(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記搬送部は、前記食材が前記食材冷凍システムに入ってから前記冷凍部を約6分以内に通過するように、前記食材を搬送するように構成されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の食材冷凍システム。
前記加温機構は、前記搬送部の下方にのみ存在し、熱を媒介する物質を下向きに放出するように構成され、前記加温部は、前記搬送部ではない方向に風を送るように構成されている送風機構を備える、請求項8に記載の食材加工システム。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及されない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及されない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。矛盾する場合、(定義を含めて)本明細書の記載が優先される。
【0036】
以下、本明細書において用いられる用語を定義する。
【0037】
「食材」とは、人間が食することができる任意の物体をいう。約90℃以上の加熱による加工を受けていない食材を特に「生鮮食材」という。
【0038】
「約」とは、後に続く数値の±10%の範囲内をいう。
【0039】
「中間温度帯」とは、45℃〜90℃の温度をいう。
【0040】
「間接的な加温」とは、蒸気などの熱媒介物質を加温される対象物に接触させることで加温する際に、熱媒介物質の運動方向を供給部から加温される対象物に到達するまでの間に変化させるように、供給部から熱媒介物質を放出することをいう。
【0041】
「直接的な加温」とは、蒸気などの熱媒介物質を加温される対象物に接触させることで加温する際に、熱媒介物質の運動方向を供給部から加温される対象物に到達するまでの間に変化させないように、供給部から熱媒介物質を放出することをいう。
【0042】
「直接的な冷却」とは、ファンなどの送風機構によって、冷却される対象物に向けて冷気を送ることをいう。
【0043】
「間接的な冷却」とは、冷却機構以外のファンなどの送風機構を用いずに冷却を行うか、または送風機構によって冷気を送る場合にも冷却される対象物に向けずに冷気を送ることをいう。
【0044】
「搬送部近傍」とは、搬送部から約30cm以内であることをいう。
【0045】
「蒸気」とは、水滴を含む気体をいう。
【0046】
「殺菌」とは、食材加工処理の直後に、一般生菌数は標準寒天平板培養法による検査で10
5cfu/g(mL)以下、大腸菌はBGLG培地法による検査で陰性(10cfu/g(mL)未満)であることをいう。
【0047】
「一体型」とは、搬送路を介してシステムや要素同士が物理的に連続していることをいう。
【0048】
「下向き」とは、鉛直下方向に対して0°〜90°の角をなす方向をいう。
【0049】
「急速冷凍」とは、約5分間で対象となる食材の中心温度を−5℃以下にするような冷凍をいう。
【0050】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本発明の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0051】
なお、本明細書全体を通して、同一の構成要素には同一の参照数字を使用している。
【0052】
(冷凍システム)
本発明の食材冷凍システムは、短時間(例えば、約6分以内)で約−60℃〜約−90℃まで、好ましくは−60℃〜89℃まで食材を冷却(冷凍)するように構成されている。本発明の食材冷凍システムは、1つの冷凍部において冷凍するものであってもよいし、予冷部と冷凍部とを含む、二つ以上の冷凍部を備えるものであってもよい。処理容積が大きな食材は予冷部を設けることが特に好ましい。
【0053】
図1は、本発明の食材冷凍システムの構成の一例を示す。
【0054】
図1に示される例では、本発明の食材冷凍システム1は、投入部側の第1の冷凍部100Aおよび出口側の第2の冷凍部100Bという2つの冷凍部と、搬送部200とを備える。投入部側の冷凍部100Aが予冷部に対応する。なお、
図1に示される例では、冷凍部の数は2であるが、本発明はこれに限定されない。冷凍部の数は、1つ(すなわち、予冷部を含まない)であり得るし、2以上の任意の整数でもあり得る。例えば3つの冷凍部や4つの冷凍部を備える冷凍システムも、本発明の範囲内である。
【0055】
1つの実施形態において、第2の冷凍部100B内部の温度は、第1の冷凍部100Aの温度よりも低い。1つの実施形態において、第2の冷凍部100Bにおける冷凍のための冷風の温度は、第1の冷凍部100Aにおける冷凍のための冷風の温度よりも低い。ある実施形態では、例えば、第1の冷凍部100Aの冷風の温度は、約−25℃〜−40℃であり、第2の冷凍部100Bの冷風の温度は、約−55〜約−60℃、約−60℃〜約−90℃、約−60℃〜約−80℃、約−60℃〜約−70℃、−60℃〜−89℃、−60℃〜−70℃、約−60℃、−60℃などであり得る。理論に拘束されることを意図しないが、−60℃以下の温度に食材を冷凍すると、食材内の酵素の失活が十分であり、解凍後の食材の品質保持のために好ましい。また、食材の冷凍温度が−90℃より高い温度であると、食材の組織構造の変化が抑制されるため、好ましい(例えば、食材を−90℃以下に冷凍すると食材の組織がねじれるような構造変化が起こり得る)。
【0056】
このように、複数の冷凍部によって複数段階の冷凍工程を経るようにすることが可能である。また、複数の冷凍部は、食材が搬送部200上で搬送されるにつれてより低い温度で冷凍されるように食材を段階的に冷凍するように構成されることが可能である。このような段階的な冷凍を行うことにより、冷凍による食材の表面温度の急激な変化を避けることが可能であり、ひいては、エネルギー効率良く食材を冷凍することが可能である。
【0057】
好ましい実施形態では、第1の冷凍部100Aの第1の冷媒は、第2の冷凍部100Bの第2の冷媒とは異なる。第1の冷媒および第2の冷媒ともに当該分野で利用可能な一般的な冷媒であるが、第2の冷媒は、第1の冷媒と比較して温度変換効率の良いものであり得る。
【0058】
本発明の冷凍システムにおいては、搬送部により食材は一箇所に滞留することなく、連続的に冷凍部内を移動して排出される。食材が冷凍システム1を通過する時間は、約6分以下、好ましくは約5〜約6分、さらに好ましくは約5分である。このように、時間をかけずに急速に冷凍することにより、食材に含まれる水分の凍結による膨張を抑制することができ、ひいては、解凍時の食材の離水(成分流出)、およびそれによる品質低下を防止することが可能である。なお、食材が冷凍システム1を通過する時間は、食材の熱伝導性や食材のサイズによって、当業者によって適切に調節され得る。冷凍システム1による冷凍が完了した際には、食材の中心部までの温度は、約−5℃であり得る。
【0059】
上記のように、約6分以下、例えば約5分間で食材の中心温度を−5℃にするためには、単一の冷凍部での処理では、周辺空間の温度が阻害要因となり、熱交換効率が著しく低下してしまい、また、余剰空間を冷却させる無駄とリスクが生じ、効率的ではないことがある。したがって、予冷部を含む、少なくとも2つ以上の冷凍部を備える冷凍システムが好ましくあり得るが、後述のとおり、本発明においては単一の冷凍部を備える冷凍システムにおいても熱交換効率の低下を回避し得るので、本発明は少なくとも2つ以上の冷凍部を備える冷凍システムには限定されない。
【0060】
(搬送部)
食材冷凍システム1は、第1の冷凍部100Aおよび出口側の第2の冷凍部100Bを通って食材を搬送する搬送部200を備える。搬送部200の構成としては、食材を連続的に移動させる機能を有していれば、特に制限はされない。
【0061】
食材を移動させながら冷凍を行うことは、大量の食材を均一な温度で画一的に加工するのに有利であり得る。例えば、食材が静止した状態で加工すると、加工を行う空間内の温度のムラによってそれぞれの加工温度に差が生じるが、食材の搬送方向に沿って食材を移動させながら加工することによって空間内の温度のムラによる食材ごとの差を無くすことができる。
【0062】
