特許第6952684号(P6952684)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6952684-硬化樹脂用組成物及びその硬化物 図000030
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6952684
(24)【登録日】2021年9月30日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】硬化樹脂用組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/24 20060101AFI20211011BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20211011BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
   C08G59/24
   C08G59/40
   C08L63/00 C
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-514742(P2018-514742)
(86)(22)【出願日】2017年4月28日
(86)【国際出願番号】JP2017017066
(87)【国際公開番号】WO2017188448
(87)【国際公開日】20171102
【審査請求日】2020年3月27日
(31)【優先権主張番号】特願2016-91115(P2016-91115)
(32)【優先日】2016年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-188911(P2016-188911)
(32)【優先日】2016年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】南 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】亀山 敦史
(72)【発明者】
【氏名】上野 龍一
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/015376(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/015604(WO,A1)
【文献】 特開2006−233188(JP,A)
【文献】 特表2015−535865(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/092723(WO,A1)
【文献】 特開2016−047903(JP,A)
【文献】 特開平05−230168(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/163362(WO,A1)
【文献】 特開2010−174073(JP,A)
【文献】 特開2013−253123(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G59/00− 59/72
C08L 1/00−101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)少なくとも2つのベンゾオキサジン環を有する多官能ベンゾオキサジン化合物と、(B)少なくとも1つのノルボルナン構造及び少なくとも2つのエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物とを含有し、
前記多官能ベンゾオキサジン化合物(A)は第1のベンゾオキサジン化合物又は第2のベンゾオキサジン化合物であり、
前記第1のベンゾオキサジン化合物は下記式(1):
【化1】
[式(1)中、Rは炭素数1〜12の鎖状アルキル基、炭素数3〜8の環状アルキル基、又は炭素数6〜14のアリール基を表し、前記アリール基は置換基としてハロゲン又は炭素数1〜12の鎖状アルキル基を有していてもよい。]で示されるベンゾオキサジン環構造を少なくとも2つ有し、2つの前記ベンゾオキサジン環構造中のベンゼン環同士が連結されており、
前記第2のベンゾオキサジン化合物は下記式(2):
【化2】
[式(2)中、Lは芳香環を1〜5個含む2価の有機基又は炭素数2〜10のアルキレン基である。]で示され、
前記多官能エポキシ化合物(B)が下記式に示す化合物:
【化3】
のいずれか少なくとも一つを含む、
硬化樹脂用組成物。
【請求項2】
前記多官能エポキシ化合物(B)が下記式に示す化合物:
【化4】
から選択される一つ以上である、
請求項1に記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項3】
前記多官能エポキシ化合物(B)が固体エポキシ化合物である、
