特許第6952521号(P6952521)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6952521車両用パネルの製造方法および車両用パネル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6952521
(24)【登録日】2021年9月30日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】車両用パネルの製造方法および車両用パネル
(51)【国際特許分類】
   B60R 13/02 20060101AFI20211011BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
   B60R13/02 Z
   B60R16/02 620B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-138461(P2017-138461)
(22)【出願日】2017年7月14日
(65)【公開番号】特開2019-18689(P2019-18689A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2020年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100147854
【弁理士】
【氏名又は名称】多賀 久直
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文俊
【審査官】 浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−024055(JP,A)
【文献】 特開2017−095033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 13/02
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粒子とバインダとを含むプライマを樹脂シートに付与して、該樹脂シートに所要パターンで下地を形成し、
車両用パネルの形状に合わせて前記樹脂シートを成形し、
前記樹脂シートをめっき処理することで、前記下地に合わせてめっきによる導電部を形成し、
前記樹脂シートを成形型のキャビティにセットしたもとで、該キャビティで該樹脂シートの前記導電部側に樹脂パネル本体を成形して、一体化された該樹脂パネル本体と該樹脂シートの間に該導電部を設けた車両用パネルを得る
ことを特徴とする車両用パネルの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂シートに形成した前記導電部の一部を露出させるように前記樹脂パネル本体を射出成形して、接点を設ける請求項1記載の車両用パネルの製造方法。
【請求項3】
可撓性を有するシート材からなる樹脂シートと、
三次元形状に形成された前記樹脂シートに所要パターンで設けられ、めっきからなる導電部と、
前記樹脂シートの前記導電部側に該樹脂シートと一体的に形成され、車両用パネルの形状保持を担う樹脂パネル本体とを備え
前記樹脂シートは、前記樹脂パネル本体の裏側に配置されている
ことを特徴とする車両用パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用パネルの製造方法および車両用パネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばインストルメントパネルなどの内装パネルには、オーディオ等の電気機器やスイッチなど、電気により機能する各種の電気部品が設置されている。車両用パネルに設置される電気部品は、車両用パネルの裏側を通したワイヤーハーネスを組み付けて電気的に接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2985016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内装パネルに設置される電気部品が多くなると、電気部品とワイヤーハーネスとを接続する作業に非常に手間がかかってしまう。また、内装パネルの裏側に配置されるワイヤーハーネスが大きな場所を占めてしまうという問題も生じる。
【0005】
本発明は、従来の技術に係る前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、配線スペースを取らないと共に配線の手間を省くことができる車両用パネルの製造方法および車両用パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明の車両用パネルの製造方法は、
金属粒子とバインダとを含むプライマを樹脂シートに付与して、該樹脂シートに所要パターンで下地を形成し、
車両用パネルの形状に合わせて前記樹脂シートを成形し、
前記樹脂シートをめっき処理することで、前記下地に合わせてめっきによる導電部を形成し、
前記樹脂シートを成形型のキャビティにセットしたもとで、該キャビティで該樹脂シートの前記導電部側に樹脂パネル本体を成形して、一体化された該樹脂パネル本体と該樹脂シートの間に該導電部を設けた車両用パネルを得ることを要旨とする。
請求項1に係る発明によれば、成形する前の樹脂シートに下地を形成するので、複雑なパターンの下地であっても簡単に形成することができる。また、樹脂シートを所要形状に成形した後にめっき処理を行うので、めっきからなる導電部を車両用パネルの形状に合わせて簡単に形成することができる。更に、導電部は、樹脂からなる樹脂シートと樹脂パネル本体との間に配置されるので、導電部を絶縁被覆するなどの処理を省くことができる。そして、得られる車両用パネルは、自身に導電部が設けられているので、ワイヤーハーネス等の配線を取り回す作業を省略することができると共に、裏側などに配線を通すためのスペースを確保する必要がなくなる。