搬送部200は、好ましくは、一定の速度で、第1の冷凍部100Aおよび第2の冷凍部100Bを通って食材を搬送する。また、ある実施形態において、搬送部200は、その一定の速度を調節する調節機構を有する。調節機構は、自動で一定の速度を調節することができてもよく、手動で設定された速度に速度を調節することができてもよく、または、その両方が可能であってよい。これにより、搬送部200は、食材が第1の冷凍部100Aおよび/または第2の冷凍部100B内部を所望の時間の間通過するように、食材を搬送するように構成されることが可能である。ある実施形態において、搬送部200は、好ましくは、ベルトコンベアである。ある実施形態において、搬送部200は、貫通孔を有する。例えば、貫通孔を有する搬送部200は網目状のベルトコンベアなどであってよい。搬送部200は、複数であってよく、複数の搬送部200を並列させることによって、時間あたりに処理する食材の量を増加させ、本発明のシステムの処理能力を向上させることができる。食材の搬送は、食材を搬送部200に直接載せて行ってもよいし、食材を入れた容器を搬送部200によって搬送することによって行ってもよい。この場合、好ましくは、通気性のある容器が用いられる。通気性のある容器は、例えば、底面および/または側面に貫通孔を有する容器である。この容器は、例えば、底面および/または側面に、通気性のある網目状の部材を含む容器であり得る。搬送部200および/または容器に、貫通孔および/または網目状の部材を含めることによって、食材ごとに熱を均等に作用させることができる。
【0063】
食材の搬送速度は、食材が冷凍部を通過する時間が約6分(好ましくは約5分)以下になるように調整される。また、食材の質量、食材の熱透過率によって多少の誤差が生じる場合は初段の冷凍部(例えば、第1の冷凍部)の冷却温度を調整することによって、冷凍部を通過する処理時間が約6分(好ましくは約5分)を超えないように調整し得る。一部の実施形態において、冷凍部の長さは約6m〜約12mmであって冷凍処理時間は約2分〜約6分であるので、搬送速度は毎分約1m〜約6mであり、上記範囲内で自在に設定可能である。しかし、上記範囲はあくまで具体例に過ぎず、本発明はこれに限定されない。食材の芯温が適切な時間勾配で適切な温度に低下するように、食材の種類や大きさに応じた最適な搬送速度が決定され得る。
【0064】
一部の実施形態では、食材は搬送部200によって、投入部、第1の冷凍部100A、第1の冷凍部100A、搬出部に、この順で連続的に移動する。搬送部200としてはベルトコンベアが好ましい。搬送部200の速度は、投入部に置かれる食材の各片の大きさ、食材の形状、第1の冷凍部100Aの冷凍条件、第2の冷凍部100Bの冷凍条件と連繋して、適切な値に自動調節され得る。
【0065】
第1の冷却部100Aで初期冷凍をした食材は、一般的な冷凍における初段の冷凍条件とは相違し、すでに食材の中心温度が−3℃〜−3.5℃に処理されている。このようにすでに中心温度が−3℃〜−3.5℃になった食材を、さらに低温で冷却処理を行う第2の冷却部100Bで例えば−60℃の冷風で処理することによって、約5分内で食材の細胞膜を破壊せず、細胞膜内に在る水分の膨張率を抑制することができる。
【0066】
本発明の冷凍部の形状は、食材の搬送方向が水平移動型の長形が代表的であるが、これに限定されない。例えば、第1の冷却部と第2の冷却部とが上下に存在する垂直移動型であってもよい。垂直移動型においては、食材を直列で上下に垂直移動させてもよいし、例えば螺旋状のようにして並列で垂直移動させてもよい。
【0067】
代表的な実施形態において、水平型の食材冷凍システムにおいて、投入口から出口までの距離は約6メートルほどであり、第1の冷却部と第2の冷却部との距離はそれぞれ約3メートルずつであり得る。搬送路は各冷却部を約2.5分で通過するように食材を移動させ得る。
【0068】
食材の性質や量に起因して、2つの冷却部での約5〜6分間での処理によっては中心温度が−5℃に到達しない場合には、第3の冷却部を追加し得る。第3の冷却部も、第1の冷却部および第2の冷却部と距離はほぼ同様であり得る。例えば、第1の冷却部〜第3の冷却部はそれぞれ約3mほどであり、第1の冷却部における冷風は約−20℃〜−45℃、第2の冷却部における冷風は約−60℃、第3の冷却部における冷風は約−80℃であり得る。ここで、第3の冷却部を追加しても、冷却システム全体の通過時間は約5分〜6分であり得る。
【0069】
また、冷凍する食材の数量が多い場合には、投入口から出口までの距離は約9m(各冷凍部は約4.5mずつ)、約12m(各冷凍部は約6mずつ)などであってもよく、これらの場合にも各冷凍部の通過時間はそれぞれ約2.5分〜3分、全体として約5〜6分で処理を完了する。
【0070】
(予冷部)
好ましい実施形態において、本発明の食材冷凍システムは、本冷凍のための冷凍部(例えば、
図1の冷凍部100B)より投入部側に、予冷のための冷凍部(例えば、
図1の冷凍部100A、本明細書中では「予冷部」ともいう。)を備え得る。好ましい実施形態において、本発明の予冷部はさらに、投入部側から順に、冷却温度の異なる第1予冷部と第2予冷部とを含み得る。第1予冷部および第2予冷部における冷却温度は、第1予冷部の方が高くてもよいし、第2予冷部の方が高くてもよいが、好ましくは第1予冷部の方が冷却温度は高い。このように第1予冷部における冷却温度を高くしておくと、食材の搬送用のベルトへの付着を防ぐことができる。食材を急激に冷却すると、食材が搬送用ベルトへ付着し、食材が破損してしまうことになる。好ましい実施形態において、第1予冷部における冷却温度は、約−20℃〜−45℃であり、好ましくは約−35℃〜約−45℃であり得る。第1予冷部における冷却温度が約−35℃〜約−45℃程度である場合には、食材の冷却が急速には進まないため食材が搬送ベルトに付着することがなく、第1予冷部の冷却温度として好ましい。
【0071】
本発明の第2予冷部における冷却温度は、約−55〜約−60℃、約−60℃〜約−90℃、約−60℃〜約−80℃、約−60℃〜約−70℃、−60℃〜−89℃、−60℃〜−70℃、約−60℃、−60℃などであり得る。第2予冷部における冷却温度は、好ましくは、約−60℃〜約−90℃または−60℃〜−89℃であり、より好ましくは−60℃である。
【0072】
好ましい実施形態において、本発明の予冷部は、投入口側から順に、第1予冷部(第1室)、第2予冷部(第2室)および第3予冷部(第3室)を含み得る(
図6(a))。第1予冷部と第2予冷部とはそれぞれ異なる温度で冷却され、具体的な温度などは上述のとおりである。第3予冷部における冷却温度は、隣接する第2予冷部とは異なる温度であり、第2予冷部より高い温度であってもよいし、第2予冷部より低い温度であってもよい。好ましくは、第3予冷部における冷却温度は、第2予冷部の冷却温度よりも高い温度であり、約−20℃〜−45℃であり、好ましくは約−35℃〜約−45℃であり得る(
図6(b))。第1予冷部と第3予冷部の冷却温度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。理論に拘束されることを意図しないが、このように第3予冷部の冷却温度を第2予冷部と変えることにより、食材の冷却が効率的に行われ得る。
【0073】
特に好ましい実施形態においては、本発明の予冷部は、第1予冷部、第2予冷部、および第3予冷部を少なくとも備え、第1予冷部および第3予冷部の冷却温度は第2予冷部の冷却温度よりも高い。このように、予冷段階において冷却温度をいったん下げてから再度上げることにより、食材に対する冷凍効率を上げ、冷凍効果を食材に対して均一にすることができる。好ましい実施形態において、本発明の予冷部は、約−35℃〜約−45℃で食材を冷却する第1予冷部と、約−60℃で食材を冷却する第2予冷部と、約−35℃〜約−45℃で食材を冷却する第3予冷部とを備える。
【0074】
(隔壁またはエアーカーテン)
冷凍部と冷凍部との間(例えば、第1の冷凍部100Aと第2の冷凍部100Bとの間)や、予冷部(100A)における第1予冷部、第2予冷部、第3予冷部の間は、隔壁で区切られてもよいし、エアーカーテンで区切られてもよい。好ましい実施形態においては、本発明の冷凍システムにおける冷凍部間は、エアーカーテンで区切られ得る(
図2)。
図2に示される例では、食材冷凍システム1は、エアーカーテンを生成するためのエアーカーテン生成機構300をさらに備えている。エアーカーテンは、隣接する2つの冷凍部(例えば、第1の冷凍部100Aおよび第2の冷凍部100B)内のそれぞれの冷媒が入り混じることを妨げるように、隣接する2つの冷凍部を相互に遮蔽することが可能である。
【0075】
本発明のエアーカーテン生成機構300は、冷凍部の上部および/または下部に設けた送風口から略垂直方向に空気を送風するものであり得る。このような機構によって、送風された空気の対流によって空気が左右方向に振り分けられることで、仮想的な遮蔽壁を形成し得る。
【0076】
