(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、高電圧や大電流を制御するパワー半導体装置の構成材料として、シリコン(Si)が用いられている。パワー半導体装置は、バイポーラトランジスタやIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)など複数種類あり、これらは用途に合わせて使い分けられている。
【0003】
例えば、バイポーラトランジスタやIGBTは、MOSFETに比べて電流密度は高く大電流化が可能であるが、高速にスイッチングさせることができない。具体的には、バイポーラトランジスタは数kHz程度のスイッチング周波数での使用が限界であり、IGBTは数十kHz程度のスイッチング周波数での使用が限界である。一方、パワーMOSFETは、バイポーラトランジスタやIGBTに比べて電流密度が低く大電流化が難しいが、数MHz程度までの高速スイッチング動作が可能である。
【0004】
しかしながら、市場では大電流と高速性とを兼ね備えたパワー半導体装置への要求が強く、IGBTやパワーMOSFETはその改良に力が注がれ、現在ではほぼ材料限界に近いところまで開発が進んでいる。パワー半導体装置の観点からシリコンに代わる半導体材料が検討されており、低オン電圧、高速特性、高温特性に優れた次世代のパワー半導体装置を作製(製造)可能な半導体材料として炭化珪素(SiC)が注目を集めている。
【0005】
その背景には、SiCは化学的に非常に安定な材料であり、バンドギャップが3eVと広く、高温でも半導体として極めて安定的に使用できる。また、最大電界強度もシリコンより1桁以上大きいからである。SiCはシリコンにおける材料限界を超える可能性大であることからパワー半導体用途、特にMOSFETでは今後の伸長が大きく期待される。特にそのオン抵抗が小さいことが期待されているが高耐圧特性を維持したままより一層の低オン抵抗を有する縦型SiC−MOSFETが期待できる。
【0006】
ここで、
図16は、炭化珪素半導体ウェハ上の炭化珪素半導体素子を示す上面図である。炭化珪素半導体装置は、炭化珪素半導体ウェハ110上に複数形成された炭化珪素半導体素子(炭化珪素半導体チップ)100を切り出し(ダイシング)、チップ化(個別化)することにより製造される。炭化珪素半導体ウェハ110からの切り出しは、ダイヤモンド製の円形回転刃のダイシングブレード、レーザーまたは超音波により例えば
図16の点線の部分を切削することにより行われる。
【0007】
半導体ウェハ110からの切り出しの際に、炭化珪素半導体素子100にクラックが発生することを制御する技術がある。例えば、素子領域と、素子領域の外周を取り囲む外周領域とを含む半導体層と、外周領域に形成され、素子領域の外周を取り囲む段差部と、段差部に沿って形成された金属層と、を備える半導体装置が公知である(例えば、特許文献1参照)。この半導体装置の段差部は素子領域の主表面よりも下方に後退する側壁を有しており、半導体装置の金属層は側壁の少なくとも一部を覆うように延びている。半導体装置の製造方法において、段差部よりも外側で、素子領域毎に半導体層を分割することで、素子領域に損傷を与えるクラック、チッピングの発生を抑制する。
【0008】
また、SiC基板の結晶軸に対して垂直な方向にスクライブする際に刃先の稜線に対する左右の刃先角度を異ならせ、結晶軸から見て高い位置にある刃先角度を大きく、他方を小さくしたスクライビングホイールを用いてスクライブする技術が公知である(例えば、特許文献2参照)。これにより、水平クラックの発生を回避することができ、ブレイクしたときの端面精度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。+および−を含めたnやpの表記が同じ場合は近い濃度であることを示し濃度が同等とは限らない。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本明細書では、ミラー指数の表記において、“−”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“−”を付けることで負の指数をあらわしている。
【0026】
(実施の形態)
本発明にかかる半導体装置は、ワイドバンドギャップ半導体を用いて構成される。実施の形態においては、ワイドバンドギャップ半導体として例えば炭化珪素(SiC)を用いて作製された炭化珪素半導体装置について、MOSFETを例に説明する。
