(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。本実施形態に係るアンテナ装置10は、
図1に示すように、所定の周波数の電波(以降、対象電波)を送信するための第1アンテナ1と、対象電波を受信するための第2アンテナ2と、第1アンテナ1と第2アンテナ2とのアイソレーションを向上するための共振構造体3と、を備える。アンテナ装置10が備える各部材は、図示しない保持部材を用いて筐体等に保持される。
【0017】
アンテナ装置10が送受信の対象とする電波(つまり対象電波)は、適宜設計されればよい。ここでは一例として対象電波は、車車間通信に供される760MHzの電波に設定されているものとする。もちろん、対象電波は適宜設計されれば良く、他の態様として例えば300MHzや、900MHz、5.9GHz等の電波としてもよい。また、アンテナ装置10は、所定の範囲の電波を送受信可能に構成されていても良い。ここでは一例としてアンテナ装置10は、対象周波数を基準として定まる所定の範囲(例えば755〜765MHz)の電波も送受信すべき電波として想定されているものとする。
【0018】
以降では、送受信の対象とする周波数(ここでは760MHz)のことを対象周波数と称する。また、以降におけるλとは、対象電波の波長を指すものとする。例えば0.5λは対象電波の半波長を指し、2λは対象電波の波長の2倍の長さを指すものとする。また、対象周波数を基準として定まる送受信すべき周波数帯(ここでは755〜765MHzのことを対象周波数帯と記載する。
【0019】
第1アンテナ1及び第2アンテナ2はそれぞれダイポールアンテナとして実現されている。すなわち、第1アンテナ1及び第2アンテナ2は、電気的に0.5λに相当する長さを有する線状導体(以降、線状エレメント)を用いて実現されている。なお、ここでの電気的な長さとは、フリンジング電界や、誘電体による波長短縮効果などを考慮した、実効的な長さである。仮に図示しない支持部材によって対象電波の波長が短縮されている場合には、その短縮された波長の半分の長さとなっていれば良い。
【0020】
第1アンテナ1は、例えば同軸ケーブルを介して図示しない無線機と接続されており、無線機から入力される電気信号を電波に変換して空間に放射する。また、第2アンテナ2も、図示しない無線機と接続されており、第2アンテナ2が受信した信号は逐次無線機に出力される。無線機は、第2アンテナ2から入力される信号に対して所定の信号処理を実施するとともに、第1アンテナ1に対して送信信号に応じた高周波電力を供給するものである。第1アンテナ1や第2アンテナ2は同軸ケーブルとの電気的な接続点である給電点を備える。なお、第1アンテナ1と無線機とは、同軸ケーブルのほかに、周知の整合回路やフィルタ回路などを介して接続される構成となっていても良い。第2アンテナ2も同様である。
【0021】
第1アンテナ1と第2アンテナ2は、直線Axに沿う姿勢で、所定の間隔Lxをおいて配置されている。換言すれば第2アンテナ2は、第1アンテナ1が備える線状エレメントの延長線上に、第2アンテナ2の線状エレメントが配置されている。直線Axは、第1アンテナ1の中心と第2アンテナ2の中心とを結ぶ線(つまり中心線)に相当し、アンテナ装置10の中軸を表す。
【0022】
以降では直線Axのことを装置軸Axとも記載する。
図1中の一点鎖線は装置軸Axを表している。
図1中に示す点Cは、装置軸Axにおいて、第1アンテナ1と第2アンテナ2のそれぞれとの距離が等しい点(以降、装置中心点)を表している。装置中心点Cを通って装置軸Axに直交する平面のことを以降では基準面Pcと称する。
【0023】
第1アンテナ1と第2アンテナ2との間隔(以降、アンテナ間隔)Lxは適宜設計されれば良い。ここでは一例としてアンテナ間隔Lxは2λに設定されているものとする。なお、一般的に、アンテナ間隔Lxが小さいほどアイソレーションは劣化する(換言すれば干渉度合いが強くなる)傾向がある。
【0024】
以降では便宜上、それぞれが互いに直交するX、Y、Z軸を備える右手系の三次元座標系を用いて、アンテナ装置10(特に共振構造体3)の構成を説明する。Z軸は、装置軸Axに平行であって、第2アンテナ2から第1アンテナ1へ向かう方向を正方向とする軸である。X軸は、Z軸に直交する任意の方向に向かう軸であり、Y軸は、X軸及びZ軸のそれぞれと直交する軸である。X軸は、例えば後述する上側素子31に平行な方向な軸とすればよい。三次元座標系の原点は例えば装置中心点Cに設定されればよい。また、以降では相対的にZ軸正方向をアンテナ装置10にとっての上側として、各部材の位置等を説明するが、実際の使用姿勢においては必ずしもZ軸正方向が天頂方向を向く姿勢となっている必要はない。Z軸正方向が下方向や横方向等に向く姿勢で使用されてもよい。
