特許第6953919号(P6953919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6953919
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】プレスフィット端子及び電子装置
(51)【国際特許分類】
   H01R 12/58 20110101AFI20211018BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   H01R12/58
   H01R13/03 D
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-169809(P2017-169809)
(22)【出願日】2017年9月4日
(65)【公開番号】特開2019-46690(P2019-46690A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年8月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【弁理士】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】越智 謙次
(72)【発明者】
【氏名】塩見 巧
【審査官】 井上 信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−251293(JP,A)
【文献】 特開2007−042358(JP,A)
【文献】 特開平08−340659(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 12/58
H01R 13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(30)のスルーホール(32)に挿入された状態で、弾性変形による反力を前記スルーホールの壁面に作用させ、前記基板に保持されるプレスフィット端子であって、
板厚方向の表面(530,531)と、前記表面に連なる面であり、打ち抜きされた部分である打ち抜き部を含む側面(532)と、を有する母材(53)と、
前記表面上に設けられた主部(540)と、前記主部から延び、前記打ち抜き部上であって前記壁面との接触部分に設けられ、前記主部よりも平均厚みが薄くされた延設部(541)と、を有するめっき膜(54)と
前記挿入の方向及び前記板厚方向に対して直交する方向において、互いに対向するとともに弾性変形可能に設けられた2本の梁部(520a)と、を備え、
2本の前記梁部において、お互いの対向面と反対の面が、前記側面とされているプレスフィット端子。
【請求項2】
前記側面は、前記板厚方向の両端に、前記壁面との接触部分を含む曲面状のR部(532d,532e)を有し、
2本の前記梁部は、4つの前記R部を有しており、
前記R部のそれぞれに、前記延設部が設けられている請求項1に記載のプレスフィット端子。
【請求項3】
前記側面は、前記打ち抜き部として、前記板厚方向の中央に設けられた破断面(532c)と、前記破断面の両側にそれぞれ設けられたせん断面(532b)と、を有し、
前記破断面が、前記せん断面に対して前記対向面側に凹んでいる請求項2に記載のプレスフィット端子。
【請求項4】
前記側面において、両端に設けられた前記延設部の間の部分が、前記めっき膜から露出されている請求項2又は請求項3に記載のプレスフィット端子。
【請求項5】
前記母材は、前記表面として、一面及び前記一面と反対の裏面を有し、
前記側面は、前記板厚方向の両端に、前記壁面との接触部分を含む曲面状のR部(532d,532e)を有し、
2本の前記梁部は、4つの前記R部を有しており、
4つの前記R部のうち、同じ前記表面側の2つの前記R部にのみ、前記延設部が設けられ、
各側面の一部が、前記めっき膜から露出されている請求項1に記載のプレスフィット端子。
【請求項6】
前記延設部の算術平均粗さが、前記延設部が設けられていない前記R部の算術平均粗さよりも大きい請求項5に記載のプレスフィット端子。
【請求項7】
前記母材は、前記表面として、一面及び前記一面と反対の裏面を有し、
前記側面は、前記板厚方向の両端に、前記壁面との接触部分を含む曲面状のR部(532d,532e)を有し、
2本の前記梁部は、4つの前記R部を有しており、
4つの前記R部のうち、前記一面側の2つの前記R部の一方である第1R部、及び、前記裏面側の前記R部であって前記第1R部の対角位置にある第2R部にのみ、前記延設部が設けられ、
各側面の一部が、前記めっき膜から露出されている請求項1に記載のプレスフィット端子。
【請求項8】
スルーホール(32)を有する基板(30)と、
前記スルーホールに挿入された状態で、弾性変形による反力を前記スルーホールの壁面に作用させ、前記基板に保持される端子であって、板厚方向の表面(530,531)、及び、前記表面に連なる面であり、打ち抜きされた部分である打ち抜き部を含む側面(532)を有する母材(53)と、前記表面上に設けられた主部(540)、及び、前記主部から延びて、前記打ち抜き部上であって前記壁面との接触部分に設けられ、前記主部よりも平均厚みが薄くされた延設部(541)を有するめっき膜(54)と、を備えるプレスフィット端子(52)と、を備え、
前記プレスフィット端子は、前記挿入の方向及び前記板厚方向に対して直交する方向において、互いに対向するとともに弾性変形可能に設けられた2本の梁部(520a)を有し、
2本の前記梁部において、お互いの対向面とは反対の面が、前記側面とされ、
前記側面は、前記板厚方向の両端に、前記壁面との接触部分を含む曲面状のR部(532d,532e)を有し、
