(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的に及び/又は構造的に対応する部分には同一の参照符号を付与する。以下において、プリント基板の板厚方向をZ方向、Z方向に直交する一方向であって筐体の開口部に対する奥行方向をX方向と示す。また、Z方向及びX方向の両方向に直交する方向をY方向と示す。特に断りのない限り、XY平面に沿う形状を平面形状とする。
【0017】
(第1実施形態)
先ず、
図1に基づき、本実施形態に係る電子装置の概略構成について説明する。
【0018】
図1に示す電子装置10は、たとえば車両に搭載される。電子装置10は、車両を制御する電子制御装置として構成されている。電子装置10は、たとえば車両に搭載されたエンジンを制御するエンジンECU(Electronic Control Unit)として構成されている。電子装置10は、筐体20と、回路基板30と、コネクタ40,41を備えている。
【0019】
筐体20は、回路基板30を内部に収容し、回路基板30を保護する。たとえば回路基板30の生じた熱に対する放熱性を向上するために、筐体20は、アルミニウムなどの金属材料を用いて形成される。たとえば電子装置10の軽量化を図るために、筐体20は、樹脂材料を用いて形成される。
【0020】
本実施形態において、筐体20は、Z方向に分割された2つの部材、具体的には、ケース21とカバー22を有している。ケース21及びカバー22は、いずれもアルミニウム系材料を用いて形成されている。筐体20は、Z方向においてケース21とカバー22を組み付けることで形成される。ケース21とカバー22の組み付け方法は特に限定されない。ねじ締結など周知の組み付け方法を採用することができる。
【0021】
ケース21は、一面が開口する箱状をなしている。平面略矩形状をなす回路基板30に対応して、ケース21の底面部も略矩形状となっている。ケース21において、4つの側面部のひとつが開口しており、側面の開口は、上記した一面の開口につながっている。
【0022】
カバー22は、ケース21とともに筐体20の内部空間を形成する。ケース21とカバー22を組み付けることで、カバー22によりケース21における一面の開口が閉塞され、開口部20aが形成される。開口部20aは、カバー22により一面の開口が閉塞されることで、側面の開口が区画されてなる。
【0023】
カバー22は、底部をZ方向に貫通する開口部20bを有している。この開口部20bを、図示しないモータと回路基板30とを電気的に中継する出力端子50が挿通している。
【0024】
回路基板30は、プリント基板31と、プリント基板31に実装された電子部品32を有している。電子部品32は、プリント基板31に、はんだ33を介して電気的に接続されている。回路基板30は、筐体20の内部空間に収容されている。プリント基板31は、一面31a及び該一面31aに対してZ方向に反対の面である裏面31bを有している。プリント基板31の板厚方向がZ方向と一致している。プリント基板31は、平面略矩形状をなしている。プリント基板31(回路基板30)は、ねじ締結、接着など周知の固定方法により、筐体20に固定されている。
【0025】
本実施形態では、カバー22が深さの浅い箱状をなしており、カバー22の底部内面22aに、プリント基板31に向けて突出する支持部22bが形成されている。裏面31bが支持部22bにより支持された状態で、プリント基板31が筐体20(カバー22)に固定されている。
【0026】
プリント基板31は、樹脂などの電気絶縁材料を用いて形成された絶縁基材34に、配線が配置されてなる。そして、配線と電子部品32とにより、回路が形成されている。
図1では、プリント基板31の配線のうち、外部接続用の電極部分であるランド35,36のみを図示している。
【0027】
プリント基板31は、一面31a及び裏面31bにわたって形成されたスルーホール31cを有している。ランド35は、スルーホール31cの壁面に形成されている。ランド35は、スルーホールランドとも称される。本実施形態では、ランド35が、スルーホール31cの壁面と、一面31a及び裏面31bにおけるスルーホール31cの開口周囲に、一体的に形成されている。ランド35には、コネクタ40の後述する端子43が圧接されている。ランド35は、たとえば無電解銅めっきを施した後、電解銅めっきを施すことで形成されている。
【0028】
ランド36は、プリント基板31の一面31a及び裏面31bの少なくとも一方に形成されている。ランド36は、はんだ付けされる電極部分である。本実施形態では、一面31aに、複数のランド36が形成されている。一部のランド36には、はんだ33を介して、表面実装型の電子部品32が電気的に接続されている。別のランド36には、はんだ33を介して、表面実装型のコネクタ41が電気的に接続されている。ランド36は、たとえば絶縁基材34の表面に貼着された銅箔を、パターニングすることで形成されている。
【0029】
コネクタ40は、プリント基板31に対して、X方向の一端側に配置されている。コネクタ40の一部は筐体20の開口部20aを介して外部に露出され、残りの部分は筐体20の内部空間に収容されている。コネクタ40は、ハウジング42と、複数の端子43を有している。
【0030】
ハウジング42は、樹脂材料を用いて形成されている。ハウジング42は、筒部42aと、閉塞部42bを有している。筒部42aは、筒状に成形されている。筒部42aは、X方向に沿う軸を有している。閉塞部42bは、筒部42aに連なり、筒部42aを閉塞している。閉塞部42bには、複数の端子43が保持されている。本実施形態では、閉塞部42bが、筒部42aの一端を閉塞している。これにより、ハウジング42は有底筒状をなしている。
