特許第6952216号(P6952216)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6952216
(24)【登録日】2021年9月29日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/08 20060101AFI20211011BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20211011BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20211011BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20211011BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20211011BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20211011BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20211011BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20211011BHJP
【FI】
   H01B1/08
   H01B1/06 A
   H01B13/00 Z
   H01M4/13
   H01M4/139
   H01M4/62 Z
   H01M10/052
   H01M10/0562
【請求項の数】13
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2021-512815(P2021-512815)
(86)(22)【出願日】2020年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2020048632
【審査請求日】2021年7月14日
(31)【優先権主張番号】特願2019-239129(P2019-239129)
(32)【優先日】2019年12月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】中山 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 崇広
(72)【発明者】
【氏名】高橋 司
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2019−186129(JP,A)
【文献】 特開2016−207421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/08
H01B 1/06
H01B 13/00
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M 4/62
H01M 10/052
H01M 10/0562
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む硫化物固体電解質であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定される体積基準の粒度分布において累積体積が50体積%となる粒径であるメジアン径D50が、0.10μm以上2.0μm以下であり、下記式:
(A×B)/C
[式中、Aは、BET比表面積(m/g)を表し、Bは、真密度(g/cm)を表し、Cは、CS値(m/cm)を表す。]
の値が1.0以上2.5以下である、硫化物固体電解質。
【請求項2】
前記リチウム(Li)元素の含有量が、前記硫化物固体電解質の構成元素の合計モル量を基準として、41モル%以上50モル%以下であり、
前記リン(P)元素の含有量が、前記硫化物固体電解質の構成元素の合計モル量を基準として、7.0モル%以上20モル%以下であり、
前記硫黄(S)元素の含有量が、前記硫化物固体電解質の構成元素の合計モル量を基準として、31モル%以上43モル%以下である、請求項1に記載の硫化物固体電解質。
【請求項3】
少なくとも一種のハロゲン(X)元素をさらに含む、請求項1又は2に記載の硫化物固体電解質。
【請求項4】
前記少なくとも一種のハロゲン(X)元素が、塩素(Cl)元素及び臭素(Br)元素の少なくとも一種である、請求項3に記載の硫化物固体電解質。
【請求項5】
前記少なくとも一種のハロゲン(X)元素の含有量が、前記硫化物固体電解質の構成元素の合計モル量を基準として、3.7モル%以上19モル%以下である、請求項3又は4に記載の硫化物固体電解質。
【請求項6】
CuKα1線を用いて測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=25.19°±1.00°及び29.62°±1.00°の位置にピークを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の硫化物系固体電解質。
【請求項7】
前記X線回折パターンにおいて、2θ=15.34°±1.00°、17.74°±1.00°、30.97°±1.00°、44.37°±1.00°、47.22°±1.00°及び51.70°±1.00°から選択される位置にピークを有する、請求項6に記載の硫化物固体電解質。
【請求項8】
前記硫化物固体電解質が、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相を含み、
前記結晶相が、下記式:
LiPS
[式中、Xは少なくとも一種のハロゲン元素であり、aは3.0以上6.5以下であり、bは3.5以上5.5以下であり、cは0.50以上3.0以下である。]
で表される組成を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質と活物質とを含む電極合材。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質と分散媒とを含むスラリー。
【請求項11】
正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に位置する固体電解質層とを備える電池であって、
前記固体電解質層が、請求項1〜8のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質を含む、前記電池。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質を製造する方法であって、下記工程:
(1−1)リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む硫化物固体電解質であって、メジアン径D50が0.10μm以上2.0μm以下であり、下記式:
(A×B)/C
[式中、Aは、BET比表面積(m/g)を表し、Bは、真密度(g/cm)を表し、Cは、CS値(m/cm)を表す。]
の値が2.5超5.0以下である前記硫化物固体電解質を、中間体として準備する工程;並びに
(1−2)前記中間体を熱処理し、得られた熱処理体を、メジアン径D50が0.10μm以上2.0μm以下である粉砕体が得られるように粉砕する工程
を含む、前記方法。
【請求項13】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の硫化物固体電解質を製造する方法であって、下記工程:
(2−1)リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む原料粉末であって、メジアン径D50が0.10μm以上2.0μm以下であり、D95が0.30μm以上5.0μm以下である前記原料粉末を準備する工程;並びに
(2−2)前記原料粉末を熱処理し、得られた熱処理体を、メジアン径D50が0.10μm以上2.0μm以下である粉砕体が得られるように粉砕する工程
を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物固体電解質、該硫化物固体電解質を用いた電極合材、スラリー及び電池、並びに、該硫化物固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体電池は、可燃性の有機溶媒を用いないので、安全装置の簡素化を図ることができ、製造コスト及び生産性に優れているとともに、セル内で直列に積層して高電圧化を図れるという特徴も有する。固体電池に用いられる硫化物固体電解質では、リチウムイオン以外は移動しないため、アニオンの移動による副反応が生じない等、安全性及び耐久性の向上につながることが期待される。
