特許第6953053号(P6953053)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6953053−1フレームシフトを誘導するための1本鎖核酸分子及び組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6953053
(24)【登録日】2021年10月1日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】−1フレームシフトを誘導するための1本鎖核酸分子及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20211018BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20211018BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20211018BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20211018BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20211018BHJP
   A61P 5/00 20060101ALI20211018BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20211018BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20211018BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20211018BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20211018BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20211018BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   C12N15/113 ZZNA
   A61K48/00
   A61K31/7105
   A61P35/00
   A61P3/04
   A61P5/00
   A61P7/04
   A61P13/12
   A61P19/02
   A61P21/04
   A61P37/06
   A61P25/16
【請求項の数】5
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2021-532456(P2021-532456)
(86)(22)【出願日】2021年3月10日
(86)【国際出願番号】JP2021009545
【審査請求日】2021年6月8日
(31)【優先権主張番号】特願2020-41637(P2020-41637)
(32)【優先日】2020年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521096614
【氏名又は名称】矢野 隆光
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(72)【発明者】
【氏名】矢野 隆光
【審査官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2019−507579(JP,A)
【文献】 YU, C.-H. et al.,Stimulation of ribosomal frameshifting by antisense LNA,Nucleic Acids Res.,2010年,Vol.38, No.22, p.8277-8283
【文献】 HENDERSON, C. M. et al.,Antisense-induced ribosomal frameshifting,Nucleic Acids Res.,2006年,Vol.34, No.15, p.4302-4310
【文献】 村田 亜沙子,−1リボソーマルフレームシフトによる細胞内タンパク質の輸送・局在制御,科学研究費助成事業 2018年度 研究成果報告書,2019年,課題番号:15K01820
【文献】 YU, C.-H. et al.,Stem-loop structures can effectively substitute for an RNA pseudoknot in -1 ribosomal frameshifting,Nucleic Acids Res.,2011年,Vol.39, No.20, p.8952-8959
【文献】 RYAN, D. E. et al.,Improving CRISPR-Cas specificity with chemical modifications in single-guide RNAs,Nucleic Acids Res.,2018年,Vol.46, No.2, p.792-803
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’末端側から3’末端側への方向に、対象となる遺伝子の標的配列に相補的な第1の配列と、ステムループ構造を形成する第2の配列とを含む1本鎖核酸分子を有効成分として含む、−1フレームシフト誘導用組成物であって、
前記第1の配列は10塩基長〜13塩基長の配列であり、及び
前記第2の配列は配列番号17又は配列番号18に記載の配列である、
前記組成物
【請求項2】
前記遺伝子は、前記標的配列の上流9塩基〜上流15塩基において同一の塩基が2個以上連続する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記遺伝子は、前記標的配列の上流9塩基〜上流15塩基において同一の塩基が2個以上連続している部分が2箇所以上ある、請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は、−1フレームシフトを誘導することにより、前記遺伝子の発現を正常化して、該遺伝子の発現異常により発症する遺伝性疾患を予防及び/又は治療するための医薬品用組成物である、請求項1〜のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記遺伝性疾患は、筋ジストロフィー、癌、多発性硬化症、脊髄性筋萎縮症、レット症候群、筋萎縮性側索硬化症、脆弱X症候群、プラダー・ウィリー症候群、色素性乾皮症、ポルフィリン症、ウェルナー症候群、進行性骨化性線維異形成症、乳児神経セロイドリポフスチン沈着症、アルツハイマー病、テイ−サックス病、神経組織変性、パーキンソン病、慢性関節リウマチ、対宿主性移植片病、関節炎、血友病、フォンヴィレブラント病、毛細管拡張性運動失調、サラセミア、腎結石、骨形成不全、肝硬変、神経繊維腫症、水疱性疾患、ライソゾーム性蓄積症、ハーラー疾患、小脳運動失調、結節性硬化症、家族性赤血球増加症、免疫不全、腎臓病、肺疾患、嚢胞性線維症、家族性高コレステロール血症、色素性網膜症、アミロイドーシス、アテローム性動脈硬化症、巨人症、小人症、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、老化、肥満、糖尿病、ニーマン−ピック病、及びマルファン症候群からなる群から選ばれる遺伝性疾患である、請求項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、−1フレームシフトを誘導するための1本鎖核酸分子及び該1本鎖核酸分子を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝性疾患は、遺伝子になんらかの異常が生じて、遺伝子の発現量が低減すること、又は遺伝子の発現量が増加することといった、遺伝子が正常に発現しないことにより生じる疾患である。遺伝性疾患としては、例えば、筋ジストロフィー、癌、多発性硬化症、脊髄性筋萎縮症、レット症候群、筋萎縮性側索硬化症、脆弱X症候群、プラダー・ウィリー症候群、色素性乾皮症、ポルフィリン症、ウェルナー症候群、進行性骨化性線維異形成症、乳児神経セロイドリポフスチン沈着症、アルツハイマー病、テイ−サックス病、神経組織変性、パーキンソン病、慢性関節リウマチ、対宿主性移植片病、関節炎、血友病、フォンヴィレブラント病、毛細管拡張性運動失調、サラセミア、腎結石、骨形成不全、肝硬変、神経繊維腫症、水疱性疾患、ライソゾーム性蓄積症、ハーラー疾患、小脳運動失調、結節性硬化症、家族性赤血球増加症、免疫不全、腎臓病、肺疾患、嚢胞性線維症、家族性高コレステロール血症、色素性網膜症、アミロイドーシス、アテローム性動脈硬化症、巨人症、小人症、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、老化、肥満、糖尿病、ニーマン−ピック病、マルファン症候群などが知られている。
【0003】
遺伝性疾患のうち、ナンセンス変異型の遺伝性疾患は、遺伝子上の点変異により形成される早期終止コドン(premature termination codon:PTC)のためにタンパク質の発現が阻害されることに起因する疾患である。
【0004】
遺伝子の転写により得られるmRNA上において、本来の終止コドンより上流側(5’末端側)に出現した終止コドンであるPTCが形成されると、翻訳して得られるタンパク質が短くなって機能的なタンパク質が得られない場合がある。また、mRNAに不正な翻訳が起こることによりPTCが生じると、細胞内mRNA品質管理システムであるNMD(Nonsense−mediated mRNA decay:ナンセンス変異依存mRNA分解機構)が発動し、細胞内でPTCを有するmRNAが積極的に分解されて、タンパク質の発現が低下又は消失する場合がある。このような、遺伝子発現の異常によって、遺伝性疾患が表出する。
【0005】
PTCは、フレームシフト変異によっても生じ得る。遺伝子中に3の倍数以外の数の塩基の欠失、挿入などが生じて、翻訳時の読み枠がずれること(フレームシフト)によりPTCが形成される。
【0006】
したがって、ナンセンス変異及びフレームシフト変異といったアウトオブフレーム変異によってPTCが形成されると、正常なタンパク質が得られなくなる。これに対して、インフレーム変異は、読み枠が維持される変異であり、正常なタンパク質とは異なる部分が一部あっても、タンパク質が発現される可能性は高くなる。したがって、一般的には、インフレーム変異型遺伝性疾患よりも、アウトオブフレーム変異型遺伝性疾患の方が重篤になる傾向にある。
【0007】
アウトオブフレーム変異型遺伝性疾患の一つであるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)は、X染色体上のジストロフィン遺伝子の変異によって発症する。例えば、X染色体上のジストロフィン遺伝子のエクソンの一部が欠失することにより、mRNA上にPTCが形成されて、翻訳が中断又は終了してしまうことにより正常なジストロフィン及びジストロフィン関連タンパク質などの発現が正常に行われなくなる。これにより、筋組織における機能性のジストロフィンタンパク質が欠乏して、DMDが発症することになる。
【0008】
DMDのようなアウトオブフレーム変異型遺伝性疾患の治療法として、エクソンスキッピングを誘導する物質及びリードスルー活性を有する物質などを投与することによる化学療法が期待されている。
【0009】
エクソンスキッピングは、アウトオブフレーム変異を含むエクソンがスキッピングされることによって、アウトオブフレーム変異をインフレーム変異に変換して、一部のエクソンを欠いたmRNAがコードするタンパク質を得ることができる手法である。エクソンスキッピングにより得られるタンパク質は、正常なタンパク質よりもアミノ酸長が短いタンパク質(トランケート型タンパク質)である。例えば、エクソンスキッピングを誘導する物質としては、下記特許文献1及び2(該文献の全記載はここに開示として援用される。)に記載の化合物及びアンチセンス核酸が知られている。
【0010】
一方、リードスルー活性は、リボソームに作用し、リボソームがアウトオブフレーム変異により形成されるPTCを読み越えて翻訳を行うようにする活性をいう。リードスルーの結果として、正常なタンパク質が合成され得る。例えば、リードスルー活性を有する物質としては、下記特許文献3(該文献の全記載はここに開示として援用される。)に記載の化合物が知られている。
【0011】
下記非特許文献1(該文献の全記載はここに開示として援用される。)には、ゲノムにおけるフレームシフト遺伝子を特定する方法及び該方法に使用される円形コード情報が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第5950818号公報
【特許文献2】特許第5363655号公報
【特許文献3】特許第5705136号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】J Comput Sci Syst Biol, 2011, Vol.4(1), pp.7-15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1及び2に記載の化合物及びアンチセンス核酸などを用いたエクソンスキッピングを用いれば、変異のあるエクソンを読み飛ばすことで、PTCを発生させることなく、遺伝子情報を最後まで読むことが可能になる。しかし、変異のあるエクソンだけを読み飛ばすだけでは遺伝子情報の読みの乱れを修正することができないことから、エクソンスキッピングには、変異のあるエクソン及びその周辺の複数のエクソンを読み飛ばさなければならないという問題がある。さらに、読み飛ばしたエクソンの分だけタンパク質が短くなり、結果として機能的なタンパク質が得られないという問題がある。