図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の活性領域の構造を示す断面図である。また、
図2は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置のエッジ終端領域および無効領域の構造を示す断面図である。
【0027】
図1では、素子構造が形成されオン状態のときに基板の厚さ方向に主電流が流れる活性領域211の構成を示し、
図2では、活性領域の周囲を囲んで耐圧を保持するエッジ終端領域210とエッジ終端領域210の外側の無効領域201の構成を示す。
【0028】
図1に示すように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置は、n
+型炭化珪素基板(第1導電型の半導体基板)1の第1主面(おもて面)、例えば(0001)面(Si面)、にn型炭化珪素エピタキシャル層2が堆積されている。
【0029】
n
+型炭化珪素基板1は、例えば窒素(N)がドーピングされた炭化珪素単結晶基板である。n型炭化珪素エピタキシャル層2は、n
+型炭化珪素基板1よりも低い不純物濃度で、例えば窒素がドーピングされている低濃度n型ドリフト層である。n型炭化珪素エピタキシャル層2の、n
+型炭化珪素基板1側に対して反対側の表面は、n型高濃度領域6が形成されている。n型高濃度領域6は、n
+型炭化珪素基板1よりも低くn型炭化珪素エピタキシャル層2よりも高い不純物濃度で、例えば窒素がドーピングされている高濃度n型ドリフト層である。以下、n
+型炭化珪素基板1とn型炭化珪素エピタキシャル層2と後述するp型炭化珪素エピタキシャル層3とを併せて炭化珪素半導体基体とする。
【0030】
図1に示すように、n
+型炭化珪素基板1の第2主面(裏面、すなわち炭化珪素半導体基体の裏面)には、裏面電極14が設けられている。裏面電極14は、ドレイン電極を構成する。裏面電極14の表面には、ドレイン電極パッド(不図示)が設けられている。
【0031】
炭化珪素半導体基体の第1主面側(p型炭化珪素エピタキシャル層3側)には、トレンチ構造が形成されている。具体的には、トレンチ18は、p型炭化珪素エピタキシャル層3のn
+型炭化珪素基板1側に対して反対側(炭化珪素半導体基体の第1主面側)の表面からp型炭化珪素エピタキシャル層3を貫通して
n型高濃度領域6に達する。トレンチ18の内壁に沿って、トレンチ18の底部および側壁にゲート絶縁膜9が形成されており、トレンチ18内のゲート絶縁膜9の内側にゲート電極10が形成されている。ゲート絶縁膜9によりゲート電極10が、
n型高濃度領域6およびp型炭化珪素エピタキシャル層3と絶縁されている。ゲート電極10の一部は、トレンチ18の上方(ソース電極パッド15側)からソース電極パッド15側に突出していてもよい。
【0032】
n型炭化珪素エピタキシャル層2のn
+型炭化珪素基板1側に対して反対側(炭化珪素半導体基体の第1主面側)の表面層には、第1p
+型ベース領域4と第2p
+型ベース領域5が選択的に設けられている。第2p
+型ベース領域5はトレンチ18の下に形成されており、第2p
+型ベース領域5の幅はトレンチ18の幅よりも広い。第1p
+型ベース領域4と第2p
+型ベース領域5は、例えばアルミニウム(Al)がドーピングされている。
【0033】
第1p
+型ベース領域4の一部をトレンチ18側に延在させることで第2p
+型ベース領域5に接続した構造となっていてもよい。この場合、第1p
+型ベース領域4の一部は、第1p
+型ベース領域4と第2p
+型ベース領域5とが並ぶ方向(以下、第1方向とする)xと直交する方向(以下、第2方向とする)yに、n型高濃度領域6と交互に繰り返し配置された平面レイアウトを有していてもよい。第1、2p
+型ベース領域4、5の平面レイアウトの一例を
図3に示す。
図3は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の
図1のA−A’部分の表面図である。
【0034】
図3には、第1p
+型ベース領域4の一部19によって第1、2p
+型ベース領域4、5が接続された状態を示す(ハッチングされた部分)。例えば、
図3のように、第1p
+型ベース領域4の一部19を第1方向xの両側のトレンチ18側に延在し、第2p