【0003】
硫化物固体電解質として、アルジロダイト(Argyrodite)型結晶相を含む硫化物固体電解質が知られている(例えば、特許文献1〜特許文献5)。
【0004】
また、特許文献6には、メジアン径D50が2.1μm〜4.5μmの硫化物固体電解質を得る製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−250580号公報
【特許文献2】特開2016−024874号公報
【特許文献3】特開2010−033732号公報
【特許文献4】特開2011−044249号公報
【特許文献5】特開2012−043646号公報
【特許文献6】特開2019−036536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固体電池において、良好な電池特性を得るためには、正負極の電極内部に均一に硫化物固体電解質が分布していることが好ましく、このような硫化物固体電解質の均一な分布を実現するためには、硫化物固体電解質の粒径を小さくすることが好ましい。硫化物固体電解質の粒径は、硫化物固体電解質の粉砕により小さくすることができる。しかしながら、粉砕により、形状がいびつな粒子や粉砕時に生じた微粉が凝集した二次粒子が発生するため、硫化物固体電解質の比表面積が増大し、粒子表面に吸着する溶媒量が増加するため、硫化物固体電解質を含むスラリーの粘度が増大する。このため、スラリーの粘度を調整するためには、多量の溶媒が必要となり、コストが増大し、電池の生産性が低下する。したがって、硫化物固体電解質の粒径を小さくするとともに、比表面積を低減することが求められる。
【0007】
また、硫化物固体電解質は、大気中の水分と反応すると、有毒な硫化水素ガスが発生するとともに、分解によってイオン伝導率が低下する。このため、電池生産時に低水分環境を維持するコストが増大し、電池の生産性が低下する。粒径が小さく、低比表面積の固体電解質である場合、大気中の水分との反応面積を少なくすることができるため、硫化水素ガスの発生と分解によるイオン伝導率の低下とを抑制することができる。したがって、これらの観点においても、硫化物固体電解質の粒径を小さくするとともに、比表面積を低減することが求められる。
【0008】
そこで、本発明は、粒径が小さく、低比表面積の硫化物固体電解質、該硫化物固体電解質を用いた電極合材、スラリー及び電池、並びに、該硫化物固体電解質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の発明を提供する。
[1]リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む硫化物固体電解質であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定される体積基準の粒度分布において累積体積が50体積%となる粒径であるメジアン径D50が、0.10μm以上2.0μm以下であり、下記式:
(A×B)/C
[式中、Aは、BET比表面積(m/g)を表し、Bは、真密度(g/cm)を表し、Cは、CS値(m/cm)を表す。]
の値が1.0以上2.5以下である、硫化物固体電解質。
[2]上記[1]に記載の硫化物固体電解質と活物質とを含む電極合材。
[3]上記[1]に記載の硫化物固体電解質と分散媒とを含むスラリー。
[4]正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に位置する固体電解質層とを備える電池であって、
前記固体電解質層が、上記[1]に記載の硫化物固体電解質を含む、前記電池。
[5]上記[1]に記載の硫化物固体電解質を製造する方法であって、下記工程:
(1−1)リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む硫化物固体電解質であって、メジアン径D50が0.10μm以上2.0μm以下であり、下記式:
(A×B)/C
[式中、Aは、BET比表面積(m/g)を表し、Bは、真密度(g/cm)を表し、Cは、CS値(m/cm)を表す。]
の値が2.5超5.0以下である前記硫化物固体電解質を、中間体として準備する工程;並びに
(1−2)前記中間体を熱処理し、得られた熱処理体を、メジアン径D50が0.10μm以上2.0μm以下である粉砕体が得られるように粉砕する工程
を含む、前記方法。
[6]上記[1]に記載の硫化物固体電解質を製造する方法であって、下記工程:
(2−1)リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む原料粉末であって、メジアン径D50が0.10μm以上2.0μm以下であり、D95が0.30μm以上5.0μm以下である前記原料粉末を準備する工程;並びに
(2−2)前記原料粉末を熱処理し、得られた熱処理体を、メジアン径D50が0.10μm以上2.0μm以下である粉砕体が得られるように粉砕する工程
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、粒径が小さく、低比表面積の硫化物固体電解質、該硫化物固体電解質を用いた電極合材、スラリー及び電池、並びに、該硫化物固体電解質の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の硫化物固体電解質の製造方法(第1実施形態)の一例を示す工程図である。
図2図2は、第1実施形態における工程(1−1)の一例を示す工程図である。
図3図3は、本発明の硫化物固体電解質の製造方法(第2実施形態)の一例を示す工程図である。
図4図4は、実施例1〜4で製造された硫化物固体電解質のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪用語の説明≫
以下、本明細書で用いられる用語について説明する。なお、以下の用語の説明は、別段規定される場合を除き、本明細書を通じて適用される。
【0013】
<粉末>
粉末は、粒子の集合体である。
【0014】
<D10、D50及びD95
ある粉末に関し、当該粉末のD10、D50及びD95は、それぞれ、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定される当該粉末の体積基準の粒度分布において、累積体積が10%、50%及び95%となる粒径であり、単位はμmである。D10、D50及びD95の測定は、例えば、実施例に記載の条件に従って行われる。なお、D50は、一般的に、メジアン径と呼ばれる。
【0015】
<BET比表面積>
ある粉末に関し、当該粉末のBET比表面積は、窒素ガスを用いたガス吸着法によって測定される当該粉末の比表面積であり、単位はm/gである。BET比表面積の測定は、例えば、実施例に記載の条件に従って行われる。
【0016】
<真密度>
ある粉末に関し、当該粉末の真密度は、ピクノメーター法によって測定される当該粉末の密度であり、単位はg/cmである。真密度の測定は、例えば、実施例に記載の条件に従って行われる。
【0017】
<CS値>
ある粉末に関し、当該粉末のCS値は、当該粉末を構成する粒子の形状を球形と仮定した場合の、当該粉末の単位体積あたりの表面積であり、単位はm/cmである。粉末のCS値は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法によって測定される当該粉末の体積基準の粒度分布に基づいて、次式:CS値(m/cm)=6/MAから求められる。なお、MAは、面積平均粒径(μm)であり、次式:MA(μm)=ΣVi/Σ(Vi/di)[式中、Viは頻度、diは粒度区分の中央値である。]から求められる。CS値の測定は、例えば、実施例に記載の条件に従って行われる。
【0018】
<(A×B)/C>
ある粉末に関し、下記式:
(A×B)/C
[式中、Aは、当該粉末のBET比表面積(m/g)を表し、Bは、当該粉末の真密度(g/cm)を表し、Cは、当該粉末のCS値(m/cm)を表す。]に基づいて算出される値は、粒度分布測定から、粒子を球形と仮定して求められたCS値(m/cm真密度(g/cmで割って算出した表面積値(m/g)と、BET測定で求められた比表面積(m/g)との比を意味する。つまり、上記式で得られる値が1.0に近いほど、粉末を構成する粒子の形状が真球に近いことを意味する。
