【実施例】
【0046】
以下、具体的な実施例を介して本発明をより具体的に説明する。下記実施例は、本発明の理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の範囲がこれに限定されるものではない。
【0047】
実施例
1.カテコールが導入されたヒアルロン酸の製造
図1に、カテコールが導入されたヒアルロン酸の製造工程を図式的に示した。より詳細には、水もしくは生理食塩水(PBS)にヒアルロン酸を溶かす。水よりは生理食塩水を用いることが好ましい。ここで、ヒアルロン酸の分子量は、1〜5000kDaであって、用途に応じて、多様に用いることができる。本実験では、10〜1500kDaを用いた。
【0048】
反応に用いられるヒアルロン酸の濃度は0.5〜10g/Lであってもよく、本実験では、5g/Lを用いた。ヒアルロン酸が溶解された溶液に順にEDC(1−ethyl−(3,3−dimethyl aminopropyl)carboimide hydrochloride)及びNHS(N−hydroxysuccinimide)をそれぞれヒアルロン酸と同一の当量数で加え、繰り返し混ぜた。後続的に、ドーパミン(dopamine hydrochloride)をヒアルロン酸に対して1〜50倍(本実験では10倍)に該当する当量数で加えた。このように混合した溶液のpHを4.5〜5.0に合わせた後、24時間常温で反応させた。この場合、カテコール−ヒアルロン酸の置換率は約48〜52%である。
図2は、ヒアルロン酸の反応濃度、分子量、反応時間、当量数に応じたカテコール−ヒアルロン酸の置換率を示すグラフである。
【0049】
2.コアセルベートの製造
先ず、ムール貝の接着タンパク質fp−151を、自然に存在するムール貝の接着タンパク質fp−1(Genbank No.Q27409)のアミノ酸配列において6回繰り返し連結されたデカペプチド(AKPSYPPTYK)からなるfp−1(Mytilus mussel foot protein type 1)変異体を合成し、2つのfp−1変異体の間にMgfp−5の遺伝子(Genbank No.AAS00463)を挿入した後、大腸菌から製造した。上記ムール貝の接着タンパク質fp−151の製造は、国際特許公開WO2005/092920に示すものと同一であり、上記特許文献は、全体を参照することにより本願に含まれる。
【0050】
その後、チロシナーゼ(mushroom tyrosinase、SIGMA)酵素を用いた試験管内(in vitro)酵素反応を行い、上記ムール貝の接着タンパク質fp−151のチロシン残基をDOPA(dihydroxyphenylalanine)に変換した。具体的には、1.50mg/mLのfp−151溶液及び100μg/mLのチロシナーゼをバッファ溶液(100mMのリン酸ナトリウム、20mMのホウ酸、25mMのアスコルビン酸、pH6.8)で1時間反応させた後、1%の酢酸溶液を用いて透析した。このような過程を介して、陽イオン性組換えムール貝接着タンパク質であるムール貝の接着タンパク質のカテコール誘導体を製造した。
【0051】
上記陽イオン性組換えムール貝接着タンパク質及び上記1.で製造された陰イオン性カテコール−ヒアルロン酸をそれぞれpH4の酢酸緩衝溶液に完全に溶解し、上記2つの溶液を混合してコアセルベートを形成した。コアセルベートの形成は、物質間のモル分率による影響を大きく受けるため、コアセルベートが最も多く形成されることができる最適な条件を見つけるために、ブラッドフォード(bradford)分析法(Bio−Rad)を用いてタンパク質の濃度を測定した後、カテコール−ヒアルロン酸を様々な割合で混合した。このとき、形成されるコアセルベートの量が吸光度と比例することを利用することで、吸光度が最も高いモル分率を確認し、その結果を
図3に示した。
【0052】
図3におけるimWIMBAは、陰イオン性カテコール−ヒアルロン酸を用いたコアセルベートを示すものであって、括弧内の数字は、カテコール−ヒアルロン酸の反応過程において用いられたドーパミンの当量数を意味する。すなわち、