【0015】
特許文献3に記載の化合物などのリードスルー活性を有する物質を用いれば、PTCを読み飛ばすことができる。しかし、リードスルー活性を有する物質を用いても、ずれた読み枠は戻らないことから、得られるタンパク質は正常のタンパク質とはアミノ酸構成が異なるタンパク質になるという問題がある。また、リードスルーが生じるか否かは、確率論によるところが大きく、PTCに対して他のアミノ酸が取り込まれずに、タンパク質合成が引き続き行われないことが多いという問題がある。さらに、特許文献3に記載の化合物であるアルベカシンは抗生物質であり、生体に対して毒性が強いという問題がある。
【0016】
また、アウトオブフレーム変異が生じた遺伝子から、正常なタンパク質とより近似したアミノ酸配列を有するタンパク質を、その長さが欠失することを可能な限りに抑えた状態で発現するための方法についての報告例は少ない。
【0017】
そこで、本発明は、エクソンスキッピング及びリードスルー活性を有する物質を使用する方法と比べて、アウトオブフレーム変異が生じた遺伝子からも、正常なタンパク質とより近似したアミノ酸配列を有するタンパク質を、その長さが欠失することを抑えた状態で発現することができる、生体に対して安全性のある物質及び該物質を含む組成物を提供することを、本発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記課題を解決するために、エクソンを読み飛ばすことなく遺伝子情報の読みの乱れを正すことについて鋭意研究を積み重ねた。その結果、変異のある部分又はその周辺において読み枠を5’方向若しくは3’方向に1塩基又は3’方向に2塩基ずらすことができれば、発現するタンパク質の長さをできる限り長く保ちつつ、正常なタンパク質とより近似したアミノ酸配列を有するタンパク質を発現することができるのではないかという考えに至った。
【0019】
上記考えの下、本発明者は、試行錯誤を重ねた結果、驚くべきことに、対象となる遺伝子の標的配列に相補的な配列及び特定のステムループ構造を形成する配列を含む1本鎖核酸分子を用いることによって、変異のある部分周辺において−1フレームシフトを誘導して読み枠をずらすことにより、エクソンを読み飛ばすことなく、遺伝子情報の読みの乱れを正すことに成功した。また、該1本鎖核酸分子は、生体内の核酸分解酵素によって分解可能なものであることから、合成化合物に比べて生体に対してより安全なものである。
【0020】
そして、本発明者は、遂に、上記1本鎖核酸分子及び上記1本鎖核酸分子を有効成分として含む組成物を創作することに成功した。本発明はこのような成功例及び知見に基づいて完成するに至った発明である。
【0021】
したがって、本発明の一態様によれば、以下の1本鎖核酸分子及び組成物が提供される。
[1]5’末端側から3’末端側への方向に、対象となる遺伝子の標的配列に相補的な第1の配列と、ステムループ構造を形成する第2の配列とを含む1本鎖核酸分子。
[2]前記ステムループ構造のステム部分の末端は、シトシン及びグアニンである、[1]に記載の1本鎖核酸分子。
[3]前記ステムループ構造は、ループ部分が主としてシトシンからなるステムループ構造である、[1]〜[2]のいずれか1項に記載の1本鎖核酸分子。
[4]前記ステムループ構造は、ステム部分が4塩基対〜20塩基対のステムループ構造である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の1本鎖核酸分子。
[5]前記第2の配列は、配列番号17又は配列番号18に記載の配列である、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の1本鎖核酸分子。
[6]前記第1の配列は、8塩基長〜16塩基長の配列である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の1本鎖核酸分子。
[7]前記遺伝子は、前記標的配列の上流9塩基〜上流15塩基において同一の塩基が2個以上連続する、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の1本鎖核酸分子。
[8]前記遺伝子は、前記標的配列の上流9塩基〜上流15塩基において同一の塩基が2個以上連続している部分が2箇所以上ある、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の1本鎖核酸分子。
[9][1]〜[8]のいずれか1項に記載の1本鎖核酸分子を有効成分として含む、−1フレームシフト誘導用組成物。
[10]前記組成物は、−1フレームシフトを誘導することにより、前記遺伝子の発現を正常化して、該遺伝子の発現異常により発症する遺伝性疾患を予防及び/又は治療するための医薬品用組成物である、[9]に記載の組成物。
[11]前記遺伝性疾患は、筋ジストロフィー、癌、多発性硬化症、脊髄性筋萎縮症、レット症候群、筋萎縮性側索硬化症、脆弱X症候群、プラダー・ウィリー症候群、色素性乾皮症、ポルフィリン症、ウェルナー症候群、進行性骨化性線維異形成症、乳児神経セロイドリポフスチン沈着症、アルツハイマー病、テイ−サックス病、神経組織変性、パーキンソン病、慢性関節リウマチ、対宿主性移植片病、関節炎、血友病、フォンヴィレブラント病、毛細管拡張性運動失調、サラセミア、腎結石、骨形成不全、肝硬変、神経繊維腫症、水疱性疾患、ライソゾーム性蓄積症、ハーラー疾患、小脳運動失調、結節性硬化症、家族性赤血球増加症、免疫不全、腎臓病、肺疾患、嚢胞性線維症、家族性高コレステロール血症、色素性網膜症、アミロイドーシス、アテローム性動脈硬化症、巨人症、小人症、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、老化、肥満、糖尿病、ニーマン−ピック病、及びマルファン症候群からなる群から選ばれる遺伝性疾患である、[10]に記載の組成物。
[12][1]〜[8]のいずれか1項に記載の1本鎖核酸分子又は[9]に記載の組成物を、対象となる遺伝子の発現異常により発症する遺伝性疾患を有する、又はその危険性がある生物個体に投与することを含む、遺伝性疾患を治療及び/又は予防する方法。
[13][1]〜[8]のいずれか1項に記載の1本鎖核酸分子又は[9]に記載の組成物の有効量を、対象となる遺伝子の発現異常が認められる細胞、組織、臓器又は生物個体に投与することを含む、遺伝子の発現異常を改善する方法。
[14]前記遺伝性疾患は、筋ジストロフィー、癌、多発性硬化症、脊髄性筋萎縮症、レット症候群、筋萎縮性側索硬化症、脆弱X症候群、プラダー・ウィリー症候群、色素性乾皮症、ポルフィリン症、ウェルナー症候群、進行性骨化性線維異形成症、乳児神経セロイドリポフスチン沈着症、アルツハイマー病、テイ−サックス病、神経組織変性、パーキンソン病、慢性関節リウマチ、対宿主性移植片病、関節炎、血友病、フォンヴィレブラント病、毛細管拡張性運動失調、サラセミア、腎結石、骨形成不全、肝硬変、神経繊維腫症、水疱性疾患、ライソゾーム性蓄積症、ハーラー疾患、小脳運動失調、結節性硬化症、家族性赤血球増加症、免疫不全、腎臓病、肺疾患、嚢胞性線維症、家族性高コレステロール血症、色素性網膜症、アミロイドーシス、アテローム性動脈硬化症、巨人症、小人症、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、老化、肥満、糖尿病、ニーマン−ピック病、及びマルファン症候群からなる群から選ばれる遺伝性疾患である、[12]又は[13]に記載の方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、−1フレームシフトを誘導することによって、アウトオブフレーム変異が生じた遺伝子から、全長をより長く維持しつつも、正常なタンパク質とより近似したアミノ酸配列を有するタンパク質を発現することができる。これにより、本発明によれば、変異のある遺伝子から機能性のあるタンパク質の発現が期待される。
【0023】
したがって、本発明によれば、対象とする遺伝子の発現を正常化して、該遺伝子の発現が低減又は増加する異常により発症する遺伝性疾患、例えば、筋ジストロフィー、癌、多発性硬化症、脊髄性筋萎縮症、レット症候群、筋萎縮性側索硬化症、脆弱X症候群、プラダー・ウィリー症候群、色素性乾皮症、ポルフィリン症、ウェルナー症候群、進行性骨化性線維異形成症、乳児神経セロイドリポフスチン沈着症、アルツハイマー病、テイ−サックス病、神経組織変性、パーキンソン病、慢性関節リウマチ、対宿主性移植片病、関節炎、血友病、フォンヴィレブラント病、毛細管拡張性運動失調、サラセミア、腎結石、骨形成不全、肝硬変、神経繊維腫症、水疱性疾患、ライソゾーム性蓄積症、ハーラー疾患、小脳運動失調、結節性硬化症、家族性赤血球増加症、免疫不全、腎臓病、肺疾患、嚢胞性線維症、家族性高コレステロール血症、色素性網膜症、アミロイドーシス、アテローム性動脈硬化症、巨人症、小人症、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、老化、肥満、糖尿病、ニーマン−ピック病、マルファン症候群などの遺伝性疾患を治療及び/又は予防することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、後述する実施例に記載のとおりの、EGFP−Human α−Tubulinのコーディング領域(CDS)を示した図である。
図2図2は、後述する実施例に記載のとおりの、例1の蛍光顕微鏡の撮影結果を示した図である。
図3図3は、後述する実施例に記載のとおりの、DHFR遺伝子のCDSを示した図である。
図4A図4Aは、後述する実施例に記載のとおりの、例2で使用したリバースプライマーのヌクレオチド配列を示した図である。
図4B図4Bは、後述する実施例に記載のとおりの、DHFRタンパク質のアミノ酸配列及びDHFR−Hisタンパク質のアミノ酸配列を示した図である。
図5A図5Aは、後述する実施例に記載のとおりの、例2における電気泳動及び染色した後のゲル全体を撮影した図である。
図5B図5Bは、図5Aのうち、TEST2 Elution1及びElution2のHisタグ化DHFRタンパク質が現れた箇所を拡大した図である。
図5C図5Cは、図5Aのうち、NC、PC及びTEST1のDHFRタンパク質及びDHFRタンパク質断片が現れた箇所を拡大した図である。
図6A図6Aは、後述する実施例に記載のとおりの、変異ジストロフィン遺伝子のエクソン44とエクソン51との間のブレイクポイントの周辺に設定したPosition1のターゲット配列を示した図である。
図6B図6Bは、後述する実施例に記載のとおりの、変異ジストロフィン遺伝子のエクソン44とエクソン51との間のブレイクポイントの周辺に設定したPosition2のターゲット配列を示した図である。
図6C図6Cは、後述する実施例に記載のとおりの、変異ジストロフィン遺伝子のエクソン44とエクソン51との間のブレイクポイントの周辺に設定したPosition3のターゲット配列を示した図である。
図7図7は、後述する実施例に記載のとおりの、例3に記載のGAPDHのmRNA発現量に対するジストロフィンmRNA発現レベルの相対量の結果を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の各態様の詳細について説明するが、本発明は、本項目の事項によってのみに限定されず、本発明の目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0026】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、医薬分野、生物学分野といった技術分野の当業者により通常用いられている意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。また、本明細書においてなされている推測及び理論は、本発明者のこれまでの知見及び経験によってなされたものであることから、本発明はこのような推測及び理論のみによって拘泥されるものではない。
【0027】
「組成物」は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、2種以上の成分が組み合わさってなる物が挙げられる。
「有効成分」は、組成物の用途を特徴付ける成分を意味する。
「及び/又は」との用語は、列記した複数の関連項目のいずれか1つ、又は2つ以上の任意の組み合わせ若しくは全ての組み合わせを意味する。
「含有量」は、濃度及び添加量と同義であり、組成物の全体量に対する成分の量の割合を意味する。ただし、成分の含有量の総量は、100%を超えることはない。「有効量」は、有効成分又は組成物が有する作用が発現する量を意味する。
数値範囲の「〜」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0%〜100%」は、0%以上であり、かつ、100%以下である範囲を意味する。「超過」及び「未満」は、その前の数値を含まずに、それぞれ下限及び上限を意味し、例えば、「1超過」は1より大きい数値であり、「100未満」は100より小さい数値を意味する。