【0019】
≪硫化物固体電解質≫
本発明の硫化物固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む。
【0020】
本発明の硫化物固体電解質におけるリチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素の含有量は、適宜調整することができる。
【0021】
本発明の硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、リチウム(Li)元素の含有量は、本発明の硫化物固体電解質の構成元素の合計モル量を基準として、好ましくは41モル%以上50モル%以下、さらに好ましくは41モル%以上48モル%以下、さらに一層好ましくは42モル%以上47モル%以下、さらに一層好ましくは43モル%以上45モル%以下である。
【0022】
本発明の硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、リン(P)元素の含有量は、本発明の硫化物固体電解質の構成元素の合計モル量を基準として、好ましくは7.0モル%以上20モル%以下、さらに好ましくは7.2モル%以上18モル%以下、さらに一層好ましくは7.5モル%以上16モル%以下、さらに一層好ましくは7.7モル%以上12モル%以下である。
【0023】
本発明の硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、硫黄(S)元素の含有量は、本発明の硫化物固体電解質の構成元素の合計モル量を基準として、好ましくは31モル%以上43モル%以下、さらに好ましくは32モル%以上42モル%以下、さらに一層好ましくは33モル%以上40モル%以下、さらに一層好ましくは34モル%以上38モル%以下である。
【0024】
本発明の硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、リン(P)元素の含有量に対するリチウム(Li)元素の含有量(リチウム(Li)元素の含有量/リン(P)元素の含有量)の比は、モル比で、好ましくは4.8以上7.0以下、さらに好ましくは5.0以上6.4以下、さらに一層好ましくは5.2以上5.8以下である。
【0025】
本発明の硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、リン(P)元素の含有量に対する硫黄(S)元素の含有量(硫黄(S)元素の含有量/リン(P)元素の含有量)の比は、モル比で、好ましくは3.6以上6.0以下、さらに好ましくは4.0以上5.0以下、さらに一層好ましくは4.2以上4.6以下である。
【0026】
本発明の硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、本発明の硫化物固体電解質は、フッ素(F)元素、塩素(Cl)元素、臭素(Br)元素及びヨウ素(I)元素から選択される少なくとも一種のハロゲン(X)元素をさらに含むことが好ましく、塩素(Cl)元素及び臭素(Br)元素から選択される少なくとも一種のハロゲン(X)元素をさらに含むことがさらに好ましい。
【0027】
ハロゲン(X)元素の含有量は、適宜調整することができる。
【0028】
本発明の硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、ハロゲン(X)元素の含有量は、本発明の硫化物固体電解質の構成元素の合計モル量を基準として、好ましくは3.7モル%以上19モル%以下、さらに好ましくは4.0モル%以上17モル%以下、さらに一層好ましくは8.0モル%以上15モル%以下、さらに一層好ましくは10モル%以上14モル%以下である。なお、本発明の硫化物固体電解質が二種以上のハロゲン(X)元素を含む場合、「ハロゲン(X)元素の含有量」は、当該二種以上のハロゲン(X)元素の合計含有量を意味する。
【0029】
本発明の硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、リン(P)元素の含有量に対するハロゲン(X)元素の含有量(ハロゲン(X)元素の含有量/リン(P)元素の含有量)の比は、モル比で、好ましくは0.50以上2.1以下、さらに好ましくは0.80以上2.0以下、さらに一層好ましくは1.2以上1.8以下である。
【0030】
本発明の硫化物固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素及びハロゲン(X)元素以外の一種又は二種以上の元素(以下「その他の元素」という。)を含んでもよい。その他の元素としては、例えば、ケイ素(Si)元素、ゲルマニウム(Ge)元素、スズ(Sn)元素、鉛(Pb)元素、ホウ素(B)元素、アルミニウム(Al)元素、ガリウム(Ga)元素、ヒ素(As)元素、アンチモン(Sb)元素、ビスマス(Bi)元素等が挙げられる。
【0031】
本発明の硫化物固体電解質の構成元素の合計モル量及び各元素のモル量の測定は、本発明の硫化物固体電解質をアルカリ溶融等で溶解して得られる溶液中の元素量を誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)等の公知の方法を用いて測定することにより行うことができる。
【0032】
本発明の硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、本発明の硫化物固体電解質は、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶相(以下「アルジロダイト型結晶相」という場合がある)を含むことが好ましい。アルジロダイト型結晶構造は、化学式:AgGeSで表される鉱物に由来する化合物群が有する結晶構造である。アルジロダイト型結晶構造は、好ましくは立方晶系である。
【0033】
「本発明の硫化物固体電解質がアルジロダイト型結晶相を含む」という表現は、本発明の硫化物固体電解質が、アルジロダイト型結晶相で構成されている場合、及び、本発明の硫化物固体電解質が、アルジロダイト型結晶相と、一種又は二種以上のその他の相とで構成されている場合の両者を含む意味で用いられる。その他の相は、結晶相であってもよいし、非晶質相であってもよい。その他の相としては、例えば、LiS相、LiCl相、LiBr相、LiBrCl1−x相(0<x<1)、LiPS相等が挙げられる。
【0034】
アルジロダイト型結晶相の含有割合は、例えば、本発明の硫化物固体電解質を構成する全結晶相に対して、10質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよい。中でも、本発明の硫化物固体電解質が、アルジロダイト型結晶相を主相として含有していることが好ましい。ここで、「主相」とは、本発明の硫化物固体電解質を構成する全ての結晶相の総量に対して最も割合の大きい相を指す。アルジロダイト型結晶相が主相である場合、アルジロダイト型結晶相の含有割合は、本発明の硫化物固体電解質を構成する全結晶相に対して、例えば、60質量%以上であることが好ましく、中でも70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上であることがさらに好ましい。なお、結晶相の割合は、例えば、XRD測定により確認することができる。
【0035】
一実施形態において、アルジロダイト型結晶相は、下記式(I):
LiPS ・・・(I)
で表される組成を有する。
【0036】
Xは、フッ素(F)元素、塩素(Cl)元素、臭素(Br)及びヨウ素(I)元素から選択される少なくとも一種のハロゲン元素である。ヨウ素(I)元素はリチウムイオン伝導性が低下させる傾向があり、フッ素(F)元素はアルジロダイト型結晶構造に導入しにくい。したがって、Xは、塩素(Cl)元素及び臭素(Br)元素から選択される少なくとも一種のハロゲン元素であることが好ましい。
【0037】
本発明の硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、aは、好ましくは3.0以上6.5以下、さらに好ましくは3.5以上6.3以下、さらに一層好ましくは4.0以上6.0以下である。aが3.0未満であると、アルジロダイト型結晶構造内のLi量が少なくなり、リチウムイオン伝導性が低下する。一方、aが6.5を超えると、Liサイトの空孔が少なくなり、リチウムイオン伝導率が低下する。
【0038】
