(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルミニウムまたはアルミニウム合金製のチューブに対しろう付けされるアルミニウムフィンであって、ろう付け熱処理後の前記湯水洗親水性塗膜の水接触角が40°以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウムフィン。
前記ろう付け熱処理後の前記湯水洗親水性塗膜が、XPS分析によるナロースキャン分析に基づくピークシフト解析結果としてアルミニウムの酸化物もしくはアルミニウムの水和物を含む塗膜であることを特徴とする請求項3に記載のアルミニウムフィン。
ろう付け熱処理後のXPS分析によるナロースキャン分析に基づくピークシフト解析結果としてアルミニウムの酸化物もしくはアルミニウムの水和物を含む塗膜であることを特徴とする請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載の湯水洗親水性塗膜。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際の熱交換器と同じであるとは限らない。
【0020】
「第1実施形態」
図1は、コルゲートフィンを備えた第1実施形態の熱交換器30を示す正面図である。
第1実施形態の熱交換器30は、自動車用の熱交換器、ルームエアコンディショナーの室内・室外機用の熱交換器、あるいは、HVAC(Heating Ventilating Air Conditioning)用の室外機、などの用途に使用されるオールアルミニウム熱交換器である。
この第1実施形態の熱交換器30は、左右に離間して平行に立設配置されたヘッダーパイプ31、32と、これらのヘッダーパイプ31、32の間に相互に間隔を保って平行に、かつ、ヘッダーパイプ31、32に対して直角に接合された複数の扁平状のチューブ33と、各チューブ33に付設された波形のフィン(コルゲートフィン)34を主体として構成されている。ヘッダーパイプ31、32、チューブ33及びフィン34は、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されている。
【0021】
ヘッダーパイプ31、32の相対向する側面に複数のスリット36が各パイプの長さ方向に定間隔で形成され、これらヘッダーパイプ31、32の相対向するスリット36にチューブ33の端部を挿通してヘッダーパイプ31、32間にチューブ33が架設されている。また、ヘッダーパイプ31、32間に所定間隔で架設された複数のチューブ33、33の間にフィン34が配置され、これらのフィン34がチューブ33の表面側あるいは裏面側にろう付けされている。
【0022】
図2に示す如く、ヘッダーパイプ31、32のスリット36に対してチューブ33の端部を挿通した部分においてろう材により第1のフィレット部38が形成され、ヘッダーパイプ31、32に対しチューブ33がろう付けされている。また、波形のフィン34において波の頂点の部分を隣接するチューブ33の表面または裏面に対向させてそれらの間の部分に生成されたろう材により第2のフィレット部39が形成され、チューブ33の表面側と裏面側に波形のフィン34がろう付けされている。
フィン34は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる板状の基材34aと、基材34aの全面(表面と裏面及び両側面)に付着された親水性皮膜35aを有している。
【0023】
本実施形態の熱交換器30は、ヘッダーパイプ31、32とそれらの間に架設された複数のチューブ33と複数のフィン34とを組み付けて
図3に示す如く熱交換器組立体41を形成し、これを加熱してろう付けすることにより製造されたものである。なお、ろう付け時の加熱によってチューブ33の表面側と裏面側にはZn溶融拡散層(犠牲陽極層)42が形成されている。
【0024】
以下、熱交換器30の主な構成要素についてより詳細に説明する。
<フィンの基材>
フィン34の基材34aは、JIS1050系などの純アルミニウム系あるいはJIS3003系のアルミニウム合金を主体とした合金からなる。また、基材34aは、JIS3003系のアルミニウム合金に質量%で2%程度のZnを添加したアルミニウム合金からなるものであっても良い。
【0025】
フィン34の基材34aは、チューブ33の孔食電位よりも卑の孔食電位となる材料を用いることが好ましい。チューブ33の腐食に伴う孔食は冷媒の漏れ出しにつながるおそれがある。フィン34の基材34aの孔食電位をチューブ33の孔食電位より卑とすることで、フィン34の基材34aが優先的に腐食しチューブ33に孔食が生じることを遅延させることができる。
基材34aは、前記アルミニウム合金を常法により溶製し、熱間圧延工程、冷間圧延工程、プレス工程などを経て加工される。なお、基材34aの製造方法は、本発明において特に限定されるものではなく、既知の製法を適宜採用することができる。
【0026】
<親水性皮膜>
フィン34はその基材34aの全面に親水性皮膜35aが付着されている。この親水性皮膜35aは、アルミン酸塩またはアルミン酸塩を主成分とする親水性塗膜を湯洗または水洗した湯水洗親水性塗膜をろう付け熱処理した皮膜からなる。
この親水性皮膜35aは、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム(AlKO
3)、アルミン酸カルシウム(Ca(AlO
2)
2)などのアルミン酸塩と、これらアルミン酸塩にアクリル樹脂、無機コロイド液などの添加剤を必要に応じて添加した湯水洗親水性塗膜形成用塗料を用いて製造する。この湯水洗親水性塗膜形成用塗料を基材34aの外面に塗布して乾燥させ、親水性塗膜を形成し、この親水性塗膜を湯洗または水洗して湯水洗親水性塗膜35とした後、ろう付け熱処理を経ることで親水性皮膜35aを得ることができる。アルミン酸ナトリウムとして、二酸化ナトリウムアルミニウム(NaAlO
2)、テトラヒドロキシドアルミン酸ナトリウム(Na[Al(OH)
4])などを用いることができる。
【0027】
