特許第6952880号(P6952880)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6952880
(24)【登録日】2021年9月30日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】高強度ビードワイヤ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21C 3/14 20060101AFI20211018BHJP
   B21C 1/00 20060101ALI20211018BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20211018BHJP
   C22C 38/18 20060101ALI20211018BHJP
   B21C 3/10 20060101ALI20211018BHJP
   B21C 1/16 20060101ALI20211018BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20211018BHJP
   C22C 38/20 20060101ALN20211018BHJP
【FI】
   B21C3/14
   B21C1/00 L
   C22C38/00 301Y
   C22C38/18
   B21C3/10 B
   B21C1/16 A
   B21C1/16 Z
   B60C9/00 J
   !C22C38/20
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-511354(P2020-511354)
(86)(22)【出願日】2018年7月6日
(65)【公表番号】特表2020-534158(P2020-534158A)
(43)【公表日】2020年11月26日
(86)【国際出願番号】KR2018007673
(87)【国際公開番号】WO2019083121
(87)【国際公開日】20190502
【審査請求日】2020年2月21日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0140320
(32)【優先日】2017年10月26日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515084708
【氏名又は名称】ホンドク インダストリアル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク, オク シル
(72)【発明者】
【氏名】パク, ドン ジン
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−054260(JP,A)
【文献】 特開平06−106226(JP,A)
【文献】 特開平11−269607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 1/00−19/00
B60C 9/00− 9/30
D02G 3/48
D07B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車タイヤ補強材として使われるビードワイヤの製造方法において、
0.86ないし1.02重量%の炭素を含むワイヤロッドを用意する段階と、
前記ワイヤロッドの表面に5ないし10g/m2のリン酸塩皮膜を塗布する皮膜塗布段階と、
前記リン酸塩皮膜が塗布された前記ワイヤロッドを伸線する伸線段階と、を含み、
前記伸線段階において、前記ワイヤロッドは、
前記ワイヤロッドを引き抜ける伸線ダイスと、前記伸線ダイスの前に設けられ、かつ前記ワイヤロッドに圧力をかけられる圧力ダイスと、を含んで形成された伸線装置を通じて伸線され、
圧力ダイス径は、伸線ダイス径の1.05ないし1.2倍に形成され、
前記ワイヤロッドは、5.0ないし9.0mmの線径からなり、前記伸線段階を経た前記ワイヤロッドは、0.8ないし3.0mmの線径からなり、
