特許第6952321号(P6952321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6952321眼鏡用レンズ、水平プリズム値の算出方法及び眼鏡用レンズの作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6952321
(24)【登録日】2021年9月30日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】眼鏡用レンズ、水平プリズム値の算出方法及び眼鏡用レンズの作製方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/06 20060101AFI20211011BHJP
【FI】
   G02C7/06
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-243990(P2016-243990)
(22)【出願日】2016年12月16日
(65)【公開番号】特開2018-97283(P2018-97283A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 仁志
【審査官】 堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/041327(WO,A1)
【文献】 特開平06−337380(JP,A)
【文献】 特表2006−513460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00−13/00
G02B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともレンズの近用領域に連続的かつ単調に下方向に向かって水平プリズム値が垂直方向の座標の関数、又は垂直方向の座標と水平方向の座標の関数として表される水平プリズムを付加したプリズム累進領域を形成し、
前記プリズム累進領域はフィッティングポイントの下側に配置され、水平プリズムが下方向に向けて単調に付加されるとともに、イン又はアウト方向に単調に変化する領域であり、
前記プリズム累進領域の上下少なくとも一方の接続端部における任意の垂直線上の水平プリズム値の1階微分値が連続となるようにしたことを特徴とする眼鏡用レンズ。
【請求項2】
主注視線を鼻側にインセットさせたことを特徴とする請求項1に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項3】
前記プリズム累進領域内において、前記水平プリズム値の1階微分値が連続となることを特徴とする請求項1又は2に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項4】
前記プリズム累進領域内において、前記水平プリズム値の1階微分値が定数とならないことを特徴とする請求項3に記載の眼鏡用レンズ。
【請求項5】
前記プリズム累進領域内において、前記水平プリズム値の2階微分値が連続となることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の眼鏡用レンズ。
【請求項6】
前記プリズム累進領域の上下の接続端部の間隔は主注視線位置よりも左右レンズ端側の方が広いことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の眼鏡用レンズ。
【請求項7】
前記プリズム累進領域の上下の接続端部の間隔は主注視線から左右方向に離間するほど広くなっていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の眼鏡用レンズの作製方法。
【請求項8】
レンズの近用領域に連続的かつ単調に下方向に向かって水平プリズム値が垂直方向の座標の関数、又は垂直方向の座標と水平方向の座標の関数として表される水平プリズムを付加したプリズム累進領域であって、フィッティングポイントの下側に配置され、水平プリズムが下方向に向けて単調に付加されるとともに、イン又はアウト方向に単調に変化するような前記プリズム累進領域を形成する際に、前記プリズム累進領域の上下少なくとも一方の接続端部における任意の垂直線上の水平プリズム値の1階微分値が連続の場合に、非点収差が増減する際に滑らかに変化しているとしてその水平プリズム値を用いることを特徴とする眼鏡用レンズの水平プリズム値の算出方法。
【請求項9】
レンズの近用領域に連続的かつ単調に下方向に向かって水平プリズム値が垂直方向の座標の関数、又は垂直方向の座標と水平方向の座標の関数として表される水平プリズムを付加したプリズム累進領域であって、フィッティングポイントの下側に配置され、水平プリズムが下方向に向けて単調に付加されるとともに、イン又はアウト方向に単調に変化するような前記プリズム累進領域を形成する際に、前記プリズム累進領域の上下少なくとも一方の接続端部における任意の垂直線上の水平プリズム値の1階微分値が連続となるように設計することで非点収差が増減する際に滑らかに変化している眼鏡用レンズを作製するようにしたことを特徴とする眼鏡用レンズの作製方法。
【請求項10】
前記プリズム累進領域内において、前記水平プリズム値の1階微分値が連続となるように設計したことを特徴とする請求項9に記載の眼鏡用レンズの作製方法。
