特許第6952569号(P6952569)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6952569
(24)【登録日】2021年9月30日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】予圧検知可能なねじ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20211011BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20211011BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
   F16H25/24 H
   F16H25/22 C
   F16H25/22 D
   F16H25/24 B
   G01L5/00 103D
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-202681(P2017-202681)
(22)【出願日】2017年10月19日
(65)【公開番号】特開2019-74192(P2019-74192A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(74)【代理人】
【識別番号】100119297
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正男
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祐次
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩史
(72)【発明者】
【氏名】冨山 貴光
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平2−221747(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0159778(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
F16H 25/22
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状の外面溝を有するねじ軸と、
前記ねじ軸に組み付けられ、前記外面溝に対向する螺旋状の内面溝を有する二つのナットと、
前記ねじ軸の前記外面溝と前記二つのナットそれぞれの前記内面溝との間に介在する複数の転動体と、
前記二つのナット間に挟まれて圧縮されるシムと、
前記二つのナットを互いに相対回転不可能に連結する連結部と、
予圧を検知するための力センサと、を備え、
前記二つのナットの少なくとも一方の、前記シムとの接触面、及び/又は前記シムの、前記二つのナットの少なくとも一方との接触面に前記連結部から離れて接触面積を小さくするように凹部を設け、
前記凹部の近傍の、前記シムの外面及び/又は前記二つのナットの少なくとも一方の外面に前記力センサを取り付ける予圧検知可能なねじ装置。
【請求項2】
前記ナットの軸方向視において、前記力センサの受感部によって画定される前記ナットの第1扇形仮想領域が、前記凹部によって画定される前記ナットの第2扇形仮想領域に含まれることを特徴とする請求項1に記載の予圧検知可能なねじ装置。
【請求項3】
前記シムの外面に前記力センサを取り付け、
前記二つのナットの少なくとも一方の、前記シムとの接触面に前記凹部を設け、
前記シムの外径は、前記二つのナットの外径よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の予圧検知可能なねじ装置。
【請求項4】
前記凹部には、前記転動体を循環させるための循環部が挿入されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の予圧検知可能なねじ装置。
【請求項5】
前記シムは、円弧状の一対の分割シムを備え、
前記一対の分割シムには、前記連結部としての一対のキーが嵌まる一対のキー溝が形成されることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の予圧検知可能なねじ装置。
【請求項6】
前記力センサは、前記シム及び/又は前記ナットの軸方向力を検知する第1受感部と、前記シム及び/又は前記ナットの円周方向力を検知する第2受感部と、を備えることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の予圧検知可能なねじ装置。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つのナットの間に予圧を与えるためのシムを介在させ、予圧を検知可能なねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ねじ装置は、ねじ軸と、ナットと、ねじ軸とナットとの間に介在する複数のボール等の転動体と、を備える。ねじ軸及びナットのいずれか一方を回転させると、他方が直線運動する。ねじ装置は、回転を直線運動に又は直線運動を回転に変換する機械要素として使用される。ねじ軸が回転する間、転動体が転がり運動するので、摩擦抵抗を減らすことができ、効率を向上させることができるという特徴がある。
