(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(1)アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選ばれる少なくとも1種及び樹脂バインダーを含むペースト状組成物を、基材の片面又は両面に付着させて未焼結積層体を形成する工程1、
(2)前記未焼結積層体を直径5〜60mmのロールに通過させてクラックを形成する工程2、及び
(3)前記未焼結積層体を560〜660℃で焼結して焼結積層体とする工程3を有することを特徴とする、
アルミニウム電解コンデンサ用電極材の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルミニウム電解コンデンサ用電極材の加工において、アルミニウム箔にエッチング処理を施すことによりエッチングピットを形成し、その表面積を増大させることが行われている。エッチング処理によりアルミニウム電解コンデンサ用電極材の表面積が大きくなり、静電容量の大きなコンデンサを得ることができる。
【0003】
また、アルミニウム電解コンデンサ用電極材表面に陽極酸化処理を施すことにより、酸化皮膜が形成され、これが誘電体として機能する。このように、表面に使用電圧に応じた種々の電圧で酸化皮膜を形成することにより用途に応じた各種の電解コンデンサ用アルミニウム陽極用電極材(箔)を製造することができる。
【0004】
ところで、エッチング処理に際しては、塩酸中に硫酸、燐酸、硝酸等を含有する塩酸水溶液を使用しなければならず、環境面での負荷が大きい。また、その処理に際しても経済的及び労力的な負担が大きい。加えて、エッチング処理では、エッチングピットの発生が均一にならないことがあり、ピットの合体が起こり易い領域やピットの発生が起こり難い領域が生じ、いわゆるピット規制に関して課題がある。また、微細ピットを多数発生させるとアルミニウム電解コンデンサ用電極材の強度が弱くなるという問題もある。
【0005】
そこで近年では、エッチング処理を行わずにアルミニウム電解コンデンサ用電極材の表面積を増大させる試みが行われている。例えば、特許文献1には、アルミニウム及びアルミニウム合金の少なくとも1種の粉末を含む組成物からなる皮膜を基材に形成し、前記皮膜を焼結させることが提案されている。かかる方法によれば、エッチング処理により得られるピット面積以上の表面積を得ることができ、その結果、静電容量の大きなコンデンサを得ることができる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されるアルミニウム電解コンデンサ用電極材も、強度に関する課題が存在しており、特に陽極酸化処理の際には破断しやすい傾向がある。既述の如く特許文献1に開示されるアルミニウム電解コンデンサ用電極材は、アルミニウム粉末及び/又はアルミニウム合金粉末を含む組成物により構成される皮膜を焼結することにより得られる。ここで、アルミニウム電解コンデンサを製造する際には、アルミニウム陽極箔(材)はセパレータ、陰極箔(材)と共に、非常に小さな径で捲かれることが多い。その捲回に耐えるための特性として、アルミニウム陽極箔を構成するアルミニウム電解コンデンサ用電極材には、高い折曲強度が求められる。
【0007】
アルミニウム電解コンデンサ用電極材の製造に使用されるアルミニウム粉末及び/又はアルミニウム合金粉末の粉末径を大きくすることにより、アルミニウム電解コンデンサ用電極材の折曲強度を高めることは可能である。しかしこの場合、アルミニウム電解コンデンサ用電極材の表面積が小さくなることから、かかるアルミニウム電解コンデンサ用電極材を使用してアルミニウム電解コンデンサを製造した際に、コンデンサの静電容量が小さくなってしまう。逆に、アルミニウム粉末及び/又はアルミニウム合金粉末の粉末径を小さくしてアルミニウム電解コンデンサ用電極材の静電容量を高めると、アルミニウム電解コンデンサ用電極材の折曲強度が不十分となる。
【0008】
そこで、特許文献2では、アルミニウム電解コンデンサ用電極材を形成する際、焼結体にエンボス加工を施して、焼結体の表面粗度を所定内に調整したアルミニウム電解コンデンサ用電極材とすることにより、陽極酸化処理工程において電極材が破断しにくくなることが紹介されている。
【0009】
しかし、かかる方法においても、コンデンサの容量及び製造コストの面で検討の余地がある。特許文献2に開示される製造方法では、エンボス加工工程が必要であり、製造コストの増大を招くという問題がある。更にあまり深くエンボスをしてしまうと静電容量が低下する傾向があるという問題がある。
【0010】
そこで、特許文献3には、アルミニウム電解コンデンサ用電極材を形成する際、アルミニウム箔基材(基材としてのアルミニウム箔)にマンガン(Mn)を添加したものを使用してアルミニウム電解コンデンサ用電極材を製造することにより陽極酸化処理工程において、電極材が破断しにくくなることが紹介されている。
【0011】
しかしながら、陽極酸化処理を行った電極材でコンデンサを製造するには、特許文献3に開示される製造方法でもってしても、捲回工程における電極材及び陽極酸化皮膜の破損を充分に抑制できるとは言い難く、より折曲強度に優れた電極材が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、コンデンサに要求される静電容量を示すことができ、且つ、折曲強度に優れるアルミニウム電解コンデンサ用電極材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アルミニウム電解コンデンサ用電極材の表面にクラックを設けることで、折曲強度に優れた電極材を製造できることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0015】
即ち、本発明は、以下のアルミニウム電解コンデンサ用電極材を提供する。
項1.