【0025】
共振構造体3は、所定の長さを有する直線状の導体部材である上側素子31及び下側素子32を備える。上側素子31と下側素子32は同じ形状に形成されている。上側素子31は、上側素子31の中心が、装置軸Ax上において装置中心点Cから所定の離隔距離αだけ第1アンテナ1側となる場所に位置し、かつ、X軸に平行な姿勢で配置されている。つまり、上側素子31は中心が装置軸Ax上に位置し、かつ、装置軸Axに直交する姿勢で配置されている。なお、上側素子31の中心とは、上側素子31の一端から他端までの中間に位置する点である。上側素子31が請求項に記載の第1共振素子に相当する。
【0026】
また、下側素子32は、下側素子32の中心が、装置軸Ax上において装置中心点Cから所定の離隔距離αだけ第2アンテナ2側となる場所に位置し、かつ、Y軸に平行な姿勢で配置されている。このような構成は、装置中心点Cから所定の離隔距離αだけ第2アンテナ2側となる位置において、装置軸Axを回転軸として上側素子31を時計回りに90°回転させた姿勢で下側素子32を配置した構成に相当する。
【0027】
なお、下側素子32の中心とは、下側素子32の一端から他端までの中間に位置する点である。また、ここでは一例として、装置軸Axを回転軸とする回転方向は時計回りとするが、他の態様として回転方向は反時計回りであってもよい。下側素子32が請求項に記載の第2共振素子に相当する。以降では上側素子31と下側素子32とを区別しない場合には共振素子とも記載する。
【0028】
図2は、共振構造体3をZ軸正方向から見た構成を概略的に表した図(いわゆる平面図)である。前述の通り、下側素子32は上側素子31を装置軸Ax周りに90°回転させた姿勢で配置されているため、共振構造体3をZ軸方向から見た場合、全体として十字型を成す。
図2に示す31mは上側素子31の中心から一端までの部分(以降、上側第1半長部)を表しており、31nは上側素子31の中心から他端までの部分(以降、上側第2半長部)を表している。また、32mは下側素子32の中心から一端までの部分(以降、下側第1半長部)を表しており、32nは下側素子32の中心から他端までの部分(以降、下側第2半長部)を表している。
【0029】
上側素子31の全長(以降、素子長)Laは、対象周波数で共振する長さ(以降、共振長)の2倍の値に設定されている。これにより、上側素子31の中心から各端部までの長さは共振長となる。つまり、上側第1半長部31m及び上側第2半長部31nの長さは共振長に設定されている。
【0030】
共振長は、基本的には、電気的に0.5λに相当する長さである。上側素子31の中心から端部までの長さを電気的に0.5λに相当する長さに設定することによって、中心から端部までの区間(以降、半区間)で共振を発生させることができる。ただし、離隔距離αによっては、0.65λや0.75λ、0.76λであっても半区間で共振が発生しうる。故に、共振長とは、0.5λから0.76λまでの何れかに該当する長さである。素子長Laは、対象周波数で半区間ごとに共振が発生するように、離隔距離αと合わせて微調整されるべきパラメータである。
【0031】
本実施形態では一例として離隔距離αを0.6λ、素子長Laを1.2λに設定されているものとする。すなわち、上側第1半長部31m及び上側第2半長部31nの長さは、それぞれ0.6λに設定されている。このような構成は共振長として0.6λを採用した構成に相当する。
【0032】
なお、下側素子32は上側素子31と同一形状に形成されているため、下側素子32の全長は上側素子31の全長と一致する。すなわち、下側素子32の長さは、上側素子31と同様に共振長の2倍の値に設定されており、下側素子32の中心から各端部までの長さはそれぞれ共振長に設定されている。これにより、下側第1半長部32m及び下側第2半長部32nの長さは共振長となる。このような構成によれば、下側素子32もまた対象周波数で半区間毎に共振が発生する。
【0033】
図3は、第1アンテナ1から電波を放射させた場合の上側素子31の作動をシミュレーションした結果を示す図であり、