図3に示すようにろう付け前にフィン34の外面に塗布する湯洗または水洗前の親水性塗膜の塗布量として、ろう付け後に優れた水接触角を示し、良好なろう付け性を得るためには30〜3000mg/m
2の範囲を選択することができる。なお、湯水洗前の塗布量が上述の範囲内であっても特に優れた水接触角とろう付け性を両立するためには50〜2000mg/m
2の範囲の塗布量とすることが好ましい。
なお、アルミン酸塩を主成分とするとは、塗膜の50質量%以上がアルミン酸塩からなることを意味する。この範囲であっても、塗膜質量の80質量%以上、より好ましくは85質量%以上がアルミン酸塩であることが望ましい。勿論、後述する添加剤を含有させない場合は、塗膜の100%がアルミン酸塩であっても良い。
アルミン酸塩またはアルミン酸塩を主成分とする塗膜を湯洗または水洗した湯水洗親水性塗膜35であるならば、後述するろう付け工程において600℃前後の加熱を受けたとしても、ろう付け後に必要な親水性を発揮する親水性皮膜35aを得ることができる。
【0028】
湯洗は、加温した水(湯)、例えば30〜90℃程度の湯を用いることができる。湯水洗とは加温しているか加温していない液体状のH
2Oを使用した洗浄を意味し、例えば、常温またはそれより高い如何なる温度のH
2Oも用いることができる。また、洗浄に用いる湯水は、不純物や少量(例えば、1重量%以下)の界面活性剤が含まれていてもよく、pH10以下のアルカリ性水溶液であってもよい。
湯洗または水洗の方法としては、高圧水を用いてスプレーで洗浄する方法、水洗槽(水槽)の中を潜らせること(浸漬)により洗浄する方法など、種々の方法を用いることができる。なお、湯水または水に浸漬することにより洗浄を行う場合、湯洗槽中または水槽中に洗浄により塗布膜から除去された物質が多量に溶解した状態になると、湯洗中または水洗中のフィンに塗布膜の成分が再付着してしまうおそれがあるため、洗浄中は、必要に応じて新水を湯洗槽または水洗槽に補給するなどの措置を行い、水質を保つことが望ましい。
【0029】
湯水洗親水性塗膜35において、アルミン酸塩の他に添加物を配合する場合、アクリル樹脂、無機コロイド粒子などを5質量%〜40質量%程度添加することができる。
また、アルミン酸塩またはアルミン酸塩を主成分とする塗膜から得られた湯水洗親水性塗膜35であるならば、ろう付け工程において600℃前後に加熱される熱処理を経た後であっても親水性皮膜35aの変色が少なく、アルミニウムまたはアルミニウム合金本来の金属光沢を備えた外観の美しいフィン13を提供できる。湯水洗親水性塗膜35においてろう付け熱処理後の変色が少ないとは、ろう付け後に色差計にて測定される色彩値が、L:70〜100、a:−3〜+5、b:−3〜+10の範囲を満たすことを意味する。湯水洗親水性皮膜35aの色彩値がこの範囲内であれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金本来の金属光沢を備えたフィン34の外観を損なうことがない。
【0030】
<<チューブ>>
図3に示すように、ろう付け前のチューブ33は、その上面33Aと下面33Bに形成されたろう付用塗膜37を有している。チューブ33は、例えば、その内部に複数の冷媒通路33Cが形成された偏平多穴管である。また、チューブとしてはアルミニウム合金ブレージングシートを折り曲げて成形する事で作製した管も使用する事ができる。
チューブ33は、例えば、JIS1050系などの純アルミニウム系あるいはJIS3003系のアルミニウム合金を主体とした合金からなる。一例として、Si:0.10〜0.60%、Fe:0.1〜0.6質量%、Mn:0.1〜0.6質量%、Ti:0.005〜0.2質量%、Cu:0.1質量%未満、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を押出しすることにより作製されたものである。
チューブ33は、ろう付け工程を経て
図2に示すように形成されたフィレット部38、39、並びにフィン34の基材34aの孔食電位よりも貴の孔食電位となる材質を用いることが好ましい。これにより、チューブ33の腐食が開始される前にフィレット部38、39、基材34aの腐食が開始され、チューブ33の腐食を遅延させることができる。
【0031】
図3に示すろう付け前のチューブ33に形成されているろう付用塗膜37は、少なくともフィン34がろう付け接合される部分に対応して塗布された塗膜である。ろう付用塗膜37の組成は、Si粉末:1.0〜5.0g/m
2と、Zn含有フッ化物系フラックス(KZnF
3):3.0〜20.0g/m
2と、バインダ(例えば、アクリル系樹脂):0.5〜8.5g/m
2からなる配合組成のろう付用塗膜であることが好ましい。
【0032】
以下、ろう付用塗膜37を構成する組成物について説明する。
<Si粉末>
Si粉末は、チューブ33を構成するAlと反応し、フィン34とチューブ33を接合するろうを形成するが、ろう付け時にZn含有フラックスとSi粉末が溶融してろう液となる。
このろう液にフラックス中のZnが均一に拡散し、チューブ33の表面と裏面に均一に広がる。液相であるろう液内でのZnの拡散速度は固相内の拡散速度より著しく大きいので、これによりチューブ表面と裏面に均一なZn拡散がなされ、チューブ表面と裏面の面方向のZn濃度がほぼ均一となる。また、チューブ33の表面から深さ方向への拡散について見ると、SiはAlと共晶となって融点を下げるので、チューブ33の表面では共晶組成となった状態にZnが拡散しチューブ33の表面に所定厚さのZn溶融拡散層42が生成する。このZn溶融拡散層42の生成によりチューブ33の耐食性を向上できる。
【0033】
<Si粉末塗布量:1.0〜5.0g/m
2>
Si粉末の塗布量が1.0g/m
2未満であると、ろう形成が不十分となるおそれがあり、塗布量が5.0g/m
2を超えると、チューブの溶融量が増加してチューブの肉厚が減少して、好ましくない。このため、ろう付用塗膜37におけるSi粉末の含有量は1.0〜5.0g/m
2とすることが好ましい。
<Si粉末粒度:最大粒径:D(99):30μm以下>