2本の前記梁部が有する4つの前記R部のうちの少なくとも1つに、前記延設部が設けられ、
前記R部の曲率半径をr、前記スルーホールの内径をdとすると、r/d≦0.25を満たす電子装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、プレスフィット端子、及び、プレスフィット端子を備える電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、基板のスルーホールに挿入されるプレスフィット端子が開示されている。プレスフィット端子は、母材の表面にめっき膜を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−262861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
めっき膜を有することで、スルーホールの壁面に接触する前に、壁面との接触部分が外気によって酸化するのを抑制することができる。また、摩擦係数を小さくし、圧入荷重を低減することができる。
【0005】
プレスフィット端子は、板材(条材)を、プレス加工により所定形状に打ち抜いて形成される。また、板厚方向の表面ではなく、プレス加工によって打ち抜かれた部分である打ち抜き部を含む側面側が、スルーホールの壁面に接触する。このため、側面上であって壁面との接触部分に、めっき膜を設ける必要がある。
【0006】
特許文献1に代表される従来のプレスフィット端子は、板材をプレス加工した後に、めっきを施すことで形成される。これにより、表面上だけでなく、壁面との接触部分を含む側面上にも、めっき膜が形成される。しかしながら、所定形状に打ち抜いた後にめっきを施すため、製造コストが高いという問題がある。
【0007】
本開示はこのような課題に鑑みてなされたものであり、低コストで、圧入前の酸化を抑制しつつ圧入荷重を低減できるプレスフィット端子及び電子装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、上記目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。なお、括弧内の符号は、ひとつの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、技術的範囲を限定するものではない。
【0009】
本開示のひとつは、
基板(30)のスルーホール(32)に挿入された状態で、弾性変形による反力をスルーホールの壁面に作用させ、基板に保持されるプレスフィット端子であって、
板厚方向の表面(530,531)と、表面に連なる面であり、打ち抜きされた部分である打ち抜き部を含む側面(532)と、を有する母材(53)と、
表面上に設けられた主部(540)と、主部から延び、打ち抜き部上であって壁面との接触部分に設けられ、主部よりも平均厚みが薄くされた延設部(541)と、を有するめっき膜(54)と
挿入の方向及び板厚方向に対して直交する方向において、互いに対向するとともに弾性変形可能に設けられた2本の梁部(520a)と、を備え、
2本の梁部において、お互いの対向面と反対の面が、側面とされている。
【0010】
このプレスフィット端子によれば、壁面との接触部分に設けられためっき膜(延設部)により、スルーホールの壁面に接触する前に、壁面との接触部分が外気によって酸化するのを抑制することができる。また、摩擦係数を小さくし、圧入荷重を低減することができる。
【0011】
さらに、めっき膜は、プレス加工により板材から母材を打ち抜く前に形成された、所謂先めっき膜に由来している。延設部は、先めっき膜がプレス加工にともなって打ち抜き部上に延びることで形成されている。このため、延設部は主部に連なるとともに、平均厚みが主部よりも薄くされている。
【0012】
このように、めっき膜は、プレス加工の後に形成された後めっき膜ではない。したがって、低コストで、圧入前の酸化を抑制しつつ圧入荷重を低減することができる。
【0013】
本開示の他のひとつである電子装置は、
スルーホール(32)を有する基板(30)と、
スルーホールに挿入された状態で、弾性変形による反力をスルーホールの壁面に作用させ、基板に保持される端子であって、板厚方向の表面(530,531)、及び、表面に連なる面であり、打ち抜きされた部分である打ち抜き部を含む側面(532)を有する母材(53)と、表面上に設けられた主部(540)、及び、主部から延びて、打ち抜き部上であって壁面との接触部分に設けられ、主部よりも平均厚みが薄くされた延設部(541)を有するめっき膜(54)と、を備えるプレスフィット端子(52)と、
を備え、
プレスフィット端子は、挿入の方向及び板厚方向に対して直交する方向において、互いに対向するとともに弾性変形可能に設けられた2本の梁部(520a)を有し、
2本の梁部において、お互いの対向面とは反対の面が、側面とされ、
側面は、板厚方向の両端に、壁面との接触部分を含む曲面状のR部(532d,532e)を有し、
2本の梁部が有する4つのR部のうちの少なくとも1つに、延設部が設けられ、
R部の曲率半径をr、スルーホールの内径をdとすると、r/d≦0.25を満たす。
【0014】
この電子装置によれば、上記したプレスフィット端子と同等の効果を奏することができる。
【0015】
また、R部の曲率半径rが小さいため、側面のうち、R部が壁面に接触し、R部の間の部分は非接触となる。これにより、めっき膜の延設部を確実に壁面に接触させることができる。したがって、接続信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態のプレスフィット端子を備える電子装置の概略構成を示す断面図である。