【0031】
端子43は、導電性材料を用いて形成されており、回路基板30に構成された回路と外部機器とを電気的に中継する。端子43は、たとえば圧入固定やインサート成形により、閉塞部42bに保持されている。図示を省略するが、複数の端子43は、ハウジング42の幅方向であるY方向に沿って配列されている。本実施形態では、端子数が多いため、端子43がZ方向に多段に配置されている。また、端子43としてプレスフィット端子を採用している。各端子43は、略L字状をなしている。各端子43は、対応するスルーホール31cに圧入されている。各端子43は、対応するランド35に圧接されている。
【0032】
コネクタ41は、上記したように表面実装構造をなしている。コネクタ41は、はんだ33を介してランド35に接続されている。コネクタ41は、筐体20の内部空間に収容されている。コネクタ41は、ハウジング44と、複数の端子45を有している。本実施形態では、プリント基板31の一面31a側にコネクタ41が配置されている。また、
図1に示すように、プリント基板31に対し、X方向においてコネクタ40とは反対側に配置されている。
【0033】
ハウジング44は、樹脂材料を用いて形成されている。ハウジング44には、複数の端子45が保持されている。端子45は、導電性材料を用いて形成されている。端子45は、ばね変形可能なようにハウジング44に保持されている。端子45は、
図1に示すように、ばね変形による反力で出力端子50を挟持するように、対をなして設けられている。対をなす端子45は、X方向において並んで設けられており、X方向の両側から出力端子50を挟んでいる。端子45は、出力端子50との接続部とランド35との接続部と間の部分で、ハウジング44に保持されている。
【0034】
プリント基板31は、一面31a及び裏面31bにわたって形成されたスルーホール31dを有している。スルーホール31dは、出力端子50を一面31a側に突出させるために形成されており、その壁面にランド35が形成されていない。出力端子50は、スルーホール31dを挿通した状態で、対をなす端子45により挟持されている。すなわち、端子45は、出力端子50に圧接している。
【0035】
次に、
図2及び
図3に基づき、コネクタ40,41による電気接点周辺の構成について説明する。
図2及び
図3では、後述する芳香族化合物46の分散状態を模式化して示している。
【0036】
本実施形態では、上記したように、コネクタ40の端子43としてプレスフィット端子を採用している。
図2に示すように、端子43は、プリント基板31のスルーホール31cに圧入保持されている。端子43は、金属材料を用いて形成された基材430と、基材430を被覆するめっき膜431を有している。基材430は、たとえば銅又は銅合金を構成材料として形成されている。銅合金として、たとえばリン青銅を採用することができる。基材430は、銅又は銅合金の金属板を打ち抜いて形成されている。基材430は、母材とも称される。
【0037】
基材430は、スルーホール31c内に保持される部分を含んで形成された開口部430aを有している。端子43の板厚方向はY方向であり、開口部430aはY方向に貫通している。開口部430aは、Z方向、すなわち端子43の長手方向に延設されている。基材430は、上記開口部430aに加えて、先端部430bと、後端部430cと、梁部430dを有している。
【0038】
先端部430bは、開口部430aよりも挿入先端側の部分である。先端部430bの幅、すなわちX方向の長さは、スルーホール31cの内径よりも狭くなっている。先端部430bは、スルーホール31c内に端子43を導く部分であるため、導入部とも称される。後端部430cは、開口部430aよりも後端側の部分である。
【0039】
基材430は、開口部430aによって一対の梁部430dに分岐されている。先端部430bは、一対の梁部430dの一端同士を連結し、後端部430cは、梁部430dの他端同士を連結している。X方向において、一対の梁部430dの外表面間のうち、最も距離が長い部分の長さ、すなわち端子幅が、圧入前の状態で、スルーホール31cの内径よりも広くなっている。一対の梁部430dは、後端部430cから先端部430bに向けて端子幅が徐々に広がり、その途中から先端部430bに向けて端子幅が徐々に狭くなっている。
【0040】
めっき膜431は、基材430の少なくとも外表面を被覆している。めっき膜431は、芳香族化合物46との間に逆供与π結合を形成でき、且つ、基材430上に成膜できる金属材料を主成分として形成されている。めっき膜431は、たとえばNi、Cu、Ag、Coのいずれかを主成分として構成されている。本実施形態では、Cuを構成材料としている。
【0041】
めっき膜431は、主成分の金属に加えて、π受容性を有する芳香族化合物46を含んでいる。めっき膜431における芳香族化合物46の含有量は、C(炭素)原子換算でめっき膜431の主成分の金属に対して0.1重量%以上とされている。芳香族化合物46の含有量とは、主成分の金属の重量%と芳香族化合物46の重量%との比率のまま、これら重量%の和を100重量%に換算したときの、芳香族化合物46の値である。
【0042】
また、めっき膜431における芳香族化合物46の含有量は、めっき膜431の主成分の金属と芳香族化合物の体積比率で50%以下、好ましくはC原子換算でめっき膜431の主成分の金属に対して15重量%以下とされている。体積比率で芳香族化合物46が50%を超えると、めっき膜431の金属同士の繋がりを阻害され、導通経路が遮断されることとなり絶縁性の高いめっき膜431となるためである。一例として、めっき膜431の主成分の金属を銅、芳香族化合物を1,10−フェナントロリンとした場合、C原子換算でめっき膜431の主成分の金属に対して15重量%を超えると、めっき膜431の自立が阻害され、剥離等の現象が起こりやすくなるため、15重量%以下が好ましい。
