特許第6952760号(P6952760)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イーグル工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6952760-シール装置 図000002
  • 特許6952760-シール装置 図000003
  • 特許6952760-シール装置 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6952760
(24)【登録日】2021年9月30日
(45)【発行日】2021年10月20日
(54)【発明の名称】シール装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/44 20060101AFI20211011BHJP
   F04D 29/12 20060101ALI20211011BHJP
【FI】
   F16J15/44 C
   F04D29/12 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-501278(P2019-501278)
(86)(22)【出願日】2018年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2018005377
(87)【国際公開番号】WO2018155318
(87)【国際公開日】20180830
【審査請求日】2020年8月21日
(31)【優先権主張番号】特願2017-31237(P2017-31237)
(32)【優先日】2017年2月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201259
【弁理士】
【氏名又は名称】天坂 康種
(74)【代理人】
【識別番号】100116506
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 義宏
(72)【発明者】
【氏名】徳永 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀行
(72)【発明者】
【氏名】木村 航
(72)【発明者】
【氏名】井口 徹哉
(72)【発明者】
【氏名】笠原 英俊
(72)【発明者】
【氏名】弘松 純
(72)【発明者】
【氏名】黒木 康洋
(72)【発明者】
【氏名】菊池 竜
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−196800(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/085673(WO,A1)
【文献】 特開2010−112486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/44
F16J 15/3288
F04D 29/12
F16J 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の外周とハウジングの内周との空間にフローティングリングを備えたシール装置において、
前記フローティングリングは、フローティングリング本体、及び、前記フローティングリング本体の外径側に嵌合された金属製のサポートリングを有し、前記フローティングリング本体の低圧側の側面と前記ハウジングの内側面とが当接してシール面が形成されるものであって、
前記フローティングリングの外周部には、網構造に編まれた金属ワイヤ又はプラスチック線から構成されるワイヤメッシュから形成されるワイヤメッシュダンパからなる透過性減衰部材を備えることを特徴とするシール装置。
【請求項2】
前記透過性減衰部材は、中空円筒状の形状に形成されることを特徴とする請求項1に記載のシール装置。
【請求項3】
前記中空円筒状の透過性減衰部材は、その内周面が前記フローティングリングの外周面に接し、また、その外周面が前記ハウジング本体の空間を形成する径方向の内周面に接するように設定されることを特徴とする請求項1又は2記載のシール装置。
【請求項4】
前記中空円筒状の透過性減衰部材の軸方向の幅は、その両端が前記ハウジングの内側両側面とわずかな間隙を有する長さに設定されることを特徴とする請求項又は請求項に記載のシール装置。
【請求項5】
前記ハウジング内側面と前記フローティングリングの低圧側の側面とで形成されるシール面に被密封流体の導入が可能な導入凹部が設けられることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のシール装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸に使用されるシール装置に関し、特に、大型高速回転機の軸シール部や、ロケットエンジン用極低温液体燃料ターボポンプ等の回転軸に使用される非接触環状シールであるフローティングリングを備えたシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロケットエンジン用極低温液体燃料ターボポンプ等の高速回転機器において、回転軸の軸振動がしばしば問題になる。軸振動が自励振動的に増大すると、機械の破損だけでなく、重大な事故に繋がりかねないため、軸振動抑制のための技術が研究されている。
