(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記粒子の主成分と前記樹脂架橋体の主成分の音響インピーダンスの比が0.001以上1000以下の範囲である、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の音波デバイス。
前記電気粘着機能発現体は、前記電源から電場を印加した際に、前記粒子が前記樹脂架橋体内に収容されると共に、前記電場を取り去った際に、前記粒子の一部が前記樹脂架橋体の表面から突出する機能を有する、請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の音波デバイス。
前記音波伝播部は、さらに前記音波機能部の前記音波機能面と前記基板との間に配置され、ヤング率が1GPa以下の高分子含有層を具備する、請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の音波デバイス。
前記高分子含有層は、前記音波機能部の前記音波機能面及び前記基板の前記一対の電極の形成面とは反対側の面に接着層を介してそれぞれ固定されている、請求項13に記載の音波デバイス。
前記音波伝播部は、さらに前記音波機能部の前記音波機能面と前記基板との間に配置され、環動エラストマーを含有する層を具備する、請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の音波デバイス。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の音波デバイスについて、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。説明中の上下方向を示す用語は、重力加速度方向を基準とした現実の方向とは異なる場合がある。
【0010】
実施形態の音波デバイスは、音波の送信及び受信の少なくとも一方の機能を有するものであり、例えば超音波送受信機や音波受信機が挙げられる。超音波送受信機の代表例としては、超音波探触子が挙げられる。音波受信機の代表例としては、AEセンサが挙げられる。また、音波デバイスは音波送信機であってもよい。ここに記載される音波とは、気体、液体、固体を問わず、弾性体を伝播するあらゆる弾性振動波の総称であり、可聴周波数域の音波に限らず、可聴周波数域より高い周波数を有する超音波、及び可聴周波数域より低い周波数を有する低周波音等も含まれる。音波の周波数も特に限定されるものではなく、高周波から低周波まで含まれるものである。実施形態の超音波送受信機や音波受信機等の音波デバイスは、以下に詳述するように、音波の送信及び受信の少なくとも一方の機能を有する音波機能部と音波伝播部とを具備する。音波機能部は、音波の送受信面、受信面、送信面等を有する。ここでは、音波機能部の音波の送波面及び受波面の少なくとも一方として機能する面を音波機能面と記載する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態の音波デバイスを示す斜視図である。
図1に示す音波デバイス1は、超音波送受信機の一例である垂直型超音波探触子を示している。垂直型超音波探触子としての超音波デバイス1は、超音波の送信機能及び受信機能を有する音波機能部(超音波送受信機)2と、音波機能部2の音波の送波面及び受波面として機能する音波機能面に設けられる音波伝播部3とを具備する。各部2、3について、以下に詳述する。
【0012】
音波機能部2は、超音波探触子用の振動子(圧電体)4と、振動子4の上下両面に設けられた電極5とを有する超音波送受信素子6を備えている。超音波送受信素子6は受波板7上に配置されており、この状態でケース8内に収容されている。超音波送受信素子6の電極5は、ケース8に設けられたコネクタ9と電気的に接続されている。圧電特性を有する振動子4、超音波送受信素子6、受波板7等には、公知の超音波探触子に用いられる構成材料や構造等を適用することができ、特に限定されるものではない。音波機能部2は、振動子4に電極5から電圧を印加することで、受波板7を介して超音波を発信すると共に、超音波の反射波を受信する。音波機能部2においては、受波板7の超音波送受信素子6と接する面7aとは反対側の面7bが超音波の送波面及び受波面(送受波面)となる。
【0013】
音波伝播部3は、音波機能部2の送受波面(音波機能面)7bに接するように設けられており、例えば接着層を介して音波機能部2の送受波面7bに固定される。音波伝播部3は、正負一対の電極10を有する基板11と、基板11の電極形成面に設けられた電気粘着機能発現体12と、電気粘着機能発現体12に電圧を印加する電源13とを備えている。音波伝播部3は、
図2及び
図3に示すように、電気粘着機能発現体12の外表面が被試験体Xと接するように配置される。超音波送受信素子6から発信された超音波は、受波板7及び音波伝播部3を介して被試験体Xに伝播される。また、被試験体Xで反射された反射波は、音波伝播部3及び受波板7を介して超音波送受信素子6に伝播される。
【0014】
電気粘着機能発現体12は、
図2及び
図3に示すように、樹脂架橋体14と、樹脂架橋体14内に分散された粒子15とを有している。樹脂架橋体14及び粒子15については、後に詳述する。電源13は、電気粘着機能発現体12への電圧の印加をオン・オフするスイッチを有している。
図2は電気粘着機能発現体12に電圧を印加していない状態を示しており、
図3は電気粘着機能発現体12に電圧を印加した状態を示している。電気粘着機能発現体12においては、電源13からの電圧の印加のオン・オフに基づいて、電気レオロジー効果やマックスウェルの応力等により樹脂架橋体14とその中に分散された粒子15の位置状態が変化する。
【0015】
すなわち、
図2に示すように、電極10に電圧が印加されていない状態では、樹脂架橋体14の表面に粒子15の一部が突出するように存在する。このため、電気粘着機能発現体12は粘着性の低い表面を有する。従って、被試験体X上に電気粘着機能発現体12を接触させた状態で、超音波デバイス1を移動させることができる。樹脂架橋体14の表面に突出した粒子15の一部は、その表面が潤滑機能を発揮するため、電気粘着機能発現体12を被試験体Xの表面を滑らせることができる。