図4は、第1アンテナ1から電波を放射させた場合の下側素子32の作動をシミュレーションした結果を示す図である。素子長Laを共振長の2倍に設定するとともに、中心が装置軸Axを通り、かつ、装置軸Axに対して直交する姿勢で配置しているため、上側素子31において、上側第1半長部31mと上側第2半長部31nとは装置軸Axを介して点対称に作動する。具体的には、第1アンテナ1から電波を放射させた場合、
図3に示すように上側第1半長部31mと上側第2半長部31nのそれぞれで共振が発生する。つまり、上側素子31には、装置軸Axが通る点を節とするように2つの共振が起こる。
【0034】
ただし、上側第2半長部31nは上側第1半長部31mとは装置軸Axの反対側に位置するため、上側第2半長部31nに励振する電流の位相は、上側第1半長部31mに励振する電流とは180°ずれたものとなる。故に、上側第1半長部31mから放射される電界と、上側第2半長部31nから放射される電界は互いに打ち消しあう。
【0035】
その結果、第1アンテナ1から信号を送信することによって上側素子31から放射される電界を効果的に抑制できる。なお、第1アンテナ1から信号を送信することによって上側素子31から放射される電界とは、第1アンテナ1から放射してきた電界を受けて上側素子31が再放射する電界に相当する。つまり、上側素子31は、第1アンテナ1から伝搬してきた電界の強度を弱める役割を担う。
【0036】
下側素子32についても、全長を共振長の2倍に設定するとともに、中心が装置軸Axを通り、かつ、装置軸Axに対して直交する姿勢で配置しているため、下側第1半長部32mは下側第2半長部32nと装置軸Axを介して点対称に作動する。具体的には、第1アンテナ1から電波を放射させた場合、
図4に示すように、下側第1半長部32mと下側第2半長部32nのそれぞれで、位相が180°ずれた共振が発生する。
【0037】
故に、下側第1半長部32mから放射される電界と、下側第2半長部32nから放射される電界は互いに打ち消しあう。その結果、第1アンテナ1から信号を送信することによって下側素子32から放射される電界を効果的に抑制できる。つまり、下側素子32もまた、上側素子31と同様の原理によって第1アンテナ1から伝搬してきた電界の強度を弱める役割を担う。
【0038】
<実施形態の効果>
図5は第1アンテナ1から対象電波を放射させた場合の電界分布をシミュレーションした結果を示したものである。前述の通り、各共振素子において装置軸Axが通る点を節とする2つの共振が生じるように上側素子31と下側素子32を配置することによって、第2アンテナ2への電界(換言すれば電波)の伝搬を抑制することができる。上側素子31及び下側素子32に励振される電流によって電界が打ち消されるためである。
【0039】
図6は、離隔距離α=0.6λ、素子長La=1.2λに設定した時の通過特性を表したものである。ここでの通過特性とは、第1アンテナ1から所定の電力の電波を放射した場合の、送信電力に対する第2アンテナ2での受信電力の大きさの比率(換言すれば干渉度合い)を表すパラメータである。通過特性は小さいほど、干渉度合いが低い、つまりアイソレーションが高いことを意味する。
図6に示すように本実施形態の構成によれば、対象周波数である760MHz付近において−80〜−90dBの通過特性を達成することができる。換言すれば90dB近いアイソレーションを提供する。
【0040】
また、
図7及び
図8に示すように、水平面での無指向性を維持しつつ、垂直面での指向性の乱れをほぼ0とみなすことができるほど抑制できる。なお、ここでの水平面とは装置軸Axに直交する面(換言すればXY平面)であり、垂直面とは装置軸Axを通る平面である。本実施形態では上側素子31を90°回転させた姿勢で下側素子32を配置することによって、バランスよく第1アンテナ1からの電界を打ち消し、アンテナ間のアイソレーションを高めることができる。
【0041】
なお、上述した実施形態では上面視において上側素子31と下側素子32とがなす角度が直角(略直角を含む)となるように上側素子31と下側素子32を配置した構成を開示したがこれに限らない。上面視において上側素子31と下側素子32とがなす角度は90°以外の角度、例えば30°や60°、120°等であってもよい。
【0042】
