(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6952541
(24)【登録日】2021年9月30日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】車両用前照灯
(51)【国際特許分類】
F21S 41/36 20180101AFI20211011BHJP
F21S 41/60 20180101ALI20211011BHJP
F21V 9/14 20060101ALI20211011BHJP
F21V 7/04 20060101ALI20211011BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20211011BHJP
G02F 1/13357 20060101ALI20211011BHJP
F21W 102/14 20180101ALN20211011BHJP
F21Y 115/10 20160101ALN20211011BHJP
【FI】
F21S41/36
F21S41/60
F21V9/14
F21V7/04
G02B5/30
G02F1/13357
F21W102:14
F21Y115:10
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-173953(P2017-173953)
(22)【出願日】2017年9月11日
(65)【公開番号】特開2019-50134(P2019-50134A)
(43)【公開日】2019年3月28日
【審査請求日】2020年8月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100091340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 敬四郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141302
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 伸一
(72)【発明者】
【氏名】都甲 康夫
(72)【発明者】
【氏名】大和田 竜太郎
(72)【発明者】
【氏名】高尾 義史
【審査官】
田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−069458(JP,A)
【文献】
特開平07−199187(JP,A)
【文献】
特開2006−058615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/00
F21V 9/14
F21V 7/04
G02B 5/30
G02F 1/13357
F21W 102/00
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を発生する光源と、
前記光源からの光を受け、第1の偏光と第2の偏光に分岐する偏光ビームスプリッタと、
前記偏光ビームスプリッタで分岐された前記第1の偏光と前記第2の偏光を受けるように配置され、複数の制御電極を有する液晶素子と、
前記液晶素子に入射する前記第1の偏光と前記第2の偏光の一方の光軸上に配置され、前記第1の偏光と前記第2の偏光の偏光軸方向を揃える位相差板と、
前記液晶素子から出射する光を受けるように配置された出力側偏光板と、
を備え、前記液晶素子の各制御電極に対応する照明領域を遮光制御できる車両用前照灯であって、
前記偏光ビームスプリッタは、入射光を受けると、前記第1の偏光を反射する反射面と、前記第2の偏光を透過する透過面とを有するワイヤーグリッド偏光板であり、
前記偏光ビームスプリッタの反射面から反射する第1の偏光は前記液晶素子に向けられ、更に
前記偏光ビームスプリッタの透過面から出射した前記第2の偏光を受け、前記液晶素子に向けて反射する位置および向きに配置されたリフレクタを備え、
前記位相差板は、前記偏光ビームスプリッタの透過面と前記リフレクタとの間、および前記リフレクタと前記液晶素子との間に配置された(1/4)λ位相差板である車両用前照灯。