【0003】
従来のねじ装置として、二つのナットの間に予圧を与えるためのシムを介在させたダブルナットのねじ装置が知られている。シムは、二つのナット間で挟まれて圧縮される。二つのナットは、連結部としてのキーによって互いに相対回転不可能に連結される。二つのナットを回転不可能に連結することで、二つのナットでシムを圧縮した状態を保つことができる。二つのナットには、シムからの反力によって、軸方向隙間を無くすように予圧が与えられる。予圧を与えることで、ねじ装置の剛性及び位置決め精度を向上させることができる。
【0004】
予圧を検出可能なねじ装置として、特許文献1には、二つのナットの軸方向の端面同士を対向させ、二つのナットの一方の端面に凸部を設け、他方の端面に凸部が収容される凹部を設けたねじ装置が開示されている。押しねじによって凸部を円周方向に押し、一方のナットの軸回りの位相を他方のナットに対してずらすことで、予圧を与える。二つのナット間にはシムが介在しておらず、二つのナット間には力センサが挟まれる。この力センサによって、二つのナットに働く軸方向の予圧を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−223493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ねじ装置を長期間使用すると、転動体、ねじ軸、ナットが摩耗し、二つのナットに与える予圧が低下し、これによりねじ装置の位置決め精度及び剛性が低下する。予圧を検知することができれば、位置決め精度及び剛性が低下する前にねじ装置を交換することができる。しかし、従来のシムを介在させたねじ装置にあっては、予圧を検知しにくいという課題がある。なぜならば、たとえシムの外面に軸方向力を検知する力センサ(例えば歪みゲージ)を取り付けたとしても、シムの軸方向の歪み量が小さいので、力センサの出力が小さいからである。このため、力センサの出力がノイズの影響を受け易い、力センサの測定分機能が低いなどの課題がある。
【0007】
特許文献1に記載のねじ装置にあっては、二つのナット間で力センサを挟むので、力センサの出力を大きくすることができる。しかし、二つのナット間にシムを介在させていないので、予圧が安定しない、ナットの剛性が低くなるという課題がある。
【0008】
そこで本発明は、二つのナット間にシムを介在させたねじ装置において、予圧を検知可能なねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、螺旋状の外面溝を有するねじ軸と、前記ねじ軸に組み付けられ、前記外面溝に対向する螺旋状の内面溝を有する二つのナットと、前記ねじ軸の前記外面溝と前記二つのナットそれぞれの前記内面溝との間に介在する複数の転動体と、前記二つのナット間に挟まれて圧縮されるシムと、前記二つのナットを互いに相対回転不可能に連結する連結部と、予圧を検知するための力センサと、を備え、前記二つのナットの少なくとも一方の、前記シムとの接触面、及び/又は前記シムの、前記二つのナットの少なくとも一方との接触面に前記連結部から離れて接触面積を小さくするように凹部を設け、前記凹部の近傍の、前記シムの外面及び/又は前記二つのナットの少なくとも一方の外面に前記力センサを取り付ける予圧検知可能なねじ装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ナットとシムとの接触面に接触面積を小さくするように凹部を設けるので、力/接触面積で表される応力(応力=力/接触面積)を局所的に大きくすることができる。凹部の近傍の、応力を大きくしたシムの外面及び/又はナットの外面に力センサを取り付けることで、力センサの出力を大きくすることができる。また、連結部には回転の力が働くので、凹部を連結部から離すことで、力センサで予圧に重畳して回転の力を検知するのを防止でき、予圧をクリアに検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態の予圧検知可能なねじ装置の分解斜視図である。
図2】第1の実施形態の予圧検知可能なねじ装置の側面図である。
図3図2のIV-IV線矢視図である。
図4】第1の実施形態の予圧検知可能なねじ装置のナットの分解斜視図である。
図5】第1の実施形態の予圧検知可能なねじ装置の模式側面図である。
図6】本発明の第2の実施形態の予圧検知可能なねじ装置の分解斜視図である。
図7】FEM解析の結果を示す図である。
図8】試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態の予圧検知可能なねじ装置(以下、単にねじ装置という)を詳細に説明する。ただし、本発明のねじ装置は、種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
(第1の実施形態)
【0013】
