(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6953306
(24)【登録日】2021年10月1日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】エネルギー蓄積装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01G 4/33 20060101AFI20211018BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
H01G4/33 102
H01G4/30 541
H01G4/30 544
H01G4/30 547
【請求項の数】12
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-512655(P2017-512655)
(86)(22)【出願日】2015年5月12日
(65)【公表番号】特表2017-519374(P2017-519374A)
(43)【公表日】2017年7月13日
(86)【国際出願番号】US2015030415
(87)【国際公開番号】WO2015175558
(87)【国際公開日】20151119
【審査請求日】2018年5月11日
【審判番号】不服2020-6202(P2020-6202/J1)
【審判請求日】2020年5月7日
(31)【優先権主張番号】61/991,861
(32)【優先日】2014年5月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516341947
【氏名又は名称】キャパシター サイエンシズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CAPACITOR SCIENCES INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ラザレフ、パヴェル イワン
【合議体】
【審判長】
酒井 朋広
【審判官】
井上 信一
【審判官】
山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−523384(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0110015(US,A1)
【文献】
特開2005−509283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H01G 4/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、
第2の電極と、
第1の電極と第2の電極との間に配置された固体多層構造体とを備え、
これら複数の電極は平坦かつ平面状であり、かつ互いに平行に配置され、
前記固体多層構造体は
少なくとも2つの絶縁層と
少なくとも1つの導電層とを備え、
これら複数の層は、前記電極と平行に配置され、
前記複数の層はA-B-(A-B-…A-B-)Aという並び順を有し、ここで、Aは絶縁誘電材料を含む均質な絶縁層であり、Bは均質な導電層であり
、
絶縁層の厚さ(d
ins)、導電層の厚さ(d
cond)、絶縁層の数(n
ins≧2)、絶縁誘電材料の誘電率(ε
ins)、及び導電層の誘電率(ε
cond)は、以下の関係:d
cond = p×(n
ins/(n
ins-1)
)×(ε
cond/ε
ins)×d
insを満たし、ただし、pは3以上であり、
前記導電層は、以下の構造式50〜56のうちから選択される導電性オリゴマーを含み、ただし、Xは2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12であることを特徴とするエネルギー蓄積装置。
【表1】
【請求項2】
前記絶縁層は結晶質である、請求項1に記載のエネルギー蓄積装置。
【請求項3】
前記絶縁層は一般構造式I:
{Cor}(M)n (I)
で表される修飾有機化合物を含み、ここで、Corは共役π系を有する多環式有機化合物であり、Mは修飾官能基であり、nは修飾官能基の個数であり、ただし、nは1以上である、請求項1に記載のエネルギー蓄積装置。
【請求項4】
前記多環式有機化合物は、オリゴフェニル、イミダゾール、ピラゾール、アセナフテン、トリアジン、インダントロンからなる群から選択され、かつ以下の構造1〜43からなる群から選択される一般構造式を有する、請求項3に記載のエネルギー蓄積装置。