「含む」は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」及び「から本質的になる」を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメーターなどの制限事項などが挙げられる。
【0028】
「ステムループ構造」は、ヘアピンループとも称され、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、互いに相補的な関係にある第1及び第2の配列と該第1及び第2の配列の間にある第3の配列とにおいて形成される構造をいう。この場合、第1及び第2の配列は塩基対を形成して二本鎖部分(ステム部分)を形成し、かつ第3の配列は塩基対を形成せずにループ部分を形成して、全体としてステムループ構造を呈する。
「相補的塩基対」又は単なる「塩基対」は、ワトソン・クリック型塩基対及びゆらぎ塩基対を意味し、アデニン(A)とチミン(T)又はウラシル(U)との組合せ及びグアニン(G)とシトシン(C)との組合せ、並びにグアニン(G)とウラシル(U)との組合せを意味する。なお、本明細書では、アデニン、チミン、ウラシル、グアニン及びシトシンを、並びにこれらをそれぞれ表すA、T、U、G及びCを、「塩基」又は「ヌクレオチド」とよぶ。本明細書では、「塩基」と「ヌクレオチド」とは互いに代替可能な用語として扱う。
「ステム部分の末端」は、ステム部分が有する2個の末端のうち、ループ部分を形成する配列に結合していない末端の配列をいう。
【0029】
「−1フレームシフト」は、コドンの読み枠のずれを意味するフレームシフトのうち、コドンの読み枠を5’側へ1塩基ずらすフレームシフトを意味する。例えば、非特許文献1のFigure 2を引用するスキーム(I)を例証すると、スキーム(I)として示されたmRNAはリボソームRNAにより開始コドン(AUG)からCGU、GCU、GUGと3塩基ずつ順番に読み取られる(Frame 0)。しかし、図示されているフレームシフト部位(Frameshift site)(スリッピング部位(Slippage site)ともいう。)にて、読み枠が5’側へ1塩基ずれると、上記GUGの最後のGを先頭として、GGCが読み取られ、次いでGAA、AUAが読み取られる(Frame 2)。このように、フレームシフト部位にて、5’側へ1塩基ずらすように生じたフレームシフトを−1フレームシフトとよぶ。
【0030】
【化1】
スキーム(I)
【0031】
「アウトオブフレーム変異」は、mRNAのオープンリーディングフレーム(Open Reading Frame:ORF)の読み枠がずれる変異を意味する。アウトオブフレーム変異が生じると、変異のない正常なタンパク質と異なるアミノ酸配列を有するタンパク質が合成されること、本来の終止コドンよりも5’(上流)側に早期終止コドン(PTC)が生じて変異のない正常なタンパク質よりも長さが短いタンパク質が合成されることなどが生じる。
【0032】
「核酸分子」は、単に核酸ともよび、通常意味されるとおりに、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド及びそれらの類縁体からなるヌクレオチドがホスホジエステル結合で連なった重合体を意味する。ヌクレオチドは塩基とよぶ場合があり、ヌクレオチド配列と塩基配列とは同義である。ヌクレオチド配列及び塩基配列を、単に核酸分子の配列とよぶ場合がある。核酸分子の代表的なものとして、リボヌクレオチドからなるリボ核酸(RNA)及びデオキシリボヌクレオチドからなるデオキシリボ核酸(DNA)が挙げられる。
「1本鎖核酸分子」は、他の核酸分子と相補的塩基対を形成していない、1個の核酸分子を意味する。1本鎖核酸分子は、分子内の配列どうしが相補的塩基対を形成してなるステム部分を有してもよい。
「発現」は、遺伝子からのmRNAの合成(転写)、mRNAからのタンパク質の合成(翻訳)又はその両方を意味する。
配列に関する「上流」は、ヌクレオチド配列については5’側を意味し、アミノ酸配列についてはN末端側を意味する。配列に関する「下流」は、ヌクレオチド配列については3’側を意味し、アミノ酸配列についてはC末端側を意味する。
【0033】
整数値の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、1の有効数字は1桁であり、10の有効数字は2桁である。また、小数値は小数点以降の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、0.1の有効数字は1桁であり、0.10の有効数字は2桁である。
【0034】
[1本鎖核酸分子]
本発明の一態様の1本鎖核酸分子は、5’末端側から3’末端側への方向に、対象となる遺伝子の標的配列に相補的な第1の配列と、ステムループ構造を形成する第2の配列とを含む。
【0035】
1本鎖核酸分子を用いると、対象遺伝子のmRNAが翻訳される際に、−1フレームシフトを誘導することができる。すなわち、1本鎖核酸分子は、−1フレームシフト誘導作用を有する。1本鎖核酸分子が有する−1フレームシフト誘導作用のメカニズムを、スキーム(II)として示した対象遺伝子のmRNAの模式図を用いて説明する。
【0036】
【化2】
スキーム(II)
【0037】
1本鎖核酸分子における第1の配列は、対象遺伝子のmRNAにおける標的配列と相補的塩基対を形成して結合する。1本鎖核酸分子が結合した状態で対象遺伝子のmRNAが翻訳される場合、標的配列の上流14塩基前で読み枠が1塩基前にずれる−1フレームシフトが生じる。スキーム(II)を用いて説明すると、標的配列の上流14塩基前にあたるN36からはじまるセンスコドンN363534は、−1フレームシフトにより1塩基前にずれて、センスコドンN373635へとシフトする。ただし、−1フレームシフトは、1番目のセンスコドンN363534及びその後の2番目のセンスコドンN333231に対応するアミノ酸が付加された後に、−1フレームシフトが発生して、リボソームがセンスコドンN373635及びセンスコドンN343332の位置にスリッピングすると考えられる。これにより、合成されるタンパク質のアミノ酸配列は、第1のセンスコドンN363534がコードするアミノ酸、第2のセンスコドンN333231がコードするアミノ酸、センスコドンN312625がコードするアミノ酸、センスコドンN242322がコードするアミノ酸・・・という配列になると推測される。なお、ある配列の上流にある塩基(ヌクレオチド)とは、該配列の5’末端を基準として、それよりも5’側にある塩基(ヌクレオチド)を意味する。また、ある配列の下流にある塩基(ヌクレオチド)とは、該配列の3’末端を基準として、それよりも3’側にある塩基(ヌクレオチド)を意味する。
【0038】
標的配列は、−1フレームシフトを発生させたい部位に応じて適宜決定することができる。すなわち、−1フレームシフトを発生させたい部位(スキーム(II)におけるN36)の下流14塩基からはじまる部位を標的配列とすることができる。ただし、標的配列の上流9塩基〜上流15塩基(スキーム(II)におけるN37363534333231)では、CC、AA、UU又はGGというように同一の塩基が2個以上連続していることが好ましい。また、標的配列の上流9塩基〜上流15塩基では、同一の塩基が2個以上連続している部分が2箇所以上あることが好ましい。なお、上記「標的配列の上流9塩基〜上流15塩基」は、スキーム(II)における配列N262524232221(スペーサー配列とよぶ)が6塩基の場合の塩基の数である。スペーサー配列は3塩基〜8塩基である場合があり、例えば、スペーサー配列が8塩基の場合は、上記「標的配列の上流9塩基〜上流15塩基」は「標的配列の上流11塩基〜上流17塩基」と読み替える。
【0039】
第1の配列は、標的配列に相補的な配列を含む配列であればよい。第1の配列の長さは、標的配列に結合するのに十分な長さであればよく、特に限定されないが、例えば、5塩基長〜25塩基長であり、標的配列との結合力を考慮すれば、6塩基長〜20塩基長であることが好ましく、8塩基長〜16塩基長であることがより好ましく、11塩基長〜13塩基長であることがさらに好ましい。
【0040】
第1の配列は、標的配列と完全に相補的であっても、部分的に相補的であってもどちらでもよいが、標的配列との結合力を考慮すれば、完全に相補的であることが好ましい。
【0041】
第1の配列は、標的配列のヌクレオチドの並びであるヌクレオチド配列に基づいて決定することができる。
【0042】
第2の配列は、ステムループ構造を形成する。1本鎖核酸分子と対象遺伝子のmRNAとが、標的配列及び第1の配列の間で相補的塩基対を形成して結合する場合、ステムループ構造のステム部分の末端は、分子内2本鎖構造を維持し、対象遺伝子のmRNAと相補的塩基対を形成しない。このことを本発明の一態様の1本鎖核酸分子を非限定的に示したスキーム(III)を例証して説明する。
【0043】
【化3】
スキーム(III)
【0044】
スキーム(III)において、「○」(白丸)は1ヌクレオチドを表す。実線は相補的塩基対の関係(水素結合)を示し、点線は隣り合うヌクレオチド間の結合(ホスホジエステル結合)を示す。スキーム(III)に示すとおり、黒矢印で示されるとおりのステム部分の末端の2個のヌクレオチドは、白矢印で示されるとおりの相対する対象遺伝子のmRNAの配列(N12、N11)と相補的塩基対を形成しない。このように、第2の配列において、ステムループ構造の末端は、ステム部分として、分子内2本鎖構造を維持する。
【0045】
第2の配列のステムループ構造において、ステム部分の長さは、分子内2本鎖構造を形成するのに十分な長さであればよく、特に限定されないが、例えば、3塩基対〜50塩基対を形成する長さであり、分子内2本鎖構造を安定的に維持することを考慮すれば、4塩基対〜20塩基対を形成する長さであることが好ましく、5塩基対〜10塩基対を形成する長さであることがより好ましく、約8塩基対を形成する長さであることがさらに好ましい。
【0046】
ステム部分は、完全な分子内2本鎖構造であっても、途中で1本鎖構造をとる部分がある2本鎖構造であってもどちらでもよいが、分子内2本鎖構造を安定的に維持することを考慮すれば、完全な分子内2本鎖構造であることが好ましい。なお、途中で1本鎖構造をとる部分がある2本鎖構造であっても、ステム部分の末端の2個の配列は相補的塩基対を形成することが好ましい。
【0047】
ステム部分のヌクレオチド配列は、分子内2本鎖構造を形成する配列であれば特に限定されない。ただし、ステム部分の末端の2個のヌクレオチドは、シトシン及びグアニンの組合せ、並びにアデニン及びウラシルの組合せであることが好ましく、シトシン及びグアニンの組合せであることがより好ましい。ステム部分の一方のヌクレオチド配列の具体例は、配列番号15に示す配列(5’−CCGCAUUA−3’)であるが、これに限定されない。なお、配列番号15に示す配列と相補的塩基対を形成して、完全な分子内2本鎖構造をとる配列は配列番号16に示す配列(5’−UAGUGUGG−3’)である。
【0048】
第2の配列のステムループ構造において、ループ部分の長さは、1本鎖構造を維持するのに十分な長さであればよく、特に限定されないが、例えば、3塩基長〜25塩基長であり、1本鎖構造を安定的に維持することを考慮すれば、5塩基長〜20塩基長であることが好ましく、8塩基長〜15塩基長であることがより好ましく、約11塩基長であることがさらに好ましい。
【0049】
ループ部分は、完全な1本鎖構造であっても、途中で2本鎖構造をとる部分がある1本鎖構造であってもどちらでもよいが、1本鎖構造を安定的に維持することを考慮すれば、完全な1本鎖構造であることが好ましい。
【0050】
ループ部分のヌクレオチド配列は、1本鎖構造を維持する配列であれば特に限定されないが、例えば、分子内2本鎖構造を形成しないような配列などが挙げられ、好ましくはシトシンとアデニン又はウリジンとからなる配列、グアニンとアデニンとからなる配列、シトシン、グアニン、アデニン又はウリジンからなる配列であり、より好ましくは80%以上がシトシンである主としてシトシンからなる配列であり、さらに好ましくは完全にシトシンからなる配列である。ループ部分のヌクレオチド配列の具体例は、11個のシトシンからなる配列であるが、これに限定されない。
【0051】
第2の配列の長さは、ステム部分の長さ及びループ部分の長さを足し合わせたものであればよく、例えば、9塩基長〜65塩基長であり、ステムループ構造を安定的に維持することを考慮すれば、15塩基長〜50塩基長であることが好ましく、18塩基長〜35塩基長であることがより好ましく、約27塩基長であることがさらに好ましい。
【0052】
第2の配列において、ループ部分の長さは、ステム部分の長さと比較して、長いこと、短いこと、又は同一であることがあり得るが、−1フレームシフト誘導の効率を考慮すれば、ループ部分の長さは、ステム部分の長さと比較して、長いこと、又は同一であることが好ましく、長いことがより好ましく、1.2倍〜8倍長いことがさらに好ましく、1.3倍〜1.5倍長いことがなおさらに好ましい。
【0053】
第2の配列は、上記したステム部分及びループ部分からなるステムループ構造を形成する配列であればよく、具体例としては配列番号17に示す配列、配列番号18に示す配列などが挙げられる。
【0054】