本発明の硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、bは、好ましくは3.5以上5.5以下、さらに好ましくは4.0以上5.3以下、さらに一層好ましくは4.2以上5.0以下である。
【0039】
本発明の硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、cは、好ましくは0.10以上3.0以下、さらに好ましくは0.50以上2.5以下、さらに一層好ましくは1.0以上1.8以下である。
【0040】
別の実施形態において、アルジロダイト型結晶相は、下記式(II):
Li7−dPS6−d ・・・(II)
で表される組成を有する。式(II)で表される組成は、アルジロダイト型結晶相の化学量論組成である。
【0041】
式(II)において、Xは、式(I)と同義である。
【0042】
本発明の硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導性を向上させる観点から、dは、好ましくは0.40以上2.2以下、さらに好ましくは0.80以上2.0以下、さらに一層好ましくは1.2以上1.8以下である。
【0043】
式(I)又は(II)において、Pの一部が、ケイ素(Si)元素、ゲルマニウム(Ge)元素、スズ(Sn)元素、鉛(Pb)元素、ホウ素(B)元素、アルミニウム(Al)元素、ガリウム(Ga)元素、ヒ素(As)元素、アンチモン(Sb)元素及びビスマス(Bi)元素から選択される一種又は二種以上の元素で置換されていてもよい。この場合、式(I)は、Li(P1−y)Sとなり、式(II)は、Li7−d(P1−y)S6−dとなる。Mは、ケイ素(Si)元素、ゲルマニウム(Ge)元素、スズ(Sn)元素、鉛(Pb)元素、ホウ素(B)元素、アルミニウム(Al)元素、ガリウム(Ga)元素、ヒ素(As)元素、アンチモン(Sb)元素及びビスマス(Bi)元素から選択される一種又は二種以上の元素である。yは、好ましくは、0.010以上0.70以下、さらに好ましくは、0.020以上0.40以下、さらに一層好ましくは、0.050以上0.20以下である。
【0044】
本発明の硫化物固体電解質がアルジロダイト型結晶相を含むことは、CuKα線を用いて測定されるX線回折パターンによって確認することができる。CuKα線としては、例えば、CuKα1線を用いることができる。
【0045】
本発明の硫化物固体電解質は、CuKα1線を用いて測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=25.19°±1.00°及び29.62°±1.00°の位置にピークを有することが好ましい。これらのピークは、アルジロダイト型結晶相に由来するピークである。
【0046】
本発明の硫化物固体電解質は、CuKα1線を用いて測定されるX線回折パターンにおいて、2θ=25.19°±1.00°及び29.62°±1.00°の位置に加えて、2θ=15.34°±1.00°、17.74°±1.00°、30.97°±1.00°、44.37°±1.00°、47.22°±1.00°及び51.70°±1.00°から選択される1又は2以上の位置にピークを有することがさらに好ましく、2θ=25.19°±1.00°及び29.62°±1.00°の位置に加えて、2θ=15.34°±1.00°、17.74°±1.00°、30.97°±1.00°、44.37°±1.00°、47.22°±1.00°及び51.70°±1.00°の全ての位置にピークを有することがさらに一層好ましい。これらのピークは、アルジロダイト型結晶相に由来するピークである。
【0047】
なお、上述したピークの位置は、中央値±1.00°で表されているが、中央値±0.500°であることが好ましく、中央値±0.300°であることがさらに好ましい。
【0048】
本発明の硫化物固体電解質は、粉末状である。本発明の硫化物固体電解質のD50は、0.10μm以上2.0μm以下であり、本発明の硫化物固体電解質の(A×B)/Cの値は、1.0以上2.5以下である。なお、(A×B)/Cの値が1.0以上2.5以下であることは、粉末を構成する粒子の形状が真球に近いことを示す。本発明の硫化物固体電解質は、粒径が小さく、形状が真球に近いことに起因して低比表面積である。したがって、本発明の硫化物固体電解質を含むスラリーを用いて電池を生産する際、スラリーの粘度を調整するために必要な溶媒量を低減することができる。また、硫化物固体電解質と大気中の水分との反応に起因する硫化水素ガス発生及びイオン伝導率低下を低減することができる。
【0049】
固体電池において、良好な電池特性を得るためには、正負極の電極内部に均一に硫化物固体電解質が分布していることが好ましく、このような硫化物固体電解質の均一な分布を実現するためには、硫化物固体電解質の粒径を小さくすることが好ましい。上記観点から、本発明の硫化物固体電解質のD50は、好ましくは0.20μm以上1.6μm以下、さらに好ましくは0.30μm以上1.2μm以下、さらに一層好ましくは0.50μm以上1.0μm以下である。
【0050】
硫化物固体電解質の粒径は、硫化物固体電解質の粉砕により小さくすることができる。しかしながら、粉砕により、形状がいびつな粒子や粉砕時に生じた微粉が凝集した二次粒子が発生するため、硫化物固体電解質の比表面積が増大し、粒子表面に吸着する溶媒量が増加するため、硫化物固体電解質を含むスラリーの粘度が増大する。このため、スラリーの粘度を調整するためには、多量の溶媒が必要となり、コストが増大し、電池の生産性が低下する。また、硫化物固体電解質は、大気中の水分と反応すると、有毒な硫化水素ガスが発生するとともに、分解によってイオン伝導率が低下する。比表面積の増大に伴い、硫化物固体電解質と大気中の水分との反応面積が増大し、硫化水素ガス発生量及びイオン伝導率低下が増大する。このため、電池生産時に低水分環境を維持するコストが増大し、電池の生産性が低下する。したがって、硫化物固体電解質の形状を真球に近づけることが好ましい。上記観点から、本発明の硫化物固体電解質の(A×B)/Cの値は、好ましくは1.2以上2.3以下、さらに好ましくは1.4以上2.2以下、さらに一層好ましくは1.5以上2.1以下である。
【0051】
本発明の硫化物固体電解質は、上記特性(D50及び(A×B)/Cの値)に加えて、下記特性(D10、D95、BET比表面積、真密度及びCS値)の少なくとも一種を有することが好ましい。
【0052】
本発明の硫化物固体電解質のD10は特に限定されないが、正負極の電極内部に均一に硫化物固体電解質を分布させ、良好な電池特性を得る観点から、好ましくは0.10μm以上1.0μm以下、さらに好ましくは0.20μm以上0.80μm以下、さらに一層好ましくは0.30μm以上0.60μm以下である。
【0053】
本発明の硫化物固体電解質のD95は特に限定されないが、正負極の電極内部に均一に硫化物固体電解質を分布させ、良好な電池特性を得る観点から、好ましくは0.70μm以上3.0μm以下、さらに好ましくは0.90μm以上2.3μm以下、さらに一層好ましく1.2μm以上1.8μm以下である。
【0054】
本発明の硫化物固体電解質のBET比表面積は特に限定されないが、硫化物固体電解質を含むスラリーを用いて電池を生産する際、スラリーの粘度を調整するために必要な溶媒量をより低減する観点、及び、硫化物固体電解質と大気中の水分との反応に起因する硫化水素ガス発生及びイオン伝導率低下をより低減する観点から、好ましくは2.0m/g以上20m/g以下、さらに好ましくは4.0m/g以上15m/g以下、さらに一層好ましくは5.0m/g以上12m/g以下である。
【0055】
本発明の硫化物固体電解質の真密度は特に限定されないが、硫化物固体電解質を含むスラリーを用いて電池を生産する際、スラリーの粘度を調整するために必要な溶媒量をより低減する観点、及び、硫化物固体電解質と大気中の水分との反応に起因する硫化水素ガス発生及びイオン伝導率低下をより低減する観点から、好ましくは0.50g/cm以上4.0g/cm以下、さらに好ましくは0.60g/cm以上3.5g/cm以下、さらに一層好ましくは0.70g/cm以上3.0g/cm以下である。
【0056】
本発明の硫化物固体電解質のCS値は特に限定されないが、硫化物固体電解質を含むスラリーを用いて電池を生産する際、スラリーの粘度を調整するために必要な溶媒量をより低減する観点、及び、硫化物固体電解質と大気中の水分との反応に起因する硫化水素ガス発生及びイオン伝導率低下をより低減する観点から、好ましくは1.0m/cm以上20m/cm以下、さらに好ましくは2.0m/cm以上15m/cm以下、さらに一層好ましくは3.0m/cm以上12m/cm以下である。