【請求項2】
前記リフレクタが3次元反射曲面を有する請求項1に記載の車両用前照灯。
【請求項3】
前記液晶素子の、前記出力側偏光板に対して逆側の位置に配置された偏光板を更に備える請求項1〜2のいずれか1項に記載の車両用前照灯。
【請求項4】
前記第1の偏光と前記第2の偏光が、前記液晶素子に入射するまでに受ける反射は、同一回数で、光進行方向に関して同じ向きである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用前照灯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用前照灯に関し、特に照明領域を制御できる機能を持つ車両用前照灯に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用前照灯の多くは、遠方まで照明できるハイビームとある範囲までの領域を照明するロービームとを切り替える機能を備える。ロービームの照明は、対向車を含む方向に向う照明光を遮光するように照明光の上端を制限し、カットオフラインより下方を照明して対向車に眩惑光(グレア)を付与しないようにする。ロービーム/ハイビームの切り替えは運転者によってなされる。例えば遮光用のシェードによりカットオフラインが形成される。シェードを機械的要素によって駆動すると、動作不良を起こし易いという問題が生じる。
【0003】
特開2010−176981号(特許第5418760号)は、
図6Aに示す車両用灯具を開示する。LED光源212から発した光束L0をワイヤーグリッド偏光板の第1反射偏光子214に斜め入射する。第1反射偏光子214は鉛直面を含む偏光透過軸を有する。鉛直方向の偏光軸を有する第1偏光成分L1は第1反射偏光子214を透過し、水平方向の偏光軸を有する第2偏光成分L2は第1反射偏光子214によって上方に反射され、第1の光学系220によってレンズ230の方向に反射される。
【0004】
第1反射偏光子214を透過した鉛直方向の偏光軸を有する第1偏光成分は垂直(VA)配向モードの液晶素子216に入射する。液晶素子216が電圧無印加状態であれば、入射光は偏光方向を維持したまま出射し、液晶素子216が電圧印加状態であれば、入射光は偏光方向を90度変換して出射する。まず液晶素子216が電圧無印加状態である場合を考察する。液晶素子216から出射した鉛直方向の偏光成分L1はワイヤーグリッド偏光板の第2の反射偏光子218に斜め入射する。
【0005】
第2反射偏光子218は水平面を含む偏光透過軸を有する。液晶素子216からの出射光L1は鉛直方向の偏光軸を有するので、第2の反射偏光子218は透過できず、上方に反射され、第2の光学系222でレンズ230の方向に反射される。鉛直方向の偏光軸を有する偏光L1と水平方向の偏光軸を有する偏光L2とはシェードFによる整形を受けた後、レンズ230を介して投影される。第1反射偏光子214によって反射された水平偏光成分L2は、第1の光学系220を介して基本配向パターンP1(
図6B)を形成する。第2反射偏光子218によって反射された垂直偏光成分L1は第2の光学系222を介して第1付加配向パターンP2(
図6C)を形成する。
【0006】
液晶素子216が電圧印加状態であれば、液晶素子216からの出射光は水平方向の偏光軸に変換されるので、第2の反射偏光子218の偏光透過軸方向と一致し、第2の反射偏光子218を透過して光束L3を形成する。光束L3は反射面224,226を含む第3の光学系でレンズ232の方向に反射される。第2反射偏光子218を透過した水平偏光成分L3は、第3の光学系224、226を介して第2付加配向パターンP3(
図6D)を形成する。
【0007】
第1反射偏光子214と第2反射偏光子218の偏光透過軸はねじれ(クロスニコル)の関係にある。液晶素子216は、電圧無印加状態では透光体として機能し、第1反射偏光子214から到達した偏光成分を、その振動方向を維持したまま出射し、クロスニコル配置の第2反射偏光子218で反射させる。液晶素子216は電圧印加状態では位相差板として機能し、第1反射偏光子214から到達した偏光成分の振動方向を第2反射偏光子218の偏光透過軸方向と一致するように、その振動方向を変換して出射し、第2反射偏光子218を透過させる。
