【実施例】
【0051】
以下、実施例
、参考例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
使用したセメントクリンカーの諸率、鉱物組成及び化学成分を表1に示す。これらのデータはJIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて定量した分析結果から上記ボーグ式などにより求めた。また、化学成分のうち、f.CaOはJCASI−01−1997「遊離酸化カルシウムの定量方法」に準じて測定した。
【0053】
【表1】
【0054】
使用した石膏(排脱二水石膏)の品質(化学成分)を表2に示す。石膏の化学成分はJIS R 9101:1995「石膏の分析方法」に準じて測定した。
【0055】
【表2】
【0056】
使用した石灰石の品質(化学成分)を表3に示す。石灰石の化学成分はJIS M 8850:「石灰石分析方法」に準じて測定した。
【0057】
【表3】
【0058】
使用した高炉スラグの品質のうち、化学成分を表4に示し、塩基度、ブレーン比表面積及び活性度指数を表5に示す。高炉スラグの化学成分はJIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて定量した。高炉スラグの塩基度は計算式により求めた。活性度指数はJIS A 6202:1997「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に準じて測定した。高炉スラグは、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて高炉スラグを破砕機によって約5mm以下に破砕したものを用いた。
・塩基度(JIS)=(CaO+MgO+Al
2O
3)/SiO
2
・塩基度(TiO
2換算)=(CaO+MgO+Al
2O
3)/SiO
2−(0.13×TiO
2)
・塩基度(Bm)=(CaO+MgO+Al
2O
3)/SiO
2−(0.13×TiO
2)−MnO
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
使用した塩素バイパスダストの化学成分を表6に示し、粒度分布及び平均粒子径を表7に示す。塩素バイパスダストの化学成分(表6のSiO
2からSO
3まで及びf.CaO)はJIS M 8853:1998「セラミック用アルミノけい酸塩質原料」に準じて測定した。塩化物イオン(Cl)はJIS R 5202:1999「セメントの化学分析方法」に準じて測定した。粒度分布及び平均粒子径は、塩素バイパスダストをエタノールと混合攪拌して、株式会社セイシン企業製レーザー粒度分析装置LMS−30を用いて測定した。
【0062】
【表6】
【0063】
【表7】
【0064】
使用した脱塩ダストの化学成分を表8に示す。脱塩ダストはディスクミルで1分粉砕したものを用いた。脱塩ダストの化学成分(表8のSiO
2からSO
3まで及びf.CaO)はJIS M 8853:1998「セラミック用アルミノけい酸塩質原料」に準じて測定した。塩化物イオン(Cl)はJIS R 5202:1999「セメントの化学分析方法」準じて測定した。
【0065】
【表8】
【0066】
使用したEPダストの化学成分を表9に示し、粒度分布及び平均粒子径を表10に示す。EPダストの化学成分(表9のSiO
2からSO
3まで及び塩化物イオン(Cl)量)はJIS R 5202:1999「セメントの化学分析方法」準じて測定した。f.CaOは、JIS M 8853:1998「セラミック用アルミノけい酸塩質原料」に準じて測定した。粒度分布及び平均粒子径は、EPダストをエタノールと混合攪拌して、株式会社セイシン企業製レーザー粒度分析装置LMS−30を用いて測定した。
【0067】
【表9】
【0068】
【表10】
【0069】
[セメント組成物の調製]
セメント組成物の配合(セメント組成物の全質量基準)を表11に示す。第一工程として、各材料(セメントクリンカー、排脱二水石膏(排煙脱硫二水石膏)、石灰石及び高炉スラグ)を直径5mm以下に粗砕し、試験ボールミルでブレーン比表面積が3200±100cm
2/gになるように粉砕して、各ダスト添加する前のセメント組成物を得た。第二工程として、第一工程で得たセメント組成物にダストを所定量添加し、ロッキングミキサーで20分間にわたって混合することにより、表11に示す配合のセメント組成物を得た。
【0070】
【表11】
【0071】
得られたセメント組成物の物性と化学成分を表12に示す。
【0072】
【表12】
【0073】
表12中の「ブレーン比表面積(ダスト添加前及びダスト添加後)」はJIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。
【0074】