【請求項11】
前記プリズム累進領域内において、前記水平プリズム値の1階微分値が定数とならないように設計したことを特徴とする請求項10に記載の眼鏡用レンズの作製方法。
【請求項12】
前記プリズム累進領域内において、前記水平プリズム値の2階微分値が連続となるように設計したことを特徴とする請求項10又は11に記載の眼鏡用レンズの作製方法。
【請求項13】
前記プリズム累進領域内において、前記水平プリズム値は三角関数に従って変化するように設計したことを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の眼鏡用レンズの作製方法の作製方法。
【請求項14】
前記プリズム累進領域の上下少なくとも一方の接続端部における前記水平プリズム値の2階微分値が不連続となるように設計して非点収差の最大となる量を抑制するようにしたことを特徴とする請求項9〜13のいずれかに記載の眼鏡用レンズの作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡用レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近くの物体を見る際に両目を寄せることを輻輳という。輻輳のための眼を回旋させる力が弱い人や、加齢により衰えた人がいる。そのような人のための眼鏡用レンズとして、レンズ全体にベースインプリズムを付加したものが一般に利用されている。ベースインプリズムとはレンズのイン(つまり鼻側)に光を屈折させるプリズムであって、ベースインプリズムを付加することで、たとえば眼が正面を向いたまま近くの物体を見るのに有用である。
また、人によってはリラックスした状態での眼の自然な向きが正面ではなく左右や上下方向になってしまう場合がある。この傾向が顕著な人には、遠くの物体を見るためのレンズにもプリズムを付加した処方をすることがある。その場合、近用専用の眼鏡には遠用のための処方したプリズムに、ベースインプリズムを加えた処方をすることがある。このようなベースインプリズムを加えた処方のレンズの一例として特許文献1を挙げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−33738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近用領域の水平プリズムを遠用と独立させて付加すると、非点収差が不可避的に生じることとなる。これはレンズ面に「ねじり」の形状要素を付加するためである。例えば、遠用領域にベースアウトプリズム(レンズの耳側に光を屈折させるプリズム)があり、近用領域をベースインプリズムとする図14に示すようなプリズムを付加したレンズ(R眼用)においては、レンズ上方では耳側が厚く、下方にかけて鼻側の厚さを大きくなっている。このレンズをレンズ装用者が装用している状態で凸面側から観察すると右上がり斜め方向のレンズ中心を通る断面と右下がり斜め方向のレンズ中心を通る断面は、中心厚を共有し、右下がり斜め方向の断面屈折力が右上がり斜め方向の断面屈折力よりもマイナス側になる。そのため、非点収差が生じることになる。遠用領域にベースアウトプリズムがない場合でも同様である。本発明はこのような近用領域に水平プリズムを設定した場合の非点収差の眼鏡用レンズの非点収差を極力低減させるようにした眼鏡用レンズを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために手段1では、少なくともレンズの近用領域に連続的かつ単調に下方向に向かって水平プリズム値が垂直方向の座標の関数、又は垂直方向の座標と水平方向の座標の関数として表される水平プリズムを付加したプリズム累進領域を形成し、該プリズム累進領域の上下少なくとも一方の接続端部における任意の垂直線上の水平プリズム値の1階微分値が連続となるようにした。
これによって、プリズム累進領域の接続端部がプリズム累進領域の外領域と滑らかに接続されることとなって、接続端部周辺の非点収差が軽減されることとなる。
「上下少なくとも一方の接続端部」であるため、上下いずれかの接続端部において水平プリズム値の1階微分値が連続となればよいが、上下両方の接続端部において水平プリズム値の1階微分値が連続となることがよりよい。
ここに「連続」とは関数の値として途切れていないことである。例えば、接続端部が同じ所定の1つの二次関数で示されていれば、二次関数で示される範囲においてプリズム値の1階微分値は連続であるが、異なる2つの関数であっても接続端部において1階微分した値が同値であれば1階微分値は連続である。
また、「水平プリズム」はプリズム累進領域が水平方向において等幅であれば「垂直方向の座標の関数」として表され、レンズの両側ほど拡がるような構成であれば「垂直方向の座標と水平方向の座標の関数」として表される。
「眼鏡用レンズ」は単焦点レンズ(SVレンズ)だけではなく累進屈折力レンズも含む。また、レンズ形態としては枠入れのための玉型加工をする前の丸レンズでも玉型加工後の玉型レンズでもよい。眼鏡用レンズをプラスチック素材で作製する場合では、ガラス型に液体モノマーを注型した後、それを加熱重合してポリマーとして形成することがよい。この方法で処方された所定の形状まで作成したレンズをフィニッシュトレンズと呼ぶ。眼鏡用レンズの度数は個人によって様々であり、それにプリズムの方向と量の自由度が加わると極めて多くのバリエーションとなるのでフィニッシュトレンズではなく、やや厚めのセミフィニッシュトブランクとして重合形成し、その片面をそのまま使用してもう片面を切削・研磨して仕上げるようにしてもよい。また、眼鏡レンズの光学面を自由曲面としてセミフィニッシュトブランクをNC装置によって加工するようにしてもよい。
