特許第6952570号(P6952570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6952570
(24)【登録日】2021年9月30日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】予圧検知可能なねじ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/24 20060101AFI20211011BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20211011BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
   F16H25/24 H
   F16H25/24 D
   F16H25/22 C
   F16H25/22 D
   G01L5/00 103D
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-202682(P2017-202682)
(22)【出願日】2017年10月19日
(65)【公開番号】特開2019-74193(P2019-74193A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(74)【代理人】
【識別番号】100119297
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 正男
(72)【発明者】
【氏名】久保田 祐次
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩史
(72)【発明者】
【氏名】冨山 貴光
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平2−221747(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/0159778(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
F16H 25/22
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状の外面溝を有するねじ軸と、
前記ねじ軸に組み付けられ、前記外面溝に対向する螺旋状の内面溝を有する二つのナットと、
前記ねじ軸の前記外面溝と前記二つのナットそれぞれの前記内面溝との間に介在する複数の転動体と、
前記二つのナット間に挟まれて圧縮されるシムと、
前記二つのナットを互いに相対回転不可能に連結する連結部と、
予圧を検知するための力センサと、を備え、
前記シムに前記連結部から離れて少なくとも一つの穴を設け、
前記穴の近傍の、前記シムの外面に前記力センサを取り付ける予圧検知可能なねじ装置。
【請求項2】
前記穴は、前記シムの軸方向に延びる少なくとも一つの軸方向の穴を備えることを特徴とする請求項1に記載の予圧検知可能なねじ装置。
【請求項3】
前記シムの軸方向視において、前記力センサの受感部の横幅が前記力センサの裏にある前記複数の穴の領域の横幅よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の予圧検知可能なねじ装置。
【請求項4】
前記穴は、前記力センサが取り付けられる前記シムの平坦面の直角方向に延びる少なくとも一つの直角方向の穴を備えることを特徴とする請求項1に記載の予圧検知可能なねじ装置。
【請求項5】
前記力センサは、前記シムの円周方向において前記穴の隣に、前記シムの軸方向において前記穴と略同一の位置に取り付けられることを特徴とする請求項4に記載の予圧検知可能なねじ装置。
【請求項6】
前記シムは、円弧状の一対の分割シムを備え、
前記一対の分割シムそれぞれに、前記穴が設けられることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載の予圧検知可能なねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つのナットの間に予圧を与えるためのシムを介在させ、予圧を検知可能なねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ねじ装置は、ねじ軸と、ナットと、ねじ軸とナットとの間に介在する複数のボール等の転動体と、を備える。ねじ軸及びナットのいずれか一方を回転させると、他方が直線運動する。ねじ装置は、回転を直線運動に又は直線運動を回転に変換する機械要素として使用される。ねじ軸が回転する間、転動体が転がり運動するので、摩擦抵抗を減らすことができ、効率を向上させることができるという特徴がある。
