特許第6953677号(P6953677)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6953677
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】果実風味改善剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 27/20 20160101AFI20211018BHJP
   A23L 27/10 20160101ALI20211018BHJP
【FI】
   A23L27/20 D
   A23L27/10 C
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-39538(P2018-39538)
(22)【出願日】2018年3月6日
(65)【公開番号】特開2019-149997(P2019-149997A)
(43)【公開日】2019年9月12日
【審査請求日】2020年3月27日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第61回 香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000201733
【氏名又は名称】曽田香料株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂野 僚
(72)【発明者】
【氏名】服部 祥治
(72)【発明者】
【氏名】森下 修作
(72)【発明者】
【氏名】黒木 亮吾
(72)【発明者】
【氏名】葛西 賢造
【審査官】 緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−077274(JP,A)
【文献】 特開平10−212281(JP,A)
【文献】 特表平07−502285(JP,A)
【文献】 特開2005−015686(JP,A)
【文献】 特開平04−089894(JP,A)
【文献】 特開平04−229153(JP,A)
【文献】 特開平07−118254(JP,A)
【文献】 特開2016−002008(JP,A)
【文献】 Hubert Kollmannsberger et al.,Uber die Aromastoffzusammensetzung von Hochdruckextrakten I. Pfeffer (Piper nigrum, Var. muntok),Zeitschrift fur Lebensmittel-Untersuchung und-Forschung,1992年06月01日,194(6),pp. 545-551
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/20
A23L 27/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−カレンオキシドを有効成分として含有する果実風味改善剤。
【請求項2】
請求項1の果実風味改善剤を3−カレンオキシドとして10ppb〜100ppm含有する果実香料組成物。
【請求項3】
請求項1の果実風味改善剤を3−カレンオキシドとして10ppt〜100ppb含有する果実風味飲料。
【請求項4】
3−カレンオキシドおよびジャスミンラクトンを有効成分として含有する果実風味改善剤。
【請求項5】
請求項4に記載の果実風味改善剤を3−カレンオキシドとして1ppb〜100ppm、ジャスミンラクトンとして100ppt〜10ppm含有する果実香料組成物。
【請求項6】
請求項4に記載の果実風味改善剤を3−カレンオキシドとして1ppt〜100ppb、ジャスミンラクトンとして0.1ppt〜10ppb含有する果実風味飲料。
【請求項7】
3−カレンオキシドを飲食品に対して10ppt〜100ppb含有させる、果実風味飲料の果実風味増強方法。
【請求項8】
3−カレンオキシドおよびジャスミンラクトンを飲食品に対して、3−カレンオキシドを1ppt〜100ppb、ジャスミンラクトンを0.1ppt〜10ppb含有させる、果実風味飲料の果実風味増強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実風味飲食品の風味を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
りんご、グレープ、オレンジといった果実は我々の食生活に欠かすことのできない農作物である。近年、貯蔵技術の発達などを背景に、例えば日本においてはマンゴー、パッションフルーツといった海外産フルーツの馴染みが増している。また、これらフルーツの香気を有するフレーバーを使用した飲食品は嗜好性が高く、多種多様な製品が提供されている。
【0003】