Si粉末の粒度がD(99)において30μm以下であれば、均一なZn溶融拡散層42を形成することが可能である反面、30μmを超えると、局部的に深いエロージョンが生成し、均一なZn溶融拡散層42を形成できなくなるおそれがある。このため、Si粉末の粒度は、最大粒径D(99)において30μm以下が好ましい。なお、D(99)とは、体積割合で小さい粒から累積し、全体の99%となる粒の粒径のことである。これらの値は、いずれもレーザ光散乱法で測定することができる。
【0034】
<Zn含有フラックス、非Zn含有フラックス>
Zn含有フラックスは、ろう付けに際し、チューブ33の表面にZn溶融拡散層42を形成し、耐孔食性を向上させる効果がある。また、ろう付け時にチューブ33の外面の酸化膜を破壊し、ろうの広がり、ぬれを促進してろう付け性を向上させる作用を奏する。このZn含有フラックスは、Znを含まないフラックスに比べ活性度が高いので、比較的微細なSi粉末を用いても良好なろう付け性が得られる。Zn含有フラックスは、KZnF
3、ZnF
3、ZnCl
2のうち、1種または2種以上を用いることができる。Zn含有フラックスに対し、非Zn含有フラックスを添加しても良い。
【0035】
非Zn含有フラックスとしてフッ化物系フラックスあるいはフルオロアルミン酸カリウム系のフラックスはKAlF
4を主成分とするフラックスであり、添加物を加えた種々の組成が知られている。K
3AlF
6+KAlF
4なる組成のもの、Cs
(x)K
(y)F
(z)などを例示できる。他に、LiF、KF、CaF
2、AlF
3、K
2SiF
6等のフッ化物を添加したフッ化物系フラックス(例えば、フルオロアルミン酸カリウム系のフラックス)を用いることもできる。Znフラックスに加えてフッ化物系フラックス(例えばフルオロアルミン酸カリウム系のフラックス)を添加することでろう付け性向上に寄与する。
【0036】
<フラックス塗布量:3.0〜20g/m
2>
Zn含有フッ化物系フラックスの塗布量が3.0g/m
2未満であると、熱交換器30とした場合の電位差が低くなり、犠牲効果が発揮されないおそれがある。また、チューブ33(被ろう付け材)の表面酸化皮膜の破壊除去が不十分なためにろう付け不良を招くおそれがある。一方、塗布量が20m
2を超えると、電位差が過大となり、腐食速度が増加し、Zn溶融拡散層42の存在による防食効果が短時間になるおそれがある。このため、Zn含有フッ化物系フラックスの塗布量を3.0〜20g/m
2とすることが好ましい。Zn含有フッ化物系フラックスは、一例としてKZnF
3を用いることができる。前述の非Zn含有フラックスは、Zn含有フラックスに加えて添加することができる。
【0037】
<バインダ塗布量:0.5〜8.5g/m
2>
ろう付用塗膜37には、Si粉末、Zn含有フッ化物系フラックスに加えてバインダを含むことができる。バインダの一例として、アクリル系樹脂を挙げることができる。
バインダはZn溶融拡散層42の形成に必要なSi粉末とZn含有フラックスをチューブ33の表面と裏面に固着する作用があるが、バインダの塗布量が0.5g/cm
2未満であると、ろう付け時にSi粉末やZnフラックスがチューブ33から脱落し、均一なZn溶融拡散層42が形成されないおそれがある。一方、バインダの塗布量が8.5g/cm
2を超えると、バインダ残渣によりろう付け性が低下し、均一なZn溶融拡散層42が形成されないおそれがある。このため、バインダの塗布量は、0.5〜8.5g/m
2とすることが好ましい。なお、バインダは、通常、ろう付けの際の加熱により蒸散する。
【0038】
Si粉末、フラックス及びバインダからなるろう付用塗膜37の形成方法は、本実施形態において特に限定されるものではなく、スプレー法、シャワー法、フローコータ法、ロールコータ法、刷毛塗り法、浸漬法、静電塗布法などの適宜の方法によって行うことができる。
【0039】
<<ヘッダーパイプ>>
ヘッダーパイプ31、32を構成するアルミニウム合金は、Al−Mn系をベースとしたアルミニウム合金が好ましい。
例えば、Mn:0.05〜1.50%を含有することが好ましく、他の元素として、Cu:0.05〜0.8%、Zr:0.05〜0.15%を含有することができる。
【0040】
<<製造方法>>
上述したフィン34及びチューブ33を備えた熱交換器30の製造方法の一例について以下に説明する。
まず、チューブ33とフィン34を用意する。フィン34については、基材34aの少なくとも表面と裏面に塗布法で親水性塗膜を形成し、湯洗または水洗することにより湯水洗親水性塗膜35を形成しておく。
上述のアルミン酸塩あるいはアルミン酸塩を主成分として含む塗膜は、湯洗または水洗することによりその膜厚の大部分が除去され、厚さ10nm〜500nm程度の極薄い湯水洗親水性塗膜35が残留する。この湯洗親水性塗膜35は、XPS分析(X線光電子分光分析)による分析によると、アルミン酸ナトリウムなどのアルミン酸塩を構成する金属成分、例えば、アルミン酸ナトリウムにおいてはナトリウムがほぼ消失し、アクリル樹脂を添加剤とした場合はアクリル樹脂の炭素がほぼ消失し、SiO
2換算で50nm程度の膜厚の残留した塗膜を意味する。この残留分の塗膜にはアルミニウムの水和物または酸化物と酸素が存在していることがXPS分析から判明している。このため、湯水洗親水性塗膜35はアルミニウム水和物またはアルミニウム酸化物と酸素からなる極めて薄い塗膜であると推定できる。
【0041】
図3に示すように、フィン34との接合面にろう付用塗膜37を塗布したチューブ33を使用して、ヘッダーパイプ31、32、チューブ33及びフィン34を組み立てて熱交換器組立体41を構成する。チューブ33の両端を左右のヘッダーパイプ31、32に設けたスリット36に挿入し、チューブ33の上下にコルゲート型のフィン34が位置するように組み付ける。コルゲート型のフィン34はその波形の頂点部分をチューブ33の上面あるいは下面に接するように配置される。
【0042】