請求項1又は2に記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項4】
更に(C)イミダゾール類、芳香族アミン類、及び多官能フェノール類より選択される少なくとも1種の硬化剤を含有し、
100質量部の前記多官能ベンゾオキサジン化合物(A)に対する前記硬化剤(C)の含有割合が0質量部超40質量部以下である、
請求項1〜のいずれかに記載の硬化樹脂用組成物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載の硬化樹脂用組成物を硬化させた硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の多官能ベンゾオキサジン化合物と特定の多官能エポキシ化合物とを含有する硬化樹脂用組成物、及びその付加重合体である硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾオキサジン化合物とは、ベンゼン骨格とオキサジン骨格とを含むベンゾオキサジン環を有する化合物を指し、その硬化物(重合物)であるベンゾオキサジン樹脂は、耐熱性、機械的強度等の物性に優れ、多方面の分野において各種用途用の高性能材料として使用されている。
【0003】
特許文献1は、特定構造の新規なベンゾオキサジン化合物及びその製造方法を開示し、該ベンゾオキサジン化合物は高い熱伝導率を有すること、並びに該ベンゾオキサジン化合物により高い熱伝導率を有するベンゾオキサジン樹脂硬化物を製造することが可能であることを記載している。
【0004】
特許文献2は、特定のベンゾオキサジン環構造を主鎖中に有するポリベンゾオキサジン樹脂の反応性末端の一部又は全部を封止した熱硬化性樹脂を開示し、該熱硬化性樹脂は溶媒に溶解した際の保存安定性に優れることを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−60407号公報
【特許文献2】特開2012−36318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、接着剤、封止材、塗料、複合材向けマトリックス樹脂等の分野においては、より過酷な使用条件に適合し得るように、強度を維持しつつ、さらなる高耐熱性、高耐変形性の硬化樹脂が求められている。しかし、従来のベンゾオキサジン樹脂硬化物では、これらの性能において満足のいくものが得られていない。
【0007】
そこで本発明の課題は、高耐熱性かつ高耐変形性の硬化物を得ることができる、ベンゾオキサジン化合物含有硬化樹脂用組成物、及び当該硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定の多官能ベンゾオキサジン化合物と特定の多官能エポキシ化合物とを含有する、新規な硬化樹脂用組成物を開発し、その硬化物が強度、耐熱性に優れると共に、弾性率が高く耐変形性にも優れることを見出して本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明によれば、(A)少なくとも2つのベンゾオキサジン環を有する多官能ベンゾオキサジン化合物と、(B)少なくとも1つのノルボルナン構造及び少なくとも2つのエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物とを含有する硬化樹脂用組成物が提供される。多官能ベンゾオキサジン化合物(A)は第1のベンゾオキサジン化合物又は第2のベンゾオキサジン化合物である。第1のベンゾオキサジン化合物は下記式(1)で示されるベンゾオキサジン環構造を少なくとも2つ有し、2つのベンゾオキサジン環構造中のベンゼン環同士が連結されている。第2のベンゾオキサジン化合物は下記式(2)で示される。
【0010】
【化1】
【0011】
式(1)中、Rは炭素数1〜12の鎖状アルキル基、炭素数3〜8の環状アルキル基、又は炭素数6〜14のアリール基を表し、当該アリール基は置換基としてハロゲン又は炭素数1〜12の鎖状アルキル基を有していてもよい。
【0012】
【化2】
【0013】
式(2)中、Lは芳香環を1〜5個含む2価の有機基又は炭素数2〜10のアルキレン基である。
【0014】
