特許第6952380号(P6952380)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6952380
(24)【登録日】2021年9月30日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】移動体
(51)【国際特許分類】
   B64C 39/02 20060101AFI20211011BHJP
   B64D 1/10 20060101ALI20211011BHJP
   B64D 1/12 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
   B64C39/02
   B64D1/10
   B64D1/12
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-559009(P2020-559009)
(86)(22)【出願日】2020年8月11日
(86)【国際出願番号】JP2020030536
【審査請求日】2021年5月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517331376
【氏名又は名称】株式会社エアロネクスト
(72)【発明者】
【氏名】鈴木陽一
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−171291(JP,A)
【文献】 特開2015−117003(JP,A)
【文献】 特表2020−524106(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2019/0127052(US,A1)
【文献】 特開2016−120907(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第109249767(CN,A)
【文献】 特開2001−039397(JP,A)
【文献】 特開2015−001450(JP,A)
【文献】 特開2012−140038(JP,A)
【文献】 特表2017−506108(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0167743(US,A1)
【文献】 国際公開第2018/066043(WO,A1)
【文献】 特許第6664822(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64C 39/02
B64D 1/10
B64D 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピッチ方向に回動する回動部を有し、運搬対象物を載置面に載置して格納する運搬部の側方面の中央よりも下方である重心近傍を側方から、当該運搬部を略水平に保持する保持機構を備え、
前記保持機構は、アクティブ制御により前記運搬部が略水平の姿勢を保つように保持する移動体。
【請求項2】
前記保持機構は、ピッチ方向のみに回動する1軸の回動部のみを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
前記保持機構は、ピッチ方向及びロール方向に回動する2軸の回動部を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の移動体。
【請求項4】
前記2軸の回動部は、ピッチ方向の回動軸とロール方向の回動軸が交わらない、ことを特徴とする請求項3に記載の移動体。
【請求項5】
前記2軸の回動部は、ピッチ方向の回動軸がロール方向の回動軸よりも下方に位置する、ことを特徴とする請求項4に記載の移動体。
【請求項6】
前記2軸の回動部は、ピッチ方向の回動軸がロール方向の回動軸よりも上方に位置する、ことを特徴とする請求項4に記載の移動体。
【請求項7】
前記保持機構は、切り離し機構、または、取り外し機構を有する、ことを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の移動体。
【請求項8】
前記移動体の本体は、ピッチ方向に前傾した際に前記本体が前記運搬部に当たらないように、前記本体の前方形状を後方形状と異ならせて設けられた運搬部可動領域を有する、ことを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の移動体。
【請求項9】
前記移動体は、複数の回転翼をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の移動体。
【請求項10】
前記移動体は、陸上を走行するための構成をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の移動体。
