特許第6953652号(P6953652)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6953652-含クロム溶鋼の精錬方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6953652
(24)【登録日】2021年10月1日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】含クロム溶鋼の精錬方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/068 20060101AFI20211018BHJP
   C21C 7/00 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   C21C7/068
   C21C7/00 B
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2021-541692(P2021-541692)
(86)(22)【出願日】2021年4月15日
(86)【国際出願番号】JP2021015647
【審査請求日】2021年7月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊地 辰
(72)【発明者】
【氏名】田中 智昭
(72)【発明者】
【氏名】中尾 隆二
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−516720(JP,A)
【文献】 特開平10−251737(JP,A)
【文献】 特開2003−171714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21C 7/068
C21C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精錬容器内で含クロム溶鋼中に酸素ガスを含むガスを吹き込んで精錬を行う精錬方法において、
容器内を大気圧、及び/又は、400torr超大気圧未満の範囲の減圧圧力として酸素ガスを含むガスを吹き込む第1ステップと、容器内を200torr超400torr以下に減圧して酸素ガスを含むガスを吹き込む第2ステップと、容器内を200torr以下に減圧してガスを吹き込む第3ステップとを有し、その後容器内を大気圧とし、
溶鋼中の[C]濃度が1.5〜0.1質量%で第1ステップから第2ステップに切り替え、溶鋼中の[C]濃度が0.5〜0.1質量%で第2ステップから第3ステップに切り替え、
減圧精錬終了時のスラグ中のMgO濃度を8〜15質量%、クロム酸化物濃度を28〜50質量%に調整することを特徴とする、
耐火物溶損低減と還元材使用量削減を両立させた含クロム溶鋼の精錬方法。
【請求項2】
さらに、減圧精錬開始時のスラグ中のMgO濃度を8〜15質量%、クロム酸化物濃度を28〜50質量%に調整することを特徴とする、
請求項1に記載の耐火物溶損低減と還元材使用量削減を両立させた含クロム溶鋼の精錬方法。
【請求項3】
さらに、減圧精錬中のスラグ中のMgO濃度を8〜15質量%、クロム酸化物濃度を28〜50質量%に調整することを特徴とする、
請求項2に記載の耐火物溶損低減と還元材使用量削減を両立させた含クロム溶鋼の精錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精錬容器内で含クロム溶鋼中に酸素ガスを含むガスを吹き込んで精錬を行う、含クロム溶鋼の精錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含クロム鋼、特にステンレス鋼のように11%以上のクロムを含むような含クロム鋼を精錬するに際しては、精錬容器内に収容した溶鋼中に酸素ガス又は酸素ガスと不活性ガスの混合ガスを吹き込むAOD法によって脱炭精錬を行う方法が広く用いられている。AOD法では、脱炭が進行して溶鋼中の[C]濃度が低下してくると[Cr]が酸化されやすくなることから、[C]濃度の低下にともない吹き込みガス中におけるArガス等の不活性ガスの比率を高くし、[Cr]の酸化を抑える方法がとられている。しかし、低[C]濃度域では脱炭速度が低下するために所望の[C]濃度に到達するのに長時間を要し、かつ吹き込みガス中の不活性ガスの比率を高くするため、高価な不活性ガスの消費量が大幅に増加することから、経済的にも不利となる。