【表2】
【請求項5】
前記修飾官能基は、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項3に記載のエネルギー蓄積装置。
【請求項6】
前記絶縁層は、以下の構造44〜49から選択される構成単位で形成されたポリマー材料を含有する、請求項1に記載のエネルギー蓄積装置。
【表3】
【請求項7】
前記導電層は結晶質である、請求項1に記載のエネルギー蓄積装置。
【請求項8】
前記導電性オリゴマーの長手軸は、前記複数の電極に対して大体に垂直あるいは平行に向いている、請求項1に記載のエネルギー蓄積装置。
【請求項9】
前記導電性オリゴマーは複数の置換基を更に有し、かつ以下の一般構造式II:
(導電性オリゴマー)--Rq (II)
で表され、ここで、Rqは一組の置換基であり、qは前記Rqの組における置換基Rの個数であり、qは1、2、3、4、5、6、7、8、9、あるいは10である、請求項1に記載のエネルギー蓄積装置。
【請求項10】
前記複数の置換基Rは、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、及びそれらの組合せからなる群から個別に選ばれる、請求項9に記載のエネルギー蓄積装置。
【請求項11】
前記複数の電極は銅を含み、前記絶縁誘電材料Aはポリエチレンを含み、前記均質な導電層Bはポリアニリン(PANI)を含み、絶縁層の厚さdinsは25nmであり、導電層の厚さdcondは50μmであり、破壊電圧Vbdはおよそ2ボルトであるか、あるいは、
前記複数の電極は銅を含み、前記絶縁誘電材料Aはポリエチレンを含み、前記均質な導電層Bはポリアニリン(PANI)を含み、絶縁層の厚さdinsは25nmであり、導電層の厚さdcondは50μmであり、破壊電圧Vbdはおよそ4ボルトである、請求項1に記載のエネルギー蓄積装置。
【請求項12】
請求項1に記載のエネルギー蓄積装置を製造する方法であって、その方法は、
(a)第1の電極として役割を果たす導電基板を準備するステップと、
(b)前記第1の電極の上に多層構造体を形成するステップと、
(c)前記多層構造体の上に第2の電極を形成するステップとを含み、
前記多層構造体の形成は、複数の絶縁層と複数の導電層とを交互に施すステップを含むか、あるいは絶縁層と導電層とを共押出するステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気回路の受動素子に関し、さらに詳しくは、エネルギー蓄積装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンデンサは静電界の形でエネルギーを蓄積するための受動電子素子の一種であり、誘電層で分離される一対の電極を備える。電位差がこの二つの電極の間に存在する場合、電界が誘電層に生じる。この電界がエネルギーを蓄積し、理想的なコンデンサは、両電極の間の電位差に対する各電極上の電荷の比である単一の一定の静電容量値により特徴づけられる。実際、電極間の誘電層は少量の漏洩電流を流す。電極とリードは等価直列抵抗を生じ、誘電層には限られた電界強度の制約があって、それが破壊電圧をもたらす。最も簡単なエネルギー蓄積装置は、誘電率εを有する誘電層で分離される二つの平行電極で構成され、各電極は面積Sを有し、かつ互いから距離dだけ離れて配置される。電極は面積Sにわたって一様に広がると考えられ、表面電荷密度は±ρ=±Q/Sという数式によって表すことができる。電極の幅は間隔(距離)dよりも非常に大きいため、コンデンサの中心近くの電界は、E=ρ/εという大きさに等しい。電圧は電極の間の電界の線積分と定義される。理想的なコンデンサは、以下の式(1):
C = Q/V (1)
で定義される一定の静電容量Cにより特徴づけられ、これは静電容量が面積とともに増加して距離とともに減少することを示している。このため、静電容量は、高誘電率の材料で製作されたデバイスにおいて最大となる。
【0003】
破壊電界強度E
bdとして知られる特徴的な電界は、コンデンサにおける誘電層が導電性になる電界である。これが起こる電圧は、デバイスの破壊電圧と呼ばれ、電極間の間隔と誘電強度の積
V
bd = E
bdd (2)
で与えられる。
【0004】
コンデンサに蓄積される最大の容積エネルギー密度は、〜ε×E
2bdに比例する値で制限され、ここで、εは誘電率であり、E