図2】プレスフィット端子と基板との接続構造を示す断面図であり、図1の領域IIに対応している。
図3図2のIII-III線に沿う断面図である。
図4】プレスフィット端子を示す斜視図である。
図5】プレスフィット端子の製造方法を示す模式的な図である。
図6】プレスフィット端子の製造方法を示す模式的な図である。
図7】プレスフィット端子の製造方法を示す模式的な図である。
図8】参考例を示す図であり、図3に対応している。
図9】変形例を示す図であり、図3に対応している。
図10】第2実施形態のプレスフィット端子を示す断面図であり、図3に対応している。
図11】第3実施形態のプレスフィット端子を示す断面図であり、図3に対応している。
図12】プレスフィット端子を示す斜視図であり、図4に対応している。
図13】第4実施形態のプレスフィット端子を示す断面図である。
図14】第5実施形態のプレスフィット端子を示す断面図であり、図3に対応している。
図15】その他変形例を示す図であり、図3に対応している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的に及び/又は構造的に対応する部分には同一の参照符号を付与する。以下において、スルーホールに対するプレスフィット端子の挿入方向、換言すれば基板の板厚方向をZ方向と示す。Z方向に直交する一方向であって、プレスフィット端子におけるスルーホールに挿入される部分の板厚方向をY方向と示す。また、Z方向及びY方向の両方向に直交する方向、換言すればプレスフィット端子の弾性変形の方向をX方向と示す。特に断りのない限り、XY面視したときの形状(XY平面に沿う形状)を平面形状とする。XY面視は、Z方向の投影視とも言える。
【0018】
(第1実施形態)
先ず、図1図3に基づき、本実施形態のプレスフィット端子を備える電子装置の概略構成について説明する。
【0019】
図1に示す電子装置10は、たとえば車両を制御する電子制御装置として構成されている。電子装置10は、筐体20、基板30、電子部品40、及びコネクタ50を備えている。
【0020】
筐体20は、基板30及び電子部品40を内部に収容し、基板30及び電子部品40を保護する。たとえば電子部品40の生じた熱に対する放熱性を向上するために、筐体20は、アルミニウムなどの金属材料を用いて形成される。たとえば電子装置10の軽量化を図るために、筐体20は、樹脂材料を用いて形成される。
【0021】
本実施形態において、筐体20は、Z方向に分割された2つの部材、具体的にはケース21及びカバー22を有している。ケース21は樹脂材料を用いて形成され、カバー22はアルミニウム系材料を用いて形成されている。筐体20は、Z方向においてケース21とカバー22を組み付けることで形成される。ケース21とカバー22の組み付け方法は特に限定されない。ねじ締結など周知の組み付け方法を採用することができる。
【0022】
ケース21は、一面が開口する箱状をなしている。平面略矩形状をなす基板30に対応して、ケース21の底面部も略矩形状となっている。カバー22は、ケース21とともに筐体20の内部空間を形成する。
【0023】
基板30は、所謂プリント基板である。図2に示すように、基板30は、樹脂などの電気絶縁材料を用いて形成された基材31に、配線が配置されてなる。図1では、配線を省略している。図2では、配線の一部(後述するランド33)のみを示している。
【0024】
基板30は、スルーホール32を有している。スルーホール32は、基板30(基材31)をその板厚方向であるZ方向に貫通している。スルーホール32の断面形状(開口形状)は、略真円形状をなしている。スルーホール32は、一定径の貫通孔である。
【0025】
スルーホール32の壁面には、めっきが施されてランド33が形成されている。スルーホール32の壁面は、実質的に、ランド33がなしている。ランド33は、スルーホールめっきとも称される。ランド33を含むスルーホール32の開口形状も、略真円形状をなしている。ランド33は、スルーホール32の壁面とスルーホール32の開口周囲に、一体的に形成されている。ランド33には、コネクタ50の後述するプレスフィット端子52が圧接される。
【0026】
上記めっきを構成する主成分金属としては、たとえばSn、Cu、Ni、Pd、Agのうちの少なくともひとつを採用することができる。本実施形態のランド33は、基材31上にCuめっき膜が形成されている。
【0027】
基板30は、平面略矩形状をなしている。基板30は、ねじ締結、接着など周知の固定方法により、筐体20に固定されている。本実施形態では、カバー22が深さの浅い箱状をなしており、カバー22の底部内面に、基板30に向けて突出する凸部22aが形成されている。基板30は、凸部22aにより支持された状態で、筐体20(カバー22)に固定されている。
【0028】
電子部品40は、基板30に実装されている。電子部品40は、基板30に形成された配線とともに、回路を構成する。電子部品40が実装された基板30は、回路基板である。電子部品40は、たとえばはんだを介して図示しないランドに接続されている。本実施形態では、基板30において、電子部品40が実装された部分の裏面部位が凸部22aにより支持されている。このため、電子部品40の熱を、金属製の筐体20(カバー22)に効率よく逃がすこともできる。
【0029】
コネクタ50は、基板30に対して、X方向の一端側に配置されている。コネクタ50の一部は筐体20を介して外部に露出され、残りの部分は筐体20の内部空間に収容されている。コネクタ50は、ハウジング51及び複数の端子を有している。ハウジング51は、樹脂材料を用いて形成されている。たとえば本実施形態では、ハウジング51が、樹脂製のケース21と一体成形されている。複数の端子は、ハウジング51に保持されている。