【0003】
このような低[C]濃度域における脱炭を促進する方法として、真空精錬法の利用が挙げられる。特許文献1においては、吹き込みガスとして酸素ガスまたは酸素ガスと不活性ガスとの混合ガスを供給し、溶鋼中の[C]濃度が0.5質量%に低下するまでは大気圧下で脱炭処理し、[C]濃度がこの値以下に低下した後は、容器内を200torr以下に減圧して脱炭処理する方法が開示されている。これにより、比較的高[C]濃度より減圧下での処理を行うとともに、減圧下において酸素ガスとの混合ガスで脱炭処理を行うため、脱炭酸素効率が向上するために同一酸素供給量で脱炭速度の向上が図れ、還元用Si原単位および高価な不活性ガス原単位が低減するとともに、精錬時間を短縮することができる。減圧処理における容器内圧力を200torr以下とするのは、これより高い圧力では脱炭酸素効率が低下するからであるとしている。
【0004】
特許文献2には、精錬容器内で含クロム溶鋼中に酸素ガスを含むガスを吹き込んで精錬を行う精錬方法において、容器内を400torr〜大気圧範囲の圧力として酸素ガスを含むガスを吹き込む第1ステップと、容器内を250torr〜400torrに減圧して酸素ガスを含むガスを吹き込む第2ステップと、容器内を250torr以下に減圧してガスを吹き込む第3ステップとを有することを特徴とする含クロム溶鋼の精錬方法が開示されている。中炭領域、特に[C]0.2〜0.5%の領域においては、溶鋼の強攪拌を行うことにより、250〜400torrの圧力でも高い脱炭酸素効率が得られる。さらに、減圧操業の圧力を従来のように200torr以下とするのではなく250〜400torrの範囲とすることにより、ダストの発生を抑えることができる。また、圧力を250〜400torrの範囲とすることにより、底吹きガス吹き込み量の増大を図ることができ、その結果精錬時間の短縮を図ることが可能になる。
【0005】
特許文献3には、大気圧下での脱炭処理後に真空下での脱炭処理を行う含クロム溶鋼の精錬方法において、真空下での脱炭処理の開始はスラグ中の(Cr)濃度が30mass%以下の条件とし、真空度は200Torr以下として、吹込みガスとして酸素ガスまたは酸素ガスと不活性ガスとの混合ガスを用い、[C]濃度低下後は吹込みガスとして不活性ガスのみを供給することを特徴とする含クロム溶鋼の減圧脱炭処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−287629号公報
【特許文献2】特開2001−286694号公報
【特許文献3】特開平6−287628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の発明により、中炭領域、特に[C]濃度が0.2〜0.5質量%の領域においては、溶鋼の強攪拌を行うことにより、250〜400torrの圧力でも高い脱炭酸素効率が得られる。さらに、減圧操業の圧力を従来のように200torr以下とするのではなく250〜400torrの範囲とすることにより、ダストの発生を抑えることができる。また、圧力を250〜400torrの範囲とすることにより、底吹きガス吹き込み量の増大を図ることができ、その結果精錬時間の短縮を図ることが可能になった。
【0008】
さらに、耐火物溶損低減と還元材使用量削減を両立させることができれば、精錬コストを大幅に低減することができる。
【0009】
本発明は、精錬容器内を減圧にして含クロム溶鋼中に酸素ガスを含むガスを吹き込んで精錬を行う含クロム溶鋼の精錬方法において、耐火物溶損低減と還元材使用量削減を両立させることのできる精錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
(1)精錬容器内で含クロム溶鋼中に酸素ガスを含むガスを吹き込んで精錬を行う精錬方法において、
容器内を大気圧、及び/又は、400torr超大気圧未満の範囲の減圧圧力として酸素ガスを含むガスを吹き込む第1ステップと、容器内を200torr超400torr以下に減圧して酸素ガスを含むガスを吹き込む第2ステップと、容器内を200torr以下に減圧してガスを吹き込む第3ステップとを有し、その後容器内を大気圧とし、