図1は本発明の第1の実施形態のねじ装置の分解斜視図を示し、図2は側面図を示す。本実施形態のねじ装置は、所謂ダブルナットのボールねじであり、ねじ軸1、二つのナット2,3、二つのナット2,3間に挟まれるシム4、及びねじ軸1と二つのナット2,3それぞれとの間に介在する転動体としてのボール5,6を備える。
【0014】
ねじ軸1の外面には、螺旋状の外面溝1aが形成される。この外面溝1aをボール5,6が転がる。外面溝1aの断面形状は、ゴシックアーチ又はサーキュラーアークである。
【0015】
ねじ軸1には、二つのナット2,3が組み付けられる。ナット2,3は略筒状である。ナット2,3の内面には、ねじ軸1の外面溝1aに対向する内面溝2a,3aが形成される。内面溝2a,3aの断面形状は、ゴシックアーチ又はサーキュラーアークである。一方のナット3には、相手部品に取りつけるためのフランジ3bが設けられる。他方のナット2には、フランジが設けられていない。
【0016】
図2に示すように、ねじ軸1の外面溝1aとナット2の内面溝2aとの間に螺旋状の通路7が形成される。この通路7には、ボール5(図1参照)が配列される。ナット2には、ボール5が循環できるように、この通路7の一端と他端に接続される戻し路8が設けられる。図2には、螺旋状の通路7、戻し路8の中心線を一点鎖線で示す。この実施形態では、戻し路8は、ナット2に設けた貫通穴8aと、貫通穴8aと通路7とを繋ぐ一対の方向転換路8bと、から構成される。方向転換路8bは、ナット2の軸方向の端面に取り付けられる循環部9a,9bに形成される。循環部9a,9bは、通路7を転がるボール5をねじ軸1の外面溝1aから掬い上げ、貫通穴8aに導く。貫通穴8aを経由したボール5は反対側の循環部9a,9bから再び通路7に戻される。ナット3にも同様に、通路7,貫通穴8a,方向転換路8bが形成される。これらの構成は、同一なので、同一の符号を附してその説明を省略する。
【0017】
図3のナット2,3の分解斜視図に示すように、ナット2の軸方向の端面、すなわちナット2の、シム4との接触面11は、略円環状に形成される。この略円環状の接触面11には、循環部9aが挿入される凹部12が設けられる(図1参照)。シム4の、ナット2に対向する接触面13には、凹部は設けられていない。
【0018】
凹部12は、底面12bと、側壁12aと、を備える。この実施形態では、軸方向視において、凹部12は略円弧状に形成されると共に、ナット2の内面と外面に開口する(図4も参照)。この凹部12によって、接触面11の外周側には、半径方向の厚さを薄くした薄肉部14が形成される。
【0019】
図2に示すように、ナット2の、軸方向の他方の端面にも、凹部15が設けられる。凹部15の形状は、ナット2を図2の紙面と直角な軸の回りに180度回転させたときの凹部12の形状と同一である。同様に、ナット3の、シム4との接触面16にも凹部17(図1参照)が設けられる。また、ナット3の、軸方向の他方の端面にも凹部18(図3参照)が設けられる。
【0020】
図1に示すように、ナット2の、シム4とは反対側の端面は、リング状のキャップ21で塞がれる。同様にナット3の、シム4とは反対側の端面も、リング状のキャップ22で塞がれる。キャップ21,22は、ねじ等の締結部材によってナット2,3に取り付けられる。
【0021】
図2に示すように、本実施形態では二つのナット2,3の貫通穴8aの円周方向の位相を一致させている。図2の側面視において、隣接する一方のナット2の循環部9aと他方のナット3の循環部9bは互い違いに、すなわち一方のナット2の循環部9aは貫通穴8aよりも主に下側に配置され、他方のナット3の循環部9bは貫通穴8aよりも主に上側に配置される。
【0022】
図3に示すように、ナット2,3の対向端部の外面には、キー溝23,24が形成される。このキー溝23,24には、二つのナット2,3を相対回転不可能に連結する連結部としてのキー25,26(図1参照)が嵌められる。シム4にも、キー25,26が嵌るキー溝27が形成される。
【0023】
図1に示すように、シム4は、二つのナット2,3間に挟まれる。シム4の外径は、ナット2,3の外径よりも小さい(図4参照)。シム4は、リング状であり、中心角が略180度の円弧状の一対の分割シム4a,4bを備える。分割シム4a,4bの外面の円周方向の中央部には、キー25,26が嵌まるキー溝27が形成される。分割シム4aのキー溝27の円周方向の両側には、一対の平坦面P1−1,P1−2が形成される。分割シム4aの内面は、半円筒状に形成される。分割シム4bのキー溝27の円周方向の両側には、一対の平坦面P2−1,P2−2が形成される。分割シム4bの内面は、半円筒状に形成される。なお、シム4を分割することなく、単一の部品から構成することも可能である。
【0024】
図4のシム4の軸方向視に示すように、ナット2の接触面に凹部12を設けるので、凹部12の面積の分だけ、ナット2とシム4との接触面積が小さくなる。ナット2とシム4との接触面積を斜線で示す。
【0025】
