。
【0016】
スプリング60はラップスプリング50の径方向内側に配置されて、スペースを確保する。ラップスプリング50の外面53は、プーリ40の内面に摩擦係合する。ラップスプリング50のコイルは、トルク負荷が増加するにつれて、面41に徐々に係合する。すなわちトルク負荷が増加するに従い、より多くのスプリングコイルが面41に係合する。
【0017】
ラップスプリング50は複数のコイルと端部51と端部52を備える。端部52はトーションスプリング60に係合する舌部を有する。トーションスプリング60は複数のコイルと端部61と端部62を有する。ラップスプリングの外面53は、作動状態においてスリップすることなく、ラップスプリング50からプーリ40へトルクを伝達するのに適した摩擦係数を有する。ラップスプリング50は所定の締まり嵌めによりプーリ40内に取付けられる。
【0018】
ダストカバー70は、異物の侵入を防止するため、プーリ40の一端に取付けられる。肩部11はハブ面12から径方向外側に突出する。肩部11は製造工程においてハブ10に機械加工される。
【0019】
スプリング60は複数のコイルを有し、断面が矩形であり、これは本装置における装着を改善する。ラップスプリング50は断面が矩形であり、これはラップスプリングとプーリの間における本装置の装着を改善する。
【0020】
限定的ではなく一例として、図3のスプリング60は約4.75巻きのコイルを有する。ラップスプリング50は約9巻きのコイルを有する。
【0021】
図4はスプリングとラップスプリングの斜視図である。トーションスプリング60はラップスプリングの中に同軸的に配置され、軸A−Aに沿ってラップスプリングの軸方向長さの範囲内にあり、これは本装置の全体的な寸法を減少させる。トーションスプリング60はラップスプリング50の径方向内側にある。ラップスプリング50の内径はスプリング60の外径よりも僅かに大きく、これらの間は遊嵌することになる。遊嵌は、作動中、ラップスプリングがトーションスプリングに巻き付くことを防止する。それはまた、圧入の設計および道具の必要性を省略することにより、本装置の組立てを簡単化する。
【0022】
端部51は溶接ビード63によりスプリング60の端部62に固定的に接続される。溶接ビードは、例えばTIG溶接、レーザ溶接、ろう付け、または接着によってもよい。溶接ビード63は、1°(スポット溶接)から約180°までよりも小さい角度範囲にわたって延びる。角度の一例は、図4に示される約90°である。簡単化された溶接構造であれば、本発明装置ではスプリング支持は不要になる。
【0023】
図5はスプリングとラップスプリングの斜視図である。端部61は溶接ビード64により、肩部11に固定的に接続される。溶接ビードは、例えばTIG溶接、レーザ溶接、ろう付け、または接着によってもよい。溶接ビード64は、約5°から180°までの角度範囲にわたって延びる。角度の一例は、図5に示される約90°である。端部52は径方向内側に突出し、トルク負荷状態に従って端部61に係合する。通常のトルク負荷における典型的な作動において、スプリング60の端部61がラップスプリング50の端部52に接触しないよう、隙間Gがある。
【0024】
トルクはプーリ40からラップスプリング50へ、トーションスプリング60へ、溶接64へ、ハブ10へと伝達される。ラップスプリング50は、巻き戻し方向に負荷がかけられるに従い、面41に摩擦係合する。巻き戻し方向への負荷はラップスプリング50を巻き戻させ、したがって径方向に拡大させる。径方向への拡大はラップスプリングを面41に対して摩擦的にロックさせる。
【0025】
逆方向のトルクの場合、ハブ10はラップスプリング50を巻き取り方向にオーバオランさせ、これはラップスプリングの面53を面41から解放させる。
【0026】