【請求項11】
前記移動体は、水上を走行するための構成をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ドローン(Drone)や無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)などの飛行体(以下、「飛行体」と総称する)を用いる宅配サービスの実用化に向けた研究や実証実験が進められている。このような状況を鑑みて、特許文献1においては、運搬物を把持可能な飛行体が開示されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、様々な大きさの運搬物を安定的に把持することが可能な把持機構及び運搬物搬送装置を提供する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020−089941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、飛行体に取り付けることで、様々な大きさの運搬物を安定して把持し、運搬可能とする把持機構を提供すること可能となっている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の把持機構では、飛行時の移動にともなう運搬物の傾きは考慮されておらず、運搬物の姿勢は飛行体の前進時の姿勢の変動に伴い不安定となる。運搬物の把持機構は、大きさだけでなく、用途も様々となる運搬物が想定されるであることが望ましい。
【0007】
そこで、本発明は、移動体の前進時の傾きが運搬物に影響せず、運搬物の姿勢を安定した状態で運搬可能な移動体を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、ピッチ方向に回動する回動部を有し、運搬対象物を格納可能な運搬部の重心近傍または重心よりも上方を側方から略水平に保持する保持機構を備える移動体を提供することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、運搬対象物の姿勢を安定した状態で運搬可能な移動体を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明による飛行体100を側面から見た概念図である。
図2図1の飛行体100の他の側面図である。
図3図1の飛行体100の正面図である。
図4図1の飛行体100の前進中の図である。
図5図1の飛行体100の底面図である。
図6】本発明による飛行体100の別の正面図である。
図7図6の飛行体100の保持機構が運搬部を保持する時の図である。
図8図7の保持機構が運搬部の保持を保持しない時の図である。
図9図7の保持機構から運搬部が切り離された時の図である。
図10】従来の飛行体を側面から見た概念図である。
図11図10の飛行体の前進中の図である。
図12】本発明による飛行体100の保持機構としてサーボを備えた時の側面図である。
図13】本発明による飛行体100の保持機構としてサーボを備えた時の他の側面図である。
図14】本発明による飛行体100を側面から見た他の概念図である。
図15図12の飛行体100の正面図である。
図16】本発明による飛行体100が回動軸を1軸備える場合と2軸備える場合の比較の正面図である。
図17】本発明による飛行体100であって、回動軸を2軸備える飛行体を正面から見た概念図である。
図18図14の飛行体100の側面図である。
図19】本発明による飛行体100であって、回動軸を2軸備える飛行体を正面から見た他の概念図である。
図20】飛行体100の機能ブロック図である。
図21】本発明による移動体200を側面から見た概念図である。
図22図21の移動体200がピッチ方向に傾く時の正面図である。
図23図21の移動体200がロール方向に傾く時の正面図である。
図24】本発明による移動体200であって、回動軸を2軸備える移動体を側面から見た概念図である。
図25図24の移動体200の正面図である。
図26図24の移動体200がピッチ方向に傾く時の搭載部位置を示す側面図である。
図27図21の移動体200がピッチ方向に傾く時の搭載部位置を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態の内容を列記して説明する。本発明の実施の形態による移動体は、以下のような構成を備える。
[項目1]
ピッチ方向に回動する回動部を有し、運搬対象物を格納可能な運搬部の重心近傍または重心よりも上方を側方から略水平に保持する保持機構を備える移動体。
[項目2]
前記保持機構は、ピッチ方向のみに回動する1軸の回動部を有する、ことを特徴とする項目1に記載の移動体。
[項目3]
前記保持機構は、アクティブ制御により前記運搬部を略水平に保持する、ことを特徴とする項目1または項目2のいずれか一項に記載の移動体。