時代の変化とともに消費者の嗜好性が変化しており、果実風味の飲食品については、近年生の果実の有する本物感、具体的にはフルーティー感、フレッシュ感、果汁感や果肉感などの嗜好性が高まっている。
【0004】
このことから果実風味を改善する手法がこれまでに提案されている。例えば、ロタンドン((3S,5R,8S)−3,8−ジメチル−5−(プロパ−1−エン−2−イル)−3,4,5,6,7,8−ヘキサヒドロアズレン−1(2H)−オン)を有効成分とする果実香味増強剤(特許文献1)、シネンサールおよび/またはヌートカトンを有効成分とする、リンゴ風味飲食品またはリンゴ風味香料のリンゴ風味増強剤(特許文献2)などである。しかしながら、その改善手法の数は多くなく、新たに果実風味飲食品の風味を改善する手法が求められている。
【0005】
本発明の有効成分である3−カレンオキシドはユーカリ様の爽やかな香気を有しており、ヒノキ科ビャクシン属の針葉樹であるセイヨウネズの球果であるジュニパーベリー(非特許文献1)や、コショウ科コショウ属の果実であるコショウ(非特許文献2、3)より見出されている。ジュニパーベリーは蒸留酒の香り付けに利用され、ジンとして世界中で親しまれている。コショウは、抗菌、防腐効果や特徴的なスパイシーな香りから我々の生活に欠かすことのできない香辛料となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−198026号公報
【特許文献2】特開2016−002008号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Parfuemerie und Kosmetik、1985年、66巻9号、p553−556、558−560
【非特許文献2】Zeitschrift fur Lebensmittel Untersuchung und Forschung、1992年、194−545
【非特許文献3】Chemie, Mikrobiologie, Technologie der Lebensmittel、1992年、14−87
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、果実の風味、特にフルーティー感、フレッシュ感や果肉感を増強する果実風味改善剤および当該成分を有効成分とする香料組成物、並びにこれらを用いて果実の風味が改善された飲食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
3−カレンオキシドの基原物質に関する報告は少ないながら、本発明の報告者らは初めて3−カレンオキシドを生のマンゴーより見出した。また、マンゴーを雰囲気下にした揮発性成分の連続評価方法(特許第4618530号に記載の方法)により、それ自体はユーカリ様の香調を有する3−カレンオキシドが、果実香気のフルーティー感を増強することを見出した。
【0010】
更に、3−カレンオキシドの官能評価に関する報告例はこれまでになされていないが、本発明の報告者らは3−カレンオキシドをリンゴ、グレープ、オレンジ、マンゴーそれぞれの香料組成物および飲料に添加することにより、果実風味が改善されることを見出した。
【0011】
更に驚くべきことに、3−カレンオキシドの果実風味改善効果を検証する中で、ジャスミンラクトンを併用して有効成分とすること、で3−カレンオキシド単体よりも果実風味改善効果が増強されること、より少ない添加量で果実風味改善効果を発揮することが明らかとなった。
【0012】
すなわち本発明により、以下の果実風味改善剤、果実香料組成物、果実風味を有する飲食品を提供することができる。
(1)3−カレンオキシドを有効成分とする果実風味改善剤。
(2)上記(1)の果実風味改善剤を3−カレンオキシドとして1ppb〜100ppm含有する果実香料組成物。
(3)上記(1)の果実風味改善剤を3−カレンオキシドとして1ppt〜100ppb含有する、果実風味を有する飲食品。
(4)3−カレンオキシドを1ppt〜100ppb含有させた飲食品の果実香味増強方法。
(5)3−カレンオキシドおよびジャスミンラクトンを有効成分とする果実風味改善剤。
(6)上記(5)の3−カレンオキシドおよびジャスミンラクトンを有効成分とする果実風味改善剤を3−カレンオキシドとして1ppb〜100ppm、ジャスミンラクトンとして100ppt〜10ppm含有する果実香料組成物。
(7)上記(5)の3−カレンオキシドおよびジャスミンラクトンを有効成分とする果実風味改善剤を3−カレンオキシドとして1ppt〜100ppb、ジャスミンラクトンとして0.1ppt〜10ppb含有する、果実風味を有する飲食品。