また、別の観点の本発明によれば、多官能ベンゾオキサジン化合物(A)と多官能エポキシ化合物(B)とを含有する硬化樹脂用組成物を硬化させた硬化物が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の硬化樹脂用組成物は、多官能ベンゾオキサジン化合物(A)と多官能エポキシ化合物(B)とを含有する新規な組成物であり、該組成物の硬化物は耐熱性が良好で、熱分解し難く、ガラス転移温度が高いという特徴を有している。また、硬化物の機械的強度も優れている。従って、本発明の硬化樹脂用組成物は、高耐熱性、高耐衝撃性を必要とされる場面向けの接着剤、封止材、塗料、複合材向けマトリックス樹脂等の用途に使用可能である。また、本発明の硬化物は、高温下及び/又は高衝撃付加時において、優れた堅牢性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例6のDSC測定結果、及び該測定により求めたガラス転移温度(Tg)を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の硬化樹脂用組成物は、(A)少なくとも2つのベンゾオキサジン環を有する多官能ベンゾオキサジン化合物と、(B)少なくとも1つのノルボルナン構造及び少なくとも2つのエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物とを含有する。以下、硬化樹脂用組成物を単に組成物と称し、これら多官能ベンゾオキサジン化合物及び多官能エポキシ化合物をそれぞれ成分(A)及び成分(B)と称する。なお、本発明において、成分(A)及び(B)はそれぞれ単量体として用いられる化合物であってよく、該化合物の分子の一部又は全部が重合してオリゴマーを形成していてもよい。すなわち、本発明の組成物において、成分(A)及び(B)はそれぞれ硬化樹脂を形成する前のプレポリマーの状態であってもよい。
【0018】
上記成分(A)は第1のベンゾオキサジン化合物又は第2のベンゾオキサジン化合物である。本発明の組成物は成分(A)として複数種の第1のベンゾオキサジン化合物を含有していてもよく、複数種の第2のベンゾオキサジン化合物を含有していてもよく、第1のベンゾオキサジン化合物と第2のベンゾオキサジン化合物とを含有していてもよい。また、第1及び第2のベンゾオキサジン化合物以外のベンゾオキサジン化合物を含有していてもよい。
【0019】
上記第1のベンゾオキサジン化合物は、下記式(1)で示されるベンゾオキサジン環構造を少なくとも2つ有する化合物である。
【0020】
【化3】
【0021】
式(1)中、Rは炭素数1〜12の鎖状アルキル基、炭素数3〜8の環状アルキル基、又は炭素数6〜14のアリール基を表し、該アリール基は置換基としてハロゲン又は炭素数1〜12の鎖状アルキル基を有していてもよい。第1のベンゾオキサジン化合物では、式(1)で示される2つのベンゾオキサジン環構造中のベンゼン環同士が連結されている。これらベンゼン環は連結基を介して連結されていてもよく、連結基を介さずに直接連結されていてもよい。また、式(1)で示されるベンゾオキサジン環構造はベンゼン環上に置換基を有していてもよい。
【0022】
第1のベンゾオキサジン化合物は式(1)で示されるベンゾオキサジン環構造を複数有するが、これら複数のベンゾオキサジン環構造中の複数のRは同じであっても異なっていてもよい。また、第1のベンゾオキサジン化合物は式(1)で示されるベンゾオキサジン環構造以外のベンゾオキサジン環構造を含んでいてもよい。
【0023】
第1のベンゾオキサジン化合物は、好ましくは下記式(1a)で示される化合物である。
【0024】
【化4】
【0025】
式(1a)中、Rは炭素数1〜12の鎖状アルキル基、炭素数3〜8の環状アルキル基、又は炭素数6〜14のアリール基を表し、該アリール基は置換基としてハロゲン又は炭素数1〜12の鎖状アルキル基を有していてもよい。式(1a)中の複数のRは同一であっても異なっていてもよい。Xは水素又は炭素数1〜6の炭化水素基である。式(1a)中の複数のXは同一であっても異なっていてもよい。Yは炭素数1〜6のアルキレン基、酸素、硫黄、SO基、又はカルボニル基である。mは0又は1であり、nは1〜10の整数である。mが0であることは、ベンゼン環同士が連結基を介さずに直接連結されていることを意味する。
【0026】
上記式(1)及び(1a)中のRが炭素数1〜12の鎖状アルキル基である場合、その具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。Rが炭素数3〜8の環状アルキル基である場合、その具体例としてはシクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。Rが炭素数6〜14のアリール基である場合、その具体例としてはフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、フェナントリル基、ビフェニル基等が挙げられる。Rが置換基としてハロゲン又は炭素数1〜12の鎖状アルキル基を有する炭素数6〜14のアリール基である場合、その具体例としてはo−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、キシリル基、o−エチルフェニル基、m−エチルフェニル基、p−エチルフェニル基、o−t−ブチルフェニル基、m−t−ブチルフェニル基、p−t−ブチルフェニル基、o−クロロフェニル基、o−ブロモフェニル基等が挙げられる。取り扱い性が良好な点において、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、及びo−メチルフェニル基から選択されることが好ましい。