ただし、発明者らは種々の試験の結果(換言すれば試行錯誤の結果)、上述した実施形態の構成では、上面視において上側素子31と下側素子32とがなす角度を直角に設定した場合に対象周波数でのアイソレーションが最大となるという知見を得た。故に、実施形態の構成では上面視において上側素子31と下側素子32とがなす角度を直角となる姿勢で配置されていることが好ましい。なお、ここでの直角とは厳密な直角(換言すれば90°/270°)に限らず、85°から105°までの範囲を直角と見なすことができるものとする。
【0043】
また、参考までに、第1比較構成としての共振構造体3を備えないアンテナ装置10pにおいて、電界分布をシミュレーションした結果、及びその通過特性を
図9、
図10に示す。アンテナ装置10pでの第1アンテナ1pと第2アンテナ2pとの位置関係は本実施形態のアンテナ装置10と同様に設定されているものとする。
【0044】
図9に示すようにアンテナ間に共振構造体3を配置しない構成(つまり第1比較構成)では、第1アンテナ1pから放射された電界がそのまま第2アンテナ2pまで到達する。故に、第1比較構成でのアイソレーションは相対的に低い値となる。具体的には、
図10に示すように、対象周波数である760MHz付近における第1比較構成のアイソレーションは43dB程度である。
【0045】
対して本実施形態の構成によれば、上述の通り90dB近いアイソレーションを確保することができる。すなわち、上側素子31及び下側素子32からなる共振構造体3を導入することで、第1比較構成よりもアイソレーションを40dB以上改善することができる。
【0046】
ところで、第1比較構成以外にも想定される他の比較構成(以降、第2比較構成)としては、
図11に示すように、中心から端部までの長さLbが0.6λに設定された十字型の線状導体部材(以降、十字型寄生素子)4を装置中心点Cに配置した構成も考えられる。しかしながら、
図12に示すように第2比較構成では、対象周波数でのアイソレーションは52dBとなる。第1比較構成に比べればアイソレーションは9dB程度改善するが、本実施形態には及ばない。本実施形態の構成によれば第2比較構成よりも約30dB以上アイソレーションを高めることができる。
【0047】
さらに、他の比較構成(以降、第3比較構成)として、
図13に示すように、所定の長さを有する6つの直線状の導体素子を正六角形の中心から各頂点に延びるように接続してなる導体部材(以降、六星状寄生素子)5を、装置中心点Cに配置した構成も考えられる。しかしながら、第3比較構成でのアイソレーションは、
図14に示すように67dBとなり、本実施形態よりも10dB以上低い値となる。
【0048】
なお、六星状寄生素子5の中心から各端部までの長さLcは、全体としてのアイソレーションが高まるように、0.5λを基準として適宜設計されればよい。
図14に示すシミュレーション結果は、Lc=0.7λに設定したときの値である。なお、発明者らは種々の試験の結果、共振構造体3の代わりに六星状寄生素子5を配置する構成では、Lc=0.7λに設定した場合に対象周波数でのアイソレーションが最大となるという知見を得た。つまり、
図14に示すシミュレーション結果は、共振構造体3の代わりに六星状寄生素子5を配置した構成において実現可能なアイソレーションの最大値を示す結果といえる。
【0049】
また、他の比較構成(以降、第4比較構成)として、
図15に示すように、所定の長さを有する8つの直線状の導体素子を正八角形の中心から各頂点に延びるように接続してなる導体部材(以降、八星状寄生素子)6を装置中心点Cに配置した構成も考えられる。しかしながら、第4比較構成でのアイソレーションは、
図16に示すように49dBとなり、本実施形態よりも30dB以上低い値となる。
【0050】
なお、八星状寄生素子6の中心から各端部までの長さLdは、全体としてのアイソレーションが高まるように、0.5λを基準として適宜設計されればよい。
図16に示すシミュレーション結果は、線状導体素子51の長さLdを0.7λに設定したときの値である。発明者らは種々の試験の結果、第4比較構成では、Ld=0.7λに設定した場合に対象周波数でのアイソレーションが最大となるという知見を得た。故に、
図16に示すシミュレーション結果は、共振構造体3の代わりに八星状寄生素子6を配置した構成において実現可能なアイソレーションの最大値を示す結果といえる。
【0051】