【0003】
従来のねじ装置として、二つのナットの間に予圧を与えるためのシムを介在させたダブルナットのねじ装置が知られている。シムは、二つのナット間で挟まれて圧縮される。二つのナットは、連結部としてのキーによって互いに相対回転不可能に連結される。二つのナットを回転不可能に連結することで、二つのナットでシムを圧縮した状態を保つことができる。二つのナットには、シムからの反力によって、軸方向隙間を無くすように予圧が与えられる。予圧を与えることで、ねじ装置の剛性及び位置決め精度を向上させることができる。
【0004】
予圧を検出可能なねじ装置として、特許文献1には、二つのナットの軸方向の端面同士を対向させ、二つのナットの一方の端面に凸部を設け、他方の端面に凸部が収容される凹部を設けたねじ装置が開示されている。押しねじによって凸部を円周方向に押し、一方のナットの軸回りの位相を他方のナットに対してずらすことで、予圧を与える。二つのナット間にはシムが介在しておらず、二つのナット間には力センサが挟まれる。この力センサによって、二つのナットに働く軸方向の予圧を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−223493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ねじ装置を長期間使用すると、転動体、ねじ軸、ナットが摩耗し、二つのナットに与える予圧が低下し、これによりねじ装置の位置決め精度及び剛性が低下する。予圧を検知することができれば、位置決め精度及び剛性が低下する前にねじ装置を交換することができる。しかし、従来のシムを介在させたねじ装置にあっては、予圧を検知しにくいという課題がある。なぜならば、たとえシムの外面に軸方向力を検知する力センサ(例えば歪みゲージ)を取り付けたとしても、シムの軸方向の歪み量が小さいので、力センサの出力が小さいからである。このため、力センサの出力がノイズの影響を受け易い、力センサの測定分機能が低いなどの課題がある。
【0007】
特許文献1に記載のねじ装置にあっては、二つのナット間で力センサを挟むので、力センサの出力を大きくすることができる。しかし、二つのナット間にシムを介在させていないので、予圧が安定しない、ナットの剛性が低くなるという課題がある。
【0008】
そこで本発明は、二つのナット間にシムを介在させたねじ装置において、予圧を検知可能なねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、螺旋状の外面溝を有するねじ軸と、前記ねじ軸に組み付けられ、前記外面溝に対向する螺旋状の内面溝を有する二つのナットと、前記ねじ軸の前記外面溝と前記二つのナットそれぞれの前記内面溝との間に介在する複数の転動体と、前記二つのナット間に挟まれて圧縮されるシムと、前記二つのナットを互いに相対回転不可能に連結する連結部と、予圧を検知するための力センサと、を備え、前記シムに前記連結部から離れて少なくとも一つの穴を設け、前記穴の近傍の、前記シムの外面に前記力センサを取り付ける予圧検知可能なねじ装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シム全体の剛性をある程度保ったまま、穴の近傍の、シムの外面の剛性を局所的に低くすることができる。剛性を局所的に低くしたシムの外面に力センサを取り付けるので、力センサの出力を大きくすることができ、より高分解能な予圧検知を行うことができる。また、連結部には回転の力が働くので、穴を連結部から離すことで、力センサが予圧に重畳して回転の力を検知するのを防止でき、予圧をクリアに検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態の予圧検知可能なねじ装置の分解斜視図である。
図2】第1の実施形態の予圧検知可能なねじ装置の側面図である。
図3】第1の実施形態の予圧検知可能なねじ装置のナットの分解斜視図である。
図4】第1の実施形態の予圧検知可能なねじ装置のシムの斜視図である。