フローティングリングを備えたシール装置として、例えば、特開昭57−154562号公報(以下、「特許文献1」という。)に記載のものが知られている(以下、「従来技術1」という。)。この特許文献1に記載された従来技術1は、回転軸の周囲に配設された円環状のフローティングリングの外周に、周方向に等間隔で板バネを複数設け、該板バネを静止側であるハウジングにおいて支持し、板バネによりフローティングリングを浮き上がった状態で装着し、回転軸の振動によるフローティングリングの軸直角方向の振動を減衰させ、また、フローティングリングの内周面と回転軸との間に発生するくさび効果(くさび部に発生する動圧の効果)と、ロマキン効果(シール差圧が生じた際、シールリングと軸との表面間の流入損失による調心効果)により、フローティングリングの内周面と回転軸との間の隙間を一定に保つようにしたものである。
させるようにしたものである。
【0003】
また、フローティングリングを備えた他のシール装置として、特開2000−310342号公報(以下、「特許文献2」という。)に記載のものが知られている(以下、「従来技術2」という。)。この特許文献2に記載された従来技術2は、回転軸の周囲に配設された円環状のフローティングリングの低圧側に環状ホルダーと円筒状スリーブとからなる支持手段を設け、環状ホルダーとフローティングリングとの間に働く摩擦抵抗が大きくなってもフローティングリングの芯合わせ作用を妨げないようにしたものである。
【0004】
また、フローティングリングを備えた他のシール装置として、実開昭62−2865号公報(以下、「特許文献3」という。)に記載のものが知られている(以下、「従来技術3」という。)。この特許文献3に記載された従来技術3は、ガス圧縮機の液封式軸封装置に関し、シールリングの背面とケーシングとの間にOリングを介して油を封入した油圧室を設けることによってダンパ機構を構成し、シールリングの振動を防止するようにしたものである。
【0005】
しかしながら、上記従来技術1のフローティングリングを備えたシール装置においては、回転軸の振動に起因するフローティングリングの軸直角方向の振動をフローティングリングの外周の複数の板バネで制振できるが、回転軸の振動を抑制するという技術思想は備えていない。
また、上記従来技術2のフローティングリングを備えたシール装置においては、環状ホルダーとフローティングリングとの間に働く摩擦抵抗が大きくなってもフローティングリングの芯合わせ作用を妨げないというにとどまり、回転軸の振動を抑制するという技術思想は備えていない。
さらに、上記従来技術2のシールリングを備えたシール装置においては、シールリングの振動を油圧室からなるダンパ機構で制振できるが、回転軸の振動を抑制するという技術思想は備えていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭57−154562号公報
【特許文献2】特開2000−310342号公報
【特許文献3】実開昭62−2865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、回転軸の周囲にフローティングリングを備えたシール装置において、回転軸の偏心に対して軸心位置に復元させる半径方向の復元力と、回転軸の振れ回りを抑制する接線方向の減衰力とを付与することにより、漏れ防止を図ると共に回転軸の振動の抑制作用を併せ持つシール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明のしゅう動部品は、第1に、
回転軸の外周とハウジングの内周との空間にフローティングリングを備えたシール装置において、
前記フローティングリングは、フローティングリング本体、及び、前記フローティングリング本体の外径側に嵌合された金属製のサポートリングを有し、前記フローティングリング本体の低圧側の側面と前記ハウジングの内側面とが当接してシール面が形成されるものであって、
前記フローティングリングの外周部には、網構造に編まれた金属ワイヤ又はプラスチック線から構成されるワイヤメッシュから形成されるワイヤメッシュダンパからなる透過性減衰部材を備えることを特徴としている。
この特徴によれば、回転軸の偏心に対して軸心位置に復元させる半径方向の復元力と、回転軸の振れ回りを抑制する接線方向の減衰力とを付与することができ、漏れ防止を図ると共に回転軸の振動の抑制作用を併せ持つシール装置を提供することができる。また、ワイヤメッシュダンパからなる透過性減衰部材を備えることによって、ワイヤ同士の摩擦による摩擦力と、ワイヤ同士の間隙に存在する被密封流体の有する粘性抵抗(ダンパ)による減衰力を効率よく確保することができる。
【0010】
また、本発明のシール装置は、第に、第1の特徴において、