[項目4]
前記保持機構は、前記運搬部の側方面の中央よりも下方を保持する、ことを特徴とする項目3に記載の移動体。
[項目5]
前記保持機構は、パッシブ制御により前記運搬部を略水平に保持する、ことを特徴とする項目1または項目2のいずれか一項に記載の移動体。
[項目6]
前記保持機構は、前記運搬部の側方面の中央、または、中央より上方を保持する、ことを特徴とする項目5に記載の移動体。
[項目7]
前記保持機構は、ピッチ方向及びロール方向に回動する2軸の回動部を有する、ことを特徴とする項目1に記載の移動体。
[項目8]
前記2軸の回動部は、ピッチ方向の回動軸とロール方向の回動軸が交わらない、ことを特徴とする項目7に記載の移動体。
[項目9]
前記2軸の回動部は、ピッチ方向の回動軸がロール方向の回動軸よりも下方に位置する、ことを特徴とする項目8に記載の移動体。
[項目10]
前記2軸の回動部は、ピッチ方向の回動軸がロール方向の回動軸よりも上方に位置する、ことを特徴とする項目8に記載の移動体。
[項目11]
前記保持機構は、切り離し機構、または、取り外し機構を有する、ことを特徴とする項目1乃至項目10のいずれか一項に記載の移動体。
[項目12]
前記移動体の本体は、運搬物可動領域を有する、ことを特徴とする項目1乃至項目11のいずれか一項に記載の移動体。
【0012】
<本発明による実施形態の詳細>
以下、本発明の実施の形態による移動体について、図面を参照しながら説明する。添付図面において、同一または類似の要素には同一または類似の参照符号及び名称が付され、各実施形態の説明において同一または類似の要素に関する重複する説明は省略することがある。また、各実施形態で示される特徴は、互いに矛盾しない限り他の実施形態にも適用可能である。
【0013】
<第1の実施の形態の詳細>
図1乃至図9に示されるように、本発明の実施の形態による飛行体100は、飛行体100に保持する運搬対象物11または運搬対象物11を内包する容器(以下、いずれも運搬部10と総称する。)が意図しない落下をしないよう、少なくとも2点で保持することが可能である保持機構20を備えており、運搬部10を機体に搭載し、目的の地点まで運ぶことができる。
【0014】
保持機構20は、回動部21、接続部23を含み、その一部を飛行体100に接続し、また、別の一部を回動部21を介して接続部23により運搬部10の側方に接続するよう設けられる。保持箇所を2点有する保持機構20は、例えば、運搬部10が略直方体の場合、向かい合う側面を夫々1点ずつ保持するほか、例えば図1−3に記載の運搬部10をXY平面で45度回転させたように、向かい合う垂直な辺を夫々1点ずつ保持することも可能である。
【0015】
保持機構20による運搬部10の保持構成(すなわち、接続部23の構成)は、ねじや金具による固定の他、針やフォーク状突起の突き刺し、永久磁石や電磁石の磁力による吸着、吸盤やバキュームパッドを用いた真空吸着、クランプ締め具などによる保持等がある。また、保持機構20は、さらに底面及び当該底面の周囲を囲う壁を有する置き場を備え、運搬部10を当該置き場に置き、当該置き場の壁を上述の保持方法により間接的に保持するような構成であってもよい。
【0016】
保持機構20は、所定の状況で運搬部10を飛行体から分離可能であるものが望ましく、例えば、運搬部10を保持機構20から切り離す機構であってもよい。また、運搬部10が運搬対象物11を内包する容器である場合は、当該容器の少なくとも一部を開口させ、運搬対象物11を取り出し可能とする機構であってもよい。これらの機構は、運搬対象物11の運搬に好適である。
【0017】
より具体的な例としては、運搬部10が、例えば運搬対象物11である商品と、商品を内包する段ボール箱であった場合などの、運搬部10全てが運搬先に届けられる必要があるパターンでは、上述の接続方法や他の既知の方法により取り付けた運搬部10を飛行体100から切り離す、または、取り外すための離間機構が設けられていることが望ましい。
【0018】
他の具体的としては、運搬部10が、例えば運搬対象物11である商品と、商品を内容する専用容器であった場合は、図8乃至図11に示すように、保持機構20が備える接続部23と運搬部10が備える穴部12が嵌合することにより、運搬部10が意図せず落下しないよう接続することが可能である。この保持機構20が備える接続部23を、運搬部10が備える穴部12から外れるように可動する離間機構が設けられていることが望ましい。なお、穴部12は、どのような形状であってもよく、例えば、点形状であってもよいし、Y軸方向に延伸する線形状であってもよい。
【0019】
