(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6952694
(24)【登録日】2021年9月30日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】摩擦クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 13/62 20060101AFI20211011BHJP
F16D 25/0638 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
F16D13/62 A
F16D25/0638
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-528788(P2018-528788)
(86)(22)【出願日】2016年11月22日
(65)【公表番号】特表2018-536813(P2018-536813A)
(43)【公表日】2018年12月13日
(86)【国際出願番号】DE2016200532
(87)【国際公開番号】WO2017092746
(87)【国際公開日】20170608
【審査請求日】2019年11月19日
(31)【優先権主張番号】102015224031.2
(32)【優先日】2015年12月2日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トーマス オサドニク
【審査官】
日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−124747(JP,A)
【文献】
特開2001−234946(JP,A)
【文献】
特開2009−52601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00−23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦クラッチであって、
少なくとも1つのクラッチ部品(1;31)を備え、該クラッチ部品(1;31)は、摩擦面(10;40)を有する少なくとも1つの摩擦フェーシング(3;33)を有しており、前記摩擦面(10;40)は、前記摩擦クラッチの閉鎖時、相手側クラッチ部品に摩擦結合され、前記摩擦フェーシング(3;33)または前記摩擦フェーシング(3;33)の支持体要素(6)は、周方向で波形に波の谷(20)と波の山(18,19)とを有して構成されており、前記摩擦フェーシング(3;33)は、前記摩擦クラッチの開放時、前記摩擦面(10;40)全体ではなく、前記波の山(18,19)の高点(15〜17)の領域で略点状にのみ、前記相手側クラッチ部品と接触する、摩擦クラッチにおいて、
前記摩擦フェーシング(33)は、連続する円環状に形成されており、前記波の山(18,19)の前記高点(15〜17)の領域に、他の領域におけるより小さな外側直径および大きな内側直径を有するくびれ部(35)がそれぞれ少なくとも1つ設けられており、前記くびれ部(35)によって、前記波の山(18,19)の前記高点(15〜17)の領域における摩擦を減じることを特徴とする、摩擦クラッチ。
【請求項2】
前記摩擦フェーシング(3;33)は、前記波の山(18,19)の前記高点(15〜17)の領域で外側半径を小さくすることで、前記波の山(18,19)の前記高点(15〜17)の領域における摩擦を減じることを特徴とする、請求項1記載の摩擦クラッチ。
【請求項3】
前記摩擦フェーシング(3;33)は、前記波の山(18,19)の前記高点(15〜17)の領域で内側半径を大きくすることで、前記波の山(18,19)の前記高点(15〜17)の領域における摩擦を減じることを特徴とする、請求項1または2記載の摩擦クラッチ。
【請求項4】
前記波の山(18,19)の前記高点(15〜17)の領域に位置する前記摩擦フェーシング(3;33)内に設けられる溝を多くすることで、前記波の山(18,19)の前記高点(15〜17)の領域における摩擦を減じることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の摩擦クラッチ。
【請求項5】
前記波の山(18,19)の前記高点(15〜17)の領域に位置する前記摩擦フェーシング(3;33)内に設けられる溝を大きくすることで、前記波の山(18,19)の前記高点(15〜17)の領域における摩擦を減じることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の摩擦クラッチ。