bdは破壊電界強度である。このため、コンデンサに蓄積されるエネルギーを増加させるためには、誘電体の誘電率εと破壊電界強度E
bdとを増加させることが必要である。
【0005】
高電圧用途の場合、より大きなコンデンサを使わなければならない。破壊電圧を大幅に低下させることができるいくつかの要因がある。これらの用途においては、導電電極の幾何形状が重要となる。特に、鋭いエッジや先端は、局部的に電界強度を大きく増大し、局部的な破壊につながる可能性がある。局部的な破壊がどこかで起こると、その破壊はそれがもう一つの電極に達して短絡を生じるまで、誘電層を通じて迅速に“追跡”する。
【0006】
誘電層の絶縁破壊は一般的に、以下のように生じる。電界の強度が十分に高くなると、誘電材料の原子から電子が遊離して電流を一方の電極からもう一方の電極へ伝導させる。誘電体における不純物の存在、または結晶構造の欠点は、半導体装置において観察されるような雪崩降伏の原因になりうる。
【0007】
誘電材料の他の重要な特徴は、その誘電率である。コンデンサにはさまざまな種類の誘電材料が使われており、各種のセラミックコンデンサ、ポリマー膜コンデンサ、紙コンデンサ、及び電解コンデンサを含む。最も広く使われているポリマー膜材料は、ポリプロピレンとポリエステルである。誘電率を増大させることにより、それを重要な技術的課題とする容積エネルギー密度の増加が可能である。
【0008】
ドデシルベンゼンスルホン酸塩(DBSA)の存在下でポリアクリル酸(PAA)の水分散液中でアニリンをin situ重合することにより、ポリアニリンの超高誘電率複合物であるPANI-DBSA/PAAを合成した(チャオ−シェン・ホア(Chao-Hsien Hoa)らの“High dielectric constant polyaniline/poly(acrylic acid) composites prepared by in situ polymerization”、Synthetic Metals 158 (2008)、pp. 630-637を参照)。水溶性PAAは高分子安定剤として働き、PANI粒子の巨視的凝集を防ぐ。30重量%のPANIを含んでいる複合物では、およそ2.0×10
5(1kHzで)の非常に高い誘電率が得られた。複合物の形態学的特性、誘電特性及び電気的特性に対するPANI含有量の影響を調査した。誘電率、誘電損失、損失正接及び電気係数の周波数依存性を0.5kHzから10MHzまでの周波数範囲で分析した。SEM顕微鏡写真により、高PANI含有量(すなわち、20重量%)の複合物が、PAAマトリックス中に均一に分布した多数のナノスケールのPANI粒子からなることが分かった。高誘電率は、PANI粒子からなる小さなコンデンサの総和に起因すると考えられた。この材料の欠点は、電界の下で少なくとも1つの連続的な導電路が形成されたり浸出(パーコレーション)が発生したりする可能性のあることであり、こうした事象の起こる可能性は電界が大きくなるにつれて増大する。隣接する導電性PANI粒子を介した少なくとも1つの連続的なパス(経路)がコンデンサの電極間に形成されると、コンデンサの破壊電圧は低下する。
【0009】
ドープされたアニリンオリゴマーの単結晶は、溶液ベースの簡単な自己集合法によって生産される(ユエ・ワン(Yue Wang)らの“Morphological and Dimensional Control via Hierarchical Assembly of Doped Oligoaniline Single Crystals”、J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, pp. 9251-9262を参照)。一次元(1-D)のナノ繊維のような構造がより高次の構造へと集合される「ボトムアップ」型の階層アセンブリにより、形態及び寸法の異なる結晶を生産できることが詳細に機構を研究することで分かった。結晶の核生成と、ドープされたオリゴマー間の非共有結合的な相互作用とをコントロールすることによって、一次元のナノ繊維とナノワイヤ、二次元のナノリボンとナノシート、三次元のナノプレート、積層シート、ナノフラワー、多孔質の網状組織、中空の球、及びねじれたコイルを含む多種多様な結晶ナノ構造を得ることができる。これらのナノスケールの結晶は、形状依存性の結晶度のような興味深い構造と特性の関係を示すだけでなく、それらと同等のバルク体に比較して高い導電率を示す。さらに、吸収分析を通じて分子と溶媒の相互作用を監視することにより、これらの構造の形態及び寸法は大いに合理化及び予測されうる。本明細書中に示す結果及び手段は、ドープされたテトラアニリンをモデル系として使うことにより、有機材料の形状とサイズを制御する一般的な方法についての知見を提供する。