【0043】
芳香族化合物46は、めっき膜431中において、主成分の金属に対して分散されている。このようなめっき膜431は、めっき浴中に芳香族化合物46を投入し、芳香族化合物46がめっき浴中において溶解した状態で、基材430上にめっきを施すことで形成することができる。
【0044】
以上のように構成される端子43は、ばね性を有している。スルーホール31cに端子43が挿入されると、一対の梁部430dが互いに近づく方向に変形し、梁部430dの弾性変形による反力がスルーホール31cの壁面に作用する。これにより、梁部430dの外表面に形成されためっき膜431が、スルーホール31cの壁面のランド35に圧接される。このように、端子43は、接触によりランド35に対して電気的接続を行う接点部43aを有している。接点部43aは、梁部430d及びめっき膜431を含んでいる。また、プリント基板31において、ランド35が端子43に対する接点部となっている。すなわち、ランド35を有するプリント基板31及び端子43を有するコネクタ40の一方が第1接点部を有する第1部品に相当し、他方が第2接点部を有する第2部品に相当する。端子43が押圧する側の接点部であり、ランド35が押圧される側の接点部である。
【0045】
なお、端子43に、めっき膜431を含む多層めっきを設けてもよい。この場合、多層めっきの最外層がめっき膜431とされ、めっき膜431以外のめっき膜は、芳香族化合物46を含まない構成とすればよい。
【0046】
図3に示すように、コネクタ41の端子45も、金属材料を用いて形成された基材450と、基材450を被覆するめっき膜451を有している。基材450は、たとえば銅又は銅合金を構成材料として形成されている。基材450は、はんだ33を介してランド35に固定された状態で、X方向に弾性変形可能に設けられている。基材450は、ばね変形による反力で出力端子50を挟持するように、対をなして設けられている。対をなす基材450は、X方向の両側から出力端子50を挟持するように、X方向に並んで設けられている。対をなす基材450(端子45)は、線対称配置となっている。
【0047】
めっき膜451も、めっき膜431と同様の構成となっている。すなわち、めっき膜451は、芳香族化合物46との間に逆供与π結合を形成でき、且つ、基材450上に成膜できる金属材料を主成分として形成されている。めっき膜451は、たとえばNi、Cu、Ag、Coのいずれかを主成分として構成されている。本実施形態では、Cuを構成材料としている。
【0048】
めっき膜451は、主成分の金属に加えて、π受容性を有する芳香族化合物46を含んでいる。めっき膜451における芳香族化合物46の含有量は、C原子換算でめっき膜451の主成分の金属に対して0.1重量%以上とされている。芳香族化合物46は、めっき膜451中において、主成分の金属に対して分散されている。めっき膜451も、めっき浴中に芳香族化合物46を投入し、芳香族化合物46がめっき浴中において溶解した状態で、基材450上にめっきを施すことで形成することができる。
【0049】
以上のように構成される端子45も、ばね性を有している。対をなす端子45の間に出力端子50が挿入されると、端子45がX方向に変形して対をなす端子45の対向間隔が広がり、端子45の弾性変形による反力がX方向両側から出力端子50に作用する。これにより、端子45の表面に形成されためっき膜451が、出力端子50に圧接する。このように、端子45は、接触により出力端子50に対して電気的接続を行う接点部45aを有している。接点部45aは、基材450とめっき膜451を含んでいる。また、出力端子50における端子43との接触部分が端子45に対する接点部となっている。すなわち、端子45を有するコネクタ41及び出力端子50の一方が第1接点部を有する第1部品に相当し、他方が第2接点部を有する第2部品に相当する。端子45が押圧する側の接点部であり、出力端子50が押圧される側の接点部である。接点部43a,45aが、芳香族化合物46を含むめっき膜431,451を有した接点部に相当する。
【0050】
なお、端子45に、めっき膜451を含む多層めっきを設けてもよい。この場合、多層めっきの最外層がめっき膜451とされ、めっき膜451以外のめっき膜は、芳香族化合物46を含まない構成とすればよい。
【0051】
芳香族化合物46は、分光化学系列において配位子場分裂の大きさが2,2’−ビピリジル以上のπ受容性を有し、且つ、芳香族性を有する分子である。このような芳香族化合物46を、C原子換算でめっき膜431,451の主成分の金属に対して0.1重量%以上となるように、めっき膜431,451に含ませる。これにより、めっき膜431,451の表面、すなわち金属表面の酸化を抑制しつつ、めっき膜431,451に自己潤滑性をもたせることができる。
【0052】
芳香族化合物46は、π受容性が高い分子である。π受容性は、π酸性とも称される。配位子場分裂の大きさとは、d軌道分裂のエネルギー差である。芳香族化合物46は、空のπ軌道に電子密度を受け入れて、金属との間に逆供与π結合を形成することができる分子である。このため、芳香族化合物46は、π受容性配位子とも称され、金属に配位して錯体を形成する。π受容性は、配位子場分裂の大きさに比例する。以下に、周知の分光化学系列を示す。例示において、配位子場分裂が最も大きい分子はCOである。