離間機構は、運搬部10を飛行体100から切り離す、または、取り外すことができる構造であればどのような構造であってもよく、既知の構造であってよいが、例えば、保持機構20を移動可能な機械的機構であってもよい。より具体的には、ネジや歯車、アクチュエータなどを有するスライド機構等により運搬部10の側方(X軸方向)からの押圧を緩める構成や、通電を止めるなどして押圧力または吸着力を弱める構成などであってもよい。その他の具体例としては、保持機構20の素材の弾性などによりX軸方向に広げて穴部12から接続部23を外す構成などであってもよい。
【0020】
特に、保持機構20が電気的な制御による遠隔離間制御可能な離間機構を備えることによって、運搬部10または運搬対象物11を受け取るためにユーザーが機体に近付いたり、触れたりする必要がなくなる。これにより、運搬対象物11を受け取るユーザーは、容易かつ安全に飛行体100による運搬サービスを利用することが可能となる。
【0021】
ここで、従来の飛行体における運搬部10について説明する。図10及び図11に示されるように、複数の回転翼を有する飛行体100は進行時に機体の傾きが発生する。この傾きは、特に高速で飛行させる場合に顕著である。
【0022】
したがって、従来の飛行体における運搬部10が、形状が崩れやすいものや傾きに弱いもの(例えば、食品や精密な製品、攪拌を避けるべき液体など)を含む場合、ユーザーは、前進時の飛行体100の傾きが運搬部10に影響しないよう飛行させる必要があり、高速で飛行させることが困難であった。
【0023】
そのほか、図11に示されるように、飛行体100が前進姿勢になる際、運搬部10も同様に傾くことで進行方向からの空気抵抗が増加する懸念があった。
【0024】
そこで、本実施形態の飛行体100における運搬部10は、回動部21を含む保持機構20を備えている。回動部21は、図3及び図4に示されるように、運搬部10に対して飛行体100の進行時における傾きが与える影響を減少させるため、回動軸22aに沿ってピッチ方向に回動可能である。
【0025】
回動部21の回動可能角度は、飛行体100の飛行方法により変更してもよい。例えば、前進時の傾きに合わせて回動可能角度を変更したり、さらに後進可能とする場合には回転可能角度を+Y方向にも広げるように変更したりしてもよい。
【0026】
ただし、回転可能角度を広げることで、保持機構20にサーボ等が備えられている場合には当該サーボ等が大きくなり重量が増量し得る。また、運搬部10の保持位置が高い(飛行体100に近い)場合には、飛行体100が傾いても運搬部10が衝突しないように可動空間を検討する必要が生じるが、後進可能とする場合には上述のとおり+Y方向にも回転可能とするため、当該可動空間を後方にも設ける必要が生じる。したがって、回動角度を制限する(さらには運搬時の進行方向を制限する)ことで、不要な回動域を持たず、保持機構20の軽量化及び飛行体100形状の制約低減を図ることが可能となる。
【0027】
運搬部10が略直方体の場合に、上述のように向かい合う垂直な辺を夫々1点ずつ保持すると、向かい合う側面を夫々1点ずつ保持するときよりも保持機構や接続部材は複雑となり得るが、運搬部10の角部が前方に向くように保持されるため、飛行体前進時の空気抵抗を減少させ、飛行効率の上昇が期待できる。
【0028】
運搬部10は、保持機構20が備えるサーボやジンバルモーター等のアクティブ制御手段によって、ピッチ方向における所定の姿勢(例えば、略水平)に保たれるよう制御することが可能である。より具体的には、例えば、図12に示されるようにサーボ40を設け、サーボ40のサーボ回動軸43が回動部21となるように配置するようにしてもよいし、図13に示されるようにサーボ40だけでなくサーボホーン41及びロッド42を設けるようにしてもよい。さらには、図13に例示される構成に加えて、ロッド42にダンパーを設けることがより好ましい。
【0029】
運搬対象物11は、特段の加工をしない限り、重力に従い運搬部10の下方に集まる。また、運搬部10の上面視において、X方向またはY方向、及びXY両方向に運搬対象物11の位置が片寄る場合には、運搬部10の重心もXY方向に偏りが生じる。運搬部10の重心の偏りは、上述の所定の姿勢を保つための制御手段への負荷につながるため、運搬対象物11はXY方向において中心に集まるように搭載することが好ましい。
【0030】
制御手段にサーボやジンバルモーターを用いる場合には、運搬部10の重心の偏りによる生じる過負荷によりサーボが脱調して正常な制御ができなくなったり、ジンバルモーターの作動範囲を上回り、制御が不可能となったりする危険が伴う。また、制御不可能な状態に陥らないまでも、制御手段が使用するエネルギーを増加させ、効率を低下させたり、制御手段の消耗を早める原因となったりする。
【0031】
制御手段を安全且つ効率よく運用するには、保持機構20が備える回動部21の回動軸22aを、運搬部10の重心と近付けることが望ましく、更に、図1−3に示されるように、回動軸22aの位置と搭載部の重心とを実質的に一致させる場合には、制御手段への負荷は最も軽減される。