図6はスプリングとラップスプリングの斜視図である。トルク負荷が所定の上限値まで増加すると、端部61の相対位置は、スプリング60が巻き上げられるに従って、端部52に対して前進する。スプリング60は巻き取り方向に負荷をかける。トルク負荷がさらに増加するに従い、隙間Gは狭まり、端部61は端部52に接触する。端部61が端部52を徐々に押圧するに従い、ラップスプリング50は付勢されてラップスプリング50を巻き取り方向に巻き取って径方向に縮小し、ラップスプリング50の外面53をプーリ40の内面41から徐々に解放させ、これにより、スプリング50とプーリ40の間のスリップを許容することにより、過度のトルク負荷を徐々に開放させる。この作用において、端部52が巻き取り方向にさらに押圧されるので、ラップスプリング50は負荷を解除される。このトルクリミット特性はオーバートルクが発生したとき本装置を保護する。
【0027】
トルクリミット特性は、ラップスプリングとトーションスプリングの間のクリアランスC2により促進される。クリアランスC2はラップスプリング50とトーションスプリング60の間の束縛を防止し、これは、トルク負荷の状態で、巻き取り、プーリ面41との係合を徐々に解放するに従い、ラップスプリング50が径方向に縮小するのを防止する。
【0028】
図7は代替的な実施形態の分解図である。肩部11aはハブ10aに圧入あるいは溶接されたリングを備える。端部61は、図6に示されるように溶接ビード64によって肩部11aに固定的に接続される。溶接ビードは、例えばTIG溶接、レーザ溶接、ろう付け、または接着によってもよい。この実施形態では、ハブ12の面12aは円筒状である。この実施形態は、肩部に対するトーションスプリング取付け部の軸方向位置における変動を許容し、これは延いては、トーションスプリングの軸方向長さによってある程度支配される本装置の作動特性に、製造上の柔軟性を与える。
【0029】
さらに他の代替的な実施形態では、肩部11aは省略される。端部61は図6に示されるように溶接ビード64によってハブ10aの面12aに直接、固定的に接続される。
【0030】
図8は代替的な実施形態の断面図である。この実施形態では、肩部11は省略される。リング110とリング111はそれぞれ、トーションスプリング60の端部62と端部61を支持する。リング110とリング111は、クリアランスC1を形成するために、トーションスプリング60をハブ10から変位させる。図2参照。
【0031】
図9図8の代替的な実施形態の斜視図である。リング110は、端部62が溶接ビード630によって溶接されるランド部110aを備える。ランド部110aは厚さC1を有する。図2参照。ラップスプリング50の端部51は、ここに説明されるように溶接ビード63によって端部62に溶接される。図4参照。リング110はハブ10に溶接されず、リング110は面12に遊嵌され、リング110とハブ10の間の相対移動を容易にする。この実施形態の溶接技術は、この明細書において、他の実施形態のために記載される。
【0032】
図10図8の代替的な実施形態の斜視図である。リング111は、端部61が溶接ビード64aによって溶接されるランド部111aを備える。ランド部111aは厚さC1を有する。ランド部111aは溶接ビード640によってハブ10に溶接される。この実施形態の溶接はこの明細書の他の箇所において記載されている。
【0033】
本装置において、溶接構造の使用により、全製造工程において、スプリング特性すなわちトルクと撓み、延いては本装置の作動特性を調節することを可能にする。すなわち、溶接ビード64の長さはトーションスプリング60の作動的なコイルの長さを決定する。ハブに溶接されたトーションスプリング60の部分は、スプリング60のスプリング特性に寄与しない。取付けられないトーションスプリング60の定められた元の全長、例えば4.75コイルに対して、90°(0.25コイル)の長さを有する溶接ビードの使用は、取付けられたトーションスプリングに対して4.75−0.25すなわち約4.5の作動的なコイルとなる。したがって作動的なコイルの数は溶接ビードの長さを変えることによって選択される。このため、製造工程において、定められたスプリングの特性は、溶接ビードの長さを変えることにより高精度に調整して、作動的なコイルの全数あるいは全長を制御することができる。さらに、スプリング特性の選択的な調整は、溶接ビード長さの調整によって最終的に取付けられた特性に対する、計測されたトーションスプリング特性が定められれば、製造工程においてリアルタイムに達成される。
