特許第6952297号(P6952297)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6952297
(24)【登録日】2021年9月30日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】細胞培養用中空糸膜及び細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20211011BHJP
   C12N 5/07 20100101ALI20211011BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20211011BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20211011BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20211011BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
   C12M1/00 C
   C12N5/07
   B01D63/02
   B01D69/08
   B01D69/02
   B01D71/56
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-187781(P2016-187781)
(22)【出願日】2016年9月27日
(65)【公開番号】特開2018-50498(P2018-50498A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年8月8日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名:第53回化学関連支部合同九州大会 外国人研究者交流国際シンポジウム 講演予稿集、第15頁 CE−1−019 発行者名:日本分析化学会九州支部 発行日:平成28年7月2日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:第53回化学関連支部合同九州大会 外国人研究者交流国際シンポジウム 開催場所:北九州国際会議場(福岡県北九州市小倉北区浅野3丁目9−30) 開催日:平成28年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】小野 貴博
(72)【発明者】
【氏名】水本 博
(72)【発明者】
【氏名】赤岡 智彬
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】梶原 稔尚
【審査官】 小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/020614(WO,A1)
【文献】 特開2012−044908(JP,A)
【文献】 特開平05−111379(JP,A)
【文献】 特開2016−068004(JP,A)
【文献】 特開2015−198999(JP,A)
【文献】 特開2001−128660(JP,A)
【文献】 特開2004−283010(JP,A)
【文献】 特開2002−112763(JP,A)
【文献】 特開2008−109908(JP,A)
【文献】 特開平10−033671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12N 1/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を中空部分内に導入して培養するための高分子製中空糸膜(但し、異形断面を有する中空糸膜を除く)であり、
前記中空糸膜は、ポリアミド及び/又はポリアミドの共重合体であり、
前記ポリアミドの共重合体は、ポリアミド成分の比率が70モル%以上であり、
内径が90μm〜150μmの範囲であり、
膜厚が30μm〜250μmの範囲であり、
孔径が0.05μm〜0.2μmであり、
中空糸膜壁を液体が通過することのできる多孔質となっており、
前記中空糸膜の水に対する接触角が60°以下であり、25℃の純水透水量が300L/(m2・atm・h)以上であることを特徴とする、細胞培養用中空糸膜。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞培養用中空糸膜が複数本同方向に配置されており、片方の端部又は両方の端部が接着剤によってシールされており、少なくとも一方の端部は開口した状態となっている、細胞培養用の中空糸膜モジュール。