基材の片面又は両面に、アルミニウム焼結体からなる焼結体層を有し、
該焼結体層は、複数のクラックを有し、
該クラックの前記焼結体層表面における面積率は1.0%以上であることを特徴とする、アルミニウム電解コンデンサ用電極材。
項2.
前記焼結体層の合計厚さは40〜400μmである、項1に記載の電極材。
項3.
前記基材は、厚さ10〜80μmのアルミニウム箔である、項1又は2に記載の電極材。
項4.
前記焼結体層はアルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んで構成される焼結体である、項1〜3の何れか1項に記載の電極材。
項5.
前記アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の平均粒子径が1〜15μmである、項1〜4の何れか1項に記載の電極材。
項6.
前記焼結体の表面に、さらに陽極酸化皮膜を有する、項1〜3の何れかに記載の電極材。
項7.
(1)アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選ばれる少なくとも1種及び樹脂バインダーを含むペースト状組成物を、基材の片面又は両面に付着させて未焼結積層体を形成する工程1、
(2)前記未焼結積層体を直径5〜60mmのロールに通過させてクラックを形成する工程2、及び
(3)前記未焼結積層体を560〜660℃で焼結して焼結積層体とする工程3を有することを特徴とする、
アルミニウム電解コンデンサ用電極材の製造方法。
項8.
前記アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の平均粒子径D50は1〜15μmである、項7に記載の製造方法。
項9.
前記基材は、厚さ10〜80μmのアルミニウム箔である、項7又は8に記載の製造方法。
項10.
前記工程3の後に、陽極酸化処理工程を有する、項7〜9の何れかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るアルミニウム電解コンデンサ用電極材は、コンデンサに要求される静電容量を示すことができ、且つ、折曲強度に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1.アルミニウム電解コンデンサ用電極材
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電極材(以下、単に「電極材」ともいう。)は、基材の片面又は両面に、アルミニウム焼結体からなる焼結体層を有し、該焼結体層は、複数のクラックを有し、該クラックの前記焼結体層表面における面積率は1.0%以上であることを特徴とする。
【0019】
基材
基材は、アルミニウム電解コンデンサ用電極材の基材として使用されるものであれば、公知のものを広く使用することができる。
【0020】
基材としては、純アルミニウム又はアルミニウム合金のアルミニウム箔を使用することが好ましい。かかるアルミニウム合金は、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)及びホウ素(B)からなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を必要範囲内において添加したアルミニウム合金であってもよいし、上記元素を不可避的不純物元素として含むアルミニウムでもよい。
【0021】
基材の厚さは、強度の確保という理由から、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましい。一方、コンデンサ用電極材とした際の体積あたりの容量を考慮し、80μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましい。
【0022】
また、基材は、後述する焼結体層との密着を強固にするために、その表面が粗面化されていてもよい。
【0023】
焼結体層
本発明の電極材は、基材の片面又は両面に、焼結体層を有する。焼結体層はアルミニウム焼結体により構成され、複数のクラックを有する。複数のクラックは、
図1に示すように、略同一方向に伸びていることが好ましい。
【0024】
焼結体層を構成するアルミニウム焼結体は、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んで構成され、該粉末どうしが空隙を維持しながら焼結しつながることにより三次元網目構造を有している多孔質焼結体であることが好ましい。かかる構造を有することにより焼結体層の表面積が大きくなり、大きな静電容量を有するコンデンサを製造可能な電極材が得られる。
【0025】