次に、ろう付用塗膜35の融点以上の温度、例えば580〜620℃に加熱炉において数分間程度加熱するろう付け工程を行う。加熱によって、チューブ33に形成されたろう付用塗膜37が溶融し、ろう液となる。このろう液は、毛管力によりフィン34の頂点部分とチューブ33の上面あるいは下面の間の隙間に流れ、これらの隙間を満たす。続いて、冷却することで、
図2に示すように、ろう液が固化し第1のフィレット部38と第2のフレット部39が形成される。これらのフィレット部38、39により、ヘッダーパイプ31、32とチューブ33とフィン34とが接合される。
【0043】
ろう付けの際の熱処理条件は特に限定されない。一例として、加熱炉内を窒素雰囲気とし、熱交換器組立体41を昇温速度5℃/分以上でろう付温度(実体到達温度)580〜620℃に加熱し、ろう付け温度で30秒以上保持し、ろう付け温度から400℃までの冷却速度を10℃/分以上として冷却してもよい。
【0044】
ろう付けに際し、不活性雰囲気などの適切な雰囲気で適温に加熱して、ろう付用塗膜37を溶融させる。この場合、フラックスの活性度が上がって、フラックス中のZnがチューブ33の肉厚方面に拡散するのに加え、ろう材及びチューブの双方の表面の酸化皮膜を破壊してろう材とチューブの間の濡れを促進する。
ろう付けに際し、チューブ33を構成するアルミニウム合金のマトリックスの一部がろう付用塗膜37の組成物と反応してろうとなって、チューブ33とフィン34がろう付けされる。チューブ34の上面表層部と下面表層部ではろう付けによってフラックス中のZnが拡散してチューブのZn非拡散部分よりも卑になったZn溶融拡散層(犠牲陽極層)42が形成される。
チューブ表面側または下面側でZnの拡散を受けている領域がチューブ33の肉厚方向の内部側(Znの拡散を受けていない領域)よりも卑になる。ここで、チューブ33の肉厚方向の内部側とは溶融拡散層42が形成されているチューブ33の表面層領域あるいは裏面層領域よりチューブ33の肉厚方向に深い領域を示す。
【0045】
フィン34の全面に塗布されているアルミン酸塩またはアルミン酸塩を主成分とする塗膜を湯洗した湯水洗親水性塗膜35は、ろう付け熱処理時の加熱によって多少変質するがその大部分は残留し、親水性皮膜35aが生成される。
このため、ろう付け熱処理後の親水性被膜35aに対し、XPS分析によるナロースキャン分析に基づくピークシフト解析結果をとると、アルミニウムの酸化物もしくはアルミニウムの水和物を含む塗膜であることがわかる。
【0046】
<<効果>>
本実施形態の構造によれば、良好なろう付けがなされ、チューブ33とフィン34との間に十分なサイズのフィレット部38、39が形成される。
これらのフィレット部38、39は、チューブ33のZn非拡散部分及びフィン34よりも孔食電位が卑となっている。したがって、チューブ33のZn非拡散部分及びフィン34と比較して優先的に腐食し、チューブ33及びフィン34の孔食を遅延させることができる。また、これらの腐食の次にZn溶融拡散層42が面食の状態で腐食するのでチューブ33に孔食が生じることを抑制できる。
【0047】
図2に示すろう付け後のフィン34には、ろう付け時の熱処理工程を経た親水性皮膜35aが形成されているので、フィン34の親水性を高くすることができる。したがって、親水性皮膜35aは、熱交換器30の組み立て前にフィン34の基材34aに予め形成するプレコート工程により形成できる。ろう付け後にポストコートで親水性皮膜を別途形成する工程は不要となるために、製造工程を簡素化した熱交換器30を提供できる。
また、アルミン酸塩またはアルミン酸塩を主成分とする塗膜を湯洗または水洗した湯水洗親水性塗膜35は、ろう付け工程を経て600℃前後に加熱された後であっても変色が少ない。このため、金属光沢を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金からなるフィン34の美観を損なうことがない。
【0048】
上述した実施形態においては、ろう付けするためのろう付用塗膜37をチューブ33の表面または裏面などの外面に設けた構造を採用したが、ろう付用塗膜37を略し、チューブ33とフィン34のろう付け接合予定部分の周囲に置きろうを配し、置きろうを用いてろう付けした構造を採用しても良い。
ろう付け時の加熱により置きろうを溶融させてチューブ33とフィン34との境界部分に溶融状態のろうを行き渡らせることでチューブ33とフィン34をろう付け接合しても良い。
【0049】
また、フィン34を芯材層とろう材層からなる2層構造のブレージングシートで構成し、チューブ33にはろう付用塗膜37を設けていない構造を採用してもよい。
この場合、ブレージングシートのろう材層を設けていない側の面または両面に上述の親水性皮膜35aを設けることができる。あるいは、芯材層の両面にろう材層を有する3層構造のブレージングシートからフィン13を構成することもできる。
【0050】
ブレージングシートを用いる場合に、一例として、芯材層が、質量%でZn:4%以下、Mn:0.5〜2.0%、Si:1.3%以下、Fe:0.25%以下、Cu:0.5%以下を含有し、残部Al及び不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなり、ろう材層が、質量%でSi:5.0−13.0%を含有し、残部Al及び不可避不純物の組成を有するアルミニウム合金からなる組合せを例示することができる。
【0051】
「第2実施形態」
図4〜
図7は本発明に係る第2実施形態の熱交換器を示すもので、この第2実施形態の熱交換器11は、
図4に示すように左右に離間し平行に配置された一対のヘッダ管14と、一対のヘッダ管14の間に上下に相互に間隔を保って平行に、かつ、ヘッダ管14に対してほぼ直角に接合された複数本の偏平型のチューブ22と、これらチューブ22を構成する管体12の外面(上面又は下面)12bにろう付けされ、外気に熱を放散する複数枚のフィン(アルミニウムフィン)13と、を備えている。左右一対のヘッダ管14のうち一方の上端部には、ヘッダ管14を介しチューブ22に冷媒を供給する供給管15が接続されている。また、他方のヘッダ管14の下端部には、チューブ22を経由した冷媒を回収する回収管16が接続されている。チューブ22、フィン13、ヘッダ管14、供給管15、回収管16は、いずれもアルミニウム又はアルミニウム合金から構成されている。