+型ベース領域5の一部と接続する構造を第2方向yに周期的に配置してもよい。その理由は、第2p
+型ベース領域5とn型炭化珪素エピタキシャル層2の接合部分でアバランシェ降伏が起こったときに発生するホールを効率よくソース電極13に退避させることでゲート絶縁膜9への負担を軽減し信頼性をあげるためである。
【0035】
n型炭化珪素エピタキシャル層2の基体第1主面側には、p型炭化珪素エピタキシャル層3が設けられている。p型炭化珪素エピタキシャル層3の内部には、基体第1主面側にn
+型ソース領域7およびp
++型コンタクト領域8が選択的に設けられている。n
+型ソース領域7はトレンチ18に接している。また、n
+型ソース領域7およびp
++型コンタクト領域8は互いに接する。また、n型炭化珪素エピタキシャル層2の基体第1主面側の表面層の第1p
+型ベース領域4と第2p
+型ベース領域5に挟まれた領域と、p型炭化珪素エピタキシャル層3と第2p
+型ベース領域5に挟まれた領域にn型高濃度領域6が設けられている。
【0036】
図1では、2つのトレンチMOS構造のみを図示しているが、さらに多くのトレンチ構造のMOSゲート(金属−酸化膜−半導体からなる絶縁ゲート)構造が並列に配置されていてもよい。
【0037】
層間絶縁膜11は、炭化珪素半導体基体の第1主面側の全面に、トレンチ18に埋め込まれたゲート電極10を覆うように設けられている。ソース電極13は、層間絶縁膜11に開口されたコンタクトホールを介して、n
+型ソース領域7およびp
++型コンタクト領域8に接する。ソース電極13は、層間絶縁膜11によって、ゲート電極10と電気的に絶縁されている。ソース電極13上には、ソース電極パッド15が設けられている。ソース電極13と層間絶縁膜11との間に、例えばソース電極13からゲート電極10側への金属原子の拡散を防止するバリアメタル(不図示)が設けられていてもよい。
【0038】
ソース電極パッド15の上部には、めっき膜16が選択的に設けられ、めっき膜16の表面側にはんだ17が選択的に設けられる。はんだ17には、ソース電極13の電位を外部に取り出す配線材であるピン状電極(不図示)が設けられる。ピン状電極は、針状の形状を有し、ソース電極パッド15に直立した状態で接合される。
【0039】
次に、エッジ終端領域210および無効領域201について説明する。エッジ終端領域210では、p型炭化珪素エピタキシャル層3が選択的に除去され、炭化珪素半導体基体のおもて面にエッジ終端領域210を活性領域211よりも低くした(ドレイン側に凹ませた)段差が形成され、段差の底面にn型高濃度領域6が露出されている。また、エッジ終端領域210には、電界を緩和または分散させることで高耐圧半導体装置全体の耐圧を向上させるため、接合終端(JTE:Junction Termination Extension)構造として、隣接して配置した第1JTE領域20a、第2JTE領域20bが設けられている。
【0040】
無効領域201は、炭化珪素半導体ウェハ110が切り出される領域であり、側面に個別化する際に形成される個体化切断面200が現れている。また、無効領域201は、エッジ終端領域210の外側にあり、個体化切断面200と接するダメージ領域22が設けられている。
【0041】
図4は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置を炭化珪素半導体ウェハから切り出す前の上面図である。
図4に示すように、ダメージ領域22は、炭化珪素半導体ウェハ110から切り出す際の、ダイシングブレード等で切削する位置に設けられている。
【0042】
ダメージ領域22は、イオン注入やレーザーにより炭化珪素半導体にダメージが与えられ、結晶性が損なわれている領域であり、具体的には、結晶欠陥が他の領域よりも多く形成された層である。ダメージが与えられた層であるため、他の領域よりも硬度が低くなっているため、ダイシングの際の刃が入りやすくなっており、ダメージ領域22に沿ってダイシングすることで、炭化珪素半導体ウェハ110の切り出しが容易になり、ダイシング中に歪が発生することを抑制することができる。
【0043】
ダメージ領域22は、例えば、イオン注入により形成される。この場合、活性領域211に設けられた高濃度領域、例えば、n
+型ソース領域7、p
++型コンタクト領域8よりも不純物濃度が高い方が好ましい。不純物が多いほどイオン注入によるダメージが大きいため、炭化珪素半導体ウェハ110の切り出しがより容易になる。具体的には、不純物濃度が1×10
