(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンの側面に固定された支持部材と、前記支持部材によって中間部を回転自在に支持されると共に前記エンジンのクランクシャフトの回転力を受けて回転するシャフト部材と、を有する支持機構と、
前記シャフト部材の一端に取り付けられたファンクラッチと、前記ファンクラッチの出力回転部材に設けられたファンと、を有するファン機構と、
前記シャフト部材の他端に取り付けられた錘と、を備え、
前記錘は、前記ファン機構と同程度の重量を有する
ことを特徴とする車両用ファン装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の車両用ファン装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1及び実施例2に基づいて説明する。
【0011】
(実施例1)
まず、実施例1における車両用ファン装置の構成を、「車両用ファン装置の全体構成」、「ファン機構の詳細構成」に分けて説明する。
【0012】
[車両用ファン装置の全体構成]
実施例1の車両用ファン装置1は、自動車に搭載されたラジエータの冷却ファンに適用され、
図1に示すように、支持機構10と、ファン機構30と、錘50と、を備えている。
【0013】
支持機構10は、エンジンのエンジンブロック2に取り付けられ、エンジンに対してファン機構30を保持する部材である。この支持機構10は、支持部材11と、シャフト部材21と、を備えている。
【0014】
支持部材11は、エンジンブロック2の側面2aに固定されると共にこの側面2aから起立した脚部12と、脚部12によって支持された円筒部13と、円筒部13の内側に設けられたベアリング14と、を有している。
ここで、脚部12は、エンジンブロック2の側面2aから離れた位置で円筒部13を支持する。円筒部13は、両端が開放した筒形状を呈しており、軸方向がエンジンの前方に配置されたラジエータ3に向けられている。
【0015】
シャフト部材21は、細長い円柱形状を呈した金属部材である。このシャフト部材21は、円筒部13を貫通し、中間部がベアリング14を介して円筒部13に回転可能に保持されている。なお、円筒部13には、シャフト部材21の軸方向への移動を規制する図示しない規制部が形成されている。
そして、シャフト部材21は、一端21aにプーリ22が設けられ、他端21bに錘50が固定されている。ここで、シャフト部材21の一端21aは、円筒部13から突出してラジエータ3に向いている。一方、シャフト部材21の他端21bは、円筒部13から突出してエンジンブロック2の側面2aに向いている。
【0016】
プーリ22は、円板形状を呈し、図示しないエンジンのクランクシャフトに設けられた第2プーリの回転力を伝達するVベルト(不図示)が周面22aに架け渡されている。また、プーリ22のラジエータ3に臨む端面22bには、ファン機構30の入力回転部材32が固定されている。これにより、Vベルトを介してクランクシャフトの回転力がプーリ22に伝わり、プーリ22が回転することで、プーリ22と一体になってファン機構30の入力回転部材32が回転する。
【0017】
ファン機構30は、シャフト部材21の一端21aに取り付けられたファンクラッチ31と、このファンクラッチ31に設けられたファン41と、を有している。ここで、ファンクラッチ31は、温度感応型の粘性カップリングである。このファンクラッチ31は、雰囲気温度が低温のときにOFF状態になり、シャフト部材21の回転がファン41に伝達されないようにする。一方、雰囲気温度が高温のときにはON状態になり、シャフト部材21の回転をファン41に伝達してファン41を回転させる。
【0018】
錘50は、直径寸法R1がシャフト部材21の直径寸法R2よりも大きい円板形状を呈した金属部材である。この錘50の端面の中心Oには、シャフト部材21の他端21bの端面が溶接等により固定されている。この錘50は、ファン機構30と同程度の重量を有している。
【0019】
[ファン機構の詳細構成]
実施例1のファン機構30は、
図2に示すように、エンジンの回転力が伝達されて回転する入力回転部材32と、入力回転部材32の回転が粘性流体を介して伝達されて回転する出力回転部材33とを有するファンクラッチ31と、出力回転部材33に取り付けられたファン41と、を備えている。
【0020】
入力回転部材32は、プーリ22の端面22bに固定された駆動軸32aと、駆動軸32aに固定されたドライブディスク32bと、を有している。