図5図2のV-V線矢視図である。
図6】第1の実施形態の予圧検知可能なねじ装置の模式側面図である。
図7】本発明の第2の実施形態の予圧検知可能なねじ装置のシムの斜視図である。
図8】第2の実施形態の予圧検知可能なねじ装置のシムの部分側面図である。
図9】本発明の第3の実施形態の予圧検知可能なねじ装置の分解斜視図である。
図10】FEM解析の結果を示す図である。
図11】試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態の予圧検知可能なねじ装置(以下、単にねじ装置という)を詳細に説明する。ただし、本発明のねじ装置は、種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明の範囲を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
(第1の実施形態)
【0013】
図1は本発明の第1の実施形態のねじ装置の分解斜視図を示し、図2は側面図を示す。本実施形態のねじ装置は、所謂ダブルナットのボールねじであり、ねじ軸1、二つのナット2,3、二つのナット2,3間に挟まれるシム4、及びねじ軸1と二つのナット2,3それぞれとの間に介在する転動体としてのボール5,6を備える。
【0014】
ねじ軸1の外面には、螺旋状の外面溝1aが形成される。この外面溝1aをボール5,6が転がる。外面溝1aの断面形状は、ゴシックアーチ又はサーキュラーアークである。
【0015】
ねじ軸1には、二つのナット2,3が組み付けられる。ナット2,3は略筒状である。ナット2,3の内面には、ねじ軸1の外面溝1aに対向する内面溝2a,3aが形成される。内面溝2a,3aの断面形状は、ゴシックアーチ又はサーキュラーアークである。一方のナット3には、相手部品に取りつけるためのフランジ3bが設けられる。他方のナット2には、フランジが設けられていない。
【0016】
図2に示すように、ねじ軸1の外面溝1aとナット2の内面溝2aとの間に螺旋状の通路7が形成される。この通路7には、ボール5(図1参照)が配列される。ナット2には、ボール5が循環できるように、この通路7の一端と他端に接続される戻し路8が設けられる。図2には、螺旋状の通路7、戻し路8の中心線を一点鎖線で示す。この実施形態では、戻し路8は、ナット2に設けた貫通穴8aと、貫通穴8aと通路7とを繋ぐ一対の方向転換路8bと、から構成される。方向転換路8bは、ナット2の軸方向の端面に取り付けられる循環部9a,9bに形成される。循環部9a,9bは、通路7を転がるボール5をねじ軸1の外面溝1aから掬い上げ、貫通穴8aに導く。貫通穴8aを経由したボール5は反対側の循環部9b,9aから再び通路7に戻される。ナット3にも同様に、通路7,貫通穴8a,方向転換路8bが形成される。これらの構成は、同一なので、同一の符号を附してその説明を省略する。
【0017】
図3のナット2,3の分解斜視図に示すように、ナット2の軸方向の端面、すなわちナット2の、シム4との接触面11は、略円環状に形成される。この略円環状の接触面11には、循環部9aが挿入される凹部12が設けられる(図1参照)。シム4の、ナット2との接触面13は、平坦面である。
【0018】
図2に示すように、ナット2の、軸方向の他方の端面にも、循環部9bが挿入される凹部15が設けられる。凹部15の形状は、ナット2を図2の紙面と直角な軸の回りに180度回転させたときの凹部12の形状と同一である。ナット3の、シム4との接触面16にも、循環部9bが挿入される凹部17(図1参照)が設けられる。また、ナット3の、軸方向の他方の端面にも、循環部9aが挿入される凹部18(図3参照)が設けられる。
【0019】
図1に示すように、ナット2の、シム4とは反対側の端面は、リング状のキャップ21で塞がれる。同様にナット3の、シム4とは反対側の端面も、リング状のキャップ22で塞がれる。キャップ21,22は、ねじ等の締結部材によってナット2,3に取り付けられる。
【0020】
図2に示すように、本実施形態では二つのナット2,3の貫通穴8aの円周方向の位相を一致させている。図2の側面視において、隣接する一方のナット2の循環部9aと他方のナット3の循環部9bは互い違いに、すなわち一方のナット2の循環部9aは貫通穴8aよりも主に下側に配置され、他方のナット3の循環部9bは貫通穴8aよりも主に上側に配置される。
【0021】