【0030】
端子は、導電性材料を用いて形成されており、基板30及び電子部品40により形成される回路と外部機器とを電気的に中継する。端子は、たとえば圧入固定やインサート成形により、ハウジング51に保持されている。図示を省略するが、複数の端子は、ハウジング51の幅方向であるY方向に沿って配列されている。本実施形態では、端子数が多いため、端子がZ方向に多段に配置されている。各端子は、ZX平面において略L字状をなしている。本実施形態では、端子としてプレスフィット端子52を採用している。
【0031】
プレスフィット端子52は、スルーホール32に圧入されて基板30に保持されている。図3に示すように、プレスフィット端子52は、金属材料を用いて形成された母材53、及び、母材53を被覆するめっき膜54を有している。母材53は、たとえばCu又はCu合金を構成材料として形成されている。母材53は、後述するように、Cu又はCu合金の板材53aをプレス加工により打ち抜いて形成されている。
【0032】
めっき膜54の主成分金属としては、たとえばSn、Cu、Niのうちの少なくともひとつを採用することができる。本実施形態では、母材53上にCuめっき、Snめっきが順に施されて2層構造のめっき膜54が形成されている。なお、Cuめっきに代えて、Niめっきを採用することもできる。母材53及びめっき膜54の詳細については、後述する。
【0033】
プレスフィット端子52は、図2に示すように、弾性部520、導入部521、及び後端部522を有している。弾性部520は、スルーホール32への挿入方向(すなわちZ方向)と直交する方向に弾性を有する。弾性部520は、少なくとも一部がスルーホール32に配置され、弾性変形による反力をスルーホール32の壁面(ランド33)に作用させる。
【0034】
本実施形態のプレスフィット端子52は、所謂ニードルアイ形状をなしている。プレスフィット端子52は、基板30への接続状態で少なくとも一部がスルーホール32内に配置されるように形成された開口部523をさらに有している。開口部523は、Y方向に貫通する貫通孔である。開口部523は、Z方向、すなわちプレスフィット端子52の長手方向に延設されている。開口部523の延設長さは特に限定されない。スルーホール32の長さより長くてもよいし、スルーホール32の長さ以下としてもよい。
【0035】
プレスフィット端子52は、開口部523によって2本の梁520aに分岐されている。梁520aの板厚方向はY方向とされている。板厚方向に直交するX方向において、2本の梁520aの外表面間のうち、最も長い部分の長さは、スルーホール32へ挿入されない状態(挿入前の状態)で、スルーホール32の内径よりも長くされている。2本の梁520aは、後端部522側から導入部521側に向けて、X方向に沿う外表面間の長さが徐々に長くなり、その途中から導入部521に近づくほどX方向に沿う外表面間の長さが徐々に狭くなっている。なお、梁520aが、梁部に相当する。
【0036】
弾性部520は、2本の梁520aを含んで構成されている。弾性部520は、開口部523の周囲部分であり、スルーホール32に挿入した際に、弾性変形可能な部分である。図2に示す破線は、導入部521及び後端部522のそれぞれと、弾性部520との境界を示している。
【0037】
導入部521は、弾性部520の一端よりも挿入先端側の部分である。導入部521は、弾性部520の一端に連なっている。導入部521において、外表面間のうち、最も長い部分の長さは、たとえばスルーホール32の内径よりも短くされている。導入部521は、スルーホール32内にプレスフィット端子52を導く部分である。導入部521は、先端部とも称される。後端部522は、弾性部520に対して導入部521とは反対の端部側の部分である。後端部522は弾性部520の他端に連なっている。
【0038】
次に、図3及び図4に基づき、プレスフィット端子52における母材53及びめっき膜54の詳細構造について説明する。
【0039】
図3に示すように、母材53は、板厚方向の表面、及び、表面に連なる面を有している。母材53は、表面として、一面530及び一面530と反対の裏面531を有している。母材53は、連なる面として、側面532及び対向面533を有している。図3では、表面(一面530及び裏面531)と連なる面(側面532及び対向面533)との境界を、破線で示している。
【0040】
一面530及び裏面531は、ZX平面に対して略平行とされている。すなわち、板厚方向であるY方向に対して略直交している。一面530及び裏面531は、後述する板面530a,531a由来の面である。
【0041】
側面532は、一面530と裏面531の両方に連なり、一面530と裏面531を繋ぐ面である。梁520aにおいて、側面532は、一面530及び裏面531に連なる面のうち、開口部523側の面とは反対の外側面である。よって、2本の梁520aのそれぞれが、側面532を有している。側面532は、プレス加工(せん断加工)により打ち抜かれた部分である打ち抜き部を少なくとも含んでいる。打ち抜き部は、打ち抜き面、切断面、切り口などとも称される。打ち抜き部は、だれ532a、せん断面532b、及び破断面532cを有している。
【0042】
だれ532aは、曲面状をなしている。だれ532aは、Y方向において打ち抜き部の両端に設けられている。せん断面532bは、だれ532に隣接して設けられている。破断面532cは、せん断面532bに隣接して設けられている。すなわち、一面530側から裏面531側に向けて、だれ532a、せん断面532b、破断面532c、せん断面532b、だれ532aの順に設けられている。側面532において、Y方向の中央付近に破断面532cが設けられ、破断面532cを挟むようにせん断面532bが設けられている。
