(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の散光フィルムでは、太陽光線を散光させてもなお、影となってしまう部分が発生することがあり、いわゆる無影化環境の提供には改善の余地があった。
【0005】
そこで、本発明の課題は、高度な無影化環境を好適に実現できる農業用フィルムを提供することにある。
【0006】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0008】
(請求項1)
透明樹脂フィルム層の片面に、散光剤分散フィルム層が積層され、
前記散光剤分散フィルム層は、前記透明樹脂フィルム層を透過して入射した光を、第1の散乱光に変換する大散光剤と、前記第1の散乱光を更に、多方向に散乱された第2の散乱光を生じさせる、
前記大散光剤の粒径より小径の小散光剤と、を少なくとも分散配合してなり、
前記散光剤分散フィルム層の表面や内面から、多方向に散乱光を放出して、ハウス内あるいはトンネル内に高度な無影化環境を形成することを特徴とする農業用フィルム。
(請求項2)
前記散光剤分散フィルム層が、前記ハウス内あるいはトンネル内で栽培される農作物側に向けて展張して用いることを特徴とする請求項1記載の農業用フィルム。
(請求項3)
透明樹脂フィルム層の片面に、散光剤分散フィルム層が積層され、
前記散光剤分散フィルム層が、防曇性を付与してなり、
前記散光剤分散フィルム層の表面に、第1の散乱光を生じさせる大散光剤による大凸面が形成されると共に、該大凸面を形成する大散光剤の周囲に、前記第1の散乱光を更に散光して第2の散乱光を生じさせる
、前記大散光剤の粒径より小径の小散光剤による小凸面が形成され、
保温を要するときに用いることを特徴とする農業用フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高度な無影化環境を好適に実現できる農業用フィルムを提供できる効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、本発明を実施するための形態について説明する。
【0012】
図1は本発明の農業用フィルムの層構成を概念的に説明する図である。
農業用フィルム1は、透明樹脂フィルム層2と散光剤分散フィルム層3とからなる。
【0013】
透明樹脂フィルム層2および散光剤分散フィルム層3に使用される透明樹脂としては、エチレン系重合体、プロピレン系重合体等のポリオレフィンおよび塩化ビニル等を用いることができる。中でも防汚性、耐久性等の面から低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体が好ましい。
【0014】
本発明において、透明、不透明あるいは半透明とは、日光が散乱せずフィルムを通して直進するか否かを意味するものであって、日光が透過するか否かを意味するものではない。
【0015】
透明樹脂フィルム層2を形成する樹脂と散光剤分散フィルム層3を形成する樹脂は、それぞれ異なる樹脂であってもよいが、両層の接着性を得るためには同じ化学組成の樹脂を使用することも好ましい。
【0016】
散光剤分散フィルム層3には、大散光剤30及び小散光剤31が分散されている。大散光剤30は図示では1個の粒子が示されており、その大散光剤30の周囲あるいは近傍に小散光剤31が分散している。
【0017】
大散光剤30は、粒径が1μm〜10μm、好ましくは2μm〜4μmであり、散光剤分散フィルム層3の全体の重量に対する配合量が3wt%〜15wt%、好ましくは5wt%〜10wt%である。
【0018】
小散光剤31は、粒径が0.1μm〜0.9μm、好ましくは0.2μm〜0.6μmであり、散光剤分散フィルム層3の全体の重量に対する配合量が0.3wt%〜2wt%、好ましくは0.5wt%〜1.2wt%である。
【0019】
小散光剤31の配合量は、重量で見ると、大散光剤30よりも少ない。しかし、小散光剤31の体積(粒径の3乗に比例)は大散光剤30よりも大幅に小さくなり、このとき比重に大差はないため、大散光剤30に対する小散光剤31の配合数量比は大幅に大きいものになる。
【0020】
本発明において、大散光剤30に対する小散光剤31の配合数量比は60倍〜100倍であることが好ましい。これにより、散光剤分散フィルム層3の表面には、大散光剤30に由来する大凸面が形成されると共に、大凸面の表面に小散光剤31による小凸面が更に形成される。
【0021】
次に、
図2を参酌して、農業用フィルム1による散光を概念的に説明する。
図2は、
図1において点線で囲まれた領域Aを拡大して示している。
【0022】
図2中、図示しない透明樹脂フィルム層2を透過して散光剤分散フィルム層3に入射した光は、まず、大散光剤30によって第1の散乱光に変換され、次いで、第1の散乱光は、小散光剤31によって、更に多方向に散乱された第2の散乱光を生じる。これにより、散光剤分散フィルム層3の表面(内面)から多方向に散乱光が放出され、高度な無影化環境が形成される。
