【実施例1】
【0013】
[電源装置]
実施例1の電源装置の回路図を
図1に示す。
図1に示す回路は、多段式整流回路であり、コンデンサへの充電と電圧の加算を繰り返すことで昇圧する。多段式整流回路は、抵抗R1〜抵抗R3、コイルL1、電界効果トランジスタの一種であるMOSFET(以下、FETとする)Q1、コンデンサC1〜コンデンサC9、ダイオードD1〜ダイオードD8を備えている。なお、Q1としてトランジスタを用いてもよい。また、Vccは直流電圧であり、例えば24Vである。
【0014】
図1の電源装置において、スイッチング素子であるFETQ1は、インダクタであるコイルL1に直列に接続され、ゲート端子に入力されたパルス信号に応じてオン又はオフすることによりコイルL1を駆動する。また、ダイオードD1とコンデンサC1、ダイオードD2とコンデンサC2等はそれぞれ整流部として機能している。多段整流回路部は、これらの整流部を複数備えた回路であり、コイルL1の両端に接続され、コイルL1に誘起された電圧を増幅する。実施例1の電源装置は、入力電圧(Vcc=24V)から昇圧された出力電圧(出力1)を出力する電源装置である。この電源装置は、所謂、電磁トランス(巻線コイル)や圧電トランス等の部品を用いることなく高電圧を発生する回路である(本実施例においては、トランスレスともいう)。この回路は電源基板の高さを低くする構成として有用である。
【0015】
実施例1の電源装置の動作原理を簡単に説明する。まず、入力1には方形波のパルス信号が入力され、FETQ1がオン/オフされる。FETQ1がオンのとき、コイルL1には電流が流れ磁束エネルギーが充填される。同時にダイオードD1からコンデンサC1へも電流が流れ、コンデンサC1が充電される。このとき、コンデンサC1に充電される電圧は、コイルL1の両端に生じている電圧、つまり直流電圧Vccと略同じ電圧である。次に、FETQ1がオフのとき、コイルL1は自己誘導によりコイルL1の両端にそれまでとは極性が逆で、直流電圧Vccより大きい電圧を発生させる。この電圧とコンデンサC1に充電された電圧とが直列になり加算され、ダイオードD2を経由してコンデンサC2に充電される。以降、ダイオードD2、コンデンサC2よりも右側の回路は全て同じ構造であり、同様の原理を繰り返して電圧を増幅していく。
【0016】
次に、FETQ1のゲート端子に入力されるパルス信号について説明する。
図2に例として、入力1にオン時間が1μsec(マイクロ秒)の方形波を1発入力した場合のFETQ1のドレイン・ソース間電圧Vds(V)の波形とコイルL1に流れる電流Li(A)を示す。横軸はいずれも時間を示す。電圧Vdsは軸の上側が正(高い電圧)であり、電流Liは
図1におけるコイルL1の上向き方向が正となっている。電流Liは、0(A)以上(正)の場合、コイルL1から直流電圧VccやダイオードD1、コンデンサC2方面に電流が流れ、0(A)未満(負)の場合は、コイルL1からFETQ1、コンデンサC1方面に電流が流れる。すなわち、コイルL1からFETQ1に向かって電流が流れるとき、
図2の電流Liは負ということになる。
【0017】
図2に示すように電圧Vdsの波形は、FETQ1をターンオフした直後に最も高いピークを持ち、その後、自由振動しながら減衰していく。FETQ1のターンオフ直後に発生する高電圧は、コイルL1の自己誘導起電力である。多段式整流回路は、一種のピークホールド回路でもあるので、このターンオフ直後の電圧の跳ね上がりが高ければ高いほど、最終的に出力1において出力される電圧は高くなることになる。また、電流Liは、コイルL1に流れる電流であるため、自由振動の位相が電圧Vdsの位相に対して遅れている。
【0018】
[電流Liの波形の位相とパルス信号入力のタイミングとの関係]
ところで、
図2は、入力1に1発のパルス信号を入力した場合の波形であるが、実際は連続発振させないと出力1の高電圧状態を維持できないため、FETQ1のゲート端子には連続するパルス信号(以下、連続パルスともいう)を入力する必要がある。入力1に2発目のパルス信号を入力するタイミングとそのときのコイルLiの状態との関係によって、出力1で得られる電圧が大きく変わることがわかっている。
【0019】
図3(A)は、
図2の電流Liの一部を拡大したグラフである。
図3(A)に示すA〜Dは、それぞれ以下の部分を示しており、電流波形の位相に対応している。以下、A〜Dを、位相A〜位相Dともいう。