【0027】
第1のベンゾオキサジン化合物の具体例としては、下記式(1X)に示す化合物、及び該化合物が重合したオリゴマーが挙げられる。
【0028】
【化5】
【0029】
上記第2のベンゾオキサジン化合物は下記式(2)で示される化合物である。
【0030】
【化6】
【0031】
式(2)中、Lは芳香環を1〜5個含む2価の有機基又は炭素数2〜10のアルキレン基である。本発明の組成物は、式(2)で示されるがLが異なる複数種の第2のベンゾオキサジン化合物を含有していてもよい。
【0032】
式(2)中のLが芳香環を1〜5個含む2価の有機基である場合、単環構造、多環構造、縮合環構造等を有していてよい。また、該有機基は酸素及び/又は硫黄を含んでいてもよい。該有機基の具体例としては下記式(3)に示す基が挙げられる。
【0033】
【化7】
【0034】
第2のベンゾオキサジン化合物の具体例としては、下記式(2X)に示す化合物、及び該化合物が重合したオリゴマーが挙げられる。
【0035】
【化8】
【0036】
成分(A)の調製方法は特に限定されない。また、成分(A)として市販品を使用することもできる。市販品の例としては、四国化成株式会社製のビスフェノールF−アニリン型(F−a型)ベンゾオキサジン化合物及びフェノール−ジアミノジフェニルメタン型(P−d型)ベンゾオキサジン化合物等が挙げられる。
【0037】
上記成分(B)は少なくとも1つのノルボルナン構造及び少なくとも2つのエポキシ基を有する多官能エポキシ化合物である。本発明の組成物は成分(B)として複数種の多官能エポキシ化合物を含有していてもよい。成分(B)は脂環式エポキシ化合物であるのが好ましく、下記式(4)に示す、エポキシ基を有する5員環構造、6員環構造、又はノルボルナン環構造を有する化合物であることがより好ましい。
【0038】
【化9】
【0039】
成分(B)の具体例としては、下記式(5)に示す化合物が挙げられる。
【0040】
【化10】
【0041】
以下、成分(B)の製造例を説明する。例えば、下記式(6)に示すように、化合物(a)をメタクロロ過安息香酸と反応させることによって、化合物(5−1)を製造できる。化合物(a)はブタジエンとジシクロペンタジエンとのディールスアルダー反応により合成できる。
【0042】
【化11】
【0043】
下記式(7)に示すように、化合物(b)(トリシクロペンタジエン)をメタクロロ過安息香酸と反応させることによって、化合物(5−2)を製造できる。化合物(b)はシクロペンタジエンとジシクロペンタジエンとのディールスアルダー反応により合成できる。
【0044】
【化12】
【0045】
下記式(8)に示すように、化合物(c)をメタクロロ過安息香酸と反応させることによって、化合物(5−3)を製造できる。化合物(c)はブタジエンとシクロペンタジエンとのディールスアルダー反応により合成できる。
【0046】
【化13】
【0047】
ジシクロペンタジエンとペルオキシ一硫酸カリウム(オキソン)とを反応させることによって、下記化合物(5−4)を製造できる。化合物(5−4)はジシクロペンタジエンジエポキシドであり、SHANDONG QIHUAN BIOCHEMICAL CO., LTD.等から市販されており、このような市販品も本発明で使用できる。
【0048】
【化14】
【0049】
100質量部の成分(A)に対する成分(B)の含有割合は、5質量部以上100質量部以下であるのが好ましく、10質量部以上50質量部以下であることがより好ましい。含有割合を当該範囲内に調整すると良好な耐熱性が得られる。なお、本発明の組成物が成分(A)として複数種の多官能ベンゾオキサジン化合物を含有する場合、これら化合物の合計を100質量部とみなす。本発明の組成物が成分(B)として複数種の多官能エポキシ化合物を含有する場合、上記「成分(B)の含有割合」はこれら化合物の合計の割合を意味する。
【0050】
本発明の組成物は、更に(C)少なくとも1種の硬化剤を任意成分として含有していてもよい。以下、この硬化剤を成分(C)と称する。
【0051】
成分(C)の例としては、芳香族アミン類(ジエチルトルエンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、メタキシレンジアミン、これらの誘導体等)、脂肪族アミン(トリエチレンテトラミン、イソホロンジアミン等)、イミダゾール類(イミダゾール、イミダゾール誘導体等)、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、カルボン酸無水物(メチルヘキサヒドロフタル酸無水物等)、カルボン酸ヒドラジド(アジピン酸ヒドラジド等)、カルボン酸アミド、単官能フェノール、多官能フェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールスルフィド、ポリフェノール化合物等)、ポリメルカプタン、カルボン酸塩、ルイス酸錯体(三フッ化ホウ素エチルアミン錯体等)等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上の混合物として使用してもよい。本発明の組成物は、成分(C)としてイミダゾール類、芳香族アミン類、及び多官能フェノール類より選択される少なくとも1種の硬化剤を含有することが好ましい。