【0032】
ここで、前述したように、運搬対象物11は、特段の加工をしない限り、重力に従い運搬部10の下方に集まる。そのため、多くの場合、運搬部10の重心は、運搬部10を側面視した際、中央より下方にあると推測される。つまり、回動部21の回動軸22aは運搬部10の側面視において、中央より下方とするのがよい。
【0033】
実務上、回動軸22aの位置と運搬部10の重心とを常に一致させることは煩雑であるため、予め回動部21の回動軸22aを、図1乃至図3等に示されるように、運搬部10の側面視において中央より下方の位置に設けておくことで、一般的な運搬部10において、回動軸22aを運搬部10の重心と近付けることを可能とする。
【0034】
これにより、回動軸22aは運搬部10の重心に近づくため、制御手段にかかる負荷は軽減する。そして、従来の位置で接続した場合に比較して、制御不可状態となることを防いだり、制御手段が使用するエネルギーを抑えたりすることが可能となる。
【0035】
また、保持機構20が運搬部10の姿勢を制御するために、サーボやジンバルモーター等を持たないパッシブ制御の場合、保持機構20は更に単純化され、コストや故障率も低下することができる。より具体的には、例えば、図14及び図15に示されるように、保持機構20は、飛行体100に接続されるアーム部24と、飛行体100の傾きと独立して運搬部10を揺動可能にする回動部21と、アーム部に設けられ運搬部10を保持する保持構成(具体例は上述のため図面にて省略)を備えている。飛行体100とアーム部24は、運用中に意図せず切り離されることが無いよう、互いにネジ止めや溶接等により固定される。また、機体推進用のプロペラやモータなどが接続されるフレームと一体に成型されていてもよい。
【0036】
アーム部24は、運搬部10の加重に耐え得る強度を持ち、且つ、軽量であることが望ましい。例えば、樹脂や金属、FRPなどのプレートやパイプ等を選択して使用することが可能である。
【0037】
ここで、保持機構20を単純かつ低コストとなる構成とする場合は、回動部21と運搬部10の保持構成による保持位置を一致させる。アーム部24と運搬部10に夫々軸を通すための穴部を設け、ネジやシャフト等の軸部を通すことで回動軸22aにより回動が可能となる。また、アーム部24に予め軸部となる略円柱状の突起部が設けられている場合には、運搬部10にのみ軸部を通す穴部を設けることでも回動が可能となる。なお、アーム部24と運搬部10の関係を逆転させ、運搬部10に突起部を設け、アーム部24に穴部を設けることとしても同様の動作が可能である。
【0038】
さらに好ましくは、上述の穴部の内部に軸受け部を設けることで、より正確且つ滑らかに回動させることが可能となる。軸受け部には、一般的にボールベアリング、オイレスブッシュ、スリーブベアリング等が用いられるが、用途や環境に応じて選択されるべきであり、この限りではない。また、穴部に挿入する軸部は、金属または樹脂製のネジやシャフトを用いることができる。
【0039】
回動部21と保持位置を別の位置に設ける場合には、例えば図7等に示されるように穴部等を有する連結部材を介して運搬部10を保持する保持機構20とすることで、運搬部10に回動用の穴部等を設ける必要がない。例えば、段ボール箱等の配送商品そのものが運搬部10となる場合には、箱に穴を開けずに回動が可能となるため、保持機構20の保持構成も穴をあける必要がない構成とすることで、配送商品を傷つけることがないため、防水・防塵の観点や、段ボール箱の品質保持の観点から好適となる。
【0040】
このように、サーボやジンバルモーター等を持たない保持機構20を用いる場合、運搬部10は、自重を利用してピッチ方向に回動し、運搬部10自身の姿勢を保つこととなる。そのため、図14及び図15に示されるように、保持機構20が備える回動部21の回動軸22aを、運搬部10の重心より上方に設けることが好ましい。
【0041】
また、前述したように、運搬対象物11は、特段の加工をしない限り、重力に従い運搬部10の下方に集まる。そのため、運搬部10の重心は、運搬部10を側面視した際、中央より下方にあると推測される。
【0042】
実務上、回動軸22aの位置と運搬部10の重心との上下方向のずれを常に同一とすることは煩雑であり、また、運搬部10の重量変化による姿勢の安定度を加味してずれの量を変更することも現実的ではない。したがって、予め回動部21の回動軸22aを、運搬部10の側面視において中央または中央よりも上側の位置に設けておくことで、一般的な運搬対象物11において、回動軸22aを運搬部10の重心より上方に設けることを可能とする。
【0043】