図2によると、当量数が増加するにつれて置換率も増加する。これは、括弧内の数字が大きくなるほど、imWIMBAが高いカテコール含有量を有することを意味する。ここで、WIMBAはヒアルロン酸を用いたコアセルベートを示すものである。
【0053】
その後、懸濁液状態のコアセルベートを4℃において9000rpmで10分間遠心分離して沈殿させることにより、高濃度のコアセルベート相(coacervate phase)を得ることができた。
【0054】
3.コアセルベートに対するカテコール−ヒアルロン酸の置換度の影響
コアセルベートの形成は、カテコール−ヒアルロン酸の置換度による影響を受ける。そのため、カテコール−ヒアルロン酸の置換度を変化させ、コアセルベートが形成したか否かを確認し、その結果を
図4に示した。
【0055】
図4及び
図5から確認できるように、カテコール−ヒアルロン酸の置換のためのEDC/NHS反応に加えるドーパミンの当量数が10であり、且つカテコール置換度が50%以下の場合(
図5の写真(左))には、ムール貝の接着タンパク質のカテコール誘導体との混合の際にコアセルベートが形成された。これに対し、ドーパミンの当量数が20であり、且つカテコール置換度が約75%に及ぶ場合(
図5の写真(右))には、陽イオン性ムール貝接着タンパク質と反応することができるヒアルロン酸の陰イオン性残基がドーパミンによって置換されるため、コアセルベートの代わりに凝集やこれに伴う沈殿が生じることが確認できた。これは、
図5の光学顕微鏡で確認した結果から明確に確認することができる。
【0056】
4.コアセルベートの機械的(流動学的)性質の分析
上記2.で製造された本発明のコアセルベート(imWIMBA)の機械的特性を分析するために、せん断応力(shear stress)がある環境でカテコールを酸化させて架橋を誘導する架橋剤を処理した後、保存弾性率(storage modulus、G’)、損失弾性率(loss modulus、G’’)、複素粘度(complex viscosity)などを流動計(rheometer)を介して測定することにより、架橋に必要な架橋時間を測定した。架橋剤としては、細胞毒性が少ない過ヨウ素酸ナトリウム(sodium periodate)を用いた。
【0057】
その結果、
図6に示すように、架橋剤を処理する前には、G’’がG’よりも高い値を有する液状の形で観察されたが、架橋剤を処理すると、G’が徐々に増加し、G’’を逆転して次第にゲルの性質を示すことが確認された。このように、G’とG’’が交差する時点を架橋時間とみなし、2つのコアセルベートの架橋時間を比較したとき、カテコール−ヒアルロン酸を用いた本発明のコアセルベートの架橋時間がさらに速いことが観察された。
【0058】
また、架橋後の物性も、従来のヒアルロン酸を用いたコアセルベート(WIMBA)に比べて、本発明のコアセルベート(imWIMBA)が高く、同一の時間の間にさらに高い物性値に達したことが分かった。
【0059】
このような性質に起因して、本発明によるコアセルベート(imWIMBA)の場合には、従来のヒアルロン酸を用いたコアセルベート(WIMBA)よりも、同一の架橋条件下でさらに速い架橋及び優れた物性を有することが確認できた。
【0060】
5.コアセルベートの接着力及び閉鎖力の測定
上記2.で製造された本発明によるコアセルベート(imWIMBA)の濡れた酸化アルミニウムの表面における接着力を測定し、その値を従来のヒアルロン酸を用いたコアセルベート(WIMBA)と比較した。
【0061】
その結果、
図7に示すように、上記2.で製造された本発明によるコアセルベート(imWIMBA)を濡れたアルミニウム試験片に乗せ、恒温恒湿機でそれぞれ5分、30分架橋させたサンプルの接着力を測定した結果、架橋時間とは関係なく、本発明によるコアセルベート(imWIMBA)で接着したサンプルの両方で従来のヒアルロン酸を用いたコアセルベート(WIMBA)よりも高い接着力を示し、その値の差が、統計学的有意であることを確認することができた(
図7(a))。
【0062】