前記伸線段階において、前記リン酸塩皮膜は、前記圧力ダイスの圧力によって液化することを特徴とする高強度ビードワイヤの製造方法。
【請求項2】
前記ワイヤロッドは、ケイ素、マンガン、クロムを含んで形成され、
前記ケイ素は0.40ないし0.58重量%、前記マンガンは0.25ないし0.40重量%、前記クロムは0.15ないし0.25重量%になることを特徴とする請求項1に記載の高強度ビードワイヤの製造方法。
【請求項3】
前記伸線段階を経た前記ワイヤロッドは、
240kgf/mm以上の強度及び6%以上の伸率を持つことを特徴とする請求項1に記載の高強度ビードワイヤの製造方法。
【請求項4】
前記伸線段階を経た前記ワイヤロッドの線径が1.3mm超過の場合、
前記伸線段階は1次伸線段階からなり、
前記伸線段階を経た前記ワイヤロッドの線径が1.3mm未満の場合、
前記伸線段階は、
1次伸線段階、パテンティング処理段階、2次伸線段階を含んでなることを特徴とする請求項3に記載の高強度ビードワイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度ビードワイヤ及びその製造方法に係り、さらに詳細には、皮膜塗布量及び圧力ダイス径を調節して、炭素含量の高い高強度ビードワイヤを製造することで、ビードワイヤの引張強度を高められる高強度ビードワイヤ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にビードとは、自動車のタイヤにおいてタイヤとホイールディスクとが触れ合う部分であって、タイヤのビード部には、車体の荷重に耐えて走行中に安全性を確保できるようにビードワイヤが埋め込まれている。ビードワイヤは、内部の空気圧及びタイヤの変形からタイヤホイールディスクに固定させて、自動車タイヤの駆動力、制動力及び操向力を路面に伝達する非常に重要な構成要素である。
【0003】
車用タイヤは、走行時に地面と触れ合うトレッド部、自動車ホイールのリム部と密着するビード部、ビード部とトレッド部とを連結するショルダー部、及びサイドウォール部で構成されている。ビードワイヤは、タイヤのビード部に複数のストランドが埋め込まれて車両を支持する。
【0004】
ビード部に埋め込まれるビードワイヤは、ゴムとの接着力を強化するために、ワイヤの表面に銅と錫との合金からなる青銅を主にメッキし、その方式は化学メッキ、電気メッキなど多様である。また、メッキ後にさらに腐食抵抗性を高めるためにレジンコーティングが適用されることもある。
【0005】
このようなビードワイヤは、自動車の燃費向上及び安定性のために徐々に高強度化が進行する勢いである。高強度ビードワイヤは、重量対比強度が高く、実際の自動車に適用する時に少量で同じ強度を出すことができる。
【0006】
しかし、このような高強度のビードワイヤを製造する過程では、次のような問題点がある。高強度ビードワイヤを製造するためには、炭素含有量の高い素材を加工せねばならない。しかし、炭素含量が高くなれば、伸線加工時に素材の中心及び内部で不均一な加工が容易に施され、これによって、加工中に断線が発生するという問題点がある。
【0007】
また、炭素含量の高い素材で完成品を作る場合、高い炭素含量のため、完成品で捻回、バンディング、キンクなどの特性値が低くなるという問題点がある。よって、高強度のビードワイヤを製作するためには、炭素含量を高めつつ捻回、バンディング、キンクなどの特性値の低下を防止し、伸線加工時に断線を防止できるビードワイヤ工程が必要な実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述した問題点を解決するためになされたものであり、さらに詳細には、皮膜塗布量及び圧力ダイス径を調節して、炭素含量の高い高強度ビードワイヤを製造することで、ビードワイヤの引張強度を高められる高強度ビードワイヤ及びその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した本発明の高強度ビードワイヤの製造方法は、0.86ないし1.02重量%の炭素を含むワイヤロッドを用意する段階と、前記ワイヤロッドの表面に5ないし10g/mのリン酸塩皮膜を塗布する皮膜塗布段階と、前記リン酸塩皮膜が塗布された前記ワイヤロッドを伸線する伸線段階と、を含み、前記伸線段階において、前記ワイヤロッドは、前記ワイヤロッドを引き抜ける伸線ダイスと、前記伸線ダイスの前に設けられ、かつ前記ワイヤロッドに圧力をかけられる圧力ダイスと、を含んで形成された伸線装置を通じて伸線され、圧力ダイス径は、伸線ダイス径の1.05倍ないし1.2倍に形成されることを特徴とする。