前記透過性減衰部材は、中空円筒状の形状に形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、ハウジングに特別の加工を施すことなく、フローティングリングの外周部の空間を利用して装着をすることができる。
【0011】
また、本発明のしゅう動部品は、第に、第1又はの特徴において、
前記中空円筒状の透過性減衰部材は、その内周面が前記フローティングリングの外周面に接し、また、その外周面が前記ハウジング本体の空間を形成する径方向の内周面に接するように設定されることを特徴としている。
この特徴によれば、回転軸の偏心に対して軸心位置に復元させる半径方向の復元力と、回転軸の振れ回りを抑制する接線方向の減衰力とを大きくすることができる。
【0012】
また、本発明のシール装置は、第に、第又は第の特徴において、
前記中空円筒状の透過性減衰部材の軸方向の幅は、その両端が前記ハウジングの内側両側面とわずかな間隙を有する長さに設定されることを特徴としている。
この特徴によれば、被密封流体の有する粘性抵抗(ダンパ)による減衰力を大きくすることができる。
【0013】
また、本発明のシール装置は、第に、第1ないし第のいずれかの特徴において、
前記ハウジング内側面と前記フローティングリングの低圧側の側面とで形成されるシール面に被密封流体の導入が可能な導入凹部が設けられることを特徴としている。
この特徴によれば、シール面の潤滑状態を良好に保持することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)回転軸の外周とハウジングの内周との空間にフローティングリングを備えたシール装置において、前記フローティングリングの外周部に透過性減衰部材を設けることにより、回転軸の偏心に対して軸心位置に復元させる半径方向の復元力と、回転軸の振れ回りを抑制する接線方向の減衰力とを付与することができ、漏れ防止を図ると共に回転軸の振動の抑制作用を併せ持つシール装置を提供することができる。
【0015】
(2)透過性減衰部材は、網構造に編まれた金属ワイヤ又はプラスチック線から構成されるワイヤメッシュから形成されるワイヤメッシュダンパからなることにより、ワイヤ同士の摩擦による摩擦力と、ワイヤ同士の間隙に存在する被密封流体の有する粘性抵抗(ダンパ)による減衰力を効率よく確保することができる。
【0016】
(3)透過性減衰部材は、中空円筒状の形状に形成されることにより、ハウジングに特別の加工を施すことなく、フローティングリングの外周部の空間を利用して装着をすることができる。
【0017】
(4)中空円筒状の透過性減衰部材は、その内周面がフローティングリングの外周面に接し、また、その外周面がハウジング本体の空間を形成する径方向の内周面に接するように設定されることにより、回転軸の偏心に対して軸心位置に復元させる半径方向の復元力と、回転軸の振れ回りを抑制する接線方向の減衰力とを大きくすることができる。
【0018】
(5)中空円筒状の透過性減衰部材の軸方向の幅は、その両端がハウジングの内側両側面とわずかな間隙を有する長さに設定されることにより、被密封流体の有する粘性抵抗(ダンパ)による減衰力を大きくすることができる。
【0019】
(6)ハウジング内側面とフローティングリングの低圧側の側面とで形成されるシール面に被密封流体の導入が可能な導入凹部が設けられることにより、シール面の潤滑状態を良好に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例1係るシール装置を模式的に示した正面断面図である。
図2図1のA−A断面図である。
図3】本発明の実施例1に係るシール装置における回転軸の振れ回りを抑制する作用を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置などは、特に明示的な記載がない限り、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0022】
図1ないし図3を参照して、本発明の実施例1に係るシール装置について説明する。
【0023】
図1において、ケーシング15を貫通するようにして流体機械の回転軸3が配設されており、左側が高圧流体側、右側が低圧流体側である。高圧流体側には、被密封流体である水、気体、油あるいは極低温流体等が封入されている。
シール装置1は、フローティングリング5と、該フローティングリング5を収納するハウジング2から主に構成される。
【0024】
ハウジング2は、ハウジング本体2aとカバー部材2bとから主に形成される。ハウジング本体2aは締結手段9によってケーシング15に固定され、ハウジング本体2aの内径部とカバー部材2bとによって囲まれた空間4が形成される。また、カバー部材2bはハウジング本体2aに締結手段で固定される。
【0025】
ハウジング2の内周面と回転軸3の外周面との間には半径方向の隙間δが設けられており、この隙間δをシールするため、回転軸3の外周を囲むように中空円筒状のフローティングリング5が設けられる。フローティングリング5は、その径に応じて、一体あるいは分割体で形成される。
【0026】