【0043】
側面532のそれぞれは、Y方向の両端に曲面状のR部532d,532eを有している。R部532dは一面530側の端部に設けられ、R部532eは裏面531側の端部に設けられている。したがって、2本の梁520aは、4つのR部532d,532eを有している。R部532d,532eは、直接、又は、めっき膜54を介して、スルーホール32の壁面に接触する。本実施形態では、4つのR部532d,532eのそれぞれが、めっき膜54を介して、スルーホール32の壁面に接触する。詳しくは、R部532d,532eのそれぞれの一部分が、めっき膜54を介して、スルーホール32の壁面に接触する。R部532d,532eは、壁面との接触部分を含んでいる。
【0044】
R部532d,532eのそれぞれは、少なくとも打ち抜き部を含んでいる。R部532d,532eは、だれ532aを少なくとも含んでいる。R部532d,532eは、だれ532aに加えて、せん断面532bの少なくとも一部を含んでもよい。R部532d,532eにおいて、壁面との接触部分は、打ち抜き部のうち、だれ532a及びせん断面532bの少なくとも一方を含んでいる。破断面532cは、側面532において、両端のR部532d,532eを繋ぐ部分に含まれている。
【0045】
本実施形態では、プレス加工後のコイニング加工により、後述する板面530a,531aの一部が曲面状に加工され、R部532d,532eに含まれる。ただし、R部532d,532eのうち、めっき膜54を介して壁面に接触する部分は、上記したように打ち抜き部にて構成されている。また、4つのR部532d,532eは、曲率半径が互いにほぼ等しくされている。
【0046】
具体的には、4つのR部532d,532eの曲率半径をr、ランド33が設けられたスルーホール32の内径をdとすると、本実施形態では、r/d=0.2を満たすように、R部532d,532eが加工されている。内径dに対して曲率半径rが小さいため、図3に示すように、側面532のそれぞれにおいて、R部532d,532eの間に、略平坦な部分を有する。このため、挿入時において、2本の梁520aのそれぞれが、4つのR部532d,532eでスルーホール32の壁面に接触する。
【0047】
対向面533は、X方向に並んで配置された2本の梁520aにおいて、互いに対向する面である。対向面533は、上記した開口部523の壁面をなしている。対向面533は、一面530及び裏面531に連なる面のうち、開口部523側の内側面である。対向面533は、Y方向における一面530側の端部に、曲面状のR部533aを有している。R部533aは、プレス加工により形成された打ち抜き部によって構成されている。対向面533側はコイニング加工されていない。このため、R部532d,532eの曲率半径が、R部533aの曲率半径よりも大きくされている。開口部523は、後述するように、一面530側からのプレス加工によって形成されている。対向面533の裏面531側の端部には、R部533aが設けられていない。
【0048】
めっき膜54は、後述するように、プレス加工により板材53aから母材53を打ち抜く前に施された、先めっき膜54aに由来している。めっき膜54は、主部540、及び、延設部541を有している。主部540は、母材53の表面、すなわち一面530及び裏面531上に設けられている。主部540は、一面530側において、一面530の全面を覆っている。また、裏面531側において、裏面531の全面を覆っている。一面530上と裏面531上とで、主部540の膜厚がほぼ等しくされている。
【0049】
延設部541は、主部540から延び、側面532における打ち抜き部上であって、スルーホール32の壁面との接触部分に設けられている。このように、壁面との接触部分を覆うように主部540から延びた部分が、延設部541である。延設部541は、主部540に一体的に連なっている。延設部541は、4つのR部532d,532eのそれぞれにおける壁面との接触部分を覆っている。
【0050】
延設部541は、後述するように、板面530a,531a上に設けられた先めっき膜54aがプレス加工にともなって打ち抜き部側に引き延ばされた部分を少なくとも含んでいる。このように、プレスによって強制的に主部延びた部分であるため、延設部541の平均膜厚は、主部540よりも薄くされている。また、R部532d側の延設部541とR部532e側の延設部541とで、平均膜厚は互いにほぼ等しくされている。延設部541は、だれ532aの全域と、せん断面532bの少なくとも一部を覆っている。
【0051】
本実施形態では、上記したコイニング加工により、打ち抜き後において、板面530a,531aの一部がR部532d,532eに含まれる。このため、打ち抜き後において、板面530a,531a上のめっき膜54の一部が延設部541に含まれることとなる。延設部541は、図3及び図4に示すように、R部532d,532eのそれぞれの全域を覆うとともに、側面532においてR部532d,532eを繋ぐ部分の一部も覆っている。側面532のうち、延設部541に覆われた両端の間の部分は、めっき膜54から露出されている。側面532は、めっき膜54により被覆されていない部分である露出部532fを有している。露出部532fは、少なくとも破断面532cを含んでいる。
【0052】
なお、めっき膜54は、対向面533の一部も被覆している。詳しくは、対向面533のうち、R部533aを含む一部が、めっき膜54によって被覆されている。残りの部分は、めっき膜54から露出されている。
【0053】