【0016】
図3は
図2に示した電気粘着機能発現体12に電圧を印加した状態を示している。
図3に示すように、電極10に電圧を印加すると電気レオロジー効果やマックスウェルの応力等によって、樹脂架橋体14内に分散された粒子15が樹脂架橋体14の表面から深さ方向奥側、言い換えると樹脂架橋体14の表面から基板11の方向に移動すると同時に、樹脂架橋体14が表面に向けてせり出す。従って、被試験体Xに接する電気粘着機能発現体12の表面に占める樹脂架橋体14が多くなる。このため、電気粘着機能発現体12の表面は被試験体Xに密着することになる。このとき、電極10に印加する電圧を高くするにつれて、電気粘着機能発現体12の被試験体Xに対する密着性を増加させることができる。電圧印加時に吸着力が生じるのは、ガラス転移温度が室温以下である樹脂架橋体14が表面に盛り上がってくると共に、粒子15が沈み込むことによって生じると考えられる。なお、電圧印加時の電気粘着機能発現体12の表面において、
図4に示すように、粒子15の周囲には樹脂架橋体14がせり出しても空気等の気体が占める空間が生じる場合があるが、超音波等の音波の送受信にはほとんど影響しない。
【0017】
上述したような被試験体Xに密着させた電気粘着機能発現体12を介して超音波を送受信することによって、例えば超音波送受信素子6から発信された超音波を、ほとんど空気を介在させることなく被試験体Xに伝播させることができる。また、被試験体Xで反射された反射波についても、ほとんど空気を介在させない電気粘着機能発現体12を介して超音波送受信素子6で受信することができる。従って、超音波探傷子のような超音波デバイス1による超音波の伝播効率及びそれに基づく送受信効率を高めることができる。さらに、超音波デバイス1を移動させたい場合には、上述したように電気粘着機能発現体12への電圧の印加をオフにすることで、被試験体X上に電気粘着機能発現体12を接触させた状態で超音波デバイス1を移動させることができる。また、樹脂架橋体14は例えばゲル状であるため、被試験体Xに付着して残留するようなこともない。
【0018】
電気粘着機能発現体12は、上述したように樹脂架橋体14内に分散された粒子15を有している。樹脂架橋体14内に分散させる粒子15は、電気レオロジー効果を示す粒子(電気レオロジー粒子)であることが好ましい。粒子15の構成材料としては、半導体、導電体、異方性導電体、強誘電体、電解質、絶縁体等が挙げられる。粒子15の具体例としては、チタン酸バリウム(BaTiO
3)、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸カルシウム等の強誘電体粒子、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ランタン等の酸化物粒子、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルのようなアクリル類、ジビニルベンゼンをベースとした共重合体、アセンキノン類、ポリアニリン、ポリパラファニレン等の樹脂粒子、炭素質粒子、Agコロイド、Niコロイド、無水シリカ粒子、表面絶縁化導電性粒子、もしくはこれらの粒子を尿素やポリマー等の有機化合物でコートした粒子が挙げられる。
【0019】
粒子15は、アクリル樹脂等の樹脂粒子と、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸カルシウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、アセンキノン類、ポリアニリン、ポリパラファニレン、炭素質、Agコロイド、Niコロイド、無水シリカ等の粒子、又は表面絶縁化導電性粒子とを混合させたものであってもよい。また、粒子15は、導電体ポリマーブレンド、シリコンモノマー等のモノマー、オリゴマー、さらにはこれらの混合物、誘導体等から選ばれる粒子であってもよい。
【0020】
粒子15は、例えば球状の材質の表面を、球状の材質よりも小さい粒子で被覆した複合粒子であってもよい。球状粒子の材質としては、例えば様々なポリマー、シリカゲル、でんぷん、大豆カゼイン、カーボン等の粒子が例示される。その回りを被覆する小さい粒子には、無機酸化物、各種フタロシアニン化合物等の有機顔料等を用いることができる。電気レオロジー粒子の他の材質例としては、ポリマー鎖に液晶の機能を有する基を付加したものがある。さらに、樹脂架橋体14中での分散性を向上させるために、粒子15に様々な表面処理や処理剤を使用することができる。
【0021】
樹脂架橋体14は粘着性を有することが好ましく、粒子15が分散された状態で電気レオロジー効果を示すものであることが好ましい。ここで、粘着性とは、接着の一種であり、水、溶剤、熱等を使用せずに、常温で短時間、僅かな圧力を加えるだけで接着することである。被試験体Xに密着させたときに、どのくらいの力に耐えられるかで、その大きさが測定される。通常、その力の起源は、ファンデルワールス力が主と言われており、被試験体Xのミクロな凹凸面に食い込み、近づくことで粘着する。従って、電気粘着機能発現体12を構成する樹脂架橋体14は、ガラス転移温度が比較的低いものを含むことが好ましく、そのガラス転移温度は室温よりも低いことが好ましい。
【0022】
樹脂架橋体14には、固体と液体の混合物を用いることができる。そのような混合物としては、例えばポリシロキサン架橋体により形成されたゲル骨格中にシリコーンオイルを分散させたものが挙げられる。シリコーンオイルを混合した場合、熱や光で樹脂架橋体を形成した後に、オイルの一部を除去することが好ましい。この過程によって、樹脂架橋体14を有する電気粘着機能発現体12は多孔質構造となることがある。この場合、より高い粘着機能が発現する場合が多い。ここで、多孔質構造の孔径は同時に用いる粒子15の平均粒子径よりも小さいことが好ましい。
【0023】