【0052】
図5は、チューブ22の長さ方向に直交する面に沿って横断面をとった熱交換器11の部分断面図である。
図5に示すように、チューブ22を構成する管体12の内部には幅方向に沿って並ぶ複数(本実施形態では6つ)の冷媒流路12aが形成されている。また、
図5に示すようにフィン13には、チューブ22の断面形状に対応する形状の切り欠き部19が、上下に所定の間隔をあけて複数形成されている。これらの切り欠き部19には、それぞれチューブ22が嵌合され、個々のチューブ22がろう付けによりフィン13に固定されている。
【0053】
図6、
図7は、熱交換器11においてチューブ22の長さ方向に沿って縦断面をとった部分断面図であり、
図6はろう付け工程前の状態を示し、
図7はろう付け工程後の状態を示す。フィン13は、チューブ22の長さ方向に沿って複数枚、並列配置されるとともに、個々の切り欠き部19にチューブ22が挿通されている。複数のフィン13は、一定の間隔をおいて相互に平行に並列配置されている。フィン13は、切り欠き部19の周縁部にチューブ22の外面12bに沿ってフィン13の厚さ方向一側に屈曲した屈曲部20を有している。屈曲部20は、例えば、バーリング加工により形成されている。
【0054】
チューブ22とフィン13は、一定間隔に並べた複数のフィン13をチューブ22が串刺し貫通するように配置され、フィン13の切り欠き部19内にチューブ22が嵌合され、フィン13とチューブ22が個々にろう付けにより固定されている。
図6に示すろう付け前の状態において、フィン13の切り欠き部19に形成された屈曲部20とチューブ22の上面または下面との隙間は10μm以下程度とすることが好ましい。この隙間が大きすぎる場合は、後述するろう付け工程において溶融したろうの回り込み量が不足し、ろう付け不良を引き起こすおそれがある。
本実施形態のフィン13は、切り欠き部19に対しチューブ22を挿通させているが、切り欠き部19に代えてフィン13にスリット状の貫通孔を設け、貫通孔にチューブ22を挿通させた構成としても良い。
【0055】
以下、熱交換器11の主な構成要素についてより詳細に説明する。
<<フィン>>
フィン13は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる板状の基材3と、基材3の第1の面3a及び第2の面3bのほぼ全面とそれら以外の側面に設けられた親水性皮膜1とを有している。
基材3は、先の第1実施形態の熱交換器30における基材34aと同等のアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。
基材3は、チューブ22を構成する管体12の孔食電位よりも卑の孔食電位となる材質を用いることが好ましい。管体12の腐食に伴う孔食は冷媒の漏れ出しにつながるおそれがある。基材3の孔食電位を管体12の孔食電位より卑とすることで、フィン13が優先的に腐食し管体12に孔食が生じることを遅延させることができる。
【0056】
<親水性皮膜>
フィン13は、基材3の第1の面3a及び第2の面3bのほぼ全面に、親水性皮膜1aを有している。親水性皮膜1aは、アルミン酸塩またはアルミン酸塩を主成分とする塗膜を湯洗した
図6に示す湯水洗親水性塗膜1に対し、ろう付けに伴う熱処理を経て得られる。湯水洗親水性塗膜1は、先に説明した第1実施形態の熱交換器30に適用された湯水洗親水性塗膜35と同等の材料からなる。この親水性皮膜1aは先の第1実施形態の熱交換器30に適用された親水性皮膜35aの場合と同様に湯水洗親水性塗膜1を形成した後、ろう付け熱処理を経ることで得られた親水性皮膜である。
【0057】
<<チューブ>>
図6に示すように、ろう付け前のチューブ22は、管体12と、管体12の外面(上面または下面)12bに形成されたろう材層5を有している。管体12は、
図5に示すようにその内部に複数の冷媒流路12aが形成されたアルミニウムまたはアルミニウム合金製の偏平多穴管である。
管体12は、例えば、先に説明した第1実施形態のチューブ33と同等材料からなる。
管体12は、
図7に示すようにろう付け工程を経て形成されたフィレット5A、並びにフィン13の基材3の孔食電位よりも貴の孔食電位となる材質を用いることが好ましい。これにより、管体12の腐食が開始される前にフィレット5A及びフィン13の基材3の腐食が開始され、管体12の腐食を遅延させることができる。
【0058】
図6に示すろう付け前のチューブ22の管体12には、フィン13が接合される外面12bの一部に、第1実施形態のろう付用塗膜37と同等材料からなるろう材層5が塗布されている。
図6に示すろう付け前の熱交換器11において、チューブ22のろう材層5は、フィン13の屈曲部20のチューブ22と対向する部分(対向面20a)とチューブ22との間に位置する。ろう材層5は、600℃前後の加熱(ろう付け工程)後に冷却されることで、対向面20aとチューブ22との間に満たされた状態で固化し、
図7に示すようにフィレット5A(ろう材層)となり、フィン13とチューブ22をろう付け接合する。
【0059】
図5に示すように、管体12の外面12bは、平坦な表面(上面)6A及び裏面(下面)6Bと、これら表面6A及び裏面6Bに隣接する第1の側面6C及び第2の側面6Dとからなる。第1の側面6Cは、フィン13の切り欠き部19の開口側に位置し外部に開放されている。第2の側面6Dは、第1の側面6Cの反対側に位置し切り欠き部19に囲まれて配置されている。
ろう材層5は、一例として、管体12の外面12bのうちフィン13と当接する領域に、即ち、管体12の表面6Aと裏面6Bに形成されている。また、ろう付け後の管体12の表面6A、裏面6B、ろう材層5に含まれていたSiとZnがろう付け温度で管体12側に拡散し、管体12の表層部にSiとZnを含む犠牲陽極層が形成される。
【0060】
<<製造方法>>
上述したフィン13及びチューブ22を備えた熱交換器11の製造方法の一例について以下に説明する。