次に、図5図7に基づき、プレスフィット端子52の製造方法について説明する。図5図7では、模式的に示している。図5図7に示す白抜き矢印は、プレス(抜き)の方向を示している。
【0054】
図5に示すように、板厚方向の面である板面530a,531a上に先めっき膜54aが形成された板材53aを準備する。板材53aは、条材とも称される。
【0055】
次いで、プレス加工を実施する。先ず、板面530a側からの打ち抜きを行う。先めっき膜54aを備える板材53aのうち、打ち抜く部分の板面531a側をダイ80で支持した状態で、平面視においてダイ80との間に所定のクリアランスを有するように、板面530a上にパンチ81を配置する。そして、パンチ81を板面531a側に所定深さ移動させ、板材53aを途中まで打ち抜く。たとえば板材53aを、厚みの半分程度まで打ち抜く。この打ち抜きにともない、板面530a上の先めっき膜54aの一部が引きずられ、図6に示すように打ち抜き面側に延びる。
【0056】
次いで、板面531a側からの打ち抜きを行う。板材53aのうち、打ち抜く部分の板面530a側をダイ80で支持した状態で、所定のクリアランスを有するように、板面531a上にパンチ81を配置する。そして、パンチ81を板面530a側に移動させ、残りの部分を打ち抜く。このようにして、図7に示すように、板材53aから母材53を打ち抜く。
【0057】
打ち抜かれた母材53は、板面530a,531aにそれぞれめっき膜54を有する。母材53は、板面530a,531aを繋ぐ打ち抜き面を有する。この打ち抜き面が、上記した打ち抜き部に相当する。打ち抜き面は、板面530aから板面531aに向けて、だれ532a、せん断面532b、破断面532c、せん断面532b、だれ532aの順に有している。
【0058】
また、板面531a側からの打ち抜きにともない、板面531a上の先めっき膜54aの一部が引きずられ、打ち抜き面側に延びる。したがって、母材53は、打ち抜き面の両端にめっき膜54を有する。
【0059】
次いで、図示を省略するが、プレス加工により、母材53に開口部523を形成する。本実施形態では、板面530a側からの打ち抜きにより、貫通孔である開口部523を形成する。これにより、母材53が、2本の梁520aを有することとなる。なお、板材53aから母材53を打ち抜く前に、開口部523を形成することもできる。
【0060】
そして、プレス加工後、コイニング加工などを経て、上記したプレスフィット端子52を得ることができる。コイニング加工では、プレスフィット端子52の四隅に相当する部分の形状を整え、R部532d,532eを形成する。
【0061】
次に、上記したプレスフィット端子52及び電子装置10の効果について説明する。
【0062】
本実施形態のプレスフィット端子52は、母材53におけるスルーホール32の壁面との接触部分に、めっき膜54の延設部541が設けられている。したがって、母材53における壁面との接触部分が、スルーホール32への圧入前に外気によって酸化するのを抑制することができる。
【0063】
また、母材53における壁面との接触部分に、めっき膜54が存在する。これにより、摩擦係数を小さくし、圧入荷重を低減することができる。
【0064】
さらに、めっき膜54は、プレス加工により板材53aから母材53を打ち抜く前に形成された先めっき膜54aに由来している。母材53における壁面との接触部分を覆う延設部541は、先めっき膜54aがプレス加工にともなって打ち抜き部上に延びることで形成されている。このため、延設部541は主部540に連なるとともに、平均厚みが主部540よりも薄くされている。
【0065】
このように、めっき膜54は、プレス加工の後に形成された後めっき膜ではない。延設部541も、先めっき膜54a由来である。先めっきは板材53aに一括処理できるため、所定形状の母材53に対してめっきする後めっきに較べて、たとえば高速処理が可能である。したがって、めっきコストを低減することができる。
【0066】
以上により、本実施形態のプレスフィット端子52によれば、低コストで、圧入前の酸化を抑制しつつ圧入荷重を低減することができる。
【0067】
特に本実施形態では、4つのR部532d,532eが、スルーホール32の壁面に接触する構成において、4つのR部532d,532eのすべてに延設部541が設けられている。したがって、壁面と接触するすべての部分について、圧入前の酸化を抑制することができる。また、4つのR部532d,532eのすべてで、圧入荷重を同等に低減することができる。このため、たとえば挿入時の座屈を抑制することができる。したがって、プレスフィット端子52と基板30との機械的な接続信頼性を向上することができる。また、電気的な接続信頼性を向上することもできる。
【0068】
また、本実施形態では、側面532が露出部532fを有している。詳しくは、側面532におけるY方向の中央付近がめっき膜54から露出されている。したがって、上記効果を奏しつつ、打ち抜き部(打ち抜き面)側に先めっき膜54aを引き延ばす量を低減することができる。このため、先めっき膜54aの膜厚を薄くすることができる。以上により、めっきコストをさらに低減することができる。
【0069】
また、本実施形態では、r/d=0.2を満たすように、R部532d,532eが設けられている。このため、2本の梁520aは、R部532d,532eの4箇所でスルーホール32の壁面に接触し、同じ梁520aにおいてR部532d,532eの間の部分は壁面に接触しない。したがって、上記した効果を奏することができる。
【0070】