本発明のエアーカーテン生成機構300は、好ましくは、冷凍部の上部および/または下部に設けた送風口からの吹き出し角度を、送風の向きが食材の進行方向とは逆向きとなるように調整され得る。このようにすることによって、送風された空気が搬送部によって冷凍部を通過中の食材に衝突することで生じる空気の対流の乱れなどを抑制することが可能となり、その結果、第1の冷凍工程における熱条件を第2の冷凍工程への介在を抑制することが可能となる。さらに、下部の送風口の吹き出し角度を上部の送風口の吹き出し角度よりも食材の進行方向に対して角度を設けるとともに、上部および下部の送風口から同時に送風するように構成され得る。このように送風口からの送風が食材の進行歩行とは逆向きにすることにより、第2の冷凍部に滞留する空気よりも高い温度である第1の冷凍部に滞留する空気が逆向きに流れる送風によって第2の冷凍部に流入することが妨げられることになり、その結果、第1の冷凍部および第2の冷凍部それぞれの滞留熱の変化を抑制することが可能となる。
【0077】
また、冷却部間をエアーカーテンで区切る場合、第1の冷却部のエアーカーテン周辺では投入口近辺より温度が下がり、第2の冷却部のエアーカーテン周辺では出口近辺より温度が上がり、エアーカーテン周辺において第1の冷却部および第2の冷却部において温度の傾斜が形成される。これによって、第1の冷却部から第2の冷却部に食材が移動するにつれて、スムーズに冷却温度が移行し、食材の細胞へのダメージがさらに軽減され得る。さらに、熱は質量を有さないので対流による遮断が可能であり、既存の冷凍装置の改造やエアーカーテン生成機構の位置の調整が簡単に低コストで可能である。
【0078】
なお、冷凍部が3つ以上ある場合には、食材冷凍システム1は、複数の冷凍部間領域のうちの少なくとも1つにおいてエアーカーテン生成機構300を備え、他においては隔壁を備えてもよい。好ましい実施形態において、予冷部(第1の冷凍部)100Aと第2の冷凍部との間は隔壁であり、予冷部における第1予冷部(第1室)と第2予冷部(第2室)との間、および/または第2予冷部(第2室)と第3予冷部(第3室)との間はエアーカーテンで仕切られていてもよい(
図7)。
【0079】
(送風機構)
冷凍部100Aおよび100Bは、それぞれ送風機構を備えていてもよい。送風機構としては、シロッコファン、ターボファン、翼形ファン、横流ファンなどの送風機や空調機に用いられるものであればいずれも使用することができる。また、送風機構は、送風機や空調機から送られる風を冷凍部内に送風する送風口を備える。送風機構の構成は、その数、位置、方向などについて特に限定されるものではない。送風機構は、冷凍部の上部にあってもよく、冷凍部の下部にあってもよく、また冷凍部の側部にあってもよい。また冷凍部の上部、下部および側部の複数の箇所にあってもよく、さらに別の位置にあってもよい。冷凍部において送風機構の送風口は、その数、位置、方向などについて特に限定されるものではない。送風口は、搬送部の上部にあってもよく、搬送部の下部にあってもよく、また搬送部の側部にあってもよい、また、搬送部の上部、下部および側部の複数の箇所にあってもよく、さらに別の位置にあってもよい。冷凍部において送風機構の送風口が送風する方向は、食材に向かう方向であってもよいし、食材に向かう方向でなくてもよい。送風機構による送風の強度は、十分に食材を冷却することができれば限定されず、一定であっても、変化させることができてもよい。例えば、ある実施形態においては、冷凍部の側方に冷凍機構があり、上部に送風機構(ファン)がある。
【0080】
好ましくは、冷凍部においては、食材に冷風を直接的に向けることによって食材を冷却する。具体的には、冷凍部に備えられた送風機構(例えば、ファン)の送風口が食材に向けて送風する。これによって、食材の速やかな冷凍が可能になる。
【0081】
1つの実施形態において、
図8に示すように、送風機構の送風口が搬送部によって搬送される食材に対して上部及び下部それぞれに設けられる。このようにすることで効率的に食材を冷却することが可能となる。また、好ましくは、送風口の向きは、搬送部の搬送方向に対向する向きである。このようにすることで、送風口から送風される風が搬送部によって搬送される食材に勢いよく当たるため、効率的に食材を冷却することが可能となる。さらに好ましくは、送風口の向きは、鉛直方向の向きを0°として前記搬送部の搬送方向に対向する向きに、約0°を超えて約90°未満の範囲の角度で傾斜している。傾斜角度は、搬送部上で搬送される食材の進行の障害とならない範囲で任意の角度であり得る。さらに好ましくは約3°〜約30°、特に好ましくは約3°〜約18°の角度(
図8に示す角度α1、α2)で傾斜している。この範囲の傾斜角度にすることによって、食材がスムーズに搬送することを維持しつつ、食材を効率的に冷却することを可能とする。なお、
図8に示す実施形態においては、上部の送風口の傾斜角度と下部の送風口の傾斜角度とが同じであるが、本発明はこれに限定されない。上部の送風口の傾斜角度と下部の送風口とがそれぞれ異なる傾斜角度であってもよい。
【0082】
また、
図9に示すように、送風機構の送風口が搬送部の搬送方向に直交する方向に対して傾斜するように設けられ、かつ上部に設けた送風口の向きと下部に設けた送風口の向きとが交差するように設け得る。さらに好ましくは、送風口の向きは、搬送方向に直交する向きを0°として約3°〜約30°、特に好ましくは約3°〜約24°の角度(
図9(b)に示す角度β1、β2)で傾斜している。
【0083】
このように、上部の送風口の向きと下部の送風口の向きとを所定の傾斜角度で交差するように設けることにより、食材に供給される風の向きが食材の表皮付近で小さなランダムな気流を発生させることが可能となる。その結果、冷凍部内の空気の攪拌効果が向上し、より効率的にかつ均一に食材を冷却することが可能となる。なお、
図9に示す実施形態においては、上部の送風口の傾斜角度と下部の送風口の傾斜角度が同じであるが、本発明はこれに限定されない。例えば、上部の送風口の傾斜角度と下部の送風口とがそれぞれ異なる傾斜角度であってもよい。また、
図9(a)に示すように、搬送方向に沿って複数設けられた上部または下部に設ける送風口の搬送部の搬送方向に直交する方向に対して傾斜する向きが、常に同じ向きであってもよいし、
図10に示すように、交互に傾斜する向きを変更させてもよい。このように交互に傾斜する向きを変更することにより、より効果的に冷凍部内の空気の攪拌効果が向上し、より効率的にかつ均一に食材を冷却することが可能となる。
【0084】
また、
図8、9に示す実施形態は、特にブロック状などの大きな食材を冷却するのに適している。しかしながら、本発明はこれに限定されない。例えば、粒状などの小さい食材に対して適用してもよい。
【0085】
また、別の実施形態において、
図11に示すように、送風機構の送風口が搬送部によって搬送される食材に対して下部に設けられる。
図11に示す実施形態は、特に粒状など一つ一つが小さい食材を冷却するのに適している。このように、搬送部の下部に設けられた送風口からのみ食材に向けて送風することにより、食材がその風によって上方に舞い上がることが可能となり、その結果、より冷却される食材と搬送ベルトとの接着を低減することが可能となる。また、
図8と同様に、好ましくは、送風口の向きは、搬送部の搬送方向に対向する向きである。このようにすることで、送風口から送風される風が搬送部によって搬送される食材に勢いよく当たるため、効率的に食材を冷却することが可能となる。また、
図11(b)に示すように、この実施形態において、送風口の向きは、搬送部の搬送方向に直交する方向に平行に設けられる。しかし、本発明はこれに限定されない。例えば、
図9に示すように、送風口の向きを搬送部の搬送方向に直交する方向に対して傾斜させてもよい。
【0086】
(その他)
ある実施形態において、冷凍部100Aおよび/または100Bは、センサーを備える。センサーは、冷凍部内の状態に関する情報を定量化し、送信する。冷凍部内の状態に関する情報は、管理部に送信されてもよいし、または、システムの別の部分(例えば、搬送部200)に送信されてもよい。センサーとしては、温度センサー、湿度センサーが挙げられる。センサーの位置は、限定されないが、好ましくは、冷凍部を貫通する搬送部200の近傍に配置すれば、冷却される食材の温度を正確に測定することができ、システムの制御にとって有利であり得る。
【0087】
冷凍部100Aおよび100Bはそれぞれ、例えば、空気急速冷凍機または液体急速冷凍機であってもよいが、好ましくは空気急速冷凍機であり得る。液体急速冷凍機の代表例は液体窒素による冷却であるが、これは温度が一定であり初期温度の設定が難しい。液体窒素による冷却のためには処理能力を制限して多段構成にすることも可能であるが、コストの観点から空気急速冷凍機が好ましくあり得る。
【0088】
食材は、食材冷凍システムに投入される前に、洗浄、殺菌などの前処理が施され得る。殺菌などの前処理は、ブランチングなど一般的に用いられる前処理方法であり得る。
図3は、本発明の食材の前処理を行う食材前処理(殺菌)部と食材冷凍システムとが組み合わされた食材加工システムの一例を示す。
図3に示すように、食材前処理(殺菌)部400は、食材を加温する加温機構を備える加温部410と、加温部410によって加温された食材を冷却する冷却機構を備える冷却部420と、加温部410および冷却部420を通ってその加温された食材を食材冷凍システム1へと搬送する搬送部430とを備える。なお、