電気粘着機能発現体12を構成する樹脂架橋体14の媒体には、例えばジメチルポリシロキサン等に代表されるシリコーンゲルに分類されるものが用いられる。シリコーンゲルは、光、熱、触媒等で硬化させるものであり、架橋開始剤や触媒等が作製プロセスにおいて電気粘着機能発現体12の構成材料となる。シリコーンゲル以外にも、いわゆる粘着性を有する電気絶縁性の媒体であれば様々なものが使用できる。例えば、架橋によって三次元的な網目構造を形成し、その内部に溶媒を吸収した膨潤ゲル、ポリロタキサンを利用してユニークな8の字架橋点を持つトポロジカルゲル、独立した2重網目構造を持つダブルネットワークゲル等が挙げられる。具体的には、ポリシロキサン架橋体、アクリル酸エステル系ポリマー架橋体、ポリスチレン系架橋体等がある。これらの構造材料であるモノマーやオリゴマー、不飽和基含有化合物等が混合していてもよい。
【0024】
電気粘着機能発現体12は、樹脂架橋体14及び粒子15以外に、電荷輸送材料、導電性微粒子、シリコーンオイルに代表されるプロセスオイル、酸化物粒子等を含んでいてもよい。導電性微粒子の構成材料としては、金、銀、銅、白金、アルミニウム、チタン、タングステン、スズ、亜鉛、ニッケル、インジウム、ジルコニア等の金属、酸化スズ、炭素粉、フラーレン、炭化珪素、グラファイト、グラフェン、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。電気粘着機能発現体12が導電性微粒子を含むことによって、電気レオロジー効果に基づく粒子15の移動性を高めることができる。
【0025】
電荷輸送材料には、有機ELや有機太陽電池等に用いられる電荷輸送性を有する材料を適用することができる。電荷輸送材料としては、例えば、ポリ(2−ビニルカルバゾール)、ポリ(9−ビニルカルバゾール)、1,3,5−トリス(2−(9−エチルカバジル−3)エチレン)ベンゼン、トリス(4−カルバゾイル−9−イルフェニル)アミン、トリス[4−(ジエチルアミノ)フェニル]アミン、トリ−p−トリルアミン、4,4’ビス(N−カルバゾリル)−1,1’−ビフェニル、4,4’−ビス(N−カルバゾリル)−1,1’−ビフェニル、1,3−ビス(N−カルバゾリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジフェニルアミノ)ベンゼン、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン、ポリ(N−エチル−2−ビニルカルバゾール)、ポリ[ビス(4−フェニル)(2,4,6−トリメチルフェニル)アミン、ポリ(1−ビニルナフタレン)、ポリ(2−ビニルナフタレン)、ポリ(銅フタロシアニン)等がある。電気レオロジー効果による粒子15の移動は、電源13から印加される電荷が影響するため、電気粘着機能発現体12が電荷輸送材料を含むことで、電気レオロジー効果を高めることができる。
【0026】
プロセスオイルとしては、シリコーンオイルが例示される。シリコーンオイルは、電気的及び化学的に安定で難燃性の材料であり、電気粘着機能発現体12に含まれるプロセスオイルとして好適である。シリコーンオイルの代表例としては、ジメチルシリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、フェニル変性シリコーンオイル等が挙げられる。プロセスオイルにはシリコーンオイル以外に、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル等を用いてもよい。さらに、これら以外に市販のプロセスオイルを使用してもよい。
【0027】
電気粘着機能発現体12に接して設けられる基板11には、例えば樹脂フィルム、樹脂基板等が用いられる。基板11に形成される電極10は、正極と負極を一対とする電極であり、その形状は特に限定されるものではないが、例えばくし型に正極と負極とが互い違いに配置されたくし型電極が用いられる。これ以外に、電気粘着機能発現体12の一方の面に正極と負極とを配することが可能な配線パターンを有する電極10、例えば魚骨型や渦巻き型等の様々な配線パターンを有する電極10を適用することができる。電極10における正極と負極の幅やそれらの間隔は、電気粘着機能発現体12の厚さや粒子15の大きさ等によって適宜に選定される。電気粘着機能発現体12が導電性微粒子を含む場合、電極10は導電性微粒子の仕事関数との差が0.5eV以内である仕事関数を有する金属を含むことが好ましく、これにより電気レオロジー効果を高めることができる。
【0028】
実施形態の超音波デバイス1においては、音波伝播部3の電気粘着機能発現体12に電圧を印加することで粘着性を発現させ、被試験体Xの表面に電気粘着機能発現体12を空気層をほとんど介さずに密着させることによって、音波伝播部3に積層される音波機能部2の超音波送受信素子6から被試験体X、及び被試験体Xから超音波送受信素子6への超音波の伝播を効率よく実現することができる。ここで、音の強さの透過率Tは、音響インピーダンスで記述できる。物質Aから物質Bへの音の透過率は、物質の密度とその物質中の音速との積である音響インピーダンス(物質Aの音響インピーダンスZ
Aと物質Bの音響インピーダンスZ
B)で、以下の式(1)で表される。
T=(2Z
A・Z
B)/(Z
A+Z
B)
2 …(1)
【0029】
平面状に均一に存在する物質Aから物質Bへの音の強さの透過率を式(1)より計算して
図12に示す。温度0℃の空気の音響インピーダンスは0.43KRaylであるので、例えば超音波送受信機の保護材が音響インピーダンス2.5MRaylのポリスチレンであった場合、両者の比は1.7×10
−4(1.7E−4)であるので、音の強さの透過率は2.7e−3となり、1%以下となってしまう。このように、音響インピーダンスが極めて小さい空気を、被試験体Xと超音波送受信機2との間に介在させないようにするために、電気粘着機能発現体12を配置することが有効である。
【0030】
音波の伝播を効率よく行わせるためには、単に被試験体Xとの間に空気層がないだけでなく、粘着性部材を構成する材料が、用いる音波を効率よく伝播するものであることが好ましい。すなわち、実施形態における電気粘着機能発現体12を構成する主な部材である、樹脂架橋体14の主成分と粒子15の主成分の音響インピーダンスが大きく乖離していないことが望ましい。樹脂架橋体14の主成分と粒子15の主成分の音響インピーダンスの比は0.001以上1000以下の範囲であることが好ましく、音響インピーダンスの比は0.01以上100以下の範囲であることがより好ましく、0.1以上10以下の範囲であることが望ましい。また、粒子15の大きさは、用いる音波の波長の1/2以下、さらに1/5以下であることがより好ましい。このような場合には、絶縁性媒体である樹脂架橋体14の主成分の音響インピーダンスと粒子15の主成分の音響インピーダンスが大きく異なっていても、音波の伝播は大きく影響を受けないことがある。