【0010】
前述した本発明の高強度ビードワイヤの製造方法の前記ワイヤロッドは、ケイ素、マンガン、クロムを含んで形成され、前記ケイ素は0.40ないし0.58重量%、前記マンガンは0.25ないし0.40重量%、前記クロムは0.15ないし0.25重量%になることが望ましく、前記伸線段階を経た前記ワイヤロッドは、0.8ないし3.0mmの線径からなり、240kgf/mm以上の強度及び6%以上の伸率を持つことが望ましい。
【0011】
前述した本発明の高強度ビードワイヤの製造方法において、前記伸線段階を経た前記ワイヤロッドの線径が1.3mm超過の場合、前記伸線段階は1次伸線段階からなり、前記伸線段階を経た前記ワイヤロッドの線径が1.3mm未満の場合、前記伸線段階は、1次伸線段階、パテンティング処理段階、2次伸線段階を含んでなることが望ましい。
【0012】
前述した本発明の高強度ビードワイヤは、0.86ないし1.02重量%の炭素を含むワイヤロッドと、前記ワイヤロッドの表面に5ないし10g/mに塗布されるリン酸塩皮膜と、を含んでなり、前記ワイヤロッドは、前記ワイヤロッドを引き抜ける伸線ダイスと、前記伸線ダイスの前に設けられ、かつ前記ワイヤロッドに圧力をかけられる圧力ダイスと、を含んで形成された伸線装置を通じて伸線され、圧力ダイス径は、伸線ダイス径の1.05ないし1.20倍に形成されることを特徴とする。
【0013】
前述した本発明の高強度ビードワイヤの前記ワイヤロッドは、ケイ素、マンガン、クロムを含んで形成され、前記ケイ素は0.40ないし0.58重量%、前記マンガンは0.25ないし0.40重量%、前記クロムは0.15ないし0.25重量%になることが望ましく、前記伸線装置を通じて伸線された前記ワイヤロッドは、0.8ないし3.0mmの線径からなり、240kgf/mm以上の強度及び6%以上の伸率を持つことが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、皮膜塗布量及び圧力ダイス径を調節して潤滑性能を改善することによって、炭素含量の高い高強度ビードワイヤが製造できるという長所がある。
【0015】
また、高強度ビードワイヤを自動車タイヤに適用する場合に重量対比強度が高いため、自動車の軽量化及び燃費向上を可能にし、高い引張強度によってタイヤ圧力に対する支持や、外部衝撃による抵抗性も高くなって、自動車タイヤの安定性を高めるという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態による高強度ビードワイヤの製造方法の工程図である。
図2】本発明の実施形態による圧力ダイス径が伸線ダイス径の1.05ないし1.2倍に形成される場合の潤滑剤の流動を示す図面である。
図3】圧力ダイス径が伸線ダイス径の1.2ないし1.4倍に形成される場合の潤滑剤の流動を示す図面である。
図4】本発明の実施形態と比較例との線表面温度を比べたグラフである。
図5】本発明の実施形態と比較例との線表面粗度及び残留潤滑剤の付着量を比べたグラフである。
図6】本発明の実施形態による高強度ビードワイヤの製造方法によって製作された高強度ビードワイヤの物性を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、皮膜塗布量及び圧力ダイス径を調節して、炭素含量の高い高強度ビードワイヤを製造することで、ビードワイヤの引張強度を高められる高強度ビードワイヤ及びその製造方法に関する。以下、添付した図面を参照して本発明の望ましい実施形態を詳細に説明する。