19/cm
3以上1×10
20/cm
3以下であることが好ましい。
【0044】
ダメージ領域22に注入されるイオン種は、p型ドーパント(p型不純物)でもn型ドーパント(n型不純物)でもかまわない。このため、ダメージ領域22は、p型でもn型でもかまわない。また、p型ドーパントとn型ドーパントの両方を注入してもかまわない。この場合、上記の不純物濃度は、p型の不純物濃度とn型の不純物濃度を加えた濃度である。なお、ダメージ領域22をp型にする場合、空乏層がダメージ領域22に達しないように設計する。例えば、エッジ終端領域210を長くして、空乏層がダメージ領域22に到達しないようにする。
【0045】
また、ダメージ領域22では、結晶欠陥の密度は一様でなくてもよい。この場合、ダメージ領域22の、n
+型炭化珪素基板1と反対側の表面に近いほど結晶欠陥の密度を高くすることが好ましい。例えば、n
+型炭化珪素基板1と反対側の表面から高さh1の領域を、他の領域より結晶欠陥の密度を高くする。ダイシングの際、表面から刃を入れるため、最初に刃が入る領域の結晶欠陥の密度が高いほど炭化珪素半導体ウェハ110の切り出しが容易になるためである。
【0046】
また、ダメージ領域22では、p型領域とn型領域とが接合した超接合(SJ:Super Junction:スーパージャンクション)構造であってもよい。この場合、超接合構造は、縦方向(方向z)にp型領域とn型領域とが接合してもよいし、横方向(方向x)にp型領域とn型領域とが接合してもよい。また、
図2において、ダメージ領域22は、n
+型半導体領域21およびn
+型炭化珪素基板1と接しているが、接していなくてもよい。
【0047】
(実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法)
次に、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。
図5〜
図14は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を模式的に示す断面図である。
【0048】
まず、n型の炭化珪素でできたn
+型炭化珪素基板1を用意する。そして、このn
+型炭化珪素基板1の第1主面上に、n型の不純物、例えば窒素原子をドーピングしながら炭化珪素でできた第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aを、例えば30μm程度の厚さまでエピタキシャル成長させる。この第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aは、n型炭化珪素エピタキシャル層2となる。ここまでの状態が
図5に示されている。
【0049】
次に、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面上に、フォトリソグラフィ技術によって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。そして、アルミニウム等のp型の不純物を、酸化膜の開口部に注入し、深さ0.5μm程度の下部第1p
+型ベース領域4aを形成する。下部第1p
+型ベース領域4aと同時に、トレンチ18の底部となる第2p
+型ベース領域5を形成してもよい。隣り合う下部第1p
+型ベース領域4aと第2p
+型ベース領域5との距離が1.5μm程度となるよう形成する。下部第1p
+型ベース領域4aおよび第2p
+型ベース領域5の不純物濃度を例えば5×10
18/cm
3程度に設定する。ここまでの状態が
図6に示されている。
【0050】
次に、イオン注入用マスクの一部を除去し、開口部に窒素等のn型の不純物をイオン注入し、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度の下部n型高濃度領域6aを設ける。下部n型高濃度領域6aの不純物濃度を例えば1×10
17/cm
3程度に設定する。
【0051】
次に、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aの表面上に、窒素等のn型の不純物をドーピングした第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bを、0.5μm程度の厚さで形成する。第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bの不純物濃度が3×10