【0057】
≪電極合材≫
本発明の電極合材は、本発明の硫化物固体電解質と活物質とを含む。
【0058】
一実施形態において、本発明の電極合材は、負極合材であってもよく、正極合材であってもよい。負極合材は少なくとも負極活物質を含有し、正極合材は少なくとも正極活物質を含有する。電極合材は、必要に応じて固体電解質、導電助剤および結着剤を含有していてもよい。
【0059】
負極活物質としては、例えば、炭素材料、金属材料等が挙げられ、これらのうち一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。炭素材料や金属材料としては、負極活物質として一般的な材料を適宜用いることができるため、ここでの記載は省略する。負極活物質は、電子伝導性を有することが好ましい。
【0060】
正極活物質は、リチウムイオンの挿入脱離が可能な物質であり、公知の正極活物質の中から適宜選択することができる。正極活物質としては、例えば、金属酸化物、硫化物等が挙げられる。金属酸化物としては、例えば、遷移金属酸化物等が挙げられる。
【0061】
なお、電極合材に関するその他の説明については、一般的な電極合材と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0062】
≪スラリー≫
本発明のスラリーは、本発明の硫化物固体電解質と分散媒とを含む。
【0063】
本発明のスラリーにおける本発明の硫化物固体電解質の含有量は、本発明のスラリーの用途等に応じて適宜調整することができる。本発明のスラリーは、本発明の硫化物固体電解質の含有量に応じて種々の粘度を有し、粘度に応じて、インク、ペースト等の種々の形態をとる。本発明のスラリーにおける本発明の硫化物固体電解質の含有量は、本発明のスラリーの総質量を基準として、好ましくは10質量%以上90質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上80質量%以下、さらに一層好ましくは30質量%以上70質量%以下である。
【0064】
本発明のスラリーに含まれる分散媒は、本発明の硫化物固体電解質を分散させることができる液体である限り特に限定されない。分散媒としては、例えば、水、有機溶媒等が挙げられる。分散媒は、一種の溶媒であってもよいし、二種以上の溶媒の混合物であってもよい。
【0065】
≪電池≫
本発明の電池は、正極層と、負極層と、正極層及び負極層の間に位置する固体電解質層とを備える電池であり、固体電解質層は、本発明の硫化物固体電解質を含む。なお、正極層、負極層および固体電解質層については、一般的な電池と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0066】
本発明の電池は、好ましくは固体電池であり、さらに好ましくはリチウム固体電池である。リチウム固体電池は、一次電池であってもよいし、二次電池であってもよいが、リチウム二次電池であることが好ましい。固体電池は、液状物質又はゲル状物質を電解質として一切含まない固体電池のほか、例えば50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下の液状物質又はゲル状物質を電解質として含む態様も包含する。固体電池の形態としては、例えば、ラミネート型、円筒型及び角型等が挙げられる。
【0067】
≪硫化物固体電解質の製造方法≫
以下、本発明の硫化物固体電解質の製造方法の実施形態について説明する。
<第1実施形態>
第1実施形態に係る製造方法は、例えば図1に示すように、下記工程:
(1−1)リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む硫化物固体電解質であって、D50が0.10μm以上2.0μm以下であり、(A×B)/Cの値が2.5超5.0以下である硫化物固体電解質を、中間体として準備する工程;並びに
(1−2)工程(1−1)で準備された中間体を熱処理し、得られた熱処理体を、D50が0.10μm以上2.0μm以下である粉砕体が得られるように粉砕する工程
を含む。
【0068】
工程(1−1)で準備される中間体は、本発明の硫化物固体電解質の前駆体であり、中間体に対して工程(1−2)を施すことにより、本発明の硫化物固体電解質を得ることができる。
【0069】
第1実施形態に係る製造方法において、粒径が小さく、比表面積が低減された硫化物固体電解質を得ることができる理由は、以下の通りである。リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む硫化物固体電解質であって、メジアン径D50が0.10μm以上2.0μm以下であり、(A×B)/Cの値が2.5超5.0以下である中間体は、形状がいびつな粒子や微粒子を多量に含むため、比表面積が大きい。上記中間体を熱処理することによって得られる熱処理体は、微粒子の一部が焼結することによって、真球に近い粒子がネッキングした構造体となる。上記熱処理体をメジアン径D50が0.10μm以上2.0μm以下となるように粉砕した場合、ネッキング面が優先的に粉砕されることによって、形状がいびつな粒子や微粒子の生成が抑制され、粒径が小さく、比表面積が低減された硫化物固体電解質を得ることができる。
【0070】
中間体は、本発明の硫化物固体電解質と同様、硫化物固体電解質の粉末である。中間体の組成は、本発明の硫化物固体電解質の組成を考慮して適宜調整することができる。中間体の組成は、通常、本発明の硫化物固体電解質の組成と同一である。中間体は、アルジロダイト型結晶相を含むことが好ましい。中間体に含まれるアルジロダイト型結晶相の組成は、本発明の硫化物固体電解質に含まれるアルジロダイト型結晶相の組成を考慮して適宜調整することができる。なお、中間体に含まれるアルジロダイト型結晶相の説明は、本発明の硫化物固体電解質の上述した説明と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0071】
工程(1−2)における中間体のD50は、例えば0.20μm以上1.8μm以下であってもよく、0.30μm以上1.4μm以下であってもよく、0.40μm以上1.0μm以下であってもよい。
【0072】
工程(1−2)において、中間体のD50に対する粉砕体のD50の比は、好ましくは0.10以上10以下、さらに好ましくは0.50以上3.0以下、さらに一層好ましくは0.80以上1.5以下である。上記比が所定の下限を有することで、粉砕体の形状を真球に近づけることができる。一方、上記比が所定の上限を有することで、粉砕する工程時に微粉の生成を抑えることができる。
【0073】
工程(1−2)において、中間体の(A×B)/Cの値は、例えば2.6以上5.0以下であってもよく、2.7以上4.5以下であってもよく、2.8以上4.0以下であってもよい。
【0074】
中間体のD10は特に限定されないが、工程(1−2)において、所望のD10を有する粉砕体を効率よく得る観点から、好ましくは0.10μm以上1.0μm以下、さらに好ましくは0.20μm以上0.80μm以下、さらに一層好ましくは0.30μm以上0.60μm以下である。
【0075】
中間体のD95は特に限定されないが、工程(1−2)において、所望のD95を有する粉砕体を効率よく得る観点から、好ましくは0.50μm以上5.0μm以下、さらに好ましくは0.60μm以上4.5μm以下、さらに一層好ましくは0.70μm以上4.0μm以下である。
【0076】
中間体のBET比表面積は特に限定されないが、工程(1−2)において、所望のBET比表面積を有する粉砕体を効率よく得る観点から、好ましくは3.0m/g以上25m/g以下、さらに好ましくは5.0m/g以上20m/g以下、さらに一層好ましくは7.0m/g以上17m/g以下である。
【0077】
中間体の真密度は特に限定されないが、例えば1.5g/cm以上5.0g/cm以下であってもよく、1.7g/cm以上4.5g/cm以下であってもよく、1.9g/cm以上4.0g/cm以下であってもよい。
【0078】
中間体のCS値は特に限定されないが、例えば1.0m/cm以上25m/cm以下であってもよく、2.0m/cm以上20m/cm以下であってもよく、3.0m/cm以上15m/cm以下であってもよい。
【0079】