(8)3−カレンオキシドおよびジャスミンラクトンを、3−カレンオキシドについて1ppt〜100ppb、ジャスミンラクトンについて0.1ppt〜10ppb含有させた飲食品の果実香味増強方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、3−カレンオキシドまたは3−カレンオキシドとジャスミンラクトンを有効成分とする果実風味改善剤により、果実香料組成物や果実風味飲食品の、生の果実様のフルーティー感、フレッシュ感や果肉感を改善できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において果実とは、リンゴ、ブドウ、西洋ナシ、和ナシ、モモ、スモモ、アンズ、イチゴ、サクランボ、ラズベリー、クランベリー、ブラックカラント、プルーン、ウメ、カキ、イチジク、アケビ、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、ミカン、メロン、スイカ、バナナ、ライチ、マンゴスチン、マンゴー、パパイヤ、パッションフルーツ、パイナップル、ドリアン、グァバ、スターフルーツなどを指すが、これらに限定されないものも含まれる。
【0015】
本発明において果実風味の改善とは、果実風味飲食品の香味を感知する際に、生の果実の有する採れたてのフルーティー感、フレッシュ感やジューシーな果肉の質感などを想起させる効果を示す。
【0016】
本発明の果実風味改善剤は、そのまま飲食品に添加することで果実風味改善効果が発揮できる。また、本発明の果実風味改善剤を加えた果実香料組成物を使用した飲食品の果実風味の改善も可能である。該果実風味改善剤以外の香料組成物の成分としては、一般的な香料化合物や香料素材があげられる。
【0017】
例えば、炭化水素類として、テルピノレン、β−ミルセン、α-ピネン、p−シメン、β−カリオフィレン、β−オシメン、β−ピネン、リモネン、カンフェン、バレンセンなどが挙げられる。
【0018】
アルコール類として、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、リナロール、ネロール、ゲラニオール、テルピネオール、シトロネロール、l−カルベオール、l−メントールなどが挙げられる。
【0019】
アルデヒド類として、ヘキサナール、オクタナール、デカナール、シトラール、l−ペリラアルデヒド、β−シクロシトラール、サフラナールなどが挙げられる。
【0020】
ケトン類として、2−ノナノン、2−ウンデカノン、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、2,3−ブタンジオン、2,3−ペンタンジオン、アセチルメチルカルビノール、α−イオノン、β−イオノン、β−ダマスコン、β-ダマセノン、カンファーなどが挙げられる。
【0021】
フェノール類として、フェノール、オイゲノール、グアイアコール、チモール、4−ビニルグアイアコール、カルバクロールなどが挙げられる。
【0022】
酸類として、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、酢酸、プロピオン酸、リノール酸、5,6−デセン酸、フェニル酢酸などが挙げられる。
【0023】
ラクトン類として、γ−ヘキサラクトン、γ−オクタラクトン、γ−ノナラクトン、γ−ウンデカラクトン、δ−ヘキサラクトン、δ−デカラクトン、δ−ドデカラクトン挙げられる。
【0024】
フラン類として、リナロールオキシド、フルフラール、5−メチルフルフラール、2−アセチルフラン、フラネオール、4−メトキシ−2,5−ジメチル−3(2H)−フラノンなどが挙げられる。
【0025】
含窒素、含硫黄化合物として、ジメチルスルフィド、メチオノール、メチルチオ酢酸 エチル、3−メチルチオプロピオン酸 エチル、ベンゾチアゾール、p−メンタ−8−チオール−3−オン、2−イソプロピル−4−メチルチアゾールなどが挙げられる。
【0026】
エステル類として酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ヘキシル、酢酸オクチル、酢酸デシル、酪酸エチル、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチル、酢酸ゲラニル、酢酸ネリル、アンスラニル酸メチル、ジャスモン酸メチルなどが挙げられる。
【0027】
香料素材の天然精油として例えば、レモン、オレンジ、ライム、グレープフルーツ、ナツメグ、オレンジフラワー、ローズ、ペパーミント、ローズマリー、ブラックペッパー、ブチュ、キャラウェイ、カルダモン、シナモン、クローブ、コリアンダーなどが挙げられる。
【0028】
その他の香料素材として、リンゴ、モモ、グレープ、パイナップル、ストロベリーなどのフルーツ、紅茶、緑茶、ウーロン茶、コーヒーなどの嗜好飲料、ヨーグルトやミルク、バターなどといった乳を原料とする食品の回収フレーバーなどが挙げられる。
【0029】