【0053】
I
−<Br
−<Cl
−<OH
−<H
2O<py<NH
3<en<bpy<phen<NO
2−<PPh
3<CN
−<CO
なお、pyはピリジン、enはエチレンジアミン、bpyは2,2’−ビピリジル、phenは1,10−フェナントロリン、PPh
3はトリフェニルフォスフィンである。以下において、2,2’−ビピリジルをbpy、1,10−フェナントロリンをphenと示す。
【0054】
芳香族化合物46としては、たとえば
図4に示すphen、phen類縁体、
図5に示すbpy、bpy類縁体、
図6に示すPPh
3やジフェニルホスフィンなどのフェニルホスフィンを採用することができる。めっき膜431,451は、芳香族化合物を少なくとも1種類含めばよい。たとえば、めっき膜431,451が、2種類以上の芳香族化合物を含んでもよい。たとえば2種類のphen類縁体を含んでもよいし、phenとphen類縁体を含んでもよい。phenのみを含んでもよい。
【0055】
phen、phen類縁体、bpy、及びbpy類縁体はいずれも、孤立電子対を有する窒素を有している。phen、phen類縁体、bpy、及びbpy類縁体はいずれも、孤立電子対を有する窒素を2つ有した多座配位子である。phen、phen類縁体、bpy、及びbpy類縁体はいずれも、π共役系分子である。phen、phen類縁体、bpy、及びbpy類縁体はいずれも、複素環式化合物である。phen、phen類縁体、bpy、及びbpy類縁体はいずれも、複素環を複数有する多環式化合物である。
【0056】
なお、
図4及び
図5では、位置番号を示している。phenの場合、2〜9位の炭素に水素が結合している。phen類縁体は、phenに構造が類似するもの、たとえば2〜9位の少なくとも1つの炭素に、水素の代わりに他の官能基が結合したものが含まれる。すなわち、phenの水素が他の官能基に置換されたものである。bpyの場合、3,3’,4,4’,5,5’,6,6’位の炭素に水素が結合している。bpy類縁体は、bpyに構造が類似するもの、たとえばbpyの4,4’,5,5’,6,6’位の炭素に、水素の代わりに他の官能基が結合したものが含まれる。
【0057】
次に、
図7〜
図12に基づき、上記したコネクタ40,41(電気部品)及び電子装置10の効果について説明する。
図7は参考例を示している。
図7及び
図8では、金属原子、ダングリングボンド、酸素分子、不対電子を模式化して示している。金属の結晶構造は特に限定されるものではない。
図8では、端子43を一例として示している。
図7の構成は、
図8に対応している。
図10は平面図であるが、明確化のために、後述する実装禁止領域37にハッチングを施している。
図11も参考例を示している。各参考例では、本実施形態の要素と共通乃至関連する要素に対し、本実施形態の要素の符号末尾にrを加算した符号を付与している。
【0058】
図7に示す参考例では、端子43rが、基材430rとともにめっき膜431rを有している。参考例のめっき膜431rは、芳香族化合物を含んでいない。この構成では、めっき膜431rの表面が、端子43rにおける金属表面となっている。したがって、めっき膜431rの表面に、半導体表面のダングリングボンド(未結合手)のように、電子が局在化している。以下においては、金属表面における電子の局在化を、金属表面のダングリングボンドと示す。
図7に示すように、めっき膜431rの表面に位置する金属原子47rは、ダングリングボンド48rを有している。
【0059】
一方、酸素分子100は、
図7に示すように不対電子100aを2つ有している。このため、酸素分子100とダングリングボンド48rを有する金属とが互いに電子を共有し、酸素分子100が金属表面に吸着して酸化に至るものと推測される。換言すれば、電子の局在化により金属表面に表面準位が形成されるため、不対電子100aを有する酸素分子100が表面準位にトラップされて酸化に至るものと推測される。このように、従来構成を示す参考例の場合、端子43の表面において酸化が進行する。
【0060】
本実施形態では、
図8に示すように、端子43が、基材430とともにめっき膜431を有している。このため、参考例で示したように、めっき膜431の表面が、端子43における金属表面となっている。また、上記したように、めっき膜431中に、π受容性を有する芳香族化合物46が分散されている。
図8に示す例では、芳香族化合物46としてphenが分散されている。
【0061】
上記したように、芳香族化合物46は、空のπ軌道に電子密度を受け入れて、金属との間に逆供与π結合を形成することができる。芳香族化合物46は、分光化学系列において配位子場分裂の大きさがbpy以上の分子であり、π受容性が高い。このため、芳香族化合物46の空のπ軌道のエネルギーが、金属の占有されたd軌道のエネルギーと近接しており、π軌道がd軌道と相互作用して、金属から芳香族化合物46に向けて電子の非局在化が生じる。すなわち、芳香族化合物46は、めっき膜431を構成する金属原子47(銅原子)と間に、逆供与π結合を形成する。なお、芳香族化合物46の配位原子は孤立電子対を有しており、配位原子のσ軌道が金属の空の軌道(たとえばd軌道)と相互作用して、σ結合を形成する。
【0062】
このように、本実施形態では、芳香族化合物46が、ダングリングボンドを有する金属原子47との間に逆供与π結合を形成する。また、めっき膜431における芳香族化合物46の含有量が、C原子換算でめっき膜431の主成分の金属に対して0.1重量%以上とされており、分散状態で、金属表面付近に芳香族化合物46が十分に存在する。これにより、端子43において、金属表面のダングリングボンドの数を従来よりも低減する、若しくは、無くすことができる。したがって、端子43において、金属表面の酸化を抑制することができる。なお、端子45についても、同様の効果を奏することができる。
