特許第6953614号(P6953614)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッドの特許一覧

特許6953614感知された心拍数に基づくペーシングパルスエネルギー調整を用いた心臓ペースメーカ
<>
  • 特許6953614-感知された心拍数に基づくペーシングパルスエネルギー調整を用いた心臓ペースメーカ 図000002
  • 特許6953614-感知された心拍数に基づくペーシングパルスエネルギー調整を用いた心臓ペースメーカ 図000003
  • 特許6953614-感知された心拍数に基づくペーシングパルスエネルギー調整を用いた心臓ペースメーカ 図000004
  • 特許6953614-感知された心拍数に基づくペーシングパルスエネルギー調整を用いた心臓ペースメーカ 図000005
  • 特許6953614-感知された心拍数に基づくペーシングパルスエネルギー調整を用いた心臓ペースメーカ 図000006
  • 特許6953614-感知された心拍数に基づくペーシングパルスエネルギー調整を用いた心臓ペースメーカ 図000007
  • 特許6953614-感知された心拍数に基づくペーシングパルスエネルギー調整を用いた心臓ペースメーカ 図000008
  • 特許6953614-感知された心拍数に基づくペーシングパルスエネルギー調整を用いた心臓ペースメーカ 図000009
  • 特許6953614-感知された心拍数に基づくペーシングパルスエネルギー調整を用いた心臓ペースメーカ 図000010
  • 特許6953614-感知された心拍数に基づくペーシングパルスエネルギー調整を用いた心臓ペースメーカ 図000011
  • 特許6953614-感知された心拍数に基づくペーシングパルスエネルギー調整を用いた心臓ペースメーカ 図000012
  • 特許6953614-感知された心拍数に基づくペーシングパルスエネルギー調整を用いた心臓ペースメーカ 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6953614
(24)【登録日】2021年10月1日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】感知された心拍数に基づくペーシングパルスエネルギー調整を用いた心臓ペースメーカ
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/365 20060101AFI20211018BHJP
【FI】
   A61N1/365
【請求項の数】15
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2020-502515(P2020-502515)
(86)(22)【出願日】2018年3月28日
(65)【公表番号】特表2020-512915(P2020-512915A)
(43)【公表日】2020年4月30日
(86)【国際出願番号】US2018024875
(87)【国際公開番号】WO2018187121
(87)【国際公開日】20181011
【審査請求日】2019年10月31日
(31)【優先権主張番号】62/480,784
(32)【優先日】2017年4月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505003528
【氏名又は名称】カーディアック ペースメイカーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】レディ、ジー.シャンタヌ
(72)【発明者】
【氏名】シュミット、ブライアン エル.
【審査官】 家辺 信太郎
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2016/0228701(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0175601(US,A1)
【文献】 特表2012−500050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/365
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
除細動治療を実施するように構成された植込み型除細動器(ICD)から独立した心臓ペースメーカであって、
患者の1つ以上の生理学的パラメータを感知するための1つ以上のセンサと、
患者の心臓にペーシングパルスを送出するための2つ以上のペーシング電極と、
前記1つ以上のセンサと前記2つ以上のペーシング電極とに動作可能に接続された電子装置と、
を備え、前記電子装置は、
前記1つ以上のセンサで感知された前記1つ以上の生理学的パラメータのうち少なくとも一部に基づいて、患者の心拍数を判定し、
患者の心拍数がデマンド心拍数閾値を下回ることなく当該患者の心拍数を維持することを試みるように、前記2つ以上のペーシング電極によって患者の心臓をペーシングする、ように構成されており、該ペーシングは、
前記ペーシングパルスを捕捉ペーシングエネルギーレベルで供給し、かつ、
前記心拍数が上限心拍数閾値を超えて上昇する時、その後の一時的な期間にわたり、除細動治療されるか否かに拘わらず、当該一時的な期間にわたって、前記ペーシングパルスを前記捕捉ペーシングエネルギーレベルよりも高い向上エネルギーレベルで供給する、心臓ペースメーカ。
【請求項2】
前記1つ以上のセンサは、2つ以上のセンシング電極を備え、前記生理学的パラメータの少なくとも1つは、心臓電気信号である、請求項1に記載の心臓ペースメーカ。
【請求項3】
前記2つ以上のセンシング電極の少なくとも1つは、前記ペーシング電極の1つである、請求項2に記載の心臓ペースメーカ。
【請求項4】
前記1つ以上のセンサは、加速度計を備え、前記生理学的パラメータの少なくとも1つは、心臓運動及び心音のうちの1つ以上である、請求項1に記載の心臓ペースメーカ。
【請求項5】
前記電子装置によって判定される前記心拍数は、前の「n」回の心拍の平均心拍数であり、ただし、「n」は1より大きい整数である、請求項1に記載の心臓ペースメーカ。
【請求項6】
前記ペーシングパルスは、前記捕捉ペーシングエネルギーレベルにおいて第1の振幅と第1のパルス幅とを有し、前記向上エネルギーレベルにおいて第2の振幅と第2のパルス幅とを有し、前記第2の振幅は前記第1の振幅よりも大きく、前記第2のパルス幅は前記第1のパルス幅と同じである、請求項1に記載の心臓ペースメーカ。
【請求項7】
前記ペーシングパルスは、前記捕捉ペーシングエネルギーレベルにおいて第1の振幅と第1のパルス幅とを有し、前記向上エネルギーレベルにおいて第2の振幅と第2のパルス幅とを有し、前記第2の振幅は前記第1の振幅と同じであり、前記第2のパルス幅は前記第1のパルス幅よりも大きい、請求項1に記載の心臓ペースメーカ。
【請求項8】
前記ペーシングパルスは、前記捕捉ペーシングエネルギーレベルにおいて第1の振幅と第1のパルス幅とを有し、前記向上エネルギーレベルにおいて第2の振幅と第2のパルス幅とを有し、前記第2の振幅は前記第1の振幅よりも大きく、前記第2のパルス幅は前記第1のパルス幅よりも大きい、請求項1に記載の心臓ペースメーカ。
【請求項9】
前記期間は、予め設定された期間である、請求項1に記載の心臓ペースメーカ。
【請求項10】
前記予め設定された期間はプログラム可能である、請求項9に記載の心臓ペースメーカ。
【請求項11】
前記期間は3分超である、請求項1に記載の心臓ペースメーカ。
【請求項12】
前記期間は1時間未満である、請求項1に記載の心臓ペースメーカ。
【請求項13】
通信モジュールをさらに備え、前記電子装置は、前記通信モジュールによってリモート装置からコマンドを受信することが可能であり、前記電子装置は、ATPコマンドの受信に応答して、前記向上エネルギーレベルでATPペーシングパルスのバーストを供給するように構成される、請求項1に記載の心臓ペースメーカ。
【請求項14】
本心臓ペースメーカは、患者の心腔内に植え込まれるように構成されたリードレス心臓ペースメーカ(LCP)である、請求項1に記載の心臓ペースメーカ。
【請求項15】
リードレス心臓ペースメーカ(LCP)であって、
ハウジングと、
前記ハウジングの外部から発生する電気信号を感知するための複数の電極と、
前記ハウジング内に配置されたエネルギー貯蔵モジュールと、
前記複数の電極のうちの2つ以上のものによってペーシングパルスを供給するためのパルス発生器であって、前記ペーシングパルスのエネルギーレベルを変化させることが可能である前記パルス発生器と、
前記ハウジング内に配置されて、前記パルス発生器及び前記複数の電極の少なくとも2つに動作可能に接続された制御モジュールと、
を備え、前記制御モジュールは、
前記複数の電極のうちの2つ以上のものによって1つ以上の心臓信号を受信し、
前記受信した1つ以上の心臓信号の少なくとも一部に基づいて心拍数を判定し、
前記心拍数がデマンド心拍数閾値を下回らないように当該心拍数を維持することを試みるように、捕捉ペーシングエネルギーレベルのペーシングパルスで心臓をペーシングすることを、前記パルス発生器に指示し、
前記心拍数が上限心拍数閾値を超えて上昇しているかどうかを判定し、
前記心拍数が前記上限心拍数閾値を超えて上昇したと判定したことに応じて、植込み型除細動器(ICD)によって除細動治療が一時的な期間にわたって実施されているか否か又は一時的な期間にわたって開始されるか否かに拘わらず、当該一時的な期間にわたって、前記ペーシングパルスのエネルギーレベルを向上エネルギーレベルに増加させることを前記パルス発生器に指示するとともに、前記一時的な期間の経過後に、前記ペーシングパルスのエネルギーレベルを前記捕捉ペーシングエネルギーレベルに戻すように減少させることを前記パルス発生器に指示する
ように構成される、リードレス心臓ペースメーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に植込み型医療装置に関し、より具体的には、ショック後ペーシング機能(post shock pacing capability)を有する植込み型心臓ペースメーカに関するものである。
【背景技術】
【0002】
植込み型医療装置(IMD:Implantable Medical Device)は、1つ以上の状態の監視、及び/又は患者への治療の実施など、様々な機能を果たすために一般的に使用される。場合によっては、IMDは、心臓が患者の体内に十分な量の血液を送り出すための能力の低下につながり得る様々な心臓異常を患っている患者を治療することがある。いくつかの心臓異常は、低心拍数(例えば、徐脈)につながることがあり、その他の心臓異常は、収縮速度が速い、不規則な、及び/又は非効率的な心収縮(頻脈)につながることがある。これら及びその他の異常を緩和するために、種々の装置(例えば、ペースメーカ、除細動器など)を患者の体内に植え込むことができる。そのように提供された場合の、このような装置は、患者の心臓を監視して、心臓がより正常に、効率的に、及び/又は安全に動作するのを助けるために、電気刺激療法のような治療を施すことができる。場合によっては、IMDは、患者の心臓にペーシング治療及び/又は除細動治療を施すように構成されることがある。他の場合には、患者は、患者の心臓にペーシング治療及び/又は除細動治療を施すために協働する複数の植込み型装置を有し得る。
【0003】