アルミニウム焼結体は、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の少なくとも1種を含んで構成されることが好ましい。
【0026】
上記アルミニウム粉末のアルミニウム純度は、99.80質量%以上であることが好ましく、99.85質量%以上であることがより好ましく、99.99質量%以上であることがさらに好ましい。
【0027】
一方、上記アルミニウム合金粉末は、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)等から選ばれる1種以上を含んでもよい。アルミニウム合金中のこれらの元素の含有量は、100質量ppm以下、特に50質量ppm以下とすることが好ましい。
【0028】
上記アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の平均粒子径は、1〜15μmであることが好ましい。尚、本明細書において、アルミニウム焼結体に含まれる前記粉末の平均粒子径は、アルミニウム焼結体の断面を、走査型電子顕微鏡で観察することによって測定・計測して得られるものと定義する。より具体的に説明すると、焼結後の上記粉末は、一部が溶融又は粉末同士が繋がった状態となっているが、略円形状を有する部分は近似的に粒子とみなすことができる。そこで、上記断面観察において、略円形状を有する粒子のそれぞれの最大径(長径)をその粒子の粒子径とし、任意の50個の粒子の粒子径を測定し、これらの算術平均を焼結後の前記粉末の平均粒子径とする。かかる方法により得られる粉末の粒子径は、焼結前の粒子径と比較し、殆ど変化しない。
【0029】
また、クラックの焼結体層表面における面積率は、1.0%以上である。本明細書における「クラックの焼結体層表面における面積率」とは、焼結体層表面を真上から撮影した写真において、焼結体層表面面積中に占める複数のクラックの合計面積の割合を意味する。このように、予め電極材表面にクラックが設けられていることにより、コンデンサ製造時の捲回工程における電極材の破損の可能性が低減される。かかる効果は、クラックの焼結体層表面における面積率(以下、単に「面積率」ともいう。)が1.0%以上であることにより得ることができ、3%以上であるとより好ましく、5%以上であるとさらに好ましい。
【0030】
一方、面積率の上限値としては、加工の簡便性を考慮し、10%以下とすることが好ましい。
【0031】
このように、電極材の捲回工程における破損が回避されることにより、コンデンサの漏れ電流の発生が抑制される。
【0032】
以下、クラックの焼結体層表面における面積率の測定・算出方法について詳細に記載する。
【0033】
撮影は、JEOL社製の走査電子顕微鏡(品番:JSM-5510)で行い、二次電子像、撮影倍率100倍、加速電圧15kV、スポット径20、作動距離20mm、の条件で、焼結体層表面の画像撮影を行う。
【0034】
次いで、三谷商事株式会社製の画像解析ソフトWinROOF2015によりクラックの焼結体層表面における面積率を算出する。具体的には、走査電子顕微鏡で撮影した画像をJPEGイメージ(1280ピクセル×960ピクセル)でソフトに取り込み、コントラストを最大値100に設定する。画像のコントラストを最大にすることで、2つのしきい値による2値化処理で、しきい値(0〜0)から(0〜254)までの2値化される割合が一定となる。その2値化される割合が出来るだけ30%に近くなるように明るさを調整する。以上の2値化(割合30%、透明度125)を行い、空隙に該当する部位を抽出する。ここで、骨格長さ(抽出部位の長軸の長さ)が50μm以下の抽出部位は、クラックに該当しないとして除外する。以上の作業により抽出されたクラックの合計面積を算出し、画像中の焼結体層面積中に占める割合を算出する。かかる作業を、ランダムに選ばれた焼結体層表面の10個の視野で同様に行い、それらの平均値を算出し、クラックの焼結体層表面における面積率を得る。
【0035】
本明細書において、焼結体層の合計厚さとは、焼結体層を基材の片面に設けた場合には、その片面の焼結体層の厚さを指し、焼結体層を基材の両面に設けた場合には、その両面の焼結体層の厚さの合計を指す。
【0036】
焼結体層の合計厚さは、アルミニウム電解コンデンサ電極として用いた際の静電容量を向上させるため、40μm以上であることが好ましく、60μm以上であることがより好ましい。一方、焼結体層の合計厚さは、400μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましい。
【0037】