溶鋼中の[C]濃度が1.5〜0.1質量%で第1ステップから第2ステップに切り替え、溶鋼中の[C]濃度が0.5〜0.1質量%で第2ステップから第3ステップに切り替え、
減圧精錬終了時のスラグ中のMgO濃度を8〜15質量%、クロム酸化物濃度を28〜50質量%に調整することを特徴とする、
耐火物溶損低減と還元材使用量削減を両立させた含クロム溶鋼の精錬方法。
(2)さらに、減圧精錬開始時のスラグ中のMgO濃度を8〜15質量%、クロム酸化物濃度を28〜50質量%に調整することを特徴とする、
上記(1)に記載の耐火物溶損低減と還元材使用量削減を両立させた含クロム溶鋼の精錬方法。
(3)さらに、減圧精錬中のスラグ中のMgO濃度を8〜15質量%、クロム酸化物濃度を28〜50質量%に調整することを特徴とする、
上記(2)に記載の耐火物溶損低減と還元材使用量削減を両立させた含クロム溶鋼の精錬方法。
【0011】
本発明は、含クロム溶鋼の精錬方法において、炉内の圧力を第1ステップ〜第3ステップに分けて順次減圧していくことに加え、減圧精錬終了時、減圧精錬開始時さらには減圧精錬中のスラグ成分を調整することにより、耐火物溶損低減と還元材使用量削減を両立させた含クロム溶鋼の精錬方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本発明の精錬容器の一例を示す図であり、減圧精錬時の状態を示す図である。
図1B】本発明の精錬容器の一例を示す図であり、大気圧精錬時の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、精錬容器内で含クロム溶鋼中に酸素ガスを含むガスを吹き込んで精錬を行う精錬方法に関するものである。減圧精錬を行うに際しては例えば図1Aに示す精錬容器1が、大気圧精錬を行うに際しては例えば図1Bに示す精錬容器1が用いられる。精錬容器1内には溶鋼4が収容され、溶鋼4の上にスラグ6が形成され、精錬容器内で含クロム溶鋼中に底吹き羽口2を通して底吹きガス5を吹き込む。また、精錬容器1は着脱可能な排気フード3を有しており、減圧精錬時には図1Aに示すように精錬容器1に排気フード3を装着し、排気管7を経由してガス吸引を行うことにより精錬容器内を減圧する。大気圧精錬時には、図1Bに示すように排気フード3を装着しないので、吹き込みガスとしては、底吹き羽口2のみならず上吹きランス12を併用してガスを吹き込むことも可能である。以下、[C]濃度についての%は質量%を意味する。
【0014】
本発明の含クロム溶鋼の精錬方法は、容器内を大気圧、及び/又は、400torr超大気圧未満の範囲の減圧圧力として酸素ガスを含むガスを吹き込む第1ステップと、容器内を200torr超400torr以下に減圧して酸素ガスを含むガスを吹き込む第2ステップと、容器内を200torr以下に減圧してガスを吹き込む第3ステップとを有する。溶鋼中の[C]濃度が1.5〜0.1%で第1ステップから第2ステップに切り替え、溶鋼中の[C]濃度が0.5〜0.1%で第2ステップから第3ステップに切り替える。第3ステップ終了後に容器内を大気圧に戻し、還元処理を行う。
【0015】
第2ステップを中炭領域に配置し、同時に溶鋼を強攪拌することにより、この中炭領域における脱炭酸素効率を高い値に維持することができ、さらにダストの発生を抑制することが可能になる。第2ステップにおいて圧力200torr超400torr以下の範囲とすることにより、底吹きガス吹き込み量の増大を図ることができ、その結果精錬時間の短縮を図ることが可能になる。底吹きガス吹き込み速度は溶鋼トン当たり0.4Nm/min以上とすると好ましい。これにより、200torr超の圧力で高い脱炭酸素効率を得るための強攪拌を実現するとともに、精錬時間を短縮することができ、また、200torr超の圧力であれば底吹きガスの吹き込み速度が溶鋼トン当たり0.4Nm/min以上であってもダスト発生量を低位に抑えることが可能である。底吹きガス吹き込み速度は溶鋼トン当たり0.5Nm/min超とすると一層好ましい結果を得ることができる。
【0016】