このように、1軸のみ回動させる場合、単純な機構で効果的に前進時の傾きをキャンセルすることが可能である。特に荷物の宅配等を主業務とする運搬用飛行体などの前進特化機においては、最も使用率の高い方向の傾きをキャンセルすることが効率的である。なお、回動の軸を増やした場合、対応可能な傾き方向が増えるが、そのかわりに機構が増加・複雑化し、重量や製造コスト、メンテナンスコスト、故障率等が増し、特に回動部21がサーボやジンバルモーター等の制御手段によって電気的にアクティブに水平等の所定の姿勢を保つような構成である場合には、この点が顕著となる。
【0044】
また、1軸のみ回動させる場合、飛行体100が旋回及び方向転換のためにバンクした際などには、図16のAに例示されるように、飛行体100の下向きに働く遠心力が大きいため、運搬対象物11が運搬部10の底面向きに押さえつけられるような力が働き安定する。しかしながら、ロール方向の回動軸を増やして2軸とし、サーボやジンバルモーター等によるアクティブ制御となる保持機構20を備える場合には、図16のBに例示されるように、ロール軸制御により運搬部10を水平に保とうとするため、運搬対象物11に横向きの働く遠心力が大きくなるため安定せず、運搬対象物11内の物体がずれて位置が片寄ったり、液体等が容器からこぼれやすくなったりする。したがって、旋回や方向転換が発生する場合、運搬対象物11によってはピッチ軸及びロール軸の2軸でのアクティブ制御があまり好ましくないことがある。
【0045】
一方で、サーボやジンバルモーター等を持たないパッシブ制御となる保持機構20を備える飛行体においては、図17及び図18に示されるように、ロール方向の回動軸22bを更に設けることで更に安定した運搬部10の運搬が可能となる。すなわち、パッシブ制御の場合には、遠心力に伴って運搬部10も回動するため、図16のAの安定性がより顕著となる。また、運搬部10は、内部に搭載される運搬対象物11の配置によってはX方向にも重心がずれる。ロール方向に回動軸22bを設けることで、X方向の重心のずれをキャンセルできるため、運搬対象物11の配置を厳密に行わずとも、飛行に大きな影響を及ぼさない構成となる。
【0046】
したがって、保持機構20が運搬部10の姿勢を制御する制御手段を持ち、且つ、その回動軸22がピッチ回動軸22aとロール回動軸22bの2軸を有する場合には、保持機構はアクティブ制御手段を持たず、パッシブ制御手段であることが望ましい。
【0047】
なお、図18に例示されるように、前進時に飛行体100の機体がピッチ方向に前傾した際に機体が運搬部10に当たらないように、機体前方形状を機体後方形状と異ならせる(例えば、機体前方の厚みを機体後方の厚みよりも薄くするなど)ことで、運搬部可動領域を設けるようにしてもよい。これは、ピッチ回動軸22aの一軸である場合でも効果的である。
【0048】
また、ピッチ回動軸22aとロール回動軸22bはジンバル構造のように交わっていてもよいが、必ずしも交わる必要はない。すなわち、運搬部10に対する位置をピッチ回動軸22aとロール回動軸22bとで夫々別途設定することによって、ピッチ回動軸22aの挙動とロール回動軸22bの挙動の特性を変えることが可能となる。
【0049】
例えば、ピッチ回動軸22aに対しては急停止や急発進による運搬部10の揺動、ロール回動軸22bに対しては旋回及び方向転換による搭載部の揺動が想定される。この2種類の動きは、一般的な飛行経路上では、ロール回動軸22bに対する動きよりピッチ回動軸22aに対する動きが強くなる。つまり、飛行経路の設定時には、急カーブによる方向転換が不要な経路を設定することができ、ロール回動軸22bに対しては比較的弱い力とすることが可能であるが、実務上やむを得ず急停止する可能性は経路の設定にかかわらず起こり得るため、ピッチ回動軸22aに対する動きの強さはロール回動軸22bに対する動きよりもより強いものを想定しておく必要がある。
【0050】
したがって、ピッチ方向の回動軸22aは、ロール方向の回動軸22bよりも運搬部10の重心に近い位置(ただし、重心と一致した場合には回動軸22a等を中心にしばらく回転してしまう恐れがあるため、少なくとも重心よりも上側の位置)に設けることで、急停止などにより強い力がかかった場合でも揺れづらく、運搬部10が一回転することない。
【0051】
一方、ロール軸の回動軸22bを運搬部10の上方に設けることで、運搬部10の上方の回動範囲が小さくなる。そのため、機体に設ける運搬部可動領域を小さくすることが可能となるため、機体設計の制約を少なくすることが可能となる。これは、例えば、図19に示されるように、運搬部10が機体に覆われる部分を有するように備えられると、特に顕著となる。すなわち、飛行体100を制御する部品等は機体上面に配置されることが多い一方、機体下面は制約が少ないためスペースに余裕があるので問題になりにくい。
【0052】
<飛行体100の構成>
これまで図示されている飛行体100の構成を例示する。飛行体100は飛行を行うために少なくともプロペラ110やモータ111等の要素を備えており、それらを動作させるためのエネルギー(例えば、二次電池や燃料電池、化石燃料等)を搭載していることが望ましい。