【請求項3】
請求項1に記載の細胞培養用中空糸膜の内部に細胞を充填し、前記細胞培養用中空糸膜を当該細胞の培養液に浸漬し、当該細胞にとって適切な温湿度、ガス雰囲気下に置いて培養する、細胞の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養用中空糸膜に関する。更に詳しくは、本発明は、細胞の生存率、活性をほとんど低下させることなく培養することができる中空糸膜であり、製薬分野、医療分野、食品分野、化学工業分野における製造、医療、及び/又は研究開発において好適に使用される中空糸膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中空糸膜は、浄水分野で細菌や原虫の除去、工業分野で夾雑物の除去や蛋白質や酵素等の熱に弱い物質の分離又は濃縮、医療分野で人工透析、医薬品や医療用水製造時のウィルスや蛋白質の除去、超純水の製造、電着塗料の回収、製糸・パルプ工場の汚水処理、含油排水の処理、ビル排水の処理、果汁の清澄化、生酒の製造、チーズホエーの濃縮・脱塩、濃縮乳の製造、卵白の濃縮、バイオリアクターへの利用、気体中の微粒子除去、原子力発電所の水処理等、様々な分野で実用化されている。
【0003】
一方、上記の様な異物除去、分離精製を目的とした使用方法のみではなく、膜の物質透過性能を利用することにより中空糸膜を細胞培養に応用する例が報告されている。例えば特許文献1には、ガス供給用と培地供給用の2種類の中空糸膜を使用しその間に位置するナノファイバーで細胞を培養する方法が開示されている。この場合、細胞は中空糸膜の外部に位置しており中空糸膜は栄養分や酸素の供給と足場材料の一部としてのみ使用されていた。
【0004】
また、特許文献2には、中空糸膜の内部に肝細胞を充填し培養する方法が開示されている。この方法は、効率の良い培養方法ではあるが、培養時間の経過とともに活性が著しく低下する問題があった。特許文献3には、上記と同様の方法で幹細胞を培養する方法が開示されており、特許文献4には、iPS細胞を培養する方法が開示されている。これらは、細胞の未分化性を維持しつつ多能性細胞を大量に培養する方法となっている。
【0005】
上記の様に中空糸膜内で細胞を培養する方法は、細胞が産生する物質を中空糸膜外部に取り出せることから、中空糸膜束やモジュールの形状で人工肝臓等の人工臓器として利用することができ医療分野、工業分野で非常に有用な技術である。また、中空糸膜内で培養された細胞は円柱状の細胞集合塊として取り出すこともできる。
【0006】
しかしながら、上記の細胞培養に使われる中空糸膜は内径が285μmや330μmと大きいものが使われており、細胞が充填される部分の内径面積が大きいことから、中心部まで十分に酸素や栄養分が行き渡らず内部の細胞が壊死する問題があった。このような問題を解決するために、特許文献5には、中空糸膜を押しつぶして異形断面にすることで細胞生存率を上げる方法が開示されている。しかし、異形断面を作る工程によりコストアップする問題や、異形断面にすることで内部の細胞集合塊を効率よく取り出すことが困難になる問題があった。
【0007】
さらに、このような細胞培養に使用する中空糸膜は親水性が高いものが良いとされてきたため、例えば特許文献4,5では中空糸膜の素材にはポリエチレンにエチレン・ビニルアルコール共重合体をコートしたものが使われてきた。この場合エチレン・ビニルアルコール共重合体により親水化されるものの、親水性の程度は低くコート剤の剥離や溶出といった懸念があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−148496号公報
【特許文献2】特開2004−166717号公報
【特許文献3】特開2014−60991号公報
【特許文献4】特開2006−7207号公報
【特許文献5】国際公開WO2004/20614号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決し、高い細胞生存率を維持し取扱いのしやすい細胞培養用中空糸膜を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討したところ、細胞を中空部分内に導入して培養するための高分子製中空糸膜であって、内径が20μm〜150μmの範囲であり、膜厚が30μm〜250μmの範囲であり、中空糸膜壁を液体が通過することのできる多孔質となっている細胞培養用中空糸膜を使用することで、好適に細胞が培養でき高い生存率を達成できることを見出した。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の細胞培養用中空糸膜及び中空糸膜モジュールを提供する。