【0063】
ところで、還元剤の場合、還元能がなくなると酸化が進行する。これに対し、芳香族化合物46は、ダングリングボンドを有する金属原子47に結合することで、金属表面の酸化を抑制する。結合状態が維持される限り、酸化を抑制することができる。上記したように、芳香族化合物46は、σ結合に加えて逆供与π結合により、金属原子47に配位している。したがって、従来よりも長期にわたって接触抵抗増大を抑制することができる。
【0064】
また、めっき膜として金を用いないため、安価に金属表面の酸化を抑制することができる。
【0065】
さらに本実施形態では、めっき膜431が芳香族化合物46を含んでいる。芳香族化合物46を、C原子換算でめっき膜431の主成分の金属に対して0.1重量%以上含んでいる。これにより、めっき膜431が、自己潤滑性を有する。したがって、端子43をスルーホール31cに挿入(圧入)する際、ランド35との間で生じる動摩擦力に起因する組み付け荷重を、
図9の白抜き矢印で示すように低減することができる。特にプレスフィット端子の場合、組み付け荷重が大きいため、効果的である。なお、
図9には、参考例として、芳香族化合物46を含まない場合に生じる組み付け荷重を破線で示している。なお、動摩擦力に起因する組み付け荷重は、挿入荷重とも称される。
【0066】
このように、動摩擦力に起因する組み付け荷重を低減できるため、たとえばめっき膜431やランド35を構成するめっき膜が削れて屑が生じるのを抑制することができる。
【0067】
スルーホール31cに圧入される端子43(プレスフィット端子)の場合、動摩擦力に起因する組み付け荷重が、Z方向、すなわちプリント基板31を撓ませる方向に作用する。しかしながら、本実施形態によれば、組み付け荷重を低減できるため、組み付けにともなうプリント基板31の歪みを低減することができる。
【0068】
このように、プリント基板31の歪みを低減できるため、たとえば
図10に示すように、プリント基板31におけるランド35周りの実装禁止領域37を小さくすることができる。すなわち、電子部品32をランド35の近くに実装することができる。
図10には、参考例として、芳香族化合物46を含まない場合の実装禁止領域37rと、ランド35周辺に実装される電子部品32rを破線で示している。破線で示す参考例の実装禁止領域37rに較べて実装禁止領域37を小さくできるので、プリント基板31を小型化することができる。また、電子部品32とランド36とを接続するはんだ33にクラックが生じるのを抑制することもできる。
【0069】
また、動摩擦力に起因する組み付け荷重が大きいと、
図11の参考例に示すように、プリント基板31rに内層クラック38rが生じる虞がある。換言すれば、プリント基板31rに白化が生じる虞がある。これに対し、本実施形態では、動摩擦力に起因する組み付け荷重を低減できるため、内層クラックの発生を抑制することもできる。
【0070】
なお、端子45も、芳香族化合物46を含むめっき膜451を有しているので、端子43と同等の効果を奏することができる。端子45の場合、動摩擦力を低減することで、たとえばめっき膜451の屑が生じるのを抑制することができる。また、端子45をランド36に固定するはんだ33にクラックが生じるのを抑制することができる。また、出力端子50が表面に図示しないめっき膜を有する場合にも、めっき膜が削れて屑が生じるのを抑制することができる。
【0071】
芳香族化合物46として、複数の芳香環を有する多環式化合物を採用するとよい。これによれば、単環に較べて、めっき膜431,451の自己潤滑性を高めることができる。すなわち、動摩擦力をより低減することができる。単環よりも少量の添加で自己潤滑性をもたせることができる。多環式化合物として、たとえば複素環式化合物を採用することができる。
【0072】
より好ましくは、芳香族化合物46として、複素環式化合物であるphen及びphen類縁体の少なくともひとつを含むとよい。phenはbpyに較べて共役系が長く、平面性が高いため、自己潤滑性をより高めることができる。また、phenは水にも溶解するため、製造上の自由度を高めることもできる。
【0073】
また、芳香族化合物46として、電子吸引性の置換基を有する複素環式化合物を採用するとよい。たとえばphenの2〜9位のうちの少なくともひとつの位置に電子吸引性基が結合されたphen類縁体を用いるとよい。水素の代わりに電子吸引性基を導入すると、電子吸引性によってπ受容性がより高くなる。換言すれば金属のダングリングボンドをphen側に引きやすくなる。これにより、結合強度を向上することができる。したがって、高温においても長期にわたって接触抵抗増大を抑制することができる。すなわち、耐熱性を向上し、広い温度範囲での使用が可能となる。なお、電子吸引性基として、ニトロ基、アルデヒド基、カルボキシ基、シアノ基などを用いることができる。
【0074】
耐熱性向上については、bpyについても同様である。具体的には、芳香族化合物46として、bpyの3〜6位及び3’〜6’位のうち、少なくともひとつの位置に電子吸引性基が導入されたbpy類縁体を用いるとよい。これにより、π受容性がより高まり、耐熱性を向上することができる。
【0075】
なお、本実施形態では、コネクタ40,41の端子43,45が、芳香族化合物46を含むめっき膜431,451を有する例を示した。しかしながら、端子43,45の接続対象であるランド35や出力端子50が、芳香族化合物を含み、端子43,45との接触表面をなすめっき膜を有してもよい。