図3に示すように、ナット2,3の対向端部の外面には、キー溝23,24が形成される。図1に示すように、このキー溝23,24には、二つのナット2,3を相対回転不可能に連結する連結部としてのキー25,26が嵌められる。シム4にも、キー25,26が嵌められるキー溝27が形成される。
【0022】
図4に示すように、シム4は、リング状であり、中心角が略180度の円弧状の一対の分割シム4a,4bを備える。シム4の外径は、ナット2,3の外径よりも小さい(図5参照)。分割シム4a,4bの外面の円周方向の中央部には、キー25,26が嵌まるキー溝27が形成される。分割シム4aのキー溝27の円周方向の両側には、一対の平坦面P1−1,P1−2が形成される。分割シム4bのキー溝27の円周方向の両側には、一対の平坦面P2−1,P2−2が形成される。なお、シム4を分割することなく、単一の部品から構成することも可能である。
【0023】
各分割シム4a,4bには、シム4の軸方向に延びる複数の軸方向の穴32a,32b,32cが設けられる。具体的には、各分割シム4a,4bの各平坦面P1−1,P1−2,P2−1,P2−2の裏に複数の、例えば三つの穴32a,32b.32cが設けられる。穴32a,32b,32cは、シム4の軸方向の一端面から他端面まで貫通する。穴32a,32b,32cは円筒状である。
【0024】
図5のシム4の軸方向視に示すように、穴32a,32b,32cの近傍の、シム4の外面には、力センサ31が取り付けられる。具体的には、分割シム4bの二つの平坦面P2−1,P2−2のうちの一方P2−1に力センサ31が取り付けられる。平坦面P2−1は、ナット3の凹部17の近傍にある。なお、図中一点鎖線で示すように、力センサ31´を分割シム4aの平坦面P1−1に取り付けることも可能である。図1に示すように、平坦面P1−1はナット2の凹部12の近傍にある。力センサ31は、接着剤によって平坦面P2−1に貼り付けられる。力センサ31を平坦面P2−1に取り付ければ、力センサ31にストレスが発生するのを防止できる。
【0025】
図6に示すように、力センサ31は、例えば歪ゲージであり、樹脂ベース31cと、樹脂ベース31cに埋め込まれ、シム4の歪を測定する受感部31a,31bと、を備える。受感部31a,31bには、図示しないリード線が接続される。受感部31a,31bは、軸方向力を検知する第1受感部31aと、円周方向力を検知する第2受感部31bと、を備える。軸方向力と円周方向力との差を測定することで、熱膨張に起因して発生する軸方向力をキャンセルすることができる。
【0026】
図5に示すように、シム4の軸方向視において、穴32a,32b,32cは、平坦面P2−1から略一定の深さhに平坦面P2−1と略平行に並べられる。力センサ31の受感部31a,31bの横幅W1は、力センサ31の裏にある穴32a,32b,32cの領域の横幅W2よりも小さい。また、力センサ31の受感部31a,31bの横幅W1は、各穴32a,32b,32cの直径dよりも大きい。各穴32a,32b,32cの直径dは略同一である。
【0027】
図6に示すように、シム4は二つのナット2,3間に挟まれて圧縮される。二つのナット2,3には、シム4からの反力によって軸方向の予圧が与えられる。予圧は力センサ31によって検知される。力センサ31は、図示しないアンプ基板に接続される。アンプ基板は、電圧信号をデジタル化した出力データを出力する。出力データは、図示しない故障診断システムに入力される。故障診断システムは、力センサ31の出力データを所定の閾値と比較して故障を判断することもできるし、力センサ31の出力データを機械学習して故障を判断することもできるし、力センサ31の出力データを人口知能を用いた深層学習(ディープラーニング)して故障を判断することもできる。また、IoTを導入し、力センサ31の出力データを送信機によってインターネット回線を通じてクラウドに送信することも可能である。
【0028】
以下に本実施形態のねじ装置の効果を説明する。
【0029】
シム4にキー25,26から離れて穴32a,32b,32cを設けるので、シム4全体の剛性をある程度保ったまま、穴32a,32b,32cの近傍の、シム4の平坦面P2−1の剛性を局所的に低くすることができる。剛性を局所的に低くした平坦面P2−1に力センサ31を取り付けるので、力センサ31の出力を大きくすることができ、より高分解能な予圧検知を行うことができる。また、キー25,26には回転の力が働くので、穴32a,32b,32cをキー25,26から離すことで、力センサ31が予圧に重畳して回転の力を検知するのを防止でき、予圧をクリアに検知することができる。