【0010】
多層構造をベースにするエネルギー蓄積装置は公知である。エネルギー蓄積装置は第1の電極と、第2の電極と、ブロッキング層及び誘電層を含む多層構造とを備える。第1のブロッキング層が第1の電極と誘電層との間に配置され、第2のブロッキング層が第2の電極と誘電層との間に配置される。第1のブロッキング層と第2のブロッキング層の誘電率はそれぞれ誘電層の誘電率よりも大きい。
図1は、電極1、2と、ブロッキング材料の層(6、7、8、9)で分離された誘電材料の層(3、4、5)を含んだ多層構造とを備える一つの典型的なデザインを示す。ブロッキング層6と9は電極1と2の近くに対応して配置され、誘電材料の誘電率よりも高い誘電率により特徴づけられる。この装置の一つの欠点は、電極と直接に接触して位置する高誘電率のブロッキング層によってエネルギー蓄積装置の破壊に至る可能性のあることである。複合材料をベースにする高誘電率材料は、分極した粒子(例えばPANI粒子)を含有し、パーコレーション現象を示すおそれがある。形成された複数の層による多結晶構造は、結晶子間の境界に多数の複雑な化学結合を有する。使用される高誘電率材料が多結晶構造を有する場合、パーコレーションが結晶粒の境界に沿って起こる可能性がある。既知の装置のもう一つの欠点は、すべての層を真空蒸着する高価な製造手順にある。
【0011】
エネルギー蓄積装置としてのコンデンサは、電気化学的エネルギー蓄積装置(例えばバッテリー)に比べて公知の利点を有する。バッテリーと比較して、コンデンサは非常に高いパワー密度、つまり充電/再充電速度でエネルギーを蓄積することができ、劣化のほとんどない長寿命を有し、数十万回から数百万回の充放電(繰り返し)が可能である。しかし、コンデンサは、バッテリーのように体積や重量が小さいとエネルギーを蓄積しなかったり、あるいは低いエネルギー蓄積コストでエネルギーを蓄積しなかったりすることがあり、いくつかの用途(例えば電気自動車)にとって実用的ではない。このため、より高い容積エネルギー蓄積密度及び質量エネルギー蓄積密度と低コストを有するコンデンサを提供することはエネルギー蓄積技術における前進となるだろう。
【0012】
本発明は、エネルギー蓄積装置に蓄積される容積エネルギー密度及び質量エネルギー密度をさらに増大するとともに、材料コスト及び製造プロセスを低減するという課題を解決するものである。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、第1の電極と、第2の電極と、第1の電極及び第2の電極の間に配置された固体多層構造体とを備えるエネルギー蓄積装置を提供する。これら複数の電極は平坦かつ平面状であり、かつ互いに平行に配置され、前記固体多層構造体はm個の均質な絶縁層と導電層とを備える。これら複数の層は、前記電極と平行に配置され、前記複数の層はA-B-(A-B-…A-B-)Aという並び順を有し、ここで、Aは絶縁誘電材料を含む絶縁層であり、Bは導電層であり、mは3以上である。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、エネルギー蓄積装置の製造方法を提供し、その方法は、(a)前記複数の電極のうちの一つとして役割を果たす導電基板を準備するステップと、(b)固体多層構造体を形成するステップと、(c)前記多層構造体上に第2の電極を形成するステップとを備え、前記多層構造体を形成するステップは、絶縁層と導電層を交互に施すステップを含むか、あるいは複数の層を共押出するステップを含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明の一実施形態によるエネルギー蓄積装置を示す略図である。
【
図3】本発明の別の実施形態によるエネルギー蓄積装置を示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。以下の好ましい実施形態によって本発明をさらに理解することができるが、説明の目的だけであり、添付の請求の範囲を制限することを目的としていない。
【0017】
ここでエネルギー蓄積装置を説明する。用途に応じて、絶縁誘電材料の誘電率ε