【0021】
駆動軸32aは、根元にフランジ32cが形成され、このフランジ32cをプーリ22の端面22bに突合せて、複数のボルト・ナット(不図示)で締め付けられる。これにより、駆動軸32aは、プーリ22に対して一体的に結合される。
【0022】
ドライブディスク32bは、中央に貫通孔32dが形成されたアルミニウム製若しくは鉄製の円板部材である。このドライブディスク32bは、セレーションが形成された駆動軸32aの先端部32eが貫通孔32dの内側に圧入され、セレーションの凸部が貫通孔32dの内周面を塑性変形させて食い込むことで駆動軸32aに固定されている。このとき、貫通孔32dの内周面の変形によって、駆動軸32aと貫通孔32dとが一体的に回転可能になる。なお、ドライブディスク32bの固定方法としては、他にも、貫通孔32dに駆動軸32aの先端部32eを強圧入(締まりばめ)してもよい。さらに、駆動軸32aの先端部32eに雄ネジ溝を形成し、貫通孔32dの内側に雌ネジ溝を形成し、この雄ネジ溝と雌ネジ溝を螺合してドライブディスク32bを駆動軸32aに固定してもよい。いずれの場合であっても、ドライブディスク32bの固定状態をバックアップするために、図示しないロックナットを介してドライブディスク32bを駆動軸32aに固定してもよい。
【0023】
また、このドライブディスク32bは、出力回転部材33の後述する第2クラッチケース33bに対向するトルク伝達面32fに、ディスク側ラビリンス溝32gが形成されている。なお、このディスク側ラビリンス溝32gは、ドライブディスク32bの両面に形成されていてもよい。さらに、ドライブディスク32bの表面を平坦にし、ラビリンス溝が形成されていなくてもよい。そして、このドライブディスク32bは、アルミニウム製若しくは鉄製のものに限らない。例えば、マグネシウム、スチール、銅等の金属や、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の耐熱性樹脂等により形成されていてもよい。
【0024】
出力回転部材33は、駆動軸32aに回転自在に支持された第1クラッチケース33aと、この第1クラッチケース33aに固定されて、第1クラッチケース33aとの間にドライブディスク32b及び粘性流体を収容する内部空間Kを形成する第2クラッチケース33bと、を有している。なお、この第1,第2クラッチケース33a,33bによりクラッチケースが形成されている。また、「粘性流体」とは、例えばシリコンオイルである。
【0025】
第1クラッチケース33aは、中央に貫通孔33cが形成されたアルミニウム合金製の円板部材である。貫通孔33cには、ベアリング34を介して駆動軸32aが貫通している。これにより、駆動軸32aと第1クラッチケース33aとの間にベアリング34が介装され、第1クラッチケース33aは、駆動軸32aに対して回転自在に支持される。
【0026】
ここで、ベアリング34は、駆動軸32aの外周面に嵌合した内輪34aと、第1クラッチケース33aの貫通孔33cの内側に嵌合した外輪34bと、内輪34aと外輪34bの間に配置された保持器(不図示)に保持された複数の転動体34cと、を有する転がり軸受である。このベアリング34は、駆動軸32aの外周面に形成された段差部32hとドライブディスク32bとの間に配置され、軸方向に位置決めがなされている。
【0027】
第2クラッチケース33bは、ドライブディスク32bを覆うアルミ合金製の皿型部材であり、周縁フランジ部33dが第1クラッチケース33aの周縁部にボルトBを介して固定されている。これにより、第1クラッチケース33aと第2クラッチケース33bは、一体的に回転自在となっている。また、この第2クラッチケース33bは、周縁フランジ部33dにファン41がボルト止めされ、内側面33eのディスク側ラビリンス溝32gに対向する位置に、ケース側ラビリンス溝33fが形成されている。
なお、この第1クラッチケース33a及び第2クラッチケース33bは、アルミニウム合金製のものに限らない。例えば、マグネシウム、スチール、銅等の金属や、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の耐熱性樹脂等により形成されていてもよい。
【0028】
内部空間Kは、内部に設けられた仕切壁35により、ドライブディスク32bが配置されたトルク伝達室35aと、バルブ37が配置されたオイル溜室35bとに区画されている。ここで、ケース側ラビリンス溝33fは、トルク伝達室35a内に形成されている。
【0029】