精錬容器内の圧力が400torr超である第1ステップから圧力200torr超400torr以下の第2ステップに移行する時期としては、溶鋼中の[C]濃度が1.5〜0.1%において移行する。[C]濃度が1.5%より高い[C]領域においては、減圧精錬を行うにしても圧力を400torrより高い圧力に設定して酸素ガス吹き込み速度を増大した方が効率的に精錬を行えるからであり、あるいは大気圧精錬を行って上吹き酸素ガス吹き込みを併用した方が高い酸素ガス吹き込み速度を確保して効率的に精錬を行えるからである。一方、[C]濃度が0.1%より低い[C]領域まで400torrを超える圧力で精錬を継続すると、脱炭酸素効率の低下をきたし、精錬時間の延長につながるので好ましくない。
【0017】
精錬容器内の圧力が200torr超400torr以下である第2ステップから圧力が200torr以下である第3ステップに移行する時期としては、溶鋼中の[C]濃度が0.5〜0.1%において移行する。[C]濃度が0.5%よりも高い[C]領域を第2ステップの200torr超400torr以下の圧力とすることにより、精錬能率の向上やダスト発生量の低減という本発明の効果を十分に発揮することができるからである。一方、[C]濃度が0.1%より低い[C]領域まで200torrを超える圧力で精錬を継続すると、脱炭酸素効率の低下をきたし、精錬時間の延長をきたすので好ましくない。
【0018】
第1ステップにおいて、第1ステップの当初から大気圧未満の減圧精錬を行う場合は、第1ステップの開始時が減圧精錬開始時となる。第1ステップの当初は大気圧、第1ステップの途中から大気圧未満の減圧精錬を行う場合は、減圧精錬に移行するときが減圧精錬開始時となる。第1ステップの全体を大気圧とする場合は、第2ステップの開始時が減圧精錬開始時となる。
第3ステップの終了時が、減圧精錬終了時となる。
【0019】
本発明の含クロム溶鋼の精錬方法は、減圧精錬終了時のスラグ中のMgO濃度を8〜15質量%、クロム酸化物濃度を28〜50質量%に調整することを特徴とする。これにより、耐火物溶損低減と還元材使用量削減を両立させた含クロム溶鋼の精錬方法とすることができる。減圧精錬開始時においても上記スラグ成分を有していると好ましい。減圧精錬中においても上記スラグ成分を有しているとさらに好ましい。
【0020】
含クロム溶鋼の精錬において、副材として炉内にCaO、MgO、SiO、Alのいずれかを含む酸化物、あるいはCaFのうち、2種類以上を投入し、これらが精錬終了時のスラグの構成要素となる。また、溶鋼中のCr、Mn、Si、Alが酸素精錬によって酸化し、形成された酸化物が精錬終了時のスラグの構成要素となる。なおここで、クロム酸化物とは、Crをいう。
【0021】
発明者らは、減圧精錬時のスラグ成分について、スラグ中のMgO濃度の増大を試みた。精錬中の炉内圧力の推移については、上記本発明の条件を適用した。スラグ中のMgO濃度の増大を目的として、精練中に精練容器内にMgO単体、あるいはMgOを含む酸化物のうち、いずれか1種類以上を添加した。その結果、少なくとも減圧精錬終了時のスラグ中のMgO濃度を8〜15質量%とすることにより、クロム酸化物濃度を28〜50質量%に調整することと相まって、耐火物溶損低減と還元材使用量削減が実現できることがわかった。
少なくとも減圧精錬終了時において、スラグ中のMgO濃度が8質量%以上であれば、溶融スラグによる耐火物損耗が低減するので、耐火物溶損低減を実現できる。スラグ中のMgO濃度が10質量%以上であればより好ましい。スラグ中のMgO濃度が12質量%以上であればさらに好ましい。一方、スラグ中のMgO濃度が15質量%を超えると、スラグの融点が上昇し、スラグの流動性が著しく低下することで、スラグ中のクロム酸化物を酸素源とした脱炭反応が阻害されるため、減圧精錬終了時においてスラグ中のMgO濃度上限を15質量%とした。
また、少なくとも減圧精錬終了時において、スラグ中のクロム酸化物濃度を28〜50質量%に調整する。クロム酸化物濃度が28質量%以上であれば、スラグの流動性が低下し、液相スラグの耐火物への浸潤を抑制することで、耐火物の損耗を抑制することができる。クロム酸化物濃度が30質量%以上であればより好ましい。一方、クロム酸化物濃度が50質量%以下であれば、酸素精錬後にクロム酸化物を還元するための還元材の使用量を低減することができる。クロム酸化物濃度が48質量%以下であればより好ましい。クロム酸化物濃度が45質量%以下であればさらに好ましい。
減圧精錬終了時において上記スラグ組成とすることによって還元材使用量削減をも実現することができる。