insは広い範囲内であることができ、大部分の用途ではおよそ2から25までの範囲内である。絶縁層は、4eVを超えるバンドギャップと、およそ0.01V/nmから2.5V/nmを超えるまでの間の範囲の破壊電界強度とにより特徴づけられる材料からなる。高い分極性のために、導電材料は絶縁誘電材料の誘電率と比べて比較的高い誘電率ε
condを有する。このため、導電材料を含む層は、絶縁層の材料の誘電率ε
insの10〜100000倍である誘電率ε
condを有する。したがって、絶縁層の電界強度E
insと導電層の電界強度E
condは、以下の比率:E
cond=(ε
ins/ε
cond)×E
insを満たす。電界強度E
condは、電界強度E
insよりも非常に小さい。このため、エネルギー蓄積装置の動作電圧を増大するためには、絶縁層の数を増やす必要がある。
【0018】
本発明によるエネルギー蓄積装置のコンデンサは、以下の式:
C = [d
ins・n
ins/(ε
0ε
insS) + d
cond・(n
ins-1)/(ε
0ε
cond・S)]
-1=
= ε
0・S・[ d
ins・n
ins/ε
ins+ d
cond・(n
ins-1)/ε
cond]
-1 (3)
で定められ、ここで、d
insは絶縁層の厚さであり、d
condは導電層の厚さであり、n
insは絶縁層の数であり、ε
0は真空の誘電率である。
【0019】
式(3)によると、以下の不等式が成立するならば、エネルギー蓄積装置のコンデンサの値は高誘電率の層で決められる。
d
cond>> (n
ins/(n
ins-1)
)×(ε
cond/ε
ins)×d
ins あるいは
d
cond = p×(n
ins/(n
ins-1)
)×(ε
cond/ε
ins)×d
ins ここでp≧3 (4)
n
ins>>1の場合、d
cond = p×(ε
cond/ε
ins) ×d
ins(5)
このように、絶縁層はコンデンサの高破壊電圧を提供し、導電層は多層構造の高誘電率を提供する。
【0020】
本発明のいくつかの実施形態において、使用される材料と製造手順に応じて、固体絶縁誘電層は、非晶質の固体層と結晶質の固体層との間の範囲内で種々の構造を有することができる。
【0021】
開示のエネルギー蓄積装置の一実施形態において、絶縁層は一般構造式I:
{Cor}(M)n (I)
で表される修飾有機化合物を含み、ここで、Corは共役π系を有する多環式有機化合物であり、Mは修飾官能基であり、nは修飾官能基の個数であり、ただし、nは1以上である。本発明の一実施形態において、多環式有機化合物は、表1に示すようなオリゴフェニル、イミダゾール、ピラゾール、アセナフテン、トリアジン(triaizine)、インダントロンを含んでかつ構造1〜43から選択される一般構造式を有するリストの中から選択される。
【0022】
【表1】
本発明の別の実施形態において、修飾官能基は、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、及びそれらの組合せを含んだリストの中から選択される。修飾官能基は、製造段階における有機化合物の可溶性をもたらすとともに、コンデンサの固体絶縁層に追加的な絶縁特性を与える。本発明のさらに別の実施形態において、絶縁層は、フッ化アルキル、ポリエチレン、ポリ(フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン)、ポリプロピレン、フッ化ポリプロピレン、ポリジメチルシロキサンを含んだリストの中から選択されるポリマー材料を含有する。本発明のさらに別の実施形態において、絶縁層は、表2に示すような構造44〜49から選択されるポリマーに基づいて形成されるポリマー材料を含有する。
【0023】
【表2】
このリストした絶縁層用の材料は、1ナノメートル当たり少なくとも0.1ボルトの高電界強度をもたらす。
【0024】
広くさまざまな導電性ポリマー及び半導電性(共役)ポリマーを本発明の導電層として使用することができる。このさまざまなポリマーは、一連の固有の特性を有し、それはプロセス上の利点を有する金属及び半導体の電気的特性とポリマーの機械的特性とを結合したものである(エイ.ジェイ.ヒーガー(A.J. Heeger)らの“Semiconducting and Metallic Polymers.”, Oxford Graduate Texts, Oxford Press, 2010を参照)。
【0025】
開示のエネルギー蓄積装置について、使用される材料と製造手順に応じて、固体導電層は、非晶質の固体層と結晶質の固体層との間の範囲内で種々の構造を有することができる。
