特許第6953275号(P6953275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6953275
(24)【登録日】2021年10月1日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】鍛造用金型
(51)【国際特許分類】
   B21J 13/02 20060101AFI20211018BHJP
   B21J 5/02 20060101ALI20211018BHJP
   B21K 1/42 20060101ALI20211018BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20211018BHJP
   F16H 55/52 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   B21J13/02 A
   B21J5/02 A
   B21K1/42
   B21J5/00 A
   F16H55/52
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-207203(P2017-207203)
(22)【出願日】2017年10月26日
(65)【公開番号】特開2019-76943(P2019-76943A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2020年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 駿介
(72)【発明者】
【氏名】權 寧照
【審査官】 永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−301605(JP,A)
【文献】 特開昭58−167049(JP,A)
【文献】 特開2007−268593(JP,A)
【文献】 特許第3300511(JP,B2)
【文献】 特開平05−187521(JP,A)
【文献】 特開2012−207247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 13/02
B21J 5/02
B21K 1/42
B21J 5/00
F16H 55/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部と、前記軸部の径方向外方に延設された円錐状のプーリ部と、前記プーリ部の外周部近傍において前記プーリ部の円錐の底面から前記軸部の軸方向に沿って突設された環状のパーキングギヤとが一体的に鍛造成型されるベルト式無段変速機のプーリシャフトを製造するための鍛造用金型であって、
上型と下型とで形成されるキャビティが、前記プーリシャフトを成型する賦形部と、前記賦形部の前記プーリ部外周縁に対応する周縁部から前記プーリ部の径方向外方に向かって延設されて余肉を流出させる逃し空間とを備え、
前記逃し空間が、前記パーキングギヤの歯先部の前記径方向外方に形成される第一空間と、前記パーキングギヤの歯底部の前記径方向外方に形成される第二空間とを有し、
前記第一空間における余肉の流通抵抗が前記第二空間における余肉の流通抵抗よりも大きく設定されている
ことを特徴とする鍛造用金型。
【請求項2】
前記第一空間における余肉の流通面積を、前記第二空間における余肉の流通面積よりも小さく設定した
ことを特徴とする請求項1に記載の鍛造用金型。
【請求項3】
前記第一空間における前記上型の型面と前記下型の型面との距離を、前記第二空間における前記上型の型面と前記下型の型面との距離よりも小さく設定した
ことを特徴とする請求項2に記載の鍛造用金型。
【請求項4】
材料としてケイ素(Si)含有量が0.8〜1.0質量%の高Si鋼を用い、前記材料の加熱温度が熱間鍛造と温間鍛造の中間となる亜熱間鍛造に用いる温度である
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の鍛造用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベルト式無段変速機(以下、CVTという)の固定プーリを構成するプーリシャフトの製造に用いる鍛造用金型に関するものであり、特に、シーブの背面(シーブ面と反対側の面)に、プーリの外径よりもやや小径のパーキングギヤがプーリと一体的に形成されるプーリシャフトの製造に好適な鍛造用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるCVTにはパーキング機構の装備が必須であるが、このパーキング機構を構成するパーキングギヤを、固定プーリ(プーリシャフト)のシーブ面の背面側に一体的に付設することが知られている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−254084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなプーリシャフトを鍛造により製造する場合、ケイ素(Si)の含有量が0.2質量%程度の鋼材を用いるのが一般的であるが、この場合にはシーブ面の耐久性を向上させるため、後工程においてマイクロショットブラスト処理を施す必要があった。しかしながら、マイクロショットブラスト処理に用いるショット玉が完全に除去されずに少量でも残留してしまうと、このショット玉が夾雑物(コンタミ)となって、製品としてのCVTに油振等の不具合を発生させるおそれがあった。