15/cm
3程度となるように設定する。以降、第1n型炭化珪素エピタキシャル層2aと第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bを合わせて、n型炭化珪素エピタキシャル層2となる。
【0052】
次に、第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bの表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。そして、アルミニウム等のp型の不純物を、酸化膜の開口部に注入し、深さ0.5μm程度の上部第1p
+型ベース領域4bを、下部第1p
+型ベース領域4aに重なるように形成する。下部第1p
+型ベース領域4aと上部第1p
+型ベース領域4bは連続した領域を形成し、第1p
+型ベース領域4となる。上部第1p
+型ベース領域4bの不純物濃度を例えば5×10
18/cm
3程度となるように設定する。
【0053】
次に、イオン注入用マスクの一部を除去し、開口部に窒素等のn型の不純物をイオン注入し、第2n型炭化珪素エピタキシャル層2bの表面領域の一部に、例えば深さ0.5μm程度の上部n型高濃度領域6bを設ける。上部n型高濃度領域6bの不純物濃度を例えば1×10
17/cm
3程度に設定する。この上部n型高濃度領域6bと下部n型高濃度領域6aは少なくとも一部が接するように形成され、n型高濃度領域6を形成する。ただし、このn型高濃度領域6が基板全面に形成される場合と、形成されない場合がある。ここまでの状態が
図7に示されている。
【0054】
次に、n型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、アルミニウム等のp型不純物をドーピングしたp型炭化珪素エピタキシャル層3を1.3μm程度の厚さで形成する。p型炭化珪素エピタキシャル層3の不純物濃度は4×10
17/cm
3程度に設定する。ここまでの状態が
図8に示されている。
図8は、炭化珪素半導体装置のエッジ終端領域210を示している。
【0055】
次に、p型炭化珪素エピタキシャル層3上にフォトリソグラフィにより素子中央部にフォトレジストを形成し、このフォトレジストをマスクとして、六フッ化硫黄(SF
6)等のフッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、p型炭化珪素エピタキシャル層3の周囲を1.3μm程度の深さで除去し、第1段目のメサ100を作製する。メサ側面の底部は、n型炭化珪素エピタキシャル層2中に形成された第1p
+型ベース領域4と接しており、かつメサ側面の中央にn
+型炭化珪素基板1と概平行な面が形成されている。ここまでの状態が
図9に示されている。
図9は、炭化珪素半導体装置のエッジ終端領域210を示している。
【0056】
次に、p型炭化珪素エピタキシャル層3および露出したn型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。この開口部にリン(P)等のn型の不純物をイオン注入し、p型炭化珪素エピタキシャル層3の表面の一部にn
+型ソース領域7を形成する。n
+型ソース領域7の不純物濃度は、p型炭化珪素エピタキシャル層3の不純物濃度より高くなるように設定する。次に、n
+型ソース領域7の形成に用いたイオン注入用マスクを除去し、同様の方法で、所定の開口部を有するイオン注入用マスクを形成し、p型炭化珪素エピタキシャル層3の表面の一部にアルミニウム等のp型の不純物をイオン注入し、p
++型コンタクト領域8を設ける。p
++型コンタクト領域8の不純物濃度は、p型炭化珪素エピタキシャル層3の不純物濃度より高くなるように設定する。ここまでの状態が
図10に示されている。
【0057】
また、
図11に示すようにp
++型コンタクト領域8の形成と同時にイオン注入される領域は、活性領域上から第1p
+型ベース領域4を被覆しn型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上まで広げることも可能である。
【0058】