まず、チューブ22、及びフィン13、を用意する。フィン13は、基材3の第1の面3a及び第2の面3bを含めて全面に塗布法や浸漬法などにより塗膜を形成し、これを湯洗または水洗して湯水洗親水性塗膜1を形成しておく。
フィン13には、切り欠き部19とその周縁の屈曲部20とが形成されている。また、チューブ22として、管体12の外面12bの一部に予めろう材層5が形成されたものを用意する。ろう材層5の形成範囲は、管体12の上面と下面と側面においてフィン13と接合する領域全域をカバーする範囲が望ましい。
次に、
図3に示すように、複数枚のフィン13を並列に配置し、切り欠き部19にチューブ22を挿通する。
【0061】
次に、ろう材層5の融点以上の温度、例えば580〜620℃に加熱炉において数10秒〜数分程度加熱するろう付け工程を行う。加熱によって、管体12の外面12bに形成されたろう材層5が溶融し、ろう液となる。このろう液は、毛管力によりフィン13の屈曲部20の対向面20aと管体12の外面12bの間の隙間に流れ、隙間を満たす。続いて、冷却することで、
図7に示すように、ろう液が固化しフィレット5A(ろう材層)を形成する。このフィレット5Aにより、チューブ22とフィン13とが接合される。
【0062】
ろう付けに際し、不活性雰囲気などの適切な雰囲気で適温に加熱して、ろう材層5を溶融させる。この場合、フラックスの活性度が上がって、フラックス中のZnが被ろう付け材(フィン13の基材3)の肉厚方面に拡散するのに加え、ろう材及び被ろう付け材の双方の表面の酸化皮膜を破壊してろう材と被ろう付け材との間の濡れを促進する。
ろう付けに際し、チューブ22の管体12を構成するアルミニウム合金のマトリックスの一部がろう材層5の組成物と反応してろうとなって、チューブ22の管体12とフィン13がろう付けされる。管体12の上面表層部と下面表層部ではろう付けによってフラックス中のZnが拡散して管体12内側よりも卑になった犠牲陽極層が形成される。
【0063】
フィン13の全面に塗布されているアルミン酸塩またはアルミン酸塩を主成分とする塗膜から湯洗により得られた湯水洗親水性塗膜1は、ろう付け熱処理時の加熱によって親水性皮膜1aとなる。
【0064】
<<効果>>
本実施形態の構造によれば、良好なろう付けがなされ、管体12とフィン13との間に十分なサイズのフィレット5A(ろう材層)が形成される。
このフィレット5Aは、管体12及びフィン13よりも孔食電位が卑となっている。したがって、管体12及びフィン13と比較して優先的に腐食し、管体12及びフィン13の孔食を遅延させることができる。
【0065】
なお、チューブ22のろう材層5を溶融、固化させてフィン13とチューブ22を接合する工程において、同時に、チューブ22にヘッダ管14をろう付け接合することが好ましい。
【0066】
図7に示すろう付け後のフィン13には、ろう付け時の熱処理工程を経た親水性皮膜1aが形成されているので、フィン13の親水性を高くすることができる。したがって、親水性皮膜1aは、熱交換器11の組み立て前にフィン13の基材3に予め形成するプレコート工程により形成できる。ろう付け後にポストコートで親水性皮膜を別途形成する工程は不要となるために、製造工程を簡素化した熱交換器11を提供できる。
また、アルミン酸塩またはアルミン酸塩を主成分とする塗膜から湯洗または水洗により得られた湯水洗親水性塗膜1はろう付け工程を経て600℃前後に加熱されて親水性皮膜1aとなった後であっても変色が少なく、金属光沢を有するアルミニウムまたはアルミニウム合金製のフィン13の美観を損なうことがない。
【0067】
上述した実施形態においては、ろう付けするためのろう材層5をチューブ22の表面または裏面などの外面に設けた構造を採用したが、ろう材層5を略し、チューブ22とフィン13のろう付け接合予定部分の周囲に置きろうを配し、置きろうを用いてろう付けした構造を採用しても良い。
ろう付け時の加熱により置きろうを溶融させてチューブ22とフィン13との境界部分に溶融状態のろうを行き渡らせることでチューブ22とフィン13をろう付け接合しても良い。
【0068】
また、フィン13を芯材層とろう材層からなる2層構造のブレージングシートで構成し、チューブ22にろう材層を設けない構造を採用してもよい。
この場合、芯材層の片面または両面に上述の親水性皮膜1aを設けることができる。あるいは、芯材層の両面にろう材層を有する3層構造のブレージングシートからなるフィン13を構成することもできる。
【0069】
「第3実施形態」
図8は、
図4〜
図7を基に先に説明したプレートフィン型の熱交換器11において、親水性皮膜1aをフィン13の両面側ではなく、片面側のみに設けた第3実施形態の熱交換器21を示す。
この実施形態の熱交換器21においては、複数相互に間隔をあけて配列されたフィン13の相対向する2面のうち、一面側にのみ親水性皮膜1aが設けられている。
この第3実施形態の構造においてフィン13どうしの間隔は例えば数mm程度で小さいので、これらフィン13、13の間に水滴が生成され、水滴がフィン13、13間の隙間を閉じようとした場合に、水滴が一面側の親水性皮膜1aに触れるのでフィン13に沿って水滴を下降させることができ、フィン13、13の間から水滴を排除できる機能を十分に発揮させることができる。
【0070】
第3実施形態の熱交換器21においても、先の第2実施形態の熱交換器11と同様にフィン13に親水性皮膜1aを設けて優れた親水性を得ることができる。このため、フィン13の周囲の隙間に水滴が付着しようとした場合であっても水滴をフィン13、13の隙間に留めておくことなく容易に排除できる。従って、フィン間の隙間を水滴で塞ぐことが無くなり熱交換器21の効率低下を引き起こすことがない。
また、フィン13に形成したアルミン酸塩またはアルミン酸塩を主成分とする塗膜を湯洗または水洗した湯水洗親水性塗膜1はろう付け工程を経て600℃前後に加熱された後の親水性皮膜1aとなっても変色が殆ど生じない。このため、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されて金属光沢を有するフィン13の美観を損なうことがない。
【0071】