【0018】
図1を参照すれば、本発明の高強度ビードワイヤの製造方法は、ワイヤロッドの用意段階(S100)、皮膜塗布段階(S200)、伸線段階(S300)を含んでなる。
【0019】
前記ワイヤロッドの用意段階(S100)は、0.86ないし1.02重量%の炭素(C)を含むワイヤロッド110を用意する段階である。既存のワイヤロッドは、炭素含量が0.6ないし0.85重量%になっているが、ワイヤロッドの炭素含量を高めれば伸線加工時に断線が発生し、捻回、バンディング、キンクなどの特性値が低下するという問題点があった。
【0020】
しかし、本発明の実施形態によれば、皮膜塗布量の調節及び圧力ダイス径の調節を通じて0.86ないし1.02重量%の炭素含量を持つワイヤロッドを使えるようになる。前記ワイヤロッドの用意段階(S100)は、このような0.86ないし1.02重量%の炭素含量を持つワイヤロッド110を用意する段階である。
【0021】
前記ワイヤロッド110の線径は5.0mmないし9.0mmからなり、前記ワイヤロッド110は、ケイ素、マンガン、クロムを含んでなる(具体的に前記ワイヤロッド110の前記ケイ素は0.40ないし0.58重量%、前記マンガンは0.25ないし0.40重量%、前記クロムは0.15ないし0.25重量%になってもよい。)。
【0022】
前記皮膜塗布段階(S200)は、前記ワイヤロッド110の表面に5ないし10g/mのリン酸塩皮膜120を塗布する段階である。前記リン酸塩皮膜120は、前記ワイヤロッド110を伸線する時に潤滑剤の役割をする。具体的に、前記ワイヤロッド110の表面に塗布された前記リン酸塩皮膜120は、後述する圧力ダイス132によって圧力が加えられ、圧力によって前記リン酸塩皮膜120が液化しつつ潤滑剤の役割を行う。
【0023】
一般的に、炭素含量の高い高炭素鋼ワイヤロッドを伸線する場合、ワイヤロッドの外部は、ダイス(伸線ダイス131、圧力ダイス132など)との摩擦によって加工が少なく施され、内部は加工が多く施される。このように内外部間の加工の差によって、炭素含量の高い高炭素鋼ワイヤロッドを伸線する場合に内部の亀裂や気孔が発生するおそれがあり、これは不均一な加工を引き起こす。このような不均一な加工によって炭素含量の高い高炭素鋼ワイヤロッドは、捻回、バンディング、キンクなどの特性値が低下する。よって、特性値の低下を生じさせずに炭素含量の高い高炭素鋼ワイヤロッドを伸線加工するためには、潤滑性能を改善させねばならない。
【0024】
ワイヤロッドの炭素含有量が比較的少ない場合(低炭素鋼、中炭素鋼)には、ダイス(伸線ダイス131、圧力ダイス132など)とワイヤロッドとの間に摩擦が大きくなく、ワイヤロッドの表面に塗布されるリン酸塩皮膜の量が少なくとも伸線加工が可能であった(ワイヤロッドが低炭素鋼、中炭素鋼である場合、ワイヤロッドの表面に塗布されるリン酸塩皮膜の量は3ないし4g/mにすることができた。)。
【0025】
しかし、本発明の実施形態のように炭素含量の高い高炭素鋼ワイヤロッド110は、伸線加工時にワイヤロッドとダイスとの摩擦を低減させるために潤滑性能が改善されねばならないので、前記皮膜塗布段階(S200)で、前記ワイヤロッド110の表面に塗布されるリン酸塩皮膜120の量を5ないし10g/mにすること、さらに望ましくは5ないし8g/mにすることが望ましい(ここで、リン酸塩皮膜120が厚すぎれば、リン酸塩皮膜120があちこちで塊になるか、またはワイヤが曲げられるときにリン酸塩皮膜120が落ちるため却って潤滑によくない。よって、リン酸塩皮膜120の量は10g/m以下にすることが望ましく、5ないし8g/mであることがさらに望ましい。)。
【0026】
炭素含量の高い前記ワイヤロッド110の潤滑性能を高めるためには、前記ワイヤロッド110に塗布されるリン酸塩皮膜120の量を増大させると共に、リン酸塩皮膜120にかけられる圧力を高めて潤滑性能を改善させねばならない。
【0027】