【請求項6】
前記摩擦面(10;40)は、略円環ディスクの形状を呈し、前記摩擦フェーシング(3;33)、または前記摩擦面(10;40)を形成する摩擦フェーシング片(11〜13,21〜23)は、波打った支持体金属薄板に取り付けられていることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の摩擦クラッチ。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載の摩擦クラッチ用のクラッチ部品(1)。
【請求項8】
請求項1から6までのいずれか1項記載の摩擦クラッチ用の摩擦フェーシング(3,33)。
【請求項9】
請求項1から6までのいずれか1項記載の摩擦クラッチ用の摩擦フェーシング片(11〜13,21〜23)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦クラッチであって、少なくとも1つのクラッチ部品を備え、クラッチ部品は、摩擦面を有する少なくとも1つの摩擦フェーシングを有しており、摩擦面は、摩擦クラッチの閉鎖時、相手側クラッチ部品に摩擦結合され、摩擦フェーシングおよび/または摩擦フェーシングの支持体要素は、周方向で波形に波の谷と波の山とを有して構成されており、摩擦フェーシングは、摩擦クラッチの開放時、摩擦面全体ではなく、波の山の高点の領域で略点状にのみ、相手側クラッチ部品と接触する、摩擦クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
独国特許出願公開第102008032458号明細書において、湿式クラッチであって、互いに摩擦接触可能な少なくとも2つの摩擦面を備え、少なくとも1つの摩擦面が、支持体部分に被着されるリング形の摩擦フェーシングの表面により形成されており、摩擦フェーシングは、内周および外周ならびに所定の厚さを有し、略平坦な摩擦面と、所定の気孔率とを有し、摩擦フェーシングは、摩擦フェーシングの厚さ全体にわたって延在する、表面積を減じる少なくとも1つの切欠きを有する、湿式クラッチが公知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、摩擦クラッチであって、少なくとも1つのクラッチ部品を備え、クラッチ部品は、摩擦面を有する少なくとも1つの摩擦フェーシングを有しており、摩擦面は、摩擦クラッチの閉鎖時、相手側クラッチ部品に摩擦結合され、摩擦フェーシングおよび/または摩擦フェーシングの支持体要素は、周方向で波形に波の谷と波の山とを有して構成されており、摩擦フェーシングは、摩擦クラッチの開放時、摩擦面全体ではなく、波の山の高点の領域で略点状にのみ、相手側クラッチ部品と接触する、摩擦クラッチを、特に摩擦クラッチの運転中の引きずりモーメントに関して改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題は、摩擦クラッチであって、少なくとも1つのクラッチ部品を備え、クラッチ部品は、摩擦面を有する少なくとも1つの摩擦フェーシングを有しており、摩擦面は、摩擦クラッチの閉鎖時、相手側クラッチ部品に摩擦結合され、摩擦フェーシングおよび/または摩擦フェーシングの支持体要素は、周方向で波形に波の谷と波の山とを有して構成されており、摩擦フェーシングは、摩擦クラッチの開放時、摩擦面全体ではなく、波の山の高点の領域で略点状にのみ、相手側クラッチ部品と接触する、摩擦クラッチにおいて、摩擦フェーシングが、波の山の高点の領域に局所的に、波の山の高点の周囲の摩擦面と比較して減じられた摩擦係数(Reibwert)を有することによって解決される。摩擦フェーシングを有するクラッチ部品は、摩擦部品ともいう。摩擦部品は、好ましくは、多板クラッチとして構成される摩擦クラッチの摩擦ディスクである。支持体要素は、好ましくは、支持体金属薄板である。摩擦ディスク、あるいは摩擦ディスクの支持体金属薄板は、軽微に波打っている。相手側クラッチ部品は、例えば鋼製ディスクである。波の山の高点の領域における減じられた摩擦係数により、摩擦フェーシングは、隣接する鋼製ディスクとの接触点において最適化される。摩擦ディスクにおける接触点は、常に波打ちの高点である。なぜなら、摩擦フェーシングは、摩擦クラッチが開放された状態で、高点においてのみ、隣り合う鋼製ディスクに沿って滑動するからである。その点において、まさにこの箇所で、摩擦フェーシングが生じる摩擦ができる限り低くなるように、摩擦フェーシングを最適化することを提案する。通常であれば、圧着力が低いときに既に高いモーメントを伝達することができるように、むしろ高い摩擦係数が要求される。通常のこの支配的な見解に反して、本発明の場合は、少なくとも局所的に高点に、特に低い摩擦係数が設定される。波の山の高点の領域における減じられた摩擦係数は、様々な形で実現することができる。