【0034】
図11は撓み角に対するトルクを示すグラフである。本装置はトーションスプリングのばね定数とトーションスプリングの撓み角によって特徴づけられる。トーションスプリングのばね定数は通常±15%の範囲の公差を有する。図11では、例示的な公称ばね定数は約0.26Nm/度である。最小ばね定数は約0.22Mn/度であり、最大ばね定数は約0.3Nm/度である。公称撓み角は約69.23度である。この撓み角でのトルクは約18Nm(0.26Nm/度×69度)である。最小撓み角は通常62.3度よりも10%小さい。数値は一例に過ぎず、本発明の範囲を制限することを意図しない。
【0035】
線A、B、C、Dの境界内に含まれる図11の領域は、適切なシステム性能として容認できる、装置の特性の範囲を示す。公称設計点(ND)は、所定の装置およびシステムのための、トーションスプリングのばね定数、撓み角、およびトルクの一組の目標設計値を示す。トルク、撓み角、およびばね定数の変化量は、所定のトーションスプリングの組に対し、これらの限界内において非常に広い。本発明装置はこれらの要素の可変性を制御するための手段を提供する。図11のNDは一例であり、システムの要求に従って変化する。
【0036】
本発明装置において、スプリングの撓みは所定の角度に制限される。図12は撓み角に対するトルクを示すグラフである。図12において、許容されるトーションスプリング60は同じ撓み(F)を有するが、所定の撓み、例えば線AとBの間の領域では、異なるトルクとばね定数を有する。溶接の間、ばね定数は、溶接の位置と長さを選択してスプリング60の作動コイルの数を変化させることにより、調整可能である。このようなばね定数の変更は、デカップラのトルクを、所望の撓み角を生じする公称値まで調整するために用いられる。線TNと、線TNへ向かう2つの矢印K、Lを参照。
【0037】
本装置はまた、選択された撓み角を変化させることにより、所望のトルク値を与えるためにプログラムされ得る。図13は撓み角に対するトルクを示すグラフである。図13において、許容されるスプリング60は同じトルクTNで、異なる撓み角を有する。線F、Nを参照。溶接の間、撓み角は、溶接の位置と長さを選択してスプリング60の作動コイルの数を変化させ、これにより撓み角を所望のトルクを生じる公称値まで調節することにより、調整可能である。線TNへ向かう2つの矢印G、Hを参照。
【0038】
アイソレーティング・デカップラは、ハブと、ハブに軸支されるプーリと、ハブに直接溶接された第1トーションスプリング端部を有するトーションスプリングと、第2トーションスプリング端部に直接溶接された第1ラップスプリング端部を有するラップスプリングと、プーリの内面に摩擦係合するラップスプリングの外面と、トーションスプリングの第1端部に一時的に係合可能であるラップスプリングの第2端部とを備え、これにより、トルク負荷が増加するに従い、ラップスプリングの外面とプーリの内面の間の摩擦係合が漸進的に解放される。
【0039】
アイソレーティング・デカップラは、ハブと、ハブに軸支されるプーリと、溶接によってハブに直接接続されたトーションスプリングと、溶接によってトーションスプリングに直接接続されたラップスプリングとを備え、ラップスプリングはプーリの面に摩擦係合してトルク負荷を伝達する。
【0040】
アイソレーティング・デカップラの製造方法は、プーリをハブに軸支し、トーションスプリングの第1端部を溶接ビードによってハブに直接溶接し、溶接ビード長さを選択的に調節して、所望のトーションスプリングの最終的な特性を達成し、ラップスプリングの端部をトーションスプリングの第2端部に直接溶接し、ラップスプリングをプーリの面に摩擦係合させる。
【0041】
本発明の形態が説明されたが、当業者がここに記載された発明の精神と範囲から逸脱することなく、構成と部分の関係と方法において変形を施すことは自明である。
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