1本鎖核酸分子は、5’末端側から3’末端側への方向に、第1の配列と第2の配列とを含めばよく、第1の配列の5’末端側、第2の配列の3’末端側及び/又は第1の配列と第2の配列との間に1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個又は9個のヌクレオチドが付加されていてもよいが、第1の配列と第2の配列とからなることが好ましい。
【0055】
第1の配列と第2の配列とからなる1本鎖核酸分子の長さは、第1の配列の長さと第2の配列の長さとを足し合わせた長さであればよいが、例えば、14塩基長〜90塩基長であり、21塩基長〜70塩基長であることが好ましく、26塩基長〜51塩基長であることがより好ましく、38塩基長〜40塩基長であることがさらに好ましい。1本鎖核酸分子において、第2の配列の長さは第1の配列の長さよりも長いことが好ましいが、第1の配列の長さは第2の配列におけるステム部分の長さよりも長いことが好ましい。
【0056】
1本鎖核酸分子を構成する各ヌクレオチドは、天然型のヌクレオチド(天然ヌクレオチド)であっても、修飾型のヌクレオチド(修飾ヌクレオチド)であっても、いずれであってもよい。また、1本鎖核酸分子は、天然ヌクレオチドからなるものであっても、修飾ヌクレオチドからなるものであっても、天然ヌクレオチド及び修飾ヌクレオチドの組合せからなるものであっても、いずれであってもよい。
【0057】
修飾ヌクレオチドは特に限定されないが、例えば、糖が修飾されたヌクレオチド(D−リボフラノースが2’−O−アルキル化したヌクレオチド、D−リボフラノースが2’−O,4’−C−アルキレン化したヌクレオチドなど);リン酸ジエステル結合が修飾されたヌクレオチド(チオエート化修飾ヌクレオチド);塩基が修飾されたヌクレオチド;これらの修飾が組み合わさったヌクレオチドなどを挙げることができる。修飾ヌクレオチドを有する1本鎖核酸分子は、RNAに対する結合力が高いこと、ヌクレアーゼに対する耐性が高いことなどの利点を有し得ることから、天然ヌクレオチドからなる1本鎖核酸分子と比べて、優れた−1フレームシフト誘導作用が期待できる場合がある。修飾ヌクレオチドは、ペプチド核酸(PNA)であってもよい。
【0058】
ヌクレオチドの糖の修飾の例としては、D−リボフラノースの2’−O−アルキル化(例えば、2’−O−メチル化、2’−O−アミノエチル化、2’−O−プロピル化、2’−O−アリル化、2’−O−メトキシエチル化、2’−O−ブチル化、2’−O−ペンチル化、2’−O−プロパルギル化など)、D−リボフラノースの2’−O,4’−C−アルキレン化(例えば、2’−O,4’−C−エチレン化、2’−O,4’−C−メチレン化、2’−O,4’−C−プロピレン化、2’−O,4’−C−テトラメチレン化、2’−O,4’−C−ペンタメチレン化など)、3’−デオキシ−3’−アミノ−2’−デオキシ−D−リボフラノース、3’−デオキシ−3’−アミノ−2’−デオキシ−2’−フルオロ−D−リボフラノースなどを挙げることができる。
【0059】
ヌクレオチドのリン酸ジエステル結合の修飾の例としては、ホスホロチオエート結合、メチルホスホネート結合、メチルチオホスホネート結合、ホスホロジチオエート結合、ホスホロアミデート結合などを挙げることができる。
【0060】
ヌクレオチドの塩基の修飾の例としては、シトシンの5−メチル化、5−フルオロ化、5−ブロモ化、5−ヨード化、N4−メチル化、チミジンの5−デメチル化(ウラシル)、5−フルオロ化、5−ブロモ化、5−ヨード化、アデニンのN6−メチル化、8−ブロモ化、グアニンのN2−メチル化、8−ブロモ化などを挙げることができる。
【0061】
1本鎖核酸分子は、塩の形態、すなわち、1本鎖核酸分子の医薬的に許容される塩であってもよい。塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩のようなアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩のようなアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩、コバルト塩などの金属塩;アンモニウム塩のような無機塩;t−オクチルアミン塩、ジベンジルアミン塩、モルホリン塩、グルコサミン塩、フェニルグリシンアルキルエステル塩、エチレンジアミン塩、N−メチルグルカミン塩、グアニジン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン塩、クロロプロカイン塩、プロカイン塩、ジエタノールアミン塩、N−ベンジル−フェネチルアミン塩、ピペラジン塩、テトラメチルアンモニウム塩、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩のような有機塩;弗化水素酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、沃化水素酸塩のようなハロゲン原子化水素酸塩;硝酸塩、過塩素酸塩、硫酸塩、燐酸塩などの無機酸塩;メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩のような低級アルカンルスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩のようなアリールスルホン酸塩;酢酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、蓚酸塩、マレイン酸塩などの有機酸塩;グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、グルタミン酸塩、アスパラギン酸塩のようなアミノ酸塩などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0062】
1本鎖核酸分子は、水和物などの溶媒和物の形態であってもよい。
【0063】
1本鎖核酸分子は、プロドラッグの形態であってもよい。プロドラッグとしては、アミド、エステル、カルバミン酸塩、炭酸塩、ウレイド、リン酸塩などを挙げることができる。
【0064】
1本鎖核酸分子は、これまでに知られている方法及び装置を使用して、合成することができる。例えば、Sinhaらの文献(N.D.Sinha et al.,Nucleic Acids Research,12,4539(1984);該文献の全記載はここに開示として援用される。)に記載の方法に準じてDNAを合成することができる。また、このようにして合成したDNAをベクターに組み込み、これを鋳型としてT7 RNA PolymeraseなどのRNAポリメラーゼを用いた転写反応により、RNAを合成することができる。1本鎖核酸分子は、in vivoで合成してもよく、in vitroで合成してもよいが、生産物の精製が容易であること、使用するヌクレオチドとして修飾ヌクレオチドを用いることができることから、in vitroで合成することが好ましい。
【0065】
1本鎖核酸分子をin vitroで合成する際に使用するヌクレオチドは、市販されているものを用いてもよく、市販されているヌクレオチドからこれまでに知られている方法に従って合成したものを用いてもよい。例えば、各種修飾ヌクレオチドは、Blommersらの文献(Blommers et al.,Biochemistry(1998),37,17714−17725.)、Lesnikらの文献(Lesnik,E.A.et al.,Biochemistry(1993),32,7832−7838.)、特許文献(US6261840)、Martinの文献(Martin,P.Helv.Chim.Acta.(1995)78,486−504.)、特許文献(WO99/14226)、特許文献(WO00/47599)、Huynhらの文献(Huynh Vu et al.,Tetrahedron Letters,32,3005−3008(1991))、Radhakrishnanらの文献(Radhakrishnan P.Iyer et al.,J.Am.Chem.Soc.112,1253 (1990))、特許文献(PCT/WO98/54198)、参考文献(Oligonucleotide Synthesis, Edited by M.J.Gait,Oxford University Press,1984)、特許文献(特開平7−87982)などに記載の方法に従って製造することができる。なお、ここで挙げた上記文献の全記載はここに開示として援用される。
【0066】
合成した1本鎖核酸分子は、溶媒又は樹脂を用いる抽出、沈降、電気泳動、クロマトグラフィーなどのこれまでに知られている方法及び装置を用いて、精製してもよい。1本鎖核酸分子の取得に際しては、ジーンデザイン、Dharmacon、QIAGEN、シグマアルドリッチなどの受託製造会社を利用した受託製造サービスを利用してもよい。
【0067】
1本鎖核酸分子は、対象となる遺伝子の転写産物であるmRNAに結合するものであることから、RNAであることが好ましい。
【0068】
1本鎖核酸分子がRNAである場合は、適用する対象内で合成されるようにデザインされたものであってもよく、例えば、1本鎖核酸分子をコードする遺伝子(DNA断片)を適用対象に適したベクターに挿入したものであってもよい。このようなベクターを適用対象内に導入して、1本鎖核酸分子をコードする遺伝子について転写されると、1本鎖核酸分子が適用対象内で合成されることになる。このような目的で使用し得るベクターとしては、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)などのウイルスベクターなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
1本鎖核酸分子はin vivoでもin vitroでも使用できる。in vivoで1本鎖核酸分子を適用する対象は特に限定されず、動物、植物、微生物などのいずれの生物個体であってもよい。動物としては、例えば、哺乳類が挙げられ、哺乳類としてはヒト、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジなどが挙げられ、これらの中でもヒトであることが好ましい。適用対象は、健常な生物個体であってもよいが、後述する遺伝性疾患を有する生物個体及びその危険性がある生物個体など、遺伝性疾患の予防又は治療が望まれる生物個体であることが好ましい。また、適用対象は生物個体そのものであってもよいが、生物個体の一部であってもよく、例えば、細胞、組織、臓器などであってもよい。
【0070】
1本鎖核酸分子のin vitroでの使用は、試薬などとして、実験、研究、医療など、その目的は問わない。例えば、医療目的としては、遺伝性疾患に罹患した者から採取した幹細胞を、1本鎖核酸分子が定常的に合成するように改変し、培養した上で、遺伝性疾患に罹患した者へ移植することができる。このように、本発明の一態様の1本鎖核酸分子は、再生医療、細胞治療などの医療目的で使用することができる。
【0071】
1本鎖核酸分子は、適用対象の細胞内に移行され易いように、核酸導入補助剤とともに使用されることが好ましい。核酸導入補助剤としては、例えば、リポフェクタミン、オリゴフェクタミン、リポソーム、ポリアミン、DEAEデキストラン、リン酸カルシウム、デンドリマー、脂質ナノ粒子などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
1本鎖核酸分子の使用量は、1本鎖核酸分子を適用した場合に−1フレームシフトが誘導される量であれば特に限定されず、例えば、成人に適用する場合は、0.001nmol/kg/日〜100mmol/kg/日などが挙げられ、優れた−1フレームシフト誘導作用を得ること、1本鎖核酸分子の合成のコストなどを考慮すれば、500nmol/kg/日〜500mmol/kg/日であることが好ましく、40nmol/kg/日〜500μmol/kg/日であることがより好ましい。
【0073】
1本鎖核酸分子の−1フレームシフト誘導作用を評価する方法は特に限定されず、例えば、1本鎖核酸分子の適用の有無における、対象とする遺伝子のmRNAの量、対象とする遺伝子がコードするタンパク質の量又はそれらの両方の量の増減を確認する方法などが挙げられる。また、1本鎖核酸分子を適用した者の疾患が予防又は治療されたこと、又は症状が緩和されたことを診察及び/又は検査することにより、確認してもよい。
【0074】
1本鎖核酸分子の−1フレームシフト誘導作用の程度は特に限定されず、例えば、1本鎖核酸分子を用いない場合(コントロール)と比べて、対象とする遺伝子に関するmRNA及び/又はタンパク質の量に変動(増加量又は減少量)が認められる程度であればよい。
【0075】
[組成物]
1本鎖核酸分子は、単独で、又はその他の成分と混合して組成物の形態で用いられる。本発明の別の態様は、本発明の一態様の1本鎖核酸分子を有効成分として含む、−1フレームシフトを誘導するために用いられる組成物である。組成物の具体的な態様は、医薬品用組成物、飲食品用組成物、医薬部外品用組成物、化粧品用組成物、動物飼料用組成物などが挙げられる。組成物は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの経口製剤;注射剤、坐剤、貼付剤、外用剤などの非経口製剤などの製剤であり得る。
【0076】