また、近用領域に水平プリズムを付加してプリズム累進領域を形成するが、遠用領域にも近用領域とは別に水平プリズムを付加したプリズム累進領域を形成するようにしてもよい。遠用領域に形成するプリズム累進領域は近用領域に形成するプリズム累進領域とはインとアウトの関係が逆となってもよく、同じであってもよい。また、遠用領域にはプリズム累進領域を形成しなくともよい。
【0006】
また、手段2では、前記プリズム累進領域内において前記水平プリズム値の1階微分値が連続となるようにした。
これは、プリズム累進領域内の垂直方向の形状変化が緩やかに推移しているということであり、非点収差の値が連続することとなり、プリズム累進領域内の非点収差が軽減されることとなる。また、プリズムジャンプもない。
「垂直方向」とはレンズ装用時における上下方向である。
【0007】
また、手段3では、前記プリズム累進領域内において前記水平プリズム値の1階微分値が定数とならないようにした。
つまり、プリズム累進領域内において1階微分値が連続でかつ1階微分値が定数とならないということは、水平プリズム値の変化が直線的にはならないということである。このように構成することで、プリズム累進領域内の非点収差が一定にならないため、プリズム累進領域の上下の端部位置で非点収差の値が大きくなることがない。
【0008】
また、手段4では、前記プリズム累進領域内において前記水平プリズム値の2階微分値が連続となるようにした。
これは、プリズム累進領域内の垂直方向の形状変化が手段2よりも更に緩やかに推移するということであるので、非点収差の値が滑らかに変化することとなる。収差の特性としては特にプリズム累進領域の中央付近で特性ラインの形状が角張ることがなくなる(値が突出することがない)。
ここに「特性ライン」とはプリズム累進領域内の垂直方向の非点収差の変化を示すラインをいう。
【0009】
また、手段5では、前記プリズム累進領域内において、前記水平プリズム値は三角関数に従って変化するようにした。
三角関数のカーブを適用することで、非点収差の値がより滑らかに変化することとなる。三角関数を適用することで手段3の中央付近で特性ラインの形状が角張ることが解消される。
ここに三角関数とは、sin(正弦、sine)、sec(正割、secant)、tan(正接、tangent)、cos(余弦、cosine)、csc(余割、cosecant)、cot(余接、cotangent)をいい、これらのいずれかあるいは組み合わしたカーブを適用することがよい。三角関数は周期関数であるため、定義域を設定して、ある範囲(例えばθが0°から90°まで(0からπ/2まで)や0°から180°まで(0からπまで)で計算することがよい。
【0010】
また、手段6では、前記プリズム累進領域の上下少なくとも一方の接続端部における前記水平プリズム値の2階微分値が不連続となるようにした。
プリズム累進領域内の垂直方向の変化量が一定と考えると、このように接続端部における水平プリズム値の2階微分値を不連続とすると、接続端部において非点収差の変化量は不連続で立ち上がるものの非点収差の最大値を抑えることができる。
「上下少なくとも一方の接続端部」であるため、上下いずれかの接続端部において水平プリズム値の2階微分値が不連続となればよいが、上下両方の接続端部において水平プリズム値の2階微分値が不連続となることがよりよい。
【0011】
また、手段7では、前記プリズム累進領域の上下の接続端部の間隔は主注視線位置よりも左右レンズ端側の方が広くなるようにした。
これによって、プリズム累進領域において非点収差を分散させる領域を広くすることができるため収差の集中を抑え、最大収差量を小さくすることができる。
「主注視線位置よりも左右レンズ端側の方が広くなる」とは、例えば蝶が羽根を拡げるように上側の接続端部が左右レンズ端側寄りに斜め上方に延出され、下側の接続端部が左右レンズ端側寄りに斜め下方に延出されるようにしてもよく、上下いずれか一方の接続端部は水平に左右レンズ端側寄りに延出されるようにしてもよい。ここに「主注視線」とは人が物を見る際に視線が通る部分結んだ線であって、プリズムを付加する際にサグの変化がない位置である。
【0012】
また、手段8では、前記プリズム累進領域の上下の接続端部の間隔は主注視線から左右方向に離間するほど広くなるようにした。
上記手段6と同様、これによって、プリズム累進領域において非点収差を分散させる領域を広くすることができるため収差の集中を抑え、最大収差量を小さくすることができる。
【0013】
また、手段9では、プリズム累進領域の上方の接続端部は主注視線から左右に向かって斜め上方に直線状に配置されるようにした。
また、手段10では、記プリズム累進領域の下方の接続端部は主注視線から左右に向かって斜め下方に直線状に配置されるようにした。
つまり、主注視線から左右に向かって逓増させるのではなく、微分値が一定になるような斜めの直線に略沿って接続端部が左右レンズ端側寄りに延出されることである。これによって、上記手段7や8と同様、プリズム累進領域において非点収差を分散させる領域を広くすることができるため収差の集中を抑え、最大収差量を小さくすることができる。