次に、p型炭化珪素エピタキシャル層3および露出したn型炭化珪素エピタキシャル層2の表面上に、厚さ1.5μmの酸化膜を堆積し、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成する。この開口部にアルミニウム等のp型の不純物をイオン注入し、露出したn型炭化珪素エピタキシャル層2の表面の低不純物濃度のJTE領域20を設ける。同様の方法で、所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成し、n型炭化珪素エピタキシャル層2の表面の一部にn型の不純物をイオン注入し、n
+型半導体領域21を設ける。
【0059】
次に、1700℃程度の不活性ガス雰囲気で熱処理(アニール)を行い、第1p
+型ベース領域4、第2p
+型ベース領域5、n
+型ソース領域7、p
++型コンタクト領域8の活性化処理を実施する。なお、上述したように1回の熱処理によって各イオン注入領域をまとめて活性化させてもよいし、イオン注入を行うたびに熱処理を行って活性化させてもよい。
【0060】
次に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するイオン注入用マスクを例えば酸化膜で形成し、n型炭化珪素エピタキシャル層2の表面の一部にn型またはp型の不純物をイオン注入し、ダメージ領域22を形成する。また、ダメージ領域22は、n
+型ソース領域7を形成する際のイオン注入およびp
++型コンタクト領域8を形成する際のイオン注入を組み合わせることにより形成することもできる。このようにすることで、活性領域211にある半導体領域よりも不純物濃度が高い半導体領域を形成することができる。ここまでの状態が
図12に示されている。また、JTE領域20は第1p
+型ベース領域4の端部から素子の外側の領域に形成する構造や、
図12に示すようにメサ側面から素子の外側の領域に形成する構造をとることができる。
【0061】
また、ダメージ領域22は、レーザーを照射することにより形成することも可能である。この場合、レーザーの焦点を、n型炭化珪素エピタキシャル層2の中間の点p1よりも、n
+型炭化珪素基板1と反対側のn型炭化珪素エピタキシャル層2の表面に近い点p2にすることが好ましい。このようにすることで、n
+型炭化珪素基板1と反対側の表面に近くの領域の結晶欠陥の密度を高くすることができる。
【0062】
また、ダメージ領域22は、ヘリウム(He)やプロトン(p)を注入することにより形成することもできる。また、イオン注入とレーザーとを組み合わせてダメージ領域22を形成することもできる。
【0063】
次に、p型炭化珪素エピタキシャル層3の表面上に、フォトリソグラフィによって所定の開口部を有するトレンチ形成用マスクを例えば酸化膜で形成する。次に、ドライエッチングによってp型炭化珪素エピタキシャル層3を貫通し、n型炭化珪素エピタキシャル層2に達するトレンチ18を形成する。トレンチ18の底部はn型炭化珪素エピタキシャル層2に形成された第1p
+型ベース領域4に達してもよい。次に、トレンチ形成用マスクを除去する。ここまでの状態が
図13に示されている。
【0064】
次に、n
+型ソース領域7およびp
++型コンタクト領域8の表面と、トレンチ18の底部および側壁と、に沿ってゲート絶縁膜9を形成する。このゲート絶縁膜9は、酸素雰囲気中において1000℃程度の温度の熱処理によって熱酸化によって形成してもよい。また、このゲート絶縁膜9は高温酸化(High Temperature Oxide:HTO)等のような化学反応によって堆積する方法で形成してもよい。
【0065】
次に、ゲート絶縁膜9上に、例えばリン原子がドーピングされた多結晶シリコン層を設ける。この多結晶シリコン層はトレンチ18内を埋めるように形成してもよい。この多結晶シリコン層をフォトリソグラフィによりパターニングし、トレンチ18内部に残すことによって、ゲート電極10を設ける。ゲート電極10の一部はトレンチ18外部に突出していてもよい。
【0066】
次に、ゲート絶縁膜9およびゲート電極10を覆うように、例えばリンガラスを1μm程度の厚さで成膜し、層間絶縁膜11を設ける。次に、層間絶縁膜11を覆うように、チタン(Ti)または窒化チタン(TiN)からなるバリアメタル(不図示)を形成してもよい。層間絶縁膜11およびゲート絶縁膜9をフォトリソグラフィによりパターニングしn
+型ソース領域7およびp
++型コンタクト領域8を露出させたコンタクトホールを形成する。その後、熱処理(リフロー)を行って層間絶縁膜11を平坦化する。ここまでの状態が