【0076】
次に、本発明者によって確認された具体的な実施例について説明する。
【0077】
(実施例1)
本発明者は、芳香族化合物46の有無と金属表面との酸化との関係について確認した。具体的には、先ず、リン青銅を構成材料とする平板状の基材を準備した。基材の大きさは、20mm×20mmとした。そして、銅を主成分とするめっき浴中に、芳香族化合物46であるphenと、添加剤とを加えて撹拌し、基材の表面にめっき膜を成膜して試験片を作成した。なお、めっき膜における芳香族化合物46の含有量が、C原子換算で銅に対して0.1重量%以上(たとえば0.5〜9重量%)となるようにした。この試験片を、室温(25℃)でXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)により分析した。また、ホットプレートにより試験片を加熱して、試験片の温度を90℃で3時間維持し、3時間加熱後の試験片をXPSにより分析した。その分析結果を、
図12に示す。
図12において、破線が室温、実線が90℃の結果を示している。
【0078】
また、比較例1として、めっき膜中に芳香族化合物46(phen)を含まない試験片を作成し、これについても、室温と80℃とでXPSにより分析した。その分析結果を、
図13に示す。
図13において、破線が室温、実線が80℃の結果を示している。
【0079】
ここで、酸化第二銅(CuO)のピークは529.5eVに現れ、酸化第一銅(Cu
2O)のピークは530.5eVに現れる。実施例1の場合、
図12に示すように、室温と90℃とで、529.5eVにおける強度にほとんど変化は見られなかった。また、530.5eVにおける強度にもほとんど変化は見られなかった。このことから、実施例1では、金属表面の酸化が抑制されたことがわかる。
【0080】
一方、比較例1の場合、加熱温度を実施例よりも低い80℃としながらも、
図13に示すように、室温に対して、529.5eVをピークとする帯域の面積の増加が確認できた。また、80℃において、530.5eVにショルダーが確認できた。このことから、めっき膜中に芳香族化合物46を含まない比較例1では、金属表面の酸化が進行したことがわかる。なお、bpyについても、同様の結果が得られた。
【0081】
(実施例2)
本発明者は、置換基の効果及び耐熱性について確認した。
【0082】
先ず、
図14に示すように、第1部材60及び第2部材61を準備した。具体的には、リン青銅を構成材料とする20mm×20mmの平板を、銅を主成分とするめっき浴中に、芳香族化合物46と添加剤とを加えて撹拌し、平板の表面にめっき膜を成膜して第1部材60とした。なお、めっき膜における芳香族化合物46の含有量が、C原子換算で銅に対して0.1重量%以上となるようにした。また、リン青銅を構成材料とする20mm×20mmの平板部62と、平板部62における第1部材60との対向面の中央付近に形成された半球状の凸部63を有する金属部材を準備した。なお、凸部63をR1(半径1mm)とした。そして、金属部材の表面に、第1部材60と同様にめっき膜を成膜して第2部材61とした。
【0083】
図14に示すように、板厚方向からの投影視において、第1部材60と平板部62がほぼ一致するように、平板部62における凸部63の形成面上に第1部材60を積層配置した。そして、第1部材60側から積層方向に所定の荷重(たとえば3N)を印加した状態で、積層方向と直交する方向(
図14の矢印方向)に第1部材60と第2部材61とを相対的に微摺動させた。摺動の往復距離、すなわち摺動1回当たりの距離については、複数水準設定した。後述する
図15〜
図17は、摺動1回当たりの距離を50μmとしたときの結果を示している。なお、距離を変えても、傾向は同じであった。
【0084】
また、1回の摺動ごとに、接触抵抗を測定した。その際、第1部材60の相対する2辺の一方である端部60a、他方である端部60bのそれぞれに測定用の端子を取り付けた。また、第2部材61の平板部62における相対する2辺の一方である端部61a、他方である端部61bのそれぞれに測定用の端子を取り付けた。なお、端部60a,60bが設けられた2辺の対向方向を第1方向とすると、第2部材61において、端部61a,61bが設けられた2辺の対向方向も、第1方向となるようにした。また、第1方向において、端部60a,61aを互いに同じ側、端部60b,61bを互いに同じ側とした。そして、間に凸部63を挟むように、第1部材60の端部60aと第2部材61の端部61b間の通電経路における接触抵抗、又は、第1部材60の端部60bと第2部材61の端部61a間の通電経路における接触抵抗を測定した。
【0085】
芳香族化合物46としては、phen、5位にニトロ基(NO
2)が導入されたphen類縁体、2位にアルデヒド基(CHO)が導入されたphen類縁体、をそれぞれ用いた。そして、それぞれについて室温(25℃)と125℃の両方で接触抵抗を測定した。また、比較例2として、芳香族化合物46を含むめっき膜の代わりに、金めっきを施してなる第1部材及び第2部材を準備し、同様の摺動試験を行った。
【0086】
図15は、室温での摺動試験の結果を示している。
図16は、125℃での摺動試験の結果を示している。
図17は、実施例2のうちphen、phenの5位にニトロ基(NO
2)が導入されphen類縁体、比較例2、の結果をまとめて示している。
図15では、phenを実線、ニトロ基が導入されたphen類縁体を破線、アルデヒド基が導入されたphen類縁体を一点鎖線で示している。