【0052】
100質量部の成分(A)に対する成分(C)の含有割合は、好ましくは0質量部超40質量部以下であり、より好ましくは0質量部超30質量部以下である。本発明の組成物は、成分(C)を配合しなくても熱によって硬化させることができるが、成分(C)をこの範囲の割合で含有すると、より効率的に硬化反応を進行させることができる。なお、本発明の組成物が成分(C)として複数種の硬化剤を含有する場合、上記「成分(C)の含有割合」はこれら複数の硬化剤の合計の割合を意味する。
【0053】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)以外のベンゾオキサジン化合物及び/又は成分(B)以外のエポキシ化合物を含有していてもよい。組成物の粘度を低下させたい場合、ベンゾオキサジン環が1つである単官能ベンゾオキサジン化合物を組成物に添加してもよい。
【0054】
また、本発明の組成物は、その物性を損なわない範囲で、ナノカーボン、難燃剤、離型剤等を含有してもよい。
【0055】
ナノカーボンとしては、例えば、カーボンナノチューブ、フラーレン、これらの誘導体等が挙げられる。
【0056】
難燃剤としては、例えば、赤燐、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、レゾルシノールビスフェニルホスフェート、ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート等のリン酸エステルや、ホウ酸エステル等が挙げられる。
【0057】
離型剤としては、例えば、シリコンオイル、ステアリン酸エステル、カルナウバワックス等が挙げられる。
【0058】
本発明の組成物を硬化させた硬化物としてフィルム状成形物を調製する場合は、溶剤を配合して該組成物の粘度を薄膜形成に好適な範囲に調整してもよい。溶剤としては各成分を溶解できれば特に限定されず、例えば、炭化水素類、エーテル類、エステル類、含ハロゲン溶剤類等が挙げられる。組成物が溶剤を含有する場合は、溶液状の組成物を基材等に塗布し、溶剤を揮発させ、熱硬化を行うことによって、硬化物を得ることができる。
【0059】
本発明の組成物において、溶剤以外の全成分の合計質量に対する成分(A)の質量比は、成型性、硬化性、及び作業性等の観点から、10質量%以上95質量%以下が好ましく、20質量%以上92質量%以下がより好ましく、30質量%以上90質量%以下が更に好ましい。通常、該組成物を硬化させて硬化物を得る際には溶剤は除去されるため、組成物中の溶剤の質量比は硬化物の特性に大きな影響は与えない。
【0060】
本発明の組成物は、成分(A)及び(B)、更に、所望により成分(C)、その他の添加剤、及び溶剤を適宜追加して混練又は混合装置によって混合することにより、製造することができる。
【0061】
混練又は混合の方法は特に限定されず、例えば、ニーダー、プラネタリーミキサー、2軸押出機等を用いる方法が挙げられる。また、成分(A)及び(B)が室温で高粘度の液状である場合等には、必要に応じて加熱して混練してもよく、加圧又は減圧条件下で混練してもよい。保存安定性の観点から、混練後は速やかに冷蔵・冷凍庫で保管することが好ましい。
【0062】
本発明の組成物の粘度は、FRP用プリプレグを製造する場合、50℃において好ましくは10〜3000Pa・sであり、より好ましくは10〜2500Pa・s、最も好ましくは100〜2000Pa・sである。封止材や塗布用途に使用する場合、封止、塗布等の作業に支障がない限り、組成物の粘度は特に限定されない。
【0063】
本発明の組成物は、公知のベンゾオキサジン化合物又はエポキシ化合物と同様の条件下で成分(A)及び(B)の開環重合を行うことで、硬化させることができる。例えば、本発明の組成物を180℃〜300℃で30分間〜10時間加熱することで、本発明の硬化物を得ることができる。
【0064】