いくつかの例では、IMDは、患者の心拍数が下限心拍数閾値(lower heart rate threshold)を下回る低下抑止確保の一助とするために、デマンド型ペーシングを実施することがある。IMDは、デマンド型ペーシングの実施中に、内因性心拍数が下限心拍数閾値を下回って低下すると、心臓を下限心拍数閾値でペーシングし得る。いくつかの例では、心臓は、収縮速度が速く、不規則で、及び/又は非効率的な心収縮で特徴付けられ得る心細動を往々にして起こし得る。これを起こした場合には、心臓の除細動のために患者の心臓にショックを与えるべく、植込み型除細動器(ICD:Implantable Cardioverter Defibrillator)が用いることができる。典型的には、心臓は、付与されたショックイベントに応答して、拍動を一瞬停止するが、その後、正常なリズムを回復する。多くの場合、ショックイベント後に、心臓を正常なリズムに戻すために、ショック後ペーシングパルスを供給する。場合によっては、ショック後ペーシングパルスは、デマンド型ペーシングで用いるペーシングパルスよりも高い振幅で供給される。いくつかの例では、ICDは、デマンド型ペーシングと除細動ショック治療の両方を施し得る。他の例では、IMDが、デマンド型ペーシングを施し得る一方、別個のICDが、除細動ショック治療を施し得る。
【0004】
望ましいのは、デマンド型ペーシングを施すことが可能であるとともに、検出された心拍数状態に基づいてリモートICDから到来するショックイベントを予測することも可能であり、このとき、その後に一時的な期間にわたって供給されるペーシングパルスのエネルギーレベルを自身で増加させる、IMDである。このようなIMDは、IMDとリモートICDとの通信を必要とすることなく、例えば、増加させたエネルギーレベルで、ショック後ペーシングパルスを供給し得る。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、一般に植込み型医療装置に関し、より具体的には、ショック後ペーシング機能を有する植込み型心臓ペースメーカに関するものである。リードレス心臓ペースメーカ(LCP:Leadless Cardiac Pacemaker)を、植込み型心臓ペースメーカの一例として用いているが、本発明は、必要に応じて、適切な植込み型医療装置にいずれも適用し得ることは、認識されるべきである。
【0006】
本発明の一例において、植込み型除細動器(ICD)から独立した心臓ペースメーカは、患者の1つ以上の生理学的パラメータを感知するための1つ以上のセンサと、患者の心臓にペーシングパルスを送出するための2つ以上のペーシング電極と、を含み得る。1つ以上のセンサと2つ以上のペーシング電極とに動作可能に接続された電子装置を、1つ以上のセンサで感知された1つ以上の生理学的パラメータのうち少なくとも一部に基づいて、患者の心拍数を判定するように構成することができ、そして、この電子装置により、患者の心拍数がデマンド心拍数閾値(demand heart rate threshold)を下回ることなく当該患者の心拍数を維持することを試みるように、2つ以上のペーシング電極によって患者の心臓をペーシングし得る。心拍数が上限心拍数閾値(upper heart rate threshold)を下回っている場合には、ペーシングパルスを捕捉ペーシングエネルギーレベルで供給し得る。心拍数が上限心拍数閾値を超えて上昇する場合には、ある期間にわたって、ペーシングパルスを捕捉ペーシングエネルギーレベルよりも向上エネルギーレベルで一時的に供給することができ、その期間後に、ペーシングパルスを再び捕捉エネルギーレベルで供給し得る。その期間中に、向上エネルギーレベルで供給されるペーシングパルスは、所与の時点でいずれも適切であると判断される治療に応じて、デマンド型ペーシングのペーシングパルス、ショック後ペーシングパルス、及び/又は抗頻脈性不整脈ペーシング(ATP:Anti−Tachyarrhythmia−Pacing)パルス、であり得ることが想定される。
【0007】
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、1つ以上のセンサは、2つ以上のセンシング電極を備えることができ、生理学的パラメータの少なくとも1つは、心臓電気信号であり得る。
【0008】
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、2つ以上のセンシング電極の少なくとも1つは、ペーシング電極の1つであり得る。
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、1つ以上のセンサは、加速度計を備えることができ、生理学的パラメータの少なくとも1つは、心臓運動及び心音のうちの1つ以上であり得る。
【0009】
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、電子装置によって特定される心拍数は、前の「n」回の心拍の平均心拍数であることができ、ただし、「n」は1より大きい整数であり得る。
【0010】
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、ペーシングパルスは、捕捉ペーシングエネルギーレベルにおいて第1の振幅と第1のパルス幅とを、向上エネルギーレベルにおいて第2の振幅と第2のパルス幅とを、有することができ、このとき、第2の振幅は第1の振幅よりも大きくすることができ、第2のパルス幅は第1のパルス幅と同じであり得る。
【0011】
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、ペーシングパルスは、捕捉ペーシングエネルギーレベルにおいて第1の振幅と第1のパルス幅とを、向上エネルギーレベルにおいて第2の振幅と第2のパルス幅とを、有することができ、このとき、第2の振幅は第1の振幅と同じであることができ、第2のパルス幅は第1のパルス幅よりも大きく得る。
【0012】
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、ペーシングパルスは、捕捉ペーシングエネルギーレベルにおいて第1の振幅と第1のパルス幅とを、向上エネルギーレベルにおいて第2の振幅と第2のパルス幅とを、有することができ、このとき、第2の振幅は第1の振幅よりも大きくすることができ、第2のパルス幅は第1のパルス幅よりも大きく得る。
【0013】
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、その期間は、予め設定された期間であり得る。
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、予め設定された期間はプログラム可能であり得る。
【0014】
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、その期間は3分超であり得る。
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、その期間は1時間未満であり得る。
【0015】
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、通信モジュールをさらに備え、その場合、電子装置は、通信モジュールによってリモート装置からコマンドを受信することができ、電子装置は、ATPコマンドの受信に応答して、向上エネルギーレベルでATPペーシングパルスのバーストを供給するように構成され得る。
【0016】
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、心臓ペースメーカは、患者の心腔内に植え込まれるように構成され得るリードレス心臓ペースメーカ(LCP)であり得る。
【0017】
本発明の他の例において、リードレス心臓ペースメーカ(LCP:leadless cardiac pacemaker)は、ハウジングと、ハウジングの外部から発生する電気信号を感知するための複数の電極と、を備え得る。ハウジング内に、エネルギー貯蔵モジュールを配置し得る。LCPは、複数の電極のうちの2つ以上のものによってペーシングパルスを供給するためのパルス発生器をさらに含むことができ、その場合、パルス発生器は、ペーシングパルスのエネルギーレベルを変化させることが可能であり得る。ハウジング内に配置された制御モジュールを、パルス発生器及び複数の電極の少なくとも2つに動作可能に接続させ得る。制御モジュールは、複数の電極のうちの2つ以上のものによって1つ以上の心臓信号を受信し、受信した1つ以上の心臓信号の少なくとも一部に基づいて心拍数を判定し、心拍数がデマンド心拍数閾値を下回らないように当該心拍数を維持することを試みるように、捕捉ペーシングエネルギーレベルのペーシングパルスで心臓をペーシングすることをパルス発生器に指示し、心拍数が上限心拍数閾値を超えて上昇しているかどうかを判定し、心拍数が上限心拍数閾値を超えて上昇したと判定したことに応じて、ある期間にわたって、ペーシングパルスのエネルギーレベルを向上エネルギーレベルに増加させることをパルス発生器に指示し、その期間後に、ペーシングパルスのエネルギーレベルを捕捉ペーシングエネルギーレベルに戻すように減少させることをパルス発生器に指示する、ように構成され得る。その期間中に、向上エネルギーレベルで供給されるペーシングパルスは、所与の時点でいずれも適切であると判断される治療に応じて、デマンド型ペーシングのペーシングパルス、ショック後ペーシングパルス、及び/又は抗頻脈性不整脈ペーシング(ATP)パルス、であり得ることが想定される。
【0018】
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、パルス発生器は、ペーシングパルスのエネルギーレベルを向上エネルギーレベルに増加させるために、ペーシングパルスの振幅を変化させ得る。
【0019】
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、パルス発生器は、ペーシングパルスのエネルギーレベルを向上エネルギーレベルに増加させるために、ペーシングパルスのパルス幅を変化させ得る。
【0020】
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、パルス発生器は、ペーシングパルスのエネルギーレベルを向上エネルギーレベルに増加させるために、ペーシングパルスの振幅及びパルス幅を変化させ得る。
【0021】
本発明の他の例において、患者の心臓をペーシングするための方法は、患者の心拍数を判定することと、患者の心拍数がデマンド心拍数閾値を下回ることなく当該患者の心拍数を維持することを試みるように、患者の心臓をペーシングすることと、を備え得る。心拍数が上限心拍数閾値を下回っている場合には、ペーシングパルスを捕捉ペーシングエネルギーレベルで供給し得る。心拍数が上限心拍数閾値を超えて上昇する場合には、ある期間にわたって、ペーシングパルスを捕捉ペーシングエネルギーレベルよりも向上エネルギーレベルで一時的に供給することができ、その期間後に、ペーシングパルスを再び捕捉ペーシングエネルギーレベルで供給し得る。その期間中に、向上エネルギーレベルで供給されるペーシングパルスは、所与の時点でいずれも適切であると判断される治療に応じて、デマンド型ペーシングのペーシングパルス、ショック後ペーシングパルス、及び/又は抗頻脈性不整脈ペーシング(ATP)パルス、であり得ることが想定される。
【0022】
上述した実施形態のいずれかに対して代替的又は追加的に、心拍数は、前の「n」回の心拍の平均心拍数によって特定されることができ、ただし、「n」は1より大きい整数であり得る。
【0023】
いくつかの例示的な実施形態についての上記概要は、開示の実施形態をそれぞれ説明するものではなく、又は本発明のあらゆる実現形態を説明するものではない。以下の図面及び説明は、これら及びその他の例示的な実施形態をより具体的に例示している。
【0024】
添付の図面に関連付けて、以下の説明を考察することで、本発明について、より完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一例による、例示的なLCPの概略ブロック図。
図2】例示的な植込み型LCPの側面図。
図3】本発明の一例による、患者の心腔内に植え込まれたLCPの概略図。
図4】本発明の一例による、同時に植え込まれた経静脈植込み型除細動器(T−ICD:Transvenous Implantable Cardioverter−Defibrillator)とLCPの概略図。