図3では便宜上、食材前処理(殺菌)部400と食材冷凍システム1とを同時に示したが、食材前処理(殺菌)部400と食材冷凍システム1とは物理的に隔離された独立のシステムであってもよいし、搬送部を共有する連続するシステムであってもよい。
【0089】
(加温部)
図4に示すように、前処理(殺菌)部400は、食材を加温する加温機構411を備える加温部410を備える。加温部410および加温機構411は、食材を所望の温度に加温することができれば、その構成は限定されない。加温部410内を搬送部430が貫通し、加温部410内を食材が搬送部430によって搬送される間に食材が加温される。食材は、所望の温度に速やかに加温され、その後所望の温度に安定的に保たれることが望ましい。加温部410としては、食品の調理に用いられている一般的なもの、加湿機能を有する恒温槽など、温度調節できるものであれば、いかなるものも使用することができる。様々な食材に対応するためには、加温部410の形状は食材の搬送方向に沿ったトンネル型あるいは箱型のものが好ましいが、これらに限定されない。
【0090】
好ましくは、前処理(殺菌)部400は、食材を中間温度帯に速やかに加温し、安定的に維持することができる。中間温度帯での加温は、食材の細胞や組織を破壊することなく、灰汁を除去し、および/または酵素(例えば、ペクチナーゼまたはセルラーゼなどの糖質分解酵素、グルコースオキシナーゼなどの酸化酵素などが挙げられるが、これらに限定されない)を失活させ、および/または殺菌を行うことができる。他方で、100℃を超えるような加温(沸騰水や火を用いる加熱)は食材の細胞を破壊し、それによって旨味成分が細胞から流出してしまうので、本発明においては好ましくない。
【0091】
加温機構411は、好ましくは、熱を加温部410内に放出することによって、食材を加温する。1つの実施形態においては、熱は、食材と接触することによって食材を加温することができる高温の物質によって媒介され得る。加温部410の内部に放出された熱によって、加温部410内の温度が上昇し、加温を行うことができる。
【0092】
代表的な実施形態において、加温部410は、食材を間接的に加温する。直接的な加温の場合には、食材に接触する熱媒介物質が供給部から食材に直接的に接触する相対的に温度の高い熱媒介物質と加温部内で対流している相対的に温度の低い熱媒介物質とに別れ、その温度差が激しく、食材を加温する温度を安定的に維持することが難しい。それに比べて「間接的」な加温を行う場合には食材に接触する熱媒介物質の温度差が小さいため、食材を加温する温度を安定に維持することができる。また、間接的な加温であれば、例えば、一定の温度の熱(例えば、98℃の蒸気)を供給しながら、その供給を間欠的にすることによって、一定の温度での加温をすることが容易であり、熱媒介物質の温度を細かく制御ための複雑な機構が必要とならない。結果的に、コストの削減も達成され得る。他方、直接的な加温では、熱媒介物質を間欠的に供給する場合、供給している間と供給を停止している間とで、食材に直接的に接触する相対的に温度の高い熱媒介物質が存在するときと存在しない時で食材の加温の温度に大きな差が生じてしまい、食材の均一な加温が達成できないことがある。
【0093】
好ましい実施形態において、加温部410は、食材を間接的に加温する。中間温度帯での加温は制御が難しい。具体的には、加温が過剰になれば食材の細胞を破壊してしまって食味や食感が損なわれ、加温が不足すれば殺菌および灰汁の除去が不十分になる。そのため、本発明者らは、食材を直接的に加温するのではなく、加温部の中の食材が通過する領域の温度を均一に制御することによって、結果的に食材の均一な加温温度制御を達成した。
【0094】
例えば、原則的に温度の高い物質は密度が低くなり相対的に上へと移動するが、熱を媒介する物質を下向きに放出することにより、熱を媒介する物質の対流を引き起こすことができ、加温部内の温度を一定の範囲内に安定に保つことができる。
【0095】
好ましい実施形態においては、加温部410はさらに送風機構(例えば、ファン)を備える。このファンにより、食材付近の対流を常に発生させ、食材の接する温度を一定に保つことができる。加温部410における送風機構は、好ましくは、搬送部430に向けて風を送るのではなく、搬送部430ではない方向に風を送る。間接的な加温と同様に、風を食材に直接当てないことにより、搬送部430近傍での中間温度帯の制御を促進するためである。
【0096】
さらに、加温部410内の底面や上面の付近では、温度が安定しにくい可能性がある。したがって、加温部410内を貫通する搬送部430を、加温部410の上面と底面との間の中間部を通過するように構成すれば、温度が不安定になりやすい領域を避け、安定した温度の領域において均一に食材を加温することができる。
【0097】
加温機構411は、食材を、約45〜約90℃、好ましくは約50℃〜約85℃、より好ましくは約60℃〜約75℃に加温することができる。ただし、前処理(殺菌)部400において加温機構411によって加温する温度は食材や用途によって異なり、当業者が適切に決定することができる。なお、食材の加温は芯温を測定することによって確認され得る。
【0098】
加温機構411によって放出される熱の温度は、意図される食材の加温を達成できるものであればどのような温度であってもよいが、代表的には、放出される熱の温度は98℃であり得る。
【0099】
加温機構411は、中間温度帯での食材の加温を達成し得る任意の機構であってよく、蒸気供給部、マイクロミスト供給部、クラスターエアー供給部などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0100】
1つの実施形態において、熱媒介物質は蒸気であり、加温機構411は蒸気供給部であり得る。ただし、蒸気を用いて加温を行うと食材の表面に水滴が付着する場合がある。そのような水滴の付着を避けることが好ましい場合には、加温機構411は、マイクロミストまたはクラスターエアーのようなより小さな粒子径の水滴を含む熱媒介物質を用いて加温してもよい。
【0101】
図4に示すように、ある実施形態では、加温機構411は蒸気などの熱媒介物質を噴出させることによって食材を加温し得る。ある実施形態においては、加温機構411は98℃の熱媒介物質を噴出させることによって食材を加温する。上記のとおり、加温機構411は、噴出させた熱媒介物質熱媒介物質が間接的に食材を加温するように構成される。このような構成の一例は、
図4に示されるように、加温機構411が搬送部430の下部に備えられ、かつ、熱媒介物質の噴出孔が下方に向けられている構成が挙げられるが、これに限定されない。好ましくは、加温機構411は、熱媒介物質を継続的に噴出させるのではなく、噴出に間隔を設け、間欠的に噴出させる。ある実施形態において、噴出孔は、開閉することができる。さらなる実施形態では、噴出孔の開閉は、外部からの入力により、または自動で制御される。
【0102】
ある実施形態において、加温部410は、センサーを備える。例えば、センサーとしては、温度センサー、湿度センサーが挙げられる。センサーは、加温部410の内部の状態に関する情報を定量化し、送信する。加温部410の内部の状態に関する情報は、管理部に送信されてもよく、または、システムの別の部分(例えば、搬送部430、加温部410、冷却部420、第1の冷凍部100A、第2の冷凍部100B、または搬送部200)に送信されてもよい。センサーの位置は、限定されないが、好ましくは、加温部410を貫通する搬送部430の近傍に配置され得る。食材前処理(殺菌)部400においては、食材が通過する領域の温度を均一に保つことが重要であるから、搬送部430近傍の温度の測定値に従って加温機構411を制御することが有利であり得る。ある実施形態においては、加温部410内において、センサーは、搬送部430から約30cm以内、好ましくは約15cmの距離に存在する。
【0103】
ある実施形態においては、温度センサーによって加温機構411が間欠的に駆動される。例えば、搬送部430の近傍に設けられた温度センサーの測定値が規定の温度に達した際に蒸気などの熱媒介物質の噴出孔の蓋が閉まって熱媒介物質の排出が止まり、温度が下がれば再び熱媒介物質を噴出して、適切な割合で加温部内の空気と熱媒介物質との混合を行う事で加温部410内の温度を一定に保つことができる。
【0104】
加温機構411が蒸気供給部である場合、蒸気供給部の運転時には、内部温度を所定の温度域に維持するために、上述のセンサーで検出された内部の温度および/または湿度の値をもとに、加温機構411の外部に付随するボイラーや通水管、電源等を自動制御して、蒸気の温度と放出量が自動制御され得る。食材が加温部内にある時間は1分〜8分、好ましくは1分〜3分である。この時間は食材の熱伝導性とカットされた食材の大きさによって、適当に調節される。食材の表面は、上記内部温度にこのような時間で晒された結果、殺菌され得る。