表12中の「水量」は、セメントペーストの柔らかさ(軟度)を一定にするために必要な水量(標準軟度水量)のことであり、これが多いほどセメントの流動性が悪いことを意味する。測定方法は、セメント組成物500gを練り鉢に入れ水を加えて練り混ぜた後、セメントペーストを容器に投入し、表面を平滑にした後、標準棒を降下させて、30秒後に標準棒の先端と底板との間隔を測定し、これが6±1mm(標準軟度)となる水量を測定し、標準軟度水量とする。
【0075】
表12中の「凝結(始発及び終結)」及び「モルタル圧縮強さ」(以下「圧縮強さ」という)は、得られたセメント組成物を用いて、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。例えば、表12中の比較例1の「始発(t:m)」が「2:01」とは、凝結の始発時間が2時間1分であることを表し、「終結(t:m)」が「3:16」とは、凝結の終結時間が3時間16分であることを表す。
【0076】
表12中の「クリンカー1%当たりのモルタル圧縮強さ」(以下「クリンカー1%当たりの圧縮強さ」という)は、得られた各材齢における圧縮強さを表11に示すセメントクリンカー量で除して求めた。
【0077】
表12中のセメント組成物の「f.CaO量」はJCAS I−01:1997「セメント中の遊離酸化カルシウムの定量方法」に準じて測定した(セメント組成物の全質量基準)。表12中のセメント組成物の「塩化物イオン量」はJIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて測定した。
【0078】
表12中の「クリンカー削減率」は、普通ポルトランドセメントに相当する比較例1からの削減率を示す。例えば表11より、比較例1のクリンカー量は91.85質量%であり、比較例2のクリンカー量は87.00%である。これらの値から比較例2のクリンカー削減率は5.28%(=(91.85−87.00)/91.85×100)と算出される。
【0079】
セメント製造における二酸化炭素(以下、「CO
2」という)発生量は、一般に非エネルギー(石灰石脱炭酸)起源、化石エネルギー起源、(化石起源)廃棄物等燃焼物起源、焼却不要による削減量の合計で示される。表12中の「CO
2削減量概算値」は、比較例1からクリンカー使用量を削減することによる非エネルギー起源CO
2発生量の削減量のみを算出したものである。ここでは、比較例1の非エネルギー起源CO
2量は、セメント協会発表のセメント品種別インベントリデータ一覧表記載の468.5g/kgとし、これにクリンカー削減率を乗じて算出した。例えば比較例2のCO
2削減量は24.7g/kg(=468.5×5.28/100)と算出される。
【0080】
特許文献4(特開2016−005997号公報)にて明らかになっている混合材量の増加及び塩素バイパスダストの添加による圧縮強さへの影響について、表12及び
図1に、比較例1〜3におけるセメント組成物中のクリンカー量と圧縮強さの関係を示して説明する。
【0081】
図1に示す比較例1は普通ポルトランドセメントの配合(クリンカー91.85質量%、石膏3.15質量%、混合材の割合が5質量%(石灰石:スラグ=4:1))である。表11及び
図1に示すように、この比較例1より混合材の割合を10質量%(石灰石:スラグ=2:8)へと増量した比較例2では、比較例1に比べて材齢3日及び7日における圧縮強さはやや低下するものの、材齢28日における圧縮強さを維持しつつクリンカー使用量を削減できること、比較例2にさらに塩素バイパスダストを添加した比較例3では、比較例1に比べてクリンカー使用量を削減しつつ、3日、7日及び28日のすべての材齢で圧縮強さが維持又は向上することが分かっている(特許文献4参照)。
【0082】
本実施例及び本参考例では、まず、比較例3の塩素バイパスダストの代わりとして、その全量又は一部を脱塩ダストと置き換えた参考例1及び実施例2、EPダストと置き換えた参考例3
,4を、上記比較例1〜3と比較し、各ダストの圧縮強さへの影響を評価した。ここで各ダストの添加量はセメント組成物中の塩化物イオン量が0.06質量%となるよう調整した。表及び図に比較例1〜3、参考例1,3
,4及び実施例
2におけるセメント組成物中のクリンカー量と圧縮強さの関係を示し、各ダスト添加時における圧縮強さへの影響について以下に述べる。
【0083】
図2及び表12に示すように、比較例3における塩素バイパスダストの代わりに脱塩ダストを添加した
参考例1、及び比較例3における塩素バイパスダストの一部を脱塩ダストで置き換えた実施例2では、塩素バイパスダストよりも塩化物イオン量の少ない脱塩ダストの添加により、セメント組成物中のクリンカー量を更に削減することで、比較例3以上にCO
2の削減が可能となる。また、圧縮強さも、短期材齢で比較例2以上、28日材齢で比較例1及び2と同等以上となることから、脱塩ダストにおいても、比較例3の塩素バイパスダストでみられるような圧縮強さ向上効果があると言える。