【0014】
また、手段11では、前記プリズム累進領域はフィッティングポイントの下方向に向けて、水平プリズムを単調に付加するとともに、イン又はアウト方向に単調に変化するようにした。
これは、プリズム累進領域におけるより具体的な水平プリズムの設定状態を説明したものである。このようにプリズム累進領域ではこのように水平プリズムを設定することで非点収差を最小限に抑制することができる。
また、手段12では、主注視線を鼻側にインセットさせるようにした。
これによって、近用視をするユーザーが自身の眼が輻輳する場合には、その輻輳に応じたインセットを考慮して水平プリズムと併せて矯正したレンズを設計することが可能となる。
【0015】
上記各手段でのプリズムの付加は、レンズ全体の厚さ分布をコントロールすることによって行われる。具体的には面に付加するサグ量=素材屈折率によって決定される係数×水平座標×プリズム量として所定のプログラムで算出して切削する。
主注視線上のプリズム付加量はプリズム累進領域上端からの関数f(y)として表す。すると、
主注視線の上端において、f(0)=0
主注視線の下端において、f(s)=P
y=0〜sでの定積分∫f'(y)dyを最小にする関数形が望ましい。
しかし、その値はpと決まっているので、それよりも小さくすることができない。Pはプリズム累進領域下端でのプリズム値であって、下記の実施の形態では0.5に設定している。実際は絶対値つきで∫|f'(y)|dyを最小にする問題なので、それから単調増加という条件が定まる。
また、この主注視線上のプリズム付加量の式はsの位置が一定の場合のPの値が一定、つまり鼻〜耳方向において水平な接続端部を構成している場合のみを説明しているが、両側領域が上側又は/及び下側に拡がる場合にはその変化を考慮する。
一方、主注視線の両側領域が上側又は/及び下側に拡がる場合には、その変化を考慮して、プリズム累進領域における「付加するPの値」を水平座標および垂直座標の関数として表す。つまり、主注視線から鼻側および耳側に向かって一定角度で上がるまたは下がるまたは水平に延びる線上において、付加するPの値を一定とすることとなる。具体的には、例えば実施の形態3〜6における数式で示すごときである。
レンズに度数がある場合は、幾何中心を除いてレンズ度数由来のプリズムが生ずるので、付加される水平プリズムがそれに合成されてレンズ上の位置のプリズムが実現されることとなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、近用領域に水平プリズムを付加する際に発生する収差を、装用者がレンズを通して物を見ることへの影響ができるだけ小さくなる様に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】比較例におけるプリズム累進領域付近の主注視線上のプリズム変化とそれに対応する非点収差(乱視)の特性を示すグラフ。
図2】比較例における非点収差のレンズ上での分布状態を説明する収差分布図。
図3】実施の形態1及び2におけるプリズム累進領域付近の主注視線上のプリズム変化とそれに対応する非点収差(乱視)の特性を示すグラフ。
図4】実施の形態1における非点収差のレンズ上での分布状態を説明する収差分布図。
図5】(a)〜(d)はプリズム累進領域の形状を説明する説明図。
図6】実施の形態2における非点収差のレンズ上での分布状態を説明する収差分布図。
図7】実施の形態3及び4におけるプリズム累進領域付近の主注視線上のプリズム変化とそれに対応する非点収差(乱視)の特性を示すグラフ。
図8】実施の形態3における非点収差のレンズ上での分布状態を説明する収差分布図。
図9】実施の形態4における非点収差のレンズ上での分布状態を説明する収差分布図。
図10】実施の形態5におけるプリズム累進領域付近の主注視線上のプリズム変化とそれに対応する非点収差(乱視)の特性を示すグラフ。
図11】実施の形態5における非点収差のレンズ上での分布状態を説明する収差分布図。
図12】実施の形態6におけるプリズム累進領域付近の主注視線上のプリズム変化とそれに対応する非点収差(乱視)の特性を示すグラフ。
図13】実施の形態6における非点収差のレンズ上での分布状態を説明する収差分布図。
図14】プリズムの付加された従来のレンズを説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の眼鏡用レンズの一例としてのいくつかの実施の形態(実施例)を比較例と比較して説明する。
(比較例)
比較例として球面レンズである丸レンズのSVレンズを作製した。比較例のSVレンズの基本データ(処方)は以下の通りである。
(1)基本設定
S−0.00D C0.00D (R眼用)
表カーブは屈折率1.523換算で3.2カーブ
曲率半径163.4mm、素材屈折率1.60、中心厚1.8mm、レンズ径75mm
(2)レイアウト
幾何中心の2mm上方をフィッティングポイントとした。
インセットはなし。
(3)付加プリズム
遠用から近用にかけて、0.5ベースインプリズムを付加した。原点0を幾何中心として、x座標は鼻側を正とする。 R眼用レンズであるため凸面側から見る図において、x軸の右側が正。y座標は上側が正。主注視線上のプリズム累進領域は、幾何中心から下方に15mmの上下幅とし、図5(a)のようにレンズの左右方向に同幅で水平プリズムを付加した。