【0105】
好ましくは、加温部410は、蒸気などの熱媒介物質が対流することができるように構成される。熱媒介物質が対流することによって、加温部410全体にわたっては温度にムラが存在したとしても、加温工程の間の食材の加温の程度を均一なものとすることができる。また、時間当たりに食材が接触する熱媒介物質の量を増加させることができ、高い温度を用いずに食材を速やかに所望の温度にすることができる。
【0106】
ある実施形態において、加温部410の底部は、蒸気などの熱媒介物質の対流を起こさせるような形状であり得る。そのような形状の一例は、
図4に示されるような底部の縁が斜めになるように加工された舟形であるが、これに限定されない。熱媒介物質の対流は、加温部410への搬入口、搬出口において、上下方向に対流することによって、加温部410内に冷たい外気が侵入することおよび/または加温部410内から温かい熱媒介物質が漏出するのを遮断する、いわばエアーカーテンとしての機能を有し得る。
【0107】
熱媒介物質(例えば、蒸気)は、90℃を超える高温であれば自ずから対流が発生するが、例えば、70℃前後の温度帯では発生する対流が緩やかであり、熱媒介物質を積極的に対流させる機構を用いることが望ましい場合がある。
【0108】
この熱媒介物質を積極的に対流させる機構として、加温部410は、好ましくは送風機構を有する。送風機構は加温部410内の熱媒介物質の対流を促進することができる。送風機構としては、シロッコファン、ターボファン、翼形ファン、横流ファンなどの送風機や空調機に用いられるものであればいずれも使用することができる。送風機構の構成は、その数、位置、方向などについて特に限定されるものではない。送風機構は、加温部410の上部にあってもよく、加温部410の側部にあってもよく、その両方にあってもよく、さらに別の位置にあってもよい。ある実施形態においては、送風機構が送風する方向は、食材に向かう方向であっても、食材に向かう方向でなくてもよい。好ましい実施形態においては、加温部410における送風機構が送風する方向は、食材に向かう方向ではない。送風機構による送風の強度は、十分に熱媒介物質を対流させることができれば限定されず、一定であっても、変化させることができてもよい。送風機構(好ましくはファン)の取り付け数、送風能力は加温部410の容量、食材の種類と処理量、食材の搬送速度などを勘案して適宜調節され得る。加温機構411の運転時には、内部の各部に取り付けられたセンサーによって加温部410内の温度と湿度とを随時検出し、加温部410内で温度と湿度とが均一となるようにファンの回転数と送風量を調節してもよい。
【0109】
ある実施形態において、加温部410は密閉されない。加温部410が密閉されると、熱で膨張した空気の圧力によって食材の細胞が破壊され得るからである。この場合、投入口、排出口に設けられた開放部が圧力弁の役割を果たし、熱媒介物質の対流がエアーカーテンの役割を果たし得る。
【0110】
加温部410における加温機構411は単一であっても複数であってもよい。ある実施形態では、加温機構411は、搬送部の搬送方向に沿って少なくとも2つの加温機構を含む。ある実施形態において、加温機構411は、蒸気などの熱媒介物質の噴出孔を備えたパイプである。このパイプは、複数であってよい。複数の加温機構の放出する熱量の大きさは異なってもよい。ある実施形態では、加温部410の入口に近い加温機構は、加温部410の出口に近い加温機構411よりも大きな熱量を放出する。ある実施形態では、加温部410は、搬送部の搬送方向に沿って少なくとも2つの加温機構を含み、加温部410の入口に近い加温機構は、加温部410の出口に近い加温機構よりも大量の熱媒介物質を放出することができる。ある実施形態では、加温機構411のパイプは、口径の異なる複数のパイプである。好ましくは、投入口に近いパイプの口径が、排出口に近いパイプの口径よりも大きい。そのような、加温部410の入り口に近い加温機構が、加温部410の出口に近い加温機構よりも大きな熱量を放出する構成によれば、加温部410に投入された低温の食材の所定の温度への加温がより促進され、所定の温度に到達した後はその所定の温度で維持され得、それによって、意図した所定の温度での食材の処理時間がより長く確保することができる。ある実施形態では、複数のパイプの噴出孔は、それぞれ開閉弁を備え、個々に制御され得る。
【0111】
一部の実施形態において、加温部410は、スチーム加温器である。一部の実施形態において、加温部410は、食材の搬送方向に沿って延長する蒸器であり、加温機構411は蒸器の内部壁に設けられた多数の小孔から蒸器内に熱媒介物質(蒸気、マイクロミスト、またはクラスターエアーなどが挙げられるが、これらに限定されない)を放出する。
【0112】
食材前処理(殺菌)部400のある実施形態においては、加温部410は、例えば、食材を45℃〜90℃での湿潤雰囲気下で1〜8分間加温するための部位であり、好ましくは搬送方向に沿って延長する蒸器である。加温部410の内部を搬送部430が貫通する。ある実施形態では、食材加工システム10において投入部と加温部410とは連続している。ある実施形態では、食材加工システム10の運転時には、搬送部430によって開口した加温部410に食材が連続的に搬入される。食材が加温部410の内部を通過する過程で、食材の温度は表面から上昇し、続いて中心部の温度も45℃〜90℃に上昇し、表面から中心部まで加温された状態が1〜8分間持続する。
【0113】
一部の実施形態では、加温部410の内部温度は食材の種類に応じて調節される.例えば、熱通りの悪い大型の食材片を加温する場合には比較的高温域に調整される。例えば、熱通りの良い小型の食材片を加温する場合には比較的低温域に調整される。加温部410の内部温度は45℃〜90℃、好ましくは50℃〜85℃、より好ましくは60℃〜80℃に保たれる。食材が加温部410内にある時間は1〜8分、好ましくは1分〜3分である。この時間は食材の熱伝導性と、切り分けられた食材の大きさによって、適切に調節され得る。食材が加温部410の内部を通過する過程で、食材の温度は表面から上昇し、続いて中心部の温度も45℃〜90℃に上昇し、表面から中心部まで加温された状態が1〜8分間、好ましくは1〜3分間持続する。加温部410の内部温度が45℃よりも低いと、食材の味覚向上、最終調理時間の短縮が期待できず、好ましくない。加温部410の内部温度が95℃を超えると、食材に煮る、焼く、揚げる、蒸すなどの通常の加熱調理が施された状態となって、新鮮な食材の風味が失われ、好ましくない。
【0114】
ある実施形態では、加温部410は、好ましくは、内部に霧状の蒸気などの熱媒介物質を発生して食材を加温する蒸器である。加温部の形状はこの搬送方向に沿った長形が好ましい。このような蒸器の内部壁に設けられた多数の小孔から蒸器内に熱媒介物質を放出し、連続移動する食材表面を均一に加温する。加湿と加温のために、このような蒸器にはボイラーや通水管、電源、温度センサー、湿度センサー等が付随する。蒸器内部の温度と湿度は、食材の種類と大きさによって最適値に設定される。熱媒介物質の湿度と放出量は、蒸器内部の湿度と温度の設定値と自動計測値に基づき、自動的に調整される。この自動調整を短時間で行うために、調整部に設けられた送風ファンも用いられる。
【0115】
食材が加温部410を出る部分(出口)も、加温部410の入口と同様に、食材加工システム10の運転時には開口している。食材は滞留することなく連続的に加温部410内を移動して、加温部410から冷却部420に排出される。
【0116】
(冷却部)
食材加工システム10は、食材を冷却する冷却機構を備える冷却部420を備える。冷却部420および冷却機構は、冷却部420内部を所望の温度に保つことができれば、その構成は限定されない。
【0117】
冷却部420は、限定されるものではないが、その内部を−10℃〜−40℃、−10℃〜−35℃、−10℃〜−30℃、−10℃〜−25℃、−10℃〜−20℃、−10℃〜−15℃またはそれより高い温度に保つことができる。
【0118】
冷却部420は、送風機構を備えていてもよい。送風機構としては、シロッコファン、ターボファン、翼形ファン、横流ファンなどの送風機や空調機に用いられるものであればいずれも使用することができる。送風機構の構成は、その数、位置、方向などについて特に限定されるものではない。送風機構は、冷却部420の上部にあってもよく、冷却部420の側部にあってもよく、その両方にあってもよく、さらに別の位置にあってもよい。冷却部420において送風機構が送風する方向は、食材に向かう方向であってもよいし、食材に向かう方向でなくてもよい。送風機構による送風の強度は、十分に食材を冷却することができれば限定されず、一定であっても、変化させることができてもよい。例えば、ある実施形態においては、冷却部420の側方に冷却機構があり、上部に送風機構(ファン)がある。