本明細書において、焼結体層の合計厚さは、ランダムに選ばれる7点の電極材全体の厚さを測定し、最大値と最小値を除いた5点の平均値から基材の厚さを引くことにより、得られる。また、本明細書において、後述する陽極酸化皮膜を設けた場合の焼結体層の厚さは、陽極酸化皮膜を設けない場合と同様の手法により、焼結体層の厚さを得るものと定義する。これは、陽極酸化皮膜の厚さは焼結体層の厚さと比較し、極めて薄い厚さしか有していないためである。
【0038】
陽極酸化皮膜
陽極酸化によって誘電体皮膜を得る。皮膜耐電圧は2〜700V。2Vより低い、また700Vより高い電圧では陽極酸化が困難。皮膜耐電圧の測定方法は日本電子機械工業会規格 RC-2364Aに従う。
【0039】
2.アルミニウム電解コンデンサ用電極材の製造方法
本発明のアルミニウム電解コンデンサ用電極材の製造方法は、
(1)アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選ばれる少なくとも1種及び樹脂バインダーを含むペースト状組成物を、基材の片面又は両面に付着させて未焼結積層体を形成する工程1、
(2)前記未焼結積層体を直径5〜60mmのロールに通過させてクラックを形成する工程2、及び
(3)前記未焼結積層体を560〜660℃で焼結して焼結積層体とする工程3を有することを特徴とする。
【0040】
工程1
工程1では、アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末からなる群より選ばれる少なくとも1種及び樹脂バインダーを含むペースト状組成物を、基材の片面又は両面に付着させて未焼結積層体を形成する。
【0041】
原料のアルミニウムの粉末としては、例えば、アルミニウム純度99.80質量%以上のアルミニウム粉末が好ましく、アルミニウム純度99.85質量%以上のアルミニウム粉末がより好ましく、アルミニウム純度99.99質量%以上のアルミニウム粉末が更に好ましい。また、原料のアルミニウム合金粉末としては、例えば、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)等の元素のうち、1種又は2種以上を含む合金が好ましい。アルミニウム合金中のこれらの元素の含有量は、100質量ppm以下、特に50質量ppm以下とすることが好ましい。
【0042】
アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末は、平均粒子径が1〜15μmのものを用いるのが好ましい。平均粒子径を上記範囲とすることでアルミニウム電解コンデンサの電極材として好適に利用することができる。平均粒子径が15μm以下であると、電解コンデンサの電極材として使用した場合に十分な静電容量を得ることができる。
【0043】
なお、本明細書において、焼結前のアルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の平均粒子径は、レーザー回折法により粒度分布を体積基準で測定して求めたD50値であると定義する。
【0044】
アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末の形状は、特に限定されず、球状、不定形状、鱗片状、繊維状等のいずれも好適に使用できるが、工業的生産には球状粒子からなる粉末が特に好ましい。
【0045】
アルミニウム粉末及びアルミニウム合金粉末は、公知の方法によって製造されるものを使用することができる。例えば、アトマイズ法、メルトスピニング法、回転円盤法、回転電極法、急冷凝固法等が挙げられるが、工業的生産にはアトマイズ法、特にガスアトマイズ法が好ましい。すなわち、溶湯をアトマイズすることにより得られる粉末を用いることが望ましい。
【0046】
樹脂バインダーについては、公知のものを広く採用することができる。特に限定はなく、例えば、カルボキシ変性ポリオレフィン樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩酢ビ共重合樹脂、ビニルアルコール樹脂、ブチラール樹脂、フッ化ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、アクリロニトリル樹脂、セルロース樹脂、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス等の合成樹脂、並びに、ワックス、タール、にかわ、ウルシ、松脂、ミツロウ等の天然樹脂又はワックスが好適に使用できる。これらの樹脂バインダーは、分子量、樹脂の種類等により、加熱時に揮発するものと、熱分解によりその残渣がアルミニウム粉末とともに残存するものとがあり、所望の静電容量等の電気特性に応じて使い分けることができる。
【0047】