【0023】
大散光剤30としては、アルカリ正長石、酸化珪素、各種天然または合成の珪酸塩類などが挙げられるが、中でも霞石又は霞石閃長岩(ネフェリン閃長岩)からなるアルカリ正長石を好ましく用いることができる。市販品としては、ユニミン社製「ミネックス(MINEX)7」を用いることができる。
【0024】
小散光剤31としては、ハイドロタルサイト類を用いる。ハイドロタルサイト類は、式M
2+1−xAl
3+x(OH
−)
2(A
1n−)
x/n・mH
2Oで表される化合物である。上記式において、M
2+はMg
2+、Ca
2+及びZn
2+からなる群から選ばれた2価の金属イオンを表しし、A
1n−はn価のアニオン、xは、0<x<0.5の範囲にある数、mは、0≦m≦2の範囲にある数、nは、1≦n≦3の範囲にある数を示す。ハイドロタルサイト類としては、例えばDHT(協和化学株式会社製)等を好ましく使用することができる。
【0025】
かかる農業用フィルムを用いたトマト栽培例では、枯れ落ちた葉はあまり確認されなかった。また枯れ落ちた葉の体積は、生育した葉の体積と比較すると1割未満であった。また、梅雨明け以降になっても、焼けたトマトは確認されなかった。
【0026】
さらに、ハウス内部の全体の株の高さもほぼ一定で揃っていたことが確認された。これも無影化環境による効果である。影が生じてしまうと、そこに存在する葉は枯れ落とされ、光合成が可能なところに葉をつけようと、茎が伸びる。そうすると、背が高い株が生じる。
【0027】
本発明のフィルムでは、このような高い株がなかったことから、全ての株で同様の生育がなされた。上記の結果、栄養成長を抑え、生殖成長にエネルギーが費やされたため、トマトの収穫量を増加できる。
【0028】
透明樹脂フィルム層2の膜厚は、任意に設定することができるが、5μm以上、好ましくは10μm以上、一般には、10〜150μmとされる。膜厚が5μmより薄い場合は、膜面を平滑にすることが難しくなり透明性が低下する。散光剤分散フィルム層3の膜厚は、任意に設定することができるが、一般には、5〜200μm、好ましくは10〜100μmとされる。
【0029】
すなわち、農業用フィルム1の全膜厚は、15〜300μmが好ましく、より好ましくは50〜200μmとすることができる。
【0030】
透明樹脂フィルム層2と散光剤分散フィルム層3の積層方法は、格別限定されない。例えば、予め、散光剤分散フィルム層3を形成し、これに透明樹脂フィルム層2を押出ラミによって積層してもよく、予め、透明樹脂フィルム層2を形成し、これに散光剤分散フィルム層3を押出ラミによって積層してもよい。また、インフレーション成形によって、両層の樹脂組成物を同時に押出し、ダイ内あるいはダイから押し出された直後に積層することもできる。
【0031】
散光剤分散フィルム層3は、農作物側(内側)に配向されることが好ましい。散光剤分散フィルム層3を内側にして用いることによって、透明樹脂フィルム層2がフィルム外層となるため、フィルム外表面は平滑面となり、散光剤分散フィルム層3がフィルム内層となる。これによって、微小な凹凸のある梨地面がフィルム内表面に形成され、無影化を好適に実現できる。
【0032】
また、散光剤分散フィルム層3の表面は、防曇性を付与してもよい。防曇性の付与方法としては、界面活性剤等の親水性基を有する化合物を散光剤分散フィルム層3に混練する方法を採用することができ、また、散光剤分散フィルム層3の表面に防曇剤を塗布することもできる。
【0033】
散光剤分散フィルム層3に混練する場合の防曇性付与剤としては、非イオン系、アニオン系あるいはカチオン系の界面活性剤が使用できる。これらの化合物としては、ポリオキシアルキレンエーテル、多価アルコールの部分エステル、多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物の部分エステル、高級アルコール硫酸エステルアルカリ金属塩、アルキルアリールスルホネート、四級アンモニウム、脂肪酸アミン誘導体が挙げられる。中でも炭素数14〜22の脂肪酸とソルビタン、ソルビトール、グリセリン、プロピレングリコール等の多価アルコールとのエステルあるいはそのアルキレンオキサイド付加物を主成分とする非イオン系界面活性剤等が好ましい。
【0034】
散光剤分散フィルム層3に塗布して防曇性を付与する防曇剤としては、無機の微粒子と界面活性剤を含有するものが望ましく、無機の微粒子としては、粒径5〜100nm程度の無機親水性コロイド物質を用いることができる。具体的には、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、コロイド状の水酸化鉄、水酸化錫、酸化チタン、硫酸バリウム、リチウムシリケート等を用いることができる。
【0035】