ところで、第3比較構成と第4比較構成とを比較すればわかるように、装置中心点Cに配置する導体部材の構成として、中心から延びる線状素子の数を単に増やしていけばアイソレーションが高まるというわけではない。線状素子間の相互作用もアイソレーションに影響するためである。その他、図示は省略するが、0.5λ〜0.75λの半径を有する円盤状の導体素子(以降、円盤型寄生素子)を装置中心点Cに配置した構成についても検討したが、本実施形態ほどのアイソレーションを実現することはできなかった。すなわち、1つの導体素子を配置した構成よりも、本実施形態のように2つの線状導体素子をねじれの姿勢で配置した構成のほうが高いアイソレーションを実現することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。また、実施形態や種々の変形例は適宜組み合わせて実施することもできる。
【0053】
なお、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
【0054】
[変形例1]
以上ではアンテナ装置10が共振構造体3を1つだけ備える構成を開示したが、これに限らない。アンテナ装置10は複数の共振構造体3を備えていても良い。その場合には、各共振構造体3の離隔距離はそれぞれ異なる値とし、相対的に大きい共振構造体3が、相対的に小さい共振構造体3を挟み込むように配置されているものとする。
【0055】
ここではアンテナ装置10が、2つの共振構造体3を備える場合の構成の一例について、
図17、
図18等を用いて説明する。
図17は本変形例1におけるアンテナ装置10の概略的な構成を示す斜視図である。本変形例1におけるアンテナ装置10は、第1上側素子31A及び第1下側素子32Aからなる第1共振構造体3Aと、第2上側素子31B及び第2下側素子32Bからなる第2共振構造体3Bと、を備える。第1上側素子31Aや第2上側素子31Bは上述した実施形態での上側素子31に相当する部材であり、第1下側素子32Aや第2下側素子32Bは上述した実施形態での下側素子32に相当する部材である。
【0056】
第1共振構造体3Aは、
図18に示すように、離隔距離を任意の値であるαに設定した共振構造体3であり、第2共振構造体3Bは、離隔距離を任意の値であるβに設定した共振構造体3である。ただし、βはαよりも大きいものとする。なお、
図18の(A)は第1共振構造体3AをX軸方向から見たときの概略的な構成を示す図であり、(B)は第2共振構造体3BをX軸方向から見たときの概略的な構成を示す図である。
【0057】
第2共振構造体3Bを構成する第2上側素子31Bは、第1共振構造体3Aを構成する第1上側素子31Aよりも上側に配置されている。また、第2共振構造体3Bを構成する第2下側素子32Bは、第1共振構造体3Aを構成する第1下側素子32Aよりも下側に配置されている。つまり、第2共振構造体3Bを構成する第2上側素子31B及び第2下側素子32Bは、第1共振構造体3Aを構成する第1上側素子31A及び第1下側素子32Aを上下から挟み込むように配置されている。離隔距離βから離隔距離αを減算した値が、第2上側素子31Bと第1上側素子31Aとの離隔、及び、第1下側素子32Aと第2下側素子32Bとの離隔に相当する。
【0058】
離隔距離α、βの具体的な値は適宜設計されれば良い。ここでは一例として、離隔距離α=0.02λとし、離隔距離βはαを3倍した値(つまり、0.06λ)に設定されているものとする。このようなα、βの設定によれば、第2上側素子31B、第1上側素子31A、第1下側素子32A、及び第2下側素子32BがZ軸方向に2α(=0.04λ)ずつ等間隔に並んだ構成となる。
【0059】
第1共振構造体3Aを構成する第1上側素子31Aと第1下側素子32Aとが上面視においてなす角度は、適宜調整されれば良い。ここでは一例として第1下側素子32Aは上面視において第1上側素子31Aに対して直角となる姿勢で配置されているものとする。具体的には、第1上側素子31AはY軸に平行な姿勢で配置されており、第1下側素子32AはX軸に平行な姿勢で配置されているものとする。
【0060】
また、第2共振構造体3Bを構成する第2上側素子31Bと第2下側素子32Bとが上面視においてなす角度も、適宜調整されれば良い。ここでは一例として第2下側素子32Bは、上面視において第2上側素子31Bに対して直角となる姿勢で配置されているものとする。具体的には、第2上側素子31BはX軸に平行な姿勢で配置されており、第1下側素子32AはY軸に平行な姿勢で配置されているものとする。このような構成は、離隔距離がそれぞれ異なる2つの共振構造体3を装置軸Ax周りに90°回転させて配置した構成に相当する。
【0061】