ところで、これまで説明した実施形態では、上述のフィン34の基材34aに塗布した親水性塗膜35を湯洗または水洗して湯水洗親水性塗膜とした後、ろう付け熱処理した親水性皮膜35aを用いた構成について説明した。しかし、湯洗または水洗していない親水性塗膜をそのまま親水性皮膜として用いても良いは勿論である。また、ろう付け熱処理を経ないタイプの熱交換器のフィンに湯洗または水洗していない親水性塗膜35を適用しても良いのは勿論である。
即ち、上述のアルミン酸塩を主成分とする組成の親水性塗膜35は湯洗または水洗しなくとも優れた親水性を有しているので、親水性塗膜35をそのまま最終的な親水性塗膜としてフィンに形成しても良い。
【0072】
熱交換器において、フィンとチューブを接合する場合、拡管プラグにより拡散することでフィンとチューブを機械的に接合し、熱交換器を構成するタイプが知られている。このタイプの熱交換器の場合、フィンを複数枚間隔をあけて配置し、複数のフィンに形成した透孔を串刺しするようにストレートパイプ状のチューブを挿通し、チューブに拡管プラグを挿入して拡管し、フィンとチューブを接合する。拡管後にU字管で隣接するチューブの端部同士を連結して管路を構成することで熱交換器を構成できる。
このタイプの熱交換器では、ろう付け熱処理がなされないので、上述のアルミン酸塩またはこれを主成分とする親水性塗膜を親水性皮膜としてそのまま用いることができる。勿論、これを更に湯洗または水洗して湯水洗親水性塗膜としたものを親水性皮膜として用いても良い。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<<サンプルの作製>>
Si:0.9質量%、Mn:1.2質量%、Zn:1.5質量%を含み、残部不可避不純物とAlとからなる波板状の基材の表裏面に対し、以下の表1に示す主成分の塗料を表1に示す塗布量(塗膜量)で塗布して塗布膜を形成し、これらを60℃の湯で10秒間洗浄して以下の表1に示すNo.1〜No.17のコルゲート型のアルミニウムフィンを作成した。表1のNo.18のコルゲート型フィンは塗膜を形成していないフィンである。
また、表1のNo.19〜27のコルゲート型アルミニウムフィンは、湯洗していない塗膜を備えた試料である。
表1に示すNo.1〜No.8の試料、No.11〜17、19〜27の試料の塗膜は乾燥した塗膜の状態で各成分が100%である。No.10の試料は主成分のアルミン酸塩の他に30質量%のアクリル樹脂を含む塗膜である。No.11の試料は主成分のアルミン酸塩の他に無機コロイド粒子(アルミナ分散液、アルミ1水和物分散液由来)を塗膜中に30質量%む試料である。
【0074】
【表1】
【0075】
次に、Si:0.4質量%、Mn:0.3質量%を含み残部不可避不純物とAlからなるチューブ用アルミニウム合金を溶製し、このアルミニウム合金から押出加工により、横断面形状が扁平状の熱交換器用アルミニウム合金の偏平多穴管(肉厚0.26mm×幅17.0mm×全体厚1.5mm)を得た。
さらに、この偏平多穴管の表面(上面)、裏面(下面)、並びに側面にろう付用塗膜を形成した。ろう付用塗膜は、Si粉末(D(99)粒度10μm)3gと、Zn含有フラックス(KZnF
3粉末:D(50)粒度2.0μm)6g、及び、アクリル系樹脂バインダ1g、溶剤としての3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールとイソプロピルアルコール16gの混合物からなる溶液をロール塗布し、乾燥させることで形成した。
【0076】
前記チューブ11本と、コルゲート加工により波型に成形した前記No.1〜No.27のいずれかのフィン(10枚)を用いてフィンに対しチューブを10段組み立て、仮のミニコア試験体を構成し、これらのミニコア試験体を窒素雰囲気の炉内に600℃×3分保持する条件でろう付けを行った。
このろう付けにより、ろう付用塗膜が形成されていたチューブの表面及び裏面にZnが拡散し、犠牲陽極層が形成されるとともに、表1に示す種々組成の成分を主体とする親水性皮膜を備えたフィンがろう付けされたので、これらをNo.1〜No.27の熱交換器試験体とした。
【0077】
<<試験>>
これらの熱交換器試験体を用いて以下に説明するフィンの変色観察試験、親水性評価試験、ろう付け性評価試験、塗膜密着性試験を行った。
【0078】
[フィンの変色観察試験]
600℃×3分のろう付後のフィンについて、色差計にて測定される色彩値が、L:70〜100、a:−3〜+5、b:−3〜+10の範囲を満たすものについては変色なしと判断した。また、色彩値がL:70〜100、a:−3〜+5、b:−3〜+10の範囲を満たさないものは変色ありと判断した。
[親水性:乾湿繰返し試験後の水接触角]
ろう付け前と600℃×3分のろう付後の試験体について、流水に8時間浸漬後、16時間乾燥を行なう工程を1サイクルとし、14サイクル実施した後のフィン表面の水接触角を測定した。この時の水接触角が40°以下であれば良好な親水性を有すると判断した。
【0079】
[ろう付性:フィン接合率評価試験]
ろう付接合された各フィンについて、チューブからフィンをはぎ取り、チューブ表面に残存するフィン接合跡を観察した。そして、未接合箇所(ろう付を行なったが接合部跡が残らなかった箇所)の数をカウントした。一つの試験体に対して100か所の観察を行ない、80か所以上(80%以上)が正常に接合されているものを良好なろう付性を有すると判断した。
[塗膜密着性試験]
塗膜形成後の各フィンの表面へフェルト製の接触端子を500gの荷重で押し当てたまま、10回摩擦を行うラビング試験を実施した。試験後のフィン表面において、著しく摩擦痕が観測され、かつ、塗膜が剥がれた状態の試料を×、摩擦痕は確認されるが塗膜が剥がれていない状態の試料を○、外観上の変化が見られず、かつ、塗膜が剥がれていない状態の試料を◎で示し、塗膜密着性を評価した。
これらフィン変色試験の結果と親水性の測定結果とろう付け性の測定結果と塗膜密着性の評価結果を以下の表2にまとめて示す。
【0080】
【表2】
【0081】