A:電流Liの値がA〜Dの中で最も低く、電流の変化がなくなっている点
B:電流Liが正の方向に増加している途中
なお、電流Liの正の方向とは、電流がFETQ1の反対方向(L1からVccへの方向)に向かって増加する方向
C:電流Liの値がA〜Dの中で最も高く、電流の変化がなくなっている点
D:電流Liが負の方向に増加している途中
なお、電流Liの負の方向とは、電流がFETQ1に向かって(L1からQ1への方向)増加する方向
【0020】
ここで、
図1において、抵抗R1の抵抗値を270Ω、抵抗R2の抵抗値を33kΩ、抵抗R3の抵抗値を1.12MΩとする。また、コイルL1のインダクタンスを220μH、コンデンサC1〜C8の容量を4700pF、コンデンサC9の容量を470pFとする。このような値を用いて、1発目のパルス信号が入力された後に、電流Liの波形のどの位相のときに2発目のパルス信号を入力するのがよいかを検討した結果を、
図3(B)、表1に示す。
【0021】
【表1】
【0022】
FETQ1のターンオフ後の電流Liの自由振動に対して、それぞれ位相A〜位相Dのタイミングで2発目のパルス信号を入力すると、
図3(B)のようになる。なお、実際には入力されるパルス信号とFETQ1がオンするタイミングとの間には、FETQ1のゲート容量等の関係で時間差が発生するが、便宜上ここではパルス信号が入力されたタイミングでFETQ1もオンになっていると考える。
【0023】
そして表1は
図3(B)のように2発目のパルス信号を位相A〜位相Dで入力したときに、出力1で観測された電圧の実効値を示した表である。FETQ1のターンオフ直後の最大の跳ね上がりを第1波として、第2波〜第6波の自由振動に対して同じように位相A〜位相Dのそれぞれの位置で次のパルス信号が入力されるように周波数を微調整し、測定を行った。すなわち、第2波の位相A〜位相Dは
図3(B)に示した波形そのものである。表1からわかるように、第2波〜第6波のどの自由振動の波においても、位相Aのタイミングで再度FETQ1をオンするのが最も高い出力電圧を得られることがわかった。
【0024】
これは、FETQ1をONすることは電流Liを負の方向に向かって増加させることであり、FETQ1をONするタイミングにおけるコイル電流が負の最大値に位置している時にONすることでコイル電流をさらに増やすことができるためと考えられる。以上より、最も高い出力電圧を得るためには電流Liの波形の位相AのタイミングでFETQ1を再度オンするのがよい。なおここでは、出力1から最も高い出力電圧を得たい場合に位相Aで2発目のパルス信号を入力すればよいことを説明した。しかし例えば、出力1から低い出力電圧を得たい場合には他の位相で2発目のパルス信号を入力すればよく、2発目のパルス信号を入力するタイミングを位相Aに限定するものではない。
【0025】
[電流Liの自由振動とパルス信号入力のタイミングとの関係]
次に電流Liの自由振動の波形の第2波〜第6波、又はそれ以上のどの波でFETQ1を再度オンするのがよいかを考える。
図1の構成の場合、周波数が高いほど電源回路としての供給能力が高くなる。しかし周波数を高くすると放射ノイズや伝導ノイズが増加する。そのため、発振周波数は、電源回路として必要な供給能力を満足できる最低限の周波数に抑えておくことが望ましい。しかし、発振周波数を低くすると部品のばらつきによる出力電圧のばらつきが大きくなるという課題が発生する。
図3(C)を用いてこの課題について説明を行う。
【0026】
図3(C)は
図2の電流Liの波形に対し、部品の特性がばらついた場合に想定される波形のずれを表したものであり、実線はばらつきがない場合を示し、破線はばらつきがある場合を示す。
図1の回路におけるコイルL1のインダクタンスやコンデンサ、ダイオード等の容量がばらつくと、共振周波数もばらつくことになる。そのため、
図3(C)の実線と破線のように、電流Liの自由振動の位相がずれることになる。なお、
図3(C)では、第6波以降、振動が収束しているが、これは減衰することを説明するためであり、実際の回路においては共振回路内に大きな抵抗成分がない限り、第6波程度で収束することはなく長い時間振動し続ける。
【0027】
図3(C)から、電流Liの自由振動の波の中で、第1波より第4波〜第6波の方が位相のずれが大きいことがわかる。これは、時間が経てば経つほど、それまでの位相のずれが蓄積されてゆくためである。発振周波数を低くするということは、