一方、接着力だけでなく、閉鎖力でも、本発明によるコアセルベート(imWIMBA)を3mmまたは5mmの直径を有するシリコンチューブで処理した後、恒温恒湿機で約5分間架橋させた後、一定の流速を加えて接着剤が耐えることができる圧力を測定した結果、従来のヒアルロン酸を用いたコアセルベート(WIMBA)よりも優れた閉鎖力を示すことが確認できた(
図7(b))。
【0063】
6.ヒアルロン酸の置換度に応じた接着力の分析
図8はカテコール含有量が増加するにつれて濡れた豚皮において高い接着力を有することを示すグラフであって、置換度が増加するにつれてimWIMBAが有する全カテコール含有量が増加することを確認することができる。
【0064】
このとき、架橋時間は5分であって、4.で用いられたものと同一の架橋剤を用いて恒温恒湿機で架橋した。
【0065】
その結果、低い置換度を有するimWIMBAよりも、高い置換度を有するimWIMBAがさらに優れた接着力を示し、これらはすべてWIMBAよりも著しく高い接着力を示すことが確認できた。
【0066】
したがって、カテコールをヒアルロン酸にさらに導入した方式によると、著しい接着力増大の効果を導出することができることを確認することができる。
【0067】
7.ヒアルロン酸の分子量に応じたコアセルベートの機械的(流動学的)性質の分析
ムール貝の接着タンパク質と混合コアセルベートを成すヒアルロン酸の分子量を多様に変化させることにより、製造されたコアセルベートの機械的性質を変化させることができるか否かを確認した。
【0068】
図9は様々な分子量を有するヒアルロン酸を混ぜて製造したコアセルベートの機械的物性及び粘度を流動分析計を介して測定した結果を示すグラフである。
図9から確認できるように、本発明によるコアセルベート(imWIMBA)において、様々な分子量のヒアルロン酸で製造された混合コアセルベートは、分子量に応じて、互いに異なる機械的物性及び粘度を示すことが分かった。
【0069】
高い分子量のヒアルロン酸からなる場合、その機械的物性及び粘度が徐々に増加した。尚、その差は、低い分子量のヒアルロン酸からさらに高い分子量のヒアルロン酸になるにつれ、次第に大きくなることが分かった。また、様々な分子量のヒアルロン酸を混合してコアセルベートを製造すると、それぞれの分子量からなるコアセルベートが有する機械的物性の中間値を示すことが分かった。このことから、様々な物性を有する接着剤を用途に合わせて製作することができるものと期待される。
【0070】
さらに、本発明のコアセルベートが有する特異的なせん断流動化特性(shear thinning property)により、高い分子量を有するヒアルロン酸からなるコアセルベートも細いシリンジ(syringe)を介した注入が可能である。
【0071】
一方、コアセルベートが接着剤として適用された後、完全に架橋されて組織に付着するまでには多少の時間がかかり、その間にコアセルベート自体の物性が低く、組織にとどまらず流下すると、接着剤の効果が著しく減少する。この場合、架橋時間を短縮したり、またはコアセルベート自体の物性(あるいは粘性)がある程度保証されると、かかる問題を低減することができる。したがって、例えば、高い分子量のヒアルロン酸からなるコアセルベートを用いる場合には、適用後に接着剤が組織から流下する現象を防止できることが、
図10から確認することができる。
図10において、低い分子量の場合には、分子量13〜75kDaのうち39kDa、高い分子量の場合には、分子量111〜1010kDaのうち500kDaを用いた。
【0072】
但し、高すぎる分子量のヒアルロン酸を用いると、接着剤の粘度が高くなるにつれて、注入(injection)のために多くの力を必要とするため、使用感の面から好ましくないことから、
図9に示すように、様々な分子量を有するヒアルロン酸を混合して用いることにより、所望の粘度及び物性を有するコアセルベートを形成することができる。これにより、簡単な注入、及び注入後の迅速な物性回復が可能な組織接着剤を製造することができる。
【0073】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想を外れない範囲内で様々な修正及び変形が可能であることは、当技術分野における通常の知識を有する者には自明である。