凹部12の近傍の、シム4の外面には、力センサ31が取り付けられる。具体的には、分割シム4aの二つの平坦面P1−1,P1−2のうちの一方P1−1に力センサ31が取り付けられる。力センサ31は、接着剤によって平坦面P1−1に貼り付けられる。力センサ31を平坦面P1−1に取り付ければ、力センサ31にストレスが発生するのを防止できる。なお、図中一点鎖線で示すように、力センサ31´を分割シム4bの平坦面P2−1に取り付けることも可能である。図1に示すように、平坦面P2−1はナット3の凹部17の近傍に配置されるからである。
【0026】
図5に示すように、シム4は二つのナット2,3間に挟まれて圧縮される。力センサ31は、軸方向力、すなわち予圧を検出する。力センサ31は、例えば歪ゲージであり、樹脂ベース31cと、樹脂ベース31cに埋め込まれ、シム4の歪を測定する受感部31a,31bと、を備える。受感部31a,31bには、図示しないリード線が接続される。受感部31a,31bは、軸方向力を検知する第1受感部31aと、円周方向力を検知する第2受感部31bと、を備える。軸方向力と円周方向力との差を測定することで、熱膨張に起因して発生する軸方向力をキャンセルすることができる。
【0027】
図4に示すように、ナットの軸方向視において、力センサ31の受感部31a,31bによって画定されるナット2の第1扇形仮想領域(一点鎖線で囲まれる中心角θ1の扇形領域、以下θ1という)は、凹部12によって画定されるナット2の第2扇形仮想領域(二点鎖線で囲まれる中心角θ2の扇形領域、以下θ2という)に含まれる。ここで、第1扇形仮想領域θ1は、ナット2の仮想軸線Cと受感部31a,31bの円周方向の一端とを結んだ線L1、及び仮想軸線Cと受感部31a,31bの円周方向の他端とを結んだ線L2によって画定されると共に、中心角が180度未満の扇形領域である。第2扇形仮想領域θ2は、仮想軸線Cと凹部12の円周方向の一端とを結んだ線L3、及び仮想軸線Cと凹部12の円周方向の他端とを結んだ線L4によって画定されると共に、中心角が180度未満の扇形領域である。
【0028】
図5に示すように、シム4は二つのナット2,3間に挟まれて圧縮される。二つのナット2,3には、シム4からの反力によって軸方向の予圧が与えられる。予圧は力センサ31によって検知される。力センサ31は、図示しないアンプ基板に接続される。アンプ基板は、電圧信号をデジタル化した出力データを出力する。出力データは、図示しない故障診断システムに入力される。故障診断システムは、力センサ31の出力データを所定の閾値と比較して故障を判断することもできるし、力センサ31の出力データを機械学習して故障を判断することもできるし、力センサ31の出力データを人口知能を用いた深層学習(ディープラーニング)して故障を判断することもできる。また、IoTを導入し、力センサ31の出力データを送信機によってインターネット回線を通じてクラウドに送信することも可能である。
【0029】
以下に本実施形態のねじ装置の効果を説明する。
【0030】
ナット2の、シム4との接触面11に接触面積を小さくするように凹部12を設けるので、力/接触面積で表される応力(応力=力/接触面積)を局所的に大きくすることができる。凹部12の近傍の、応力を大きくしたシム4の外面に力センサ31を取り付けることで、力センサ31の出力を大きくすることができる。また、キー25,26には回転の力が働くので、凹部12をキー25,26から離すことで、力センサ31が予圧に重畳して回転の力を検知するのを防止でき、予圧をクリアに検知することができる。
【0031】
ねじ装置のFEM解析や試験結果(詳しくは後述する)によれば、凹部12を設けたナット2の外面よりも凹部を設けていないシム4の外面で広い面積で大きな応力が発生することがわかった。シム4の外面に力センサ31を取り付けることで、ナット2の外面に取り付ける場合に比べて、力センサ31の出力をより大きくすることができる。
【0032】
ナット2の軸方向視において、力センサ31の受感部31a,31bによって画定されるナット2の第1扇形仮想領域θ1が凹部12によって画定されるナット2の第2扇形仮想領域θ2に含まれるので、力センサ31の受感部31a,31bの全範囲にわたって応力を大きくすることができ、力センサ31の出力をより大きくすることができる。
【0033】
シム4の外径をナット2の外径よりも小さくするので、シム4の外面に働く応力をより大きくすることができる。仮に、逆にシム4の外径をナット2の外径よりも大きくすると、シム4の内部に働く応力を大きくできるが、シム4の外面に働く応力を大きくできない。
【0034】
凹部12がボール5を循環させるための循環部9a用の凹部12であるので、凹部12の面積を大きくすることができ、シム4の外面に働く応力をより大きくすることができる。
【0035】
シム4を二分割し、一対の分割シム4a,4bそれぞれにキー25,26を嵌めるので、シム4をリング状にする場合に比べて組み立て易くなるし、キー25,26から一対の分割シム4a,4bに働く回転の力を低減することができる。
【0036】
力センサ31がシム4の軸方向力を検知する第1受感部31aと、シム4の円周方向力を検知する第2受感部31bと、を備えるので、軸方向力と円周方向力との差を測定することができ、熱膨張に起因して発生する軸方向力をキャンセルすることができる。