図16では、phenを実線、ニトロ基が導入されたphen類縁体を破線、アルデヒド基が導入されたphen類縁体を一点鎖線で示している。
図17では、phenを実線、ニトロ基が導入されたphen類縁体を破線、比較例2である金(Au)を一点鎖線で示している。なお、
図17では、室温を細線、125℃を室温よりも太い太線で示している。
【0087】
図15に示すように、室温において、phen、5位に電子吸引性のニトロ基が導入されたphen類縁体、2位に電子吸引性のアルデヒド基が導入されたphen類縁体のいずれも、5万回の摺動回数でも安定した接触抵抗を示した。
【0088】
図16に示すように、125℃において、phen、5位に電子吸引性のニトロ基が導入されたphen類縁体、2位に電子吸引性のアルデヒド基が導入されたphen類縁体のいずれも、2千回の摺動回数でも安定した接触抵抗を示した。具体的には、phenの場合、2千回程度まで安定した接触抵抗を示した。ニトロ基が導入されたphen類縁体の場合、1万回程度まで安定した接触抵抗を示した。アルデヒド基が導入されたphen類縁体の場合、7千回程度まで安定した接触抵抗を示した。すなわち、電子吸引性基が導入されたphen類縁体の方が、phenよりも、長期にわたって接触抵抗増大を抑制することができた。また、置換基の種類は違うものの、5位に電子吸引性基が導入されたphen類縁体の方が、2位に電子吸引性基が導入されたphenよりも、長期にわたって接触抵抗増大を抑制することができた。
【0089】
図17に示すように、室温では、phenのほうが、比較例2の金よりも、長期にわたって接触抵抗増大を抑制することができた。また、125℃では、phenのほうが金よりも、若干早く接触抵抗が増大した。一方、5位に電子吸引性のニトロ基が導入されたphen類縁体の場合、室温、125℃のいずれにおいても、金より長期にわたって接触抵抗増大を抑制することができた。
【0090】
以上より、π受容性を有する芳香族化合物46を所定量含むことで、長期にわたって接触抵抗増大を抑制できることが明らかとなった。特に、芳香族化合物46として、phen及びphen類縁体の少なくともひとつを含むと良いことが明らかとなった。さらに、電子吸引性基が導入されたphen類縁体を用いることで、耐熱性を向上し、より広い温度域で長期にわたり接触抵抗増大を抑制できることが明らかとなった。
【0091】
なお、実施例2では、芳香族化合物46として、phen及び電子吸引性基が導入されたphen類縁体を用いたが、bpy及び電子吸引性基が導入されたbpy類縁体についても同様の結果が得られるものと考えられる。すなわち、芳香族化合物46として、bpy及びbpy類縁体の少なくともひとつを含むと良い。さらに、2〜9位のうちの少なくともひとつの位置に電子吸引性基が導入されたbpy類縁体を用いるとよい。
【0092】
(実施例3)
本発明者は、動摩擦力低減の効果について確認した。
【0093】
その際、実施例2と同じ試験装置を用いた。そして、第1部材60側から積層方向に所定の荷重(たとえば50N)を印加した状態で、積層方向と直交する方向に第1部材60と第2部材61とを相対的に微摺動させた。微摺動時に垂直抗力N(印加荷重)及び動摩擦力Fを検出し、F=μ・Nの関係から、動摩擦係数μを算出した。
図18は、動摩擦係数μの測定結果を示している。第1部材60及び第2部材61を2組準備し、それぞれについて測定した。
図18では、一方の測定結果を実線、他方を破線で示している。
【0094】
図18に示すように、芳香族化合物46を所定量含むことで、動摩擦係数μの平均値が0.2程度となることが明らかとなった。なお、Cu同士の動摩擦係数は、0.43程度である。すなわち、芳香族化合物46を含むことで、自己潤滑性を有することが明らかとなった。
【0095】
(第2実施形態)
本実施形態は、先行実施形態を参照できる。このため、先行実施形態に示した電子装置10と共通する部分についての説明は省略する。
【0096】
本実施形態では、
図19に示すように、プリント基板31の接点部であるランド35が、基材としてのめっき膜350と、基材を被覆するめっき膜351を有している。
図19では、めっき膜350,351以外の配線部分を省略して図示している。めっき膜350は、銅を材料として形成されている。めっき膜350は、スルーホール31cの壁面に形成されている。めっき膜350は、スルーホール31cの開口周囲にも形成されている。めっき膜350は、無電解銅めっきにより形成することができる。
【0097】
めっき膜351は、下地のめっき膜350の表面に形成されている。めっき膜351は、ランド35の表面、具体的には、端子43が接触する表面をなしている。めっき膜351は、上記した芳香族化合物46を含むめっき膜431,451と同様の構成となっている。めっき膜351は、主成分の金属に加えて、芳香族化合物39を含んでいる。めっき膜351は、芳香族化合物39との間に逆供与π結合を形成でき、且つ、めっき膜350上に成膜できる金属材料を主成分として形成されている。めっき膜351は、たとえばNi、Cu、Ag、Coのいずれかを主成分として構成されている。本実施形態では、Cuを構成材料としている。
【0098】
芳香族化合物39は、上記した芳香族化合物46同様、分光化学系列において配位子場分裂の大きさが2,2’−ビピリジル以上のπ受容性を有し、且つ、芳香族性を有する分子である。芳香族化合物39として、たとえばphenを採用することができる。めっき膜351における芳香族化合物39の含有量は、C原子換算でめっき膜351の主成分の金属に対して0.1重量%以上とされている。
【0099】