ペースト状組成物中の樹脂バインダーの含有量は、ペースト状組成物100質量%中に0.5〜10質量%とすることが好ましく、0.75〜5質量%とすることがより好ましい。ペースト状組成物中の樹脂バインダー量が0.5質量%以上であることにより、基材と未焼結積層体との密着強度を向上できるという効果が得られる。一方、樹脂バインダー量が10質量%以下であることにより、焼結工程において脱脂しやすく、樹脂バインダーが残留する事によって発生する不具合を防止できる。
【0048】
その他、必要に応じて適宜、ペースト状組成物中には溶剤、焼結助剤、界面活性剤等が含まれていてもよい。これらはいずれも公知又は市販のものを使用することができる。これにより効率よく皮膜を形成することができる。
【0049】
溶剤としては、公知の溶剤を広く採用することが可能である。特に限定はなく、例えば、水のほか、トルエン、アルコール類、ケトン類、エステル類等の有機溶剤を使用することができる。
【0050】
焼結助剤としても、公知の焼結助剤を広く使用することができる。特に限定はなく、例えば、アルミニウムフッ化物、カリウムフッ化物、カルシウムフッ化物等を使用することができる。
【0051】
界面活性剤としても、公知の界面活性剤を広く使用することが可能である。特に限定はなく、例えば、ベタイン系、スルホベタイン系、アルキルベタイン系等の界面活性剤を使用することができる。
【0052】
上記のペースト状組成物を、基材の片面または両面に付着させて未焼結積層体を形成するに際し、未焼結積層体の合計の厚さは、40〜400μmとすることが好ましく、60〜200μmとすることがより好ましく、80〜150μmとすることがさらに好ましい。かかる数値範囲とすることにより、コンデンサ用電極材とした際に、電極材の折曲強度を向上させることができるとともに、かかる電極材を使用して製造したコンデンサの静電容量も向上させることができる。
【0053】
基材上に皮膜を形成する形成方法としては特に限定されず、ペースト状組成物を、例えばローラー、刷毛、スプレー、ディッピング等の塗布方法を用いて形成できるほか、シルクスクリーン印刷等の公知の印刷方法により形成することもできる。
【0054】
また、必要に応じて、基材上に付着させた未焼結積層体を、基材と共に20〜300℃の範囲内の温度で1〜30分間乾燥させることも好ましい。
【0055】
工程2
工程2では、工程1で得られた未焼結積層体を、直径5〜60mmのロールに通過させて、未焼結積層体の表面にクラックを発生させる。
【0056】
直径5〜60mmのロールに通過させるという工程を採用することにより、未焼結積層体の表面に、効率的にクラックを形成することが可能となる。未焼結積層体をロールに通過させる際の抱き角としてはクラックを形成しやすくするために、45度以上とすることが好ましく、90度以上とすることがより好ましい。上記抱き角の上限値としては、シワの発生を抑えるべく、180度以下とすることが好ましく、160度以下とすることがより好ましい。
【0057】
工程3
工程3は、未焼結積層体を、560〜660℃で焼結して焼結積層体を形成する工程である。
【0058】
工程3により、未焼結積層体内の、アルミニウム粉末が焼結され、クラックを有する焼結積層体が形成される。焼結の際の加熱温度が560℃未満であると、焼結が進まず所望の静電容量が得られない。加熱温度が660℃を超えても、粉末が溶融して、電解コンデンサの電極材として使用した場合に十分な容量が得られない。尚、焼結温度は、570〜650℃がより好ましく、580〜620℃がさらに好ましい。
【0059】
焼結時間は焼結温度等にも影響されるが、通常は5〜24時間程度の範囲内で適宜決定することができる。焼結雰囲気は、特に制限されず、例えば真空雰囲気、不活性ガス雰囲気、酸化性ガス雰囲気(大気)、還元性雰囲気等のいずれであってもよいが、特に真空雰囲気又は還元性雰囲気とすることが好ましい。また、圧力条件についても、常圧、減圧又は加圧のいずれでもよい。
【0060】
陽極酸化処理工程
工程3の後に、陽極酸化処理工程を有するのも好ましい実施態様である。陽極酸化処理を実施することにより、焼結体の表面に酸化皮膜が形成され、これが誘電体として機能することでアルミニウム電解コンデンサ電極として有用に用いることができる。
【0061】
陽極酸化処理条件は特に限定されないが、通常は濃度0.01モル以上5モル以下、温度30℃以上100℃以下のホウ酸水溶液またはアジピン酸アンモニウム水溶液中で、10mA/cm
2以上400mA/cm
2以下の電流を5分以上印加すればよい。上記のような陽極酸化処理は、製造ライン下においては、通常、一又は複数のロールによってアルミニウム電解コンデンサ用電極材を送りつつ行われる。
【0062】
また、上記陽極酸化処理工程における電圧に関しては、2〜700Vから選択されることが好ましい。アルミニウム電解コンデンサ電極として用いられた際のアルミニウム電解コンデンサの動作電圧に応じた処理電圧にするのが好ましい