本発明において、減圧精練終了時のみならず、減圧精錬開始時においても上記スラグ成分を有していると好ましい。減圧精錬中においても上記スラグ成分を有しているとさらに好ましい。
【0022】
減圧精錬の好ましい実施の形態について説明する。
第1ステップについては、その全体を大気圧下で精錬を行う場合、その全体を大気圧未満の減圧下で精錬を行う場合、当初大気圧下でその後減圧下で精錬を行う場合のいずれを採用しても良い。第1ステップにおいて大気圧下で精錬を行うに際しては、精錬容器の上に減圧精錬のための排気フード3を設置しないので、ガス吹き込みとして上吹きと底吹きを併用することができる。第1ステップにおいて大気圧下で精錬を行うに際しては、吹き込むガスとして酸素のみを用いることができる。第1ステップの精錬を当初大気圧下で行い、その後400torr超の圧力として減圧下で行うことができる。第1ステップの最初から減圧精錬を実施しても良い。
【0023】
第2ステップにおける底吹きガスの吹き込みガス種としては、第2ステップの最初から酸素と不活性ガスの混合ガスとしても良いが、最初は酸素ガス単独吹き込みとし、第2ステップ内で順次不活性ガス比率を増大するパターンとしても良い。第2ステップ内における精錬容器内の圧力は、200torr超400torr以下の範囲内において一定の圧力を保持することもできるが、高い圧力から低い圧力に順次変化させていくパターンとしても良い。
【0024】
第3ステップについては、容器内を200torr以下に減圧してガスを吹き込む。溶鋼中の[C]濃度が低下するほど、高い脱炭酸素効率を得るための最適な容器内圧力が低下するので、脱炭が進行した第3ステップにおいては第2ステップより低い圧力を採用することが好ましい。併せて、[C]濃度が低いほど脱炭反応に対する溶鋼攪拌の影響が大きくなる。同一のガス吹き込み速度では容器内圧力が低いほどガスの膨張代が大きくなり、溶鋼攪拌力が増大することから、第2ステップよりも低い圧力とすることが好ましい。第3ステップにおいては、溶鋼中の[C]濃度低下に伴って容器内の圧力を順次段階的に低下させると好ましい。第3ステップにおいては、[C]濃度が十分に低下しているので、吹き込みガスとして酸素ガスを用いずに不活性ガスのみを吹き込むこととしても良い。また、吹き込みガスとして酸素ガスと不活性ガスとの混合ガスを供給するに際し、さらに溶鋼中のC濃度低下に伴って混合ガス中の酸素ガスの比率を徐々に低下させると好ましい。
【実施例】
【0025】
図1A図1Bに示すような溶鋼量60トンのAOD炉において、SUS304ステンレス鋼(8質量%Ni−18質量%Cr)を溶製するに際して本発明を適用した。大気圧精錬においては、図1Bに示す態様にて上吹きは行わずに底吹きを行い、減圧精錬においては図1Aに示す態様にて精錬容器内を減圧した上で底吹きを行った。溶製開始時の溶鋼中[C]濃度は約1.7%であり、[C]0.03%まで脱炭精錬を行い、その後容器内圧力を大気圧まで戻しながら、脱炭中に酸化したクロムを還元するための還元剤としてFe−Si合金鉄を添加して、Arガスのみの吹き込みにより還元処理を行い、取鍋へ出鋼した。
【0026】
「減圧精練実施」については、表1に示すパターンを採用して精錬を行った。第1ステップを大気圧精錬として底吹きを行った。[C]濃度0.8%〜0.2%を第2ステップとし、第2ステップ内で容器内圧力を400torrと200torrの2段階圧力とした。第3ステップは容器内圧力を50torr、40torrの2段階圧力とし、[C]濃度0.03%まで脱炭精錬を行った。第1ステップ、第2ステップ、及び第3ステップの圧力50torrまでは、いずれも底吹きガスとして酸素ガスとアルゴンガスを併用した。第3ステップの圧力40torrではArガス単独吹き込みとした。第2ステップ開始時が減圧精練開始時、第3ステップ終了時が減圧精練終了時となる。
第2ステップ開始時(減圧精練開始時)、第3ステップ開始時(減圧精練中)、第3ステップ終了時(減圧精練終了時)に、容器内のスラグを採取し、スラグ成分分析を行った。
「減圧精練未実施」については、表2に示すパターンを採用して精錬を行った。容器内圧力は常に大気圧とし、[C]濃度に応じて随時底吹き酸素ガス比率を低下させた。また、精錬の最終段階では底吹き酸素ガス比率を0とし、Arガス単独吹き込みとした。減圧精錬との比較のため、減圧精錬における第2ステップ開始時(減圧精練開始時)、第3ステップ開始時(減圧精練中)、第3ステップ終了時(減圧精練終了時)、それぞれに相当する[C]濃度で容器内のスラグを採取し、スラグ成分分析を行った。