項1. 細胞を中空部分内に導入して培養するための高分子製中空糸膜であり、内径が20μm〜150μmの範囲であり、膜厚が30μm〜250μmの範囲であり、中空糸膜壁を液体が通過することのできる多孔質となっている、細胞培養用中空糸膜。
項2. 前記中空糸膜が、孔径0.02μm〜0.5μmの範囲である、項1に記載の細胞培養用中空糸膜。
項3. 前記中空糸膜の水に対する接触角が60°以下であり、25℃の純水透水量が300L/(m2・atm・h)以上である、項1または2に記載の細胞培養用中空糸膜。
項4. 前記中空糸膜が、ポリアミド及び/又はポリアミドの共重合体である、項1〜3のいずれかに記載の細胞培養用中空糸膜。
項5. 前記中空糸膜の内径が、90μm〜150μmの範囲である、項1〜4いずれかに記載の細胞培養用中空糸膜。
項6. 項1〜5のいずれかに記載の細胞培養用中空糸膜が複数本同方向に配置されており、片方の端部又は両方の端部が接着剤によってシールされており、少なくとも一方の端部は開口した状態となっている、細胞培養用の中空糸膜モジュール。
項7. 項1〜5のいずれかに記載の細胞培養用中空糸膜の内部に細胞を充填し、前記細胞培養用中空糸膜を当該細胞の培養液に浸漬し、当該細胞にとって適切な温湿度、ガス雰囲気下に置いて培養する、細胞の培養方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の細胞培養用中空糸膜は、細胞の生存率、代謝活性が高いレベルで維持されることから、効率よく細胞増殖、有用物質産生等が行える。また、ヒト細胞を用いることにより例えば人工肝臓などの形態で使用でき、機能低下した臓器を補完する医療用具としても効果的に使用できる。このことから、本発明の細胞培養用中空糸膜は、製薬分野、医療分野、食品分野、化学工業分野における製造、医療、及び/又は研究開発において好適に使用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のポリアミド中空糸膜の純水透水量を測定する装置の概略図である。
図2】実施例1,2及び比較例1における細胞培養期間と細胞生存率との関係を示すグラフである。
図3】実施例1,2及び比較例1における細胞培養期間とアンモニア除去能との関係を示すグラフである。
図4】実施例1,2及び比較例1における細胞培養期間とアルブミン分泌能との関係を示すグラフである。
図5】実施例1において、培養7日後の中空糸膜中の細胞の低酸素誘導因子の発現を免疫蛍光染色によって確認した顕微鏡写真である。
図6】比較例1において、培養7日後の中空糸膜中の細胞の低酸素誘導因子の発現を免疫蛍光染色によって確認した顕微鏡写真である。
図7】実施例3及び比較例3における培養日数と細胞密度との関係を示すグラフである。
図8】実施例3及び比較例3における培養日数とアンモニア除去能との関係を示すグラフである。
図9】実施例3及び比較例3における培養日数と尿素生成能との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の細胞培養用中空糸膜は、細胞を中空部分内に導入して培養するための高分子製中空糸膜である。高分子としては、本発明の効果を損なわない限りいかなるものでも使用でき、例えばポリアミド、ポリエチレン、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。これらの高分子は単独で使用しても二種類以上の共重合体であっても良いし混合使用しても良い。これらの中ではポリアミド及び/又はポリアミドの共重合体が好ましい。ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミドMXD6、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T等が挙げられる。また、ポリアミドの共重合体としては、具体的には、ポリアミドとポリテトラメチレングリコール又はポリエチレングリコール等のポリエーテルとの共重合体等が挙げられる。また、ポリアミドの共重合体におけるポリアミド成分の比率については、特に制限されないが、例えば、ポリアミド成分が占める割合として、好ましくは70モル%以上が挙げられる。ポリアミドの共重合体においてポリアミド成分の比率が上記範囲を充足することにより、比較的強直で強度のある中空糸膜となる。これらの中でより好ましいのはポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド11であり、最も好ましいのはポリアミド6である。
