特許第6953054号(P6953054)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6953054湿度に敏感な医薬用途物質を安定化する方法及び安定製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6953054
(24)【登録日】2021年10月1日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】湿度に敏感な医薬用途物質を安定化する方法及び安定製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/513 20060101AFI20211018BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20211018BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20211018BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20211018BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   A61K31/513
   A61K9/48
   A61K47/04
   A61K47/38
   A61P35/00
【請求項の数】9
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2021-535258(P2021-535258)
(86)(22)【出願日】2021年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2021013964
【審査請求日】2021年6月17日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311005736
【氏名又は名称】Delta−Fly Pharma株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】江島 清
【審査官】 古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第11/052554(WO,A1)
【文献】 特表2019−524804(JP,A)
【文献】 特表2004−525124(JP,A)
【文献】 AJANI, J. A. et al.,Phase I study of DFP-11207, a novel oral fluoropyrimidine with reasonable AUC and low Cmax and impro,Investigational New Drugs,2020年,Vol.38,pp.1763-1773
【文献】 AJANI, J. A. et al.,Food Effect Study of DFP-11207, a Novel Oral Cancer Chemotherapeutic Agent, in Patients with Solid T,第57回 日本癌治療学会学術集会抄録,2019年,pp.900, IO2-1
【文献】 AJANI, J. A. et al.,Phase I study of DFP-11207, a novel chemotherapeutic agent, in patients with solid tumors by reasona,第14回 日本臨床腫瘍学会学術集会抄録,2016年,pp.1, O3-5-4
【文献】 FUKUSHIMA, M. et al.,Development of new promising antimetabolite, DFP-11207 with self-controlled toxicity in rodents,Drug Design, Development and Therapy,2017年,Vol.11,pp.1693-1705
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
A61K 9/00− 9/72
A61K47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
DFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩、及び吸湿剤を含む、がんを治療するためのカプセル剤。
【請求項2】
吸湿剤がコロイド状二酸化ケイ素、及び微結晶セルロースである、請求項1に記載のカプセル剤。
【請求項3】
DFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩を25〜65重量%、微結晶セルロースを35〜75重量%、及びコロイド状二酸化ケイ素を2〜5重量%の量で含む、請求項1又は2に記載のカプセル剤。
【請求項4】
DFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩を100mg含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のカプセル剤。
【請求項5】
カプセルの被膜基剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のカプセル剤。