仕切壁35は、周縁部が第2クラッチケース33bの内側面33eに固定された円板部材である。この仕切壁35には油供給部35cが形成され、この油供給部35cを介してトルク伝達室35aとオイル溜室35bとが連通し、粘性流体の流通が可能になっている。
さらに、第2クラッチケース33bには、一方の開口がトルク伝達室35aに開放し、他方の開口がオイル溜室35bに開放したオイル循環路35dが形成されている。すなわち、トルク伝達室35aとオイル溜室35bとは、このオイル循環路35dを介しても連通している。
【0030】
そして、第2クラッチケース33bの中心部には、ピストン部材36aが軸方向に移動可能に貫通している。内部空間Kから外部に突出したピストン部材36aの一端は、板状のバイメタル36の湾曲中心に接触し、内部空間Kの中に差し込まれたピストン部材36aの他端は、後述するバルブ37に接触している。つまり、ピストン部材36aは、バイメタル36とバルブ37の間に配置されている。なお、ピストン部材36aと第2クラッチケース33bとの間には、図示しないシール材が設けられ、粘性流体の漏れを防止している。
【0031】
バルブ37は、板ばねによって形成されている。このバルブ37は、一端が仕切壁35のオイル溜室35b側の面にカシメ止めされ、中間部にピストン部材36aの先端が接触し、他端が油供給部35cに対向している。そして、バルブ37は、常に他端が油供給部35cから離れる方向にばね力を作用させるが、平板状態のバイメタル36によってピストン部材36aを介して押圧され、油供給部35cを閉鎖する。
【0032】
一方、バイメタル36は、ここでは帯状の平板形状に形成されており、長手方向の両端が第2クラッチケース33bの表面に固定されている。そして、このバイメタル36は、ラジエータ3を通過した後の空気温度であるファンクラッチ31の前面(バイメタル36の前方)の雰囲気温度に応じて、平板状態から長手方向の中央部分が第2クラッチケース33bから離れる方向に湾曲変形していく。そして、ピストン部材36aは、このバイメタル36の湾曲変形に併せて軸方向に移動する。バルブ37は、ピストン部材36aが移動したことで、このピストン部材36aの移動距離に応じて油供給部35cを開放する。
【0033】
具体的には、雰囲気温度が低温のとき、バイメタル36は、撓みが小さくなって平板状になり、バルブ37のばね力に抗してピストン部材36aの軸方向移動を規制する。これにより、バルブ37はピストン部材36aを介して押さえられ、油供給部35cが閉鎖される。また、雰囲気温度が高温のとき、バイメタル36が第2クラッチケース33bから離れる方向に湾曲変形し、ピストン部材36aを介してバルブ37に伝達される押圧力が低下する。これにより、バルブ37が自身のばね力で仕切壁35から離れ、油供給部35cが開放される。このように、バイメタル36は、雰囲気温度に応じてバルブ37で油供給部35cを開閉させて、オイル溜室35bからトルク伝達室35aに戻される粘性流体の流量を調整する。そして、粘性流体の循環量が調整されることで、ドライブディスク32bから第2クラッチケース33bに伝達するトルクが変化する。
なお、実施例1では、バイメタル36が帯状の平板形状を呈しているが、温度感応型の渦巻きバネを用いてもよい。
【0034】
ファン41は、
図2に示すように、出力回転部材33に嵌合する樹脂製のボス部42と、ボス部42の外周面から径方向に突出形成された多数の翼部43と、ボス部42の内側に固定された取付金具44と、を有している。
ここで、取付金具44は、ボス部42の軸方向に延びてボス部42に埋め込まれる筒状のインサート部44aと、インサート部44aの一端からボス部42の内側に延在された固定部44bとから構成されている。なお、インサート部44aには、周方向に並ぶ多数の開口44cが形成されている。
【0035】
なお、ファン41としては、ボス部42及び翼部43がすべて金属製のスチールファンであってもよいし、取付金具44が円板状のフラットプレートであってもよい。また、取付金具44を有しておらず、ボス部42が出力回転部材33に直接固定されていてもよい。
【0036】
そして、固定部44bに形成されたボルト穴44dを貫通するボルトBによって、取付金具44が第2クラッチケース33bの周縁フランジ部33dに固定されている。これにより、ファン41が出力回転部材33に取り付けられる。ここでは、ボルトBは、
図2に示すように、第1クラッチケース33aに第2クラッチケース33bを固定するボルトと兼用する。