【0119】
好ましくは、冷却部420は、直接的に食材を冷却する。具体的には、冷却部420に備えられた送風機構(例えば、ファン)が食材に向けて送風する。これによって、食材の速やかな冷却が可能になる。これは、本発明において有利である。加温部410での加温によって殺菌された食材には、24℃〜37℃付近の温度において再度微生物の付着のリスクがあるが、直接的な冷却によって温度低下が速やかに行われるため、この温度帯に留まる時間が短縮されるからである。
【0120】
ある実施形態において、冷却部420は、センサーを備える。センサーは、冷却部420の内部の状態に関する情報を定量化し、送信する。冷却部420の内部の状態に関する情報は、管理部に送信されてもよく、または、システムの別の部分(例えば、搬送部430、加温部410、第1の冷凍部100A、第2の冷凍部100B、または搬送部200)に送信されてもよい。センサーとしては、温度センサー、湿度センサーが挙げられる。センサーの位置は、限定されないが、好ましくは、冷却部420を貫通する搬送部430の近傍に配置すれば、冷却される食材の温度を正確に測定することができ、システムの制御にとって有利であり得る。
【0121】
冷却部420は、例えば、一般的に用いられる冷凍機、フリーザーであってよく、形状としてトンネルフリーザーなどであってよい。
【0122】
ある実施形態において、冷却部420は、加温部410で加温処理を終えた食材を−10〜−40℃の温度下で2〜8分間冷却するための部位である。食材は滞留することなく、連続的に冷却部420内を移動して排出される。冷却部420で食材を急速に冷却するためには、冷却部420全体を温度調節が容易な冷却装置で覆う構造が好ましい。このような冷却装置としては、例えばトンネルフリーザーが用いられる。冷却部420の形状は食材の搬送方向に沿った長形が好ましい。このような冷却部420としていわゆるトンネルフリーザーが好ましい。冷却部420内の温度は、−10〜−40℃、好ましくは−10〜−20℃に保たれる。食材が冷却部420の中にある時間は、2〜8分、好ましくは2〜5分、さらに好ましくは2〜4分である。この時間は、食材の熱伝導性と、切り分けられた食材の大きさとによって、適当に調節され得る。食材が冷却部420を出る時には、食材の表面から中心部までの温度は、5℃〜−40℃、好ましくは2℃〜−20℃に低下している。
【0123】
食材加工システム10の食材前処理(殺菌)部400における冷却部420において冷蔵保管用の加工食品(いわゆる冷蔵食品。「チルド食品」を含む。)を製造する場合には、冷却部420の出口で食品の中心温度が約5℃以下、好ましくは約1℃〜約4℃、より好ましくは約2℃となるように冷却部420の温度を適宜調節する。
【0124】
(搬送部)
食材加工システム10の食材前処理(殺菌)部400は、加温部410および冷却部420を通って食材を搬送する搬送部430を備える。搬送部430の構成としては、食材を連続的に移動させる機能を有していれば、特に制限はされない。
【0125】
加温および/または冷却および/または冷凍を食材を移動させながら行うことは、大量の食材を均一な温度で画一的に加工するのに有利であり得る。例えば、食材が静止した状態で加工すると、加工を行う空間内の温度のムラによってそれぞれの加工温度に差が生じるが、食材の搬送方向に沿って食材を移動させながら加工することによって空間内の温度のムラによる食材ごとの差を無くすことができる。
【0126】
搬送部430は、好ましくは、一定の速度で、加温部410および冷却部420を通って食材を搬送する。また、ある実施形態において、搬送部430は、その一定の速度を調節する調節機構を有する。調節機構は、自動で一定の速度を調節することができてもよく、手動で設定された速度に速度を調節することができてもよく、または、その両方が可能であってよい。これにより、搬送部430は、食材が加温部410内部を所望の時間の間通過するように、食材を搬送するように構成されることが可能であり、食材が冷却部420内部を所望の時間の間通過するように、食材を搬送するように構成されることが可能である。ある実施形態において、搬送部430は、好ましくは、ベルトコンベアである。ある実施形態において、搬送部430は、貫通孔を有する。例えば、貫通孔を有する搬送部430は網目状のベルトコンベアなどであってよい。搬送部430は、複数であってよく、複数の搬送部430を並列させることによって、時間あたりに処理する食材の量を増加させ、本発明のシステムの処理能力を向上させることができる。食材の搬送は、食材を搬送部430に直接載せて行ってもよいし、食材を入れた容器を搬送部430によって搬送することによって行ってもよい。この場合、好ましくは、通気性のある容器が用いられる。通気性のある容器は、例えば、底面および/または側面に貫通孔を有する容器である。この容器は、例えば、底面および/または側面に、通気性のある網目状の部材を含む容器であり得る。搬送部430および/または容器に、貫通孔および/または網目状の部材を含めることによって、食材を均一な温度帯を通過させるだけでなく、食材ごとに熱を均等に作用させることができる。
【0127】
食材の搬送速度は毎分数メートル〜数十メートルの範囲で自在に設定できる。食材の芯温が適切な温度に上昇し、その温度が適切な時間維持された時点で食材が加温部410の出口に到達するように、食材の種類や大きさに応じた最適な搬送速度が決定され得る。また、搬送部430は、当該搬送速度で、冷却部420を通って食材を搬送してもよい。この場合、好ましくは、当該搬送速度によって冷却部420を食材が通過する時間に応じて、冷却温度、または冷却部の送風機構が調節される。
【0128】
一部の実施形態では、食材は搬送部430によって、投入部、加温部410、冷却部420、搬出部に、この順で連続的に移動する。搬送部430としてはベルトコンベアが好ましい。搬送部430の速度は、投入部に置かれる食材の各片の大きさ、食材の形状、加温部410の加温条件、冷却部420の冷却条件と連繋して、適切な値に自動調節され得る。
【0129】
本発明の食材加工システム10は、食材前処理(殺菌)部400の後で冷凍部100Aおよび冷凍部100Bを通って食材を搬送する搬送部200を備える。搬送部200は、搬送部430の構成と同様の構成を有し得る。搬送部200は、搬送部430に連結されているように構成されていてもよいし、搬送部430と離間していてもよい。
【0130】
例えば、ベルトコンベアなどの搬送部430および搬送部200を、洗浄・カットされた食材の投入部を始点に、食材の加温部410への搬入口、加温部410内部、加温部410に連結する冷却部の端部、もう一方の冷却部420の端部、冷却部420に連結する冷凍部100Aの端部、冷凍部100A内部、冷凍部100B内部、もう一方の冷凍部100Bの端部、冷凍部100Bの排出口まで、加温部410と冷却部420と冷凍部100Aと冷凍部100Bとを貫通するライン状に敷設すると、食材の洗浄・カットから殺菌処理・冷凍処理までを一体型プロセスで実行することができ、効率が良い。このような一体型プロセスでは、食材は加温部410ないし冷凍部100Bの内部を連続移動し、滞留することがない。その結果、単位時間あたりに一定量の食材を加工および/または殺菌処理および/または冷凍することができ、安定的で効率のよい食材加工および/または連続殺菌および/または冷凍加工が可能となる。
【0131】
(管理部)
食材冷凍システム1および/または食材加工システム10は、管理部を備えていてもよい。管理部は、食材冷凍システム1および/または食材加システム10の各構成要素から送信された情報を受信することができ、および/または、食材冷凍システム1の各構成要素に制御のための情報を送信することができる。管理部により、第1の冷凍部100Aおよび/または第2の冷凍部100Bおよび/または加温部410および/または冷却部420の内部の条件を監視し、これらの構成要素を制御することで、加工条件が想定と異なる条件(例えば、想定と異なる温度)になることを防ぐことができる。
【0132】
管理部は、食材冷凍システム1および/または食材加システム10と一体となっていてもよいし、離れた部分に設けることもできる。ある実施形態では、管理部は、受信した情報またはその情報から算出した情報を作業者に表示し、作業者の入力に従って、制御のための情報を食材冷凍システム1および/または食材加システム10の各構成要素に送信する。ある実施形態では、管理部は、受信した情報またはその情報から算出した情報を利用して、自動で制御のための情報を食材冷凍システム1および/または食材加システム10の各構成要素に送信する。
【0133】