【請求項6】
2号カプセル〜00号カプセルの大きさである、請求項1〜5のいずれか一項に記載のカプセル剤。
【請求項7】
乾燥剤と共に容器に収容された形態である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のカプセル剤。
【請求項8】
カプセルにDFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩、及び吸湿剤を充填することを含む、がんを治療するためのカプセル剤の製造方法。
【請求項9】
さらに、製造されたカプセル剤を乾燥剤と共に容器に収容する工程を含む、請求項8に記載の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子内に多数のエステル結合を持っているため、湿度の影響を受け、加水分解され易い医薬用途物質である5−chloro−2−(3−(3−(ethoxymethyl)−5−fluoro−2,6−dioxo−1,2,3,6−tetrahydopy−rimidine−1−carbonyl)benzoyloxy)pyridine−4−yl−2,6−bis(propionyloxy)isonicotinate)(以下、「DFP−11207」と記載)を製剤学的に安定化する方法及び安定化された製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
DFP−11207は5−フルオロウラシル(5−FU)の新規誘導体であり、経口投与用抗がん剤の候補物質である(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2)。5−FUは主に静脈内に1週間持続点滴する方法で臨床応用されている(非特許文献3)。その後ゼローダ(非特許文献4)やティーエスワン(非特許文献5)等の経口剤が臨床応用されるに至った。
【0003】
テーエスワンは5−FU誘導体のテガフール(FT)、生体内のジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼによる代謝分解を阻害するギメラシル(CDHP)、オロテートフォスフォリボシルトランスフェラーゼ活性を阻害するオテラシルカリウム(OXO)の三成分から成る配合剤である。優れた治療効果を示す一方、各成分が腸管壁から個別に吸収されるため、血小板数減少毒性を始めとする骨髄毒性等の副作用の改善余地が残されている。
【0004】
DFP−11207は、5−FU誘導体の1−エトキシメチル−5−フルオロウラシル(EMFU)、ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼによる酵素分解を阻害する5−クロロー2,4−ジヒドロキシピリジン(CDHP)、及びオロテートフォスフォリボシルトランスフェラーゼの活性を阻害するシトラジン酸(CTA)から成る単一の化合物である。
【0005】
がん患者の効果を予測するための動物モデルである担がんヌードラットを用いた実験に於いて、DFP−11207とティーエスワンを、各々経口投与した場合、DFP−11207由来の5−FUの薬物濃度の時間曲線下面積(AUC)は、ティーエスワン由来の5−FUのAUCと同等であったが、DFP−11207由来の5−FUの血液中の最大濃度(Cmax)は、ティーエスワン由来の5−FUのCmaxよりも著しく低かった。一般的に、血液中の5−FUのAUCは5−FUの薬効を反映し易く、血中の5−FUのCmaxは副作用(特に血小板数減少等の骨髄毒性)を反映し易いと言われており、薬物動態学的にDFP−11207は既存薬のティーエスワンと較べて、効果と副作用のバランスに優れた物質であると言える。がん患者での効果を予測するための最適な動物モデルである担がんヌードラットを用いた実験に於いて、DFP−11207とティーエスワンを各々経口投与し、治療効果を比較した結果、DFP−11207がティーエスワンより優れていた(非特許文献1)。大腸がん、胃がん及び膵臓がん等々の固形がんの患者を対象に米国のM.D.アンダーソンがんセンターに於いて実施されたDFP−11207の臨床第1相試験においても高い安全性(下痢等の重篤な消化管毒性がない。血小板数が減少する毒性がない。)が認められた(非特許文献2)。ティーエスワンでは、副作用回復のための一定期間の休薬が必須であるが、DFP−11207では、休薬期間を全く必要とせず、がん患者の体表面積に応じた投与量調整の必要もなかった(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許5008778号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.Fukushima et al.,Drug Design,Development and Therapy(2017):1693−1705
【非特許文献2】J.Ajani et al.,Investigational New Drugs(2020):1763−1773
【非特許文献3】Heidelbelger et al.,Cancer Research(1963):1226−1243
【非特許文献4】H.Ishitsuka et al.,Biochemical Pharmacology(1998):1091−1097