図14に示されている。
【0067】
次に、コンタクトホール内および層間絶縁膜11の上にソース電極13となるニッケル(Ni)等の導電性の膜を設ける。この導電性の膜をフォトリソグラフィによりパターニングし、コンタクトホール内にのみソース電極13を残す。
【0068】
次に、n
+型炭化珪素基板1の第2主面上に、ニッケル等の裏面電極14を設ける。この後、1000℃程度の不活性ガス雰囲気で熱処理を行って、n
+型ソース領域7、p
++型コンタクト領域8およびn
+型炭化珪素基板1とオーミック接合するソース電極13および裏面電極14を形成する。
【0069】
次に、n
+炭化珪素基板1の第1主面上に、スパッタ法によって5μm程度の厚さのアルミニウム膜を堆積し、フォトリソグラフィによりソース電極13および層間絶縁膜11を覆うようにアルミニウムを除去し、ソース電極パッド15を形成する。
【0070】
次に、裏面電極14の表面に、例えばチタン(Ti)、ニッケルおよび金(Au)を順に積層することによって、ドレイン電極パッド(不図示)を形成する。次に、ソース電極13の上部に、めっき膜16を選択的に形成し、めっき膜16にはんだ17を介してピン状電極(不図示)を形成する。以上のようにして、
図1および
図2に示す半導体装置が完成する。
【0071】
以上、MOSFETについて説明してきたが、本発明は他の炭化珪素半導体装置に適用することも可能である。
図15は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の他の構造を示す断面図である。ここでは、他の炭化珪素半導体装置の例としてSBD(Schottky Barrier Diode:ショットキーバリアダイオード)を例として記載している。
【0072】
図15に示すように、実施の形態にかかるSBDは、n型炭化珪素基板31の第1主面(おもて面)、例えば(0001)面(Si面)、にn
-型ドリフト層32が堆積されている。活性領域211において、n
-型ドリフト層32の、n型炭化珪素基板31側に対して反対側(基体おもて面側)の表面層には、活性領域211を取り囲む環状の1つのp
+型ガードリング領域33が配置されている。
【0073】
また、エッジ終端領域210において、n
-型ドリフト層32の、n型炭化珪素基板31側に対して反対側(基体おもて面側)の表面層には、エッジ終端領域210の電界を緩和または分散させることで高耐圧半導体装置全体の耐圧を向上させるための、p
-型のJTE領域20が選択的に設けられている。JTE領域20は、p
+型ガードリング領域33を囲むように設けられている。
【0074】
また、無効領域201において、個体化切断面200と接しているダメージ領域22が設けられている。ダメージ領域22は、MOSFETの場合と同様に、イオン注入やレーザーにより炭化珪素半導体にダメージが与えられた領域である。
【0075】
n
-型ドリフト層32のおもて面側の活性領域211の部分では、n
-型ドリフト層32とショットキー接触するショットキー電極34が設けられている。また、n型炭化珪素基板31の裏面には、下部電極35が設けられている。
【0076】
SBDでも、MOSFETの場合と同様に、ダメージ領域22に沿ってダイシングすることで、炭化珪素半導体ウェハ110の切り出しが容易になり、ダイシング中に歪が発生することを抑制することができる。
【0077】
以上、説明したように、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置によれば、無効領域に炭化珪素半導体にダメージが与えられたダメージ領域が設けられている。ダメージ領域は、結晶欠陥が他の領域よりも多く形成され硬度が低くなっている。このため、ダイシングの際の刃が入りやすくなっており、ダメージ領域に沿ってダイシングすることで、炭化珪素半導体ウェハの切り出しが容易になり、ダイシング中に歪が発生することを抑制することができる。
【0078】
以上において本発明では、炭化珪素でできた炭化珪素基板の主面を(0001)面とし当該(0001)面上にMOSを構成した場合を例に説明したが、これに限らず、ワイドバンドギャップ半導体、基板主面の面方位などを種々変更可能である。
【0079】
また、本発明では、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。