【0005】
そこで、近年、プーリシャフト(特に、シーブ面)の耐久性の向上を図ると共に、マイクロショットブラスト処理工程を廃止すべく、材料としてケイ素含有量が0.8〜1.0質量%の高Si鋼を用いることが検討されている。
【0006】
上記高Si鋼を用いて通常の熱間鍛造(加熱温度1250℃前後)を行うと、硬度の高い酸化スケールが発生し、金型の摩耗が短期間で進んでしまうため、硬度の高い酸化スケールの発生を抑制して型の寿命確保するためには、通常よりも加熱温度の低い亜熱間鍛造(加熱温度1120℃〜1160℃)で製造する必要があることが出願人等の検証により判明している。
【0007】
しかしながら、亜熱間鍛造では、加熱によるワークの硬度低下が十分でなく、金型内における材料の流動性が低下するため、型全体に材料が行き渡らず、特に、上記パーキングギヤ部(パーキングギヤを形成するために設けられた金型の溝部)に材料が充満されず、欠品となるおそれがある。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、プーリシャフトの鍛造による製作において、高Si鋼を利用して亜熱間鍛造を行っても、金型内全体に、特にパーキングギヤ部に、材料を充分に充満させることのできる鍛造用金型を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するために、本発明の鍛造用金型は、軸部と、前記軸部の径方向外方に延設された円錐状のプーリ部と、前記プーリ部の外周部近傍において前記プーリ部の円錐の底面から前記軸部の軸方向に沿って突設された環状のパーキングギヤとが一体的に鍛造成型されるベルト式無段変速機のプーリシャフトを製造するための鍛造用金型であって、上型と下型とで形成されるキャビティが、前記プーリシャフトを成型する賦形部と、前記賦形部の前記プーリ部外周縁に対応する周縁部から前記プーリ部の径方向外方に向かって延設されて余肉を流出させる逃し空間とを備え、前記逃し空間が、前記パーキングギヤの歯先部の前記径方向外方に形成される第一空間と、前記パーキングギヤの歯底部の前記径方向外方に形成される第二空間とを有し、前記第一空間における余肉の流通抵抗が前記第二空間における余肉の流通抵抗よりも大きく設定されていることを特徴とする。
【0010】
(2)前記第一空間における余肉の流通面積を、前記第二空間における余肉の流通面積よりも小さく設定することが好ましい。
(3)前記第一空間における前記上型の型面と前記下型の型面との距離を、前記第二空間における前記上型の型面と前記下型の型面との距離よりも小さく設定することが好ましい。
【0011】
(4)また、材料としてケイ素(Si)含有量が0.8〜1.0質量%の高Si鋼を用い、前記材料の加熱温度が熱間鍛造と温間鍛造の中間となる亜熱間鍛造に用いる温度であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、賦形部のプーリ部外周縁に対応する周縁部からプーリ部の径方向外方に向かって延設されて余肉を流出させる逃し空間おいて、パーキングギヤの歯先部の径方向外方に形成される第一空間の流通抵抗を、パーキングギヤの歯底部の径方向外方に形成される第二空間の流通抵抗よりも大きくしたので、パーキングギヤの歯先部を形成する金型の溝部近傍における材料の逃し空間への流出がより抑制され、前記溝部への材料の流入が確保されて、製品として重要な要素であるパーキングギヤの歯先部の欠肉が防止でき、欠品の発生を低減できる。
【0013】
また、本発明によれば、第一空間における余肉の流通面積を、第二空間における余肉の流通面積よりも小さく設定することにより流通抵抗の差を形成するので、金型の形状を簡単なものにすることができ、さらに、第一空間における上型の型面と下型の型面との距離を、第二空間における上型の型面と下型の型面との距離よりも小さく設定することにより流通抵抗の差を形成するので、金型の形状をより簡単なものにすることができる。
【0014】
また、高Si鋼を材料として亜熱間鍛造で製造することにより、素材のパーキングギヤ部(特に、歯先部)への充満を達成させた上で製品の耐久性を向上させることができ、さらに後工程でのマイクロショットブラスト処理も省略することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ワークに対する鍛造加工の工程を示す説明図であり、(a)は第一工程、(b)は第二工程、(c)は第三工程、(d)は第四工程をそれぞれ示している。
図2】本発明の一実施形態に係る鍛造用金型の概要を示す一部省略断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る鍛造用金型で成形されたプーリシャフトのパーキングギヤ側から視た平面図である。
図4図3のA−A線に沿う矢視断面図である。
図5図3のB−B線に沿う矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。
【0017】
図1を参照して、ワークを加工してプーリシャフトを製造する工程を説明する。
まず、鍛造加工を実施する前工程として、高Si鋼を材料とする図示しない円柱状のワークを1120℃〜1160℃(亜熱間鍛造)に加熱する。
その後、加熱された円柱状ワークに第一工程の鍛造加工を実施して、図1(a)に示す短い軸11aを備えた第一ワーク10aを形成する。