前記伸線段階(S300)は、前記ワイヤロッド110を引き抜ける伸線ダイス131と、前記伸線ダイス131の前に設けられ、かつ前記ワイヤロッド110に圧力をかけられる圧力ダイス132と、を含んで形成された伸線装置130を通じて、前記ワイヤロッド110を伸線する段階である。前記伸線段階(S300)では、圧力ダイス径aを伸線ダイス径bの1.05ないし1.2倍に形成し、かつリン酸塩皮膜120にかけられる圧力を高めて潤滑性能を改善させる。
【0028】
(ここで、図2を参照すれば、圧力ダイス径aは、長さaを示し、伸線ダイス径bは、長さbを示す。)
【0029】
前記圧力ダイス132は、前記ワイヤロッド110の表面に塗布されたリン酸塩皮膜120に圧力をかけられるものであって、前記圧力ダイス132を通じてかけられた圧力を通じて、リン酸塩皮膜120は液化して潤滑剤の役割を行う。
【0030】
図2及び図3を参照すれば、圧力ダイス径aは、伸線ダイス径bの1.2以下にすることが望ましい。図3のように圧力ダイス径aが大きい場合には、前記圧力ダイス132によって加えられる圧力が小さくなり、これによって、リン酸塩皮膜120が液化する割合が小さくなって潤滑性能が改善し難いという問題点がある。よって、本発明の実施形態によれば、図2のように、圧力ダイス径aを伸線ダイス径bの1.20倍に低めることで、前記伸線ダイス131に流れ込む潤滑剤の導入量を高められるようになる。
【0031】
前記伸線ダイス131の潤滑剤の導入量を増大させることによって、ワイヤロッド110の内部及び外部を均一に伸線可能になる。従来、炭素含量の高い高炭素鋼ワイヤロッドの場合、潤滑性能の低下によってワイヤロッドとダイスとの間に摩擦が生じ、これは、ワイヤロッドの内部及び外部の不均一な伸線を生じさせ、捻回、バンディング、キンクなどの特性値の低下を引き起こした。
【0032】
しかし、圧力ダイス径aを伸線ダイス径bの1.20倍にして潤滑性能を改善させれば、ワイヤロッド110の内部及び外部を均一に伸線可能になり、これを通じて伸線加工時に生じる捻回、バンディング、キンクなどの特性値の低下を防止できる。よって、圧力ダイス径aは、伸線ダイス径bの1.2倍以下であることが望ましい。
【0033】
但し、圧力ダイス径aは、伸線ダイス径bの1.05倍以上であることが望ましい。前記ワイヤロッド110の表面に塗布されたリン酸塩皮膜120が潤滑剤の役割を行う場合、潤滑剤内にはサイズの大きい粒子が存在する。圧力ダイス径aを伸線ダイス径bの1.05倍より小さくすれば、潤滑剤内の大きい粒子によって詰まり、却って潤滑性能が低下するという問題点がある。また、圧力ダイス径aが小さ過ぎれば、前記ワイヤロッド110と前記圧力ダイス132との間に摩擦が生じることもあり、このような摩擦は却って潤滑性能を低下させるという問題がある。よって、圧力ダイス径aは、伸線ダイス径bの1.05倍以上であることが望ましい。
【0034】
図4及び図5を参照して、圧力ダイス径aを伸線ダイス径bの1.05ないし1.2倍にする理由についてさらに具体的に説明すれば、次の通りである。図4は、圧力ダイス径aの割合によるダイス出口の線表面温度の変化を示したものであり、図5は、圧力ダイス径aの割合による線表面粗度及び残留潤滑剤の付着量の変化を示したものである。
【0035】
図4を参照すれば、圧力ダイス径aを伸線ダイス径bの1.05ないし1.2倍にする場合の線表面温度が、他の割合よりも線表面温度が低いということが分かる。これは、圧力ダイス径aを伸線ダイス径bの1.05ないし1.2倍にする場合に潤滑性能が改善するため摩擦が少なく、摩擦が少なくなるにつれて線表面温度が低くなる。
【0036】
図5を参照すれば、圧力ダイス径aは、伸線ダイス径bの1.05ないし1.2倍にする場合に表面粗度が大きくなり、残留皮膜潤滑剤の量が多くなるということが分かる。圧力ダイス径aを伸線ダイス径bの1.05ないし1.2倍にする場合に残留皮膜潤滑剤が多いということは、潤滑性能が向上したということを示す(また、圧力ダイス径aは、伸線ダイス径bの1.05ないし1.2倍にする場合に表面粗度を高めることができ、これを通じてゴムとの接着力を高めることもできる。)。
【0037】