本発明の組成物は、強度を維持しつつ、高耐熱性、高耐変形性の硬化物を形成し得る。本発明の組成物がこのような優れた硬化物を形成する理由としては、次のようなことが考えられる。ベンゾオキサジン化合物の単独重合では、重合によりフェノール性の水酸基が生成する。このフェノール性の水酸基は、高温、例えば200℃以上にて、ケトエノール互変異性化を経由し高分子鎖が切断されるため、耐熱性が低く、ガラス転移温度も低くなると考えられている。本発明の成分(B)は単独重合し難く、上記ベンゾオキサジン由来のフェノール性水酸基と反応することにより、高分子鎖の切断を防止すると考えられる。更に、多官能であることにより架橋密度が向上し、また、ノルボルナン構造が剛直であるため、得られる硬化物も良好な剛直性を有すると共に高い弾性率を示すことになると考えられる。以上、複数の要因が組み合わされることにより、本発明の組成物は、強度を維持しつつ、高耐熱性、高耐変形性の硬化物を形成し得るものと推定される。
【0065】
封止材用途における耐熱性の観点から、硬化物のガラス転移温度は200℃以上であることが好ましい。本発明の好ましい態様による硬化物は220℃以上のガラス転移温度を示し、特に好ましい態様による硬化物は240℃以上のガラス転移温度を示し得る。
【実施例】
【0066】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
<成分(A);多官能ベンゾオキサジン化合物(表1及び2中、ベンゾオキサジンと略記)>
(A1);下記式(1−1)のビスフェノールF―アニリン型(F−a型)ベンゾオキサジン化合物(四国化成株式会社製)
【0068】
【化15】
【0069】
(A2);下記式(2−1)のフェノール−ジアミノジフェニルメタン型(P−d型)ベンゾオキサジン化合物(四国化成株式会社製)
【0070】
【化16】
【0071】
<成分(B)又は(B’);多官能エポキシ化合物(表1及び2中、エポキシと略記)>
(B1);化合物(5−1)
上記式(6)に示す化合物(a)を、『土田詔一ら、「ブタジエンとシクロペンタジエンとのDiels−Alder反応−三量体の決定−」、石油学会誌、1972年、第15巻、3号、p189−192』に記載の方法に準拠して合成した。反応容器に15.9Lのクロロホルムと1.6kgの化合物(a)を投入し、0℃で撹拌しながら4.5kgのメタクロロ過安息香酸を滴下した。得られた混合物を室温まで昇温し、上記式(6)の反応を12時間行った。ろ過により副生したメタクロロ安息香酸を除去し、ろ液を1N水酸化ナトリウム水溶液で3回洗浄し、更に飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、ろ液を濃縮して粗体を得た。粗体に2kgのトルエンを加え室温で溶解した。これに6kgのヘプタンを滴下して晶析し、5℃で1時間熟成した。晶析物をろ取してヘキサンにより洗浄し、35℃で24時間減圧乾燥して、1.4kgの下記化合物(5−1)を白色固体として得た。
【0072】
【化17】
【0073】
(B2);化合物(5−2)(トリシクロペンタジエンジエポキシド)
上記式(7)に示す化合物(b)を、化合物(a)と同様に上記文献に記載の方法に準拠して合成した。反応容器に59.2kgのクロロホルムと4.0kgの化合物(b)を投入し、−10℃で撹拌しながら10.6kgのメタクロロ過安息香酸を滴下した。得られた混合物を室温まで昇温し、上記式(7)の反応を12時間行った。ろ過により副生したメタクロロ安息香酸を除去し、ろ液を42.0kgの5%亜硫酸ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を41.6kgの1N水酸化ナトリウム水溶液で4回洗浄し、更に48.0kgの飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、ろ液を濃縮して5.1kgの粗体を得た。粗体に3.5kgのトルエンを加え室温で溶解した。これに13.7kgのヘプタンを滴下して晶析し、5℃で1時間熟成した。晶析物をろ取してヘプタンにより洗浄し、35℃で12時間減圧乾燥して、2.8kgの下記化合物(5−2)を白色固体として得た。
【0074】
【化18】
【0075】
(B3);化合物(5−3)(ビノルボルナンジエポキシド)
上記式(8)に示す化合物(c)を、化合物(a)と同様に上記文献に記載の方法に準拠して合成した。反応容器に600gのクロロホルムと40.0gの化合物(c)を投入し、−10℃で撹拌しながら100gのメタクロロ過安息香酸を滴下した。得られた混合物を室温まで昇温し、上記式(8)の反応を12時間行った。ろ過により副生したメタクロロ安息香酸を除去し、ろ液を400gの5%亜硫酸ナトリウム水溶液で洗浄した。有機層を400gの1N水酸化ナトリウム水溶液で4回洗浄し、更に400gの飽和食塩水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、ろ液を濃縮して46.2gの粗体を得た。粗体に30gのトルエンを加え室温で溶解した。これに130gのヘプタンを滴下して晶析し、5℃で1時間熟成した。晶析物をろ取してヘプタンにより洗浄し、35℃で12時間減圧乾燥して、30.2gの下記化合物(5−3)を白色固体として得た。
【0076】
【化19】
【0077】
(B4);化合物(5−4)(ジシクロペンタジエンジエポキシド)