【0053】
なお、図示されている飛行体100は、本発明の構造の説明を容易にするため簡略化されて描かれており、例えば、制御部等の詳しい構成は図示していない。
【0054】
飛行体100および後述の移動体200は、例えば図の矢印Dの方向(−Y方向)を進行方向とするものであってもよい。
【0055】
なお、以下の説明において、以下の定義に従って用語を使い分けることがある。
【0056】
前後方向:+Y方向及び−Y方向、上下方向(または鉛直方向):+Z方向及び−Z方向、左右方向(または水平方向):+X方向及び−X方向、進行方向(前方):−Y方向、後退方向(後方):+Y方向、上昇方向(上方):+Z方向、下降方向(下方):−Z方向
【0057】
プロペラ110a、110bは、モータ111からの出力を受けて回転する。プロペラ110a、110bが回転することによって、飛行体100を出発地から離陸させ、移動させ、目的地に着陸させるための推進力が発生する。なお、プロペラ110a、110bは、右方向への回転、停止及び左方向への回転が可能である。
【0058】
本発明の飛行体が備えるプロペラ110は、1以上の羽根を有している。任意の羽根(回転子)の数(例えば、1、2、3、4、またはそれ以上の羽根)でよい。また、羽根の形状は、平らな形状、曲がった形状、よじれた形状、テーパ形状、またはそれらの組み合わせ等の任意の形状が可能である。なお、羽根の形状は変化可能である(例えば、伸縮、折りたたみ、折り曲げ等)。羽根は対称的(同一の上部及び下部表面を有する)または非対称的(異なる形状の上部及び下部表面を有する)であってもよい。羽根はエアホイル、ウイング、または羽根が空中を移動される時に動的空気力(例えば、揚力、推力)を生成するために好適な幾何学形状に形成可能である。羽根の幾何学形状は、揚力及び推力を増加させ、抗力を削減する等の、羽根の動的空気特性を最適化するために適宜選択可能である。
【0059】
また、本発明の飛行体が備えるプロペラは、固定ピッチ、可変ピッチ、また固定ピッチと可変ピッチの混合などが考えられるが、これに限らない。
【0060】
モータ111は、プロペラ110の回転を生じさせるものであり、例えば、駆動ユニットは、電気モータ又はエンジン等を含むことが可能である。羽根は、モータによって駆動可能であり、モータの回転軸(例えば、モータの長軸)の周りに回転する。
【0061】
羽根は、すべて同一方向に回転可能であるし、独立して回転することも可能である。羽根のいくつかは一方の方向に回転し、他の羽根は他方方向に回転する。羽根は、同一回転数ですべて回転することも可能であり、夫々異なる回転数で回転することも可能である。回転数は移動体の寸法(例えば、大きさ、重さ)や制御状態(速さ、移動方向等)に基づいて自動又は手動により定めることができる。
【0062】
飛行体100は、フライトコントローラやプロポ等により、風速と風向に応じて、各モータの回転数や、飛行角度を決定する。これにより、飛行体は上昇・下降したり、加速・減速したり、方向転換したりといった移動を行うことができる。
【0063】
飛行体100は、事前または飛行中に設定されるルートやルールに準じた自律的な飛行や、プロポを用いた操縦による飛行を行うことができる。
【0064】
上述した飛行体は、図20に示される機能ブロックを有している。なお、図20の機能ブロックは最低限の参考構成である。フライトコントローラは、所謂処理ユニットである。処理ユニットは、プログラマブルプロセッサ(例えば、中央処理ユニット(CPU))などの1つ以上のプロセッサを有することができる。処理ユニットは、図示しないメモリを有しており、当該メモリにアクセス可能である。メモリは、1つ以上のステップを行うために処理ユニットが実行可能であるロジック、コード、および/またはプログラム命令を記憶している。メモリは、例えば、SDカードやランダムアクセスメモリ(RAM)などの分離可能な媒体または外部の記憶装置を含んでいてもよい。カメラやセンサ類から取得したデータは、メモリに直接に伝達されかつ記憶されてもよい。例えば、カメラ等で撮影した静止画・動画データが内蔵メモリ又は外部メモリに記録される。
【0065】
処理ユニットは、回転翼機の状態を制御するように構成された制御モジュールを含んでいる。例えば、制御モジュールは、6自由度(並進運動x、y及びz、並びに回転運動θ、θ及びθ)を有する回転翼機の空間的配置、速度、および/または加速度を調整するために回転翼機の推進機構(モータ等)を制御する。制御モジュールは、搭載部、センサ類の状態のうちの1つ以上を制御することができる。
【0066】