【0008】
液晶素子216が透光体として機能する時、配向パターンP1とP2とでロービームを形成し,液晶素子216が位相差板として機能して偏光軸方向を90度回転させる時、配向パターンP1とP3とでハイビームを形成する。機械的要素を駆動することなく、液晶素子216に電圧を印加するか否かで、ロービームとハイビームとを切り替えることができる。配光パターンP1+P2がロービームを形成する時、クロスニコルの関係にある2つの反射偏光子214,218で反射された、偏光方向が交差する2つの偏光成分P1,P2は境界で接続される。
【0009】
ドイツ特許公開DEA102013113807は、
図7に示す車両用灯具を開示する。光源240から発した光束を偏光分離鏡250で透過光252と反射光254の2つの偏光成分に分離し、透過光252は液晶素子272、偏光子282、投影レンズ292を介して投影し、反射光254は反射鏡260で反射した後、液晶素子274、偏光子284、投影レンズ294を介して投影する。偏光分離鏡250で2つの偏光成分を分離し、偏光方向がクロスする2つの偏光を夫々液晶素子、偏光子(検光子)、投影レンズを含む光学系を介して投影している。
【0010】
近年、車両用前照灯において、前方の状況、即ち対向車や前走車等の有無及びその位置に応じて配光形状をリアルタイムで制御する技術(ADB adaptive driving beam等と呼ばれる)が注目されている。この技術によれば、例えば走行用の配光形状すなわちハイビームで走行中に、対向車を検出した場合に、前照灯に照射される領域の内、当該対向車の領域に向う光のみをリアルタイムで低減することが可能となる。ドライバに対しては常にハイビームに近い視界を与え、その一方で対向車に対して眩惑光(グレア)を与えることを防止できる。
【0011】
また、ハンドルの舵角に合わせて進行方向の配光を調整する前照灯システム(AFS adaptive front-lighting system 等と呼ばれる)が一般化されつつある。配光形状を、ハンドルの舵角に合わせて、左右方向に移動させることにより、進行方向の視界を広げることができる。
【0012】
このような配光可変型の前照灯システムは、例えば多数の発光ダイオード(LED)をアレイ状に並置した発光ダイオード装置を作成し、各発光ダイオードの導通/非導通(オン/オフ)、導通時の投入電流等をリアルタイムで制御することによって実現されている。例えば、 マトリクス状に配置され、独立に点灯制御可能な多数のLEDチップのアレイと、該LEDチップアレイから放出された光の光路上に配置された投影レンズとを備え、該LEDチップアレイの点灯パターンを制御することにより、前方に所定の配光パターンを形成するように構成された車両用前照灯装置が提案されている(例えば特許文献3)。
【0013】
図8Aは、放熱機構を有する支持基板211上に、複数の発光ダイオード(LED)212をマトリクス配置し、前方に投影レンズ210を配した車両用前照灯の要部を側方から見た図である。
【0014】
図8Bは、複数のLED212をマトリクス配置したマトリクスLEDを正面から見た図である。このようにマトリクス配置した複数のLEDからなる光源を車両前方に向け、その前方に投影レンズを配置した光学系は、LEDの輝度分布を前方に投射する。
【0015】
図8Cは、前照灯システムの概略構成を示すブロック図である。前照灯システム200は、左右それぞれの車両用前照灯100、配光制御ユニット102、前方監視ユニット104等を備えている。車両用前照灯100は、マトリクスLEDからなる光源と、投影レンズと、それらを収容する灯体とを有する。
【0016】
車載カメラ108、レーダ110、車速センサ112等の各種センサが接続されている前方監視ユニット104は、センサから取得した撮像データを画像処理し、前方車両(対向車や先行車)やその他の路上光輝物体、区画線(レーンマーク)を検出し、それらの属性や位置等配光制御に必要なデータを算出する。算出されたデータは車内LAN等を介して配光制御ユニット102や各種車載機器に発信される。