表2に示す実施例の試験結果から明らかなように、アルミン酸塩またはアルミン酸塩を主成分とする塗布膜を湯洗または水洗した湯洗親水性塗膜、あるいは、湯洗または水洗していない親水性塗膜をプレコート塗膜としてフィンに形成しておき、これらのフィンを用いて熱交換器のミニコア試験体を構成し、ろう付け塗膜を用いてろう付けすることで、フィン表面に変色を生じていない、親水性に優れた皮膜を有し、ろう付け性においても優秀な熱交換器を製造できることがわかった。また、アルミン酸塩またはアルミン酸塩を主成分とする塗布膜を湯洗または水洗した湯洗親水性塗膜をプレコート塗膜としてフィンに形成した場合に優れた塗膜密着性を得られることもわかった。
実施例試料の乾湿繰返し試験後の水接触角の値は10〜30゜の範囲を示した。流水8時間浸漬後、16時間乾燥するサイクルを14サイクル実施するという過酷な試験環境下であっても実施例のミニコア試験体は、フィン表面の水接触角を低い値に維持できる優れた親水性を得ることができた。従って、アルミン酸塩を主成分とする塗布膜を湯洗した湯洗親水性塗膜からなる親水性皮膜であるならば、ろう付けに伴う高温の熱処理を経た後であっても優れた親水性を発揮する塗膜を得られることがわかった。
【0082】
これらに対し、No.12の比較例はフィン表面に形成する塗膜の塗布量が少なすぎるために乾湿繰返し試験後の水接触角が大きくなった。No.13の比較例はフィン表面に形成する塗膜が厚すぎたためにろう付け性に劣る結果となった。
アルミニウムのろう付けは、ろう付け熱処理時にアルミニウム表面に存在する酸化皮膜をフラックスの効果により脆弱化させ、その表面を溶融したろう材が流動する事で多数の箇所を一括で接合できる特徴がある。これに対し、塗膜が厚すぎる場合、ろう材塗料中に含まれるフラックスでは酸化皮膜を脆弱化させる効果が充分に得られず、溶融したろう材の流動が阻害される事でろう付性が低下すると推定できる。
【0083】
No.14の比較例はアルミン酸塩を主成分とする塗膜から得られた湯洗親水性塗膜に代えてフィン表面にポリビニルアルコールからなる塗膜を形成した例であるが、ろう付け後のフィンに変色を生じ、ろう付け後の水接触角が大きくなった。
No.15の比較例はアルミン酸塩を主成分とする塗膜から得られた湯水洗親水性塗膜に代えてフィン表面にカルボキシメチルセルロースからなる塗膜を用いた例であるが、ろう付け後のフィンに変色を生じ、ろう付け後の水接触角が大きくなった。
【0084】
No.16の比較例はアルミン酸塩を主成分とする塗膜から得られた湯洗親水性塗膜に代えてフィン表面にケイ酸ナトリウムからなる塗膜を用いた例であるが、ろう付け後のフィンに変色を生じた。
No.17の比較例はアルミン酸塩を主成分とする塗膜から得られた湯洗親水性塗膜に代えてフィン表面にケイ酸リチウムからなる塗膜を用いた例であるが、ろう付け後のフィンに変色を生じた。
No.18の比較例はアルミニウムフィンの表面に塗膜を形成することなくろう付けした例であるが、ろう付け性を確保できるが、親水性は得られていない。
No.19〜27の実施例は湯洗することなく乾燥塗膜の状態で親水性塗膜とした実施例を示す。アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸カルシウムのいずれかを主成分とする塗膜であって、湯洗していない塗膜であっても優れた親水性とろう付け性を有し、塗膜密着性の面においても良好な結果が得られた。
これらの試験結果から、望ましい範囲の塗布量のアルミン酸塩またはこれを主成分とする塗膜から得られた湯水洗親水性塗膜、あるいは、湯洗、水洗していない親水性塗膜をプレコート皮膜としてフィンの表面に用いた熱交換器であるならば、プレコートによる塗膜であっても、ろう付け後の親水性に優れ、外観上の変色の問題が無く、ろう付け性にも優れた熱交換器を提供できることがわかった。
【0085】
図9に示すグラフは、表1に示すNo.10の試料において湯洗後に得られた親水性塗膜に対し、XPS分析により膜厚方向に元素分析した結果を示す。XPS分析装置は、アルバックファイ株式会社製商品名:PHI Quantere SXM を用いた。
分析条件は、X線源25W、パスエネルギー26eV、ステップ0.05eV、スパッタリング条件、加速電位1kV、ラスター範囲1mm×1mmである。SiO
2スパッタレートは5.02nm/分、Al
2O
3スパッタレート2nm/分である。
図9に示すグラフの縦軸は、原子濃度(%)を示し、横軸はスパッタ時間(分)を示す。スパッタ時間約12分でSi2pのデータとClsのデータが交差するので、交差SiO
2換算5nm/分と仮定すると、約60nm厚の湯洗親水性塗膜が形成されていると推定できる。他の塗膜についても同様の分析を行った結果、各湯洗親水性塗膜の膜厚は約50nm〜500nmの範囲に分布していた。
【0086】
図10はNo.10の試料の湯洗親水性塗膜について、XPS分析によりナロースキャンスペクトルを測定した結果を示す。
図10に示すグラフにおいて縦軸はCounts/sを示し、横軸は結合エネルギー(eV)を示す。
図10の横軸に近い側のスペクトルはいずれもアルミニウム基材の表面部分の金属アルミニウムから得られたスペクトルであると推定でき、これらのピークは金属アルミニウム本来の73eV近傍に存在していた。
これに対し、湯洗親水性塗膜表面部分から得られている
図10の上部側のスペクトルは、ケミカルシフトにより75eV付近にピークが存在している。
図11(A)はAlの種々の化合物における2p結合エネルギー(eV)の分布を示し、
図11(B)は酸化アルミニウムの標準ピークの一例を示す。
これらの対比から、75eV付近にピークが存在している化合物を選定すると、No.10の試料の湯洗親水性塗膜にはアルミニウム酸化物もしくはアルミニウム水和物が存在していると推定できる。
従って、湯洗後の親水性塗膜は、アルミニウム酸化物、アルミニウム水和物を含んでいると推定できる。
なお、No.10の試料のろう付け後のフィン表面について、XPS分析によりナロースキャンスペクトルを測定した結果、
図10に示すグラフと同傾向のグラフが得られた。 この結果から、湯洗親水性塗膜はろう付け後もアルミニウム酸化物もしくはアルミニウム水和物を含んでいると推定できる。