図5】本発明の一例による、同時に植え込まれた皮下又は胸骨下植込み型除細動器(S−ICD:Subcutaneous/Substernum Implantable Cardioverter−Defibrillator)とLCPの概略図。
図6A】様々な動作条件下でのLCPの例示的な動作を示すタイミング図。
図6B】様々な動作条件下でのLCPの例示的な動作を示すタイミング図。
図6C】様々な動作条件下でのLCPの例示的な動作を示すタイミング図。
図6D】様々な動作条件下でのLCPの例示的な動作を示すタイミング図。
図6E】様々な動作条件下でのLCPの例示的な動作を示すタイミング図。
図6F】様々な動作条件下でのLCPの例示的な動作を示すタイミング図。
図6G】様々な動作条件下でのLCPの例示的な動作を示すタイミング図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、種々の変更及び代替形態が可能であるが、その詳細について、図面に例として示しているとともに、詳細に説明する。ただし、本発明を記載の特定の実施形態に限定するものではないことは理解されるべきである。むしろ、本発明の趣旨及び範囲内に含まれるあらゆる変更、均等物、及び代替案を包括するものである。
【0027】
以下で定義する用語については、請求項又は本明細書の他の箇所で異なる定義が提示されていない限り、これらの定義が適用されるものとする。
本明細書において、すべての数値は、明記されているか否かに関わりなく、「約」という用語で修飾されるものとみなされる。「約」という用語は、一般に、記載されている値と等価である(すなわち、作用又は結果が同じである)と当業者が考えるであろう数値の範囲を指す。多くの場合、「約」という用語は、最も近い有効数字に丸められた数値を含み得る。
【0028】
端点によって記載される数値範囲は、その範囲内のすべての数値を含む(例えば、1〜5は、1,1.5,2,2.75,3,3.80,4,及び5を含む)。
本明細書及び添付の請求項で使用される場合の単数形「a」、「an」、及び「the」は、特に内容で明記していない限り、複数の指示物を含むものである。また、本明細書及び添付の請求項で使用される場合の「又は(or)」という用語は、特に内容で明記していない限り、一般に「及び/又は(and/or)」を含む意味で使用される。
【0029】
なお、本明細書における「一実施形態」、「いくつかの実施形態」、「他の実施形態」などの表現は、記載の実施形態が1つ以上の特定の特徴、構造、及び/又は特性を含み得ることを意味するということに留意すべきである。しかしながら、そのような記載は、それらの特定の特徴、構造、及び/又は特性をすべての実施形態に含むことを必ずしも意味しない。また、特定の特徴、構造、及び/又は特性が1つの実施形態に関連して記載されている場合に、明記されているか否かに関わりなく、そのような特徴、構造、及び/又は特性は、反することが明記されてない限り、他の実施形態に関連して用いてもよいことは理解されるべきである。
【0030】
以下の説明は、図面を参照して読解されるべきであり、それらの図面では、異なる図面における類似の構造に同じ番号を付している。それらの図面は、必ずしも縮尺通りではなく、例示的な実施形態を示すものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0031】
図1は、例示的な心臓ペースメーカ(例えば、リードレス心臓ペースメーカ(LCP)100)を示しており、これは、患者に植え込まれ得るとともに、(例えば、徐脈の場合の)デマンド型ペーシング治療、抗頻脈ペーシング(ATP:Anti−Tachycardia Pacing)治療、ショック後ペーシング治療、心臓再同期療法(CRT:Cardiac Resynchronization Therapy)、及び/又は同様の治療を施すなど、心臓に適切な治療を施すように動作し得る。リードレス心臓ペースメーカ(LCP)を、植込み型心臓ペースメーカの一例として用いているが、本発明は、必要に応じて、適切な植込み型医療装置にいずれも適用し得ることは、認識されるべきである。
【0032】
図1に示すように、LCP100は、その構成要素のすべてがハウジング120内に収容又はハウジング120上に直接収容された、制御モジュール又は電子装置を有するコンパクトな装置であり得る。場合によっては、LCP100は、植込み型医療装置(IMD)の一例であるとみなされ得る。図1に示す例では、LCP100の制御モジュール又は電子装置は、通信モジュール102と、パルス発生器モジュール104と、電気的感知モジュール106と、機械的感知モジュール108と、処理モジュール110と、バッテリ112と、電極114と、を含み得る。LCP100の制御モジュール又は電子装置は、応用に応じて、より多数又はより少数のモジュールを含み得る。
【0033】
電気的感知モジュール106は、患者の1つ以上の生理学的パラメータを感知するように構成され得る。いくつかの例では、それらの生理学的パラメータは、心臓の心臓電気活動を含み得る。例えば、電気的感知モジュール106は、センサ118に接続され得るとともに、電気的感知モジュール106は、センサ118によって、患者の生理学的パラメータを感知するように構成され得る。いくつかの例では、電気的感知モジュール106は、電極114/114’に接続され得るとともに、電気的感知モジュール106は、電極114/114’によって、患者の心臓電気信号を含む生理学的パラメータの1つ以上を感知するように構成され得る。この場合、電極114/114’は、センサである。
【0034】
種々の実施形態によれば、種々の生理学的パラメータは、患者の状態及び/又は患者の心臓の状態を示すものであり得る。例えば、場合によっては、それらの生理学的パラメータは、温度(例えば、血液温度、生体組織温度など)、呼吸活動、心臓電気信号などを含み得る。さらに、いくつかの例では、心臓電気信号は、LCP100が植え込まれている心腔からの局所情報を表し得る。例えば、LCP100が心臓の心室(例えば、右心室、左心室)内に植え込まれている場合に、電極114/114’及び/又はセンサ118によってLCP100によって感知される心臓電気信号は、心室心臓電気信号を表し得る。場合によっては、LCP100は、心房からのP波など、他の心腔(例えば、遠接場(far field))からの心臓電気信号を検出するように構成され得る。
【0035】
いくつかの例では、設けられた場合の、機械的感知モジュール108は、患者の1つ以上の生理学的パラメータを感知するように構成され得る。例えば、いくつかの実施形態では、機械的感知モジュール108は、加速度計、圧力センサ、心音センサ、血液酸素センサ、化学センサ、温度センサ、フローセンサ、及び/又は患者の1つ以上の機械的/化学的な生理学的パラメータ(例えば、心臓運動、心音など)を検出するように構成された他のいずれかの適切なセンサのような、1つ以上のセンサを含み得る。機械的感知モジュール108は、生理学的パラメータを受信及び測定し得る。電気的感知モジュール106と機械的感知モジュール108は両方とも、感知されたパラメータを表す信号を供給し得る処理モジュール110に接続され得る。電気的感知モジュール106と機械的感知モジュール108は、図1に関連して、別々の感知モジュールとして説明したが、場合によっては、必要に応じて、それらを1つの感知モジュールに統合し得る。
【0036】
電極114/114’は、ハウジング120に対して固定することができるとともに、LCP100を取り巻く組織及び/又は血液に露出され得る。場合によっては、センサの型式に応じて、センサ118は、ハウジングの内部にあるか、又はLCP100を取り巻く組織及び/若しくは血液に露出され得る。場合によっては、電極114は、主にLCP100の各端に配置され得る。いくつかの例では、電極114/114’及びセンサ118は、モジュール102、104、106、108、110の1つ以上と電気通信し得る。電極114/114’及び/又はセンサ118は、ハウジング120で支持され得る。いくつかの例では、電極114/114’及び/又はセンサ118は、ハウジング120に対して直接固定されるのではなく、ハウジングに連結された後尾に配置されるように、電極114/114’及び/又はセンサ118は、短尺の接続ワイヤによってハウジング120に接続され得る。LCP100が1つ以上の電極114’を含む例では、電極114’は、場合によっては、LCP100の側部に配置されることがあり、これにより、LCP100が生理学的パラメータを感知、電気刺激を付与、及び/又は外部の医療装置と通信し得るための、電極の数を増加させ得る。電極114/114’及び/又はセンサ118は、人体に植え込んでも安全であることが知られている種々の金属又は合金のような、1つ以上の生体適合性導電材料で構成することが可能である。いくつかの例では、LCP100に接続された電極114/114’及び/又はセンサ118は、隣接する電極/センサ、ハウジング120、及び/又はLCP100のその他の部分から電極114/114’及び/又はセンサ118を電気的に絶縁する絶縁部を有し得る。
【0037】
処理モジュール110は、LCP100の動作を制御するように構成された電子装置を含み得る。例えば、処理モジュール110は、電気的感知モジュール106及び/又は機械的感知モジュール108から電気信号を受信するように構成され得る。処理モジュール110は、受信した信号に基づいて、例えば、患者の心拍数、心臓の動作異常などを判定し得る。処理モジュール110は、判定された状態に基づいて、その判定された状態を治療するための1つ以上の治療法に従ってペーシングパルスを生成及び供給するように、パルス発生器モジュール104を制御し得る。処理モジュール110は、さらに、通信モジュール102から情報を受信し得る。いくつかの例では、処理モジュール110は、患者の現在の状態を判定すること、その現在の状態を前提として異常が発生しているかどうかを判定すること、に役立てるため、及び/又はその情報に応答して特定の処置を取るために、そのような受信した情報を用いることがある。処理モジュール110は、さらに、他の装置との間で情報を送受信するために、通信モジュール102を制御し得る。
【0038】
いくつかの例では、処理モジュール110は、超大規模集積(VLSI)チップ及び/又は特定用途向け集積回路(ASIC)のような予めプログラムされたチップを含み得る。そのような実施形態では、チップは、LCP100の動作を制御するための制御ロジックで予めプログラムされ得る。場合によっては、予めプログラムされたチップは、所望の機能を実行する状態機械(state machine)を実装し得る。予めプログラムされたチップを使用し、もって、処理モジュール110は、それでも基本機能を維持することが可能でありつつ、他のプログラマブル回路(例えば、汎用プログラマブルマイクロプロセッサ)よりも少ない電力を使用し得ることで、LCP100のバッテリ寿命が長くなる可能性がある。他の例では、処理モジュール110は、プログラマブルマイクロプロセッサを含み得る。このようなプログラマブルマイクロプロセッサにより、植え込み後であっても使用者によるLCP100の制御ロジックの修正が可能となり得ることで、予めプログラムされたASICを使用する場合よりも、LCP100の高い柔軟性を確保する。いくつかの例では、処理モジュール110は、さらにメモリを含むことができ、処理モジュール110は、そのメモリに情報を保存し得るとともに、メモリから情報を読み取り得る。他の例では、LCP100は、処理モジュール110と通信する別個のメモリ(図示せず)を含むことができ、これにより、処理モジュール110は、その別個のメモリから情報を読み取り得るとともに、その別個のメモリに情報を書き込み得る。
【0039】