なお、R部532d,532eは、r/d=0.2を満たすものに限定されない。ただし、r/dの値が大きくなるほど、同じ梁520aにおける壁面との接触部分がY方向において近づく。たとえば図8に示す参考図のように、r/d=0.275を満たすと、同じ梁520aにおいて2つのR部532d,532e同士が繋がり、ひとつの円弧をなす。このため、側面532の中央で壁面と接触してしまう。したがって、側面532のほぼ全域を延設部541に覆うようにしないと、母材53が壁面に接触することとなる。全域を覆うには、プレス加工時に、打ち抜き部側により多くの先めっき膜54aを引き延ばす必要がある。
【0071】
図9に示す変形例は、r/d=0.25の例を示している。この場合、上記した実施形態同様、弾性部520を構成する2本の梁520aのそれぞれが、弾性変形方向であるX方向ではなく、同じ梁520aにおいてR部532d,532eがY方向において離れ、R部532d,532eの2箇所で壁面と接触することとなる。
【0072】
以上より、r/d≦0.25を満たすプレスフィット端子52を採用するとよい。これによれば、R部532d,532eが壁面に接触する。したがって、延設部541を壁面に接触させやすい。また、延設部541を壁面に接触させるのに必要なめっき量を低減できる。
【0073】
また、一面530側から打ち抜くことで開口部523が形成される例を示したが、これに限定されない。裏面531(板面531a)側から打ち抜いて、開口部523を形成してもよい。
【0074】
(第2実施形態)
本実施形態は、先行実施形態を参照できる。このため、先行実施形態に示した電子装置10及びプレスフィット端子52と共通する部分についての説明は省略する。
【0075】
第1実施形態に示したように、4つのR部532d,532eのすべてが延設部541によって覆われる構成の場合、板面530a,531aの両方から打ち抜きを行うため、破断面532cが、側面532の中央付近に形成される。破断面532cは、だれ532a及びせん断面532bに較べて荒れているため、破断面532cが壁面に接触すると、ランド33を構成するめっきが剥がれることも考えられる。
【0076】
これに対し、本実施形態では、図10に示すように、破断面532cがせん断面532bに対して対向面533側に凹んでいる。換言すれば、側面532の中央付近が凹んでいる。凹みは、Z方向に所定の長さを有して設けられている。たとえば梁520aのうち、スルーホール32内に挿入される部分に設けられている。それ以外の構成は、第1実施形態と同じである。すなわち、4つのR部532d,532eのすべてが延設部541によって覆われている。凹み形状は、上記したコイニング加工にて形成することができる。
【0077】
このように、本実施形態によれば、破断面532cを凹ませたため、破断面532cとランド33との接触をより確実に回避することができる。これにより、ランド33のめっき剥がれを抑制することができる。
【0078】
また、側面532の中央付近が壁面に接触し難いため、R部532d,532eを、より確実にスルーホール32の壁面に接触させることができる。これにより、接続信頼性を向上することができる。
【0079】
(第3実施形態)
本実施形態は、先行実施形態を参照できる。このため、先行実施形態に示した電子装置10及びプレスフィット端子52と共通する部分についての説明は省略する。
【0080】
本実施形態では、4つのR部532d,532eのうち、同じ表面側の2つのR部にのみ、延設部541が設けられている。図11及び図12に示す例では、一面530側の2つのR部532dにのみ、延設部541が設けられており、裏面531側のR部532eには設けられていない。2つの梁520aの側面532は、ともに一面530側からの打ち抜きで形成されている。すなわち、側面532の形成には、第1実施形態のような裏面531側からの打ち抜きが不要である。
【0081】
R部532eは、コイニング加工により形成されている。コイニング加工により、板面531aの一部がR部532eをなすため、R部532eにおける裏面531側の端部上に、めっき膜54が設けられている。しかしながら、R部532eにおける壁面との接触部分には設けられていない。すなわち、壁面との接触部分を覆う延設部541は、R部532eには設けられていない。側面532は露出部532fを有している。それ以外の構成は、第1実施形態と同じである。
【0082】
このように、本実施形態によれば、延設部541が設けられた2つのR部532dは、弾性変形方向であるX方向において離れた位置に設けられている。このため、たとえば4つのR部532d,532eの1つのみに延設部541を設ける構成に較べて、2本の梁520aで挿入時のバランスが取れる。したがって、接続信頼性を向上することができる。
【0083】
また、一面530側からの打ち抜きによって、2つの梁520aの側面532を形成することができる。したがって、打ち抜き数を減らし、プレス工程を簡素化することができる。図11に示す白抜き矢印は、それぞれの側面532についての打ち抜き方向を示している。
【0084】
なお、裏面531側の2つのR部532eにのみ、延設部541が設けられ、一面530側のR部532dには設けられない構成としても、上記した効果を奏することができる。
【0085】
(第4実施形態)
本実施形態は、先行実施形態を参照できる。このため、先行実施形態に示した電子装置10及びプレスフィット端子52と共通する部分についての説明は省略する。
【0086】
第3実施形態に示したように、たとえば一面530側の2つのR部532dに延設部541を設け、裏面531側の2つのR部532eに延設部541を設けない構成では、R部532eにおける壁面との接触部分が、破断面532cにて構成される。一面530側のR部532dは、めっき膜54の延設部541によって摩擦係数が小さい。一方、裏面531側のR部532eは、延設部541が無く、且つ、破断面532cが露出するため、R部532dよりも摩擦係数が大きい。このように、一面530側と裏面531側とで摩擦係数の差が大きいため、板厚方向において座屈が生じることも考えられる。