【0026】
本発明の一実施形態において、導電層は結晶質である。
本発明の別の実施形態において、導電層は、分子伝導性(molecular conductivity)を有する材料を含有する。分子伝導性を有する導電材料とは、複数の有機分子を含んだ材料であって、外部の電界の作用でこれらの分子の範囲内で電荷が移動する材料のことである。この分子内で移動する電荷の変位の結果として、電界に沿って配向する電気双極子が生じる(Jean-Pierre Farges, Organic Conductors, Fundamentals and applications, Marcell-Dekker Inc. NY. 1994)。
【0027】
本発明の一実施形態において、導電層は導電性オリゴマーを含有する。本発明の別の実施形態において、導電性オリゴマーの長手軸は、電極表面に対して大体に垂直に向いている。本発明のさらに別の実施形態において、導電性オリゴマーの長手軸は、電極表面に対して大体に平行に向いている。
【0028】
本発明のさらに別の実施形態において、導電性オリゴマーを含有する導電層は、大体に横方向の並進対称性を有する。対象物の並進対称性とは、特定のベクトル上での移動により対象物が変更されないことを意味する。
【0029】
本発明の一実施形態において、導電性オリゴマーは、表3に示されるような構造50〜56のうちの一つと対応する以下の構造式を含んだリストの中から選択され、ただし、Xは2、3、4、5、6、7、8、9、10、11または12である。
【0030】
【表3】
本発明のエネルギー蓄積装置の別の実施形態において、導電層は低分子量の導電性ポリマーを含有する。本発明の別の実施形態において、低分子量の導電性ポリマーは、表3に示されるような構造50〜56から選択されるモノマーを含有する。開示のエネルギー蓄積装置の別の実施形態において、導電性オリゴマーは複数の置換基を更に有し、かつ以下の一般構造式II:
(導電性オリゴマー)--R
q (II)
で表され、ここで、R
qは一組の置換基であり、qはR
qの組における置換基Rの個数であり、qは1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10である。本発明のさらに別の実施形態において、複数の置換基Rは、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、及びそれらの組合せを含んだリストの中から個別に選ばれる。
【0031】
本発明のさらに別の実施形態において、絶縁層の厚さ(d
ins)、導電層の厚さ(d
cond)、絶縁層の数(n
ins≧2)、絶縁誘電材料の誘電率(ε
ins)、及び導電層の誘電率(ε
cond)は、以下の関係を満たす。
d
cond = p×(n
ins/(n
ins-1)
)×(ε
cond/ε
ins)×d
insただし p≧3 (6)
開示のエネルギー蓄積装置の電極は、Pt、Cu、Al、AgまたはAuを含むがこれに限らない適当な材料から形成してもよい。
【0032】
開示のエネルギー蓄積装置はさまざまな製造方法によって生産されることができ、その方法には一般的に、(a)前記複数の電極のうちの1つとして役割を果たす導電基板を準備するステップと、(b)多層構造体を形成するステップと、(c)多層構造体上に第2の電極を形成するステップとを含む。多層構造体の形成は、絶縁層と導電層とを交互に施すステップを含むか、あるいは複数の層を共押出するステップを含む。
【0033】
本発明の一実施形態において、多層構造体を形成するための前記交互のステップは、液体の絶縁層の溶液と液体の導電層の溶液とを連続で交互に塗布することを含み、各塗布の後には、乾燥させて固体の絶縁層と固体の導電層を形成するステップが続く。エネルギー蓄積装置の必要なデザインに応じて、多層構造体の形成が完了するまで、多層構造体中の層の数だけ前記交互に塗布するステップが繰り返される。この実施形態において、絶縁層は、多層構造体の最初の層及び最後の層として形成され、前記複数の電極と直接に接触する。
【0034】
本発明の一実施形態において、多層構造体を形成するための前記交互のステップは、絶縁層の溶融物と導電層の溶融物とを連続で交互に塗布することを含み、各塗布の後には、冷却して固体の絶縁層と固体の導電層を形成するステップが続く。エネルギー蓄積装置の必要なデザインに応じて、多層構造体の形成が完了するまで、多層構造体中の層の数だけ前記交互に塗布するステップが繰り返される。この実施形態において、絶縁層は、多層構造体の最初の層及び最後の層として形成され、前記複数の電極と直接に接触する。