バッテリ112は、LCP100に対して、その動作のための電力を供給し得る。いくつかの例では、バッテリ112は、LCP100の有効寿命を長くするのに役立ち得る充電式バッテリであり得る。さらなる他の例では、バッテリ112は、必要に応じて、燃料電池などのような、他の何らかのタイプの電源であり得る。
【0040】
図1に示す例では、パルス発生器モジュール104は、電極114/114’に電気的に接続され得る。場合によっては、センサ118は、電気刺激機能を有してもよく、必要であれば、パルス発生器モジュール104に電気的に接続され得る。すなわち、電極114/114’のうちの1つ以上は、心臓電気信号を感知するためなど、センサ118電極として機能することがある。場合によっては、LCP100は、可制御スイッチを有することができ、これにより、パルス発生器モジュール104がペーシングパルスを供給するときに、電極114/114’の1つ以上をパルス発生器モジュール104に接続し、パルス発生器モジュール104がペーシングパルスを供給していないときに、電極114/114’の1つ以上を電気的感知モジュール106に接続し得る。
【0041】
パルス発生器モジュール104は、電気刺激信号を発生するように構成され得る。例えば、パルス発生器モジュール104は、LCP100内のバッテリ112に貯蔵されたエネルギーを用いることにより、電気的ペーシングパルスを発生及び送出し得るとともに、その発生したペーシングパルスを、電極114、114’及び/又はセンサ118によって供給し得る。代替的又は追加的に、パルス発生器104は、1つ以上のキャパシタを含むことができ、パルス発生器104は、バッテリ112からエネルギーを取り出すことにより、その1つ以上のキャパシタに充電し得る。次に、パルス発生器104は、1つ以上のキャパシタのエネルギーを使用して、発生したペーシングパルスを、電極114/114’及び/又はセンサ118によって供給し得る。少なくともいくつかの例では、LCP100のパルス発生器104は、パルス発生器104が電気刺激療法を施すために使用するのはどの電極114/114’及び/又はセンサ118(及び/又は他の電極)かを選択するために、電極114、114’及び/又はセンサ118の1つ以上をパルス発生器104に選択的に接続するためのスイッチング回路を含み得る。パルス発生器モジュール104は、2つ以上の異なるエネルギーレベルでペーシングパルスを供給するように構成され得る。これは、ペーシングパルスの振幅、パルス幅、パルス形状、及び/又は他のいずれかの適切な特性を制御することにより実現され得る。
【0042】
種々の実施形態によれば、センサ118は、患者の1つ以上の生理学的パラメータを感知するとともに、信号を電気的感知モジュール106及び/又は機械的感知モジュール108に送信するように構成され得る。例えば、それらの生理学的パラメータは、心臓電気信号を含むことができ、センサ118は、応答信号を電気的感知モジュール106に送信し得る。いくつかの例では、センサ118のうちの1つ以上は、加速度計であることができ、生理学的パラメータは、代替的又は追加的に、心臓運動及び/又は心音を含むことができ、センサ118は、対応する信号を機械的感知モジュール108に送信し得る。感知モジュール106及び/又は108は、感知された信号に基づいて、患者の心拍数、呼吸数、活動レベル、及び/又は他のいずれかの適切な生理学的パラメータのような、1つ以上の生理学的パラメータを特定又は測定し得る。この1つ以上の生理学的パラメータは、次に、処理モジュール110に送られ得る。
【0043】
場合によっては、患者の内因性心拍数は、デマンド心拍数閾値に達し、さらに/又はそれを下回って「通常デマンドゾーン」に入ることがある。この場合、処理モジュール110は、患者の心拍数がデマンド心拍数閾値を下回ることなく当該患者の心拍数を維持することを試みるように、電極114/114’を用いて設定エネルギーレベルでペーシングパルスを供給することをパルス発生器モジュール104に指示し、もって、デマンド型ペーシングを実施し得る。デマンド心拍数閾値は、下限心拍数などの固定心拍数であることができ、又は患者の活動レベルに依存する動的心拍数であり得る。バッテリ電力を節約する助けとするために、ペーシングパルスは、心臓の捕捉閾値(capture threshold)よりも高いが最大許容ペーシングエネルギーレベル未満である捕捉ペーシングエネルギーレベルで供給され得る。
【0044】
場合によっては、内因性心拍数は、上限正常心拍数閾値(normal heart rate upper threshold)まで上昇し、さらに/又はそれを上回って「ATPゾーン」に入ることがある。この場合、観察される内因性心拍数は、心室頻拍のときに観察されるような、頻拍ではあるが規則的なリズムであり得る。デマンド心拍数閾値と同様に、上限正常心拍数閾値は、固定心拍数であり得るものであり、又は患者の活動レベルに依存する動的心拍数であり得る。内因性心拍数が上限正常心拍数閾値に達し、さらに/又はそれを超えたことに応答して、処理モジュール110は、捕捉ペーシングエネルギーレベル(又は、必要に応じて高めたレベル)で抗頻脈性不整脈ペーシング(ATP:automatically perform anti−tachyarrhythmia−pacing)パルスを供給することをパルス発生器モジュール104に指示し、もって、ATP治療を自動的に実施するように構成され得る。この場合、LCP100は、ATPパルスを供給するようにLCPに通知する他の医療装置からのコマンドを最初に受信する必要なく、検出された心拍数に基づいて、ATP治療を自律的に開始し得ることに留意されたい。
【0045】
内因性心拍数が上限心拍数閾値まで上昇し、さらに/又はそれを上回って「ショック後ゾーン(Post Shock Zone)」に入る場合に、処理モジュール110は、供給される場合のペーシングパルスのエネルギーレベルを、ある期間にわたって、捕捉ペーシングエネルギーレベルよりも向上エネルギーレベルに一時的に設定することを、パルス発生器モジュール104に指示し得る。その期間の終了後に、ペーシングパルスのエネルギーレベルを、捕捉エネルギーレベルに戻し得る。その期間中に、供給される場合のペーシングパルスは、処理モジュール110が所与の時点でいずれも適切であると判断する治療に応じて、デマンド型ペーシングのペーシングパルス、ショック後ペーシングパルス、及び/又は抗頻脈性不整脈ペーシング(ATP)パルスであり得ることが想定される。
【0046】
上限心拍数閾値は、固定又はプログラム可能な閾値であり得る。患者の心拍数が上限心拍数閾値を超えて上昇した場合に、患者は頻脈さらには心細動を起こしている可能性があるように、上限心拍数閾値は、患者の安全心拍数よりも高い心拍数に設定され得る。他の医療装置(例えば、植込み型除細動器)により心臓にショックが与えられる可能性があることを見越して、処理モジュール110は、供給される場合のペーシングパルスのエネルギーレベルを、ある期間にわたって、捕捉ペーシングエネルギーレベルよりも向上エネルギーレベルに一時的に設定することを、パルス発生器モジュール104に指示し得る。その期間は、30秒、1分、3分、5分、10分、20分、30分、1時間、1日、又は他のいずれかの適切な期間であり得る。これにより、この期間中は、いくらかのペーシングパルスを向上エネルギーレベルで供給することにより、余分な電力を消費し得るが、それらのパルスは、他の医療装置によって心臓にショックが与えられる場合のショック後ペーシングとしては、より適切である。これにより、LCP100は、高エネルギーショックパルスを検出すること、又はショックが付与されることを他の医療装置からLCPに通知する伝達情報を受信すること、を最初に必要とすることなく、ショック後ペーシングのための向上エネルギーレベルにペーシングパルスを自律的に設定することが可能となることに留意されたい。ショックパルスが実際に付与されるか否かに関わりなく、処理モジュール110は、供給される場合のペーシングパルスのエネルギーレベルを、その期間の終了までは向上エネルギーレベルに一時的に設定するとともに、その後にエネルギーレベルを捕捉エネルギーレベルに戻すことを、パルス発生器モジュール104に指示し得る。場合によっては、その期間は、測定された心拍数が上限心拍数閾値を上回るたびにリセットされ得る。このように規定される場合、パルス発生器モジュール104は、少なくともその期間にわたって心拍数が上限心拍数閾値を下回ったままとなるまでは、エネルギーレベルを向上エネルギーレベルに維持する。
【0047】
場合によっては、処理モジュール110は、感知された心拍数が閾値率よりも高い率で低下するとき、及び/又は下限心拍数を下回って低下するとき、を検出し得る。心拍数が、正常な生理的範囲外の率で低下する場合、又は生命維持に必要な心拍数に満たない心拍数を下回って低下する場合には、ICDなどによって心臓にショックが与えられたものと推測され得る。これに応じて、処理モジュールは、期間の終了までは向上エネルギーレベルでペーシングパルス(例えば、ショック後ペーシングパルス)を供給するとともに、その後にエネルギーレベルを捕捉エネルギーレベルに戻すことを、パルス発生器モジュール104に指示し得る。これは、ある期間にわたって向上エネルギーレベルでペーシングパルスを一時的に供給するための選択的トリガであり得る。
【0048】
いくつかの実施形態では、LCP100は、通信モジュール102を含み得る。場合によっては、通信モジュール102は、LCP100の外部に配置された、リモートセンサのような装置、SICDのような他の医療装置、及び/又は同様のものと通信するように構成され得る。そのような装置は、患者の身体の外部又は内部のどちらに配置されてもよい。その位置に関わりなく、外部の(すなわち、LCP100の外部であるが、必ずしも患者の身体の外部とは限らない)装置は、1つ以上の所望の機能を果たすために、通信モジュール102によってLCP100と通信することが可能である。例えば、LCP100は、感知された電気信号、データ、命令、メッセージ、R波検出マーカなどのような情報を、通信モジュール102を経由して外部の医療装置(例えば、SICD及び/又はプログラマ)に伝達し得る。外部の医療装置は、様々な機能、すなわち、不整脈の発生を判定する、電気刺激療法を施す、受信したデータを保存する、及び/又は他のいずれかの適切な機能を実行するなど、様々な機能を実行するために、伝達された信号、データ、命令、メッセージ、R波検出マーカなどを用いることがある。LCP100は、さらに、信号、データ、命令、及び/又はメッセージのような情報を、外部の医療装置から通信モジュール102を経由して受信することがあり、LCP100は、不整脈の発生を判定する、電気刺激療法を施す、受信したデータを保存する、及び/又は他のいずれかの適切な機能を実行するなど、様々な機能を実行するために、受信した信号、データ、命令、及び/又はメッセージを用いることがある。通信モジュール102は、外部装置と通信するための1つ以上の方法を用いるように構成され得る。例えば、通信モジュール102は、高周波(RF:RadioFrequency)信号、誘導結合、光信号、音響信号、伝導通信信号、及び/又は通信に適した他のいずれかの信号によって、通信し得る。
【0049】
患者の体内にLCP100を植え込むために、術者(例えば、医師、臨床医など)は、LCP100を患者の心臓の心臓組織に固定し得る。固定を容易にするために、LCP100は、1つ以上のアンカ116を含み得る。アンカ116は、いくつかの固定機構又は係留機構のいずれか1つを含み得る。例えば、アンカ116は、1つ以上のピン、ステープル、スレッド、スクリュー、へリックス、タイン、及び/又は同様のものを含み得る。いくつかの例では、図示されていないものの、アンカ116は、その外面上に、アンカ116の長さの少なくとも一部に沿って延び得るスレッドを含み得る。それらのスレッドは、心臓組織内にアンカ116を固定するのを助けるために、心臓組織とアンカとの間に摩擦を付与し得る。他の例では、アンカ116は、周囲の心臓組織との係合を容易にするために、バーブ、スパイクなどのような他の構造を含み得る。