第1共振構造体3Aが備える共振素子の素子長La1や第2共振構造体3Bが備える共振素子の素子長La2の具体的な値はλを基準として適宜調整されれば良い。例えば第1共振構造体3Aの素子長La1は1.4λに設定し、第2共振構造体3Bの素子長La2は1.5λに設定されている。このような構成は、第1共振構造体の共振素子の半分の長さを0.7λ、第2共振構造体の共振素子の半分の長さを0.75λに設定した構成に相当する。つまり共振長として0.7λ、0.75λを採用した構成に相当する。
【0062】
図19は上記構成に於ける通過特性をシミュレーションした結果を示す図である。
図19に示すように本変形例1の構成によれば、対象周波数において−84dB以上のアイソレーションを提供することができる。なお、
図19中の破線は、実施形態の通過特性を示すものである。破線と実線とを比較してもわかるように、本変形例1の構成によれば対象周波数帯である755〜765MHzでのアイソレーションを実施形態の構成より向上できている。
【0063】
さらに、本変形例1の構成によれば、離隔距離αやβを相対的に小さい値に設定しても十分なアイソレーションを実現できる。すなわち、第2共振構造体3Bの離隔距離βを、実施形態での離隔距離の10分の1程度(具体的には0.06λ)に設定しても実施形態と同等以上のアイソレーションを実現できる。
【0064】
また、第1共振構造体3Aは第2共振構造体3Bの内側に配置されるため、共振構造体3A、3Bを組み合わせてなる共振構造体全体としてのサイズ(具体的にはZ軸方向の長さ)は第2共振構造体3Bによって規定される。故に、本変形例1の構成によれば共振構造体3A、3Bを組み合わせてなる共振構造体全体としてのサイズも、実施形態よりも離隔距離を10分の1程度に設定できる。すなわち、共振構造体全体としてのサイズを小さくすることができる。なお、以上では離隔距離αを0.02λとしたが、これに限らない。離隔距離αは、0.02λ以外の値、例えば0.06λや、0.04λ、0.01λ等に設定されていても良い。
【0065】
[変形例2]
上側素子31と下側素子32との中間に位置する平面、すなわち基準面Pcには、所定の長さを有する線状の導体部材である直線状寄生素子7が配置されていてもよい。以下、そのような構成を変形例2として
図20等を用いて説明する。
【0066】
本変形例2におけるアンテナ装置10は、第1アンテナ1、第2アンテナ2、上側素子31、及び下側素子32に加えて、直線状寄生素子7を備える。本変形例2における上側素子31や下側素子32の長さ(つまり素子長)Laは、例えば1.5λに設定されている。そのような構成は、共振素子の半分の長さを0.75λに設定した構成に相当する。つまり共振長として0.75λを採用した構成に相当する。もちろん、素子長Laの具体的な長さは0.5λを基準として調整されれば良い。
【0067】
上側素子31は
図21に示すように、X軸に平行な姿勢で配置されている。下側素子32は上側素子31を装置軸Ax周りに120°回転させた姿勢で配置されている。上側素子31及び下側素子32のそれぞれと基準面Pcとの離隔距離αは、0.04λに設定されている。
【0068】
直線状寄生素子7の長さ(以降、寄生素子長)Leは、共振長の2倍に設定される。ここでは一例として寄生素子長Leは、上側素子31や下側素子32と同じ長さ、つまり1.5λに設定されているものとする。他の構成として寄生素子長Leは、上側素子31とは異なる値に設定されていても良い。
【0069】
なお、発明者らは種々の試験の結果、寄生素子長Leは上側素子31と同じ長さに設定されている場合に、特にアイソレーションが高まるという知見を得た。また、寄生素子長Leは上側素子31と同じ長さに設定すれば、同じ寸法の線状導体部材を上側素子31、下側素子32、及び直線状寄生素子7として使いまわせるため、製造コストを抑制することができる。故に、寄生素子長Leは上側素子31と同じ長さに設定することが好ましい。
【0070】
直線状寄生素子7は、直線状寄生素子7の中心が装置中心点Cに位置し、かつ、装置軸Axに直交し、かつ、上面視において上側素子31を装置軸周りに60°回転させた姿勢で配置されている。このような構成は、上面視において上側素子31と直線状寄生素子7とがなす角度と、上面視において下側素子32と直線状寄生素子7とがなす角度とが等しくなるように直線状寄生素子7を配置した構成に相当する。
【0071】