【0035】
本発明の一実施形態において、複数の層を共押出するステップは、導電材料と絶縁誘電材料を交互に含んだ一組の液体の層を連続的に基板上に共押出するステップを含み、その後、乾燥させて固体多層構造体を形成することが続く。
【0036】
本発明の一実施形態において、複数の層を共押出するステップは、導電材料の溶融物と絶縁誘電材料の溶融物を交互に含んだ一組の液体の層を連続的に基板上に共押出するステップを含み、その後、乾燥させて固体多層構造体を形成することが続く。
【0037】
エネルギー蓄積装置のデザインに応じて、押出のステップは一回で完了させてもよいし、あるいは、多層構造体の形成が完了するまで、多層構造体中の層の数だけ繰り返される。絶縁層は複数の電極と直接に接触して形成される。
【0038】
本発明をより容易に理解することができるように、以下の実施例を参照して本発明を説明するが、これは範囲を制限することを目的としない。
実施例1
実施例1は、2つの絶縁層と1つの導電層とを有する固体多層構造体を含むエネルギー蓄積装置を説明する。
【0039】
図2に示すように、エネルギー蓄積装置のデザインは、電極10、11と固体多層構造とを備え、固体多層構造は、導電材料からなる層(12)で分離された2つの絶縁誘電材料の層(13、14)を含む。ポリアニリン(PANI)を導電材料として使用し、ポリエチレンを絶縁誘電材料として使用した。絶縁層の厚さd
insは25nmであった。電極10と11を銅で作製した。ポリエチレンの誘電率は2.2である(すなわちε
ins=2.2)。厚さ1ミリメートルの破壊電圧V
bdは40キロボルト(0.04v/nm)である。このため、厚さ25nmのポリエチレン膜は、破壊電圧が1ボルトと等しかった。したがって、コンデンサの動作電圧は、各厚さが25nmである2つの絶縁層の破壊電圧Vbdを超えず、2Vとほぼ等しかった。導電性のポリマー材料(ポリアニリン(PANI))は、誘電率ε
condが1000であり、厚さd
condは50μmであった。
【0040】
実施例2
実施例2は、絶縁層と導電層とを交互に有する固体多層構造体を含むエネルギー蓄積装置を説明する。
【0041】
図3に示すように、エネルギー蓄積装置のデザインは、電極15、16と固体多層構造体とを備え、固体多層構造は、絶縁材料の層と導電材料の層を交互に含み、絶縁誘電材料の層(20、21、22、23)は、導電材料からなる層(17、18、19)で分離されていた。ポリアニリン(PANI)を導電材料として使用し、ポリエチレンを絶縁誘電材料として使用した。絶縁層の厚さd
insは25 nmであった。電極15と16を銅で作製した。ポリエチレンの誘電率は2.2(すなわちε
ins=2.2)であり、厚さ1ミリメートルの破壊電圧V
bdは40キロボルトである。このため、厚さ25nmのポリエチレン膜は、破壊電圧が1ボルトと等しい。したがって、コンデンサの動作電圧は、破壊電圧Vbdを超えず、4Vとほぼ等しかった。導電性のポリマー材料(ポリアニリン(PANI))は、誘電率ε
condが1000であった。この実施例では、導電材料からなる層の厚さd
condを50μmとした。
【0042】
実施例3
実施例3は、コンデンサの動作電圧の値に応じた絶縁層の数と厚さの計算について説明する。動作電圧が100ボルトのエネルギー蓄積装置を製造する場合には、絶縁材料の合計の厚さが約2500nmになるように、厚さ25nmの絶縁層の数を増やすか厚さを増やす必要がある。ポリエチレンを絶縁層として使用した各層の厚さが25nmであるエネルギー蓄積装置を製造する工業的用途の場合、所望の動作電圧を得るために、100層以上を必要とする。この概算は、1ミリメートルの厚さでの破壊電圧V
bdが40キロボルトであることに基づく。この実施例では、導電材料の誘電率が十万(100000)と等しい。各導電層の厚さは、300ミクロンとほぼ等しい。目標とする動作電圧を1000ボルトにまで増やした場合、絶縁層の必要な数及び厚さはD=N×d=25000nmにまで増える。ここで、Dはすべての層を合計した厚さであり、Nは層の数であり、dは各層の厚さである。
【0043】
具体的な実施形態を参照して本発明を詳述したが、当業者は、請求の範囲から逸脱することなく、さまざまな修正及び改良を行うことができると認める。