図3(C)において数字の大きな波、言い換えればFETQ1のターンオフからより長い時間が経過したタイミングにおいて、FETQ1を再度オンするということである。すると発振周波数を低くした場合、位相のずれが大きい波でパルス信号を入力することになるため、電流Liの位相Aのタイミングを狙ったとしても、基板によっては位相Bや位相Dの位置になってしまう可能性がある。
【0028】
[実施例1のパルス信号入力のタイミング]
そのため実施例1では、
図4(A)に示すパルス信号によりFETQ1を駆動する。上述したように、コイルL1に流れる電流の自由振動は、FETQ1のターンオフから時間が経過するほど位相のずれが大きくなる。このため実施例1では、FETQ1には1発目のパルス信号が入力された後、部品のばらつきによる位相のずれが略ない波、例えば、第2波や第3波において2発目のパルス信号が入力される。
図4(A)のt1は1発目のパルス信号の立上りから2発目のパルス信号の立上りまでの時間を示し、t2は2発目のパルス信号の立上りから次の周期の1発目のパルス信号の立上りまでの時間を示す。なお、
図4(A)に示すように、パルス信号がFETQ1に等間隔入力されないため、1発目のパルス信号の立上りから次の周期の1発目のパルス信号の立上りまでの時間を発振周期とする。発振周期はt1とt2との和となる。
図4(A)では、1発目のパルス信号も2発目のパルス信号も、オン時間は例えば1μsec(マイクロ秒)であり、発振周期は20μsec、発振周波数は50kHzとなっている。
【0029】
また、
図4(B)に、1発目、2発目と等間隔(一定の周波数)でパルス信号をFETQ1に入力していた従来の方式を示している。
図4(C)は
図4(A)を
図2と同じように表したグラフである。なお、電流Liは、
図4(A)のようなパルス信号を入力した場合を実線で示し、
図2の電流Liを破線で示している。 FETQ1を駆動するための制御信号として、Nを1以上の整数とし、N回目と(N+1)回目の制御信号の間隔は、FETQ1のターンオフ後に発生するドレイン・ソース間電圧の振動波形について、(N+1)回目以降の振幅の最大値が、N回目のターンオフ直後の最初の振動波形の上昇時における最大値より高くなるような周期である。FETQ1は、FETQ1の最初のターンオフ後のコイルL1の自由振動の波の第2波のタイミングでFETQ1がターンオンするように駆動する。FETQ1のオンタイミングは、コイルL1を流れる電流が、FETQ1をオンした場合に流れる電流の向きと同じ方向に流れているタイミングである。
【0030】
このように本発明では
図4(A)のように1発目と2発目の間隔を短くし、停止する時間を長く採る。すると2発目のパルスがLiの位相が大きくずれる前の波に対して入力されることになるので、等間隔でパルスを入力していた
図4(B)の方式に比べて部品ばらつきによる基板ごとの出力1に現れる電圧のばらつきを小さくすることができる。
【0031】
更に、2発目のパルス信号を入力する際の電流Liの位相のずれが小さいということは、2発目に関してはより正確に狙ったタイミング(例えば位相A)でFETQ1をオンすることができるということである。すなわち、上述したように、
図3における電流Liの波形の位相AでFETQ1が再度オンするような時間にt1を設定すれば、エネルギーの供給効率が上昇し、出力1により高い電圧を出力することができるようになる。このとき、FETQ1のドレイン・ソース間電圧Vdsには、
図4(C)における破線Xが示すように、1発目のパルス信号による電圧の跳ね上がりよりも2発目のパルス信号による電圧の跳ね上がりの方が高く観察される。これは、位相AでFETQ1をオンできたことにより、2発目のパルス信号によるオンが1発目よりも効率が良いためである。なお、t2の時間はこの例の場合、必然的に20μsesから時間t1を引いた値となる。
【0032】
[従来方式と実施例1との比較]
実際に各素子の値は同じ値としたまま、入力1に
図4(A)と
図4(B)のパルス信号を入力した場合に、出力1で観測された出力電圧を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
表2は従来方式(
図4(B))及び実施例1の方式(
図4(A))で、2発目のパルス信号を位相A〜位相Dに入力したときの出力電圧である。入力するパルス信号は基本的に
図4(A)、