【0018】
次に、第一ワーク10aに第二工程の鍛造加工を実施して、図1(b)に示す長い軸11bを備えた第二ワーク10bを形成する。
【0019】
次に、第二ワーク10bに第三工程の鍛造加工を実施して、図1(c)に示す長い軸11cとほぼ球形のプーリ準備部12cとを備えた第三ワーク10cを形成する。
【0020】
さらに、第三ワーク10cを、図2に示す本実施形態に係る鍛造用金型(以下、単に金型という)100にセットし、第四工程の鍛造加工を実施して、図1(d)に示す軸部11dとプーリ部12dとパーキングギヤ13dとを備えた第四ワーク10dを形成する。
【0021】
前記第四ワーク10dには、金型100の逃し空間(後述)に材料(余肉)が流出することにより形成されたバリ14dが残存している。このバリ14dを後工程で切離することにより、最終的な製品形状を持つプーリシャフト10が得られる。
【0022】
図2は、前記第四工程を実施するための金型100の一部省略断面図である。
従来周知のように、本来、鍛造用金型は複数の部品から構成されており、また金型を駆動するための駆動装置やワークを金型から排出するためのノックアウトピン等が配設されているのが通例であるが、図2では金型100のキャビティ102の形状を明確化するため、一般的に周知の構成は省略している。
【0023】
金型100の上型104と下型106で形成されるキャビティ102は、プーリシャフト10の本体部分(余肉を除く部分)を形成する賦形部110と、同賦形部110の周縁部から延設されて材料の余肉を流出させる逃し空間120を備えている。
図2の2本の一点鎖線C,D(プーリ部12dの外周縁に相当する位置)の間が賦形部110であり、その外側が逃し空間120である。
【0024】
賦形部110には、プーリシャフト10の形状に合わせて、前記軸部11dを形成する軸形成部111と、前記プーリ部12dを形成するプーリ形成部112と、前記パーキングギヤ13dを形成するギヤ溝部113とが形成されている。
逃し空間120は、プーリ形成部112の外周縁(一点鎖線C,Dの位置)からプーリ部112(賦形部110)内に連通して延設されている。
【0025】
図3は、プーリシャフト10をパーキングギヤ13d側から視た平面図であり、前記逃し空間120の一部を二点鎖線で示している。
図3から明白なように、パーキングギヤ13dはプーリ部12dよりもやや小径の環状体で構成されており、側面131dが図示しないパーキングポールに係合する複数の歯先部132dと、各歯先部132d間の複数の歯底部133dとが形成されている。
【0026】
前記逃し空間120は、前記歯先部132dの延長上(歯先部132dの径方向外方)に形成された第一空間120aと、前記歯底部133dの延長上(歯先部133dの径方向外方)に形成された第二空間120bとを備えている。
【0027】
そして、図4図5に示すように、第一空間120aにおける上型104の型面104aと下型106の型面106aとの間隔(距離)Daが、第二空間120bにおける上型104の型面104aと下型106の型面106aとの間隔(距離)Dbよりも小さく設定されており、これにより第一空間120aにおける余肉の流通抵抗が第二空間120bにおける余肉の流通抵抗より大きくなる。なお、図5に示す二点鎖線は図4に示す歯先部132dの断面輪郭を示している。
【0028】
本鍛造用金型は、上記のように構成されており、歯先部132dの径方向外方に形成される第一空間120aにおける余肉の流通抵抗を他部(第二空間120b)よりも大きくしたので、高Si鋼を材料として亜熱間鍛造で材料の流動性が低下する状況下でプーリシャフトを製造しても、歯先部132dを形成するためのギヤ溝部113に材料を充満させることができ、欠品の発生を抑制できる。
【0029】
また、第二空間120bにおける余肉の流通抵抗を小さくしたので、金型100の成型荷重の上昇を抑制でき、金型100の寿命を確保できる。
【0030】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態を適宜変形して実施することができる。
例えば、上記実施形態では、第一及び第二空間120a,120bにおける金型100の型面104a,106a間の距離を変更することにより余肉の流通抵抗に差を設ける構成としたが、型面104a,106a間の距離を同一として第一空間120aにおける型面104a,106aから突起等を突設することにより余肉の流通面積を小さくする(流通抵抗を大きくする)ことでも上記実施形態と同等の効果を得ることが可能である。
【0031】
また、本実施形態では、鍛造成型する材料としてケイ素(Si)含有量が0.8〜1.0質量%の高Si鋼を用いているが、鍛造成型の材料はこれに限定されるものではなく、種々の金属材料に適用しうる。
また、本鍛造用金型は、実施形態で例示したように、材料の加熱温度が熱間鍛造と温間鍛造の中間となる亜熱間鍛造に好適ではあるが、亜熱間鍛造に限定されるものではなく、他の鍛造技術に適用してもよい。
【符号の説明】
【0032】
10 プーリシャフト
11d 軸部
12d プーリ部
13d パーキングギヤ
14d バリ(余肉)
100 金型
104 上型
104a 型面
106 下型
106a 型面
110 賦形部
120 逃し空間
120a 第一空間
120b 第二空間
Da 第一空間120aにおける型面距離
Db 第二空間120bにおける型面距離
図1
図2
図3
図4
図5