【0019】
【表1】
【0020】
比較例の水平プリズムはレンズ垂直方向におけるプリズム変化パターンが1次関数で設定されている。比較例の1次関数の基本の式は表1に示す通りである。すなわち、
y≧0のとき、P=0
y<−15のとき、P=0.5
−15≦y<0のとき、P=(−y/15)×0.5
となる。
比較例の主注視線上におけるプリズム変化パターンと対応する非点収差(乱視)の特性は図1の通りである。比較例ではプリズム変化パターンは直線的でありその1階導関数が、dP/dy=−0.5/15=−0.0333
であるため例えば幾何中心位置、つまりP=0となる上方の接続端部位置では水平プリズム値の1階導関数の値がy≧0の側とy<0の側で異なり、水平プリズム値は滑らかに接続されないこととなる。また、非点収差の値は不連続となる。プリズム累進領域の下方の接続端部でも水平プリズム値の1階導関数の値がy≧−15の側とy<−15の側で異なるため水平プリズム値の1階導関数の値が異なり、水平プリズム値は滑らかに接続されないこととなる。また、非点収差の値は不連続となる。
また、プリズム変化パターンが1次関数であり直線的であるためプリズム累進領域の上側のプリズム端部となる幾何中心位置から急激に非点収差(乱視)が増大し、下側のプリズム端部となる15mm位置に向かって急激に非点収差(乱視)が低減している。
比較例ではこのようなプリズム変化パターン特性から図2に示すようにプリズム累進領域の上下の境界付近では主注視線位置から左右方向にかけて非常に大きな非点収差(乱視)が生じてしまっている。
【0021】
(実施の形態1)
実施の形態1として球面レンズである丸レンズのSVレンズを作製した。実施の形態1のSVレンズの基本データ(処方)は以下の通りである。
(1)基本設定
S−0.00D C0.00D (R眼用)
表カーブは屈折率1.523換算で3.2カーブ
曲率半径163.4mm、素材屈折率1.60、中心厚1.8mm、レンズ径75mm
(2)レイアウト
幾何中心の2mm上方をフィッティングポイントとした。
インセットはなし。
(3)付加プリズム
遠用から近用にかけて、0.5ベースインプリズムを付加した。原点0を幾何中心として、x座標は鼻側を正とする。 R眼用レンズであるため凸面側から見る図において、x軸の右側が正。y座標は上側が正。主注視線上のプリズム累進領域は、幾何中心から下方に15mmの上下幅とし、図5(a)のようにレンズの左右方向に同幅で水平プリズムを付加した。
【0022】
実施の形態1のSVレンズの水平プリズムはレンズ垂直方向におけるプリズム変化パターンが二次関数で設定されている。実施の形態1の二次関数の基本の式は表1に示す通りである。すなわち、
y≧0のとき、P=0
y<−15のとき、P=0.5
−7.5≦y<0のとき、P=((−y/15)2)×2×0.5
−15≦y<−7.5のとき、P=(0.5−(1+y/15)2)×2×0.5
となる。
実施の形態1の主注視線上におけるプリズム変化パターンと対応する非点収差(乱視)の特性は図3の通りである。実施の形態1では幾何中心から−7.5mmを境界として2種類の二次関数を合成している。この2つの二次関数は−7.5mm位置でP=0.25となって連続されている。実施の形態1ではプリズム累進領域の水平方向においてあらゆる位置で水平プリズムのプリズム変化パターンは図3と同じである。
図3に示すように、実施の形態1のような二次関数のプリズム変化パターンではカーブは幾何中心を0としてプリズム累進領域の下方に向かって非点収差(乱視)は穏やかに上昇し、−7.5mm位置をピークとして穏やかに下降している。
この二次関数の1階導関数は、
y≧−7.5で
dP/dy=2y/152=−0.00889y
y<−7.5で
dP/dy=−2y/152−2/15=−0.00889y−0.1333であり、幾何中心位置、つまりプリズム累進領域の上方の接続端部ではP=0、dP/dy=0となるため、水平プリズム値は滑らかに連続である。また、プリズム累進領域の下方の接続端部となる幾何中心から15mm位置でもP=0、dP/dy=0となるためやはり滑らかに連続である。プリズム累進領域の上方の接続端部および下方の接続端部において、非点収差の値は連続であるが滑らかではない。
また、この二次関数の2階導関数は、
y≧−7.5で
2P/dy2=2/152=−0.00889
y<−7.5で
2P/dy2=−2/152=−0.00889となり、定数となってしまうため(上下の接続端部である幾何中心位置と幾何中心から15mm位置でP=0とならないため)連続ではない。このように2階微分値を不連続とするとプリズム累進領域内非点収差の最大値を抑えることとなる。
このようなことから、図4に示すように、プリズム累進領域の上下の境界付近の非点収差(乱視)は比較例よりも抑えられており、かつ主注視線位置から左右方向にかけても大きく収差が増大することはなくプリズム累進領域内に収差が分散されている。
【0023】
(実施の形態2)
実施の形態2として球面レンズである丸レンズのSVレンズを作製した。実施の形態2のSVレンズの基本データ(処方)は以下の通りである。
(1)基本設定
実施の形態1と同様である。
(2)レイアウト
実施の形態1と同様である。
(3)付加プリズム