防曇剤の塗布は、トンネル用骨材、栽培ハウス用骨組みに張設する前に塗布してもよく、また、これらに張設した後必要に応じた時期に塗布してもよい。
【0036】
こうして得られた農業用フィルム1は、乾燥状態では不透明ないし半透明となり、散光剤分散フィルム層3面が湿潤したときは透明となる。
【0037】
なお、本発明の農業用フィルム1においては、透明樹脂フィルム層2は単層であってもよく、また、積層フィルム層であってもよい。従って、本発明の農業用フィルム1は、3層以上の構造とすることもできる。
【0038】
そして、各層には、本発明の効果を損なわない範囲で、各種の紫外線吸収剤、光安定剤(耐候性改良)、保温剤、赤外線吸収剤等を適宜添加し、各種機能を付与することもできる。
【0039】
本発明の農業用フィルム1を使用するときは、散光剤分散フィルム層3面が、フィルム内面(トンネルあるいはハウス等の内側)となるように張設する他は従来と同様に使用され、構築されたトンネルあるいはハウスの骨組みに張設され、その内部で作物が栽培される。
【0040】
農業用フィルム1を用いて栽培するときは、冬場等の保温を要するときはハウスあるいはトンネルを閉鎖した状態で栽培が行われる。ハウスあるいはトンネルを閉鎖して栽培するときは、保温され栽培温度を高くすることができると共に、内部の湿度が上昇しその水分が農業用フィルム1の散光剤分散フィルム層3面に付着する。付着した水は、防曇剤の作用によって散光剤分散フィルム層3の面で水膜となる。その結果、農業用フィルム1は透明となって、直射日光が作物に照射される。
【0041】
一方、春期の4〜5月以降、特に夏場の気温が高く、太陽光線が強い時期には、農業用フィルム1を部分的に引上げて換気をさせて栽培を行う。トンネルあるいはハウス内が換気されると内部が乾燥し、農業用フィルム1の内面の水膜が消失する。その結果、農業用フィルム1は不透明ないし半透明となって、直射日光が分散して柔らかい光となって作物に照射される。従って、作物に焼け等の高温障害が発生することを防止することができ、野菜、果実作物、花卉等多くの作物の栽培に使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はかかる実施例により限定されない。
【0043】
1.フィルムの作製
インフレーション成形法によって、下記各構成の透明樹脂フィルム層と散光剤分散フィルム層とを有する農業用フィルム(積層フィルム)を作製した。
透明樹脂フィルム層は及び散光剤分散フィルム層は、それぞれ単層とした。
【0044】
<透明樹脂フィルム層>
エチレン−酢酸ビニル共重合体(MI:0.5、酢ビ含量15%)100重量部で形成した。厚さ100μmであった。
【0045】
<散光剤分散フィルム層>
透明樹脂であるエチレン−酢酸ビニル共重合体(MI:0.5、酢ビ含量15%)100重量部に対して、下記大散光剤7重量部と、下記小散光剤0.8重量部を配合し、混合した。散光剤分散フィルム層の厚さは30μmである。
大散光剤:霞石閃長岩(ネフェリン閃長岩)(ユニミン社製「ミネックス(MINEX)7」)、粒径3.5μm
小散光剤:ハイドロタルサイト(協和化学工業社製「DHT−4A」)、粒径0.4μm
【0046】
2.栽培試験
図3に示すように、得られたフィルム1を、みかど化工株式会社誉田実験農場に設けたハウス(高さ3.6m)に展張し、フィルム1から50cm下(P1)、1m下(P2)、2m下(P3)、3m下(P4)、ハウス内地面(P5)、及び、ハウス外地面(P6)の各位置への散光到達量を、時間帯毎の平均照度として測定した。結果を
図4に示す。
【0047】
<評価>
まず、
図4(a)に点線で示すように、大散光剤及び小散光剤を含まない透明フィルム(比較)では、通常、フィルムからハウス内地面に向かうに連れて、照度が低下する。
【0048】
これに対して、本発明のフィルムでは、
図4(a)の棒グラフに示されるように、10時〜11時の時間帯において、フィルムから1m下〜ハウス内地面にかけての領域で、透明フィルム(比較)よりも大きい照度が測定されることがわかる。
【0049】
特に、フィルム直下(フィルムから50cm下)よりも、フィルムから1m下〜2m下にかけての領域の方が、照度が大きくなっていることがわかる。これらのことから、本発明のフィルムによれば、高度な無影化環境を好適に実現できることがわかる。
【0050】
また、
図4(b)の棒グラフに示されるように、12時〜13時の時間帯においては、フィルムから1m下〜3m下にかけての領域の照度が若干低下することがわかる。そのため、本発明のフィルムによれば、上述した無影化の効果に加えて、太陽の仰角が大きい時間帯にハウス内の植物に過剰な光が照射されることを防止する効果も得られる。
【0051】
更にまた、
図4(c)の棒グラフに示されるように、14時〜13時の時間帯においては、フィルム直下(フィルムから50cm下)よりも、フィルムから1m下〜3m下にかけての領域で照度が大きくなり、高度な無影化環境を好適に実現できることがわかる。