【0005】
摩擦クラッチの好ましい一実施例は、摩擦フェーシングが、波の山の高点の領域で外側半径を小さくすることで、波の山の高点の領域における摩擦を減じることを特徴とする。より小さな外側半径によって、波の山の高点の領域における摩擦面を簡単に縮小することができる。
【0006】
摩擦クラッチの別の好ましい一実施例は、摩擦フェーシングが、波の山の高点の領域で内側半径を大きくすることで、波の山の高点の領域における摩擦を減じることを特徴とする。より大きな内側半径によって、波の山の高点の領域における摩擦面を簡単に縮小することができる。別の一態様によれば、摩擦フェーシングは、波の山の高点の領域に、より小さな外側半径と、より大きな内側半径とを有する。
【0007】
摩擦クラッチの別の好ましい一実施例は、摩擦フェーシングが、波の山の高点の領域に設けられる溝を多くすることで、波の山の高点の領域における摩擦を減じることを特徴とする。波の山の高点の領域に設けられる溝の数を増すことで、摩擦面を簡単に縮小することができる。
【0008】
摩擦クラッチの別の好ましい一実施例は、摩擦フェーシングが、波の山の高点の領域に設けられる溝を大きくすることで、波の山の高点の領域における摩擦を減じることを特徴とする。より大きな溝によって、波の山の高点の領域における摩擦面を簡単に縮小することができる。別の一態様によれば、摩擦フェーシングは、波の山の高点の領域に、より大きな溝をより多く有している。
【0009】
摩擦クラッチの別の好ましい一実施例は、摩擦フェーシングが、波の山の高点の領域にそれぞれ少なくとも1つのくびれ部を有することで、波の山の高点の領域における摩擦を減じることを特徴とする。くびれ部により、大径の外側半径/小径の内側半径を有する領域から、波の山の高点の領域における、小径の外側半径/大径の内側半径を有する領域への滑らかな移行が提供される。
【0010】
摩擦クラッチの別の好ましい一実施例は、摩擦フェーシングが、複数の摩擦フェーシング片から形成されており、波の山の高点の領域に配置される摩擦フェーシング片を少なくすることで、波の山の高点の領域における摩擦を減じることを特徴とする。これにより、波の山の高点の領域における摩擦面を簡単に縮小することができる。
【0011】
摩擦クラッチの別の好ましい一実施例は、摩擦フェーシングが、複数の摩擦フェーシング片から形成されており、波の山の高点の領域に配置される摩擦フェーシング片を小さくすることで、波の山の高点の領域における摩擦を減じることを特徴とする。より小さな摩擦フェーシング片によって、波の山の高点の領域における摩擦面を簡単に縮小することができる。
【0012】
摩擦クラッチの別の好ましい一実施例は、摩擦面が、略円環ディスクの形状を呈し、摩擦フェーシング、または摩擦面を形成する摩擦フェーシング片が、波打った支持体金属薄板に取り付けられていることを特徴とする。波打った支持体金属薄板により、簡単にばねプリロードが実現され、ばねプリロードによりクラッチは、開放されるか、あるいは開放状態に維持される。摩擦フェーシングの構成次第で、円環ディスク形の摩擦面は、連続的であるか、または大なり小なり分割されている。摩擦フェーシングあるいは摩擦フェーシング片の、支持体金属薄板への取り付けは、好ましくは素材結合式に、例えば接着により、かつ/またはリベット結合要素により実施される。
【0013】
本発明はさらに、上述の摩擦クラッチ用のクラッチ部品、摩擦フェーシングおよび/または摩擦フェーシング片に関する。上述の部品は、独立して特許請求可能である。
【0014】
本発明のさらなる利点、特徴および詳細は、以下の説明から看取可能である。以下、図面を参照しながらそれぞれ異なる実施例について詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】クラッチ部品の一部を、複数の摩擦フェーシング片から形成されている摩擦フェーシングの平面図として示す図である。
【
図2】
図1に示したクラッチ部品を上方から見た図である。
【