【非特許文献5】M.Fukushima et al.,Cancer Research(1996):2602−2606
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、DFP−11207は、臨床的に優れた抗がん剤候補物質であるが、分子内に多数のエステル結合を持つ物質であるため、湿度に敏感であり(すなわち、湿度により安定性が低下し)、長期の保存が困難となる場合があることを見出した。
【0009】
DFP−11207は5−FUの徐放性物質であるEMFU、5−FUの生体内での代謝分解を抑えるCDHP、及び5−FUによる消化管の重篤な毒性(下痢など)を抑制できるCTAの3種の物質がエステル結合などで結合した単一の化合物であるが、DFP−11207を経口投与した場合、DFP−11207は腸管組織の中でEMFU、CDHP及びCTAに代謝される。EMFUは血液中で5−FUを徐放し、CDHPが血液中での5−FUの代謝分解を阻害するため、5−FUの血液中の濃度を維持されるため、5−FUの抗腫瘍効果が高まる。その一方、CTAの大半は腸管組織内で止まり、5−FU由来の消化管毒性を軽減する。
【0010】
前述の通り、DFP−11207は、分子内に5−FUを徐放する機能性物質(EMFU)、5−FUの分解酵素を阻害する機能性物質(CDHP)、及び5−FUが消化管組織内で引き起こす毒性を軽減する機能性物質(CTA)を合わせ持った高機能性物質であるが、湿度に敏感である。
【0011】
本発明の目的は、湿度に敏感で、高湿度で不安定な物質であるDFP−11207を安定化する方法及び安定化製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、DFP−11207を吸湿剤と共にカプセル剤の形態とすることによって、また、当該カプセル剤を乾燥剤と共に容器に収容することによって、湿度に敏感な物質であるDFP−11207の安定性を高め、室内又は冷蔵庫内にて長期保存できることを見出した。
【0013】
本発明は、これらの新規知見に基づくものであり、以下の発明を包含する。
[1] DFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩、及び吸湿剤を含む、がんを治療するためのカプセル剤。
[2] 吸湿剤がコロイド状二酸化ケイ素、及び微結晶セルロースである、[1]のカプセル剤。
[3] DFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩を25〜65重量%、微結晶セルロースを35〜75重量%、及びコロイド状二酸化ケイ素を2〜5重量%の量で含む、[1]又は[2]のカプセル剤。
[4] DFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩を100mg含む、[1]〜[3]のいずれかのカプセル剤。
[5] カプセルの被膜基剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、[1]〜[4]のいずれかのカプセル剤。
[6] 2号カプセル〜00号カプセルの大きさである、[1]〜[5]のいずれかのカプセル剤。
[7] 乾燥剤と共に容器に収容された形態である、[1]〜[6]のいずれかのカプセル剤。
[8] カプセルにDFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩、及び吸湿剤を充填することを含む、がんを治療するためのカプセル剤の製造方法。
[9] 吸湿剤がコロイド状二酸化ケイ素、及び微結晶セルロースである、[8]の製造方法。
[10] DFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩を25〜65重量%、微結晶セルロースを35〜75重量%、及びコロイド状二酸化ケイ素を2〜5重量%の量で充填することを含む、[8]又は[9]の製造方法。
[11] DFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩を100mgの量で充填することを含む、[8]〜[10]のいずれかの製造方法。
[12] カプセルの被膜基剤が、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む、[8]〜[11]のいずれかの製造方法。
[13] カプセルが2号カプセル〜00号カプセルの大きさである、[8]〜[12]のいずれかの製造方法。
[14] さらに、製造されたカプセル剤を乾燥剤と共に容器に収容する工程を含む、[8]〜[13]のいずれかの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、湿度に敏感で、高湿度で不安定な物質であるDFP−11207を安定化する方法及び安定化製剤を提供することができる。本発明によれば、分子内に5−FUの徐放性機能物質(EMFU)、5−FUの分解酵素阻害機能物質(CDHP)、及び5−FU由来の消化管毒性を抑制する機能物質(CTA)をエステル結合及び活性アミド結合させた高機能物質のDFP−11207は、湿度に対して敏感で、不安定な物質であるため、水の分子の動きを抑止し、湿度に敏感で、不安定な物質のDFP−11207を安定化法について発明し、DFP−11207の製剤の長期間の安定保存や輸送上の課題がない医薬用製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、DFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩、及び吸湿剤を含む、がんを治療するためのカプセル剤に関する。