【0030】
穴32a,32b,32cがシム4の軸方向に延びるので、予圧に関係するシム4全体の軸方向の剛性が低下するのを防止できる。また、穴32a,32b,32cがシム4の外面に表れないので、シム4の外面に力センサ31の取付けスペースを確保し易い。
【0031】
ナット3の、シム4との接触面16に凹部17を設けるので、力/接触面積で表される応力(応力=力/接触面積)を大きくすることができる。ナット3の凹部17の近傍の、応力を大きくしたシム4の平坦面P2−1に力センサ31を取り付けることで、力センサ31の出力を大きくすることができる。
【0032】
シム4を二分割し、一対の分割シム4a,4bそれぞれに穴32a,32b,32cを設けるので、シム4の剛性を円周方向で略均一にすることができる。
(第2の実施形態)
【0033】
図7は、本発明の第2の実施形態のねじ装置のシム33を示す。ねじ軸1、二つのナット2,3の構成は、第1の実施形態と同一であるので、図示を省略する。
【0034】
図7に示すように、第2の実施形態のシム33は、第1の実施形態のシム4と同様に、中心角が略180度の円弧状の一対の分割シム33a,33bを備える。分割シム33a,33bの外面の円周方向の中央部には、キー25,26が嵌まるキー溝34が形成される。分割シム33aのキー溝34の円周方向の両側には、一対の平坦面P1−1,P1−2が形成される。分割シム33bのキー溝34の円周方向の両側には、一対の平坦面P2−1,P2−2が形成される。
【0035】
各分割シム33a,33bには、シム33の平坦面P1−1,P1−2,P2−1,P2−2の直角方向に延びる複数の直角方向の穴35a,35b,35cが設けられる。この実施形態では、各分割シム33a,33bの各平坦面P1−1,P1−2,P2−1,P2−2に複数の、例えば三つの穴35a,35b,35cが設けられる。穴35a,35b,35cは、各平坦面P1−1,P1−2,P2−1,P2−2において、シム33の軸線に直角な方向に並べられる。穴35a,35b,35cの直径は略同一である。穴35a,35b,35cは、シム33の外面から内面まで貫通する。穴35a,35b,35cは円筒状である。
【0036】
図8のシム33の部分側面図(平坦面P2−1に直交する方向から見た側面図)に示すように、シム33の平坦面P2−1には、力センサ36a,36bが取り付けられる。具体的には、シム33の円周方向において穴35a,35b,35cの隣に、シム33の軸方向において穴35a,35b,35cと略同一の位置に力センサ36a,36bが取り付けられる。この力センサ36a,36bは、軸方向力(すなわち圧縮歪)を検知する。力センサ36a,36bは穴35aと穴35bとの間、及び穴35bと穴35cとの間に配置される。また、軸方向において穴35bの隣には、力センサ37a,37bが取り付けられる。この力センサ37a,37bは、シム33の円周方向力(すなわち円周方向歪)を検知する。
【0037】
第2の実施形態のねじ装置によれば、以下の効果を奏する。
【0038】
穴35a,35b,35cがシム33の平坦面P2−1の直角方向に延びるので、平坦面P2−1の剛性を低下させることができる。剛性を低下させた平坦面P2−1に力センサ36a,36b,37a,37bを取り付けることで、力センサ36a,36b,37a,37bの出力を大きくすることができる。
【0039】
シム33の円周方向において穴35a,35b,35cの隣に、シム33の軸方向において穴35a,35b,35cと略同一の位置に力センサ36a,36bを配置するので、平坦面P2−1の特に剛性を低下させた部分に力センサ36a,36bを配置することができる(後述する実施例参照)。このため、軸方向力を検知する力センサ36a,36bの出力を大きくすることができる。
【0040】
軸方向力を検知する力センサ36a,36bと、円周方向力を検知する力センサ37a,37bと、を設けるので、軸方向力と円周方向力との差を測定することができ、熱膨張に起因して発生する軸方向力をキャンセルすることができる。
(第3の実施形態)
【0041】