図22は変形例2の構成において素子長La及び寄生素子長Leを1.5λに設定した場合の通過特性をシミュレーションした結果を示す図である。
図22に示すように本変形例2の構成によれば、対象周波数において76dB以上のアイソレーションを提供することができる。なお、
図22中の破線は、実施形態の通過特性を示すものである。破線と実線とを比較してもわかるように、実施形態の構成では、対象周波数帯である755〜765MHzにおいて、通過特性が周波数に応じて急峻に変化するため、部材の位置ズレ等によって、設計上のアイソレーションが得られない恐れがある。故に、実際に製造する際には各部材の長さや配置等の精度として高い精度が要求される。
【0072】
対して、本変形例2の構成では、対象周波数帯である755〜765MHzにおいて、通過特性の周波数に応じた変化量が緩やかである。故に、部材の位置ズレ等によって、設計上のアイソレーションが得られない恐れは相対的に小さい。すなわち、本変形例2において素子長La及び寄生素子長Leを1.5λに設定した構成によれば、製造過程における位置精度等の難しさを緩和することができる。
【0073】
さらに、本変形例2の構成によれば、直線状寄生素子7を配置することにより、離隔距離αを相対的に小さい値に設定しても十分なアイソレーションを実現できる。具体的には、離隔距離αを、実施形態での離隔距離の30分の1程度に設定しても76dB以上のアイソレーションを実現できる。換言すれば、共振構造体3を形成する上側素子31と下側素子32の中間に直線状寄生素子7を配置することにより、共振構造体3の高さを抑制することができる。
【0074】
また、変形例2の構成において素子長Laを1.4λ、寄生素子長Leを1.5λに設定した場合の通過特性をシミュレーションした結果を
図23に示す。
図23に示すように上記設定によれば、対象周波数帯である755〜765MHzにおいて85dB以上のアイソレーションを確保できる。また、対象周波数においては100dBのアイソレーションを実現できる。なお、
図23中の破線は、実施形態の通過特性を示すものである。
【0075】
なお、
図24に示すように、アンテナ装置10を所定の構造物8に固定するための取付冶具7aの一部を直線状寄生素子7として援用しても良い。このような構成によれば、部品点数を削減することができる。なお、図中の破線は、アンテナ装置10のレドーム9の概略的な形状の一例を表している。
【0076】
[変形例3]
変形例2では
図21を用いて説明したように上側素子31、直線状寄生素子7、下側素子32を60°ずつずらして配置した構成を開示したが、変形例2の実施態様はこれに限らない。
図25に示すように、上側素子31、直線状寄生素子7、下側素子32を45°ずつずらして配置しても良い。なお、そのような構成は、上側素子31と下側素子32と上面視において直角となる姿勢で配置し、その間に直線状寄生素子7を上側素子31及び下側素子32のそれぞれとなす角度が等しくなるように配置した構成に相当する。
【0077】
上記の設定において離隔距離αの値を変えてシミュレーションした結果、α=0.6に設定することにより、
図26に示すように対象周波数帯において72〜80dBのアイソレーションを実現することができる。なお、離隔距離αを様々な値に変更してシミュレーションした結果、変形例3の構成で70dB以上のアイソレーションを実現するためには離隔距離αを約0.6λに設定する必要があるという知見を得た。故に、共振構造体3自体の高さを抑制するという観点では変形例2のように、上側素子31、直線状寄生素子7、下側素子32を60°ずつずらして配置することが好ましい。
【0078】
[変形例4]
変形例2では、装置中心点Cに直線状寄生素子7を配置する構成を開示したが、これに限らない。
図27に示すように上側素子31と下側素子32とを上面視において十字型となるように配置した構成において、直線状寄生素子7の代わりに装置中心点Cに十字型寄生素子4を配置しても良い。
【0079】
十字型寄生素子4は、上側素子31及び下側素子32のそれぞれと対向する姿勢(換言すれば上面視で重なる姿勢)で配置される。十字型寄生素子4の中心から端部までの長さ(以降、寄生半長)Lbは素子長Laの半分の長さに応じて適宜設定されればよく、ここでは一例としてLb=La/2に設定されているものとする。寄生半長Lbは素子長Laの半分を基準として適宜微調整されるべきパラメータである。
【0080】
そのような構成によっても