【0016】
本発明において「DFP−11207」は、下記式1:
【0017】
【化1】
の化学構造式で表される化合物であり、5−FU誘導体の1−エトキシメチル−5−フルオロウラシル(EMFU)、ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼによる酵素分解を阻害する5−クロロー2,4−ジヒドロキシピリジン(CDHP)、及びオロテートフォスフォリボシルトランスフェラーゼの活性を阻害するシトラジン酸(CTA)の各々が、エステル結合と活性アミド結合で連結された化合物である。本発明において「DFP−11207」は、従来公知の手法(例えば、特許5008778号公報、上掲のM.Fukushima et al.,(2017);J.Ajani et al.,(2020)等)に準じて製造されたものを利用してもよいし、あるいは市販のものを利用してもよい。
【0018】
本発明において「その薬学的に許容可能な塩」とは、生体に投与することが許容可能な塩を意味し、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩、炭酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩等)、マグネシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0019】
本発明において「吸湿剤」としては、薬学的に許容可能であり(すなわち、生体に投与することが許容可能であり)、吸湿性を示すものであればよく特に限定されないが、例えば、微結晶セルロース、コロイド状二酸化ケイ素、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシポリメチレン、メチルセルロース、エチルセルロース、デキストラン、カルボキシメチルデンプン、デンプン、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、タルク、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ソーマチン、ポリリン酸ナトリウム、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水リン酸二水素ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等が挙げられ、これらより選択される一又は複数を用いることができる。好ましくは、本発明において「吸湿剤」とは、微結晶セルロース、及び/又はコロイド状二酸化ケイ素を含み、より好ましくは、微結晶セルロース及びコロイド状二酸化ケイ素である。本発明において「吸湿剤」を含めることによって、水分子の動きを低下させることができ、DFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩の湿度に対する安定性を高めることができる。
【0020】
一態様において、本発明のカプセル剤にはDFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩を25〜65重量%、吸湿剤を35〜75重量%の量で含めることができる。
【0021】
また別の態様において、本発明のカプセル剤にはDFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩を25〜65重量%、微結晶セルロースを35〜75重量%、及びコロイド状二酸化ケイ素を2〜5重量%の量で含めることができる。例えば、本発明のカプセル剤にはDFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩を100mg、微結晶セルロースを56.8mg〜292mg、コロイド状二酸化ケイ素を3.2mg〜8mgの量で含めることができる。
【0022】
本発明のカプセル剤には、必要に応じてさらに、医薬の製造において一般的に用いられている、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、安定化剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤、溶解補助剤、懸濁化剤、着色剤、保存剤、防腐剤、抗酸化剤等のその他成分も適宜含めることができる。カプセル剤に充填されるDFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩ならびに吸湿剤はそれらだけで、あるいはこれらその他の成分と共に、粉末、顆粒等の形態とすることができる。
【0023】