フローティングリング5は、カーボン等の自己潤滑性に優れた材料から形成されたフローティングリング本体5aと、該本体5aの外径側に嵌合された金属製のサポートリング5bとから構成され、フローティングリング本体5aが回転軸3の振れ回りにより回転軸3と接触した場合でも破壊されないように形成されている。
【0027】
ハウジング2内の空間4の径及び幅は、フローティングリング5の外径及び幅よりも大きい。
【0028】
フローティングリング5の内径は回転軸3の外径よりもわずかに大きく設定されており、フローティングリング5が半径方向に一定の範囲で移動可能となっている。回転軸3とフローティングリング5との径方向の間隙は極小に設定され、該間隙を通しての被密封流体の漏れは最小限に抑えられる。
【0029】
フローティングリング本体5aの低圧側の側面5cと、該側面5cに対峙するハウジング本体2aの内側面2cとの当接部においてシール面Sが形成されている。シール面Sには空間4内の被密封流体を導入するための導入凹部6が設けられ、シール面Sの潤滑が良好に保たれている。
フローティングリング5は高圧の被密封流体によりハウジング本体2aの内側面2c側に押し付けられ、シール面Sにおいてフローティングリング5とハウジング本体2aとの間の漏れを防止する。
なお、スプリング7を設けて、フローティングリング5をハウジング本体2aの内側面2c側に付勢してもよい。
【0030】
また、フローティングリング5には図示しない回止ピンが軸方向に設けられ、該回止ピンがハウジング2に設けられた溝内に遊嵌されることにより、フローティングリング5の回転を防止するようになっている。
なお、フローティングリング5の廻り止め手段としては、回止ピンに限定されるものではない。
【0031】
図2は、図1のA−A断面図であって、回転軸3が回転を始めた状態を示している。
今、回転軸3が反時計方向に回転を始めると、回転軸3とフローティングリング5との間に介在する被密封流体の隙間αにおけるくさび効果によりフローティングリング5を持ち上げる力が発生する。このとき、フローティングリング5の重量>回転軸3とフローティングリング5とのくさび効果によりフローティングリング5を持ち上げる力、の関係にある場合、フローティングリング5の中心は回転軸3の中心より下方にある。このような状態においては、回転軸3外周とフローティング5内周との間に介在する流体膜が局所的に薄くなるため、回転軸3の振れ回りのような挙動を起こしたときにフローティングリング5の内周面と回転軸3の外周面とが接触する危険がある。このような危険を避けるためには、フローティングリング5の内周面と回転軸3の外周面との隙間を大きく設定する必要がある。しかし、この隙間を大きくすると、この隙間からの被密封流体の漏れ量が隙間の3乗に比例して多くなるという問題がある。
【0032】
本発明は、回転軸3の偏心に対して、軸心位置に復元させる半径方向の復元力と、回転軸3の振れ回りを抑制する接線方向の減衰力とを付与することにより、漏れ防止を図ると共に回転軸3の振動の抑制作用を併せ持つシール装置を提供するものであり、そのため、図1及び図2に示すように、フローティングリング5の外周部に、透過性減衰部材、例えば、ワイヤメッシュから構成されるワイヤメッシュダンパ10を設けたものである。
透過性減衰部材は、その内部を流体が透過する部材であって、流体が透過する際に流体の有する粘性抵抗により透過性減衰部材の変形に対する減衰力が発生されるものであり、弾性を有する部材であればよく、フローティングリング5の外周部に設けられた際、径方向に弾性変形可能な部材であればよい。
透過性減衰部材としては、ワイヤメッシュダンパの他に、連続気泡の発泡ゴム及び発泡プラスチック等が挙げられる、
【0033】
ワイヤメッシュダンパ10は、網構造に編まれた鋼、ニッケル−クロム合金等の金属ワイヤ11(又は、ポリプロピレン、ポリエチレン等のプラスチック線)から形成され、その密度は設計的に決められる。
なお、ワイヤメッシュダンパ10の材料である金属ワイヤ、又は、プラスチック線は、弾性変形可能な材料であることが好ましい。
【0034】
また、図1及び図2に示すように、ワイヤメッシュダンパ10は、その内周面10aがフローティングリング5の外周面に接し、その外周面10bがハウジング本体2aの空間4を形成する径方向の内周面2dに接するように、中空円筒状の形状に形成される。
このため、回転軸3が偏心した場合、ワイヤメッシュダンパ10の復元作用により、回転軸3を軸心位置に押し戻す、半径方向の復元力が作用し、回転軸3を軸心位置に押し戻すことができる。そのため、フローティングリング5の側面5aとハウジング1の側面4aとのシール面Sが正常状態に維持され、シール効果を維持することができる。
【0035】
図1に示されているように、ワイヤメッシュダンパ10の幅(軸方向の長さ)は、その両端10c、10dがハウジング2の内側両側面とわずかな間隙を有する長さに設定され、ワイヤメッシュダンパ10の両側には被密封流体が存在するようになっている。
高圧流体側の被密封流体はワイヤメッシュダンパ10内を透過して、端部10d側に進入し、さらに、導入凹部6にも進入し、シール面Sを潤滑する。