なお、ファン41を出力回転部材33に固定するボルトBと、第1クラッチケース33aに第2クラッチケース33bを固定するボルトとは別々に設けてもよい。さらに、第1クラッチケース33aに第2クラッチケース33bを固定する際、ボルトを用いないシーミング加工によって固定してもよい。
【0037】
次に、作用を説明する。まず、車両用ファン装置の振動課題を説明し、続いて、実施例1の車両用ファン装置1の作用を、「車両用ファン装置の基本動作」と、「振動抑制作用」に分けて説明する。
【0038】
[車両用ファン装置の振動課題]
エンジンの回転力を利用してラジエータ3を冷却する車両用ファン装置では、エンジンに振動が生じると、この振動はエンジンブロックに固定された支持機構の支持部材に入力する。そして、支持部材に入力した振動は、ベアリングを介して支持部材によって支持されたシャフト部材へと伝達される。
【0039】
一方、シャフト部材の先端には、ラジエータ3を通過した後の空気の温度等に応じてファンの回転数を制御するファンクラッチと、このファンクラッチに取り付けられたファンと、を有するファン機構が設けられている。
【0040】
ここで、ファンクラッチは、エンジンの回転力が伝達されて回転する入力回転部材と、この入力回転部材の回転が粘性流体を介して伝達されると共に、ファンが取り付けられた出力回転部材と、を備えた粘性カップリングである。
すなわち、このファンクラッチでは、ファンを回転させてラジエータ3を冷却するときには、クラッチケース内のバルブを駆動して仕切壁に形成された油供給部を開き、オイル溜室からトルク伝達室へと粘性流体を供給する。これにより、入力回転部材のドライブディスクの回転が、粘性流体を介して出力回転部材の第2クラッチケースに伝達され、ファンクラッチはファンが回転するON状態になる。また、ファンを回転させないときには、クラッチケース内のバルブによって仕切壁に形成された油供給部を閉鎖し、トルク伝達室への粘性流体の供給を規制する。これにより、入力回転部材のドライブディスクの回転が出力回転部材の第2クラッチケースに伝達されず、ファンクラッチはファンが回転しないOFF状態になる。
【0041】
そして、シャフト部材に伝達された振動は、ファンクラッチがOFF状態のときよりも、ファンクラッチがON状態のときの方が小さくなることが分かっている。
【0042】
これは、ファンクラッチがON状態のときには、入力回転部材と出力回転部材との間に供給された粘性流体が減衰器の機能を発揮すると共に、出力回転部材がおもりの機能を発揮して、シャフト部材の振動を減衰するためであると考えられる。しかしながら、ファンクラッチがOFF状態では、このような効果を得ることができず、シャフト部材の振動が顕著に大きくなってしまうことがある。
【0043】
また、振動抑制を目的とする一般的な設計は、耐振動性を考慮して入力回転部材の駆動軸の外径を太くしたり、ファン機構の重量を軽量化したり、車両用ファン装置の重心位置を支持機構のセンター位置に近づけたりすることが考えられる。しかし、エンジンから入力される振動の状態(周波数等)によっては、適切な振動抑制を行うことができず、想定した振動以上のものが発生してしまうことがある。
【0044】
しかも、ファン機構は、支持部材によって支持されたシャフト部材の先端に取り付けられ、いわゆる片持ち状態で支持部材によって支持されている。そのため、このシャフト部材と、シャフト部材を支えるベアリングとの間のがたつきや偏心によって、エンジンから入力される振動を増長したり、新たな振動を追加したりする可能性がある。
【0045】
[ファン機構の基本動作]
図2では、エンジンが停止している冷間時のファン機構30を示している。このとき、仕切壁35に形成された油供給部35cは、バルブ37により閉鎖されている。このような状態からエンジンが駆動してクランクシャフトが回転すると、実施例1の車両用ファン装置1では、クランクシャフトの回転力がVベルトを介してプーリ22に伝達され、プーリ22が回転する。これにより、プーリ22に結合された入力回転部材32の駆動軸32aが、プーリ22と一体となって回転する。そして、この駆動軸32aが回転することでドライブディスク32bが回転する。このとき、トルク伝達室35a内の粘性流体は、ドライブディスク32bの回転によって発生する遠心力の作用により、オイル循環路35dを通ってオイル溜室35bへと流れていく。
【0046】