本発明において、例えば図2に示すように、工程(1−1)における中間体は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む原料粉末であって、D50が0.10μm以上50μm以下である原料粉末を準備し、当該原料粉末を熱処理し、得られた熱処理体を、D50が0.10μm以上2.0μm以下である粉砕体が得られるように粉砕することで得ることができる。これにより、所望のD50及び所望の(A×B)/Cの値を有する中間体を効率よく準備することができる。なお、中間体を製造するための原料粉末を、以下、「第1の原料粉末」という。
【0080】
第1の原料粉末は、中間体の原料である。第1の原料粉末の組成は、中間体の組成を考慮して適宜調整することができる。第1の原料粉末の組成は、通常、中間体の組成と同一である。第1の原料粉末は、アルジロダイト型結晶相を含まない。ここで、「アルジロダイト型結晶相を含まない」とは、アルジロダイト型結晶相の含有割合が、第1の原料粉末を構成する全結晶相に対して、例えば5%質量%以下、3質量%以下又は1質量%以下であることを意味する。なお、アルジロダイト型結晶相の含有割合は、0質量%であってもよい。中間体のアルジロダイト型結晶相は、第1の原料粉末の熱処理によって生成され得る。
【0081】
第1の原料粉末としては、例えば、リチウム(Li)元素を含む一種又は二種以上の化合物の粉末と、リン(P)元素を含む一種又は二種以上の化合物の粉末と、硫黄(S)元素を含む一種又は二種以上の化合物の粉末と、場合によりハロゲン(X)元素を含む一種又は二種以上の化合物の粉末とを含む混合粉末を使用することができる。リチウム(Li)元素、リン(P)元素又はハロゲン(X)元素を含む化合物が硫黄(S)元素を含む場合、当該化合物は硫黄(S)元素を含む化合物にも該当する。
【0082】
リチウム(Li)元素、リン(P)元素、硫黄(S)元素及びハロゲン(X)元素を含む化合物としては、硫化物固体電解質の原料として一般的に用いられる公知の化合物と同様とすることができるため、ここでの記載は省略する。
【0083】
第1の原料粉末は、リチウム(Li)元素を含む一種又は二種以上の化合物の粉末と、リン(P)元素を含む一種又は二種以上の化合物の粉末と、硫黄(S)元素を含む一種又は二種以上の化合物の粉末と、場合によりハロゲン(X)元素を含む一種又は二種以上の化合物の粉末とを混合することにより調製することができる。混合は、例えば、乳鉢、ボールミル、振動ミル、転動ミル、ビーズミル、混練機等を用いて行うことができる。第1の原料粉末は、混合処理によって生じた反応物を含んでいてもよい。混合は、第1の原料粉末の結晶性が維持される程度の力で行うことが好ましい。
【0084】
第1の原料粉末は、例えば、LiS粉末と、P粉末と、LiCl粉末及び/又はLiBr粉末とを含む混合粉末である。
【0085】
第1の原料粉末のD50は特に限定されないが、例えば0.15μm以上40μm以下であってもよく、0.20μm以上30μm以下であってもよく、0.25μm以上20μm以下であってもよい。
【0086】
第1の原料粉末のD50が小さい場合には、第1の原料粉末をそのまま中間体として使用することができる場合がある。したがって、第1の原料粉末を熱処理し、得られた熱処理体を粉砕し、得られた粉砕体を中間体として準備する工程は、第1の原料粉末のD50が大きく、第1の原料粉末をそのまま中間体として使用できない場合に行うことが有利である。かかる観点から、第1の原料粉末のD50は、好ましくは2.5μm以上40μm以下、さらに好ましくは3.0μm以上30μm以下、さらに一層好ましく4.0μm以上20μm以下である。
【0087】
第1の原料粉末のD95は特に限定されないが、例えば0.10μm以上20μm以下であてもよく、0.20μm以上10μm以下であってもよく、0.30μm以上5.0μm以下であってもよい。
【0088】
工程(1−1)において、第1の原料粉末の熱処理は、アルジロダイト型結晶相を含む硫化物固体電解質が生成される条件で行われることが好ましい。熱処理温度は、好ましくは350℃以上500℃以下、さらに好ましくは400℃以上480℃以下、さらに一層好ましくは450℃以上470℃以下で行われる。熱処理時間は、第1の原料粉末の組成、熱処理温度等に応じて適宜調整することができる。熱処理時間は、好ましくは1時間以上10時間以下、さらに好ましくは2時間以上8時間以下、さらに一層好ましくは3時間以上6時間以下である。熱処理は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行われてもよいが、硫化水素ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0089】
工程(1−1)において、第1の原料粉末の熱処理によって得られた熱処理体(焼成体)の粉砕は、D50が0.10μm以上2.0μm以下である粉砕体が得られるように行われる。これにより、中間体を得ることができる。粉砕体のD10、D50及びD95の好ましい範囲は、それぞれ、中間体のD10、D50及びD95の好ましい範囲と同様である。
【0090】
第1の原料粉末の熱処理によって得られた熱処理体(焼成体)の粉砕は、例えば、ジェットミル、ボールミル、ビーズミル等を用いて、乾式又は湿式で行うことができる。粉砕を湿式で行う場合、溶媒として、例えば炭化水素系溶媒を用いることできる。
【0091】
粉砕後、所定の目開きの篩を用いて分級を行ってもよい。粉砕条件(例えば、粉砕機の回転数、粉砕処理工程数、粉砕処理時間、熱処理体に与えるエネルギー等)、分級に用いられる篩の目開き等は、得ようとする粉砕体のD50に応じて適宜調整することができる。
【0092】
工程(1−1)で準備された中間体の熱処理は、粒成長が生じる温度で行われる。したがって、中間体の熱処理によって得られる熱処理体のD50は、中間体のD50よりも大きい。例えば、熱処理体のD50は、中間体のD50の、1.1倍以上200倍以下であってもよく、1.3倍以上100倍以下であってもよく、2.2倍以上60倍以下であってもよい。また、例えば、熱処理体のD10は、中間体のD10の、1倍以上20倍以下であってもよく、1.05倍以上15倍以下であってもよく、1.1倍以上10倍以下であってもよい。さらに、例えば、熱処理体のD95は、中間体のD95の、1.2倍以上200倍以下であってもよく、1.4倍以上150倍以下であってもよく、2倍以上100倍以下であってもよい。
【0093】
工程(1−2)においては、中間体の熱処理によって、中間体に含まれる固体電解質粒子内部の歪が緩和され、結晶性が増大する。また、工程(1−1)が図2で説明したような粉砕工程を含むとき、当該粉砕工程で微粒子が発生する場合があるが、工程(1−2)における熱処理によって、微粒子の焼結を促進させることができる。熱処理温度は、好ましくは200℃以上500℃以下、さらに好ましくは200℃以上450℃以下、さらに一層好ましくは220℃以上420℃以下、さらに一層好ましくは240℃以上400℃以下である。中間体の熱処理時間は、中間体の組成、熱処理温度等に応じて適宜調整することができるが、工程(1−2)において、所望のD50及び所望の(A×B)/Cの値を有する粉砕体を効率よく得る観点から、好ましくは0.5時間以上5時間以下、さらに好ましくは2時間以上4時間以下、さらに一層好ましくは1.5時間以上3時間以下である。熱処理は、硫化水素気流下で行われてもよいが、工程(1−2)において異相生成が少ない粉砕体を得る観点から、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0094】
中間体の熱処理によって得られる熱処理体の粉砕は、D50が0.10μm以上2.0μm以下である粉砕体が得られるように行われる。これにより、本発明の硫化物固体電解質を得ることができる。得られる粉砕体のD10、D50及びD95の好ましい範囲は、それぞれ、本発明の硫化物固体電解質のD10、D50及びD95の好ましい範囲と同様である。
【0095】
工程(1−2)において、中間体の熱処理によって得られた熱処理体(焼成体)の粉砕は、第1の原料粉末の熱処理によって得られた熱処理体(焼成体)の粉砕で記載した内容と同様とすることができる。
【0096】
工程(1−2)において、所望のD50及び所望の(A×B)/Cの値を有する粉砕体を効率よく得る観点から、例えば、中間体の熱処理によって得られた熱処理体(焼成体)の粉砕における粉砕機の回転数、粉砕処理工程数、粉砕処理時間、熱処理体に与えるエネルギー等は、第1の原料粉末の熱処理によって得られた熱処理体(焼成体)の粉砕よりも少ないことが好ましい。
【0097】