【0007】
請求項2に係る発明では、前記導電部の一部を露出させるように前記樹脂パネル本体を成形して、接点を設けることを要旨とする。
請求項2に係る発明によれば、樹脂シートに対する樹脂パネル本体の形成位置を調整するだけで、接点を簡単に設けることができる。
【0008】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項3に係る発明の車両用パネルは、
可撓性を有するシート材からなる樹脂シートと、
三次元形状に形成された前記樹脂シートに所要パターンで設けられ、めっきからなる導電部と、
前記樹脂シートの前記導電部側に該樹脂シートと一体的に形成され、車両用パネルの形状保持を担う樹脂パネル本体とを備えていることを要旨とする。
請求項3に係る発明によれば、自身に導電部が設けられているので、ワイヤーハーネス等の配線を取り回す作業を省略することができると共に、裏側などに配線を通すためのスペースを確保する必要がなくなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る車両用パネルの製造方法によれば、導電部を備えた車両用パネルを簡単に得ることができる。また、本発明に係る車両用パネルによれば、配線スペースを削減できると共に、配線の手間を省くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の好適な実施例に係る車両用パネルの要部を示す概略斜視図である。
図2】実施例の車両用パネルの要部を示す断面図であり、電気部品の取り付け位置を示している。
図3】実施例の車両用パネルの要部を示す断面図であり、別の車両用パネルとの繋ぎ目を示す。
図4】実施例の車両用パネルの要部を分解して示す概略斜視図である。
図5】実施例の製造工程を示す説明図である。
図6】実施例の製造工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明に係る車両用パネルの製造方法および車両用パネルにつき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。なお、本発明は、車両用パネルとして、インストルメントパネル、ドアトリム、ピラーなどの車両内装部材や、スポイラーなどの車両外装部材に適用可能である。
【実施例】
【0012】
図1図3に示すように、実施例に係る車両用パネル(以下、単にパネルという。)10は、樹脂シート(以下、シートという。)12と、樹脂パネル本体(以下、パネル本体という。)14とを重ねて配置した板状体である。また、パネル10には、シート12とパネル本体14との間に、電気を通す導電部16が形成されている。導電部16は、めっきからなり、シート12の面方向に延びる所要パターンで形成されている。なお、シート12およびパネル本体14は、絶縁性のものである。
【0013】
前記シート12は、ポリプロピレン(PP)やアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS)などの熱可塑性樹脂からなるものが好ましい。図4に示すように、シート12は、可撓性を有する薄板状のシート材であり、パネル10の三次元形状に合わせた三次元形状で形成されている。なお、実施例のシート12は、自身の厚み方向に曲がった湾曲形状で形成されている。
【0014】
前記パネル本体14は、ポリプロピレン(PP)やアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂(ABS)などの熱可塑性樹脂からなるものが好ましく、例えばシート12と同じ種類の樹脂から構成される。図4に示すように、パネル本体14は、パネル10の三次元形状に合わせた三次元形状で形成されており、実施例では自身の厚み方向に曲がった湾曲形状で形成されている。パネル本体14は、パネル10の形状保持を担う板状部分であり、シート12よりも剛性を有している。
【0015】
前記導電部16は、銅、金、銀、ニッケル、クロム等のめっきで形成することが可能であるが、電気抵抗が比較的低い銅を採用することが好ましい。導電部16は、前述したように三次元形状で形成されるシート12の面に沿って延在している。また、導電部16は、シート12に付与されたプライマからなる下地18(図5(a)および(b)参照)に重ねて形成されている。
【0016】
図2および図3に示すように、パネル10には、スイッチなどの電気部品20の電気接点20aや、別の車両用パネル(区別する場合は別のパネルという)22の導電部24と接続するための接続部26,28が設けられている。例えば、接続部26は、パネル本体14に開口14aを形成することで、シート12に形成された導電部16の一部を表側へ露出させ、当該露出部分を接点として用いている(図2)。なお、接続部26と該接続部26に設置される電気部品20との間に、ゼブラゴム等の柔軟性を有する緩衝通電材を用いてもよい。
【0017】
図3に示すように、別形態の接続部28は、パネル本体14をシート12と比べて小さく形成することで(シート12をパネル本体14より大きく形成することで)、シート12の端部に形成された導電部16の一部を表側へ露出させ、当該露出部分を接点として用いている。パネル10には、シート12における導電部16の形成面と反対側に、接続部28(26)または接続部28(26)の周辺部位に対応させて、リブ等の支持部30をパネル本体14と一体的に形成してもよい。このような支持部30によって、接続部28(26)において可撓性を有するシート12に形成される接点が変形しないように支持することができる。なお、別のパネル22は、導電部24の接点24aが裏面(シート12におけるパネル本体14と反対側の面)に形成されている。
【0018】