本発明において、カプセルの被膜は当該被膜製造において一般的に用いられている一又は複数の基剤を含むか、当該基剤よりなる。このようなカプセル被膜の基剤としては例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、寒天、カラギーナン、アルギン酸、ガティガム、アラビアガム、プルラン、ウェランガム、キサンタンガム、ジェランガム、トラガントガム、ペクチン、グルコマンナン、デンプン、ポリデキストロース、デキストリン、マルトデキストリン、シクロデキストリン、難消化性デキストリン、グアーガム、タラガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、サイリウムシードガム、アマシードガム、ゼラチン、カゼイン、ゼイン、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、パラチニット、キシリトール、マンニトール、ガラクチトール、エリスリトール等が挙げられるが、これらに限定はされない。好ましくは、本発明において、カプセルの被膜はHPMCを含むか、HPMCよりなる。
【0024】
カプセルの大きさは、上記DFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩、及び吸湿剤、必要に応じてその他成分を収容でき、経口投与に適した大きさであればよく、特に限定されないが、例えば日本薬局方カプセル規格の定義にしたがって、000号(基準内容量1g)〜5号(基準内容量0.03g)、好ましくは00号(基準内容量0.5g)〜4号(基準内容量0.06g)、例えば、00号(基準内容量0.5g)〜3号(基準内容量0.12g)、より好ましくは00号(基準内容量0.5g)〜2号(基準内容量0.2g)の大きさである。
【0025】
カプセルは、ハードカプセル、ソフトカプセル、シームレスカプセルのいずれの形態であってもよいが、好ましくはハードカプセルである。カプセルは、有色又は無色、ならびに透明、半透明、又は不透明であり、好ましくは有色の不透明カプセルである。
【0026】
本発明のカプセル剤は、従来公知のカプセル剤の製造方法に従って、製造することができる。すなわち、上記記DFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩、及び吸湿剤、必要に応じてその他成分をカプセルに充填、封入することにより行うことができる。
【0027】
製造されたカプセル剤は、乾燥剤と共に容器に収容された形態とすることができ、その形態で、提供、運搬、販売、保管等することができる。
【0028】
本発明において「容器」とは、「密閉容器」、「気密容器」、「密封容器」(第十七改正日本薬局方通則に定義される)のいずれであってもよいが、好ましくは湿気の侵入を防ぐことが可能な防湿性の容器である。また、容器はチャイルドレジスタント付きの蓋を有することが好ましい。
【0029】
容器は任意の形態とすることができ、例えば、ボトル状容器、バッグ容器、ボックス容器等が挙げられるが、これらに限定はされない。容器は、ガラス、金属、樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)等、防湿性の高い材料より製造されたものを利用することができる。容器は有色又は無色、ならびに透明、半透明、又は不透明であり、好ましくは有色の不透明容器である。容器の容量は特に限定されないが、例えば50〜500mL(典型的には50mL、100mL、150mL、180mL、200mL、250mL、300mL、350mL、400mL、450mL又は500mL)、好ましくは100〜200mLとすることができる。
【0030】
本発明において「乾燥剤」とは、シリカゲル、アルミナゲル、ゼオライト、アルミナ、ボーキサイト、無水硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化リチウム、塩化マグネシウム、石灰、クレー、ゼオライト、タルク、珪藻土、白土、カーボンブラック、高吸水性樹脂、合成樹脂粉末、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、酸化物、塩化物及びリン酸塩等が挙げられ、これらより選択される一又は複数を用いることができる。乾燥剤の形態は特に限定されないが、サシェ、ポーチ、パック等にパッケージ化され、カプセル剤と共に容器に収容することができる。
【0031】
容器に収容される乾燥剤の量は、カプセル剤の量や大きさ、容器の大きさ、形状や材質、ならびに乾燥剤の種類等の要因に応じて適宜調整可能であるが、例えば、容器の容量100mLあたり、0.5g〜10g、例えば、1g〜8g、2g〜5g程度の乾燥剤を含めることができる。一態様において、高密度ポリエチレン製の白色ボトル容器(容量150mL)に、本発明のカプセル剤50個と共に、3gのシリカゲルを収容することができる。
【0032】
本発明のカプセル剤は、DFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩の単体と比べて、高い安定性を有する。特に、本発明のカプセル剤を乾燥剤と共に容器に収容することによって、より高い安定性を得るが可能であり、室温(25℃/湿度50%)又は冷蔵庫(5℃)で保存することができる。特に冷蔵庫内等の低温条件(例えば1〜5℃)下では、長期間(例えば、1か月以上、2か月以上、3か月以上、4か月以上、5か月以上、6か月以上、7か月以上、8か月以上、又は9か月以上、上限は特に限定されないが、84か月以下、72か月以下、60か月以下、48か月以下、36か月以下、24か月以下、18か月以下、又は12か月以下)にわたって高い安定性を有することができる。本発明において「高い安定性を有する」とは、化合物の変性、分解等が少ないか、生じないことを意味し、これは高速液体クロマトグラフィー等の測定手段にて、90%以上、例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の純度を保持できることを指す。