【0015】
本発明の中空糸膜の内径は、20μm〜150μmの範囲であり、好ましくは50μm〜150μmであり、さらに好ましくは80μm〜150μmであり、特に好ましくは90〜150μmである。この範囲より小さい場合には細胞の充填が困難になり、この範囲より大きい場合には酸素や栄養不足により細胞の生存率が低下する問題がある。
【0016】
本発明の中空糸膜の膜厚は、30μm〜250μmの範囲であり、好ましくは30μm〜150μmであり、さらに好ましくは50μm〜120μmであり、特に好ましくは80μm〜100μmである。この範囲より小さい場合には中空糸膜の強度が弱くなる問題があり、この範囲より大きい場合には中空糸膜壁の物質移動がスムーズにならないことから細胞の生存率が低下する可能性がある。
【0017】
本発明の中空糸膜は、中空糸膜壁が多孔質となっており、外側から内側、又は内側から外側に液体が透過することができる。このことにより、新鮮な培地が外側から供給され、老廃物が内側から排泄される。中空糸膜の孔径は0.02μm〜0.5μmの範囲であることが好ましく、0.05μm〜0.3μmがより好ましく、0.05μm〜0.2μmがさらに好ましく、0.08μm〜0.12μmが特に好ましい。この範囲より小さい場合は物質移動がスムーズにならない可能性があり、この範囲より大きい場合には中空糸膜の強度低下が起こる可能性がある。ここでいう孔径とは、中空糸膜の内側から外側に、ポリスチレンラテックス微粒子の水懸濁液を流した際に90%以上が阻止されるときのポリスチレンラテックス微粒子の直径である。
【0018】
本発明において、粒子阻止率は、0.1%TritonX−100水溶液299mlに、Duke Scientific社製の所定の孔径のポリスチレン微粒子を1ml添加して、3時間攪拌分散し、これを図1の透水量測定装置に通液し、膜を透過した液を回収し、膜透過前後の液の380nmの吸光度を測定し、下式により求めたものである。
粒子阻止率=(初期吸光度−透過液吸光度)/初期吸光度×100
【0019】
本発明の細胞培養用中空糸膜は、素材自体が親水性に優れるものである。親水性の指標として、本発明では水に対する接触角を採用した。水に対する接触角は、膜の表面に0.1〜2.0μl量の純水の水滴を優しく接触させ、膜の表面に形成された水滴の端点における接線と膜表面とのなす角度を接触角計で測定して求めたものである。したがって、この値が小さいほど親水性が高いといえる。なお、本明細書中での接触角の測定値は、協和界面科学製の自動接触角計DM−500を使用した値である。
【0020】
水に対する接触角は、通常65°以下であり、好ましくは60°以下であり、さらに好ましくは55°以下である。この値より高ければ親水性が低く、物質移動がスムーズに行かない、細胞の増殖性が悪くなる、増殖後の細胞塊の取得性が悪くなるなどの問題がある。
【0021】
また、本発明の細胞培養用中空糸膜は、物質移動性能のひとつとして25℃における純水の透水量が、好ましくは300L/(m2・atm・h)以上であり、より好ましくは300L/(m2・atm・h)〜2500L/(m2・atm・h)であり、さらに好ましくは800L/(m2・atm・h)〜2000L/(m2・atm・h)であり、特に好ましくは1200L/(m2・atm・h)〜1800L/(m2・atm・h)である。
【0022】
ここで、本発明における透水量は、内圧式ろ過によって測定した値であり、具体的には、中空糸膜を10〜20cmに切断し、両端の中空部分に内径に合う径の注射針を挿入し、図1に示すような装置にセットした後、所定時間(分)送液ポンプ13で純水を通し、膜を透過して受け皿18に貯まった水の容量(L)を透過水量とし、以下の式により求めたものである。
【0023】
透水量=透過水量(L)/[内径(m)×3.14×長さ(m)×{(入口圧(気圧)+出口圧(気圧))/2}×時間]
【0024】
透水量が300L/m2・atm・h未満であれば、物質移動がスムーズに行かず細胞の増殖性や活性が低下する場合がある。
【0025】