しかし、雰囲気温度が低い状態では、バイメタル36は作動しないので、ピストン部材36aはバルブ37を押圧している状態から移動せず、油供給部35cはバルブ37により閉じられたままとなる。そのため、粘性流体は、ドライブディスク32bの回転による遠心力でオイル溜室35bに回収されるだけで、トルク伝達室35aには供給されない。これにより、ディスク側ラビリンス溝32gとケース側ラビリンス溝33fとの間の粘性流体が微量になり、ドライブディスク32bから第2クラッチケース33bへのトルク伝達が行われず、出力回転部材33は回転しない。つまり、ファン41の回転数は上昇しない。
【0047】
これに対し、雰囲気温度が上昇し始めると、温度に感応するバイメタル36がピストン部材36aを移動させてバルブ37に対する押圧力が弱まり、油供給部35cが開き始める。そのため、オイル溜室35b内の粘性流体が油供給部35cを通じてトルク伝達室35aへと流れ込む。これにより、ディスク側ラビリンス溝32gとケース側ラビリンス溝33fとの間の粘性流体が増量し、このディスク側ラビリンス溝32gとケース側ラビリンス溝33fとの間において、粘性流体の粘性による剪断抵抗が発生する。
【0048】
そして、この剪断抵抗により、入力回転部材32の回転トルクが出力回転部材33に伝達される。これにより、出力回転部材33は入力回転部材32の回転に伴って回転し、ファン41が作動する。
なお、ディスク側ラビリンス溝32gとケース側ラビリンス溝33fとの間を通過した粘性流体は、ドライブディスク32bの回転によって発生する遠心力の作用により、オイル循環路35dを通ってオイル溜室35bに戻される。
【0049】
[振動抑制作用]
実施例1の車両用ファン装置1では、エンジンが駆動した際に生じる振動は、エンジンブロック2の側面2aに固定された支持部材11の脚部12に入力する。そして、この脚部12によって支持された円筒部13へ伝達され、この円筒部13の内側に設けられたベアリング14を介してシャフト部材21へと伝わる。
【0050】
ここで、シャフト部材21には、一端21aにプーリ22を介してファン機構30が設けられ、他端21bに錘50が取り付けられている。そのため、シャフト部材21に振動が伝わった際、ファン機構30と錘50とが互いにバランサーの機能を発揮し、シャフト部材21に伝わった振動を抑制することができる。また、ファン機構30と錘50とが釣り合うことで、シャフト部材21とベアリング14との間のがたつきや偏心が生じていても、エンジンから入力される振動を増長したり、新たな振動を追加したりすることを防止できる。
【0051】
そして、シャフト部材21に伝わった振動を抑制することで、このシャフト部材21からファン機構30へと伝達される振動を低減することができ、ファン機構30がOFF状態であっても、エンジンから振動が入力したときのファン機構30の振動を抑制することができる。
【0052】
さらに、この実施例1では、錘50が、直径寸法R1がシャフト部材21の直径寸法R2よりも大きい円板形状を呈している。そして、シャフト部材21は、この錘50の中心Oに他端21bが連結されている。そのため、支持機構10の軸方向の長さが長くなることを防止しつつ、ファン機構30と釣り合うために必要な重量を持たせることが可能となる。つまり、車両用ファン装置1の大型化を抑えると共に、シャフト部材21の振動を効率よく抑制することができる。
【0053】
また、錘50の中心Oにシャフト部材21の他端21bを連結したことで、錘50の重心をシャフト部材21の軸線に一致させることができる。これにより、シャフト部材21の回転によって錘50に作用する遠心力がシャフト部材21の径方向に均等になり、シャフト部材21の振動を適切に抑制することができる。そしてこの結果、ファン機構30の振動をさらに低減することができる。
【0054】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用ファン装置1にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0055】
(1) エンジン(エンジンブロック2)の側面2aに固定された支持部材11と、前記支持部材11によって中間部を回転自在に支持されると共に前記エンジンのクランクシャフトの回転力を受けて回転するシャフト部材21と、を有する支持機構10と、
前記シャフト部材21の一端21aに取り付けられたファンクラッチ31と、前記ファンクラッチ31の出力回転部材33に設けられたファン41と、を有するファン機構30と、
前記シャフト部材21の他端21bに取り付けられた錘50と、を備えた構成とした。
これにより、エンジンから振動が入力した際のファン機構30の振動を抑制することができる。
【0056】