表1、表2において、底吹きガス種については、表中に「A」と記載したガス種を吹き込み、「X」と記載したガス種は吹き込みを行っていない。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】
【表3】
【0030】
スラグ中のMgO濃度の調整は、MgO単体、あるいはMgOを含む酸化物のうち、いずれか1種類以上を随時AOD炉内に投入して行った。減圧精練終了時のMgO濃度を8%以上とし、減圧精練開始時のMgO濃度は8%未満とする場合には、減圧精錬開始前にMgOを含まない酸化物を随時AOD炉内に投入するとともに、MgOを含む酸化物をAOD炉内に投入しないこととした。減圧精練終了時、減圧精練開始時のいずれもMgO濃度を8%以上とする場合には減圧精錬開始前にMgOを含む酸化物をAOD炉内に投入することとした。
【0031】
スラグ中のクロム酸化物濃度の調整は、底吹きしている酸素ガスと不活性ガスの混合比率を変化させ、溶鋼中のCrが酸素精錬によって酸化する量を制御して行った。減圧精練終了時のクロム酸化物濃度を28%以上とし、減圧精練開始時のクロム酸化物濃度は28%未満とする場合には、減圧精錬開始前の底吹きガスの酸素ガス比率を低下させ、クロム酸化物の生成を抑制した後、減圧精錬の初期に酸素ガス比率を増加させ、クロム酸化物の生成を促進することとした。減圧精練終了時、減圧精練開始時のいずれもクロム酸化物濃度を28%以上とする場合には減圧精錬開始前から底吹きガスの酸素ガス比率を増加させ、クロム酸化物の生成を促進することとした。
【0032】
減圧精練時のスラグ成分の評価については、減圧精練開始時(第2ステップ開始時)、減圧精練中(第3ステップ開始時)、減圧精練終了時(第3ステップ終了時)に精練容器内からスラグを採取し、成分分析を行い、表3に示した。各水準において、還元剤としてのFe−Si合金鉄使用量を評価し、表3に示した。従来製法の一般的な例であるNo.5の還元材使用量を基準とし、それと同等程度、あるいはそれ以下の場合をA、それ以外をXとした。
精錬炉の耐火物溶損状況について、精錬終了後、底吹き羽口の外側から目盛付きの測定棒を差し込んで、その残寸を随時記録していくことにより評価を行った。耐火物の溶損量が少なく、経済的効果がある場合をA、著しい溶損あるいは局所的に偏溶損し、操業に支障をきたす場合をXとし、表3に示した。
操業評価について、還元材使用量の低減、および耐火物損耗状況の低減が両立されているか評価を行った。還元材使用量、および耐火物損耗状況のいずれも良好な結果であった場合をA、還元材使用量、あるいは耐火物損耗状況のいずれか一つ以上の結果が良好でない場合をXとし、表3に示した。表3において、本発明範囲から外れる項目に下線を付している。
【0033】
表3から明らかなように、本発明No.1〜5は、減圧精錬終了時のスラグ中のMgO濃度が8〜15質量%、クロム酸化物濃度が28〜50質量%の本発明条件を満たしており、結果として耐火物溶損低減と還元材使用量削減を両立させることができた。一方、比較例No.6は減圧精錬終了時のスラグ中のMgO濃度が低すぎ、比較例No.7は減圧精錬終了時のスラグ中のクロム酸化物濃度が低すぎ、いずれも耐火物損耗状況が不良であった。比較例No.8は、減圧精練が未実施であるとともに、精錬終了時のスラグ中のクロム酸化物濃度が高すぎ、還元材使用量が未達であった。
【符号の説明】
【0034】
1 精錬容器
2 底吹き羽口
3 排気フード
4 溶鋼
5 底吹きガス
6 スラグ
7 排気管
12 上吹きランス
【要約】
容器内を400torr超大気圧以下の範囲の圧力として酸素ガスを含むガスを吹き込む第1ステップと、容器内を200torr超400torr以下に減圧して酸素ガスを含むガスを吹き込む第2ステップと、容器内を200torr以下に減圧してガスを吹き込む第3ステップとを有し、減圧精錬終了時のスラグ中のMgO濃度を8〜15質量%、クロム酸化物濃度を28〜50質量%に調整することを特徴とする含クロム溶鋼の精錬方法である。減圧精錬開始時、減圧精錬中においても上記スラグ成分を有していると好ましい。
図1A
図1B