【0063】
本発明の電極材の製造方法によれば、エッチング処理を行わずして、優れた電極材を得ることができる。エッチング工程を含まないことにより、エッチングに用いる塩酸等の処理が不要となり、環境上、経済上の負担がより一層低減される。
【0064】
電解コンデンサの製造方法
本発明の電極材を用いて、電解コンデンサを製造することができる。上記電解コンデンサを製造する方法としては、例えば、本発明の電極材を陽極箔として用い、当該陽極箔と、陰極箔とをセパレータを介在させて積層し、捲回してコンデンサ素子を形成する。当該コンデンサ素子を電解液に含浸させ、電解液を含んだコンデンサ素子を外装ケースに収納し、封口体で外装ケースを封口することによって、電解コンデンサを製造する方法が挙げられる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0066】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
エチルセルロース系バインダー樹脂を、溶剤としての酢酸ブチルに5質量%となるように加えて樹脂バインダー溶液を得た。得られた樹脂バインダー溶液60質量部に対し、平均粒子径が3μmのアルミニウム粉末(東洋アルミニウム株式会社製、JIS A1080)100質量部を加え、混合してペースト状組成物を得た。得られたペースト状組成物を、厚みが30μmのアルミニウム箔の両面にコンマコーターを用いて塗工して50μmの厚さでアルミニウム箔の両面に付着させ、次いで100℃で1.5分間乾燥させ、未焼結積層体を得た。尚、アルミニウム粉末の平均粒径は、マイクロトラックMT3300EXII(日機装株式会社製)を使用し、レーザー解析法により粒度分布を体積基準で測定し、D50値を算出した。
【0068】
得られた未焼結積層体を、直径5mmのロールに抱き角150度で通過させた。その後、アルゴンガス雰囲気中、600℃で10時間焼結して焼結積層体とし、電極材を得た。焼結後の積層体の厚みを測定したところ、焼結前の積層体の厚みと変化はなかった。
【0069】
得られた電極材を、さらに所定の電圧で陽極酸化処理を施した。陽極酸化処理は、化成電圧550Vで日本電子機械工業会規格 RC-2364Aに従い行った。
【0070】
(実施例2−4及び比較例1−2)
製造時に使用するロールの直径を表1のように設定し、実施例2〜4及び比較例1の電極材を得た。未焼結積層体がロールを通過する際の抱き角については、実施例1と同じに設定した。また、未焼結積層体をロールに通過させる処理を行わなかった比較例2も準備した。これらの各実施例及び比較例についても、陽極酸化処理を施した。
【0071】
【表1】
【0072】
(実施例5−8及び比較例3−4)
下記表2の条件で電極材を製造した。尚、陽極酸化処理は化成電圧700Vとし、日本電子機械工業会規格RC-2364Aに準拠して実施した。
【0073】
【表2】
【0074】
(実施例9−12及び比較例5−6)
下記表3の条件で電極材を製造した。尚、陽極酸化処理は化成電圧2Vとし、日本電子機械工業会規格RC-2364Aに準拠して実施した。
【0075】
【表3】
【0076】
(実施例13−16及び比較例7)
下記表4の条件で電極材を製造した。尚、陽極酸化処理は化成電圧50Vとし、日本電子機械工業会規格RC-2364Aに準拠して実施した。
【0077】
【表4】
【0078】
(実施例18−22及び比較例8)
下記表5の条件で電極材を製造した。尚、陽極酸化処理は化成電圧350Vとし、日本電子機械工業会規格RC-2364Aに準拠して実施した。
【0079】
【表5】
【0080】
(静電容量評価試験)
日本電子機械工業会規格RC-2364Aに準拠し、各実施例及び比較例の電極材を使用した際の静電容量評価試験を実施した。
【0081】
(折曲強度評価試験)
化成処理後の電極材の折り曲げ強度を、日本電子機械工業会規定のMIT型自動折り曲げ試験法(日本電子機械工業会規格RC-2364A)に従って測定した。MIT型自動折り曲げ試験装置はJIS P8115で規定された装置を使用し、折り曲げ回数は、各電極材が破断する折り曲げ回数とし、
図2に示すように90°曲げて1回、元に戻して2回、反対方向に90°曲げて3回、元に戻して4回と数え、5回目以降は、1〜4回目と同様に折り曲げ操作を、電極材が破断するまで繰り返した。尚、表1〜5における「折曲強度」の欄には、上記操作を行い、電極材が破断するまでに繰り返した折り曲げ操作の回数を示す。
【0082】
(折曲強度評価試験結果)
表1〜5に示されるように、各実施例の電極材は、対応する比較例の電極材と比べ、コンデンサに要求される静電容量を示すことができ、且つ、優れた折曲強度を有することが確認された。