(第2の実施形態)
【0037】
図6は、本発明の第2の実施形態のねじ装置の分解斜視図を示す。第2の実施形態のねじ装置も、ねじ軸1、二つのナット42,43、二つのナット42,43間に挟まれるシム4、ねじ軸1と二つのナット42,43との間に介在するボール5,6を備える。ねじ軸1、シム4、ボール5,6の構成は第1の実施形態と同一であるから、同一の符号を附してその説明を省略する。
【0038】
第1の実施形態では、ナット2の接触面11の凹部12に嵌る循環部9aを用いてボール5を循環させているが、第2の実施形態では、例えば二つのリターンパイプ42aを用いてボール5を循環させている。ナット42の外面には平取り部42bが形成され、平取り部42bにリターンパイプ42aが装着される。リターンパイプ42aは、両端部を折り曲げて門形に形成される。リターンパイプ42aの両端部はナット42を軸方向に貫通する。リターンパイプ42aの一端部はナット42の内面溝の一端に繋がり、リターンパイプ42aの他端部はナット42の内面溝の他端に繋がる。ねじ軸1の外面溝1aとナット42の内面溝との間の螺旋状の通路を転がるボール5は、リターンパイプ42aの一端部で掬い上げられ、リターンパイプ42aを経由した後、リターンパイプ42aの他端部から再び通路に戻される。ナット43にも同様にリターンパイプ43aが装着される。
【0039】
ナット42の、シム4との接触面44には、第1の実施形態のねじ装置の凹部12と同様な凹部45が設けられる。この凹部45には、循環部が挿入されておらず、凹部45内は空洞である。ナット42の、シム4との接触面44に凹部45を設けることで、第1の実施形態のねじ装置と同様に、シム4の外面に取り付けられる力センサ31の出力を大きくすることができる。
【0040】
なお、本発明は、上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で他の実施形態に変更可能である。
【0041】
上記実施形態では、ナットの、シムとの接触面に凹部を設けているが、シムの、ナットとの接触面に凹部を設けることもできる。
【0042】
上記実施形態では、シムの外面に力センサを取り付けているが、ナットの、凹部の近傍の外面にも大きな応力が発生するので、ナットの外面に力センサを取り付けることもできる(後述の実施例参照)。ナットの外面に力センサを取り付ける場合、ねじ軸の外面溝とナットの内面溝との間の螺旋状の通路よりもシム側に力センサを取り付ける。
【0043】
上記実施形態では、力センサの受感部が、軸方向力を検知する第1受感部と、円周方向力を検知する第2受感部と、を備えるが、力センサの受感部が、軸方向力を検知する第1受感部のみを備え、円周方向力を検知する力センサを別の平坦面に設けることもできる。
【実施例】
【0044】
図1に示すナット2,3を用い、圧縮力を加えたときにナット2,3とシム4に働く応力をFEM解析した。FEM解析の結果を図7に示す。
【0045】
図7(a)に示すように、圧縮力は6000Nである。図7(b)に示すように、大きな応力が発生したのは、シム4の、ナット2,3の凹部12,17(図1参照)の近傍の外面、すなわち平坦面P1−1,P2−1であった。二つのナット2,3それぞれに凹部12,17が設けられるので、大きな応力が発生する部分は2箇所あった。2箇所の平坦面P1−1,P2−1のうちの一方に力センサ31を取り付ければ、力センサ31の出力を大きくすることができることがわかる。なお、ナット2の、凹部12の近傍の外面P3にも大きな応力が発生した。この部分に力センサ31を取り付けても、力センサ31の出力を大きくすることができることがわかった。図7(c)は、図7(b)を軸回りに180度回転させた状態を示す。凹部12,17から離れたシム4の外面、すなわち平坦面P1−2,P2−2には、大きな応力が発生しないことがわかる。
【0046】
図8は、シム4に力センサ31として歪ゲージを取り付けたときの試験結果を示す。ch1−1、ch2−1は、2箇所の平坦面P1−1,P2−1に歪ゲージを取り付けたときの歪ゲージの出力を示し、ch1−2、ch2−2は、2箇所の平坦面P1−2,P2−2に歪ゲージを取り付けたときの出力を示す。図8の横軸は二つのナットに加える軸方向荷重(kN)であり、図8の縦軸は歪ゲージの出力(V)である。平坦面P1−1,P2−1に歪ゲージを取り付けることで、平坦面P1−2,P2−2に歪ゲージを取り付ける場合に比べて、歪ゲージの出力を約2倍にすることができた。なお、歪ゲージの出力がマイナスであることは、圧縮歪であることを意味する。
【符号の説明】
【0047】
1…ねじ軸、1a…外面溝、2,3,42,43…ナット、2a,3a…内面溝、4…シム、4a,4b…分割シム、5,6…ボール(転動体)、9a,9b…循環部、12…凹部、11,44…接触面、12,45…凹部、25,26…キー(連結部)、27…キー溝、31…力センサ、31a…第1受感部(受感部)、31b…第2受感部(受感部)、P1−1…平坦面(シムの外面)θ1…第1扇形仮想領域、θ2…第2扇形仮想領域
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8