【0017】
車速センサ112、舵角センサ114、GPSナビゲーション116、ハイビーム/ロービームスイッチ118等が接続されている配光制御ユニット102は、前方監視ユニット104から送出されてくる路上光輝物体の属性(対向車、先行車、反射器、道路照明)、その位置(前方、側方)と車速に基づいて、その走行場面に対応した配光パターンを決定する。配光制御ユニット102は、その配光パターンを実現するために必要な配光可変前照灯の制御量を決定する。
【0018】
配光制御ユニット102は、マトリクスLEDの各LEDの制御内容(点消灯、投入電力等)を決定する。ドライバ120は、配光制御ユニット102からの制御量の情報を、駆動装置や配光制御素子の動作に対応した命令に変換すると共にそれらを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2010−176981号公報(特許第418760号公報)
【特許文献2】ドイツ特許公開DEA102013118760号公報
【特許文献3】特開2013−54849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
複数のLED素子を用いてマトリクスLEDを形成し、所望領域内のLED素子のオン/オフを制御することによりADB機能を実現すれば、信頼性の高いシステムを構成できるであろう。
【0021】
但し、個々のLEDのオン/オフを制御しようとすると、
図8Aの構成におけるドライバ120内に、マトリクスLED内のLED素子数に応じた電源が必要になる。構成が複雑化し、コストが嵩んでしまう。
【0022】
入力光を偏光板を透過させることで偏光として、液晶素子の入射偏光を形成し、その他の光は廃棄する場合、光の利用率が低くなってしまう。入力光を2つの偏光成分に分離し、それぞれの偏光成分を液晶素子で制御し、併せて利用する場合、複数の投影像を境界で接続すること等が必要になり、投影像を所定の位置に位置合わせすることが困難になり得る。
【0023】
実施例の目的は、光源から供給される光束を、複数の制御領域を有する液晶素子で受け、液晶素子内の透光状態/遮光状態を制御することで、視野内の所望領域において遮光機能を実現し、かつ光利用効率が高い車両用前照灯を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の実施例によれば、
光を発生する光源と、
前記光源からの光を受け、第1の偏光と第2の偏光に分岐する偏光ビームスプリッタと、
前記偏光ビームスプリッタで分岐された前記第1の偏光と前記第2の偏光を受けるように配置され、複数の制御電極を有する液晶素子と、
前記液晶素子に入射する前記第1の偏光と前記第2の偏光の一方の光軸上に配置され、前記第1の偏光と前記第2の偏光の偏光軸方向を揃える位相差板と、
前記液晶素子から出射する光を受けるように配置された偏光板と、
を備え、前記液晶素子の各制御電極に対応する照明領域を遮光制御できる車両用前照灯
が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、単一光源からの光を受け、遮光制御可能な複数領域を有する液晶素子を備えた前照灯システムを示す概略断面図である。
【
図2】
図2Aは、光源から発する光束をワイヤーグリッド偏光板の透過光と反射光の2つの偏光光束として分離し、2つの光束を共に液晶素子に入射して配光パターンを形成する構成を示す概略的断面図、
図2Bはワイヤーグリッド偏光板の構成を示す概略的平面図である。
【
図3】
図3Aは第1の実施例の第1の例による車両用灯具、
図3Bは第1の実施例の第2の例による車両用灯具の概略的断面図である。
【
図4】
図4Aは第2に実施例による車両用灯具の概略的断面図、
図4Bは直線偏光の光軸上に配置した2つの(1/4)λ位相差板による偏光状態の変化を示すダイヤグラムである。
【
図5】
図5Aは第3の実施例の第1の例による車両用灯具、
図5Bは第3の実施例の第2の例による車両用灯具の概略的断面図である。
【
図6】