本発明の3−カレンオキシドを有効成分とする果実風味改善剤または果実香料組成物は、一般的に香料の溶媒として使用されるエタノール、プロピレングリコール、グリセリン、グリセリン脂肪酸エステル、水を含有することができる。また、果実風味飲食品に対して3−カレンオキシドを単体で添加することで飲食品の果実風味を改善することができる。
【0030】
3−カレンオキシドを有効成分とする果実風味改善剤または果実香料組成物は、乳化香料、粉末香料とすることができる。
【0031】
本発明の3−カレンオキシドを有効成分とする果実風味改善剤または果実香料組成物が、添加により果実風味を改善する飲料の具体例としては、10.0.%果汁飲料、果汁入り飲料、無果汁の果実風味飲料、果汁入り炭酸飲料、無果汁の果実風味炭酸飲料、乳性飲料、乳性炭酸飲料、酎ハイ、カクテル、発泡酒、ノンアルコール飲料が挙げられる。
【0032】
食品の具体例として、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品、アイスクリーム、ラクトアイス、氷菓などの冷菓、ゼリー、プリンなどのデザート類、キャンディー、ガム、グミ、キャラメル、ビスケット、クラッカー、チョコレートなどの菓子類などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
本発明の3−カレンオキシドを有効成分とする果実風味改善剤は、単独で使用できるほか、香料組成物に添加して、飲食品のフルーティー感やフレッシュ感といった果実風味を改善することができる。
【0034】
本発明の果実香料組成物における3−カレンオキシドの含有量は、使用される他の香料原料や提供により異なるものの、通常1ppb〜100ppm、好ましくは1ppb〜10ppmとする。
【0035】
果実風味改善剤の有効成分である3−カレンオキシドの最終製品中の含有量は、製品の種類や形態により異なるが、通常1ppt〜100ppb、好ましくは1ppt〜10ppbとする。
【0036】
本発明の果実香料組成物における3−カレンオキシドの含有量が1ppb〜100ppmである時の、ジャスミンラクトンの含有量は、使用される他の香料原料や提供により異なるものの、通常100ppt〜10ppm、好ましくは100ppt〜1ppmとする。
【0037】
飲食品中における実風味改善剤の有効成分である3−カレンオキシドの含有量が1ppb〜100ppbである時の、ジャスミンラクトンの含有量は、製品の種類や形態により異なるが、通常0.1ppt〜10ppb、好ましくは0.1ppt〜1ppbとする。
【0038】
次に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの使用方法に限定されるものではない。
【実施例1】
【0039】
表1〜4に記載の各種フルーツフレーバーに、3−カレンオキシドまたはジャスミンラクトン、3−カレンオキシドおよびジャスミンラクトンをそれぞれの濃度で添加し、糖酸液(Brix10)に当該フレーバーを0.1%の濃度で添加し、訓練されたパネル4名で飲み下すことにより香気を評価した。評価結果は3−カレンオキシドまたはジャスミンラクトン、3−カレンオキシドおよびジャスミンラクトン未添加品と比較して以下の基準で評価した。
(1)フルーティー感、果肉感、フレッシュ感、ジューシー感(4段階)
−: 香気が調和していない
−/+: 増強効果無しまたは分からない
+: 増強効果有り
++: 強い増強効果有り
(2)香気全体の評価(3段階)
−/+: 改善していない
+: 改善した
++: 大きく改善した
評価結果を表5〜7に記す。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
【表6】
【0046】
【表7】
【0047】
表5〜7に示すように、3−カレンオキシドのみであれば10ppt〜100ppb、3−カレンオキシドおよびジャスミンラクトンを併用する場合、3−カレンオキシドは1ppt〜100ppb、ジャスミンラクトンは0.1ppt〜10ppbの濃度において、果実風味改善効果を有するという評価が得られた。また、果実風味改善効果は3−カレンオキシド単体で添加したときに比べ、3−カレンオキシドとジャスミンラクトンを併用したときの方がより改善効果が実感でき、少ない添加量でも効果を発揮するという評価が得られた。
【実施例2】
【0048】
表1記載のマンゴーフレーバーに、3−カレンオキシドを飲料中濃度が10ppbとなるように添加し、更にジャスミンラクトンを表8に記載の濃度で添加した。当該フレーバーを糖酸液(Brix10)に0.1%の濃度で添加して、口に含んで飲み下すことで香気の評価を以下の基準で行った。
−: 風味改善効果無し
+: 風味改善効果有り
結果を表8に記す。
【0049】
【表8】
【0050】
表8に示す通り、飲料中濃度が10ppbの3−カレンオキシドに対して、飲料中0.1ppt〜10ppbの幅広い濃度のジャスミンラクトンを併用することでも果実風味改善効果を有するという評価が得られた。