遠用から近用にかけて、0.5ベースインプリズムを付加した。
主注視線上のプリズム累進領域は、幾何中心から下方に15mmの上下幅とし、左右方向にかけて図5(b)のようにプリズム累進領域の上方の接続端部は主注視線から左右に向かって斜め上方に直線状に延出され、下方の接続端部は主注視線から左右に向かって斜め下方に直線状に延出されている(蝶の羽根を拡げた形状)。本実施の形態2では一例として上方側の角度は26.6度(水平方向を基準としてtanθ=0.5となる角度)、下方の角度は45.0度である。
【0024】
実施の形態2のSVレンズの水平プリズムのプリズム変化パターンは主注視線上においては実施の形態1の図3で示すパターンと同じである。そのため、1階微分値も2階微分値も実施の形態1と同じである。しかし、上記のように主注視線から左右に向かって蝶の羽根を拡げたように周辺に向かうにつれてプリズム累進領域が大きくなるように構成されている。そのため、図3においては実施の形態2は主注視線におけるプリズム変化パターンは実施の形態1と一緒であるが実際に発生する非点収差(乱視)は改善されて図6のように異なるものとなる。また、領域の拡張にともなって主注視線以外の位置での水平プリズムのプリズム変化パターンは図3とは若干異なる。
実施の形態2では、左右方向の領域の拡張にともなって左右方向(x方向)においてf(y)は一定ではなく変化する。その変化を考慮するyの値は0位置と−15位置を境界にしてその外側においてxとの関係で次のように表される。
y≧0.5×|x|のとき、P=0
y<−15−|x|のとき、P=0.5
(以下、これらの一定値は、実施の形態3〜6でも同じなので省略する。)
主注視線上で、−7.5≦y<0のとき、P=((−y/15)2)×2×0.5
主注視線上で、−15≦y<−7.5のとき、P=(0.5−(1+y/15)2)×2×0.5
z=(0.5×|x|−y)/(15+|x|×1.5) とおいて(この値は0〜1で変化する)
−7.5−0.25×|x|≦y<0.5×|x|のとき、
P=z2×2×0.5
−15−|x|≦y<−7.5−0.25×|x|のとき、
P=(0.5−(1−z)2)×2×0.5
実施の形態2では実施の形態1と同様にプリズム累進領域の上方の接続端部も下方の接続端部もその外側領域と滑らかに連続されている。また、実施の形態1よりも非点収差を分散させる領域が広いため、ピークとなる非点収差も実施の形態1が1.22Dであるのに対して1.10Dと軽減されており、ピーク値以外の収差も実施の形態1よりも軽減されている。
【0025】
(実施の形態3)
実施の形態3として球面レンズである丸レンズのSVレンズを作製した。実施の形態3のSVレンズの基本データ(処方)は以下の通りである。
(1)基本設定
実施の形態1と同様である。
(2)レイアウト
実施の形態1と同様である。
(3)付加プリズム
実施の形態2と同様である。プリズム変化パターンは異なる。
【0026】
実施の形態3のSVレンズの水平プリズムはレンズ垂直方向におけるプリズム変化パターンは三角関数で設定されている。実施の形態3の三角関数の基本の式は表1に示す通りである。すなわち、
主注視線上で、P=(1−cos((−y/15)π))×0.5×0.5
実施の形態3の主注視線上におけるプリズム変化パターンと対応する非点収差(乱視)の特性は図7の通りである。また、左右方向の領域の拡張にともなって左右方向(x方向)においてf(y)は一定ではなく変化する。
−15−|x|≦y<0.5×|x|のとき、
z=(0.5×|x|−y)/(15+|x|×1.5) とおいて(この値は0〜1で変化する)
P=(0.5−0.5×cos(zπ))×0.5 (この値は0〜0.5で変化する)
図7に示すように、実施の形態3のような三角関数のプリズム変化パターンではカーブは幾何中心を0としてプリズム累進領域の下方に向かって非点収差(乱視)は実施の形態2のような二次関数よりも更に穏やかに上昇し、−7.5mm位置をピークとして穏やかに下降している。実施の形態3では実施の形態2と同様に主注視線から左右に向かって蝶の羽根を拡げたように周辺に向かうにつれてプリズム累進領域が大きくなるように構成されている。そのため、領域の拡張にともなって主注視線以外の位置の水平プリズムのプリズム変化パターンは図7とは若干異なる。そのため、実施の形態3では実際に発生する非点収差(乱視)は改善されて図8のように異なるものとなる。また、領域の拡張にともなって主注視線以外の位置での水平プリズムのプリズム変化パターンは図7とは若干異なることとなる。
この三角関数の主注視線上における1階導関数は、
dP/dy=sin((−y/15)π)×(−π/15)×0.5×0.5
であり、幾何中心位置、つまりプリズム累進領域の上方の接続端部ではP=0、dP/dy=0であるため、水平プリズム値は滑らかに連続である。プリズム累進領域の下方の接続端部となる幾何中心から15mm位置でもP=0、dP/dy=0となるためやはり滑らかに連続である。プリズム累進領域の上方の接続端部および下方の接続端部では、非点収差の値は連続であるが滑らかではない。
また、この三角関数の主注視線上における2階導関数は、
2P/dy2=cos((−y/15)π)×(−π/15)2×0.5×0.5
であり、その値は、
上端で(−π/15)2×0.5×0.5=0.010966
下端で−(−π/15)2×0.5×0.5=−0.010966