図6Aは従来例による車両用灯具の概略的断面図、
図6B,6C,6Dは
図6Aの灯具が形成する3つの配光パターンを示す平面図である。
【
図7】
図7は他の従来例による車両用灯具の概略的断面図である。
【
図8】
図8A,8B,8Cは、他の従来技術による、車両用前照灯の要部側面図、発光ダイオードアレイの平面図、車両用前照灯システムのブロック図である。
【符号の説明】
【0026】
10 光源、 11 コリメートレンズ、 13 ワイヤーグリッド偏光板、
14 (1/2)λ位相差板、 15 (1/4)λ位相差板、
16 リフレクタ、 17 曲面リフレクタ、 18 液晶素子、
19 (補助)偏光板、 20 偏光板(検光子)、 22 レンズ、
WG ワイヤーグリッド、 SUB 透明基板、 100 車両用前照灯、
102 配光制御ユニット、 104 前方監視ユニット、
108 車載カメラ、 110 レーダ、 112 車速センサ、
114 舵角センサ、 116 GPSナビゲーション、
118 ハイビーム/ロービームスイッチ、 120 ドライバ、
200 前照灯システム、 210 投影レンズ、 211 支持基板、 212 LED。
【発明を実施するための形態】
【0027】
複数の光源を駆動する場合、複数の駆動電力源も必要であり、部品数が増加し、製造原価が嵩みやすい。マトリクスLEDを利用する車両用前照灯は、製造コストが制限される車両の前照灯としては利用し難い。単一光源の前に複数の制御電極付き領域を有する液晶素子を配置した構成は、液晶素子の複数の領域に印加する電圧により、複数の領域の透光状態/遮光状態を制御できる。複数の制御電極を有する液晶素子の制御装置は、低価格で市販されている。液晶素子を用いて、視野内の複数の領域の透光状態/遮光状態を制御することを検討する。
【0028】
図1は、単一光源が発生する光を、複数の制御領域を有する液晶素子で受け、液晶の制御領域ごとに透過状態/遮光状態を選択することにより配光パターンを制御する構成を示す概略的断面図である。
【0029】
光源10から発生した光が、コリメートレンズ11によって平行光束化され、入力側偏光板13によって所定方向の偏光軸を有する偏光にされ、複数の制御領域を有する液晶素子18に入射する。液晶素子18に入射された光は各制御領域ごとに所望の調整(例えば選択された制御領域の偏光軸の変更)を受けて液晶素子18から出射し、出射側偏光板20を介して出射する。
【0030】
例えば、偏光板13,20がクロスポーラライザとして配置され、液晶素子内の各セルがツイステッドネマチック(TN)セルであるとする。各セル内の液晶層が電圧無印加状態で入射偏光の偏光軸を90度回転させ、電圧印加状態で入射偏光の偏光軸を変化させずそのまま出射させる。電圧を印加されないセルでは、入射光の偏光軸が90度回転してクロスポーラライザを透過する。電圧を印加されたセルでは入射光の偏光軸が変化せず、クロスポーラライザで出射光は遮光される。照明視野内のセルを任意に制御することにより、調整された制御領域からの出射光は遮光される。
【0031】
クロスポーラライザをパラレルポーラライザとして、電圧無印加状態で遮光、電圧印加状態で透光としてもよい。TNセルに換え、垂直配向(VA)セルを用いることもできる。所定方向に配向処理したVAセルにクロスポーラライザを組み合わせると、電圧無印加状態で遮光状態、電圧印加状態で透光状態にできる。STNセル等、その他の液晶セルを用いることも可能である。
【0032】
光源を簡略化し、液晶素子で透過/遮光を制御する構成は、駆動電力源を著しく単純化できる。複数の領域を有する液晶素子及びその制御を行える電子装置は安価に入手することができる。この点から前照灯装置の製造コストを抑制することに極めて有効である。
【0033】
図1の参照番号13,20で示すように、液晶素子の両側に偏光板を配置し、入力側偏光板によって偏光した偏光入力光を液晶素子に供給し、出力側偏光板を介して所望の配光パターンを出力する。入力側偏光板で液晶素子への進行を阻止された光は、通常廃棄される。入力側偏光板を透過する光の光量は、全入力光の高々半分であり、光の利用率が低くなる。光の利用率を高くするためには、入力側偏光板で排除された光も利用することが望まれる。