【0033】
本発明のカプセル剤は、がん患者に経口投与にて投与される。投与量は、患者の年齢、体重、状態や、がんの種類や重篤度等の要因に応じて変化し得るが、がんを治療するのに十分な任意の量である。例えば、本発明のカプセル剤は、有効成分であるDFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩の量にして1日あたり50mg〜500mg、好ましくは100mg〜400mg、より好ましくは200mg〜300mgから選択される量を1回又は2〜3回に分けて投与することができ、連日、2〜3日に1回、毎週1回、又は1〜3週に1回の頻度で投与することができる。
【0034】
本発明において「がんを治療する」とは、がんが完全に消失した状態になることを意味するだけでなく、一時的、あるいは永続的に、がんが縮小、又は消失している状態やがんが増悪せず、安定している状態も意味する。例えば、がんの大きさの低下、腫瘍マーカーのレベルの低下、がんに伴う症状改善、全生存期間、無増悪生存期間、生存期間中央値などの尺度の延長などの一つ以上が含まれる。
【0035】
経口投与されたDFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩は、下部消化管組織内で5−FU徐放物質のEMFU、5−FUの分解阻害剤のCDHP及び重篤な下痢などの下部消化管毒性を抑制するCTAに各々代謝され、下部消化管を通過後、EMFUは抗がん活性物質の5−FUを徐放し、CDHPはジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼによる5−FUの酵素分解を阻害し、CTAは下部消化管組織に止まって、当該組織のオロテートフォスフォリボシルトランスフェラーゼの活性を阻害することから、5−FU由来の下部消化管の毒性(重篤な下痢など)を軽減して、5−FUの最大の治療効果を示し、既存の5−FU抗がん剤を凌駕できる。
【0036】
本発明において、治療対象となるがん種は、DFP−11207が、5−FUやティーエスワン、ゼローダと同じ5−FU系の抗がん剤であることから、例えば、大腸がん、胃がん、食道がん、膵臓がん、肝細胞がん、胆嚢がん、胆嚢がん、胆道がん、乳がん、卵巣がん、乳がん、子宮頸がん、子宮体がん、子宮頸がん、頭頚部がん等が挙げられる。また、DFP−11207が、ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)による分解を阻害するCDHPを分子内に持っていることから、DPD活性の強い非小細胞肺がんも治療対象に含めることができる。
【0037】
また、本発明のカプセル剤は、5−FU系の抗がん剤に伴い易い重篤な下痢、白血球数減少、好虫球数減少や血小板数減少などの副作用が少ないことを特徴とする。
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって制限されないものとする。
【実施例】
【0039】
(実施例1)第一処方のDFP−11207の100mgカプセル製剤
表1に、第1処方のDFP−11207の100mgカプセル剤の構成成分、量及び包装形態を示す。
【0040】
第一処方にしたがって、DFP−11207の100mgのカプセル製剤を作製した。2号の大きさのHMPC製の白色で不透明のハードカプセルにDFP−11207を100mg、微結晶セルロースを56.8mg、コロイド状の二酸化ケイ素を3.2mg充填し、50個のカプセル製剤を乾燥用シリカゲル袋(1g入り)が3袋入れた150ccの高密度ポリエチレン(HDPE)製の38mm口径のボトルに入れ、子供では開封できない蓋で閉じ込んだ。
【0041】
【表1】
【0042】
表2に、第一処方のDFP−11207の100mgカプセル製剤の5℃での長期安定性、加速条件(25℃/湿度60%)、過酷条件(30℃/湿度65%)での安定性試験用サンプルの採取時期(分析時間)を示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表3に、第一処方のDFP−11207の100mgカプセル製剤の規格・安定性試験法(外観(白色、灰白色又はクリーム色)と純度(90%〜110%))と試験群の定義を示す。純度については高速液体クロマトグラフィーにより測定した(以後の試験についても、同様である)。
【0045】
【表3】
【0046】
表4−1及び表4−2に、第一処方のDFP−11207の100mgカプセル製剤についての、5℃での長期安定性試験データを示す。
【0047】
なお、以下、「類似物質1」とは下記式2:
【0048】
【化2】
の化学構造式で表される化合物であり、
【0049】
「類似物質2」とは下記式3:
【0050】
【化3】
の化学構造式で表される化合物であり、
【0051】
「不純物1」とは下記式4:
【0052】
【化4】
の化学構造式で表される化合物であり、
【0053】
「不純物2」とは下記式5:
【0054】
【化5】
の化学構造式で表される化合物であり、
【0055】
「不純物3」とは下記式6:
【0056】
【化6】
の化学構造式で表される化合物である。
【0057】