【0050】
図2は、例示的な植込み型リードレス心臓ペースメーカ(LCP:Leadless Cardiac Pacemaker)210の側面図である。LCP210は、上述したLCP100と同様の形態及び機能のものであり得る。LCP210は、上述したLCP100に関して既述したモジュール及び/又は構造的な機構のいずれかを有する制御モジュールを含み得る。LCP210は、近位端214及び遠位端216を有するシェル又はハウジング212を含み得る。例示的なLCP210は、ハウジング212に対して固定されるとともにハウジング212の遠位端216に隣接して配置された第1の電極220と、ハウジング212に対して固定されるとともにハウジング212の近位端214に隣接して配置された第2の電極222と、を含む。電極220、222は、電気療法及び/又はセンシング能力を提供するためのセンシング及び/又はペーシング電極であり得る。第1の電極220は、心臓の心臓組織に対して当接させて配置することが可能であり得るか、又はその他の方法で心臓の心臓組織に接触し得る一方、第2の電極222は、第1の電極220から離間し得る。第1の電極220及び/又は第2の電極222は、ハウジング212の外の環境(例えば、血液及び/又は組織)に露出され得る。
【0051】
場合によっては、LCP210は、ペーシング/センシング電極220、222を制御するための電気信号を電極220、222に供給するために、ハウジング212内にパルス発生器(例えば、電気回路)及びエネルギー貯蔵モジュール(例えば、バッテリ、スーパキャパシタ、及び/又はその他の電源)を含み得る。また、明示されていないが、LCP210は、上述したモジュール102、106、108、110と同様の形態及び機能である通信モジュール、電気的感知モジュール、機械的感知モジュール、及び/又は処理モジュール、さらに関連回路、を含み得る。各種モジュール及び電気回路は、ハウジング212内に配置され得る。パルス発生器と電極220、222との間の電気的接続によって、心臓組織への電気刺激及び/又は生理学的パラメータの感知が可能となり得る。
【0052】
図示の例では、LCP210は、ハウジング212の遠位端216の近傍に固定機構224を含む。固定機構224は、LCP210を心臓壁に装着するように、又はその他の方法でLCP210を患者の解剖学的構造に係留するように、構成される。いくつかの例では、固定機構224は、LCP210を組織壁に装着するために、心臓の心臓組織に係留される1つ以上若しくは複数のフック又はタイン226を含み得る。他の例では、固定機構224は、心腔内の肉柱に絡まるように構成された1つ以上若しくは複数のパッシブタイン、及び/又はLCP210を心臓に係留するために組織壁にねじ込まれるように構成されたヘリカル固定アンカを含み得る。これらは、ほんの一例である。
【0053】
LCP210は、さらに、ハウジング212の近位端214の近傍に、ドッキング部材230を含み得る。ドッキング部材230は、LCP210の送達及び/又は抜去を容易とするように構成され得る。例えば、ドッキング部材230は、ハウジング212の近位端214からハウジング212の長手軸に沿って延出し得る。ドッキング部材230は、ヘッド部232と、ハウジング212とヘッド部232との間に延びるネック部234と、を含み得る。ヘッド部232は、ネック部234に対して拡張された部分であり得る。例えば、ヘッド部232は、LCP210の長手軸からのネック部234の径方向寸法よりも大きい、LCP210の長手軸からの径方向寸法を有し得る。場合によっては、ドッキング部材230は、さらに、ヘッド部232から延出するか、又はヘッド部232内にくぼんだ、テザー保持構造236を含み得る。テザー保持構造236は、テザー又はその他の係留機構を貫通させて受け入れるように構成された開口238を画成し得る。保持構造236は、略「U字形状」の構成を有するものとして示しているが、保持構造236は、テザーを開口238に固定可能かつ解放可能に貫通させて(例えば、ループ状に)通し得るように、開口238を取り囲む閉じた外周を提供する任意の形状をとり得る。場合によっては、保持構造236は、ヘッド部232に貫通するとともにネック部234に沿って、ハウジング212の近位端214まで、又は近位端214の中に、及び得る。ドッキング部材230は、心臓内部位へのLCP210の送達、及び/又は心臓内部位からのLCP210の抜去、を容易とするように構成され得る。これは一例のドッキング部材230について説明しているが、設けられた場合の、ドッキング部材230は、任意の適切な構成を有し得ることが想定される。
【0054】
LCP210は、ハウジング212に結合されるか、又はハウジング212内に形成された、1つ以上の圧力センサ240を含み得ることが想定され、この圧力センサ(群)は、心臓内の血圧を測定するために、ハウジング212の外の環境に露出される。例えば、LCP210が左心室に留置される場合には、圧力センサ(群)240は、左心室内の圧力を測定し得る。LCP210が(心房の1つ又は右心室のような)心臓のその他の部分に留置される場合には、圧力センサ(群)は、心臓のその部分内の圧力を測定し得る。圧力センサ(群)240として、受圧ダイヤフラム及びそのダイヤフラム上のピエゾ抵抗素子を有するMEMS素子のようなMEMS素子、圧電センサ、容量性マイクロマシン超音波トランスデューサ(cMUT:capacitor−Micro−machined Ultrasonic Transducers)、コンデンサ、マイクロマノメータ、又は心内圧を測定するように構成された他のいずれかの適切なセンサ、が含まれることがある。圧力センサ(群)240は、本明細書に記載の機械的感知モジュールの一部であり得る。圧力センサ(群)240から得られる圧力測定値を、心周期にわたる圧力曲線の生成に使用し得ることが想定される。さらに詳細に後述するように、1つ以上の心周期にわたる圧力−インピーダンス・ループを生成するために、圧力測定値は、インピーダンス測定値(例えば、電極220と222の間のインピーダンス)と組み合わせて取得され得る。このインピーダンスは、心腔容積の代わりとなり得るので、圧力−インピーダンス・ループは、心臓の圧力−容積ループを表し得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、LCP210は、電極220、222間のインピーダンスを測定するように構成され得る。より一般的には、インピーダンスは、上述した追加電極114’のような他の電極対の間で測定され得る。場合によっては、インピーダンスは、心臓の同じ心腔(例えば、左心室)内に植え込まれた2つのLCPのような、2つの離間したLCPの間で、又は心臓の異なる心腔(例えば、右心室と左心室)に植え込まれた2つのLCPの間で、測定され得る。LCP210の処理モジュール及び/又は外部の補助装置は、電極220、222(又は他の電極)間で測定された心内インピーダンス測定値から、心臓容積の測定値を導出し得る。主に血液の抵抗率及び心臓の心臓組織の抵抗率の違いによって、インピーダンス測定値は、LCPを取り巻く血液量(ひいては、心腔の容積)が変化するのに伴って、心周期の間に変化し得る。場合によっては、心臓容積の測定値は、実際の測定値ではなく相対的な測定値であり得る。場合によっては、LCP(群)の植え込みの際に実行されることがある校正プロセスによって、心内インピーダンスを、心臓容積の実際の測定値に相関させ得る。校正プロセスでは、蛍光透視法などを用いて、実際の心臓容積を判定することができ、そして、その実際の心臓容積に、測定されたインピーダンスを相関させ得る。
【0056】
場合によっては、LCP210は、2つの電極220、222(又は他の電極対)の間のインピーダンスを判定するために、第1の電極220と第2の電極222の間に電流を流すように、第1の電極220及び第2の電極222に動作可能に接続されたエネルギー供給回路を備え得る。また、このエネルギー供給回路は、第1の電極220及び/又は第2の電極222によってペーシングパルスも供給するように構成され得ることが想定される。LCP210は、さらに、第1の電極220と第2の電極222の間に受ける電気信号を検出するために、第1の電極220及び第2の電極222に動作可能に接続された検出回路を含み得る。いくつかの例では、検出回路は、第1の電極220と第2の電極222の間に受ける心臓信号を検出するように構成され得る。
【0057】
エネルギー供給回路が、第1の電極220と第2の電極222の間に電流を供給すると、検出回路は、インピーダンスを判定するために、その結果としての、第1の電極220と第2の電極222の間の(又は、第1の電極220及び第2の電極222とは別の、図示していない第3の電極と第4の電極の間の)電圧を測定し得る。エネルギー供給回路が、第1の電極220と第2の電極222の間に電圧を供給すると、検出回路は、インピーダンスを判定するために、その結果としての、第1の電極220と第2の電極222の間の(又は、第1の電極220及び第2の電極222とは別の、第3の電極と第4の電極の間の)電流を測定し得る。
【0058】
これらの測定値及びその他の測定値から、心拍数、呼吸量、1回拍出量、収縮性、及びその他の生理学的パラメータを導出することが可能である。
図3は、心臓306に植え込まれた例示的なLCP300を示している。図3では、LCP300は、心臓306の左心室の内部に固定されたものとして示している。場合によっては、LCP300は、必要に応じて、心臓の右心室、右心房、左心室、又は左心房にあり得る。場合によっては、1つよりも多くのLCP300を植え込み得る。例えば、1つのLCP300を右心室に植え込むことができ、他のLCPを右心房に植え込み得る。他の例では、1つのLCP300を右心室に植え込むことができ、他のLCPを左心室に植え込み得る。さらなる他の例では、心腔のそれぞれに1つのLCP300を植え込み得る。
【0059】
種々の実施形態によれば、LCP300は、ハウジング302の外部から発生する電気信号を感知するための電極304を有するハウジング302を含み得る。電極304は、感知された心臓信号を、ハウジング302に配置された制御モジュールに供給するように構成され得る。これにより、制御モジュールは、心臓信号に基づいて、心臓306の心拍数を判定し得るとともに、電極304によって心臓306にペーシングパルスを供給することをパルス発生器に指示し得る。
【0060】
種々の実施形態によれば、制御モジュールは、LCP300によるデマンド型ペーシングを施行させ得る。デマンド型ペーシングでは、LCP300は、心拍数を監視し得るとともに、内因性心拍数が低すぎる場合、及び/又は心拍の欠落が生じている場合に、1つ以上の電気的ペーシングパルスを心臓306に送出し得る。すなわち、内因性心拍数が下限心拍数閾値を下回って低下すると、LCP300は、心臓を下限心拍数閾値でペーシングし得るとともに、欠落した内因性心拍をペーシングし得る。一例において、デマンド型ペーシングでは、制御モジュールが電極304から心臓信号を受信すると、制御モジュールは、その心臓信号を解析して、心拍数の測定値を判定し得る。場合によっては、判定される心拍数の測定値は、前に記録された複数の心拍すなわち一群の心拍の、平均心拍数であり得る。いくつかの実施形態では、制御モジュールは、次に、その心拍数の測定値を、下限心拍数閾値(例えば、固定心拍数閾値(fixed heart rate threshold)又はデマンド心拍数閾値)と比較し得る。場合によっては、制御モジュールは、心拍数の測定値が下限心拍数閾値を下回らないように維持するように、プログラムされ得る。これにより、制御モジュールは、内因性心拍数が60bpm(beats per minute)などの下限心拍数閾値を下回って低下する場合に、下限心拍数閾値かつ第1のエネルギーレベルで電気的ペーシングパルスを、電極304を用いて供給することを、パルス発生器に指示する。下限心拍数閾値は、70bpm、60bpm、50bpm、45bpm、40bpmなどのような、任意の適切な心拍数であり得る。下限心拍数閾値は、下限心拍数などの固定心拍数であり得ること、又は患者の活動レベルに依存する動的心拍数であり得ること、が想定される。