その他の成分は、1本鎖核酸分子が適用された場合に−1フレームシフトが誘導される限りにおいて特に限定されないが、例えば、医薬品を製造する際に使用される成分などが挙げられ、具体的には、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、葡萄糖、マンニトール、ソルビトールのような糖誘導体;トウモロコシデンプン、バイレショデンプン、α澱粉、デキストリンのような澱粉誘導体;結晶セルロースのようなセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルランのような有機系賦形剤;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウムのような珪酸塩誘導体;燐酸水素カルシウムのような燐酸塩;炭酸カルシウムのような炭酸塩;硫酸カルシウムのような硫酸塩などの無機系賦形剤など)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウムのようなステアリン酸金属塩;タルク;コロイドシリカ;ビーズワックス、ゲイ蝋のようなワックス類;硼酸;アジピン酸;硫酸ナトリウムのような硫酸塩;グリコール;フマル酸;安息香酸ナトリウム;DLロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウムのようなラウリル硫酸塩:無水珪酸、珪酸水和物のような珪酸類;上記澱粉誘導体など)、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、前記賦形剤と同様の化合物など)、崩壊剤(例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、内部架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムのようなセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドンのような化学修飾されたデンプン・セルロース類など)、乳化剤(例えば、ベントナイト、ビーガムのようなコロイド性粘土;水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムのような金属水酸化物;ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウムのような陰イオン界面活性剤;塩化ベンザルコニウムのような陽イオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルのような非イオン界面活性剤など)、安定剤(メチルパラベン、プロピルパラベンのようなパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールのようなアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールのようなフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;ソルビン酸など)、矯味矯臭剤(例えば、通常使用される甘味料、酸味料、香料など)、希釈剤などが挙げられる。
【0077】
組成物は、溶液状態で供給してもよい。この場合、1本鎖核酸分子の保存安定性を考慮すれば、組成物は、冷蔵条件下で、冷凍条件下で、又は凍結乾燥にして保存することが好ましい。凍結乾燥した組成物は、用時に溶解液(注射用蒸留水など)で溶かして、溶液状態に戻して用いればよい。
【0078】
組成物の適用量は、−1フレームシフト誘導作用が発現する量であれば特に限定されないが、例えば、成人(60kg)に適用する場合は、約0.1mg/日〜10,000mg/日であり、好ましくは1mg/日〜1,000mg/日である。本発明の一態様の組成物は、1日に1回又は複数回に分けて適用することができる。本発明の一態様の組成物による−1フレームシフト誘導作用を持続的に発現させたい場合は、本発明の一態様の組成物を数日間〜数週間〜数ヵ月間〜数年間に渡って、継続的又は断続的に適用することが好ましい。本発明の一態様の組成物の具体的な用法及び用量は、適用する生物個体の種類、生物個体が有する、若しくはその危険性がある疾患又は症状の種類及び程度、年齢、投与方法などにより適宜変更し得る。
【0079】
本発明の一態様の組成物は、−1フレームシフトを誘導して、対象遺伝子の発現を増加すること、又は低減することにより、種々の遺伝性疾患を予防すること、及び/又は治療することができる。本発明の一態様の組成物は、好ましくは−1フレームシフトを誘導することにより、前記標的配列を含む遺伝子の発現を正常化して、該遺伝子の発現異常により発症する遺伝性疾患を予防及び/又は治療するための医薬品用組成物である。遺伝性疾患は特に限定されないが、例えば、筋ジストロフィー、癌、多発性硬化症、脊髄性筋萎縮症、レット症候群、筋萎縮性側索硬化症、脆弱X症候群、プラダー・ウィリー症候群、色素性乾皮症、ポルフィリン症、ウェルナー症候群、進行性骨化性線維異形成症、乳児神経セロイドリポフスチン沈着症、アルツハイマー病、テイ−サックス病、神経組織変性、パーキンソン病、慢性関節リウマチ、対宿主性移植片病、関節炎、血友病、フォンヴィレブラント病、毛細管拡張性運動失調、サラセミア、腎結石、骨形成不全、肝硬変、神経繊維腫症、水疱性疾患、ライソゾーム性蓄積症、ハーラー疾患、小脳運動失調、結節性硬化症、家族性赤血球増加症、免疫不全、腎臓病、肺疾患、嚢胞性線維症、家族性高コレステロール血症、色素性網膜症、アミロイドーシス、アテローム性動脈硬化症、巨人症、小人症、甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、老化、肥満、糖尿病、ニーマン−ピック病、マルファン症候群などを挙げることができる。上記のとおり、本発明の一態様の1本鎖核酸分子及び組成物の有効量を投与することにより、対象となる遺伝子の発現異常により発症する遺伝性疾患を有する、又はその危険性がある生物個体に対して、遺伝性疾患を治療及び/又は予防することができる。さらに、本発明の一態様の1本鎖核酸分子及び組成物の有効量を投与することにより、対象となる遺伝子の発現異常が認められる細胞、組織、臓器又は生物個体に対して、遺伝子の発現異常を改善することなどができる。
【0080】
遺伝性疾患のうち、遺伝子のエクソンのアウトオブフレーム変異に起因する遺伝性疾患は、エクソンの読み枠がずれることにより、アウトオブフレーム変異が生じたエクソンが部分的に又は全体的に発現されず、結果としてNMDが生じて遺伝子の発現量が低下する場合が多い。このような場合に、本発明の一態様の組成物を用いれば、−1フレームシフトを誘導して、遺伝子のエクソンの読み枠のずれを訂正してインフレーム変異を発生させて、アウトオブフレーム変異が生じたエクソンを部分的に、又は全体的に発現して、結果としてNMDの影響を低減して遺伝子の発現量を増加することができる。このような遺伝子の発現量が低下することにより生じる遺伝性疾患としては、筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、βサラセミア、大腸癌などが挙げられる。
【0081】
一方、なんらかの原因により、本来発現していなかった、又は発現量が低かった変異型遺伝子が発現することがあり、結果として遺伝性疾患が生じる場合がある。このような場合に、本発明の一態様の組成物を用いれば、−1フレームシフトを誘導して、遺伝子のエクソンの読み枠をずらしてアウトオブフレーム変異を発生させて、エクソンを部分的に、又は全体的に発現させず、結果としてNMDを誘導して有害な変異型遺伝子の発現量を低減することができる。このような変異型の遺伝子が発現することによって異常なタンパク質が合成されることにより発症する遺伝性疾患としては、癌、進行性骨化性線維異形成症、家族性アルツハイマー病、家族性アミロイドポリニューロパチー、ハンチントン病といった頻度の高い優性遺伝性疾患などが挙げられる。
【0082】
例えば、ジストロフィン遺伝子が発現しないこと、又は発現量が少ないことにより、筋ジストロフィーが発症する。ジストロフィン遺伝子は79個のエクソンからなる遺伝子である。このうち、アウトオブフレーム変異が生じたデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者のジストロフィン遺伝子は、第45番〜第55番のエクソン(エクソン45〜55)のいずれかのエクソン又は複数のエクソンが欠失している場合が多い。後述する実施例で用いているDMD患者由来の線維芽細胞であるGM03429は、ジストロフィン遺伝子のエクソン45からエクソン50までの6エクソン(871塩基=290×3+1塩基)を欠失した変異ジストロフィン遺伝子を有する。この欠失した6エクソンは、871塩基からなり、3の倍数の塩基+1塩基であるために、センスストランドでインフレーム化に2塩基足りない状態となる。すなわち、1塩基欠失が生じると、3塩基に2塩基足りないので、後方(3’方向)にフレームが+1にシフトする。これを解消させるには、フレームを−1(5’方向)にずらすか、+2にシフトして3’方向に後戻りさせ、3の倍数にしなくてはならない。これを図示したのがスキーム(IV)である。
【0083】
【化4】
スキーム(IV)
【0084】
正常なジストロフィン遺伝子のmRNAは、エクソン50の最後の塩基であるUとエクソン51の先端部のCUとが一つのセンスコドンUCU(セリンに対応)を形成し、その後はエクソン51のCCUが一つのセンスコドン(プロリンに対応)を形成する。しかし、エクソン45〜エクソン50が欠失した変異ジストロフィン遺伝子のmRNAは、エクソン50の最後の塩基であるUが失われ、読み枠がずれることにより、エクソン51の先端部のCUCが一つのセンスコドン(ロイシンに対応)を形成し、その後はエクソン51のCUAが一つのセンスコドン(ロイシンに対応)を形成し、以後正常なジストロフィンタンパク質のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列をコードすることになる。
【0085】
それに対して、スキーム(IV)において、下線部で示した箇所を標的配列として、本発明の一態様の組成物を用いることにより、−1フレームシフトが生じるとともに、リボソームのスリッピングが発生すると考えられる。すなわち、エクソン44の最後のセンスコドン(AAG)の後に−1フレームシフトによってセンスコドンGCUが生じて、以後トリプレットコドンが形成される。その結果、エクソン51の2番目のセンスコドン(CCU)からは正常なジストロフィン遺伝子のmRNAと同一のアミノ酸をコードすることになる。
【0086】
この場合、結果として、−1フレームシフトが生じた変異ジストロフィン遺伝子のmRNAは、正常なジストロフィン遺伝子のmRNAとは、エクソン50の最後の塩基とエクソン51の先端部の2個の塩基との間で形成されるセンスコドン(UCU)に対応するセリンの代わりに、−1フレームシフトによって生じたセンスコドン(GCU)に対応するアラニンが付加されたものになる。なお、これらの推測は、実験により得られた推測であり、標的配列と−1フレームシフト発生部位との間のヌクレオチド数は適宜変更できる場合がある。また、このような−1フレームシフトの理論は、FARABAUGHの文献(PHILIP J.FARABAUGH、MICROBIOLOGICAL REVIEWS,Mar.1996,p.103−134;該文献の全記載はここに開示として援用される。)のFIG.4に記載されている、−1フレームシフトに関するJacksらのモデル及びWeissらのモデルとよく合致する。
【0087】
上記推測に基づけば、本発明の一態様の組成物を用いることにより、変異ジストロフィン遺伝子によって発現される変異ジストロフィンタンパク質のアミノ酸配列は、エクソン45〜エクソン50によってコードされるアミノ酸及びエクソン50の最後の塩基とエクソン51の先端部の2個の塩基とによって形成されるセンスコドンに対応するアミノ酸(セリン→アラニン)のみが異なり、その余は正常なジストロフィンタンパク質のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列になる。したがって、本発明の一態様の組成物を用いれば、エクソンの欠失部分を除けば、正常なジストロフィンタンパク質とは1アミノ酸のみが異なるアミノ酸配列を有する変異ジストロフィンタンパク質を得ることができる。
【0088】
別の例として、c−myc遺伝子などの癌遺伝子の発現産物のアミノ酸配列を変えること、癌遺伝子の発現を低減することなどができれば、癌の進行を停滞又は緩和することが期待される。そこで、癌遺伝子の転写産物であるmRNAをターゲットとして、本発明の一態様の組成物を用いて−1フレームシフトを誘導することにより、癌遺伝子の発現産物の構造を変えて活性を低下すること、癌遺伝子の発現産物の発現量を低減することなどを通じて、癌を予防及び/又は治療することが可能である。また、c−myc遺伝子は、いわゆる「人工多能性幹細胞」(iPS細胞)を製造する際に使用される。そこで、iPS細胞を製造する際に使用するc−myc遺伝子をターゲットとした本発明の一態様の組成物を、c−myc遺伝子の導入及び発現と同時に、又は異時に用いることにより、iPS細胞を製造しつつ、iPS細胞が癌化することを防ぐことが期待される。
【0089】
本発明の一態様の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、有効成分である1本鎖核酸分子と、任意に他の成分とを混合して、所望の剤形に成形する方法などが挙げられる。本発明一態様の組成物の包装形態は特に限定されず、適用される形態及び剤形などに応じて適宜選択できるが、例えば、バイアル、アンプルなどのガラス容器;ガラス、アルミなどの金属、コーティング紙、PETなどのプラスチックなどを素材とするバイアル、アンプル、瓶、缶、パウチ、ブリスターパック、ストリップ、1層又は積層(ラミネート)のフィルム袋などが挙げられる。