【0031】
例えば、室温25℃のシリコーンゴムの音響インピーダンスは約1.0MRalys、ポリスチレンは約2.5MRalysであるので、その比を取ると0.4程度である。例えば、樹脂架橋体14の絶縁性媒体としてシリコーンゴムを用い、粒子15としてポリスチレンを主成分とする粒子を用いた場合には、電気粘着機能発現体12の厚さや粒子15の粒径にも依存するが、問題なく超音波探傷試験を行うことができる。
【0032】
電気粘着機能発現体12を構成する粒子15は、通常直径0.1μm以上100μm以下の平均粒子径を有する粒子の中から適宜選択して使用することができる。ここで平均粒子径とは、コールターカウンターによる標準粒子換算粒径である。粒径分布は用途によって適宜選定される。用いる音波の電気粘着機能発現体12中の波長よりも粒子15の粒径が小さいと、音波を滞りなく伝播させることができる。すなわち、用いる音波の電気粘着機能発現体12中の波長の1/5の長さより、粒子15の平均粒子径が小さいほうが好ましい。電気粘着機能発現体12の縦波音速は500〜3000m/s程度である。一方、用いる超音波の周波数は1〜10MHz程度である。例えば、縦波音速が1000m/sのとき、10MHzの超音波の波長は100μmである。用いる超音波の周波数によって適宜選択されるが、粒子15の直径は100μm以下が望ましい場合が多い。
【0033】
実施形態の超音波デバイス1においては、被試験体Xと超音波送受信機2との間に、音伝播を妨げる空気層が生じないようにすることが好ましい。このため、被試験体Xの表面粗さによって、粒子15の最適な粒径分布が選択される。すなわち、上記したように、電気粘着機能発現体12の表面には粒子15が露出しており、電圧を印加する前には被試験体Xの上を滑らすことが可能である。電圧を印加すると、表面に存在する粒子15が内部に沈み込むと同時に、周りの樹脂架橋体14が盛り上がり、空気層が排除される。電気粘着機能発現体12に電圧を印加しない状態において、粒子15が樹脂架橋体14の中に没入せずに表面での露出状態が維持されるのは、樹脂架橋体14の剛性や粒子15の粒径の選定により実現することができる。
【0034】
印加電圧を高くしていくと密着度は上昇し、空気層はより排除されるが、排除されずに残ってしまう空気胞も存在する。この排除されずに残ってしまう空気胞の大きさが大きかったり、その密度が多かったりすると、音伝播に支障が生じる。この空気胞の大きさは、用いる音の波長の1/2から1/5程度に小さいことが好ましい。例えば、周波数3.5MHzの音を用いる場合には、空気中の波長は100μm程度である。従って、空気胞の直径は10μmから50μm程度の大きさであることが好ましい。これを実現するためには、電気粘着機能発現体12の構成材料である粒子15の大きさは好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは30μm以下である。
【0035】
第1の実施形態の超音波デバイスにおいて、超音波の送信機能及び受信機能を有する音波機能部(超音波送受信機)2の構造は、
図1に示した垂直型超音波探触子としての構造に限定されるものではない。音波機能部(超音波送受信機)2には、各種公知の構造を適用することができる。例えば、
図5は超音波送受信素子6の背面側にダンパ16を配置した広帯域型超音波探触子としての超音波デバイス1を示している。
図6は斜角超音波探触子としての超音波デバイス1を示している。
図6に示す斜角超音波探触子としての超音波デバイス1は、くさび17の傾斜面17aに超音波送受信素子6が設けられていると共に、その背面に吸音材18が配置されている。
図7は二振動子型超音波探触子としての超音波デバイス1を示している。
図7に示す二振動子型超音波探触子としての超音波デバイス1は、音響隔離膜19を介して配置された音響遅延材20A、20Bのそれぞれに超音波送受信素子6が設けられている。これらの超音波デバイス1においても、音波機能部(超音波送受信機)2の超音波送受信面に電気粘着機能発現体12を有する音波伝播部3を設けることによって、超音波の伝播効率及びそれに基づく送受信効率を高めることができる。
【0036】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態の音波デバイス21について、
図8ないし
図11を参照して説明する。
図8ないし
図11は、音波受信機の一例であるAEセンサを備える音波デバイス21を示している。
図8は共振型AEセンサを備える音波デバイス21である。
図8に示す音波デバイス21は、音波の受信機能を有する音波機能部(AEセンサ)22と、音波機能部2の音波の受波面(音波機能面)に設けられる音波伝播部3とを具備する。音波伝播部3の具体的な構成は、第1の実施形態と同様である。AEセンサとしての音波機能部2は、振動子4としての圧電体がAEセンサに応じた材料や構造を有する音波受信素子23を用いていることを除いて、
図1に示した超音波デバイス1と同様な構成を有している。
【0037】
このような音波機能部(AEセンサ)22を備える音波デバイス21は、前述したように音波伝播部3の電気粘着機能発現体12が電圧印加時に粘着性を示すため、被試験体Xに取り付けることができる。さらに、取り付け時においては被試験体Xと空気を介することなく密着させることができるため、AE(Acoustic Emission)による音波の伝播効率及びそれに基づく受信効率を高めることができる。また、音波デバイス21を移動させる場合、電圧の印加をオフにすれば電気粘着機能発現体12がすべり性を示すため、音波デバイス21を容易に移動させることができる。
【0038】
AEセンサを備える音波デバイス21の具体的な構成は、
図8に示す共振型AEセンサを備える音波デバイス21に限られるものではない。音波機能部(AEセンサ)22には、各種公知の構造を適用することができる。例えば、