図3】1ピースに形成されており、くびれ部を有する摩擦フェーシングを有する、
図1に示したものと類似のクラッチ部品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1および2は、摩擦フェーシング3を有するクラッチ部品1をそれぞれ異なる見方で示している。摩擦フェーシング3は、少なくとも素材結合式に、例えば接着により、支持体要素6に取り付けられている。支持体要素6は、好ましくは支持体金属薄板として構成されており、円環ディスク7の形状を呈している。
【0017】
支持体要素6は、半径方向内側に内歯列8を有し、内歯列8は、クラッチ、特に多板クラッチのディスクキャリアとの相対回動不能な結合を実現するために用いられる。支持体要素6に設けられた摩擦フェーシング3は、摩擦面10を形成するために用いられる。
【0018】
摩擦面10は、摩擦クラッチ、特に多板クラッチ内で鋼製ディスクと接触する。摩擦クラッチの閉鎖時、複数の摩擦面10が鋼製ディスクに摩擦結合され、これによりトルクを伝達することができる。
【0019】
図2に看取可能であるように、支持体要素6には、両面に複数の摩擦フェーシング片11,12,13;21,22,23が取り付けられている。支持体要素6は、クラッチ部品1のばねプリロードを実現すべく、波打つように構成されている。支持体要素6の波打ちにより、波の山18,19が生じ、波の山18,19間には、それぞれ1つの波の谷20が配置されている。
【0020】
波の谷20は、
図2で下から見れば、同じく波の山を形成している。それゆえ波の山18,19および波の谷20の極値は、いずれも高点15,16,17と称する。高点17自体は低点であることは、ここでは甘受する。
【0021】
円環ディスク7を有する支持体要素6は、摩擦クラッチの運転中、一回転軸線回りに回転可能である。軸方向なる概念は、摩擦フェーシング3を有する支持体要素6のこの回転軸線に関する。軸方向とは、回転軸線方向または回転軸線に対して平行な方向を意味する。同じく半径方向とは、回転軸線に対して横方向を意味する。
【0022】
波の山18,19と波の谷20とを有する支持体要素6の波打ちにより、摩擦フェーシング片11〜13,21〜23を有するクラッチ部品1は、軸方向で弾性圧縮可能である。
【0023】
摩擦クラッチ、特に多板クラッチとして構成されるクラッチは、好ましくは湿式のクラッチである。湿式とは、個々のクラッチ部品1と相手側クラッチ部品とが、クラッチの運転中、潤滑媒体および/または冷却媒体、例えばオイルと接触することを意味する。
【0024】
クラッチが開放されているとき、オイルの粘性摩擦の結果として、クラッチ部品1と相手側クラッチ部品、特に鋼製ディスクとの間に引きずりモーメントが発生する。特に低温時は、オイルの粘性が特に大きいため、引きずりモーメントは、同様に極めて高い。この引きずりモーメントは、摩擦フェーシング3の有利な構成、特に周方向での摩擦フェーシング片12,21,23のアライメントにより大幅に低減することができる。
【0025】
クラッチ部品1は、支持体要素6の波打ちの高点15,16,17においてクラッチ部品1の運転中に発生する摩擦ができる限り低くなるように、高点15,16,17において最適化される。この目的のために、
図1および2に示したクラッチ部品1では、高点15〜17の領域に、明らかに小さい摩擦フェーシング片17,21,23が配置されている。摩擦フェーシング片11,13,22は、摩擦フェーシング片17,21,23と比較して明らかに大きく構成されている。
【0026】
図3は、1ピースの摩擦フェーシング33を有するクラッチ部品31を示している。1ピースの摩擦フェーシング33には、高点あるいは低点17の領域にくびれ部35が設けられている。くびれ部35により、摩擦面40は、高点17の領域で簡単に縮小される。摩擦フェーシング33の摩擦面40は、くびれ部35外において、くびれ部35の領域におけるより大きな外側直径および小さな内側直径を有している。
【符号の説明】
【0027】
1 クラッチ部品
3 摩擦フェーシング
6 支持体要素
7 円環ディスク
8 内歯列
10 摩擦面
11 摩擦フェーシング片
12 摩擦フェーシング片
13 摩擦フェーシング片
15 高点
16 高点
17 高点
18 波の山
19 波の山
20 波の谷
21 摩擦フェーシング片
22 摩擦フェーシング片
23 摩擦フェーシング片
31 クラッチ部品
33 摩擦フェーシング
35 くびれ部
40 摩擦面