前記伸線段階(S300)を経た前記ワイヤロッド110は、0.8ないし3.0mm線径に伸線され、前述した製造方法を通じて製造された高強度ビードワイヤは240kgf/mm以上の強度及び6%以上の伸率を持つことができる(具体的に、240ないし260kgf/mmの強度及び6ないし8%の伸率を持つことができる。)。
【0038】
ここで、前記伸線段階(S300)を経た前記ワイヤロッド110の線径に応じて、前記伸線段階(S300)は1次伸線段階からなり、2次伸線段階からなってもよい。具体的に、前記伸線段階(S300)を経た前記ワイヤロッド110の線径が1.3mm以上である場合、前記伸線段階(S300)は1次伸線段階からなり、伸線潤滑のための皮膜をワイヤロッド110の表面に塗布した後、目標とする線径まで伸線がすぐ進む。
【0039】
前記伸線段階(S300)を経た前記ワイヤロッド110の線径が1.3mm未満である場合、前記伸線段階(S300)は、1次伸線段階、パテンティング処理段階、2次伸線段階を含んでなり、2段階に分けられて伸線が進む。
【0040】
具体的に、前記伸線段階(S300)は、1次伸線段階を経て、鋼組織を回復するためにパテンティング処理段階を経る。前記パテンティング処理段階の工程は、次の通りである。ガスまたは電気加熱炉を用いて前記ワイヤロッド110の温度を850ないし940℃まで加熱し、ワイヤロッドの全体組織をオステナイト組織に変態させる。その後、約590℃レベルで均一な冷却のために、はんだ槽を通過させ、前記ワイヤロッド110に全体的に均一なパーライト(pearlite)組織を生じさせる。均一にパーライト組織が生じた中間線を用いて洗浄し、皮膜を再塗布し、次いで、2次伸線段階を通じて最終目標の線径まで加工する。この時、伸線加工量は、前記ワイヤロッド110の成分組成と、目標線径まで伸線したワイヤの予想引張強度とに基づいて定められる。
【0041】
目標線径まで伸線されたワイヤロッド110は、加工硬化によって強度は高く示されるものの、破断伸率は1ないし3%レベルで低く示され、伸率回復のためのさらなる過程が必要である。よって、伸率回復のために伸線されたワイヤロッド110に、400ないし500℃の間の変態点以下の温度でアニーリング熱処理を適用できる。このような熱処理を通じて、伸線の伸率を1ないし3%から目標伸線6ないし7%まで上昇させることができる。
【0042】
前述した高強度ビードワイヤの製造方法は、前記ワイヤロッドの用意段階(S100)、前記皮膜塗布段階(S200)、前記伸線段階(S300)を含んでなるが、他の工程も含まれていてもよいということはいうまでもない。例えば、ワイヤロッドを伸線するための準備過程である酸洗−水洗−皮膜−水洗−乾燥工程が含まれてもよい。また、前記伸線段階(S300)以降に、防錆性確保およびタイヤゴムとの接着力向上のために、銅と錫との合金である青銅をワイヤロッドの表面に化学メッキまたは電気メッキ方式でメッキし、さらなる防錆性向上のためにレジンコーティングを施して腐食に対する抵抗性を高めてもよい。
【0043】
すなわち、前記ワイヤロッドの用意段階(S100)、前記皮膜塗布段階(S200)、前記伸線段階(S300)以外にも、従来のワイヤロッドを伸線するのに必要な工程過程が含まれ、このような工程過程は公知の技術であるところ、詳細な説明は省略する。
【0044】
前述した高強度ビードワイヤの製造方法によって高強度ビードワイヤが製造される。前述した高強度ビードワイヤの製造方法によって製造された高強度ビードワイヤは、240kgf/mm以上の強度及び6%以上伸率を持つ。このような高強度ビードワイヤは、自動車タイヤに適用する場合に重量対比強度が高いため、自動車の軽量化及び燃費向上を可能にし、高い引張強度によってタイヤ圧力に対する支持や、外部衝撃による抵抗性も高くなって、自動車タイヤの安定性を高める効果がある(240ないし260kgf/mmの強度及び6ないし8%の伸率を持つことができる。)。
【0045】