図9は音波受信素子23の背面側にダンパ16を配置した広帯域型AEセンサとしての音波デバイス21を示している。
図10は平衡型AEセンサとしての音波デバイス21を示している。
図10に示す音波デバイス21において、音波受信素子23は絶縁板24上に搭載されている。
図11はプリアンプ内蔵型AEセンサとしての音波デバイス21を示している。
図11に示す音波デバイス2は、ケース8内に配置されたプリアンプ25を有している。これらの音波デバイス21においても、音波機能部(AEセンサ)22の音波受信面に電気粘着機能発現体12を有する音波伝播部3を設けることによって、音波デバイス21の取り付け及び移動を容易にした上で、音波の伝播効率及びそれに基づく受信効率を高めることができる。
【0039】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態の音波デバイス31について、
図13を参照して説明する。
図13は、超音波送受信機の一例である垂直型超音波探触子を示している。垂直型超音波探触子としての超音波デバイス31は、第1の実施形態と同様に、超音波の送信機能及び受信機能を有する音波機能部(超音波送受信機)2と、音波機能部2の音波の送波面及び受波面として機能する音波機能面に設けられる音波伝播部3とを具備する。音波機能部(超音波送受信機)2は、第1の実施形態の超音波デバイス1と同様な構成を備えている。音波伝播部3は、第1の実施形態と同様に、正負一対の電極10を有する基板11と、基板11の電極形成面に設けられた電気粘着機能発現体12と、電気粘着機能発現体12に電圧を印加する電源13とを備え、それらに加えて高分子含有層32を備えている。
【0040】
高分子含有層32を備える音波伝播部3について、以下に詳述する。高分子含有層32は、音波機能部2の送受波面(音波機能面)7b、すなわち受波板7の超音波送受信素子6と接する面7aとは反対側の面7bと、基板11の電極形成面(表面)とは反対側の面(裏面)との間に、配置されている。高分子含有層32は、音波機能部2の送受波面7b及び基板11の裏面に、それぞれ接着層33を介して固定されている。第3の実施形態の音波デバイス31において、超音波送受信素子6から発信された超音波は、受波板7、高分子含有層32、基板11、及び電気粘着機能発現体12を介して被試験体に伝播される。また、被試験体で反射された反射波は、電気粘着機能発現体12、基板11、高分子含有層32、及び受波板7を介して超音波送受信素子6に伝播される。
【0041】
高分子含有層32は1GPa以下のヤング率を有している。このような高分子含有層32を音波機能部2と音波伝播部3の基板11との間に配置することで、被試験体Xの表面にμm程度の凹凸が生じていたり、また音波伝播部3の表面と被試験体Xの表面との曲率が異なるような場合においても、電気粘着機能発現体12の被試験体Xの表面に対する追従性を高めることができる。従って、電気粘着機能発現体12と被試験体Xの表面との間の超音波の伝播効率及びそれに基づく送受信効率が高められ、被試験体Xの表面にμm程度の凹凸が生じていたり、また音波伝播部3の表面と被試験体Xの表面との曲率が異なるような場合であっても、超音波探傷検査等の精度を向上させることが可能になる。
【0042】
上述したように、高分子含有層32は1GPa以下のヤング率を有している。これによって、電気粘着機能発現体12の被試験体Xの表面に対する追従性を高めることができる。すなわち、歪(ε)と垂直応力(σ)とヤング率(E)との間には、以下の式(2)の関係が成立する。
E=σ/ε …(2)
被試験体Xの表面に存在する凹凸としては、例えばスポット溶接の跡が挙げられる。スポット溶接の凹凸は2μmから20μm程度と報告されているため、このような凹凸に追従させることが求められる。仮に、高分子含有層32の厚さを2mmとすると、20μmの凹凸に追従させるためには、下記の式(3)から求められる歪を生じさせる必要がある。
ε=20×10
−6/2×10
−3=1×10
−2 …(3)
仮に、1キログラム重(kgw)(=約10MPa)の応力をかけるとすると、高分子含有層32には下記の式(4)から求められる1GPaの圧縮弾性率が必要になる。
10MPa/1×10
−2=1GPa …(4)
圧縮弾性率は、引張弾性率であるヤング率と同等の値を取ることが多い。従って、高分子含有層32のヤング率が1GPa以下であれば、例えば20μm以下の凹凸に追従させることができる。このため、高分子含有層32は1GPa以下のヤング率を有している。高分子含有層32のヤング率は0.7GPa以下がより好ましい。
【0043】
高分子含有層32の構成材料としては、樹脂、ゴム、エラストマー等を用いることができる。それらのうち、ヤング率が1GPa以下の高分子材料としては、ビニル系ではポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン系ではスチレン・ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、フッ素系では四フッ化エチレン、フッ化ビニリデン等が挙げられる。熱可塑性エラストマーに分類されるオレフィン系、スチレン系、塩化ビニル系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、熱硬化性エラストマーに分類されるウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等を、ヤング率が1GPa以下の高分子含有層32の構成材料として使用することもできる。
【0044】
ヤング率がさらに低い高分子材料として、環動エラストマーが挙げられる。環動エラストマーとは、ヤング率が極めて低いことで知られるポリロタキサン構造に代表される環動高分子材料である。ロタキサンは、大環状分子を棒状分子が貫通し、軸の両末端に嵩高い部位を結合させることで、立体障害でリングが軸から抜けなくなったものである。その構造的特徴は、以下の3つに分類される。すなわち、(1)環状分子と線状高分子との間に共有結合が存在しない、(2)多数の環状分子が線状高分子に沿って回転・滑り運動が可能である、(3)ポリロタキサン中の環状分子の化学修飾による機能付与が可能である。