本発明の細胞培養用中空糸膜は、そのままでも使用できるが、より効率的に使用するためにはモジュール形状にすることができる。モジュールは、本発明の効果を損なわない限りどのような形状でもかまわないが、中空糸膜が複数本同方向に配置され、少なくとも片方の端部又は両方の端部が接着剤によってシールされており、少なくとも一方の端部は開口している状態となっていることが好ましい。中空糸膜の長さはその用途によって変えることができる。開口させる方の端部は、接着剤により複数の中空糸膜束を接着し、中空糸膜束を垂直方向に接着剤と共に切断することで良好に開口させることができる。この時使用する接着剤の種類は特に限定されないが、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂等が好ましく、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂がさらに好ましい。
【0026】
開口させない方の端部は、接着剤を使用せず熱によって融着させて閉口させることもできるし、上述のような接着剤で固めることによって接着させることもできる。開口させない方の端部は複数の中空糸膜が一緒に固められていても良いし、ばらけていても構わない。
【0027】
本発明の細胞培養用の中空糸膜は、内部に細胞を導入して培養するものである。細胞の導入方法は、本発明の効果を損なわない限りいかなる方法でも用いることができる。小型モジュールの場合には、注射筒等を用いて圧入する方法を取ることができる。中型、大型のモジュールの場合、ポンプ等により培地と共に細胞を送液し圧入する方法を取ることができる。上記等の方法で細胞を中空糸膜内部に導入した後は、遠心や吸引等の方法で中空糸膜の端部に寄せることができる。
【0028】
細胞が導入された中空糸膜は、その細胞が好適に増殖、分化、機能発現できる環境に置いて、細胞を培養することが好ましい。その環境としては、培地の組成・種類、温度・湿度、ガス組成、振動の有無等が挙げられる。例えば、ヒト細胞の培養の場合、温度37℃、湿度90%〜95%、ガス組成5%二酸化炭素、95%空気の環境で培養することが好ましい。細胞が導入された中空糸膜は、中空糸膜を通して栄養分、ガス、老廃物のやり取りをするため、培地の中に浸った状態で培養されることが好ましい。
【0029】
本発明の細胞培養用中空糸膜で培養される細胞は特に限定されないが、動物細胞であることが好ましい。かかる細胞としては、肝細胞、脂肪細胞、伊藤細胞等の代謝及び貯蔵細胞、腎臓傍細胞、糸球体上皮細胞、導管細胞等のバリア機能細胞、乳腺細胞、唾液腺粘液細胞、前立腺細胞等の外分泌上皮細胞、脳下垂体前葉細胞、甲状腺細胞、副腎細胞、黄体細胞等のホルモン分泌細胞、表皮基底細胞、毛管細胞等の角質化上皮細胞、各種神経細胞、角膜線維芽細胞、軟骨細胞、骨芽細胞等のマトリックス細胞、骨格筋細胞、心筋細胞、筋衛星細胞、平滑筋細胞等の筋細胞、白血球、赤血球、好中球、肥満細胞、ナチュラルキラー細胞、等の血液及び免疫系細胞、卵細胞、精母細胞等の胚細胞、ナース細胞、ES細胞、iPS細胞等の幹細胞等が挙げられる。これらの中で、肝細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、筋細胞、幹細胞が好ましい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
なお、実施例中、中空糸膜の透水量は上述した方法により測定した。
【0032】
実施例1
熱誘起相分離法にて製膜した孔径0.1μmのポリアミド6中空糸膜(内径118μm、膜厚85μm、透水量1500L/(m2・atm・h)、水接触角51°、ユニチカ株式会社製)を9本束ね、有効長さ26mmになるようにモジュールを作製した。モジュールは両端をシリコンゴムで接着し、片端は注射筒に連結できるような構造にした。中空糸膜内部の有効培養体積は2.6mm2であった。このモジュールにラット初代肝細胞を2.2×106個導入し、遠心機にて200G×180秒遠心し細胞を充填した。これを培地中に置き温度37℃、湿度95%、二酸化炭素濃度5%の条件下45rpmで旋回培養した。その結果、細胞生存率は図2に示すように7日間培養後も40%以上と高い値を示した。また、図3に示すようにアンモニア除去速度は約400μmol/cm3/日、図4に示すようにアルブミン分泌速度は約2mg/cm3/日といずれも高い値を示し、肝細胞として高い機能を発現したことが分かった。
培養7日後の中空糸膜中の細胞において、酸素欠乏性を把握するため低酸素誘導因子の発現を免疫蛍光染色によって確認したところ、図5に示すように緑色の細胞は中心部までほとんど無く、酸素が欠乏していない様子が確認できた。
【0033】
実施例2