図4(B)と同じく、従来方式は10μsec周期、実施例1の方式では2発連続で入力する20μsec周期としているが、各位相での出力電圧を示すため周期はわずかにずらしている。この結果、実施例1の方式で駆動した方がFETQ1の平均オン時間は同じであるにもかかわらず、どの位相で駆動しても従来方式より高い電圧が得られていることがわかる。例えば、従来方式と実施例1とで同じ位相Aでパルス信号を入力した場合でも出力電圧に差が出ている。これは、従来方式の2発目では自由振動が減衰した後の位相Aで入力しているのに対し、実施例1の方式では自由振動の第2波における位相Aに対してパルス信号を入力しているためであると考えられる。
【0035】
また、
図4(B)のような一定の周波数のパルス信号を入力した場合に比べ、実施例1の方式では、単純に周波数が上がったわけではないため、ノイズの点で有利である。具体的には、図
4(
B)では100kHzのみであった周波数成分が、t1とt2に差がついたことにより高い周波数成分(1/t1)と低い周波数成分(1/t2)の2つに分解され、周波数拡散効果が得られる。一般に、駆動周波数を拡散するとノイズのエネルギーが分散されるため、ノイズ低減効果がある。
【0036】
以上説明したように実施例1によれば、簡単で低コストな回路構成で、発振周波数を低下させてノイズを低減しつつ、部品のばらつきによる出力電圧のばらつきを低減させることができる。
【実施例2】
【0037】
実施例1では、
図4(A)のように2発のパルス信号を短い間隔で入力する例を示したが、実際には2発に限定しなくてもよい。電源回路としての供給能力をより高くする必要がある場合には発振周波数を高くしたり、オン時間(1μsec)を拡大する等の方法と共に、実施例1の入力1のパルス信号を2発以上連続して入力する方法もある。
【0038】
例えば、パルス信号を3発連続で入力する場合も基本的な考え方は同じである。
図4(C)において、2発目のパルス信号はそれに伴うFETQ1のオンが、電流Liの自由振動の波形の第2波の位相Aのタイミングで行えるように時間t1を選んだ。3発目のパルス信号を入力するとした場合、2発目のパルス信号に伴いFETQ1がオンした後のターンオフ後に発生する自由振動に対して、同じく第2波の位相Aのタイミングで行えばよい。このように、FETQ1には、N発(N>2)以上のパルス信号が連続して入力され、N−1発目のパルス信号が入力された後FETQ1がターンオフしてからコイルL1に流れる電流の自由振動の第2波の狙ったタイミングでN発目のパルス信号を入力すれば良い。
【0039】
この要領で4発、5発とパルス信号を短い間隔で入力する動作も可能であるが、このように短い間隔で多くの発振を行い長い停止期間を設ける動作は、いわゆる間欠発振の動作(以下、間欠発振動作という)である。間欠発振の動作は、出力電圧のリップルを大きくするおそれがある。また、ノイズの観点から、高い周波数の方がノイズエネルギーも大きいため、短い間隔で多くの発振を行うことによりノイズを増加させるおそれもある。
【0040】
また、間欠発振動作として見た場合の停止中の期間を短くしすぎた場合、出力電圧のばらつきが大きくなるという課題が再び発生する。これを
図5を用いて説明する。
図5は、入力1のパルス信号の波形と電流Liの波形を示すグラフであり、横軸は時間を示し、パルス信号を4発連続して短い間隔で入力した場合の例である。発振区間において4発目のパルス信号が入力され、FETQ1のオンが行われた後の電流Liの波形は、自由振動しながら収束してゆく。
【0041】
ここで、
図5に示すYの時点で、次の周期の発振区間の1発目の入力が行われると仮定する。このときの次の周期の1発目のパルス信号を破線で示し、前の周期の4発目の立下りから次の周期の1発目のパルス信号の立ち上りまでを、破線で示す停止区間とする。もし、電流Liの自由振動が収束する前のYの時点で、再度4発連続の発振区間となった場合、次の発振区間の1発目のパルス信号が入力されFETQ1がオンするタイミングにおける電流Liの波形の位相が、どのようになっているかはわからない。
図3(C)で説明したとおり、電流Liの波形は時間が経つほど位相のずれが大きくなり、電源回路としての供給能力のばらつき要因となる。このため、間欠発振動作としてみた場合、電流Liの自由振動が収束するように、できるだけ停止中の期間は長くした方がよい。 以上、実施例2によれば、簡単で低コストな回路構成で、発振周波数を低下させてノイズを低減しつつ、部品のばらつきによる出力電圧のばらつきを低減させることができる。