【0061】
種々の実施形態において、ペーシングパルスの所望のエネルギーレベルによって、心臓に供給される電気的ペーシングパルスの振幅及び/又はパルス幅が決まり得る。いくつかの実施形態において、第1のエネルギーレベルでは、それぞれ1msの電気パルス幅及び5.0Vの振幅を有するペーシングパルスを供給し得る。いくつかの実施形態において、第1のエネルギーレベルでは、それぞれ0.5msの電気パルス幅及び4.0Vの振幅を有するペーシングパルスを供給し得る。さらなる実施形態において、第1のエネルギーレベルでは、それぞれ0.25msの電気パルス幅及び3.0Vの振幅を有するペーシングパルスを供給し得る。これらは、ほんの一例であり、デマンド型ペースメーカが供給する電気パルスの第1のエネルギーレベルとして、他の振幅及びパルス幅を指定し得る。いくつかの例では、第1のエネルギーレベルは、捕捉閾値試験の結果に基づいて設定され得る。例えば、第1のエネルギーレベルは、捕捉閾値に捕捉閾値マージンを加えた値に設定され得る。いくつかの例では、エネルギーレベルを変更することは、振幅のみを変更してパルス幅を同じに維持すること、又はパルス幅を変更して振幅を同じに維持すること、又は振幅とパルス幅の両方を変更すること、であり得る。
【0062】
場合によっては、パルス発生器が第1のエネルギーレベルでペーシングパルスを供給している間に、制御モジュールは、引き続き、電極304を用いて心臓信号を感知するとともに、心拍数を判定し、かつ、監視し得る。場合によっては、制御モジュールは、引き続き、内因性心拍数が下限心拍数閾値を上回るまで電気的ペーシングパルスを供給することを、パルス発生器に指示し得る。
【0063】
種々の実施形態によれば、制御モジュールは、LCP300によるATP治療パルスの供給を行わせ得る。ATP治療では、LCP300は、心拍数を監視し得るとともに、内因性心拍数が正常心拍数を上回る場合に、1つ以上の電気的ペーシングパルスを心臓306に送出し得る。一例において、ATP治療では、制御モジュールが電極304から心臓信号を受信すると、制御モジュールは、その心臓信号を解析して、心拍数の測定値を判定し得る。場合によっては、判定される心拍数の測定値は、前に記録された複数の心拍すなわち一群の心拍の、平均心拍数であり得る。いくつかの実施形態では、制御モジュールは、次に、その心拍数の測定値を、上限心拍数閾値(例えば、固定心拍数閾値又は正常心拍数閾値(normal heart rate threshold))と比較し得る。場合によっては、制御モジュールは、適切であればATP治療を施すことにより、心拍数の測定値が上限心拍数閾値を超えて上昇しないように維持することを試みるように、プログラムされ得る。これにより、制御モジュールは、内因性心拍数が140bpmなどの上限心拍数閾値を超えて上昇する場合に、第1のエネルギーレベルでATP治療パルスを、電極304を用いて供給することを、パルス発生器に指示し得る。上限心拍数閾値は、155bpm、150bpm、145bpm、135bpmなどのような、任意の適切な心拍数であり得る。上限心拍数閾値は、上限心拍数などの固定心拍数であり得ること、又は患者の活動レベルに依存する動的心拍数であり得ること、が想定される。
【0064】
場合によっては、パルス発生器が第1のエネルギーレベルでATPパルスを供給している間に、制御モジュールは、引き続き、電極304を用いて心臓信号を感知するとともに、心拍数を判定し、かつ、監視し得る。場合によっては、制御モジュールは、引き続き、内因性心拍数が上限心拍数閾値を下回るまで、又は予め設定された期間が経過するまで、ATPパルスを供給することを、パルス発生器に指示し続け得る。
【0065】
心拍数の測定値を監視しているときに、制御モジュールは、心拍数が上限心拍数閾値を超えて上昇するときを検出し得る。心拍数が上限心拍数閾値を下回っている場合には、上述したように、第1のエネルギーレベルでペーシングパルスを供給し得る。一方、心拍数が上限心拍数閾値を超えて上昇する場合には、制御モジュールは、ある期間にわたって、第1のエネルギーレベルよりも向上エネルギーレベルでペーシングパルスを一時的に供給させることができ、その期間後に、再び第1のエネルギーレベルでペーシングパルスが供給され得る。その期間中に、向上エネルギーレベルで供給されるペーシングパルスは、所与の時点でいずれも適切であると判断される治療に応じて、デマンド型ペーシングのペーシングパルス、ショック後ペーシングパルス、及び/又は抗頻脈性不整脈ペーシング(ATP)パルス、であり得ることが想定される。
【0066】
上限心拍数閾値は、固定可能又はプログラム可能な閾値であり得る。患者の心拍数が上限心拍数閾値を超えて上昇した場合に、患者は頻脈さらには心細動を起こしている可能性があるように、上限心拍数閾値は、患者の安全心拍数よりも高い心拍数に設定され得る。他の医療装置(例えば、植込み型除細動器)により心臓にショックが与えられる可能性があることを見越して、LCP300の制御モジュールは、ある期間にわたって、ペーシングパルスを第1のエネルギーレベルよりも向上エネルギーレベルで一時的に供給することを、LCP300のパルス発生器モジュールに指示し得る。その期間は、30秒、1分、3分、5分、10分、20分、30分、1時間、1日、又は他のいずれかの適切な期間であり得る。この期間中は、より低い第1のエネルギーレベルではなく向上エネルギーレベルでペーシングパルスを供給し、もって、余分な電力を消費し得る一方、該ペーシングパルスは、他の医療装置によって心臓にショックが与えられる場合のショック後ペーシングパルスとしては、より適切であるものとして供給されるペーシングパルスである。これは、LCP300が所与の回路を有する必要なく、すなわち、高エネルギーショックパルスを検出するための回路、又はショックが付与されることを他の医療装置からLCP300に通知する伝達情報を受信するための回路を有する必要なく、ショック後ペーシングのための向上エネルギーレベルにペーシングパルスを自律的に設定することが可能となることに留意されたい。ショックパルスが実際に付与されるか否かに関わりなく、制御モジュールは、その期間の終了までは向上エネルギーレベルでペーシングパルスを一時的に供給するとともに、その後に第1のエネルギーレベルに戻してペーシングパルスを供給することを、パルス発生器モジュールに指示し得る。場合によっては、その期間は、測定された心拍数が上限心拍数閾値を上回るたびにリセットされ得る。このように規定される場合、LCP300の制御モジュールは、その期間にわたって心拍数が上限心拍数閾値を下回ったままとなるまでは、向上エネルギーレベルでペーシングパルスを供給し得る。その期間中に、向上エネルギーレベルで供給されるペーシングパルスは、所与の時点でいずれも制御モジュールが適切であると判断する治療に応じて、デマンド型ペーシングのペーシングパルス、ショック後ペーシングパルス、及び/又は抗頻脈性不整脈ペーシング(ATP)パルス、であり得ることが想定される。
【0067】
場合によっては、制御モジュールは、感知された心拍数が閾値よりも高い率で低下するとき、及び/又は下限心拍数を下回って低下するとき、を検出し得る。心拍数が、正常な生理的範囲外の率で低下する場合、又は生命維持に必要な心拍数に満たない心拍数を下回って低下する場合には、制御モジュールは、ICDによって心臓にショックが与えられたものと推測し得る。これに応じて、制御モジュールは、ある期間の終了までは向上エネルギーレベルでペーシングパルスを一時的に供給するとともに、その後に第1のエネルギーレベルに戻してペーシングパルスを供給することを、LCP300のパルス発生器モジュールに指示し得る。これは、ある期間にわたって向上エネルギーレベルでペーシングパルスを一時的に供給するための選択的トリガであり得る。
【0068】
いくつかの所定の実施形態において、向上エネルギーレベルでは、1.5msの電気パルス幅及び5.0Vの振幅を有し得る。いくつかの実施形態において、向上エネルギーレベルでは、1.5msの電気パルス幅及び7.0Vの振幅を有し得る。いくつかの実施形態において、向上エネルギーレベルでは、2msの電気パルス幅及び8.0Vの振幅を有し得る。さらなる実施形態において、向上エネルギーレベルでは、2.5msの電気パルス幅及び8.5Vの振幅を有し得る。これらは、ほんの一例であり、向上エネルギーレベルとして、他の振幅及びパルス幅を指定し得る。場合によっては、向上エネルギーレベルでは、最大電圧である振幅を有することができ、パルス幅は、第1のエネルギーレベルに用いるのと同じであるか、又はそれよりも大きい。場合によっては、制御モジュールは、第1のエネルギーレベルと向上エネルギーレベルの間で切り替えるときに、電気的ペーシングパルスのパルス振幅のみを変更してパルス幅は同じままとすることができ、又はパルス幅を変更してパルス振幅は同じままとすることができ、又はパルス振幅とパルス幅の両方を変更し得る。
【0069】
図4は、本発明の一例による、同時に植え込まれた経静脈植込み型除細動器(T−ICD)400とLCP402の概略図である。図4では、ICD400は、1つ以上の電極404を有するリード406に結合されたパルス発生器403を含み得る。場合によっては、それらの電極404は、心臓410内に留置され得る。パルス発生器403、リード406、及び電極404の位置は、単なる例示的なものである。場合によっては、パルス発生器403、リード406、及び/又は電極404は、心臓410の異なる心腔に留置されることができ、又は、パルス発生器403は、心臓410内又は心臓410に隣接して留置される追加のリード及び/又は電極を含み得る。種々の実施形態によれば、ICD400は、心臓410にショックを与えるように構成され得る。
【0070】
LCP402は、上述したLCP100、210、300と同様に動作し得る。LCP402は、デマンド型ペーシングを施すように構成され得る。デマンド型ペーシングでは、LCP402は、心拍数を監視し得るとともに、内因性心拍数が低すぎる場合、及び/又は心拍の欠落が生じている場合に、1つ以上の電気的ペーシングパルスを心臓410に送出し得る。すなわち、内因性心拍数が下限心拍数閾値を下回って低下すると、LCP402は、心臓を下限心拍数閾値でペーシングし得るとともに、欠落した内因性心拍をペーシングし得る。一例において、デマンド型ペーシングでは、LCP402がその電極から心臓信号を受信すると、LCP402は、その心臓信号を解析して、心拍数の測定値を特定し得る。場合によっては、特定される心拍数の測定値は、前に記録された複数の心拍すなわち一群の心拍の、平均心拍数であり得る。いくつかの実施形態では、LCP402は、次に、その心拍数の測定値を、下限心拍数閾値(例えば、固定心拍数閾値又はデマンド心拍数閾値)と比較し得る。場合によっては、LCP402は、心拍数の測定値が下限心拍数閾値を下回らないように維持するように、プログラムされ得る。これにより、LCP402は、内因性心拍数が60bpmなどの下限心拍数閾値を下回って低下する場合に、下限心拍数閾値かつ第1のエネルギーレベルで電気的ペーシングパルスを供給する。
【0071】
心拍数の測定値を監視しているときに、制御モジュールは、心拍数が上限心拍数閾値を超えて上昇するときを検出し得る。心拍数が上限心拍数閾値を超えて上昇する場合には、LCP402は、ATP治療を施すように構成され得る。ATP治療では、LCP402は、心拍数を監視し得るとともに、内因性心拍数が高すぎる場合に、1つ以上の電気的ペーシングパルスを心臓410に送出し得る。一例において、ATP治療では、LCP402がその電極から心臓信号を受信すると、LCP402は、その心臓信号を解析して、心拍数の測定値を特定し得る。場合によっては、特定される心拍数の測定値は、前に記録された複数の心拍すなわち一群の心拍の、平均心拍数であり得る。いくつかの実施形態では、LCP402は、次に、その心拍数の測定値を、上限心拍数閾値(例えば、固定心拍数閾値又はデマンド心拍数閾値)と比較し得る。場合によっては、LCP402は、適切であればATP治療を施すことにより、心拍数の測定値が上限心拍数閾値を超えて上昇しないように維持することを試みることがある。これにより、LCP402は、内因性心拍数が140bpmなどの上限心拍数閾値を超えて上昇する場合に、第1のエネルギーレベルでATP治療を施し得る。