となり、定数となってしまう(上下の接続端部である幾何中心位置と幾何中心から15mm位置でd2P/dy2=0とならない)そのため、2階導関数の値はy≧0の側とy<0の側で異なり、連続ではない。また、プリズム累進領域の下方の接続端部でも2階導関数の値はy≧−15の側とy<−15の側で異なり、連続ではない。このように2階微分値を不連続とするとプリズム累進領域内非点収差の最大値を抑えることとなる。
図8に示すように、実施の形態3ではプリズム累進領域の上下の境界付近の非点収差(乱視)は実施の形態2と同様によく抑えられており、かつ主注視線位置から左右方向にかけても非点収差を分散させる領域が広いため実施の形態2よりもより収差が軽減されている。
【0027】
(実施の形態4)
実施の形態4として球面レンズである丸レンズのSVレンズを作製した。実施の形態4のSVレンズの基本データ(処方)は以下の通りである。
(1)基本設定
実施の形態1と同様である。
(2)レイアウト
幾何中心の2mm上方をフィッティングポイントとした。原点0を幾何中心として、x座標は鼻側を正とする。R眼用レンズであるため凸面側から見る図において、x軸の右側が正。y座標は上側が正。主注視線が幾何中心から15mm下方まで鼻側に傾くインセットを設けた。
(3)付加プリズム
遠用から近用にかけて、0.5ベースインプリズムを付加した。
主注視線上のプリズム累進領域は、幾何中心から下方に15mmの上下幅とし、左右方向にかけてプリズム累進領域の上方の接続端部は主注視線から左右に向かって斜め上方に直線状に延出され、下方の接続端部は主注視線から左右に向かって斜め下方に直線状に延出されている(蝶の羽根を拡げた形状)。図5(c)のようにインセットを設定したため下方の接続端部の形状がレンズの幾何中心の真下から鼻側によったいびつな形状となっている。
【0028】
実施の形態4のSVレンズのレンズ垂直方向におけるプリズム変化パターンは実施の形態3の図7で示すパターンと同じである。しかし、上記のように主注視線にインセットを設定したため、実施の形態3と同様に収差は改善されて図9のように非点収差(乱視)の分布はわずかに鼻側に変位している。実施の形態4でも実施の形態3と同様にプリズム累進領域の上下の境界付近の非点収差(乱視)は実施の形態2と同様に抑えられており、かつ主注視線位置から左右方向にかけても非点収差を分散させる領域が広いため実施の形態2よりもより収差が軽減されている。
【0029】
(実施の形態5)
実施の形態5として球面レンズである丸レンズのSVレンズを作製した。実施の形態5のSVレンズの基本データ(処方)は以下の通りである。
(1)基本設定
実施の形態1と同様である。
(2)レイアウト
実施の形態1と同様である。
(3)付加プリズム
実施の形態2と同様である。プリズム変化パターンは異なる。
【0030】
実施の形態5のSVレンズの水平プリズムはレンズ垂直方向におけるプリズム変化パターンが三次関数で設定されている。実施の形態5の三次関数の基本の式は表1に示す通りである。すなわち、
主注視線上で、P=(−2×(−y/15)3+3×(−y/15)2)×0.5
また、左右方向の領域の拡張にともなって左右方向(x方向)においてf(y)は一定ではなく変化する。
−15−|x|≦y<0.5×|x|のとき、
z=(0.5×|x|−y)/(15+|x|×1.5) とおいて(この値は0〜1で変化する)
P=(−2×z3+3×z2)×0.5
実施の形態5の主注視線上におけるプリズム変化パターンと対応する非点収差(乱視)の特性は図10の通りである。実施の形態5では上記のように主注視線から左右に向かって蝶の羽根を拡げたように周辺に向かうにつれてプリズム累進領域が大きくなるように構成されている。そのため、実施の形態5では領域の拡張にともなって実際に発生する非点収差(乱視)は改善されて図11のように実際は若干異なる値での分布となる。また、領域の拡張にともなって主注視線以外の位置での水平プリズムのプリズム変化パターンは図10とは若干異なることとなる。
図10に示すように、実施の形態5のような三次関数のプリズム変化パターンではカーブは幾何中心を0としてプリズム累進領域の下方に向かって非点収差(乱視)は穏やかに上昇し、−7.5mm位置をピークとして穏やかに下降している。
この三次関数の主注視線上における1階導関数は、
dP/dy=3y2/153+3y/152
であり、幾何中心位置、つまりプリズム累進領域の上方の接続端部ではP=0、dP/dy=0となるため、水平プリズム値は滑らかに連続である。プリズム累進領域の下方の接続端部となる幾何中心から15mm位置でもP=0、dP/dy=0となるためやはり滑らかに連続である。
そのため、図11に示すように、プリズム累進領域の上下の境界付近の非点収差(乱視)は比較例よりもよく抑えられており、かつ主注視線位置から左右方向にかけても大きく収差が増大することはなくプリズム累進領域内に収差が分散されている。
また、この三次関数の主注視線上における2階導関数は、
2P/dy2=6y/153+3/152となり、上下の接続端部である幾何中心位置と幾何中心から15mm位置ではP=0とならないため水平プリズム値は連続ではない。このように2階微分値を不連続とするとプリズム累進領域内非点収差の最大値を抑えることなるため、この点でもプリズム累進領域内の非点収差が軽減されることとなる。
【0031】