【0045】
上述した環動エラストマーは、高分子含有層32の構成材料として用いることきができる。さらに、環動エラストマーの原料として、軸分子としてポリエチレングリコール、環状分子としてシクロデキストリン誘導体、キャッピング分子としてアダマンタンを用いたポリロタキサンは、高分子含有層32の構成材料として好適である。特に、ポリロタキサンにポリカプロラクトン等をグラフトし、他の高分子をブレンドして架橋したエラストマーは、弾性率が1kPa程度と極めて小さい。このようなエラストマーを高分子含有層32の構成材料として用いることによって、音波伝播部3の被試験体Xの凹凸を有する表面に対する追従性をより一層高めることができる。
【0046】
高分子含有層32の厚さは、被試験体の表面形状等により選定することが好ましいものの、具体的には1mm以上50mm以下が好ましい。高分子含有層32の厚さが1mm未満であると、音波伝播部3の被試験体Xの凹凸を有する表面に対する追従性を十分に高めることができないおそれがある。一方、高分子含有層32の厚さが以上50mmを超えると、超音波等の音波伝播性が低下するおそれがある。高分子含有層32は、上記したような高分子材料を主成分として含み、層全体のヤング率が1GPa以下であればよい。よって、高分子含有層32は、主成分の高分子材料以外に他の成分を含んでいてもよい。
【0047】
高分子含有層32には、様々な特性を向上させるために、ヤング率が1GPaを超えない範囲で各種成分を添加することができる。例えば、粒子を含有させることで、高分子含有層32の弾性率や耐久性を向上させることが可能である。例えば、半導体粒子、導電体粒子、異方性導電体粒子、強誘電体粒子、電解質粒子、絶縁体粒子等を高分子含有層32に含有させることができる。粒子の具体例としては、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸カルシウム等の強誘電体粒子、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ランタン等の酸化物粒子、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル類、ジビニルベンゼンをベースとした共重合体、アセンキノン類、ポリアニリン、ポリパラファニレン等の樹脂粒子、炭素質粒子、Agコロイド、Niコロイド、無水シリカ粒子、表面絶縁化導電性粒子、もしくはこれらの粒子の混合物、これらの粒子を尿素やポリマー等の有機化合物でコートした粒子等が挙げられる。粒子は、導電体ポリマーブレンド、シリコンモノマー等のモノマー、オリゴマー、さらにはこれらの混合物、誘導体等から選ばれる粒子であってもよい。粒子は、例えば球状粒子の表面を、球状粒子よりも小さい粒子で被覆した複合粒子であってもよい。球状粒子の材質としては、例えば様々なポリマー、シリカゲル、でんぷん、大豆カゼイン、カーボン等の粒子が例示される。そのような球状粒子の回りを被覆する小さい粒子には、無機酸化物、フタロシアニン化合物のような有機顔料等を用いることができる。
【0048】
さらに、高分子含有層32は、電荷輸送材料、導電性微粒子、シリコーンオイルに代表されるプロセスオイル、酸化物粒子等を含んでいてもよい。導電性微粒子の構成材料としては、金、銀、銅、白金、アルミニウム、チタン、タングステン、スズ、亜鉛、ニッケル、インジウム、ジルコニア等の金属、酸化スズ、炭素粉、フラーレン、炭化珪素、グラファイト、グラフェン、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0049】
電荷輸送材料には、有機ELや有機太陽電池等に用いられる電荷輸送性を有する材料を用いることができる。電荷輸送材料としては、例えばポリ(2−ビニルカルバゾール)、ポリ(9−ビニルカルバゾール)、1,3,5−トリス(2−(9−エチルカバジル−3)エチレン)ベンゼン、トリス(4−カルバゾイル−9−イルフェニル)アミン、トリス[4−(ジエチルアミノ)フェニル]アミン、トリ−p−トリルアミン、4,4’ビス(N−カルバゾリル)−1,1’−ビフェニル、4,4’−ビス(N−カルバゾリル)−1,1’−ビフェニル、1,3−ビス(N−カルバゾリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジフェニルアミノ)ベンゼン、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン、ポリ(N−エチル−2−ビニルカルバゾール)、ポリ[ビス(4−フェニル)(2,4,6−トリメチルフェニル)アミン、ポリ(1−ビニルナフタレン)、ポリ(1−ビニルナフタレン)、ポリ(2−ビニルナフタレン)、ポリ(銅フタロシアニン)等が挙げられる。
【0050】
音波伝播部3における基板11や電気粘着機能発現体12には、第1の実施形態と同様な構成を適用することができるが、基板11には柔軟性樹脂基板を適用することが好ましい。柔軟性樹脂基板の材質は、高分子含有層32の形状変動に追従し得るものが好ましく、材質や厚さを工夫することで、より小さな凹凸にも変動するものが好ましい。柔軟性樹脂基板には、フレキシブル基板として知られる樹脂基板を用いることができる。フレキシブル基板としては、耐熱性のよいポリイミドフィルムやポリエチレンテレフタレートフィルム等のベース基材に、電極材料や配線材料として銅箔のような金属箔を接着剤等で貼り付けたものが知られている。さらに柔軟性に優れ、凹凸部への追従性に優れているものとして、ベース基材に伸縮基材を用いたフレキシブル基板がある。伸縮基材とは、いわゆるゴムやエラストマーであり、さらに曲面や立体面等への適用性に優れる。ゴム材料としては、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリルゴム、ブチルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、多硫化ゴム等が挙げられる。エラストマーとしては、オレフィン系、スチレン系、塩化ビニル系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系等が挙げられる。なお、柔軟性樹脂基板は第3の実施形態に限らず、前述した第1及び第2の実施形態の基板11としても好適に用いることができる