【0036】
次に、図3を参照しながら、本発明のシール装置が、回転軸3が軸心から偏心した状態で一定の周期で振れ回る際の振れ回りを抑制する作用について説明する。
【0037】
回転軸3の振れ回り状態において、図3に示すように、回転軸3が軸心から右上方に偏心した状態を想定すると、フローティングリング5は回転軸3に押されて右上方の外径側に移動する。フローティングリング5が右上方の外径側に移動すると、ワイヤメッシュダンパ10の右上方に位置する部分が圧縮される。ワイヤメッシュダンパ10に変形が生じると、編み込まれたワイヤ11同士の摩擦により摩擦力が生じると共に、ワイヤ11同士の間隙に存在する被密封流体の有する粘性抵抗(ダンパ)によりワイヤ11の変形に対する減衰力が発生する。
上記の摩擦力及び粘性抵抗による減衰力は、フローティングリング5を介して回転軸3に伝達され、回転軸3の振れ回りを抑制する接線方向の減衰力として作用する。
【0038】
一方、フローティングリング5の移動方向と反対側である左下方においては、サポートリング6の外周面とハウジング本体2aの内周面2dとの間の間隔が大きくなるため、ワイヤメッシュダンパ10のワイヤ11同士の間隙が大きくなり、ワイヤメッシュダンパ10の外部に存在する被密封流体がワイヤ11同士の間隙内に流入し、間隙内は被密封流体で満たされる。
【0039】
本発明の実施例1に係るシール装置は上記のとおりであり、以下のような優れた効果を奏する。
(1)回転軸3の外周とハウジング1の内周との空間にフローティングリング5を備えたシール装置において、フローティングリング5の外周部に透過性減衰部材を設けることにより、回転軸の偏心に対して軸心位置に復元させる半径方向の復元力と、回転軸の振れ回りを抑制する接線方向の減衰力とを付与することができ、漏れ防止を図ると共に回転軸の振動の抑制作用を併せ持つシール装置を提供することができる。
(2)透過性減衰部材は、網構造に編まれた金属ワイヤ又はプラスチック線から構成されるワイヤメッシュから形成されるワイヤメッシュダンパ10からなることにより、ワイヤ11同士の摩擦による摩擦力と、ワイヤ11同士の間隙に存在する被密封流体の有する粘性抵抗(ダンパ)による減衰力を効率よく確保することができる。
(3)透過性減衰部材は、中空円筒状の形状に形成されることにより、ハウジングに特別の加工を施すことなく、フローティングリング5の外周部の空間を利用して装着をすることができる。
(4)中空円筒状の透過性減衰部材は、その内周面がフローティングリング5の外周面に接し、また、その外周面がハウジング本体2aの空間を形成する径方向の内周面2dに接するように設定されることにより、回転軸3の偏心に対して軸心位置に復元させる半径方向の復元力と、回転軸3の振れ回りを抑制する接線方向の減衰力とを大きくすることができる。
(5)中空円筒状の透過性減衰部材の軸方向の幅は、その両端がハウジング2の内側両側面とわずかな間隙を有する長さに設定されるにより、被密封流体の有する粘性抵抗(ダンパ)による減衰力を大きくすることができる。
(6)ハウジング内側面2cとフローティングリング5の低圧側の側面5cとで形成されるシール面Sに被密封流体の導入が可能な導入凹部6が設けられることにより、シール面Sの潤滑状態を良好に保持することができる。
【0040】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0041】
例えば、前記実施例では、中空円筒状のワイヤメッシュダンパ10は、その内周面10aがフローティングリング5の外周面に接し、また、その外周面10bがハウジング本体2aの空間4を形成する径方向の内周面2dに接するように設定される場合について説明したが、これに限定されることなく、外周面10bがハウジング本体2aの内周面2dと間隙を有するようにワイヤメッシュダンパ10の外径を設定してもよい。
【0042】
例えば、前記実施例では、中空円筒状のワイヤメッシュダンパ10の軸方向の幅がハウジング2の内側両側面とわずかな間隙を有する長さに設定される場合について説明したが、これに限定されることなく、例えば、ワイヤメッシュの密度及び被密封流体の粘度に応じて、軸方向の幅を小さくしてもよい。
【0043】
また、本件はシール装置を主目的として用いるが、軸の振動を減衰する減衰装置として用いてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 シール装置
2 ハウジング
2a ハウジング本体
2b カバー部材
2c 内側面
2d 内周面
3 回転軸
4 空間
5 フローティングリング
5a フローティングリング本体
5b サポートリング
5c 低圧側の側面
6 導入凹部
7 スプリング
9 締結手段
10 透過性減衰部材(ワイヤメッシュダンパ)
10a 内周面
10b 外周面
10c、10d 両端
11 金属ワイヤ(プラスチック線)
15 ケーシング
S シール面
δ ハウジングの内周面と回転軸の外周面との隙間
α 回転軸とフローティングリングとの隙間
























図1
図2
図3