工程(1−2)において、所望のD50及び所望の(A×B)/Cの値を有する粉砕体を効率よく得る観点から、例えば、中間体の熱処理によって得られた熱処理体(焼成体)の粉砕は、中間体の熱処理によって得られた熱処理体の粉砕体のBET比表面積と中間体のBET比表面積との比が1以上なるように行われることが好ましい。上記比(中間体のBET比表面積/粉砕体のBET比表面積)は、好ましくは1.0以上3.0以下、さらに好ましくは1.1以上2.2以下、さらに一層好ましくは1.2以上1.6以下である。
【0098】
工程(1−2)で得られた粉砕体は、そのまま、本発明の硫化物固体電解質として用いてもよいし、所望の処理を施した後、本発明の硫化物固体電解質として用いてもよい。
【0099】
<第2実施形態>
第2実施形態に係る製造方法は、例えば図3に示すように、下記工程:
(2−1)リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む原料粉末であって、D50が0.10μm以上2.0μm以下であり、D95が0.30μm以上5.0μm以下である原料粉末を準備する工程
(2−2)原料粉末を熱処理し、得られた熱処理体を、D50が0.10μm以上2.0μm以下である粉砕体が得られるように粉砕する工程
を含む。
【0100】
工程(2−1)で準備される原料粉末に対して工程(2−2)を施すことにより、本発明の硫化物固体電解質を得ることができる。
【0101】
第2実施形態に係る製造方法において、粒径が小さく、比表面積が低減された硫化物固体電解質を得ることができる理由は、以下の通りである。原料粉末の熱処理後の構造は、原料粉末の粒径を一部反映する。メジアン径D50が2.0μmよりも大きく、D95が5.0μmよりも大きい原料粉末を熱処理した場合、少なくとも2.0μmよりも大きい粒子がネッキングした構造体となる傾向がある。これをメジアン径D50が0.10μm以上2.0μm以下となるに粉砕する場合には、ネッキング面以外が粉砕されることによって、形状がいびつな粒子や微粒子が生成し、比表面積大きくなる。したがって、メジアン径D50が0.10μm以上2.0μm以下であり、D95が0.30μm以上5.0μm以下である原料粉末を用いた場合には、上記ネッキング面以外の粉砕頻度が抑制されるため、形状がいびつな粒子や微粒子がなく、粒径が小さく、比表面積が低減された硫化物固体電解質を得ることができる。
【0102】
工程(2−1)で準備される原料粉末は、D10、D50及びD95を除き、第1実施形態における第1の原料粉末と同様である。なお、工程(2−1)で準備される原料粉末を、以下、「第2の原料粉末」という。
【0103】
第2の原料粉末は、アルジロダイト型結晶相を含まない。なお、「アルジロダイト型結晶相を含まない」との記載の意義は、第1の原料粉末での記載の意義と同様である。
【0104】
工程(2−2)において、所望のD50を有する粉砕体を効率よく得る観点から、第2の原料粉末のD50は、好ましくは0.15μm以上0.95μm以下、さらに好ましくは0.20μm以上0.90μm以下、さらに一層好ましくは0.25μm以上0.85μm以下である。
【0105】
工程(2−2)において、第2の原料粉末D50に対する粉砕体のD50の比は、好ましくは0.10以上10以下、さらに好ましくは0.30以上7.0以下、さらに一層好ましくは0.60以上5.0以下である。上記比が記載の下限以上であることで、粉砕体の形状がより真球となるため、好ましい。中間体のD50に対する粉砕体のD50の比が記載の上限以下であることで、粉砕する工程時に微粉の生成を抑えることができるため、好ましい。
【0106】
第2の原料粉末のD10は特に限定されないが、工程(2−2)において、所望のD10を有する粉砕体を効率よく得る観点から、好ましくは0.10μm以上0.80μm以下、さらに好ましくは0.12μm以上0.60μm以下、さらに一層好ましく0.14μm以上0.40μm以下である。
【0107】
第2の原料粉末のD95は特に限定されないが、工程(2−2)において、所望のD95を有する粉砕体を効率よく得る観点から、好ましくは0.10μm以上5.0μm以下、さらに好ましくは0.15μm以上3.0μm以下、さらに一層好ましくは0.20μm以上2.0μm以下である。
【0108】
工程(2−2)における第2の原料粉末の熱処理は、アルジロダイト型結晶相を含む硫化物固体電解質が生成される条件で行われる。熱処理温度は、好ましくは300℃以上550℃以下、好ましくは320℃以上470℃以下、さらに好ましくは350℃以上450℃以下、さらに一層好ましくは370℃以上430℃以下で行われる。上記範囲の熱処理温度は、アルジロダイト生成反応が十分に進行するという観点及び原料の粒子形状を反映した熱処理体(焼成体)が得られるという観点から好ましい。熱処理時間は、第2の原料粉末の組成、熱処理温度等に応じて適宜調整することができる。熱処理時間は、第1の原料粉末の熱処理時間と同様とすることができる。
【0109】
第2の原料粉末の熱処理によって得られた熱処理体(焼成体)の粉砕は、D50が0.10μm以上2.0μm以下である粉砕体が得られるように行われる。これにより、本発明の硫化物固体電解質を得ることができる。粉砕体のD10、D50及びD95の好ましい範囲は、それぞれ、本発明の硫化物固体電解質のD10、D50及びD95の好ましい範囲と同様である。
【0110】
第2の原料粉末の熱処理によって得られた熱処理体(焼成体)の粉砕については、第1実施形態の工程(1−2)における粉砕と同様とすることができる。
【0111】
粉砕後、所定の目開きの篩を用いて分級を行ってもよい。粉砕条件(例えば、粉砕機の回転数、粉砕処理工程数、粉砕処理時間、熱処理体に与えるエネルギー等)、分級に用いられる篩の目開き等は、得ようとする粉砕体のD50に応じて適宜調整することができる。
【0112】
工程(2−2)で得られた粉砕体は、そのまま、本発明の硫化物固体電解質として用いてもよいし、所望の処理を施した後、本発明の硫化物固体電解質として用いてもよい。
【実施例】
【0113】
各実施例において、固体電解質の特性評価は、以下の方法を用いて行った。
【0114】
<組成>
各実施例で得られた固体電解質のサンプルを全溶解してICP発光分析法によりサンプルの元素組成を分析した。
【0115】
<結晶相>
固体電解質サンプルにおける結晶相の分析は、X線回折法(XRD、Cu線源)で分析し、X線回折パターンを得た。X線回折法は、株式会社リガク製のXRD装置「Smart Lab」を用いて、走査軸:2θ/θ、走査範囲:10〜140deg、ステップ幅:0.01deg、走査速度:1deg/minの条件下で行った。実施例1〜3においては、大気非曝露セル中でX線回折法を行った。実施例4においては、アルゴン雰囲気中で固体電解質上に流動パラフィンを数滴滴下した後、大気中でX線回折法を行った。
【0116】
<D10、D50及びD95
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による固体電解質の粒度分布の測定は、次の手順で行った。レーザー回折粒子径分布測定装置用自動試料供給機(日機装株式会社製「Microtorac SDC」)を用い、固体電解質を含む測定用試料の流速を50%に設定し、固体電解質を含む測定用試料に対して30Wの超音波を60秒間照射した。その後、日機装株式会社製レーザー回折粒度分布測定機「MT3000II」を用いて粒度分布を測定し、得られた体積基準粒度分布のチャートから、累積体積が10体積%、50体積%及び95体積%となる粒径を求め、それぞれ、D10、D50及びD95とした。なお、D10、D50及びD95の測定の際、有機溶媒を60μmのフィルターを通し、溶媒屈折率を1.50、粒子透過性条件を「透過」、粒子屈折率1.59、形状を「非球形」とし、測定レンジを0.133μm〜704.0μm、測定時間を10秒とし、測定を2回行い、得られた測定値の平均値をそれぞれD10、D50及びD95とした。
【0117】
固体電解質を含む測定用試料は、次のようにして作製した。まず、固体電解質0.3gと分散剤含有液5.7g(トルエンの質量:分散剤(サンノプコ株式会社製 SNディスパーサント9228)の質量=19:1(質量比)とを手混合することにより、固体電解質を含むスラリーを作製した。次いで、固体電解質を含むスラリー6mlを有機溶媒(トルエン)に投入することにより、固体電解質を含む測定用試料を調製した。
【0118】