反応容器に10kgのジシクロペンタジエン、68kgの重曹、100Lのアセトン、及び130Lのイオン交換水を仕込み、10℃以下に冷却した。反応液の温度を30℃以下に維持するよう冷却を制御して、84kgのオキソンを徐々に添加し、撹拌しながら10時間反応を行った。100Lの酢酸エチルを用いた抽出を2回行い、得られた有機層を分取して合わせた。続いて、当該有機層を100Lの混合水溶液(20重量%の食塩と20重量%のチオ硫酸ナトリウムとを含有)にて洗浄し、更に100Lのイオン交換水で2回洗浄した。洗浄後の有機層を硫酸マグネシウムにて乾燥し、ろ過により硫酸マグネシウムを除去し、ろ液から有機溶媒を留去して、11kgの下記化合物(5−4)を白色固体として得た。
【0078】
【化20】
【0079】
比較例用のエポキシ化合物として、ノルボルナン構造を有さない成分(B’)を使用した。
(B’);下記式(9)のセロキサイド(登録商標)2021P(ダイセル化学工業株式会社製)
【0080】
【化21】
【0081】
<成分(C);硬化剤>
(C1);下記式(10)のビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド(TDP;東京化成株式会社製)
【0082】
【化22】
【0083】
(C2);サンエイドSI−150(カチオン重合開始剤、三新化学工業株式会社製)
【0084】
<硬化物の性能評価>
硬化樹脂用組成物を厚み3mmの型に注入し、加熱して硬化させた。得られた硬化物について以下の性能を測定した。硬化物調製条件については後述する。
【0085】
(ガラス転移温度Tg)
ガラス転移温度Tgは、X−DSC−7000(日立ハイテクサイエンス社製)を使用し、N流量20mL/分、昇温速度20℃/分の条件での示差走査熱量測定DSCにより求めた。
【0086】
(曲げ試験1)
JIS K 7171に準拠し、硬化物の70mm×25mm×3mmの短冊状試験片を作製し、以下の条件で3点曲げ試験を行い、曲げ強度、曲げ弾性率、及び曲げひずみを測定した。
試験装置;5582万能材料試験機(インストロン社製)
試験速度;1.5mm/分
支点間距離;48mm
試験片の前処理;なし
試験温度;23℃
【0087】
(曲げ試験2)
試験温度を120℃とした以外は曲げ試験1と同様にして測定した。
【0088】
(曲げ試験3)
硬化物の試験片を90℃熱水中に72時間浸漬する前処理を行った後、曲げ試験1と同様にして測定した。
【0089】
(実施例1)
上記成分(A1)、(B1)、及び(C1)を表1に示す質量比でプラネタリーミキサーに投入し、50℃、真空下で1時間混練して、組成物1を調製した。なお、本実施例において「真空下」とは、真空ポンプにより減圧し、減圧度を−0.8MPa(ゲージ圧)以下とした雰囲気であることを意味する。
【0090】
50gの組成物1を100℃に加温し、100℃に熱した厚み3mmの金属型に入れ、ミニジェットオーブン(MO−921型、富山産業株式会社製)内で硬化させ、硬化物1を得た。硬化は、昇温速度2℃/分で120℃から240℃まで昇温し、240℃で8時間保持する条件で行った。得られた硬化物1について上記性能を評価した。硬化条件及び性能評価結果を表1に示す。
【0091】
(実施例2〜7、10、参考例8、9、比較例1〜5)
各成分の種類及び質量比、並びに硬化条件を表1及び2に示した通りとした以外は実施例1と同様に、実施例2〜7、10、参考例8、9、及び比較例1〜5の組成物及び硬化物をそれぞれ調製し、性能を評価した。結果を表1及び2に示す。また、実施例6のDSC測定結果、及びDSC測定により求めたTgを図1に示す。
【0092】
実施例2では実施例1と同じ組成物1を使用し、硬化条件を変更した。その他の実施例及び比較例では、各硬化物がより高い性能を示すように硬化条件を選択した。また、比較例3及び4では成分(B)を使用せず、比較例5では成分(A)を使用しなかった。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
実施例の硬化物は、比較例の硬化物と比較してガラス転移温度(Tg)が顕著に高く、耐熱性に優れていることが分かる。なお、実施例1及び2では異なる条件下で組成物1を硬化させたが、得られた硬化物はほぼ同等の性能を示し、この範囲では硬化条件の影響を受けないことが分かった。また、実施例1、2、5、及び6の硬化物は、比較例1の硬化物と比較して、曲げ試験による強度が同等で、かつ弾性率及びひずみが優れており、強度を維持しつつ、高耐熱性、高耐変形性を良好に達成していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の組成物は、密着性・硬化時の低収縮性・高耐熱性等の物性が要求される分野で使用可能である。例えば、複合材料向けのマトリックス樹脂、電子分野における封止材、積層板等、塗料、接着剤等に用いることができる。
図1