ポリアミド6中空糸膜に孔径0.1μm、内径148μm、膜厚94μm、透水量1500L/(m2・atm・h)、水接触角51°のものを用い、これを8本束ね、有効長さ19mmになるようにモジュールを作製した以外は実施例1と同様にラット初代肝細胞を培養した。この時のモジュールの有効培養体積は2.6mm2であった。その結果、細胞生存率は図2に示すように7日間培養後も40%以上と高い値を示した。また、図3に示すように7日間培養後のアンモニア除去速度は約350μmol/cm3/日、図4に示すように7日間培養後のアルブミン分泌速度は約2mg/cm3/日といずれも高い値を示し、肝細胞として高い機能を発現したことが分かった。
【0034】
比較例1
中空糸膜にエチレン−ビニルアルコールコートのポリエチレン製血漿分離膜(孔径0.3μm、内径330μm、膜厚50μm)を用い、これを2本束ね、有効長さ15mmになるようにモジュールを作製した以外は実施例1と同様にラット初代肝細胞を培養した。この時のモジュールの有効培養体積は2.6mm2であった。その結果、細胞生存率は図2に示すように7日間培養後には15%程度と著しく低下した。また、図3に示すように7日間培養後のアンモニア除去速度は約200μmol/cm3/日、図4に示すように7日間培養後のアルブミン分泌速度は約0.8mg/cm3/日といずれも低くなった。
培養7日後の中空糸膜中の細胞において、酸素欠乏性を把握するため低酸素誘導因子の発現を免疫蛍光染色によって確認したところ、図6に示すように中空糸膜内部の細胞はほとんどが緑色に発色しており、大部分の細胞において酸素が欠乏している様子が確認できた。
【0035】
比較例2
中空糸膜にポリアミド6中空糸膜(孔径0.1μm、内径366μm、膜厚105μm、透水量4000L/(m2・atm・h)、水接触角51°、ユニチカ株式会社製)を用い、これを2本束ね、有効長さ12mmになるようにモジュールを作製した以外は実施例1と同様にラット初代肝細胞を培養した。この時のモジュールの有効培養体積は2.5mm2であった。その結果、細胞生存率は7日間培養後には20%程度と著しく低下した。
【0036】
実施例3
実施例1で使用した孔径0.1μmのポリアミド6中空糸膜(内径118μm、膜厚85μm、透水量1500L/(m2・atm・h)、水接触角51°、ユニチカ株式会社製)を10本束ね、有効長さ22mmになるようにモジュールを作製した。モジュールは両端をシリコンゴムで接着し、片端は注射筒に連結できるような構造にした。中空糸膜内部の有効培養体積は2.4mm2であった。このモジュールに、マウス肝がん由来ヘパトーマ細胞(Hepa1−6)に対し、薬剤誘導型遺伝子発現誘導系を用いて8つの肝転写因子を発現するよう樹立された細胞株を導入し、実施例1と同様に、遠心機にて200G×180秒遠心し細胞を充填した。細胞に導入した導入転写因子は、Hepatocyte nuclear factor(HNF)−1α、−1β、−3β、−4α、6及び、CCAAT/enhancer binding protein(C/EBP)−α、−β、−γである(Biochemical Engineering Journal 60,67-73, 2012)。このモジュールを培養5日目まではDMEM及び10%FBSの培地にて増殖培養を行い、5日目からはドキシサイクリンを0.1μg/mL添加した培地にて機能発現誘導を行った。その結果、細胞数は図7に示すように5日目まで細胞は順調に増殖し、機能発現誘導以降は徐々に低減した。またアンモニア除去速度は図8のように12日後に約700μmol/cm3/日と高い値を示し、尿素生成速度も図9のように12日後に約30mg/cm3/日と高い値を示した。このことから、遺伝子導入細胞株においても本発明の中空糸膜を用いることで効果的な増殖、機能発現ができることがわかった。
【0037】
比較例3
中空糸膜に三酢酸セルロース製の血漿分離膜(孔径0.2μm、内径285μm、膜厚51μm)を用い、これを6本束ね、有効長さ30mmになるようにモジュールを作製した以外は実施例3と同様にマウス肝がん由来ヘパトーマ細胞(Hepa1−6)に対し、薬剤誘導型遺伝子発現誘導系を用いて8つの肝転写因子を発現するよう樹立された細胞株を増殖培養、機能発現誘導した。このモジュールの有効培養体積は11.5mm2であった。その結果、図7に示すように5日目まで細胞は順調に増殖し、機能発現誘導以降は徐々に低減した。しかし、図8図9に示すように機能発現はほとんど認められなかった。このことから、この中空糸膜では遺伝子導入細胞株での機能発現はできないことが分かった。
【符号の説明】
【0038】
1:送液ポンプ
2:中空糸膜
3:受け皿
4:圧力調整バルブ
5:入口圧力計
6:出口圧力計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9