図28に示すように相対的に高いアイソレーションを実現することができる。すなわち、対象周波数帯において83dB以上のアイソレーションを実現できる。なお、
図28は、離隔距離α=0.1λ、素子長La=1.5λに設定した場合の通過特性をシミュレーションした結果を示す図である。
【0081】
ところで、発明者らは種々の試験の結果、寄生半長Lbを素子長Laの半分よりも僅かに(例えば0.02λほど)長く設定した場合には、より一層アイソレーションを高めることができるといった知見を得た。故に、変形例4の構成においては、寄生半長Lbを素子長Laの半分よりも僅かに長く設定することが好ましい。
【0082】
[変形例5]
上述した実施形態では上側素子31及び下側素子32を直線状に形成した構成を開示したがこれに限らない。
図29に示すように上側素子31及び下側素子32は、十字型に形成されていても良い。ここでは十字型に形成されている上側素子31及び下側素子32とを備えるアンテナ装置10の実施態様を変形例5として説明する。
【0083】
変形例5の上側素子31及び下側素子32は何れも、中心から各端部までの長さが共振長に設定されている。一端から反対側の端部までの長さが前述の素子長Laに相当する。素子長Laの具体的な値は、1λを基準として所望のアイソレーションが得られるように調整されればよく、ここでは一例として1.5λに設定されている。そのような設定は、中心から端部までの長さ(つまりLa/2)を0.75λに設定した構成に相当する。つまり、共振長として0.75λを採用した構成に相当する。
【0084】
上側素子31と下側素子32とは互いに対向する姿勢で配置されている。離隔距離αは適宜調整されればよく、ここでは一例として0.04λに設定されているものとする。これにより、上側素子31と下側素子32との離隔は0.08λとなる。
【0085】
図30は本変形例5の通過特性をシミュレーションした結果を示す図である。
図30に示すように本変形例5の構成によれば、対象周波数体において76〜78dB以上のアイソレーションを提供することができる。また、本変形例5の構成によれば、離隔距離αを相対的に小さい値(例えば0.1λ以下の値)に設定しても、十分なアイソレーションを実現することができる。
【0086】
なお、ここでは一例として、上側素子31と下側素子32とを対向するように(換言すれば上面視において重なり合うように)配置した構成を開示したがこれに限らない。下側素子32は上側素子31を装置軸Ax周りに所定の角度(例えば45°)回転させた姿勢で配置されていてもよい。また、共振素子が十字型に形成されている共振構造体3を変形例1で述べたように複数配置してもよい。
【0087】
[変形例6]
直線状の共振素子には、
図31に示すように、中心を介して対称な位置に所定のリアクタンスを提供するリアクタンス素子39が配置(換言すれば装荷)されていてもよい。リアクタンス素子39としては、コイル、キャパシタ、ギャップ構造、ミアンダ状に形成された配線パターン等を採用することができる。中心からリアクタンス素子39までの距離や、リアクタンス素子39が提供するリアクタンスは、適宜設計されれば良い。このように中心を介して対称な位置にリアクタンス素子39を装荷することで対象波長を電気的に短縮することができ、より一層各部材を小型化することができる。
【0088】
なお、十字型の共振素子にも同様に、中心を介して対称な位置にリアクタンス素子39が配置(換言すれば装荷)されていてもよい。また、直線状寄生素子7や十字型寄生素子4等にも同様に、中心を介して対称な位置にリアクタンス素子39が配置(換言すれば装荷)されていてもよい。
【0089】
[変形例7]
以上では、第1アンテナ1、第2アンテナ2をダイポールアンテナとする構成を開示したが、これに限らない。例えば、パッチアンテナや逆F型アンテナであってもよい。各アンテナは、装置軸Axに対して直交する方向に指向性を有するように配置されていることが好ましい。
【0090】
[変形例8]
以上では第1アンテナを送信用アンテナとし、第2アンテナを受信用アンテナとして用いる態様を開示したがこれに限らない。第1アンテナを受信用アンテナとし、第2アンテナを送信用アンテナとしてもよい。また、第1アンテナと第2アンテナの両方を送信用アンテナとしてもよいし、受信用アンテナとしてもよい。第1アンテナ及び第2アンテナのそれぞれの役割(送信/受信)の役割は適宜設計されれば良い。また、スイッチ等を用いて送受信の役割が動的に変更されるように構成されていても良い。