(2) 前記錘50は、直径寸法R1が前記シャフト部材21の直径寸法R2よりも大きい円板形状を呈し、中心Oに前記シャフト部材21が連結されている構成とした。
これにより、車両用ファン装置1の大型化を抑えると共に、シャフト部材21の振動を効率よく抑制することができる。
【0057】
(実施例2)
実施例2の車両用ファン装置は、錘が中空のケースと、このケースの内部に封入された粘性流体及び質量体を有する例である。以下、
図3に基づいて実施例2を説明する。なお、実施例1と同等の構成については、実施例1と同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0058】
実施例2の車両用ファン装置1Aでは、
図3に示すように、支持部材11によってシャフト部材21を回転可能に支持し、このシャフト部材21の一端21aにプーリ22を介してファン機構30を設け、シャフト部材21の他端21bに錘50Aを取り付けている。
【0059】
そして、この実施例2の錘50Aは、シャフト部材21に固定されたケース51と、このケース51の内部に封入されたシリコンオイル52(粘性流体)と、ケース51の内部に弾性支持された質量体53と、を有している。
【0060】
ここで、ケース51は、円板形状を呈する中空筐体であり、中心にシャフト部材21が連結されている。なお、ケース51は、金属や硬質の合成樹脂、セラミックス等によって形成されている。
【0061】
シリコンオイル52は、ケース51内にほぼ気密状態で封入された粘性流体である。なお、このシリコンオイル52は、出力回転部材33の内部空間K内に収容された粘性流体と同等のものであってもよい。
【0062】
質量体53は、ケース51内に収納可能な円板状の金属プレートである。この質量体53は、発泡ゴムやスチールウール、金属スポンジ等、シリコンオイル52の動きに追従して変形可能な弾性支持部材53aにより、ケース51の内側面51aに接触しない状態で弾性支持されている。
【0063】
この実施例2の車両用ファン装置1Aにおいても、エンジンの振動がシャフト部材21に伝達した際、ファン機構30と錘50Aとが互いにバランサーの機能を発揮して、シャフト部材21に伝わった振動を抑制することができる。
【0064】
また、この実施例2では、錘50Aが、中空のケース51と、このケース51の内部に封入されたシリコンオイル52と、ケース51の内部に弾性支持された質量体53と、を有している。そのため、質量体53がケース51内で動き、錘50Aがマスダンパーとなってシャフト部材21の振動を減衰することが可能となる。この結果、例えば金属円板状の錘を用いる場合よりも、広域の周波数域の振動を減衰することができ、抑制可能な振動の周波数域の拡大を図ることができる。
【0065】
すなわち、実施例2の車両用ファン装置1Aにあっては、次に挙げる効果が得られる。
【0066】
(3) 前記錘50Aは、前記シャフト部材21に取り付けられた中空のケース51と、前記ケース51の内部に封入された粘性流体(シリコンオイル52)と、前記ケース51の内部に弾性支持された質量体53と、を有する構成とした。
これにより、減衰可能な振動の周波数域の拡大を図ることができ、より広い周波数域の振動の増大を抑制することができる。
【0067】
以上、本発明の車両用ファン装置を実施例1及び実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加などは許容される。
【0068】
実施例1では、錘50を金属製の円板プレートによって形成する例を示したが、これに限らない。錘50を、ゴム等の弾性部材と金属プレートとの二層構造とし、弾性部材によってシャフト部材21の振動を吸収可能にしてもよい。
【0069】
また、実施例1では、錘50が円板形状を呈し、シャフト部材21の他端21bの端面に固定した例を示したが、例えば球形状や立方体形状等任意の形状にしてもよい。また、錘50は、シャフト部材21の他端21bの周面に固定してもよい。
【0070】
そして、実施例で1は、バイメタル36を用いて仕切壁35に形成した油供給部35cを開閉するバルブ37の作動を行うバイメタル式の車両用ファン装置に適用する例を示したが、これに限らない。電磁石によりバルブを作動させる電子制御式の車両用ファン装置であっても、本発明を適用することができる。
【0071】
また、実施例1では、転がり軸受であるベアリング34を用いて駆動軸32aに対して第1クラッチケース33aを回転自在に支持する例を示したが、これに限らない。出力回転部材が入力回転部材に回転自在に支持されていればよいので、例えばすべり軸受けを用いてもよい。