食材冷凍システム1および/または食材加システム10が管理部を備える実施形態においては、例えば、食材冷凍システム1および/または食材加システム10の運転時に、好ましくは、各部位の条件(例えば、第1の冷凍部100Aの内部温度、第2の冷凍部100Bの内部温度、加温部410の内部温度、内部湿度、通水量、蒸気などの熱媒介物質放出量、冷却部420の内部温度など)が装置外部の管理部に送られる。管理部ではモニターなどで各データを監視できる。管理部のコンピュータで、予め登録された最適値と時々刻々入力される実測値との隔たりが算出、評価され、警告表示や各条件の調整などが自動的に行われる。したがって、装置付近と管理部に少数の人員を配置すれば、食材冷凍システム1および/または食材加システム10を24時間連続運転することができる。食材冷凍システム1および/または食材加システム10は熟練者を要さず運転できるため、システムの設置場所を問わず、均質な製品を大量に製造することができる。
【0134】
図5は、本発明の食材の製造方法のフローの一例を示す。以下、
図5に示される各ステップを説明する。
【0135】
ステップS001:前処理工程
ステップS001では、食材の前処理が行われる。前処理工程は、食材を洗浄する工程、および/または、食材を切断する工程を含む。食材の洗浄およびカットには、野菜、果物、魚、肉類の洗浄およびカットの一般的な方法を制限なく用いることができる。このように、食材冷凍システムの加温部410に提供される食材は、洗浄および/または切断されたものであり得る。なお、ステップS001は省略されてもよい。
【0136】
ある実施形態では、前処理工程において、比較的大きい食材を用いる場合には、食材から皮、種、骨などの非可食部分を取り除き、水洗いして、食材に応じた形状で、適度な大きさに食材をカットする。比較的小さい食材を用いる場合には、切らずに次の工程に用いる。食材が野菜の場合には、例えば、カット野菜と同様な形状にカットすることができる。ミニトマトやいちごは水洗いするだけでカットする必要は無い。大根やニンジンの場合には、千切り、短冊切り、いちょう切りのような、規則的な形状にカットすることもできる。もやしやきのこ、ベビーリ一フのような小型の野菜の場合は、非可食部分を取り除くことは好ましいが、小さくカットする必要は無い。洗浄と切り分けの順序、回数に、特に制限は無い。前処理工程の終了後に、ほこりや汚れ、非可食部分が完全に取り除かれ、食材に応じた適当な形状と大きさが完成されていれば、上記順序と回数には制限が無い。経済性や鮮度保持のためには、できるだけ短い時間で洗浄と切り分けを行うことが望ましい。
【0137】
前処理工程には、通常は、シャワーや水槽を用いた洗浄装置と、カッター、グラインダー、篩などを用いた切り分け装置とを用いる。これらの装置は、野菜、果物、きのこ類、魚、肉の加工設備で通常用いられている洗浄装置と切断装置を用いることができる。
【0138】
ステップS002:加温工程
ステップS002と次のステップS003とは、前処理(殺菌)部400にて行われる。
【0139】
ステップS002では、食材が加温される。食材を加温する工程は、食材を間接的に加温する工程であり得る。食材は、加温部410を通過する間、例えば、1〜8分、好ましくは1分〜3分の間加温される。加温する時間は、搬送部の速度を調節することによって変化させ得る。
【0140】
加温工程は、様々な加温時間と温度の組み合わせを取り得る。例えば、ある実施形態では、根菜類を75〜90℃で3〜7分間加温する。他の実施形態では、葉物類を、60〜75℃で1〜3分間加温する。さらに他の実施形態では、果菜類を45〜75℃で1〜3分間加温する。さらに別の実施形態では、動物性食材を75〜90℃で3〜8分間加温する。
【0141】
例えば、本発明の1つの実施形態において、加温工程は、洗浄・カットされた食材を、内部温度が45℃〜90℃の範囲にある所定の一定温度に保たれた加温部410の端部に搬送し、その後、スチーム加温器の内部に任意に取り付けられたファンによって対流を発生させ、それによって該食材の表面に送風しながらその食材を加温部410の内部で1分〜8分かけて搬送することによってその食材の温度を上昇させる。加温工程では、食材は外気に晒されることなく加温され得る。
【0142】
ステップS003:冷却工程
ステップS003では、食材が冷却される。好ましくは、食材を冷却する工程は、直接的に食材を冷却する工程である。
【0143】
一部の実施形態では、好ましくは、冷却部420は送風機構を備え、送風機構を用いて冷気を食材に当てることによって、加温された食材を速やかに冷却する。これにより、食材の表面と内部を、細菌増殖が抑制された状態に維持することが可能である。冷却する過程で細菌の増殖しやすい温度帯(例えば、約20〜40℃)を通過するため、速やかに食材を冷却し、例えば、チルド帯(例えば、約2℃)にまで冷却することが望ましい。
【0144】
食材は、冷却部420を通過する間(例えば、約2〜8分、好ましくは約2分〜5分、さらに好ましくは約2分〜約4分の間)冷却される。代表的な実施形態において、加温工程の加温時間の調節のために設定された搬送速度に応じて、冷却部420の長さを変化させることによって冷却時間を調節するか、または十分に食材が冷却されるように冷却部420の温度または送風機構の送風強度を設定することができる。他の実施形態において、冷却時間は、搬送部の速度を調節することによって変化させ得る。
【0145】
冷却部420の内部の温度は、限定されるものではないが、約−10℃〜約−40℃、約−10℃〜約−35℃、約−10℃〜約−30℃などであり得る。また、理論に束縛されるものではないが、冷却工程終了時の食材の温度が約10℃を超える場合、その後の作業中に細菌が増殖する危険性が生じる場合がある。冷却工程直後の食材の温度は、限定されるものではないが、好ましくは約5℃以下、さらに好ましくは約1℃〜約4℃、より好ましくは約2℃である。
【0146】
ある実施形態において、食材が冷却部420の中にある時間は約2〜約8分、好ましくは約2〜約5分、さらに好ましくは約2〜約4分である。冷却時間は、食材の熱伝導性と、切り分けられた食材の大きさとによって、適当に調節される。食材が冷却部420を出る時には、食材の表面から中心部までの温度は、約5℃〜約−40℃、好ましくは約2℃〜約−20℃に低下している。このような温度と時間の設定によって、冷却工程では食材全体の温度が微生物の繁殖が困難な低温域に急速に低下し、そのような低温域で保持される。
【0147】
1つの実施形態では、冷却工程は、加温工程を終えた食材を外気にさらすことなく内部温度が約−10℃〜約−40℃の範囲にある所定温度に保たれた冷却部420の端部に搬送し、その後、その食材を冷却部420の内部で約2分〜約8分かけて搬送することによってその食材を冷却する、急速冷却工程であり得る。冷却工程においても、食材は外気に晒されることなく冷却される。
【0148】
加温工程から冷却工程までをできる限り短い時間で行うことによって、食材加工中の食材表面での細菌繁殖や、食材内部の変質を抑えることができる。なお、冷却工程は必ずしも必須ではなく、中間温度帯での加温後に直ちに以下の冷凍工程に移ってもよい。
【0149】
ステップS004:冷凍工程
ステップS004は、食材冷凍システム1において行われる。
【0150】
ステップS004では、食材が急速に(約5〜約6分で)冷凍される。好ましくは、食材を冷凍する工程は、直接的に食材を冷凍する工程である。
【0151】
一部の実施形態では、好ましくは、冷凍部は送風機構を備え、送風機構を用いて冷気を食材に当てることによって、冷却された食材を速やかに冷凍する。これにより、冷却された食材の表面と内部を、細菌増殖が抑制された状態を維持して長期保存することが可能である。
【0152】
食材は、第1の冷凍部100Aおよび第2の冷凍部100Bを通過する間(例えば、約6分以下、好ましくは約4〜約6分、さらに好ましくは約5〜約6分の間)急速冷凍される。代表的な実施形態において、加温工程の加温時間の調節のために設定された搬送速度、および、冷却工程の冷却時間の調節のために設定された搬送速度に応じて、冷凍部100Aおよび冷凍部100Bの長さをそれぞれ変化させることによって冷凍時間を調節するか、または、十分に食材が急速冷凍されるように第1の冷凍部100Aおよび第2の冷凍部100Bの温度または送風機構の送風強度を設定することができる。他の実施形態において、冷凍時間は、搬送部の速度を調節することによって変化させ得る。
【0153】
冷凍工程において、食材は、様々な冷凍条件下で冷凍され得る。冷凍条件は、例えば、第1の冷凍部100Aおよび第2の冷凍部100Bの形状、大きさ(長さ)、数、内部の温度、送風機構の送風強度、送風機構の送風の向き、エアーカーテン生成機構の有無(またはエアーカーテン生成機構の数)、エアーカーテン生成機構の送風強度、食材の種類、食材の大きさ、食材の熱伝導性、食材の水分量に関連する。本発明は、細胞膜を有する食材を、細胞膜を壊さずに冷凍するための冷凍技術に関するものである。したがって、細胞膜が破壊されていない食材原体(採取しただけの「生の」野菜や魚介類、肉類)や、