【0087】
これに対し、本実施形態では、図13に示すように、延設部541の表面が粗化されている。図13は、図11に対応するプレスフィット端子52の断面図であり、一方の梁520aのみを示している。延設部541は、R部532dを形成した後で、ブラスト処理等により粗化されている。これにより、R部532dを覆う延設部541の算術平均粗さ(Ra)が、R部532eの算術平均粗さよりも大きくされている。なお、R部532eの算術平均粗さとは、壁面との接触部分を含むめっき膜54から露出された部分の算術平均粗さである。それ以外の構成は、第3実施形態と同じである。
【0088】
このように、本実施形態によれば、R部532dに設けられた延設部541の表面が粗化されている。これにより、粗化されない構成に較べて、R部532d(一面530)側の摩擦係数が大きくなり、R部532e(裏面531)側との摩擦係数の差が小さくなる。したがって、座屈が生じるのを抑制することができる。
【0089】
なお、図13では、延設部541の全域を粗化する例を示したが、スルーホール32の壁面との接触部分が少なくとも粗化されればよい。延設部541を一体的に含むめっき膜54全体を粗化してもよい。また、裏面531側の2つのR部532eにのみ、延設部541が設けられた構成にも適用できる。
【0090】
(第5実施形態)
本実施形態は、先行実施形態を参照できる。このため、先行実施形態に示した電子装置10及びプレスフィット端子52と共通する部分についての説明は省略する。
【0091】
本実施形態では、図14に示すように、一面530側の2つのR部532dの一方である第1R部、及び、裏面531側のR部532eであって第1R部の対角位置にある第2R部にのみ、延設部541が設けられている。残りの2つのR部532d,532eには、延設部541が設けられていない。側面532は、露出部532fを有している。
【0092】
図14に示す白抜き矢印は、それぞれの側面532についての打ち抜き方向を示している。延設部541が設けられたR部532d(第1R部)側の側面532は、一面530側からの打ち抜きで形成されている。延設部541が設けられたR部532e(第2R部)の側面532は、裏面531側からの打ち抜きで形成されている。延設部541が設けられていない2つのR部532d,532eは、コイニング加工により形成されている。それ以外の構成は、第3実施形態と同じである。
【0093】
このように、本実施形態によれば、延設部541が設けられた2つのR部532d,532eは、弾性変形方向であるX方向において離れた位置に設けられている。このため、たとえば4つのR部532d,532eの1つのみに延設部541を設ける構成に較べて、2本の梁520aで挿入時のバランスが取れる。したがって、接続信頼性を向上することができる。
【0094】
また、対角位置の2つのR部532d,532eに延設部541を設けているため、一面530側と裏面531側とで摩擦係数が略同等となる。したがって、2つのR部532d,532eのみに延設部541を設けつつ、座屈が生じるのを抑制することができる。
【0095】
この明細書の開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。たとえば、開示は、実施形態において示された要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むものと解されるべきである。
【0096】
プレスフィット端子52が、コネクタ50の端子である例を示したが、これに限定されない。基板30のスルーホール32に挿入される構成であればよい。
【0097】
2本の梁を備えるプレスフィット端子52として、ニードルアイ形状の例を示したが、これに限定されない。たとえばボウタイ形状を採用することもできる。さらには、これら形状に限定されるものでもない。
【0098】
4つのR部432d,432eのうち、4つすべて、又は、2つのみに延設部541が設けられる例を示したが、これに限定されない。延設部541は、4つのR部532d,532eの少なくとも1つに設けられれば良い。
【0099】
また、図15に示すように、2本の梁520aのうち、一方のR部532d,532eのみに延設部541が設けられた構成としてもよい。これによれば、同じ梁520aにおいて、延設部541の有無が同条件となる。これにより、同じ梁520aにおいて一面530と裏面531との摩擦係数の差を低減することができる。
【0100】
側面532が露出部532fを有する例を示したが、これに限定されない。側面532のほぼ全域が延設部541によって覆われた構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0101】
10…電子装置、20…筐体、21…ケース、22…カバー、22a…凸部、30…基板、31…基材、32…スルーホール、33…ランド、40…電子部品、50…コネクタ、51…ハウジング、52…プレスフィット端子、520…弾性部、520a…梁、521…導入部、522…後端部、523…開口部、53…母材、53a…板材、530…一面、530a,531a…板面、531…裏面、532…側面、532a…だれ、532b…せん断面、532c…破断面、532d,532e…R部、532f…露出部、533…対向面、533a…R部、54…めっき膜、54a…先めっき膜、540…主部、541…延設部、80…ダイ、81…パンチ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15