【0090】
非限定的な具体例として、本発明の一態様の組成物をDMD患者に適用する場合は、以下のようにして行うことができる。すなわち、有効成分である1本鎖核酸分子をこれまでに知られている方法で製造し、これを常法により滅菌処理し、例えば、1本鎖核酸分子を含む1mlの注射剤を調製する。この注射剤を、患者静脈内に1本鎖核酸分子の投与量が体重1kg当たり0.1mg〜100mgとなるように、輸液により点滴投与する。投与は、例えば、1週間〜2週間の間隔で数回繰り返し、その後も、診察;X線、CT、MRIなどの撮像;内視鏡、腹腔鏡などによる観察;細胞診、組織診などにより筋力増強効果を確認しつつ、適宜投与を繰り返す。
【0091】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例】
【0092】
[例1.EGFP−Human α−Tubulin遺伝子のORFの−1フレームシフト評価]
1.評価の概要
人工的に作製した核酸分子を使用して、143Btk−骨肉腫細胞に導入したpEGFP−TubベクターにおけるEGFP−Human α−TubulinのORF(Open Reading Frame)を−1だけ人為的にフレームシフトさせた。上記核酸分子のターゲット配列の近傍にてORFが−1フレームシフトすることにより、EGFP蛍光タンパク質のアミノ酸配列を途中から変えて、更にEGFP遺伝子配列とα−Tubulin遺伝子配列との連結部分の境界に最初の終止コドン(TGA)として、早期終止コドン(Premature Termination Codon:PTC)を発生させた。
【0093】
2.試験細胞株の作製
10%FCS添加DMEMで培養した143Btk−骨肉腫細胞に、pEGFP−Tubベクター(CLONTECH Laboratories社;6.0kb)を、トランスフェクション試薬「Lipofectamine2000」(Thermo Fisher Scientific社)を用いてトランスフェクションした。G418硫酸塩(コスモ・バイオ社)を用いて薬剤選択することにより、C末端にヒトα−Tubulinタンパク質が融合したEGFP蛍光タンパク質(Human α−Tubulinタンパク質)がステイブルに高発現している143Btk−骨肉腫細胞のクローンを試験細胞株として選抜した。
【0094】
3.フレームシフト用核酸分子の作製
−1フレームシフトを引き起こす核酸分子について、本明細書に記載の諸条件に基づいて、該核酸分子の数種類を分子設計した。反応液におけるコンフォメーションを、RNA 2次構造予測プログラム「CentroidFold」(入手先:https://github.com/satoken/centroid−rna−package)にてシュミレーションし、安定性の高いものをカスタム合成した。
【0095】
EGFP−Human α−Tubulinのコーディング領域(CDS)を図1に示す。図1に示すとおり、EGFP遺伝子(配列番号7)は、リンカー(5’−TCCGGACTCAGATCTCGA−3’;配列番号8)を介して、Human α−Tubulin遺伝子(配列番号9)と連結している。
【0096】
分子設計は、ターゲット配列の位置(Target sequence)に基づいて設計した。具体的には、スリッピングを起こす最後の元のコドンの位置から6塩基のスペーサー塩基を挟んで、ステムループのAxisの底に当たる2塩基以降に、ターゲット配列を十数塩基設計した。ターゲット配列は、移動してきたリボソームの進行を阻害し、力学的に1塩基のスリッピングを前方の配列で起こす、十分な結合をフレームシフト用核酸分子との間に有するものとし、−1方向の塩基のスリッピングを引き起こした後は、翻訳を再開し、フレームシフト分子をmRNAから引き剥がす位の結合の緩さも同時に有するものとした。このために、ターゲット配列は十数塩基であることが好ましく、ターゲット配列に結合する部分がフレームシフト用核酸分子の他の部分と結合及び相互作用してステムループ構造を崩さない位の長さに設定した。実験的に、ターゲット配列は10塩基から13塩基程度の長さにし、RNAの2次構造予測プログラムであるCentroidFoldにて、ステムループの基本構造が崩れていないことを確認しながら、鎖長を調整し、最も構造的に安定したフレームシフト用核酸分子として設計した。結果として、ターゲット配列に対するフレームシフト用核酸分子は、より安定した分子構造を有すると推測された。
【0097】
理論的には、設計したフレームシフト用核酸分子が−1のフレームシフトをターゲット配列近傍で引き起こすことにより、EGFP遺伝子配列とヒトα−Tubulin遺伝子配列との境界付近にPTCが発生し、143Btk−骨肉腫細胞内でα−Tubulinタンパク質を失ったEGFP蛍光タンパク質のみが発現する。ただし、pEGFP−Tubベクターから発現する蛍光タンパク質のpre−mRNAの構造はシングルエクソンであるので、後述する例3にあるように、細胞内mRNA品質管理システムであるNMD(Nonsense−mediated mRNA decay:ナンセンス変異依存mRNA分解機構)を作動させることはない。すなわち、EGFP遺伝子のmRNA発現は依然として存在する。
【0098】
ターゲット配列に対するフレームシフト用核酸分子として「Stem38egfp(CG)」(配列番号1)を設計した。また、Stem38egfp(CG)に配列及び構造が類似しており、かつEGFP遺伝子をターゲットとしない「acGFP2」(配列番号6)を設計した。Stem38egfp(CG)及びacGFP2の構造をそれぞれスキーム(V)及び(VI)に示す。
【0099】
【化5】
スキーム(V)
【0100】
【化6】
スキーム(VI)
【0101】
各核酸分子について、TEバッファーを用いて100μMに調製して、核酸分子溶液を作製した。
【0102】
4.フレームシフトの誘導
6ウェルプレートの各ウェルに、試験細胞株を播いた後、37℃、5%CO条件下で、2日間培養した。コンフルエンシー80%に達した後、各ウェルの培地を、各核酸分子及びトランスフェクション試薬(「Lipofectamine2000」)を混合して添加したOpti−MEM(登録商標)(Thermo Fisher Scientific社)に置換した。このOpti−MEMで細胞を6時間のトランスフェクション処理に供した後、6ウェルプレートを37℃、5%CO条件下で、48時間インキュベートする薬剤処理に供した後、アッセイに供した。
【0103】
なお、各核酸分子及びトランスフェクション試薬を添加せずにOpti−MEMのみを用いた試験群を無処理(Untreated:Unt)群とし;各核酸分子を添加せずにトランスフェクション試薬のみを添加したOpti−MEMを用いた試験群をモック(Mock)群とし;ターゲット配列を標的とする分子「Stem39egfp(GC)」を用いた試験群をP群とし;及びEGFP遺伝子を標的としない「acGFP2」を用いた試験群をNC(Negative Control)群として、5つの試験群を用意した。P群及びNC群において、Opti−MEM中の各核酸分子の最終濃度は40nMとなるようにした。
【0104】
トランスフェクション処理後、各ウェルの培地を15%FCS添加DMEMに置換して、6ウェルプレートを、37℃、5%CO条件下で、48時間インキュベートした。インキュベート後、各ウェルの細胞を蛍光顕微鏡「BZ−X9000」(キーエンス社)を用いて観察して、pEGFP−Tubベクターから転写及び翻訳して、ステイブルに発現する緑色の蛍光タンパク質を確認した。
【0105】
5.フレームシフトの誘導評価
各試験群の細胞について、蛍光顕微鏡により観察した結果を図2に示す。図2に示すとおり、Unt群、Mock群及びNC群においては、細胞内において、核を除く細胞質にて、ヒトα−Tubulinタンパク質融合EGFPタンパク質が細胞骨格に沿って配向したことによる蛍光を確認した。それに対して、P群では、細胞内において、拡散して滲んだような弱い蛍光を確認した。
【0106】
以上の観察結果より、P群で用いた核酸分子Stem38egfp(CG)は、−1フレームシフトを誘導したこと;これにより読み枠が変わって、EGFP−ヒトα−Tubulin融合タンパク質から、足場タンパク質であるヒトα−Tubulinが欠損し、配向性を失ったEGFPタンパク質が細胞内にランダムに拡散したこと;蛍光が弱かったことから、発現したEGFPタンパク質は、正常なアミノ酸配列から、ORFのシフトが生じた部分からアミノ酸配列が変わり、全体として蛍光が弱くなるようなアミノ酸配列を有するものになったことがわかった。
【0107】
[例2.DHFR遺伝子のORFの−1フレームシフト評価]
1.評価の概要
2種類のジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子を含むDNA断片を用いて、in vitro無細胞翻訳系により、ORFの−1フレームシフトを検証した。
【0108】
大腸菌由来のDHFR遺伝子(配列番号10)のCDSを図3に示す。第1のDNA断片であるDHFRは、DHFR遺伝子の開始コドン(ATG)の上流にT7プロモーター及びリボソーム結合サイト(SD配列)を配置して含む。
【0109】
DHFRを用いて転写及び翻訳すると、正常なDHFRタンパク質が得られる。一方、−1フレームシフトが起きた場合、読み枠が変わり、図3において示した−1ストップコドン(PTC)が生じて翻訳が終了し、PTC前までの不完全な長さのDHFRタンパク質が得られる。
【0110】
第2のDNA断片であるDHFR−Hisは、第1のDNA断片を鋳型として、T7プロモーター上流の配列の一部及びT7プロモーター配列の一部に相補的なフォワードプライマー「Primer DHFR−His_Fw」(配列番号11)と、DHFR遺伝子の途中の「3’Reverse PCR primer binding site」(図3)に相補的なリバースプライマー「Primer DHFR−His_Rv」(配列番号12)とを用いたPCRにより得られるDNA断片である。リバースプライマーのヌクレオチド配列を図4Aに示す。
【0111】
図4Aに示すとおり、Primer DHFR−His_Rvには、−1フレームシフトによってHisタグが生じるような配列構成をしている。通常、DHFR−Hisを用いて転写及び翻訳すると、リバースプライマーの3’側にあるストップコドン(TAA、TAG)まで翻訳が進み、ヒスチジン(His)タグを含まないタンパク質が得られる。一方、−1フレームシフトが起きた場合、読み枠が変わり、−1ストップコドン(TAA)にて翻訳が終了し、C末端にHisタグを有するタンパク質が得られる。
【0112】
以上のとおり、DHFR及びDHFR−Hisを用いれば、−1フレームシフトの有無により、それぞれ異なるタンパク質が得られる。図4Bに、DHFRタンパク質のアミノ酸配列(配列番号13)及びDHFR−Hisタンパク質のアミノ酸配列(配列番号14)を示す。このようなDNA断片を用いて、再構成無細胞翻訳系により、人工的に設計した核酸分子がDHFR遺伝子中のターゲット配列に結合し、本来のORFを−1だけシフトすると、合成されるタンパク質のアミノ酸配列が変化し、−1フレームシフトが検出可能となる。
【0113】
2.フレームシフト用核酸分子の作製
ターゲット配列の設定は、容易に−1のslippageを起こすと予測された場所の近傍を選択した。図3にDHFR遺伝子上のターゲット配列の位置(Target sequence)を示す。
【0114】
上記したとおり、DHFR−Hisが転写及び翻訳された場合、−1フレームシフトが起これば、最初に現れる終止コドン(−1 Stop codon(PTC))の位置の直前から、C末端にてHisタグが融合した約9.6kDaのタンパク質が合成されると推測される。安定した分子構造を有するフレームシフト用核酸分子を「Stem39dhfr(GC)」(配列番号2)とした。Stem39dhfr(GC)の構造をスキーム(VII)に示す。
【0115】
【化7】
スキーム(VII)
【0116】
3.フレームシフトの誘導
in vitro無細胞翻訳キットとして、「PUREfrex(登録商標)2.0」(コスモ・バイオ社)を用いた。DHFRは、キットに付属する「DHFR DNA」を用いた。DHFR−Hisは、DHFRを鋳型として、DHFR−His_Fw及びDHFR−His_Rvを用いて、常法に従ってPCRを実施し、得られたPCR産物を精製することにより得られた。
【0117】
使用したキットの反応液の組成を表1に示す。ここで、サンプル溶液は、表2に示すものを用いた。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
Negative Control(NC)には、サンプル溶液として蒸留水(ddHO)を用いた(試験群1)。Positive Control(PC)には、サンプル溶液としてDHFR遺伝子の全長を有するDHFRを含む溶液を用いた(試験群2)。フレームシフト反応系1には、サンプル溶液としてフレームシフト用核酸分子であるStem39dhfr(GC)及びDHFRの両方を含む溶液を用いた(試験群3)。フレームシフト反応系2には、サンプル溶液としてStem39dhfr(GC)、並びにDHFR遺伝子の一部及び−1フレームシフトによってHisタグを有するように設計されているDHFR−Hisの両方を含む溶液を用いた(試験群4)。Positive Negative Control(PN)には、サンプル溶液としてDHFR−Hisのみを含む溶液を用いた(試験群号5)。サンプル溶液において、Stem39dhfr(GC)は、反応液(20μl)中の濃度が500nMとなるように調製した。同様に、サンプル溶液において、DHFR及びDHFR−Hisは、反応液(20μl)中の量がそれぞれ20μg及び60μgとなるように調製した。