【0072】
心拍数の測定値を監視しているときに、制御モジュールは、心拍数が上限心拍数閾値を超えて上昇するときを検出し得る。心拍数が上限心拍数閾値を下回っている場合には、上述したように、第1のエネルギーレベルでペーシングパルスを供給し得る。一方、心拍数が上限心拍数閾値を超えて上昇する場合には、LCP402は、ある期間にわたって、第1のエネルギーレベルよりも向上エネルギーレベルでペーシングパルスを一時的に供給させることができ、その期間後に、再び第1のエネルギーレベルでペーシングパルスが供給され得る。その期間中に、向上エネルギーレベルで供給されるペーシングパルスは、所与の時点でいずれも適切であると判断される治療に応じて、デマンド型ペーシングのペーシングパルス、ショック後ペーシングパルス、及び/又は抗頻脈性不整脈ペーシング(ATP)パルス、であり得ることが想定される。
【0073】
上限心拍数閾値は、固定又はプログラム可能な閾値であり得る。患者の心拍数が上限心拍数閾値を超えて上昇した場合に、患者は頻脈さらには心細動を起こしている可能性があるように、上限心拍数閾値は、患者の安全心拍数よりも高い心拍数に設定され得る。ICD400により心臓にショックが与えられる可能性があることを見越して、LCP402は、ある期間にわたって、ペーシングパルスを第1のエネルギーレベルよりも向上エネルギーレベルで一時的に供給し得る。これにより、この期間中は、より低い第1のエネルギーレベルではなく向上エネルギーレベルでペーシングパルスを供給し、もって、余分な電力を消費し得るが、それらのペーシングパルスは、ICD400によって心臓410にショックが与えられる場合のショック後ペーシングパルスとしては、より適切であるものとして供給されるペーシングパルスである。これにより、LCP402は、高エネルギーショックパルスを検出するため、又はショックが付与されることをICD400からLCP402に通知する伝達情報を受信するため、の回路を有する必要なく、ショック後ペーシングのための向上エネルギーレベルにペーシングパルスを自律的に設定することが可能となることに留意されたい。その期間中にショックパルスがICD400によって実際に付与されるか否かに関わりなく、LCP402は、その期間の終了までは向上エネルギーレベルでペーシングパルスを一時的に供給し得るとともに、その後に第1のエネルギーレベルに戻してペーシングパルスを供給し得る。場合によっては、その期間は、測定された心拍数が上限心拍数閾値を上回るたびにリセットされ得る。このように規定される場合、LCP402は、その期間にわたって心拍数が上限心拍数閾値を下回ったままとなるまでは、向上エネルギーレベルでペーシングパルスを供給し得る。その期間中に、向上エネルギーレベルで供給されるペーシングパルスは、所与の時点でいずれも制御モジュールが適切であると判断する治療に応じて、デマンド型ペーシングのペーシングパルス、ショック後ペーシングパルス、及び/又は抗頻脈性不整脈ペーシング(ATP)パルス、であり得ることが想定される。
【0074】
場合によっては、LCP402は、感知された心拍数が閾値よりも高い率で低下するとき、及び/又は下限心拍数を下回って低下するとき、を検出し得る。心拍数が、正常な生理的範囲外の率で低下する場合、又は生命維持に必要な心拍数に満たない心拍数を下回って低下する場合には、LCP402は、ICD400によって心臓にショックが与えられたものと推測し得る。これに応じて、LCP402は、ある期間の終了までは向上エネルギーレベルでペーシングパルスを一時的に供給し得るとともに、その後に第1のエネルギーレベルに戻してペーシングパルスを供給し得る。これは、ある期間にわたって向上エネルギーレベルでペーシングパルスを一時的に供給するための選択的トリガであり得る。
【0075】
場合によっては、ICD400は、心臓410を監視し得るとともに、心細動、又は高エネルギーショック治療の施与を必要とする他の症状を、心臓410が起こしているかどうかを判定し得る。これには、収縮速度が速い、不規則な、及び/又は非効率的な心収縮を検出することが含まれ得る。場合によっては、ICD400は、ショック治療を施す前に、抗頻脈性不整脈ペーシング(ATP)パルスを心臓410に供給するためのATPコマンドをLCP402に伝達することがある。場合によっては、抗頻脈性不整脈ペーシング(ATP)パルスは、高エネルギーショックを与えることなく、心臓410を正常なリズムに回復させることがある。LCP402は、ATPコマンドを受信して、要求されたATPパルスを供給し得る。場合によっては、ATPパルスのエネルギーレベルは、向上エネルギーレベルであり得る。場合によっては、LCP402は、既に高い心拍数を検出して、(ある期間にわたって)供給するパルスのエネルギーレベルを向上エネルギーレベルに既に調整していることがある。他の場合には、LCP402は、ICD400からATPコマンドを受信したことに応じて、供給するパルスのエネルギーレベルを調整し得る。
【0076】
図5は、本発明の一例による、同時に植え込まれた皮下又は胸骨下植込み型除細動器(S−ICD)500とLCP502の概略図である。図5では、LCP502は、心臓510の左心室の内部に固定されたものとして示している。皮下又は胸骨下植込み型除細動器(S−ICD)500は、心臓の近傍に植え込まれたものとして示している。例示的な皮下又は胸骨下植込み型除細動器(S−ICD)500は、皮下に植え込まれることがあるパルス発生器506と、1つ以上の電極508a〜508cを有するリード512と、を含み、リード512は、心臓510の外側で心臓510に隣接して、皮下又は胸骨下(例えば、胸骨の直ぐ内側)に延びる。パルス発生器506は、電極508a〜508cの1つ以上のものによって、心臓にショックを与えるように構成される。LCP502は、図4に関して既述したLCPと同様に動作し得るが、ただし、経静脈ICD400ではなく、皮下又は胸骨下植込み型除細動器(S−ICD)500でショック治療を施すように構成される。
【0077】
図6A図6Fは、様々な動作条件下でのLCPの例示的な動作を示すタイミング図である。図6A図6Fに示すのは、内因性心拍数602、デマンド心拍数閾値604、ATP閾値624、上限閾値606、生命維持閾値608、有効エネルギーレベル610、及びペーシング治療612のトレースである。種々の実施形態によれば、LCPは、内因性心拍数602を監視し得るとともに、内因性心拍数602が低すぎるとき、心拍数の急激な低下があるとき、及び/又は内因性心拍の抜け又は欠落が生じている場合には、心臓に電気的ペーシングパルスを供給し得る。
【0078】
特に図6Aを参照して、内因性心拍数602は、最初は、デマンド心拍数閾値604を上回るとともに、上限閾値606を下回っている。場合によっては、内因性心拍数602は、前に記録された複数の心拍すなわち一群の心拍の、平均心拍数であり得る。デマンド心拍数閾値604は、患者の活動、呼吸、血液温度、生体組織温度などの変化によって検出されるような、血行力学的要求の変動によって変化し得る。図6A図6Fには示していないが、デマンド心拍数閾値604は、固定心拍数閾値(例えば、70bpm、60bpm、50bpm、40bpmなど)であり得ることが想定される。
【0079】
上限閾値606は、(例えば、血行力学的要求の変動に応じて)可変であるか、固定であるか、及び/又はプログラム可能な閾値であり得る。図6Aでは、上限閾値606は、固定心拍数閾値である。種々の実施形態において、患者の心拍数が上限閾値606を超えて上昇した場合に、患者は頻脈さらには心細動を起こしている可能性があるように、上限閾値606は、患者の安全心拍数よりも高い心拍数に設定され得る。最初は、内因性心拍数602は上限閾値606を下回っており、かつ、内因性心拍数602は最大減少閾値よりも高い率で低下していないので、LCPが供給するペーシングパルスの有効エネルギーレベル610は、第1のエネルギーレベルに設定され得る。
【0080】
図6Aに示すように、点Aにおいて、内因性心拍数602はデマンド心拍数閾値604を下回った。場合によっては、LCPは、内因性心拍数がデマンド心拍数閾値604を下回って低下すると、心臓をペーシングし得る。図6Aに示すように、内因性心拍数602がデマンド心拍数閾値604を超えて上昇する時点である点Bまで、第1のエネルギーレベルでペーシング治療612が施される。これは、患者の心拍数がデマンド心拍数閾値604などの下限心拍数閾値を下回る低下抑止確保の一助とするデマンド型ペーシングの一例である。LCPは、デマンド型ペーシングの実施中に、内因性心拍数が下限心拍数閾値(例えば、デマンド心拍数閾値604)を下回って低下すると、心臓を下限心拍数閾値(例えば、デマンド心拍数閾値604)でペーシングし得る。
【0081】
点Bの後に、内因性心拍数602は引き続き上昇するので、有効エネルギーレベル610は依然として第1のエネルギーレベルに設定される。点Cで、内因性心拍数602は上限閾値606に達し、この時点で、LCPは、有効エネルギーレベル610を向上エネルギーレベルに増加させる。デマンド型ペーシングの場合には、図6Aに示すように、内因性心拍数602がデマンド心拍数閾値604を上回ったままである間は、LCPは、向上エネルギーレベルでペーシング治療612を心臓に施さなく得る。いくつかの実施形態では、ある期間にわたって、有効エネルギーレベル610を、向上エネルギーレベルに増加させ得る。図6Aでは、その期間は、10分間に設定されている。10分の期間中に、向上エネルギーレベルのペーシングパルスでペーシング治療612を施すことが想定される。ペーシング治療612は、所与の時点でいずれも適切であると判断されるペーシング治療に応じて、デマンド型ペーシングのペーシングパルス、ショック後ペーシングパルス、抗頻脈性不整脈ペーシング(ATP)パルス、及び/又は他のいずれかの適切な治療であり得る。図6Aに示すように、内因性心拍数602は、10分の期間が終了する前に、再び上限閾値606を下回るように低下する。その後、LCPは、10分の期間が終了した時点である点Dで、有効エネルギーレベル610を第1のエネルギーレベルに戻すように減少させる。
【0082】
次に図6Bを参照して、内因性心拍数602は、最初は上限閾値606を下回っており、かつ、内因性心拍数602は最大減少閾値よりも高い率で低下していない。従って、LCPは、LCPが供給するペーシングパルスの有効エネルギーレベル610を、第1のエネルギーレベルに設定し得る。その後、内因性心拍数602は上昇して、点Aで上限閾値606に達する。これに応じて、LCPは、10分間のような期間にわたって、有効エネルギーレベル610を向上エネルギーレベルに設定し得る。10分間が終了する前に、点Bで、内因性心拍数602は、再び上限閾値606を下回るように低下するが、有効エネルギーレベル610は、向上エネルギーレベルのまま維持され得る。点Cで、内因性心拍数602は、再び上限閾値606を超えて上昇する。場合によっては、図6Bに示すように、内因性心拍数602が上限閾値606を上回った前回(点A)から10分の期間が終了する前に内因性心拍数602が上限閾値606を超えて上昇した場合には、その期間をゼロに戻すようにリセットすることができ、これにより、点Cから10分後まで、有効エネルギーレベル610は向上エネルギーレベルに維持され得る。リセットされた10分タイマが満了する前に、点Dで、内因性心拍数602は、再び上限閾値606を下回るように低下し、有効エネルギーレベル610は、向上エネルギーレベルのまま維持され得る。点Eで、内因性心拍数602は、再び上昇して上限閾値606を三度上回り、10分の期間が再びリセットされる。10分間が終了する前に、点Fで、内因性心拍数602は、再び上限閾値606を下回るように低下する。有効エネルギーレベル610は、10分の期間が最終的に終了する時点である点Gまで、向上エネルギーレベルのまま維持される。本例では、有効エネルギーレベル610は、内因性心拍数602が上限閾値606を超えて正方向に上昇した最後の時点から後の10分間にわたって、向上エネルギーレベルに維持される。