【0034】
図2Aは偏光板としてワイヤーグリッド偏光板を用い、ワイヤーグリッド偏光板を透過した偏光も反射された偏光も、共に液晶素子に入力する構成を示す概略的断面図である。光源10はLED等の発光源で形成され、発光した光はコリメートレンズ11で平行光束化され、ワイヤーグリッド偏光板13を照射する。ワイヤーグリッド偏光板13で反射された光束は液晶素子18に向い、ワイヤーグリッド偏光板13を透過した光束はリフレクタ16で反射され、液晶素子18に向う。これらの両光束は、液晶素子18内で変調を受け、偏光板20によって変調の内容が顕在化され、配光パターンとなって投影レンズ22から投影される。
【0035】
図2Bは、ワイヤーグリッド偏光板13の構成を概略的に示す。ワイヤグリッド偏光板は、例えばガラス板などの透明基板SUBの表面上に平行ストライプ形状の金属膜(ワイヤーグリッド)WGを形成した構成を有する。ワイヤーグリッドは、例えば100nm〜150nmピッチで配置され、例えば1:1の幅比を有するラインアンドスペースを有する、アルミニウム等の良導電体金属で形成されたストライプ状パターンである。ストライプの長さは、幅寸法より著しく大きな寸法を有する。金属ストライプ内の電子は、ストライプの長さ方向には自由に運動でき、運動の自由度を有するが、ストライプの幅は極めて小さい寸法のため、ストライプの幅方向の運動は制限され、運動の自由度を有さない。
【0036】
進行方向に直交する電気ベクトルを有する光は、電気ベクトルが電子を駆動する場合エネルギを消費して吸収される。吸収が極めて強い場合、光は金属内に十分入ることができず、反射される。光の電気ベクトルが電子を駆動しない場合はエネルギの消費がなく光は吸収されない。
【0037】
このため、ワイヤーグリッドWGのストライプ長さ方向に沿った電気ベクトルを有する光はワイヤーグリッドWGで反射されるが、ストライプの幅方向に沿った電気ベクトルを有する光はワイヤーグリッドWGを透過する。すなわち、ワイヤーグリッドWGに光が入射すると、ワイヤーグリッドに平行な電気ベクトルを有する反射偏光Lrとワイヤーグリッドに交差する電気ベクトルを有する透過偏光Ltの2つの偏光が生じる。ワイヤーグリッドは金属ストライプで形成されるため、平坦面上に形成されたワイヤーグリッドの反射光は、ほぼ平行光束と考えられる。
【0038】
図2Bの構成においては、ワイヤーグリッドWGのストライプ方向を垂直方向としているので、水平方向の電気ベクトルを有する偏光が透過し、垂直方向の電気ベクトルを有する偏光が反射される。ワイヤーグリッドのストライプ方向を水平方向とすれば、水平方向の電気ベクトルを有する偏光が反射し、垂直方向の電気ベクトルを有する偏光が透過する。
【0039】
図2Aの構成においては、ワイヤーグリッド偏光板13の面を、反射した偏光が液晶素子18に向う向きにしてある。透過した偏光は、リフレクタ16で反射して液晶素子18に向ける。液晶素子18は、ワイヤーグリッド偏光板で反射された第1の偏光と、リフレクタ16で反射された第2の偏光を受ける。液晶素子18内で変調された偏光は、偏光板(検光子)20で変調された内容に応じて、透光されるべきセルは透光し、遮光されるべきセルは遮光する。透過光はレンズ22によって投影される。
【0040】
ところで、ワイヤーグリッド偏光板で反射し、液晶素子に入力する偏光の偏光軸と、ワイヤーグリッド偏光板を透過し、リフレクタで反射され、液晶素子に入力する偏光の偏光軸方向はほぼ直交している。従って、液晶素子内で2種類の偏光が受ける変調は全く異なるものになる。2種類の偏光が混在した状態で、所望の配向パターンを形成することは困難であろう。液晶素子内で所望の変調を行うためには2種類の偏光の向きを調整することが望ましい。ワイヤーグリッド偏光板の透過偏光と反射偏光とは偏光方向が直交する偏光であるので、一方の偏光の偏光軸を90度回転させれば同じ偏光軸方向を有するようになる。
【0041】
直線偏光を(1/2)λ位相差板の軸方向に対して45度の角度で入射すれば、偏光軸が90度回転した直線偏光が得られる。すなわち、直交する偏光軸方向を有する2つの偏光の一方を(1/2)λ位相差板を透過させることによって、同じ偏光軸方向とすることができる。