処理ユニットは、1つ以上の外部のデバイス(例えば、端末、表示装置、または他の遠隔の制御器)からのデータを送信および/または受け取るように構成された送受信部と通信可能である。送受信機は、有線通信または無線通信などの任意の適当な通信手段を使用することができる。例えば、送受信部は、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)、赤外線、無線、WiFi、ポイントツーポイント(P2P)ネットワーク、電気通信ネットワーク、クラウド通信などのうちの1つ以上を利用することができる。送受信部は、センサ類で取得したデータ、処理ユニットが生成した処理結果、所定の制御データ、端末または遠隔の制御器からのユーザコマンドなどのうちの1つ以上を送信および/または受け取ることができる。
【0067】
本実施の形態によるセンサ類は、慣性センサ(加速度センサ、ジャイロセンサ)、GPSセンサ、近接センサ(例えば、ライダー)、またはビジョン/イメージセンサ(例えば、カメラ)を含み得る。
【0068】
<第2の実施の形態の詳細>
本発明による第2の実施の形態の詳細において、第1の実施の形態と重複する構成要素は同様の動作を行うので、再度の説明は省略する。第1の実施の形態では、移動体として飛行体100について説明したが、第2の実施の形態では、飛行体100とは異なり陸上または水上等で移動する他の移動体(以下、「移動体200」と称する)について説明する。なお、飛行体100及び移動体200を総称して「移動体」という。
【0069】
図21乃至図23に示されるように、本発明の実施の形態による移動体200は、運搬対象物11を搭載でき、且つ、目的の地点までの移動を可能とする機能を有している。移動体200の構成は特に限定しないが、例えば移動体200の移動は、人が操作、操縦するものであってもよいし、周知の自動走行ロボット等、自律的に移動可能なものであってもよい。
【0070】
陸上や水上を走行するロボットに搭載して運用する場合は、その運用環境から、保持機構20が備える回動部は2軸以上の回動軸を持つことが望ましい。例えば、図22、23に示されるように、走行面の傾斜により移動体がピッチ方向及びロール方向に傾く場合、ピッチ方向及びロール方向に回転軸を持つ回動部21を備えることで解消する。これらは、実施の形態1にて示されるような、例えばサーボやジンバルモーター等によるアクティブ制御であってもよいし、反対にパッシブ制御であってもよい。
【0071】
2軸以上の回動軸を備える保持機構20において、夫々の回動軸が運搬部10の重心点で交わる必要はなく、上下や左右に軸をずらして設けてもよい。例えば、図24乃至図26に示されるように、回動部21の位置を上下にずらすことで、回動軸毎に異なる特性を持たせることが可能となる。
【0072】
例えば移動体200が運搬部10(及び運搬対象物11)を有して坂を上ることを考慮して、ピッチ方向の回動軸のための回動部21の位置を、運搬部10の上方としてもよい。より具体的には、移動体200が坂を上る際に移動体200は後傾姿勢となるため、保持機構20により運搬部10が水平を保ったまま移動体200の後方に位置する。図27に示される移動体200と比較して、ピッチ方向の回動軸が上方に設けられた図26に示される移動体200では、移動体200後方に位置する運搬部10の面積(図26及び図27内のハッチングにて図示)が増加している。この作用を利用することで、例えば後輪駆動の移動体200において坂を上る場合において、駆動輪に適切な荷重をかけることなどが可能となる。また、これに限らず、荷重移動が従来の移動体200よりも発生しやすいので、これを利用して好適に動作をすることが可能となる。
【0073】
また、車両や船舶等の移動体200は、空中に留まる必要のある飛行体100と比較して重量増加による移動効率への影響が少ないため、機構の増加が許容しやすい。
【0074】
上述した実施の形態は、本発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良することができると共に、本発明にはその均等物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0075】
10 運搬部
11 運搬対象物
20 保持機構
100 飛行体
200 移動体


【要約】
【課題】移動体の前進時の傾きが運搬物に影響せず、運搬物の姿勢を安定した状態で運搬可能な移動体を提供すること。
【解決手段】ピッチ方向に回動する回動部を有し、運搬対象物を格納可能な運搬部の重心近傍または重心よりも上方を側方から略水平に保持する保持機構を備える移動体。さらには、保持機構は、ピッチ方向のみに回動する1軸の回動部を有する移動体。さらには、保持機構は、アクティブ制御により運搬部を略水平に保持する移動体。若しくは、保持機構は、パッシブ制御により運搬部を略水平に保持する
【選択図】図1
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