具体的に前述した高強度ビードワイヤの製造方法によって製造された前記高強度ビードワイヤは、0.86ないし1.02重量%の炭素を含むワイヤロッド110と、前記ワイヤロッド110の表面に5ないし10g/m塗布されるリン酸塩皮膜120と、を含んでなるものであり、前記ワイヤロッド110が、前記ワイヤロッド110を引き抜ける伸線ダイス131と、前記伸線ダイス131の前に設けられ、かつ前記ワイヤロッド110に圧力をかけられる圧力ダイス132と、を含んで形成された伸線装置130を通じて伸線され、高強度ビードワイヤが製造される。
【0046】
(ここで、圧力ダイス径aは、伸線ダイス径bの1.05ないし1.20倍に形成されられるものであって、圧力ダイス径aについての臨界的な意義は前述したため、省略する。また、前記ワイヤロッド110の表面に5ないし10g/mのリン酸塩皮膜120を塗布する理由についての説明も前述したため、省略する。)
【0047】
前記ワイヤロッド110の線径は5.0mmないし9.0mmからなり、前記ワイヤロッド110が伸線加工を経れば、0.8ないし3.0mmの線径からなる。前記ワイヤロッド110は、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)を含んでなり、前記ケイ素は0.40ないし0.58重量%、前記マンガンは0.25ないし0.40重量%、前記クロムは0.15ないし0.25重量%になりうる。また、前記ワイヤロッド110は、リン(P)、硫黄(S)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)を含んでなってもよい。
【0048】
前記ワイヤロッド110に含まれる成分は、次のような役割を行う。
【0049】
炭素(C)は、ワイヤの強度及び伸率を向上させるための必須元素であり、炭素含量の高い高炭素鋼の場合、固溶強化効果によって高強度のビードワイヤの製造が可能である。一方、炭素含量が低い場合、伸線加工量を高めても目標とする高強度ビードワイヤの製造が不可能である。ケイ素(Si)は、鋼の伸率を低下させずに鋼を強化するのに有効な元素である。ケイ素(Si)は、鋼において、フェライト上の面積を制御する重要な元素であって、高強度ワイヤを得るためにはケイ素(Si)の含有量が0.30重量%以上である必要がある。
【0050】
マンガン(Mn)は、オステナイト相を安定化させる元素であって、連続アニーリング冷却中にフェライトの生成を抑制する重要な元素である。またマンガン(Mn)は、ワイヤロッドの強度向上及び加工硬化度を向上させるのに効果的な元素である。リン(P)は、鋼の強化に有効な元素であって、強度レベルによって添加し、強化効果を得るためには、リン(P)の含有量を0.005重量%以上にすることが望ましい。しかし、リン(P)の含有量が0.025重量%を超過すれば、溶接性が劣化する。
【0051】
硫黄(S)は、MnSなどの非金属介在物を発生させて、捻回、バンディングなどの特性を低下させる要因になるので、含量を最大限に低めることが高強度ビードワイヤの製作時に望ましい。クロム(Cr)は、ワイヤ強度を向上させて伸線性を高めるために添加される。
【0052】
以下、本発明の具体的実施形態について詳細に説明する。もちろん、下記の実施形態は、本発明の理解を助けるためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0053】
[実施形態]
高強度ビードワイヤを製造するためのワイヤロッドの構成成分含量は、重量%であって、次の通りである。
C:0.90ないし0.94重量%、Si:0.40ないし0.58重量%、Mn:0.25ないし0.40重量%、P:≦0.020重量%、S:≦0.020重量%、Cr:0.15ないし0.25重量%、Cu:≦0.040重量%、Sol.Al:≦0.007重量%
【0054】
ワイヤロッドは5.5mmの直径で使った。ワイヤロッドを用いて1.60mm線径のビードワイヤを製造し、その製造工程は下記の通りである。ワイヤロッドの表面に残るスケール及び不純物を除去するために、物理的かつ化学的な方法でスケールを除去し、洗浄後の潤滑のためにリン酸塩皮膜を塗布する。
【0055】