なお、固体電解質の原料粉末のD10、D50及びD95の測定は、原料粉末を含む測定用試料を使用した点を除き、上記と同様に行った。原料粉末を含む測定用試料は、次のようにして作製した。まず、後述するように、原料粉末を含むスラリー(原料スラリー)を作製した。次いで、有機溶媒(トルエン)に分散剤(サンノプコ株式会社製 SNディスパーサント9228)を数滴滴下した後、原料粉末を含むスラリーを数滴滴下することにより、原料粉末を含む測定用試料を作製した。
【0119】
<BET比表面積>
BET比表面積は、次の方法で算出した。MicrotracBEL株式会社製の比表面積測定装置「BELSORP−miniII」を用いて、定容量ガス吸着法により吸脱着等温線を測定し、多点法によりBET比表面積を算出した。前処理は減圧環境下で120℃にて30分以上実施した。パージガスにはHe、吸着質にはNを使用した。
【0120】
<真密度>
MicrotracBEL株式会社製の真密度評価装置「BELPycno」を用いて、ガス置換法によって真密度を算出した。前処理はパージにて5回実施した。測定にはアルミナ10ccセルを使用し、セルの7割程度まで試料を充填した。
【0121】
<CS値>
10、D50及びD95の測定と同様にして、日機装株式会社製レーザー回折粒度分布測定機「MT3000II」を用いて粒度分布を測定し、得られた体積基準粒度分布のチャートから、CS値を算出した。
【0122】
<実施例1>
(1)中間体の製造
組成がLi5.4PS4.4Cl0.8Br0.8となり、全量が5gとなるように、LiS粉末、P粉末、LiCl粉末及びLiBr粉末をそれぞれ秤量し、トルエン中にてボールミルで15時間、粉砕及び混合を行い、原料スラリーを得た。得られた原料スラリーの評価結果を表1に示す。
【0123】
得られた原料スラリーを真空加熱乾燥した後、得られた原料粉末をカーボン製の容器に充填した後、管状電気炉にて、硫化水素ガスを1.0L/分で流通させながら、昇降温速度200℃/時間にて300℃で4時間熱処理した後、500℃で4時間熱処理した。
【0124】
得られた熱処理体(焼成体)を粉砕し、粉末状の中間体を得た。粉砕は遊星ボールミル(フリッチュ製)を用いて2段階に粉砕することで行った。1段階目の粉砕では、遊星ボールミル(フリッチュ製)を用いて行った。容量80cmのジルコニア製容器に固体電解質(熱処理体)5g、脱水ヘプタン10g、5mmZrOボール90gを入れ、回転数100rpmで3時間粉砕処理を行った。得られたスラリーを真空乾燥し、1段階目の粉砕体とした。得られた1段階目の粉砕体を用いて2段階目の粉砕を行った。2段階目の粉砕では、容量80ccのジルコニア製容器に固体電解質(第1段階目の粉砕体)2g、分散剤(酢酸ブチル)0.06g、超脱水トルエン10g、0.8mmZrOボール90gを入れ、回転数100rpmで1時間粉砕処理を行った。得られたスラリーに対して、ボール分離及び固液分離を行い、80℃で真空乾燥した後、目開き53μmの篩を通して整粒することで粉末状の中間体を得た。
【0125】
なお、秤量、混合、電気炉へのセット、電気炉からの取り出し、粉砕及び整粒作業は全て、十分に乾燥されたArガス(露点−60℃以下)で置換されたグローブボックス内で行った。
【0126】
(2)中間体の特性評価
得られた中間体の評価結果を表1に示す。
【0127】
なお、中間体は、CuKα1線を用いて測定されるX線回折パターンにおいて、アルジロダイト型結晶相に由来するピークを有していた。
【0128】
(3)中間体の熱処理
中間体を、アルゴンガスを1L/分の流量でフローした環境下、250℃で2時間熱処理した。
【0129】
(4)熱処理体の特性評価
得られた熱処理体の評価結果を表1に示す。
【0130】
なお、熱処理体は、CuKα1線を用いて測定されるX線回折パターンにおいて、アルジロダイト型結晶相に由来するピーク有していた。
【0131】
(5)熱処理体の粉砕
得られた熱処理体を以下の通り粉砕し、粉砕体を得た。容量80ccのジルコニア製容器に熱処理体2g、分散剤(酢酸ブチル)0.06g、超脱水トルエン10g、0.8mmZrOボール90gを入れ、回転数100rpmで10分間粉砕処理を行った。得られたスラリーに対してボール分離及び固液分離を行い、80℃で真空乾燥した後、目開き53μmの篩を通して整粒することで熱処理体の粉砕体を得た。
【0132】
(6)粉砕体の特性評価
得られた粉砕体の評価結果を表1及び図4に示す。
【0133】
図4に示すように、粉砕体は、CuKα1線を用いて測定されるX線回折パターンにおいて、アルジロダイト型結晶相に由来するピークを有していた。
【0134】
<実施例2>
中間体の熱処理温度を300℃に変更した点を除き、実施例1と同様の操作を行った。実施例1と同様の評価結果を表1及び図4に示す。
【0135】
図4に示すように、粉砕体は、CuKα1線を用いて測定されるX線回折パターンにおいて、アルジロダイト型結晶相に由来するピークを有していた。
【0136】
なお、中間体及び熱処理体についても、CuKα1線を用いて測定されるX線回折パターンにおいて、アルジロダイト型結晶相に由来するピークを有していた。
【0137】
<実施例3>
(1)粉砕体の製造
組成がLi5.4PS4.4Cl0.8Br0.8となり、全量が5gとなるように、LiS粉末、P粉末、LiCl粉末及びLiBrをそれぞれ秤量し、遊星ボールミルで2時間、粉砕及び混合を行い、原料粉末を得た。得られた原料粉末を容量80ccのジルコニア製容器に2g投入し、さらに分散剤(酢酸ブチル)0.06g、超脱水トルエン10g、0.8mmZrOボール90gを入れ、回転数100rpmで1時間粉砕処理を行った。得られたスラリーからボールを分離した後、80℃で真空乾燥し、53μm篩を通して整粒することで原料粉末を得た。得られた原料粉末の特性(D10、D50及びD95)を評価した。評価結果を表2に示す。
【0138】
得られた原料粉末をカーボン製の容器に充填した後、管状電気炉にて、硫化水素ガスを1.0L/分で流通させながら、昇降温速度200℃/時間にて300℃で4時間熱処理した後、400℃で4時間熱処理した。
【0139】
得られた熱処理体(焼成体)を粉砕し、粉砕体を得た。容量80ccのジルコニア製容器に熱処理体2g、分散剤(酢酸ブチル)0.06g、超脱水トルエン10g、0.8mmZrOボール90gを入れ、回転数100rpmで10分間粉砕処理を行った。得られたスラリーに対してボール分離及び固液分離を行い、80℃で真空乾燥した後、53μm篩を通して整粒することで粉砕体を得た。
【0140】
なお、秤量、混合、電気炉へのセット、電気炉からの取り出し、粉砕及び整粒作業は全て、十分に乾燥されたArガス(露点−60℃以下)で置換されたグローブボックス内で行った。
【0141】
(2)粉砕体の特性評価
得られた粉砕体の評価結果を表2及び図4に示す。
【0142】
図4に示すように、粉砕体は、CuKα1線を用いて測定されるX線回折パターンにおいて、アルジロダイト型結晶相に由来するピークを有していた。
【0143】
<実施例4>
組成をLi5.8PS4.8Cl1.2に変更した点、原料粉末の粉砕処理を回転数100rpmで2時間を行った点、及び、熱処理体(焼成体)の粉砕処理を回転数100rpmで30分間行った点を除き、実施例3と同様の操作を行った。実施例3と同様の評価結果を表2及び図4に示す。
【0144】
図4に示すように、粉砕体は、CuKα1線を用いて測定されるX線回折パターンにおいて、アルジロダイト型結晶相に由来するピークを有していた。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
表1及び表2に示すように、実施例1〜4により、Li、P及びSを含むとともに、アルジロダイト型結晶相を含む硫化物固体電解質であって、0.10μm以上2.0μm以下のD50及び1.0以上2.5以下の(A×B)/Cの値を有する粉末を得ることができた。
【要約】
本発明は、粒径が小さく、低比表面積の硫化物固体電解質、該硫化物固体電解質を用いた電極合材、スラリー及び電池、並びに、該硫化物固体電解質の製造方法を提供することを目的し、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む硫化物固体電解質であって、メジアン径D50が、0.10μm以上2.0μm以下であり、下記式:
(A×B)/C
[式中、Aは、BET比表面積(m/g)を表し、Bは、真密度(g/cm)を表し、Cは、CS値(m/cm)を表す。]
の値が1.0以上2.5以下である、硫化物固体電解質を提供する。
図1
図2
図3
図4