次に、パネル10の製造方法について、図5および図6を参照して説明する。まず、平坦な板状のシート12に対してプライマを導電部16の形成予定位置に合わせて付与して、所要パターンの下地18を形成する(図5(a))。ここで、プライマは、金属粒子とバインダとを、水やN−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒に分散したインキ組成物であり、未処理またはシランカップリング剤等で表面処理された無機系酸化物等のナノ粒子も含まれていることが好ましい。金属粒子としては、パラジウム粒子とポリカルボン酸系高分子等の分散剤との複合体であることが好ましく、例えば、分散剤の存在下、塩化パラジウム等のパラジウム化合物から供給されるパラジウムイオンを、ヒドラジンヒドラート等のアミン類で還元することによって得ることができる。バインダとしては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、シェラック樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリオレフィン樹脂、酢酸ビニル塩化ビニル共重合樹脂、ブチラール樹脂等が好ましい。このようなプライマとしては、例えば、特許第6072330号に記載のものが挙げられる。
【0019】
前記シート12へのプライマの付与は、バーコーター、グラビア印刷機(グラビアオフセット)、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、ディスペンサー、ディッピング、スプレー、スピンコーター、ロールコーター、リバースコーター、スクリーン印刷機等を用いることができる。シート12にプライマを付与したら、プライマに含まれる溶媒を揮発及び/又は乾燥させた後に、加熱することで、プライマに含まれるバインダを硬化させる。次いで、シート12をアルカリ処理することで、バインダ成分に被覆されていない最表層のナノ粒子を溶解及び/又は脱落させ、水洗い等の洗浄処理を経て、バインダ成分でナノ粒子が被覆された下地18を得ることができる。
【0020】
次に、下地18が形成されたシート12を、熱プレスや真空成形などによって、得るべきパネル10の形状に合わせて成形する(図5(b))。実施例では、表側が凸となる湾曲形状のパネル10に合わせて、シート12が湾曲形状に賦形される。また、接続部26に対応して設置される電気部品20に合わせて、シート12に孔12aを設けるなど、必要な加工も行われる(図5(c))。
【0021】
次に、シート12をめっき処理することで、所要パターンで形成された下地18に重ねてめっきを形成し、シート12に所要パターンの導電部16を設ける(図5(d))。ここで、めっき方法としては、湿式が採用され、電気めっきであってもよいが、めっき厚の均一性などの利点から無電解めっきのほうが好ましい。
【0022】
前記めっき処理により導電部16を形成したシート12を、成形型32のキャビティ34にセットし(図6(a)および(b))、所要の樹脂原料をキャビティ34に注入し、パネル本体14をインサート成形する(図6(c))。パネル本体14の成形方法としては、例えば射出成形が採用される。樹脂原料が硬化する際に、シート12および該シート12に形成された導電部16にパネル本体14が接合し、シート12とパネル本体14とが一体化したパネル10が得られる。ここで、パネル本体14は、シート12に形成された導電部16を覆うように設けられるので、導電部16がパネル本体14とシート12との間に配置される。なお、導電部16において接続部26の接点となる部分には、パネル本体14を形成しないようにすることで、接点がパネル10の表側に露出するように形成される。そして、成形型32からパネル10を取り出し(図6(d))、電気部品20を接続部26に取り付けることで、接続部26に露出する導電部16の接点と電気部品20の電気接点20aとが電気的に接続する。
【0023】
前記製造方法によれば、成形する前の平たいシート12に印刷等により下地18を形成するので、細かく複雑なパターンの下地18であっても簡単に形成することができる。また、シート12をパネル10に合わせた形状に成形した後にめっき処理を行うので、めっきからなる導電部16をパネル10の形状に合わせて簡単に形成することができる。しかも、導電部16を形成してから、シート12の形状を変えないので、導電部16が断裂したり、シート12から剥がれたりするなどの欠損を防止することができる。更に、導電部16は、何れも樹脂からなるシート12とパネル本体14との間に配置されるので、導電部16を絶縁被覆するなどの処理を省くことができる。更にまた、シート12に対するパネル本体14の形成位置を調整するだけの簡単なことで、導電部16の一部を露出させて、電気部品20に繋げるための接点を簡単に設けることができる。
【0024】
前記パネル10は、自身に導電部16が設けられているので、自身に設置される電気部品20に対して、ワイヤーハーネス等の配線を他の場所から取り回して接続する作業を省略することができる。また、パネル10は、自身に導電部16を備えているので、該パネル10の裏側に配線を通すためのスペースを確保する必要がなく、周辺に配置される部材や装置の設計の自由度向上に寄与し得る。また、導電部16は、めっきから構成されているので、導電性インクなどと比べて電気抵抗が低く、通電効率に優れている。
【0025】
前述した実施例に限らず、例えば以下のように変更してもよい。
(1)実施例では、樹脂シートと樹脂パネル本体からなる2層構造の車両用パネルを説明したが、これに限らず、例えば、樹脂パネル本体の表側を表皮材で覆った3層構造など、3層構造以上の車両用パネルであってもよい。
(2)樹脂シートの両面を樹脂パネル本体で覆う構成であってもよい。
(3)導電部を樹脂シートの両面に互いに独立させて、または繋げて設けてもよい。
(4)導電部は、電気を通す配線に限らず、静電スイッチのセンサー部等に用いるなど、その他の構成にも適用可能である。
【符号の説明】
【0026】
10 パネル(車両用パネル),12 シート(樹脂シート),
14 パネル本体(樹脂パネル本体),16 導電部,18 下地,32 成形型,
34 キャビティ
図1
図2
図3
図4
図5
図6