図9は、本発明の第3の実施形態のねじ装置の分解斜視図を示す。第3の実施形態のねじ装置も、ねじ軸1、二つのナット42,43、二つのナット42,43間に挟まれるシム4、ねじ軸1と二つのナット42,43との間に介在するボール5,6を備える。ねじ軸1、シム4、ボール5,6の構成は第1の実施形態と同一であるから、同一の符号を附してその説明を省略する。
【0042】
第1の実施形態では、ナット2,3の軸方向の端面の凹部12,15,17,18に嵌る循環部9a,9bを用いてボール5,6を循環させているが、第2の実施形態では、ナット42,43に装着されるリターンパイプ42a,43aを用いてボール5,6を循環させている。ナット42の外面には平取り部42bが形成され、平取り部42bにリターンパイプ42aが装着される。リターンパイプ42aは、両端部を折り曲げて門形に形成される。リターンパイプ42aの両端部はナット42を軸方向に貫通する。リターンパイプ42aの一端部はナット42の内面溝42cの一端に繋がり、リターンパイプ42aの他端部はナット42の内面溝42cの他端に繋がる。ねじ軸1の外面溝1aとナット42の内面溝42cとの間の螺旋状の通路を転がるボール5は、リターンパイプ42aの一端部で掬い上げられ、リターンパイプ42aを経由した後、リターンパイプ42aの他端部から再び通路に戻される。同様に、ナット43にも平取り部43bが形成され、平取り部43bにリターンパイプ43aが装着される。
【0043】
なお、本発明は、上記実施形態に具現化されるのに限られることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で他の実施形態に変更可能である。
【0044】
上記実施形態では、軸方向の穴が貫通穴であり、直角方向の穴が貫通穴であるが、これらを貫通していない穴、すなわち有底穴にすることもできる。
【0045】
上記第1の実施形態では、力センサの受感部が、軸方向力を検知する第1受感部と、円周方向力を検知する第2受感部と、を備えるが、力センサの受感部が、軸方向力を検知する第1受感部のみを備え、円周方向力を検知する力センサを別の平坦面に設けることもできる。
【0046】
第1の実施形態では、シムに軸方向の穴を設け、第2の実施形態では、シムに直角方向の穴を設けているが、これらを併用することもできる。
【実施例】
【0047】
図1に示すナット2,3、シム4、図7に示すシム33を用い、6000Nの圧縮力を加えたときにシム4,33に働く応力をFEM解析した。FEM解析の結果を図10に示す。
【0048】
図10(a)はシムに穴を設けていない従来例で、図10(b)はシム4に軸方向の穴32a,32b,32cを設けた発明例(1)(第1の実施形態のシム4)で、図10(c)はシム33に直角方向の穴35a,35b,35cを設けた発明例(2)(第2の実施形態のシム33)である。
【0049】
図10(b)に示すように、発明例(1)では、シム4の平坦面P2−1の、裏に軸方向の穴32a,32b,32cが存在する領域の略全体にわたって、圧縮歪が大きくなることがわかった。平坦面P2−1に力センサ31を取り付ければ、力センサ31の出力を大きくできることがわかる。図10(c)に示すように、発明例(2)では、穴35aと穴35bとの間、及び穴35bと穴35cとの間に大きな圧縮歪が発生した。この位置に力センサ36a,36bを取り付ければ、力センサ36a,36bの出力を大きくできることがわかる。
【0050】
図11は、シム4,33に力センサ31,36a,36bとして歪ゲージを取り付けたときの試験結果を示す。図11の横軸はナット2,3に加える軸方向荷重(kN)であり、図11の縦軸は歪ゲージの出力(V)である。発明例(1)では、従来例に比べて、歪ゲージの出力を約30%増加させることができた。発明例(2)では、従来例に比べて、歪ゲージの出力を約400%増加させることができた。
【符号の説明】
【0051】
1…ねじ軸、1a…外面溝、2,3,42,43…ナット、2a,3a,42c…内面溝、4,33…シム、4a,4b,33a,33b…分割シム、5,6…ボール(転動体)、25,26…キー(連結部)、31,36a,36b…力センサ、31a…第1受感部(受感部)、31b…第2受感部(受感部)、32a,32b,32c…軸方向の穴、35a,35b,35c…直角方向の穴、P2−1…シムの平坦面(シムの外面)、W1…力センサの受感部の横幅、W2…複数の穴の領域の横幅
図1
図2
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図9
図10
図11