図4に示すように細胞膜を破壊せずに加工処理した食材は本発明の冷凍技術の恩恵を受けるが、加工工程で細胞膜を破壊する処理を行った一般的な加工食品には優位性が無い。ここで、細胞膜を破壊する処理としては、例えば、ブランチングによる加熱殺菌処理である。ブランチングは青果などに対して熱湯、または高温蒸気を用いて加熱殺菌処理するものであって、処理温度が細胞膜を破壊する温度帯である為に冷凍加工の以前の処理で細胞膜が破壊される。従って、冷凍加工段階で本発明の食材冷凍システムによって細胞膜を担保する加工が行えたとしてもその効果の有意性が大きく損なわれる。冷凍条件は、冷凍工程前の各工程に依存して(例えば、加温工程における加温条件、および/または、冷却工程における冷却条件に応じて)変更されるものであってもよい。
【0154】
例えば、食材は、食材の種類などにかかわらず、画一的な冷凍条件下で冷凍され得る。これにより、冷凍条件を変更する手間が省かれ、時間的に効率良く冷凍工程を実施することが可能である。あるいは、例えば、食材は、食材の種類ごとに異なる冷凍条件下で冷凍され得る。これにより、食材の種類にマッチした冷凍手法をとることが可能であり、画一的な冷凍条件下の場合よりも高品質な冷凍食材を提供することが可能である。
【0155】
食材前処理(殺菌)部400では、食材に対して、保水材や増粘材などの処理剤による化学的処理、圧縮、押圧などの物理的処理を行わず、加温部410で比較的緩やかな条件で食材を処理するにすぎない。しかしながら驚くべきことに、この加温処理により、食材の品質が向上する。第一に、加温部410において一定時間45℃〜90℃の温度に保たれることで、果物や野菜に含まれる酵素が失活し、食材の自己劣化・自己分解が抑えられる。このため、野菜や果物を食材前処理(殺菌)部400で処理したものを常温で数日以上保管しても、変色、形崩れ、果汁や野菜汁の流出が抑えられ、良い食感が維持される。これに対して、市販の新鮮な野菜や果物を数日室温保管すれば、変色、形崩れ、果汁や野菜汁の流出が起こり易くなり生食には適さなくなる。
【0156】
このように、食材前処理(殺菌)部400では食材の内容物の流出や食品の乾燥が抑えられるため、食材原料から最終加工食品に至る歩留まりが良い。従来の、熱湯や熱風を用いた高温調理を行った惣菜や乾燥野菜の製造に比べ、食材前処理(殺菌)部400の搬出部で得られる加工食品は、食材原料から最終加工食品に至る歩留まりが10%以上向上することが経験的に明らかとなっている。
【0157】
加温部410では比較的低温で食材を処理することにより、新鮮な食材の組織が変質せず、新鮮食材に特有の硬さや軟らかさが維持される。加温部410における処理により、食材に含まれる雑味成分(いわゆる灰汁)が除かれる点は注目に値する。このため、食材が生で食べられる野菜や果物の場合には、生野菜の食感と濃厚な味を兼ね備えた、新鮮味のある加工野菜が提供される。このような加工野菜は、従来のカット野菜にもカットフル一ツにも無い品質を有する。食材が海産物やきのこなどの旨味や香りが豊富な食材の場合には、食材の旨味や香りがより濃厚になる、新鮮な食材の滑らかな舌触りが維持されるといった効果がある。
【0158】
本発明の食材冷凍システムでは、食材前処理(殺菌)部400によって加工されることにより上記の優れた状態を維持したこのような食材を上記の様々な冷凍条件下で急速冷凍することにより、食材の上記優れた状態を損なうことなく、むしろその優れた状態を長期的に維持させることが可能である。これにより、食材の廃棄処分量を大幅に低減することが可能であり、消費者は、より低コストでより優れた状態の食材を食すことが可能である。
【0159】
驚くべきことに、食材の中間温度帯での前処理(45℃〜90℃)を行わないで冷凍処理をした場合、急速冷凍したとしても細胞膜の破壊は発生し得ることを本発明者は確認した。理論に拘束されることを意図しないが、冷凍処理を行う前に食材の中間温度帯での前処理(45℃〜90℃)を行うことによって、食材の細胞膜が熱に対する耐性を有するように変化したものと考えられる。
【0160】
従来技術の冷凍食材であれば、冷凍・解凍の間の細胞組織の破壊によって、解凍後には、食材の栄養素は、重量で40%以下になるのが平均であった。他方、本発明の冷凍技術を用いることにより、解凍後も細胞膜を破壊せずに、食材が本来有する成分や栄養素はそのまま維持するため、食糧備蓄が60%向上するとみなすことができる。昨今、食糧危機の問題に直面しているところ、本発明は、このような食糧危機に対する解決策をも提供し得るものである。
【0161】
(食材)
本発明の冷凍システムのために好ましい食材は、例えば、カット野菜やカットフルーツであり得る。例えば、本発明の冷凍システムのために好ましい食材は、ブロッコリー、カリフラワー、ホウレン草、ニンジン、ジャガイモ、蓮根、キャベツ、白菜、Mトマト等の野菜類、パイナップル、マンゴー、リンゴ等の果実類、鶏肉、豚肉、牛肉等の肉類、蟹、海老、ホタテ等の魚介類である。ただし、煮る、焼く、茹でるなどの加工を施された食材、およびブランチングなどの加熱前処理(本発明の前処理(殺菌)部での処理は除く)を施された食材は、既に細胞が破壊されており、そのような食材については本発明の冷凍システムを用いて食材の細胞を破壊しないように配慮する意味が小さくなる。例えば、本発明の冷凍システムのために好ましい食材の状態は、本発明の前処理(殺菌)部での処理が施された食材(細胞が破壊されていない食材)、または煮る、焼く、茹でるなどの加工が施されていない食材である。他方で、上記のような中間温度帯での処理では細胞膜が破壊されておらず、本発明の冷凍処理の利益を享受できる。
【0162】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0163】
(実施例1)
野菜(ブロッコリー、カリフラワー、ホウレン草、人参等)を所定の大きさにカットし、その後、本発明の食材前処理(殺菌)部(
図4)で前処理を行った。これら前処理を行ったカット野菜を本発明の食材冷凍システムを用いて冷凍したものと、従来の冷凍方法で冷凍したものとにおいて、解凍した際の状態について比較した。比較した結果を表1に示す。
【0164】
【表1】
【0165】
表1に示すように、本発明の食材冷凍システムで加工した野菜は、解凍した際の離水(成分流出)もなく、冷凍前の野菜特有の歯触りなどの食感および食味を維持していた。それに対して、従来の冷凍方法で加工した野菜は、いずれも解凍した際の離水(成分流出)が生じ、食感および食味が劣化していた。
【0166】
液体窒素による冷凍は、処理温度(約−196℃)が非常に低いため食材の持つ繊維の収縮と水分の膨張する関係の整合性が得られず細胞膜の破損が生じてしまうものと考えられる。冷凍フリーザー、IGFなどの冷凍においては、食材の中心温度を−5℃にするために長い時間(約10分以上)必要となるため、食材表面と食材中芯部での温度状態が異なり、細胞膜内の氷結質量の増加を抑制することができない。その結果、食材表面に対して食材中芯部での細胞膜の破損が激しく、解凍時に離水(成分流出)を引き起こしたものと考える。
【0167】
(実施例2)
種々の処理を行ったブロッコリーの細胞組織を、岡山工業試験場において、プレパラートに薄くスライスした食材を並列に並べ、染色液を1滴食材に添加し、透明なガラス板で蓋をして顕微鏡で観察した。
【0168】
まず、未処理の生のブロッコリーの500倍顕微鏡写真を
図12Aに示す。細胞組織が破壊されずにしっかり残っていることがわかる。
【0169】
本発明の食材前処理(殺菌)部(
図4)で中間温度帯での前処理(約88℃)を行ったあとのブロッコリーの500倍顕微鏡写真を
図12Bに示す。十分に細胞組織が破壊されずに残っていることが、細胞膜の形状から確認できた。
【0170】
次に、
図12Bに示す組織を−60℃5分で冷凍(ランダムに送風口より冷風が吹き出す様式)したのちに解凍したブロッコリーの500倍顕微鏡写真を
図12Cに示す。驚くべきことに、十分に細胞組織が破壊されずに残っていることが細胞膜の形状から確認できた。
【0171】
比較として、
図12Bに示す組織を−35℃〜−45℃で15分〜20分かけて冷凍したのちに解凍したブロッコリーの500倍顕微鏡写真を
図12Dに示す。
図12Cとは異なり、繊維方向の細胞のみが破壊されずに残り、他は破壊されていることがわかる。
【0172】
なお、中間温度帯での前処理を行っていない食材においては、−60℃5分で冷凍したとしても、細胞組織の破壊が確認でき(図示せず)、
図12Cのような結果にはならなかった。理論に拘束されることを意図しないが、本発明の中間温度帯での前処理を行うことによって、細胞組織が熱に対する耐性を有するように構造に何等かの変化が起こり、それと−60℃以下5分以内という冷凍とが組み合わされることによって、解凍後にも細胞組織が破壊されずに残るという優れた冷凍技術が生み出されたと考えられる。