【0121】
各反応液をサーマルサイクラー用のチューブに入れて、4時間、37℃にて、サーマルサイクラーを用いてタンパク質合成反応に供した。
【0122】
試験群1〜3の反応済み溶液20μLに、ddHO 20μLを加えて2倍希釈した。得られた希釈溶液に、10vol% β−メルカプトエタノールの入った4×SDSサンプルバッファー 13.3μLを添加したものを、95℃、5分間で加熱して、タンパク質を熱変性させた。
【0123】
試験群4及び5の反応済み溶液 20μLには、Hisタグ融合タンパク質精製キット「CapturemTM His−tagged Purification Miniprep Kit」(クロンテック社)に付属のxTractorバッファー 275μLを加えて、約300μLの溶液Aを調製した。調製した溶液Aを、平衡化したHisタグ融合タンパク質吸着カラムに加えた。カラムの平衡化は、xTractorバッファーを入れ、9,800gにて、1分45秒間遠心することにより実施した。
【0124】
溶液Aを加えたカラムを、9,800gにて、1分45秒間遠心し、得られた上清を「Lysate」として回収した。次いで、カラムにwashバッファー 300μLを入れて、9,800gにて、1分45秒間遠心し、得られた上清を「Wash」として回収した。次いで、カラムからHisタグ融合タンパク質を溶出させるために、カラムにelutionバッファー 300μLを入れて、9,800g、1分45秒間にて遠心し、得られた上清を「Elution1」として回収した。次いで、同様の操作を実施することにより、「Elution2」を回収した。
【0125】
回収した各溶液 150μLあたり、4×SDSサンプルバッファー 45μLを加えて混合し、次いで50μLごとに分注した。分注した溶液をチューブに入れて、サーマルサイクラーにて95℃、5分間にてタンパク質を熱変成させた。熱変成させたタンパク質サンプルを−20℃にて保存した。
【0126】
試験当日、凍結保存していた熱変成させたタンパク質サンプルを、「Lysate」、「Wash」、「Elution1」及び「Elution2」ごとに1.5mLチューブにまとめた。次いで、各サンプル溶液の全量を、フィルターカラム「Amicon(登録商標) Ultra−0.5(3k)」(Max Volume 500μL;メルク・ミリポア社)に入れて、12,000g、約45分間にて遠心した。次いで、フィルターカラムを逆さまにして、12,000g、2分間にて遠心し、濃縮されたタンパク質サンプルをフィルターカラムから回収した。回収した濃縮タンパク質サンプルの全量(45μL)を、タンパク質電気泳動用ポリアクリルアミドゲル「10−20% CriterionTM TGXTMプレキャストゲル」(バイオ・ラッド社)の各ウェルにアプライした。同様に、試験群1〜3の熱変成タンパク質サンプルの全量を各ウェルにアプライした。各タンパク質サンプルをアプライしたゲルを、200V、50分間の電気泳動処理に供した。各ウェルにアプライしたタンパク質サンプルの配置は表3のとおりになる。なお、分子量マーカー(M)には、「プレシジョンPlusプロテインデュアルエクストラスタンダード」(バイオ・ラッド社;製品番号1610377)を用いた。
【0127】
【表3】
【0128】
電気泳動後のゲルを、クマシー色素タンパク質ゲル染色試薬「Simply Blue Safe Stein」(Thermo Fisher Scientific社)を用いて染色し、バンドを可視化した。
【0129】
4.フレームシフトの誘導評価
ゲル染色後の結果を図5A図5Cに示す。図5Aは、染色後のゲル全体を撮影した図である。図5Bは、図5Aのうち、TEST2 Elution1及びElution2のHisタグ化DHFRタンパク質が現れた箇所を拡大した図である。図5Cは、図5Aのうち、NC、PC及びTEST1のDHFRタンパク質及びDHFRタンパク質断片が現れた箇所を拡大した図である。
【0130】
DHFR−His及びフレームシフト用核酸分子Stem39dhfr(GC)を加えた反応液(TEST2)によるLane6(TEST2 Elution1)及びLane7(TEST2 Elution2)にて、Hisタグ融合タンパク質のバンドが認められた。特に、Lane6にて、明瞭なバンドが認められた。それに対して、DHFR−Hisのみを加えて、フレームシフト用核酸分子Stem39dhfr(GC)を加えなかった反応液(PN)によるLane11(PN Elution1)及びLane12(PN Elution2)では、Hisタグ融合タンパク質が合成されているならば出現したであろう位置にバンドは認められなかった。
【0131】
以上の結果から、フレームシフト用核酸分子Stem39dhfr(GC)は、DHFR−Hisが翻訳される際に、ORFの−1フレームシフトが起こり、その結果としてHisタグ融合タンパク質が合成されたことが実証された。
【0132】
一方、DHFRのみを加えた反応液(PC)によるLane2と同様に、フレームシフト用核酸分子Stem39dhfr(GC)分子の両方を加えた反応液(TEST1)によるLane3(TEST1)では、DHFRタンパク質の全長によるバンドが認められた。しかし、Lane3では、DHFRタンパク質の部分断片(truncated DHFRタンパク質)によるバンドが色濃く認められた。
【0133】
以上の結果より、フレームシフト用核酸分子Stem39dhfr(GC)分子によって、ORFの−1フレームシフトが生じ、本来のDHFR遺伝子配列に存在しない終止コドン、すなわち、PTCが出現したことによって、翻訳が途中で停止したことが実証された。
【0134】
これらの結果は、人工的に設計したフレームシフト用核酸分子によって、人工的に−1フレームシフトを起こすことが可能であることが証明された。
【0135】
[例3.ジストロフィン遺伝子のORFの−1フレームシフト評価]
1.評価の概要
エクソンなどを欠失したことによりORFがずれ、アウトオブフレームになったmRNAのORFの途中にPTC(早期終止コドン)が発生することで、mRNAの品質管理システムであるNMD(Nonsense−mediated mRNA decay:ナンセンス変異依存mRNA分解機構)が誘導され、PTCを有するmRNAが積極的に分解される。
【0136】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)では、エクソンの数が79個あるジストロフィン遺伝子(HGNC ID HGNC:2928,Chromosomal location:Xp21.2−p21.1)について、一部のエクソンが欠失し、PTCを有するmRNAが生じて分解されるために、ジストロフィンタンパク質が合成されずに発症する。そこで、DMDなどの遺伝子疾患患者由来の生細胞内において、フレームシフト用核酸分子を用いて、ORFの−1フレームシフトを人為的に引き起こすことができれば、NMDを回避して分解されないような、比較的長大なジストロフィンタンパク質を合成できる。
【0137】
本例では、ジストロフィン遺伝子のうち、エクソン45〜エクソン50を欠失したデュシェンヌ型筋ジストロフィーの患者由来の線維芽細胞に、ジストロフィンmRNAをターゲットとするように分子設計した治療分子であるフレームシフト用核酸分子をトランスフェクションし、ORFの−1フレームシフトを誘発した。−1フレームシフトが生じたことで、ジストロフィンmRNAのリボソーム翻訳時のアウトオブフレームをインフレームに修正し、ジストロフィン遺伝子のmRNAの発現量の増大を確認することにより、生細胞内における−1フレームシフト及びそれによる遺伝病の治療の可能性を実証した。
【0138】
2.試験細胞株
DMD患者由来の線維芽細胞であるGM03429は、ジストロフィン遺伝子のエクソン45からエクソン50までの6エクソン(871塩基=290×3+1塩基)を欠失した変異ジストロフィン遺伝子を有する。健常者由来の線維芽細胞であるGM05118は、正常なジストロフィン遺伝子を有する。GM03429及びGM05118は、Coriell Institute for Medical Researchから入手した。
【0139】
3.フレームシフト用核酸分子の作製
変異ジストロフィン遺伝子は、エクソン45〜エクソン50を欠失していることにより、エクソン44の3’末端(AAG)とエクソン51の5’末端(CTC)とが直接的に連結した配列となっている。この両末端のAAGとCTCとの間をブレイクポイント(Breakpoint)とした。
【0140】
変異ジストロフィン遺伝子のエクソン44とエクソン51との間のブレイクポイントの近傍にて、3種類のターゲット配列としてPosition1、Position2及びPosition3を設定し、それぞれに対してフレームシフト用核酸分子「P1Stem38dmd45−50(GC)」(配列番号3)、「P2Stem39dmd45−50(CG)」(配列番号4)及び「P3Stem39dmd45−50(CG)」(配列番号5)を設計及び作製した。設計したフレームシフト用核酸分子について、「CentroidFold」にて計算し、安定性を確認した。Position1、Position2及びPosition3のターゲット配列を図6A図6Cに示す。また、P1Stem38dmd45−50(GC)、P2Stem39dmd45−50(CG)及びP3Stem39dmd45−50(CG)の構造をそれぞれスキーム(VIII)〜(X)に示す。
【0141】
【化8】
スキーム(VIII)
【0142】
【化9】
スキーム(IX)
【0143】
【化10】
スキーム(X)
【0144】
4.細胞培養
試験細胞株(GM03429及びGM05118)は、15%FCS及びAntibiotic Antimycoticを添加したDMEMにて、37℃、5%COの条件下で、6ウェルプレートにて継代培養した。培養後、それぞれの細胞を回収した。
【0145】
5.フレームシフトの誘導及びcDNAの合成
回収した試験細胞株を、96ウェルプレートの各ウェルに播いた後、37℃、5%CO条件下で、2日間培養した。コンフルエンシー90%を確認後、各ウェルの培地を、各核酸分子及びトランスフェクション試薬(「Lipofectamine2000」)を混合して添加したOpti−MEM(登録商標)(Thermo Fisher Scientific社)に置換した。6時間後、通常のDMEMに交換し、トランスフェクション処理後、96ウェルプレートを37℃、5%CO条件下で、48時間の薬剤処理に供した。
【0146】
なお、試験細胞株をGM03429として、各核酸分子及びトランスフェクション試薬を添加せずにOpti−MEMのみを用いた試験群を無処理(Untreated:Unt)群(n=1)とし;各核酸分子を添加せずにトランスフェクション試薬のみを添加したOpti−MEMを用いた試験群をモック(Mock)群(n=6)とし;Position1を標的とする分子「P1Stem38dmd45−50(GC)」を用いた試験群をP1群(n=3)とし;Position2を標的とする分子「P2Stem39dmd45−50(CG)」を用いた試験群をP2群(n=3)とし;及びPosition3を標的とする分子「P3Stem39dmd45−50(CG)」を用いた試験群をP3群(n=3)として、5つの試験群を用意した。また、試験細胞株をGM05118として、各核酸分子及びトランスフェクション試薬を添加せずにOpti−MEMのみを用いた試験群を野生株(Wild type:WT)群(n=2)とした。P1群、P2群及びP3群において、Opti−MEM中の各核酸分子の最終濃度は40nMとなるようにした。
【0147】
トランスフェクション終了後、回収した各ウェルの細胞について、cDNA合成キット「SuperScriptTM III CellsDirect cDNA Synthesis System」(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、細胞を溶解し、得られたライセートにおけるtotal RNAを逆転写反応に供して、cDNAを生成した。
【0148】
6.qPCRによるジストロフィンmRNAの定量
ジストロフィンmRNAの定量は、リアルタイムPCR「TaqMan(登録商標) Gene Expression Master Mix」及び「TaqMan(登録商標) Gene Expression Assay」(ともにThermo Fisher Scientific社)及びリアルタイムPCR装置「TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice Real Time System II」を使用して、ΔΔCT法によりqPCRを行なった。内在性コントロールはGAPDH遺伝子を使用して、その発現量に対するジストロフィンmRNAの発現量を相対量として算出した。
【0149】
4.フレームシフトの誘導評価
各試験群について、GAPDHのmRNA発現量に対するジストロフィンmRNA発現レベルの相対量をグラフ化したものを図7に示す。