【0042】
図3Aと
図3Bとは、第1の実施例の、第1の例と第2の例による車両用灯具を示す概略的断面図である。
図2Aの構成同様、光源10はLED等の発光源で形成され、発光した光はコリメートレンズ11で平行光束化され、ワイヤーグリッド偏光板13を照射する。ワイヤーグリッド偏光板13で反射された光束は液晶素子18に向い、ワイヤーグリッド偏光板13を透過した光束はリフレクタ16で反射され、液晶素子18に向う。これらの両光束は、液晶素子18内で変調を受け、偏光板20によって変調の内容が顕在化され、配光パターンとなって投影レンズ22から投影される。
【0043】
第1の実施例においては、ワイヤーグリッド偏光板の透過光または反射光(いずれか一方)の光軸上に(1/2)λ位相差板14を配置して、偏光軸を90度回転させ、透過光の偏光軸と反射光の偏光軸の向きを揃える。
【0044】
図3Aにおいては、ワイヤーグリッド偏光板13の出力面に(1/2)λ位相差板14を貼り付け、透過光の偏光軸を90°回転させる。リフレクタ16で反射する光の偏光軸が90度回転し、ワイヤーグリッド偏光板13から反射する偏光と同じ偏光方向となる。従って、両偏光が液晶素子18内で受ける変調も同等になり、相乗的な出射光を得られる。液晶素子18から光量が増加した変調光が得られ、投影レンズ22の出力光も増加する。
【0045】
ワイヤーグリッド偏光板で反射された偏光L1も、ワイヤーグリッド偏光板を透過した偏光L2も光源を発してから液晶素子に入射するまでに、1回、同一向き(右向き)の反射を受けている。このため、光学的特性を揃えられるメリットが得られる。
【0046】
尚、反射は左向きとしてもよい。また、(1/2)λ位相差板14はワイヤグリッド偏光板13の出力面と液晶素子18の入力面との間に配置されればよい。例えば、破線で示すようにリフレクタ16と液晶素子18の入力面の間に配置してもよい。
【0047】
図3Bにおいては、ワイヤーグリッド偏光板13の反射面と液晶素子18の入力面との間に(1/2)λ位相差板14を配置する。ワイヤーグリッド偏光板13を透過する光はワイヤーグリッドWGのストライプ延在方向に直交する方向の電気ベクトルを有し、リフレクタで反射されて液晶素子18に向う。
【0048】
ワイヤーグリッド偏光板13のストライプ延在方向に平行な電気ベクトルを有する光はワイヤーグリッドで反射され、(1/2)λ位相差板14に入射する。(1/2)λ位相差板14が反射偏光の偏光軸を90度回転し、偏光軸方向をワイヤ延在方向に直交する方向にし、ワイヤーグリッド偏光板13の透過偏光と同じ偏光軸方向にして、液晶素子18に入射する。同じ偏光方向を有する2つの偏光が液晶素子18内で同等の変調を受け、出力光の光量が増加する。
【0049】
ワイヤーグリッド偏光板で反射された偏光L1も、ワイヤーグリッド偏光板を透過した偏光L2も光源を発してから液晶素子に入射するまでに、1回、同一向き(右向き)の反射を受けている。このため、光学的特性を揃えられるメリットが得られる。尚、反射は左向きとしてもよい。以下の実施例においてもこの点は同様である。
【0050】
なお、
図3Aに示した第1実施例の第1の例と、
図3Bに示した第1実施例の第2の例は、ワイヤーグリッド偏光板で形成される2種類の偏光の一方を、(1/2)λ位相差板を1回透過させることで、偏光軸を約90度回転させ、偏光軸方向を揃えた2種類の直線偏光とするものである。
【0051】
図4Aは、第2の実施例による車両用灯具を示す概略断面図である。光源10、コリメートレンズ11、ワイヤーグリッド偏光板13、リフレクタ16、液晶素子18、投影レンズ22は、
図3A,3Bの構成と同様である。本構成においては、(1/2)λ位相差板14に換え、ワイヤーグリッド偏光板13とリフレクタ16の間に1つの(1/4)λ位相差板15aを配置し、リフレクタ16と液晶素子18の間に他の1つの(1/4)λ位相差板15bを配置している。直列に配置された2つの(1/4)λ位相差板は、軸方向を揃えることにより、(1/2)λ位相差板の機能を果たす。従って、(1/4)λ位相差板15aと(1/4)λ位相差板15bとが協同して、(1/2)λ位相差板として機能し、