一方、コネクタ40を構成する端子43において、めっき膜431は、芳香族化合物46を含まず、貴金属を材料として形成されている。本実施形態では、Auを材料として形成されている。めっき膜431として、多層構造を採用することもできる。この場合、最外層のめっきとして、貴金属めっきを有せばよい。
【0100】
このように、本実施形態では、ランド35が芳香族化合物39を含むめっき膜351を有し、端子43が、貴金属を用いて形成され、ランド35との接触面をなすめっき膜431を有している。このため、ランド35が第1接点部、めっき膜351が第1めっき膜に相当する。また、端子43の接点部43aが第2接点部、めっき膜431が第2めっき膜に相当する。
【0101】
次に、
図20及び
図21に基づき、電子装置10の効果について説明する。
図21は、自己潤滑性を有するめっき膜351の効果を示す図である。
図21は、端子43をスルーホール31cに対して複数回挿抜したときの、めっき膜351,431の状態変化を示している。
図21(a)は、圧入前の初期状態、
図21(b)は、圧入完了後の状態、
図21(c)は、複数回挿抜を行った後の状態を示している。
図20は、自己潤滑性を有さないめっき膜351rについての参考例を示しており、
図21に対応している。
図20及び
図21は、
図19に対して簡素化して図示している。参考例では、本実施形態の要素と共通乃至関連する要素に対し、本実施形態の要素の符号末尾にrを加算した符号を付与している。
【0102】
図20(a)に示すように、参考例では、ランド35rが、基材としてのめっき膜350rと、基材を被覆するめっき膜351rを有している。めっき膜351rは、芳香族化合物39を含んでおらず、たとえばAuを材料として形成されている。端子43rは、基材430rとともにめっき膜431rを有している。めっき膜431rは、芳香族化合物46を含んでおらず、たとえばAuを材料として形成されている。
【0103】
端子43rを圧入する際に、ランド35rと端子43rの電気接点には、端子43rのばね変形による反力に起因する荷重に加えて、めっき膜351r,431rの間の動摩擦力に起因する荷重が作用する。したがって、圧入時に、ランド35rの表面のめっき膜351r、端子43rの表面のめっき膜431rが削れる。圧入完了の状態で、
図20(b)に示すように、めっき膜351r,431rの厚みは、圧入前よりも薄くなる。
【0104】
挿抜を繰り返すごとに、めっき膜351r,431rが削れる。したがって、複数回挿抜すると、
図20(c)に示すように、めっき膜351r,431rが摩耗し、下地のめっき膜350rと下地の基材430rとの接触となる。下地同士が摺動するため、金属表面の酸化が進行してしまう。
【0105】
これに対し、本実施形態では、
図21(a)に示すように、ランド35のめっき膜351が、芳香族化合物39を含んでいる。また、めっき膜351における芳香族化合物39の含有量が、C原子換算でめっき膜351の主成分の金属に対して0.1重量%以上とされている。これにより、めっき膜351が自己潤滑性を有している。このため、めっき膜351,431の間の動摩擦力に起因する荷重が、参考例よりも小さい。したがって、圧入時に、めっき膜351,431がほとんど削れない。すなわち、圧入完了の状態で、
図21(b)に示すように、めっき膜351r,431rの厚みは、圧入前とほとんど変わらない。
【0106】
また、複数回挿抜しても、
図21(c)に示すように、めっき膜351,431がほとんど削れない。めっき膜351,431の摩耗を抑制できるため、低抵抗を安定的に維持することができる。
【0107】
このように、本実施形態では、めっき膜351が所定量の芳香族化合物39を含んでいる。めっき膜351が自己潤滑性を有するため、動摩擦力を低減でき、ひいては貴金属を材料とするめっき膜431の摩耗量を低減することができる。したがって、従来、摩耗を前提に厚膜化が必要であっためっき膜(貴金属めっき)を、薄厚化することもできる。また、動摩擦係数が小さい分、接圧(垂直抗力)を高めることもできる。
【0108】
なお、本実施形態では、めっき膜431が貴金属を材料とし、めっき膜351が芳香族化合物39を含む例を示した。しかしながら、めっき膜351が貴金属を材料とし、めっき膜431が芳香族化合物46を含む構成としてもよい。
【0109】
この明細書の開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。たとえば、開示は、実施形態において示された要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものと解されるべきである。
【0110】
芳香族化合物を含むめっき膜を有した電気部品は、上記した例に限定されない。端子やリードなど電気的な中継部材自体を電気部品とすることもできる。また、中継部材を備える電子部品を電気部品とすることもできる。たとえば、2つの基板間を電気的に接続するプレスフィット端子の接点部が、芳香族化合物を含むめっき膜を有してもよい。また、電子部品の端子の接点部が、芳香族化合物を含むめっき膜を有してもよい。電気部品が中継部材を含む場合、中継部材の少なくとも接点部に、芳香族化合物を含むめっき膜が設けられる。カードエッジコネクタの端子に、芳香族化合物を含むめっき膜を設けてもよい。また、カードエッジコネクタの端子が接触するプリント基板のランドに、芳香族化合物を含むめっき膜を設けてもよい。
【0111】
電子装置10が2つのコネクタ40,41を備える例を示したが、これに限定されない。たとえばコネクタ40のみを備える構成、コネクタ41のみを備える構成としてもよい。