【0051】
第3の実施形態の超音波デバイス31においては、第1の実施形態と同様に、音波伝播部3の電気粘着機能発現体12に電圧を印加することで粘着性を発現させ、被試験体Xの表面に電気粘着機能発現体12を、空気層をほとんど介さずに密着させることによって、音波伝播部3に積層される音波機能部2の超音波送受信素子6から被試験体X、及び被試験体Xから超音波送受信素子6への超音波の伝播を効率よく実現することができる。超音波送受信素子6から発信された超音波及び被試験体Xから反射された超音波は、前述したように、受波板7、高分子含有層32、基板11、及び電気粘着機能発現体12を介して伝播される。音の強さの透過率Tは、音響インピーダンスで記述でき、物質Aから物質Bへの音の透過率は、前述した式(1)で表される。
【0052】
音波の伝播を効率よく行わせるためには、単に被試験体Xとの間に空気層がないだけでなく、高分子含有層32と基板11との界面、高分子含有層32と受波板7との界面、さらに高分子含有層32を構成する材料中において、用いる音波が効率よく伝播するものであることが好ましい。すなわち、高分子含有層32の音響インピーダンスが、基板11や受波板7の音響インピーダンスと大きく乖離してないことが好ましい。高分子含有層32の主成分である高分子材料と基板11や受波板7の主成分の音響インピーダンスの比は0.001以上1000以下の範囲であることが好ましく、音響インピーダンスの比は0.01以上100以下の範囲であることがより好ましく、0.1以上10以下の範囲であることが望ましい。電気粘着機能発現体12の音響インピーダンスの比や粒子の大きさについては、前述した通りである。このような超音波デバイス31によれば、高分子含有層32を含む音波伝播部3を介して、超音波を効率よく送受信することができる。
【0053】
なお、上述した第3の実施形態においては、高分子含有層32を含む音波伝播部3を垂直型超音波探触子31に適用した例について説明したが、高分子含有層32を含む音波伝播部3の適用はこれに限られるものではない。高分子含有層32を含む音波伝播部3は、
図5に示した広帯域型超音波探触子としての超音波デバイス1、
図6に示した斜角超音波探触子としての超音波デバイス1、
図6に示した斜角超音波探触子としての超音波デバイス1、
図7に示した二振動子型超音波探触子としての超音波デバイス1等にも適用することができる。さらに、高分子含有層32を含む音波伝播部3は、超音波デバイスに限らず、第2の実施形態に示した音波受信機の一例であるAEセンサを備える音波デバイス21、すなわち
図8ないし
図11に示した音波デバイス21に適用してもよい。
【0054】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態の音波デバイス41について、
図14を参照して説明する。
図14は、超音波送受信機の一例である超音波プローブを示している。
図14に示す超音波プローブ41は、例えばスポット溶接の検査用プローブとして用いることができ、第1の実施形態と同様に超音波の送信機能及び受信機能を有する音波機能部2と音波伝播部3とを具備する。音波機能部2としての超音波トランスデューサ42は、マトリクス状やアレイ状に配列された複数の超音波送受信素子(圧電素子)6を備えている。超音波送受信素子(圧電素子)6の基本構成は、第1の実施形態と同様である。
【0055】
音波伝播部3は、音波機能部2としての超音波トランスデューサ42の超音波の送受波面(音波機能面)に順に設けられた、シュー部材43、高分子含有層32、正負一対の電極10を有する基板11、及び電気粘着機能発現体12を備えている。基板11及び電気粘着機能発現体12の具体的な構成は、第1の実施形態と同様である。高分子含有層32の具体的な構成は、第3の実施形態と同様であり、ヤング率が1GPa以下の高分子材料、例えば環動エラストマーを主成分として含有する層である。高分子含有層32は、環動エラストマーを含有する層であることが好ましい。基板11は、第3の実施形態と同様に、柔軟性樹脂基板であることが好ましい。
【0056】
環動エラストマーを含有する層等の高分子含有層32は、1mmから50mmの範囲の厚さを有する。さらに、高分子含有層32は中央部の厚さが周辺部の厚さより厚い形状を有しており、そのような形状の全体の厚さが1mmから50mmの範囲に入っている。ここで、中央部とは周辺部ではないことを意味する。すなわち、高分子含有層32はその周辺部(外周部)に比べて、それより内側の中央付近に位置する部分が厚い凸形状を有している。高分子含有層32の凸形状は、凸状の表面が湾曲している、すなわち中央付近が突出した曲面であることが好ましい。ただし、これ以外に部分的に突出した形状であってもよい。さらに、基板11は柔軟性樹脂基板であるため、高分子含有層32の凸形状を有する表面に倣った形状に湾曲しており、電気粘着機能発現体12も同様である。
【0057】
このように、中央部が周辺部より厚い形状を有する高分子含有層32によれば、例えば被試験体Xの表面に凹状部分が存在しているような場合においても、表面の凹状部分に沿って音波伝播部3を配置することができるため、超音波を効率よく送受信することができ、探傷試験等の精度を高めることが可能になる。なお、超音波の送受信はシュー部材43が介在されていることを除いて、第3の実施形態と同様に実施される。電気粘着機能発現体12に基づく効果は、第1の実施形態と同様である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例およびその評価結果について述べる。
【0059】
(実施例1、比較例1)
まず、電気レオロジー粒子が分散された樹脂架橋体から構成される電気粘着機能発現体を用意した。すなわち、平均粒子径が10μmのアクリル樹脂微粒子中に平均粒子径が200nmのチタン酸バリウム微粒子を埋め込んだ電気レオロジー粒子を準備した。作製した電気レオロジー粒子50重量部とポリ(9−ビニルカルバゾール)9重量部を、シリコーンオイル20重量部に分散させた。次いで、この分散液にシリコーンオリゴマー15重量部を分散させて一様な溶液とした。さらに、架橋剤1.5重量部を添加して分散させた。次いで、正極と負極とを有する櫛型電極が形成されたPET樹脂シートを用意し、その上に上記した溶液を塗布し硬化させた。硬化時の条件を変えることによって、電気粘着機能発現体の厚さを変えた試料を作製し、最後に油とりフィルムに試料を密着させてシリコーンオイルの一部を除去し、5種類の試料(実施例1−a〜e)を作製した。