【0150】
無処理群(Unt)のジストロフィン遺伝子のmRNAの発現量は、正常線維芽細胞を用いたWT群に比べ、低い発現レベルであった。同様に、トランスフェクション試薬のみを培地に加えたMock群では、非常に低い発現レベルであった。これらの試験群では、エクソンの欠失によりPTCを有することになったジストロフィンmRNAが、mRNAの品質管理機構によって捕捉され、NMDにより分解されたことを示唆する。
【0151】
それに対して、Position1、Position2及びPosition3に対するフレームシフト用核酸分子P1Stem38dmd45−50(GC)、P2Stem39dmd45−50(CG)及びP3Stem39dmd45−50(CG)を用いたP1群、P2群及びP3群では、いずれの核酸分子を導入したDMD患者由来線維芽細胞においても、ジストロフィンmRNA発現の増加が認められた。これらの結果から、フレームシフト用核酸分子がmRNAに結合及び作用して、ORFがリボソームで翻訳される際に、ORFのアウトオブフレームをインフレームにしたことにより、NMDが回避されたと考えられる。なお、Position2に対するフレームシフト用核酸分子P2Stem39dmd45−50(CG)を用いる場合、軸(Axis)の前でUAAの早期終止コドン(PTC)が生じる。また、Position3に対するフレームシフト用核酸分子P3Stem39dmd45−50(CG)を用いる場合、軸(Axis)の前及びターゲット配列の後にUAAのPTCが生じる。これにより、P1群に比べると、P2群及びP3群のmRNA量が減った可能性がある。しかし、P2群及びP3群は、Mock群に比べると、mRNA量が多かったことから、これらの群で用いたフレームシフト用核酸分子によってNMDを回避することができたと考えられる。NMDはPTCの発生のみによって誘導されるわけではない、という知見は、本発明者によって初めて見出された驚くべき知見である。
【0152】
以上の結果より、フレームシフト用核酸分子を用いることにより、NMDを回避するなどして、ジストロフィンmRNAが分解することなく発現が維持されたことがわかる。このように、DMD患者由来線維芽細胞において、非常に低い発現レベルのジストロフィン遺伝子のmRNAが、フレームシフト用核酸分子により発現がみられるようになったということは、非常に驚くべきことである。そして、この事象は、フレームシフト用核酸分子がDMDの治療に有用であることに直結する。
【0153】
以上のとおり、ジストロフィンmRNAが分解され、ジストロフィンタンパク質がほとんど産生されないことで起こるDMDに対して、−1フレームシフトを誘導するように人工的に設計したフレームシフト用核酸分子は、DMD、すなわち、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの有効な治療法となり得る。
【0154】
また、ジストロフィン遺伝子のエクソン45〜エクソン50が欠失したことに起因するデュシェンヌ型筋ジストロフィーように、+1のORFのずれによって引き起こされるその他の遺伝子疾患もまた、−1フレームシフトを誘導するフレームシフト用核酸分子を用いれば治療することができる。
【0155】
その一方で、細胞内で機能しているターゲット遺伝子のmRNAのORFを−1フレームシフトさせて、不正な翻訳を発生させ、さらにPTCを意図的にmRNA上に発生させることによって、NMDを発動させてmRNAの分解を促すことにより、mRNAの発現を低減すること、機能的な遺伝子産物を機能が消失した断片的な遺伝子産物(truncated protein)に変換すること、これらの結果として細胞内でのターゲット遺伝子の機能を無効化することが可能である。
【0156】
このように様々な遺伝子に対して設計可能なフレームシフト用核酸分子は、例えば、癌細胞に特異的に発現する遺伝子の機能を無効化することなどにより、癌の治療、生体に有害なタンパク質が発現することで引き起こされる優性遺伝病などの治療にも使用可能である。
【0157】
配列表に記載の配列は以下のとおりである:
[配列番号1]Stem38egfp(CG)
CGCUGCCGUCCCCGCAUUACCCCCCCCCCCUAGUGUGG
[配列番号2]Stem39dhfr(GC)
CCGAUUGAUUCCGCGCAUUACCCCCCCCCCCUAGUGUGC
[配列番号3]P1Stem38dmd45−50(GC)
GUAACAGUCUGGCGCAUUACCCCCCCCCCCUAGUGUGC
[配列番号4]P2Stem39dmd45−50(CG)
CUGAGUAGGAGCCCGCAUUACCCCCCCCCCCUAGUGUGG
[配列番号5]P3Stem39dmd45−50(CG)
UACCAUUUGUAUGCGCAUUACCCCCCCCCCCUAGUGUGC
[配列番号6]acGFP2
CGAUGCCGGUGCCGCAUUACCCCCCCCCCCUAGUGUGG
[配列番号7]EGFP遺伝子
ATGGTGAGCAAGGGCGAGGAGCTGTTCACCGGGGTGGTGCCCATCCTGGTCGAGCTGGACGGCGACGTAAACGGCCACAAGTTCAGCGTGTCCGGCGAGGGCGAGGGCGATGCCACCTACGGCAAGCTGACCCTGAAGTTCATCTGCACCACCGGCAAGCTGCCCGTGCCCTGGCCCACCCTCGTGACCACCCTGACCTACGGCGTGCAGTGCTTCAGCCGCTACCCCGACCACATGAAGCAGCACGACTTCTTCAAGTCCGCCATGCCCGAAGGCTACGTCCAGGAGCGCACCATCTTCTTCAAGGACGACGGCAACTACAAGACCCGCGCCGAGGTGAAGTTCGAGGGCGACACCCTGGTGAACCGCATCGAGCTGAAGGGCATCGACTTCAAGGAGGACGGCAACATCCTGGGGCACAAGCTGGAGTACAACTACAACAGCCACAACGTCTATATCATGGCCGACAAGCAGAAGAACGGCATCAAGGTGAACTTCAAGATCCGCCACAACATCGAGGACGGCAGCGTGCAGCTCGCCGACCACTACCAGCAGAACACCCCCATCGGCGACGGCCCCGTGCTGCTGCCCGACAACCACTACCTGAGCACCCAGTCCGCCCTGAGCAAAGACCCCAACGAGAAGCGCGATCACATGGTCCTGCTGGAGTTCGTGACCGCCGCCGGGATCACTCTCGGCATGGACGAGCTGTACAAG
[配列番号8]リンカー
TCCGGACTCAGATCTCGA
[配列番号9]α−Tubulin遺伝子(Homo sapiens)
GTGCGTGAGTGCATCTCCATCCACGTTGGCCAGGCTGGTGTCCAGATTGGCAATGCCTGCTGGGAGCTCTACTGCCTGGAACACGGCATCCAGCCCGATGGCCAGATGCCAAGTGACAAGACCATTGGGGGAGGAGATGACTCCTTCAACACCTTCTTCAGTGAGACGGGCGCTGGCAAGCACGTGCCCCGGGCTGTGTTTGTAGACTTGGAACCCACAGTCATTGATGAAGTTCGCACTGGCACCTACCGCCAGCTCTTCCACCCTGAGCAGCTCATCACAGGCAAGGAAGATGCTGCCAATAACTATGCCCGAGGGCACTACACCATTGGCAAGGAGATCATTGACCTTGTGTTGGACCGAATTCGCAAGCTGGCTGACCAGTGCACCGGTCTTCAGGGCTTCTTGGTTTTCCACAGCTTTGGTGGGGGAACTGGTTCTGGGTTCACCTCCCTGCTCATGGAACGTCTCTCAGTTGATTATGGCAAGAAGTCCAAGCTGGAGTTCTCCATTTACCCAGCACCCCAGGTTTCCACAGCTGTAGTTGAGCCCTACAACTCCATCCTCACCACCCACACCACCCTGGAGCACTCTGATTGTGCCTTCATGGTAGACAATGAGGCCATCTATGACATCTGTCGTAGAAACCTCGATATCGAGCGCCCAACCTACACTAACCTTAACCGCCTTATTAGCCAGATTGTGTCCTCCATCACTGCTTCCCTGAGATTTGATGGAGCCCTGAATGTTGACCTGACAGAATTCCAGACCAACCTGGTGCCCTACCCCCGCATCCACTTCCCTCTGGCCACATATGCCCCTGTCATCTCTGCTGAGAAAGCCTACCATGAACAGCTTTCTGTAGCAGAGATCACCAATGCTTGCTTTGAGCCAGCCAACCAGATGGTGAAATGTGACCCTCGCCATGGTAAATACATGGCTTGCTGCCTGTTGTACCGTGGTGACGTGGTTCCCAAAGATGTCAATGCTGCCATTGCCACCATCAAAACCAAGCGCAGCATCCAGTTTGTGGATTGGTGCCCCACTGGCTTCAAGGTTGGCATCAACTACCAGCCTCCCACTGTGGTGCCTGGTGGAGACCTGGCCAAGGTACAGAGAGCTGTGTGCATGCTGAGCAACACCACAGCCATTGCTGAGGCCTGGGCTCGCCTGGACCACAAGTTTGACCTGATGTATGCCAAGCGTGCCTTTGTTCACTGGTACGTGGGTGAGGGGATGGAGGAAGGCGAGTTTTCAGAGGCCCGTGAAGATATGGCTGCCCTTGAGAAGGATTATGAGGAGGTTGGTGTGGATTCTGTTGAAGGAGAGGGTGAGGAAGAAGGAGAGGAATACTAA
[配列番号10]DHFR遺伝子(Escherichia coli)
ATGATCAGTCTGATTGCGGCGTTAGCGGTAGATCGCGTTATCGGCATGGAAAACGCCATGCCGTGGAACCTGCCTGCCGATCTCGCCTGGTTTAAACGCAACACCTTAAATAAACCCGTGATTATGGGCCGCCATACCTGGGAATCAATCGGTCGTCCGTTGCCAGGACGCAAAAATATTATCCTCAGCAGTCAACCGGGTACGGACGATCGCGTAACGTGGGTGAAGTCGGTGGATGAAGCCATCGCGGCGTGTGGTGACGTACCAGAAATCATGGTGATTGGCGGCGGTCGCGTTTATGAACAGTTCTTGCCAAAAGCGCAAAAACTGTATCTGACGCATATCGACGCAGAAGTGGAAGGCGACACCCATTTCCCGGATTACGAGCCGGATGACTGGGAATCGGTATTCAGCGAATTCCACGATGCTGATGCGCAGAACTCTCACAGCTATTGCTTTGAGATTCTGGAGCGGCGGTAA
[配列番号11]Primer DHFR−His_Fw
GAAATTAATACGACTC
[配列番号12]Primer DHFR−His_Rv
ATCCATTTAATTAGTGGTGATGGTGATGATGTCCACCGACTTCACCCACG
[配列番号13]DHFRタンパク質
MISLIAALAVDRVIGMENAMPWNLPADLAWFKRNTLNKPVIMGRHTWESIGRPLPGRKNIILSSQPGTDDRVTWVKSVDEAIAACGDVPEIMVIGGGRVYEQFLPKAQKLYLTHIDAEVEGDTHFPDYEPDDWESVFSEFHDADAQNSHSYCFEILERR
[配列番号14]DHFR−Hisタンパク質
MISLIAALAVDRVIGMENAMPWNLPADLAWFKRNTLNKPVIMGRPYLGINRSSVARTQKYYPQQSTGYGRSRNVGEVGGHHHHHH
[配列番号15]第1のステム部分
CCGCAUUA
[配列番号16]第2のステム部分
UAGUGUGG
[配列番号17]ステムループ構造1
CCGCAUUACCCCCCCCCCCUAGUGUGG
[配列番号18]ステムループ構造2
GCGCAUUACCCCCCCCCCCUAGUGUGC
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明の一態様の1本鎖核酸分子及び組成物は、−1フレームシフトの誘導を通じて、遺伝子の発現を正常化して、遺伝子の異常により発症する遺伝性疾患を予防及び/又は治療するために利用可能である。
【関連出願の相互参照】
【0159】
本出願は、2020年3月11日出願の日本特願2020−041637号の優先権を主張し、その全記載は、ここに開示として援用される。
【要約】
本発明の目的は、アウトオブフレーム変異が生じた遺伝子からも、正常なタンパク質とより近似したアミノ酸配列を有するタンパク質を、その長さが欠失することを抑えた状態で発現することができる、生体に対して安全性のある物質及び該物質を含む組成物を提供することにある。上記目的は、5’末端側から3’末端側への方向に、対象となる遺伝子の標的配列に相補的な第1の配列と、ステムループ構造を形成する第2の配列とを含む1本鎖核酸分子;及び該1本鎖核酸分子を有効成分として含む組成物などにより解決される。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]