結果に示すとおり、5℃での48ヶ月間の後の純度は、94.8%(90.0〜110.0の規格範囲内)であり、48ヶ月間の安定性が認められた。
【0058】
【表4-1】
【0059】
【表4-2】
【0060】
また、表5に第一処方のDFP−11207の100mgカプセル製剤についての、加速条件(25℃/湿度60%)の元での安定性試験データを示す。
【0061】
結果に示すとおり、6ヶ月間の安定性が認められたものの、9ヶ月間の経過時点及び12ヶ月間の経過時点では、何れも規格値(90%〜110%)を下回り、安定性が認められなかった。
【0062】
【表5】
【0063】
さらに、表6に第一処方のDFP−11207の100mgカプセル製剤についての、過酷条件(30℃/湿度65%)の元での安定性試験のデータを示す。
【0064】
結果に示すとおり、3ヶ月間の安定性が認められたものの、それ以降は安定性が認められなかった。6ヶ月間経過時点では外観も灰白色からやや褐色に変化した。
【0065】
【表6】
【0066】
(実施例2)第二処方のDFP−11207の100mgのカプセル製剤
表7に、第二処方のDFP−11207の100mgのカプセル製剤の構成成分、量及び包装形態を示す。
【0067】
第二処方にしたがって、DFP−11207の100mgのカプセル製剤を作製した。00号のHMPC製の白色で不透明なハードカプセルにDFP−11207を100mg、微結晶セルロースを292.0mg、コロイド状二酸化ケイ素を8.0mg充填し、50個のカプセル製剤を乾燥用シリカゲル袋(1g入り)が3袋入れた150ccの高密度ポリエチレン(HDPE)製の38mmの口径ボトルに入れ、子供では開封できない蓋で閉じ込んだ。
【0068】
【表7】
【0069】
表8に、第二処方のDFP−11207の100mgカプセル製剤の5℃での長期安定性、加速条件(25℃/湿度60%)、過酷条件(30℃/湿度65%)での安定性試験用サンプルの採取時期(分析時間)を示す。
【0070】
【表8】
【0071】
表9に、第二処方のDFP−11207の100mgカプセル製剤の規格・安定性試験法と試験群の定義を示す。
【0072】
【表9】
【0073】
表10に、第二処方のDFP−11207の100mgカプセル製剤についての、5℃での長期安定性試験(実時間での安定性試験)の中途のデータを示す。
【0074】
結果に示すとおり、5℃における9ヶ月間の後の純度は、103.7%(90.0〜110.0の規格範囲内)であり、5℃での長期安定性が予測できた。
【0075】
【表10】
【0076】
また、表11−1及び表11−2に第二処方のDFP−11207の100mgカプセル製剤についての、加速条件(25℃/湿度60%)の元での安定性試験の中途のデータを示す。
【0077】
結果に示すとおり、9ヶ月間以上の長期の安定性が予測できた。第一処方のDFP−11207の100mgカプセル製剤の加速条件下(25℃/湿度60%)での安定期間(6ヶ月間)と比べて、著しい改善が認められた。
【0078】
【表11-1】
【0079】
【表11-2】
【0080】
さらに、表12−1及び表12−2に第二処方のDFP−11207の100mgカプセル製剤についての、過酷条件下(30℃/湿度65%)の安定性試験の中途のデータを示す。
【0081】
結果に示すとおり、少なくても、9ヶ月間以上の安定性が予測できた。第一処方のDFP−11207の100mgカプセル製剤の過酷条件下(30℃/湿度65%)の安定期間(3ヶ月間)と較べて、顕著な改善が認められた。
【0082】
【表12-1】
【0083】
【表12-2】
【0084】
一方、カプセル製剤の形態を有さないDFP−11207原薬の安定性試験の結果を表13に示す。DFP−11207の原薬の加速条件下25℃/湿度60%)において原薬の規格を満たす安定期間は3ヶ月以下であり、DFP−11207のカプセル製剤の第一処方の製剤の加速条件下(25℃/湿度60%)における製剤の規格を満たす安定期間が6ヶ月であり、DFP−11207のカプセル製剤の第二処方の製剤の加速条件下(25℃/湿度60%)における製剤の規格を満たす安定期間が9ヶ月以上であるのと比較して、不安定であった。
【0085】
【表13】
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明により、湿度に敏感であるため、常温常湿での長期間の安定保存が危惧されているDFP−11207の安定保存が、従来は知られていない新たな製剤工夫によって実現できた。これにより、DFP−11207の製品が、医薬品として製造・販売承認された後、医薬品の市場に安定供給できる見通しが付いた。また、がん患者の治療に係る総合病院での長期間保存を可能とし、輸送上の危惧もなくなった。さらに、がん患者の治療に係る総合病院で医師より処方(大抵、がん患者の状態を見ながら、1ヶ月間隔で処方)された処方薬を、がん患者が自宅などで室温(25℃/湿度50%)又は冷蔵庫(5℃)で保存することが可能な優れた安定性を実現した。本発明は、DFP−11207の優れた製品を提供できるため、医薬産業上の有益性が極めて大きい。

【要約】
本発明は、湿度に敏感で、高湿度で不安定な物質であるDFP−11207を安定化する方法及び安定化製剤を提供することを目的とするものであり、DFP−11207又はその薬学的に許容可能な塩、及び吸湿剤を含む、がんを治療するためのカプセル剤を提供する。