【0083】
点Hで、内因性心拍数602は再び上限閾値606まで上昇し、有効エネルギーレベル610は、上述したように延長されることがある10分の期間にわたって、第1のエネルギーレベルから向上エネルギーレベルに再び増加され得る。点Iで、内因性心拍数602は、最大減少閾値よりも高い率で低下し始めた。これは、ICDが患者の心臓にショックを付与した可能性があることを示し得る。従って、LCPは、向上エネルギーレベルでショック後ペーシング治療614を施すように構成され得る。図6Bに示すように、ショック後ペーシング治療614は、内因性心拍数602がデマンド心拍数閾値604を超えて上昇する時点である点Jまで、施与され得る。場合によっては、ショック後ペーシング治療614は、予め設定された期間にわたって、又は内因性心拍数602が安定するまで、施与され得る。点Jの後に、もはやショック後ペーシング治療614は施与されていなくても、本例では、10分の時間枠が満了した時点である点Kまでは、有効エネルギーレベル610を第1のエネルギーレベルに戻すように減少させなく得る。
【0084】
次に図6Cを参照して、最初の内因性心拍数602は、上限閾値606を下回っており、かつ、内因性心拍数602は最大減少閾値よりも高い率で低下していない。従って、LCPが供給するペーシングパルスの有効エネルギーレベル610を、第1のエネルギーレベルに設定し得る。点Aで、内因性心拍数602は、最大減少閾値よりも高い率で低下し始めた。これに応じて、本例では、有効エネルギーレベル610を、向上エネルギーレベルに即時に増加させることができ、この向上エネルギーレベルのパルスを用いて、ショック後ペーシング治療614を施し得る。図6Cに示すように、内因性心拍数602が安定した時点である点B(又は予め設定された期間後)まで、ショック後ペーシング治療614を施し得る。本例では、内因性心拍数602は、最大減少閾値よりも高い率で低下し始める前に、上限閾値606を超えて上昇しなかったので、内因性心拍数602が安定したら(又は予め設定された期間後に)、有効エネルギーレベル610を第1のエネルギーレベルに戻すように減少させ得る。しかしながら、ある期間にわたって、有効エネルギーレベル610を向上エネルギーレベルに維持し得ることが想定される。
【0085】
点Cで、内因性心拍数602は、最大減少閾値よりも高い率で再び低下し始めて、引き続きデマンド心拍数閾値604及び生命維持閾値608を下回って低下する。この場合、有効エネルギーレベル610を、再び向上エネルギーレベルに即時に増加させることができ、内因性心拍数602がデマンド心拍数閾値604を超えて上昇する時点である点Dまで、ショック後ペーシング治療614を施し得る。場合によっては、ショック後ペーシング治療614は、予め設定された期間にわたって、又は内因性心拍数602が安定するまで、施与され得る。先と同じく、本例では、内因性心拍数602は、最大減少閾値よりも高い率で低下し始める前に、上限閾値606を超えて上昇しなかったので、内因性心拍数602が安定したら(又は予め設定された期間後に)、有効エネルギーレベル610を第1のエネルギーレベルに戻すように減少させ得る。しかしながら、ある期間にわたって、有効エネルギーレベル610を向上エネルギーレベルに維持し得ることが想定される。
【0086】
点Eで、内因性心拍数602は、デマンド心拍数閾値604を下回って低下した。本例では、内因性心拍数602がデマンド心拍数閾値604を超えて上昇する時点である点Fまで、第1のエネルギーレベルでデマンド型ペーシング治療612を施す。点Fの後に、内因性心拍数602は引き続き上昇するので、有効エネルギーレベル610は依然として第1のエネルギーレベルに設定される。
【0087】
次に図6Dを参照して、最初の内因性心拍数602は、上限閾値606を下回っており、かつ、内因性心拍数602は最大減少閾値よりも高い率で低下していない。従って、LCPが供給するペーシングパルスの有効エネルギーレベル610を、第1のエネルギーレベルに設定し得る。図6Dに示すように、点Aで、内因性心拍数602は上限閾値606まで上昇する。これに応じて、本例では、10分の期間にわたって、有効エネルギーレベル610を、向上エネルギーレベルに増加させ得る。点Bで、10分の期間は終了して、内因性心拍数602は上限閾値606を上回ったままである。本例では、まだ内因性心拍数602が上限閾値606を下回って低下していなくても、有効エネルギーレベル610を第1のエネルギーレベルに戻すように減少させ得る。点Cで、内因性心拍数602は、上限閾値606を下回って低下する。点Dで、内因性心拍数602は再び上限閾値606まで上昇し、有効エネルギーレベル610を、10分の期間にわたって、向上エネルギーレベルに再び増加させ得る。点Eで、内因性心拍数602は、最大減少閾値よりも高い率で低下し始める。これは、ICDが患者の心臓にショックを付与した可能性があることを示し得る。従って、向上エネルギーレベルでショック後ペーシング治療614を施し得る。図6Dに示すように、ショック後ペーシング治療614は、内因性心拍数602がデマンド心拍数閾値604を超えて上昇する時点である点Fまで、施与され得る。場合によっては、ショック後ペーシング治療614は、予め設定された期間にわたって、又は内因性心拍数602が安定するまで、施与され得る。10分の期間が終了する時点である点Gまでは、有効エネルギーレベル610を第1のエネルギーレベルに戻すように減少させなく得る。
【0088】
次に図6Eを参照して、最初の内因性心拍数602は、上限閾値606を下回っており、かつ、内因性心拍数602は最大減少閾値よりも高い率で低下していない。従って、LCPが供給するペーシングパルスの有効エネルギーレベル610を、第1のエネルギーレベルに設定し得る。図6Eに示すように、点Aで、内因性心拍数602は上限閾値606まで上昇する。これに応じて、図示のように、10分の期間にわたって、有効エネルギーレベル610を、向上エネルギーレベルに増加させ得る。点Bで、10分の期間は終了して、内因性心拍数602は上限閾値606を上回ったままである。本例では、10分の期間が終了しても、有効エネルギーレベル610を向上エネルギーレベルに維持する。点Cで、内因性心拍数は、上限閾値606を下回って低下し、このとき、有効エネルギーレベル610を第1のエネルギーレベルに戻すように減少させる。点Dで、内因性心拍数602は再び上限閾値606まで上昇し、有効エネルギーレベル610は、新たな10分の期間にわたって、向上エネルギーレベルに再び増加され得る。点Eで、内因性心拍数602は、最大減少閾値よりも高い率で低下し始める。これは、ICDが患者の心臓にショックを付与した可能性があることを示し得る。従って、向上エネルギーレベルでショック後ペーシング治療614を施し得る。図6Eに示すように、ペーシング治療612は、内因性心拍数602がデマンド心拍数閾値604を超えて上昇する時点である点Fまで、施与され得る。場合によっては、ショック後ペーシング治療614は、予め設定された期間にわたって、又は内因性心拍数602が安定するまで、施与され得る。10分の期間が終了した時点である点Gまでは、有効エネルギーレベル610を第1のエネルギーレベルに戻すように減少させなく得る。
【0089】
次に図6Fを参照して、内因性心拍数602は、最初は上限閾値606を下回っており、かつ、内因性心拍数602は最大減少閾値よりも高い率で低下していない。従って、LCPは、LCPが供給するペーシングパルスの有効エネルギーレベル610を、第1のエネルギーレベルに設定し得る。その後、点Aで、内因性心拍数は、デマンド心拍数閾値604を下回って低下する。図6Fに示すように、内因性心拍数602がデマンド心拍数閾値604を超えて上昇する時点である点Bまで、第1のエネルギーレベルでデマンド型ペーシング治療612を施す。これは、患者の心拍数がデマンド心拍数閾値604などの下限心拍数閾値を下回る低下抑止確保の一助とするデマンド型ペーシングの一例である。LCPは、デマンド型ペーシングの実施中に、内因性心拍数が下限心拍数閾値(例えば、デマンド心拍数閾値604)を下回って低下すると、心臓を下限心拍数閾値(例えば、デマンド心拍数閾値604)でペーシングし得る。
【0090】
点Bの後に、内因性心拍数602は引き続き上昇するので、有効エネルギーレベル610は依然として第1のエネルギーレベルに設定される。点Cで、内因性心拍数602はATP閾値624に達した。図6Fに示すように、内因性心拍数602がATP閾値624を下回って低下する時点である点Dまで、第1のエネルギーレベルでATP治療616を施す。これは、頻脈性不整脈を停止させるのに効果的であったATP治療の一例であり、これにより、患者の心拍数がATP閾値624などの上限心拍数閾値を超えて上昇しないことを確保するのを助ける。LCPは、ATP治療の実施中は、パルスのバーストで心臓をペーシングし得る。
【0091】
次に図6Gを参照して、内因性心拍数602は、最初は上限閾値606を下回っており、かつ、内因性心拍数602は最大減少閾値よりも高い率で低下していない。従って、LCPは、LCPが供給するペーシングパルスの有効エネルギーレベル610を、第1のエネルギーレベルに設定し得る。その後、点Aで、内因性心拍数は、デマンド心拍数閾値604を下回って低下する。図6Fに示すように、内因性心拍数602がデマンド心拍数閾値604を超えて上昇する時点である点Bまで、第1のエネルギーレベルでデマンド型ペーシング治療612を施す。点Bの後に、内因性心拍数602は引き続き上昇するので、有効エネルギーレベル610は依然として第1のエネルギーレベルに設定される。点Cで、内因性心拍数602はATP閾値624に達し、ATP治療616が施される。場合によっては、ATP治療616は、頻脈性不整脈を停止させるとともに内因性心拍数602をATP閾値624未満にすることができないことがある。場合によっては、図6Gに示すように、内因性心拍数602は、引き続き上昇して、点Dで上限閾値606に達することがある。点Dで、LCPは、第1のエネルギーレベルでのATP治療616の施与を停止することができ、上述したように延長されることがある10分の期間にわたって、有効エネルギーレベル610を向上エネルギーレベルに増加させ得る。点Eで、内因性心拍数602は、最大減少閾値よりも高い率で低下し始める。これは、ICDが患者の心臓にショックを付与したことを示し得る。従って、LCPは、向上エネルギーレベルでショック後ペーシング治療614を施すように構成され得る。図6Gに示すように、ショック後ペーシング治療614は、内因性心拍数602がデマンド心拍数閾値604を超えて上昇する時点である点Fまで、施与され得る。これに応じて、場合によっては、ショック後ペーシング治療614を、予め設定された期間にわたって、又は内因性心拍数602が安定するまで、施与し得る。点Fの後に、もはやショック後ペーシング治療614は施与されていなくても、本例では、10分の時間枠が満了した時点である点Gまでは、有効エネルギーレベル610を第1のエネルギーレベルに戻すように減少させなく得る。
【0092】
本発明は、多くの点で、例示的なものにすぎないことは理解されるべきである。特に形状、サイズ、及びステップの配列に関して、本発明の範囲から逸脱することなく、詳細は変更され得る。これは、適切である限りにおいて、1つの例示的な実施形態の特徴のうちのいずれかを他の実施形態において用いることを含み得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図6G