この時、物理的なスケール除去工程は、ワイヤロッドがデスケーリングローラを通過しつつ曲げられて、スケールが剥離される工程であり、化学的スケール除去工程は、塩酸酸洗または電荷硫酸酸洗を通じて化学的に残留スケールを除去し、線表面をきれいにする工程である。
【0056】
次いで、伸線工程時の潤滑のために、ワイヤロッドの表面に5ないし10g/mのリン酸塩皮膜を塗布して潤滑性を高める。次いで、皮膜されたワイヤロッドを直径1.60mmまで伸線加工する。伸線加工時には、伸線加工用ダイスの前に圧力ダイスを設けて潤滑性を高め、圧力ダイス径は、伸線線径の1.1倍以下にする。
【0057】
圧力ダイスは、線径割合が小さいほど圧力ダイスとワイヤとの間の圧力が高くなって潤滑剤の流入が多くなり、かつ潤滑性が高くなるが、小さ過ぎる場合に、潤滑剤内の大きい粒子によって詰まり、却って潤滑性能が低下する。よって、本発明の実施形態では、小さな粒径を持つ潤滑剤を活用して圧力ダイスの割合を1.05倍ないし1.2倍にし、圧力ダイスとワイヤとの間にさらに多い潤滑剤が流れ込むようにして、伸線時にワイヤの内部と外部との間の均一な加工が施されるようにした。
【0058】
伸線加工された1.60mmワイヤの線表面を酸洗及び洗浄し、400ないし500℃の間の温度のはんだ槽に浸漬させて、伸率を1ないし3%レベルから6ないし7%レベルまで回復させる。次いで、防錆及びゴムとの接着力を向上させるために、化学メッキ方式でワイヤを青銅メッキ槽に通過させ、青銅メッキを線表面にメッキさせる。また、防錆性のためにレジンコーティングを施して、長期間保管時にも湿気による被害を防止できるようにした。
【0059】
前記工程を通じて製造された高強度ビードワイヤの物性は、図6の表の通りである。具体的に、前記工程を通じて製造された高強度ビードワイヤは、2,456Mpaの高い引張強度を持ち、7.28%の高い伸率を持つ。
【0060】
前述した本発明の高強度ビードワイヤ及びその製造方法は、次のような効果がある。
【0061】
従来に一般的に使われるビードワイヤの引張強度は、180ないし220kgf/mmレベルであった。ビードワイヤの強度を高めるためには、炭素含量を高めねばならないが、炭素含量を高めれば、伸線加工時に捻回、バンディング、キンクなどの特性値が低くなるという問題点があった。具体的に、炭素含量の高い高炭素鋼ワイヤロッドを伸線する場合、ワイヤロッドの外部は、ダイスとの摩擦によって加工が少なく施され、内部は加工が多く施される。
【0062】
このように内部と外部との加工の差によって、炭素含量の高い高炭素鋼ワイヤロッドを伸線する場合、内部亀裂や気孔が発生する恐れがあり、これは不均一な加工を引き起こして、捻回、バンディング、キンクなどの特性値が低下した。
【0063】
しかし、本発明の実施形態によれば、伸線加工時に潤滑性能を改善して、伸線加工をしても捻回、バンディング、キンクなどの特性値の低下が生じないという効果がある。具体的に、ワイヤロッド110の表面に塗布されるリン酸塩皮膜120の塗布量を5ないし10g/mに増大させると同時に、圧力ダイス径aを伸線ダイスの1.05ないし1.20倍にし、リン酸塩皮膜120にかける圧力を上昇させて潤滑性能を改善した。
【0064】
これを通じて、240kgf/mm以上の強度及び6%以上の伸率を持つ高強度ビードワイヤを製造できるという効果がある(具体的に、240ないし260kgf/mmの強度及び6ないし8%の伸率を持つことができる。)。このような高強度ビードワイヤは、自動車タイヤに適用する場合に重量対比強度が高いため、自動車の軽量化及び燃費向上を可能にし、高い引張強度によってタイヤ圧力に対する支持や、外部衝撃による抵抗性も高くなって、自動車タイヤの安定性を高める効果がある。
【0065】
以上、本発明を望ましい実施形態を挙げて詳細に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されず、本発明の範ちゅうを逸脱しない範囲内でいろいろな変形が提供される。よって、本発明の真の技術的保護範囲は、添付した特許請求の範囲の技術的思想によって定められねばならない。

図1
図2
図3
図4
図5
図6