【0084】
一方、塩素バイパスダストの代わりにEPダストを添加し
参考例3では、比較例1に比べて各材齢における圧縮強さが低下し、一見すると圧縮強さの向上効果が無いように見える。しかし、比較例3における塩素バイパスダストの一部をEPダストで置き換えた
参考例4では、すべての材齢における圧縮強さが比較例1と同等か又はそれ以上を示していることから、参考例3ではEPダスト添加量が多くクリンカー量削減による圧縮強さの低下によりEPダストの効果が隠れた可能性も考慮し、各材齢のクリンカー1%当たりの圧縮強さを比較することで、EPダストの圧縮強さ向上効果の有無を検討した。
【0085】
図3に、比較例1〜3、参考例1,3
,4及び実施例
2における圧縮強さとクリンカー1%当たりの圧縮強さを示す。
図3に示すように、例えば、参考例3ではEPダスト添加により、各材齢における圧縮強さが比較例1に比べ低下しているものの、各材齢におけるクリンカー1%当たりの圧縮強さは比較例1に比べてすべての材齢で向上している。このため、EPダストによる圧縮強さの向上効果はあるものと考えられる。
【0086】
すなわち、参考例3における圧縮強さの低下は、EPダスト添加による圧縮強さの向上効果よりも、クリンカー量減による影響が大きいためであり、EPダストの添加量を調整し、塩素バイパスダスト又は脱塩ダストと組合せることで、よりクリンカー量を削減しつつ、圧縮強さを維持又は向上したセメント組成物を得ることができると考えられる。そこで、
参考例5〜7で塩素バイパスダストとEPダストの組合せ、実施例8で脱塩ダストとEPダストの組合せ、実施例9で塩素バイパスダスト、脱塩ダスト及びEPダストのすべての組合せを検討した。
【0087】
参考例5〜7では、塩素バイパスダスト添加量を0.1%、EPダスト添加量をそれぞれ1%、2%及び5%とした。塩化物イオン量はEPダスト添加量により0.035〜0.05質量%となった。実施例8及び9における各ダストの添加量は、比較例3と同様に調整後のセメント組成物中の塩化物イオン量が0.06質量%程度となるように調整した。
図4に、比較例1〜3、参考例1
,4〜7及び実施例
8,9で得たセメント組成物のクリンカー量と圧縮強さの関係を示す。
【0088】
表12に示すように、
参考例5〜
7及び実施例8,9における比較例1からのクリンカー削減率及びそれにより達成されるCO
2削減量は、いずれも比較例2及び比較例3以上となっている。また、表12及び
図4示すように、圧縮強さにおいても全材齢で比較例1と同等もしくはそれ以上を示しており、各ダストにおける圧縮強さの向上効果により、CO
2発生量を十分に削減し、かつ十分な強度発現性を有していることがわかる。
【0089】
また、
図4に示すように、混合セメントに塩素バイパスダスト0.1%とEPダスト1%、2%及び5%添加した
参考例5〜7と、セメント組成物中の塩化物イオン量が0.06質量%となるよう塩素バイパスダストとEPダストを添加した
参考例4において、材齢3日における圧縮強さはEPダストの添加量の増加に伴って増加し、材齢7日における圧縮強さはEPダスト添加量が2%である
参考例6までは添加量の増加に伴って増加し、添加量が2%を超え5%である
参考例7から圧縮強さの低下が見られた。また材齢28日における圧縮強さは、EPダスト添加量が2%である
参考例6までは添加量が増加しても圧縮強さの維持が見られ、添加量が2%を超えた
参考例7から圧縮強さの低下が見られた。このようにEPダスト添加量増による圧縮強さの向上が確認できたことや、参考例1における脱塩ダストの一部をEPダストに置き換えた実施例8の各材齢における圧縮強さが、比較例1と同等であることからもEPダストにも塩素バイパスダストや脱塩ダストのような、圧縮強さ向上効果があると言える。このEPダストの圧縮強さ向上効果は、
参考例4〜7の材齢7日及び28日圧縮強さに見られるように、添加率2%で最大となり、それ以上の添加ではEPダストによる圧縮強さ向上効果よりクリンカー量削減による圧縮強さの影響が大きくなる。
【0090】
このような各種ダスト添加による圧縮強さの維持又は向上に関する機構は明らかではないが、ダスト中の塩f.CaOがセメント又は高炉スラグの刺激剤になり徐々に水和反応が進行したか、あるいは塩化物イオンの作用、あるいはダストのフィラー効果により圧縮強さが向上したと考えられる。
【0091】
以上の結果から、本実施形態に係るセメント組成物によれば、従来、主に廃棄されていたダスト(塩素バイパスダスト、脱塩ダスト及び/又はEPダスト)を有効利用できる。また、セメント組成物における上記ダストの比率を十分に引き上げても十分な強度発現性が得られるため、セメント組成物に含まれるクリンカーの比率を引き下げることができ、これにより、単位質量当りのセメント組成物の製造に生じるCO
2の量を十分に削減できる。