(実施の形態6)
実施の形態6として球面レンズである丸レンズのSVレンズを作製した。実施の形態6のSVレンズの基本データ(処方)は以下の通りである。
(1)基本設定
実施の形態1と同様である。
(2)レイアウト
実施の形態1と同様である。
(3)付加プリズム
遠用から近用にかけて、0.5ベースインプリズムを付加した。
主注視線上のプリズム累進領域は、幾何中心から下方に15mmの上下幅とし、左右方向にかけて図5(d)のようにプリズム累進領域の上方の接続端部は水平であり、下方の接続端部は主注視線から左右に向かって斜め下方に直線状に延出されている。本実施の形態6では下方の角度は45.0度である。
【0032】
実施の形態6のSVレンズの水平プリズムはレンズ垂直方向におけるプリズム変化パターンが三次関数で設定されている。実施の形態5の三次関数の基本の式は表1に示す通りである。すなわち、
主注視線上で、y≧−7.5のとき、P=(4×(−y/15)3)×0.5
主注視線上で、y<−7.5のとき、P=(1−4×(1+y/15)3)×0.5
また、左右方向の領域の拡張にともなって左右方向(x方向)においてf(y)は一定ではなく変化する。
z=(0.5×|x|−y)/(15+|x|×1.5) とおいて(この値は0〜1で変化する)
−7.5−0.25×|x|≦y<0.5×|x|のとき、
P=(4×z3)×0.5
−15−|x|≦y<−7.5−0.25×|x|のとき、
P=(1−4×(1−z)3)×0.5
実施の形態6の主注視線上におけるプリズム変化パターンと対応する非点収差(乱視)の特性は図12の通りである。実施の形態6では幾何中心から7.5mmを境界として2種類の二次関数を合成している。この2つの二次関数は−7.5mm位置でP=0.25となって連続である。
実施の形態6では上記のように主注視線から左右に向かって下方の接続端部が斜め下方に直線状に延出されているためプリズム累進領域が大きく構成されている。そのため、実施の形態6では領域の拡張にともなって実際に発生する非点収差(乱視)は改善されて図13のように若干異なる値での分布となる。また、領域の拡張にともなって主注視線以外の位置の水平プリズムのプリズム変化パターンは図12とは若干異なる。
図12に示すように、実施の形態6のような三次関数のプリズム変化パターンではカーブは幾何中心を0としてプリズム累進領域の下方に向かって非点収差(乱視)は実施の形態5に比べて急激に上昇し、−7.5mm位置をピークとして急激に下降している。
この三次関数の主注視線上における1階導関数は、
y≧−7.5で
dP/dy=−6y2/153
y<−7.5で
dP/dy=−6y2/153−12y/152−6/15
であり、幾何中心位置、つまりプリズム累進領域の上方の接続端部ではP=0、dP/dy=0となるため、水平プリズム値は滑らかに連続である。プリズム累進領域の下方の接続端部となる幾何中心から15mm位置でもP=0、dP/dy=0となるためやはり滑らかに連続である。
また、実施の形態6では三次関数の主注視線上における2階導関数は、
y≧−7.5で
2P/dy2=−12y/153
y<−7.5で
2P/dy2=−12y/153−12/152
となり、上下の接続端部である幾何中心位置と幾何中心から15mm位置ではP=0となり、連続である。
しかし、このように上下の接続端部の滑らかさを求めることによってかえってプリズム累進領域内での収差の分散化が制限されてしまうことになって、実施の形態5に比べて上下の接続端部での非点収差の軽減度合いは大きいものの、プリズム累進領域内全体での非点収差の軽減度合いは実施の形態5よりも下がる。
【0033】
上記実施の形態は本発明の原理およびその概念を例示するための具体的な実施の形態として記載したにすぎない。つまり、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明は、例えば次のように変更した態様で具体化することも可能である。
・上記では二次関数と三次関数と三角関数をプリズム累進領域におけるレンズ垂直方向におけるプリズム変化パターンとして採用したが、上記の具体的な関数以外でプリズム変化パターンを構成してもよい。
・実施の形態2〜6では主注視線から左右方向に向かって上下の間隔が徐々に広くなるように構成していたが、その際の接続端部の延出方向は上記に限定されるものではない。また、接続端部は直線状に延出させていたが、曲線化してもよい。
・実施の形態6ではプリズム累進領域は下方の接続端部側が斜め下方に延出するように構成されていたが、逆に上方の接続端部側が斜め上方に延出するような構成を採用することも可能である。
本願発明は上述した実施の形態に記載の構成に限定されない。上述した各実施の形態や変形例の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また各実施の形態や変形例の任意の構成要素と、発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素または発明を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成するとよい。これらについても本願の補正または分割出願等において権利取得する意思を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図14