【0060】
作製した電気粘着機能発現体を、
図5に示す広帯域型の垂直超音波探触子(超音波機能部)にそれぞれ搭載して、5種類の超音波デバイス(実施例1−a〜e)を作製した。これら超音波デバイスを、被試験体である内部に傷のあるSUS基板上に電気粘着機能発現体が被試験体と接するように載せて、電圧を印加しないときと、500Vの電圧を印加したときの、超音波の受信波形の波高値を比較した。なお、このときに周波数が3.5MHzの超音波を用いた。また、比較例1として、厚さが1.2mmのポリジメチルシロキサンを、垂直超音波探触子に貼り付けた以外は実施例1と同様に超音波デバイスを作製し、SUS基板上での超音波の受信波形の波高値を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
(実施例2)
まず、電気レオロジー粒子が分散された樹脂架橋体から構成される電気粘着機能発現体を用意した。すなわち、平均粒子径が10μmの板状アルミナ粒子80重量部とポリ(9−ビニルカルバゾール)9重量部と銅フタロシアニン9重量部を、シリコーンオイル20重量部に分散させた。次いで、この分散液にシリコーンオリゴマー20重量部を分散させて一様な溶液とした。さらに、架橋剤2重量部を添加して分散させた。次いで、実施例1と同様にて、櫛型電極が形成されているPET樹脂シート上に、用意した溶液を塗布し硬化させた。最後に含有されるシリコーンオイルの一部を油とりフィルムで除去して電気粘着機能発現体を作製した。出来上がった電気粘着機能発現体を電子顕微鏡で観察したところ、シリコーンオイルが存在していた部分が孔となって観測され、一部多孔質になっていることが認められた。
【0063】
作製した電気粘着機能発現体を、
図8に示す共振型AEセンサに搭載して音波デバイスとした。この音波デバイスを被試験体に載せて、弾性波の受信感度を測定した。実施例2の音波デバイスにおいては、電気粘着機能発現体に500Vの電圧を印加した状態で弾性波の受信感度を測定した。電気粘着機能発現体に代えてグリセリンを接触媒質として用いたときと比較した結果、ほぼ同一の感度であることを確認した。
【0064】
(実施例3)
まず、粒子が分散された樹脂架橋体から構成される電気粘着機能発現体を用意した。平均粒子径が18μmのジビニルベンゼンをベースとした共重合体アクリル粒子(積水化学工業社製、商品名:ミクロパール)0.5gを、ポリオール、ポリイソシアネート、及び触媒の混合物である、エクシール社製の人肌のゲル原液の柔らかめの主剤0.6gに分散させた。次に、上記ゲル原液の硬化剤0.2gを混ぜた。正極と負極とを有する櫛型電極が形成された、銅箔とポリイミドからなるフレキシブルシートを用意し、その上に上記した溶液を厚さ1mmに塗布した。熱をかけて半硬化させた後に、表面に共重合体アクリル粒子を1層のせて、その上から加圧した。その後、付着していない共重合体アクリル粒子をエアーシャワーで吹き飛ばし、さらに熱硬化させて、電気粘着機能発現体を作製した。
【0065】
次に、高分子含有層として、ヤング率が27MPaのシリコーンゴムを、厚さ5mmから30mmに加工し、広帯域型の垂直超音波探触子(超音波機能部)に接着剤で貼り付け、さらにその上に電気粘着機能発現体を接着剤で搭載して、5種類の超音波デバイス(実施例3−a〜e)を作製した。これら超音波デバイスを、内部に傷があり、かつ表面に20μmの凹凸があるSUS基板上に電気粘着機能発現体が被試験体と接するように載せて、電圧を印加しないときと、500Vの電圧を印加したときの、超音波の受信波形の波高値を比較した。なお、このときに周波数が5MHzの超音波を用いた。また、参考例1として、高分子含有層を配置しないこと以外は実施例3と同様に超音波デバイスを作製し、SUS基板上での超音波の受信波形の波高値を測定した。結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
(実施例4)
まず、粒子が分散された樹脂架橋体から構成される電気粘着機能発現体を用意した。平均粒子径が20μmのポリスチレン球(綜研化学社製、商品名:SPG−70C)5gを、ダウコーニング社製PDMS樹脂(商品名:Sylgard184(ベース:硬化剤=10:1))2g、シリコーンオイル3g、及びチタニルフタロシアニン0.02gを混合してよく攪拌した。正極と負極とを有する櫛型電極が形成された、銅箔とポリイミドからなるフレキシブルシートを用意し、その上に上記した溶液を厚さ2mmに塗布し、熱をかけて硬化させた。その後、紙を押しつけて余分なシリコーンオイルを除去することによって、電気粘着機能発現体を作製した。
【0068】
次に、高分子含有層として、ポリロタキサン(アドバンスト・ソフトマテリアルズ社製、セルム SAミクスチャー SH3403M2の主剤と硬化剤を所定の重量部で混ぜて加熱し、固化させたもの)を、厚さ5mmから30mmに加工し、さらに中央部が20%程度厚くなるように周辺部を加工した。それらを広帯域型の垂直超音波探触子に接着剤で貼り付け、さらにその上に電気粘着機能発現体を接着剤で搭載して、5種類の超音波デバイス(実施例4−a〜e)を作製した。これら超音波デバイスを、SUS板をスポット溶接した場所の探傷試験に用いた。すなわち、スポット溶接部は、直径6mmのくぼみを有し、その中に2μmの凹凸がある。電気粘着機能発現体が被試験体と接するように載せて、電圧を印加しないときと、500Vの電圧を印加したときの、超音波の受信波形の波高値を比較した。なお、このときに周波数が15MHzの超音波を用いた。また、参考例2として、高分子含有層を搭載しないこと以外は実施例4と同様に超音波デバイスを作製し、SUS基板上での超音波の受信波形の波高値を測定した。結果を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。