図3Aの構成と同等の効果を生じる。
【0052】
図4Bを参照して、直列に配置した2つの(1/4)λ位相差板の機能について分析する。(1/4)λ位相差板の軸方向をx軸、y軸に配置し、入射する直線偏光の偏光軸E1をx軸、y軸に対して45度の角度に配置する。入射した直線偏光が、最初の(1/4)λ位相差板に入射すると、偏光のx成分とy成分との間に(1/4)λの位相差が生じ(x成分が(1/4)λ遅れるとする)、位相差を有する2つの光成分は円偏光(図中中央の略図)を形成する。この円偏光が2つ目の(1/4)λ位相差板に入射すると、x成分がさらに(1/4)λ遅れ、2つの光成分は、偏光軸が90度回転した直線偏光E2を形成する。
【0053】
ところで、リフレクタが3次元構造の面を有する場合、反射面が種々の向きになるので直線偏光を3次元構造面で反射する場合偏光軸が種々に乱れる。円偏光の場合は、反射面の向きに拘わらず円偏光が反射する。反射の前に直線偏光を円偏光にし、反射の後に円偏光から直線偏光にすれば、偏光軸が揃った直線偏光を得ることができる。
【0054】
図5Aと
図5Bとは、第3の実施例の、第1の例と第2の例による車両用灯具を示す概略的断面図である。
図5Aにおいて、光源10から発した光はコリメートレンズ11によって平行光束化され、ワイヤーグリッド偏光板13に斜め入射し、ワイヤーグリッド偏光板13のストライプ状ワイヤーグリッドWGの延在方向に沿う方向に電気ベクトルを有する直線偏光成分は反射され、補助的偏光板19を透過して液晶素子18に入射する。
ワイヤーグリッド偏光板13を透過した、ワイヤーグリッド偏光板13のストライプ状ワイヤーグリッドWGの延在方向と直交する方向に電気ベクトルを有する直線偏光成分は、第1の(1/4)λ位相差板15aを透過して、円偏光に変化し、リフレクタ17aで反射され、第2の(1/4)λ位相差板15bを透過して、円偏光から(ワイヤーグリッド偏光板13を透過した直線偏光と位相が90度異なる)直線偏光に変化して(ワイヤーグリッド偏光板13で反射された直線偏光と同等の偏光軸を有する直線偏光となって)、補助的偏光板19を透過して液晶素子18に入射する。
リフレクタ17aは3次元的曲面を有する反射面であり、直線偏光が入射する場合、反射光の偏光軸は反射曲面の方向に応じて種々の方向を持ち得る。(1/2)λ位相差版を透過させて偏光軸を90度回転させても、ワイヤーグリッド偏光板13で反射した直線偏光の偏光軸からずれた偏光軸方向になりうる。液晶素子18の前に、補助的偏光板を配置すれば、液晶素子内の2種類の入射光の偏光軸は揃えられるが、損失は生じうる。円偏光は、3次元曲面で反射しても、円偏光を保ち、特性に変化は生じない。リフレクタ17aによる反射の前後に、(1/4)λ位相差板15a、(1/4)λ位相差板15bを配置すれば、円偏光として曲面における反射を行うので、特性の変化は生ぜず、トータルとして偏光軸を90度回転させることができる。
【0055】
図5Aにおけるリフレクタ17aは3次元的凹面で示され、入射光束を集束する機能を有する。
図5Bにおけるリフレクタ17bは3次元的凸面で示され、入射光束を発散させる機能を有する。なお、リフレクタは一部凹面一部凸面の形状であってもよい。
【0056】
前照灯システムとしては、例えば
図8Cの構成において、前照灯100として上述の単一光源、ワイヤーグリッド偏光板、リフレクタ、位相差板、液晶装置、投影レンズを含む車両用灯具を用い、配光制御ユニット、ドライバが、液晶装置の複数の制御領域を制御する構成とすればよい。なお、位相差板の位相差(1/2)λ、(1/4)λ等は、交差λ異なるものも含む概念であることは自明であろう。
【0057】
以上実施例に沿って説明したが、これらは本発明を制限するものではない。例えば光源として半導体発光ダイオード(LED)以外の発光体を用いることもできる。その他種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは、当業者に自明であろう。